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[S4.2.2] コーク生成挙動の解明 (基盤技術研究グループ)東北大学 ○渡邉 賢 1.研究開発の目的 平成 19 年度はビチュメン改質反応におよぼす超臨界水の影響について、水密度の影響 に焦点を絞り、回分式装置により行った。具体的には、450℃を対象温度とし、ビチュメ ンの反応性について検討した。その結果、ビチュメンの反応には超臨界水の影響がみられ た。すなわち、450℃の超臨界水中にて反応させることでマルテン分の軽質化を進ませな がらコーク生成を最小限にとどめることができることが分かった。 そこで平成 20 年度はまず、平成 19 年度の検討結果を詳細に理解するため、既往の研究 を参考にモデル(相分離速度論モデル)構築を行い、そのモデルをもとに超臨界水の及ぼ す影響について検討することとした。 また平成 20 年度は超臨界水と重質油の改質反応に対し、水の組成低減という観点から のアプローチがコーク生成の抑制には有効であるとの仮説を立て、低水組成において水組 成を広範囲に検討した。さらにコーク生成機構の解明を目的として、 SEM 観察を実施し、 アスファルテンコア(コーク前駆体)の相挙動についても考察を行うこととした。 こうした回分式装置および分析装置を用いた検討に加え、平成 20 年度は流通装置を用 いた検討を実施した。具体的には、従来の水主体の連続装置での適用性の検討に加え、押 出機を利用した重質油を主流体とする装置を構築し、重質油の簡易連続供給および熱分解 試験を実施した。以下にそれぞれの検討の具体的内容と結果を述べる。 2.研究開発の内容 2.1 相分離速度論モデル 平成 19 年度はビチュメン改質反応におよぼす超臨界水の影響について、水密度の影響 に焦点を絞り、回分式装置により行った。具体的には、450℃を対象温度とし、ビチュメ ンの反応性について検討した。その結果、450℃の超臨界水中にて反応させ、水密度を高 くすることで、マルテン分の収率はほぼ変えず、アスファルテンからのコーク生成が促進 された。最終的なコーク収率について検討するためにはより長い時間反応させなければな らず、今回の検討だけでは厳密に判断できないが、超臨界水中かつ高水密度条件にするこ とで、コークはほぼアスファルテンなどの重質油からに限定され、その結果コーク生成を 最小限にとどめる可能性が示唆された。こうした挙動について昨年度は図2.1のような 相状態を仮定して説明した。 図に示すように、気相熱分解ではマルテンは液相および気相を形成し、液相を形成する 比較的高分子のマルテンがアスファルテンを溶解しているのに対し、超臨界水中では、比 較的高分子のマルテンであっても超臨界水との相溶性が高く、その結果アスファルテンが 析出しやすくなると考えた。 また平成 20 年度は、450℃、15 分において、表2.1に示すビチュメンや水の仕込み 量にて実験を実施した。表には仕込み量に対応する水密度、水組成、および水の分圧も示 した。

