68
2009年・秋 FREE スペシャルインタビュー 専門家に聞く日本の乳がん医療 大沢かおり

PiNK Fall 2009

Embed Size (px)

DESCRIPTION

PiNK Fall 2009

Citation preview

Page 1: PiNK Fall 2009

2 0 0 9 年・秋 F R E E

スペシャルインタビュー

専 門 家 に 聞 く 日 本 の 乳 が ん 医 療

大 沢 か お り

Page 2: PiNK Fall 2009
Page 3: PiNK Fall 2009

2009年 秋

BODY WISE 栄養と運動

06 ヘルシークッキング

08 食べて・飲んで・考えて。食生活とがんとの不透明な関係

13 ビタミンDとがんの関係に光を当てる

23

32

THE WAR ROOM 心を伝える

28 乳がん治療の進歩 ~2008年サンアントニオ乳がんシンポジウムの報告~

32 乳房インプラントの最新情報

37 NEWS 1: がん罹患率は減少を続けている

38 NEWS 2: BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、 乳がんの家族歴があると乳がんリスクが高い

INSIDE PLEDGE 未来への約束

23 米国臨床腫瘍学会(ASCO)2009報告 「Personalizing Cancer Care」 ~がん治療の個別化~

Contents20

20スペシャル・インタビュー

専 門 家 に 聞 く 日 本 の 乳 が ん 医 療

大沢 かおりさん

fall 2009 • PiNK 1

Page 4: PiNK Fall 2009

グローバルに様々な金融サービスを提供するバンクオブアメリカ・メリルリンチでは、

事業を行なう各国において積極的な地域貢献活動を行なっています。

その基本には、バンクオブアメリカ・メリルリンチの 5つの企業理念の一つである

「責任ある企業市民」があります。

日本においても私たちは、様々なチャリティー・イベントへの協力・参加のほか、

みずから社会貢献活動を積極的に行っています。

私たちは、日本における乳がん早期発見活動としてのRun for the Cureキャンペーンに賛同いたします。

Page 5: PiNK Fall 2009

免責事項:PiNKに掲載される情報は、医療提供者による個別のアドバイスに替わるものではありません。PiNKに掲載される見解はあくまでも著者の見解であり、必ずしもスポンサー、諮問委員会、発行者の見解を反映するものではありません。PiNKに掲載される情報を、医療提供者のみが提供可能な専門的アドバイスと捉えないでください。本誌に掲載される情報が確実に正確な情報であるよう、入念な注意を払っておりますが、情報の継続的な容認性に関して、もしくは、不注意に起因するか否かを問わず、あらゆるミス、脱落、不正確な点に関して、もしくは、それらに起因するいかなる結果に関しても、著者、NPO法人Run for the Cure® Foundation、およびその代理人に責任はなく、一切の法的責

任を負いません。PiNKの諮問委員会は、コラムを提供し、その他編集上のサポートも行いますが、本誌に掲載される見解については一切の責任を負いません。

Women & Cancer Executive Editor: CHARLES H. WEAVER, MD / Medical Editor: JULIANA HANSEN, MD / Managing Editor: DIANA PRICE / Associate Editor: MIA JAMES / Copy Editor: ELIZABETH VON RADICS

Volume 2 / Issue 4 季刊誌

発行人 : Vickie Paradise Green

編集 : David Umeda

監修 : 今井洋介医師、金子朋代医師、西岡琴江医師、高野利実医師

翻訳 : アマプロ株式会社、石黒千恵、大井明子、最所篤子、鈴木央子、 高野純子、高野利実医師、平野好子

制作 : パラダイム www.paradigm.co.jp [email protected]

クリエイティブ・ディレクター : Richard Grehan

アート・ディレクター : 峰島 亜希子

寄稿者 : ABC Cooking; Kari Bohlke, ScD; Todd Buchanan; Manjeet Chadha, MD; Graham Colditz, MD, DrPH; Hank Dart, MS; Juliana Hansen, MD; Mia James; Emily A. Kuhl, Ph.D.; Patient Advocate Foundation; Diana Price; Paul Van Ness; 古月チヒロ、高野利実医師、浜直緒子

校正/編集 : 浅羽美華、岡崎智子、古月チヒロ、後藤睦美、鈴木央子、浜直緒子、福島由美

発行元 : NPO法人Run for the Cure® Foundation

www.runforthecure.org

ディレクター: 伊禮 太郎

〒108-0074 東京都港区高輪4-18-12 Tel:03 - 3466 - 4798 Fax:03 - 3466 - 4799 E-mail:[email protected]

本誌に掲載されている内容には、海外文献および海外の学会情報に基づくものもあり、薬剤の効能・

効果及び用法・用量は、日本国内で承認されている内容と異なる場合があります。また、日本国内で

承認されていない薬剤や治療法が取り上げられている場合もあります。

Contents

40

SPIRIT HOUSE心の声を聞く

40 ちょっと遠出して一息いれましょう

45 Chemo Cat ケモ・キャット

46 NEWS: デノスマブがアロマターゼ阻害薬治療を

受けている乳がん患者の骨密度を改善

FIND YOUR WAY医療制度の謎を解く

48 かけがえのない絆

52 保険適用外見直し請求の手引き・アメリカの場合

56 医療システムの謎を探る

60 お知らせ

fall 2009 • PiNK 3

Page 6: PiNK Fall 2009

BO

DY W

ISE

ラン・フォー・ザ・キュアファンデーションは、全国において乳がんの早期発見啓発/教育活動を実施している、特定非営利

活動法人です。ファンデーションは、マンモグラフィ機器の寄贈、技師の教育研修また、マンモグラフィ検診料金の助成等

を主な活動としています。

マンモグラフィ機器の寄贈

ファンデーションは現在に至るまで、計6台のマンモグラフィ機器(GE製 performer)を下記の施設に寄贈致しました。

残り2台の寄贈準備も進めています。

マンモグラフィ検診料金助成プログラム

ファンデーションは、マンモグラフィ機器を寄贈した各医療機関において、500名のマンモグラフィ検診の提供を行っています。

マンモグラフィ検診の助成に関するお知らせについては、地域広報誌への掲載、地域掲示板・薬局へのポスター掲載などを

行い、特に企業検診等を受診する機会のない女性たちに提供しています。検診を受診した約60%の女性が初めてマンモグラ

フィ検診を受診すると、アンケートに回答しており、マンモグラフィ検診が一般的に普及していないことを物語っています。

ラン・フォー・ザ・キュアファンデーションの基金について

医療法人社団千葉県勤労者医療協会 健生クリニック〒262-0032 千葉県花見川区幕張町4-524-2電話:043-276-1851www.min-iren-c.or.jp/kensei/kensei_1.html

医療法人社団雅厚生会 千葉新都市ラーバンクリニック〒270-1337 千葉県印西市草深138電話:0476-40-7711www.chibashintoshi.or.jp/

糸氏医院〒559-0016 大阪市住之江区西加賀屋1-1-6電話:06-6681-2772www.myclinic.ne.jp/itoujiclinic/pc/index.html

医療法人純幸会 豊中渡辺病院〒561-0858 大阪府豊中市服部西町3-1-8電話:06-6864-2301www.watanabe-hp.or.jp/hospital/

医療法人馨仁会 藤掛病院〒509-0214 岐阜県可児市広見876電話:0574-62-0030www.okbnet.ne.jp/~fuj598/

まつばらウィメンズクリニック〒300-1152 茨城県稲敷郡阿見町荒川本郷2018-7電話:029-830-5151www.happy-mw.com/

4 PiNK • fall 2009

Page 7: PiNK Fall 2009

BO

DY W

ISE

栄 養と運 動

ビダミンDとがんの関係に光を当てる

08

ABC Cooking Studioヘルシークッキング

06

13

BODY WISE

食べて・飲んで・考えて食生活とがんとの不透明な関係

Page 8: PiNK Fall 2009

ヘルシークッキングがおすすめする!

えび(殻付) 4尾ほたて貝(生) 4個ロールいか(冷凍) 100g 紹興酒 小さじ2 塩・こしょう 各少 々片栗粉 大さじ1白ねぎ(みじん切り) 10gしょうが(みじん切り) 10gごま油 大さじ1 干し貝柱 1個 水 300ccサラダ油 小さじ2パプリカ(赤) 1/4個きくらげ 4g生椎茸 2枚

グリーンアスパラガス 2本チンゲン菜 80gヤングコーン(水煮) 8本うずらの卵(水煮) 4個 干し貝柱の戻し汁+水 300cc 砂糖 大さじ1 紹興酒 小さじ2 黒酢 小さじ2 塩 小さじ1/2 こしょう 少々 片栗粉 大さじ1 水 大さじ2白ねぎ(白髪ねぎ) 適量おこげ(乾燥) 8枚サラダ油(揚げ油) 適量

日本には「病は口より入る:病気は食べ物が原因で起こることも多々あることから、きちんとした食事が大切」ということわざがありますが、中国にも「薬食同源:食事は医療(薬)に匹敵するほど大切」、欧米には「You are what you eat:人の身体・精神の状態は何を食べて いるかで決まる」という表現があるのをご存知ですか?

活力に満ちた生活に欠かせないのは“日々の食事”。

「世界中に笑顔のあふれる食卓」をコンセプトに料理教室を展開しているABC Cooking Studioから、からだに良くて美味しい、 ヘルシーレシピをお届けします♪

おこげの海鮮五目あんかけ

1人分: 222kcal

・ えびは殻・尾を除き、包丁で背ワタを除き塩水・真水の順で洗い、ほたては横半分に切っておく。

・ ロールイカは内側に厚みの深さ1/2位まで幅3~5mmの斜め格子状の切り込みを入れ、ひと口大に切っておく。

・ えび・ほたて・ロールいかは一緒にして下味につけ(10分~)、 焼く直前に片栗粉をまぶしておく。

・ 干し貝柱は水で戻し、みじん切りにしておく。 (戻し汁は取っておく)。

・ パプリカはヘタ・種を除き、乱切りにしておく。・ きくらげは水で戻し石づきを除き、大きいものは2cmの角切りに

しておく。・ 生椎茸は石づきを除き、笠はそぎ切りにし、軸は薄切りにしてお

く。・ グリーンアスパラガスは根元を除き、ピーラーで固い皮・はかまを

除き、長さ4cmの斜め切りにしておく。・ チンゲン菜は根元を除き、幅2cmに切っておく。・ aは合わせておく。・ おこげは200℃の揚げ油で揚げておく(1分~)。

① 鍋にごま油・白ねぎ・しょうがを熱し、香りがしてきたら、海鮮を加え炒める。

② サラダ油を足し、干し貝柱・野菜を加えしんなりするまで炒めたら、うずらの卵・aを加え混ぜながらとろみがつくまで加熱する。

③ 器におこげを盛り付け、②をかけ白髪ねぎを飾る。ABCクッキングスタジオは全国展開・生徒数 21万人の料理・パン・ケーキが気軽に学べる 料理教室です。少人数のレッスン・復習にも最適なイラストレシピ・HPや携帯からの予約・全国フリー通学など充実のシステムが人気です。

ABC Cooking Studioは、はじめての方にもおすすめの、料理・パン・ケーキが楽しく学べる料理教室です。

下味

a

下準備

作り方

6 PiNK • fall 2009

Page 9: PiNK Fall 2009

ほたて缶 30g ほたて缶汁 小さじ4水 500cc紹興酒 小さじ2鶏がらスープの素 小さじ1

塩・こしょう 各少々青ねぎ 2本えのき茸 60g 卵 1個クコの実 12粒

春巻きの皮 8枚 薄力粉 小さじ4水 小さじ2

えび(殻付) 12尾塩・こしょう 各少々紹興酒 小さじ1

生椎茸 4枚味付ザーサイ 20gプロセスチーズ 40g青じそ 4枚サラダ油(揚げ油) 適量香菜 適量

えびのプリプリ春巻き

1人分: 132kcal

詳しくはABCクッキングスタジオHPまたは各スタジオまで。 http://www.abc-cooking.co.jp/

料理を習うなら、カンタン、手軽なABCの1dayレッスンへ・・・・入会金不要、1回完結のお手軽レッスンを全国のスタジオで開催中。メニューはスタジオごとに違うので、 行きたいスタジオと好きなメニューを選んで予約。簡単に作れるパンやケーキに加え、食材使いきりの エコメニュー、ヘルシーメニューなどラインナップも豊富。新メニューも毎月、続 と々登場。

はじめての方なら1dayレッスンがお得: その月の対象メニューが500円で受けられます。(通常4000円) 10月は「たっぷりきのこのグラタンブレッド」。

・えびは殻・尾・背ワタを取り除き、塩水・真水の順で洗い、包丁で粘りが出るまでたたき、下味につけておく(10分~)。

・生椎茸は石づきを除き、笠・軸ともに薄切りにしておく。・青じそは軸を除き、縦半分に切っておく。・チーズは幅1cmの棒状に切り、青じそで斜めに巻く。・ザーサイは粗みじん切りにしておく。・aは合わせておく(のり)。・揚げ油の準備をしておく(160℃)。

①ボウルにえび・椎茸・ザーサイを入れよく混ぜる。②春巻きの皮の下1㎝あけた所に①を横長にのせ、チーズをのせる。③手前以外の3辺にのりを手早くぬり、手前からひと折りし、空気を抜き巻く。④揚げ油に巻き終わりを下にして入れ、徐々に温度を上げてカラリと揚げる(6分~)。

⑤器に盛り付け、香菜を飾る。

・青ねぎは根元を除き、長さ3cmに切っておく。・えのき茸は根元を除き長さを半分に切っておく。・卵はよく溶いておく。

①鍋にaを入れ火にかけ、ひと煮立ちしたら塩・こしょうを加える。②青ねぎ・えのき茸を加え、アクが出たら除き、卵を流し入れひと煮立ちさ

せ、ふわっと浮いてきたら火を止める。③器に盛り付け、クコの実を飾る。

1dayレッスンの ご予約・おトクな情報 が得られるメルマガ

登録はコチラ!

ほたてと卵のふんわりスープ1人分: 32kcal 

a

a

下準備

下準備

作り方

作り方

Page 10: PiNK Fall 2009

食べて・飲んで・考えて食生活とがんとの不透明な関係。Emily A. Kuhl , Ph.D.

牛乳やパンをはじめとしたお決まりの食料品をキッチンに常備している人は多いでしょう。でもキャロル・マーティン(Carol Martin)の場合、決して絶やさないのはブルーベリーとザクロのジュース。キャロルは2004年に肺のカルチノイド腫と診断されて以来、がんの転移を食い止められるかもしれないという希望のもと、健康的な食生活を忠実に実行してきました。

8 PiNK • fall 2009

Page 11: PiNK Fall 2009

「ザクロのジュースやブルーベリーは、少しは効いているというのが私の直感」と、キャロルは語ります。「大した効果ではないかもしれないけど、精神的にいくらかは助けになっているわ」。

健康的な食生活を送ることを使命に励んでいるのは彼 女だけではありません。 オクラホマ・ヘルス・サイエンスセンター

(The Oklahoma Health Sciences Center) の最新研究によると、乳がんと診断された女性たちの多くは脂肪分やアルコールを減らしたり果物や野菜、全粒穀類の摂取量を増やすなど、食生活の内容を変えていました。

研究報告によると、調査対象となった女性のうち、かかりつけの医師から栄養関係の情報を得ているのはわずか3分の1に過ぎず、半数以上が「もっと栄養関係の情報が欲しい」と話しています。

食生活の影響は どれほどあるのか? 

がんの予防に栄養が果たす役割を紹介している数ある団体のなかでも、米国がん協会

(The American Cancer Society:ACS)は主導的役割を担っています。

2006年、協会の栄養・運動・がん克服に関する諮問団は、がんの予防におすすめの食事についての最新情報を発表しました。それらの情報は、アメリカ国立がん研究所

(The National Cancer Institute)やアメリカ心臓協会(American Heart Association)、 アメリカ糖尿病協会(American Diabetes Association)など周知の団体が提供している情報と酷似していました。

一般的にACSでは植物を中心とした食事を勧めており、中でも全粒穀類を重視し赤肉

(訳注:牛肉や羊肉など調理前に赤みがかっている肉を指す)を制限しています。具体的には次のように呼びかけています。

・タンパク質は、豆類、皮のない魚や鶏肉のような脂肪分の少ない食品から主に摂るようにする。赤肉はごく控えめに。

・炭水化物は、果物、野菜、全粒穀類から摂るようにする。

・加工食品やケーキ、菓子類のような精製でんぷんよりも、オート麦や玄米、全粒粉パンやパスタのような高繊維質の食品が良い。

・1日5サービング(訳注:「1サービング」と

は「一食分として食べる量」を指す)またはそれ以上の果物と野菜を摂る。朝昼晩の3回の食事と間食に振り分けて摂れば良いので無理なく実行できるはず。(補足欄「量が肝心!」参照)。

・アルコ ール 摂 取 量 を制 限 する( 1 日あたりビー ル 約 3 5 4 . 8 4 m l 、ワイン 約147.85ml、蒸留酒約44.3ml)。

科学との関係を考えてみる

食生活とがんを関連づけるデータに事欠くことはありません。また、バランスの取れた食事が健康全般の向上に関係していることを示唆する研究も容易に見つけることができます。

食生活とがんの関連性を指摘する調査のなかには、がんの発生リスクの増大がアルコール(乳腺、肝臓、口腔、食道のがん)、大豆(乳腺、子宮内膜のがん)、加工肉(大腸、胃のがん)の摂取量の増加や、果物と野菜の摂取量の減少(肺、大腸、胃、口腔、食道のがん)と関係があると指摘しているものもあります。

しかし最新の科学調査では、食生活が、がん発症の直接の原因であるとも予防法であるとも決定づけてはいないのです。

最近の研究

・過去のいくつかの研究データを再分析した2007年の研究では、閉経前及び閉経後の女性における食生活と乳がんとの因果関係は見られなかった。

・炭水化物に特に注目した最近の研究もまた、乳がんとの関連性を見出すことはできなかった。果物や野菜を食べることで大腸がんのリスクを多少減らせるというデータがいくつか出ているものの、繊維質が大腸がんと関係しているという有力な証拠はない。

・ハーバード大学のナースヘルススタディ(The Nurse Health Study:看護師による健康調査)が10万人以上の女性の食習慣について調査した結果、大腸がんが赤肉と関係がある可能性は示されたものの、大腸がんと繊維質との関連性は認められなかった。

・特に脂肪の役割についてはこれまでも注意深く調査されてきたが、やはり明確な結果はでていない。2006年、ウィメンズヘルスイニシアティブ(The Women’s Health Initiative)による食習慣の改善の試みの結果、脂肪摂取量と乳腺・大腸がんとの関連を発見できなかったことがわかり大きな注目を集めた。研究では、50歳から79歳までの閉経後女性約49,000人が、低脂肪食のグループと、栄養関係の教育を受けたグループに無作為に振り分けられた。8年後、この2つのグループの間に、がん診断の見地からの統計上の差異は認められなかった。しかし、低脂肪食グループの女性たちが、最終目標である20%台にまで脂肪を減らす事ができなかったのは特筆すべきことである。実際、脂肪摂取量を減らしたと言っても、その割合はせいぜいそれまでの摂取量の30%程度にとどまっていた。

評論家のなかには、参加者の年齢が関係している可能性があること、また、この研究では摂取した脂肪の種類を区別して分析していないことを指摘する声もある。ナースヘルススタディもやはり、当初、脂肪の総摂取量と乳がんとの関連性を証明することができず、閉経後女性の摂取脂肪の種類と乳がんとの関連性はみられなかったとしている。そして研究者たちが閉経前の女性たち

が摂取する脂肪の種類について調査した結

GOOD!NG!

fall 2009 • PiNK 9

Page 12: PiNK Fall 2009

果、動物性脂肪が乳がんのリスク増大と関係があることを突き止めた。

科学はなぜ、食べ物とがんとの関連性について確かな裏付けをしないのでしょうか?

ひとつには、がんには100以上もの種類があるということが言えます。そして、心臓病などの一般的な病と違い、がんの場合は食生活との関係を完全に切り離して述べるのがむずかしいのです。また、調査研究の進め方が結果に反映されます。例えば、研究のなかには女性たちに数週間前・数ヶ月前・数年前に食べた物について話してもらうというものがありますが、記憶をたどるという意味で間違った結果をもたらしかねないのです。

また、なかには女性の食生活を長期間にわたって追跡していない研究もあります。さらに研究規模によっても結果は変わってきます。つまり、被験者の数(対象が数百人なのか、数千人なのかなど)は、より多い方が、調査結果が真実なのか、もしくは単に偶然の産物なのかの正確な判断を下しやすいのです。

ACSやNCIのような機関が提示するデータの内容は一致していないものの、両者ともに、女性たちにガイドラインに従うよう主張し続けています。テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター(The University of

Texas M.D.Anderson Cancer Center)の登録栄養士(RD)ウェンディ・デマーク=ワーネフライド(Wendy Demark-Wahnefried)博士は、たとえそれらのデータ内容が矛盾していたとしても驚くべきではない、と話します。「何故ガイドラインがあるのかと言えば、

アメリカでの主要な死亡原因が心臓病であることが挙げられます。がん経験者にも心臓病リスクがあるので、その予防・心臓保護の目的でガイドラインを用いたアドバイスをしているのです。一般の人々にとっては、紛らわしいだけかもしれませんね」。

そしてちらつくのが、 「肥満」という言葉・・・

研究計画上の誤差、不明瞭な結果を解析することの難しさに加え、食生活とがんの方程式に潜んでいる第三の要因が肥満です。「がんの原因として、栄養面における見地は過体重と肥満」と話すのは、ハーバード・スクール・オブ・パブリックヘルス栄養学部教授で、ナースヘルススタディの主任研究員、ウォルター・ウィレット(Walter Willett)医師です。

「脂肪過多は、大腸や乳腺(閉経後)、膵臓、腎臓、子宮内膜、食道のがん、そしておそらく

白血病や悪性リンパ腫の原因となります。また、肥満が乳がんの再発率を上昇させているとする証拠もいくつかあがっています」。

体重の減少が研究結果を不明確にした例として知られているのが、ウィメンズインターベンションニュートリションスタディ

(The Women’s Intervention Nutrition Study:WINS)です。閉経後の女性を7年間追跡したこの研究は、脂肪の摂取量を減らすことでがん発症リスクが減少するということを示した最も規模の大きな研究として評価されてきました。この研究では参加者が、脂肪の摂取量を1日の総カロリー量の15%以下にとどめるグループと、従来通りの食生活を続けるグループの2つに無作為に振り分けられました。

脂肪摂取量を制限したグループでは、がんの再発率が24%減少しました。そのうえエストロゲン受容体陰性の女性については、脂肪摂取量を制限した食事により再発率が42%も減少しました。

これらの結果を見ると、脂肪の摂取量を制限したことが重要な要因であるように思えますが、デマーク=ワーネフライド博士はその結果について忠告します。「意外にも、彼女たちの体重が確実に3kgちかく減っている。こ

乳がんと診断された女性たちの多くは脂肪分やアルコールを減らしたり、果物や野菜、全粒穀類の摂取量を増やすなど、食生活の内容を変えていました。

10 PiNK • fall 2009

Page 13: PiNK Fall 2009

のような結果につながったのは、実は体重の減少にあるのかも知れない」と語るのです。「食生活はおそらく、がんの発症に非常

に大きな役割を果たしているでしょう。しかし、改善可能な要素として最も重要なのは、体重の状態であるように思われます。つまり、果物や野菜中心の食生活や脂肪摂取量を制限した食事を摂ることが重要なのではなく、体重に作用する要素は何であるのか、それらがどう作用するのかという事だと考えているのです」。

サプリメントを摂る?摂らない?

