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155 1996 年の果樹 カ メ ム シ類の多発生に伴う カ ンキツの被害
1996年の果樹カメムシ類の多発生に伴うカンキツの被害
いち
(口絵写真①) を 観察した 結果, 多飛来園 で は 果 実 に 多
く の口針輸が観察 さ れた 。 特 に 落果した 果実のほ う が口
針鞘 は 多 く , よ り 多 く 加害 さ れた 果実 ほ ど落果の多 か っ
た こ と が示唆 さ れた (表ー 1 ) 。
ま た , 1996 年 は ウ ン シ ュ ウ ミ カ ン の裏 年 であ っ た た
め , 全体的 に 着果量が少 な く , カ メ ム シ類 に よ る 集中 多
飛来 を 受 け た 園 で は 着果量が さ ら に 減少し, 適正結果量
(葉果比 20�30 程度) 以下 と な る 園 や , ほ と ん どす べ て
の果実が落果した 園 も 生 じ た 。
2 集中多飛来後の落果は いつ ま で続 く か
川 沢 ら ( 1975) は , 着色期前 に 加害 さ れた 果実 は加害
後 10�15 日 程度 で落果が急激 に 進む こ と を 示し て い る
が, その後 い つ ま で落果が続 く か に つ い て は , 見解 を 示
して い な い。 通常夏場か ら 収穫期 ま で, 樹上選別 の た め
の摘果作業が行わ れ る が, 幼果期 に 集 中加害 を 受 け, 多
く の落果が い つ ま で も だ ら だ ら と 続 く よ う であれ ば, 摘
果 を 控 え な け れ ば な ら な い 。
洋で
手井佐賀県植物病害虫防除所
めじは
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誘
殺
数(頭/月)
カメムシ類の多飛来に伴う落果
1 集中多飛来直後の落果状況
カ ン キ ツ 類がカ メ ム シ類 に よ り , 幼果期 ま た は着色期
前 に 加害 さ れ る と 果実が落果す る ( 川 沢 ・ } 1 1村, 1975:
前, 1986) 。 本 県 に お い て 7 月 1 � 7 日 ご ろ に 多 飛来
を 受 け た 園 と 少飛来園の落果状況 を 7 月 15 日 に 比較し
た 結果, 明 ら か に 多飛来園に お け る落果率が高か っ た
(表-1) 。 しかし, こ の時期の落果 は 生理落果 と の重複 も
考 え ら れた が, カ メ ム シ類が吸汁した と き に 残 る 口針鞘
1996 年の佐賀県内 に お け る 果樹 カ メ ム シ類の発生 は,
5 月 中旬 か ら 8 月 上中旬 に か け て 多 く , 8 月 中旬 ご ろ を
境 に 減少す る 前期多発生型であ っ た (図 - 1 ) 。 特 に 6 月
下旬 か ら 8 月 上旬 を 中心 に , カ ン キ ツ , ナ シ, カ キ 等の
樹種 に お い て , 県 内各地で集 中 的 な 多飛来 と 被害が多 く
確認 さ れた 。
特に本県の露地栽培カ ン キ ツ で は , 通常実害 と して ほ
と ん ど問題 と な ら な か っ た 6 月 下旬 か ら 8 月 上旬 ご ろ の
幼果期 に , 県 内 各地で被害が発生した。 カ メ ム シ類の多
飛来 を 被 っ た 園 で は , こ の時期 に 多 く の落果が生 じ, 一
部の国で は, 枝梢の枯死や落葉 も 観察 さ れた。 生産農家
お よ び関係者 は, 異常 に 早い 時期の加害 と 想像 を絶す る
被害 に 驚 き , その後の対応 に 困惑した 。
こ の よ う な カ メ ム シ類の前期多発生 と 幼巣期 カ ン キ ツ
の加害 は, 今回限 り で終息す る こ と は な く , 条件 さ え そ
ろ え ば数年後 に も 同 じ よ う な 被 害 が生 じ る と 考 え ら れ
た 。 そ こ で, 露地栽培の ウ ン シ ュ ウ ミ カ ン に お い て , 幼
果期 に カ メ ム シ類の多飛来 を被 っ た 園 を 収穫期 ま で追跡
調査した 結果, こ れ ま で知 ら れて い た カ メ ム シ類 に よ る
被害 と は 異 な っ た 新 た な 知見が 2 , 3 得 ら れ た (井手
ら, 1997) 。 今回の報告で は , その結果 に つ い て 紹介し,
