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はじめに
バロキサビル マルボキシル(以下バロキサビル)は日本で開発された新規抗インフルエンザ薬で,2015 年 10 月に厚生労働省より先駆け審査指定制度の対象品目に指定された.2018 年 2月 23 日に世界に先駆けて日本国内で,成人および 12 歳以上の小児ならびに12 歳未満で体重 10kg 以上の小児を適応として製造販売承認され,2018 年 3月 14 日に国内販売が開始された.販売開始がインフルエンザ流行シーズンの終盤であったため(図 1),販売初年度の 2017/2018 シーズンにおける医療機関への供給量は既存のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬と比べて少なかっ
たが,翌 2018/2019 シーズンにはオセルタミビルの供給量を超え,国内で最も多く供給された抗インフルエンザ薬となった(図 2)1). 海外では日本に続いて米国で 2018年 10 月に承認され,販売が開始された.また 2019 年 2 月以降,香港,シンガポールなど複数の国・地域において承認を取得しているが,いずれも成人および 12 歳以上の小児を適応としており,12 歳未満の小児への適応は日本のみである.
1 バロキサビルの作用機序
バロキサビルはインフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼを標的とし
ている.インフルエンザウイルスのRNA ポリメラーゼは PA,PB1 および PB2 蛋白質の 3 つのサブユニットからなる複合体で,バロキサビルはPA 蛋 白 質 の 活 性 部 位 に 結 合 し,キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を阻害する.阻害効果は A 型ならびに B 型インフルエンザウイルスに対して認められるが,B 型ウイルスはA 型ウイルスと比べてバロキサビルに対する感受性が低いことが報告されている 2)-4).
2 臨床試験におけるバロキサビル耐性変異ウイルスの出現
バロキサビルの臨床試験では,薬剤投与によりインフルエンザウイルスの
高下恵美 TAKASHITA Emi/ 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室主任研究官
バロキサビル マルボキシル耐性変異ウイルスの出現率
KEY WORDS・インフルエンザ・バロキサビル・耐性
バロキサビル マルボキシルはインフルエンザウイルスの PA 蛋白質の活性部位に結合し,キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を阻害する.臨床試験では,薬剤投与により PA蛋白質の 38 番目のアミノ酸(PA I38)に変異をもつ耐性変異ウイルスが検出された.抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにより,A(H3N2)ウイルスにおける耐性変異の検出率は A(H1N1)pdm09 および B 型ウイルスより高く,また未成年ならびに 65 歳以上の患者において耐性変異ウイルスの検出率が高いことが明らかになった.すでに耐性変異ウイルスのヒトからヒトへの感染伝播が報告されており,今後もサーベイランスの継続的な実施が重要である.
インフルエンザ[その他の呼吸器感染症] Vol.20 No.4(2019-12) 39 (211)
INFLUENZA ○ 診 断 ○ 基 礎 ○ 疫 学●
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