食生活と健康の関係性についてはまだまだ議論の最中です。では栄養サプリメントについては、正しく認識できているのでしょうか?残念ながら、答えはやはりノーなのです。

ビタミン・ハーブ・ミネラルなどを含むなんらかの栄養サプリメントを摂っているがん経験者の割合は80%と高いものの、サプリメントが、がんのリスクを減らす事を示す科学的根拠はほとんどありません。そればかりか、サプリメントの多量摂取が、がんのリスクを確実に増大させる可能性を示すケースが―ベータカロチンと肺がんのように―いくつも存在するのです。

最近、がんとの関連性があるとして多くの報道を賑わせているビタミンDでさえ、なかなか判定は難しいようです。アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション

(The American Journal of Clinical Nutrition)の最近の記事によると、ビタミンDの効果は、がんの種類や食生活、運動などの生活習慣要素のような外的要因の影響を受けやすく、それがビタミンDの新陳代謝にも影響を与えると記されています。これらの要因を切り離してしまうと、ビタミンDのがんへの影響について判断がつきにくくなるということなのです。「ACSと世界がん研究基金の勧告を見

ると、両者ともに、サプリメントについてより詳細に明らかにされるまでは摂取しないように、との否定的な見解を示している」と、デマーク=ワーネフライド博士は言います。

「ほとんどのサプリメント試験は悲惨な失敗に終わっています」。更に、ACSの食事指針に沿った食事さえ摂っていれば必要量のビタミンやミネラルを摂取することができるとされています。

栄養補助食品が必要かどうかは医療機関の専門家に相談するべきでしょう。

メディアからのメッセージ

テレビ、ラジオ、新聞はしばしば、食事制限やがんについての特定の研究の中から興味を惹く部分だけを取り上げ伝える傾向にあります。そして、そこで取り上げる特定の食品やサプリメントさえ摂っていれば良いという印象を与えていますが、デマーク=ワーネフライド博士は、それは必ずしも事実ではないと語ります。

彼女はまた、1つか2つの特定の食品に注目するのではなく、毎日の食事をトータルでとらえる意識を持つことが大切だとも述べています。「それさえ摂取していれば他には何も必要が無い、というような魔法の食品は存在しないのです。大切なのは正しい食習慣。私たちは、がんだけでなく、他の病気にかかるリスクもあるのですから」。

マサチューセッツ州在住のトリシア・ビーチ(Tricia Beach)も、同様に考える1人です。トリシアは1988年に乳がんと診断されてからの20年、加工食品やインスタント食品を避け、新鮮な果物や野菜中心の食生活を確立させました。彼女が食事制限を決めたのは、がんの再発を懸念するのと同様、コレステロール値についても心配があったからだと言います。しかしトリシアは、自分が得ている情報はほとんどがメディア発信のものであり、これまでに一度もかかりつけの腫瘍専門医や看護師から栄養に関する情報を得たことが無いと言うのです。「がん経験者に必要な栄養と食生活について、誰も教えてくれないのには驚いた」と彼女は語ります。「彼らはこう思っているのではないかしら。

『あなたは、がんを乗り越えた。いまさら栄養について論じる必要は無いでしょう?自分のしていることが正しいということは、あなたが生きていることで証明しているのだから』と。」

キャロル・マーティンもまた、かかりつけの医療専門家から食事についての明確なアドバイスを受けたことがなく、断片的な情報を

しかし、最新の科学調査では食生活が、がん発症の直接の原因であるとも予防法であるとも決定づけてはいないのです。

fall 2009 • PiNK 11

Page 14: PiNK Fall 2009

自分でまとめるのはとても面倒だと語ります。そして、「あまりに色々な報道がありすぎて、いわゆる情報漬けの状態になることもある」のだそうです。「『カルチノイド腫の患者に有益な最新

情報をいただけますか?』と尋ねたら済んでしまうような電話相談サービスがあればどんなにいいかしら」。

最も正確で最新の情報はメディアから発せられるものではないとデマーク=ワーネフライド博士は警告します。彼女曰く、これらメディアからの報告は多くの場合、ある特定のがんに限定した内容であるため混乱を招きやすい。ある1つの研究によって提言される情報が、全てのタイプのがんに等しくあてはまるものではない、と言うのです。彼女はまた、ある特定の研究が世間の注目を浴びた場合、それは多くの研究の中のたった1つにすぎないのだと心に留めておくことが大事だと指摘し、「複数の研究によって何度も繰り返し示された結果である事が重要」と説明します。「自分のライフスタイルを健康的に改善したいのであれば、専門家が十分な科学的根拠に基づき提言する情報を頼るべきです。」それはたとえば世界がん研究基金や米国がん研究協会、そしてACSが発信する情報である、とも述べています。

将来の展望

研究者たちが食生活とがんとの関係についての結論を得るまでには、まだまだやることが山積しているというのが現実です。それまでの間、女性たちにはACSのガイドラインに沿った食生活を続けることを奨励します。

日々の食事が、がんの治癒において―食品の選択を通して直接的に、または体重の変化を通して間接的に―重要な役割を果たすということはほぼ明らかです。更に重要なのは、バランスの取れた食生活は、健康全般に効果のある最良の方法の一つだということです。そして、将来に向けて研究を推進するために女性たちが自らのために貢献できるチャンスとして、「臨床試験に参加することをお勧めしたい」と、デマークワーネフライド博士は語ります。「なにより科学的根拠の数を増やすこと

が必須。この分野の研究はまだまだ未成熟なのです」。

食品の1サービングとは、実際にはどのくらいの量?おそらく想像以上に少ないことでしょう。ACSが出したこれらの指標は、適切な食品の種類だけでなく、その適量も示しています。*アメリカの1カップ=237ml

果物:・リンゴMサイズ…1個、バナナ…1本、

またはオレンジ…1個・カット果物/缶詰の果物…約118ml・100%フルーツジュース…約178ml

野菜:・生の葉野菜…約237ml・葉もの以外の野菜(生のままカットもしくは調理

済み)…約118ml・100%野菜ジュース…約178ml

穀物:・パン…1枚・シリアル…約28g・調理したシリアル(オートミールなど)・米・

パスタ…約118ml

豆類・ナッツ類:・調理した乾燥豆…約118ml・ピーナッツバター…大さじ2・ナッツ…約79ml

乳製品・卵:・牛乳またはヨーグルト…約237ml・ナチュラルチーズ…約43g・プロセスチーズ…約57g・卵…1個

肉類:調理した脂肪分のない肉・鶏肉または魚…約57~85g(トランプ一組分もしくはパソコンのマウスぐらいの大きさ)

量が肝心!

重要なのは、バランスの取れた食生活は、健康全般に効果のある最良の方法の一つだということです

12 PiNK • fall 2009

Page 15: PiNK Fall 2009

ビタミンDは牛乳の成分表示や医学書に出てきたりするだけの忘れ去られた存在でしたが、それも過去のことになろうとしています。ビタミンDは、病気を予防するスーパービタミンとして認められつつあるのです。古くから骨の健康にとって重要な要素であることが知られてきましたが、ここにきてがん、心臓疾患、また早世のリスクをも低くする可能性があることを裏づける研究結果が次々と発表されています。科学者だけでなく、一般の人々もビタミンDが持つがん予防の可能性に特に注目し始めています。

研究によって明らかになった がんとの関連性

ビタミンDは、日光の紫外線B(UVB)を直接浴びることで自然と皮膚の中に生成されることから「太陽のビタミン」とよく呼ばれますが、ビタミンDのがん予防効果が研究されるかなり以前から、その効果は知られていました。1930年代および1940年代に行われた主要な研究では、日光を浴びる度合と、皮膚がんならびに皮膚がん以外のがんの発生率との間に明らかな関係があることがわかっています。皮膚がんの発生率や日光を浴びる度合が上がると、皮膚がん以外のがんの発生率が下がったのです。

この研究結果は研究者たちの間に大きな波紋を投げかけました。日光や皮膚がんがその他のがんの発生を抑えるというのは思いもよらない概念で、この考え方は当時まじめに受け取られることはありませんでした。しかし、1980年代初めになると、日照レベルの高い地域においてビタミンDと日光ががんの発生率を下げる主な要因であるという仮説が立てられ始め、先の研究結果が重要味を持つようになってきたのです。

がんの発生率とビタミンD(日光に当たることで生成されるものと、食品やサプリメントから摂るもの両方を含む)の関連性を探る研究は年々増えています。特にこの5年間は、ビタミンDががん予防に重要な役割を

ビタミンDと

がんの関係に

光を当てるGraham Colditz, MD, DrPH; Hank Dart, MS

fall 2009 • PiNK 13

Page 16: PiNK Fall 2009

定まらない目標値:

ビタミンD値に影響を与える要素

ビタミンDの推奨摂取量を改正することに科学者たちが用心深くなるのは、いろいろな条件が個人のビタミンD血中濃度に影響を与えるためです。

□ 住んでいる場所北部は南部ほどビタミンDを生成する紫外線B(UVB)が多くありません。北緯37度(カリフォルニア州サンフランシスコ、ミズーリ州セントルイス近辺)より北になると、晩秋から初春にかけてUVBが低すぎてビタミンDを生成することができません。(訳注:日本では、新潟県・福島県以北が北緯37度より北に位置します)

□ 日光に当たる時間屋外で働いたり、多くの時間を戸外で過ごしたりする人は室内で過ごす時間が長い人と比べてビタミンD値が高い傾向にあります。

□ 肌の色肌の色を構成するメラミンはUVBに対する日焼け防止作用があるため、肌の色が濃い人のほうがビタミンDの生成が少なくなります。

□ 年齢年齢とともに肌はビタミンDを効率的に生成できなくなります。

□ 体重特に肥満の人は脂肪細胞がビタミンDを取り込んでしまうため、 血中濃度が低くなります。

このようにビタミンD値を決定する要素は数多くあり、すべての人に当てはまる推奨摂取量を定めることは困難です。アメリカ人の半分以上はビタミンD値が低いため、ビタミンDを1日1,000IU摂取することから始めるのがいいでしょう。しかし、科学者の中には今までの研究結果を見ると、今後は1人1人に必要な摂取量をカスタマイズしていくことになるだろうという人もいます。簡単な血液検査でその人のビタミンD値が健康にメリットをもたらすだけの値かどうかがわかるため、それに基づいて推奨

摂取量を調整することができるでしょう。ビタミンDの生成量には居住地域によって大きな開きがあるた

め、このような検査をすることは有効だと思われます。しかし、それには時間とコストがかかるため、予算や政策を策定する人たちや研究者たちがそこから得られるデータを十分に解析してコスト効率の良い、根拠に基づいた方法を見つけ出すのはまだ先のことになるでしょう。

14 PiNK • fall 2009

Page 17: PiNK Fall 2009

果たしているのではないかという論点のもと、大規模で綿密に計画された研究が行われています。

最も有力な研究結果

今のところ、アメリカで男女ともに3番目に発生率の高いがんである結腸がんとビタミンDとの関係を示す研究結果が最も信頼性があるとされています。多くの優れた研究で、ビタミンDの値が高い人はビタミンDの値が低い人に比べて、結腸がんの発生率が約半分に減少することがわかっています。また、国立がん研究所(National Cancer Institute)が実施した全米の約17,000人を対象にした研究では、ビタミンD値の高い人は結腸がんで死亡する確率がビタミンD値の低い人の約4分の1という結果が出ました。

しかし、ビタミンDがもたらすがん予防の効果は結腸がんにとどまらないようです。ビタミンD値が高いと、口腔がん、食道がん、膵臓がん、および白血病の発生リスクが大幅に減少することを示唆する研究結果が出ているのです。そして、2006年に行われたビタミンDとがん発生リスクの関係についての研究結果の再検証では、ビタミンD値が上昇すると、結腸がんだけでなく、前立腺がん、乳がん、卵巣がんの発生リスクをも減らすことができると結論づけられました。また、ビタミンD値が高いと特定のがんを患っても生存年数が長くなることも示唆されています。さらに、ビタミンDは食物やサプリメントで摂取しても日光に当たることで生成されてもその方法は重要ではなく、両者とも効果があったとしています。

研究の種類は重要か?

ビタミンDは多くの種類のがんに効果がある可能性を秘めています。医療に従事する男性48,000人を対象にした最近の研究では、ビタミンD摂取量が少ない人と比べて、摂取量が多い人は全般的にがんの発生リスクが20%近く低く、がんによる死亡率も約30%低いという結果が出たのも当然のことといえます。

このように肯定的な結果が出ていますが、今日までビタミンDの効果を立証した研究は観察研究と呼ばれる方法に基づいていることに留意しなければなりません。観察研究とは、研究対象者に自由に生活してもらい

ながらある一定期間研究をする方法です。このような大掛かりで綿密に計画された観察研究からは、リスク要因と病気の関連性について非常に信頼性のあるデータを集めることができますが、ビタミンDとがんの関係を調べるにあたっては適切な方法とはいえません。むしろこのような場合、ランダム化比較試験のほうが研究方法として適しているとされています。

聞き慣れない数多くの研究方法とは異なり、ランダム化比較試験は多くの人が科学的研究と聞いて想像するものにかなり近いものだといえます。たとえば、片方のグループには治療的介入(ビタミンDのサプリメントを与える、など)を行い、もう片方のグループ

(管理グループ)には治療的介入を行わないといった方法です。一方のグループが他方

のグループよりも改善したか悪化したか、一定期間を置いた後に病気の発生率を比較することで検証します。適切に行われれば、この種の研究から最も信頼性のある科学的データを得ることができるのです。しかし、残念ながらこのような研究方法にはいくつかの欠点もあります。

では、ランダム化比較試験ではビタミンDとがんのどのような関係がわかったのでしょうか。実は、現時点ではあまり多くのことはわかっていません。というのも、まだ2件しか試験結果が発表されていないからです。まず、よく知られたウィメンズヘルスイニシアティブ(Women’s Health Initiative)による研究では、ビタミンDを補給することによるがん予防効果は見られませんでした。しかし、だからといってビタミンDは効果がないとすぐに結論づける必要はありません。というのも、過去の研究からがん予防効果があるとされているビタミンDの摂取量は約1,000IUといわれていたにもかかわらず、この研究ではこれを下回る1日400IU(国際単位)しか投与されず、この分野の研究者たちは研究結果を厳しく批判したからです。

また、この研究結果の信頼性が薄れたのは、試験期間中に定期的にビタミンD剤を摂らなかった女性が約40%いたことと、薬理効果のない偽薬(プラセボ)を与えられていたグループの女性たちが勝手にビタミンDを摂取していたことが判明したためです。このことで研究結果の精度が落ちる可能性が高くなったのです。ですから、投与されたビタミンDの量が効果があるだけの量だったとしても、2つのグループ間での結果には大きな差が出なかっただろうと予想されます。

一方、2007年に発表された研究では、対象者に1日1,100IUとはるかに多いビタミンD量を摂取してもらい、結果はより肯定的なものでした。この研究は閉経後の女性約1,200人を対象に4年間にわたって行われ、ビタミンDを摂取したグループの全般的ながんの発生リスクが摂取していないグループと比べて半分以下ということがわかりました。

研究結果が持つ意味とは

これらの研究結果は何を意味するのでしょうか?すべての結果を照らし合わせると、ビタミンD値を高めることで多くの人のがん発生リスクを下げることができるといえるようです。アメリカの半数以上の女性、また40%

<ビタミンDのその他呼称>ビタミンDについて調べていくとアルファベットだらけの専門用語に圧倒されてしまうでしょうが、実はそれほど複雑ではありません。様々なビタミンDの形態とそれぞれがどのようながん予防効果があるのか、以下に説明します。

ビタミンD3とD2:

皮膚で生成されるビタミンDの種類。また、食品やサプリメントに含まれるのもこのタイプ。

25(OH)D(カルシジオール):

ビタミンD3とD2はプロホルモンであるこの形態に変換される。血中から検出されるビタミンDのほとんどはこの形態。25(OH)DはビタミンD値の検査をする際に多く使われる。

1,25(OH)2D(カルシトリオール):

さらに変換されるとビタミンDの活性化ホルモンになる。ビタミンDの他の形態は血中濃度が上下するが、この形態はほとんど血中濃度が変化することがない。1,25(OH)2Dは骨の新陳代謝に働きかけ、健全な細胞の成長を促進する働きがあり、この作用ががんの発生リスクの減少や生存年数を延ばす役割をしているのではないかと考えられている。

fall 2009 • PiNK 15

Page 18: PiNK Fall 2009

1食当たりのビタミンD値(IU)

タラの肝油: 大さじ1 1,360鮭(調理済み): 100g 360サバ(調理済み): 100g 345ツナ缶(オイル漬): 85g 200オイルサーディン(缶詰、オイル抜きで): 50g 250牛乳、ビタミンD強化タイプ

(無脂肪、低脂肪、普通): 240ml98

マーガリン(強化タイプ): 大さじ1 60

シリアル 40卵: 1個(ビタミンDは卵黄に含まれる) 20牛レバー(調理済み): 100g 15スイスチーズ: 30g 12腕と脚に日光を当てる(10-20分)

(時間帯、季節、肌の色、緯度により異なる)3,000

サプリメント(製剤により異なる) 400~1,000

以上の男性の血中ビタミンD値が適正基準よりも低いことがわかっています。望ましいとされる血中ビタミンD値は、25(OH)Dと呼ばれるタイプのビタミンDが75nmol/dL(1デシリットル当たりのナノモル)とされています(別欄「ビタミンDのその他呼称」を参照)。日光にほとんど当たらない人や、特にお年寄り、肥満、肌の色が濃い人、そして北方気候

(ビタミンDを生成するUVB光線がほぼ1年中低い地域のこと)に暮らす人々など、ビタミンD値が低い傾向にある人は、さらにビタミンD値が低くなります(別欄「定まらない目標値−ビタミンD値に影響を与える要素」を参照)。

ビタミンDの血中濃度をがんリスクを下げるのに効果的なレベルにするには、ほとんどの人が1日約1,000IU、ビタミンD値が低い傾向にある人は1日約1,500IUのビタミンDを摂取する必要があります。これは現在アメリカで成人に必要とされている1日200-600IUをはるかに超えていますが、 1日200-600IUではがん予防はおろか、骨の健康に効果をもたらすにも低すぎるとされています。ビタミンDが健康にもたらす効果は認められつつあり、アメリカ小児科学会

(American Academy of Pediatrics)は最近子供のビタミンD推奨摂取量を倍に、カナダがん協会(Canadian Cancer

Society)も秋から冬にかけての成人のビタミンD推奨摂取量を1日1,000IUに増やしています。これは、たとえ寒さをかえりみず日光に当たろうと戸外に出たとしても、カナダは北方にありUVB量が秋冬にはビタミンDを生成するには低すぎるためです。

「日光は安全」かどうか-リスクとメリットのバランス

日光を浴びることはリスクとメリットを併せ持つため、公共の健康機関にとってビタミンDの恩恵を受けるために日光を浴びるよう推奨すべきかどうか、その判断はむずかしい問題です。住むところにもよりますが、日焼け止めなどを塗らないままで10分ほど日光に当たるだけで1日に必要なビタミンDを生成することができます(しかもお金がかかりません)。しかし、一方で命に関わるメラノーマ(黒色腫)などの皮膚がんの原因にもなることがわかっています。日光は安全であると主張する人たちは、少しであれば日光に当たることで得られるメリットはリスクをはるかに上回ると言い、これを裏づける統計もあります。アメリカでは毎年約8,500人がメラノーマによって死亡しますが、日光に当たることでも増やすことのできるビタミンD値が高ければ、がんによる死亡者を年50,000人以上減らすことができるの

ではないかと考えられています。ビタミンDのサプリメントが手軽に入手で

き、価格も比較的安いことを考えると、日光に当たることのリスクとメリットのバランスを見極めるのはむずかしいといえるでしょう。より安全で同じ効果が得られる方法があるのに、メラノーマの原因ともなりうることを推奨してもいいのでしょうか?今のところほとんどの専門家は日光に当たるよりもビタミンD剤を摂ることでビタミンD値を増加させる考え方に傾いていますが、今も議論は続いており、今後の研究結果によっては日光の安全性がより明確になるのではないかと思われます。

まとめ

フライドポテトががんの原因となるといったような、ニュースで取りあげられてすぐに忘れ去られてしまうものとは異なり、ビタミンDのがん予防効果についての研究結果は信頼性があり、長期にわたり支持されるものだといえます。今までにわかっている結果によって多くの保健機関がビタミンDの推奨摂取量を見直したり増やしたりしています。ですから、今後行われるランダム化比較試験の結果が発表され最終的な結論が出るまでは、ビタミンDを今より少し多めに摂ることも悪くないのではないでしょうか。

ビタミンDを含む食品スカンジナビア人は別として、典型的な西洋の食生活では1日1,000IU近いビタミンDを摂取することは極めて困難です。成分強化牛乳やオレンジジュースを含めて、ビタミンDを豊富に含む食品はほとんどありません。ビタミンDは脂肪の多い魚類に最も多く含まれていますが、アメリカでは定期的に食生活に取り入れている人は多くありません。日光に当たることで非常に多くのビタミンDを体内に取り込むことができますが、多くの地域では季節によって日光が十分でないことやメラノーマのリスクが高まるなどの問題があります。そういった意味では、ビタミンD値を上げるためにはサプリメントを摂取するのが最も安全で簡単な方法だといえます。サプリメントに含まれるビタミンDの量は種類によって異なります。サプリメントを購入する場合、効果のあるビタミンD3が含まれるものを探しましょう。また医師の指示がない限り、ビタミンDが2,000IU以上含まれているものは避けましょう。

16 PiNK • fall 2009

Page 19: PiNK Fall 2009

Q.質の高いビタミンD サプリメントを選ぶコツは?A. 安全で高品質のサプリメントを購入するためにでき

ることがあります。

・まず、購入しようと考えているメーカーについて調べることです。ビタミンDのリコール(回収)をしたことのある会社のサプリメントは買わないことです。リコール対象商品はもう販売されていないでしょうが、念のためリコール対象商品をチェックすることをお勧めします。

・サプリメントに含まれているビタミンDの種類を確認しましょう。ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)は食品に添加されたり、多くのサプリメントに使われたりするもので、ビタミンD3(コレカルシフェロール)は日光に当たることで身体が作り出すビタミンDの種類です。臨床医たちは身体で生成されるのと同じビタミンD3を推奨しています。

