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67 西 Kazuyuki Nishimura Kazutaka Yamaguchi Arata Yamasaka Takashi Egusa 世界情勢が激しく変化する現在,市場ニーズへの対応・製品開発の期間短縮・品質/生産性の向上・コスト 削減をより一層追求するためには,IT(情報技術)を最大限に活用し,情報の共有化や業務の電子化によるビ ジネスプロセスの改革を行うことが重要である。 当社では,①技術情報の共有化による製品開発のコンカレント(並行)化とコラボレーション(協調)設計, ②"ナレッジ・マネジメント"による知的生産性の向上,③QCDを統合した全社的なマネジメント支援,を目 的として,製品に関わる情報をトータルに管理するPDM(Product Data Management)システムの社内開発 に着手した。 本稿では,当社PDMシステムであるAPROS(Advanced Product Data Management System)のうち, 最も基本となる技術情報の共有化機能の開発を中心に,システム構築の着眼点・主な機能概要・システム開発 手法・システム構成等について事例を紹介する。 In order to meet the needs of the market, shorten product development periods, improve quality and produc- tivity, and reduce costs in the midst of the dramatic changes that are taking place in the world today, it is impor- tant to maximize the use of information technology (IT) and to reform the business process through information sharing and business computerization. For the purposes of (1) implementing concurrent (parallel) product devel- opment and cooperative design through sharing of technical information, (2) improving intellectual productivity through "knowledge management," and (3) providing company-wide management support that integrates QCD, our company has begun internal development of a Product Data Management (PDM) System for total control of product-related information. This report introduces examples of key points in system structuring, major functions, and system development / configuration, centered on the development of a technical information sharing function which is the root of the Advanced Product Data Management System (APROS) of our company's PDM system, Development of APROS Product Data Management (PDM) System PDM(Product Data Management)システム「APROS」の開発 Abstract

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67

西 村 一 幸 Kazuyuki Nishimura

山 口 和 隆 Kazutaka Yamaguchi

山 坂   新 Arata Yamasaka

江 草   隆 Takashi Egusa

世界情勢が激しく変化する現在,市場ニーズへの対応・製品開発の期間短縮・品質/生産性の向上・コスト削減をより一層追求するためには,IT(情報技術)を最大限に活用し,情報の共有化や業務の電子化によるビジネスプロセスの改革を行うことが重要である。当社では,①技術情報の共有化による製品開発のコンカレント(並行)化とコラボレーション(協調)設計,②"ナレッジ・マネジメント"による知的生産性の向上,③QCDを統合した全社的なマネジメント支援,を目的として,製品に関わる情報をトータルに管理するPDM(Product Data Management)システムの社内開発に着手した。本稿では,当社PDMシステムであるAPROS(Advanced Product Data Management System)のうち,最も基本となる技術情報の共有化機能の開発を中心に,システム構築の着眼点・主な機能概要・システム開発手法・システム構成等について事例を紹介する。

In order to meet the needs of the market, shorten product development periods, improve quality and produc-tivity, and reduce costs in the midst of the dramatic changes that are taking place in the world today, it is impor-tant to maximize the use of information technology (IT) and to reform the business process through informationsharing and business computerization. For the purposes of (1) implementing concurrent (parallel) product devel-opment and cooperative design through sharing of technical information, (2) improving intellectual productivitythrough "knowledge management," and (3) providing company-wide management support that integrates QCD,our company has begun internal development of a Product Data Management (PDM) System for total control ofproduct-related information. This report introduces examples of key points in system structuring, major functions,and system development / configuration, centered on the development of a technical information sharing functionwhich is the root of the Advanced Product Data Management System (APROS) of our company's PDM system,

