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チ グ ラ ー系 触 媒 に よ る α-メチル スチ レ ンの重 合 と生 成 ポ リマ ー の性 質 〔429〕 Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and Properties of the Polymers Obtained III. Polymerization of a-Methylstyrene with Various Alkylaluminums and TiCl, Catalyst Systems By Yutaka Sakurada*, Kiyokazu Imai*, and Masakazu Matsumoto* The polymerization of a-methylstyrene initiated by AlEt,Cl3-n,(n=1,2)-TiCI4 systems or AlR3-TiCl4 systems of different size R (alkyl group) at -78•Ž was studied. For AlEtnCl3, AlEtC12 and AlEt2C1, and for AiR3, AlEt3, Al(i-Bu)3 and Al(Hex)3 were used respectively. The conversion and the degree of polymerization (DP) at a definit time are influenced distinctly by the kinds of alkylaluminums and by the aging conditions of the catalyst systems. The order of catalyst activity defined by the DP of the polymers are as follows : AlMes>AlEt3>AIEt2Cl>AlEtC12> Al(Hex)3>Al(i-Bu)3 (aged at 0•Ž for 10min) AlMe3>AlEt2C1>AlEtC12>Al(Hex)3>AlEt3>Al(i-Bu)3 (aged at -78•Ž for 10min) The corresponding DP varied within the range from 500 to 3000 for the first series and from 800 to 5000 for the second series respectively. It is speculated that the cause of the above mentioned phenomena due to the different counter anions of active species. The structure of the active species are discussed on the basis of the reaction process of A1R3 or A1EtaCl3-n with TiCl4. 第4報 各種 の触 媒 系 に よ り得 られ たポ リーα-メ チ ル スチ レ ンの諸性 質 (1962年12月14日 受理) 洋**・ 和**・ 一** チ グ ラー型 触 媒BF3・O(C2H51やTiCl4の よ うな カチ オ ン触 媒,金 属KやNaの よ うな マニ オ ン触媒 な と各 種 の触 媒 系 に よ り得 られ た ポ リ-α-メチ ル スチ レ ンの諸 性 質 を測 定し,立 体規 則性 に注 目 して 比 較 した。 い ずれ の触 媒 系 に よ り得 られ た ポ リマ ー も結 晶 化 は 困難 で あ り,測 定は無定形の状態で行なわ れ た。 ガ ラ ス転 移 温 度,赤 外 吸 収 スペ ク トル に立 体 規 則性 に よ る と考 え られ る差 を見出 した。 膨 張 計 に より 測 定 したガ ラス 転移 温 度 に つ いて,た とえば 重合 度 い ずれ も3000の ポ リマ ー でAI(C2H3)3-TiCl4触 媒により 得 られ た もの は117℃,K触 媒 に よ り得 られ た もの は107℃ と約10℃ の 差 が認 め られ た。 赤 外 吸 収 スヘ ク トル に は重 合 条 件 に よ っ て 大 きな 差 は 認 め られ な か っ たが,885cm-1に タ クチ シティ を 反 映 す る と考 え ら れ る吸 収 が存 在 す る こ とを知 った。 比 重 はポ リマ ーの 重 合条 件 に よらず1.0610士0.0005で ガ ラス 転移 温 度 以 上 で熱 処理 す る と,1.0630±0.0005と 変 化 した。 メチル エ チ ル ケ トンに対 す る溶 解 性 に は重 合 条 件 に よ る差 が 認 め られ た が,立 体 規 則性 との 関 係 は明 りょ うで ない 。 ガ ラ ス転 移 温風 赤外 吸収 スペ ク トル に認められ た差 を も とに して立 体 規 則 性 の ポ リマ ー を 与 え る触 媒の 順 序 を 示す とAIEt4-TiCl4>BF3・OEt2≧TiCl4>K=Na で あ る。 この立 体 規 則性 の順 序 は ア イ ソタ クチ シ ティ の それ と推 論 した。 1.緒 前 報1)に お い て チ ゲラー 型 触媒 に よ っ てαーメ チ ル ス チ レ ンの重 台可 能 な こ と を報告 した,ま た,こ の触 媒 系 によ る重 合 はむ しろ カチ オ ン的 であ り,同 じ触媒による ビニルエーテルの重合と類似の重合機構が考えられるで あろうことを示 した.こ の触 媒 系 に よ り低 温(-78℃) 重合して得られたポリビニルエーテルがアイソタクチッ クポ リマ ー と し て の 結 晶 性 を 示 す2)こ と か ら.か くして 得 られ た ポ リ-α-メ チル スチ レ ンも ア イ ソ ヶチ シシィ * Research Laboratory , Kurashiki Rayon Co. (Sakazu, Kurashiki, Okayama) **倉 敷 レイ ヨ ン株 式 会 社 研 究所(岡 山 県倉 敷 市 酒 津1621)

Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

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Page 1: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

チグラー系触媒による α-メチル スチ レンの重合 と生成 ポ リマーの性質 〔429〕

Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

Properties of the Polymers Obtained

III. Polymerization of a-Methylstyrene with VariousAlkylaluminums and TiCl, Catalyst Systems

By Yutaka Sakurada*, Kiyokazu Imai*, andMasakazu Matsumoto*

The polymerization of a-methylstyrene initiated by AlEt,Cl3-n,(n=1,2)-TiCI4 systems or

AlR3-TiCl4 systems of different size R (alkyl group) at -78•Ž was studied. For AlEtnCl3,

AlEtC12 and AlEt2C1, and for AiR3, AlEt3, Al(i-Bu)3 and Al(Hex)3 were used respectively. The

conversion and the degree of polymerization (DP) at a definit time are influenced distinctly

by the kinds of alkylaluminums and by the aging conditions of the catalyst systems. The

order of catalyst activity defined by the DP of the polymers are as follows :

AlMes>AlEt3>AIEt2Cl>AlEtC12> Al(Hex)3>Al(i-Bu)3

(aged at 0•Ž for 10min)

AlMe3>AlEt2C1>AlEtC12>Al(Hex)3>AlEt3>Al(i-Bu)3

(aged at -78•Ž for 10min)

The corresponding DP varied within the range from 500 to 3000 for the first series and from

800 to 5000 for the second series respectively. It is speculated that the cause of the above

mentioned phenomena due to the different counter anions of active species. The structure of

the active species are discussed on the basis of the reaction process of A1R3 or A1EtaCl3-n

with TiCl4.

第4報 各 種 の 触 媒 系 に よ り得 られ た ポ リーα-メ チ ル ス チ レ ン の 諸 性 質

(1962年12月14日 受理)

桜 田 洋**・ 今 井 清 和**・ 松 本 昌 一**

要 旨 チ グラー型触媒BF3・O(C2H51やTiCl4の よ うな カチオン触媒,金 属KやNaの ような

マニオ ン触媒 なと各種の触媒系によ り得 られた ポ リ-α-メチルスチ レンの諸性質を測定し,立 体規 則性に注 目

して比較 した。いずれ の触媒系によ り得 られ たポ リマーも結晶化は困難であ り,測 定は無定形の状態で行なわ

れ た。ガラス転移温度,赤 外吸収 スペ クトルに立体規則性 によると考 えられ る差 を見出 した。膨張計により測

定 したガ ラス転移温度について,た とえば 重合度いずれ も3000の ポ リマーでAI(C2H3)3-TiCl4触 媒に より

得られ たものは117℃,K触 媒によ り得 られ たものは107℃ と約10℃ の差が認 められ た。 赤外吸収 スヘ

クトルには重合条件によって大 きな差は認められなかったが,885cm-1に タ クチ シティ を反映すると考え ら

れ る吸収が存在す ることを知 った。 比重はポ リマーの重合条件 によらず1.0610士0.0005で ガラス転移温度以

上 で熱処理 すると,1.0630±0.0005と 変化 した。 メチル エチルケ トンに対する溶解性には重合条件による差が

認められたが,立 体規則性 との関係は明 りょうでない。ガラス転移温風 赤外 吸収 スペ ク トル に認められ た差

をもとに して立体規則性のポ リマーを与える触媒の順序を示す とAIEt4-TiCl4>BF3・OEt2≧TiCl4>K=Na

である。 この立体規則性 の順序はアイソタ クチシティのそれ と推論 した。

1.緒 言

前 報1)に おいて チ ゲラー型触媒 によってαーメ チルス

チレンの重 台可能な ことを報告 した,ま た,こ の触媒 系

による重合はむ しろ カチオ ン的 であ り,同 じ触媒 による

ビニ ル エ ー テル の重 合 と類 似 の重 合 機構 が 考 え られ る で

あ ろ うこ とを 示 した.こ の触 媒 系 に よ り低 温(-78℃)

重 合 し て得 られ た ポ リ ビニル エ ー テ ルが ア イ ソ タ クチ ッ

クポ リマ ー と して の結 晶 性 を示 す2)こ とか ら.か くし て

得 られ た ポ リ-α-メ チル スチ レ ンも ア イ ソ ヶチ シシィ

* Research Laboratory , Kurashiki Rayon Co. (Sakazu, Kurashiki, Okayama)**倉 敷 レイ ヨン株式会社研究所(岡 山県倉敷市酒津1621)

