解析学 IA
2019–7–1修正・加筆
このノートは,2018年度前期 (月曜1限)「解析学 IA」(担当:松本)の講義ノートである.
教科書としてあげた「解析学入門」(市原,増田,松本著)と合わせて,講義後の復習や試験
対策に活用してもらえると幸いである.
このノートには,
bababababababababababababababababababababab
合成関数の微分 (5) は極めて重要である.理由も含めて,十分な理解が必要である.
というような枠で囲まれた注意が数か所ある.特に,よく理解して欲しい事項である.
目 次
第 1章 微分法 1
1.1 微分の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.2 基本的な関数の導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.3 微分法の基本公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.4 逆関数とその微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
1.5 高次導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
1.6 平均値の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
1.7 ロピタルの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
1.8 テイラーの定理,テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
1.9 関数の極値とグラフの概形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
第 2章 積分法 21
2.1 定積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
2.2 不定積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
2.3 微積分学の基本定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
2.4 部分積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
2.5 置換積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
2.6 有理関数の積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31
2.7 広義積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
第1章 微分法
1.1. 微分の定義
f を実数全体Rまたはその部分区間 ([0, 1], [0,∞)など)の上で定義された関数とする.f が
定義される区間 (集合)を関数 f の定義域,f の値の全体を値域という.
例 1.1. (1) xn, ex, sin xはR上の関数である.
(2) log xは,(0,∞)上で定義された関数であり,値域はR全体である.
(3) f(x) =√x(1− x)の定義域は [0, 1]であり,値域は [0, 1
4]である.(x(1−x) = −(x− 1
2)2+ 1
4)
関数 y = f(x)に対して (x, f(x))を平面上にプロットしたのが f のグラフである.一般には,
y = f(x)のグラフには増減があり,その変化を扱うのが解析学である.その基本となるのが微
分法である.
微分� �定義 1.1. (a, f(a))と (x, f(x))を結ぶ直線の傾き
f(x)− f(a)
x− aが x → aのとき収束するな
らば,f は x = aで微分可能であるといって,極限を f ′(a)と書き,f の x = aにおける微
分係数とよぶ:
f ′(a) = limx→a
f(x)− f(a)
x− a.� �
注意. (1) f の定義域が区間 [a, b]のとき,右からの極限 limx→a+0
f(x)− f(a)
x− aが存在するならば
f は x = aで微分可能という.x = bでの微分も同様に考える.
(2) x = aにおける接線の方程式は y = f(a) + f ′(a)(x − a)となる.この形で,直線の傾きが
f ′(a)で点 (a, f(a))を通ることが直ぐ分かる.展開しない方が後の話に繋がって良い!
導関数� �定義 1.2. f がその定義域の各点で微分可能のとき,xに xにおける微分係数 f ′(x)の値を
対応させる関数を f の導関数とよび f ′またはdf
dxと書く:
f ′(x) = limh→0
f(x+ h)− f(x)
h.� �
1
例 1.2. (1) f(x) = πx2のとき,f ′(x) = 2πx.h > 0ならば,π(x + h)2 − πx2は半径 x + hの
円から,同じ中心をもつ半径 xの円を除いた円環の面積である.これを hで割ると円周の長さ
に近い.
(2) f(x) = 43πx3のとき,f ′(x) = 4πx2.つまり,球の体積を半径に関して微分すると,球面の
面積が得られる.
1.2. 基本的な関数の導関数
(1) (xn)′ = nxn−1 (n = ±1,±2, ...)
(2) (ex)′ = ex
(3) (log x)′ =1
x(4) (sinx)′ = cosx
(5) (cosx)′ = − sin x
1.3. 微分法の基本公式
公式を記憶しておくことは必要だが,理由または証明のカギを合わせて理解して欲しい.
(1) (f(x)± g(x))′ = f ′(x)± g′(x)
(2) (f(x)g(x))′ = f ′(x)g(x) + f(x)g′(x)
(∵) f(x+ h)g(x+ h)− f(x)g(x)
h=
f(x+ h)− f(x)
hg(x+ h) + f(x)
g(x+ h)− g(x)
h
→ f ′(x)g(x) + f(x)g′(x).
(3)( 1
f(x)
)′= − f ′(x)
f(x)2
(4)( g(x)f(x)
)′=
g′(x)f(x)− g(x)f ′(x)
f(x)2
(5)(f(g(x))
)′= f ′(g(x))g′(x)
(∵) g(x+ h)− g(x) = k とおくと,h → 0のとき k → 0であり,
f(g(x+ h))− f(g(x))
h=
f(g(x) + k)− f(g(x))
k
g(x+ h)− g(x)
h→ f ′(g(x))g′(x).
(3),(4)については,各自で結論を導出すること.
(5) は k = 0の場合もあるので少し乱暴な理由付けだか,このことが本質である.詳しいこと
が知りたい人は,教科書 45ページ,定理 3.2 を見てください.
2
問題. 次の関数の導関数を求めよ.ただし,(7),(8) では |x| < 1とする.
(1) (2x+ 3)5 (2) (x2 + 1)4 (3) sin2 x (4) tan x
(5)x− 1
x2 + 1(6)
√x
x+ 1(7) (1− x2)
12 (8)
√1 + x
1− x
bababababababababababababababababababababab
合成関数の微分 (5) は極めて重要である.理由も含めて,十分な理解が必要である.
合成関数の微分 (5)の応用を2つ述べる.
例 1.3 (円の接線). r > 0として,円の方程式 x2 + y2 = r2によって x ∈ [−r, r]から y = y(x)
が xの関数として定まっていると考える.yの符号を決めれば一意に定まる.(陰関数という)
x2 + y(x)2 = r2の両辺を xで微分すると,2x+ 2y(x)y′(x) = 0であり,
y′ = −x
y
となる.したがって,円周上の点 (x0, y0)における接線の方程式は,y0 ̸= 0であれば
y = −x0
y0(x− x0) + y0 または x0x+ y0y = r2
となる.
例 1.4 (対数微分). y = xx (x > 0)を考える.スグには微分できないので,両辺の対数をとり
log y = x log xと変形する.両辺を,左辺には合成関数の微分を適用してxに関して微分すると,
y′
y= log x+ x
1
x= 1 + log x
となる.よって,y′ = y(1 + log x) = xx(1 + log x)となる.
y = elog(xx) = ex log xとして,合成関数の微分を用いて
y′ = ex log x(x log x)′ = xx(1 + log x)
と計算してもよい.
なお,増減表を書くと,y = xxは (0, e−1)では単調減少,(e−1,∞)では単調増加である.グ
ラフの概形については,講義で述べた.x → +0の挙動が重要である.
問題. (1) aを正数として y = axとおくとき,y′ = log(a)axであることを示せ.
(2) b ∈ Rとして y = xb (x > 0)とおくとき,y′ = bxb−1であることを示せ.
3
1.4. 逆関数とその微分
合成関数の微分により,逆関数の導関数を与える (p.24, p.37, p.50).
例 1.5. 関数 y = x2を考える.通常とは逆に,y ≧ 0に対して y = x2をみたす x ≧ 0を対応
させるのが平方根である.このとき,x =√yと書く.たとえば,y = 3が与えられたときに
x2 = 3をみたす x ≧ 0が√3である.
以上で平方根を与える関数は分かったので,f(x) = x2 (x ≧ 0)の逆関数を,変数を xとして
g(x) =√xと書く.
一般に,y = f(x)が [a, b], (a, b)などの形の区間 I上で定義された連続関数のとき,
f が狭義単調増加,つまり x < x′ ならば f(x) < f(x′)であれば,f の値域の元 y に対して
f(x) = yをみたす x ∈ Iがただ1つ存在する.このように yに xを対応させる関数を f の逆関
数という.
f が狭義単調減少のときも,同様に逆関数が定義される.
逆関数の微分はどのように計算すればよいか考える.
逆三角関数 (1)
y = sin xは[−π
2,π
2
]上で狭義単調増加である.このとき,逆関数を,つまり y ∈ [−1, 1]に
sin(x) = yをみたす x ∈[−π
2,π
2
]を対応させる関数を arcsinと書く:x = arcsin y.
