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第1章 Web 上での討議による散文理解に寄与する諸変数 第1節 類推の研究における符号化と抽象化の意義 序: 本報告は,web 上での協同学習形式を用いた散文理解における集団内対人態度と 類推の促進を企図した実験の報告である。最初に筆者がこれまでに試みた散文理解に関す る一連の文献展望における本報告の位置付けを述べ,散文理解における類推の寄与に関す る研究の視点とその特徴とを指摘する。次に web 上での協同学習形式を用いて,大学生 が散文理解を目的とした小集団討議を行う際に展開される集団思考と類推の様相を述べ, 教授活動が集団内対人態度の改善と類推の促進を生じる可能性を指摘する。 本章の第1節では,散文理解における類推の機能として,閲読文の表象の符号化,表象 相互間の関連性の推論と抽象的な構造性の検索のそれぞれを扱った実験報告に関する文献 の展望を試みる。これらの展望においては,内容理解の方向性と閲読表象の符号化との関 連を指摘することが第1節の課題となる。 本章の第2節では,これらの推論の方向付けと確認を促進する方法として web 上の小 集団討議の効率化についての展望を試みる。第2節では,散文理解を意図した教示と協同 学習集団における対人態度とが集団討議の効率を変化させる機能に注目する。これらの展 望を通じて小集団討議による課題解決への抑制効果を指摘し,次の第2章での実験を通じ てその対応を考える。第2章では,散文の閲読の際の教示を変化させた結果として,閲読 後に web 上で内容討議を行わせた際には類推の活性化と集団内対人態度の変容とが生じ る過程に注目し,協同学習の巧緻化を企図した一連の実験的検討を試みる。以上の指摘を 通じて,散文の閲読と協同想起における類推の寄与の様相を指摘することが本報告の基本 的な課題となる。 1 1 1.本報告は, 筆者による散文理解に関する文献展望(光田,1982:1983:1984: 1985:1988:1989:1990:1991:1992:1993:1994:1995:1996a:1996b:1997:1998: 1999:2000:2001:2003:2004)と同様,散文理解における巧緻化された情報処理に関す る文献展望の一部である。 上記の各報告で考察を試みたトピックの概略は下記の通りである。 最初に散文の構造 65 大阪経大論集・第55巻第6号・2005年3月 Web 上での協同学習形式による 散文理解における類推の寄与 キーワード:散文理解,方向付け,類推,協同学習,集団内対人態度

Web 上での協同学習形式による 散文理解における …...第1章 Web 上での討議による散文理解に寄与する諸変数 第1節 類推の研究における符号化と抽象化の意義

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Page 1: Web 上での協同学習形式による 散文理解における …...第1章 Web 上での討議による散文理解に寄与する諸変数 第1節 類推の研究における符号化と抽象化の意義

第1章 Web上での討議による散文理解に寄与する諸変数

第1節 類推の研究における符号化と抽象化の意義

序: 本報告は,web上での協同学習形式を用いた散文理解における集団内対人態度と

類推の促進を企図した実験の報告である。最初に筆者がこれまでに試みた散文理解に関す

る一連の文献展望における本報告の位置付けを述べ,散文理解における類推の寄与に関す

る研究の視点とその特徴とを指摘する。次に web上での協同学習形式を用いて,大学生

が散文理解を目的とした小集団討議を行う際に展開される集団思考と類推の様相を述べ,

教授活動が集団内対人態度の改善と類推の促進を生じる可能性を指摘する。

本章の第1節では,散文理解における類推の機能として,閲読文の表象の符号化,表象

相互間の関連性の推論と抽象的な構造性の検索のそれぞれを扱った実験報告に関する文献

の展望を試みる。これらの展望においては,内容理解の方向性と閲読表象の符号化との関

連を指摘することが第1節の課題となる。

本章の第2節では,これらの推論の方向付けと確認を促進する方法としてweb上の小

集団討議の効率化についての展望を試みる。第2節では,散文理解を意図した教示と協同

学習集団における対人態度とが集団討議の効率を変化させる機能に注目する。これらの展

望を通じて小集団討議による課題解決への抑制効果を指摘し,次の第2章での実験を通じ

てその対応を考える。第2章では,散文の閲読の際の教示を変化させた結果として,閲読

後に web上で内容討議を行わせた際には類推の活性化と集団内対人態度の変容とが生じ

る過程に注目し,協同学習の巧緻化を企図した一連の実験的検討を試みる。以上の指摘を

通じて,散文の閲読と協同想起における類推の寄与の様相を指摘することが本報告の基本

的な課題となる。

1�1�1.本報告は,筆者による散文理解に関する文献展望(光田,1982:1983:1984:

1985:1988:1989:1990:1991:1992:1993:1994:1995:1996a:1996b:1997:1998:

1999:2000:2001:2003:2004)と同様,散文理解における巧緻化された情報処理に関す

る文献展望の一部である。

上記の各報告で考察を試みたトピックの概略は下記の通りである。�最初に散文の構造

65大阪経大論集・第55巻第6号・2005年3月

光 田 基 郎

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与

キーワード:散文理解,方向付け,類推,協同学習,集団内対人態度

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性の理解とその発達過程の展望として,散文の理解と記銘における情報処理の方向付け

(光田,1982),散文の構造性の理解に関する発達的変化(光田,1983),情報処理スキー

マ,または既得の知識構造が情報の統合と理解とを促進する過程(光田,1983:1984),

散文のマクロ構造を利用した効率的な処理によって記銘努力または処理資源の節減を生じ

る可能性と,さらにそこで捻出された処理資源がメタ認知的処理に充当される過程(光田,

1985),散文の閲読者が自らの処理過程をモニターして,記銘学習での情報処理を自己評

価し得る程度と,そこで実際に示された閲読文の再認成績との関係(光田,1988)のそれ

ぞれを述べたほか,�算数文章題の達成とそこで示された知識利用の発達の様相に関して

は,上記のモニター活動の効率化に関する諸変数の効果(光田,1989)と,算数文章題の

達成過程において空間表象から得られた促進効果(光田,1990:1991:1992)のそれぞれ

を指摘した。�次にこれらの過程での類推の寄与の様相を明らかにする目的で,散文理解

における類推と知識利用の促進を意図した教授活動の効果(光田,1993:1994),対称概

念の理解における類推と空間操作能力の効果に関する年齢差(光田,1995),一般的な類

推の能力と教授・学習活動が比例関係の理解に及ぼす効果(光田,1996a),分数概念の理

解と算数文章題の達成とを意図した教授活動によって,上記の類推能力と記憶容量とを効

率的に運用する過程(光田,1996b),教授活動が欠けた結果として閲読内容の意味的な

一貫性(coherence)の理解が不十分な場合,これを補償する類推の効果が顕著に示され

る可能性の強調(光田,1997),閲読内容とは無関係の類推テスト成績と上記の一貫性の

理解との関連性(光田,1998),散文理解における類推の過剰な適用の傾向とその自己抑

制(光田,1999),閲読内容と無関係の写像とその範囲の適正化の機能と散文理解との関

連付け(光田,2000),散文理解と代数文章題の達成過程における写像機能の示され方,

比喩と類推とを用いた散文理解並びに文章題の達成における上記の類推機能の適正化(光

田,2002)及び,電算画面上で散文の閲読と理解を求めた後に web上でリアルタイムの

内容討議を行わせた場合,討論の過程で不完全な初期理解が伝達された結果から生じた理

解への抑制効果(光田,2004)のそれぞれを述べた。

以上の類推の過程では,最初に閲読文の表象と関連した既得の知識が検索され,これら

の知識を用いた閲読内容の符号化と写像機能の活性化が試みられる。本報告は,この点に

注目した実験的な検討の試みである。本報告では,散文理解に先立って与えられた教授活

動と閲読後の内容討議とが閲読内容の協同想起の方向付けと確認(EdwardsとMiddleton,

1986)とを促進する過程に注目し,そこで閲読内容に関する類推の成立とその適正化と

が促進される可能性を想定する。具体的には,上記の教授活動によって討議集団内の対人

態度(例えば Balesと Cohen, 1978;奥田と伊藤,1991)と閲読内容の討議の方向付けと

が促進され,内容理解に必要な情報を協同で想起する過程も巧緻化される程度を実験的に

検討する。以上の手続きで,閲読内容の小集団討議における類推の寄与を向上させ得る教

授法の開発の指針を模索することが本報告の基本的な課題となる。

1�1�2.本節は,上記の類推による散文理解への促進の基礎的な過程として,基礎領域

の符号化とその巧緻化とを強調した文献の展望であって,次節で述べる推論の制御に関す

大阪経大論集 第55巻第6号66

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る問題の提起が基本的な目的となる。類推の最初の段階として,閲読文の表象と何らかの

