REDD+プロジェクトでの住民参加による森林の協働管理
-インドネシアの国立公園の事例
Collaborative Forest Management with
Local People in REDD+ Project
A Case of
National Park in Indonesia
兵庫県立大学環境人間学部
原田一宏
University of Hyogo
School of Human Science and Environment
Kazuhiro Harada
IGES国際セミナー(国際文化会館、東京) 2013年12月4,5日
発表内容Outline
熱帯林における地域住民の位置
Position of local people in tropical forests
インドネシアのREDD+の動向
Movement of REDD+ issues in Indonesia
国立公園をめぐる諸問題
Problems associated with national parks in Indonesia
インドネシアの国立公園におけるREDD+プロジェクトの事例
A case of REDD+ project in a national park in Indonesia
熱帯林と地域住民の関係Relationships of local people with tropical forests
なぜ地域住民なのか Why local people?
熱帯林が急速な勢いで失われている中、熱帯諸国では約5億人の人々が森林に依存しながら生活 Approximately 500 billion forest-dependent people
日常的に燃材や建材、薬などを森林から採取、アグロフォレストリーとして樹木を管理しつつ農作物を栽培 Daily forest use, agroforestry
熱帯林における地域住民の位置-1990年代以前Position of Local people in 1990s
植民地統治を継承した森林の国有地化 Occupation of state-owed land
国有地でのコミュニティフォレストリーの実践 Community forestry
あいまいな土地所有・利用権やそれらをめぐる対立 Land tenure and use
原田(2014刊行予定)「熱帯林-グローバルな気候変動・森林保全政策とローカルな資源利用」 日本森林学会編『教養としての森林学』(文永堂出版)より
表
カンボジア インドネシア フィリピン インド ネパール ベトナム タイ マレーシア
土地面積(1,000ha) 17,652 181,157 29,817 297,319 14,335 31,007 51,089 32,855
森林面積(そのうちの原生林面積)(1,000ha)
10,094(322)
94,432(47,236)
7665(861)
68,434(15,701)
3636(-)
13,797(80)
18,972(6,726)
20456(3,820)
森林率(%) 57 52 26 23 25 44 37 62
森林所有権の形態 国有100%国有91%私有9%
国有85%私有15%
国有86%私有14%
国有100%国有72%私有24%その他4%
国有88%私有12%
国有98%私有2%
国有林の管理主体国100%、
コミュニティ若干
国43%営利企業:57%
個人・コミュニティ若干
国32%営利企業:
20% コミュニティ47%個人若干
国63%コミュニティ
37%
国66%営利企業1%
コミュニティ33%- -
国90%営利企業10%
出典:FAO (2010) Global Forest Resources Assessmentをもとに作成
新たな住民参加型森林管理 Innovative participatory FM
・REDD+(国立公園など)REDD+ in national parks
社会セーフガード Social safeguard
新たな住民参加型森林管理Innovative participatory forest management
トリプル・ベネフィットTriple-benefit
生物多様性保全 Biodiversity conservation
気候変動緩和 Climate change mitigation
地域住民の貧困削減 Poverty reduction
従来型のコミュニティフォレストリー community forestry
国立公園などでの住民による「非合法な」森林利用など“Illegal” forest use by local people in national parks
1990年代以前before 1990s
2000年代以降after 2000s
インドネシアのREDD+に関する動向National movements of REDD+ in Indonesia
インドネシア森林気候協会の設立(2007年) 林業省が中心となり、オーストラリアや国際機関、NGO、大学が関与Establishing Indonesia Forest Climate Corporaton
パイロットプロジェクトの実施(2008年~)
2012年現在、36か所(森林総合研究所 2013)のプロジェクト 国立公園が対象地の一つに
National parks are one location for REED+ pilot projects
ノルウェー政府との連携(2010年~)
REDD+の法制度やREDD+国家戦略の策定REDD+ regulations and REDD+ National Strategy 地域住民の土地所有権と住民の参加 Land Tenure and local participation
社会セーフガード(先住民・地域住民の権利の保障や便益の供与)Social safeguard
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
550
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
面積
数
インドネシアの国立公園National parks in Indonesia
活動厳正自然保護地域
野生生物保存地域
国立公園 観光公園 狩猟公園