・含有量を確認しましょう。専門家の多くは、健康な成人の推奨摂取量を1日2,000IUまでとしています。

・最後に、原料と製品の信頼性、効果、純度のすべてを検査するメーカーを選びましょう(これらすべてを検査する会社は多くありません)。独立検査会社であるConsumerLab.comによると、検査をしたサプリメントメーカーの4社に1社は効力が弱かったり純度が低かったり、その両方だったりしたそうです。詳しくはwww.consumerlab.comを参照ください。

Q.どのブランドを選ぶかは重要な要素ですか?どこのでも同じではないのですか?A. どのブランドも同じではありません。どこのメーカ

ーも高品質の商品であることをうたっていますが、具体

的な質問をするとメーカーはそれを証明しなければなら

ないため、適切な質問をすることが重要になります。

・製品をリコールしたことはあるか・すべての原料に対し、個別にヒ素、カドミウム、鉛および水銀の検査

をしているか・すべての原料に対し、個別に同一性や効力の検査をしているか

最も厳しい基準に基づいて製品を製造していること、またその品質を保証し、包括的な証明書を提示できることを約束しているメーカーの商品を選ぶようにしましょう。このような会社は契約している独立研究所が原料と最終製品の検査をする際、認証された方法で行っているか、倫理規定に沿っているかどうかの監査を行っています。また、研究所の検査手法のチェックも時間をかけて行っています。検査項目には微生物による汚染、信頼性、効力、重金属の有無、品質の安定性などが挙げられます。会社によってはさらに残留化学溶剤、アフラトキ

シン、油分の酸敗臭、残留殺虫剤、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニルやその他汚染物質に対する検査を行うところもあります。最後に、最終製品の検査をして効力、純度、および安定性が製品ラベルに記載されている通りであるかを確認する必要があります。ほとんどのサプリメントメーカーがここまで行わないものの、アメリカがん栄養センター(Cancer Nutrition Centers of America)を含めた一部のサプリメントメーカーはここまで確認しているので、探してみるのがいいでしょう。

Q.錠剤かカプセルか?A.錠剤は製造過程で補助的に添加剤を使っています。

そのため、カプセルの方が錠剤よりも「純粋」であると

されています。さらに、カプセルは胃の中で急速に溶け

て成分が体内に広がりますが、錠剤は完全に溶け切らな

いか、全く溶けない場合もあります。一般的には錠剤よ

りもカプセルのほうがいいといえるでしょう。

Q.ビタミンDのサプリメントを摂ることで処方されている薬に影響が出る?A.ビタミンDはほとんどの処方薬と併用しても安全で

すが、カルシウムとリンの吸収を増加させることがわか

っています。そのため、カルシウム拮抗薬を飲んでいる

場合、ビタミンDを摂ってもよいか事前に医師に確認し

ましょう。

ポール・ヴァン=ネス(Paul Van Ness)はアメリカがん栄養センター(www.CNCAhealth.com)の最高責任者です。ビタミンDと薬の相互作用についてはwww.CNCAhealth.com/health-notesを参照してください。

サプリメントの基本 Q&A

fall 2009 • PiNK 17

Page 20: PiNK Fall 2009

月に1度の自己検診

自己検診でいつもの感触を覚えて、

小さな変化を早く感じ取りましょう。

早期発見があなたの胸を、そして命を救います。

自己検診の時期

生理が終わって、乳房の緊張や

腫れがない時が最適です。

生理が不規則な場合や、閉経しているなら

毎月同じ日を決めて励行しましょう。

自己検診の方法1.�鏡の前で、乳房に赤み・腫れはないか、乳首から分泌物はないかを目で確かめます。

2.お風呂やシャワーで体を洗う時に、��・左手の人差し指、中指、薬指の3本の指腹を使って、右の

乳房に固まりやしこりがないかどうか調べます。つまんでは

いけません。

��・まんべんなく調べてその感触を記憶しておきます。指先の

動かし方の一例としては図のような方法があります。

��・同時に左の乳房も調べる(この時は右の手で触ります)

3.あおむけに寝て右肩の下に枕を入れ、右手は頭の下に置い������た状態でも調べるとより確実です。

変化や異常を感じたときは、すぐに専門医(外科、乳腺外科、乳腺科)に相談しましょう。

年に一度は、マンモグラフィ検診を受ける事が推奨されています。触ってもわからないような小さながんを見つけることができます。

監修:癌研究会付属病院乳腺外科 高橋かおる

Page 21: PiNK Fall 2009

INSIDE PLEDGEIndide Pledge

未来への約束

インタビュー大沢かおりさん

20

米国臨床腫瘍学会2009報告

23

Page 22: PiNK Fall 2009

医 療ソー シャルワー カ ー( 以 下 M S W : Medical Social Worker)のお仕事とは?大沢かおりさん(以下、大沢):病気やケガなどが原因で引き起こされる患者さんやそのご家族の心理的社会的な心配や不安・問題の解決のお手伝いをするのが役割です。

ご自宅に退院される方の往診医や訪問看護ステーションを探すなど在宅療養環境を整える、ご自宅に戻れない場合は退院後に入院できる病院や入所できる施設を探す、アルコール依存症の治療が必要と判断された方を専門の医療機関や自助グループへつなぐ、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者であることが判明した患者さんがご自分で動き出すために必要な情報提供をしたり、患者さんのお子さんがネグレクトや虐待を受けていることが判明した場合は関係機関と連携を取り保護するために動くなど、業務は多岐に及びます。

具体的には? 大沢:たとえば治療費の負担にお悩みの場合は、その方が利用できる医療費公費負担制度や各種社会保障制度があるかを調べ申請のサポートをします。退院後自宅で生活できない方には、継続して必要な処置や介護

が受けられる病院や施設を紹介しますし、訪問診療や訪問看護等を受ければ自宅で暮らせる方には往診医や訪問看護ステーション、ヘルパーの手配、必要な福祉機器-例えば車イスやベッドなど-を手配するなど、在宅療養の環境整備のお手伝いをします。65歳以上の、お身体の状態で介護保険が利用できる方にはケアマネージャーを探します。ヘルパーや福祉機器の手配はそのケアマネージャーが行いますが、40歳未満であったり、40歳から65歳未満の介護保険を利用できない病名の方については、MSWが手配をします。そのほかには、家族の人間関係の調整もあります。長いこと連絡を取っていなかった親族と連絡を取ったり、ケースに応じて役所・保健センター・他の医療機関や種々の施設・児童相談所・学校などと連携し情報交換しながら解決を探ることになります。

国内では何人くらいのMSWが、どれくらいの病院に存在しているのでしょう?大沢:厚生労働省の病院調査によるとおよそ1万人と言われていますが、国内最大の職能団体である(社)日本医療社会事業協会に登録している会員は約3,500名です。全国にはまだまだMSWの居ない病院が多

いのが現状ですね。ちなみに当院の場合、私が1991年3月に勤務してから11年間はMSW1人で対応しており本当に激務でしたが、現在は計4名在籍しており、私が担当しているがん患者さん専門のがん相談支援センターと、それ以外を受け持つ医療社会相談室との2本柱で患者さんのサポートにあたっています。

共済病院は一般病床が341、療養病床39という地域の中核病院。さまざまな患者さんがいらっしゃると思いますがMSWの業務で大切なこととは?大沢:大切にしていることは、患者さん・ご家族のちからを信じ、出来ることは自分たちで動けるように支えること。患者さん・ご家族にしてみると初めて直面することばかりであり、物事を選択していくための情報が少ないことが多いので、さまざまな選択肢を示し情報提供を行うこと、多様性を受け止めること、判断しないことなどです。

インタビュー・文:古月チヒロ

写真:伊禮太郎

東京共済病院 がん相談支援センター

医療ソーシャルワーカー

大沢かおりさん

イ ン タ ビ ュ ー

先号に引き続き、大沢かおりさんにインタビュー。今回は、医療ソーシャルワーカーという職業や患者サロンについて伺いました。こぼれんばかりの笑顔でいろいろな活動に取り組む大沢さんのエネルギーの秘密にせまります。

20 PiNK • fall 2009

Page 23: PiNK Fall 2009

大 沢 さん が M S Wという職 業 を 選 んだ 背景は?大沢:「将来は福祉か医療現場で働きたい」と思っていたのですが、特に高校3年の時にネフローゼ症候群(腎臓の病気)で長期間入院したときにいろいろ考えた結果、「MSWなら医療現場で福祉の仕事ができる」ということで大学に進み、社会福祉学を専攻しました。在学中に病院、児童養護施設、児童相談所、障害者施設、アルコール依存症の施設などさまざまな分野で実習を重ねたり、サークル活動でもそれらの現場に立ち続けたりした結果、やはり医療の場で働きたいという確信を得て、今に至ります。毎日が飛ぶように過ぎていきますが、自分がちょっとでも役に立てれば嬉しく思いながら働いています。

大沢さんの行動力の結果の1つが、国内でも数少ない乳がん患者さん専用の院内患者会、

「乳がん患者サロン」ですね。大沢:2008年3月から、毎月第4火曜日12時から16時まで、南館10階にある窓が大きくて明るい会議室で開催しています。当院は乳がん診療が充実しているため近隣のみならず遠方からも多くの乳がん患者さんが来院してくださるのですが、「患者同士でお話しできる場が欲しい」という声が以前から多く聞かれていたことが、開催するキッカケの1つです。

他にも何かキッカケが?大沢:個人的な話しで恐縮ですが、実は私自身が乳がん患者になったのです。2003年10月に当院で左乳がんの温存手術を受けました。大きな声では言えませんが(笑)、それまで乳がん検診を受けたことが無く、日常の自己チェックという意識もゼロでした。行政の乳がん検診は40歳からで、その時はまだ35歳だったので他人事のように思っていたのです。それがある日、体を洗っている時に偶然しこりに触れ異常に気づいたのが「早期」だったので、幸運だったと言えるでしょうね。術後、1ヶ月間の放射線治療と同時に5年間のホルモン療法という治療計画で、月1回の注射と内服の2年が終わり「あとは飲み

薬の3年だけだね」と喜んでいた矢先に、夫が長く患っていたうつ病の回復途中に自死するというまったく予期せぬ事が起こって・・・。さよならも言わずに突然逝かれ一人遺されてしまって、心のなかは「後追い願望」でいっぱいなのに、なぜ生きるための治療を受け続けなくてはいけないのかと、正直苦しかったですね。主治医がすべてを受け止めたうえで治療方針を考えてくれました。

夫の自死後、どうしても同じ経験をした人に会って話をしてみたくて、都内で定期的に開催されている3つの自死遺族の会に何度か出かけてみたり、ウェブ上にある自死遺族の掲示板では同じように配偶者を自死で亡くした年が近い友人と知り合うことができ、直接互いの家を行き来するようになったのも大きな救いでした。

その二つの経験から、同じ経験をした者同士だからこそ通じる安心感、そして得られる癒しを実感したことが、夫の自死後、ふたたび自分が動き出すモチベーションとなりました。そして、MSWとしてではなく1人の乳がん患者として、「VOL-Net」という乳がんのセルフ・サポート・グループに参加し、途中からは運営スタッフの一人として活動するようになりました。夫の自死から2年ほど経ち、生まれ変わったように自分がエネルギーで満たされるようになった時に、サポート・グループでの経験が動機となって、当院の患者さんのための院内がん患者サロンを開設しようと思いました。

ピア・サポート(同じような経験をした仲間によるサポート)で得られるサポートのチカラを実感したということ?大沢:そうです。同じ病気を経験している女性達と語り合うという経験に私自身が乳がんになって間もない頃支えられただけでなく、乳がんのあらゆるステージにある患者さんが何を考えどんな情報を必要としているか、そしてそれらの思いやニーズは人それぞれに違うのだということを深いレベルで知る事ができました。

サロンにお邪魔する際、ドアから楽しそうな笑い声が廊下に聞こえてきて、一瞬、ここが病院で患者さんの会だと言うことを忘れそうになり緊張が吹き飛びました(笑)

大沢:そう、よく笑うんですよ。みんな仲良しだし(笑)。毎回15~20人の患者さんが参加して下さっていますが、明るく和やかな雰囲気です。

乳がんの場合、他の部位のがんに比べて患者さんの年齢が若く、年配の男性患者さんの前では話しづらい内容も多いため、乳がん患者に限定したサロンにしました。そして患者さんの希望もあり、初発および局所再発の患者さんのグループと、遠隔転移の患者さんのグループの2つの輪に分けています。

窓際にはお化粧のコーナーもありましたね。大沢:資生堂ライフクオリティービューティーセンターの竹内さんをはじめスタッフの方々のご協力をいただき、治療の副作用で抜けてしまった眉毛の描き方、副作用による黒ずみ等の肌色変化のカバー、爪の変化に対するケアなどのアドバイスを受けられるコーナーを設けることができました。このサロンを始めようと準備していた頃、がん患者さんの治療中の美容のお悩みについて勉強中だった竹内さんと知り合い、「精神的・肉体的負担の大きい治療を受ける患者さんが、美容サポートでその人らしさを取り戻すお手伝いができたら嬉しい。勉強中の私たちでよろしければ・・・」と、引き受けて下さったのです。メイクが終わると「わあ、きれい」と、ご自身も他の参加メンバーも気持ちがぱあっと明るくなるようで、悩みの解消と同時に心理面の効果があると実感します。「明日からは自分でもやってみようかな」など、前向きな気持ち

がよみがえるようで

眉の描き方をアドバイスする資生堂ライフクオリティービューティーセンターの サブマネジャー竹内裕美さん。

「医療機関内や医療者の同席のもと、がんと向き合っておられる患者さんの美容のお悩みを伺い、解決方法を患者さんと一緒に探索中です。」http://www.shiseido.co.jp/slqc/

Page 24: PiNK Fall 2009

す。室内には、医療用かつらや下着、備品などのサンプルや乳がんに関する情報を得られるコーナーも用意しています。

サロンでは、大沢さんはどのように関わるのですか?大沢:それぞれのグループが自由におしゃべりをして情報交換や交流の機会を楽しんでいただけば良いのですが、たとえば、皆に発言のチャンスがあるように気をつけたり、初めて参加する人をフォローしたり。医学的根拠・検証結果に乏しい治療法について一方的に話が展開していたらストップし、修正することもあります。でも、みなさんとても良く分かっている方が多いので、そういった場面は殆んどありません。参加者全員が来て良かったと思っていただけるように、ファシリテーターとしての目配りを心がけています。

一般の患者会と、このような院内の患者さん専用のサロンの違い・そのメリットは?大沢:乳腺の外来日に設定しているので、予約とタイミングが合えば立ち寄りやすいし、入院中でも参加できるということがひとつ。

「サロンで知り合いになったおかげで、その後外来待合室や化学療法室で会った際にお話しができるようになってうれしい」、「自分と同じ医師にかかっている患者さんとお話しをすることで、気になっていた医師の言葉などに対する不安が軽減したり疑問を解消できる」という声が多く寄せられます。

医師や看護師から勧められて参加する患者さんも増えてきて、医療従事者からは得られないピア・サポートを受けられる場として機能できているようです。

当院のHPを見て、通院先は違うが参加したいというお問い合わせを頂くのですが、院内サロンとして開催しているためお断りし、地域で活動している患者会を紹介しています。最近、自分たちの病院でも立ち上げたいと複数の病院からソーシャルワーカー、臨床心理士、看護師が見学に来てくださっているので、今後少しずつ広がっていくのかも知れませんね。

ホープツリーの活動はその後?大沢:当院の乳がん患者サロンに参加している転移患者さんとのやりとりが直接のキッカケで、ホープツリー有志による「乳がんの母親を持つ思春期の子どもの語らいの場」を開催しました。

私の乳がん仲間である友人が昨年の夏に

大学生のお嬢さんを遺して亡くなったのですが、そのお嬢さんから「中学の頃から、親ががんの友達なんて周りにいないだろうなと思ってすごく孤独だった。そういう話を今も友達としたことがないし、お母さんが死んだことも言ってない。」と聞き、アメリカのように、同じ経験をしている子ども同士が集まる機会を日本にも作りたいなと思いはじめていました。その後、サロンの患者さんから「自分の子どもが、『学校の友達には母親ががんであることなんか話せない』と言っている。でも子どもなりに葛藤はあると思う。『同じ立場の人と話がしてみたい』、『お母さんを亡くした人の話も聞いてみたい』という気持ちがあるようなので、そういう場を作れないだろうか?」との話しがあり、たまたまお子さん達の年齢が近かったので実現しました。まだまだ模索の段階ですから、当院のサロン参加者のお子さんに限定し、規模も小さく16~22歳の男女4名に参加してもらいました。想像以上にそれぞれが自然体で率直な発言で交流してくれて、「話せてよかった」「聞けてよかった」

「また集まりたい」という反応と笑顔をみることができました。今後も学校生活に差し障りのないゆるやかなペースで定例化していきたいと考えています。また他の友達には話しにくいことも、ここで知り合った仲間なら同じ経験をしている子ども同士という共通項があるので、ゆくゆくはアドレスを交換するなどして、支え合える仲間づくりの場にもなるかな、と思います。

今回はヤングアダルト層でしたが、より低い年齢の子どもになると子どもの発達段階の特徴に詳しいチャイルド・ライフ・スペシャリストなどの関与が必須なので、ホープツリーとして、医療機関の垣根を越えて、焦らず慎重に確実に、“同じ経験をしている子どもたちが安心できる場づくり”の可能性を模索していくつもりです。

今後に向けてひと言大沢:自ら乳がんを経験したこと、そしてたくさんの患者さんとお会いしてお話することで、患者さんの心の奥にある思いや治療行程で刻々と変化するニーズなどを知り理解することができるようになりました。そして、夫を亡くした経験により、命の終わりが近づいてきた患者さんと死について話したり、患者さんのご家族の気持ちを感じ取ったり、大切な人が亡くなった後に押し寄せるあらゆる感情の波の話などもごく自然に自分の言葉で交わすことができます。これからもその自

分を最大限活かすつもりで、1人でも多くの方のお役に立てるように努力します。

自分が辛かったとき、そのままの自分をただ受け止めて寄り添ってもらったことがどんなに救いだったかは忘れることが出来ないので、具体的に何もできないこともはもちろんありますが、患者さんやご家族の辛い時期に寄り添うことでちょっとでも安らかな気持ちになっていただければ幸せです。

ありがとうございました。

「HOPE TREE」 ~パパやママががんになったら~http://www.hope-tree.jp/

がんになった親を持つ子どもをサポートするために参考となる情報を提供するインターネットサイト。厚生労働科学研究費補助金 がん臨床研究事業「働き盛りや子育て世代のがん患者やがん経験者、小児がんの患者を持つ家族の支援の在り方についての研究」真部班(研究責任者:真部淳)のサポートを受け2009年3月オープン。

大沢 かおり東京共済病院 がん相談支援センター 医療ソーシャルワーカー、

「Hope Tree(ホープツリー)」 ~パパやママががんになったら~ 代表

1990年上智大学文学部社会福祉学科卒業。1991年3月より東京共済病院で医療ソーシャルワーカーとして勤務。 社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員の資格を持つ。9歳から5年間家族とニューヨークに住んでいたこともあり英語圏への旅行が趣味。

22 PiNK • fall 2009

Page 25: PiNK Fall 2009

世界最大のオンコロジーの学会

オンコロジー(腫瘍学)分野における世界最大の学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2009年年次総会が、5月29日~6月2日、米国フロリダ州オーランドで開かれました。建物の端から端まで約1マイル(1.6km)もあるような巨大な会議場に、世界100ヶ国以上から2万5千人以上のオンコロジスト

(がん専門医)や研究者が集まり、注目され

た臨床試験の結果や、最先端の研究成果が発表されました。

乳がん、肺がん、大腸がんなどのメジャーながんをはじめ、あらゆる種類のがんに関する臨床研究、さらには、患者やサバイバーのケアに関する研究など、選び抜かれた約2,400の演題がこの5日間で発表され、専門家の間で熱い議論が交わされました。オンコロジストにとっては年に1回の巨大イベントであり、この総会によって「がんの教科書が

書き換えられる」と言われます。医療従事者のみならず、最近は、患者やマスコミの関心も高まっています。ASCOの公式ウエブサイト(http://www.asco.org/)も充実しており、発表されたほぼすべての演題の動画やスライドを閲覧することが可能になっています。

日本国内では、ASCO開催直前の5月、新型インフルエンザの報道が過熱し、医師の海外渡航を制限する病院も多くあり、日本人医師の参加者は例年の3分の1程度に減ってし

米国臨床腫瘍学会(ASCO)2009報告「Personalizing Cancer Care」 ~がん治療の個別化~帝京大学医学部附属病院腫瘍内科 高野 利実 写真:Todd Buchanan

fall 2009 • PiNK 23

Page 26: PiNK Fall 2009

まいました。日本人以外ではこのような現象は起きていなかったようで、会場には例年通りの活気がありましたが、日本人に広がった

「風評被害」で、学術的な活動が制限されてしまったことは残念に思いました。

テーマは「個別化治療」

最近は、遺伝子やタンパク質など「分子」レベルでの解析が進み、同じ種類のがんであっても、分子レベルの性質の違いによって治療を使い分ける「個別化治療」が一般化しています。また、異なる種類のがんであっても、共通の「分子」が治療の標的として注目され、同じ「分子標的治療薬」が使われるような

「 ボーダーレス化 」もみられます。たとえば、乳がんの場合では、ホルモン受容体やHER2といった分子の発現状況によって、ホルモン療法、HER2を標的とする治療(トラスツズマブやラパチニブ)、抗がん剤治療が使い分けられています。また、HER2陽性乳がんの標準治療薬として幅広く使われているトラスツズマブが、HER2陽性の進行胃がんにも有効であることが、今年のASCO総会で発表され、注目を集めました。乳がんの専門家といえども、他の種類のがんの研究から学ぶことは数多くあり、このような学会で、異なる立場の専門家が一堂に会することの意義を強く感じました。様々な種類のがんを横断的に扱いながら、目の前の患者に最適な治療を提供できるような腫瘍内科医が今後ますます必要になってくると思われます。

今年のASCO総会のテーマは、「Personal-izing Cancer Care ~がん治療の個別化~」で、上記の「分子レベルの性質の違いによる治療の使い分け」のほかにも、がんの臨床症状、患者自身の状況(年齢や性別など)、患者の価値観、経済状況なども考慮した「個別化」の重要性が強調されていました。これまで、がん治療は、「より多く、より強く」薬剤を使用する方向で進歩してきたわけですが、ここ数年は、患者のQOL(生活の質)を考慮して、「無駄な治療は行わない」という方向への

