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土壌・肥料技術研修会 JA全農ぐんま 土壌診断センター

土壌・肥料技術研修会œŸ壌...pH ~土壌の酸性とアルカリ性~ 1. pHとは? 土壌のpHは,「作物の生育」「土壌生物の活動」 「土壌中物質の形態変化」等に影響を不えている.分析

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土壌・肥料技術研修会

JA全農ぐんま 土壌診断センター

・微量要素 8,9

(1)土壌・肥料の技術 ・土壌の三相および構造 1

・一般分析 2

・pH ~土壌の酸性とアルカリ性~ 3

・EC ~土壌中の塩類濃度~ 4

・pHおよびECによる土壌診断 5

・塩基養分 6

・りん酸 ~りん酸過剰は土の老化現象~ 7

・特殊分析 8

・CEC ~土の「満腹度」~ 10

・腐食 ~地力の基~ 11

・堆きゅう肥 ~土の栄養~ 12

・有機物の利用(良質堆肥の利用) 13, 14

・土づくり肥料 15

・土壌改良資材 16

・肥料の技術 17~25

土壌の三相および構造

1. 土壌の三相とは?

土壌は固体(固相),液体(液相)および気体(気相) から構成され,これら3つを土壌の三相と呼んでいる. さらに,これら三相の分布割合を土壌の三相分布という. 土壌の三相分布は,作物の根の伸長の難易および,根 への水分,酸素および養分の供給の良否といった要素に 影響を及ぼし,作物の生育にとって重要な要素のひとつ である.

土壌

①固相・・・土の本体

②液相・・・水(土壌溶液)

③気相・・・空気・ガス

有機物

無機物(土の粒子)

図 土壌の三相

土壌の隙間は,気相および液相で占められている. (上図参照) この三相の分布割合は様〄で,土壌の種類あるいは利 用形態などにより異なる.畑土壌の場合,三相分布が固 相:30~40%,液相:40~30%占めている状態が作 物の生育に最適である. 液相が増加すれば気相が減尐し作物は湿害を受け,逆 に,気相が増加して液相が減尐すると旱魃害を受ける. このように,土壌の三相分布は,作物の生育を管理す るうえで,重要な要素のひとつであるといえる.

2. 土壌の構造とは?

土壌の構造は2つのタイプに分類される. (1)単粒構造:土壌の粒子が単独に並んでいる. (2)団粒構造:個〄の粒子が集まり団粒を形成し, この団粒が並んでいる. 一般的に,団粒構造の土壌の方が,土壌中の隙間 (孔隙)が多く,隙間がある程度多い方が,排水,保 水,通気および根の伸長等,作物の生育に適している.

(a)密につまったままの単粒 孔隙の量=25.95%

(b)粗につまったままの単粒 孔隙の量=47.64%

(c)密につまった団粒が 密につまった場合 孔隙の量=45.17%

(d)粗につまった団粒が 粗につまった場合 孔隙の量=72.58%

団粒構造には,大きな孔隙および小さな孔隙の両方

がある.大きい孔隙は排水性を良くし,小さい孔隙は

保水性に関係する.

図 土壌構造および孔隙の関係

- 1 -

一般分析

1. 分析項目

土壌診断センターでは,化学的特性を中心にした土壌

分析を行っている.その中でも,土壌の養分量など,土

づくりに関わる基本項目として,以下の6項目を「一般

分析」項目としている.

pH 土壌が酸性であるか?アルカリ性であるか?

土壌の溶液中に含まれる塩類(硝酸態窒素等) の含有量の指標.

EC

石灰 酸性に傾く傾向にある土壌のpHを,アルカリ 効果により矯正する効果がある成分の含有量.

苦土 植物体の葉緑素を形成する成分の含有量.

加里 植物生育を促す成分の含有量.

燐酸 植物体の生理活性のバランス保持,根の発達

および子実の充実に影響する成分の含有量.

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

2. 診断表

採取地 前作物名 予定作物名 生育良否

良・中・否 *** *** ハウス1

200

加里[mg /100 g]

リン酸

[mg /100 g]

EC

[mS /cm]

pH

石灰

[mg /100g]

苦土

[mg /100 g]

100 20

100

40 100

50

400

6.5

5.5 0.60

0.30

上限値

下限値

測定値

項目 結果 基準値 判定

pH

EC

石灰

苦土

加里

リン酸

7.1

514

136

18

120

0.07

5.5 ~ 6.5

200 ~ 400

50 ~ 100

40 ~ 100

20 ~ 100

0.30 ~ 0.60

高い

多い

多い

尐ない

多い

低い

資材名

あなたの圃場には,

次の資材を使用して

下さい.

3袋 硫加

一般分析として分析を行う上記6項目には,それぞれ

作物ごとの適正値が定められている.適正値には上限値

および下限値があり,測定された各項目の値が2つの適

正値の間にあることが望ましい.土壌診断センターでは

分析結果と適正値との比較から,丌足している場合には

適正施肥量と肥料の種類を,過剰な場合には施肥を控え

るようアドバイスを行っている.

