26
・求核剤の種類(つづき) S N 2 反応の特徴 ・溶媒効果 1

S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

・求核剤の種類(つづき)

SN2 反応の特徴

・溶媒効果

1

Page 2: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

求核剤の種類(復習)求核剤:ローンペアを持つ化学種は(原理的には)    すべて求核剤になり得るローンペアを持つ原子 負電荷を持つもの 電荷を持たないもの

酸素 ‒OH, ‒OR, RCOO‒ H2O, ROH(※)

イオウ ‒SH, ‒SR H2S, RSH(※)

窒素 ‒NH2, RNH‒, R2N‒ NH3, RNH2, R2NH, R3N

炭素 ‒C≡N, RC≡C‒ (なし)

ハロゲン Cl‒, Br‒, I‒ (なし)

(※)の求核剤はハロゲン化アルキルとの SN2 を通常起こさない(求核性が低いため)

2

Page 3: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

求核剤の反応性:塩基性の影響(復習)

塩基性が高いほど求核性も高い

同周期の原子の場合

負電荷を持つ化学種は、電荷を持たない化学種よりも求核性が高い

HO > H2O

HO > CH3COO

3

Page 4: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

求核剤の反応性:周期の異なる原子の場合は?

HO HS

どちらが反応性高い?

(塩基性は HO‒ の方が高いが……?)

実は「溶媒」に依存する

CH3OH 中: HO < HS

CH3CN 中: HO > HS

(プロトン性溶媒)

(非プロトン性溶媒)

4

Page 5: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

分極率と求核性

HS → ローンペアの原子軌道が大きい= 電子が動きやすい(分極率が大きい)

C

H

HH

HS X

�����

δ– δ–CH

HH

HO X

�����

δ– δ–

「遷移状態」の結合の強さ

分極率が大きいほど、遷移状態の「長い結合」に適応しやすい→ 求核性が高い

5

Page 6: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

周期の異なる原子の求核性

HO HS対

求核性を決める要因塩基性

分極率

(HO‒ が高い)

(HS‒ が高い)

どちらが優先する?

6

Page 7: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

求核性に対する溶媒効果CH3OH 溶液中

O HCH3 OHHO‒ は水素結合を受ける

反応性落ちる

分極率の高い HS‒ が優先

CH3CN 溶液中

水素結合は起きない

塩基性の高い HO‒ が優先

(プロトン性極性溶媒)

(非プロトン性極性溶媒)

7

Page 8: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒プロトン性極性溶媒 =強く正に分極した水素原子を持つ溶媒

(水素結合供与体である溶媒)

CH3OH CH3CH2OH CH3COOH����� ����� ��

非プロトン性極性溶媒 =プロトン性でない極性溶媒

OCH3CN H N

CH3

CH3O

SO

���� ������ N,N-������ ��

���������

(DMF) (DMSO)

8

Page 9: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

【練習問題】次のそれぞれの組み合わせにおいて、どちらの反応がより速く進行するか。理由をつけて答えなさい。

CH3CH2Br CH3CH2Br +(a) + CH3 O CH3 S��������

CH3CH2Br CH3CH2Br +(b) + CH3 O CH3 S�DMF��

9

Page 10: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

SN2 反応の溶媒効果

今度は、同じ求核剤について、溶媒を変えた時の反応速度の違いを考える

CH3OH 溶液中

CH3CN 溶液中

ヘキサン溶液中

CH3 Br + HO

どの溶媒が最も適している?

10

Page 11: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

溶媒を三種類に分類するプロトン性極性溶媒 =強く正に分極した水素原子を持つ溶媒

非プロトン性極性溶媒 =プロトン性でない極性溶媒

非極性溶媒 =分極した結合を持たない溶媒 (当然非プロトン性)

CH3OH CH3CH2OH CH3COOH����� ����� ��

OCH3CN H N

CH3

CH3O

SO

���� ������ N,N-������ ��

���������

(DMF) (DMSO)

CH3(CH2)4CH3

���

CH3

�� ���

11

Page 12: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

プロトン性極性溶媒

OH

δ–

δ+O

Hδ–δ+

CH3

OH

CH3OH

CH3

δ+δ–δ+

δ–

CH3

�����

– +O

HCH3

δ+δ–

OH

δ–δ+CH3

OH

CH3

δ+δ–O

H

δ–

δ+CH3

�����

(アニオン=陰イオン) (カチオン=陽イオン)

例:メタノール

12

Page 13: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

非プロトン性極性溶媒

SCH3

H3CO

SCH3

CH3O

SH3C

CH3O

SH3C

CH3

O

�����

+

S CH3H3C

O

SCH3

CH3O

SH3C CH3

O

SH3C

H3CO

�����

(アニオン) (カチオン)

例:ジメチルスルホキシド (DMSO)

13

Page 14: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

非極性溶媒

�����

�����

+

(アニオン) (カチオン)

例:ベンゼン

14

Page 15: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

SN2

反応座標

エネルギー非極性溶媒

非プロトン性極性溶媒

プロトン性極性溶媒

遷移状態

CBrH

HH+ HO

CH

HH

OHBrδ–δ–

C OHH

HH

+Br

SN2反応(アニオン性求核剤)