参考 に供した い。 ま た , カ ン キ ツ 栽培 に お い て , 今回の
多発生時 に , 予想して い た 以上の被害 を 生 じ た が, その
要因に つ い て も 述べ て み た い。
I
図 - 1 予察灯での果樹 カ メ ム シ類 (チャパネアオカ メ ムシ, ツヤアオカ メ ム シの合計) の 誘殺数 (県 内平均)一一一 13 一一一
Damage of Citrus by the Outbreak of the Stink Bugs Attack. ing Fruit Trees in 1996. By Y oichi IDE
( キーワ ー ド : カ メ ムシ類, チャパネアオカ メ ムシ, カ ン キ ツ ,被害解析)
( 1997 年)第 4 号第 51 巻疫l�j 物植156
表 - 1 梨樹カ メ ム シ類多発闘 に お け る 務柴状況
7 月 1 9 日以降の累積穫果率d,加害直後の洛架 お よ び加害状況"
1 0 月14 IJ
9 月1 7 日
8 月6 仁l
調査
*数樹上果実の 口量| 革ßI
落下果実の 口量| 鞘
飛来状況.,
(死虫密、度b,)品種 ・ 図 NO
26 日
頭!m'
多 (2463)
多 ( 1 343)
% 12 . 4
8 . 4
% 1 1 . 3
8 . 4
% 8 . 2
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% 7 . 2
5 . 3
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落架率
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少 ( 75)
少 ( 1 32)
少( 22)
上野早生 ・ l
大浦早生 ・ l
大浦早生 ・ 2
大浦早生 ・ 3
大浦早生 ・ 4
叫 ー 上野早生 ・ 1 , 大浦早生 ・ 1 では , 7 月 1�7 日 ご ろ に カ メ ム シ類の多飛来が観察 さ れた .
大浦早生 ・ 2�4 で は , 飛来 は ほ と ん ど な か っ た.刷 。 樹問下 に 落下 し た カ メ ム シ類の死虫密度, 大浦 ・ 1�4 で は 7 月 1 5 EI , 上野早生 ・ I で は 7 月 1 9 日 調査.
" : 7 月 15 日 調査, (落下率) = (樹冠下に落下 し た 全果実数) ! { (樹冠下 に落果 し た 全身L実数) + (樹上 の 全果実数) } x
1 00, 口 針革開数は, 実体顕微鏡下 (40�50 倍) で計測.
d) : 7 月 1 9 日 に , 各悶場約 90 架 (約 30 巣 x 3 樹) に ラ ベノレ し , 約 20 1=1 ご と に 落果の有無を調査 し た .
日寸
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治色歩合(分)
そ こ で今回 7 月 1 � 7 日 ご ろ に 多飛来 を受けた 2 闘場 と , 生育期間 を通 し て 飛来の少な か っ た l 圃場にお いて 7 月 19 日 に 果実 に ラ ベjレ を 取 り 付 げ, 収穫期 ま で約 20 日 ご と に落果の有無 を 調査 し た。 そ の結果, 収穫期 ま での累積落果は, 飛来が多 か っ た 回場でやや多 く なる 傾向 に あ っ た が, い ずれ の 圏場 に お い て も 約 10%前後で (表ー 1 ) , 摘果作業への影響 は少な い と 思われた。
よ っ て, 幼果期 にカメ ム シ類に よ っ て ひ ど く 加害を受け た果実は, 比較的早い時期 に 多 く の落果 を す る が, その後の落果は少な く な り , ほ と ん どが収穫期 ま で残 る もの と 思われた。
10 精度%
9
l ' 口 口 _' I 一口 口(加害程度) 1�2 3�4 1 �2 3
上 野 早 生 大 尚 早 生
図 - 2 果樹カ メ ム シ 匁i多飛来闘 に お け る 加害程度 別 の 果
実品質加害程度 7 月 19 日 に 果実表面に 残 っ た 口 針 翰数
を 肉眼で数 え , そ れ ぞれ, 口 針絹数が 0 の * 実 を加 害 程 度 0, 1 � 1O を 1 , 1 l�20 を 2, 2 1 �50 をみ 50 以上 を 4 と し た .
