14
52 多くの経営書はマネジメントのサイクルを“PlanControlReview”と表現している。規格 4.2.3 項の「文 書管理」は“Document Control”であって,もっと大き な「文書化のマネジメント」の中の 1 つの機能である。 規格はこれについては明確な要求を出していないが,実 際には「文書管理」以上に「文書化のマネジメント」が 重要である。 文書化に関しては TC176 が指針(ISO/TC176/SC2/ N525R)を出しており,その中で,文書化のおもな目的 を次の 3 つであるとしている。 a)情報の周知(Communication of informationb)適合の証明(Evidence of conformityc)知識の共有(Knowledge sharing規格が文書化を要求しているのは主に b)のためであ るが,品質マネジメントシステムの有効性の観点からは a)と c)に関してどのような方針で文書化を行うかとい う「文書化のマネジメント」が重要になる。 品質マネジメントシステム(QMS)には,本来「どの ようであるべきか」の規範はない。しかし,その内容に ついてわざわざ ISO が国際規格を定めるのは,QMS 「国際的な統一基準で評価することを可能にする」ため である(ISO 9001 序文 0.1)。 評価を可能にするためには QMS がどのように構築さ れ運用管理されているのかが目に見えるようになってい る必要があるし,結果として顧客の満足が得られている (適合製品だけが供給されている)ことが記録によって 確認できるようにもなっていることが望ましい。規格は この目的のために,最小限度に絞ってではあるが,文書 化に関していくつかの要求をしている。QMS について 国際基準の認証を維持しようとするならばこれらは「必 要条件」であるから,きちんと対応する以外の選択肢は ない。前述のガイダンスには, 「文書が存在しなくても,それ以外の手段によって客 観的証拠を形成させることは可能である。しかし,規 格が特に指定している場面では,客観的証拠を形成さ せるために必要と考えられる記録(文書)を前もって 決めておくことが組織にとっての義務となる」 と記述されている。ただし,維持すべき文書の形式や内 容を規格が具体的に要求しているわけではないから,ど のように工夫して,“適合の証明”を効率的に果たすかは, 組織のほうで適宜に計画((7.1d)項など)すればよい。 ステップアップ ISO 9001 ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と審査- QMS の文書 規格解説 講師は語る -4.2 文書化に関する要求事項のポイント- エム・アンド・エス・クオリティーガーデン 福田 渚沙男 31.文書化のマネジメント 2.“適合の証明”のための文書化

QMS の文書52 連 載 /ステップアップISO 9001 多くの経営書はマネジメントのサイクルを“Plan- Control-Review”と表現している。規格4.2.3

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52

連 載 /ステップアップ ISO 9001

多くの経営書はマネジメントのサイクルを“Plan-

Control-Review”と表現している。規格 4.2.3 項の「文

書管理」は“Document Control”であって,もっと大き

な「文書化のマネジメント」の中の 1 つの機能である。

規格はこれについては明確な要求を出していないが,実

際には「文書管理」以上に「文書化のマネジメント」が

重要である。 文書化に関しては TC176 が指針(ISO/TC176/SC2/

N525R)を出しており,その中で,文書化のおもな目的

を次の 3 つであるとしている。 a)情報の周知(Communication of information) b)適合の証明(Evidence of conformity) c)知識の共有(Knowledge sharing) 規格が文書化を要求しているのは主に b)のためであ