「進歩」も模索されています。そして、その鍵になるのが「個別化治療」です。この背景には、高騰化の一途をたどる医療費の問題もあります。

このテーマを象徴する演題の一つが、全演題の中の第1番に選ばれた、卵巣がんの臨床試験です。この試験では、最初の化学

療法でがんがほぼ制御できた卵巣がん患者に対して、血液検査でCA125という腫瘍マーカーを定期的に測定する意義が調べられました。CA125の検査は、日本でも幅広く使われているもので、CA125が上昇すれば、再発を示唆するものとして化学療法が行われるのが一般的です。ところが、この試験の結果、CA125を定期的に測定し、再発を早くみつけて早くから化学療法を行っても、CA125の結果を見ずに、臨床的に再発が明らかになってから化学療法を開始する場合と比べて、生存期間が変わらないことが示されました。しかも、CA125を定期的に測定した群で、明らかにQOLが低くなっていました。再発の早期発見のためにCA125の検査をしてはいけない、というのがこの試験の結論です。「なんでもかんでも検査をした方がよい」「早期発見早期治療はすばらしい」と思われがちですが、自分が受けているその検査が、本当に自分のためになっているのかどうか、よく考えた方がよいのかもしれません。なお、乳がんで使われる腫瘍マーカー(CEAやCA15-3など)は、卵巣がんのCA125よりも感度が劣るとされており、ASCOのガイドラインでも、再発診断のために用いるべきではないと明記されています。

乳がんの注目演題

今年のASCO総会では、乳がん分野でも、いくつかの注目演題がありました。特に、新しい分子標的治療薬の臨床試験の発表が目立ちました。乳がんでは、ホルモン受容体、HER2によって治療の使い分けをしていることはすでに述べましたが、ホルモン受容体の陽性・陰性、HER2の陽性・陰性で分けられる4種類の乳がんは、成り立ちからして全く異なる

「別の疾患」と考えた方がよいのかもしれません。もはや、乳がん全体で治療方針を考えることはありえず、ここでも、いくつかの種類にわけて説明することになります。

HER2陽性乳がん:HER2を標的とする新しい薬剤が次 と々登場

最初は、分子標的治療薬の開発が最も進んでいる「HER2陽性乳がん」です。「HER2陽性乳がん」に対しては、抗HER2モノクロー

ナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン®)が標準治療として定着しています。最近では、HER2とEGFRのチロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブ(タイケルブ®)が日本でも承認され、トラスツズマブが効かなくなったあとに使われています。これら2剤に続く新しい分子標的治療薬の開発が現在進められており、いくつかの臨床試験の結果が今回発表されました。

トラスツズマブに抗腫瘍効果を持つDM1という薬剤を結合させたT-DM1には、トラスツズマブをしのぐ効果が期待されています。

抗HER2モノクローナル抗体Pertuzumabは、HER2の、トラスツズマブが結合するのとは異なる部位に結合し、HER2が仲間と結合して「二量体」となるのを阻害します。トラスツズマブとの併用による相乗効果が期待されています。

H E R 2とE GFRのチロシンキナーゼ阻害薬であるBIBW2992、および、HER2、 EGFR、HER4のチロシンキナーゼ阻害薬であるNeratinibは、ラパチニブとは異なる

「不可逆的な阻害薬」で、今後は、ラパチニブとの使い分けが議論されることになりそうです。

HER2陽性乳がんに対しては、このように多くの分子標的治療薬が登場しており、抗がん剤との併用、ホルモン療法との併用、分子標的治療薬どうしの併用など、様々な組み合わせも試みられています。どの薬を、どのように、どの順番で用いるのがよいのか、分子レベルの性質も調べながら検討していく必要があります。

HER2陰性乳がん:ベバシズマブの有効性を示した3つ目の臨床試験

分子標的治療薬があふれているHER2陽性乳がんと比べると、HER2陰性乳がんに対する分子標的治療薬の開発はあまり進んでいません。そんな中、抗VEGFモノクローナル抗体で、血管新生を阻害するベバシズマブ

(アバスチン®)が、HER2陰性乳がんに対して、着実に成果をあげつつあります。ベバシズマブがHER2陽性乳がんに対して(トラスツズマブとの併用で)効果があるかどうかを調べる臨床試験も行われていますが、新薬の開発が進んでいないHER2陰性乳がんを対象とする臨床試験が優先して行われてきたというのが実情です。ベバシズマブは、日

24 PiNK • fall 2009

Page 27: PiNK Fall 2009

本でも大腸がんに対する治療薬として承認されていて、肺がん、腎細胞がん、そして、乳がんでも承認に向けた準備が進められています。

HER2陰性の転移性乳がんに対するファーストライン治療として、これまで、パクリタキセルとベバシズマブの併用、および、ドセタキセルとベバシズマブの併用の有効性が示されていますが、今回のASCO総会では、タキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)のほかに、アントラサイクリン系抗がん剤を含む併用化学療法とベバシズマブの併用、および、カペシタビン(ゼローダ®)とベバシズマブの併用の意義を調べるRIBBON-1試験の結果が発表されました。タキサン系抗がん剤だけでなく、アントラサイクリン系抗がん剤やカペシタビンとの併用でも、ベバシズマブの上乗せによって、無進行生存期間が有意に延長するという結果で、転移性乳がんに対してベバシズマブ上乗せの有効性を示した3つ目の臨床試験となりました。併用する抗がん剤によって、ベバシズマブ上乗せ効果に違いがあることも示唆されており、今後は、抗がん剤との最適な併用方法や、ベバシズマブをいつまで続けるか、といった問題について臨床試験で明らかにしていく必要がありそうです。

また、ベバシズマブは、分子標的治療薬でありながら、効果が期待できる患者とそうでない患者を見分ける分子レベルの性質がはっきりしていないという問題があります。非常に高価な薬剤ですので、本当に使う意味のある患者にだけきちんと使えるように、分子レベルの「効果予測因子」の探索もしていかなければいけません。

トリプルネガティブ乳がん:PARP阻害薬が有望

ホルモン受容体(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)とHER2がすべて陰性である乳がんは、「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれ、乳がん全体の約10~15%を占めます。ホルモン受容体陰性のため、ホルモン療法の効果は期待できず、HER2陰性のため、HER2を標的とした分子標的治療薬の効果も期待できません。抗がん剤の効果は比較的高いとされていますが、抗がん剤が効かなかった場合の予後は不良です。そんなトリプルネガティブ乳がんの標準治療を書き換えるかもしれない新しい分子標的治療薬が登場しました。「PARP阻害薬」です。

親から子へと遺伝し、「家族性乳がん」の原因となる遺伝子に、BRCA1があります。B R C A 1 遺 伝 子 変 異を持って生まれた人の半数以上が乳がんを発症するとされていますが、BRCA1遺伝子が原因となって発 症した乳がん( B R C A 1 遺 伝 子 関連乳がん)の多くはトリプルネガティブ乳がんです。また、BRCA1遺伝子関連乳がんでは、BRCA1遺伝子によって作られるBRCA1タンパクがうまく働いていないこともわかっています。トリプルネガティブ乳がんのすべてがBRCA1遺伝子関連乳がんというわけではないのですが、BRCA1遺伝子が正常なトリプルネガティブ乳がんでも、BRCA1タンパクの働きが悪いことが多く、BRCA1遺伝子関連乳がんと似た性質を持っていることがわかっています。ややこしい説明になってしまいましたが、要するに、「トリプルネガティブ乳がんは、BRCA1タンパ

クの働きが悪い」ということです。細胞中のDNAは、様々な要因で傷つきな

がらも、様々な修復のしくみがあるおかげで正常な機能を維持しています。この修復のしくみで重要な働きをしているのが、BRCA1、 そして、PARPです。この2つのうち、どちらかでも機能していればDNAは修復されますが、両方とも働かない状況になると、DNAは修復不可能となり、細胞は死んでしまいます。トリプルネガティブ乳がんに対してPARPを働かなくするPARP阻害薬を用いれば、BRCA1の働きがもともと悪い乳がん細胞だけを選択的に殺すことができるはずです。さらに、DNAを傷害するタイプの抗がん剤を併用すれば、効果が相乗的に高まることが期待できます。

今年のASCO総会では、PARP阻害薬を用いた2つの臨床試験結果が報告されました。一つ目は、トリプルネガティブの転移性乳がんに対する治療として、抗がん剤のカルボプラチン+ゲムシタビンに、PARP阻害薬のBSI-201を上乗せする意義を調べた臨床試験です。BSI-201の上乗せによって、奏効率が16%から48%に、無進行生存期間中央値が3.3ヶ月から6.9ヶ月に、生存期間中央値が5.7ヶ月から9.2ヶ月に改善していました。この試験は、第II相試験であるため、延命効果について確証が得られたわけではありませんが、有望な薬剤であることは間違いなさそうです。二つ目の臨床試験は、BRCA1

(または、BRCA2)遺伝子変異のある乳がんを対象に、PARP阻害薬のOlaparibを単剤で用いた第II相試験で、単剤でも有望な結果が示されました。今後の第III相試験の結果が期待されます。

1998年東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、東京大学医学部附属病院内科および放射線科・総合腫瘍病棟で研修。2000年より東京共済病院呼吸器科に所属し、乳がん・肺がんの薬物治療を担当。2002年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。2005年、肺がんにおけるゲフィチニブ(イレッサ)の効果予測因子に関する研究で米国臨床腫瘍学会Merit Awardと世界肺癌会議Young Investigator Awardを受賞。2005年6月に東京共済病院に戻り、念願の「腫瘍内科」を開設。2008年2月より帝京大学医学部附属病院腫瘍内科・帝京がんセンターの講師となり、現在に至る。

Human-Based Medicine (HBM; 人間の人間に拠る人間のための医療)を掲げ、乳がん・肺がんを中心とした固形がんの薬物療法と緩和医療に取り組んでいる。日本臨床腫瘍学会「がん薬物療法専門医」。個人ホームページはhttp://homepage2.nifty.com/toshimitakano/

高野利実(たかのとしみ)帝京大学医学部附属病院  腫瘍内科・帝京がんセンター講師

fall 2009 • PiNK 25

Page 28: PiNK Fall 2009

THE W

AR RO

OM

商品名、購入点数、お名前住所などの必要事項をご記入のうえ、メールまたはファックスでお申し込み下さい。 代金は、下記の銀行口座に振り込みをお願いいたします。 *恐れ入りますが振り込み手数料は各自ご負担下さい。

ピンクリボンピンバッチ¥ 1,500

RFTC ピンバッチ¥ 400

2005年

ラン・フォー・ザ・キュアファンデーションは、Run for the Cure®/Walk for LifeイベントのオリジナルT-シャツに、ニューバランスジャパンの協賛をうけています。

2008年版  Junko Koshino デザイン

2006年版 2005年版

RFTC オリジナル Tシャツ¥ 1,000

ピンクリボンチャーム¥ 2,300 (2個セット)

ピンクリボンピアス¥ 2,500

RFTC 携帯ストラップ¥ 300 ←値下げしました

ネックレス (40~45cm)

¥ 2,500

RFTC キャップ¥ 1,500

ピンクバンド¥ 300

POWERbreathe PLUS(ピンク) ¥ 12,800

ラン・フォー・ザ・キュアファンデーションでは、さまざまなオリジナル商品などを販売しています。

Products

キュービック・ジルコニア入り ブックマーク¥ 3,465

E-mail: [email protected] Tel:03-3466-4798 Fax:03-3466-4799 www.runforthecure.org

お支払い銀行口座:  三菱東京UFJ銀行 渋谷支店 普通 3609116 トクテイヒエイリカツドウ ホウジン ランフォーザキュアファンデーション

RFTC エコバッグ¥ 500

K18WG ダイヤモンドペンダント 0.25ct サイズ:1.7cm×1.0cmチェーン長さ:44cm

(フリーアジャスター付き)

151,200円

K18WG ダイヤモンドピアス 0.24ct サイズ全長:1.1cm×0.9cm120,000円

ピンクマンス限定価格

ピンクマンス限定価格

26 PiNK • fall 2009

Page 29: PiNK Fall 2009

THE W

AR RO

OM

WAR ROOM NEWS 1がん罹患率は減少を

続けている

37 乳房インプラントの

最新情報

32

乳がん治療の進歩

28

WAR ROOM NEWS 2BRCA遺伝子変異の有無に

かかわらず、乳がんの家族歴が あると乳がんリスクが高い

38

心を伝えるTHE WAR ROOM

Page 30: PiNK Fall 2009

乳がん治療の進歩~2008年サンアントニオ乳がんシンポジウムの報告~

Kari Bohlke, ScD

2008年12月10~14日に開催された第31回サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)に、何千人もの科学者、医者、患者支援者らが集まり、乳がんの予防、検診、治療、治療後ケアに関する最新の研究成果を議論しました。今回のシンポジウムで発表された重要な研究として、HER2陽性乳がん、ホルモン療法、再発リスク予測、乳がん発症危険因子、骨転移治療薬による乳がん治療効果の改善などに注目が集まりました。

28 PiNK • fall 2009

Page 31: PiNK Fall 2009

HER2陽性乳がんの話題

乳がんの20~25%は、HER2と呼ばれるタンパク質を過剰発現しています。HER2が過剰発現していると、がん細胞の増殖が促進され、乳がんの予後が悪くなります。幸いなことに、HER2陽性細胞を狙い打ちにする薬が開発され、近年、HER2陽性乳がんの予後は改善しています。

○腫瘍サイズが小さいHER2陽性乳がん腫瘍サイズの小さい(1cm未満)HER2陽性乳がんに対するHER2標的治療の必要性については、まだ明確な答えは出されていません。小さい腫瘍がどういう経過をたどるのかを知るため、研究者たちは、腫瘍サイズが小さく、HER2標的薬や抗がん剤による治療を受けなかった乳がん患者965人の記録を調べました。その結果、5年が経過した時点で、HER2陰性乳がん患者の再発率は6%にとどまったのに対し、HER2陽性乳がん患者では23%が再発していたことがわかりました。この研究により、たとえ小さい腫瘍であっても、HER2陽性乳がんでは再発リスクが高いことが示唆されました。腫瘍のサイズにかかわらず、すべてのHER2陽性乳がん患者に対して、HER2標的薬による術後治療を考慮するべきなのかもしれません。ただし、この研究は、腫瘍サイズの小さい乳がんに対するHER2標的治療の効果を直接評価したものではありませんので、HER2標的治療が必要だと結論することはできません。

○ラパチニブとレトロゾールの同時併用レトロゾールLet rozo l e (フェマーラ® Femara®)は、アロマターゼ阻害薬と呼ばれるホルモン療法の一種です。ラパチニブLapatinib(タイケルブ®Tykerb®)

は、乳がん細胞において異常なはたらきをすることの多い2つのタンパク質(HER2とEGFR)を標的とする薬です。ホルモン受容体陽性の転移性乳がんに対する最初の治療として、ラパチニブとレトロゾールの同時併用の有効性を評価するため、1,286人の閉経後乳がん患者を対象とする第III相試験が行われました。この試験に参加した患者は、レトロゾール単独、または、レトロゾール+ラパチニブ同時併用のいずれかの治療を受けました。HER2陽性乳がん患者に限った解析では、レトロゾール+ラパチニブ同時併用治療を受けた患者の無進行生存期間は8.2ヶ月であり、レトロゾール単独治療を受けた患者の無進行生存期間(3.0ヶ月)よりも明らかに長くなっていました。この研究により、ラパチニブ+レトロゾール同時併用療法を行えば、HER2陽性かつホルモン受容体陽性の転移性乳がんの進行を遅らせられることが示唆されました。

○トラスツズマブ術前治療トラスツズマブTrastuzumab(ハーセプチン®Herceptin®)は、HER2陽性乳がんの予後を改善することが証明されているHER2標的薬ですが、術前治療に用いることの意義については十分に確立していません。術前化学療法にトラスツズマブを同時併用することの意義を評価するため、HER2陽性局所進行乳がん患者228人を対象とする第III相試験が行われました。この試験に参加した患者は、半数ずつに分けられ、一方の群には術前化学療法のみが行われ、もう一方の群には術前化学療法とトラスツズマブの同時併用が行われました。3年が経過した時点で再発や進行がみられなかった患者の割合は、術前化学療法とトラスツズマブの同時併用が行われた群で70.1%、術前化学療法の

みが行われた群で53.3%でした。この研究により、HER2陽性局所進行乳がんでは、術前化学療法にトラスツズマブを加えることで治療成績が改善することが示唆されました。

ホルモン療法

ホルモン受容体陽性乳がんに対する治療の中心となっているのがホルモン療法です。ホルモン療法は、女性ホルモンであるエストロゲンのはたらきを抑えたりブロックしたりします。代表的なホルモン療法として、タモキシフェンtamoxifen(ノルバデックス®

Nolvadex®)やアロマターゼ阻害薬があり ます。タモキシフェンは、エストロゲン受容体をブロックすることで効果を発揮します。アロマターゼ阻害薬は、閉経後女性のエストロゲン産生を抑制することで効果を発揮します。

○アロマターゼ阻害薬によって 治療成績が向上これまでに発表されている研究結果をまとめて解析することで、閉経後早期乳がん治療におけるアロマターゼ阻害薬とタモキシフェンの有効性が比較されました。いくつかの研究では、5年間のアロマターゼ阻害薬内服と5年間のタモキシフェン内服が比較され、別のいくつかの研究では、2~3年間タモキシフェンを内服したあとでアロマターゼ阻害薬に切り替えることの有効性が評価されました。どちらのタイプの研究においても、乳がん再発の危険性は、アロマターゼ阻害薬を使った方が、タモキシフェンのみを使うよりも低くなっていました。

fall 2009 • PiNK 29

Page 32: PiNK Fall 2009

○タモキシフェンの作用に遺伝子の影響薬理ゲノミクスとは、各個人が生まれつき持っている遺伝子配列の違いが、薬剤の作用にどのように影響を及ぼすかを明らかにする研究のことです。タモキシフェンの場合、CYP2D6という遺伝子がその作用に影響を及ぼすと報告されています。CYP2D6はタモキシフェンなど多くの薬剤の作用を左右する薬物代謝酵素の遺伝子です。ほとんどの人は、この遺伝子の正常に機能する2種類のバリエーションのどちらかを持っており、タモキシフェンをきちんと効果をもたらす形に変化させることができます。ところが、一部の人は、この遺伝子の別のバリエーションを持っていて、タモキシフェンを効果をもたらす形にうまく変化させることができず、タモキシフェンの効果を引き出せない可能性があります。

CY P 2 D 6のバリエーションの影 響について、閉 経 後のエストロゲン受 容体 陽 性 乳がん患 者を対 象に研 究が 行われました。この研 究に参 加した患 者は、CYP2D6遺伝子バリエーションの検査を受け、タモキシフェンの効果を引き出す代謝能力別に「高」「中」「低」の3段階に分けられました。タモキシフェンの効果は、

「高」代謝能力の患者で最も高いことが予想されました。

解析の結果、乳がん手術後にタモキシフェンを5年間使用した患者のうち、「低」代謝能力の患者では、「高」代謝能力の患者と比べて、約4倍の確率で乳がんの再発をきたしやすいことがわかりました。「低」代謝能力の患者で再発の危険性が高いということは、CYP2D6の特定のバリエーションを持つこれらの患者にはタモキシフェンが効きにくいことを意味します。そういう患者には、別の治療法を検討する必要がありそうです。

○乳房組織密度の変化がタモキシフェンの効果と相関乳房組織密度とは、乳房内の乳腺組織や結合組織が存在する密度のことです。乳腺組織や結合組織が多くて脂肪が少ない乳房のことを「乳房組織密度が高い」と表現します。乳房組織密度が高い女性は乳がんになる危険性が高いとされています。乳房組織密度はマンモグラフィ(乳房X線撮影)で調べることができます。

乳がん発症予防のためにタモキシフェン内服が有効であることを示した臨床試験のデータを細かく解析したところ、タモキシフェンによって乳がん発症の危険性が最も大きく減少したのは、タモキシフェン内服中に乳腺組織密度が低下した女性であったということがわかりました。反対に、タモキシフェン内服中に乳腺組織密度があまり減少しなかった女性では、乳がん発症の危険性は、タモキシフェンを使用しなかった女性と同じ程度でした。研究者たちは、タモキシフェン内服開始後12~18ヵ月で乳腺組織密度がどのように変化するかを調べることで、タモキシフェンで乳がん発症予防効果を得られる女性を見分けられるかもしれないと結論しています。

乳がん再発危険性の予測

Oncotype DX®は、リンパ節転移のないエストロゲン受容体陽性早期乳がん患者の再発リスク、化学療法の効果、生存期間を予測できることが実証されている遺伝子検査です。Oncotype DXは、患者の乳がん組織から抽出した21個の遺伝子の活動性を評価し、その患者の「再発スコア」を点数化する検査です。再発スコアは0点から100点までの点数で、点数が高いほど再発の危険性が高いことを意味します。Oncotype DXは米国のいくつかの保険会社がカバーしており

(訳注:日本では保険適応にはなっていません)、いくつかの早期乳がん治療ガイドラインでもこの検査が推奨されています。

Oncotype DXをより幅広い範囲の患者に使う意義を評価するため、研究者たちは、ATACという臨床試験に参加した1,231人の患者でこの検査を行いました。ATAC試験は、ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者を対象に、タモキシフェンと、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールanastrozole(アリミデック®Arimidex®)の2種類のホルモン療法を比較した試験です。

9年以上の追跡期間での遠隔転移の情報を解析したところ、リンパ節転移のある患者もない患者も、アナストロゾール群でもタモキシフェン群でも、Oncotype DXの再発スコアが高いほど遠隔再発の危険性が高くなっていました。遺伝子検査で再発の危険性を知ることは、その後の治療法選択に役立つかもしれません。

乳がん発症危険性が高いのは誰?