Development of APROS Product Data Management (PDM) System

PDM(Product Data Management)システム「APROS」の開発

要 旨

Abstract

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富士通テン技報 Vol.19 No.2

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1.はじめに

世界情勢が激しく変化し,経営環境がますます厳しく

なる現在,企業が生き残るためには,市場ニーズへの対

応・製品開発の期間短縮・品質/生産性の向上・コスト

削減をより一層追求していく必要がある。

これらの課題に対応するためには,めざましく発達し

ているIT(情報技術)を最大限に活用し,コンピュータ

による情報の共有化や業務の電子化によるビジネスプロ

セスの改革を行うことが非常に重要となっている。

PDM(Product Data Management)システムは,製品

に関わる全ての情報を,開発の段階から製品寿命の終わ

りまでトータルに管理するシステムであり,欧米では多

くの企業で採用され,効果を上げている。

当社でも,PDMシステムが有効であると判断し開発に

着手したが,ユーザニーズや業務形態の変更に柔軟に対

応でき,将来の機能拡張が容易に行えるよう,一般的に

よく行われるPDMパッケージ製品をカスタマイズする方

法ではなく,全ての機能を社内開発することにした。

本稿では,当社P DMシステムであるA P R O S

(Advanced Product Data Management System)の開発

事例について紹介する。

2.APROSの開発目的

一般的なPDMシステムは,図面データの共有による製

造支援やSCM(サプライ・チェーン・マネージメント)

のような部品調達支援が主体となっている。

APROSでは,図面データだけでなく,製品に関する日

程・品質・コスト情報や技術ノウハウ,設計業務手順等

の情報も電子化・共有化することで,製品開発全般に渡

る業務支援を対象としている。

その中でも特に重要なAPROSの開発目的は,次の3点

である。

①技術情報の共有化による製品開発のコンカレント(並

行)化とコラボレーション(協調)設計

②"ナレッジ・マネジメント"による知的生産性の向上

③QCDを統合した全社的なマネジメント支援

①製品開発のコンカレント化とコラボレーション設計

製品開発期間の短縮を図るためには,部品調達・生産

準備・サービス準備等の製品開発工程における後工程部

門の業務を前出しし,設計部門の業務とコンカレント

(同時進行)に行う必要がある。このような業務スタイル

のことをコンカレント・エンジニアリングという。日本

の多くの企業では同時進行作業は従来から行われており,

別段新しい手法ではないように受取られることも多い。

しかし,それは紙をベースにした情報共有や会議,電

話による情報伝達により成り立っていたもので,情報の

漏れや伝達ミスにより製品不具合の流出や設計の後戻り

が生じるなどの問題点を抱えている。

このような問題を解決するためには,技術情報を電子

化・共有化することにより,設計部門から後工程部門へ

迅速・確実に伝達することが必要である。特に,製品の

構成や新規部品の情報を製品開発の早期段階から共有化

すること,および設計変更情報をリアルタイムに伝達す

ることが重要である。

また,設計品質を向上させるためには,設計途中の情

報を誰でも自由にアクセスできるようにし,後工程部門

も含めた全員参加型のコラボレーティブ(協調)な設計

に変革することが必要である。コラボレーション設計に

より,仕入先や製造・サービス部門等の意見を物作りの

前に織り込むことができるため,部品製造性・製品組立

はじめに1

APROSの開発目的2

激しい経営環境 の変化

新しい環境

・市場ニーズへの対応 ・製品開発の期間短縮 ・品質/生産性の向上 ・コスト削減

情報の遅れ・伝達ミス

・製品不具合の流出 ・設計の後戻り

支援ツール:PDMProduct Data Management System

IT(情報技術)の活用による ビジネスプロセスの改革が重要

従来

紙・会議・電話による情報伝達 コンピュータによる情報共有

図-1 PDMシステムの必要性

Fig.1 Necessity of PDM System

(シミュレーション・自動化)

構内ネットワーク

初期流動日程管理 品質情報管理 原価企画支援

CAD高度化

関連会社との 図面電子授受

2000~2002

2003~ 2000~2003

1987~1997

1998~

1995~20002001~2002

部門

マネージメント 情報共有

現在

3次元CAD

設計審査支援

CAD

協調設計環境

2001~

国内・海外ネットワーク 社外ネットワーク (顧客・仕入先)