A. 食用作物の栽培 × × × × ×
樹木作物の栽培 × × × ○ ○
有用植物や燃材の採取 × ○ × × ×
狩猟 × × × × ○
漁労 × × × × ○
B. ラタンや木材の採取(許可制) × × × × ○
商業伐採 × × × × ×
C. 野生動物のコントロール × ○ ○ ○ ○
有益な生息環境の管理 × ○ ○ ○ ○
非外来種の導入 × ○ ○ ○ ○
外来種の導入 × × × ○ ×
D. 天然資源の採掘 × ○ ○ × ○
移住 × × × × ×
E. キャンプ × ○ ○ ○ ○
観光客による利用 × ○ ○ ○ ○
科学データの収集(許可制) × ○ ○ ○ ○
(注)許可されている活動は○、禁止されている活動は×を示す。出典:Ministry of Forestry (1995) をもとに作成。
1 Gunung Leuser
2 Batang Gadis
3 Kerinci Seblat
4 Siberut
5 Tesso Nilo
6 Bukit Tiga Puluh
7 Bukit Duabelas
8 Berbak
9 Sungai Sembilang
10 Bukit Barisan Selatan
11 Way Kambas
12 Ujung Kulon
13 Gunung Halimun
14 Gunung Gede Pangrango
15 Gunung Ciremai
16 Gunung Merbabu
17 Gunung Merapi
18 Bromo Tengger Semeru
19 Baluran
20 Meru Betiri
21 Alas Purwo
22 Bali Barat
23 Tanjung Putting
24 Sebangau
25 Kutai
26 Kayan Mentarang
27 Gunung Palung
28 Danau Sentarum
29 Betung Karihun
30 Bukit Baka-Bukit Raya
31 Gunung Rinjani
32 Manupeu-Tanah Daru
33 Laiwangi-Wanggameti
34 Kelimutu
35 Bogani Nani wartabone
36 Lore Lindu
37 Rawa Aopa Watumohai
38 Bantimurung-Bulusarawung
39 Aketajawe-Lolobata
40 Manusela
41 Lorentz
42 Wasur
注)海洋国立公園は除く
出典:Ministry of Forestry(2005)より筆者作成
出典:Departmen Kehutanan(2006)より筆者作成
原田(2011)『熱帯林の紛争管理-保護と対立の利用を超えて』(原人舎)より
国立公園内での地域住民の居住や活動は原則禁止Local people not allowed to settle down and do some
activities
インドネシアの国立公園における政府とコミュニティの対立Conflicts between government and communities
in national parks in Indonesia
公園内での地域住民による慣習的資源利用 農地の拡張 Customary use of natural resources
焼畑・常畑・水田による生業
公園内に地域住民のアブラヤシ農園
アブラヤシ農園の拡張 Expanding of oil palm plantation
地域住民と野生動物の衝突(ゾウの殺害)
公園内に地域住民のコーヒー農園が存在
コーヒー農園の拡張 Existence of coffee plantation
生産されたコーヒーは海外へと輸出
WWFインドネシア提供
インドネシアのREDD+プロジェクトの事例-東ジャワ州・メルベティリ国立公園
A Case of REDD+ Project in
Meru Betiri National Park in East Java, Indonesia
メルベティリ国立公園の概要Outline of Meru Betiri National Park
国立公園の概要 Outline of the project
1997年に設置され、面積5万8,000ha Establish in 1997, 58,000ha
12村、約13万人の地域住民が国立公園周辺に居住
水田や畑作(マメ・トウモロコシ・バナナ・キャッサバなど)
国立公園内の森林の違法伐採から協働管理へ
1998年に、国立公園内のチーク林伐採
跡地の植林・アグロフォレストリー事業
REDD+プロジェクトが2010年より開始
Plantation and agroforestry
メルベティリ国立公園
国立公園での政府・NGO・地域住民による協働―地域住民による違法伐採Illegal logging of local people
1998年5月: もともと国営林業公社内の生産林であった国立公園内のチー
ク林(4,000ha)が、地域住民により違法に伐採
Illegal logging of teak forest with 4,000ha
1999年末:
すべてのチーク林が伐採され、「オープン・アクセス」の土地に変貌 Illegal cutting of teak forests
1999年:
国立公園当局がローカルNGO(インドネシア熱帯研究所、LATIN)に依頼し、住民参加による植林活動を開始
このNGOがREDD+プロジェクト推進に寄与
Local NGO’s role to enhance REDD+ project原田(2011)「変わりゆく熱帯林と地域住民―インドネシアにおけるREDD+プロジェクトの事例―」(財)森林文化協会編
『森林環境2011―森林の明日を考えるための12の事例―』朝日新聞出版,より
国立公園での政府・NGO・地域住民による協働管理―違法伐採跡地の修復
Rehabilitating lands after illegal logging
1999年以降:6ヶ月間にわたる定期的な会合開催Village meeting for six months for deciding rules for plantation and intercropping
植林間隔(5×5m)の決定と樹種の選定(薬用樹種)