るが,品質マネジメントシステムの有効性の観点からは a)と c)に関してどのような方針で文書化を行うかとい

う「文書化のマネジメント」が重要になる。

品質マネジメントシステム(QMS)には,本来「どの

ようであるべきか」の規範はない。しかし,その内容に

ついてわざわざ ISO が国際規格を定めるのは,QMS を

「国際的な統一基準で評価することを可能にする」ため

である(ISO 9001 序文 0.1)。 評価を可能にするためには QMS がどのように構築さ

れ運用管理されているのかが目に見えるようになってい

る必要があるし,結果として顧客の満足が得られている

(適合製品だけが供給されている)ことが記録によって

確認できるようにもなっていることが望ましい。規格は

この目的のために, 小限度に絞ってではあるが,文書

化に関していくつかの要求をしている。QMS について

国際基準の認証を維持しようとするならばこれらは「必

要条件」であるから,きちんと対応する以外の選択肢は

ない。前述のガイダンスには, 「文書が存在しなくても,それ以外の手段によって客

観的証拠を形成させることは可能である。しかし,規

格が特に指定している場面では,客観的証拠を形成さ

せるために必要と考えられる記録(文書)を前もって

決めておくことが組織にとっての義務となる」 と記述されている。ただし,維持すべき文書の形式や内

容を規格が具体的に要求しているわけではないから,ど

のように工夫して,“適合の証明”を効率的に果たすかは,

組織のほうで適宜に計画((7.1d)項など)すればよい。

連 載 ステップアップ ISO 9001

-ISO認証取得の資源投入をムダにしないQMSの運用と審査-

QMS の文書

規格解説 講師は語る

-4.2 文書化に関する要求事項のポイント-

エム・アンド・エス・クオリティーガーデン

福田 渚沙男

第3回

1.文書化のマネジメント

2.“適合の証明”のための文書化

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一貫性のある仕事(ムラのない仕事)をするためには,

ポイントになるところで過去の情報など(知識)を上手

に使うことが絶対に必要である。規格は,たとえば

7.5.1b)項などでそのことを要求している。情報とは意

味のある(meaningful)データをいい,情報を適切な媒

体(medium)に保持させることによってその内容を伝

達可能,あるいは人を超え時を超えて利用可能にしたも

のが文書(document)である。なお“document”はた

だの「書いたモノ」ではなく,内容的に検証済みの「公

式文書」というニュアンスが強い言葉であることにも注

意しておきたい。 知識共有のための文集化については,情報を集めるこ

と,ないし開発すること,それらを適切に文書化して利

用させること,その後の経験や研究を生かして内容を改

訂していくことなどに関する一連の「プロセスの管理」

が必要だし重要である。 方針や目標は,設定の背景などを含めて適切に文書化

することで周知(communicate)されることが確実にな

る。課題や意識を共有させること,通達などで重要事項

を徹底させることなどについても同様である。こうした

“情報の周知”のための文書化については,内容の適切

性・妥当性のレビューを的確に行うこと,発行の時期を

失しないようにすることなどについての管理が重要にな

る。 QMS の有効性を高めるには「文書のマネジメントプ

ロセスの戦略的管理」にもっと光をあてる必要があるこ

とを再度強調しておきたい。 (Susao FUKUDA)

品質マネジメントシステムを構築し維持管理していく

上で避けて通れないものの 1 つに文書管理がある。文書

管理に関する規格要求事項はごくあたり前のような内容

であるが(文書管理にかぎったことではないが),いざこ

れを運営していくと,さまざまな問題に直面する文書や

記録作成に追われ,本来業務に支障が出かねない状況に

陥ってしまい,結果として期待したほど ISO の導入効果

が実感できないといった悩ましい状況に直面している事

例を多々目にする。一般論ではあるがはじめに品質マネ

ジメントシステムの構築事例を紹介し,つづいて文書・

記録管理の事例を紹介する。

文書化に関する規格要求事項を整理すると表 1 のよう

になる。文書化・記録例欄に記載しているように“文書

化された手順”として品質マニュアルと規定類を 4 つ,

記録類を 20 前後,さらに“組織が必要と判断した文書”

を整備すれば,規格要求を満たす 低限の品質マネジメ

ントシステムの文書体系ができる。 「品質レベルは ISO 導入前と導入後でそれほど変わ

っていない。負担だけが増えた」と感じるその多くは,

3.“知識の共有”と“情報の周知”のための文書化

実践ガイド

自社の規模に合わせた文書体系の構築

前田建設工業㈱ 情報システムサービスカンパニー 千葉 喜一

1.はじめに

2.品質マネジメントシステムの構築

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

規格要求以上の過大なシステムになっていることが考え

られる。 ISO 9001 に取り組む以前から,すでに規格が要求す

る顧客満足を達成する一定レベルの品質を確保している

はずである。品質マネジメントシステム構築の第一歩は,

現状の品質レベルがどのようにして確保されているのか

を規格要求事項に沿って整理して文書化し,誰が見ても

わかるようにすることであると考えればよい。 品質マネジメントシステムの文書化について要点を

まとめると,以下のようになる。 (1) 品質マネジメントシステムの文書体系とその内容の

程度は,自社組織の規模や業務・活動,従業員の能力

を考慮したものにする。また,よほどのことがないか

ぎり規格の要求事項の範囲内(表 1)にとどめる。 “組織が必要と判断した文書”も当初は 小限にとど

める。品質マネジメントシステムのレベルアップは,

この当初のシステムが組織内に十分浸透したのち順次

追加していくとよい。この段階で,目的が不明確なま

まいたずらに“必要と判断した文書”を増やすことが,

過大なシステムとなる 大の要因となる。 図 1 は品質マネジメントシステム文書体系の事例(中

規模以上)である。先頭に●がついている文書が ISO 9001 が要求する文書・記録である。これに,作成者や

作成時期,提出先/配付先,保管場所,保管期間など

の情報を追加するとより一覧性が増し,使いやすいも

のとなる。 (2) 規定類は,それを使う側の立場に立って,読みやす

く理解しやすいものにする。そのため長文で難解な文

章の羅列は避け,フローチャートや一覧表を活用する

と効果的である。このことは,読まなくても見ればわ

かる理解しやすい手順書になる上,ページ数を大幅に

削減でき,品質マネジメントシステムの全体像を見通

す上でも重要なことである。 図 2 はフローチャート式の事例で,フロー図のみで表

現しきれないものを一覧表で補足している。誰がいつ

何をするのか,どの記録帳票を使うのか,誰の確認や

承認が必要なのかが一目瞭然となっている。同様の内

容を文章形式にすることを考えると,読みやすさや理

解のしやすさの点でその差は歴然である。 (3) 記録帳票は,ISO 9001 の要求事項に適合している

ことの客観的証拠を示すものであるため,規格要求事

項との対応が容易にわかるようにしておくことがポイ

ントである。フローチャートと帳票は密接な関係をも

っているため,フローチャートで示した手順のとおり

表 1 文書化に関する規格要求事項一覧

4.2.1 品質マネジメントシステム文書化要求内容 項番 文書化(規定)・記録例【小規模企業】 1.品質方針及び品質目標 4.2.1 a) 2.品質マニュアル 4.2.1 b)

①品質マニュアル(品質方針)

3.“文書化された手順” 4.2.1 c) 1) 文書管理 2) 記録の管理

②文書・記録管理規定

3) 不適合製品の管理 ③不適合製品管理規定 4) 内部監査 ④内部監査規定 5) 是正処置 6) 予防処置

⑤是正・予防処置規定

※組織が必要と判断した文書 4.2.1 d) ※1 方針管理規定,製品実現規定など 4.規格が要求する記録 4.2.1 e) 1) マネジメントレビューの記録 5.6.1 ①MR 記録書