今回のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された研究により、2つの乳がん発症危険因子(閉経後女性のホルモン補充療法の使用と、正常乳腺組織)について新たな情報が加わりました。

○エストロゲン+プロゲステロン製剤の使用

エストロゲンとプロゲステロンの併用によるホルモン補充療法を受けることで、閉経後女性の乳がん発症リスクが高まることは、すでに、ウィメンズヘルスイニシアティブ Women’s Health Initiative (WHI)の臨床試験結果よって示されています。その 後 、W H I 臨 床 試 験 の 最 新 デ ータと、WHIで別に取り組まれていた観察研究データを用いて、エストロゲン+プロゲステロン併用療法と乳がん発症リスクとの関係がさらに細かく解析され、今回のシンポジウムで、その結果が発表されました。今回の解析でも、エストロゲン+プロゲステロン併用療法を受けていた女性は、受けていなかった女性よりも高い確率で乳がんに罹患していたことが確認されましたが、ホルモン補充療法で高くなっていた乳がん発症リスクは、治療を中止することで、明らかに、かつ、極めて速やかに減少していました。

この解析結果は、米国における最近の乳がん罹患率減少が、閉経後ホルモン補充療法を受ける女性の減少によるものだという説を支持するものです。

別の研究では、乳がんと診断される以前のホルモン補充療法使用が、乳がんの予後にどの程度影響しているかが解析されました。この研究によると、乳がんと診断されるより以前にエストロゲン+プロゲステロン併用療法を受けていた患者では、乳がんで死亡する確率が47%も低くなっていました。この結果は、エストロゲン+プロゲステロン併用療法を受けている女性に発生する乳がんが、閉経後ホルモン補充療法を受けたことのない女性に発生する乳がんと比べ、致命的とはなりにくいことを示唆しています。しかし、致命的になりにくいとはいえ、エストロゲン+プロゲステロン併用療法が乳がん発症のリスクを高めるという事実は肝に銘じておく必要があります。

30 PiNK • fall 2009

Page 33: PiNK Fall 2009

○良性乳房疾患良性乳房疾患とは、がんとは異なる乳腺組織の変化のことで、いくつかの種類があることが知られています。良性乳房疾患は、

「異型性増殖 (atypical hyperplasia)」 「異型性のない増殖性疾患」「非増殖性疾患」の3つに分類されます。異型性増殖では、乳管や乳房小葉の細胞数が増加し、顕微鏡下で細胞形態や細胞配列の異常が確認できます。異型性のない増殖性疾患では、細胞数が増加している点は同じですが、細胞の形態や配列は正常です。非増殖性疾患では、乳腺内に線維嚢胞性変化が生じていますが、細胞数の増加はありません。

50才以下の女性における良性乳房疾患と乳がん発症との関係を調べるため、良性乳房疾患と診断されていた4,000人以上の女性の情報が解析されました。2%が異型性増殖、26%が異型性のない増殖性疾患、72%が非増殖性疾患と診断されていた女性でした。

20年の経過観察期間の間に、326人の女性が乳がんと診断されました。異型性増殖と診断されていた女性において乳がん発症リスクが最も高く、異型性のない増殖性疾患と診断されていた女性がそれに次いでいました。一般的な女性と比較して、乳がん発症リスクは、異型性増殖と診断されていた女性で6倍以上、異型性のない増殖性疾患と診断されていた女性で約2倍になっていました。非増殖性疾患と診断されていた女性における乳がん発症リスクは、一般的な女性と比べてわずかに高い程度でした。

骨の薬による治療効果が 引き続き示された

○術前化学療法にゾレドロネートを併用ゾレドロネートzoledronic acid(ゾメタ® Zometa®)は、進行がんの骨転移、および、がんに伴って生じる高カルシウム血症

(血中カルシウム濃度が高くなる状態)に

対する治療薬として使われるビスフォスフォネート製剤の一つです。最近の研究では、ゾレドロネートに直接的な抗腫瘍効果があるのか、ゾレドロネートによって早期乳がん治療で生じる骨塩量低下を予防できるか、といった点に焦点が当てられています。

局所進行乳がんを対象に、術前化学療法のみを受ける群と術前化学療法にゾレドロネートを併用する群とを比較する臨床試験が行われました。術前化学療法のみを受けた患者と比べて、術前化学療法にゾレドロネートを併用した患者において、より高い腫瘍縮小効果が認められました。治療後の腫瘍サイズの中央値は、ゾレドロネートを併用した患者で20.5mm、ゾレドロネートを使わなかった患者で30 mmでした。研究者たちは、術前化学療法に併用することで、ゾレドロネートが乳がんに対する直接的な抗腫瘍効果を発揮した可能性があると結論しています。

○ゾレドロネートは、レトロゾール治療中の患者の骨塩量低下を防ぐレトロゾールなどのアロマターゼ阻害薬は乳がん再発のリスクを減少させる一方で、骨塩量低下にも関係しています。レトロゾール治療を受けている女性において、ゾレドロネートがどの程度骨塩量低下を防げるのかを評価するため、ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者を対象に第III相試験が行われました。ゾレドロネートによる治療をすぐに受ける群(早期治療群)と、骨塩量低下や骨折をきたしたあとにはじめて治療を開始する群(発症後治療群)とが比較されました。

3年の経過観察期間で、腰椎や股関節の骨塩量が、早期治療群では増加していたのに対し、発症後治療群では減少していました。無病生存期間(がんの再発や新たながんの発症をきたすことなく生存している期間)も、早期治療群で長くなっていました。骨折リスクは、両群でほぼ同程度でした。レトロゾール治療を受ける女性においては、ゾレドロネートによる治療を早

期から受けることによって、骨塩量や無病生存期間が改善すると結論されています。

○転移性乳がんおよび早期乳がんにおけるデノスマブデノスマブdenosumabは、RANKリガンドというタンパク質を標的とする新薬です。RANKリガンドは、破骨細胞(骨を破壊する細胞)のはたらきを制御します。閉経後の骨粗鬆症患者、ホルモン療法中のがん患者など、様々な状況において、デノスマブによる骨塩量低下予防効果の検証が進められています。がん患者においてデノスマブが骨転移を遅らせることができるかどうかについても研究されています。デノスマブは、アメリカ食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)に対して、承認申請が出されているところです。今回のサンアントニオ乳がんシンポジウム

では、骨転移を有し、骨吸収マーカーが上昇している患者におけるデノスマブの効果を評価する第II相試験の結果が発表されました。この試験に参加したすべての患者は、すでに、ビスフォスフォネートという別の種類の骨転移治療薬による治療を受けていて、ビスフォスフォネート治療を続ける群と、デノスマブ治療に切り替える群とに割り付けられました。乳がんの46例に限った解析の結果、ビスフォスフォネート治療を続けた群では、骨吸収マーカーの減少が認められた割合が33%にすぎなかったのに対し、デノスマブ治療に切り替えた群では76%に骨吸収マーカーの減少が認められました。骨転移を有し、骨吸収マーカーが上昇し、すでにビスフォスフォネート治療が行われたことのある乳がん患者において、デノスマブが有効であることが示唆されます。

早期乳がん患者におけるデノスマブ治療の臨床試験結果も、今回のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されました。これにより、アロマターゼ阻害薬治療を受けている乳がん患者において、デノスマブが骨塩量を改善させるという新たなエビデンスが加わりました。

fall 2009 • PiNK 31

Page 34: PiNK Fall 2009

乳 房 イ ン プ ラ ン ト の最 新 情 報乳房インプラントが脚光を浴びて50年、いろいろな議論を巻き起こしてきました。時に論争を呼ぶこの話題について、最新情報をお伝えします。

Juliana Hansen, MD/医師

32 PiNK • fall 2009

Page 35: PiNK Fall 2009

乳房インプラント乳房インプラントは、初めて医療現場に登場してから約50年の間に、賞賛され、禁止され、 改良され、充填剤が変更され、広く研究されてきました。大企業の倒産の原因となり、42億ドルに上る賠償請求の対象となり、豊胸手術の柱となり、いまや乳房再建術の必需品となっています。つねに多くのニュース、訴訟、迷信、何百万人もの満足した顧客を生み出してきたのが乳房インプラントなのです。

半世紀で得た乳房インプラントの教訓とは?乳房インプラントを検討中の 女性は今、何を知っておくべきなのでしょうか?まずは、迷信を払拭することから始めましょう。

迷信

1 インプラントで、がんになる。これは間違いです。 乳房インプラントは、がんを引き起こしません。

2 インプラントで、病気になる。これも間違いです。 乳房インプラントは、その他の病気の原因にもなりません。

3 インプラントをしている女性は、 授乳してはいけない。

これも間違いです。 授乳中の赤ちゃんも、母親も、危険にさらされることはありません。

4 インプラントは、危険だ。間違いです。 どの手術にも合併症が起きる可能性があり、 資格のある医師によって行われるべきですが、 乳房インプラントが本質的に危険だということはありません。

fall 2009 • PiNK 33

Page 36: PiNK Fall 2009

はじめに乳房インプラントの話は、まさにシリコンから始まります。人体の組織とも相性が良く比較的不活性な物質として、長年にわたり認知されてきました。シリコンは様々な形に加工でき、最終製品は硬いゴム状から液体までいろいろあります。

シリコンは、体に埋め込まれる多くの医療器具に使用されています。たとえば泌尿器関係のインプラント、人工関節、中心静脈ポート(訳注:上大静脈などの太い静脈に留置したカテーテルに点滴を送り込むため皮下に埋め込む器具)などがあります。その他、注射器のように汎用されている医療器具の中にもシリコンが使われています。美容整形への適用は、豊胸手術に使用するための開発から始まりました。

1950年代に豊胸手術を望むと、液体シリコンを臆することなく直接胸に注入する外科医に出会ったかもしれません。当時は私たちが現在知っている形のインプラントが登場する前で、この形式の豊胸手術は向こう見ずだったと判明するのはその後のことです。乳房組織に直接注入された液体シリコンは、炎症反応をあおり、中には損傷を受けた組織をすべて取り除くため、乳房切除術を受けた女性もいたのです。

この初期の方法は、液体シリコンについてそれまで知られていなかった情報を私たちにもたらしてくれました。つまり、液体シリコンを乳房組織へ直接注入すれば炎症を引き起こす、ということです。こういった初期の試みの失敗にもかかわらず、より安全な方法でこの物質を使いたいという想いから、最初の乳房インプラントのデザインが生まれました。

技術の発展現在の乳房インプラントは、薄くて柔軟なシリコンの外層がシリコンジェルの詰め物を包んでいます。外層が充填剤のジェルを内側に留め、ジェルと乳房組織が直接接触しないよう防ぎます。しかし、インプラントの開発者が考案したのは、安全で有効なこのモデルだけではありませんでした。第一世代のインプラントが発売された1963年以来、様々な種類のものが作られ、外層にも充填剤にも様々な種類がありました(充填剤の候補として植物油も研究されたが、悪臭を放つことが分かり断念された)。

最終的に、シリコンと同等の性能を示す充填剤は他にはありませんでした。世界中の何百万もの女性が、豊胸や再建のために選んだのが、シリコン製のものだったのです。

議論と論争1980年代、医学雑誌に、シリコンインプラントの挿入術を受けた女性に関節リウマチ、線維筋痛症、強皮症、狼瘡(ろうそう)などの自己免疫疾患が多くみられるという論文が数多く掲載されました。インプラントから漏れ出したシリコンジェルが、体全体に広範な反応を引き起こしているということを理論づけるような因果関係の仮説も示されました。

メディア、人身傷害専門の弁護士、しまいには政府の監督官庁までもがこれらの報告に非常に強い関心の目を向けました。

そして1990年、Connie Chung氏のテレビ番組「Face to Face」で、シリコンインプラントと自己免疫疾患とを関連づける報道がなされ、一気に訴訟熱に火がつきます。当時のインプラント最大手ダウコーニング社

は、免疫系障害を理由に申し立てられた訴訟で、730万ドルという驚くべき損失を被りました。

1992年1月、米国食品医薬品局(FDA)は健康への影響についてさらに研究する必要があるとし、シリコンジェルのインプラントを任意で一時停止にしました。数か月後、一時停止の措置が解除され、特定の緊急性基準に該当する場合にはシリコンインプラントの使用が許可されるようになりました。しかし、その使用許可は臨床研究実施計画書に基づく場合に限られ、インプラントを行う外科医はみな、臨床研究分担医師として登録されていなければなりませんでした。

同年、13,000件以上の申し立てを含む集団訴訟が提訴され、42億ドルの賠償金が支払われました。ダウコーニング社は1998年に倒産します。

1 9 9 9 年 、米 国 議 会 は 米 医 学 研 究 所(Institute of Medicine, IOM:保健政策に関して助言する民間の非営利機関)に協力を求めました。IOMは13人の科学者からなる委員会を立ち上げ、シリコンインプラントに関連する現存データをすべて精査しました。そして厳密な精査の結果に基づきIOMは、シリコンインプラントと病気との間に直接的な因果関係はないとする報告書を発表しました。

その報告書には次のようなことが明確に記載されています。「シリコン製の乳房インプラントをしている女性の病気リスクは上昇しない」「乳がんリスクが上昇するという根拠はない」「授乳しても子供に影響はない」「インプラントによって新たな自己免疫疾患が引き起こされるという根拠もない」

また、乳房インプラントと自己免疫疾患との相関については、次のことが明らかになりました。自己免疫疾患にかかりやすいのは若

34 PiNK • fall 2009

Page 37: PiNK Fall 2009

い女性であり、乳房インプラントを受ける割合が高いのも同じく若い女性です。この2つの大きな集団は、かなりの部分で重なり合っています。すなわち、自己免疫疾患と診断される女性の中には、たまたま乳房インプラントをしている人も多いということです。自己免疫疾患と診断される女性(と男性)の中には、たまたま乳房インプラントをしていない人もまた多くいます。

IOMが報告書を出したのが1999年6月で、その7年後の2006年11月にFDAは、シリコンインプラントの禁止を解除しました。もっともらしいと思われていたことが、偶然の一致だと分かったのです。

科学的お墨付きを得て、シリコンインプラントの疑いは晴れました。その時から、22歳以上の女性なら誰でもシリコンインプラントを使用できるようになりました。インプラントの長期的影響を追跡調査するため、患者は引き続き臨床研究に参加し続けています。さらに、新世代シリコンインプラントの研究も現在進められています。

今日のインプラント現在2種類のインプラントがあります。シリコンインプラントと生理食塩水インプラントです。両方とも外層はシリコン製で、柔軟性がある固体状のシリコンの薄い層で作られています。2種類のインプラントの違いは充填剤です。シリコンインプラントではシリコンジェルが充填され、厚みがありパン生地のように均一に圧搾されています。生理食塩水インプラントには食塩水が入れられ、水風船のような感触があります。

両者とも幅広く利用されており、それぞれに利点があります。シリコンインプラントは自

然な感触があり、人体組織ともうまく融合します。生理食塩水インプラントには、シリコンジェルのような漏れの心配がありません。そのため定期検診や交換も推奨されていません。22歳未満の女性にも使用が許されている唯一のインプラントです。生理食塩水インプラントだけがどの年齢の女性にも許され、シリコンインプラントが禁止されている間でさえもずっと利用することができました。

両方とも、大きさ、直径、形に様々なものがあります。表面の質感がサラサラなものとザラザラなものがあり、円形のものと、先端が細く底に厚みのある「解剖学的」形状のものがあります。外科医は、実際にインプラントを手にとってみた感触で、患者に最も良い結果をもたらし合併症の可能性も少ないと感じるものを好む傾向があるようです。

起こりうる合併症インプラントの漏れや破損について、どのようなことが分かっているのでしょうか?

インプラントは、挿入されてからの時間が長いほど漏れや破損を起こしやすくなります。破損に影響する要因にはインプラント挿入時にかかる圧力、インプラント周囲に生じる瘢痕化(はんこんか:火傷や外傷・潰瘍などの治ったあとに傷あとができること)、インプラント表面のしわ(弱い部分ができる)、胸への強い外圧や外傷などがあります。

シリコンインプラントでは、漏れていることがはっきりわからない場合もあります。医師はそのようなケースを「静かな破損」と呼んでいます。漏れの兆候を見つけるためにMRIによる検診を行ったところ、3年間でインプラント破損が生じる割合は豊胸手術を受けた患者で0.5%、再建術を受けた患者で0.9

%でした。一部の女性は、破損に伴いインプラントを取り囲む結節、脇の下のしこり、乳房の外観の変化、乳房の硬直、ヒリヒリ感、炎症、無感覚などの症状を経験します。今までのところ、複数の研究結果により、漏れが発生した場合の問題は乳房やその近くのリンパ節などの局所に留まることがわかっています。

破損を疑うような症状があれば、身体所見診断や画像診断(おそらくMRIまたは超音波検査)などの診察を受けるべきでしょう。破損が確認されれば、インプラントは取り除いて交換する必要があります。現在、シリコンインプラントについては、破損を調べるために定期検診を受けることが推奨されています。FDAのガイドラインでは、術後3年で最初のMRI検査を受け、以後2年ごとにMRI検査を受けるよう推奨しています。また、10年ごとに予防的にインプラントを交換することも推奨しています。これらの推奨が、漏れを監視し、インプラント破損に伴う合併症を防ぐための最善の方法であるかどうかは、まだはっきりしていません。

生理食塩水インプラントは、破損をきたしたときの事情がシリコンインプラントとは異なります。漏れが生じると体が素早く安全に食塩水を再吸収し、インプラントの収縮が明らかになります。たとえば柔らかくなったり、膨らみがなくなったり、完全に収縮して平らになったりするのです。こういった場合、健康に関して心配はありませんが、できるだけ早い時期に破損したインプラントを取りかえる手術を受けたほうが良いでしょう。

どちらのタイプのインプラントでも、通常、その周囲に瘢痕(はんこん)組織の被膜ができます。瘢痕組織が厚くなりインプラントを締め付けると、被膜拘縮(ひまくこうしゅく)と呼ばれる状況が生じます。この状態自体

fall 2009 • PiNK 35

Page 38: PiNK Fall 2009

は危険ではないのですが、インプラントの形や外観が変化し硬化する原因になります。深刻な例では、被膜拘縮から不快感が生じ、 インプラントを修復するか、取りかえるために再手術が必要となることもあります。

 インプラントをした女性はその結果に大いに満足する傾向がありますが、インプラントは一般に、一生使える器具ではないことを覚えておくべきでしょう。挿入の後、ある時点で再び手術が必要になることがよくあります。

 ある大規模研究によると、初めて豊胸手術を受けた女性の15%が3年以内に再手術を受けています。再手術の理由で最も多かったのはインプラント周囲の瘢痕を治療するためで、2番目に多かった理由がインプラントの大きさや形の変更でした。乳がん手術後の乳房再建のためにインプラント手術を受けた女性では、27%が3年以内に再手術を受けています。その最大の理由は、非対称性を解消するためでした。

頼るべきは、安全な医療と正確なデータシリコンインプラントの歴史を通して強調すべきことは、センセーショナリズム(扇情主義)、憶測、訴訟の広がりに動揺することなく、事実と科学的根拠とに基づく医学的な意思決定と保健政策を進めていくことの重要性です。

また、医学の革新的な技術を安全に活用していくことも重要です。インプラントを考えている女性は、評判がよく、形成外科の訓練をきちんと受けていて、当面の医療だけでなく長期の経過観察もきちんと行ってくれるような外科医をしっかり探すべきでしょう。

乳がん経験者のために乳がん経験者にとって、乳房再建の選択肢はいろいろあります。あなたの担当外科医や担当スタッフと、あなたの状況に合った最善の選択肢について充分に話し合ってください。乳房再建にインプラントを考える場合に知っておくべきことを以下に示します。

1. 放射線治療後の場合、再建のためにインプラントのみを行うというのは、よい選択肢ではないかもしれません。放射線は、外科手術後の皮膚の創傷治癒能力に影響を与え、皮膚の硬化、突っ張り感を生じ皮膚のしなやかさを失わせることがあります。

2. 乳房インプラントは、両側の乳房を再建する女性にとても有効です。両側乳房の材質が同じであれば、対称性を保つのがより容易になります。

3. 一方の乳房だけを再建する際、対称性を保つために、反対側の乳房も手術することが推奨されます。反対側の乳房には、乳房縮小術、たるみの除去、インプラントによる豊胸手術などが検討されます。

4. 乳房インプラントをしていても、マンモグラフィは安全に行えます。15年以上経過した古いシリコンインプラントは、損傷のリスクが高くなります。

5. インプラントを挿入している場所へ放射線治療を行うと、徐々に乳房の外観や感触に変化が生じるかもしれません。

6. インプラントは一生ものの器具ではないため、インプラントで再建された乳房の外観や自然な感触を保つために、何度か手術を繰り返すことが推奨されます。

36 PiNK • fall 2009

Page 39: PiNK Fall 2009

2008年11月25日に、ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティテュート(Journal of the National Cancer Institute, JNCI)のオンライン版で掲載された「がんの状況に関する国民への年次報告(Annual report to the Nation on the Status of Cancer)」によると、米国におけるがんの罹患率は、がんの死亡率と同様、1975年以降減少を続けています。

毎年、米国がん協会(the American Cancer Society:ACS)、米国疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention:CDC)、 米国国立がん研究所(the National Cancer Institute:NCI)、および北米中央がん登録所協会(the North America Association of Central Cancer Registries:NAACCR)が協力して、米国のがん発生率とその傾向について最新の情報を報告しています。今回の報告書は、1975年から2005年までのデータに基づき、肺がんの罹患率と死亡率、喫煙状況、喫煙の規制などの傾向について解析しています。

今回の報告書では、発刊以降初めて、すべてのがんを合計した罹患率と死亡率が、どの人種や民族でも、男性でも女性でも、明らかに減少していることが示されました。

男性では、罹患率と死亡率が最も顕著に減少したのは、上位3つのがん(肺がん、前立腺がん、大腸がん)でした。同様に女性では、上位3つのがんのうちの2つのがん(乳がんと大腸がん)で罹患率と死亡率が顕著に減少したものの、3番目に多いがん(肺がん)の罹患率と死亡率には変化がありませんでした。これら男女の三大がんによる死亡率は、減少したとはいえ、今なお、がん死亡全体の半数を占めています。

注目すべきことに、肺がんの罹患率と死亡率について、地域や州の間で明らかな格差があることが報告されています。米国全体では、女性の肺がん罹患率と死亡率は横ばいですが、地域や州の統計は、異なる様相を呈しています。実際、女性の肺がん罹患率と死亡率は、18の州で上昇しており、そのうち16州は、住民の喫煙率が最も高い南部および中西部の州でした。女性の肺がん罹患率と死亡率が減少していた州は、カリフォルニア州のみでした。

研究者は、がん罹患率と死亡率の低下については有望な結果であると結論しましたが、州や地域間で女性の肺がん罹患率傾向に格差がある点にも関心を持つべきだと強調しています。研究者は、州ごとの喫煙規制プログラムを維持・強化することを提案しています。

がん罹患率は減少を続けている

1WAR ROOM NEWS

fall 2009 • PiNK 37

Page 40: PiNK Fall 2009

BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、乳がんの家族歴があると乳がんリスクが高い

2WAR ROOM NEWS

BRCA遺伝子に変異がない女性でも、乳がんの家族歴が明らかであれば一般の女性に比べ乳がんを発症するリスクは約4倍となります。このような研究結果が2008年11月17日、ワシントンDCで開かれた米国がん研究会議(American Association for Cancer Research:AACR)の第7回年次国際会議で報告されました。

米国では、女性のがんによる死亡の第2位が乳がんであり、毎年約18万人が乳がんと診断されています。検診と治療の分野の進歩により早期に発見される症例が増え、治癒率も向上してきました。検診、予防、治療のさらなる進歩を願いながら、研究者は乳がんの発症率とその傾向について研究を続けています。

BRCA1とBRCA2という2つの遺伝子に親から受け継いだ変異がある女性では、一生のうちに乳がんと卵巣がんを発症するリスクが非常に高くなることがわかっています。これらの遺伝子変異は、母方または父方のいずれからも受け継がれる可能性があります。BRCA遺伝子変異がある女性は、一生のうちに乳がんを発症するリスクが85%に上るため、より入念な検診を受けタモキシフェンtamoxifen(ノルバデックス®Nolvadex®)の予防投与を受けるのが一般的で、時には予防的手術を受ける場合もあります。乳がんの家族歴がある女性の多くは、BRCA遺伝子変異がないことを確認するためだけに遺伝子検査を受けています。そうすることである意味安心できるのかもしれませんが、乳がんの家族歴があってもBRCA遺伝子変異はない女性たちについては乳がん発症リスクがはっきりしていないため、検診と予防をいかに行っていくべきかという興味深い難題が残されています。