Page 2: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

〔430〕 桜 田 ・今井 ・松本

に富 んだ ボリマーでは ないか と 類 推 さ れ る。AlEt3-

TiCl4触 媒 を用い-78℃ で得 られたポ リマー も,特 に

処理 を加えないかぎ りX線 的に見て 本質的 に無定形で

ある ことはすでに述べた ところであるが,ア イ ソタ クチ

ックな立体構造 を持 っていて も結晶化 しない か,ま たは

結 晶化 しに くいポリーp-ク ロルスチ レン3)やポ リーp-ヨウ

素スチ レン4),ポリーp-メチ ルスチ レン3),5),その他の ポ

リマーの存在する ことも良 く知 られた事実である。そ こ

で得 られた ポ リマーのい くつかの性質 を測定 し,そ の他

の重 合方法,た とえば室温アニ オン重合や典型的な カチ

オ ン触媒 による低温重合などで得 られたポ リマーについ

ての測定値 と比較 した。 本報告では,ガ ラス転移温度,

赤 外線吸収 スペ ク トル,比 重,メ チル エチル ケ トンに対

する溶解性 を測定 し,立 体規則性 に注 目して比較検討 し

た。その結 果二三 の性質に立体規則性 に基 くと考え られ

る差 を見出 した。 またポ リマーの粉末状態でのX線 散

乱強度曲線6)や 溶液中の ポ リマーの核磁気共鳴吸収 スペ

クトル7)に ついても同様に測定 を行 ない,立 体規則性に

よると考え られる明 りょうな差を発 見 したが、 これ らの

結 果は別に報告す る。 ポ リ-α-メチルスチレンの 物理的

性 質に関 しては若 干報告 されているが,重 合触媒 など重

合条件の ポ リマーの性質 に対す る影響,特 に立体規則性

とポ リ-α-メチルスチ レンの 性 質 との 関係につ いての報

告はほ とん ど提出 されていない。

2.実 験

2.1試 料

AIEt3-TiCl4に よる重 合方法は,す でに前報9で 報告

した とお りであ るが,本 報告に使用 した試料は モノマー

20vol%,ト ルエ ン70vol%,π-ヘ キサ ン10vol%の 系

を用い,-78℃ で重 合 して得 られた ものであ る.BF3・

OEt2やTiCl4な どの カチオ ン触媒 による重 合も,上 記

AIEt3-TiCl4触 媒系の重合法に準 じて行 ない,溶 剤組成

も同一で重合温度 も-78℃ であ る。NaやKな どア

ニオ ン触媒による重 合は室温 での塊状重合である。金属

Naや 金 属Kな どの アルカ リ金属は,ゴ ムセ ンつ きの

ガラス容器に,ア ル カ リ金属1gに 対 して 約10ml程

度 の トルエ ンとともに加 え,ア ルカ リ金属の融 点よ り約

10℃ 高い温度に加温 して,アル カリ金属 を溶融 させ,直

ちに容器 ごと強 く振 とうしてdispersionを 形成 させ た。

窒 素下に トルエ ンをn-ヘ キサ ンに 置換 し,か ヘ キサ ン

を吸引蒸発 させ てか ら,モ ノマー を加 えて重合 を開始 し

た。 一定時間後重 合液は メタノール中に注いで ポ リマ ー

を沈殿 させ,さ らに トルエ ンに溶 解,メ タノール 中へ再

沈 を行なってか ら,洗 浄,ロ 過,乾 燥 して試料 とした。

2.2ガ ラス転 移温度

ガラス転移温度はFig.1の よ うな膨 張計を用 いて測

定 した。Aは サ ンプルポルダ ー,Bは 毛管部分,Cは

Fig. 1. Dilatometer.

水銀 ホルダ ーであ る。各 ポ リマーサ ンプルはベ ンゼンに

溶解 し,群 過後 水銀上 に流 して空気下室温 で溶剤 を蒸発

させ,厚 さ約0.2mmの フ ィルムを 調製 した。 か くし

て得 られた フィルムはあ らか じめ45℃ の真 空 乾 燥 器

(10mmHg以 下)中 で5日 間乾燥 した。 この ように 乾燥

された フィルレム1gを 膨 張 計A部 分に入れ,Dを 通

して 真空 ポ ンプにつな ぎ,10-3mmHg以 下の真空度で

A部 分 を70℃ に加熱 し,3日 間吸引 した。吸引後Cを

廻 して水銀 をA,B部 分 に入れ,Dの 位置でvacuum

lineか らはず して水銀量 をBの 毛管部分の適 当位置に

その メニスカスが くるように調節 した。膨張計を2分 間

に1℃ の速度 で加熱 または冷却 し,水銀の 翼ニスカス移

動 を測定 した。

2.3粘 度測定

粘度測定は トルエ ン溶 液,30℃ での粘度を オス トワ

ル ド型粘度計を使用 して行 な った。 回 は濃度5点 での

粘度測定か ら(ηsp/c)c→0,[(lnηr)/c]→0に よって外挿 し

決定 したが,こ の[η]は 松本8)の1点 の 濃度か らの 回

の推算式

(1)

