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Page 1: 松江城石垣と,その石材の原産地の見学 · りられることとなり,バスの定員の都合上,募集定員 を30 名に設定した.松江城は平成27

日  時 平成 27年 11月 14日(土)集合場所 島根大学松江キャンパス正門前見学場所 松江城石垣     松江市上宇部尾     (輝陽砿業有限会社 採石所)案内者  新宮敦弘(株式会社藤井基礎設計事務所)     山内靖喜(島根大学名誉教授)参加者  26名参加費  100円(リクレーション保険代)見学会の概要平成 27年度秋季見学会は,島根大学くにびきジオパークプロジェクトセンターと合同で開催した.また,島根大学教育学部,総合理工学研究科地球資源環境学領域,島根大学 COC事業の共催を得た.くにびきジオパークプロジェクトセンターでは,地学と歴史学,民俗学といった文理融合型の見どころを訪問する見学会(探訪会)を年数回開催している.今回のような合同の見学会を通じて,地学会と大学との連携強化を図り,郷土の地学について一層の普及に努めたいというのが企画者側の意図である.午前中に松江城の石垣,午後に近隣の石材原産地を巡るという構想のもと,案内者が中心となって下見および見学候補地との交渉に当たった.松江城の石垣の原産地として,主要なものは大

おお

海み

崎ざき

石(和わ

久く

羅ら

山デイサイト)と矢田石(松江層玄武岩)である.大海崎石については,現在稼行中の採石所を見学させてもらえることとなった.矢田石についてはもともとの原産地である松江市東光台付近に良好な露頭が残っていないため,松江市東津田の県道沿いの露頭を見学することとした.見学地点間の移動のため大学の中型バスを借りられることとなり,バスの定員の都合上,募集定員を 30名に設定した.松江城は平成 27年 7月の国宝指定後に観光客が急増しており,混雑が予想されたため,

島根県地学会会誌 31. 59~61(2016年 3月)

松江城石垣と,その石材の原産地の見学

林   広 樹*

見学会実施日を当初計画の 10月 4日から 11月 14日に変更した.見学会の骨子が確定後,会員に向けて案内葉書を 10月 1日付で発送した.さらに,見学会の案内ビラを作成し(図 1),島根県地学会および島根大学のウェブページ等で広報した.広報後になって,見学会当日に松江城で 1,000人規模のイベントが開催されることが判明したが,松江城山管理事務所および松江市観光施設課に問い合わせ,30人程度の見学会であれば特に支障ないとの回答が得られたため,予定通り開催することとした.当日は小雨が降ったり止んだりといったすぐれない天候となったが,事前申し込みのあった 26名全員の参加を得た.うち会員 11名,一般 15名である.朝 9時に島根大学正門前に集合し,大学バスで松江城大手前駐車場まで移動し下車した.松江城では新宮氏が案内と解説を担当した.馬

うま

溜だまり

および二之丸下之段の南半分はイベントで使用されていたため,まず大手門から入り二之丸下之段の北部へ移動した.ここでは築城当時

地質見学会報告2

図 1 ウェブ上で公開した見学会の案内ちらし

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* 島根大学大学院総合理工学研究科

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図 2  二之丸下之段の石垣(大海崎石)を前に解説する新宮氏

図 3 二之丸下之段,北端付近の石垣左半部が築城当時の石垣,右半部が平成 13・14年度に忌部石を用いて修復された石垣

図 4 中曲輪北部,島石を含む石垣

図 5 水ノ手門付近,森山石を含む石垣

図 6 天守の石垣修復時に目印とした数字や格子が残されている.

の大海崎石からなる石垣を見学した(図 2).北端部では平成 13年・14年の修復により忌

いん べ

部石(大森層安山岩)が大量に使われ,外観を異にする様子を観察できた(図 3).そこから西へ曲がると,その一角は安永八年に修復された石垣であり,島石(大根島玄武岩)が混在するようになる(図 4).さらに,中

なか

曲くる

輪わ

から水ノ

手門を経ると,近年の修復によって森山石(古浦層凝灰質砂岩)が混在する箇所がある(図 5).腰

こし

曲くる

輪わ

から本丸に登り,天守を見ると,大海崎石から主に構成される石垣には天守修復時に目印とした番号や格子線が残されていた(図 6).天守の南東側,祈

祷とう

櫓やぐら

直下の石垣は松江城でもっとも高い石垣であり,またもっとも崩れやすい箇所でもあったようである.この箇所は加工が容易な森山石をきっちりと算木積みで組み上げてあり,崩れにくくするための工夫が感じられる(図 7).さらに本丸南側と東側の石垣を見学しつつ,11時 20分頃に大手門前駐車場へ戻り,送迎の大学バスに乗車した.小雨だったため,昼食は島根大学に戻って大学食堂でとって頂いた.12時 30分に再び大学正門前に集合し,大学バスで松江市上宇部尾町の輝陽砿業採石所へ向かった.ここでは南北およそ 150m,東西およそ 250mにわたってベンチカットされた和久羅山デイサイトの大露頭があり(図 8),現在も護岸や砕石の原料として採掘されている.山内氏の案内のもと,和久羅山デイサイトの岩相や溶岩ドームの性状について解説があった.一般参加された島根大学地球資源環境学領域の亀

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井淳志博士からも,アダカイト質マグマの生成背景や,デイサイトに含まれる花崗岩ゼノリスについての解説があった(図 9).天候がすぐれなかったため,予定していた松江層玄武岩の露頭見学は安全面に配慮して取りやめることとした.大学には 14時前に戻り,参加者に大海崎石の標

本(図 10)をお土産として配布し,解散となった.本報告の写真には,参加者の辻本彰会員および中村学会員が撮影した写真を使わせて頂きました.輝陽砿業(有)には砕石所の見学を許可して頂きました.この場をお借りして厚く御礼申し上げます.

図 10  参加者に配布した和久羅山デイサイト標本のラベル

図 9  和久羅山デイサイトに含まれるゼノリスを解説する亀井氏

図 7 祈祷櫓直下の石垣加工が容易な森山石を角に算木積みしている.

図 8 和久羅山デイサイトの露頭を前に解説する山内氏

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