変数を xにして,y = arcsin x (x ∈ [−1, 1])を逆正弦関数という.これは,
x = sin y, −1 ≦ x ≦ 1, −π
2≦ y ≦ π
2
ということであり,x ∈ [−1, 1]に対して sin y = xをみたす y ∈[−π
2,π
2
]を対応させるというこ
とである.
bababababababababababababababababababababab
逆三角関数を考える場合は,関数の定義域に留意して考えることが必要である.たとえ
ば,α = arcsin 12とおくと,
sinα =1
2かつ − π
2≦ α ≦ π
2
となって,α =π
6を得る.arcsin 1
2は関数 arcsinの 1
2における値である.
y = arcsin xの導関数を計算するために,x = sin yと書いて両辺を xで微分する.yは xの関
数だから,合成関数の微分の公式を用いて
1 = cos y × y′, 従って, y′ =1
cos y
4
となる.y ∈(−π
2,π
2
)と両端を除くと cos y > 0だから,cos y =
√1− sin2 y =
√1− x2より
y′ =1√
1− x2(−1 < x < 1)
となる.y = arcsin xは x = ±1では微分可能ではない.
逆三角関数 (2)
y = cosxは [0, π]上で狭義単調減少であるから,y ∈ [−1, 1]に対して,y = cosxをみたす
x ∈ [0, π]がただ一つ存在する.このとき,x = arccos yと書く.
x, yを入れ替えて,関数 y = arccosxを考える.これは,[−1, 1]を定義域とし,[0, π]を値域
とする関数である.
y = arccos xの導関数を求めるために,x = cos yと書き換えて両辺を xで微分する.合成関
数の微分の公式より,
− sin y × y′ = 1
となり,y ∈ (0, π)であれば sin y > 0なので
y′ = − 1
sin y= − 1√
1− x2
となる.
逆三角関数 (3)
y = tanxは(−π
2, π2
)上で狭義単調増加であるから,逆関数が存在する.y ∈ Rに対して
x ∈(−π
2, π2
)を対応させるとき,x = arctan yと書く.
x, yを入れ替えて,関数 y = arctan xを考える.これは,実数全体Rを定義域とし,(−π
2, π2
)を値域とする関数である.
問題. 次の値を求めよ.
(1) arcsin(−
√3
2
)(2) arcsin
( 1√2
)(3) arccos
(12
)(4) arccos
(−
√3
2
)(5) arctan(−
√3) (6) arctan
( 1√3
)
問題. (1) y = arcsin(2x)の定義域,値域を求めよ.
(2) y = arcsin(2x)の導関数を求めよ.
問題. y = arctan xの導関数が y′ =1
1 + x2であることを示せ.
5
1.5. 高次導関数
y = f(x)をRの区間またはR全体で微分可能な関数とするとき,導関数 y = f ′(x)も微分可
能であればその導関数 (f ′)′を考えることができる.これを 2次導関数と呼び,
y′′, f ′′,d2y
dx2,d2f
dx2
などと書く.
さらに,f ′′が微分可能であれば (f ′′)′が定まる.これを f ′′′と書いて 3次導関数とよぶ.
以下,同様に n次導関数を考えて,f (n)などと書く.
例 1.6. (1) f(x) = xk(k = 1, 2, ...)であれば,f を k回微分すると定数 k!に等しくなる.つま
り,f (k)(x) = k!, f (n)(x) = 0 (n ≧ k + 1).
(2) f(x) = sin(x)ならば,
f (n)(x) =
sin(x), n = 4m (m = 1, 2, ...)
cos(x), n = 4m− 3 (m = 1, 2, ...)
− sin(x), n = 4m− 2 (m = 1, 2, ...)
− cos(x), n = 4m− 1 (m = 1, 2, ...)
が成り立つ.なお,f (n)(x) = sin(x+
nπ
2
)(n = 1, 2, ...)とも書ける.
問題. 次の関数の n次導関数を求めよ.
(1) f(x) =1
x(2) f(x) = log(1 + x) (3) f(x) = eax (4) f(x) = cos(x)
6
1.6. 平均値の定理
既知の定理を少し一般化した平均値の定理までを述べる.まず,ロルの定理を復習する.� �命題 1.7. f が aを含む開区間 I 上で微分可能で,f(x) ≦ f(a) (x ∈ I)であるならば,
f ′(a) = 0が成り立つ.f(x) ≧ f(a) (x ∈ I)の場合も f ′(a) = 0が成り立つ.� �証明. 前半部分だけを示す.
f(x)− f(a)
x− a≦ 0 (x > a)だから,x → a+ 0として
lima→a+0
f(x)− f(a)
x− a= f ′(a) ≦ 0
が成り立つ.同様に,
lima→a−0
f(x)− f(a)
x− a= f ′(a) ≧ 0
となるから,これらより f ′(a) = 0が成り立つ.
ロルの定理� �定理 1.8. f は有界閉区間 [a, b]上で連続で,開区間 (a, b)上で微分可能な関数とする.この
とき,f(a) = f(b)であれば,f ′(c) = 0をみたす cが開区間 (a, b)内に存在する.� �証明. まず,f が定数関数であれば f ′(x) = 0 (a ∈ (a, b))だから明らかに主張が成り立つ.
f が定数関数でないなら,f は最大値または最小値を内部の点,言い換えると (a, b)に属する
点 cでとるので,上の命題より x = cで導関数は 0になる.
注意. f(x) =√x(1− x)は [0, 1]上で連続だが,f ′(x) =
1
2
√1− x
x− 1
2
√x
1− xであり,x = 0, 1
では微分可能ではない.しかし,x = 12で最大値をとり,そこで f ′は 0となる.この関数もロ
ルの定理の仮定をみたしている.
平均値の定理� �定理 1.9. f が有界閉区間 [a, b]上で連続,(a, b)上では微分可能な関数であれば
f(b)− f(a)
b− a= f ′(c)
をみたす c ∈ (a, b)が存在する.� �証明. αを定数として,
h(x) = f(x)− f(b) + α(b− x)
とおき,αを h(a) = 0となるようにとる.α =f(b)− f(a)
b− aであることは容易にわかる.
7
すると,h(a) = h(b) = 0だからロルの定理より h′(c) = 0,つまり,f ′(c) − α = 0をみたす
c ∈ (a, b)が存在する.従って,
f ′(c) = α =f(b)− f(a)
b− a
となる.
恒等的に定数に等しい関数の導関数は恒等的に 0である.平均値の定理を用いると逆も正し
いことが直ちにわかる 1.� �系 1.10. 微分可能な関数の導関数が恒等的に 0であれば,f は定数である.� �証明. 平均値の定理より,すべての定義域の点 a, bに対して f(a) = f(b)が成り立つ.
平均値の定理を次のように拡張できる.次の節において述べるロピタルの定理は次の定理か
ら得られる.
コーシーの平均値の定理� �定理 1.11. f, gを有界閉区間 [a, b]上で連続,(a, b)上で微分可能な関数とし,g′(x) ̸= 0 (a <
x < b)と仮定する.このとき,
f(b)− f(a)
g(b)− g(a)=
f ′(c)
g′(c)
をみたす c ∈ (a, b)が存在する.� �注意. g(x) = xの場合が,既知であったであろう平均値の定理 (定理 1.9)である.以下に見る
ように,証明も全く同様である.
証明. αを定数として,
h(x) = f(x)− f(b) + α(g(b)− g(x))
とおき,定数 αは h(a) = 0をみたす,つまり α =f(b)− f(a)
g(b)− g(a)とする.
すると,h(a) = h(b) = 0だからロルの定理より h′(c) = 0,つまり,f ′(c) − αg′(c) = 0をみ
たす c ∈ (a, b)が存在する.従って,
f ′(c)
g′(c)= α =
f(b)− f(a)
g(b)− g(a)
となる.
1定理,命題などから直ちに得られる主張を系という.
8
1.7. ロピタルの定理
x− sin x
x3の x → 0としたときの極限のように,
(i) limx→a
f(x) = limx→a
g(x) = 0 のときに
f(x)
g(x)の極限を求める簡単な方法を与える.
(ii) x → aのとき f(x), g(x) → ∞ の場合,
(iii) limx→∞
f(x) = limx→∞
g(x) = 0 の場合,
(iv) x → ∞のとき f(x), g(x) → ∞の場合
に,f(x)
g(x)の極限についても考える.これらのように,分母,分子がともに 0に収束,または∞
に発散する場合の極限を不定形の極限という.