技術情報共有化

関連会社との 協調関係

1995~1996 1996~1998

情報 インフラ

高度 情報活用

全社 社外

ネットワーク 整備

図面データ 共有

技術ノウハウ 活用

APROSの範囲

ナレッジ・マネージメント 1995~

1998~2001

1993~

図-2 APROSの範囲

Fig.2 Scope of APROS

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PDM(Product Data Management)システム「APROS」の開発

69

性・保守性を加味した品質のよい設計を早期に確立する

ことができる。ひいては,物作り後の後工程からの要望

や不具合が低減されるため,設計変更等の手戻りやフォ

ロー工数を削減でき,開発期間の短縮を図ることができ

る。

これらを実現するには,設計途中の情報を電子化する

ことによって設計部門と後工程部門が遠隔地であっても

共有化できるようにすることや3次元CADを組み合わせ

ることによって誰もが形状を容易に理解できる環境を作

ることが必要である。

②ナレッジ・マネジメント

設計品質の向上や開発のスピードアップに直接働きか

けるためには,設計業務手順をナビゲートしたり,設計

者へ技術ノウハウや技術情報などの製品開発に役立つ情

報を提供する"ナレッジ・マネジメント"による"知的生産

性の向上"が必要である。

設計業務手順を標準化し,その業務手順に沿って業務

を進められるようシステム的にナビゲーションすること

で,設計初心者でもやるべきことを漏れなく行うことが

可能になる。また,技術ノウハウ等の情報を有効活用す

るためには,単に設計者がキーワードなどにより検索で

きるようにするだけでなく,設計業務ナビゲーションと

組み合わせてその設計工程に必要な情報を能動的に表示

するような機能が必要である。

③全社マネジメント支援

製品開発を計画通りに進めるためには,プロジェクト

の全体像をリアルタイムに把握し,計画の進捗を確実に

フォローすることが重要である。

進捗管理を行う上で,出図や部品調達などの納期管理

は不可欠であるが,部品の信頼性評価や試作品の評価結

果,原価状況なども重要である。これらの結果や状況に

よっては,設計変更の大きな要因となり,開発日程に大

きな影響を与える。

そのため,プロジェクトをトータルに管理するために

は,出図・評価・部品調達・生産準備等の日程進捗状況

(D),デザインレビュー・プロダクションレビュー・部品

評価・試作品評価等での抽出課題のフォロー状況(Q),

さらに原価目標に対する達成状況(C)の全てを,全社で

共有できる環境が必要である。また,立場や用途に応じ

て,プロジェクト単位・製品単位・部品毎等いろいろな

切り口で状況を表示できる機能が必要である。

3.システム構築上の着眼点

前述の3つの目的を達成するためには,つぎのような

システムを構築する必要があると考えた。

まず,技術情報共有化システムは,図面等の技術情報

や設計変更情報を電子化し共有化する機能と後工程へ迅

速に伝えるための図面発行機能で構成される。また,3

次元CADと連携し,全員参加の設計を行える環境をつく

る。

ナレッジ・マネジメントシステムは,設計場面に応じ

情報やツールを提供する設計業務ナビシステムと,技術

ノウハウを提供し設計審査等を支援するシステムで構成

される。

また,製品開発の進捗把握・遅れ防止を行うための初

期流動管理システムと,品質問題を収集し対策フォロ

ー・再発防止へ繋げるための品質情報システムにてQCD

の全社マネジメントを行う。2つのシステムは,各部門

システムと連携し情報を集約することで,情報をトータ

ルに管理する。

これらのシステムは,互いに連携しており,全体を統

合したシステムがAPROSである。

以上のシステムを構築するため,開発に着手した。

4.技術情報共有化システムの構築上の着眼点

