高速イオンクロマトグラフィーによる
高塩濃度試料中の無機態窒素分析
のご紹介
東ソー株式会社
バイオサイエンス事業部
JASIS 2016 新技術説明会 (2016.9.9) rev.3
1.無機態窒素分析について
環境水分析における無機態窒素分析について
~主な法令による基準値,分析方法~
人の環境の保護に
関する環境基準 NO2-N及びNO3-N 10 mg/L 以下
採用分析方法
(JIS K0102)
NO2-N
ナフチルエチレンジアミン吸光光度法
イオンクロマトグラフ法
流れ分析法
NO3-N
還元蒸留-インドフェノール青吸光光度法
Cu-Cdカラム還元-ナフチルエチレンジアミン吸光光度法
イオンクロマトグラフ法
流れ分析法
●環境基本法
●水質汚濁防止法
一律排出基準
(許容濃度)
NH4-N x 0.4,
NO2-N及びNO3-N
の合計量
100 mg/L 以下
採用分析方法
(JIS K0102)
NH4-N
インドフェノール青吸光光度法
中和滴定法
イオンクロマトグラフ法
流れ分析法
NO2-N
ナフチルエチレンジアミン吸光光度法
イオンクロマトグラフ法
流れ分析法
NO3-N イオンクロマトグラフ法
流れ分析法
イオンクロマトグラフ法のメリット
1.一斉分析
-陰イオン,陽イオン各システムによる多成分一斉分析が可能
2.共存成分の影響を受けにくい
-分離に基づく分析法のため、蒸留,還元カラム等の前処理は不要
-分析条件(分析カラム,溶離液,検出器等)による分離の調整が可能
3.広いダイナミックレンジ
-比色法に比べて広い定量範囲(3ケタ程度は可能)
イオンクロマトグラフ法の課題
1.分析カラムが高価
-排水等の複雑な組成の試料の場合、汚染によりカラムに
ダメージを与えやすい。
2.共存成分の影響
-濃度差の大きなイオン種が共存する場合、その分離に
限界がある。
例 NH4-N分析:隣接して溶出するNaイオン
NO2-N, NO3-N分析:隣接して溶出するClイオン
ろ過,希釈等の前処理
固相抽出などのカートリッジカラムによる前処理
ガードカラムの利用
【今回の検討課題】 分析条件の調整による共存成分の
影響の改善
高速イオンクロマトグラフィーシステムの構成
溶離液
ポンプ オート
サンプラ
カラムオーブン
含 ガードカラム
含 分析カラム
サプレッサー 電気伝導度
検出器
吸光光度
検出器
*全て東ソー株式会社製
IC-2010 UV-8320 IC IC-2010
ワークステーション
2.分析条件の設定
0
4
8
0 5 10 15 20 25
[ μS
/cm
]
{ min ]
1 2
3
4
NH4-N(陽イオン)分析条件
【測定条件】 装置:IC-2010
分析カラム:TSKgel SuperIC-CR
ガードカラム:TSKgel guardcolumn SuperIC-CR
溶離液:A液- 2.2 mmol/L メタンスルホン酸+1.0 mmol/L 18-crown-6
B液- 20 mmol/L メタンスルホン酸+1.0 mmol/L 18-crown-6
流速:0.4~0.7 mL/min
温度:40 ℃
注入量:10 μL
サプレッサーゲル:TSKgel suppress IC-C
検出:電気伝導度
溶出条件: 0 min - A液 100%, 0.4 mL/min
16 min - B液 100%, 0.7 mL/min
17 min - A液 100%, 0.7 mL/min
35 min - 次試料注入
【ポイント】 2液の溶離液切替溶出法を利用することで1価陽イオンの溶出を遅らせ、
NaイオンとNH4イオンの分離を向上させる条件を設定した。
【ピーク】
1. Li+: 0.5 mg/L
2. Na+: 2.0
3. NH4+: 2.0
4. Mg2+:5.0
1試料あたりの分析時間:35 min
従来条件との比較(NH4-N分析)
【ピーク】
1. Li+: 0.5 mg/L
2. Na+: 2.0
3. NH4+: 2.0
4. Mg2+:5.0
0
1
2
0 5 10 15
[ μS/
cm ]
[ min ]
0
10
20
0 5 10 15
[ μS/
cm ]
[ min ]
Na濃度
(mg/L) NH4-N濃度
(mg/L) 回収率
(%,ピーク面積)
従来条件 1,000 0.05 60.1
今回条件 1,000 0.05 83.1
従来条件 1,000 30 93.5
今回条件 1,000 30 97.3
NH4-N
(0.05 mg/L)
Na+
従来条件
今回条件
従来条件
今回条件
NH4-N
(30 mg/L) Na+
0
25
50
0 5 10 15 20
[ m
AB
U ]
[ min ]
1
2
3
NO2-N, NO3-N(陰イオン)分析条件