以下,x → a+ 0のとき,x → ∞のときのみを示すが,x → b− 0, x → −∞の場合の不定形
の極限ついても同様である.
ロピタルの定理� �定理 1.12. (1) f, gが有界閉区間 [a, b]上で連続で f(a) = g(a) = 0とし,(a, b)で微分可能
とする.このとき, limx→a+0
f ′(x)
g′(x)が存在するならば,
limx→a+0
f(x)
g(x)= lim
x→a+0
f ′(x)
g′(x)
が成り立つ.
(2) f, gが半開区間 [a,∞)で微分可能な関数とし, limx→∞
f(x) = limx→∞
g(x) = 0とする.この
とき, limx→∞
f ′(x)
g′(x)が存在するならば,次が成り立つ:
limx→∞
f(x)
g(x)= lim
x→∞
f ′(x)
g′(x).
(3) f, gが有界な開区間 (a, b)上で連続で,x → a + 0のときともに∞に発散するとする.
このとき, limx→a+0
f ′(x)
g′(x)が存在するならば,次が成り立つ:
limx→a+0
f(x)
g(x)= lim
x→a+0
f ′(x)
g′(x).
(4) f, gが半開区間 [a,∞)で微分可能な関数とし,x → ∞のときともに∞に発散するとす
る.このとき, limx→∞
f ′(x)
g′(x)が存在するならば,次が成り立つ:
limx→∞
f(x)
g(x)= lim
x→∞
f ′(x)
g′(x).
� �9
証明. (1),(2)のみ証明を与える.まず,コーシーの平均値の定理より,x > aに対して
f(x)
g(x)=
f(x)− f(a)
g(x)− g(a)=
f ′(c)
g′(c)
をみたす c ∈ (a, x)が存在する.x → a+ 0とすると c → a+ 0となり,このとき右辺は収束す
るので,(1) を得る.
(2) については,x =1
tとおくと,x → ∞のとき t → +0である.よって,(1)を用いると
limx→∞
f(x)
g(x)= lim
t→0+
f(1t)
g(1t)= lim
t→0+
(f(1t))′
(g(1t))′
= limt→0+
f ′(1t)(−t−2)
g′(1t)(−t−2)
= limx→∞
f ′(x)
g′(x)
となり,結論を得る.
(3)の証明は次の様にすればよい.a < x1 < x2とする.コーシーの平均値の定理より
f(x2)− f(x1)
g(x2)− g(x1)=
f ′(ξ)
g′(ξ)
をみたす ξ ∈ (x1, x2)が存在する.始めから,x2を aに近くとっておくと,仮定からf ′(ξ)
g′(ξ)は
α = limx→a+0
f ′(x)
g′(x)に近い値である.
ここで,
f ′(ξ)
g′(ξ)=
f(x2)− f(x1)
g(x2)− g(x1)=
f(x2)g(x1)
− f(x1)g(x1)
g(x2)g(x1)
− 1
と書いて x1 → a+ 0とする.すると,f(x2)
g(x1),g(x2)
g(x1)→ 0となる.よって,右辺は,したがって
f(x1)
g(x1)は収束し,極限は αである.
「近い」ということや極限が存在することなどを数学的に厳密に言う必要があるので証明を
省略したが,上の話であらすじは理解できると思う.
例 1.13. (1) f(x) = 1− cos(x), g(x) = x2に対しては,
limx→0
f ′(x)
g′(x)= lim
x→0
sin(x)
2x=
1
2
よりロピタルの定理 (1)の仮定がみたされる.従って,
limx→0
1− cos(x)
x2= lim
x→0
sin(x)
2x=
1
2
となる.実際には,最後のように計算して右辺の値を求めればよい.
(2) f(x) = ex − 1− x, g(x) = x2のとき,f ′(x) = ex − 1, g′(x) = 2xとなってロピタルの定理は
直ぐには使えない.しかし,f ′′(x) = ex, g′(x) = 2より limx→0
f ′′(x)
g′′(x)は存在して
1
2だから,
limx→0
f ′(x)
g′(x)=
1
2
10
となる.従って,ロピタルの定理の仮定がみたされるので,
limx→0
ex − 1− x
x2=
1
2
となる.この場合も,
limx→0
ex − 1− x
x2= lim
x→0
ex − 1
2x= lim
x→0
ex
2=
1
2
と計算して,右辺の極限が存在することを確かめて,結論を得る.
問題. 次の極限値を求めよ.ただし,p > 0とする.
(1) limx→0
x− sinx
x3
(5) limx→0
log(1 + x)
x
(2) limx→0
1− cos(2x) + 2x2
x4
(6) limx→0
x+ log(1− x)
x2
(3) limx→0
tanx− x
x3
(7) limx→0
4x − 3x
x
(4) limx→0
sin x2
sin2 x
(8) limx→+0
xp log x
bababababababababababababababababababababab
ロピタルの定理を不定形でない極限に使ってはならない.たとえば,limx→0
cosx
1− sinx= 1
であるが,
limx→0
(cosx)′
(1− sin x)′= lim
x→0
− sinx
− cosx= 0 となって,極限は一致しない.
例 1.14. y = f(x) = xx (x > 0)を考える.log f(x) = x log xである.ロピタルの定理より,
limx→+0
x log x = limx→+0
log x1x
= limx→+0
1x
− 1x2
= 0
となるから, limx→+0
log(xx) = 0となる.従って,
limx→+0
xx = 1
が分かる.
このことに注意すれば,y = xx (x > 0)のグラフが描ける.(0, 1)から出発して,x = e−1で
極小 (最小)となり,x > e−1で単調増加で x → ∞のとき∞に発散する.
11
1.8. テイラーの定理,テイラー展開
指数関数 y = exの x = 0における微分係数は
limx→0
ex − 1
x= 1
である.これは,xが小さいときは exの値が 1 + xに近いことを意味する.実際に (電卓など
で)数値計算してみると,e0.01 = 1.010050167... ≒ 1 + 0.01となる.
ロピタルの定理を用いると,
limx→0
ex − 1− x
x2=
1
2
であり,これは xが小さいとき ex ≒ 1 + x +x2
2であることを意味する.右辺に x = 0.01を代
入すると 1.01005であることは直ちにわかる.驚くべき,良い近似である.
このように,一般の関数を多項式で近似しようとするのが,テーラーの定理,テイラー展開
の考えであり,微分積分学の基本の一つである.また,平均値の定理 (定理 1.9) の一般化とも
見なせ,証明も同様である.
テイラーの定理� �定理 1.15 (テイラーの定理). a < bとし,f を [a, b]を含む区間上で無限回微分可能な関数
とすると,任意の n = 0, 1, 2, ...に対して,
f(b) = f(a)+f ′(a)(b−a)+1
2!f ′′(a)(b−a)2+· · ·+ 1
n!f (n)(a)(b−a)n+
1
(n+ 1)!f (n+1)(c)(b−a)n+1
をみたす c ∈ (a, b)が存在する.� �注意. (1) a > bのときも同様のことが成り立つが省略する.主張は c ∈ (b, a)が存在するとすれ
ば同じである.
(2) n = 0のときは平均値の定理である.
証明. αを定数として,
h(x) =f(x)− f(b) + f ′(x)(b− x) +1
2!f ′′(x)(b− x)2 + · · ·
+1
n!f (n)(x)(b− x)n +
1
(n+ 1)!α(b− x)n+1
(*)
とおく.h(b) = 0であり,定数 αは h(a) = 0となるように定める.h′(x)を計算すると,
h′(x) = f ′(x) + {f ′′(x)(b− x)− f ′(x)}+ 1
2!{f ′′′(x)(b− x)2 − 2f ′′(x)(b− x)}+ · · ·
+1
n!{f (n+1)(x)(b− x)n − nf (n)(x)(b− x)n−1}+ 1
(n+ 1)!α(n+ 1)(−1)(b− x)n
=1
n!f (n+1)(x)(b− x)n − α
n!(b− x)n
12
となる.
h(a) = h(b) = 0より,ロルの定理を用いると h′(c) = 0をみたす c ∈ (a, b)が存在し,
h′(c) =(b− c)n
n!{f (n+1)(c)− α} = 0
となる.従って,(*)において x = aとし,α = f (n+1)(c) を代入すれば
0 = f(a)− f(b) + f ′(a)(b− a) + · · ·+ 1
n!f (n)(a)(b− a)n +
f (n+1)(c)
(n+ 1)!(b− a)n+1
となって,f(b)を移項すれば結論を得る.
