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9日看管会誌 Vol. 14, No. 1, 2010
The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 14, No. 1, PP 9-13, 2010
日本看護管理学会緊急フォーラム:第1部 診療報酬改定を読み解く
平成 22 年度診療報酬改定を読む~看護管理の今とこれから~
齋藤訓子Noriko Saito
社団法人 日本看護協会 Japanese Nursing Association
Ⅰ.はじめに
診療報酬の改定は,昨今,看護の継続教育等に看護の経済的評価として盛りこみ始められてから,看護管理者の関心が非常に高まっている.しかし,診療報酬を看護管理に役立てるには,何が変わったかだけではなく,改定の内容から今後,医療提供体制がどう変化していくのかの「先を読む」ことだと筆者は考えている.今回改定から今後の医療・介護提供体制において何が想定されるのか,看護管理者として平成24年の介護報酬との同時改定に向けて何を準備しなければならないのかを考えてみたい.
Ⅱ.平成22年度診療報酬概要
1.改定の基本方針平成18年の医療制度改革で顕在化した医療現場
の問題を少しでも改善しようと,平成20年,22年の改定が行われてきたが,平成 22 年の改定は,政権交代や中央社会保険医療協議会(以下,中医協)の委員の交代等もあり,従来の改定と大きく変わった.それは医科の報酬について入院と外来で配分を明示したことである.さらに入院には昨今の救急のたらいまわし等,依然解決できていない医療現場の問題を踏まえ,約 5700 億円のうち(改定率:全体で+ 0.19%,診療報酬本体+ 1.55%,<医科+ 1.74%,歯科+ 2.09%,調剤+ 0.52%>薬価改定等- 1.36%)約 4000 億円を急性期に投入している.
診療報酬改定の基本方針は,社会保障審議会医療保険部会・医療部会で検討され,2 つの重点課題と4 つの改定の視点を基本方針とした.(表1)
2.看護の評価日本看護協会の重点要望でもあった専門看護師・
認定看護師の配置評価はチーム医療の推進という名目のもとでいくつか反映された.安全管理の一環としての「感染防止対策加算」や心身の状態に配慮したうえでのインフォームドコンセントである「がん患者カウンセリング料」,呼吸器の早期離脱による回復の促進および重症化予防の「呼吸ケアチーム加算」,救急受診の際に適切に診療へ振り分ける「院内トリアージ加算」などがある.どの項目も現場での実践の結果,非常に有効であることのデータが示された.とくに「感染防止対策加算」は,感染症が発生すると抗菌薬の使用等により経営への影響が大きく,それはすなわち医療費に直結する.感染管理認定看護師等が配置されている病院では,適切なサーベイランス活動等によって,NRSA罹患率や創傷感染率が減少している実績がある.中医協においても昨今のインフルエンザやノロウイルス対策の必要性に鑑み,特段の異論がなくこの加算は合意された.
Ⅲ.今後の医療・介護提供体制
看護に関連する改定項目(表 2・表 3)から以下,筆者が今後の医療・介護の提供体制に大きく影響を及ぼすと考えられる改定項目を挙げ,中医協の議論も交えながら今後の医療・介護の提供体制がどうなるのかを予想してみたい.
1.急性期医療の機能分化一般病棟入院基本料 14 日以内の加算が 450 点に
10 日看管会誌 Vol. 14, No. 1, 2010
引き上げられており,より早期退院へのインセンティブになっていることは見て取れる.さらに中医協では,入院病棟基本料の議論の中で,一般病棟の13 対 1・15 対 1 入院基本料を算定する病棟に 90 日を超えて入院する長期入院者への評価が妥当かどうかについて論点として示された.通常,一般病棟は「急性期」ととらえられているが,この 90 日を超える患者さんが一般病棟に少なからず存在することと,その患者の状態像が療養病棟の患者と重なっているとの意見が上がった.議論では,「地方では,13 対 1 や 15 対 1 でも急性期病院の機能を担っているところもある.療養病棟では対応できない患者を見ており,なくしてしまうと患者の行き場所がなくなる」とか,「一般に考えて,90 日を超えれば急性期とは呼べない.療養的な要素があるのであれば,支払い方式を変えるべきである」などの意見が出された.今回は,大きな見直しはなかったものの,次回改定に向けて検討することとなっており,委員からの指摘にもあるように,一般病棟は急性期であるという認識ならば,当然に見直しがされると思われる.13 対 1 や 15 対 1 の医療機関はどのような医療を担うのか,使命を明確にすることが必要になるだろう.