最近、カナダの研究者が、乳がんの家族歴が顕著な家系について解析を行いました。50歳以下の近親者に2人以上乳がんになった人がいる場合、または、近親者に年齢を問わず3人以上乳がんになった人がいる場合を顕著な例としています。365家系の1,492人の女性を5年間追跡調査しました。BRCA遺伝子変異のある女性はこの解析から除外されました。これらの女性の乳がん発症率と、地域乳がん登録での乳がん発症率とを比較した結果、家族歴が顕著な女性では乳がん発症率が4倍も高くなっていました。40歳未満の女性では乳がん発症リスクの差がさらに大きく、 一般女性に比べ、家族歴の顕著な女性では15倍も高いリスクとなっていました。

この研究結果により、乳がん家族歴の顕著な女性では、一生のうちに乳がんを発症するリスクが30~40%あると結論づけられています。卵巣がん、大腸がんやその他のがんのリスクは上がっていませんでした。これらの結果は、BRCA遺伝子に変異はないものの乳がん家族歴の顕著な女性に対して、どのように検診を行っていくべきか、新たな知見を示しています。これらの女性は、入念な検診やタモキシフェンなどの予防投与が効果的であろうと、研究者たちは述べています。

38 PiNK • fall 2009

Page 41: PiNK Fall 2009

Chemo Cat /ケモ・キャット

45 ちょっと遠出して一息入れましょう

40

心の声を聞くSPIRIT HOUSE

fall 2009 • PiNK 39

Page 42: PiNK Fall 2009

キ ャ ン プ や 合 宿 は 、 心 を 癒 し 、

友 情 を 深 め 、 楽 し く 遊 ぶ だ け の 場 で は あ り ま せ ん 。

が ん 経 験 者 や 支 え る 人 た ち に と っ て は

楽 し い 冒 険 と 休 息 の 場 で も あ る の で す 。

Mia James

40 PiNK • fall 2009

Page 43: PiNK Fall 2009

がんに直面する大人であれば、特にです。人生に対する新たな視点を見つけたり、自分自身の持つ力や自立心を再発見できたりなど、合宿やキャンプがもたらす数々の機会は、はかり知れないほど貴重なものになるでしょう。

現在米国内の各地で、がんになった大人たちがリラックスし、自分自身を見つめ、友情を育み、冒険し、安心感と元気を蓄えて帰宅するためのさまざまなプログラムが行われています。

楽しくて、意欲をそそったり癒したり、気持ちを元気にしてくれるようなキャンプや合宿は数多くあります。リラクゼーション、ヨガ、芸術、音楽、ヘルシーでおいしい食事、海でのセーリング、森林ハイキング、釣り、カヤックなど内容はさまざま。

そんな中から、3つの団体の活動やサポートをご紹介しましょう。

ウインド・リバー・キャンサー・ ウェルネス・リトリーツ

(Wind River Cancer Wellness Retreats)

ノースカロライナ西部の丘陵地帯に広がる森の中で行われる「ウインド・リバー・キャンサー・ウェルネス・リトリーツ(Wind River Cancer Wellness Retreats)」は、がんの診断を受けた男女にリラクゼーションや友情だけでなく、まるで生まれ変わったかのような元気を与えてくれる4日間のプログラムです。

創設者でプログラムを運営するシャノン・カーニー(Shannon Carney)とデイブ・シラー(Dave Pschirer)によると、この合宿の目的は、がんとともに生きる日ごろのプレッシャーからつかの間離れ、安全で支援体制が整った環境で一息ついてもらうという、非常にシンプルなものです。ウインド・リバーは、がん患者や経験者が「常に肩に背負っている、体

重400キロのゴリラみたいにずっしり重いストレス」(デイブ談)を取り除く場所なのです。

ウインド・リバーの合宿参加費用は無料で、スポンサーやウェブサイトで募った寄付でまかなわれています。男女を問わずあらゆる種類のがんの診断を受けた人が申し込むことができます。ほとんどの参加者は治療中であったり、進行がんにかかっていたり、再発にみまわれたりしていますが、治療が終わってから6カ月経つという参加者もいます。

2003年、シャノンは乳がんの診断を受けました。シャノンとデイブが、休息の重要性を実感したのはこのころです。2003年初めごろの2人は忙しい会社生活を送っており、数カ月先まで予定はびっしり埋まっていました。しかし、がんはそんな生活のペースを中断し、予定の変更を迫っただけでなく、2人の人生そのものにも大きな変化をもたらしました。これまで詳細に組まれていた予定が、あっという

キ ャ ン プ や 合 宿 は 「 大 人 に な っ た ら 卒 業 し な く て は な ら な い 」 と い う も

の で は な い は ず 。 見 知 ら ぬ 土 地 を 探 検 し た り 、 新 し い ス キ ル を 学 ん だ り 、

友達を作ったりと、子どもたちが夏の合宿で楽しみにするのと同じような機会を与えて

くれるからです。むしろ大人にこそ、成長や学び、自信を取り戻し、人間関係を培うた

めの貴重な機会になるのではないでしょうか。

ウィンド・リバー・キャンサー・ウェルネス・リトリーツ(Wind River Cancer Wellness Retreats)の参加者は、のどかさと静けさや森林の自然、川辺での語らいや音楽を楽しみます。

「今、目の前にあることがすべて。

   この瞬間こそが真実」

Page 44: PiNK Fall 2009

間に変わってしまったことに2人が気づいた時、今という瞬間が何よりいっそう貴重になったとデイブは言います。「今、目の前にあることがすべて。この瞬間こそが真実。」

2人はすぐに、それまでの生活スタイルを捨てて、田舎のゆったりした生活を選びました。そしてシャノンの治療が終わると、自分たちのノースカロライナの家で、この合宿を始めたのです。

合宿は、「今」を最大限に楽しむためのさまざまな経験・風景・音・新しい友情でいっぱいです。参加者が「今」にもっと意識を向けられるようにするには、「がんになった」ことを超えて、「自分自身がどんな人間か」を思い出してもらうことが必要だとシャノンは説明します。

この合宿の環境やすべてのアクティビティは、ある目的を持って形作られています。それは、感覚を呼び覚まし強くすることで、1人1人の経験が、まるごと「不安」に飲み込まれて

しまわないようにすることです。ゆるやかなヨガ、新しい友達と食べるおいしくて健康的な食事、敷地内を流れる小川のせせらぎにただ耳を傾けることなどは、ウインド・リバーの参加者の時間の過ごし方の一部です。「参加した人たちは、再び心で感じること

を思い出して、この合宿を終える」とシャノンは語ります。

この合宿は4日間で終わってしまいますが、シャノンとデイブによると、合宿の効果は参加者たちが家に帰った後も長く続くといいます。そして、そのまわりの人たちにまでもその影響は広がるのです。シャノンはこれを「波及効果」と呼んでいます。

一番重要なのは、参加者が新たな気づきや平穏な心持ちとともに日常生活に戻っていくことだと彼女は言います。

「私たちは、みなさんがここで過ごす時間、さまざまな『喜び』に対して敏感になり『喜び』

を再び思い出すことができるように、そのお手伝いをしているのです」

2009年の合宿の日程や申し込み方法など、詳細は www.windriverservices.comにアクセスしてください(英語)。

セラ・セール(Selah Sai l)

ヘブライ語で「一息ついて振り返る」ことを意味する「セラ(selah)」を名前に冠するセラ・セール(Selah Sail)は、乳がんの診断を受けた女性たちが、「セラ(selah)」することを助けるためのプログラムです。しかもこのプログラムは、たぐいまれな環境で行われます。紺碧のカリブ海洋上のヨットで1週間を過ごす合宿なのです。

セラ・セールの創設者ジャン・チャーチル(Jann Churchi l l)は、救急ヘリに乗る正

おーい!乳がん経験者たちは、

セラ・セールで海に出ます。

秘密は、あなたの目の前の「今」にあります。注意深く感じれば、「今」はもっとすばらしい

ものになるのです。そして、もし「今」をよりよいものにできるならば、その後に続く時間も

また、よりよいものになるのです。  パウロ・コエーリョ

42 PiNK • fall 2009

Page 45: PiNK Fall 2009

規フライト・ナースの認定を持つ看護師で、オレゴン州ポートランドに住んでいます。彼女は乳がんと診断されたとき、自分の人生が本当に何か意味のあることに向かっているかを見直す時が来たと感じました。そして自分に問いかけたのです。「もし残りの人生で何でもできるとした

ら、何をするかしら?」ジャンはヨットが大好きでした。そして彼

女自身、がんで苦しんでいる最中の大きな癒しの源となっていたのがカリブ海でのヨットクルーズの体験でした。ですから、自分への問いかけの答えは、「乳がん経験者をヨットの旅に連れて行く」ことだったのです。自分と同じように、他の乳がん経験者にも、この旅で同じような癒しを得てほしいと考えたのです。

セラ・セールの参加資格は、18歳以上の乳がん経験者であること、治療が終わってから8週間以上、8カ月以内であることです。医師、ナースプラクティショナー(nurse practitioner:修士レベルで診断・処方などができる上級看護師資格の一つ)、ソーシャルワーカー、またはカウンセラーの許可も必要です。そして、1週間ほかの参加者と共同生活することができることも条件です。ヨットの経験は必要ありません。費用は3,000ドルで、航空運賃、旅行保険、ヨットレンタルとそ

の保険、その他の費用を含みます。既に治療費の負担を抱えた女性たちにと

って、ヨット合宿がかなり高額であることはジャンも認識しています。このため彼女は参加者たちに、友達や家族からの援助を求めるように勧めています。セラ・セールもウェブサイト上で、資金援助を求める手紙を掲載したり、資金集めのためのイベントを開催するなどのサポートをしています。資金提供への反応は良好で、より多くの乳がん経験者が参加できるよう今後もっと積極的に資金集めをしたいと彼女は話しています。

ヨットの帆の下で過ごす1週間がどれほど癒しの効果をもたらすかは、参加者の顔から不安や心配の表情がどんどん消えていく様子からよくわかるとジャンは話します。「最初は、ほとんどの参加者は緊張感の

かたまりですし、ストレスでいっぱいです。それが、合宿が終わるころには、再び息ができるようになったと感じられるんです」

カリブ海の美しさや、同じ経験を持つ人たちと共にいることは「万能薬」のように作用します。「ただカリブ海にいるだけで、大きな効果があるんです。それだけでなく、同じ戦いの傷跡を持つ女性たちのグループの中にいると、なぜか自分の人生を再びつかみ取ろうという力が湧いてくるんですね。」

手術や乳房切除術など、乳がんの治療に伴う体の変化が気にならなくなるんです。「おっぱいが片方しかないとか、両方ある

とか、2つともないとか、そんなことをまったく気にせず泳げるんですから!」(ジャン談)。それは、治療後水着を着ることをためらっていた乳がん経験者たちにとっては久しぶりに開放感を感じられる体験なのです。

セラ・セールが始まって2年目に入りました。1年目はカリブ海でのヨット合宿でしたが、今後ポートランドでも同じように「一息ついて振り返る」という目的でクリエイティブな芸術プログラムなどを行う合宿を実施しようとしています。ヨットの旅のように遠くてお金のかかるプログラムよりも、もっと多くの女性たちが参加できればとジャンは願っています。

しかし、ヨットのプログラムと陸上でのプログラムは密接に関わっています。なぜなら陸上での芸術プログラムは、1人1人が持つクリエイティブな力が、それぞれの闘病中に癒しの源となることを目の当たりに示してくれた多くのヨットの合宿参加者たちに触発され思いついたものだからです。

詳細は www.selahsail.org にアクセスしてください(英語)。

セラ・セールでは、カリブ海が参加者

たちに「魔法」をかけます。

fall 2009 • PiNK 43

Page 46: PiNK Fall 2009

MDアンダーソンがんセンター キャンプ・ケアフリー

(Camp CareFree at M. D. Anderson Cancer Center)

がん治療病院の中には、独自にキャンプや合宿プログラムを行っているところがあります。これらは、まだ治療中で医療者の監督が必要な患者にとって、とてもよい選択肢となるでしょう。

たとえばテキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンター(M.D. Anderson Cancer Center)が行っているキャンプ・ケアフリー(Camp CareFree)では、治療期間中の患者に、新たな友情を築いたり屋外でのアクティビティを楽しめる週末を提供しています。

キャンプ・ケアフリーは、がんセンターから車で90分ほどのヒューストン郊外の丘陵地で1年に1回開催されます。MDアンダーソンがんセンターで治療中の25歳以上の患者で、医師の許可を得た人なら誰でも参加できます。参加費は35ドルで、交通費、食事代、リネン類の使用やアクティビティにかかる費用が含まれます。キャンプが行われる週末3日間は、医療チームが必ずキャンプ会場に待機しています。

この大人向けキャンプのアイデアを思い

ついたのは、MDアンダーソンがんセンターのボランティアネットワーク・コーディネーター、モーリーン・バレンザ(Maureen Valenza)です。「活動的で明るくて、遊び心でいっぱいで」このキャンプの雰囲気は、まるで青少年のキャンプのようだと彼女は言います。このキャンプは、疾患の学習や今後の治療のことは一切忘れて、とにかく楽しい時間を過ごす場です。自身の経験を他の参加者と共有することは特に制限されていませんが、大前提はただ楽しむことなのです。釣り、カヤック、アートや工芸などのアクティビティは、「キャンプの参加者がリラックスし、心を開き、ほかの参加者たちと楽しい時間を共有するための、よい気分転換になるんです」

(モーリーン談)。夜更かししたり、布団に入ってコソコソ話

しをしたりというサマーキャンプのお決まりを楽しむうちに、がんの経験という共通点以外に存在するさまざまな違いもすっかり消え去ってしまいます。モーリーンは、この結束についてこう説明します。「性別や年齢は関係ないんです。これまで

の、共通の経験がすべてなんです」キャンプ・ケアフリーのキャンプリーダー

は、かつての参加者たちです。「キャンプ経験者にとって、リーダーとしてキャンプに戻ることは大人気のポジションになりつつある」と

モーリーンは付け加えます。キャンプ・ケアフリーが参加者に与える前向きな効果をそのまま表していると言えるでしょう。

前立腺がんを克服して19年になるというアート・ハーツォグ(Art Herzog)は、リーダーとしてキャンプに戻るようになって4年経ちます。「毎年楽しみにしている行事の1つ」と話すアートは、このわくわくする毎春の週末について「毎年、大勢の新しいいとこに会うような感じかな」と表現します。

キャンプの元参加者で現在はリーダーのマーシャル・ルージア(Marshall Loosier)は、キャンプの規模が小さいことが、参加者間のつながりを密にしていると言います。「全員と知り合いになるのにちょうどいいくらいの規模なので、医者でも看護師でも家族でもない誰かと、1対1で向き合うことができる」と説明します。参加者は、患者としてではなく仲間としてのつながりを持つことができるのです。

アートは、参加者の雰囲気が「緊張」から 「リラックス」へ変化する様子は、目に見えてわかると言います。「キャンプが終わって帰りのバスに乗り込むころには、みんな別人のようになっているんだ」

詳細は、www.mdanderson.orgに アクセスし、「Camp CareFree」を検索してください(英語)。

MDアンダーソンのキャンプ・ケアフリーで参加者たちは ▶ 友達を作り、冒険を楽しむのです。

44 PiNK • fall 2009

Page 47: PiNK Fall 2009

ワシントン州シアトル地域に住むキャシー・ナイロンは、43歳のときに乳がんと診断されました。彼女はこの出来事を当時4歳半だった息子のルカとどう共有すればよいのかとても悩み、この未知の恐ろしい状況を切り抜けようと参考になりそうな本や案内書を捜し求めましたが、ぴったり来るものは見つかりませんでした。「インターネットで探したり、書店にも行き

ましたが、息子が興味を持ってくれそうなものはまったくありませんでした」とキャシーは語ります。

治療を続けながら息子との対話に最善を尽くしたキャシーですが、がんと診断された親を持つ幼い子ども向けの資料がないことがずっと気にかかっていました。「涙なしに乳がんについて話すことはとても

できませんでした。私にはこの本が本当に、本当に、必要でしたが、当時そのような本はまだありませんでした」

治療に心を砕きながらも、キャシーとパートナーのビルは最善をつくしました。ルカと率直に話し合い、彼が不満や怒りを表したらそれを受け入れ、自分は愛されているんだということを彼に伝え続けました。しかし、こういうときに参考になる資料や情報がないことが、キャシーには気がかりでした。「私はこの思いを心の中にしまっていた」と彼女は語ります。

自分で本を書くという考えが実際にまとまり始めたのは、治療の最終段階のころでした。以前は靴のデザイナーをしていたキャシーは、アーティストとして自分のがん体験について子どもたちが共感できるイメージを描けるよう、スケッチの練習に取り組みました。この『ケモ・キャット』という4歳から10歳の子ども向けの話は、がんと診断され、その治療をどうにか切り

抜けてきた自分たち家族の経験を描いたものですが、ストーリーの制作にあたり「アーティストとして視覚的なイメージがまず浮かんだ」と語っています。「化学療法を受けていたときは、たいてい

家の猫が私のそばで寝ていて、私は『この猫は毛がなくなったらどう思うだろう』なんて想像していました。ドキソルビシンDoxorubicin

(アドリアマイシン® Adriamycin®)の副作用のため、1日の大半をベッドで過ごす日々を送っていたので、考え、祈り、夢をみる時間はたっぷりあったのです」

治療の終盤から回復に向かう中、キャシーの夢と願いと創作活動の成果として、この

『ケモキャット』が出来上がりました。この本は、診断から治療、そして回復へと向かう過程を子供なりの繊細で美しく空想的な視点からとらえ、両親と子供達が多くの困難な状況について話し合うきっかけを与えてくれます。この本はルカの視点で書かれていて、「ママのがんはどこからやって来たのだろう?/(どこから来たのか)誰か教えてくれたらいいのに!/実は心配していたんだ。/僕もがんになるんだろうか?」などの難しい質問に向き合うだけでなく、それに対する答えや問題点について安心して一緒に話し合える場も提供しています。

この本を世の中のがんと闘っている家族に向けて送り出した経験は、キャシーの社会を見る目や自分自身の見方を大きく変えました。「これが私の使命なんだと、今ははっきりそ

う思っています」と、治療中に起きた精神的な目覚めについて語ります。「私の創造力は神様から与えられたのだと、今では確信しています」

この彼女自身の目覚めと、闘病中を通して受けたビルの限りない愛情と、彼女を助け、支え

続けた家族や友人たちのへの深い感謝の気持ちも加わり、キャシーは自分と同じ問題を抱えている女性を手助けしたいと強く望むようになりました。

「この場で、この話を分かち合えることに心から感謝しています。私の経験が、他の人たちに何らかの希望を与えることができればと、いつも願っています」

多くの家族がキャシーに感謝し、彼女の本に込められている大きな希望を強く感じていることは間違いないでしょう。それぞれの家族の思いが自分を励まし続けてくれる、とキャシーは言います。「メールをもらったり、実際にお会いしたり、

電話で話したりした思い出の1つ1つが私の心の中に刻み込まれています。『ケモ・キャット』を読んで、彼らの気持ちが少しでも楽になればと願っています」

Chemo Cat ケモ・キャット子ども向けの本を通して、乳がん経験者のキャシー・ナイロン

(Cathy Nilon)は自分と家族ががんと共に歩んだ日々を記録し、それが家族同士で治療や回復について話し合うきっかけとなっています。

子どもとがんと

上手に

 つきあう。

Diana Price

結婚式当日のキャシー・ナイロンと

夫のビル(Bil l)、息子のルカ(Luca)

『ケモ・キャット』(英語)はThe Cancer Care Storeよりオンラインでお求めいただけます。 www.cancercarestore.com また、日本語訳されたものには「キャシーのぼうしーきぼうのものがたり」トルーディ・クリシャー/文、ナディーン・バーナード・ ウェストコット/絵、かつらあまね/訳 <評論社>、「レアの星」 パトリック・ジルソン/文、クロード・K.デュボア/絵、野坂悦子/訳 <くもん出版> などがあります。詳しくは www.hope-tree.jp

fall 2009 • PiNK 45

Page 48: PiNK Fall 2009

FIND

YOU

R WAY

デノスマブ がアロマター ゼ阻 害 薬 治 療 を 受 けてい る 乳がん患者の骨密度を改善

SUPPORTIVE CARE NEWS

第III相臨床試験の結果により、新規薬剤のデノスマブが、アロマターゼ阻害薬治療を受けている早期乳がん患者の骨密度を明らかに改善することが示されました。この結果は、ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)に掲載されています。

米国では、毎年18万人以上の女性が乳がんと診断されています。乳がんの多くは「ホルモン受容体陽性」で、体内を循環している女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の刺激を受けて増殖する性質を持っています。

ホルモン受容体陽性乳がんの治療法の中心となるのが、エストロゲンのはたらきを抑えたりブロックしたりする「ホルモン療法」です。ホルモン療法として、タモキシフェンtamoxifen(ノルバデックス®Nolvadex®)やアロマターゼ阻害薬という種類の薬剤が用いられます。タモキシフェンはエストロゲン受容体をブロックすることで効果をもたらし、アロマターゼ阻害薬は閉経後女性におけるエストロゲン産生を抑制することで効果をもたらします。

アロマターゼ阻害薬が閉経後乳がん患者の再発リスクを減らすことは多くの臨床試験で示されていますが、アロマターゼ阻害薬によって骨塩量が低下することも知られています。骨塩量低下を抑える薬剤があれば、アロマターゼ阻害薬による治療を受けている乳がん患者には福音となるはずです。

デノスマブは、RANKリガンドというタンパク質を標的とする新薬です。RANKリガンドは、破骨細胞(骨を破壊する細胞)のはたらきを制御するタンパク質です。現在、閉経後の骨粗鬆症患者、治療によって骨塩量低下をきたしたがん患者など、様々な状況におけるデノスマブの治療効果の検証が進められています。

アロマターゼ阻害薬治療中の女性の骨密度に対するデノスマブの効果を評価するため、第III相臨床試験が行われました。この臨床試験には、遠隔転移のないホルモン受容体陽性乳がん患者252人が登録されました。登録された患者は全員、登録時点で骨塩量低下が認められていましたが、骨粗鬆症と診断された患者は含まれていません。

すべての患者が術後治療としてアロマターゼ阻害薬を服用していました。患者は半数ずつに分けられ、一方の群の患者には、デノスマブが4回投与され、他方の群の患者にはプラセボ(偽薬)が投与されました。また、すべての患者がカルシウムとビタミンDのサプリメントを服用することになっていました。