抽象的な関連性を示し得る事例またはエピソード記憶の検索・活性化と,検索の結果を閲

読文の理解に適用する可能性の予測とが挙げられよう。本項では,上記の類推を「課題の

解決を意図した情報処理機能」と考える視点から類推における入力の符号化と,新たな入

力に関連した既得知識の検索と記憶の活性化の様相に注目した先行研究の展望を試みる。

類推を意図した知識検索またはエピソード記憶の想起を扱う研究の方向性に関して Ha-

mmond, Seifertと Gray, (1991)は,これまでの心理学的な記憶研究の多くが経験からの

帰納という視点での記憶の検索過程の記述を重視して来た伝統への批判を展開し,今後は

人工知能における記憶の研究の場合と同様に,課題解決の効率という視点から類推の対象

となる課題の構造性を理解して,その解決に必要な情報検索の機能を分析すべきとの提言

を試みた。この提言の要旨は下記の5点が挙げられよう。�最初に類推とその転移の条件

として,当面の課題解決に必要な判断に役立つ過去の事例を検索する機能を重視した一方

で,課題事態一般に適用可能な理想的な事例,経験または知識の構造を検索する試みを否

定した(p. 129)後に,�散文理解における類推を扱った過去の実験(例えば Seifert,

Abelsonと McKoon, 1986)を引用した提言において,散文理解と状況の想像などの個別

の課題場面での情報処理の目的に従って,個々の課題状況で検索されるべき過去経験やエ

ピソード記憶の表象が決定される過程を強調したほか,そこでは上記の情報処理の目的に

従って課題場面の符号化の様相も決定される傾向を指摘した。�散文理解における類推の

過程では,自発的な知識検索を期待するよりも教授活動を用いて基礎―目的領域間の比較

を促進する必要性をも強調したほか,�閲読内容の類推とその成果を新たな閲読表象に転

移させる過程では,閲読文の表象の間に類似性または抽象的な関連性を検索して,意味的

に一貫した表象の体系を構築して転移させる試みが不可欠と考えた。この際には,上記の

閲読文の表象を効率的に想起するのみでなく,これらの表象相互間の類似性や抽象的な構

造性についての大規模で巧緻化された推論の必要性を指摘した。最後に�この様な類推観

の基調として,閲読文の表象の符号化は複雑で巧緻化された処理であるべきと主張した。

Hammondなどによる上記の類推観では,閲読文の表象相互間の比較,これらの関係性

の推論と表象の符号化のそれぞれが巧緻化された場合に,これらの表象がより抽象化され

た構造として検索される可能性が強調された。この点は,閲読文の表象からの類推とその

転移を扱った先行研究が閲読内容の符号化の効果を指摘した傾向と軌を一にした展開と言

えよう。例えば Seifertなど(1986)が,閲読表象の抽象化と検索を促進する要因として,

最初の閲読文の符号化と要約に費やす時間を挙げたほか,Gickと Holyoak(1983)も,複

数の事例を用いた閲読文の符号化によって類推とその転移とが促進される傾向を強調した

が,上記の Hammondなどの指摘はこれらの先行研究の展開と言えよう。特に,閲読文の

記憶表象またはエピソード記憶の検索手がかりの決定要因をこれらの記憶表象の機能と文

脈的な方向付けに求めたほか,その機能を電算プログラムに類似した規則の系列として表

現した点に Hammondなどの独自性が認められよう。

Caplanと Schooler(1999)は,最初に代数学や地理学などの特定の課題や領域内に限

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 67

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定された符号化,情報検索などの処理とこれらの多様な領域相互間でのより抽象化された

符号化と情報検索との対比を試みた。これらの抽象化された処理の条件下では学習の転移

効果が得られる傾向が強調されている。例えば Cummins(1992)は,代数の問題相互間

の比較を通じてそれらに共通の構造性を検索する際には,多様な問題毎に各々の構造性を

分析する方略の場合以上に高い課題達成成績を得た結果から,上記の課題領域の境界を越

えて抽象化を求めた処理の場合には課題解決の転移効果を得やすいとの結論を導いた。

さらに Caplanと Schooler(1999)は,領域間で行われる処理の下位技能として下記の

エピソード依存処理と抽象化に依存した処理の区別をも提言している。具体的には,類推

を用いた学習の転移の類型の区別として,新たな(目標)領域を認知して反応する過程で

これらの領域に類似した特定の学習経験の表象または具体的なエピソードを検索して,新

たな課題に写像する操作をエピソード依存処理と定義し,これらと抽象化に依存した処理

との対比を試みた。これらの抽象化の機能は,新たな(目標)領域とこれに類似した既知

の領域の双方に共通の潜在的な特性,または抽象的な規則性や構造性の検索過程で示され

る。その例としては,行動の図式を用いた推論とその転移による課題解決(Catrambone

と Holyoak, 1989)のみでなく,Rosch(1973)による顔の分類カテゴリーも挙げられた。

散文の表象に関しても,特定の閲読文の表象が命題の水準毎に符号化されたテキストベー

ス(Kintsch, 1986)に対しては上記のエピソード依存の処理が行われるが,これらの単独

または複数の散文の表象の各々が文全体の筋立てに従って符号化される場合,いわば個々

の命題が一般化・図式化されて閲読文全体の表象に統合された結果から状況モデルが生成

された際には,上記の抽象化に依存した処理が展開されると考えられた。

以上の指摘を通じて Caplanと Schoolerは,上記のエピソード依存処理を促進する表象

は情報検索を促進する一方,上記の抽象化に依存した処理を促進する学習の経験は推論,

類推とその転移または課題達成を促進するとの提言を試みた。特に類推による学習の促進

を規定する要因として,類推の基礎領域に対する複雑で抽象化された符号化の必要性を強

調した点が Caplanと Schoolerの類推研究の基調と言えよう。以下では,上記の抽象化に

よる符号化機能の巧緻化についての展望を試み,類推の基礎領域と符号化による推論の関

連を指摘する。次項以下では,類推の符号化の複雑さと推論との関係の指摘が直接の課題

となる。

1�1�3.本項の目的は,閲読文の表象に対して上記の抽象的な処理を経た複雑な符号化

が行われる過程と,そこで展開される抽象化の展望である。Caplanと Schooler(1990)

は,上記の抽象化に依存した領域間での処理で示された符号化の様相とエピソードに依存

した処理の場合とを比較する目的で,電算ソフトの用法を学習する際に既知の電算ソフト

の用法を抽象化したモデルを用いて理解させた後,これらと新たなソフトとを対比させる

方法と上記のモデルを与えずに学習させる条件との対応を試みた。彼らはこの際に上記の

符号化の複雑さの要因をも交絡させ,用法の逐語的な想起を求めた質問の場合とこれらの

用法について多くの概念を用いて複雑な符号化を求めた質問条件とを対比した。この実験

では,上記の複雑な符号化条件下で上記のモデルでの理解を求めた学習条件と,簡単な符

大阪経大論集 第55巻第6号68

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号化の条件下でモデルを用いない理解が求められた条件の双方で成績の向上を示し得た。

以上の結果から Caplanと Schooler(1990)は,単純な符号化から得られた不完全な表象

を用いた類推,特にその写像過程で行動の図式化と抽象化とを試みた際,類推の対象とな

る多くの情報の構造化に必要な制約(Holyoak, 1984)は検索し得ず,その写像の試みで

は構造性の表象を損なうとの危惧すら指摘する一方,類推の基礎領域に対して複雑な符号

化が試みられ,複数の領域の表象に対する一般化と抽象化が行われた場合には,類推によ

って多くの転移効果を期待できる考えた。

その後の散文理解の実験(Caplanと Schooler, 1999)でも,彼らは短い表題の提示と複

雑な符号化を求めた質問の組み合わせ及び,表題のない文の閲読と簡単な符号化を求めた

条件のいずれにおいても閲読内容の記憶の成績向上を指摘したほか,閲読内容の推論の成

績に関しても,基礎領域の文2点を閲読した後に複雑な符号化を求めた質問を提示した条

件,または1点の散文の閲読後にその内容についての逐語的な質問を与えた簡単な符号化

の条件下で高い成績を示し得た。以上の結果について Caplanと Schoolerは,�推論の基

調は散文の状況モデルに求められる可能性,いわば,個々の文の逐語的な表象であるテキ

ストベースよりも,複数の文または知識領域の比較とこれらが抽象化された結果から得ら

れた図式的な表象や抽象的な構造性に従った類推とその下位技能である推論を強調する一

方,基礎領域の単純な符号化からは不完全な状況モデルしか得られないゆえにその推論も

不十分である(p. 56)との考察を試みた。�閲読表象の記憶についても,Caplanなどは

表題の提示によって基礎領域となる散文の表象の検索が促進される過程を強調している。

以上の結論として Caplanなどは,基礎領域の符号化がどの程度まで複雑で巧緻化された

形をとるかによって類推と学習の転移の程度が規定されるほか,これらの複雑で巧緻化さ

れた符号化は一定の領域内の表象相互間の関連付けを促進する傾向を強調した。次にこれ

らの各領域内の表象に対して複雑で巧緻化された符号化が行われた際には,領域を異にす

る表象相互間に抽象的な関連性または一貫した構造性が推論される傾向を指摘した。

上記の Caplanなどの指摘は,Mayer(1984)による課題の表象相互間での符号化の差

異についての実験結果との対応付けが可能と考えられよう。Mayerは類推とその転移効果

をも視野に入れて,領域を異にする表象相互間に共通の構造性の検索と,領域間での表象

の結合とを複雑な情報処理と課題解決の基本と考える一方,同一領域内の表象相互間の関

連付けが個々の表象そのものの活性化と単純な課題の達成を促進するとの指摘を試みたほ

か,Mayerと Hegarty(1996)は数学文章題の達成過程に関して,個々の課題のキーワー

ドと個々の課題で扱う数値に注目した直接変換方略と,文章題に示された対象相互間の関

係性を数直線上での位置関係として理解する課題モデル方略とを対比した結果から,後者

による課題達成への促進を指摘した。以上の結果から,上記の Caplanなどによる複雑で

巧緻化された符号化の場合と同様に,巧緻化された符号化とその成果の帰納的な推理が散

文理解と課題達成を促進する効果が示唆されよう。

Gentner, Loewnsteinと Thompson(2003)は,2つの事例を比較させた場合には両者に

共通の抽象的な構造性が検索される傾向に注目して,これを類推的符号化と名付けた。こ

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 69

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れらの符号化と類推を用いた学習との差異点として Gentnerなどは,後者が既知の基礎領