* は t 検定の結果有意差が認め ら れた こ と を 示 す .
仁コ*
「 一一一 「
一口一l酸度(%)
枝梢の枯 死 お よ び落葉
カメ ム シ 類 に 新 梢 が 加害 さ れ る と 枯死 す る (前,1986 : 安永 ら , 1993) が, 本県 に お い て も 一部の多飛来園では, 1汲汁加害 に よ り , ほ と ん どすべて の果実の落果と 多 く の校枯れ, 落葉が確認 さ れた ( 口 絵写真⑥) 。 この ま ま 樹が枯死す る こ と も 予想 さ れた が 8 月 下旬 ごろか ら 新薬が伸長 し は じ め, 特に努定や植調剤の散布 を行っ た と こ ろ で は, 樹 勢 回 復 が 良 好 で あ っ た (夏秋,1996) 。
H
果 実 の 外 観
幼果期 にカメ ム シ類の多飛来 を 受 け た 園 の果実の外観を収穫期 ま で約 1 か月 ご と に観察 し た 。 そ の結果, 口針鞘が多 く 残っ た果実ほ ど, 果皮表面 の ケ ロ イ ド症状 ( 口絵写真②) や吸汁痕の微小な く ぽみ ( 口絵写真③) を 多
14
W
果 実 の 品 質
幼巣期 にカメ ム シ類に集中加害を受け た果実 を収穫期に採集 し , 果実品質の低下 に つ い て検討 し た 。 多 く 加害さ れ, 口針鞘が多 く 残 っ た果実ほ ど, 果笑が小 さ く , 糖度お よ び着色歩合が低 く , 酸度が高 く な る 傾向 に あ っ た(井手 ら , 1997, 図 2) 。 今後, 接種試験を行い, 同様の結果が再現 さ れ る か ど う か を 検討 し た い。
皿
1996 年の果樹カ メ ム シ類の多発生に 伴 う カ ン キ ツ の被害 157
く 生 じ る 傾向にあ っ た (井手ら, 1997) 。 果皮表面 の ケロ イ ド 症状の約 6 割程度に, ま た吸汁に よ る 微小な く ぼみのほ と ん どに, 果皮内に口針 鞠の刺 さ っ た跡が観察 された こ と から, こ れらの症状 はカメ ム シ類に よ る 吸汁痕が傷 と し て残 っ た も の と 思わ れた 。 果皮表面のケロ イ ド症状 は, 集中加害直後から発生 し , 収穫期 ま で残 っ たが, 着色す る と 比較的 目立た な く な っ た。 ま た, カン キツ類がカメ ム シ類に よ っ て幼果期に加害 さ れ る と , 加害部周辺の果皮の発達が妨げられ, そ れが凹状の変形 と して収穫期 ま で残 る (安永ら, 1993) こ と が知られて い るが, 今回観察 さ れた微小な く ぽみ は, こ れに類似す る もの と 思われた。
カメ ム シ類に加害 さ れた果実は, 果皮 と じ よ う の う が密着 し, 剥皮 し に く く な る (是永ら, 1992) が, 多飛来園では, 同様の症状が多 く 確認 さ れた ( 口 絵写真④) 。ま た発生頻度は少なか っ た が, 剥皮 しに く い部分が特に多い果実 はやや小 さ く , 果皮 は 固 く ごつ ごつ し た ゆず肌状 と な り (井手ら, 1997, 口 絵写真⑤) , 青果用 と し て取 り 扱われず\ 加工用 と し て取 り 扱われた。
ま た, 着色前の加害果実では, 腐敗す る こ と は少 な いが, 被害部 の 変色が観察 さ れ た 事例 も あ る (J 1 1 沢 ・ 川村, 1973) 。 今回の調査で, 集中加害直後に落下 し た 果実では果皮 お よ び果肉に明らか な変質が確認 さ れた が,収穫期 ま でト樹上に残 っ た果実では, 果肉の変質や腐敗は確認 さ れなか っ た。
V 被害多発の要因
1 過去最高の越冬量 と 少 な い ヒ ノ キ越果量
