12VACアダプタが電源,Opアンプ駆動
6H8CPP工
の製作
臆池田 敏弘園
エコな真空管アンプを
0バイアス駆動プッシュプル方式
の真空管OTLアンプにより低消費
電力を実現し,暑い夏でもOTLサ
ウンドを楽しめるようになりまし
た.大音量を鳴らせない夜間におい
てば よりエコな回路仕様で小音量
ながら聴かせてくれる真空管アンプ
が望まれます.i
前述の内容を満たすアンプとして
ば 2005年8月号で発表の「3A5
PPアンプ」や2005年12月号発表
の「6H8CPPアンプ」などが挙げ
られます.いずれも+12Vという
低いB電圧の電源仕様に関わら
ず聴感パワーに優れた真空管アン
プに仕上がり,物理的なパワー値だ
けでは決まらない実使用レベルでの
出力特性の重要性と.真空管アンプ
の聴感パワーの魅力とを認識させて
くれました
といっても,過去に製作した前述
のアンプをそのまま使用するのでは
進歩がありません.そこで 今回は
一般市販のACアダプタを電源と
して動作する真空管アンプを設計/
製作させていただきました.
(1)+12Vで動作
第1図に基本回路を示します.
Opアンプによる非反転増幅と反転
増幅器とを組み合わせ,3横笛PP
回路を直結でドライブします.
134
コ ア シ フ ∴∴ ㍉∴ ∴∴ ∴∴
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_賎髪姿
∴∴∴一 ∴∴∴∴∴∴∴∴
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∴∴∴∴∴一∴.
一 一∴一一 ∴ ∴
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巾
⊥ i∵∴∴
N F B は O p ア ンプ ・ブ ロ ッ クで ク
ローズとし,真空管の動作ポイント
を安定にします.3極管は無帰還動
作となり,3極管と出力トランスと
の出力段の特牲そのものが音色に表
われる仕様となっています.
+12V動作とすることで 一般
家庭での使用だけでなく,カー“バ
ッテリーでも動作可能となりますの
で 真空管式カー“ステレオへの展
開も可能です.
今回のアンプは 先述の6H8C
PPアンプをベースに,電圧利用率
の改善を図り,物理的最大出力の向
上と取扱いの手軽さとを実現しまし
た
㈲ レールtoレールOpアンプ
駆動
前回の6H8C PPアンプの物理
的最大出力は,両ch80負荷で約
40mW+40mWとなっていまし
たクリップは出力段ではなく,電
圧増幅段であるOpアンプ側で発生
しています.したがって,電圧利用
率のよいOpアンプに変更すること
で 物理的最大出力の増大を実現で
きるはずです.
電圧利用率のよいOpアンプとし
て,2006年5月号発表の携帯真空
管アンプで使用したLM2鎌)4など
があります.ただし,ある掴幅以上
になりますと,バイアス電流不足か
ら内部回路下側のトランジスタがオ
ンする瞬間クロスオーバひずみが発
生する現象があり,出力~GND問
に外聞ナ抵抗を追加する処置を必要
としました.詳細は 2(X胎年5月
号に記載していますので こちらを
ご覧ください.
今回は,出力が大きく電源電圧と
GND間(フル・スイング)を振れる
特長を持つレールtoレールOpア
ンプを使用することにしました
レールtoレールOpアンプの内
部回路概要を第1図に示します.
従来のOpアンプと異なる点は 単
一バッファ出力段を使用しないとこ
ろにあります.出力振幅をフル・ス
イングさせるため,出力を積分器の
出力から直接に取り出しています.
これまで バッファは負荷に電力を
供給する一方でOpアンプの高利
得,安定性を維持し,電源ラインの
ラ ジオ技術
いずれかへの短絡に耐えなければな
らず これらの役割を積分器が担う
ことになります.
積分器は専用ユニティ・ゲイン補
償ドライバによっで順方向に(G,
Gを介して)2倍でフィードされ 埋
込型利得段を備えた融合タイプとな
ります.さらに,積分器の出力段は
大きな負荷に給電するために,PP
構成になっています.
