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身体表現活動におけるオノマトペを用いた動きとイメージ Movement and Image in Physically Expressing Actibity Utilizing Onomatopoeia Ayako SHIMOGAMA キーワード:オノマトペ・イメージ・動き 1.はじめに これまでの研究において、幼児の身体表現活動 を引き出すためには、指導者の言葉かけが重要で あることが示唆されている。その指導者の言葉か けの中で、動きとイメージを結びつける言葉とし て擬音語・擬態語・擬声語(オノマトペ)が使わ れることが多い。オノマトペは物事の声や音・様 子・動作・感情などを簡略的に表し、情景をより 感情的に表現させることの出来る手段として用い られており、語彙力が十分でない幼児においても 直感的に捉えたイメージを表現でき、大人とほぼ 同じイメージを持つことができる。九州体育・ス ポーツ学会第59回大会において、5歳児幼児1人 ずつを対象に、オノマトペ(ピョンピョン・クル クル・コロコロ・ブーンブーン)を用いて幼児の 動きとイメージについて調査研究を行い報告した。 その結果では、「ピョンピョン」は「跳ぶ」動き であり、イメージされた題材は「ウサギ」「カエ ル」が大半を占めていた。「クルクル」では、「ま わる」動きが最も多く、イメージは27種類と多岐 にわたっていた。「コロコロ」では、「横転」の動 きが最も多く、次いで「前転」であった。イメー ジは「ダンゴムシ」「ドングリ」「ボール」が上位 を占めていた。「ブーンブーン」では手で表現し て動く動作が最も多くみられ、イメージは16種類 であり「ハチ」が最も多かった。それぞれのオノ マトペを用いた動きの調査では、一人で動く設定 においてイメージを想起できない幼児が認められ た。日常保育では保育者や友達と一緒にイメージ を共有して動きを楽しむ機会があることから、イ メージを持つことができない幼児もグループで活 動することで、イメージを共有してより豊かな動 きを楽しむことができるのではないかと考えた。 そこで、今回は、同じオノマトペを用いて3~4 人のグループで動いた場合、幼児がどのようなイ メージを持って動いているのかを知ることを目的 に調査・分析を行った。 2.研究対象及び方法 象:長崎県および福岡県の幼稚園・保育所 に通う5歳児64名(19グループ) 調査期間:2010年11~12月 法:指導者が日常的に使用するオノマトペ の中から、「ピョンピョン」「クルク ル」「コロコロ」「ブーンブーン」を選 択し、3~4人のグループに対し、以 下の対面調査を行った。 ①オノマトペからイメージするものは何か尋ねる 検者:「○○○○(オノマトペ)」ってなあに」 幼児:「イメージしたものを応える」 ②イメージしたもので動くよう促す 検者:「じゃあ、○○になって動いてみて」 幼児:動く ①②の様子を VTR に撮影し、その映像から分析 を行った。 長崎女子短期大学紀要 第37号 平成24年度〈2013.3〉 -78-

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身体表現活動におけるオノマトペを用いた動きとイメージ

下 釜 綾 子

Movement and Image in Physically Expressing Actibity Utilizing Onomatopoeia

Ayako SHIMOGAMA

キーワード:オノマトペ・イメージ・動き

1.はじめにこれまでの研究において、幼児の身体表現活動

を引き出すためには、指導者の言葉かけが重要であることが示唆されている。その指導者の言葉かけの中で、動きとイメージを結びつける言葉として擬音語・擬態語・擬声語(オノマトペ)が使われることが多い。オノマトペは物事の声や音・様子・動作・感情などを簡略的に表し、情景をより感情的に表現させることの出来る手段として用いられており、語彙力が十分でない幼児においても直感的に捉えたイメージを表現でき、大人とほぼ同じイメージを持つことができる。九州体育・スポーツ学会第59回大会において、5歳児幼児1人ずつを対象に、オノマトペ(ピョンピョン・クルクル・コロコロ・ブーンブーン)を用いて幼児の動きとイメージについて調査研究を行い報告した。その結果では、「ピョンピョン」は「跳ぶ」動きであり、イメージされた題材は「ウサギ」「カエル」が大半を占めていた。「クルクル」では、「まわる」動きが最も多く、イメージは27種類と多岐にわたっていた。「コロコロ」では、「横転」の動きが最も多く、次いで「前転」であった。イメージは「ダンゴムシ」「ドングリ」「ボール」が上位を占めていた。「ブーンブーン」では手で表現して動く動作が最も多くみられ、イメージは16種類であり「ハチ」が最も多かった。それぞれのオノマトペを用いた動きの調査では、一人で動く設定においてイメージを想起できない幼児が認められ

