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SUS316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返し速度 および温度ひずみ波 …

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Page 1: SUS316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返し速度 および温度ひずみ波 …

672

論 文

SUS316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返 し速度

および温度ひずみ波形の影響†

恒 成 利 康* 堀 川 武** 岡 田 友 信**

武 浩 司** 宮 下 卓 也**

Effects of Frequency and Temperature-and Strain-Waveform

on Thermal Fatigue Strength of Type 316 Stainless Steel

by

Toshiyasu TSUNENARI, Takeshi HORIKAWA, Tomonobu OKADA,Koji TAKE and Takuya MIYASHITA

(Technical Institute, Kawasaki Heavy Industries Ltd., Akashi)

The effects of frequency and temperature-and strain-waveform on thermal fatigue strengthwere examined by conducting out-of-phase and in-phase thermal fatigue tests with three kinds oftemperature-waveforms (fast heating and fast cooling, slow heating and slow cooling, slow heatingand fast cooling) under temperature cycling between 350-650℃ and by isothermal low-cycle fatigue

tests at 650℃ under cyclic frequencies of 0.5-0.039cpm. The following results were obtained.

(1) The effect of frequency on fatigue life in out-of-phase thermal fatigue was as small as inisothermal low-cycle fatigue, whereas in in-phase thermal fatigue it was much greater and thefatigue life reduction was more remarkable in low frequency.

(2) The effect of temperature-and strain-waveform on thermal fatigue life was still smaller thanthe effect of frequency on out-of-phase thermal fatigue life.

(3) The fracture mode of out-of-phase thermal fatigue was the transgranular type even at thelowest frequency tested, but that of in-phase thermal fatigue changed to the intergranular type atlow frequency.

(4) Out-of-phase and in-phase thermal fatigue data obtained at the test condition of such anextremely low frequency as 0.039cpm were found to coincide well with ⊿εPC-NPC and⊿εCP-NCP

relations, respectively. (Received Oct. 29, 1982)キー ・ワー ド: 熱疲労, ひずみ範 囲分割法, 粒界破壊, 炭化物

1 緒 言

原子 力機器あ るいは ガスタービ ンなどの高温用機器

の多 くは各種の外力に よって発生す る応力 の繰返 しば

か りでな く, 起動停止あ るい は負荷 の変動 の過渡状態

において作動流体や ガス温度の変化に よって発生す る

熱 応力の繰返 しを受け る. 特に熱応力 の場合 はそ の繰

返 し数は比較的少いが, 応力値が大 きいため熱疲労強

度 の解明 と寿命 予測が重要 な課題であ る.

ところで, 高温低サ イクル疲労におけ る クリープ と

疲 労の重 畳効果に関す る研究 はさか んであ り, 特 に最1)

近 ではひずみ範囲分割法 に よる検討が行われ, 耐熱 ス

テ ンレス鋼 な どに対 して はか な りの成果が収め られ て

2)

い る. すなわ ち, 高温低 サ イクル疲労は, PP, PC,

CC, CPの4種 類 の基本疲労強度 に分類 できるこ と,

さらに耐熱 ステ ンレス 鋼 にお いて はPP, PC, CC,

CPの 順に強度が低下す ることが 明 らか にされ ている.

一方, 熱疲労 に関す る実験的研究 もある程度実施 さ3)

れ, データも少 なか らず蓄積 され ているが, 実験装置

あ るい は実験期間 などの制約 に よって繰返 し速度 の比

較的高 い限 られた実験条件 のものが多 い. そのため,

out-of-phase 熱疲労 とPC形 疲労, in-phase 熱疲労

とCP形 疲労 の定性的 な対応 が考 え られ ている ものの4)

充分 に検討 され ている とは言 えない. そ こで本研 究で

は, SUS 316鋼 を用 いて, 比較的 高 い 繰返 し速度

(0.5cpm) といままでにないか な りの 低繰返 し速度

(0.039cpm) の熱疲労強度 を比較 し, まず, (i)熱疲労

寿命 に及 ぼす繰 返 し速度 の影響 を調 べ, 次に繰返 し速

†原 稿受理 昭和57年10月29日*川 崎重工業(株)技術研究所 明石市川崎町

**正 会 員 川崎重工業(株)技術研究所 明石市川崎町

(80)「 材料 」第32巻 第357号

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SUS 316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返し速度および温度ひずみ波形の影響 673