㈲ +12V単一電源仕様
前回は電源にPC用ATX電源を
用い,HDDなど向けの4P電源ケ
ーブルからとりました.今回ば よ
り手軽に真空管アンプを楽しめるよ
うに,+12V単一電源仕様としま
した.kh側,Rch側の真空管の
ピークをシリーズ接続とし,ヒ一夕
電圧もB電圧も+12Vとすること
で 単一電源化が可能となります.
これにより,一般市販ACアダ
プタを電源とした真空管アンプが実
現でぎ 手軽に真空管サウンドを楽
しめます.
回路のあらまし
第2図に今回の増幅部の回路図
を示します.
電圧増幅段には,レールtoレー
ルOpアンプ:ナショナル・セミコ
〈第1図〉今回ドライブ段に
用いたナショナル・セミコンダク
タ製のLMC俄泥
の内部回路膳成
ンダクタ製LMC662,CMOSデェ
アルOpアンプを使用しました.現
在,入手しやすく価格もリーズナブ
ルな部品です.1個のOpアンプで
非反転増幅器側と反転増幅器側とを
受け持ちます.
出力管には,前回も使用した双3
極管:6H8C(6SN7)を用いまし
た増幅度高ま中程度の電圧増幅管
です.ブランドにこだわらなけれ
ば こちらも入手しやすく価格もl)
-ズナブルな球です.無帰還で使用
しますので ペア性の確認されたも
のを使用されることをお奨めします.
出力トランスは1次側インピー
ダンスが2kQあたりのCT(センタ
ー・ダッカ付きのものがよいのです
が 市販汎用品にはないようなの
で ここ大阪“日本橋で入手容易な
低コスト,ハイ・パフォーマンスな
小型トランスDEGIT製ETT32
lMC%2 1 州eC 1暫 5X 二 十 十 7
150震∴ 「」∴ 幸一 sgK ●
+lzV・語
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臆臆臆患′〈第2図〉12VACアダプタを電源とした6H8CPPアンプ回路
OCT 2010
(1.2kQ:8Q)を使用しました
橋本製ST-32も使用可能です.
ET-32は周波数スペクトラムが
中低域にある再生音のイメージで
ST-32は中高域にあるイメージが
あります.
LMC662のバイアス電圧を決め
る抵抗値比は.(33+10+3.3kf主
39kQとなっています,前記設定に
より振幅波形はほ一己[下対称にクリ
ップします.
電圧ゲインをもたせたいときは
非反転増幅器のNFB抵抗値39kQ
を大きくします.このときDCオフ
セット安定のため.非反転増幅器の
非反転入力の信号源抵抗もNFB抵
抗と同じ値を使用します.
ここでトータルの電圧ゲイン
Aを考えてみます.
低電圧駆動部のゲインはOpアン
プに接続された帰遭抵抗により決定
されます.非反転増幅器のゲイン
Alば つぎの式で表わされます,
Al=(3.9k+39k)/3.9k=11
反転増幅器のゲインは一・lとな
り.倍となります.3極管出力段の
ゲインA2ば つぎの近似式で表
されます.
A2=(LL・RLl)/(RLl+rp)
=60×0.6k)/(0.6k+7k)
=1.5
〟:6H8Cの〝
RLl:6H8Cの負荷 出力トランス
1次側CTインピーダンス
m:6H8Cの㌦
135
PP出力トランスのゲインA3
は.インピーダンス比より貸出し.
A3=0.08
とすると,トータル・ゲインAぽ
A=AlX2×A2XA3
=2.6倍
と貸出され.電圧ゲイン的には ロ
ス分を考慮し,約6dB(2倍)で動
作しそうです.
つぎに本機の電源部回路を第3
図に示します.+12Vの大もとに
は市販ACアダプタを使用しまし
た仕様は,入力:100V60/50Hz
20VA,出力DC13V/700mAと
いうものです.