・ プラセボ群の患者と比べ、デノスマブ群の患者では、腰椎の骨密度が明らかに 高くなっていました(12ヶ月経過時点で+5.5%、24ヶ月経過時点で+7.6%)。

・ デノスマブ群の患者では、全身の骨密度や、股関節、大腿骨頸部、橈骨の骨密度も高くなっていました。

・ 有害事象の頻度は、デノスマブ群とプラセボ群でほぼ同程度でした。

これらの結果により、術後アロマターゼ阻害薬治療を受ける乳がん患者の骨密度改善にデノスマブが有効であることが示されました。

46 PiNK • fall 2009

Page 49: PiNK Fall 2009

FIND YOUR WAY

医療制度の謎を解く

かけがえのない絆

48

保険適用外見直し請求の手引き

53

医療システムの謎に迫る

56 FIN

D YO

UR W

AY

Page 50: PiNK Fall 2009

2007年10月、テレサ・バックが乳がんの一種である浸潤性乳管がんステージⅡAと告知されたのは、彼女が26歳の時でした。彼 女の治 療 計 画には、腫 瘍の摘出手術、センチネルリンパ生検、化学療法とトラスツズマブtrastuzumab(ハーセプチン®Hercep t i n®)の点滴注入が組み入れられ、向こう5 年 間は、タモキシフェンtamoxifen(ノルバデックス®Nolvadex®)の服用を続ける予定です。ワシントン州バンクーバー(Vancouver)にある病院の研修医だった彼女は、治療にはいくつもの困難が待ち受けていたが一貫して救いとなるものがあったと語ります。「担当看護師のジェシカは、とても重要な存在だった」とテレサは言います。「ジェシカはいつも、ポート*の洗浄前に

私の口にキャンディーを詰め込んで、投薬の不快感を紛らわせてくれた」とテレサは言います。「彼女は、私のポートの位置、点滴には長

めの針が必要であること、抗がん剤でどんな副作用があったかまで把握しています。担当医師がうっかり忘れると肝機能テストの結

果数値を確認してくれるし、医師に代わって私に腸の調子を聞いてくれます。彼女は文字通り、私の事を知り尽くしているんです」

そして、テレサにとって最も重要なことは、ジェシカがテレサに共感し、彼女が抱える不安感を理解しようとしていることを実感できることです。「ジェシカとは歳が近く、若いがん患者と

しての苦しみを理解してくれる人がいることはとても救いになります。言葉で説明しなくても彼女は、私がデートや家族、仕事、そしてがんの告知などとなんとか折り合いをつけるために、どんなに努力しているかを知っているのです。彼女は私を励まし、共感し、力づけ、サポートしてくれます」

結びつきの重要性

米国がん看護学会(The Oncology Nursing Society:ONS)の代表を務めるブレンダ・ ネヴィッドジョン(Brenda Nevidjon, MS, RN, FAAN)は、テレサとジェシカのような関係は優良ながん看護の一例であると述べています。

「私たちは、がんという肉体的にも精神的にも大きな困難に直面している人たちをサポートしていくことは、腫瘍専門看護師に与えられた特典だと思っています。私たちは、他の専門看護師より長期間にわたり患者と関わることでより深い人間関係を築くことが出来ますが、これは非常に特殊なことなのです」

このような 看 護 師と患 者 の 関 係 は 必要不可欠なものであると考えられています。さらに彼女は「初期の看護理論家であるヴァージニア・ヘンダーソン(Virg in ia Henderson)は、患者を助けることの根幹にあるものは、患者とその家族へ素直に目を向け共感することだと指摘している」と続けます。看護師たちはこの刺激的で献身的な仕事からの学びが非常に大きいことを知り、この仕事に惹きつられています。真摯に患者ひとりひとりのことを理解し、前向きで意義深い関係を作りたいと強く望むのです。こうして腫瘍専門看護師たちは皆、患者との関わり合いから予想以上に多くのことを学びとるのです。

ボストンのマサチューセッツ総 合 病 院(Massachusetts General Hospital)

腫 瘍 専 門 看 護 師 と

患 者 た ち

患者ひとりひとりと向き合うことの大切さと無条件の支えが患者に与える力

Diana Price

かけがえのない絆

48 PiNK • fall 2009

Page 51: PiNK Fall 2009

で、急性期の婦人科系がん患者を担当するリズ・ジョンソン(Liz Johnson)も、まったく 同様のことを指摘します。「彼女たちの治療期間を通して寄り添う

ことは私たちにとっても意義深く、名誉なこと」と、リズは言います。

「患者は、何が大事で何を優先させるか、しっかりと理解しています。私の経験では、患者は看護師や他の人々からのサポートをとてもオープンに受け入れます。そして、心の奥底にある思いや心配事を彼らと分かち合うのです」

結果として生まれた人間関係によって、治療という彼女と患者との共同作業は彼女達自身に変革をもたらすのだ、とリズは語ります。「がんのケアというのは、患者のプライバ

シーにもかなり立ち入る分、精神的な消耗も激しい。同時にとても有意義で、かけがいのない人間関係を構築し、人を成長させるのです」

つまり、看護師と患者の価値ある関係とは、看護師が可能な限り最良のケアを与え患者がそれを受け取っていることを、双方が

感じ合えることなのです。「何よりも一番の目標は、ストレスの多い

状況の中でその苦痛を和らげてあげること」と、リズは言います。「第二に、患者が自分のがん経験に意味を見出すお手伝いをすること。これらの目標を実現するためには、看護師と患者の結び付きが非常に重要ですね」

ひとりひとりと向き合う

患者が治療に臨む意欲を失うのは多くの場合、担当看護師が自分の言うことに心底耳を傾けてくれないか、考えに理解を示してくれないと感じることに起因します。デブラ・

バフトン(Debra Bufton)は、乳がんの治療中実際に担当者を2回変えましたが、どちらの場合も大部分は看護スタッフ側に原因がありました。「最初の場合は」、デブラは言います。

「点滴担当の看護師たちがとても横柄な態度だったのです」デブラは彼女の心配事を聞き入れてもらえそうにないと感じました。

テレサと担当ナースのジェシカ ▶

ジェニファーと担当ナースのC.J. ▼

fall 2009 • PiNK 49

Page 52: PiNK Fall 2009

「治療中の私はまるで落ち着きのない調査員のようでした。何かを聞くたびに、手をたたいてたしなめられるような扱いを受けていると常に感じていました」

彼女が看護師を変えた後の実体験を読めばその違いがわかります。「そこには常に私の居場所があり皆が私

を覚えていてくれて、子供のことを尋ね、私の返答に耳を傾けてくれる。ふりではなく、心から私に関心を持っていてくれるのです」

リズ・ジョンソンは、患者を個人として認め彼らの要求に耳を傾けることが何よりも重要であることを知っています。「最も大切なことは、彼女らを患者として扱う前に、一人の生身の人間として接することです。それから、彼らの考えや存在そのものを誠実な態度で認め、慎重に耳を傾けてあげる。彼らに何かしてあげるのではなく、彼らと共に歩んでいると実感させることです」

こうした看護師の姿勢が患者にもよい影響を及ぼすのは明らかです。最近乳がんの治療を受けたジャネット・ガストン(Hanet Gaston)にとって治療を通じて大きな支えとなったのは、看護師が自分の人生や治療の成功に心底興味を持ってくれていると感じられたことでした。点滴担当の看護師マラとの関わりについて話す中で、ジャネットは次のように言います。「マラは私の言うことに、穏やかな気遣いのある態度で耳を傾けてくれました。私の言わんとすることは非常に価値あるものだというふうに接してくれたのです」

マラがポート*の扱いに長けていたことも確かに助けにはなりましたが、どん底の日々にあったジャネットを支えたものは、マラとの間に生まれた心の結び付きでした。「マラと私には共通点がたくさんありました。3人の私たちの息子がほぼ同い年なので、息子の話題で会話がはずみ、よく一緒に笑いました。そして、手術が終わると私の病室を訪れて、お見舞いに可愛い小さなスノーマンを持ってきてくれました。彼女の訪問にはとても元気づけられて、感謝しています」

がん経験者のジャンヌ・ギルス・ハックニー(Jeanne Giles Hackney)は、がん治療において最も重要なことは、看護師が患者の要望や心配事を感じ取り、患者の話に耳を傾け、不安を受け止めることだと指摘します。「優秀な腫瘍専門看護師は本当に素晴し

いです。彼女たちの信じられないほど献身的な看護は、私たち患者にかけがいのないものなのです」

ジャンヌは、ゴールの見えない検査や通院と、病院との事務的なやり取りを続けながら、無数の他人に体をこづかれているような気分にさせられることがありました。このような場合に、非人間的な扱いを受けている感覚におちいりやすいと語ります。しかし、あなたを知ろうと努め心配事を受止めることを第一に考えてくれる看護師と出会った時に状況は一変します。これらの看護師たちが高く評価されるのは、「とにもかくにも、個人としてのあなたを尊重してくれるから」とジャンヌは言います。

病める時も健やかなる時も

多くの患者にとって、肉体的にも精神的にも落ち込んでいる時に尊 重されていると感じられることには、よく効く薬と同等の効果があります。ジェニファー・スティーン

(Jennifer Steen)は、オレゴン州ポートランド(Portland)に住む若い乳がん経験者で、彼女自身、看護師でもあります。彼女は、最も苦しい抗がん剤治療のサポートを無条件で申し出てくれた、点滴担当看護師のCJに信頼を寄せます。「CJとは多くのことを個人的に分かち合

うことができました。毛髪がすべて抜け落ちても、病んでも、苦しんでいても、愛してもらえることや、どんな精神状態であっても受け入れてもらえることが、まるで神からの贈り物のようでした」

ジェニファーは、自分に共感しつつ適切な知識を持った人に向かって自分が抱えるすべての問題を話し、あらゆる質問ができる機会もまた、とてもありがたいことだったと語ります。「ここには、難しい質問を避けたり、病気

が及ぼした影響に関して知ったかぶりをしたり、『物事の明るい面だけを見ましょう』といった発言もありません。ここにあるものは、誠実で、信頼に値する真の結びつき。まるで友情関係のようでした」

ジェニファーにとってその関係は、何よりも大切なものでした。「CJは、立っている時も倒れている時も、私にとって格別の存在でした。彼女は私ががんに立ち向かう手助けをしてくれたのです」

ONSのブレンダ・ネヴィッドジョンは、ジェニファーのケースは一人の介護提供者が患者に与える影響の大きさを示す良い例で、腫

瘍専門看護師と患者との間でしばしば築かれる関係の強さと深さの象徴であると述べます。彼女は「患者とその家族は『自分たちの看護師』が与える影響の大きさを率直にはっきりと口にする」と言います。看護師と患者の双方から話を聞くと、がん治療における看護師と患者の対話と結び付きがお互いの人生を変えるほどの影響を及ぼし合い、ひいては命を救うほどの影響力があることがはっきりとわかります。

リズ・ジョンソンは、看護師と患者とのやり取りの中で双方によい変化が生まれるという考え方が、がん看護師としてのやる気を維持させるのだと確信しています。「思い浮かぶのは」と、彼女は言います。「ヒルデガルト・ペプロー(Hildegard Peplau)の概念です。彼女は、1950年代の精神看護分野の第一人者で、すぐれた看護の過程で患者だけでなく看護師にも変化が生まれ、双方がその経験を経て成長するという考えを推し進めた人物です」

リズの患者を例にあげると、患者一人一人が自己の成長の機会に恵まれたことを認めています。ここでいう患者とは、優秀な看護師のお手本となるような情熱と責任感のある看護師と出会えた人々を指します。患者に意欲的に関わろうとする看護師の姿勢もまた、患者に「苦しい治療を受けることの意味」を見い出す機会を与えてくれるのです。

*訳注:ポート-血管内に刺した細い管(カテーテル)を皮下に留置しておき、必要なときに体外から接続して薬剤などを投与できるようにするための小さな器具(http://ganjoho.ncc.go.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/touyo.html)

50 PiNK • fall 2009

Page 53: PiNK Fall 2009

マサチューセッツ総合病院にて、キャロルと彼女の「天使たち」。左から、リビー・フラッタローリ(Libby Frattarori), エロイーザ・デピナ(Eloisa DePina), PCA、コリーン・キャスター(Coleen Caster), RN, FNP、ジュリー・レンズロ(Julie Renzullo), MSN, RN、リズ・ジョンソン(Liz Johnson), MSN, RN、キャロル・ラヴァレー(Carol LaValley)、エリザベス・マンロー(Elizabeth Munro), MD、ジル・クーヨーミャン(Jill Kooyoomjian), MSN, RN、ジェン・ドハーティ(Jenn Doherty), MSN, RN、ドナ・ジルマーティン(Donna Gilmartin)

リズ・ジョンソンが看護を通して築いた多くの患者たちとの友情は、彼女に変化をもたらし彼女を刺激し続けます。「ある時点で、私たち全員が必要な存在であることに気づいた」と彼女は言います。そのことに気づいた時にこそ、真の素晴しい関係が生まれるのです。

リズを刺激し続けているのは、卵巣がんの治療を何年も続けているキャロルという一人の患者です。リズはキャロルについて、「不屈の精神と素晴らしいユーモアセンスを持ち、数多くの困難な状況を通して、それを私たち皆に見せてくれる」と言います。高校教師でもあるキャロルは、自身の病気についてとてもオープンでおおらかです。この彼女の心の広さが、彼女が「天使たち」と呼ぶ病院スタッフだけでなく、彼女の高校の生徒たちにも良い刺激を与えています。リズは、キャロルを含む多くの患者たちと友人で居られることをとてもありがたいことだと感じています。キャロルとの友情はリズにとって多くの意味を持っています。「キャロルは、私たち一人一人が特別な存在であることを感じさせてくれます。同時に、私達にとっても彼女は特別な存在だという私たちの思いが彼女に届いていることを心から願っています」

キャロルは高校の先生 ▶

キャロルの天使たち

fall 2009 • PiNK 51

Page 54: PiNK Fall 2009

引き

こ の 手 引 き を 活 用 し 、 あ な た の 訴 え を 確 実 に 届 け ま し ょ う 。

患 者 支 援 財 団 ( P a t i e n t A d v o c a t e F o u n d a t i o n )

52 PiNK • fall 2009

Page 55: PiNK Fall 2009

不意の病と闘うストレスの大きさははかり知れません―それは患者であるあなただけでなく、周囲の家族にとっても同じこと。もし、ただでさえ大変なときに、保険会社があなたの手術や治療が保険適用外であると通知してきとしたら・・・途方に暮れてしまうでしょう。ところが残念なことに、こうしたケースは、がんの診断に直面した家族によく見受けられる光景です。保険会社への事前承認の請求から保険金支払い請求の最終提出に至るまで、事務手続きの過程のプロセスのどの段階でも『保険適用外』の事態は起こる可能性があるのです。

保険契約は個人によって内容が異なるため、全ての患者のいかなる状況もカバーできるプランを立てるのは難しいのが現状です。そこで、ここでは保険適用外の対象となってしまった患者やその家族が、見直し請求を成功させるためにはどうすればよいのかという具体的なアドバイスと、役立つ情報源をご紹介します。

初めの一歩

もしも契約している保険会社から、主治医の勧めた手術や治療に対して保険適用外通知を受け取ったら、まず、書面で見直し請求書を提出してください。手術がすでに行なわれてしまった場合も、予定されている場合も同様の手続きが必要です。ほとんどのケースで、治療、検査、手術の前に保険会社の事前承認を得る必要があります。手術に事前承認が必要だった場合は、患者(または担当医師)が保険会社から承認書の写しを受け取ったかどうかの確認をしてください。その医療行為が当初から、確実に保険でカバーできるものであったことを示すために必要な情報をすべて提示しなければならないからです。

保険会社の事前承認を受ける手続きには、被保険者の健康状態と、その治療や手術が指示されることになった臨床的な理由を明記した書類の提出が求められます。治療を受けている医療機関に頼んで、見直し請求時に必要な情報としてこれらの書類を入手しましょう。

保険対象外通知書の写しは、可能な限り請求すること。 もし保険適用外と見なされたものがすでに行われた医療行為である場合、なぜ適用外になったのか、その理由を正確に知る必要があるからです。治療、手術等の医療サービスが適用外になった場合の見直し請求時には、保険適用外とされた具体的な理由を提示するように求められます。必要な情報をすべて集め、不備のない見直し請求の書類を提出しましょう。

そこで次に、見直し請求書類を完璧にそろえるための手順を示します。

医療制度の迷路から抜け出そう予備的な情報を集める

保険会社とのやりとりは、すべて記録しておくこと。保険適用外通知に関して保険会社から受け取った手紙や電話、こちらからかけた電話の内容もすべて含みます。この記録が、あなたの混乱を防ぎ、目的に焦点を合わせる手助けとなります。第一にするべきことは、保険適用外通知書の写しを手に入れることです。通知書には、適用外となった具体的な理由と、その根拠をさらに詳しく説明する契約条項が明記されているはずです。保険会社に提出した情報について病院に問い合わせてください。その治療を請求するに際して主治医が書いた書類や手紙のコピーをすべて提供してくれるように頼みましょう。

保険適用外通知書の写しを受け取ったら、通知書と保険契約書を注意深く読み直しましょう。保険会社には、被保険者が保険適用外の見直し請求をする際に取るべき手順を正確に説明することが義務づけられているからです。保険会社が要求している情報や書類が新たに見つかる可能性があります。この機会に、見直し請求のそれぞれの段階の手続き・手順について正しく理解しているかどうか、再確認が必要です。自分に与えられた権利や見直し請求の手続きについて、少しでも不明瞭な点がある場合は雇用者か保険会社まで問い合わせましょう。

保険適用外通知書に具体的に記載されているガイドラインに確実に従うことが、見直し請求を成功させる重要なポイントです。

病気と保険を理解する

保険会社と対等な立場に立つためには、まず自分の病気を知る必要があります。つまり、自分自身の健康状態を明確にして、医師が進めようとする治療の目的と理由を正確に理解することが重要なのです。通常、主治医は「治療計画書」、

「ケアプラン」と呼ばれる書類を保険会社に提出します。これらには、主治医が提案する治療とその根拠の簡単な説明が簡単な医学用語を用いて記載されています。

契約している保険の補償内容を理解することも重要です。必ず最新の保険約款を保管しておきましょう。法律によって、保険会社は保険契約者に対し、契約の概要やしおりだけでなく完全な保険約款を提示することが義務づけられています。この約款は保険契約者と保険会社との間の契約条項です。できるだけ多くの保険金を受け取るためのキーポイントは、受けられる補償内容を正しく理解すること。保険約款は必ず熟読してください。

fall 2009 • PiNK 53

Page 56: PiNK Fall 2009

勤務先を通じて保険に加入している場合は、福利厚生の担当者に連絡して保険契約の内容を説明してもらいましょう。保険の種類は個人保険ですか?それとも勤務先に委託して保険に加入し、掛け金を支払う団体保険ですか?後者の場合、福利厚生担当者および人事部担当者の協力を得ることによって、保険適用外の判断をくつがえすことができる可能性があります。団体保険の場合は、口頭と文書の両方で勤務先の担当者にこの問題を説明してみましょう。非常に効果を発揮することがあるからです。ケースによっては、福利厚生担当者が保険会社に圧力をかけて、保険適用外通知を撤回させることができるかもしれません。

見直し請求書を書く

予備情報を集め、自分の病気と保険契約内容を簡単に理解した時点で、見直し請求を開始する準備が整ったことになります。

患者である自分が請求の手順をしっかり理解するようにしてください。

一般的に、見直し請求には次のような書類が必要となります。

▶ 正式な見直し請求書▶ 主治医および/または関係する専門医による、被保険者

の症例に関する詳細を記述した文書▶ 被保険者の医療記録に関連する情報▶ 被保険者に対する医療行為の根拠となるような、医学的

有効性を明示する学術誌に掲載された医学論文

見直し請求書の目的は2つあります。1つは、保険会社に対して、その決定に不服であることを示すこと。もう1つは、医師が指示した治療や処置が保険の適用範囲内であると信じる根拠を示すことです。請求書には相手に不快感を与えないように注意して、事実に基づく断固とした表現を用いましょう。

見直し請求書には次の情報を記載する必要があります。

▶ 被保険者を特定できる情報。保険契約番号、グループ番号、請求番号など。

▶ 保険適用外通知書で説明されている、適用外とされた理由。▶ 病気と治療の経過を簡単にまとめたもの。通常、この情報

は医師からの提出書類にも記載されています。▶ 正しい情報。保険会社の決定が誤った情報に基づいた判

断であると思われる場合は、正しい情報を記載します。事実に基づいた具体的な情報を示し、その治療が行われるべき理由を述べましょう。通常、保険会社にこちら側の要望を説明する場合は、保険適用外通知について再考し、ただちにその医療行為の保険適用を認めるよう要求します。

患者支援財団(Pat ient Advocate Foundat ion)の ホームページ www.patientadvocate.orgの「資料」でサンプルレターが参照できます。見直し請求書を提出する際にご活用ください。

主治医による見直し請求用診断書

<主治医による見直し請求用診断書に必要な記載事項>

▶ 治療に関する臨床的に重要な情報▶ 主治医が提案した治療が、被保険者にとって医学的に必

要かつ適切である理由

自分の医療記録の中に、見直し請求に有利となる書類がないかどうか、主治医に尋ねてください。診断書の内容次第で、保険会社からこれまでにどんな治療を受けていたかの問い合わせを受ける場合があります。

保険会社が医師のリクエストした医療行為を保険適用外と見なすケースでは、その疾患に対して有効であることを裏づける証拠が不充分だとする場合があります。患者(被保険者)と担当医師が、保険適用外と見なされた根拠がそこにあると判断した場合には、その医療行為が有効であることを示す資料を新たに加えます(学術雑誌、研究報告書、臨床雑誌など)。こうした資料の入手には、主治医や専門医の協力を求めましょう。

<見直し請求書の提出時に必要なもの>

▶ 見直し請求書▶ 医師の診断書▶ 被保険者の症例に関連する情報▶ 裏づけとなる資料

以上4 点をセットにして、郵便書留などの追跡可能な手段で送付します。誰がそれを受け取ったかを確認できるようにすることで、保険会社が見直し請求書を受け取らなかったと主張する事態を避けることができるからです。また、提出する書類はすべてコピーをとり、きちんと保管しましょう。まちがいなく書類が届いかどうかを保険会社に確認することも大切です。

見直し請求書を提出した後は回答を待ちます。保険契約書に明記されている回答期限を確認したあとは、この最も辛い待ち時間は期限付きのひとときだと考えて過ごしましょう。

54 PiNK • fall 2009

Page 57: PiNK Fall 2009

回答を検討する

保険適用外通知が撤回され、保険で医療費がカバーされるという知らせを電話や手紙で受け取ることができれば大成功!しかし、それで一件落着というわけではありません。

必ず承認書の写しを請求してください。被保険者は、そこに書かれている条件をすべて知る必要があるからです。不当な条件に納得が行かない場合は、主治医や保険会社の担当者と話し合います。保険契約では見直し請求にもいくつかの段階が設けられています。見直し請求を継続することも検討しましょう。

万一、見直し請求が却下された場合には却下通知書の写しが必要です。そこには、却下された具体的な理由が記載されています。この時点で、保険会社によってはいわゆる「第三者による意

見」を提示する場合があります。「第三者による意見」とは、保険会社が外部の組織に保険適用外通知、見直し請求、その他の新しい情報についての再調査を委託して、問題となっている手続きに関するアドバイスを得るというものです。

しかし、「第三者による意見」を委託された会社の権限のないガイドラインでは、患者の保険契約を無効にすることは不可能です。この時点で、すべての段階の見直し請求を行った結果決定に不満がある場合には、法廷で争う以外に手段は残されていません。

この記事は、患者支援財団のYour Guide to the Appeals Process(保険適用外通知見直し請求手続きの手引き)と題する刊行物の内容を抜粋したものです。

当財団のホームページでは、このパンフレットのほかにも役に立つ資料をご提供しています。患者支援財団は患者の方々のセーフガードとなるために効果的な仲介に当たり、医療を受ける機会、雇用の継続、そして経済的安定の保証を確保することを目指しています。

▶ 必要なものリスト▶ 見直し請求書▶ 医師の診断書▶ 自分のケースに関連する情報▶ 裏づけとなる資料

可 能 な 限 り 、 保 険 適 用 外 通 知 書 の 写 し を

入 手 す る こ と 。 も し 適 用 外 通 知 が す で に

行 わ れ た 医 療 行 為 に 対 す る も の な ら 、

そ れ が 適 用 外 に な っ た 理 由 を 正 確 に

知 る 必 要 が あ る か ら で す 。

患者支援財団についての詳細は www.patientadvocate.org(英語)本記事はアメリカの保険制度に基づくものです。

fall 2009 • PiNK 55

Page 58: PiNK Fall 2009

医療システムの 謎を探る

Ask the Doctor

医師に聞いてみよう

Manjeet Chadha, MD/医師

ベス・イスラエル・メディカルセンター Beth Israel Medical Center 腫瘍放射線科次席

アルバート・アインシュタイン・カレッジオブメディスン Albert Einstein College of Medicine 腫瘍放射線科准教授

2008年の1年間に、米国では約24万人の女性が乳がんと診断されました。マンモグラフィによる定期検診が普及した結果、大部分の患者が早期乳がんの段階で診断されています。放射線治療は、早期乳がんに対する集学的治療の重要な部分を担います。最近の技術の進歩や乳がんの生物学的知識の向上により、乳がん治療における新しくて効果的な放射線治療の選択肢が登場しています。

自分に合った治療を受けるためには、治療の選択肢をよく理解し、担当医と相談した上で、医療上の意思決定に自ら関わることが大切です。

56 PiNK • fall 2009

Page 59: PiNK Fall 2009

Ask the Doctor

?✸✸

?✸✸

?✸✸

?✸✸

?✸✸

質問:どうして、私には放射線治療が必要なのでしょうか?

