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2019 年 8 月 21 日
2019 年 6 月株主総会シーズンの総括と示唆
“株主の「物言う化」”と“資本市場との対話の深化”が進む
コンサルティング第一部
主任コンサルタント
吉川英徳
[要約]
2019 年 6 月株主総会シーズンの特徴は“広がる株主の「物言う化」”と“資本市場
との対話の深化”であった。具体的な注目点としては、①買収防衛策の廃止・非継
続企業の増加、②取締役会構成の見直し(独立社外取締役比率 3 分の 1以上、女性
取締役の選任等)、③アクティビスト投資家との対話の深化、④機関投資家等の支
持を集める株主提案の増加、等が挙げられる。
2019 年 6 月株主総会シーズンの主要企業(TOPIX500)における議決権行使の状況
を集計した結果を見ると、機関投資家・議決権行使助言会社の議決権行使基準の厳
格化を背景に、経営トップ選任議案の賛成率は年々低下している事が確認できた。
特に「不祥事企業」、「低 ROE 企業(ROE5%未満)」、「監査等委員会設置会社・指名委
員会等設置会社等において社外取締役比率が 3 分の 1 未満の企業」の経営トップの
賛成率が対前年比で大きく低下している。
2020 年 6 月株主総会シーズンに向けたポイントとしては、「親子上場の在り方(上
場子会社のガバナンスの在り方)」、「政策保有株式の縮減」、「低 ROE 企業の機関設
計の見直し」、「東京証券取引所の市場制度改革」が考えられる。機関投資家の上場
企業に対する目線が引き続き厳しくなる中で、上場企業には資本市場を意識した経
営が今まで以上に求められる。
重点テーマレポート コンサルティングレポート コンサルティング本部
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1. 2019 年 6 月株主総会シーズンの総括
全体総括
2019 年 6 月株主総会シーズンの特徴1は、“広がる株主の「物言う化」”と“資本市場との
対話の深化”である。いわゆるアクティビスト投資家や外国人投資家だけでなく、国内の
機関投資家においても上場企業に対する積極的な対話等を通じた“物言う化”が進んでお
り、上場企業側もそれらの株主・投資家の意見を経営に取り入れるケースが増えてきてい
る。本年株主総会シーズンにおけるポイントとしては、①買収防衛策の廃止・非継続企業
の増加、②取締役会構成の見直し(独立社外取締役比率 3 分の 1 以上、女性取締役の選任
等)、③アクティビスト投資家との対話の深化、④機関投資家等の支持を集める株主提案の
増加等が挙げられる。
① 買収防衛策の廃止・非継続企業の増加
まず、買収防衛策の廃止・非継続企業の増加については、年々、資本市場の買収防衛策
に対する目線が厳しくなっている。従来の外国人投資家に加え、ここ数年は国内主要機関
投資家も買収防衛策の導入・継続に対する目線を厳しくしている。特に本年に関しては、
大手信託銀行が買収防衛策の継続議案に対する賛成基準を“取締役会で独立社外取締役が
過半数以上”としており、そうした国内機関投資家の姿勢を受けて、買収防衛策の廃止・
非継続を選ぶ企業が増加している。2019 年 6 月末時点で 331 社が導入しているが、前年同
期比で 57 社減少2しており、図表 1 に示すように減少幅が目立っている。特に主要企業
(TOPIX500 採用企業)に限ると、買収防衛策を導入し本年有効期限等を迎える企業 43 社の
うち継続したのは 11 社(株主総会に継続議案を上程したのは 9社、取締役会決議で継続し
たのは 2社)に留まっている。
1 2019 年 6 月株主シーズンを取り巻く政府や機関投資家等の動向については「2019 年 6 月株主総会シーズ
ンに向けた示唆(https://www.dir.co.jp/report/consulting/governance/20190510_020783.html)」をご
参照ください 2 2018 年 7 月~2019 年 6 月累計で新規導入 3社、廃止・非継続 60 社の前年同期比 57 社減
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(図表1)買収防衛策の導入企業数の推移
出所:レコフ社 MARR データより大和総研作成
② 取締役会構成の見直し(独立社外取締役比率 3 分の 1 以上、女性取締役の選任)
次に、取締役会構成の見直しについては、2つのポイントがある。1点目は独立社外取締
役比率で取締役総数の 3分の 1以上の選任、2点目は女性役員(特に女性取締役)の選任で