と良 く一致 し,場 合 によっては(1)式 を使用 し濃度1点

での測定か ら[η]を 求 めた.分 子量はSirianniら9)の

粘度式に より計算 して求 めた。

(2)

2.4赤 外線吸収スペク トル

赤外線収吸スペ ク トルは,2.2に 記 した のと同様な方

法 で 調製乾燥 された厚 さ50μ お よ び100μ の フィル

ムについ て測定 した.赤 外線 吸収スペ ク トル測定装置は

島津IR-27型 およびPerkin Elmer112型 を用いた。

Page 3: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

チ グラー系触媒に よる α-メチルスチ レンの重 合と生成 ポ リマーの性質 〔431〕

使用 したプ リズムは食塩 であ る。

2.5比 重

比重の測定 には赤外吸収 スペ ク トルに使用 したのと同

じ50μ のフィル ムを用 いた。 この フィルムは特 に45℃

の減圧乾燥器 内で14日 間乾燥 された。測定方法は30℃

Na2SO4水 溶液中浮沈法であ る。

3.結 果と考察

3.1ガ ラス転 移温度

Fig.2にAIEt3-TiCl4触 媒を 用い-78℃ で重 合し

たポリマー(Z-14-762)の ガラス転移 温度の測定結果 を

示した。 同一試料 について,加 熱 冷却 を3回 くり返 し

た。 測定は いずれも室温か ら140℃ 程度 までの問で行

Fig. 2. Volume-temperature relationships.

なわれた。140℃ 以上では直線か らのずれがはげ しく測

定不可能 となった。図のよ うに加熱時 における温度の体

積 変化 に対す る関係直線は,ガ ラス転移温度 と考え られ

る付近 で明 りょうにその勾配 を変 じてい る。冷却時にお

ける変化は加熱時 におけるほ ど明 りょうでな くゆるやか

に勾配 を変 じて くるために,2本 の直線の引き方には若

干任意性 が入 りやすい と考え られ る。 この現象は1回 目

か ら3回 日までいずれの測 定の際 にも認め られた。また

1回 目の加熱後冷却時には ガラス転移温度以下で体積収

縮が認め られ る。 この収縮の原 因についてはあ とでふれ

るが,こ の収縮 は第2回 目の測定以後 には認め られない。

また ここで認めた収縮の現象は,G.D.Jonesら10)もNa

触媒で得 られた ポ リ-α-メチルスチ レンの 膨張計による

ガラス転移温度 の測定において同様 に認めている ところ

であ る。

Fig.2の ごと く第1回 目の加熱時の 変曲点Tg1冷

却時のそれ を7淀,第2回 日の加 熱時のそれ をTg2… …

とす る とTg1>Tg2=Tg3… …Tg3'=Tg2'>Tg1'で ある。

すなわちTg1,Tg2,Tg3,Tg3',Tg2',Tg1'の 値 はそれぞ

れ117゜,114゜,114゜,113゜,113゜,110℃ である。Tg1と

Tg1'で は7℃ もの差が 認め られ,Tg1とTg2の 間に

も3℃ 程度の差が存在 しているが,Tg2,Tg3,Tg3'お よ

びTg2'の 値 は1℃ の範囲内で一定である。

以上Z-14-762サ ンプルの ガラス転移温度測定 におい

て認めた現象は,他 のサ ンプルの測定におい ても全 く同

様に観察された、すでに記 した ごとく,冷 却時の測定で

決定 されるTg1'Tg2',Tg3'… … な どは直線の引 き方に

任意性が入 り,誤 差を生 じやすい と考え られ る。そ こで

各種の触媒 で得 られたサ ンプルについて,加 熱時の測定

結果Tg1お よ びTg2を ま とめ てTable1に 示 した、

Tg1とTg2の間 には いずれ も3~5℃ 程度 の 差がある

か らTg1ま たはTg2ど ちらかに限定 して,重 合条件の

異なる各 ポ リマーの ガラス転移温度を比較す ることが必

要 と考え られ る。

Table 1. Glass transition temperature of poly-a-methylstyrene

obtained with various catalyst.