度は0.039cpmの まま一定 に し, 昇温速度 と降温速

度の比を1/50に す ることに よって温度波形 とともに

ひず み波 形 も非対称に した条件下 の熱疲労試験 を実施

し, (ii)熱疲労寿命に及ぼす温度ひずみ波形 の影響 を調

べた. また破面観察 に より, (iii)繰返 し速度 の低下 お よ

び温度ひずみ波形の変化が破壊形態 に どの ように影響

す るかについて 検討 した. さらに, out-of-phase 熱

疲労 とPC形 疲労, in-phase 熱疲労 とCP形 疲 労の

対応を考 えた場合, 繰返 し速度 の低下 お よび昇温 速度

の低下 と降温速度 の増加 は, ともに不均 衡ひず み成分

(⊿εPCあ るいは ⊿εCP) を増加 させ る効果 があ ると 考

え られ るので, 行 った熱疲 労試験 結果 と公表 されてい

るSUS 316鋼 の ⊿εij-Nij関係を比較 す るこ とに よ

って, (iv)out-of-phase 熱疲労寿命 とin-phase 熱疲

労寿命 の限界値 につ いて検討 を加えた.

2 実 験 方 法

2.1 供試材 および試 験片

供試 材は1060℃溶 体化処 理 のSUS 316鋼 丸棒 材

であ る. Table Iに 化学成分 を, Table IIに 室温 お

よび650℃に おける機械 的性質を示 す.

試 験片は, 中空円筒形状の もの と中実 円柱形状 のも

の2種 類を用意 し, 熱疲労試験 には中空試験片 を, 一

定温度の高温低サ イクル疲労試験に は中実試験片 を使

用 した. 熱疲労試験片を中空 にし, 内外面両方か ら圧

縮空気で冷却す ることに より, 肉厚方 向の温度分布 を

極力抑え, かつ冷却速度をか な り高速 にす るこ とがで

きる. Fig. 1に 中空試験片 の形状お よび寸法 を示す が,

中実試験片 は中空試験片 の外形形状 お よび寸法 に等 し

い. なお, 中空試験片 の平行部 内周面 はホーニ ング加

工を施 して お り, 自乗平均 あ らさ (Hrms) は0.6μm

であ る.

2.2 実験装置お よび方法

本研究に用いた実験装置 はマイコ ン制御 の電気油圧

サ ーボ型引張圧縮疲労試験機であ り, 高周波 に よる加

熱装置 とエ アコ ンプ レッサを使 った冷却装置を備 えて

い る. 試験の制御お よび データ処理 はすべ て計算機 に5)

よ りオ ンライ ン化 されて いる.

軸方 向変位 は標点距離16mmの 差動 トランス型 伸

び計 に よって測定 した. 試験温度 は0.2mm径 の白

金-白 金 ロジウム熱電対 に よって測定 し, 標 点間内 は

指示温度 に対 して常 に±5℃以 内に制御 されてい る.

熱疲労試験 におけ るひずみ制御 方法 は普 通 よく行わ

れてい る方法を計算機 に より自動 化 した ものであ る.

す なわ ち, 試験開始前 に無 負荷 の状態 で試験片 に温度

サ イ クルのみを与 え, 自由膨張 させた ときの平 均伸び

率 α(mm/℃) お よび 中間温度 に おけ る 標点距離l0

(mm) を計算機に読み取 らせ, そ れか ら計算 され る熱

ひずみ範 囲⊿εT=α⊿T/l0 (⊿T: 温度範囲) と, あ らか

じめ与 えて いる熱 ひずみ の拘束率R=-⊿ε/⊿εT(⊿ε:

熱ひずみ以外 の力学的 ひず み範 囲) か ら試 験ひず み範

囲 ⊿εap=⊿εT+⊿ε=(1-R)⊿εTを 決 めてい る. なお,

非弾性 ひずみ範 囲 ⊿εinはヒス テ リシスループ上 で 昇

温側 お よび降温側 において応 力が0に な る温 度Taお

よびTbを 用 いて次式 に よ り計 算 され る.

⊿εin=⊿ε・Tb-Ta/⊿T (1)

2.3 実験条件

熱疲労試験 はすべ て350⇔650℃の 温 度 サイ クルで,

温度 とひず みが同位相にな る in-phase (R<0) と逆

位相 にな る out-of-phase (R>0) を三角波形下で行 っ

た. Fig. 2に 熱疲 労試 験におけ る温度, ひずみ, 応力

の各波 形を模式 的に示す. 温度波形 として は, まず昇

Table I. Chemical composition (wt. %).