APROS開発の第1ステップでは,品番情報・図面デー

タを中心とした技術情報共有化システムの開発を行った。

以下の章では,技術情報共有化システムに絞って開発事

例の紹介を行う。

まず,システム構築上の着眼点について述べる。

部品調達・生産準備・サービス準備等の部門は,設計

APROSの主機能3

技術情報共有化システムの構築上の着眼点4

連携

実施 記録

初期流動監視システム 【製品開発の進歩状況把握・遅れ防止】

品質問題フォローシステム 【品質問題の迅速・確実なフォロー】

FMEA支援システム 【従来機種との相違点による 品質保証項目の抽出】

チェックリストシステム 【品質保証項目の明文化・漏れ防止】

CAD

設計審査 設計アドバイザ 【審査の自動化】 【CAD上での 設計アドバイス】

設計業務ナビシステム 【業務手順の明確化と場面に応じた情報・ツールの提供により、やるべきことを確実に行うしくみ】

3次元CAD【全員参加の設計】

設計変更

製造切替実施

情報共有 設計変更 図面発行

起動 起動 起動 技術情報共有化システム

品質情報システム 初期流動管理システム

再発防止のための フィードバック

未然防止のための 事前抽出

CAD 連携

【不具合情報の収集解析】

問題 集約

残存状況

【技術情報の再利用 ・迅速な伝達】

出図状況 設計審査状況

【不具合対策の 確実な実施】

実績 期限

設計審査NG

設計設変指示

対策

出図日程管理

ナレッジ・マネジメントシステム 起動

日程計画

部品調達

評価

製造準備

原価見積

評価結果

部品不良

工程内不良

市場不具合

etc

図-3 APROSの全体システム

Fig.3 Overview of the APROS system

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富士通テン技報 Vol.19 No.2

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部門からの情報入手により生産手配や製造準備などの業

務が着手可能になる。そのため,曖昧な出図計画や不完

全な情報では,手戻りなどが多く発生するため着手でき

ない。しかし,トータルでの製品開発期間が限られてい

るため,不完全でもできるだけ早期に設計情報を入手し

て間に合わさなければならないという矛盾がある。

そのため,後工程部門は,"製品全ての図面はどれだけ

か","いつ全ての図面が揃うのか"を設計部門に問合せし

ながら,断片的な図面をつなぎ合わせて製品の全体を整

理するのに多くの工数を費やすことになる。

これらの問題を解決するためには,製品を構成する部

品や製造に必要な図面の関係を明確にし設計変更や製造

準備を確実に行えるようにすることが重要であると考え,

技術情報共有化システムでは,つぎの4つの機能を盛り

込むことにした。

①情報共有機能:情報・図面データ等の技術情報を全社

共有化し,再利用できる機能

②設計変更機能:設計変更情報を事前通知するための

"ECO(Engineering Change Order)"を作成する機能

③図面発行機能:図面発行に関するワークフローを登録

し,図面の電子承認・図面データの保管・出図の通知

を行う機能

④出図日程管理機能:出図の計画と実績を比較して,出

図進捗状況を集計表示する機能

5.情報共有機能

情報共有機能は,品番情報・図面データの保管やCAD

システムとの連携を行い,当社の全製品についての技術

情報を一元管理する。また,保管された技術情報を誰で

も必要なときにデータの所在を意識することなく,色々

な切り口で検索することができる。

また,製品毎に情報を整理し管理するために"製品スト

ラクチャ"という重要な機能を持っている。"製品ストラク

チャ"とは,製品を構成する部品品番をツリー状に階層化

表現したもので,情報を関連付ける骨格(スケルトン)