【測定条件】 装置:IC-2010
分析カラム:TSKgel SuperIC-Anion HR
ガードカラム:TSKgel guardcolumn SuperIC-A HS
溶離液:2.2 mmol/L NaHCO3+2.7 mmol/L Na2CO3
流速:1.2 mL/min
温度:40 ℃
注入量:100 μL
サプレッサーゲル:TSKgel suppress IC-A
検出:紫外吸光光度(210 nm)
*サプレッサーを使用することで、210 nm検出において
より安定したベースラインを得ることができる。
【ポイント】 高交換容量カラムTSKgel SuperIC-Anion HRを使用して、
各陰イオンの分離を向上させ、紫外吸光光度検出法を採用することで、選択的な検出条件を設定した。
【ピーク】
1. NO2-
: 5.0 mg/L
2. Br-
: 5.0
3. NO3-
: 5.0
1試料あたりの分析時間:20 min
0
1000
2000
0 5 10 15
[
AB
U ]
[ min ]
0
5
10
0 5 10 15
[
AB
U ]
[ min ]
従来条件との比較(NO2-N, NO3-N分析)
Cl濃度
(mg/L) Br濃度
(mg/L) SO4濃度
(mg/L)
NO2-N,
NO3-N濃度
(mg/L)
NO2-N 回収率
(%,ピーク面積) NO3-N 回収率
(%,ピーク面積)
従来条件 1,000 3.3 135 各0.01 86.6 91.5
今回条件 1,000 3.3 135 各0.01 107.0 100.6
従来条件 1,000 3.3 135 各25 103.5 100.0
今回条件 1,000 3.3 135 各25 96.0 100.3
NO3-N
(0.01 mg/L)
Br-
従来条件(HSカラム)
今回条件
従来条件(HSカラム)
今回条件
NO2-N
(0.01 mg/L)
Cl-
NO2-N
(25 mg/L)
NO3-N
(25 mg/L)
分析精度の検証結果
*MDL算出方法:0.05 mg/L(NH4-N), 0.01 mg/L(NO2-N, NO3-N) を n=6 にて測定し、
ピーク面積の標準偏差×t値(危険率5%,自由度5)×2 により算出した。
検量線 定量性
成分 濃度範囲
(mg/L) 近似式
決定係数r2
MDL
(mg/L)
MQL
(mg/L)
NO2-N 0.01-5 y=ax 0.9999
0.0004 0.0018 5-50 y=ax+b 0.9999
NO3-N 0.01-5 y=ax 1.0000
0.0012 0.0029 5-25 y=ax+b 0.9996
NH4-N 0.05-5 y=ax2+bx 0.9999
0.0040 0.0110 5-30 y=ax2+bx+c 0.9998
*MQL算出方法:0.05 mg/L(NH4-N), 0.01 mg/L(NO2-N, NO3-N) を n=6 にて測定し、
ピーク面積の標準偏差×10 により算出した。
2区間検量線について(NH4-N分析)
近似区間 1区間近似 2区間近似
近似式 y=ax2+bx y=ax2+bx y=ax2+bx+c
濃度(mg/L) 面積実測値 面積算出値 誤差(%) 面積算出値 誤差(%) 面積算出値 誤差(%)
0.05 1.00 0.78 -21.4 1.00 0.1 - -
0.1 2.12 1.57 -26.3 1.99 -6.2 - -
0.2 4.14 3.13 -24.5 3.97 -4.1 - -
0.5 10.24 7.80 -23.9 9.82 -4.1 - -
1 19.55 15.51 -20.7 19.28 -1.4 - -
2 36.74 30.66 -16.5 37.12 -1.0 - -
5 82.03 74.02 -9.8 81.98 0.1 83.17 1.4
10 140.66 139.26 -1.0 - - 138.52 -1.5
20 234.46 243.38 -3.8 - - 235.89 0.6
30 315.91 312.36 -1.1 - - 315.48 -0.1
★広い検量線範囲で誤差が大きい場合、区間分割検量線により、分析精度は向上する。
2区間検量線設定例
②分割区間の
境界面積を入力
④誤差の算出結果の表示
③各区間の検量線の近似関数を設定
①「2 区間」分割を指定
3.共存成分の影響について
0
5
10
0 5 10
[ m
AB
U ]
[ min ]
NO2-N, NO3-N分析条件における塩濃度の影響調査
Cl-
NO2-N NO3-N
Br-
NO2-N, NO3-N 各0.004 mg/L添加試料のクロマトグラム
試料
No.