[S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

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[S4.2.2] コーク生成挙動の解明

(基盤技術研究グループ)東北大学 ○渡邉 賢

1.研究開発の目的

平成 19 年度はビチュメン改質反応におよぼす超臨界水の影響について、水密度の影響

に焦点を絞り、回分式装置により行った。具体的には、450℃を対象温度とし、ビチュメ

ンの反応性について検討した。その結果、ビチュメンの反応には超臨界水の影響がみられ

た。すなわち、450℃の超臨界水中にて反応させることでマルテン分の軽質化を進ませな

がらコーク生成を 小限にとどめることができることが分かった。 そこで平成 20 年度はまず、平成 19 年度の検討結果を詳細に理解するため、既往の研究

を参考にモデル(相分離速度論モデル)構築を行い、そのモデルをもとに超臨界水の及ぼ

す影響について検討することとした。 また平成 20 年度は超臨界水と重質油の改質反応に対し、水の組成低減という観点から

のアプローチがコーク生成の抑制には有効であるとの仮説を立て、低水組成において水組

成を広範囲に検討した。さらにコーク生成機構の解明を目的として、SEM 観察を実施し、

アスファルテンコア(コーク前駆体)の相挙動についても考察を行うこととした。 こうした回分式装置および分析装置を用いた検討に加え、平成 20 年度は流通装置を用

いた検討を実施した。具体的には、従来の水主体の連続装置での適用性の検討に加え、押

出機を利用した重質油を主流体とする装置を構築し、重質油の簡易連続供給および熱分解

試験を実施した。以下にそれぞれの検討の具体的内容と結果を述べる。 2.研究開発の内容

2.1 相分離速度論モデル 平成 19 年度はビチュメン改質反応におよぼす超臨界水の影響について、水密度の影響

に焦点を絞り、回分式装置により行った。具体的には、450℃を対象温度とし、ビチュメ

ンの反応性について検討した。その結果、450℃の超臨界水中にて反応させ、水密度を高

くすることで、マルテン分の収率はほぼ変えず、アスファルテンからのコーク生成が促進

された。 終的なコーク収率について検討するためにはより長い時間反応させなければな

らず、今回の検討だけでは厳密に判断できないが、超臨界水中かつ高水密度条件にするこ

とで、コークはほぼアスファルテンなどの重質油からに限定され、その結果コーク生成を

小限にとどめる可能性が示唆された。こうした挙動について昨年度は図2.1のような

相状態を仮定して説明した。 図に示すように、気相熱分解ではマルテンは液相および気相を形成し、液相を形成する

比較的高分子のマルテンがアスファルテンを溶解しているのに対し、超臨界水中では、比

較的高分子のマルテンであっても超臨界水との相溶性が高く、その結果アスファルテンが

析出しやすくなると考えた。 また平成 20 年度は、450℃、15 分において、表2.1に示すビチュメンや水の仕込み

量にて実験を実施した。表には仕込み量に対応する水密度、水組成、および水の分圧も示

した。

Page 2: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

Gas phase Supercritical water phase

Oil phase Oil phase

Pyrolysis without waterIn supercritical water

Maltene (MA)

Asphaltene (AS)

AS aggregates

cokes

Fragmentation

Fragmentation

図2.1 ビチュメンの気相熱分解および超臨界水中改質反応の概念図

表2.1 実験条件

Bitumen Reactor size, mL Water, g Water (mol ratio)Water density, g/mL Water partial presssure, MPa0.60 6.00 0.18 0.89 0.03 9.11.20 6.00 0.18 0.81 0.03 9.12.00 6.00 0.18 0.71 0.03 9.12.30 6.00 0.18 0.68 0.03 9.1

平成 20 年度の検討においては、ビチュメンの仕込み量と各生成物の収率に明確な関係

性は確認できなかった。また、収率に与える水の影響についても顕著な変化はほとんど見

られなかった。しかし、各実験で得られたアスファルテンには若干の違いが表れた。すな

わち、表2.1の条件の中で、ビチュメンの仕込み量が少ない場合(水の組成:0.81~0.89)では水を加えることで分子量分布が重質側へシフトした。すなわち、0.81~0.89 という水