②教育計画書 ③教育実施記録 2) 教育・訓練,技能,経験の記録 6.2.2 e) ④資格経験台帳

3) 製品実現プロセスの結果の記録 7.1 d) 4) 製品への要求事項レビュー結果の記録 7.2.2 ⑤要求事項レビュー記録書 5) 設計・開発へのインプットの記録 7.3.2 ※設計レビュー記録書 6) 設計・開発のレビュー結果の記録 7.3.4 ⑥設計レビュー記録書 7) 設計・開発の検証結果の記録 7.3.5 ⑦設計検証記録書 8) 設計・開発の妥当性確認の記録 7.3.6 ⑧設計妥当性記録書 9) 設計・開発の変更のレビュー結果の記録 7.3.7 ⑨設計レビュー記録書(設計変更) 10) 供給者の評価結果の記録 7.4.1 ⑩供給者評価記録書 11) プロセスの妥当性確認の記録 7.5.2 d) ⑪プロセス妥当性確認記録書 12) トレーサビリティの記録 7.5.3 13) 顧客所有物の紛失,破損に関する記録 7.5.4 ⑫顧客所有物記録書 14) 校正又は検証に用いた基準の記録 7.6 a) 15) 過去の測定結果の妥当性評価の記録 7.6 16) 校正及び検証の結果の記録 7.6

⑬測定機器管理台帳

⑭監査計画書 17) 内部監査の結果の記録 8.2.2

⑮監査記録書 18) 合否判定基準適合の記録 8.2.4 ⑯検査記録書 19) 不適合製品の処置の記録 8.3 ⑰不適合製品記録書 20) 是正処置の結果の記録 8.5.2 ⑱是正処置記録書 21) 予防処置の結果の記録 8.5.3 ⑲予防処置記録書

22) 組織が必要と判断した文書(記録) 4.2.1 d) ※2 品質計画書,購買条件書,苦情記

録書など 4.2.2 品質マニュアル作成に関する要求事項 a) 品質マネジメントシステムの適用範囲 b) 文書化された手順を参照できる情報 c) プロセス間の相互関係 4.2.3 文書管理で要求されていること 以下の管理を規定する“手順”の作成要求(例②に対応) a) 文書を承認する。 b) 文書をレビューする。必要に応じて更新・再承認する。 c) 文書の変更の識別,現在の改訂版の識別 d) 適切な版が必要な時必要なところで使用可能な状態にする。 e) 読みやすく,容易に識別可能な状態にする。 f) 外部文書の識別と配付管理をする。 g) 廃止文書の誤使用防止と識別をする。 4.2.4 記録の管理で要求されていること ・読みやすく容易に識別可能で検索可能であること。 ・記録の識別,保管,保護,検索,保管期間,廃棄に関する“手順”の作成要求(例②に対応)

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に実施したことを実証するため,フローチャートで表

現したキーワードと帳票の欄の名称とを合致させる必

要がある。 また,規定類と同様,使う側の立場に立って,短時間

で迷うことなく的確に記入できるように工夫すること

も大切である。とくに製品実現に関連する記録は日常

的であり,作成に負担がかからないような工夫が必要

である。記録の作成に思わぬ時間がかかるようであれ

ば,本来業務に支障をきたすばかりか後追いの記録作

成に走ったり,形式的な ISO になったりしてしまう危

険がある。

文書管理では,文書発行時の承認,レビュー, 新版

文書,外部文書,廃止文書の管理について規定されてい

る。ここで注意したいのは規格の c)項である。厳格な文

書の発行管理や配付管理(受領管理)を要求されている

わけではないので,過度な手順とならないようにするこ

とが大切である。 記録については,ISO 9001 の適合性を証明する記録

の管理について「読みやすく,容易に識別可能で,検索

可能であること。記録の識別,保管,保護,検索,保管

期間,廃棄を明確にすること」と規定されている。

3.文書管理・記録の管理

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QD-09

F/B( )

(1)(2)

QMS/

QMS

/

2 9 2

図 1 文書体系図【中規模企業以上】 図 2 業務フロー図

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

以上の規格要求事項を満足させるためには,一般的に

次のような運用上の負担が発生する。 ① 文書の制定・改訂のたびにコピー版を作成し,必要

部署へ配付しなければならない。 ② 文書・記録の決裁(承認)に時間がかかる。決裁に

まわっている文書・記録の状態が見えない。 悪の場

合,紛失する場合もある。 ③ 対象部署の文書・記録は必要のつど取り寄せないと

見ることができない。あるいはコピー版を必要部署へ

配付しなければならない。 ④ 分析のためのデータはそのつど収集し,加工しなけ

ればならない。 ⑤ 文書・記録の保管場所が思いのほか必要になる。 以上のような負担を軽減するためにさまざまな工夫が

必要となるが,ここでは 1 つの方法として IT(情報技術)