域との類推によって新たな目標領域に関する知識を獲得する過程であって,これらの類推

を適用する際に上記の基礎領域または事例が正しく理解されて転移されると考えた。その

反面,類推による符号化の際に2領域の比較とそこに共通する構造性が検索される過程に

関して Gentnerなどは,上記の知識の転移よりも新たな概念の明確化の機能を期待した。

一例として,職場と監獄との比較からはこの両者に共通する統制,集団行動と特定の目的

の施設という行動の図式または抽象的な表象が生成されるが,これらは比較される対象の

見かけの類似性や個々の具体的なイメージに規制されない抽象的手がかりであり,閲読文

の学習とその転移の促進機能を示す可能性を強調している。以上の指摘を通じて Gentner

などは,類推的な符号化で個々の事例に共通する意味的または構造的な特性が検索され,

事例全体が抽象化または図式化された形で符号化されたならば,これらの表象の全てが十

分に理解されない状態でも類推的符号化は可能であって,新たな未知の事例の理解を促進

出来るとの指摘を試みた。実験手続きとして,Gentnerなどは大学生を被験者として,2

者間での交渉場面のエピソードとその決着方法としての折半または条件間での相殺による

調整について述べた文を閲読させた。この際に類推による符号化を促進する目的で,閲読

内容とは無関係の事例を用いて上記の相殺や折半などの調整方法を図式的に説明した文と

他の事例とを併用した説明文が提示された。以上の方法で類推による符号化を促進を試み

た条件下で課題文の閲読と理解を求めた結果から,上記の相殺や折半などの調整方法の理

解が促進されたほか,これらの調整方法を述べた文2点を閲読させた後にそれらの比較と

類似点の指摘を求めた条件下での理解の促進と課題解決方法の図式的な獲得をも指摘した。

以上の過程を通じて Gentnerなどは,�学習者が既知の対象と未知の対象とを比較してそ

の共通点を検索する場合には,既知の領域からの類推によって未知の対象の符号化が行わ

れ,既知と未知の対象とが統合された結果として一般的で図式化された表象の体系の学習

への促進が示される傾向と,�基礎領域が十分に学習された知識として定着しない状態の

学習初期でも,これらの類推による符号化は可能であるほか,�これらの符号化の成果と

して定着した図式的な知識構造は,類推を求められた条件下で検索される可能性を強調し

た。

Gentnerなどが指摘した上記の実験は,筆者が昨年の文献展望(光田,2004)で触れた

様に,基礎―目的領域間での徹底した双方向の比較(Kurtz, Miaoと Gentner, 2001)の基

盤をなすと同時に,類推による符号化を知識表象相互間の関連付けの発達と学習という視

点からから強調した最近の発達観(例えば Gentner, 2002)の基調でもある。Gentnerに

よる最近の研究では,これらの知識表象相互間の関連付けと符号化の学習とその成果の定

着の過程に対する言語の寄与が強調された反面,本節で課題とした散文理解における符号

化には注目していない現状を指摘し得る。特に,Gentnerが重視した言語発達と類推との

関係は,類推による散文理解への促進の様相を指摘すべき本節の課題とは直接には関連し

ない項目も多い点をも併せて考えた際には,Gentnerが一連の実験で展開した類推の発達

研究に関しての展望は,本節の末尾の項で集中的に展望を試みるべき課題と考えられよう。

大阪経大論集 第55巻第6号70

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次項では,類推による散文理解への直接的な促進に注目して,閲読文の状況モデルの構築

における推論について展望を試みることが当面の課題となる。

1�1�4.本項では,散文の状況モデルの構築機能として最初に,上記の符号化と不可分

の関係にある推論の機能に関する展望を試み,次にこれらの符号化と推論の複雑さとを規

定する要因として既得の図式化された知識とその写像についての問題を指摘する。類推の

下位技能となる推論とその展開の様相として Gentnerと Markman(1997)は,上記の符

号化,適切な基礎領域の検索及び写像を挙げて,既知の基礎領域の課題と未知の目標領域

との間に共通の構造性が認められた場合には,上記の写像の段階では課題解決に関する知

識が既知の領域から未知の目標領域に転移させられる傾向を指摘した。この際には,既知

領域と未知の目標領域とが比較され,次に目標領域について未知の情報が推理された結果

として,目標領域の表象の変容が想定されている(例えば,Blanchetteと Dumbar, 2002)。

散文理解の際に上記の推論の機能が示された例として,大学生に植物の生存機構とその因

果関係を述べた文を理解させる過程を目標課題,その直前に閲読させた関連文を基礎領域

として類推の活性化とその転移を行わせ,因果関係を説明した閲読文の状況モデルの構築

とその際の推論の展開過程の指摘(Clementと Yanowitz, 2003)が挙げられる。Clement

と Yanowitzは,先行研究(Brownと Clement, 1989)と同様に,類推によって目標領域に

概念的な変容を生じさせる目的で,上記の目標領域に内在する因果関係を図式的に説明し

たモデルを作成して基礎領域とした。さらに,文を目標領域とした写像関係を成立させる

試みとして,理解を求められた課題文に先行して提示された基礎領域の文と課題文とを結

び付けて理解させるための教示も与えられた。Clementと Yanowitzの実験結果として,

上記の基礎領域は�因果関係の明確なモデルを提示し得たほか,�目標領域の文で述べら

れた因果関係の表象の理解を促進し,�特に文の理解が困難な条件下でこの促進効果を得

るほか,�因果関係が目標領域の閲読文に述べられない場合には推論を促進したという

4点が強調された。推論によるこれらの促進効果は,これまでに Yamauchiと Markman

(2000)が示唆する様に,類推によって基礎―目標領域間の一貫性・整合性が検索され

た場合には,これらの2領域間で対応付けられる構造性のみでなく,これらの構造の事例

であって基礎領域の事例ではない表象の検索も促進される傾向とも対応させ得よう。既得

の知識の図式と目標領域の閲読文の表象との対応付けと上記の複雑な符号化とを直接の課

題にしない例としては,Mannesと St. George(1996)は,既得の知識構造とは一致しな

い視点で文を閲読した場合,これらの閲読文の表象を再構築すべく巧緻化された処理と推

論が試みられるとの指摘を試みた。類推が成立する過程で閲読文の状況モデルの構造性や

その教示を変化させた条件下で,目標領域の構造性に関した推論とその方向付けとを促進

する試みについては,例えば Dupinと Joshua(1999)が文献展望で指摘した様に,未だ

に一定した結論は得られていない。小集団討議場面で示されたこれらの推論の方向付けと,

閲読表象の再構成の努力の様相とを指摘することが,後述する第2章で実験的に検討すべ

き課題となる。

上記の符号化の複雑さを規定する要因として,閲読文の表象並びに目標領域の処理に必

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 71

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要な独立の次元または水準の数(例えば Case, 1985)及び操作される変数の数が挙げられ

よう。後者の一例では HalfordとMcCredden(1998)は,変数が1つの場合として属性の

表現やカテゴリー所属を,変数が2つの場合として,2つの対象相互間で早さや大きさな

どの属性の比較,3変数の場合として中間概念の理解などの3者関係や2数の四則演算と

その結果の記述,さらに4変数の場合としてa:b=c:dという比例性の理解や4者関

係の類推におけるAとBの関係の推論,AとCの写像関係及びA―B関係をC―D関係に

適用する過程を挙げたほか,それ以上の次元数に対する処理としての概念化をも含めて,

これらの変数の数と処理すべき次元の数とを対応付けた。この際にはこれらの次元数と処

理の負荷との関連も強調された。例えば,これらの次元をベクトルとして図式的に表現す

る試みにおいて Halfordなどは,イヌを例としてそのカテゴリーと具体的な事例のそれぞ

れを個々のベクトルとして表現する方法を用いて,そこで計算されたベクトルの値とイヌ

に関する多くの経験から得られた中心的な表象またはイヌの典型とを対応付けている。さ

らに Halfordなどは,上記のベクトルに至るまでの1変数から3変数までの変数を用いた

情報処理の図式に対する写像の可能性と推論の発達とを対応付けている。例えば3変数を

用いた大中小の関係の図式に対して,「ピーターはトムより色白で,ジョンはピーターよ

り色が白い」という閲読文を命題毎に写像するならば,これらの閲読文のメンタルモデル

を作成して「誰が一番色白か?」との問いに答えられるとの指摘(p. 297)を試みた。こ

の様な推論の成立の際には,これらの命題が順序付けられた図式の形で再構成されるが,

そのためにはこれらの命題が作業記憶で保持される必要性(Foos, Smith, SabolとMynatt,

1976)が指摘された。これらの視点と次項で述べる発達的な視点以外では,これらの図

式の検索と写像の過程に関しては,未だに一貫した結果が示されていない。上記の図式化

された知識への写像の促進要因として,文の閲読内容に関する小集団討議の方向付けが次

章での課題となる。

1�1�5.本項は,上記の Gentnerが最近の研究で指摘した類推の発達に関する若干の問

題の展望を通じて,年少児を被験者とした実験において類推を促進する方法を模索する試

みである。最初に,Gentnerと Loewenstein(2002)は上記の推論の展開の様相として,

幼児が基礎領域と未知の目的領域とを比較して,これらの2領域間に共通の因果的または

機能的な関係性や構造性に注目したならば,これらの2領域に共通の構造性の中から既知

の基礎領域の述語を検索して目標領域への推論を試みる可能性を強調する(p. 91)。ここ

では,未知の領域の学習はこれらの2領域の比較とその抽象的な共通性を理解する過程の

みでなく,既知の領域の構造や体系から未知の領域への写像によって促進されるとの指摘

がなされた。Gentnerなどは,その一例として Inagakiと Hatano(1987)が,5歳児が

「ヒトが成長する」という知識からの類推によって「子ウサギは自分と同様に成長する」

と答えるが,これは幼児のアニミズムでなくヒトという既知領域の知識からの写像と上記

の推論の結果であるとの提言を挙げている。これらの先行研究について Gentnerなどは,

幼児は既知のヒトと未知のウサギとの比較を試みて,未知のウサギについて妥当な推論を

導いた(p. 95)との説明を試みている。さらに Inagaki(1990)は,キンギョを飼育した

大阪経大論集 第55巻第6号72

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経験のある5歳児は未経験の幼児と比較した場合,前者はこれらの経験から得た因果関係