間作の許可(ただし、商品作物の栽培は禁止)
1999年以降:アグロフォレストリーによる植林活動開始
Plantation through agroforestry from 1999s
国立公園内からの苗の採取
一年生作物と果樹(バナナ・ジャックフルーツ・マンゴ・ドゥリアンなど)
2002年までに5村、108の農民グループ(3556人)に分配
国立公園での政府・NGO・地域住民による協働管理―REDD+プロジェクトへ
Towards REDD+ project
その後、地域住民の森林管理に対するモチベーションの低下と、それに伴う住民による違法伐採の再燃
樹木の生長による間作の困難、国立公園の予算・人の不足
による違法伐採の放置
Decrease motivation to manage forest and illegal logging
NGOが再度行動を開始 NGO support farmer groups
2009年12月に、ITTOとNGOが住民を交えたセミナーの実施
「植生修復のための農民グループ」(以下、農民グループ)の結成
NGOによる地域住民と協働の植林活動が認められ、2010年より、ITTOのREDD+プロジェクトに
REDD+ project started from 2010
REDD+プロジェクトの概要Outline of REDD+ project
実施機関:国立公園当局とNGO(LATIN), ITTOと林業省研究開発センター Local NGO, ITTO, FORDA
期間:2010~2013年 Rehabilitation zone 4,000ha
対象地:リハビリテーションゾーン(4000ha)
資金:日本のセブン&アイ・ホールディング
ITTOとインドネシア政府
プロジェクトの活動内容 Project activities
住民参加による森林警備・森林管理・
炭素量測定(NGO) Patrol and forest management
国立公園内のプロットを用いた炭素量測定および、その技術向上(林業省研究開発センター)
農民グループの組織強化と違法伐採の警備Patrolling illegal logging by farmer groups
農民グループごとの区分けされた土地の
管理と違法伐採の取り締まり
国立公園の原生林と接している土地の管
理者人による違法伐採の監視
国立公園当局への違法伐採の迅速な通知
(通知を怠った場合には土地の没収)
アグロフォレストリーによる植林活動―参加型マッピングとインベントリー
Participatory mapping and inventory for planting through agroforestry
目的 Purpose
公園内の植林状況の把握と植林の促進
実施内容 Activities
公園内でもっとも多くの土地を管理している
村を対象に実施
Arif (2011)より
アグロフォレストリーによる植林活動―植林の状況に応じた土地のタイプ分け
Land classification of plantation areas
分類Category
密度Density
(trees/ha)
種数Number of
species
年収入の例Income/year/ha
(Rp.)
1 樹木なく、作物のみNo tree, only crops
0 0 12,630,000
2 わずかな樹木と作物 A
few trees + crops50以下 5以下 19,780,000
3 やや密で作物ありRather
dense+crops51-100 6-10 7,902,000
4 密で作物ありDense +crops
101-150 11-15 6,960,000
5 密で下草ありDense
151-200 16-20 30,749,200
6 樹木のみDense non crops
151以上 11以上 10,440,000
LATIN(2011)より
1
2
3456
表 タイプごとの植生状況 Vegetation in each category
1円=114ルピア, 1US$=Rp. 11,600 (Nov, 2013)
アグロフォレストリーによる植林活動―植林を活性化させるためのプログラムの実施Incentive program to enhance planting activities
森林修復に参加している農民へのインセンティブプログラム(PINTAR:Program Intensif untuk Petani Rehabilitasi)(2012年6月~)
Incentive program for participating forest rehabilitation
地域住民が植林をする金銭でのインセンティブを与える仕組み 土地のタイプ
経済:生活必需品を購入する際の値段の割引
健康:保健所での薬代の負担軽減
教育:教育費の支援
支援を受けるための条件 土地の位置・植林樹種と数・今後の
植林計画について通知
プログラムのメンバーカード発行
LATIN (2012)より
分類Category
経済Economy
(Rp./yr)
教育・健康Education&H
ealth
(Rp./yr)
Totak
(Rp./yr)
1 60,000 0 60,000
2 120,000 0 120,000
3 180,000 180,000 360,000
4 240,000 240,000 480,000
5 300,000 600,000 900,000
6 360,000 720,000 1,080,000
表 タイプごとの支援金の額Financial supports for each category
1村でのアグロフォレストリーによる植林活動Plantation activities through agroforestry in a village
植林に参加している5村のうちの1村の事例
2011年11月に国立公園とMOU締結
17グループ、750世帯(全世帯数1,716)
植林面積410ha(植林樹種54種、植林本数18,136本)
苗畑の管理、今後の植林予定本数23,027本
図 村のリハビリテーションゾーン
図 各グループの管理地
分類Category
土地の数Number
of lands
年間に一人あたりに必要な額
Money needed for
each peron (Rp.)