を活用した事例を紹介する。文書管理に関する規格要求

事項は,IT の特性上それを利用するだけで満足する内容

が多々ある。上記①~⑤に対比した形で,以下①~⑤に

IT の活用効果を述べる。 ①文書・記録の原本を全員で見ることになる。

コピー版を配付したり, 新版の入れ換えや差し替え

をしたり,旧版の回収などをする必要がない。必要な時,

必要なところで誰でもその文書・記録(原本)を見るこ

とができる。 新版や外部文書,廃止文書の識別管理が

確実になるため,規格要求事項 4.2.3 c) d) e) f) g)項のほ

とんどの内容は,IT 活用で運用負荷が大幅に軽減する。 図 3①,図 4は文書台帳・記録台帳に相当するもので,

文書台帳・記録台帳として意識的に維持管理する必要は

なく,該当する文書・記録を必要に応じて制定・改訂す

れば自動的にメンテナンスされ,常に 新版の文書台帳

として維持される。この電子文書台帳上で必要な文書を

開けば,図 3②のようにその内容(原本)が表示される。 図 5③も同様に,業務発生ごとに必要な記録を作成す

れば,自動的に業務別の記録台帳が維持されていくこと

になる。文書・記録の内容を見たい場合には,この電子

台帳上でそれを開けば,その原本(図 5④)が表示され

る。 ②承認のスピードが向上する。 電子メールを利用することで,決裁を得るために文

書・記録の原本をもちまわる必要がなく,また,図 5③の状態欄でもわかるように決裁状況を一望できるため,

未決裁のまま放置されたり,決裁文書が紛失したりする

こともなくなる。決裁者が地理的に離れている場合には,

とくに有効である。 ③対象部署の文書・記録およびその状態(図 5⑤)をい

ながらにして把握できる。

図 3 マネジメントシステム標準類 (文書台帳)

Page 6: QMS の文書52 連 載 /ステップアップISO 9001 多くの経営書はマネジメントのサイクルを“Plan- Control-Review”と表現している。規格4.2.3

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このことは品質マネジメントシステムの運用状態を容

易に把握することが行使できるということを意味してお

り,各立場の責任権限の状況を見ることができ,IT を利

用する 大のメリットということができる。 ④データが電子化されていて,「8.4 データの分析」で要

求されているような項目についてリアルタイムで集

計可能なため,集計に追われることなく分析に注力で

きる。 ⑤文書・記録の保管スペースを削減できる。 以上の電子化の効果は,事例のような電子メールやワ

ークフローを組み合わせた電子管理システムではなく,

手軽な電子掲示板や共有のファイルサーバーを利用する

ことでもかなり期待できる。その効果を確認しながら,

徐々にステップアップすることも可能である。

IT を利用する場合,考慮しておかなければならない点

がいくつかある。その代表的なものをあげてみる。 (1) 電子化によって文書や記録の管理が容易になり管理

負荷が軽減する反面,管理に重点を置きすぎると品質

マネジメントシステムの運用が堅苦しくなってしまう。

管理する側,管理される側のいずれにとっても有益と

なるような運用の配慮が必要である。管理一辺倒では

なく,品質マネジメントシステムのウィークポイント

4.電子管理上の留意点

図 5 製品実現記録 (業務別記録台帳)

図 4 記録台帳 (規則別)

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

を浮き彫りにする手段としての電子化を考える必要が

ある。 (2) データの消失,停電や故障などによって「4.2.3 d」必要なときに,必要なところで使用可能な状態にある」

を維持できない事態を考慮しておく必要がある。たと

えば原本は発行部署が紙で管理し,電子データが利用

できない事態が発生したら一時的にコピー版を必要部

署へ配付するなど,不測の事態への備えが必要である。

不足の事態への備えはその影響に見合う程度にするこ

とはいうまでもない。 (3) 上記の不測の事態に備え,データのバックアップ体

制を整備する。 (4) 電子データは永久保存を保証するものではない。電

子データは永久保存可能と考えがちであるが,保存期

間によっては問題となる場合がある。たとえばフロッ

ピーディスクを例にした場合,保存期間は 3 年程度が

限界と考えた方がよい。それ以上になると,記録媒体

の劣化などによってデータを読みとれなくなる可能性

が出てくる。CD や DVD なども同様である。また,技

術の進歩によって読み取り装置自体が変わってしまい,

記録媒体はあっても中身を取り出せないといった事態

も考えられる。保存期間に合わせた記録媒体の選択や

維持管理の方法を決めておく必要がある。

スリムな品質マネジメントシステムの構築と運用管理

の有効な手段として電子管理システムの事例紹介をした

が,外部審査や内部監査などによって不本意な「背伸び

システム」へと変貌しないように,ISO 9001 規格要求

事項のねらいを正確に理解し,無理のない有効な品質マ

ネジメントシステムへと改善していくことが大切である。 (Kiichi CHIBA)