となる。各部品品番は,関連する属性情報や各部品を表

現するCAD図面・ワープロ文書等とリンクしている。こ

のように,"製品ストラクチャ"には,製品を構成するあら

ゆる電子情報を関連付けて登録できるため,情報が個人

管理になったり所在不明となる事が無く,設計情報を探

整理・管理

保管 再利用

情報共有機能

品質情報・図面データを 一元管理し共有化

迅速な 検索・ 再利用

製品ストラクチャ

AVN

2Din

1Din

CDCH

図面 状況 ●●

0件 0件 10件 25件

出図日程 管理機能

出図進捗状況 ・負荷状況の  共有化

部門・職位に 応じた検索

タスク管理

変更対象 図面検索

変更通知書 作成

設計変更機能

出図管理

出図計画・ 通知書の作成

波及分析

図面発行機能

図面編集

電子承認

配付

電子検図 図面発行フロー の電子化

図-5 第1ステップのシステム機能概要

Fig.5 Outline of System Functions at the first step

製品構成(品番)

実装基盤

部品 PT板

図 面

製品使用

外観図

実装図

部品図

部品図

データ

ワープロ

PDF

HPGL

CAD

CAD

HPGL

CAD

HPGL

部品

製品

図-6 製品ストラクチャ

Fig.6 Product Structure

再利用 製品仕様書 開発仕様書

既存の製品仕様書

製品コンセプト 製品コンセプト

システム構成 システム構成

操作/動作仕様

検査仕様 検査仕様

操作/動作仕様

性能仕様

135000-10200-- 05135000-10500-- 02

検索

キーワード検索

プロジェクト :製品機能 :種類 : 製品仕様書

AVN一体型

99夏市販

従来個人管理のデータも 共有化・再利用可能

いろんな切り口 から図面検索

・CAD図面:ICAD, MC, (Pro/E)・Winアプリ:Word, Excel, Visio等 ・テキストデータ ・イメージデータ:TIFF, HPGL, PDF等

保管

製品仕様書 承認申請図 変更通知書

技術情報を体系化して一元管理 (品番―図番の関連付けを明確化)

ソフトウェア 特採通知書 部品図

対象データ形式

その他

データの所在を 意識しない

図-7 データの再利用

Fig.7 Data Reutilization

情報共有機能5

問合せ対応に 時間を取られる

後工程 の部門

問合せ

問合せ

関連変更でも 別々に出図

設計部門A

設計部門B

図面

変更通知書1

図面

変更通知書2

日程帳票1

日程帳票2

別帳票で管理 関連を整理するのに 時間がかかる

図面はいつ出図されるの? 全体ではどれだけ出図が完成したの? どの図面と図面が関連してるの?

図-4 従来の問題点

Fig.4 Conventional Concerns

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PDM(Product Data Management)システム「APROS」の開発