の知識を基礎領域とした類推を働かせて,未知のカエルについて推論する結果を指摘して,

類推は未知の領域への推論を可能にするだけでなく知識獲得過程の不可欠の要素と考えた。

この様に,既知の領域で構造化された知識が未知の領域を理解する際の枠組みとなる場合

には,類推によって学習が促進されるとの提言が上記の Gentnerなどの類推観の基本とな

る。この際には,既知の領域であるヒトに類似した目標領域ほど類推が活性化されやすい

が,その理由として Gentnerなどは,�推論を求められた目標領域と類似した生物に関す

る情報ほど想起されやすい上に,�幼児が既知の基礎領域と目標領域とを対応付ける際に

は,上記のウサギの例に示される様に,そこで可能な推論を目標領域に写像する試みのほ

か,これらの推論の適用の妥当性の点検も促進される可能性を指摘する。

Gentnerによる類推の発達研究の基調として,類推が概念獲得の基礎的な技能と考えら

れ,この類推の基本として表象相互間の関連性の言語表現(Gentner, 2002, p. 197)が強

調された。その内容は,�高次の認知機能の基本は言語または数学の体系と,認知された

表象相互間の関係性の比較に求められたが,特に表象相互間の関係そのものが抽象化され

た概念の果たす機能が強調され,�これらの関係性の概念は最初に学習される際に必ずし

も顕在化しない上に,記憶表象として検索されるとも限らない。この際には,�これらの

概念の検索が類推によって促進されるが,そのためには言語がこれらの概念の学習を促進

して,学習の成立後にはこれらの概念的表象を安定した形で定着させる機能が必要と指摘

した3点に要約されよう。これらの類推の方法は2領域間での類似性の比較を通じて領域

間に共通する表象とそれらの関係性または構造性の共通点または対応性の検索に求められ

た。さらに2領域間で比較される類似性の水準も,初期の知覚的・表層的で個々の具体的

な文脈に規定された類似性から,表象相互間の関係性や構造に見られる2領域間の共通性

や規則性に注目した抽象的な理解の水準での比較が可能になるまでの発達的な変化が強調

された。この際に,比較の対象とされた2領域の事例相互間に共通の具体的な特徴への関

心よりも共通の抽象的な構造や規則性に注目した概念化が行われる場合には,例えばトラ

とサメは食肉動物,カバとシカは草食動物であるという抽象的な図式の成立に向けた推論

が促進され,それらの表象相互間の対応付けを可能にする様な構造化が反復される(例え

ば Wolffと Gentner, 2000)ほか,比較可能な文脈が検索できない場合には,領域固有の

特異な表象を形成する(例えば GentnerとMedina, 1998)傾向も強調された。これらの比

較過程を経て,幼児は抽象的な構造性の学習と関係性や構造性の推論とが可能(Gentner,

2002)と考えられた。一例として Kotovskyと Gentner(1996)は,4歳児に3個の正方

形の大きさを右から大中小という順序で変化させた系列と,3個の円の大きさを右側から

大中小またはその逆の順序に並べ替えた系列のいずれかとの対応付けを求めた場合には,

大きさの次元での順序関係の理解は可能であり,次に上記の正方形の系列と,3個の同じ

大きさの円で,色を右側から黒,灰色と白の順序で変化させた系列またはその逆の順序に

並べ替えた系列のいずれかとの対応付けを求めた場合には,大きさの次元での順序性のみ

でなく色(表面の明るさ)の次元の順序に従った対応付けも成立した結果から,年少児に

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 73

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よる類推の可能性を強調した。さらに Kotovskyと Gentnerは,4歳児は3個の円の大き

さとその配置に関して「xXx」という図式で示される対称的な関係性を理解して,大きさ

の異なった3個の正方形が対称的に配置された図形を正しく選択し得るほか,同じ大きさ

で色を白と黒に変化させた3個の図形の配置についても色の次元での対称性の理解は可能

であり,これらの大きさまたは色のいずれかの次元内の対称性を理解した経験は他方の次

元での対称性の推論と写像をも促進した。

その一方,上記の関連性や順序性を示す言葉の習得が困難な理由として,上記の Gen-

tner(2002)は「姉妹」や「友人」という言葉を例として,これらの言葉が示すカテゴリ

ーは具体的な対象の集合よりも特定の関係性または別のカテゴリーの名称であることと,

これらの関係性を表現する言葉は最初に具体的な対象または特定の個人の特性と結びつい

て学習され,その後の発達段階で一般的な役割または関係性として学習される傾向を挙げ

た。これらの関係性や構造性を示す非言語的なラベルと言語表現とが,関係性の理解,関

係性の転移並びにその推論を促進する傾向を指摘する目的で,Rattermann と Gentner

(1998)は,3個の大きさの異なるカップを大中小という大きさの順に並べた系列を2系

列構成して,その一組は幼児に,もう一組は幼児と対面する実験者の系列とした。ここで

幼児の系列の小さいカップは実験者の系列で中ほどの大きさの対象と同一の対象とした条

件下で,実験者が自分の系列で中央のカップにステッカーを隠して見せた後,幼児に「自

分の系列の同じ場所でこのステッカーを探せます」との教示を与えた場合,幼児が自分の

系列の中ほどの大きさのカップに正しく反応するかを検討した。ここでは3歳児から5歳

児を被験者として,実験者の系列ではステッカーが隠されたカップと同じカップが幼児自

身の系列では一番小さい要素であることを理解する程度と,カップの見かけを手がかりと

した誤反応を避ける程度についての年齢差が求められた。このほか,文脈条件を複雑にし

た系列として,実験者の系列には小さい自動車,中位の大きさではマグカップ,大きい要

素としては水車小屋の玩具をそれぞれ大きさの順に並べたほか,これに対応する幼児の系

列では上記のマグカップと水車小屋をそのまま小さな要素と中程度の大きさの要素とした

後で大きい要素としては鉢植えの花を大きさの順番に並べた後で,実験者のマグカップの

下にステッカーを隠して見せた後,幼児が「自分の系列の同じ場所」という関係性を理解

して,自分の系列のカップよりも水車小屋の下を探す正答を行うかを検討した。Ratter-

mannと Gentnerの実験では,3歳児による抽象的な大小関係の理解を促進する目的で,

「お父さん,お母さんと赤ちゃん」という標識のそれぞれを系列内での大中小の関係を示

す対象に当てはめさせた場合には,上記の大きさの異なるカップのみを用いた簡単な系列

内での対応付けの場合に89%,多様な玩具での複雑な対応付けの場合に79%の正答率を得

た反面,言語的な標識の欠けた条件下ではそれぞれ54%と32%の正答率を示した結果を指

摘して,3歳児にこれらの標識を与えて抽象的な大小関係を理解とその対応付けを行わせ

た場合には,標識を与えない5歳児と同じ水準にまでの対応付けの学習とその転移を示す

との指摘を試みた。

以上の様に,Gentnerによる類推発達の視点では,比較を求められた2領域間で示され

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た個々の表象の重複,具体的な類似性や対応性のみに注目した段階からの発達的変化とし

て,領域固有の知識の活性化と各領域の表象相互間の関係性,因果性や構造性などの抽象

的な水準の表象への注目並びに,これらの関連性の表象を利用して2領域間での対応付け

を試みる段階への発達的変化を挙げて,これらが類推を可能にすると考えられた(Gen-

tnerと Loewenstein, 2002, p. 106)。この様に,子供自身と実験者の領域に共通の関係性が

理解される過程では,一連の具体的な事例からそれらの共通性や対応性の理解がなされる

過程以上に,共通性と関係性を示す言語を用いた象徴の水準での対応付けの意義が強調さ

れた。

言語その他の象徴が果たす具体的な機能として,注目すべき関連性や構造に対して言語

的な標識が付加された場合には,既知の領域とは異なった場面でこれらの関連性や構造性

を検索したり写像し得る(Gentnerと Ratterman, 1991)可能性が指摘された。これらの

共通の関係性へのラベル付けの機能として,上記の構造的な整合性の比較とそこで理解さ

れた関係構造の強化以外に,類推の検索(Clement, Mawbyと Gills, 1994)が挙げられた。

Gentnerによる上記の類推の発達研究の要約として,基礎―目的領域間で重複する特徴

の検索から次第に抽象的な構造性への感受性が向上して,これらの2領域間での転移が発

達する過程が挙げられる。その原動力として,Gentnerと Medina(1997)は,�言語が

これらの2領域間に共通する抽象的な構造性を符号化する結果として転移が促進され,そ

の転移機能も柔軟で適用範囲も拡充されるほか,�上記の2領域を比較する過程では上記

の領域に共通する抽象的な構造性または図式的な特徴の検索が行われる可能性を強調した。

特に図式化の一例として,Gentnerと Medinaは6歳児に目的領域となる課題文と類似の

物語文相互間で類似性の比較を行わせ,これらに共通の構造性またはスキーマの検索を訓

練した場合と訓練を欠いた条件でそれぞれ88%と38%の正答率を示した先行研究(Chen

と Daehler, 1989)を引用して,比較によって2領域間に抽象的な構造性や整合性が示さ

れる傾向を強調した。

最後に,上記の類似性に従った判断の発達と,カテゴリー所属またはルールに従った論

理判断との関係に関して GentnerとMedinaは,論理判断を用いて検証される条件ルール

が抽象的で理解し難い場合には類似性の比較によって理解される可能性に乏しいゆえに,

判断を求められた条件ルールに写像できる程度の具体性と規則性のある推論スキーマを導

入して推論を促進すべきとの提言を試みた。ここでは,9�10歳児に想像上のハチの行動

を理解させる過程では「ハチが飛び回るなら,それは巣の外側である」という恣意的なル

ールよりも,「ハチが飛び回るなら,そのハチは病気の拡大を防ぐために巣の外に出てい

なければならない」との有意味なルールを与えた場合には「巣の外に居るハチ,中のハチ,

飛び回るハチ,そうでないハチのどれを点検すべきか」という課題への正答率は向上した

例(Girotto, Light, Colbourn, 1988)を挙げて,実用的スキーマの効用を強調した。以上の

指摘を通じて Gentnerなどは,幼児のみでなく,大人の素人による純粋に抽象的な推論も

経験に依存することと,推論のみでなく,類推と転移の機能も表象の経験的内容に規定さ

れるとの結論を導いている。

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 75

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1�1�6.結語にかえて:本節では,散文閲読の際には,閲読文の表象に対して類推的な

符号化が行われた結果として,既知の基礎領域と未知の目標領域を関連付ける抽象的な行

動の図式の検索が促進される傾向を強調した。課題解決の際にも,ナイーブな被験者が課

題解決の図式を理解してこれらを未知の事例に適用する過程を促進し得るほか,特に上記

の抽象的な課題解決図式と未知の課題とを比較する過程での努力がこれらの2領域間で類

推の活性化と転移とを決定する傾向は, 上記の Gentner, Loewensteinと Thompson (p. 403)