ACアダプタから出力される非安
定なDC電圧をそのまま両ch用
6H8Cのヒ一夕電圧に使用しま
す.6H8CのB電圧とOpアンプ
の入力バイアス設定抵抗には
2SD1266によ1るフィルタを介し,
安定な髄を供給しています.非安
定のまま使用しますと.ハム・ノイ
ズが現われるため,トランジスタに
よるフィルタでリップルを除去して
います.
製作と購整
アンプの部品表を第1表に示し
ます.部品点数は非常に少なく,こ
れだけの部品で真空管パワー・アン
ACアダプタ 2…X:lZeeG
プが構成されています.予算的に
も,一般的な真空管アンプに比べて
かなりの低コストに収まっていると
思います.Opアンプはデェアル・
タイプを2個使いとしていますが
よりコストを抑えたいかたは,クァ
ッド・タイプにすると1個使いとな
り,さらにコストが抑えられます.
回路がシンプルであるため,部品
は空中配線に近い形で実装していま
す.電圧増幅部はICソケットに周
辺抵抗やコンデンサを実装した形に
なっています.出力管ブロックは
GT8Pソケット端子を利用してい
ます.
組立・配線が完了したら,回路図
どおりに.確実に酉擬されているか
を十分確認してください.テスター
で各接続個所の導通を確認されると
いいでしょう.調整個所はありませ
んので 酉弼!誤りなど実装不具合が
無げれば 即,音楽を楽しめます.
電気特性
製作したアンプの周波数特性を第
4図に示します.46Hz~78kHz
V+
V-
埠 ・3印側Ⅳ
九
136
+12V(LMC662へ〉
〈第3図〉6H8Cアンプの電源部回路
+1,-3dB以内となっています.
kh,Rch各レスポンス特性はほぼ
同じとなっていました
方形波レスポンスは,42kHz付
近にピークがあるため,lkHzや
10kHzの出力波形をみますど オ
ーバシュートやアンダシュートが見
られます.
雑音ひずみ率特性を第5図に示
します.雑音ひずみ率は,400Hz
HPFをONにしても変化はほとん
どなく,ハムなどのノイズはありま
せん.低離無婦還アンプのため.
雑音ひずみ率は3%強と比較的大き
な値となっています.
両ch8Q負荷で最大出力は約
50mW+50mWとなっていま
す.前回の6H8CPPに比べ 出力
が約25%上がっています.レール
toレールOpアンプ採用の効果が現
われています.
0バイアス駆動PP方式の真空管
OTLと違い,無帰還出力トランス
方式の真空管アンプは各物理特性に
個性が見られます.再生される音が
楽しみです.
品 名 品 番 員 数 備 考 メーカー/販 売
lc 20 P ソ ケ ット 1 o P アンプ用 八〇一ツランド
O P ア ン プ L M C 6 6 2 2 デ ィ男 ○ N S /共 立 電 子
双 3 極 管 6 H 8 0 2 8 S N 7 代 用 可 能 S O V T E Iく
G T 8 P ソ ケ ッ ト 2 eH 8 〇日 東 京 嘉 空 曹
N P N T r 2 S D 1 2 6 6 0 1 フルモール ド P a na e e n ic
抵 抗 1.2k l /4 W 1 ロー ム
抵 抗 3.3k l/4 W 1 ロー ム
抵 抗 3 .9 k l/4W 2 ロー ム
抵 抗 10 k l/4W 9 ロー ーム
抵 抗 3 3k l /4W 1 ロ ー ム
抵 抗 3 9k l /4 W 5 ロ ー ム
電 解 コンテ‘ンサ 16V l O u 3 O S コンデ ンサ 三 洋
電 解 コンデ ンサ lOV 4 7 u 2 o s コンデ ンサ N F B 用 三 洋
置 餌 コンデ ンサ 16 V l m 1 O S コンデ ンサ 三 洋
出 力 トラ ン ス E T -3 2 2 1.2 W e ・P P (S T -32 ) デ ジ ッ ト
タンル ]ンナ ンサ 3 5 V 3 .3u 3 O P アンプ重 源 用 パ ーツランド
ケ ー ス T 0 -3 5 4 A 1 9 5*140 *6 0m m ティシン/デ ジット
ステレオミニ嬉 子 1 入 力 用 Il●-ブランド
ス ピ ー カ 増 子 1 デ ジ ッ ト
圧 篇 鋤 子 2 +12V /G N D 用 Iト リラント”
A c アダプ タ D c 13 V O .7A 1 D c 1 2 - 13 V O.7 - O a A デ ジ ッ ト
〈第1表〉本機の主要部品一覧表
ラ ジオ技術
命で)Kヽお髭ヾ
灘輔馳
(*)甘心小台撒絶
力
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dB:0.4
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I
2∴∴∴∴4∴6181の∴∴∴2
周波数(Hz)
iPodで試聴
このエコ真空管アンプの試聴を,
AppleiPodを使って行いました
スピーカは 例によってアルテック
CD408-8A(20cm同軸 SONYSS-
7(朋)箱入り,バスレフ).アルテック
CF204-8A(10cm.TEACS-70箱入
り.後面バスレフ)です.