組成領域では水による影響でアスファルテンが重質化した。この結果は、昨年度の検討結

果においてみられたことと同様であった。 この現象に対し、Dutta ら 1)は次のように考察している。重質油中のアスファルテンコ

アのような活性化された芳香族が、水との間で水素交換することにより、隣接する脂肪族

へと活性点を移動させ、脂肪族を活性化させる(図2.2)。活性化された脂肪族が活性な

アスファルテンへと付加しアスファルテンとして安定化すれば、アスファルテンは重質化

するはずである(図2.3)。

H2O

芳香族

活性化 安定化 活性化

活性点が移動活性点が移動

脂肪族

図2.2 低密度超臨界水中での芳香族と水との水素交換反応の概念図

活性なasphaltene

maltene

活性なasphalteneとmalteneが結合

asphalteneの重質化 図2.3 活性点が移動した脂肪族と芳香族との反応によるコーク生成抑制

Page 3: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

平成 19 年度の検討事例ではビチュメンと水の重量比は 1 および 2 であったのに対し、

平成 20 年度はビチュメンが水より3倍以上の重量である。このような高いビチュメン重

量比であっても水が影響を及ぼすことから、アスファルテンコアの安定化かつ効率よい軽

質化反応を進行させることも可能ではないかと考える。 こうした結果の説明およびそれに基づく概念の提案はあくまでも推測である。この推測

をより現実的な考察に変えるためには、数学モデルによる解析が有効であると考え、調査

の結果、Wiehe2)の提唱した相分離速度論モデルを簡略化し、本実験結果への適用を試みた。 当該超臨界水―ビチュメン系において相平衡および濃度などについて不明な点は極めて

多いのが現状であるためここではまず、相分離速度論モデルの適用性を確認するため簡略

化したモデルを構築した。 図2.4に簡略化モデルの概念図を示す。

M+

A+M*

M+

A+M+

M+

M+

CokeA* A*

図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図

簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

アが生成する一方、揮発性生物の生成は考慮しなかった。この理由は、当研究センターで

の研究では気体生成物や揮発性軽質分を分析しておらず揮発性化合物の生成の化学量論係

数を決定することができないことによる。また、揮発性成分の存在はアスファルテンコア

の溶解限界を決定する際に密接に関連するが、こうした成分の同定ができず、また超臨界

水存在下では揮発性成分は水密度などで大きく変化することが予想されるものの、それを

定義しモデルに反映させることができる実験結果は現段階では得られていない。不確定性

要素を抱えながらいたずらにフィッティングパラメーターを増やすことは得策ではないと

考え揮発性成分を考えないことでモデルの簡略化を図った。また同じ理由からマルテンは

すべて反応性マルテンとし、反応性マルテンからはアスファルテンコアができる反応のみ

を考慮した。以上を考慮した簡略化モデルは式(1)~(5)であらわすことができる。 *AM Bk

MaaAA Ak )1(*

MSA L*max

CA Ckex*

*max

** AAAex

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

Page 4: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

ここで、式中の各記号の意味は以下の通りである。 M+: maltene (reactant)A+: reactant asphalteneA*:asphaltene coreAex

*:excess asphaltene coreAmax

*:maximum asphaltene corek: first-order rate kineticsa: stoichiometric coefficient

各反応は物質濃度に一次であると仮定すれば、このモデルを用いてそれぞれの生成物の

生成速度は式(6)~(10)で表現される。

][][ AkdtAd

A

][][)1(][ MkAkadtMd

BA

)(** MSAA Lex

][][][][ **

exCBA AkMkAakdtAd

][][ *exC Ak

dtCd

(6)

(7)

(8)

(9)

(10) このモデルを用いて実験値とのフィッティングを行うが、フィッティングパラメーター

を減らすために、既往の研究事例を参考に反応性アスファルテンからアスファルテンコア

と反応性マルテンが生成する反応の化学量論 a には文献値(a=0.543)を用いた。 平成 19 年度実施した超臨界水中でのビチュメンの改質反応に対し、簡略化相分離速度

論モデルを適用し、実験の再現を試みた。ここでは反応管内の反応物質濃度はすべて未知

であるため、表2.2に示す原料組成を見かけ濃度として採用した。

表2.2 原料ビチュメン中の各成分組成(重量分率)