によって強調された。さらに表象の関連性を示す言葉が基礎―目標領域間に共通に見られ

る場合には,幼児はこれらの関連性に注目して推論を活性化する。特に事物の機能を示す

語は, 基礎領域が所属する特定のカテゴリーの検索と保持とを促進する(例えば, Clement,

Mawbyと Giles, 1994)ほか,これらの帰納的推論は目標領域の特性の言語的な表現の様

相によって影響される(Inagakiと Hatano, 2003)現状を考えた際には,上記の符号化の

機能と経験のそれぞれが類推成立に寄与する過程に関する検討の必要性を指摘し得よう。

この点の検討が次節以下での課題となる。次節以下では,散文の閲読後にその内容に関し

て web上で小集団討議を行わせた条件下で,散文の閲読の際の教示をも変化させた場合

に集団内対人態度と上記の類推の機能の示され方とが変化する過程について一連の実験を

通じて検討する事が本報告の目的となる。

第2節 協同想起における課題解決への抑制と促進

序: 本節では,散文理解と課題解決を意図した web上での討議の様相に注目し,討

議の参加者が協同で課題達成または閲読内容の理解に必要な情報を想起する過程について

の文献展望を試みる。特に本節では,散文を閲読した後の内容討議における協同想起の様

相に注目し,閲読内容を協同で想起する過程で生じる促進と抑制効果を指摘する。その課

題は,閲読内容の共通理解,特に閲読中の教示によってその後の内容討議における課題指

向性と対人態度も変容する可能性についての問題提起であり,協同想起によって閲読文の

理解に向けた推論の巧緻化も促進される傾向を指摘する。ここでは,これらの教授活動が

画面上での推論の方向付けとメンバー相互間での確認とを促進する可能性の強調が課題と

なる。以上の指摘を通じて,閲読中の教授活動が上記の討議集団内の対人態度のみでなく

上記の類推的な符号化と比較過程をも向上させ,併せて閲読内容の協同想起による干渉効

果の低減をも促進する可能性を提言した後,次章での実験に関する問題提起を試みること

が本節の課題となる。以下の第1項では散文の内容の協同想起に伴う基本的な問題点を,

第2項では協同想起における集団内対人態度のそれぞれを扱った文献の展望を試みる。こ

こでは不完全な初期理解が集団内で共有(亀田,1997)された状態と,不明な点が推論に

よって理解される(Anderson, Chinn, Chang, Waggonerと Yi, 1997)過程で示された若干

の問題点を指摘して,次章で述べる類推の活性化による散文理解に関する実験の問題提起

を試みる。

1�2�1.Weldonと Bellinger(1997)は,散文の理解と想起を含めた認知機能の社会的

側面を強調し,認知機能は個々の被験者が実験室で示す機能以外に,社会的な状況に規定

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される傾向を指摘した。具体的には,�集団内での協同の形で記憶の想起が試みられる場

合,社会的状況そのものが最適の認知スタイルと内容の想起を規定し,�それらの社会的

状況の特徴は,誰がいかなる時に発言するか及び,誰の記憶内容や発言が重視されるかと

いう集団内の勢力の布置に求められるほか,�想起の目的が社会的状況を変化させること

と,�集団の特徴と関心事は抽象的な行動図式として集団の成員に共有され,この行動図

式が成員の認知と判断とを規定するとの提言がWeldonなどの結果の基調となる。以上の

視点で展開された散文理解の実験においてWeldonなどは,物語文を個別に再生した場合

と3人で構成された集団内で協同形式の想起を試みた場合との対比を試みた結果から,協

同想起では個別に想起した場合以上の高得点が得られる反面,協同想起における抑制効果

をも強調した。これらの抑制効果の内容としては�他のメンバーが再生する間の待ち時間

内に生じた記憶表象の減衰または新たな表象の生成への干渉,�他の成員の発表と自分自

身で想起した表象との干渉によって,自分自身で想起し得た記憶表象の体制化が抑制され

る傾向並びに,�自分と他人とが想起した記憶表象を比較した結果,自分自身の想起を過

小評価する傾向及び,�集団内での責任の拡散に伴った課題志向の意欲低下が挙げられた。

上記の指摘を通じて,閲読文の協同想起は個々の成員による閲読内容の想起と想起された

表象の体制化とを抑制する傾向が強調された一方,これらの指摘とWeldonなどの実験結

果との対応付けは明らかにされていない(p. 1172)。Basdenなど(1997)は,カテゴリー

化された単語の系列を3人の成員から構成された集団での協同想条件と個別の想起を求め

た条件間で比較した結果から,前者ではカテゴリーを用いた体制化への抑制を示し得た結

果から個別の想起の協同想起に対する優位を結論付けている。これらの協同想起への抑制

の原因として Basdenなどは,�他人が想起した反応または想起を求められた系列内で同

じカテゴリーの項目は想起の方略または最適の想起順序を抑制する傾向を強調したほか,

�集団内で他人が反応を生成する時間内は,自分の記憶表象を検索して活性化しても反応

の産出を延期する間に生じた作業記憶の減衰を挙げる。前者の一例として,多くのカテゴ

リーから選ばれた5項目の系列の記銘と協同想起が求められた条件下では,集団内で他の

成員が想起した項目以外のカテゴリーの項目へのアクセスが中断されるほか,これらのカ

テゴリー名を手がかりとして与えた場合でもそれ以外のカテゴリーへのアクセス並びにこ

れらのカテゴリー名と連合した項目を想起する方略が中断される結果が指摘された。Bas-

denなどによる上記の指摘は協同想起の場面で示された項目の体制化への抑制を強調し得

た反面,集団成員が交互に発言する条件下では他人の発言する時間内には自分の発言を延

期する必要性がある条件下で得られた結果である点にも注目せねばならない。これらの問

題点への対応として,本報告ではチャット画面上で同時に多くの意見を発表可能にした条

件下で,散文閲読中の教示によって集団成員の討議内容の枠組みと閲読内容の推論と理解

への確認と方向付けとを試みた手続きを用いた協同想起の実験の展開を試みた。その詳細

な検討は後述する第2章の課題となる。

協同想起を求められた集団の成員の発言が他のメンバーの認知過程と判断に影響する場

合として,ペアの関係での協同想起における問題点が挙げられよう。例えば Stephenson

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 77

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など(1986)は,大学生の被験者に性犯罪の被害者調書の作成場面を題材としたビデオを

視聴させた4分後に単独またはペアで,この事件に関して3人の警官が被害者に質問した

内容の再生のみでなく,事件に関する質問への回答とその回答の確信度の評定を2回求め

る方法で,協同想起の様相を検討した。結果として,最初にペアで回答した後に単独で回

答させた際には,単独の再生が先行した場合と比較して再生成績の低下と反応確信度の高

い得点とを指摘し得た。以上の結果から Stephensonなどは,ペアでの想起は個別の想起

の場合以上に再生成績の低下を生じるほか,ペアの協同想起の場合にはメンバーが自らの

反応に対して高い主観的確信度得点を与えると同時に,自らの主観的判断を高く評価する

傾向がペアの反応の内容を決定する可能性を強調して,協同想起による誤反応への促進と

誤りの不変性を警告した。この点に関しては,次項で述べる様に,集団内対人態度の変化

に向けた教授活動による対処が必要と考えられよう。

この様なペアの間での討議を経て加速度と速度などの意味が理解され,物理学的な概念

として定着する過程の基本として Roschelle(1992)は,高校生のペアのメンバー相互間

での討議内容とそこで得られた意味理解の内容を引用して,メンバーが分かち持つ意味的

な表象の収束過程に注目した。ここで指摘された意味理解とは,課題場面と言語または身

振りや図式を用いた行為の表象との関連付けの過程であり,上記の意味的な表象の収束と

精緻化によって抽象的な概念が形成される過程として,�高校生のペアの中での討論を通

じて,意味的な整合性に欠けた図式的な表象の段階から抽象的・言語的で意味的にも精緻

化された概念が形成されるほか,�加速度を表現する際に「握って引く動作」という比喩

的な表現が用いられる場合を例として,メンバー間に構築されるべき表象についての比喩

的な会話が可能な場合,比喩の共有による概念的な精緻化が強調された。さらにこれらの

概念が一貫性と社会的な妥当性を得る過程として,�メンバー間で討論内容の図示または

提示,確認と修正とが反復されるほか,�加速度について討論する際にその表現と理解の

手段として,上記の「握って引く」動作でなく画面上に配置された複数の点とそれらを結

びつける線を用いて討議するならば,上記の動作の文脈に依存した場合よりも厳密で一貫

性のある表象を成員間で共有し得るゆえに,加速度についての共通理解と概念化も促進さ

れる。この様に,動作的表象に依存した比喩的な理解の状態から図示された表象の共有へ,

さらに抽象化された言語と数式による力学概念の共有に至るまでの段階では,加速度につ

いて説明する手段とその適用の様相が次第に一般性と客観性とを示す傾向と,そこで得ら

れた成員間の共通理解または成員が分かち持つ概念相互間の収束傾向とが強調された。こ

の様な具体的な表象を比喩的に用いた理解の共有に代えて,類推とその成果を集団内で共

有する可能性について検討することが次章での具体的な課題となる。

学習者のペアが画面上で討論を通じて教材を理解する過程で,教材理解とその課題解決

に不可欠の概念と原則の理解を促進した例としては,de Vries, Lundと Baker(2002)が

高校生のペアを被験者として,音響について説明したビデオを見た後に画面上での討議を

通じて音響についての説明文を作成させた協同作業の例が挙げられよう。de Vriesなどの

指摘で最も強調されたトピックは,学習者が協同して課題を解決して,そこで新たな意味

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を発見する過程の図式化であり,ここでは課題達成過程の対話の意味内容を文節単位で�

説明,�論議,�課題解決と�課題解決過程の実行という機能的なカテゴリーに対応させ

て分類した上で,特に論議と説明の機能に注目した点が特徴的である。上記の説明過程の

下位機能としてはパートナーに対して自分なりの意味付けや概念理解の内容を表現する過

程と,自分が何かの意味や概念を理解したか否かを表現したり,相手も同様に何かを理解

したか否かを質問する機能が挙げられ,論議については対話の過程での意見の一致と不一

致の表現と定義された後で,その下位の機能としては討論の主題を巡っての攻防,承認ま

たは妥協とその結果のそれぞれ(p. 81�82)が挙げられた。さらに課題解決機能の下位技

能としては,課題解決に必要と考えられる新たな要素の提言と評価が,執行過程の下位技

能としては,課題の内容に触れることなしに発言を促す機能,課題に関連した特定のトピ

ックの伝達と説明の予告および,それ以外の課題と無関係のやりとりが挙げられた。de

Vriesなどによる上記の指摘の2番目の特徴としては,電算画面上での討議を用いた協同

学習の利点として,電算は情報処理の作業台であり多くの生徒に共有されるほか,協同学

習のデータベースでもあるゆえに意図的な学習と動機付けを促進し得る利点の指摘以外に,

上記の Roschelleによる力学概念の形成と精緻化の過程を例に挙げて,画面上での図式化

によって成員が個別に分かち持った力学的な概念の収束傾向と力学の概念に関する共通理

解の促進および,その過程で示された図式的な表象の共有を強調した点が挙げられよう。

de Vriesなどによる上記の指摘の3番目の特徴として,上記の論議の際に討論の主題を巡

っての攻防の際に示された類推の機能の顕在化が挙げられよう(p. 86)。ここでは,張り

詰めていないギターの弦からの類推によって振動という概念の精緻化が試みられた例を強

調した反面,類推が活性化されるための条件には論及していない。この点は次章で検討す

べき課題となる。

上記の協同学習または協同での課題解決を意図した討論ではメンバーが準拠枠を共有し,

共通理解を実現する過程での不協和を解消することの必要性が指摘され(例えば Barron,

2000),討議の展開の過程でつねに変化し続ける共通理解の枠組を見失わないためには,

発言者が伝えようとした内容の正しい意味を見出す努力の持続と,聞き手の反応への感受

性が不可欠と考えられる。以上の協同思考を持続させるための活動の機能的・構造的側面

と,集団内での対人態度とそれらの規定要因への注目が必要となる。この点が次項での課

題となる。

1�2�2.散文の閲読とその内容理解を意図した協同学習または課題解決を行う集団の活

動の機能的側面と,そこで展開されるコミュニケーションの様相を明らかにした研究の展

望が本項の課題となる。この領域の先行研究としては,地域の多くの建物やランドマーク

などの特徴の配置について集団メンバーが分かち持つ個別の情報を総合して,この地域の

正確な地図を作り上げるまでの討議過程の分析(仮屋園,丸野と加藤,2004)が挙げられ

よう。ここでは討議の洗練性とその規定要因として,大局的な情報に従った課題理解と,

その下位技能としての個別のメタ認知的な局所的課題理解並びに,話題の中心または明確

なランドマークなど特定情報に対する注意の方向付けの機能が強調された上,これらの方

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 79

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向付けに関しては,課題解決の文脈からの必然的な帰結として,集団全体での焦点化の方

向とされた必然的な方向付けによる集団思考の展開か,または明確な理由や必然性並びに

課題の文脈とは無関係な形で個別に焦点化された恣意的な方向付けによる個人思考の優先

とが区別された。さらに方向付けの周知徹底によってレイアウトの構成に必要な情報のみ

が選択される必要性が強調された。特に上記の共同作業の進め方に関する知識の共有また

はその共通理解は,集団内の親密性と表裏の関係にある点が強調された。いわば,自ら集

団内で情報を開示して他者の情報との関連付けを促進し得る条件下では,上記の個別的な

局所的な課題理解が統合された形の大局的な情報に従った課題理解が可能になり,協同学

習と課題解決とが促進される可能性が強調された反面,親密性の低い集団内では共通理解

が可能なメンバー相互間でのみ局所的課題理解の不完全な統合が可能となる結果,その課

題解決は局所的方向付けに依存せざるを得ない傾向が想定されたほか,これらの下位集団

の不安定さも指摘された。特に,下位の討議集団内での発話を継続させる要因は,あくま

でその局面での理解と情報の共有であって,このメンバーは固定される必要は考えられて

いない。ある局面での理解と情報の共有者の顔ぶれによって討議集団の境界は決定され,

討議に参加しない者はシステムの環境に過ぎないと考えられる。この様な発想の基本は境

界の自己決定性の想定と,その基本として自己創造生を主張する生物学理論(オートポイ

エーシス理論)を討論場面に導入する試み(仮屋園,2001)に求められた。この報告は,

集団内での討議によって課題達成を行う条件下で,必要な情報を分かち持つ集団の成員数

とその親密性とが討議集団の効率と協同思考の成否を決定する傾向を指摘した点にその独

自性が認められよう。しかしながら,集団成員の課題志向性とリーダーシップの寄与の程

度についてはさらに詳細な検討の必要性を指摘し得よう。

Andersonなど(2000)は,討論の際の談話についての知識を討論スキーマ,その知識

を具体化するためのメタ的な技能としての表現の目的や機能を討論方略と呼び,その普及

と汎用化を指摘した。秋田(2001)は,これらの討論方略の機能として集団内で発言を促

したり,他人の議論と自分の立場との関係を明確にしたり不確実な点や主張の根拠を明確

化を強調する目的でその一部を改変し,「あなたはどう思う」,「特定の意見に賛成・反対」,

「しかし……と対立・異論の提示」,「もし……ならと限定」,「……と思う。なぜなら……

と考えと理由の提示」および,「……と書いてあると根拠の提示」のカテゴリーに分けて

いる。

これらの項目は,集団内の対人関係の発展を尺度得点として表示し得る反面,後述する

Balesと Cohen(1978)の対人関係尺度の場合の様にリーダーシップ,友好性と文脈志向

性の次元を区別していないゆえに,上記の対人関係尺度の項目を用いて多次元尺度法によ

る分析を試みる際には,Balesなどによる尺度の使用の場合よりも適用条件の吟味,慎重

な分析と結果の解釈とが必要と考えられよう。

Balesと Cohen(1978)の集団内対人関係尺度は本来,集団過程の客観的記述を意図し

た尺度であって,集団成員自身による主観的に認知した集団内対人関係の評価は考察に含

まれ得る(利島・生和,2002)と考えられた。この尺度は,対人関係の次元として支配―

大阪経大論集 第55巻第6号80

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服従,友好―非友好および,課題志向―感情志向の3次元を挙げて,集団内での対人行動

を観察する際にその全体印象に従って各メンバーの対人行動を自己評価したり相互評定す

ることが可能とされた。その日本語版は奥田と伊藤(1991)によって開発された。これら

の尺度項目に示された対人態度が閲読文の協同想起に与える寄与の様相は次章での検討課

題となる。

これらの協調行動の本質としては,知的資源,情報,意志などのミクロな入力が,集団

決定や集団での課題解決などのマクロな出力に変換される過程(亀田,1999)が想定され

たが,ここでは知的資源の単なる総和以上の結果が集団の水準で創発されるという,いわ

ば「3人寄れば文殊の知恵」という事態には否定的な結果が引用された一方で,集団での

創発性の起源として,2人ペアの行う推論の過程では相互説明による理解への促進効果

(Okadaと Simon, 1997)も挙げられた。ここではミクローマクロ変換の役割を担う構造

として,メンバー間の分業体制という相互依存構造であって,協調場面における相互作用

は課題の構造や上記の相互依存構造に規定されるとの提言がなされている。上記の協調行

動と関連した形で,植田(1999)は,コミュニケーションのミクロな側面として発想の支

援を,マクロな側面として社会的創発現象の分析と社会的意志決定への支援に注目するほ

か,これらの過程で示された類推の役割にも論及している。

以上の視点からは,散文の閲読と web上での内容討議を行わせた際の教示によって閲

読課題の構造を変化させ,そこで生じた内容理解と集団内での対人態度のそれぞれの変化

を考える実験手続きと,これらの過程で類推の寄与を想定することの妥当性を指摘し得よ

う。これらの問題点についての検討が次章での課題となる。

第2章

序: 本章は,散文の閲読と web上での内容討議によってその再認成績の変化が示さ

れる過程と,再認の下位技能としての類推能力の寄与の程度とを指摘した一連の実験の報

告である。協同想起による再認成績の向上を指摘した先行研究としては,Clark, Hori,

Putnumと Martin(2000)が単語の系列を材料とした再認実験において2�3名から構成

された集団内で記憶内容についての情報交換を求め,集団としての反応を決定させた場合

には成績の向上を指摘したほか,これらの協同想起の基本としては想起すべき文脈の活性

化と既知感の共有を生じさせる相互作用効果とを強調した例が挙げられよう。この実験の

特徴としては,�討議における情報交換の過程では個々の被験者が自らの反応を再評価し

た結果から生じた想起への促進効果を強調し,�再認反応の基調となる既知感は本来無意

識的で自動的な内的過程(例えば Jacoby, 1991)であるとの視点から,既知感に従った再

認反応の決定は言語化されて集団内で発言され難いならば,個々の項目の再認よりも刺激

系列の表象に対応した命題の形で再生された目標の表象とこれらの表象についての連想を

促進する文脈の再生機能とを重視すべきとの提言の試みと,�協同想起で促進される過程

としては目標領域の想起と妨害刺激への抑制とを想定したが,�実験の結果としては協同

想起における再認の促進と再生への抑制とを指摘して,協同想起における再生手がかりの

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 81

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共有(Meudell, Hitchと Kirby, 1992)の失敗と他の成員の想起方略への干渉(Basdenな