ある。独立社外取締役比率 3 分の 1 以上の選任については、まず昨年 6 月に改訂されたコ
ーポレートガバナンス・コード(以下 CG コード)の原則 4-83において本改訂により従来よ
りも強い論調で要請されている。また、機関投資家や議決権行使助言会社が図表 2 に示す
ように独立社外取締役比率(社外取締役比率)4に関する議決権行使基準等を変更している
ことも上場企業に大きな影響を与えている。例えば、2019 年 2 月より大手議決権行使助言
会社の Institutional Shareholder Services Inc. (以下、ISS)が監査等委員会設置会社
及び指名委員会等設置会社の取締役会には社外取締役比率で 3 分の 1 以上を求めており、
国内大手機関投資家においても監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社、親会社が
存在する上場子会社に対しては独立社外取締役等を 3 分の 1 以上求めるように議決権行使
基準を変更している。加えて、大手信託銀行が 2020 年 4 月以降に上場企業の取締役会の構
成において社外取締役比率で 3分の 1以上を求めることを既に公表している。
その結果、図表 3 に示すように、独立社外取締役で 3 分の 1 以上を確保している上場企
3原則 4-8:独立社外取締役の有効な活用「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中期企業価値向上に寄
与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分備えた独立外取締役を少
なくとも 2名以上選任すべきである。また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を
総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、
上記にかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。」 4 機関投資家によって社外取締役比率 3分の 1基準に“独立性を求める”場合と“独立性を求めない”場
合がある。非独立社外取締役でも取締役会の構成の条件を満たす(経営トップ等に反対票が入らない)が、
社外取締役の独立性基準の部分で当該社外取締役に反対票が入るため、多くの企業は独立社外取締役を選
任している
4
業は年々増加している。2019 年 7 月末時点では、上場企業全体で 35.9%(前年比+7.8%pt)
となっており、企業規模で TOPIX1000 までの企業は過半数以上が独立社外取締役で 3分の 1
以上を確保しているなど、既に独立社外取締役で 3 分の 1 以上を選任するのが上場会社に
おける 1つの目線になっている。
また、女性役員(女性取締役)の選任も進んでいる。CG コード改訂に伴い原則 4-115で女
性取締役等の確保が求められたことに加え、本年より大手議決権行使助言会社のグラスル
イスが TOPIX100 の企業に対し女性役員(取締役・監査役・指名委員会等設置会社における
執行役)の確保を求めている。また、多くの機関投資家が企業の ESG(環境・社会・ガバナ
ンス)への取組みに関心を高める中において、女性活躍の視点から取締役会におけるダイ
バーシティ確保についても注目している。その結果、主要企業(TOPIX500)においては、
図表 4に示すように女性役員の選任は 73.4%(前年比+11.5%pt)、女性取締役の選任は 64.8%
(同+13.1%pt)と大幅に増加している。
(図表 2)主要な機関投資家・議決権行使基準の議決権行使基準の変更点等
出所:各社公表資料より大和総研作成
5 原則 4-11:取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件「取締役会は、その役割・責務を実効的
に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、 ジェンダーや国際性の面を含む 多様
性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。(以下略)」
5
(図表 3)取締役会における独立社外取締役比率が 3分の 1 以上の企業割合
注:全上場企業は東証 1部・2部、マザーズ市場、JASDAQ 市場の合計
出所:各社のコーポレートガバナンス報告書より大和総研作成
(図表 4)女性役員(女性取締役)の選任状況(TOPIX500)
注1:女性役員の有無は有価証券報告書の開示より
注 2:役員については、一部企業は執行役・執行役員を含む