Maltene (n-C6 sol.)Asphaltene (toluene sol.)cokes

89.810.00.2

ここで、超臨界水中では軽質分が超臨界水に抽出されることでアスファルテンコアなど

のコーク前駆体が濃縮されると想定されるため、本来であればモデル解放において濃度項

をフィッティングパラメーターとして変化させるべきだと考えるが、そもそもの濃度が未

知であるため濃度は原料組成で一定とした。その代り、速度定数をフィッティングパラメ

ーターとして変化させ、その変化量が濃度変化に起因していると考えることとした。 2.2 コークの SEM 観察

既往の研究によれば、コーク前駆体の相状態はコークの形状から推し量ることができる。

Rahmani ら 3)は、Athabasca のオイルサンドビチュメンもしくはそのアスファルテン抽出

物、さらにはアスファルテンの有機溶媒溶液を 430℃で熱分解させた時に生成したコーク

を SEM で観察することでコーク前駆体の相状態を推察している。

Page 5: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

A+

A*

(a) アスファルテンコアが軽質炭化水素に分散

A+

A*

(b) アスファルテンコアが互いに連結・癒着

A+

A*

(c) アスファルテンコアがあたかも単独で液相を形成

図2.5 コーク形状から推察されるコーク前駆体の相状態

図2.5(a)に示すようにコーク前駆体が良溶媒に溶解・分散しているのであれば、生成

するコークは球状のものとなる可能性が高い。(b)の場合のように、コーク前駆体の油滴が

互いに連結・癒着している状態(コーク前駆体濃度が比較的高い、もしくは溶媒が貧溶媒

であるなどの理由と考えられる)では、生成したコークも油滴が互いに癒着したような形

状になるはずである。さらにコーク前駆体油滴の濃度が高まると、それはあたかも液相を

形成し、軽質炭化水素が溶解・分配する溶媒のようにふるまうと考えられる。この状態か

ら生成したコークは液体が固化した後に流動性の高い軽質分が脱離することから、多孔性

の固体として回収されることになる。 2.3 流通装置

図2.6に示した水を主流体とする流通装置をくみ上げ、その適用可能性を評価するた

め、反応温度 400℃において、重質原油(アラビア産:マルテン分 98%、アスファルテン

分 2%)のトルエン希釈溶液(9wt%)を用いた。

Water

Oil Pump

PumpProduct

Heater

Reactor Tube

Pre-heater

P

P

T

TT

T

Cooling Bath

P

Filter Back Pressure Regulator

BalanceT

図2.6 水を主流体とする流通装置概略図

ビチュメンを主流体とし、そこに低水組成にて水を混練・分散させ、ビチュメンを希釈

しながら反応を進ませることでコークフリーな改質反応が進行する可能性もあると考え、

プラスチックスなどを取り扱う押出機プロセスを参考とした装置開発が有用だと考えた。

Page 6: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

Pump

Water

Heavy oil

Extruder

Tape heater

Reactor

Condenser

P

T

P

T

T

図2.7 押出機利用ビチュメン改質装置の概略図

図2.7に、高温にて流動性を示す高粘性流体を送液・連続処理を可能とする押出機プ

ロセスの概略図を示す。本装置ではビチュメンの送液に押出機の利用を考えている。図右

には小型押出機の写真を示した。本研究では、押出機として新興セルビック製の小型押出

機の採用を企画している。この押出機はプラスチックス送液の実績はあるものの、ビチュ

メンなどの重質油の送液実績は皆無で、また下流側圧力の上限値についても知見がほとん

どない。そこで、まず本研究ではこの押出機の適用性を検討することとした。もし当該押