定理 1.15の主張の右辺を,f の aのまわりのn次までのテイラー展開という.
1
(n+ 1)!f (n+1)(c)(b− a)n+1 = Rn+1(b)
を誤差項または剰余項という.剰余項に対しては,
Rn+1(b)
(b− a)2→ 0 (b− a → 0)
が成り立つ.
例 1.16. (1) f(x) = exのとき,f ′(0) = 1, f ′′(0) = 1だから,1次,2次までのテイラー展開は,
それぞれ
f1(x) = 1 + x, f2(x) = 1 + x+1
2x2.
(2) f(x) = exのとき,f ′(0) = 1, f ′′(0) = 2だから,1次,2次までのテイラー展開は,それぞれ
f1(x) = 1 + x, f2(x) = 1 + x+1
22 · x2 = 1 + x+ x2.
次は,f(x) = ex, xexのグラフ (青線)と,x = 0のまわりの 1次 (オレンジ),2次 (緑色)ま
でのテイラー展開を与える関数のグラフを重ねて書いたものである.x = 0のまわりでの近似
の様子を見ることができる.
In[1]:= Plot[{Exp[x], x + 1, x^2 / 2 + x + 1}, {x, -2, 2}]
Out[1]=
-2 -1 1 2
2
4
6
In[1]:= Plot[{x * Exp[x], x, x + x^2}, {x, -2, 2}]
Out[1]=
-2 -1 1 2
-2
2
4
6
13
さらに,テイラーの定理の誤差項 (剰余項)が n → ∞のとき 0に収束する,つまり,
1
(n+ 1)!f (n+1)(c)(b− a)n+1 → 0 (n → ∞)
が成り立つならば,
f(b) = f(a) + f ′(a)(b− a) +f ′′(a)
2!(b− a)2 + · · ·+ f (n)(a)
n!(b− a)n + · · ·
=∞∑k=0
1
k!f (k)(a)(b− a)k
が成り立つ.つまり,右辺の無限級数が f(b)に収束する.これを,関数 f の x = aのまわりの
テーラー展開という.とくに,x = 0のまわりのテーラー展開をマクローリン展開とよぶ.
例 1.17. f(x) = x3の x = 1のまわりのテイラー展開は,f (4)(x) = 0より
f(x) = 1 + 3(x− 1) + 3(x− 1)2 + (x− 1)3 となる.
第 2項以下を無視して 1次までのテーラー展開を考えて,x = 1.01とすると,
(1.01)3 ≒ 1 + 3(1.01− 1) = 1.03
となる.第 2項までを考慮して,2次までのテーラー展開を考えると,
(1.01)3 ≒ 1 + 3(1.01− 1) + 3(1.01− 1)2 = 1.0303
となり,近似の精度が上がる.
bababababababababababababababababababababab
この例で分かるように,1 + 3(x− 1)を展開して,3x− 2とすると意味がなくなる.
(重要) 習慣なのか,テイラー展開の結果を展開する人が見られる.テイラー展開の結果は展開しないこと!!
� �例題 1.18. (1) f(x) = (1 + x)1/3のマクローリン展開を x2の項まで求めよ.
(2) 1.01の 3乗根の近似値を (1) を用いて求めよ.電卓で 1.01の 3乗根を求め,上の結果と
比較せよ.� �解答例. (1)まず,f ′(x) =
1
3(1 + x)−2/3, f ′′(x) =
1
3
(−2
3
)(1 + x)−5/3 である.したがって,
f(x) = (1 + x)1/3の 2次までのマクローリン展開は
(1 + x)1/3 = f(0) + f ′(0)x+1
2f ′′(0)x2 +R3(x) = 1 +
1
3x− 1
9x2 +R3(x)
14
となる.
(2) x = 0.01を代入すると,
1 +1
3
1
100= 1.00333...
1 +1
3
1
100− 1
9
( 1
100
)2
= 1.00332...
となる.実際は,(1.01)1/3 = 1.003322284...である.
例 1.19. f(x) = exのx = 0のまわりのテーラー展開 (マクローリン展開)を考える.f (n)(x) = ex
だから,テーラーの定理 (定理 1.15)より
ex = 1 + x+x2
2+ · · ·+ xn
n!+
ec
(n+ 1)!xn+1
をみたす cが 0と xの間に存在する.
ここで,整数 kを k ≦ |x| < k + 1となるものとすると,∣∣∣∣ 1
(n+ 1)!ecxn
∣∣∣∣ ≦ e|x|
(n+ 1)!|x|n+1 ≦ ek+1 |x|n+1
(n+ 1)!
が成り立つ.さらに,
|x|n+1
(n+ 1)!=
|x|k
k!
|x|n+1−k
(k + 1) · · · (n+ 1)≦ |x|k
k!
(|x|
k + 1
)n+1−k
→ 0 (n → ∞)
が成り立つので,
limn→∞
ec
(n+ 1)!xn+1 = 0
である.
従って,すべての x ∈ Rに対して
ex = 1 + x+x2
2!+ · · ·+ xn
n!+ · · · =
∞∑k=0
xk
k!
が成り立つ.とくに,x = 1とするとネイピアの数 eに対して次が成り立つ:
e = 1 + 1 +1
2!+ · · ·+ 1
n!+ · · · =
∞∑k=0
1
k!.
ちなみに,e = 2.718281828459...であるが,第 9項までの和を計算すると
1 + 1 +1
2!+ · · ·+ 1
8!+
1
9!= 2.718281526
である.(1.001)1000 = 2.71692, (1.0001)10000 = 2.71815と比べると収束の早さがわかる.
15
例 1.20. f(x) = sin xのマクローリン展開を考える.f (2n)(x) = (−1)n sin(x), f (2n+1)(x) =
(−1)n cos(x) (n = 0, 1, 2, ...)だから,すべての nに対して |f (n)(x)| ≦ 1 (x ∈ R)である.よっ
て,上の指数関数の場合と同様に,∣∣∣ 1
(n+ 1)!f (n+1)(c)|x|n+1
∣∣∣ → 0 (n → ∞)
が成り立つ.� �f(x) = sinxのマクローリン展開は,f (2n)(0) = 0, f (2n+1)(0) = (−1)nより,
sin x = x− x3
3!+
x5
5!− x7
7!+ · · · によって与えられる.� �� �
同様に,cosxのマクローリン展開は
cos x = 1− x2
2!+
x4
4!− x6
6!+ · · · によって与えられる.� �
したがって,例えば limx→0
x− sinx
x3であれば,
x− sinx =x3
3!+ (無視できる項)
と考えると,
x− sin x
x3=
x3
3!+ (無視できる項)
x3→ 1
3!(x → 0)
であることが分かるので,ロピタルの定理を使わずに極限が求まる.
もっと正確に書くなら,sin x = x− x3
3!+R4(x)と書けば,lim
x→0
R4(x)
x3= 0が成り立つ.よって,
x− sin x
x3=
x3
3!−R4(x)
x3=
1
3!− R4(x)
x3→ 1
3!(x → 0)
となる.
問題. 次の極限をロピタルの定理を用いないで,ex, sin x, cos xのマクローリン展開を用いて求
めよ.
(1) limx→0
e2x − 1− 2x
x2(2) lim
x→0
3x− sin(3x)
x3(3) lim
x→0
1− cos(4x)
x2
16
テーラーの定理の誤差項は,積分を用いて書くこともできる.2
テイラーの定理� �定理 1.21. f を a < bを含む区間上で何回でも微分可能な関数とすると,次が成り立つ:
f(b) =f(a) + f ′(a)(b− a) +1
2!f ′′(a)(b− a)2 + · · ·+ 1
n!f (n)(a)(b− a)n
+1
n!
∫ b
a
f (n+1)(x)(b− x)ndx (n = 0, 1, 2, ...).