Page 4: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

〔432〕 桜 田 ・今井 ・松本

ガラス転移温度がポ リマーの分子量 に依存する ことは

良 く知 られ てい る。 た と え ば ポ リスチ レンについては

Fox,Flory11)やUeberreiter,Kanig12)の 報告か ら重合

度 約1000以 上な らば,転 移温度は1℃ 以内で一定値に

達 する と考 えられている。 またポ リメチル メタクリレー

トに関 して もい くつかの報告があるが,最近 のBeevers,

White13)の 報告による と重合度約2000以 上な らば,ガ

ラス転移温度は,や は り1℃ の範囲内 で一定値 とな って

いる。 ポ リ-α-メチル ス チレンに関 しては,分 子量の ガ

ラス転移温度への影響が知 られ ていないために明 りょう

ではないが,重 合度2000以 上 ならばほぼ分子量 の影響

はない もの と考えてよい であ ろう。重合度3000以 上の

Z-14-762,B-31,KM44を 比較すれば わか るように

%1に ついて もTg2に ついてもAIEt3-TiCl4触 媒重合

物 は最 も高い ガラス転移温度 を有 し,K重 合物のそれ と

は10℃ ほ どの差が認め られる。BF3・OEt2触 媒重合物

はAIEt3-TiCl4重 合物 よ りやや低い値 を有 しているが,

その差は 明り ようではない。 ポ リ-α-メチル スチ レンの

ガラス転移温度に 関す る報 告 は,前 述 のG.D.Jones

ら10)のものが見 られ るだけで,Na重 合物 につい て残存

モ ノマーの共存または非共存下で87~112℃ の値 を得て

いるが(Tg1に 相当する値),わ れわれの得 たチグ ラー触

媒重 合物の値 は それよ りも明 らか に 高い 値 を 有 してい

る。測定 フィル ムはいずれ も無定形の状態にあるが,イ

オ ン重 合で得られたポ リマーであ る にとか ら,分 岐 ポ リ

マーの できている 可能性 も考 えに くいので,Z-14-762

とKM-1-1の 間 に 認め られた10℃ の差はポ リマーの

立依規 則性の差によるものでは ないか と考えるこ とが で

きる。

立体特 異性の異なるポ リマーの ガラス転移温度 に関 し

て,Redingら14)は プ ロピレン,ブテ ン-1,ペ ンテ ン-1

などア タクチ ックポ リマーと,アイ ソタクチ ッ クポ リマ

ーの カラス転移温度には,そ れぞれ17,17,26℃ の差

が ある と報 告している。 これはNattaら がむ しろア イ

ソ ダクチ ックな ポ リ-α-オレフィンと,ア タクチ ックな

もののカラ ス転移温度には差がないと してい る考え方 と

は異なっでい る。 またFoxら15)に よって 示 されている

よ うに,ホ リメチル メタクリレー トの ガラス転移温度は

その立体特異性 によって,明 りょうな差が認め られてい

る、 そ こて ポ リ-α-メチルレスチ レンの ガラス転移温度に

見 られ る差が,ポ リマーの立体規則性に よる ものである

と考 え,重 合度3000以 下のもの について もほぼ同 じ程

度の重合度のサ ンプル問で比較 して,次 の触媒の順 序が

得 られた,

しか し,こ こでAIEt3-TiCl4とBF3・OEt2と の 差 は

BF3・OEt2とKと の 羊 に比 べ て 相 当 小 さい もの で あ ろ

う。 この立体規則性の 順 序 はBF3・OEt2触 媒によ り,-78℃ で得 られた ポ リ-α-メチル スチ レンが,立 体規則

性に富む ポ リマーであろ うとする岡村 ら16)の考え とも矛

盾 しない ようである。

3.2赤 外吸収スベク トル

ガラス転移温度の測定において約10℃ とい う明 りょ

うな差の 認め られた チ グラー触 媒重合物Z-14-835(Z-

14-762と 同一条件で 得 られ た 試料)と,K触 媒重合物

KM-1-1の 赤外吸収 スペ クトルを 測定 した。Fig.3に

測定結 果を示 した。

Fig. 3. Infrared absorption spectra of poly-a-

methylstyrene.