Cl-
(mg/L)
Br-
(mg/L)
SO42-
(mg/L) 回収率NO2-N
回収率NO3-N
1 4000 13 540 76.6 104.6
2 2000 6.5 270 96.6 95.1
3 1000 3.3 135 107.0 100.6
4 400 1.3 54 105.3 101.1
5 200 0.65 27 94.2 103.6
試料- 1
試料- 2
試料- 3
試料- 4
試料- 5
夾雑成分無し
・Cl-濃度が増加すると、NO2-Nの
溶出の遅れが顕著となり、回収率も低下する。
・海水レベル(Cl-:約20,000 mg/L)の塩濃度の場合、20倍程度の希釈が必要。
*擬似海水の原液の陰イオン濃度(mg/L):Cl- 20,000, Br-:65, SO42- 2,700
回収率の検証結果(NO2-N, NO3-N)
*回収率は各イオンのピーク面積に基づき算出した。(ブランクは検出下限以下)
測定成分 共存イオン成分 評価結果
添加濃度
(mg/L)
Cl-
(mg/L)
Br-
(mg/L)
SO42-
(mg/L)
回収率
(%) MDL
(mg/L)
MQL
(mg/L)
[ NO2-N ]
0.01 0 0 0 - 0.0008 0.0021
0.01 200 0.65 27 95.8 0.0004 0.0011
0.01 1000 3.3 135 107.0 0.0006 0.0015
25 1000 3.3 135 96.0 - -
[ NO3-N ]
0.01 0 0 0 - 0.0019 0.0047
0.01 200 0.65 27 99.2 0.0020 0.0049
0.01 1000 3.3 135 100.6 0.0008 0.0021
25 1000 3.3 135 100.3 - -
海水レベルの塩濃度(Cl-:約20,000 mg/L)の試料の場合、20倍希釈で測定することにより、約0.04mg/L(試料原液中の濃度)のNO2-N,NO3-Nの分析が可能!!
0
1
2
5 10 15
[ μS
/cm
]
[ min ]
NH4-N分析条件における塩濃度の影響調査
Na+
NH4-N
NH4-N 各0.05 mg/L 添加試料のクロマトグラム
試料
No.
Na+
(mg/L)
NH4-N
回収率(%)
1 1000 83.1
2 500 92.8
3 200 92.2
4 100 97.8
5 50 99.5
6 10 100.6
試料- 1
試料- 2
試料- 3
試料- 4
試料- 5
夾雑成分無し
・Na+濃度が増加すると、NH4-Nは
ベースラインドリフトの影響により回収率が低下する傾向となる。
・海水レベル(Na+:約10,000 mg/L)の塩濃度の場合、10倍程度の希釈が必要。
試料- 6
*回収率はブランク補正値を記載
回収率の検証結果(NH4-N)
*回収率は各イオンのピーク面積に基づき算出した。(ブランク補正を実施)
測定成分 夾雑成分 評価結果
添加濃度
(mg/L)
Na+
(mg/L)
回収率
(%) MDL
(mg/L)
MQL
(mg/L)
[ NH4-N ]
0.05 0 - 0.004 0.011
0.05 100 97.8 0.006 0.015
0.05 1000 83.1 0.004 0.009
30 0 - - -
30 100 100.3 - -
30 1000 97.2 - -
海水レベルのNa +濃度(Na+:約10,000 mg/L)の試料の場合、10倍希釈で測定することにより、約0.1 mg/L(試料原液中の濃度)のNH4-Nの分析が可能!!
0
1
2
5 10 15
[ μS
/cm
]
[ min ]
NH4-N分析条件における塩濃度の影響調査
Na+
NH4-N
Mg2+
NH4-N 0.05 mg/L添加試料のクロマトグラム
試料
No.