� �証明. n = 0のときの主張は
f(b) = f(a) +
∫ b
a
f ′(x)dx
ということである.これは既知であろう.
n = 1のときは,n = 0の場合に現れた積分を部分積分により∫ b
a
f ′(x)dx =
∫ b
a
f ′(x)(−(b− x))′dx = −f ′(x)(b− x)
∣∣∣∣bx=a
+
∫ b
a
f ′′(x)(b− x)dx
= f ′(a)(b− a) +
∫ b
a
f ′′(x)(b− x)dx
と変形すれば証明できる.
一般の nに関しては帰納法を用いる.n = 0, 1の場合は示した.
n− 1のときに正しいとする.つまり,
f(b) = f(a) + f ′(a)(b− a) +1
2!f ′′(a)(b− a)2 + · · ·+ 1
(n− 1)!f (n−1)(a)(b− a)n
+1
(n− 1)!
∫ b
a
f (n)(x)(b− x)n−1dx
(#)
が成り立つと仮定する.
右辺の積分について,部分積分を用いると∫ b
a
f (n)(x)(b− x)n−1dx =
∫ b
a
f (n)(x)(− 1
n(b− x)n
)′dx
=1
nf (n)(a)(b− a)n +
1
n
∫ n
a
f (n+1)(x)(b− x)ndx
となるから,これを (#)の右辺に代入すると結論を得る.
22018年度は前期の講義では話をせず,演習の問題とした.後期第 1回の講義で話す予定.
17
テイラー展開� �定理 1.22. 前定理と同じ仮定の下で,
1
n!
∫ b
a
f (n+1)(x)(b− x)ndx → 0 (n → ∞)
が成り立つならば,
f(b) = f(a) + f ′(a)(b− a) +1
2!f ′′(a)(b− a)2 + · · ·+ 1
n!f (n)(a)(b− a)n + · · ·
=∞∑k=0
1
k!f (k)(a)(b− a)k.
が成り立つ.� �例 1.23. すべての p ∈ Rに対して,次が成り立つことを示せ:
(1 + x)p = 1 +∞∑n=1
p(p− 1) · · · (p− n+ 1)
n!xn (|x| < 1).
(p
n
)=
p(p− 1) · · · (p− n+ 1)
n!とおいて,ニュートンの二項係数と呼ぶ.pが正の整数の場
合は,p ≧ nであれば(p
n
)= pCn,p < nの場合は
(p
n
)= 0であるから,ニュートンの二項
係数は通常の二項係数と一致し,例の右辺は有限和で主張は二項定理である.
解答. f(x) = (1 + x)pの k次導関数は f (k)(x) = p(p− 1) · · · (p− k + 1)(1 + x)p−kであるから,
定理より,
(1 + x)p = 1 +n∑
k=1
p(p− 1) · · · (p− k + 1)
k!xk +Rn+1(x),
Rn+1(x) =p(p− 1) · · · (p− n)
n!
∫ x
0
(x− t
1 + t
)n
(1 + t)p−1dt
が成り立つ.
0 ≦ t ≦ x ≦ 1のとき 0 ≦ x− t
1 + t≦ x
1 + t≦ x,
−1 ≦ x ≦ t ≦ 0のとき,0 ≦ t− x ≦ −x(1 + t)より∣∣∣x− t
1 + t
∣∣∣ ≦ |x|
が成り立つので,|x| < 1のときも∣∣∣x− t
1 + t
∣∣∣ ≦ |x|であり,
|Rn+1(x)| ≦|p(p− 1) · · · (p− n)|
n!|x|n
∣∣∣ ∫ x
0
(1 + t)p−1dt∣∣∣
が成り立つ.この右辺を anと書くと,積分は nに無関係であり,
an+1
an=
|p− n|n
|x| → |x| (n → ∞)
となる.よって,δ > 0を |x|+δ < 1なる数とすると,十分大きいnに対してan+1
an≦ |x|+δ < 1
が成り立ち,an → ∞ (n → ∞)である.したがって,Rn+1(x) → 0となり,結論を得る.
18
1.9. 関数の極値とグラフの概形
関数 y = f(x)が x = pにおいて極値をとるとすると,f ′(p) = 0である.したがって,f(x)
の x = pのまわりのテイラー展開は
f(x) = f(p) +f ′′(p)
2!(x− p)2 + · · ·
となる.f ′′(p) ̸= 0であれば,
f(x) = f(p) +f ′′(p)
2!(x− p)2 + (剰余項)
となり,
(1) f ′′(p) > 0であれば,y = f(x)は x = pにおいて極小となり,
(2) f ′′(p) < 0であれば,y = f(x)は x = pにおいて極大となる.
これらに基づいて増減表を書くことにより,y = f(x)のグラフの概形を描くことができる.上
の 2次までのテーラー展開に,極値をとる xの値 p,極大か極小の区別 (f ′′(p)の符号),極値
f(p)がすべて含まれていることに注意して欲しい.
なお,f ′(p) = f ′′(p) = 0の場合は,f は x = pで極値をとることも,極値をとらないことも
ある.(後述)
例 1.24. f(x) = x4 − 2x2 + 1とすると,
f ′(x) = 4x3 − 4x = 4x(x2 − 1), f ′′(x) = 12x2 − 4
となる.f ′(x) = 0となるのは,x = −1, x = 0, x = 1である.
(i) x = 0のとき.f(x)のマクローリン展開は,f(0) = 1, f ′′(0) = −4より
f(x) = 1− 2x2 +R3(x)(R3(x)は剰余項)
となり,f(x)は x = 0で極大となる.x = 0の近くで y = f(x)のグラフは上に凸である.
(ii) x = 1のとき.f(x)の x = 1のまわりのテーラー展開は,f(1) = 0, f ′′(1) = 8より
f(x) = 4(x− 1)2 + R̃3(x) (R̃3(x)は剰余項)
となり,f(x)は x = 1で極小となる.x = 1の近くで y = f(x)のグラフは下に凸である.
(iii) x = −1のときも極小である.
次のような増減表を書くと,分かり易い.(上のように,議論をすれば必ずしも必要ではない)
x −1 0 1
f ′ − 0 + 0 − 0 +
f ↘ 0 ↗ 1 ↘ 0 ↗
19
f ′(p) = f ′′(p) = 0のとき,f は x = pで極値をとる場合も極値をとらない場合もあることを
例で見る.
例 1.25. (1) f(x) = x3であれば,f ′(0) = f ′′(0) = 0である.この場合は,f は x = 0で極値を
とらない.
(2) f(x) = x4のときは,f ′(0) = f ′′(0) = 0である.この場合は,f は x = 0で極小である.
一般には次が成り立つことが,テイラーの定理の考えから分かる.3,� �一般に f ′(p) = f ′′(p) = · · · = f (2n−1)(p) = 0であれば,x = pのまわりのテイラー展開は
f(x) = f(p) +f (2n)(p)
(2n)!(x− p)2n + · · ·
であり,
(1) f (2n)(p) > 0であれば,y = f(x)は x = pにおいて極小となり,
(2) f (2n)(p) < 0であれば,y = f(x)は x = pにおいて極大となる.� �
3講義ではほとんど触れなかった
20
第2章 積分法
2.1. 定積分
定積分は不定積分とは無関係に定義されることをはじめに述べておく.
y = f(x)を有界閉区間 [a, b]上の関数とする.この区間を a = x0 < x1 < · · · < xn = bと分割
する.この分割を∆と表し,
|∆| = max1≦i≦n
{xi − xi−1}
とおく.ξiを 1xi−1 ≦ ξi ≦ xiなる点として,
S(∆; ξ1, ..., ξn) =n∑
i=1
f(ξi)(xi − xi−1)
とおく.これをリーマン和とよぶ.f が正の値をとるときは,y = f(x)のグラフと直線 x =
a, x = bおよび x軸で囲まれた領域を,幅 xi − xi−1,高さ f(ξi)の (細い)長方形の紙を並べて近
似したときの長方形の面積の和である.
このとき,ξ1, ..., ξnをどのようにとっても,|∆| → 0とすると S(∆; ξ1, ..., ξn)が同じ値に収束
するならば,f は [a, b]上積分可能といい,極限の値を∫ b
a
f(x) dxと書く.