1060℃ W. Q.

Table II. Mechanical properties.

Fig. 1. Cylindrical specimen for thermal fatigue.

Dimensions are milimeters.

Fig. 2. Schematic diagram of temperature-,

strain-and stress-waveform in in-phase

and out-of-phase thermal fatigue.

昭和58年6月 (81)

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674 恒成利康, 堀川 武, 岡田友信, 武 浩司, 宮下卓也

温速度 (Th) と降温速度 (Tc) の 等 しい 対称温度波

形 の熱疲 労試験 を0.5cpmと0.039cpmで 行 い,

さ らにThとTcの 比 が1/50の 非対 称温度 波形の熱

疲労試験 を0.039cpmで 行 った. 以下それぞれを高

速昇 ・降温熱疲労, 低速 昇 ・降温 熱疲 労, 低 速昇温-

高速降温熱疲労 と呼 ぶ. なお, 行 ったひずみ制御方法

で は, 拘束率Rを 変 えるこ とに よって 全 ひずみ範囲

⊿ε=-R(α⊿T/l0) を変化 させてい るので, ひず み速

度 ε=-R・αT/l0は⊿εに 比例 して変 化す る. 詳 し

い熱疲労 の試験条件 をTable III(a)に 示す.

高温低サ イ クル疲労試験 は, 650℃に おいて 熱疲 労

試 験に対応す る繰返 し速度 お よびひず み波形 下で行 っ

た. その試験条件をTable III(b)に 示す. なお, 破

損繰返 し数おNfは, 引張側 の応 力が最大値 を とった後

それ の3/4に 応力が低下 した ときの繰返 し数 とした.

3 実験結果 および考 察

3.1 繰 返 し速 度の影響

Fig. 3に 熱疲労 と高温低サ イ クル疲 労の試 験結果を

全ひずみ範 囲⊿εお よび非弾性ひずみ範 囲 ⊿εinと,

破損繰返 し数Nfの 関係 で示す. 0.5cpmの 高速 昇 ・

降温熱疲労 と0.039cpmの 低速 昇 ・降温熱疲 労を比

較す る と, まず, 0.5cpmの 場合 は, in-phase 熱疲 労

寿命 と out-of-phase 熱疲労寿命 に大差 はな く, 650℃,

等繰返 し速度 の高温低 サイ クル疲 労 と全ひず み範 囲,

非弾性 ひずみ範 囲の どち らで比較 して もほぼ等 しい寿

命 を示す. 一方, 0.039cpmの 場合 は, in-phase熱

疲 労が0.5cpmの 高速昇 ・降温熱疲労 に 比 べ1/5~

1/8に 寿命 が低下 す るが, out-of-phase 熱疲労寿命

の低 下は in-phase に比べ る とかな り小 さい.

Fig. 4はFig. 3の 結果 を破損繰 返 し数 と1サ イク

ルの 時 間 の 関係 で 整理 した ものであ る. これ よ り

out-of-phase 熱疲労 の寿命低下 の こ う配 は-0.16で

あ り, 高温低 サ イクル疲労の-0.19に 近い値を とる

が, in-phase 熱疲労 の場合 は-0.74で あ り, それ ら

に比 べ こ う配がかな り急な ことがわか る. す なわ ち,

out-of-phase 熱疲 労 におけ る 繰返 し速度 の影響 は,

高温低 サ イクル疲労の繰返 し速度効果 とほぼ 同程度 で

あ ると考え られ るが, in-phase 熱疲労 におけ る繰返

し速度 の影響 は, out-of-phase 熱疲労や高温低 サイ

クル疲 労 よ りもかな り大 き く, 単純 なひずみ波形下 の

高温低 サ イクル疲労 とは直接に比較で きないこ とがわ

か る.

Table III. Tests conditions.

(a) Thermal fatigue at 350-650℃

(). Time for heating and cooling, min.

(b) Isothermal fatigue at 650℃

# εten.=10-3%/s (⊿ε=1.5%)

67×10-4%/s (1.0%)

Fig. 3. Relationship between total or inelastic

strain range and number of cycles to failure.

Fig. 4. Relationship between number of cycles

to failure and time for one cycle.