出所:各社の有価証券報告書より大和総研作成
③ アクティビスト投資家との対話の深化
ここ数年アクティビスト投資家は日本の上場企業に対し活発に投資活動をしている。そ
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うした中で、2019 年 6 月株主総会シーズンの特徴としては、一部の上場企業がアクティビ
スト投資家と対話を強化し、アクティビスト投資家の推薦する社外取締役を受け入れる事
例が散見されるようになってきている点である。それらの要因としては、①アクティビス
ト投資家が大量保有(5%超、場合によっては 20%超)するケースがあり、株主としての存在
を軽視できない点、②一部アクティビスト投資家は長年に亘る対話を通じて、経営陣と信
頼関係を構築できている点、③一般機関投資家の“物言う化”が進み、議決権行使基準が
厳しくなる中で、経営基盤の安定のためにアクティビスト投資家を味方につける必要があ
る点、などが考えられる。
また、アクティビスト投資家の推薦する社外取締役の選任に至らないまでも、アクティ
ビスト投資家からの株主提案等に対し、一定の対応をする事例も見受けられる。アクティ
ビスト投資家が大量保有もしくは株主提案を実施している会社においては、アクティビス
ト投資家や一般機関投資家の目線を意識した対応として、「取締役の任期短縮(2年→1年)」、
「資本コストの開示」、「買収防衛策の廃止・非継続」、「資本政策の見直し(自己株式の取得
や大幅増配等)」、「役員報酬制度の見直し(TSR を意識した報酬制度)」、「独立社外取締役の
増員」等が実施されている。
ある企業ではアクティビスト投資家から「自己株式の消却」を提案された際に、本来で
あれば「自己株式の消却」は会社法で定められた株主総会の目的事項でないため、当該提
案を却下することができたはずだが、当該企業は株主総会の参考書類を含む招集通知に「報
告事項」及び「目的事項」に加えて、「参考事項」として株主提案があった旨及び株主総会
に上程しない理由、自己株式の消却に対する会社側の考え方を記載しており、アクティビ
スト投資家の要望を尊重した対応を行っている。
スチュワードシップ・コードで機関投資家の上場企業に対する業績や株主還元、コーポ
レートガバナンス等に対する目線が厳しくなっており、加えて CG コードで上場企業に求め
られるコーポレートガバナンスの水準が高くなる中で、上場企業のアクティビスト投資家
との関係も、従来の敵対的な関係と言うよりも、共に企業価値及び株主価値向上を目指す
パートナーとしての変化に変わりつつあると言える。
④ 機関投資家等の支持を集める株主提案の増加
近年、上場企業における株主提案は図表 5 に示すように増加にある。機関投資家からと
見られる株主提案数も増加しており、2019 年 6 月株主総会シーズンにおいては、65 社・192
議案6の株主提案があった。本株主総会シーズンにおいては、図表 6 で示すように一部の議
案については国内外の機関投資家が賛成したため、賛成率が 50%を超えている議案が見られ
ている。まず金属製品会社の取締役選任議案については、同社の元 CEO が取締役選任議案
に自分を含む 8 名(うち 2 名は会社提案と同一)の株主提案を実施、国内外の機関投資家
の支持を得て株主提案候補者全員が可決している。加えて、医薬品会社では、定款一部変
6 大和総研集計、議案数は親議案単位
7
更においてクローバック条項7の採用を求める株主提案が 52.2%の賛成率を獲得している。
定款変更議案なので可決には 3 分の 2 の賛成率が必要であるが、大株主同士の内紛企業に
おける株主提案を除くと、株主提案で 50%を超える賛成を獲得するのは非常に珍しく、多く
の機関投資家が支持した結果とも言える。また、同じ医薬品会社や非鉄金属会社、電気・
ガス業会社で行われた株主提案議案には役員報酬の個別開示を定めるよう定款変更が求め
られており、賛成率は 43.1%~49.7%と過半数迫る賛成票を集めている。役員報酬のあり方
について機関投資家の関心が高まっており、役員報酬の個別開示について機関投資家の支
持を集めた結果と言える。
(図表 5)株主提案の推移(全上場企業)
出所:各年「株主総会白書」(商事法務)より大和総研作成、2019 年は大和総研集計
7 業績連動報酬においてその支給の前提となる業績が不正会計等によって疑義がある場合は、当該部分の
返還を会社側が支給対象者に求める事の出来る契約条項
(件)
8
(図表 6)主な株主提案(公表賛成率 30%以上の株主提案)(全上場企業)
注 1:★は機関投資家(アクティビスト投資家)からと見られる株主提案
注 2:株主提案は金属製品会社の取締役選任議案 8議案を除き否決