非極性溶媒>非プロトン性極性溶媒>プロトン性極性溶媒

イオンの安定化

差が小さい

反応が速い順=活性化エネルギー(山の高さ)が低い順

15

Page 16: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

【練習問題】次の反応は SN2 機構で進行する。溶媒として DMSO を使う理由を説明しなさい。

Br NaCN

DMSOCN

16

Page 17: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

・酸素求核剤 (‒OH, ‒OR)

さまざまな求核剤による SN2 反応

・硫黄求核剤 (‒SH, ‒SR)・炭素求核剤 (‒C≡N, ‒C≡CR)・窒素求核剤 (NH3, NH2R, NHR2, NR3)・ハロゲン求核剤 (I‒, Br‒, Cl‒, F‒)

17

Page 18: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

酸素求核剤による SN2 反応 (1)

+ HO– + BrCH3CH2 Br CH3CH2 OH

アルコール水酸化物イオン

・H2O では求核性が足りない。HO‒ が必要。

・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。

18

Page 19: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

酸素求核剤による SN2 反応 (2)+ RO– + BrCH3CH2 Br CH3CH2 ORアルコキシド(フェノキシド) エーテル

・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。

・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。

(Williamson のエーテル合成)

ROH + NaH RO– Na+ + H2

+ NaOH Na+OH O + H2O

水素化ナトリウム(強塩基)

フェノールはアルコールより酸性が強いのでNaOH で共役塩基にできる

・化学の研究現場では非常に出番の多い反応です

19

Page 20: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

硫黄求核剤による SN2 反応

+ HS– + BrCH3CH2 Br CH3CH2 SH

+ RS– + BrCH3CH2 Br CH3CH2 SR

チオール水硫化物イオン

チオラート チオエーテル

・H2S や RSH では求核性が足りない。共役塩基が必要。RSH + NaH RS– Na+ + H2

NaOH でもできなくはないが、NaH が無難

・チオールは独特の性質が多くある(詳しくは有機系の研究室で!)

20

Page 21: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

炭素求核剤による SN2 反応

+ C N C N + BrCH3CH2 Br CH3CH2

+ C CR C CR + BrCH3CH2 Br CH3CH2

シアニド ニトリル

アセチリド アルキン

・ニトリルは溶媒などで広く使われる(例:アセトニトリル=CH3CN)・ニトリルはカルボン酸の原料にもなる

C NCH3CH2H2O, H2SO4

��CCH3CH2

O

OH

・アセチリドの反応は既出。炭素-炭素結合の生成に役立つ。

21

Page 22: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

窒素求核剤による SN2 反応 (1)

CH3CH2 Br + NH3 CH3CH2 NH3 + Br–

アンモニア アンモニウムイオン

CH3CH2 NH2 + BaseH

CH3CH2 NH2 + H–Base

(塩基) アミン

・NH3 は電荷を持たない状態でも十分な求核性を持つ(逆に、共役塩基の ‒NH2 は塩基性・求核性が強すぎて使いにくい)

・NH3 が反応すると、正電荷をもつ「アンモニウムイオン」になる

・「アンモニウムイオン」から塩基が H+ を取り去って、アミンが生成する

22

Page 23: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

窒素求核剤による SN2 反応 (2)CH3CH2 NH2

CH3CH2 BrBase

CH3CH2 NHCH3CH2

CH3CH2 Br

Base

CH3CH2 NCH3CH2

CH2CH3CH3CH2 Br

CH3CH2 NCH3CH2

CH2CH3

CH3CH2Br–

一級アミン 二級アミン

三級アミン 四級アンモニウム塩・アミンの「○級」は、窒素原子に結合している炭素原子の数を表す・一級~三級アミンは、塩基で H+ を取り去って、電荷を持たない生成物として得る・四級アンモニウム塩は、正電荷をもつ形しか存在しないので、対イオンとともに「塩」として得る

23

Page 24: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

ハロゲン求核剤による SN2 反応

+ I– + BrCH3CH2 Br CH3CH2 I

・脱離したハロゲン化物イオンも求核剤として反応できる→ 平衡になる。単一生成物を得るのは困難。

+ NaBrCH3CH2 Br CH3CH2 INa++ I+����

・アセトン溶媒中で NaI を使うと、NaBr がアセトンに不溶なので、平衡が右に移動し続け、反応が完結する。

24

Page 25: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

【練習問題】下の反応がどのように進むか説明しなさい。

O

CH3O

OH

OH

OH

C8H17Br (3 eq.)

K2CO3 (3 eq.)DMF

O

CH3O

OC8H17

OC8H17

OC8H17

25

Page 26: S 2 反応の特徴酸素求核剤による SN2 反応 (2) CH + RO– +Br 3CH2Br CH3CH2OR アルコキシド (フェノキシド) エーテル ・アルコール(フェノール)では求核性が足りない。共役塩基が必要。・脱離反応(あとで学ぶ)との競争に注意。(Williamson

【練習問題】下の化合物を Williamson エーテル合成で作るには、何を出発物質にすればよいか。

CH3C

H3CH3C

O CH2CH2CH3

26