(82)「 材料」第32巻 第357号

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SUS 316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返し速度および温度ひずみ波形の影響 675

3.2 温度ひずみ波形の影響

拘束 率を一定に した熱疲労試験で は, 温度波形を変

化 させ るとそれに伴 ってひずみ波形 も変化す る. つ ま

り, 実験を行 った 低速昇温-高 速降温 の温度波形下 の

out-of-phase お よび in-phase 熱疲労 では, ひず み

波形 も昇温側で低速, 降温側 で高速 ののこぎ り波形 と

な る. 具体的に は対称温度ひずみ波形 に比べ, 昇温 速

度は0.51倍, 降温速度 は25.5倍 とな り, 昇温速度 よ り

も降温速度が大 き く変化 した波形 であ る.

Fig. 3に おいて0. 039cpmの 低速 昇温-高 速降温熱

疲労寿命 と低速 昇 ・降温 熱疲 労寿命を比較 す ると, 低

速-高 速 の 非対称温度 ひず み波形 は 対 称温 度ひず み波

形 に比べ, out-of-phase 熱疲 労に対 しては寿命 を増

加 させ, in-phase 熱疲 労に対 しては寿命 を低下 させ

る効果 がみ られ るが, その程 度は out-of-phase 熱疲

労 に及 ぼす繰返 し速度 の影響 よ りもさらに小 さい. こ

のこ とはSUS 316鋼 におけ る350⇔650℃の 温度サ イ

クル下 では, 昇温側では主に650℃近 くの クリープ温

度域 で非弾 性ひず みが生 じるのに対 し, 降温側 にお い

ては650℃近 くは除荷過程であ り弾性ひずみが 支配的

にな り, 350℃近 くの比較的 クリープの影響 の小 さい

温 度域で非弾性ひずみが生 じる結果, 昇温 お よび降温

速 度に対 応す るひずみ速度の影響が, 昇温側 に比べ 降

温 側ではあ ま り顕著に現れ なか ったた めである と考 え

られ る.

3.3 熱 疲労 の破壊形態

Fig. 5に 各熱疲労試験 の破面 の 様相 を示 す. out-

of-phase 熱疲 労は繰返 し速度, 温度 ひず み波形 に よ

らず, ス トライエーシ ョンが支配的 な疲 労破面 を示す.

一方, in-phase 熱疲 労は, 0.5cpmで はス トライエ

ー シ ョンが支配 的であ るが, 0.039cpmに なる と粒界

破面 に遷 移す る. 同様 な耐 熱合金におけ る高温低サ イ

クル疲 労試 験の結果 よ り, 高速-低 速のPC波 形が粒

内破 壊を示 し, 低速-高 速のCP波 形が粒界破 壊を示6)

す ことは よく知 られてい る事実であ り, この場合, 低

繰 返 し速度の out-of-phase 熱疲労がPC形 の破 壊形

態, in-phase 熱疲 労がCP形 の破 壊形態に対応 して

い る.

つ ぎに低速昇 ・降温熱疲労の破 断後の試験片を縦割

りに し, 肉厚中央部の粒界を透過型電子顕微鏡で観察

した例をFig. 6に 示す. 炭 化物が粒界 に優先析 出し

Fig. 5. Scanning electron micrographs of fracture surfaces.

(a) Out-of-phase thermal fatigue.

Fast heating and

fast cooling.

ν=0.5cpm

⊿ε=1.0%, Nf=1260

Slow heating and

slow cooling.

ν=0.039cpm

⊿ε=0.96%, Nf=831

Slow heating and

fast cooling.

ν=0.039cpm

⊿ε=0.89%. Nf=1275

(b) In-phase thermal fatigue

Fast heating and

fast cooling.

ν=0.5cpm

⊿ε=0.91%, Nf=1079

Slow heating and

slow cooling.

ν=0.039cpm

⊿ε=0.93%, Nf=162

Slow heating and

fast cooling.

ν=0.039cpm

⊿ε=0.86%, Nf=158

Fig. 6. Transmission electron micrographs of crosssection of fatigued specimens. (Carbide alonginternal grain boundaries)

(Slow heating and slow cooling)

⊿ε=0.96% ⊿ε=0.93%

tr=353hr tr=69hr

昭和58年6月 (83)

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ているが, その析出量は out-of-phase 熱疲 労 よ りも

in-phase 熱疲労 のほ うがはるか に多 い. これ よ り熱

疲労 においては, 炭 化物 の粒 界への析出は時間 よ りも

温度 と応 力の位相 に大 き く影響 され ると考え られ る.