次が知られている.� �定理 2.1. 有界閉区間 [a, b]上の関数 f が連続であれば,f は [a, b]上で積分可能である.� �証明は省略するが,次のように議論する.上で ξiはどのように選んでもよいが,とくに
1) f(ξi) = max{f(x); xi−1 ≦ x ≦ xi}となるように選んだ場合のリーマン和を S(∆),
2) f(ξi) = min{f(x); xi−1 ≦ x ≦ xi}となるように選んだ場合のリーマン和を S(∆),と書く.
このとき次が成り立つ.� �定理 2.2. fが [a, b]上で積分可能であるための必要十分条件は, lim
|∆|→0S(∆) = lim
|∆|→0S(∆)が
成り立つことである.� �f が連続関数であれば, lim
|∆|→0S(∆) = lim
|∆|→0S(∆)が成り立ち,f の積分可能性がわかる.
1ξはギリシャ文字.クシーまたはグザイと読む.
21
例 2.3 (区分求積法).
∫ 1
0
x2 dx =1
3を示す.[0, 1]を n等分して,xi =
i
nとおく.
Sn =n∑
i=1
(i− 1
n
)2
(xi − xi−1), Sn =n∑
i=1
( i
n
)2
(xi − xi−1)
とおくと,
Sn <
∫ 1
0
x2 dx < Sn
が成り立つ (図を描いて確かめよ!).n∑
i=1
i2 =1
6n(n+ 1)(2n+ 1)を用いると,
Sn =1
n3
n∑i=1
(i− 1)2 =1
n3
1
6(n− 1)n(2(n− 1) + 1) =
1
6
(1− 1
n
)(2− 1
n
)→ 1
3(n → ∞),
Sn =1
n3
n∑i=1
i2 =1
n3
1
6n(n+ 1)(2n+ 1) =
1
6
(1 +
1
n
)(2 +
1
n
)→ 1
3(n → ∞)
となるから,∫ 1
0
x2 dx =1
3が成り立つ.
注意. このノートでは正確を期して挟み打ちの議論を行ったが,Snまたは Snが∫ 1
0
x2 dxを近
似することは認めて,どちらかの極限を求めることが第1歩である.ここで重要なことは,挟
み打ちの議論よりも 2,積分の「感じ」をつかむことだと思います.
問題. 区分求積法により∫ 1
0
x3 dx =1
4を示せ.
定積分の性質をまとめておく.� �定理 2.4. f, gを区間 [a, b]上の連続関数とする.
(1) 定数 α, βに対して∫ b
a
(αf(x) + βg(x)) dx = α
∫ b
a
f(x) dx+ β
∫ b
a
g(x) dx.
(2) a < c < b のとき∫ c
a
f(x) dx+
∫ b
c
f(x) dx =
∫ b
a
f(x) dx.
� �
2挟み打ちの議論の重要性は言うまでもないのですよ.
22
2.2. 不定積分
f(x)をR上または部分区間上の関数とするとき,
F ′(x) = f(x)
をみたす関数 F を f の原始関数または不定積分とよぶ.f の原始関数の全体を∫f(x) dx
と書く.定積分と全く違うことが分かるであろう.
Fがfの原始関数であれば,定数Cに対してF+Cもfの原始関数である:(F+C)′ = F ′ = f.
たとえば,− cosxも− cos x+ Cも f(x) = sinxの原始関数である.
一方,下に示すように,F, F̃ を fの原始関数とすると,(F (x)− F̃ (x))′ = f(x)− f(x) = 0で
あり,平均値の定理の系よりF (x)− F̃ (x) = Cをみたす定数Cが存在する.したがって,たと
えば,sinxの原始関数は− cosx+ Cという形に書ける.
したがって,f の原始関数 F を一つ決めると∫f(x) dx は,集合 {F (x) + C ; C ∈ R}である.
例えば,∫sinx dx = {− cosx+ C ; C ∈ R}
となる.
しかし,集合と言うまでもないので∫sinx dx = − cosx+ C (Cは定数)
と書くのである.
念のため,次を示しておく.� �定理 2.5. F, F̃ を f の原始関数とすると,F (x)− F̃ (x) = Cをみたす定数Cが存在する.� �証明. a < bとし,h(x) = F (x)− F̃ (x)とおくと,平均値の定理より
h(b)− h(a) = h′(c)(b− a)
をみたす c ∈ (a, b)が存在する.仮定より f ′(x) = F ′(x)− F̃ ′(x) = 0だから,h(b) = h(a)であ
る.a, bは任意なので,これは h(x) = F (x)− F̃ (x)が定数であることを示す.
23
次の例は,左辺を微分して確かめることができる.
例 2.6. (1) n ̸= −1なら∫
xn dx =1
n+ 1xn+1 + C.
(2) x > 0の範囲で考えると,∫
x−1 dx = log x+ C.
(3) n ̸= −1なら,定数 a, bに対して∫(ax+ b)n dx =
1
(n+ 1)a(ax+ b)n+1 + C.
(4) 定数 a (a ̸= 0)に対して∫
eax dx =1
aeax + C.
(5)
∫sin(2x) dx = −1
2cos(2x) + C.
(6) 双曲線関数 sinhx, coshxを sinhx =ex − e−x
2, coshx =
ex + e−x
2によって定義すると,∫
sinhx dx = cosh x+ C,
∫coshx dx = sinh x+ C.
bababababababababababababababababababababab
(1)
∫(3x+ 2)5 dxについて,これは多項式の積分なので次数が 1上がって (3x+ 2)6の
定数倍であると見当を付けることができる.((3x + 2)6)′ = 6 · 3 · (3x + 2)5より,定数
を調節して∫(3x+ 2)5 dx =
1
6
1
3(3x+ 2)6となる.
(2) 三角関数の場合は,倍角の公式,3倍角の公式が役に立つ.たとえば,
sin2 x =1
2(1− cos(2x)) より
∫sin2 x dx =
1
2x− 1
4sin(2x) + C
であり,sin(3x) = 3 sin x− 4 sin3 xより∫sin3 x dx =
∫1
4(3 sin x− sin(3x) dx = −3
4cos x+
1
12cos(3x) + C
となる.なお,後者については,後で述べる置換積分を用いて∫sin3 x dx =
∫(1− cos2 x)(− cosx)′ dx
= −∫(1− t2)dt = −t+
1
3t3 + C = − cosx+
1
3cos3 x+ C
と計算することもできる.結果の一致は,cos(3x) = 4 cos3 x− 3 cos xより確認される.
問題. 次の不定積分を求めよ.ただし,p ̸= 0とする.(5)は 2x = e(log 2)xを用いよ.
(1)
∫(px+ q)20 dx (2)
∫cos(2x+3) dx (3)
∫cos2 dx (4)
∫cos3 x dx (5)
∫2x dx
24
2.3. 微積分学の基本定理
定積分を用いて原始関数を求める,または不定積分をすることができ,逆に,不定積分が分
かれば定積分が求まることを示す.これらをまとめて,微積分学の基本定理という.
微積分学の基本定理� �定理 2.7. f を区間 [a, b]上の連続関数とするとき,a < c < bとして
S(x) =
−∫ c
x
f(t) dt (x < c)∫ x
c
f(t) dt (x ≧ c)
によって定まる関数 S(x)は f の原始関数である.� �証明. x ≧ cのとき,f の連続性から,h > 0として h → 0とするとき
S(x+ h)− S(x)
h=
1
h
∫ x+h
x
f(t) dt → f(x) (h → +0)
となる.一方,h < 0のときは
S(x+ h)− S(x)
h=
1
−h
∫ x
x+h
f(t) dt → f(x) (h → −0)
となる.したがって,S ′(x) = f(x)が成り立つ.
x < cのときも同様である.
逆に,原始関数から定積分が求まることを示す.� �定理 2.8. f を区間 [a, b]上の連続関数とし,F を f の原始関数とすると,∫ b
a
f(t) dt = F (b)− F (a)
が成り立つ.� �証明. 定理 2.7で与えた関数 Sを c = aとして作ると,これも f の原始関数である.したがっ
て,平均値の定理の系で述べたように,F (x)− S(x) = Cとなる定数Cが存在する.x = aと
すると,S(a) = 0よりC = F (a)である.したがって,∫ b
a
f(t) dt = S(b) = F (b)− C = F (b)− F (a)
となる.
以後,F (b)− F (a) を[F (x)
]bx=a
と書く.