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し出すのに時間を浪費せずにすむ。

設計部門では,関連設計者が登録データを再利用し,

類似機種の図面や変更図面を効率よく作成することがで

きる。後工程部門では,"製品ストラクチャ"を設計部門が

開発初期段階に作成することで,製品の全体構成や設計

図面の量を前もって把握することができ,部品調達や生

産などの準備を計画的に着手することができる。

6.設計変更機能

設計変更機能では,①変更を目的毎にまとめること,

②設計変更においても出図予定を事前に後工程部門に知

らせること,の2点を開発上の着眼点とした。

まず,変更を目的別にまとめるために,"製品ストラク

チャ"を利用し,変更の波及する範囲を自動的に抽出する

"波及分析機能"を開発した。

波及分析を行うと変更対象となる部品を基点にして影

響する上位の部品・製品を自動抽出し,設計変更の必要

な図面を特定することができる。共通部品を変更する場

合などは複数製品まで影響することが多く,この機能に

より調査や調整に余計な時間を費やすことが少なくなり,

変更漏れもなくなる。

また,従来のECO(設計変更通知書)は,変更図面と

同時に発行されており,その役割は"図面一覧リスト"的な

ものであったが,今回,変更目的や変更時期,および関

連図面の発行予定を事前に通知する"出図計画書"的な役割

へと変え,変更図面より前に発行できるようにした。

ECOが目的別にまとまり,事前に通知されることで,

後工程部門は,変更図面が個別に出てきても何の目的で

出てきた図面で,同様な図面が何時,何枚出てくるかが

あらかじめ分かるため,出てきた図面を順次処理するこ

とができる。

7.図面発行機能

図面発行機能では,従来の紙配付のように図面データ

を後工程部門それぞれに配付するのではなく,必要な部

門が必要なときに図面データを検索し,参照やデータ利

用するという形式にした。また,後工程部門では図面が

発行されたことをすぐに知る必要があるため,E-mailに

て図面発行の通知を行うようにした。

図面発行のフローを簡単に説明すると,まず,設計部

門の管理職が図面発行の承認をすると,図面データが全

社共有のファイル保管サーバに正式保存され,参照可能

な状態になる。保存と同時に後工程部門へ図面発行通知

がメール送信され,その通知をもとに,後工程部門は図

面参照やデータダウンロードを行うことができる。

海外拠点向けのEXTRAサーバへは1日1回転送され,

翌日には海外拠点からも参照が可能である。

従来と比べ,図面配付時間は,国内2日→0H,海外4

~5日→1日と大幅に短縮された。また,技術管理部門

での図面複写・配付費用や後工程部門での図面ファイリ

ング工数を大幅に削減することができた。さらに,輸送

途中での紛失やファイリングミスがなくなるため,旧版

図面等,間違った図面を使用することがなくなる。

8.出図日程管理機能

後工程部門の多くの業務は設計部門からの発行図面を

もとに行われるため,出図の遅延は初期流動計画に大き

く影響を及ぼす。出図日程管理機能では,出図進捗状況

の管理を容易に行えるよう,部門を越えて出図計画およ

び実績を共有し,進捗状況をプロジェクト単位,機種単

位,課単位,個人単位等,見る人の立場や業務に応じて

工場で受領するまで 時間がふえる

必要な図面が配付されない 不必要な図面が配付される

この図面は いらない!

図面が 足りないよ!

技官 従来

図面複写・配付 費用大

後工程

運用後

CAD図面 ワープロ図面 ソフトウェア

設計

区分 図面番号 版 発行図面一覧

製品

設定No

135160-47300--

135845-3620A--

324000-01100--

01

02

02

2111

2111

3242

135000-10200-- 03 2111

基板

ボタン

MD

機種名

135000-102

135000-102

135000-102

324000-011

図種

部品表

実装図

部品図

部品表

必要な図面のみ参照・利用

後工程

電子発行通知 (国内・海外)