一般 に粒 界への炭 化物 の析出が粒界強度を低下 させ る

とは限 らないが, SUS 316鋼 の in-phase 熱疲 労の

場合 は粒 界に多量 の炭 化物が連 続 して析出す る結果,

炭化物 と母相 の境 界においてき裂が発生, 伝ぱ しやす7)

くな り, それ が粒 界強度 を低下 させ る一 因にな ってい

る と考え られ る.

3.4 Out-of-phase および in-phase 熱 疲労寿命

の限界値 について

耐熱 ステ ンレス鋼 におけ るク リー プ ・疲 労重畳 下の

高温低サ イ クル疲労 においては, ひず み範 囲分割法 の

適用 に より, CP波 形 が最短寿命 を示す こ と, お よびそ

の位置 がほぼわか っているが, 熱疲 労に関 しては in-

phase 熱疲労が out-of-phase 熱疲労 よりも低 寿命 に

なる とい う実験例 は多 いが, その限界値 についてはほ

とんど調べ られて いない. ところで, 熱疲 労におけ る

温度サ イ クルの影響 は高温低 サイ クル疲 労におけ るひ8)

ずみ波形効果 に等 しい と考え られ るので, 熱疲労に対

して もひずみ範 囲分割法 を適用 し, 寿命 の限界値 を求

め るこ とが 当然考 え られるが, そのためには熱疲労の

ひずみ範 囲を各成分 に分割す る必要があ る. 分割方法

として は, Manson らに よって提 案されてい る応 力保9)

持法 があるが, 実際 に同法 を用 いて正確に熱疲労のひ

ずみ範 囲を分割 した例 はな く, 実験 的に もかな り困難

であ る と考 え られ る. 比較 的簡便 的な方法 としては,

静 クリープの応 力 とひず み速度 の関係や降温半サ イク

ルの ヒステ リシスループを用 いる方法が桑 原, 新 田に10)11)

よって提案 され, そ の適用 が試 み られてい る.

さて, 熱疲労 をTable IVに 示す4種 類の温度波形

に分類 した場合, 各温度波形下 の out-of-phase お よ

び in-phase 熱疲労 の非弾性 ひず み範 囲には同表に示

す よ うなひずみ成分 が 支配 的になる と推 測 され る.

Fig. 7は 熱疲労中期 の ヒステ リシスルー プの例であ り,

低速昇 ・降温あ るいは 低速 昇温-高 速 降温 熱疲 労 では

引張側 と圧縮側で ループの形 にか な りの相異 が認 め ら

れ る. 特に昇温側で は応 力の低下現象 も見 られ る. こ

れ は クリープが顕著 に生.じた結果 であ り, 非弾性 ひず

み 成分 中 にか な りの 不均 衡 ひず み (⊿εPCあるい は

⊿εCP) が生. じてい ると考え られ る. さらに3.2節 で

述べた よ うに破 壊形態 も対 応 してい るので, 行 った熱

疲 労試験 結果をひず み範 囲分割法におけ る四つの基本

寿命線 (⊿εij-Nij) に直接比較 してみた. Fig. 8が そ

の結果であ る. なお, ⊿εij-Nij関係は Halford らの12)

実験 結果を引用 した. これ よ り低 速昇温-高 速降温 あ

るい は 低速 昇 ・降温 の out-of-phase 熱疲労寿命 が

⊿εPC-NPC関 係 に, in-phase 熱疲労寿命 お よび650℃

におけ る引張時間25分, 圧縮速度1%/sの 低速-高 速

の高温低 サ イクル疲労寿命が ⊿εCP-NCP関 係にほぼ一

致 す ることがわか る. すなわ ち, SUS 316鋼 の350⇔

650℃の 温 度サ イクル下の 熱疲労 については, 繰返 し

速度を0.039cpm程 度に低 くしてや るとひずみ 範囲

分割を行わな くて も, out-of-phase お よび in-phase

熱疲労寿命 は, かな りその限界値に達 してい るもの と

考え られ る.

4 結 言

SUS 316鋼 の熱疲労強度の基本特性を 明 らかにす

る目的で, 高速昇 ・降温, 低速昇 ・降温, 低速昇温-

高速降温の3種 類の温度波形下で out-of-phase お よ

び in-phase 熱疲労試 験を行い, 熱疲労強度に及ぼす

繰 返 し速度の影 響, 温度ひず み波形の影響お よび破壊

形 態について検討 した. さらに out-of-phase お よび

in-phase 熱疲労寿命 の限界値 について も 検討を加え

た. その結果を まとめ ると以下の よ うであ る.