また,10 対 1 入院基本料の届け出施設に認められた「一般病棟看護必要度評価加算」も急性期医療の
機能分化への試金石と考える.急性期医療の看護必要度の実態と看護師配置の濃淡によって何が違うのかが見えてくれば,24 年改定ではこの看護職員配置基準が議論になるのではないかと思われる.
2.医療と介護の連携超高齢者の割合が多くなっていく社会で,医療と
介護でサービスが分断されてしまっては制度そのものが本末転倒になってしまう.今回改定で特徴的なのは随所に医療と介護の連携がちりばめられている.新設された「介護支援連携指導料」は,退院後に介護サービスの導入や要介護度の区分の変更が見込まれる患者に対し,見込みがついた段階から看護師等がケアマネージャーと共同で介護サービスの必要性等について指導を行った場合に算定ができる.
また地域連携診療計画の加算として退院後の療養を担う医療機関や介護サービス事業所等へ退院後の診療計画を情報提供することを評価した「地域連携診療計画退院計画加算」が新設されている.
また「総合評価加算」は,介護保険法の対象者に治療が終わった後,できるだけ早期に日常生活能力等の評価を総合的に実施し,介護サービスの必要性等をその評価の中に盛り込むことを求めている.治療が終われば介護の入り口が待ち受けていると考えてもいいだろう.
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重点課題1:救急、産科、小児、外科等の医療の再建地域連携による救急患者の受け入れ、新生児集中治療・救急の評価、NICU入院患者等の後方病床評価等
重点課題2:病院勤務医の負担の軽減(医療従事者の増員に努める医療機関への支援)
一般病棟入院医療の評価、医療関係職種の役割分担と連携の評価、病医院勤務医の負担軽減の体制評価、地域連携評価等
<改訂の視点>Ⅰ.充実が求められる領域を適切に評価していく視点
がん医療、認知症、感染症対策、肝炎対策、精神医療、歯科医療等
Ⅱ.患者から見てわかりやすく納得でき、安心・安全で、生活の質にも配慮した医療を実現する視点
明細書発行の推進、医療安全対策、重症化予防等
Ⅲ.医療と介護の機能分化と連携の推進等を通じて、質が高く効率的な医療を実現する視点
急性期医療機関における看護必要度の評価、回復期等リハビリテーションの評価、在宅医療・訪問看護の推進等
Ⅳ.効率化の余地があると思われる領域を適正化する視点Ⅴ.後期高齢者医療の診療報酬について
平成22年度診療報酬改定の基本方針
表1 改訂の基本方針
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3.地域連携の強化平成 18 年から強化されてきたのは地域連携であ
る.診療の連携は,大腿骨骨折や脳卒中のクリティカルパス等,診療計画との共有と情報提供で培ってきたが,平成 20 年から強化されたのは,看護がコーディネートする長期療養から在宅への道を調整する退院調整支援であった.今回改定ではさらにこの部
分が強化された.「慢性期病棟等退院調整加算」と名称を変えて社会福祉士の配置を施設基準に求めている.より手厚い体制での調整に加算がされている.また,かねてから医療現場から要望のあった急性期医療からの退院については,65 歳以上の患者または40 歳以上の特定疾患を有する患者という限定つきではあるが,「急性期病棟等退院調整加算」が新設さ
看護に関連する主な改定項目①
視点 改定項目 要件等
救急・産科・小児、外科等
○院内トリアージ加算(30点)○ハイリスク分娩管理加算(2000⇒3000点)○小児入院管理料2の新設○救急搬送患者地域連携紹介・受け入れ○新生児特定集中治療室退院調整加算○新生児治療回復室入院管理料○在宅重症児受け入れ加算
実施基準、院内掲示等多胎妊娠、子宮内胎児発育遅延を含
看護配置7対1以上
専従の看護師配置常時6対1
勤務医負担軽減・地域連携
○一般病棟入院基本料14日以内の加算引き上げ○一般病棟入院基本料特別入院基本料新設○急性期看護補助体制加算○栄養サポートチーム加算○呼吸ケアチーム加算○急性期病棟退院調整加算○介護支援連携指導料
72時間満たせない場合7対1、10対1入院基本料限定
6か月以上の専門の研修を修了65歳以上、40歳以上の特定疾患ケアマネージャーとの協働
がん医療・精神等
○がん診療拠点病院加算引き上げ○がん患者カウンセリング料○精神病棟入院基本料13対1創設
キャンサーボード設置6か月以上の専門の研修を修了
表2 主な改訂項目①
看護に関連する主な改定項目②
視点 改定項目 要件等
安心・安全、生活の質重症化予防
○明細書発行義務化○医療安全対策加算引き上げ、専任要件新設○感染防止対策加算
○リンパ浮腫指導管理料算定拡大
感染対策に係る6カ月以上の研修修了外来での算定可
医療と介護機能分化、効率的な医療提供
○一般病棟看護必要度評価加算○療養病棟入院基本料再編○がん患者等リハビリテーション料○訪問看護療養費算定のステーション数見直し○訪問看護療養費引き上げ○乳幼児等への訪問看護加算○訪問看護ターミナルケア療養費算定要件見直し○複数名訪問看護加算
10対1入院基本料算定患者
3歳未満、3歳から6歳まで
表3 主な改訂項目②
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れている.さらに今回改定では,NICU からの在宅復帰支援・調整に「新生児特定集中治療退院調整加算」が新設されている.