50mWの微小出力のアンプです
が 音楽を再生しますと,3極管
PP特有の力強い聴感パワーが感じ
られます.雑音ひずみ率が3%強と
比較的大きな値ですが 再生される
音にひずみは感じられません.むし
ろ心地よく感じさせるハーモニタス
系ひずみのためか,再生音を豊かに
させてくれているようです.最大出
力50mW+50mWのアンプから
再生されているとはまったく想像つ
きません
これなら,一般家庭での通常のレ
ベルではパワー不足は感じられない
でしょう.ゼネラル・オーディオ向
けの出力トランスを使用しているに
OCT 2010
- 8∴∴elk∴∴8周波数(Hz)
〈第5図〉本機のひずみ率
特性 最大出力ははば50mW
も関わらず低域もそこそこ出てい
ます.
電源に市販ACアダプタを使用
しましたが 無信号再生時,ハムな
どのノイズは聴こえず 低雑音アン
プに仕上がっています.
高能率⑤8dB:lW・1m)のCD408
-8Aスピーカから再生される音は
すぼらしいです.さすがに同じ0バ
イアス駆動PP方式といっても.
OTLに比べますと.音楽信号の正
確な再生能力では劣っていますか
ただ音を鳴らすのではなく,しっか
り音楽を奏でてくれています.打楽
器,弦楽器,鍵盤楽器,木管楽器,
いずれの楽器も明確に奏でられてい
ま、す.ボーカルについても生々し
く.低域一高域まで広帯域に奏でら
れています.
CD408に比べますと少し物足り
ないイメージとなりますが
CF204-8A①5dB:lW・1m)でも,
10cmとは思えない再生音です.ど
の楽器も音戸も明確に,一般市販ミ
ニコンポよりしっかり音楽が奏でら
4∴8 81線∴∴2∴∴●∴8 8100k
れています.手の平サイズの外観と
再生される聴感パワーある音楽との
ミスマッチから,目と耳とを疑って
しまいます.
前回より少しパワーアップしたこ
ともあり,これならパーソナル・ユ
ース真空管アンプとして手軽に取り
扱えます.
関西の自作愛好家や音楽愛好家の
かた,関西”手作りアンプの会.関
係の方にも聴いていただきました
が ちょっとした視聴覚室や例会場
所などでアルテックCF404-8Aや
JBLコンパクト・モニタなどでも
行いました
聴いていただいたかたからは,
「聴感パワーがありますね」,「ほん
とうに最大出力50mW+50mW
のアンプなんですか」「何で+12V
程度の小さな電圧からこんな聴感パ
ワーが出るんや」など 私と同様な
ご意見 ご感想をいただきました.
+12V動作6H8C・PPアンプ
は さらに.GT管の外観とヒ一夕
点灯がわかる視覚的要素も持つ製作
容易な無調整・真空管ミニアンプで
す.この暑い夏,手軽に扱えること
もあり,休日は音楽再生にフル稼働
状態となっています.
●ホームページ;httpj/www.geocides.
jp/seychelle_7/
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