25
例 2.9. (1) n ̸= −1とする.1
n+ 1xn+1は xnの原始関数だから
∫ 1
0
xn dx =
[1
n+ 1xn+1
]1t=0
=1
n+ 1.
(2) x > 0のとき,(log x)′ =1
x,つまり log xは
1
xの原始関数だから,
∫ 2
1
1
xdx =
[log x
]2x=1
= log 2.
(3) ((2x+ 3)6)′ = 6 · 2 · (2x+ 3)5より1
6 · 2(2x+ 3)6は (2x+ 3)5の原始関数である.よって,
∫ 1
−1
(2x+ 3)5 dx =[ 1
6 · 2(2x+ 3)6
]1x=−1
=56 − 1
12.
(4) aを 0でない定数とするとき,1
aeaxは eaxの原始関数だから
∫ 1
0
eax dx =
[1
aeax
]1x=0
=1
a(ea − 1).
(3),(4) については,わざわざ置換積分を用いないでも計算できて欲しい.
26
2.4. 部分積分
積の微分の公式 (f(x)g(x))′ = f ′(x)g(x) + f(x)g′(x)を思い出して,簡単な変形をする:
f ′(x)g(x) = (f(x)g(x))′ − f(x)g′(x).
� �(f(x)g(x))′の不定積分は f(x)g(x)だから (当たり前のこと!),両辺の不定積分を考えると∫
f ′(x)g(x) dx = f(x)g(x)−∫
f(x)g′(x) dx
となる.これが置換積分の公式である.定積分であれば,上で区間 [a, b]上の定積分を考え
れば,∫ b
a
f ′(x)g(x) dx =
∫ b
a
(f(x)g(x))′ dx−∫ b
a
f(x)g′(x) dx
=
[f(x)g(x)
]bx=a
−∫ b
a
f(x)g′(x) dx
となる.� �例 2.10. 部分積分は
∫xneax dxや xn sin(ax) dx などのように多項式と指数関数または三角関
数の積で与えられる関数の積分の計算に役立つ.たとえば,∫ 1
0
xe−x dx =
∫ 1
0
(−e−x)′x dx =
[−e−xx
]1x=0
−∫ 1
0
(−e−x)(x)′ dx,∫ π/2
0
x2 sin(2x) dx =
[x2(−1
2cos(2x)
)]π/2x=0
−∫ π/2
0
2x(−1
2cos(2x)
)dx
=π2
8+
∫ π/2
0
x(12sin(2x)
)′dx∫ e
1
log x dx =
∫ e
1
(x)′ log x dx =
[x log x
]e
x=1
−∫ 1
0
x · 1xdx
と計算すればよい.
また,2回部分積分を行うと,指数関数と三角関数の積で与えられる関数の積分も計算でき
る.たとえば,∫ex sin x dx = ex sin x−
∫ex cos x dx = ex sinx− ex cosx−
∫ex sinx dx
となり,∫ex sin x dx =
1
2ex(sinx− cosx) + C
となる.
27
問題. 次の不定積分を求めよ.
(1)
∫x sinx dx (2)
∫log(1 + x) dx (3)
∫x log x dx (4)
∫x sin2 x dx
(5)
∫xe2x dx (6)
∫log(x+ 1)
x2dx
問題. 次の定積分を求めよ.
(1)
∫ 1
0
x log(1 + x) dx (2)
∫ π
0
ex sinx dx (3)
∫ 1
0
x2e−x dx
その他,必要に応じて,演習することが必要である.
28
2.5. 置換積分
置換積分その1� �(I) 関数 f(x)の原始関数を F (x)とし,F と ϕ(t)との合成関数の微分を考える:
(F (ϕ(t))
)′= F ′(ϕ(t))ϕ′(t) = f(ϕ(t))ϕ′(t).
両辺の不定積分を考えて,x = ϕ(t)とおけば,
F (x) = F (ϕ(t)) =
∫f(ϕ′(t))ϕ′(t) dt
となって,∫f(x) dx =
∫f(ϕ′(t))ϕ′(t) dt (*)
となる.これが,不定積分に対する置換積分の公式である.左辺を計算することが求めら
れているとき,左辺は直ぐには計算できないが右辺が計算できることが多くある.または,
右辺が上手く計算できるような ϕ(t)を探すことができる場合が多くある.
定積分であれば,区間 [α, β]上で tに関して定積分をすると,∫ β
α
(F (ϕ(t))′ dt = F (ϕ(β))− F (ϕ(α)) =
∫ β
α
f(ϕ(t))ϕ′(t) dt
となり,a = ϕ(α), b = ϕ(β)とおけば∫ b
a
f(x) dx =
[F (x)
]bx=a
=
∫ β
α
f(ϕ(t))ϕ′(t) dt
となる.� �例 2.11. x = ϕ(θ) = tan θとおくと,
dx
dθ= ϕ′(θ) =
1
cos2 θより,∫
1
1 + x2dx =
∫1
1 + tan2 θ
1
cos2 θdθ = θ + C = arctanx+ C (Cは定数)
となる.[0, 1]上の定積分であれば,∫ 1
0
1
1 + x2dx =
∫ π/4
0
dθ =π
4
となる.dx
dθ= ϕ′(θ) =
1
cos2 θを,形式的に dx = ϕ′(θ)dθ =
1
cos2 θdθと書いて計算することが多い.
29
置換積分その2� �(II) 前ページの (*)を文字を変えて,左辺と右辺を入れ替えて∫
f(ϕ(x))ϕ′(x)dx =
∫f(y)dy
と書く.与えられた積分が,左辺の形をしていることから求まる場合が良くある.� �例えば,∫
x
1 + x2dx
であれば,f(y) =1
y, ϕ(x) = 1 + x2として,F (y) = log yを f の原始関数とすると,
∫x
1 + x2dx =
1
2
∫1
ydy =
1
2F (ϕ(x)) =
1
2log(1 + x2) + C
となる.
また,別の例として,∫
(log x)n
xdxであれば,log x = yとおくと,
dy
dx=
1
xまたは
1
xdx = dy
より,n ̸= −1であれば次のように計算される:∫(log x)n
xdx =
∫yndy =
1
n+ 1yn+1 =
(log x)n+1
n+ 1+ C∫ e
1
(log x)n
xdx =
∫ 1
0
yn dy =1
n+ 1.
bababababababababababababababababababababab
これらの例のように,置換積分を用いて∫
f(x) dxを計算する場合,
(I)のように x = ϕ(t)によって変数を xから tに変える (xを tの関数とおく)場合と
(II)のように y = g(x)によって変数をxから yに変える (xの関数を考える)場合がある.
問題. 次の不定積分を求めよ.
(1)
∫xe−x2
dx (2)
∫cos x
1 + sinxdx (3)
∫1
x log xdx (4)
∫1
sin2 x cos2 xdx
問題. 次の定積分の値を求めよ.
(1)
∫ π/4
0
tanx dx (2)
∫arcsinx dx (3)
∫arctanx dx
(4)
∫ 1
0
x log(1 + x2) dx (5)
∫ 1
0
x√1− x2 dx (6)
∫ 1
0
ex − e−x
ex + e−xdx
30
2.6. 有理関数の積分
(1) 有理関数の積分 P (x), Q(x)を多項式とするとき,有理関数P (x)
Q(x)の積分を考える.部分分
数展開を用いて,1
x,
1
1 + x2,
x
1 + x2などの積分に帰着する.
一般的な話は止めて,典型的な計算例を与える.� �例題 2.12. (1) x > 1として不定積分
∫1
x2 − 1dx,定積分
∫ 3
2
1
x2 − 1dxを求めよ.
(2) x > 0として,∫
1
x(x2 + 1)dxを求めよ.
(3) x > 0として∫
1
x(x+ 1)2dxを求めよ.
� �解答例. (1)
1
x2 − 1=
1
2
( 1
x− 1− 1
x+ 1
)と部分分数展開をすると,∫
1
x2 − 1dx =
1
2
(log(x− 1)− log(x+ 1)
)=
1
2log
(x− 1
x+ 1
)+ C,∫ 3
2
1
x2 − 1dx =
1
2
∫ 3
2
( 1
x− 1− 1
x+ 1
)dx =
1
2
[log(x− 1)− log(x+ 1)
]3x=2
=1
2log
3
2.