出所:各社の臨時報告書・招集通知・大量保有報告書等より大和総研作成
2. 2019 年 6 月株主総会シーズンの議決権行使結果
主要企業(TOPIX500)の 2019 年 6 月株主総会シーズン8の 500 社の会社提案の議決権行使
結果を集計したのが図表 7 である。議案全体の賛成率は前年比 0.2%pt 低下の 94.6%であっ
た。全体的には高水準であるが、対前年で賛成率が低下した要因としては、機関投資家等
の議決権行使基準が厳格化する中で、取締役選任議案等の賛成率が低下したこと等が背景
として考えられる。賛成率が最も低い議案は金属製品会社の独立社外取締役の取締役選任
議案で、44.4%で否決されている。これは前述した元 CEO による株主提案(取締役選任議案)
により、機関投資家の票が分かれ、会社提案に反対票が集まったことに加え、独立性の観
点から議決権行使助言会社が反対推奨した事が影響したとみられる。
買収防衛策議案については 9 社が継続議案を株主総会に上程(2 社は取締役決議で継続)
しており、平均賛成率は 63.3%(前年比-3.3%pt)であった。機関投資家の目線が厳しくな
る中で多くの企業が非継続・廃止を選択しており、主要企業において買収防衛策の継続を
株主総会に上程する企業は年々減少している。一方で株主報酬に関連する議案は 104 社が
上程しており、前年の 57 社より大幅増となっている。CG コード改訂で任意の指名報酬委員
会の設置が実質義務化されたことに加え、有価証券報告書で役員報酬制度の詳細な開示が
求められるなど、役員報酬のあり方に上場企業の関心が高まる中において、長期インセン
ティブ報酬として、譲渡制限付株式や信託型等の株式報酬を導入する企業が増えている事
8 主要企業 500 社において 2018 年 7 月~2019 年 6 月に開催された株主総会の議案を集計
9
が背景にある。
次に経営トップの取締役選任議案について分析を行ったのが図表 8、図表 9 及び図表 10
である。図表8は過去5年間の主要企業500社における経営トップ選任議案の修正賛成率9の
分布並びに ROE 水準別の平均修正賛成率の時系列推移である。まず、修正賛成率の時系列
推移では、年々修正賛成率が 95%以上の社数が低下傾向にある。また、ROE 水準が 5%未満の
場合は修正賛成率が他の ROE 水準と比較して一気に低くなっている事が読み取れる。これ
らは年々、機関投資家が議決権行使基準を厳格化していることが背景にある。
図表 9 は前年比較で経営トップの取締役選任議案の修正賛成率が 10%pt 以上低下した 27
社の一覧である。賛成率が対前年比で大幅に低下した要因としては、「不祥事企業(7 社、
他要因との重複あり)」、「監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社等において社外取
締役比率が 3 分の 1 未満の企業(同 6 社)」、「低 ROE 企業(ISS の ROE 基準10に抵触)(同 5
社)」等が挙げられる。
加えて、図表 10 は経営トップ選任議案の修正賛成率下位 20 社である。低賛成率の要因
を分析すると、「低 ROE 企業(ISS の ROE 基準に抵触)(11 社)(他要因の重複あり)」、「不
祥事企業(4 社)」であった。国内機関投資家の株主総会に上程される取締役選任議案に対
する見方が年々厳しくなる中で、株主価値を毀損していると見られる企業の経営トップ選
任議案に対しては従来以上に機関投資家等からの厳しい目線が集まっているとみられる。
9 修正賛成率=公表賛成個数÷(公表賛成個数+公表反対個数+公表棄権個数) 10 ISS は 5 年平均 ROE かつ直近 ROE が 5%未満の場合、経営トップの取締役選任議案に反対推奨を行う
10
(図表 7)主要企業の 2019 年 6 月株主総会シーズンの総括
出所:各社の臨時報告書、招集通知等より大和総研作成
(図表 8)経営トップ選任議案の修正賛成率の推移
11
(図表 9)経営トップ修正賛成率の変化率(前年比 10%pt 以上低下した 27 社)
出所:各社の臨時報告書、招集通知等より大和総研作成
(図表 10)経営トップ修正賛成率の下位 20 社
出所:各社の臨時報告書、招集通知等より大和総研作成
12
3. 2020 年以降の株主総会シーズンに向けた示唆
2020 年以降の株主総会シーズンに向けたポイントとしては、「親子上場(上場子会社のガ
バナンス)」、「政策保有株式の更なる縮減」、「低 ROE 企業の機関設計の見直し」、「東京証券
取引所の市場制度の見直し」が論点になると考えられる。