参考文献 [1] 岩本威生(2001):『ISO 9001:2000 解体新書』,日本規格協

会。 [2] 細谷克也(2001):『品質マネジメントシステム要求事項の解

説』,日科技連出版社。 [3] 細谷克也編著,西野武彦著(2003):『超簡単!ISO 9001 の

構築』,日科技連出版社。 [4] 細谷克也編著,青木昭,西野武彦,松本健著(2004):『ISO

9001 プラス・アルファでパフォーマンス(業績)を向上す

る』,日科技連出版社。

5.おわりに

�� ISO 9001 2000

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K.N 「文書管理」について,まず文書作成上の問題を

出していきましょう。 H.K 昔から JIS マークを取っていたため,ある程度の

システムがありました。そこに ISO で必要な文書をつく

りましたが,相当重く乗せてしまったところがあります。

今まで旧文書で動いていたのになぜまたつくるのか,と

いう現場の反発も大きい。全社的文書の必要性をあまり

わかってもらえません。 T.H 当社でももともと例規体系があったので,ISO の

要求事項に該当する文書をピックアップして構成しよう

としました。そこで例規を読んでいくと,現実にはでき

ないような立派なことが書いてある。これをそのまま審

査対象文書にされてはと,抜きずりをした。すると,原

本と抜きずりをしたものができてしまい,二重構造にな

ってしまいました。 K.S うちも ISO 9001 でシステム構築する時,もとの

文書体系を資産として使うのか,それを捨てて新しくつ

くるのか,考えました。過去の資産をうまく使うと非常

に格好はいいですが,かえって作業の工数がかかります。

それで,使えそうな部分をピックアップし,文書は新規

につくりました。結果的に二重にならなかったのです。 M.I 生かせるものはとりあえず生かしてみて,そこに

規格をあてはめていく方法のほうが,現場は受け入れや

すいかもしれません。足りないところを付け足していけ

ば,楽にできるのではないでしょうか。 T.M 私が以前つとめていた会社では,過去のさまざま

なノウハウが残されていました。たとえば設計に関して

は,デザインレビューも前からやっていて,型式試験み

たいに新しい開発品は必ず主管レベルの人が集まってレ

ビューするなど,会社独自の規定があります。そういう

ものを ISO 9001 にあてはめていくつくり方のほうがい

いのではないかと思います。 K.N 過去を一掃して再構築をする方法と,今ある文書

に規格をあてはめる方法の 2 つの選択肢がある。 H.K 勉強からスタートしなくてはならないのに,その

勉強期間が限定されると,社外のプロ,コンサルにそっ

くり頼んでしまう。コンサルは契約期間内に審査登録し

なければならないから,ひな型を押しつける場合が多い。

そして社内でいざ運用になると困る。 U.M 私は「ないものはつくらない」コンサルをしてい

ます。審査員から指摘されたら,そこで必要なものを付

け加えていく。運用を通して改善していき,削る部分は

削って,運用できる部分は運用していって発達させる。 S.I 当社も 94 年版で取得の際,普段の仕事をフロー

にして規格にあてはめていきましたが,結局はどんどん

増えて重くなっています。2000 年版で文書の要求が軽く

なったし,徐々に文書体系を見直したいと思っています。 T.H 当社には 40 種類ほどの手順書があり,部門によ

っては 10 種類も使わなければなりませんでした。2000年版移行の時に,一度すべて捨ててつくり直しました。

今度は部門ごとに組み直し,その部門はこれ 1 冊を見れ

ばいいというようにしました。ずいぶん軽く,見やすく

なりました。 K.N いろいろなアプローチがありますが,まずはつく

って,それを動かしてみる。運用していく中で,必要が

あれば変えていくことが共通した考えですね。

M.I 当社の ISO の審査登録の動機は役所の入札に参

文書管理をディスカッションする

自社に合った文書体系をつくろう

ISO推進者会議

ディスカッションメンバー

K.N (QMS 主任審査員) テーマリーダー

H.K (文具メーカー) T.H (建設業)

K.S (自動車部品メーカー) M.I (建設コンサルタント業)

T.M (船舶用機械メーカー) U.M (QMS コンサルタント)

S.I (食品メーカー) A.S (建設コンサルタント業)

T.Y (土木業) S.N (エンジニアリング業)

「使いやすい文書」しか定着しない

Page 9: QMS の文書52 連 載 /ステップアップISO 9001 多くの経営書はマネジメントのサイクルを“Plan- Control-Review”と表現している。規格4.2.3