ガラス転 移温度 の差その他か らの予想 に反 して,両 者

のスベク トルは 全 領 域 にわた って ほとん ど同一である

が,わ ずかに800cm-1か ら900cm-1付 近の吸収が異

なるよ うである。 この領域 にお いて,両 者の スペ ク トル

の差は885cm-1と,810cm-1の 弱い比較的broadな

吸収の有無 として認め られる。 しか し810cm-1の 吸収

は数多 くの実験か ら,その原 因につ いては不明であるが,

フィルムの調製 の方 法によって出現す る場合 と消失する

場合があ り,立体規則性 に関係が あるとは考 えられない、

したが って本報告では810cm-1の 吸収 についてはふれ

ない。885cm-1の 吸収はAIEt3-TiCl4触 媒重合物 につ

いては 弱 くはあるが 明 りょうに 認め られ,K触 媒重合

物 についてはほ とんど認め られ ない,そ こで より分解能

の高いPerkin Elmer112型 の 装置に よって 各種の触

媒で得 られた ポ リ-α-メチル スチ レンの この波長領域の

スペク トルを測定 し,そ の結 果をFig.4に 示 した。 フ

ィル ムの厚 さは50μ である。 分解能 がよ り高い と考え

られ るこの装置 を用いて も885cm-1の 吸収はそれほど

明 りょうとはな らなか ったが,室 温 アニオ ン重合物であ

るKNI3-1やNM4-1な ど は885cm-1に ほ とんど

Page 5: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

チグ ラー系触媒によるαーメ チル スチ レンの重合 と生成 ポ リマーの性質 〔433〕

Fig. 4. Infrared absorption spectra of poly-a-

methylstyrene obtained with various catalysts

in the range between 910 cm-1 and 800 cm-1.

吸収 を持たず,チク ラー触媒重合物 が最 も強い ことは明

らかである。 ピーク か弱 くbroadで あ るか ら非常に定

性的ではあ るが き885cm-1の 吸収 の高い順に触媒を並べ

ると,AIEt3-TiCl4>BF3・OEt2≧TiC4>K=Naの 順序

が得 られる。 この順 はガラス転移温度の高い順 に並べ

た立体規則性の順 序と推測 した もの と同一傾向である。

Fig.5に100μ の厚 さの フィル ムを用いてKM-3-1

とZ-14-835の スペ ケ トル と,これ らを130℃ で30分

熱処理 した ものの スベク トルを 測定 した結果 を示 した.

加熱によって も885cm-1の 吸収はほ とん ど変化 してい

ない。

現在結晶 化可能な立体規則性の 各種 ポ リマーは タクチ

シティの違いによって,赤 外吸収 スベ ク トルに顕著 な差

Fig. 5. Effect of heating on the infrared absorp-

tion spectra of poly-a-methylstyrene.

が見出 され てい るが,こ れ らは主 として結晶性に関係 し

て生 じたもの と考え られ る。結晶性 と関係 な く無定形の

状態または良溶剤中で,タ クチ シティの異な るポ リマー

を赤外吸収スペ ク トル によ り比較 した報告は まだ少ない

よ うであ る。 本報告での ポ リ-α-メチル スチ レンはいず

れ も本質的に 無定形 の 状態で 測定 された ものであるか

ら,タ クチシティには差があったとして も,結 晶性に関

係するスペ ク トルは生 じないわけであ るか ら,赤 外吸収

スペ ク トルに ほとん ど 差 が 見 出 されないので あ ろ う。

885cm-1に 出現 した この弱 い 吸収の帰属は 明 りょ うで

ないが,ガ ラス転 移温度か ら得 られた順 序 と,こ の吸収

の強さの順序が一致す ることか ら,こ の吸収 もまた立体

規則性に関係のあることが推測 され る。

3.3比 重

前述 した ごとく,ガ ラス転移温度 や,赤 外吸収 スペ ク

トル885cm-1の 吸収 において,相 互に明 らかな差が認

め られた 金属 カリウム触媒重合物KM-3-1,BF3・OEt2

触媒重合物B-16,チ グラー触媒重合物Z-14-762の3

種 の試料 について 比重 を測 定 した。 重合度は いずれ も

Table 2. Densities of poly-ƒ¿-methylstyrene obtained with various catalyst.