「親子上場(上場子会社のガバナンス)」に関しては、経済産業省が 6 月に公表した「グ
ループ・ガバナンス・システムに関する実務指針11」において上場子会社のガバナンスの在
り方として整理されている。当該実務指針においては、上場子会社においては取締役会に
おける独立社外取締役比率を 3 分の 1 もしくは過半数を確保することを基本とする等が明
記され、上場子会社に対するコーポレートガバナンス強化の要請が従来以上に強まってい
る。特に最近は、上場子会社企業において一般株主の利益と大株主である親会社の利益相
反が問題となる象徴的な事例が相次いでおり、機関投資家等が親子上場の在り方(特に上
場子会社のコーポレートガバナンスの在り方)を従来以上に厳しく見る可能性が高い。加
えて、取引所規則の改正や法制度の改正等12も考えられよう。
「政策保有株式」については、CG コード改訂や開示府令の改正により、縮減方針の明確
化や取締役会において政策保有株式の保有効果の検証、その検証結果の個別開示が求めら
れるなど、従来以上に政策保有株式の保有に対する見方は厳しくなっている。特に ISS が
2019 年 7 月に、「日本企業に於いては政策保有株式を株主資本の一定割合13以上持つ企業の
経営陣の再任に対して反対推奨する」という今後の助言方針について意見募集をしており、
仮に同様の考え方が具体的な議決権助言方針として採用された場合は、多くの日本企業に
おいて政策保有株式の保有量について実質的な上限として意識されることとなる。今まで
以上に、政策保有株式の保有の削減が進むと考えられる。
「低 ROE 企業の機関設計の見直し」については、ISS が上記の政策保有株式に関する助言
方針と同様に「ROE5%基準を指名委員会等設置会社には適用しない」という助言方針につい
て意見募集を行っている。仮に本助言方針が採用された場合は、構造的な低 ROE 業種(例
えば地方銀行セクター等)においては、機関設計の変更も選択肢に入ると考えられる。現
在の日本における指名委員会等設置会社の割合は全上場企業の 2.1%14に過ぎないが、今後、
指名委員会等設置会社を選択する企業も増えると考えられる。
「市場制度の見直し」については、金融庁の「市場構造専門グループ」で議論が進めら
れているところであるが、時価総額やコーポレートガバナンス等の多様な視点で新市場の
区分が行われると見られる。今回の市場制度の見直しを通じて、多くの経営者にとっては
“上場の意味”及び“株価(時価総額)を上げるためにはどうすればよいのか”という事を
11 https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190628003/20190628003.html 12例えば、上場子会社の独立社外取締役には“マジョリティ オブ マイノリティ(少数株主のうち過半数)”
の確保を求める措置や上場子会社の少数株主が親会社に対し責任を追及できる制度の創設等が考えられる 13 一定割合については、株主資本の 5%、10%、20%が ISS による考えとして提示されている 14 2019 年 7 月末時点の東証上場会社 3,639 社の機関設計別の内訳は指名委員会等設置会社 78 社、監査等
委員会設置会社 999 社、監査役会設置会社 2,563 社
13
意識する機会になると考えられる。一部の機関投資家や個人投資家は書簡や株主総会にお
いて“市場制度の見直しへの対応(時価総額基準をクリアするための施策)”を会社側に問
う事例も出ている。既に一部の企業では、東証 1部の上場を実質的に維持し、C市場(いわ
ゆるプレミアム市場)に上場するために、株価向上に向けた社内プロジェクトが発足させ
ている事例もある。日本における多くの上場企業の経営者は、自社の資本コストや株価に
対して関心が低いというのが一般的な見方であるが、「市場制度の見直し」を契機に、自社
の企業価値について真摯に見つめなおす企業が増えると考えられる。
“株主の「物言う化」”と“資本市場との対話の深化”が更に進む中において、株主総会
のあり方も“予定調和的な儀式の場”から、“機関投資家を中心とした一般株主の支持を集
める場”に変わりつつある。政策保有株式の縮減が見込まれる中において、多くの上場企
業において安定株主の減少ならびに機関投資家の影響の高まりが想定され、従来以上に株
主総会が“緊張感ある最高意思決定機関”になると考えられる。株主総会において想定外
の事態を発生させないためにも、日頃から機関投資家の議決権行使基準等の動向や自社に
対する見方(経営戦略・株主還元方針・コーポレートガバナンス等)を整理したうえで、
自社の経営に適宜反映させる必要がある。“株主との対話”が今まで以上に重要になってい
くと考えられる。
-以上-