海水
希釈倍率
Na+
(mg/L)
Mg2+
(mg/L)
回収率(%)
NH4-N
1 10倍 950 120 35.1
2 20倍 475 60 60.8
3 50倍 190 24 96.6
試料- 1
試料- 2
試料- 3
無添加(50倍希釈)
人工海水(商品名:マリンアート SF-1,富田製薬(株)製)にNH4-N 0.05 mg/L
を添加し、ピーク面積の回収率を評価
人工海水の場合、Na+とMg2+がともに濃度が高いため、
10倍希釈では十分な回収率が得られず、50倍程度の希釈が必要であった。
4.実試料の分析例
工場排水の分析-1
*) 定量下限(MQL)以下であることを示す
0
2
4
0 5 10 15 20
[ m
AB
U ]
[ min ]
0
0.5
1
0 5 10 15 20
[ μS
/cm
]
[ min ]
【陰イオン分析】 【陽イオン分析】
NO2-N NO3-N
Br-
Cl- 由来ピーク
Na+
NH4-N
Mg2+
前処理:20倍希釈,ろ過 前処理:50倍希釈,ろ過
注入試料中濃度
(mg/L) 試料原液中濃度
(mg/L)
NO2-N 0.0017(*) 0.034
NO3-N 0.0037 0.074
NH4-N 0.032 1.6
【定量結果】
海水組成に近い排水試料であり、陰イオン分析では、20倍希釈、
陽イオン分析では、50倍希釈
にて測定を実施した。
0
2
4
0 5 10 15 20
[ μS
/cm
]
[ min ]
0
20
40
0 5 10 15 20
[ m
AB
U ]
[ min ]
工場排水の分析-2
【陰イオン分析】 【陽イオン分析】
NO2-N NO3-N
Br- 有機物由来ピーク Na+
NH4-N
Mg2+
前処理:無希釈,ろ過 前処理:10倍希釈,ろ過
注入試料中濃度
(mg/L) 試料原液中濃度
(mg/L)
NO2-N 0.17 0.17
NO3-N 0.18 0.18
NH4-N 2.7 27
【定量結果】
塩濃度は比較的低い試料であったが、NH4-Nの含有量は多い結果であった。
0
2
4
0 5 10 15 20
[ μS
/cm
]
[ min ]
0
100
200
300
0 5 10 15 20
[ m
AB
U ]
[ min ]
生活排水の分析-1
【陰イオン分析】 【陽イオン分析】
NO2-N
NO3-N Na+
NH4-N
Mg2+
前処理:無希釈,ろ過 前処理:無希釈,ろ過
注入試料中濃度
(mg/L)
NO2-N 0.16
NO3-N 4.2
NH4-N 4.7
【定量結果】
塩濃度は低い試料であったが、NO3-N,NH4-Nの含有量は多い結果であった。
0
10
20
0 5 10 15 20
[ m
AB
U ]
[ min ]
0
2
4
0 5 10 15 20
[ μS
/cm
]
[ min ]
生活排水の分析-2
【陰イオン分析】 【陽イオン分析】
NO2-N
NO3-N Na+
NH4-N
Mg2+
前処理:無希釈,ろ過 前処理:無希釈,ろ過
注入試料中濃度
(mg/L)
NO2-N 0.012
NO3-N 0.25
NH4-N 0.36
【定量結果】
Br-
塩濃度は低く、微量のNO3-N,NH4-Nが検出された。
0
25
50
0 5 10 15 20
[
AB
U ]
[ min ]
河川水(山口県周南市)の分析
【陰イオン分析】 【陽イオン分析】
NO3-N Na+
NH4-N
Mg2+
前処理:無希釈,ろ過 前処理:無希釈,ろ過
注入試料中濃度
(mg/L)
NO2-N -
NO3-N 0.48
NH4-N 0.36
【定量結果】
0
0.1
0.2
0 5 10 15 20
[ μS
/cm
]
[ min ]
塩濃度は低く、微量のNO3-N,NH4-Nが検出された。
5.まとめ
1. NO2-N,NO3-N分析
高交換容量カラム及び紫外吸光光度検出を採用することで、Cl-濃度1,000 mg/L程度が共存しても、0.002~0.003 mg/Lの定量が可能であった。海水レベルの塩濃度の場合、20倍希釈試料で測定が可能であった。
高塩濃度試料中の
無機態窒素の分析条件検討結果
2. NH4-N分析
溶離液切替溶出法を利用して、1価陽イオンの溶出を遅らせることで、Na+濃度1,000 mg/L程度が共存しても、0.01 mg/Lの定量が可能であった。しかしながら、海水などの試料の場合、共存するMg2+の影響を受けるため、50倍希釈での分析が必要であった。