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東北学院大学 ヨーロッパ文化研究所公開講演会
アメリカ社会の｢多元性｣一政治･宗教･思想
2008年 12月 13日
南北戦争前期の選挙権拡大闘争-｢ドア-の反乱｣再考一
小原 豊志 (東北大学)
本講演の概要 :19世紀前半のアメリカ合衆国では選挙権の拡大傾向が顕著に見られ､多くの州で白人男子
普通選挙制が実現した｡しかし､その陰で見落とされがちなのは､白人選挙権の拡大と同時に多くの州で
黒人選挙権の拒絶 (剥奪)がなされた事実である｡アメリカ民主主義の飛躍的発展段階とされるこの時期
になぜこのような現象がみられたのであろうか｡本講演では､この間題を考えるために1842年のロードア
イランド州で勃発した ｢ドア-の反乱｣(Do汀'sReもellion)~を取り上げる｡当該期最大の選挙権拡大闘争
として知られるこの ｢反乱｣は･独立革命思想である人民主権論を盾に民衆の選挙権獲得を実現せんと.し
た急進的かつ民主的な運動としてこれまで肯定的な評価を与えられてきた｡しかし､ドア一派が主張した
のはあくまでも白人男子普通選挙制の実現であって､黒人の選挙権は否定されていた｡そこにはいかなる
論理があったのであろうか｡以下では､｢ドア-の反乱｣を ｢人種｣の観点から再検討をおこなうことによ
り､多元的社会を構築しつつあった当該期合衆国の民主主義の実相を明らかにしてみたい｡
J はじめに一南北戦争前期のアメリカにおける選挙権問題の特質-
① エリック ･フオナーのアメリカ的自由論
｢もし､アメリカ的信条には普遍性があるということが､アメリカ史の変わらぬ特徴であ
るとすれば､社会的存在のある軸にそって自由に境界を設けようとする努力もまたそうであ
った｡自由の享受に境界を定める線のなかで､人種 ･ジェンダー ･階級に基づいて引かれた
線はど執掬なものはなかった｡･-非白人 ･女性 ･労働者は､ある人間の自由はしばしば他の
人間の従属に結び付けられているというパラドックスをじかに経験した｡奴隷主の自由は奴
隷制という現実の上に成り立ち､誇らしげな男の自立は女の従属的地位の上に成り立ってい
たのである｡｣(『アメリカ 自由の物語』(上)､序文より)
② 南北戦争前期における選挙権問題の一般的傾向
(1)白人男子選挙権の拡大
一財産資格 ･納税資格を不合理化-選挙権の ｢権利｣化
(2)黒人選挙権の剥奪 (拒絶)
東部では選挙権の拡大と同時に人種資格を導入
西部では当初から白人のみを対象にした男子普通選挙制を採用
-選挙権の ｢特権｣観維持
-選挙権における階級性の解消と人種性の構築
- ｢白人優越主義｣という非歴史的概念で説明できるか?
③ ｢ドア-の反乱｣について
1842年のロー ドアイランド州で勃発した選挙権拡大闘争｡T.Wドア-を指導者とす
る勢力が独自の州憲法 (｢人民憲法｣People'sConstitution)を制定し､選挙権の拡大 t
をはかる｡さらに､この勢力は新政府の樹立を図るが､既存の州政府によって弾圧さ
れた｡
tlrド7-の反乱｣一背景 ･経緯 ･結未-① 背景
(1)ロー ドアイランド州の統治体制
独立後も英国王チャールズ二世の特許状 (1663)に依拠
GeneralAssemblyに権限集中 (立法 ･行政 ･司法の三権を掌握)
州南部 ･西部の土地所有 (農業)･利害が実権掌握-土地所有資格と州議会議席配分
(2)19世紀初頭以降の工業化
州北部において工業 (繊維工業)の勃興-中産階級の勃興 ･賃金労働者人口の増大
-選挙資格緩和と州議会議席配分見直しの声が高まる
(3)1820･30年代の制憲運動の挫折
二度にわたり州憲法制定会議招集⊥土地所有利害が州憲法の制定を阻止
(4)トマス ･W･ドア-の登場プロヴィデンスの富裕な貿易商の家に生まれる (1805)oハ-ヴァ- ド大学卒業後､
州法曹界入り｡州下院議員 (1834-37)｡奴隷制反対運動にも従事｡
② 経緯
(1)人民憲法の制定
｢ロー ドアイランド選挙権協会｣設立(1840)-41年､独自に州憲法会議を招集- ｢人
民憲法｣の制定
*｢人民憲法｣の内容選挙資格の緩和 伯 人男子普通選挙制)･州下院議席配分の是正 ･三権分立制の確
立 ･秘密投票制の採用 ･権利章典および憲法修正手続きの明文化
-41年 12月､州民投票で ｢承認｣- ドア一派は42年5月に政権交代を要求
(2)保守派の反撃
1)憲法嚢の夷定
｢法と秩序党｣結成- ｢人民憲法｣の非正統性主張-対抗的に州憲法案策定
*選挙権規定 :白人のnative市民と帰化市民間で異なる選挙資格設定
-42年~3月､~同憲法案は州民投票で否決
.2)ドア一派弾圧法の制定
｢人民憲法｣下で官職に就くことを禁止､違反者には厳罰
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(3)ドア一派の決起と敗走
42年 4月､ ドア一派と保守派がそれぞれ州選挙を実施-二重政府状態に
5月､保守派政府は州議事堂を閉鎖- ドア一派､州武器庫を襲撃するも失敗- ドア
-は州外に逃亡-保守派は戒厳令発令- ドア一派の徹底的弾圧+ドア一に反逆罪宣
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③ 結末
(1) 州憲法の制定
42年 11月､ ドア一派の弾圧後､保守派は再度州憲法案を策定
内容 :選挙資格の一部緩和 ･州下院議席配分の一部是正
*選挙権規定 :native市民と帰化市民間で異なる選挙資格設定
-同月､同憲法案承認
(2)ドア-の処遇
1843年 10月､ ドア-逮捕-44年 7月 終身刑宣告
(45年 6月､ ドア-恩赦-51年､ ドア-の政治的 ･市民的権利回復-54年､ ドア
-の有罪宣告取消)
lH r人種｣の観点からみた ｢ド7-の反乱J① ｢ドア-の反乱｣時の選挙権改革
ドア一派 :選挙権における階級性 ･エスニシティ性の解消+人種性の構築
保守派 :選挙権における階級性 ･人種性の解消+_=スニシティ性の構築
② ローデイガ-の労働者階級による ｢白人性｣構築論
南北戦争前期における賃金労働の普及-白人労働者に経済的自立性の喪失の懸念
解決方法 :より ｢依存的｣な他者との徹底的な差別化によって自らの自立性を主張
-極めて少数にすぎない北部自由黒人に対する法的 ･社会的 ･経済的差別
(ex.労働の場における人種混清の徹底的拒絶､アイリッシュの反黒人的態皮)
③ ｢ドア-の反乱｣と選挙権における ｢白人性｣構築
労働者階級 :選挙権の獲得は悲願+依存的存在には与えてはならない権利
選挙権改革において選挙権に ｢白人性｣を構築する必要-選挙権にお
ける人種混清は徹底的に拒否
Ⅳ おわ りに
｢ドア-の反乱｣:支配民族共和主義としてのアメリカ民主主義の具体例
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