ど,1997)を挙げ,これらの手がかりの共有は協同想起として再認を求めた課題では不必

要との解釈を試みたという4点が挙げられよう。

協同想起における再認に関する以上の視点からは,手がかりの共有から生じた想起の下

位技能,特に閲読文の表象相互間の類推の活性化と,協同思考を行う集団内の対人態度に

注目する必要性を指摘し得よう。本章で述べる実験はいずれもこの点の検討を課題とした

ものである。下記の第1節では不完全な初期理解の共有による理解への抑制が再認過程に

与える効果を検討するほか,第2節では教授活動によって集団内の合意とコミュニケーシ

ョン調整のコスト削減のほか,類推における写像の適正化の促進を示唆する。以上の過程

では,上記の教授活動による散文理解の方向付けを求めた条件では,協調学習のリーダー

シップと親和・同調性に代表される集団内対人態度の寄与をも強調することが基本的な課

題となる。

2�1.実験1 閲読内容の討議における不完全な初期理解の共有に関する基礎的実験

実験1では,端末の画面上で大学生に散文を閲読・理解させた後,チャット画面で内容

討議を行わせた際,教授活動による協同想起(高橋,’02)の方向付けから生じた不完全

な初期理解の共有(亀田,1997)が内容理解の促進または抑制を生じる程度を指摘し,さ

らに集団内対人内態度と類推の寄与の様相を指摘する。

方法:�材料は,堺屋太一の対談集(実業の日本誌 ’92)から「湾岸戦争の正確な情報

はトルコから得られた。トルコは地域の利害と無縁の故に,砂漠の住民の噂でイラク軍の

移動を知った時には軍の意図は侵攻と正しく判断した。米国も衛星でイラク軍の動きを追

ったが,その意図を石油価格の操作の目的での示威と誤解した。日本政府は情報を米国や

商社に頼るから,不十分でしかも操作された情報しか得られない。マスコミの一般情報も,

記者クラブで操作されてから報道される。これに頼れば,官庁の役人が職務上知り得た情

報に従って株取引を試みては役所向けに操作された情報に振り回されたインサイダー取引

の失敗と変わらない。賢明な商社は,トルコ帝国の官僚の失敗から類推してソ連の崩壊を

予測したほか,徳川家康も,商人の情報網が使えない戦時に備えて忍者を味方にするほか,

情報の分析には有能な参謀以外にも僧侶や女性の智恵も借りた」の32文を1文ずつ,画面

上で被験者ペースで閲読させた。�被験者は大経大生58名が個別に参加。半数は閲読に先

立って,「この文は情報の量と分析とが必要な事を述べた」との先行オルグ,半数は無教

示群に割り当てられた。各群の半数は文の閲読直後に,8名程度の小集団で閲読内容の討

議をチャット画面上で20分間行った後に,画面で再認とその下位技能の検査を,残る半数

は閲読直後に再認とその下位技能の検査を行った後にチャット画面で内容討議を行った。

�検査は,内容の再認,閲読内容と無関係の類推,帰納性の理解(文字系列),過剰類推,

不完全な初期理解の自覚,視点変更の程度など19項目に選択反応の他,上記の文中下線の

項目相互間の類似性評定値も画面で入力した。最後にチャット画面を見て,メンバー毎に

�集団内対人態度(リーダーシップ,親和性,課題志向性;Bales & Cohen’78)について

大阪経大論集 第55巻第6号82

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各2項目,計6項目について5段階評定を行った。

結果:�教示と討議・検査先行条件毎に逐語・推理再認成績を求めて d’変換した結果

が図1である。3要因分散分析の結果,討論先行>検査先行という主効果(5%)が得ら

れた。以上は協同想起の枠(Edwards, et al, ’86)による理解への促進効果を示唆する。

�教示と討論の条件別に,再認成績,類推などの下位技能と集団内対人態度得点を求め

て主成分分析した結果が表1である。結果の概略として,�集団内対人態度の各項目の得

点は,全ての条件下で第1主成分となる。�先行オルグ条件では,討議の先行条件下で類

推と歴史の知識並びに他人の意見による判断の動揺の経験が第1と第2主成分となる。こ

れらは協同想起の枠組の寄与と不完全な初期理解の伝達(亀田 ’97)を示す。検査先行条

件では再認,類推,過剰類推が第2主成分となり,表象の想起と写像の寄与が示唆された。

�無教示条件では,討議先行の条件下で帰納性の理解(文字系列)と推理再認が正の値の

主成分,不確実性の経験が負の値の主成分となったが,類推と写像の寄与は認められない。

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 83

4.5

4

3.5

3

2.5

2

1.5

1

0.5

0オルグ・討議 オルグ・検査 無教示・討議 無教示・検査

逐語再認

推理再認

図1 教示と討論の挿入位置による再認の差異

表1 教示と討論の挿入位置別に見た主成分分析結果

主成分 先行オルグ・討論先行 先行オルグ・検査先行 無教示・討論先行 無教示・検査先行

第1 集団態度(友好・主導・課題文脈志向)と類推

集団態度(友好・主導・文脈志向)動揺は負の主成分

集団態度(友好・主導・課題文脈志向)

集団態度(友好・主導・課題文脈志向),歴史

第2 判断の動揺と歴史得意 再認成績と歴史得意 再認と類推・過剰類推 逐語再認,動揺

第3 知識(逐語再認と過剰類推)

写像活性化(過剰類推) 動揺,系列は負主成分 再認,類推

第4 推理(推理再認と系列) 歴史得意,過剰類推 歴史得意,類推は負主成分

帰納(類推・系列)

第5 …… 類推 歴史得意,一貫性理解 写像(類推・過剰類推)

累積% 94.5 80.6 91.2 89.1

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以上より,不完全な初期理解の伝達に伴う動揺に耐えて推論を活性化する必要性を指摘し

得る。検査先行の条件でも類推の寄与は認められず,歴史の知識と逐語再認の寄与が主成

分となり,表象想起の意義を示す。

�教示と討論の条件別にチャットでの発言内容とそのキーワードの出現頻度を求めてク

ラスタ分析した結果の一部が図2である。教示と討議により,選択の機能が,分析と知識

などの機能とは独立のクラスタとなる。

�上記の教示と討論の挿入位置の条件別に,奥田と伊藤(1991)に従って,リーダー的

行動,友好的行動並びに向文脈的行動の3段階評定値のそれぞれを求めた結果を2要因分

散分析した際には,リーダシップ得点に関して討論先行<検査先行(5%)となる。他方,

2要因交互作用(5%)からは,検査先行の条件下では逆に先行オルグ>無教示となる。

向文脈的行動に関しては,討論先行>検査先行,教示>無教示という結果が得られた(い

ずれも5%水準)。以上の結果からは,討議過程では先行オルグ条件では文脈志向性の向

上と,リーダーシップが顕在化しなくても討論の方向性が規定される可能性を指摘し得よ

う。

結論と考察:以上の主成分分析の結果からは,最初に集団内対人態度の寄与が顕在化し

大阪経大論集 第55巻第6号84

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

不信困難情報源分析知識選択

356241

先行オルグ・討議先行0 5 10 15 20 25

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

不信困難知識分析情報源選択

354261

無教示・検査先行0 5 10 15 20 25

図2 討議での発言内容のクラスタ分析結果の一部

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たほか,閲読内容に関する討論の際に不完全な初期理解の共有による動揺が示されたが,

これらは認知スタイルへの干渉を生じても閲読内容の再認を生じない結果を指摘し得よう。

ここで類推または文字系列の理解に示された帰納的な情報処理による内容理解の方向付け

と,これらを促進する集団内の対人態度の寄与を指摘し得よう。以下では,上記の先行オ

ルグによる理解の方向付け以外に閲読中の挿入質問による理解の確認をも試みて,コミュ

ニケーション調整のコストを削減した場合に上記の初期理解,類推と対人態度の寄与の様

相を検討する。

2�2.実験2 web上での協調学習における集団内対人態度が類推を方向付ける可能性

前項では画面で文を閲読した後に web上でリアルタイムの内容討議を行う際,不完全

な初期理解の共有(亀田 ’97)により理解が抑制される傾向と,集団思考の抑制は教授活

動により低減可能との指摘を試みた。以上に引き続き本項では,�先行オルグが直接的/

指示的に処理方向を規定した結果,集団内の合意によるコミュニケーション調整のコスト

削減を,挿入質問では写像の適正化の促進を示唆するほか,�上記の教授動による方向付

けを求めた条件で,協調学習のリーダーシップと親和・同調性の寄与の下では類推または

その他の帰納的推論の方向付けも促進される程度を指摘する。

方法:�被験者は大経大1年生81名(チャットは習熟済み)が実習室端末で個別に参加。

1/3は後述する先行オルグ群,1/3は挿入質問群,残る1/3は無教示群とする。各群の半数

は,文の閲読直後に20分間,同一画面で7�8名の集団毎にチャット画面で内容討議の後,

画面上で再認検査,閲読内容と無関係の類推・比喩理解の検査,文字系列,過剰類推,動

機,歴史の得意意識,登場人物の分類基準の理解,視点変更及び,集団内で自己像の明確

化の要求など計16項目にマウスで選択反応を入力。残る半数は閲読直後に上記の検査項へ

の反応入力の後にチャットで内容討議を行った。最後に全員がチャットの記録画面を見て

Balesと Cohen’ 79の集団内対人関係尺度(リーダーシップ,友好性,課題文脈志向性)

項目でメンバーの発言を相互に3段階で評定した。

�材料は「東大奴隷と慶応貴族」(週間東洋経済誌 ’91.5)より東大出の官僚,トルコ帝

国で有能な奴隷が登用された一代貴族,出身より資質次第で恣意的に登用されるサラリー

マン社長,有能な侍が登用された江戸の官僚と,親の身分次第で恣意的に登用された帝政

ロシアの無能な官僚や日本の二世経営者について述べた42文を1文ずつ被験者ペースで閲

読させた。1/3の被験者は,「この文は人材登用の身分主義,実力主義及び公正な選抜を

述べた」との先行オルグが,1/3は閲読中に4点の挿入質問が与えられ,残る1/3の被験

者は無教示群に割り当てられた。

結果:�再認成績を図3に示す。

d’変換後に2要因分散分析して逐語再認では交互作用(5%)が示された。この結果

からは,討論による認知スタイルへの干渉と,先行オルグ条件下では理解の方向付けによ

るこれらの調整コストの削減を示唆し得る。

�上記の指標で集団内対人態度に関する項目を含めた上記の変数の主成分分析の結果が

表2である。

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 85

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先行オルグ条件で集団と教示への同調が,挿入質問条件で写像制御が顕在化した結果は

当初の研究目的と対応させ得る。

無教示・討議先行条件下では写像範囲の理解が第1主成分となる。これは不完全な初期

理解の共有と関連させ得よう。

�発言内容のキーワードを求めてクラスタ分析した結果が図4である。

討論条件では原因(継承/実力)と結果(コネ・引き/成績)のクラスタが,検査後の

討論は恣意的選抜(コネ・引き/継承)とそれ以外のクラスタがそれぞれ顕著に示された。

�チャット画面を見て自分以外の成員の発言について集団内対人態度の3段階評定値を

求めて Kruskal-Wallis検定した結果,討論先行条件下は,友好性(気持ちを引き立てる―

何でも反対)得点で,質問=先行オルグ>無教示,リーダーシップ(指示したりまとめる

大阪経大論集 第55巻第6号86

3

2.5

2

1.5

1

0.5

0討論・逐語 討論・推理 テスト・逐語 テスト・推理

無教示

挿入質問

先行オルグ

図3 教示と討論の挿入位置による再認の差異

表2 討議と教授活動条件別に見た主成分分析結果

討議が検査に先行 検査が討議に先行

主成分 無教示 先行オルグ 挿入質問 無教示 先行オルグ 挿入質問

第1

受容と自己制御(リーダーシップ,自己像明確化,写像範囲理解)

オルグ文脈で比喩理解(親和性,基準理解,推理再認,歴史得意,比喩理解)