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

加するためでした。それが経営者の考えで,どんな文書

でもよかったのです。しかし現場にしてみれば,これま

でもきちんと仕事は流れていたのに,なぜこんなものを

使うのか。 ISO は道具であって,それをどのように使うかは,使

うほうが決めること。だから,この文書ではまずいとい

うのならいってもらう。使う人が使いやすい文書をつく

って,それをあとの人につないでいく。そういう目的意

識をもたせてやっていかないと,置いてあるだけになっ

てしまうのではないでしょうか。 U.M 運用面で自組織に合ったものになっているのか。

「この文書はマネジメントシステムと関係ないから,管

理していない」という場合がある。たとえば就業規則に

慶弔規定が入っていて,社員の父親が亡くなった時に何

日休めるかを調べる。しかし,はたして該当する文書の

適切な版が,必要な時に必要なところで使用可能な状態

か。運用は,そういう自分たちの身近なところから見て

いくべきではないか。 T.M 当社は 40 名ほどの小さな会社ですが,とにかく

とっつきにくい文書になっています。伝票を少なくする

とか,削るような方向で効率よいシステムに変えていき

たいと思っています。ISO の趣旨に反しない程度に,目

的を達成する範囲内で変えていきたい。そうしなければ,

何のための ISO なのかわからなくなってしまう。 A.S うちは土木業界でいう KKD,カンと経験とどん

ぶり勘定で仕事をしてきたところがあり,文書は全然な

かった。ですから,マニュアルは規定の裏返しで,要領

などで運用するような形にしました。たとえば,最初は

品質計画書に何もかも書いていましたが,今は「施工計

画については施工計画書による」とする。そういう方法

で使いやすくしてきています。 T.Y 当社は公共事業の土木が中心です。現場で役所に

提出する書類と ISO に関連する書類の整合性がまだう

まくいっていないところがあります。現場監督とか現場

で働いている方に ISO について理解を深めてもらうの

が一番でしょうが,それもなかなかむずかしい状況です。 T.M 現場の人に「書いてください」といっても,「こん

なものは書けない」といわれて,それで終わりの場合が

多いでしょう。そういうところをうまく付き合っていく

ことが,文書管理にかぎらず,システム運用の問題点の

1 つではないかと思います。 うちは事務局の私が会社のすみずみまで仕事を知って

いるわけではないのに,1 人で文書をつくりました。さ

て実績を残さないと本審査を受けられないので運用しよ

う。すると,現場の職人から反発がある。事務局や推進

責任者がいくらいっても,トップダウンで,経営者の熱

意が現場まで伝わらなければうまく回らない。 しかし,QC サークル活動を導入し,問題が解決され

つつあります。QC サークルはトップダウンではなくて

ボトムアップです。何年かつづけてきて,「今の文書は使

いにくいから,こう直そう」という話題が出るようにな

ってきました。これはいいことだなと思っています。最

初はトップダウンでも下まで浸透しなかったという問題

があった。しかし,ボトムアップで QC サークルをやっ

て,少しずつ経営者の考えていること,あるいはコミュ

ニケーションの必要とか,いろいろな共通認識が生まれ

てきました。 K.N 規格では,文書は発行する前に適切性を確認する

としていますが,「適切性の確認」について,どんな意味

づけをしていますか。 A.S 内部監査や外部審査の指摘で文書を改定して,そ

の時はこれで適切だと思って発行しますが,運用してい

ると,ほかの規定や実際の仕事と合わないという声があ

る。そうやって実際に動かしながら,たとえば製品をつ

くるのに支障がないか,それを確認して改定しています。 K.S 94 年版の時は,文書の起案をすると,確認して,

次に承認という 3 段階でした。起案者の作成した文書を

第三者の目で見て,内容が適切かどうかをしっかり確認

するのが確認者の仕事である。承認者は,確認者がちゃ

んと確認したかどうかを見る。だから,責任が一番重い

のは確認者である。 しかし,2000 年版は起案,承認です。承認者が内容の

適切性をしっかり確認して承認しているか,ある意味で

のめくら判で押しているかはわからない。

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S.N 文書にも階層があり,その階層ごとにマネジメン

トがある。まずいえることは,文書をつくったというこ

とは,そこに必要性があったという事実があります。文

書の適切性は,その階層のマネジメントの問題ですから,

その階層のマネージャーが承認したということは,適切

性があると判断したことになると思います。 T.M 適切性という言葉は意味がわかりにくいので,品

質マニュアルでは使わないほうがいい。「実際の仕事と

要求事項との差がないようにする」とか,そんな言葉で

はどうでしょう。 U.M 私も以前,勤務先で品質マニュアルをつくった時,

「適切性」という言葉は使いませんでした。審査で適切

かどうかの観点から文書を承認するということはどこに

書いてありますかといわれたら,ここにこう書いてある

ことがそうですよと答えていました。 K.N 先ほど話があったように,これでちゃんと仕事が

できるかを確認して発行する。そういうシンプルな話だ

と思います。適切性,妥当性という観点で,レビューを

行う。そこを的確に行うことが大事ですね。 S.N 私がある審査員にいわれたことは,「文書管理は

会社の根本だろう。資料を“死料”にしてはダメだ。“活

料”,生きたものにする」――なるほどと思いました。

A.S パソコンの中に文書を入れておいて,最後にアウ

トプットし,品質記録として管理する。しかし途中の段

階で,審査の際「この書類はありますか」といわれた時,

審査員にパソコンを見せてオーケーをもらえるのでしょ

うか。 M.I 当社では,マニュアルなどの文書は電子データが

本物で,紙にプリントしたら二次文書だとしています。

ですから,外部審査の時はパソコン画面を示しています。 A.S うちでも文書関係は電子媒体で管理しています。

そうではなく,たとえばまだ工程の途中の段階のものに

ついて,この件に関する設計審査についての文書を見せ

てくださいといわれた時に,パソコンの中にあって印刷

していない。それでここまでは終わっていますと画面で

見せたことはありますか。 M.I 実際,途中の段階できちんと書いている資料は少

ない(笑)ので,終わったものをもってきて審査員に見

せています。今,社内でもそこが問題になっています。

ある物件について,今はどの段階か。その担当者が上司

から「ISO で管理しているでしょう」と聞かれる。「も

ちろんやっています」と答える。ところが,書類は何も

ない。 T.H うちは建設業で,関東一円で常に 100 以上の現場

があります。現場と管理部門での管理書類のやりとりの

ために,ウェブシステムをつくりました。誰でも見られ

る共用のサーバーの中に,すべての文書を入れています。

承認も全部電子承認です。その中に ISO のシステムに入

る文書もあり,審査の時には画面で見せています。 K.N 最近はパソコンの画面を見せて審査を受ける組織

が多くなっています。ただし,品質保証体系図,工程フ

ロー,プロセスフローのような重厚長大なフロー図にな

ると,パソコン画面では見ることができない。いざ使お

うとすると,印刷したり,拡大したりしなければ使えな