解答:腫瘍だけをくりぬいて摘出する乳房温存手術と、腋窩リンパ節のサンプリング(リンパ節をすべて郭清(かくせい:切除)するのではなく、数個のみを摘出すること)という乳がんの限局手術が行われた後、局所治療として放射線治療の追加が推奨されています。放射線治療は、局所再発を防ぎ、長期生存率の向上にも貢献します。さらに、乳房温存手術と放射線治療の併用による最大の恩恵は、乳房全摘手術で得られるのと同等の生存期間を保ちながら、乳房を残す選択肢を女性にもたらしたということです。

乳房全摘手術を受けた患者さんの全員が放射線治療を受ける必要はありませんが、腫瘍が大きかったり、リンパ節転移数が多かったり、切除断端にがんが露出していたりするような状況であれば、乳房全摘手術後に放射線治療を行うことで生存期間の改善が期待できます。乳房全摘手術後の放射線治療が必要かどうか、個々の状況について担当医とよく相談するといいでしょう。

質問:腫瘍放射線科医とはどんな医師ですか?

解答:腫瘍放射線科医は、放射線治療を受ける患者への医療を監督する、高度な訓練を受けた専門医です。患者さんを診察し、適切な医学的意思決定に責任を持ち、個人に合った放射線治療計画を立てます。集学的チームの一員として、腫瘍内科医や腫瘍外科医とともに働きます。

質問:放射線治療はどのように行われ ますか?

解答:放射線治療は、高エネルギー放射線(波動または粒子)によって細胞分裂と細胞増殖の能力を抑え、がん細胞を死滅させます。放射線治療には3種類の方法があります。

・ 体外照射療法:最もよく使われる方法です。線形加速器(しばしば「ライナック」と呼ばれる)という非常に精巧な機械で治療を行います。

・ 近接照射療法(体内照射療法):手術の際、乳房内の原発腫瘍の近辺に、放射能を持つ小線源やペレットを一時的に

留置して行います。・ 術中放射線療法(IORT):手術時に、

手術室で放射線照射を行います。体外照射療法が用いられることも、近接照射療法が用いられることもあります。IORTを行える専門家がいる施設は、米国でも数カ所しかありません。

質問:放射線治療は安全ですか?

解答:放射線治療では、周囲の正常組織の被曝を避け、あるいは最小限に抑えるようにしながら、正確な放射線量が腫瘍部位へ照射されるよう慎重に計画が立てられます。放射線の医学応用は、がん治療における質・正確さ・安全性を確立しながら確実に進歩してきました。

質問:乳房への放射線治療における最近の進歩は何ですか?

解答:ここ数年での重要な進歩により、乳がんに関する理解が深まっています。

まず、生物学の進歩により、がんの遺伝

fall 2009 • PiNK 57

Page 60: PiNK Fall 2009
Page 61: PiNK Fall 2009

?✸✸

?✸✸

子レベルの性質や、重要な予後(よご:病気・手術などの経過または終末についての医学的な予測)因子が特定されました。そして、がんはどのように広がるのか、再発が生じるリスクの高い部位はどこなのか、といったことに関しても理解が深まっています。

いくつかの臨床試験により、3週間で終了する短期の放射線治療が、6~7週間のスケジュールで行われる標準治療とほぼ同等の効果を持つ可能性があることが示されています。その結果、現在、選択された症例には、短期スケジュールで放射線治療を行うことも可能となっています。

現在、全乳房照射と、腫瘍を切除したあとの部分だけへの照射とを比較する臨床試験も行われています。後者は乳房部分照射(PBI)と呼ばれ、1週間かけて行われます。PBIの効果については現在研究中で、まだ実験的な治療と位置づけられるべきであり、この治療を行うためには特別な治療同意書が必要です。患者さんは、自分の病状に最も適していて最善の結果を望めるような治療法について、担当医と話し合うべきでしょう。

コンピュータ断層撮影(CT)画像で腫瘍の大きさ、形、位置を正確に評価しながら体外照射を行う3次元原体照射療法や、強度変調放射線療法などの最新技術も放射線治療の方法に変革をもたらしています。これらの技術によって、腫瘍部位と周辺の正常組織とを正確に区別できるため、腫瘍放射線科医は、周辺の正常組織に害を及ぼさないようにしながら狙った部位への放射線量を患者ごとに調節することができます。

質問:放射線治療の副作用はどのようなものですか?

解答:放射線治療は通常、耐え難い副作用は

起きにくく、患者は普段の生活を続けるように勧められます。副作用のほとんどは一過性のもので、副作用の強さは一人ひとり異なります。副作用の大部分は照射部位に現れますが、軽度~中等度の全身倦怠感を訴える患者さんもいます。

放射線治療の副作用にどう対処すればよいか専門家に聞きたいときは、腫瘍放射線科医や腫瘍放射線科看護師に相談するといいでしょう

質問:放射線治療をうまく乗り切るためにできる、何か重要なことはありますか?

解答:現在の症状についてきちんと対処しても

らえるように、まず自分のリスクをよく理解し、担当医とよく話し合うことが大切です。見通しをきちんと立てることも医療の重要な側面です。治療に伴う全身倦怠感に対処するため、栄養をきちんと摂りたっぷり休むのがよいでしょう。

放射線治療中でもほとんどの患者さんは体調よく過ごせますが、診断結果や治療と向き合うことは精神的にも肉体的にも重圧となるものです。ご家族や親しい友人、ソーシャルワーカー、患者仲間などにサポートしてもらうことも考えてみるといいでしょう。

Ask the Doctor

fall 2009 • PiNK 59

Page 62: PiNK Fall 2009

ラン・フォー・ザ・キュア・ファン

デーションからの最新ニュース

イベントなどのお知らせです。

10月17日(土) 9AM~ラン・フォー・ザ・キュア/ ウォーク・フォー・ライフ 2009!

皇居を周回する10K/5Kのラン、または5Kのウォークを楽しむイベントです。ゴール後は日比谷シティにて屋台料理、チアガール、ゴスペルグループ、和太鼓パフォーマンス、DJなどのエンターテインメント、豪華抽選会などをお楽しみ下さい!個人・団体でのご参加をお待ちしています!オンライン申し込み開始しています。www.runforthecure.org

参加費: 大人5000円  12歳以下2500円 5歳以下無料

* 参加費にはBEAMSデザイン提供RFTCオフィシャル Tシャツ2009、ミネラルウォーター、ピンクバンド等 様々なお土産が含まれます。

10月30日(金) 6PM~ピンクボール

(フォーマル・チャリティ・ディナーパーティ)ウェスティンホテル東京「ギャラクシールームにて」 

今年のテーマは「The Magic of Giving」!豪華なライブバンドショー、一流のエンターテインメント、特別なコースディナー、ライブオークション/サイレントオークション…一夜限りのゴージャスなひとときをお過ごし頂けます。

ウェスティンホテルご宿泊プランもあります。詳しくは表紙裏面をご覧下さい。

イベントの詳細は随時ウェブサイトにアップします。 www.runforthecure.org

10月17日(土) ダンス・フォー・ザ・キュア 24:00~5am@JZ Brat www.jzbrat.com

(セルリアンタワー東急ホテル2F)

初!ランフォーザキュア/ウォークフォーライフ2009の アフターパーティ!

当日券:3500円(ドリンク券一枚付き)  フライヤーをお持ちの方:3000円(ドリンク券一枚付き)

DJ/バンドなど豪華ラインアップでお待ちしております! エントランス料金の一部がファンデーションに寄付されます。

プロデュース:Ubdobe 詳細は www.ubdobe.jp

2009年度イベント情報!

60 PiNK • fall 2009

Page 63: PiNK Fall 2009

平成21年度女性特有のがん検診推進事業で 「がん検診クーポン券」

去る4月1日より、平成21年度女性特有のがん検診推進事業がスタートし、特定の年齢に達した女性に対して、子宮がん及び乳がんに関する検診費用が無料となる「がん検診クーポン券」が配布されています。

弊ファンデーションがマンモグラフィー機器を寄贈している下記の施設はその対象となっておりますので、どうぞこの機会をお見逃し無くご利用下さいませ。

なお、予約や詳細については右記の各施設へお問い合わせ下さい。

医療法人社団 雅厚生会 千葉新都心ラーバンクリニック千葉県印西市草深1380476-40-7711

糸氏医院大阪府大阪市住之江区西加賀屋ヤ1-1-606-6681-2772

医療法人 馨仁会 藤掛病院岐阜県可児市広見8760574-62-0030

ウェスティンホテル東京にて開催されたスペシャル・ディナーパーティにジェロボーム株式会社(www.jeroboam.co. jp)とFuj imamas(www.fuj imamasevents.com)がワインを寄付出品しオークション売り上げが全 額ランフォーザキュアファンデーションに寄 付されました。 また、YOGAスタジオ「SHIZEN」、東京アメリカンクラブ・ウィメンズグループ、SKAL International Tokyoより寛大なご寄付を頂きました。(敬称略)詳細はウェブサイトへ。 www.runforthecure.org

こういった寄付金はマンモグラフィ機器の購入や検診助成金の一部として役立てられます。皆様のご支援ご協力に心より 感謝申し上げます。ありがとうございます。

当日は山野学苑の乳がん啓発プロジェクトの一環として、弊ファンデーションの支援者でもあるブレストピア難波病院の難波滋子氏による講演があり、「乳がんとは何か」、

「乳がん発生率など乳がんをとりまく現状」や「自己検診の方法」などのお話しにご来場のお客さまが熱心に耳を傾けていらっしゃいました。

また同シンポジウムでは、山野愛子ジェーン氏(山野学苑副理事長、山野美容専門学校校長)のご意思によりピンクリボン関連のオリジナル商品販売コーナーが併設され、売上の全額を弊ファンデーションに寄付して下さいました。

山野学苑による次回のピンクリボン支援活動は、10月20日開催の「INTERNATIONAL BEAUTY FORUM」(横浜アリーナ)にて行われる予定です。

寄付金をいただきました。ありがとうございます。

8月1日、平素よりご支援を頂いている山野学苑の系列団体、山野流着装教室(宗家・山野愛子ジェーン)主催のサマーシンポジウムが、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタにて開催されました。

fall 2009 • PiNK 61

Page 64: PiNK Fall 2009

PiNK 誌へのご協力のお願い乳がん情報誌PiNK は、乳がんへの意識、診断・治療の向上に貢献することを目的としたフリーマガジンです。しかし、広告主の皆様のご協力無くしては成り立ちません。私どもの趣旨にご賛同頂き、本誌を通じて貢献いただけるご企業さまがありましたら、是非右下のお問い合わせ先までご連絡をお待ち申し上げます。

日本の乳がん死亡率は増加傾向にあります。乳房の健康に関する情報、また注意が不十分なため、乳がんの発見が遅れているのは事実です。日本では、平均して55分に1人の女性が乳がんで亡くなっています。これは、今年乳がんと診断される女性の3人に1人が死亡する確率です。しかし、早期に発見し治療を行なえば、乳がんの告知は死を意味するものでなく、とても高い確率で完治する病となります。

マンモグラフィによる乳がん検診、自己検診、そして医師による視触診が、現段階においてこの病による死亡率を最低限におさえる最善策と言えるでしょう。日本では、定期的にマンモグラフィ検診を受診している人は約3%にとどまっているのが現状です。長年の検診結果により、科学的にも乳がん検診が命を救うということが示されています。もはや女性達は定期的な乳がん検診なくして、自分の命を守る事はできないのです。

また、私どもはPiNK 誌の配布拠点の拡大に向け努力しています。皆様のご企業、学校などでご協力をいただけるようでしたら、どうかご連絡ください。

PiNK 配布・閲覧・拠点のご案内株式会社 ABC Cooking Studio

(100 Studios) 東京都千代田区丸の内三丁目1番1号 国際ビルヂング

New Balance Osaka 大阪府大阪市西区北堀江1-6-2 サンワールドビル tel.06-6578-9040

New Balance Tokyo 東京都渋谷区神宮前5-50-3 アーバンテラス青山 tel.03-5774-8576

Oakwood Apartments Shinjuku 東京都新宿区西新宿7-5-9 tel.03-5338-3131

Temple University Japan Campus/ テンプル大学ジャパンキャンパス 東京都港区南麻布2-8-12 (麻布キャンパス)  tel.03-5441-9800

The Pole Dance School LUXURICA 東京都渋谷区千駄ヶ谷1-7-5 ヒロビルB1F tel.03-5942-5757

糸氏医院 大阪府大阪市住之江区西加賀屋1丁目1番6号 tel.06-6681-2772

医療法人財団慈生会 野村病院 東京都三鷹市下連雀8-3-6 tel.0422-47-4848

医療法人社団 雅厚生会 千葉新都心ラーバンクリニック 千葉県印西市草深138 tel.0476-40-7711

医療法人 純幸会 豊中渡辺病院 大阪府豊中市服部西町3-1-8 tel.06-6864-2301

医療法人 市立貝塚病院 大阪府貝塚市堀3-10-20 tel.072-422-5865

がらしゃ亭 東京都武蔵野市境南町2−7−20−204 tel.0422-31-9971

財団法人 ちば県民保健予防財団 千葉県千葉市新港32-14 tel.043-246-0350

東京アメリカンクラブ 東京都港区高輪4-25-46 tel.03-4588-0670

特定医療法人社団 千葉県勤労者医療協会 健生クリニック 千葉県花見川区幕張町4-524-2 tel.043-276-1851

特別医療法人 博愛会 相良病院 鹿児島県鹿児島市新屋敷町26番13号 tel.099-224-1811

新潟県立がんセンター 新潟病院 新潟市中央区川岸町2-15-3 tel.025-266-5111

株式会社 ビーアンドディー 東京都新宿区市谷砂土原町2丁目7番地1

立教女学院短期大学 東京都杉並区久我山4-29-23

医療法人馨仁会 藤掛病院 阜県可児市広見876 tel.0574-62-0030

まつばらウィメンズクリニック 茨城県稲敷郡阿見町荒川本郷2018-7 tel.029-830-5151

聖路加国際病院 東京都中央区明石町9-1 tel.03-3541-5151

早稲田眼科診療所 新宿区西早稲田1-1-7 tel.03-3207-8101

東京共済病院 東京都目黒区中目黒2- 3- 8 tel.03-3712-3151

62 PiNK • fall 2009

Page 65: PiNK Fall 2009

「毎号読みたいけれど配布場所が遠い」「せっかく取りに行ったのに残っていなかった」「家族・友人にも読ませてあげたい」……そんな声にお応えするべく、毎号ご自宅や職場に直接お届けする定期購読サービスを開始いたしました! 是非ご利用下さい。

定期購読お申し込みの方には、当ファンデーション・オリジナルのピンクバンドをもれなくプレゼント!購読料はもちろん無料ですが、配送手数料のみご負担いただきたくお願い申し上げます。

ラン・フォー・ザ・キュアファンデーションでは、一台でも多くのマンモグラフィ機器の寄贈をすることで、一名でも多くの女性にマンモグラフィ検診を提供するという ミッションをかかげています。

読者の皆様のご理解とご支援に心より感謝申し上げます。

PiNK 定期購読サービスがスタート!

〈お問い合わせ〉NPO法人Run for the Cure® Foundation〒108-0074 東京都港区高輪4-18-12 tel:03 - 3466 - 4798 fax:03 - 3466 - 4799 mail:[email protected] www.runforthecure.org

〈お申し込み方法〉 下記お申し込み方法により、必要事項を明記のうえお申し込み下さい。

● 必要事項....お名前、送付先郵便番号・住所、電話番号、E-Mailアドレス、冊数、 雑誌「PiNK」を知った場所。

1) メールでのお申し込み [email protected]

2) お電話でのお申し込み tel.03-3466-4798

2

〈お支払い方法〉● 銀行振込......下記口座にお振込をお願いします。 ※恐れ入りますが、お振込手数料は各自ご負担下さい。

三菱東京UFJ銀行 渋谷支店 普通 3609116トクテイヒエイリカツドウ ホウジン ランフォーザキュアフアンデーション

3

〈その他、お知らせとお願い〉1)原則として、途中解約は承りかねます。ご了承ください。 2)定期購読誌のご注文・発送は日本国内のみとさせていただいております。3)海外からの定期購読をご希望の方は、03-3466-4798までご連絡下さい。4)お客様のお名前、ご住所などの訂正・変更については、お手数ですが [email protected] までご連絡ください。5)お届けしたPiNKに万が一、乱落丁などの不良がございましたら、至急良品とお取替えいたします。お手数ですが03-3466-4798

までご一報ください。6)雑誌記事の内容に関するお問い合わせは03-3466-4798まで。 (受付時間/土・日・祝日を除く10:00~12:00、13:00~17:00)7)皆さまの個人情報(個人を識別できる情報)の重要性を認識し、その適正な収集、利用、保護をはかるとともに、安全管理を行うため、

ご本人から承諾を得たとき、法令等に基づくとき、または正当な理由のあるときを除き、個人情報を第三者に提供することはありません。

4

購読手数料:4冊分 750円(送料・手数料込み、税込み)

申 し 込 み 要 項

1

2 0 0 9 年・春 F R E E

オリビア・ニュートン・ジョン

歌手・女優

PiNK 2007 秋在庫無し

PiNK 2009 夏

PiNK 2008 春在庫無し

PiNK 2008 夏在庫無し

PiNK 2008 秋 PiNK 2009 冬在庫無し

PiNK 2009 春

PiNKバックナンバー

fall 2009 • PiNK 63

Page 66: PiNK Fall 2009

このコーナーでは、様々な情報提供ができるよう徐々に充実させていきたいと考えています。検診料金、受診可能な検査の種類などを掲載する予定です。皆さんの医療機関での経験談等もどしどしお寄せ下さい。

東 京 都聖路加国際病院 〒104-8560 東京都中央区明石町9-1 電話:03-3541-5151 www.luke.or.jp/

東京共済病院 〒153-8934 東京都目黒区中目黒2-3-8 電話:03-3712-3151 www.tkh.meguro.tokyo.jp/

女性のための統合ヘルスクリニック[イーク丸の内] 〒100-6403 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルディング3F 電話:03-5220-1070 www.ihc.or.jp

千 葉 県健生クリニック 〒262-0032 千葉市花見川区幕張町4-524-2 電話:043-276-1851 www.min-iren-c.or.jp/kensei/kensei_1.html

千葉新都市ラーバンクリニック 〒270-1337 千葉県印西市草深138 電話:0476-40-7711 www.chibashintoshi.or.jp/

茨 城 県まつばらウィメンズクリニック 〒300-1152 茨城県稲敷郡阿見町荒川本郷2018-7 電話:029-830-5151 http://www.happy-mw.com/

※医療機関によって予約等必要な場合がありますので、事前に連絡をされることをお薦めします。

病 院検 査

体 験 談診療料金

R E S O U R C E S

NPO法人Run for the Cure® Foundation〒108-0074 東京都港区高輪4-18-12Tel:03 - 3466 - 4798 / Fax:03 - 3466 - 4799E-mail:[email protected]担当者:ディレクター 伊禮(イレイ)

ご意見・ご感想はこちらまで ▶

岐 阜 県医療法人馨仁会 藤掛病院 〒509-0214 岐阜県可児市広見876 電話:0574-62-0030 http://www.okbnet.ne.jp/~fuj598/

大 阪 府糸氏クリニック 〒559-0016 大阪市住之江区西加賀屋1-1-6 電話:06-6681-2772 www.myclinic.ne.jp/itoujiclinic/pc/index.html

医療法人 純幸会 豊中渡辺病院 〒561-0858 大阪府豊中市服部西町3-1-8 電話:06-6864-230 www.watanabe-hp.or.jp/hospital/

九   州相良病院 〒892-0833 鹿児島県鹿児島市松原町3-31 電話:099-224-1800

ブレストピアなんば病院 〒880-0000 宮崎市丸山2-112-1 電話:0985-32-7170 www.breastopia.or.jp/

64 PiNK • fall 2009

Page 67: PiNK Fall 2009
Page 68: PiNK Fall 2009