Page 6: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

〔434〕 桜 田 ・今井 ・松本

3500±300で 一定であるか ら重合度の影響 は無視す るこ

とができる。 いずれも未処理物 および130℃,30分 熱

処理物 について測定 した結果 をTable2に 示 した。

未処理物について も熱処理物 について も重合触 媒の違

いに よっては,ほ とん ど比重に差 を見出す ことはできな

か った。これはこの実験の精度の範囲内では これ らのポ

リマーの間 に前節3.2お よび3.1で 考 えた ような立体

規則性の差があった として も,無 定形の状態で比重 には

差が生 じない ものと考 えられる。 しかし熱処理による比

重 の増加は,い ずれ の試料の場合に も明 りょうに認め ら

れ た。 これは ガラス転移温度の測定 において観察 された

収縮 と結びつけて 考えることが できるであろ う。X線

回折強度曲線の測定において,ガ ラス転移温度以上でポ

リマーを熱処理する とinner haloの 強度が増加するこ

とを認めた6)が,こ の熱処理 による比重の増加 ともあわ

せて,熱 処理に よってパ ッキ ングの良い状態に分子の移

動の起 こることが予想 され る、

ポ リ-α-メチル スチ レンの 比 重 につ いては 岡村 らが,

カチオン触媒 による低温重合物の未延伸 フィルムについ

て,1.058か ら1.063の 値を得 てい る。

3.4溶 解性

メチルエチルケ トンは アイ ソタクチ ックポ リスチ レン

とア タクチ ックポ リスチ レンの分離溶剤 として良 く知 ら

れている。 ポ リ-α-メチル スチ レンについては,低 分子

量のものは メチルエチル ケ トンに可溶 であ り,高 分子量

の ものは不溶である と考 えられているが,分 子量だけで

な く,立 体規則性 が溶解性に影響 を持つ ことも考え られ

る。 前述 の測定に用いた試料について室温 で メチ ルエチ

Table 3. Solubility of poly-a-methylstyrene

in methyl ethyl ketone.

ル ケ トンに対 する溶解度 を測定 した。Table3に その結

果 を示 した。 メチルエチル ケ トン不溶部分の量は前節 ま

での実験で,予 想 した立体規則性 にす ぐれ ると考え られ

る ポ リマーほど多いとい う傾向であるが,そ れぞれ分子

量 を異に しているために メチルエチル ケ トンが立体規則

性に関 して も,分 別効果 があるか どうか明確 な結論 を下

す ことは できない。

なお,い ずれの触媒系で得 られた ポ リマー も,ト ルエ

ン,ベ ンゼ ンなどには完全に溶解 した。

3.5そ の他(X線NMR)

以上の重合条件の異 なる試料 について,わ れわれはさ

らに粉末試料 のX線 散乱強 度曲線6)お よびク ロロホル

ム溶液の 核磁気共鳴吸収 スペク トル7)を 測定 し,そ れぞ

れ重 合条 件に 基 く明 りょうな差 を 見 出 した。X線 散乱

強 度曲線 の結果 については,別 に詳細な報告 を行なった。

NMRス ペ ク トルについては さらに現在研究 を続行 中で

あるが、われわれの 研究 とは 独立 にBrownsteinら17)