た。日常保育では保育者や友達と一緒にイメージを共有して動きを楽しむ機会があることから、イメージを持つことができない幼児もグループで活動することで、イメージを共有してより豊かな動きを楽しむことができるのではないかと考えた。そこで、今回は、同じオノマトペを用いて3~4人のグループで動いた場合、幼児がどのようなイメージを持って動いているのかを知ることを目的に調査・分析を行った。

2.研究対象及び方法対 象:長崎県および福岡県の幼稚園・保育所

に通う5歳児64名(19グループ)調査期間:2010年11~12月方 法:指導者が日常的に使用するオノマトペ

の中から、「ピョンピョン」「クルクル」「コロコロ」「ブーンブーン」を選択し、3~4人のグループに対し、以下の対面調査を行った。

①オノマトペからイメージするものは何か尋ねる検者:「○○○○(オノマトペ)」ってなあに」幼児:「イメージしたものを応える」

②イメージしたもので動くよう促す検者:「じゃあ、○○になって動いてみて」幼児:動く

①②の様子を VTR に撮影し、その映像から分析を行った。

長崎女子短期大学紀要 第37号 平成24年度〈2013.3〉

-78-

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ウサギ17

カエル17

カンガルー10

バッタ7

バネ4

馬 2縄跳び 2

≪1グループだけの意見≫

グループ(ピョンピョン)

犬・猫・チーター・かまきり・魚・石・いるか・鯨の水・あめんぼ・花火・リズム・ボール・かかし・鳥

ウサギ66

カエル18

カンガルー 3

ひとりずつ(ピョンピョン)

バッタ 2

イメージなし 6

3.結 果1)オノマトペ「ピョンピョン」「ウサギ」(17グループ)「カエル」(17グループ

「カンガルー」(10グループ)「バッタ」(7グループ)が大半を占めており、1人で動いた場合と同様であった。しかし、グループの場合はそれ以外にもイメージの種類が多くみられた。(図1)また、友達の真似をすることでイメージを共有し、イメージが持てない幼児はいなかった。動きでは、

1人で動いた場合と同じようにそれぞれが思い思いに「跳ぶ」動きをしていたが、しばらくすると1人ずつ動いた時にはなかったイメージの提案・承認するやりとりがあり、友達の模倣をしながら跳ぶ場面もみられた。さらに、カエルになって動きながら笑顔で見合うなど、仲間と動く楽しさを味わうように互いに影響しあう姿があった。また、動く時間が持続し運動量の増加、動きの広がりがみられた。

カエル

[グラフ1] [グラフ2]

[写真1] グループ「ピョンピョン」

身体表現活動におけるオノマトペを用いた動きとイメージ

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扇風機10

ヘリコプター6

風車 3

竜巻 3

タイヤ 3新体操リボン 3メリーゴーランド 2

グループ(クルクル)

ボール 2ヘビ 2飛行機 2

バレリーナ 2しっぽ 2

≪1グループだけの意見≫綿菓子・リンゴの皮むき・フラフープ・ばね・葉っぱ・バイク・ネジ・投げ輪・トマト・でんぐり返し・台風・ティッシュペーパー・だんご・竹とんぼ・タケコプター・ゾウ・すいか・手裏剣・ジェットコースター・サーカスの人・コマ・キャンディー・汽車・観覧車・髪のカール・かたつむり・風・馬・渦巻き・糸・椅子・UFO