いという弊害があります。紙がいいとか,電子ファイル

がいいという話ではなく,やはりその組織の業種,業態

に合った方法が必要で,画一的にはならないのではない

かと感じています。 S.N 電子化された文書をいかに見やすく,誰でもすぐ

活用できるように管理していくか。また,どうやって外

部からのアクセスを排除するか。社会一般的な流れとし

電子媒体か,印刷物か

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

て,文書管理はそういうセキュリティの問題のようなと

ころに重点が移ってきているのではないでしょうか。 また,文書管理というと保管場所の問題がありました。

いかにスペースを有効に使うか。どうファイルを整理す

るか。しかし,電子化すれば,全部サーバーに入れてお

けばいい話で,別に捨てる必要はなくなります。 M.I 当社は文書管理の方法として,背表紙の色などを

規定しています。しかし,最初から電子データで管理し

ていれば,それを外部審査で見せてもいい。そうすると,

省スペース,ペーパーレス化にもなる。 K.S 文書と記録の話が混在しているのではないでしょ

うか。記録の場合は改ざんされてはいけないということ

があります。途中のものを電子化された状態で見せ,審

査員に記録か文書かとたずねられた時に,これは記録で

すというのか,文書ですというのか。 電子化は否定しませんが,記録はたとえば PDF に変

えるとか,何かして簡単には変えられないような形で保

管する。文書なのか,記録なのかが整理できていなけれ

ばいけない気がします。 T.H うちの場合は,最終権限をもっている人間が判を

押した時点で,内容はフリーズされます。ただ,電子化

というと,とたんに皆さん厳密に考え出しますが,紙で

運用していた時はどうだったのか。たとえば部下に判を

預けておいて,必要があれば押せるようにしていた。し

かし,電子化というと非常に厳密に考えはじめる。行き

過ぎもあると思います。 S.N 逆に,うちでは紙ベースだと管理者がめくら判を

押すようなこともありました。ですから,それを徹底的

にチェックしてくれて,いいことではないかと思うので

す。 K.N 会社によって本当にきっちりと IT 技術を駆使し

て管理しているところもあれば,承認された文書とその

前段階のものでホルダーを分けるような運用ルールを決

めて管理しているところもあるようです。 T.M ほかに電子化での問題はありますか。 T.H まず外部文書というか,外へ提出する記録類はそ

の時点で紙になるので,基本的には電子化できません。

役所でも,CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle)などで電子提出を求められるケースもありますが,まだ

ごく一部です。 T.M 顧客も電子化してもらって,メーカーとのやりと

りが同じレベルになればいいのかもしれませんね。 T.H そうですね。ただ,その場合には同じシステムを

共有していなければならないのでむずかしい。私どもの

業界では国土交通省が音頭を取って,建設 CALS という

ものを広めようとしていますが,なかなか足並みがそろ

わないようです。 T.M 配付文書の授受管理などはどうなりますか。当社

の場合,マニュアルや規定類を改定すると,最新版を紙

で「管理文書」という赤いハンコを押して配付していま

す。コピー文書は管理文書ではない。管理文書を配付す

る時は,受領した部門長の日付印をもらい,同時に旧版

を回収しています。でも,事業所が散らばっている会社

や,本社と工場が離れている会社はたいへんかもしれま

せん。 K.S イントラネット上,電子媒体で配付しています。

とくに受領確認はしていないですね。 T.M パソコンの画面を開くと,「見た」という情報が受

け取れるシステムがあるらしいですね。それで授受管理

をしている話も聞いたことがあります。 M.I うちもイントラネット上で,改定情報を発信して

いますが,見たという確認は取れていません。変わった

ということはわかっても,何が変わったかまでは見てい

ないのではないかと思います。 A.S 当社は文書を改定すると,最新文書の版を載せる

だけでなく,推進室からの連絡事項として,「何月何日付

でこういう変更をした」ことを別に載せています。ただ,

それでも読まないとなると,推進室としては方法がない

ですね。 T.H たとえば,品質クレームがあれば再発防止の処置

を講じて,その周知徹底のために印刷したものを配付し

ています。やはり,きちんと見る人とまったく見ない人

がいて,結局再発してしまうことがあります。これは ISOの文書管理以前の話かもしれませんが,文書管理がもの

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をそろえて管理することだけで終わることなのか。本当

に品質のつくり込み活動に生かせるところまでを文書管

理というのか。 K.N その方法が電子媒体でも印刷物でも,それがちゃ

んと伝わって理解されるかという心配がありますね。あ

まりパーフェクトなイメージを追求しすぎると,運用に

縛られてしまう。極端に走らず,いったん決めたルール

でも必要があれば変えていけばいいのではないでしょう

か。

K.S 文書管理をやってよかったことは,たとえば帳票

ですね。当社では従来,統一されていないものもありま

しが,ISO 9001 の導入で規定ができ,帳票も決められ

た。誰でも同じ帳票で仕事をするようになり,文書が個

人もちではなくなる。 S.N 個人もちにせず,いかに表に出してもらうか。私

の職場では,引出しのついた棚を置くのをやめました。

何がどこにあるのかを見えるようにして仕事をすると,

資料や文書がどんどん増えていく様子が見える。そこを

効率化して,働きやすい仕組みにしていく。そこがポイ

ントだと思います。 A.S うちのような設計会社は,設計者が個人で管理し

ているものが多く,あとになって「設計書はどこにやっ

たかな」となってしまう。ISO を導入してからは,ファ

イル 1 冊に一連の文書も記録も入っていて,経過も追い

かけられる。最後の納品の時に慌てなくてもよくなりま

した。 T.M わが社でも,作業標準などは今まであまり整備さ

れていませんでした。メモ帳のようなものに個人のノウ

ハウが書いてある。それはそれでいいかもしれないが,

それをオープンにして,社内教育にも使えるようにする

とか,いろいろ方法があるはずです。 K.N 情報や知識の共有という観点ですね。 M.I 設計者は自分のノウハウを誰かに教えると,自分

の地位を脅かされるという危険性を感じていたようです。

だいぶ改善されてきたと思いますが,なかなかやってく

れない。 A.S そういう人がチェックリスト作成に参加してくれ

れば,最高の技術のチェックリストができる。その運用

によって,みんな同じレベルのチェックが可能になる。 M.I 私どもでも経験知というか,1 人の人間しかわか

らないことが多々ありました。その人はわかっていて仕

事をしても,それが記録として残っていない。記録が残

れば,ほかの人でも作業ができる。作業の標準化にも使

える。そのためにも,やはり記録や文書は残しておかな

ければならないと思います。知識として残っているもの

を文書化するためにも,ISO を利用できると思います。

ISO 推進者会議(IPC:ISO Promoter committee)へのご入会は随時受け付けています (会期は 8 月から翌年 7 月までの 1 ヵ年,年会費:30,000 円/1 名)