出機が適切でないと判断した場合には、高圧ピストン内にビチュメンを充填し、水圧にて

ピストンを押し出すことでビチュメンを高圧環境に送液する方法に切り替えて試験を実施

することも想定している。 ビチュメン用の押出機利用流通装置では、ビチュメンが主流体となるため改質が十分に

進行しない段階では常温で固体様となるため、冷却するとしても数十℃以上でなければな

らない。また改質後ビチュメンの油として素性を把握するためには、全流体を低温にて回

収することは得策とは言えず、沸点にて分画することは極めて実用的と考える。そこで、

押出機利用流通装置では、出口に高温高圧用ストップバルブを採用し 300℃程度の高温状

態で圧力を制御することとし、出口流体を 300℃、200℃、そして 100℃の回収槽を通過さ

せることで沸点を利用した改質ビチュメンの回収を行うことを企画している。 3.研究開発の結果

3.1 相分離速度論モデルを用いた計算結果 図3.1および図3.2に示すように、簡略化モデルはアスファルテンおよびコーク収

率を良好に再現できた。このことは、ビチュメンの分解反応では、Wiehe が提案したよう

にアスファルテンコアがコーク前駆体として生成し、軽質炭化水素溶媒の中に溶解したア

スファルテンコアが、析出することでコーク生成が誘発され、その後コークが生成すると

いう挙動で説明できる可能性 2)が示唆された。

Page 7: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

0

2

4

6

8

10

12

0 5 10 15 20 25 30

200 kg/m3

0 kg/m3

100 kg/m3

Reaction time, min

Yiel

d, w

t%

Asphaltene

図3.1 ビチュメンの気相熱分解および超臨界水中での改質におけるアスファルテン

収率の経時変化(実験値:プロット、計算値:実線)

0

24

68

10

12

0 5 10 15 20 25 30

Reaction time, min

0 kg/m3

200 kg/m3

図3.2 ビチュメンの気相熱分解および超臨界水中での改質におけるコーク収率の

経時変化(実験値:プロット、計算値:実線) 超臨界水がビチュメン分解反応にどのような影響を与えるのか、フィッティングパラメ

ーターとした速度定数の変化から解析を行うこととする。なお、反応物質濃度が定義でき

ず原料組成を代入したため速度定数の絶対値には物理的意味がないため、ここでは熱分解

での速度定数で規格化した速度定数で比較・考察することとした。

表3.1 規格化速度定数

0 kg/cm3 100 kg/cm3200 kg/cm3

k A_n 1.00 2.32 5.68k B_n 1.00 0.75 0.67k C_n 1.00 0.97 0.88

表3.1に規格化した速度パラメーターをそれぞれ示す。なお、速度定数の_n は規格化

したことを示す添え字である。表から、超臨界水存在下かつ水密度が高くなるほど、式(2)

の反応、すなわち反応性アスファルテンからのアスファルテンコアの生成速度が高くなっ

た。それに対し、式(1)の反応、すなわち反応性マルテンからのアスファルテンコアの

生成、および式(5)の反応、すなわちマルテンなどの溶媒から析出した過剰アスファル

テンコアのコーク転換反応、それぞれの速度は超臨界水の存在および水密度増大にともな

い抑制された。 この速度変化が、系内での各反応物質の濃度変化と密接に関係していると仮定すると、

この解析結果はこれまでの定性的な考察を支持するものである。すなわち、超臨界水がマ

ルテン分などを超臨界水中に抽出すると、抽出されたマルテン濃度は液相を形成していた

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場合よりも希薄になる。一方、液相を形成したマルテンに溶解していた反応性アスファル