また療養病床の機能評価の一つに急性期の入院医療を経た患者や在宅療養中の患者,介護保険施設の入所者の状態変化に伴う入院を受け入れた場合の評価も新設され,シームレスな医療提供体制が構築されつつある.
Ⅳ.同時改定に向けて
前述した 3 つのことから平成 24 年の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて看護管理者が考えていかなければならないことは何であろうか?
1.超急性期医療の人員配置と夜勤労働者確保今回改定から 10 対 1 入院基本料の届け出施設に
認められた一般病棟看護必要度評価加算と 7 対 1 入院基本料の条件である看護必要度評価のデータによって,入院患者さんの状態の相違,入院期間の相違,さらに看護職員の実際の配置数が見えてくるだろう.人員配置と看護必要度の改善,入院期間の短縮の関係が見えてくれば,超急性期の医療提供の構造として 7 対 1 より手厚い配置基準が必要になってくるのではないかと考える.現在の 7 対 1 入院基本料を届け出ているところでも非常に短期間で治療を終え,自宅退院を実現しているところは,実際にはより手厚い配置をしているのではないかと思うが,平成 18 年に起きた急性期にふさわしくない医療機関が届け出をするといったことがないように,超急性期の定義や条件を明らかにして,より手厚い配置基準が議論されなければならない.
さらに深刻なのは夜勤の問題である.中医協ではいわゆる 72 時間を撤廃してほしいという診療側の意見が出された.看護師不足の根本的な原因は,看護職の労働環境が劣悪である故の離職の多さである.その現実を無視して,さらに夜勤時間数の制限をとりはらおうとする病院経営者たちの意見に,坂本専門委員は,「断じて同意することはできない.勤務医の労働環境については,議論がなされ,対応がされるのに,看護の労働環境の劣悪さは議論されない」と反論している.このことは中医協の付帯意
見に反映されている.つまり次回改定までに夜勤労働 72 時間については,何らかの議論がされる.平成 22 年 6 月から施行される「改正育児・介護休業法」では,101 名以上の従業員がいる事業所に短時間正規雇用が義務付けられる.医療機関においても同様であり,ますます夜勤従事者の確保が困難になる.夜勤労働がきつくなれば,離職に跳ね返る.人数が確保できなければ,手厚い配置基準の実現は難しい.看護職員の離職防止・定着促進対策が重要になる.
2.専門性やチーム医療評価の拡大看護活動の多くは頭脳労働であり,患者の状態を
見て看護学の知識と経験をもとにした専門的な判断があって,その後の行動が決定される.その行動は,看護技術を駆使して合併症や重症化の予防,回復の促進,自立への支援,そしてその人の暮らしを支えることにつながっていく.その専門的な判断と看護技術を駆使したケアの結果が診療報酬において看護の専門性としての評価につながる.今回改定では,チーム医療の推進の中で看護の専門性が評価されている.
今後,このチーム医療評価については,中医協の検証部会の中で検討すべく調査対象としてあげている.
今後,この傾向は続くと思われる.特に先般,まとめられた「チーム医療の推進に関する検討会」報告の中では,看護師はチーム医療の「キーパーソン」と位置づけられ,摂食嚥下チーム,口腔ケアチーム等が例として挙げられている(厚生労働省,2010)。他にもうつ傾向やせん妄への早期介入とケアをサポートするチームケア(赤沢ら,2010)やフットケアチーム(医療タイムス,2010)など各病院が自主的に先駆的に取り組まれている実態がある.診療報酬に反映しようとするならば,ケアの効果,そのケア技術の普及性,ケア技術の成熟度,そして医療費への影響に言及した実践報告や調査研究を期待したい.