討議の文脈で知識利用(親和性,類推,自己像明確,思考動機)

自己制御(自己像明確,リーダーシップ,基準理解)

オルグ文脈で比喩理解(推理再認,比喩,写像,討議文脈)

知識利用の巧緻化(視点変更,写史)

第2

構造性の推理(類推,数列,写像)

討議の文脈で類推,写像(過剰類推,類推,思考動機,文脈)

積極的な知識利用(リーダーシップ,比喩,歴史)

構造性の理解(数列,写像範囲,視点)

知識を用いた類推(歴史,類推,写像範囲)

類推と写像の適化(自己像,類推)

第3再認成績(思考動機,再認成績)

写像と同調(親和性,比喩理解,自己像は負値)

閲読内容の適正な類推(類推,写像範囲,再認)

知識の適正な写像(歴史,比喩理解)

閲読表象の構造性理解(再認,視点変更,数列)

内容の推理(推理再認,写像)

第4

写像活性化と制御(推理再認,過剰類推,比喩)

表現の要求(リーダーシップ,逐語再認,思考動機)

適正な写像(写像範囲,歴史)

類推(推理再認,類推)

写像の制御(写像範囲,思考動機)

適正な写像(歴史,写像範囲)

累積% 83.17 82.51 79.65 81.22 75.82 79.66

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―話を聞いてから発言)得点が,質問>先行オルグ>無教示となる。課題指向性に関する

差は見られない。検査先行条件については上記の友好性とリーダーシップ得点について先

行オルグ>挿入質問>無教示の結果が得られた。以上より教授活動による集団内対人態度

の向上を指摘し得よう。

結論と考察: 無教示条件下では討議による推理再認への促進と過剰な類推への抑制と

を指摘し得よう。さらに無教示条件では集団内対人関係の得点の低下が示された結果をも

併せて考えた場合,教授活動によってコミュニケ-ションの調整と必要な処理資源の節減

が得られる結果として,写像範囲の適正化を目指した調整も可能と考えられよう。この様

な写像範囲の適正化についてさらに検討し,併せて教授活動の寄与を示すことが以下での

課題となる。

2�3.実験3 web上の協調学習における教授活動が集団内対人態度と類推とを方向付

ける可能性

前項では画面で文を閲読した後に web上でリアルタイムの内容討議を行わない場合で

も,教授活動による理解の方向付けが可能になる傾向と,集団思考への抑制は教授活動に

より低減可能との指摘を試みた。以上に引き続き本項では,�先行オルグによる直接的・

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 87

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

成績実力継承コネ・引き努力公正

134256

討議先行 挿入質問0 5 10 15 20 25

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

成績公正実力努力コネ・引き継承

163524

検査先行 挿入質問0 5 10 15 20 25

図4 討議での発言内容のクラスタ分析結果の一部

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指示的な処理方向の規定と,挿入質問による写像の適正化の促進を示唆するほか,�上記

の教授活動による集団内対人関係の調整コストの削減と得点の向上,特に協調学習におけ

る文脈指向性得点と親和・同調性の得点の向上並びに類推と文字系列の理解で示される帰

納的推論の方向付けへの促進をも指摘する。

方法:�被験者は大経大生52名(チャットは習熟済み)が実習室端末で個別に参加。

1/3は後述する先行オルグ群,1/3は挿入質問群,残る1/3は無教示群とする。各群の半数

は,文の閲読直後に20分間,同一画面で7�8名の集団毎にチャット画面で内容討議を行

い,次に画面上で再認検査,閲読内容と無関係の類推・比喩理解の検査,文字系列,過剰

類推,動機,歴史の得意意識,登場人物の分類基準の理解,視点変更,思考動機(安永な

ど,1998)及び,集団内で自己像の明確化の要求など計19項目にマウスで選択反応を入力

した。残る半数は閲読直後に上記の検査項への反応入力の後にチャットで内容討議を行っ

た。最後に全員がチャットの記録画面を見て Balesと Cohen(1979)の集団内対人関係尺

度(リーダーシップ,友好性,課題文脈志向性)項目でメンバーの発言を相互に3段階で

評定した。

�材料はフィールズ著「殿と重役」(イーストプレス社)より,日本政府の統制なしに

中国で軍事行動を起こした関東軍,会津藩の監督を受けないままテロに走った新撰組,議

会や政府の承認なしに中米でクーデターを企図したレーガン大統領の部下,多様な部下を

動かして旧ソ連のスパイ組織を作ったが組織の破綻から一網打尽にされたゾルゲ,多様な

部下に共通する目標だけを追求して組織維持に成功した大石内蔵助と有能でも野心家の参

謀は追放した豊臣秀吉について述べた32文を1文ずつ被験者ペースで閲読させた。1/3の

被験者は,「この文は専門家集団が監督されなければ暴走する事を述べた」との先行オル

グが,1/3は閲読中に4点の挿入質問が与えられ,残る1/3の被験者は無教示群に割り当

てられた。

結果:�再認成績を図5に示す。

d’変換後に2要因分散分析して逐語再認では交互作用(5%)が,推理再認では教示

の主効果が示された。この結果からは,討論による認知スタイルへの干渉と,先行オルグ

大阪経大論集 第55巻第6号88

-1

-2逐語・討議 推理・討議 逐語・検査 推理・検査

先行オルグ

挿入質問

無教示

図5 教示と討論の挿入位置による再認の差異

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条件下では理解の方向付けによるこれらの調整コストの削減を示唆し得る。

�上記の指標で集団内対人態度に関する項目を含めた上記の変数の主成分分析の結果が

表3である。

先行オルグ条件で集団と教示への同調が,挿入質問条件で写像制御が顕在化した結果は

実験2の結果と対応させ得る。

�発言内容のキーワードを求めてクラスタ分析した結果が図6である。

討論条件でのみ,統制と暴走などキーワードのクラスタが顕著に示された。

�チャット画面を見て自分以外の成員の発言について集団内対人態度の3段階評定値を

求めて Kruskal-Wallis検定した結果,友好性(例―気持ちを引き立てる―何にでも反対す

る)の得点は,討論先行条件で先行オルグ>無教示,挿入質問>無教示,検査先行条件で

も先行オルグ>無教示(全て5%水準)が得られた。文脈志向性(例―よく考えて発言す

る)得点では,討論先行,検査先行条件共に先行オルグ>無教示という結果が得られた。

自己評定値では,討論先行条件下のリーダーシップ得点(例―メンバーの意見をまとめた)

では先行オルグ>無教示の結果が示された。以上の結果からは,先行オルグは不完全な初

期理解の共有に伴った葛藤の解消と討論の枠付け効果を生じると言えよう。

本実験の結論として,先行オルグによる協同想起の枠付けと挿入質問による理解の確認

とを指摘し得たが,これらは教授活動による散文理解への促進効果であって,Edwardsと

Middleton(1986)の指摘する枠付け,確認と対応という自発的な集団活動の成果ではな

い。以上と関連して,教授活動による集団内対人態度の向上が上記の自発的な集団活動へ

Web上での協同学習形式による散文理解における類推の寄与 89

表3 討議と教授活動条件別に見た主成分分析結果

討議が検査に先行 検査が討議に先行

主成分 無教示 先行オルグ 挿入質問 無教示 先行オルグ 挿入質問

第1

想起(再認成績,類推,比喩理解)

知識利用(類推,自己像,思考動機,歴史)

類推(類推,自己像,過剰類推,視点のみ負主成分)

積極的写像(思考動機,比喩理解,過剰類推,逐語再認)

オルグ文脈で想起(再認,類推,基準,思考動機は負値)

推論と構造化(自己像,思考動機,推理再認,歴史,文字系列)

第2

構造性理解(基準理解,写像範囲,文字系列)

再認(再認,視点変更,比喩理解)

再認(再認,比喩,歴史,思考動機)

閲読表象の体制化(基準,自己像,文字系列のみ負主成分)

オルグ文脈で写像(写像範囲,文字系列,歴史は負主成分)

文脈との調整(逐語再認,基準,過剰類推)

第3

写像促進(過剰類推,歴史)

写像の精緻化(過剰類推,比喩理解,文字系列のみ負主成分)

写像範囲の理解(思考動機,写像範囲,基準理解は負主成分)

閲読内容の写像精緻化(歴史,比喩理解,逐語再認,類推は負主成分)

積極的写像(過剰類推,視点変更は負主成分)

写像と文脈理解(視点変更,写像範囲,類推,歴史)

第4類推(類推,過剰類推)

写像促進(過剰類推)

構造性推理(数列,過剰類推,写像範囲は負値)

写像の制御(視点,写像範囲)

知識活性化(歴史)

写像の精緻化(歴史,基準,比喩は負値)

累積% 78.12 80.77 85.26 85.84 81.09 85.92

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の強化を行う可能性についての検討が今後の課題となる。特に挿入質問条件下では写像へ

の制御機能が顕在化した結果に関しては, 基礎―目的領域間の比較と符号化の促進 (Gent-

ner, 2002)とその確認という視点での検討が今後の課題として残された。

2�4.結語にかえて:本章では協同学習形式による散文理解の際には,教授活動が集団

内の対人態度と類推の寄与のそれぞれを変化させる過程に関する指摘を試みた。実験1に

おいては不完全な初期理解が集団成員に共有された場合に見られる判断の動揺以外に,先

行オルグによって散文理解の方向を規定した結果としてこれらの動揺から生じた理解の抑

制を低減する機能と,コミュニケーション調整のコスト節減をも示唆した。実験2以下に

おいては,上記の先行オルグの機能以外に挿入質問による理解の確認による再認成績の向

上を指摘した。さらに上記の教授活動による集団内対人態度得点の向上をも指摘して,上

記のコミュニケーションの調整コストの節減と写像範囲の適正化をも示唆した。これらの

方向付けと写像範囲の適正化に関しては,web上の協同学習における傍観者的態度(Hud-

sonと Bruckman, 2004)をも視野にいれた検討が今後の課題として残された。

大阪経大論集 第55巻第6号90

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

統制暴走信頼目標少数疎通

123465

検査先行 挿入質問0 5 10 15 20 25

Rescaled Distance Cluster Combine

Dendrogram using Ward Method

CASELabel Num

信頼少数統制暴走疎通目標

361254

討議先行 挿入質問0 5 10 15 20 25

図6 討議での発言内容のクラスタ分析結果の一部

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