テンは濃縮されることになり、濃度が高くなる。したがって、反応性マルテンの反応速度

は濃度が希薄になったことにより遅くなり、一方反応性アスファルテンは濃度が高くなっ

たことにより反応速度は速くなる。 この解析により新たに明らかになったこととして、式(5)の過剰アスファルテンコア

からのコーク生成の速度が遅くなっているということである。Wiehe は 2)式(5)の速度

は無限大として考えており、すなわち析出した過剰アスファルテンコアは析出すると同時

にコークに転換されるとしていた。それに対し、Rahmani ら 4)は溶媒としてテトラリンを

用いた系ではコーク生成に有限な値を与えない場合に実験事実を説明できないことを指摘

し、過剰アスファルテンコアからのコーク生成の速度は溶媒環境などで変化する可能性を

示した。本研究での解析結果からも、式(5)に有限な値を代入し、さらに超臨界水存在

下および高水密度ほど速度が低下することを考慮しない限り実験事実を再現できないこと

が確認された。これはすなわち、溶媒として加えた超臨界水により過剰アスファルテンコ

アのコークへの転換反応が抑制される可能性を示唆しているもので、超臨界水によるアス

ファルテンコアの安定化メカニズムを考える必要性を示している。こうした考察から、超

臨界水中でのビチュメン反応に対する相分離速度論モデルに以下の式を加える必要がある

と考える。

AMA AMk* (11) この式はアスファルテンコアの安定化に関する式であり、コーク前駆体であるアスファ

ルテンコアが、反応活性なマルテンと反応することで反応性アスファルテンとなる反応で

ある。このことはアスファルテンコアの濃度を下げることになり、モデルでの計算結果を

支持する。この新たなモデルを用いた解析は今年度(平成 21 年度)に行うこととする。 3.2 コークの SEM 観察結果

SEM 観察において、本研究ではいずれの条件でも極めて大きな粒子とその周囲に微小な

粒子が存在するような様子が観察された。大きな粒子の表面や、それと重なるような微小

粒子を観察すると、Rahmani ら 3)の報告でみられたような油滴形状の名残と思われる表面

が観察された。

図3.3 水密度 100kg/m3 で得られたコークの SEM 画像

図3.4 水密度 200kg/m3 で得られたコークの SEM 画像

Page 9: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

図3.3は水密度 100kg/m3 で改質反応を行って得られたコークの表面構造を拡大した

画像である。また、図3.4は水密度 200kg/m3 での結果である。回分装置内部は撹拌を

促すために入れた SS ボールにて常に撹拌されている。そのためか、いずれの条件におい

ても液滴が癒着したような構造が見受けられ、アスファルテンコアの液相に低分子が溶解

し、それが脱離する過程で生じる多孔性構造は見られなかった。 より詳細にコーク生成時の相挙動について検討を行うため、平成 20 年度の実験(表2.

1)において生成したコークの SEM 観察を実施した。0.6~1.2g のビチュメン仕込み量で

は、アスファルテンコアはマルテン分などに溶解しており、それらは油滴状でマルテン中

を漂い、溶解限度を超えた過剰アスファルテンコアの油滴が析出しコークへと変化し、そ

れらが互いに癒着しながら成長したコークが多くみられた。一方、ビチュメン仕込み量を

2.3g とした場合のコーク表面は、コークが連続した相を形成し、その連続相に多数の孔が

開いているように見えた。これは仕込み量が多くなり濃厚な液相中にアスファルテンコア

の濃厚相が形成したことによると推察される。すなわち、アスファルテンコアの液相中に

軽質マルテンなども分配し、コーク形成後それらが脱離することで多孔性のコークが生成

したと考えられる。こうした相状態の変化の概念図を図3.5の左図に示す。 低水組成(水仕込み量:0.18g、水組成:0.68~0.89)でのビチュメン改質反応で得られ

たコークの SEM 画像では、気相熱分解の場合と同様、油滴が癒着・連結しコーク全体が

形成しているように見えた。同ビチュメン仕込み量の実験結果を気相熱分解と比較すると、

気相熱分解では油滴がそれぞれ独立にあるように見えるが、低水組成下での検討では油滴

がより互いに連結・癒着しているように見える。このことから、低水組成とはいえ水が存

在することによりアスファルテンコアのような重質油成分には貧溶媒雰囲気である可能性

が示唆された。水組成が 0.68 と低い本条件では気相熱分解の場合と同様、コーク連続相の

中が多孔性になっているように見えたことから、水の添加量が少ないため、その影響が小

さかったと考える。

ビチュメン仕込み増

液相を形成する炭化水素の量が増→ アスファルテン凝集体が希釈

→ マルテンとアスファルテンが新たなアスファルテンを形成→ 高い仕込み量では濃厚重質油相の形成するのではないか

ビチュメン仕込み増(水組成低)

水が軽質炭化水素と気相形成?→ 凝集体の希釈効果が少ない?→ 凝集体が重合:アスファルテン重質化?コーク生成?