製品種別、生産 場所で絞り込んで表示

ファイル保管

図-9 図面発行方法の変更

Fig.9 Change in Drawing Issuance Method

変更計画の早期通知 ・調査、調整時間の削減 ・施設準備の前出し

変更図面の自動抽出 ・関連設変が明確 ・出図漏れなし

135160-47300000/30

135941-3620A700/20

324000-01100700/20

図面番号

01

02

02

部門B

部門B

部門C

担当 変更対象図面一覧

135000-10200000/90 03 部門A

99/2/26

済み

99/2/30

出図予定

99/2/27

324313-09200000/20 04 部門C 済み

変更

変更

変更

波及

変更通知

自動 作成

変更目的:コストダウン

波及分析 出図計画

図-8 波及分析機能

Fig.8 Influence Analysis Function

設計変更機能6

図面発行機能7

出図日程管理機能8

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富士通テン技報 Vol.19 No.2

72

数値やグラフで表現できるようにした。

また,出図の完了/未完了だけではなく,設計・製図・

検図・承認といった出図業務フローが現在どこまで進ん

でいるか,どこで滞っているか分かるようにした。さら

に,フロー毎に設定する納期に遅れた時は,担当者やそ

の管理職へ納期遅延警告メールを自動的に出す機能を設

けた。

これにより,設計部門では,他の関連設計部門の出図

状況をリアルに把握することができる。また,各製品担

当の出図計画を集約管理することで,各担当の業務量や

納期を把握することができ,業務負荷調整や計画見直し

が容易になる。後工程部門では,複数設計部門の進捗状

況を一括把握できるため,プロジェクト全体の進捗状況

を見ながら日程調整ができる。

特に,生産部門では,設計部門への電話問合せ等の進

捗フォロー業務を大幅に削減することができる。また,

出図遅延を早期に把握することができるため,挽回策を

迅速に打つことができる。

9.システム構成

現在,設計部門でのECO作成や出図計画を作成するた

めのC/S(クライアント/サーバ)版と部品の情報や図面,

出図進捗状況等を参照するためのWeb版を提供している。

海外現法を含め,富士通テングループの全ての拠点に

て利用可能(神戸本社以外はWeb版のみ)であり,利用

者数は1,500名を超える。

10.システムの開発手法

一般的にPDMシステムは,パッケージ製品をカスタマ

イズすることでの構築例が多いが,開発時間や費用が膨

大になる事や,利用者ニーズに対し柔軟にかつ迅速に対

応することが困難であるといった問題点があった。

今回のシステム開発に際し,RAD(Rapid Application

Development)開発ツールであるdbMAGICを導入し,最

小限の機能をできたところから提供し,要望を追加して

いくといったスパイラル的な開発手法をとった。

この手法の配慮すべき重要なポイントは,要望を追加

形式で足せるように基本設計を配慮しなければならない

点である。本システムでは,T字型ER図によるデータ解

析手法を併用し,DOA(Data Oriented Approach)によ

り基本設計の充実を図った。

システムへのユーザ要望は,実際に使ってみなければ

なかなか出てこないものであるが,早期に提供できたこ

とで,ユーザ要望の抽出・まとめが早くなり,全体のシ

端末数:600クライアント+Web端末

オブジェクト サーバ

データベース サーバ

アプリケーション サーバ

リクエスタ サーバ

Webサーバ

×200台

神戸本社工場

dbMAGIC クライアント

Web クライアント

中国

エクストラサーバ

フィリピン シンガポール アメリカ(3拠点) メキシコ

中津川

Webクライアント

Webクライアント

×120台

栃木

専用回線

海外拠点

国内拠点

×1台 ×1台 ×5台 ×3台 ×1台

図-11 システム構成

Fig.11 System Configuration

0

20

40

60

80

100

120

ユーザ要望への迅速な対応 平均 32件/週 最高 79件/週

開発手法の変更 従来手法:個別プログラム開発 86人月  97百万円(外注 1,128千円/人月) 新手法:RAD(Rapid Application Development) 33人月  23百万円(社内 72千円/人月)