年間に必要な総額Money need for
one year
(Rp.)
1 120 60,000 7,200,000
2 75 120,000 9,000,000
3 148 360,000 53,280,000
4 170 480,000 81,600,000
5 188 900,000 169,200,000
6 49 1,080,000 52,920,000
1村全体で必要となる年総額Total money needed for a village
373,300,000
LATIN (2012, 2011)より
表 タイプごとの農民の数とプログラムに要する資金
1村での地域住民の植林プログラムに関する認識Local awareness of a plantation program in a village
炭素クレジットや植林プログラムの目的に関して不十分な認識
植林プログラムのメリットについては、参加者・非参加者ともに把握
参加者Participants(70人) 非参加者Non-participants(30人)
知っているknow(%)
知らないdon’t know(%
知っているknow(%)
知らないdon’t know(%)
国立公園の法律
Regulations of national park100 0 93 7
炭素クレジットの目的
Purpose of carbon credit6 94 3 97
国立公園と村の協定
MOU between national park and
village
9 91 0 100
植生修復プログラムの目的
Purpose of rehabilitation program6 94 3 97
植生修復プログラムのメリット
Merit of rehabilitation program90 10 93 7
2012年の現地調査より
表 地域住民の植林プログラムに関する認識 Local awareness of the program
地域住民の植林プログラムへの参加の動機・意識Motivation and perception of local people to join the program
非参加者のプログラムへの参加の意識(2012年の現地調査より)
非常に高い(19人)、普通(11人)、ない(0人)
図 参加者がプログラムに参加の動機(3つ選択)Motivation to participate in the program
図 非参加者がプログラムに参加しない理由(1つ選択)Reasons not to participate in the program
2012年の現地調査より 2012年の現地調査より
1村における参加者の植林プログラムからの収入Participants’ income from plantation program in a village
参加者のプログラムからの収入の割合が高い(32%) 農作物の販売 High proportion of income from the project
非参加者の植林プログラムによる新たな仕事の機会の獲得(2012年
の現地調査より) Opportunities for non-participants to get jobs and income
57%が農作業の手伝いなどによって、収入を取得
調査対象者数Number of
respondent
植林地の面積Land Area
(ha)
収入Income
(Rp.)
植林プログラムからの収入
Income from
the project
(Rp.)
プログラムからの収入の割合
Proportion of
income from the
project
(%)
植林地からの収入
Income from
the project
(Rp. /ha・year)
91 0.32 8,745,165 2,773,868 32 8,657,516
Dede (2013)より引用
表 参加者の植林プログラムからの収入状況
プロジェクトの成果と今後の課題Opportunities and challenges of the project
国立公園当局と地域住民の対立を解消し、国立公園内での住民によるアグ
ロフォレストリーによる植林を実現 Agroforestry and rehabilitation
植林によるCO2排出削減と森林再生の実現(政府) CO2 emission
国立公園内での土地管理の権利を取得とそれによる現金収入の確保(地域
住民) land use right and income generation
今後の課題 Challenges
アグロフォレストリーのシステムの確立 Establishing agroforestry
農業と植林のバランス Balance between agriculture and plantation
今後のプロジェクトの継続性 Sustainability of the project
2013年末に終了 The project finish by Dec. 2013
トリプル・ベネフィットの実現のグッドプラクティスGood practice for achieving triple-benefits
ご清聴ありがとうございました。Thank you very much
Terima kasih banyak
Acknowledgement:
The research was funded by a Grant-in-Aid
for Scientific Research in 2011 and 2012 ©
23510316, by the Japan Society for the Promotion
of Science.
I express my gratitude to Dr. Ok Ma (ITTO)
and Mr. Arif Aliadi (LATIN) for their support for this
research.