は同様な研究 を行ない,メ チル基 とメチ レン基の ケミカ

ル シフ トの差か らカ チオ ン触媒 によ り低温 で重合するほ

ど,シ ンジオ タクチッ ク結合 に富 むポ リマーの得 られ る

ことを結論 してい る.わ れわれは低温 カチオ ン重合やチ

ゲラー触媒重 合でアイ ソタクチ ック結 合に富む ポ リビニ

ルエーテルの 得 られるこ と2),カ チオン重合触媒 と考え

られるAIEt2Clに よって,低 温で 光学活性 ポ リベンゾ

フラ ンの得 られる こと18),お よびチ グラー触媒 系によっ

て得 られた ポ リ-αーメチル スチ レンをある方法で 熱延伸

す ることによって ポ リ-α-メチル スチ レンの 繊維図型 と

考 えられ るx線 図を与え,こ の繊維周期が6.5Aで あ

るとい う知見6)か ら,チ ゲラー型触媒や カチオ ン触媒に

よる重 合では低温ほ ど,ア イ ソ タクチック含量の多いポ

リマーを得やすい と推 論する。 しか し,こ の問題 につい

て結論 を得るには,さ らに詳細な核磁気共鳴吸収 スペ ク

トル とX線 の両 方か らの研究 が必要 である。

4.結 言

以上各種の 方法 による測定 の 結果か ら,AIEt3-TiCl4

触媒およびBF3・OEt2やTiCl4な どの カチオン触媒に

よる-78℃ での重合物,KやNaな ピ アニオ ン触媒

に よる室温での重合物 な どについて,ガ ラス転移温度お

よび赤外吸収スペ ク トル885cm-1の 吸収 に認め られた

差は立体規則性 に基 くものであろ う。しか しこの ように

無定形の状態では,比 重にはその立体規 則性の差は認め

られない。 メチルエ チル ケ トンに対 する溶解性に認めら

れた重合条件の差は,立 体規則性 に関係が あるか どうか

結論 しえない。 さらにX線 散乱強度曲線 の結 果をも参

考 にして次の立体規則性の ポ リマーを与える触媒の順序

が得 られ る。

この順 序 は ア イ ソ タ クチ シテ ィの 順 序 で あ ろ うと推論

され る が,明 り ょ うでは ない 。

付 記:発 表の機 会を与えられ た会社 当局,種々 ご協力いた

だいた福島修氏に感謝す る。なお本研究は第11回 高分子学会

年次大 会(1962年5月,名 古屋)で 発表 した。

Page 7: Polymerization of a-Methylstyrene by Ziegler Catalyst and

チグ ラー系触媒 による α-メチルスチ レンの重合 と生成 ポ リマーの性質 〔435〕

文 献

1) Y. Sakurada: J. Polymer Sci., in press; 桜 田

洋: 高 分子討論会(1961年11月,東 京)講演要 旨

集, 222

2) J. Lal: J. Polymer Sci., 31, 179(1958); E. J.Vandenberg, R. F. Heck, D. S. Breslow: J.Polymer Sci., 41, 519 (1959); G. Natta, et al:Angew. Chem., 71, 205(1959)

3) G. Natta, F. Danusso, D. Sianesi: Makromol.Chem., 28, 253(1958)

4) W. Kern, D. Braun, M. Herner: Makromol.Chem., 28, 66 (1958); D. Braun: J. PolymerSci., 40, 578(1959)

5) 村橋 俊介, 野桜 俊一, 田所 宏行: Bull. Chem.

Soc., Japan, 32, 534 (1959)

6) 桜 田 洋, 望月隆仁, 今井清 和: 第11回 高 分子

学 会年次大会(1962年5月,名 古屋)講 演要旨集,

93

7) 桜 田 洋, 西岡篤夫, 松本 昌一, 加藤嘉則, 今井

清和: 第11回 高分子学会年次大 会(1962年5月,

名古 屋)講演要 旨集, 93

8) 松 本 昌 一: 工化, 53, 110(1949)

9) A.F. Sirianni, D.J. Worsfold and S. Bywater:Trans. Faraday Soc., 55, 2124 (1959)

10) G. D. Jones, R. E. Friedrich, T. E. Werkema,R.L. Zimmerman: Ind. Eng. Chem., 48, 2123(1956)

11) T. G. Fox, P. J. Flory: J. Appl. Phys., 21, 581

(1950); J. Polymer Sci., 14, 315(1954)12) K. Ueberreiter, G. Kanig: J. Colloid Sci., 7,

569 (1952)13) R. B. Beervers, E.F.T. White: Trans. Faraday

Soc., 56, 744 (1960) 14) F. P. Reding: J. Polymer Sci., 21, 547 (1956)15) T. G. Fox, et al: J. Am. Chem. Soc., 80, 1769

(1958)16) 岡 村誠 三, 東 村 敏 延, 今西 幸 男: 高 化, 16, 129

(1959)

17) S. Brownstein, S. Bywater, D. J. Worsfold:

Makromol. Chem., 48, 127(1961)

18) G. Natta, M. Farina, et al: Makromol. Chem.,

43, 68(1961)

Polymerization of a-Methylstyrene by Means of Ziegler

Catalyst and the Properties of Polymers Obtained

IV. Properties of Poly-a-Methylstyrene Prepared withVarious Catalysts.

By Yutaka Sakurada*, Kiyokazu Imai*, andMasakazu Matsumoto*

Properties of poly-a-methylstyrene by AlEt3-TiC14 at -78•Ž were compared from the

standpoint of the stereoregularity with those of poly-a-methylstyrene by BF3•EOEt2 and TiCl4

at -78•Ž, and by metallic Na and K at room temperature. Since crystallization of these

polymers is very difficult, glass transition temperature, infrared absorption spectrum, density

and solubility were measured in amorphous state. Some differences depending on the poly-

merization conditions were observed in glass transition temperature and infrared spectrum.

The glass transition temperature of the polymer prepared with AlEt3-TiC14 catalyst is 117•Ž,

and that of the polymer prepared with metallic K catalyst is 107•Ž. (The degree of poly-

merization of both polymers is ca. 3000) The intensity of absorption peak at 885 cm-1 in the

infrared absorption spectrum is affected by the polymerization conditions. These differences

may result from differences in the stereoregularity of the polymer. The density is 1.0610+

0.0005 independent of polymerization conditions. However, when the polymer is heated above

the glass transition temperature, it changes to 1.0630•}0.0005. The solubility in methyl ethyl

ketone depends on the polymerization conditions, but the relationship between the solubility

and the stereoregularity of the polymer is not clear. The following shows the order of

catalyst activity defined by the stereoregularity estimated from the results of glass transition

temperature and infrared spectrum.

" The stereoregularity " used here may mean " the isotacticity ."

* Research Laboratory , Kurashiki Rayon Co. (Sakazu, Kurashiki, Okayama)