▲53人月 ▲74百万円

12/14~12/18

12/21~12/25

1/5~1/8

1/11~1/15

1/18~1/22

1/25~1/29

2/1~2/5

2/8~2/12

2/13~2/19

2/22~2/26

3/1~3/5

3/8~3/12

3/15~3/19

3/22~3/26

3/29~4/1

4/6~4/9

4/12~4/16

4/19~4/23

4/26~5/8

5/11~5/14

5/17~5/21

5/24~5/28

5/31~6/4

6/7~6/11

6/14~6/18

6/21~6/25

6/27~7/2

7/5~7/10

〈週別要望/障害対応推移〉

要望/障害 対応数 残件数

図-12 APROSの開発手法

Fig.12 Development Techniques of APROS

システム構成9

システムの開発手法10

図面毎の進捗状況

製品仕様書 図面 タスク 予定 実績 期限まで

10/10 10/811/30 12/112/1 -5日 12/10 8日 12/11 9日 12/11 9日

着手 完了 着手 完了

承認 検図

製図

設計

CDチェンジャ

E-MAIL督促

担当者毎の残タスク状況 A部長

担当者 合計 5 9 10 24

3/83/1先週 まで 未完了分合計

担当者A 担当者B 担当者C 担当者D

2 2 1 0

3 2 3 1

5 3 1 1

10 7 5 2

工数負荷を 見込んだ 開発計画

担当者A

担当者D

ナビゲーション

MDコンポ

チューナ

CDチェンジャ

図面 状況 全画面 出図 完了

遅延

機種毎の進捗状況 Aプロジェクト

118 0 0

70 11 0

82

125

150

38 20 10

115 13 52 50

3日 7日 出図の予定実績管理 他設計部門や後工程部門 が出図状況をリアルに把握

事前準備や 遅延挽回の 早期対応

CDチェンジャが 遅れているぞ!

生産手配を考慮 した出図期限設定

A君の負荷が 大きいからD君 に振ろう

図-10 出図日程管理

Fig.10 Schedule for Issuing the Drawing

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PDM(Product Data Management)システム「APROS」の開発

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ステム開発期間が短縮できた。また,従来の開発期間は,

プログラミング時間に一番時間が割かれるが,今回の開

発手法によりビジネスプロセス改善の検討や運用定着化

により多くの時間を割くことができた。

11.技術情報共有化システムの効果

製品ストラクチャを要とし,部品情報や図面データ・

設計変更情報・日程情報を業務の流れに添って継ぎ目な

く統合することで技術情報共有化システムは大きな効果

を上げることができる。

まず,設計情報の精度向上や図面保管・配付ミスの防

止による製品品質の向上が望める。次に,プロジェクト

して設計作業を並行に進めるために必要な,調整作業や

工程管理・技術情報の検索・保管・設計情報の送付とい

った付帯業務の効率化で画期的な改善を図ることができ

る。さらに,進捗状況共有化による遅延防止・挽回対策

の早期実施が可能となる。

また後工程部門へ情報伝達が正確かつ迅速に行われる

ため,トータルでの製品開発期間の短縮を図ることがで

きる。

12.今後の課題

今回,ご紹介した技術情報共有化システムはAPROS開

発の第1ステップである。すでに,他のシステムも提供

したり開発着手しており,APROSという名の基となる

Advanced PROduct data management Systemのとおり,

機能拡張と他システム連携を行い日々進化させている。

より早く当初の開発目標を達成し,新たなユーザニー

ズに対応できるよう,また,ユーザにより満足してシス

テムを活用して頂けるよう努めていきたい。

dbMAGICは、マジックソフトウェア・ジャパン㈱の登録

商標である。

C

D

・設計変更の漏れ防止等、設計情報の品質向上 ・旧版図面等、図面の誤使用防止

・進捗状況の共有化による、遅延の防止・早期挽回対策実施 ・図面配付リードタイムの短縮       国内 2日 → 0分、海外 4日 → 1日

・技術情報の検索工数、データ再利用による図面作成工数の削減 ・日程計画調整作業や進捗管理業務の工数削減 ・ペーパーレス化による図面保管、配付工数の削減

Q

図-13 技術情報共有化システムの効果

Fig.13 Effect of Technical Information Sharing System

技術情報共有化システムの効果11

今後の課題12

山坂 新(やまさか あらた)

1993年入社。以来,図面管理システム,設計変更管理システムの開発に従事。現在,技術管理部技術管理課に在籍。

筆 者 紹 介

江草 隆(えぐさ たかし)

1978年入社。以来,モートロニクス技術においてクルーズコントロール,エミッションコントロールの設計と企画を経て技術管理に従事。現在,技術管理部技術管理課長。

山口 和隆(やまぐち かずたか)

1983年入社。以来,工場系情報システムの開発に従事。1998年から技術情報系の情報システム開発に関与。現在,生産本部生産技術開発部FAシステム開発課長兼,開発統括部技術情報システム部PDM課長。

西村 一幸(にしむら かずゆき)

1982年入社。以来,オーディオ製品の機構設計を経て,設計支援のための技術情報システム開発に従事。現在,開発統括部技術情報システム部PDM課在籍。