イメージなし35

コマ15

フープ5

ウサギ 3

ひとりずつ(クルクル)

扇風機 3

ヘリコプター 3車 2

竜巻 2ドングリ 3バレリーナ 2

ヘビ 2ヒモ 2飛行機 2

メリーゴーランド2

≪1グループだけの意見≫カール・風車・雲・栗・自転車・ネジ・ソフトクリーム・ダンゴムシ・ムシ・テントウムシ・フラミンゴ・ボール

2)オノマトペ「クルクル」「扇風機」(11グループ)が最も多く、続いて「ヘ

リコプター」(6グループ)であった。「風車」「竜巻」「ダイヤ」「新体操リボン」が3グループの他、2グループ以下は38種類のイメージがあった。1人ずつ動いた際は27種類であったが、グル―プで

の場合は44種類と1.5倍のイメージの数であった。動きでは、「回る」動きが主となり、風車になって3人で手を繋いで回ったり、メリーゴーランドをしようと4人で手を繋いで走って回る姿がみられ、友達と関わりながら動いたり、それぞれに動く様子があった。

3)オノマトペ「コロコロ」「ダンゴムシ」(12グループ)「ボール」(11グ

ループ)「ドングリ」(7グループ)が多く、一人で動いた場合と変わらなかった。1人ずつ動いた際にはイメージすることができない幼児が26%存

在したが、グループで実施した際はイメージできない幼児はいなかった。動きでは、横転、前転、立って回る動きが多かった。オノマトペを聞いて動きにした場合とイメージしたものを動いた場合、1人ずつ動いた際は、動きに変化がみられなかっ

風車 だんご

[グラフ3] [グラフ4]

[写真2] グループ「クルクル」

下 釜 綾 子

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ダンゴムシ12

ボール11

ドングリ7

石 4

グループ(コロコロ)

タイヤ 4みかん 3まつぼっくり 3

タマゴ 3くつ 2

ビー玉 2ボウリング 2

≪1グループだけの意見≫テントウムシ・イヌ・おにぎり・葉っぱ・火花・雪だるま・ねこ・木・人間・電気・栗・手巻き寿司・トマト・りんご・マルボーロ・バルーン・コマ・渦巻き・いもむし・ちくわ イメージなし

24

ダンゴムシ18

ドングリ16

ボール11

ひとりずつ(コロコロ)

イシ6

だんご 4テントウムシ 2

タイヤ 2

≪1グループだけの意見≫イヌ・エンピツ・おにぎり・コアラ・パンダ・コオロギ・ドアのノブ・掃除のコロコロ・ブタ・でんぐりかえり・のりまき

たが、グループで動いた場合は1人がボウリングのボールになって四つん這いで肘をついて這いながらピンにぶつかるとピンが倒れる動きで、役割を交代しながら繰り返す姿がみられた。また、1

人がドングリになって転がると真似をして同じように転がりを楽しむ姿や、ドングリと転がす役になって動く姿がみられた。

4)オノマトペ「ブーンブーン」「ハチ」(16グループ)「車」(10グループ)「ハ

エ」(7グループ)が上位を占め、「飛行機」「バイク」「トンボ」「セミ」など生き物と乗り物が大半を占めていた。イメージの数は1人ずつ動いた場合15種類、グループで動いた場合18種類であり、大きな差はみられなかった。動きでは、2人組に

なって、1人が車に1人が乗っている人になって進むなど役割を持ちながら一つのイメージを数人で表現する姿がみられた。1人でハンドルを持って走り出した幼児も友だちの動きをみて、2人組みになって真似をしていた。その他走ったり止まったりする動きを繰り返しながら、友だちと関わる姿が多くみられた。

ボウリングのボールとピン ドングリ

[グラフ5] [グラフ6]

[写真3] グループ「コロコロ」

身体表現活動におけるオノマトペを用いた動きとイメージ

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ハチ16

車10

ハエ7飛行機

5

バイク5

トンボ4

せみ4

かぶとむし 3

蚊 3

くわがた 2

≪1グループだけの意見≫

グループ(ブーンブーン)