(2) まず,
1
x(x2 + 1)=
a
x+
bx+ c
x2 + 1
をみたす定数 a, b, cを求める.右辺を通分すると,
1
x(x2 + 1)=
a(x2 + 1) + x(bx+ c)
x(x2 + 1)=
(a+ b)x2 + cx+ a
x(x2 + 1)
となる.よって,a+ b = 0, c = 0, a = 1,つまり a = 1, b = −1, c = 0とすれば
1
x(x2 + 1)=
1
x− x
x2 + 1
となるので,(log(x2 + 1))′ =2x
x2 + 1より∫
1
x(x2 + 1)dx =
∫ (1x− x
x2 + 1
)dx = log x− 1
2log(x2 + 1) + C
と計算できる.
(3) まず,
1
x(x+ 1)2=
a
x+
b
x+ 1+
c
(x+ 1)2
をみたすように定数 a, b, cを決めると,
1
x(x+ 1)2=
1
x− 1
x+ 1− 1
(x+ 1)2
となる.したがって,∫1
x(x+ 1)2dx =
∫ (1x− 1
x+ 1− 1
(x+ 1)2
)dx = log x− log(x+ 1) +
1
x+ 1+ C.
31
(2) 三角関数の有理関数の積分∫1
1 + sin xdx などの三角関数の有理関数の積分は,
∫cos x
1 + sin xdx =
∫(1 + sin x)′
1 + sin xdx = log(1 + sinx) + C
のように上手く計算できる例もあるが,一般にはそうはいかない.しかし,tan(x2
)= t とお
いて置換積分すると,上の有理関数の積分に帰着されて計算することができる場合が多くある.
実際,
1 + tan2(x2
)=
1
cos2(x/2)= 1 + t2,
sin x = 2 sinx
2cos
x
2= 2 tan
x
2cos2
x
2=
2t
1 + t2,
cos x = 2 cos2x
2− 1 =
2
1 + t2− 1 =
1− t2
1 + t2,(
tanx
2
)′=
1
2
1
cos2(x/2)=
1 + t2
2より dx =
2
1 + t2dt
となるので,たとえば∫1
1 + sin xdx =
∫1
1 + 2t1+t2
2
1 + t2dt =
∫2
(1 + t)2dt = − 2
1 + t= − 2
1 + tan(x/2)+ C
となる.
問題. 次の不定積分を計算せよ.
(1)
∫1
sinxdx (2)
∫1
sinx cosxdx (3)
∫1
1 + cosxdx
32
2.7. 広義積分
(I) 有界区間上の広義積分 0 < δ < 1として,関数 f(x) =1√xの [δ, 1]上の定積分を考える:
∫ 1
δ
1√xdx =
∫ 1
δ
x−1/2 dx =
[2x1/2
]1x=δ
= 2− 2√δ.
この積分の値は δ → 0のとき 2に収束する.つまり,f(x) = x−1/2は x → +0のときに∞に発
散するが,(0, 1]上の積分を考えることができる.
区間 (a, b]上の連続関数f(x)が 3,x → a+0のとき発散するが,∫ b
δf(x) dxは δ → a+0のとき
収束するとき,fは (a, b]上で広義積分可能,または単に積分可能という.上の例は,f(x) = x−1/2
は (0, 1]上で積分可能であることを示している.
f(x)が [a, b)上の連続関数で x → b − 0のとき発散する場合,f(x)が (a, b)上の連続関数で
x → a + 0, x → b − 0のとき発散する場合も同様に,広義積分を考える.とは言っても,少し
範囲を狭くして定積分を考えて,その定積分の値の積分範囲を全体に広げた極限を考えるだけ
のことである.� �命題 2.13. 0 < p < 1であれば f(x) =
1
xpは (0, 1]上広義積分可能である.� �
証明. 0 < a < 1とすると,∫ 1
a
1
xpdx =
∫ 1
a
x−p dx =
[1
1− px1−p
]1x=a
=1− a1−p
1− p
となる.0 < p < 1より a → +0とすると a1−p → 0であるから∫ 1
a
1
xpdx → 1
1− p(a → +0)
が成り立つので,f(x) =1
xpは (0, 1]上広義積分可能である.
問題. (1) f(x) = x−1は (0, 1]上広義積分可能ではないことを示せ.
(2) p > 1のとき,f(x) = x−pは (0, 1]上広義積分可能ではないことを示せ.
問題. (1) limx→+0
x log x = 0, limx→+0
x(log x)2 = 0 を示せ.
(2) 次の広義積分の値を求めよ.
(1)
∫ 1
0
log x dx (2)
∫ 1
0
(log x)2 dx.
問題.
∫ 1
0
√x
1− xdx =
π
2を示せ.(Hint:x = sin2 θとおいて置換積分する.)
3f は bでは連続で f(b)は有限確定とする.
33
� �定義 2.1. (p, q) , p > 0, q > 0に対して広義積分∫ 1
0
xp−1(1− x)q−1 dx
の値を対応させる関数をベータ関数と呼び,と表す.B(p, q)� �0 < p < 1または 0 < q < 1のとき,上の積分は広義積分となるが,収束することが証明で
きる.
34
(II) 無限区間上の積分
R > 1として f(x) =1
x2の [1, R]上の定積分を考える:
∫ R
1
1
x2dx =
[−1
x
]Rx=1
= 1− 1
R.
この積分の値はR → ∞のとき 1に収束する.つまり,f(x) = x−2の無限区間 [1,∞)上の積分
を考えることができる.
一般に,f が [a,∞)上の関数であり,[a,R]上の定積分∫ R
a
f(x) dxがR → ∞のとき収束す
るならば,f は [a,∞)上広義積分可能,または単に積分可能であるといい,
limR→∞
∫ R
a
f(x) dx を∫ ∞
a
f(x) dx と書く.
上の例は,f(x) = x−2が [1,∞)上で広義積分可能で,∫ ∞
1
x−2 dx = 1あることを示している.� �命題 2.14. p > 1であれば f(x) =
1
xpは [1,∞)上で広義積分可能である.� �
証明. R > 1とすると,∫ R
1
1
xpdx =
∫ R
1
x−p dx =1
1− p(R1−p − 1)
である.p > 1,したがって 1− p < 0であるから,R → ∞のときR1−p → 0である.よって,∫ R
1
1
xpdx → −1
1− p=
1
p− 1(R → ∞)
となり,f(x) =1
xpは [1,∞)上で広義積分可能である.
問題. (1) f(x) = x−1は [1,∞)上広義積分可能でないことを示せ.
(2) 0 < p < 1のとき,f(x) = x−pは [1,∞)上で広義積分可能でないことを示せ.
35
bababababababababababababababababababababab
f(x) = e−xのとき,半区間 [0,∞)上の積分は,∫ R
0
e−x dx =
[−e−x
]Rx=0
= 1− e−R → 1 (R → ∞)
より,∫ ∞
0
e−x dx = 1
となる.このように,極限操作をいちいち書くのは面倒なので,∫ ∞
0
e−x dx =
[−e−x
]∞x=0
= −0− (−1) = 1
と書く習慣である.途中の 0は原始関数に x = ∞を代入しているように見えるが,こ
れは x → ∞のときの極限 limx→∞
e−x = 0を考えるということである.
上の比較的簡便な記法は,有界区間上の広義積分についても同様に可能である.例えば,
x log x → 0 (x → +0)に注意すれば (このコメントを自分でも必ず入れること),∫ 1
0
log x dx =[x log x− x
]1x=0
= −1− limx→0
(x log x− x) = −1
となる.
問題. c > 0とするとき,f(x) = e−cxが [0,∞)上広義積分可能であることを示し,積分の値を
求めよ.
問題.
∫ ∞
0
1
x2 + 1dxの値を求めよ.
問題. (1) 広義積分∫ ∞
0
xe−x dx,
∫ ∞
0
x2e−x dxの値を求めよ.
(2) n = 1, 2, ...に対して,広義積分∫ ∞
0
xne−x dxを nを用いて表せ.
� �定義 2.2. p > 0に対して,広義積分∫ ∞
0
xp−1e−x dx
の値を対応させる関数をガンマ関数と呼び,Γ(p)と書く.� �講義中に示したように,または上の問題から分かるが,
Γ(n) = (n− 1)!, n = 1, 2, ...
が成り立つ.
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