(1) out-of-phase 熱疲 労寿命 に及ぼす繰返 し 速度

の影響 は小 さ く, 高温低 サイ クル疲 労におけ る繰返 し

速度効果 とほぼ同程度 とみなせ る. in-phase 熱疲 労

寿命 に及 ぼす繰 返 し速度 の影響 は out-of-phase 熱疲

労 の場合 に比べ かな り大 き く, 繰 返 し速度 の 低下 は

Table IV. The example of classifying the thermal fatigue property by temperature-waveform.

P. Plastic C Creep

Fig. 7. The example of hysteresis loops in in-

phase and out-of-phase thermal fatigue.

Slow heating

and slag cooling

0 039cpm

- In-phase---Out-of-phase

Slow heating

and fast cooling

0 039cpm

-In-phase

---Out-of-phase

(84)「 材料」第32巻 第357号

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SUS 316鋼 の熱疲労強度に及ぼす繰返し速度および温度ひずみ波形の影響 677

in-phase 熱疲労寿命 を著 しく 低下 させ ることがわか

った.

(2) 昇温速度 と降温速度 の比 が1/50の 低速昇温-高

速降温 熱疲労 の非対称温度ひずみ波形 は両速度 の等 し

い対称温度 ひずみ波形 に比べ て, out-of-phase 熱疲

労 に対 しては寿命 を増 加させ, in-phase 熱疲 労に対

しては寿命 を低下 させる効果がみ られたが, その程 度

は out-of-phase 熱疲労寿命 に及ばす 繰返 し速度の影

響 よ りもさらに小 さい.

(3) out-of-phase 熱疲労は 繰返 し 速度 に よらず ス

トライエ ーシ ョン のみ られ る 粒 内破壊 を 示 し, in-

phase 熱疲労 は低繰返 し速度で粒 内破壊か ら粒 界破壊

に遷移す る. また, in-phase 熱疲労 は out-of-phase

熱疲労 に比べ, 粒界へ の炭 化物 の析 出がは るかに多 く,

このこ とが粒 界強度 を低下 させ る一因にな ってい ると

考 え られ る.

(4) 0.039cpmの かな りの低繰返 し速度の熱疲労試

験結果をひずみ範囲分割法におけ る ⊿εij-Nij関係 に

直接比 較 した結果, out-of-phase 熱疲労寿命が ⊿εpc-

Npc関 係 に, in-phase 熱疲労寿命 が ⊿εCP-NCP関 係

に よ く一致 した. この ことよ り行 った条件下 の out-

of-phase お よび in-phase 熱疲 労寿命 は, か な りそ

の限界値 に達 して いる と考 え られ る.

(昭 和57年9月17日 第20回 高温強度シ ンポジウムにて講演)

Fig.8. Comparison. between ⊿εin versus Nf in thermal fatigue and ⊿εij versus Nij of the

strain range partitioning method in isothermal fatigue.

参 考 文 献

1) S. S. Manson, ASTM STP 520, 744 (1973).

2) 日本 鉄鋼協会高温 強度研究委員会, ひずみ範 囲分割に よ

る18Cr-8Ni鋼 の高温低 サイ クル疲 労特性の検討報告書

(1981).

3) 例えば, 高温強度部門委員会, 耐熱合金の高温熱疲労に

関す る共 同研究報告書 (1977).

4) 大谷隆一, 機械 の研究, 32-10, 11, 1129 (1980).

5) 恒成利康, 堀川 武, 岡田友信, 武 浩司, 第19回 高温

強 度シ ンポジ ウム前刷集, 78 (1981).

6) 平川 賢爾, 時政勝 行, 材 料, 30, 328 (1981).

7) 田中千秋, 大場敏夫, 材料, 30, 332 (1981).

8) 平 修二, 大谷隆一,“材 料 の高温強度論 ”, 7章 (1980)

オーム社

9) G. R. Halford and S. S. Manson, ASTM STP 612,

239 (1976).

10) 桑原和夫, 新 田明人, 材料, 28, 332 (1981).

11) 桑原和夫, 新 田明人, 北村隆行, 第20回 高温強度 シンポ

ジ ウム前刷集, 98 (1982).

12) G. R. Halford, M. H. Hirshberg and S S. Manson,

ASTM STP 520, 658 (1973).

昭和58年6月 (85)