1996 年に本 県 のカン キ ツ 類 を 多 く 加害 し た種は, ほと ん どがチャ パ ネ ア オ カメ ム シであ っ た 。 本種の越冬孟が非常に多か っ た こ と (図-3) , 本穫の主 要 な産卵増殖源であ る ヒ ノ キ盤果の着果孟が少なか っ た こ と が, 5 月中句から 8 月 上中旬, 特に 6 月 下旬から 8 月 上旬 を 中心に被害が集中 し て生 じ た 原因 と 思わ れ る 。
2 異常多飛来
こ れ ま でのカメ ム シ類に よ る 被害は, 園の周辺な ど比較的狭い範囲に限られ て い た が, 1996 年にお い て は,圏全体が被害を被っ た 例が多 く 観察 さ れた。 ま たカメ ムシ類の防除は通常薬剤散布で対応 さ れ る が, 中には夕方ご ろ に, 数 日 関連続 し て イ ナ ゴの大群の よ う に飛来 し た園 も あ っ た。 予想以上の飛来量に, 薬剤防除 だ けでは対応で き な かっ た。
3 対応の遅れ
カメ ム シ類の加害に よ る カン キ ツ 類の被害につ い て ,幼果期の被害につ い て は 6 月 から秋期 ま での被害 は あ
15
2 . 0 1一一一一一一一一一一一一一 一一一一一一
て百平z 1 5 目
当正数 l . 0 ト一 一一一一一一一一0 . 9
盆 I 0 . 6 0.Ji 0 . 6 / 0 . 5 1 πl'
0 . 0 8 6 87 88 89 9 0 9 1 92 93 94 95 96(年)
図-3 カ メ ム シ越冬量の年次別推移 (県内約 20 地点の平
均)
ま り 知られて い な い (安永ら, 1993) と か, 生理落果の多い時期であ る た め, 余程の寄生密度にならな い限 り 問題にならない (J 1 1 沢 ・ 川村, 1975) と か, あ ま り 問題視さ れな い見解が多か っ た 。 ま た, こ れ ま での佐賀県内カン キ ツ栽培にお い て も , 通常は着色期前後からの被害 は問題 と な っ て い た が, 幼果期の加害に よ る 被害は, ほ とん ど問題 と ならな か っ た。
こ の よ う な, ý;j]果期の加害に対す る 認識の甘 さ と , 通常 よ り も 早い時期の加害に, 対応が遅れた こ と も 被害多発の要因 と 考 えられ る 。
お わ り に
こ れ ま で述べた 調査結果から, カン キ ツ類が幼果期にカメ ム シ類によ る 集中加害 を受 け る と , 落果や校梢の枯死が認められ, 落果せずに収穫期 ま で、残 っ た果実は, 少飛来園の も の と 比べ る と , 外観が悪 く , 商 品 性 は 劣 った。 こ れ ま では, 主に着色期前後 ご ろ 以降の加害が重要視 さ れ, 幼果期の被害につ い て は 問題視 さ れ な か っ たが, 1996 年の よ う な 多発生年の よ う な, 集中多飛来に遭遇すれば, た と え幼果期であ っ て も 被害が生 じ る こ とが明らか と な っ た。 ま た落果や落葉に よ り , 収穫皆無 とな っ た 園 も 観察 さ れた 。 こ の よ う な 大惨事に至らな い よう にす る た めに も , カメ ム シ類の多発生が予想 さ れ る 場合には, 圏内の寄生お よ び飛来の状況な ど を こ ま めに観察 し, 早めに|坊除 を 行 う 必要があ ろ う 。
引 用 文 献1 ) 井手洋一 ら ( 1 997) 九病虫研会報 43 : (投稿中)2) 川 沢哲夫 ・ 川村 満 ( 1 975) 原色図鑑カ メ ム シ百種, 全
国w村協会, 東京, pp207�21 1 3) 是永龍二 ら ( 1 992) ひ と 自 で わ か る 架樹 の 病害虫第 1
巻ー ミ カ ン ・ キ ウ イ ・ ビ ワ , 日 本植物|坊疫協会, 東京,pp18�20
4) 前 博視 ( 1986) 関西病虫研報 28 : 55 5) 夏秋道俊 ( 1996) 平成 8 年度佐賀県果樹試験場業務年
報, (印刷中)6) 安永担J秀 ら ( 1 993) 日 本原色 カ メ ム シ 図鑑, 全国鈴村教
育協会, 東京, pp295-297