3.退院調整の機能強化と外来機能の充実これからの退院調整看護師は非常に大きな役割を
果たすことになる.単に転院先や在宅へ戻すことを調整するのではなく,患者さんが帰った先のサービス資源の有無等を把握して,帰った場でその人なり
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の生活を維持できるための支援を含めて調整することが重要である.とくに急性期が機能分化し,より一層在院日数が減少する.つまり急性期医療は,治療に特化してくる可能性が大きく,看護の機能としては,患者さんが入院した時から「自宅で暮らせる」だけの身体機能に回復させ,重症化・合併症予防等徹底したリスク管理と自宅でのセルフケアの自立を治療と同時に求められる.しかし,ベットサイドで十分にその機能が果たせるのかといえば,厳しい環境にあると言わざるを得ない.
退院調整看護師は,病棟の看護職員とともに患者さんが入院した時からかかわりを持ち,帰る先のサービス提供者である訪問看護師や転院先の看護師等と顔と顔が見える関係を構築し,連携していくことが望まれる.
急性期は在院日数がさらに短縮される傾向にあるが,そういった中で今後,もっとも重要になろうと思われるのは,外来機能だと筆者は考えている.外来では,ご自宅での療養の状態を確認し,服薬や日常生活上の留意点の継続のための働きかけが重要である.外来での療養指導が再入院防止の鍵を握っているし,療養指導の結果が評価される時代になっている.一定の治療が終われば,医学の関与は大きくないので,あとはご自分の生活の中で,治療後の身体とどう付き合っていくかである.通院が出来る間,ここのサポートが出来るのは,外来看護だけであり,いまでは専門看護師や認定看護師が自分たちで外来を医師との連携の下で行っている実態もある.また平成 19 年 12 月 28 日に発出された医政局通知「医師および医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」(厚生労働省,2007)の中では,医師と看護職員との役割分担の文書に以下のような文言がある.『5)患者・家族への説明医師の治療方針の決定や病状の説明等の前後に看
護師等の医療関係職種が,患者との診察前の事前の面談による情報収集や補足的な説明を行うとともに患者,家族等の要望を傾聴し,医師と患者,家族等が十分な意思疎通を取れるよう調整を行うことで・・・・(略).アンダーラインは筆者』
アンダーラインに注目をしてほしい.診察前の事前の面談による情報収集を推奨しているのである.つまり,外来では医師の診察前後の時間を使ってケ
アを提供できる看護外来の実施が可能である.外来の待ち時間を有効にするためにも,ぜひ,取り組んでいただきたい.
4.訪問看護につなげる看・看連携超高齢化社会は,療養が長期化しつつ,今後,年
間 166 万人が亡くなる多死時代となる.これをどのように支えていくのかを考えた場合に,すべて病院や介護施設でのサービスで賄えるはずがない.なるべく住み慣れた自宅で暮らしつつ,死へ向かうことを支えなければならない.それには訪問看護が要であるが,さまざまな調査によれば国民が知らない,病院の看護職が訪問看護を知らない等の声が聞かれる.いつまでも病院にはいられない状況は確かであり,介護保険施設も簡単には増えないので,これからの退院調整看護師は,退院される患者さんに自宅で暮らせる選択肢として必ず訪問看護サービスを明示し,看護と看護の連携の機能を担っていただきたい.
Ⅴ.終わりに
平成 22 年の診療報酬改定の答申に当たって中医協は 16 の附帯意見を出している.看護職員の夜勤時間数の問題や医療と介護の連携,訪問看護の評価,そして検証部会ではチーム医療の項目や新設された項目について 24 年度の改定に向けて検討,調査および検証を提案している.新設されても届け出されない状況であれば,国民のニーズに適していないと判断される.看護の評価については形骸化しないようヒヤリング等を重ねて改定の影響を検証したい.
■引用文献
赤沢雪路 , 上野優美, 福榮みか (2010) 3D サポートチームが行く : 看護学雑誌,74 (1),30-43. (注3D:うつ Depression,せん妄 Delirium,認知症 Dementia)
医療タイムス (2010) 特集 加算新設で期待高まるチーム医療―全科連携が病院力を引き出す: 医療タイムス社,1958,4-9.
厚生労働省 (2007) 医師および医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について 医政発 1228001 号平成 19 年12 月 28 日: http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/html/tsuchi/contents.html(2010 年 5 月 20 日閲覧)
厚生労働省 (2010) 第 11 回チーム医療の推進に関する検討会報告書: http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0512-6g.pdf
(2010 年 5 月 20 日閲覧)