お問合せ先:日科技連・ISO 研修事業部 IPC 担当:波田野 崇(TEL.03-5379-1233)

文書管理を生かして組織全体の経験知に

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連 載 /ステップアップ ISO 9001

今回のテーマは文書管理です。文書管理に悩まされる

組織は多いと思います。今回のディスカッションにはそ

んな悩みが現れていて,また組織によって文書管理に対

する考え方が異なっていることもあり,非常に興味深い

ものでした。 最初にH.K さんの意見にあるように自組織のQMSを

「重い(システムが重い)」と考えている,あるいは審査

でそのような指摘をされた組織は多いと思いますので,

「システムが重い」ということに少し着目してみましょ

う。 「システムが重い」とはどのようなことをいうのでし

ょうか。何となくイメージはわかるような気がするけど,

どんなものかといわれると説明しにくいのではないでし

ょうか。システムが重いとはどのようなことかを説明で

きないと,どうしたら重いシステムでなくなるかはわか

りません。 私の審査の経験では,システム文書がかなりのボリュ

ームがあり,「内容がわかりにくい」とか「必要なことを

探しにくい」のであれば重いシステムというのではない

か,と思います。これにはいくつかの原因があるはずで

す。たとえば,文書の作成者が規格をよく理解していな

くて,自分のわからない言葉をそのままシステム文書に

記載してあるとか,文書の階層が複雑で,何段階かの文

書を追跡しないと自分の必要な情報が得られない,など

があるようです。前回のディスカッションに「規格要求

にあまりこだわるな」との意見がありましたが,規格要

求事項をよく理解して何が自組織に重要かを見きわめ,

重要な部分をしっかりと,それほどではない部分は軽く

書いてあるシステム文書がいいのではないでしょうか。 ◆◆◆

次に,これまで使っていた品質文書と ISO のための文

書の関係が問題になります。EMS(環境マネジメントシ

ステム)の文書の場合は,あまり系統だった文書体系が

組織内にあることは少ないですが,QMS の文書体系は

一般的に組織内に存在している場合が多いと思われます。

QMS を導入しようと考えた時点で,社内の品質文書が

まったく使いものにならないのであれば,それを捨てて

新たに構築することをお薦めします。しかし,まがりな

りにも使えていてあまり問題ないのであれば,それを捨

てるのはもったいないことです。そのような時は,規格

をどう解釈すれば自組織のシステムが規格を満足するか

を考え,また何が足りないのかを確認して,適用除外で

きなければその部分だけ追加するようなものでいいと思

います。K.S さんが述べているように「過去の資産をう

まく使う」ことはたいへんな作業になりますので,あま

りお薦めできません。現在使っている文書を分解して,

規格に合わせて再度組み立てるのは大変な作業です。 これも H.K さんの意見にありますが,「コンサルがひ

な型を押しつける」ケースはかなり多いようです。この

場合は,コンサルを受ける側がよほどしっかりしないと,

規格が何を要求しているかよくわからないままシステム

文書だけできあがってしまい,結局使いものにならない

システムになることがよくあります。まず,要求事項を

自組織の特徴に合わせて徹底して理解することが大事で

す。「この要求事項を実施しないと,どんな問題が発生す

るか」を検討するのも規格を理解する 1 つの方法として

有効です。ちょっとでも疑問に思ったら,コンサルと徹

底的に議論しないとコンサルを依頼する価値がありませ

ん。 ISO では継続的改善を求めています。最初はあまり感

一口アドバイス

QMS 主任審査員 篠原 健雄((財)日本科学技術連盟 嘱託)

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心しないシステムであっても,T.M さんがいうように

「ISO の趣旨に反しない程度に,目的を達成する範囲内

でシステムを変えていく」ことがもっとも重要でしょう。 ◆◆◆

文書管理の問題ですが,文書管理は基本的に承認の管

理と最新版の管理が重要です。 ディスカッションで数人の方が述べているように,最

近は電子媒体での文書管理が増えています。このような

場合は,最新版の管理はわかりやすいですが,承認の管

理がむずかしいです。 最新版管理は結論からいうと,使ってよい文書以外は

使用できないようなシステムにすることがもっとも有効

でしょう。どんな方法をとっても,必ずミスは出てきま

す。たとえば,電子媒体上で管理をしていても,それを

コピーしてもっていたら最新版を使わないことも考えら

れます。このようなケースをシステム的に排除できれば

ベストですが,レアケースを考えていても,それこそシ

ステムが膨大になるだけです。もっともリスクの少ない

方法をとればよいでしょう。また審査員側も,まだ成熟

していないシステムの審査では,レアケースに対処でき

ていないケースを捉えて,「文書管理の手順に不備があ

る」などという指摘は実害がなければ避けるべきだと思

います。 ◆◆◆

最後に文書管理をどう生かすかについての議論があり

ました。文書管理とは,品質方針や品質目標等を文書化

して周知徹底したり,最新情報の共有化や作業の手順化

によって業務を確実に実施したりするためのツールとし

て使える大事なものです。文書管理がうまくいかないと,

QMS 全体への影響が大です。皆さんも文書管理をもう

一度見直して,その目的を十分に達成できるように頑張

ってください。 (Takeo SHINOHARA)

6 6 763,000 57,750

( )Tel:03-5378-9814 Fax:03-5378-9842

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