図3.5 ビチュメン仕込み量増大による相状態の変化の概念図 (左:水なし、右:水あり)

SEM 観察の結果、平成 20 年度実施した検討において、平成 19 年度の高水組成の場合

と同様、水を加えることで軽質炭化水素が水相に抽出され、重質油滴(アスファルテンコ

ア)の肥大や癒着が起きやすくなり、その結果、コーク粒が肥大化し、またアスファルテ

ンコアの濃度が増大することでマルテンとの反応も進行しやすくなったと考える。したが

って、図3.5の右図に示したように、平成 20 年度実施した水組成および水圧力では水

とビチュメンは均一相にはなっていないと考える。

Page 10: [S4.2.2] コーク生成挙動の解明 1.研究開発の目的Coke A* A* 図2.4 簡略化相分離速度論モデルの概念図 簡略化モデルでは、反応性マルテンおよび反応性アスファルテンからアスファルテンコ

3.3 流通実験 従来の超臨界水装置(図2.6)を用いて連続操作を実施している間、わずかに装置内

圧力が上昇していった。これはコークが反応装置内部で生成・蓄積していることを示す。

実際、装置に取り付けたフィルターや、実験後に装置内部をトルエンで洗浄した際にもコ

ークと思われる黒い粒子が見受けられた。また今回の実験ではトルエンで希釈した原油で

あったため冷却管内での油の固化は見られなかったが、ビチュメンを処理する実験を行う

ことを目的としており、本質的に冷却から減圧にかけての装置の仕様の見直しは不可欠で

あると考える。 押出機を用いた装置(図2.7)では、まずビチュメンの送液性を確認するため簡単な

熱分解を試行した。まず、押出機温度と回転数とを操作し、その連続供給能力をチェック

した。その結果、スクリュー温度 50℃程度で安定してビチュメンが送液可能であり、3rpmにて約 1.5g/min 程度で送液可能であった。高圧への適用性を確認するため、押出機先端

のノズルに圧力計とバルブを取り付け、供給圧力を上昇させながら、高圧環境への適用性

を確認した。その結果、回転数 3rpm であれば 3MPa 程度までの圧力であればビチュメン

を押し流すことができた。続いて、1/8 インチのラインを約 10m コイルしたものを取り付

け、管型炉内部で加熱しながらビチュメンの連続熱処理に関する検討を行った結果、管の

温度上昇にともなって供給圧力が変動したものの押出機がビチュメンを主流体とする流通

装置のフィーダーには十分成り得ることが確認できた。 今後はより高圧への対応、回収槽の設置、安定運転条件の設定、そして低水密度の超臨

界水供給口併設による水存在下での連続操作などを進めていく予定である。 4.まとめ

平成 20 年度は相分離速度論モデルを用い、平成 19 年度の結果の解析を行い超臨界水が

コーク生成に与える影響を定量化する可能性を示唆した。また低水組成の検討と SEM 観

察を実施することでアスファルテンコアの相状態が考察できた。流通装置について押出機

利用の可能性を検討し、その有用性が示唆された。今後、広範囲な温度・圧力下でのビチ

ュメンの熱分解の知見を集積するとともに、超臨界水の影響を定量化し、コーク生成メカ

ニズム解明とともにコークフリーの条件を提示したい。 参考文献 1) Richard P. Dutta et al., Energy Fuels, 14 (3), 671-676 (2000). 2) Irwin A. Wiehe, Ind. Eng. Chem. Res., 32 (11), 2447-2454 (1993). 3) Samina Rahmani et al., Ind. Eng. Chem. Res., 42 (17), 4101-4108 (2003). 4) Samina Rahmani et al., Energy Fuels, 16 (1), 148-154 (2002).