ムシ・チョウチョウ・ヘリコプター・掃除機・タイヤ・風・もぐら・バス・船

ハチ36

車12

イメージなし12

飛行機8

バイク5

トンボ5

ムシ 4

ひとりずつ(ブーンブーン)

ハエ 2ゾウ 2

≪1グループだけの意見≫チョウチョウ・ヘリコプター・空飛ぶペンギンメリーゴーランド・ジェットコースター ウマ・ハンドル

50

40

30

20

10

0

数イメージの種類

ピョンピョン クルクル コロコロ ブーンブーン

5

28

1917

21

43

31

20

オノマトペ

1人グループ

5)イメージの種類1人で動いた場合とグループで動い

た場合のイメージの種類を比較すると、「ピョンピョン」では1人が5種類、グループが21種類で、グループで動くと4倍のイメージが出現した。「クルクル」では、1人が28種類、グループが43種類で1.5倍であった。「コロコロ」では、1人が19種類、グループが31種類であった。「ブーンブーン」では、1人が17種類、グループが20種類と大きな差はみられなかった。

車と乗っている人 繋がって走る車

[グラフ7] [グラフ8]

[写真4] グループ「ブーンブーン」

[グラフ9]

下 釜 綾 子

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4.考察とまとめ以上の結果から、オノマトペはグループで行っ

た際も幼児のイメージを引き出すための有効な手段として機能していると考えられた。また、幼児は友だちの動きを認め合うことや模倣することにより、自分の動きを見つける手掛かりになっていることがわかった。さらに、友だちと一緒に動きを作る喜びを感じることで、動く楽しさが増し、次への意欲を引き出すきっかけとなっていた。すぐにはイメージが持てない場合や動きに結びつけるのに時間を要する幼児にとって、友だちの発想や動きがヒントになり自分なりにイメージを持って動くことができるものと考えられる。身体表現活動を進める中で、保育者が「子ども独自の表現を引き出すこと」にとらわれて、「模倣」をよしとしないものとし、それゆえに活動が滞ってしまうケースがある。このことが身体表現活動を保育に取り入れる機会を少なくしている要因ともなっている。今回4種類のオノマトペを使用した動きのイメージ調査においては、幼児が共有したイメージの中で友だちと一緒に動くことで、自分なりのイメージを想起することに繋がっていった。さらに、グループで動いた時はイメージを持てない幼児がいなかった。幼児は日々の遊び、生活の中で様々な感性、動き、表現力を獲得していく段階である。まずは友だちや先生と一緒に動きを楽しみ、イメージと動きの繋がりをスムーズにすることが大切である。

5.今後の課題本研究では、指導者がよく使うオノマトペの中

から4種類をピックアップして調査・分析を行った。オノマトペが幼児にとって身近な言語表現手段であることから、オノマトペとイメージと動きの関係を明らかにし、保育者が身体表現活動を提供する際の一助となることを願っている。今後、日常的によく使う他のオノマトペについて調査を広げたい。

参考文献1)松田岩雄:「ダンスの教育学第2巻「表現運動」の

学習」 徳間書店 214‐22)栗原泰子他:「広がる表現活動」 ひかりのくに 63)松本千代栄:「こどもと教師とでひらく表現の世界」

大修館書店 19984)高原和子他:「保育者養成校における身体表現の効

果的な指導法」 日本保育学会第62回大会発表論文集p148.2009

5)青山優子他:「子どもの表現遊びを引き出す手立て」九州体育・スポーツ学会第48回大会号発表論文集 p64 1999

6)高原和子他:「保育者の保育内容「表現」の関わりとその方法-表現活動を引き出す手」立てについて-」福岡女学院大学紀要 人間関係学部 p57‐62 2007

7)岩崎洋子編著:「子どもの身体活動と心の育ち」 建帛社 1999

身体表現活動におけるオノマトペを用いた動きとイメージ

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