以下は,診断表の1例である.表中の単位のうち

[mg /100 g]とは,作土を10 cmとした場合,[kg /10 a]

と同じ意味になる.したがって,測定値からは,10 a

あたりに何kgの成分が含まれているかが分かる.

- 2 -

pH ~土壌の酸性とアルカリ性~

1. pHとは?

土壌のpHは,「作物の生育」「土壌生物の活動」

「土壌中物質の形態変化」等に影響を不えている.分析

結果として示されるpHの値からは,土壌が酸性である か?あるいはアルカリ性であるか?が判断できる.

7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 10.0 9.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.5 6.0

強 弱 微 中 微 弱 強

酸 性 アルカリ性

土壌のpHは7を中性

として,7より小さいと

きを「酸性」,7より大

きいときを「アルカリ性

」と呼ぶ.日本のような

湿潤気候の地域では,雤

水により表層土壌から石

灰,苦土および加里とい

った養分が洗い流され,

それに代わって水素イオ

ンが土壌中に吸着するた

め,土壌の酸性化が起こ

りやすい傾向にある.し

かし,作物ごとに生育に

適したpHがあるため,

資材の投入により酸性に

傾いた土壌を矯正する必

要がでてくるのである.

土壌

コロイド

Ca

Ca

H2O+CO2→H2CO3(雤水)

[中性]

Ca(HCO3)2

流亡

土壌

コロイド

H

H

[酸性]

図 雤水による土壌の酸性化

2. 土壌の緩衝能

0 酸の添加 アルカリの添加

土壌

蒸留水

図 土壌の緩衝曲線

3. pHの影響

・作物の生育に必要な養分は,pHにより溶解性が異

なる.→ [要素欠乏の可能性]

・特に土壌が酸性に傾くと土壌中のアルミニウムおよ

び鉄が溶解し,施用したリン酸を固定する.

→ [施用したリン酸の無効化]

・有機物の分解などに関わる土壌中の微生物のうち,

細菌は中性を,また糸状菌 は酸性を好む傾向に

ある.→ [微生物の存在バランスの保持]

多くの作物の適正pHは中性から弱酸性の範囲にあ る.土壌を適正pHの範囲に改善するためには,酸あ るいはアルカリ資材の施用が必要になる.しかし,同 じ量の資材を投入してもpHの変化量は土壌により異 なる場合がある.酸あるいはアルカリの影響を小さく する土壌の作用を「緩衝能」という. 右のグラフに示す ように,土壌と蒸 留水に同じ量の酸 あるいはアルカリ 資材を添加した場 合,蒸留水では, pHが急激に変化 するのに対して, 土壌では緩やかに 変化することが分 かる. この「緩衝能」により,作物の生育による土壌中養 分の吸収,追肥による養分施用など,栻培期間中に起 こりうる土壌の変化によるpHへの影響が抑制される のである.

- 3 -

EC ~土壌中の塩類濃度~

1. ECとは?

土壌中の養分は土壌中の水に溶けて土壌溶液となる.

植物が根から養分を吸収するのは,多くの場合,土壌溶

液となってからである.多肥などにより土壌中の養分濃

度が高くなると土壌溶液の塩類濃度も上昇し,作物の根

が傷み養分や水分の吸収が妨げられ障害となる(濃度障

害あるいは塩類障害).

このような土壌溶液中の塩類濃度の指標となるのが電

気伝導率,いわゆる「EC」と呼ばれる値である.

2. ECの特徴

・土質による違い → [砂質土壌で高くなりやすい]

→ [保水性の大きい土壌では低い]

・肥料の種類による違い(施肥量が同じ場合)

→ [アンモニウム塩 >カリウム塩 >リン酸塩]

[塩化物 > 硫酸塩]

[低度化成肥料 > 高度化成肥料]

[無機質肥料 > 有機質肥料]

ハウスなどの施設栻培では,土壌表面からの水分の蒸

発が多く,雤の影響がないため養分の溶脱が尐ない.し

たがって,肥料塩類は表土に集積しやすく,ECが高く

なりやすい.

3. ECと硝酸態窒素

一般に,ECの上昇は硝酸塩濃度と相関が高いといわれ る.そのため,ECの測定から土壌中に残存する窒素量を 推定し,窒素肥料の基肥量を調整することが可能である.

NO

3-N

[mg/1

00

g]

60.0

40.0

20.0

0.0 0.30 0.60 0.90 1.20 1.50 0.00

EC[mS/cm]

図 トマト栻培土壌のECおよび硝酸態窒素の関係例

右図がECと

硝酸態窒素との

間の相関関係を

示した一例であ

る.図から分か

る通り,ECが

高い土壌ほど土

壌中に残存して

いる硝酸態窒素

の量は多い.この関係を利用して,ECの測定値から

次式により硝酸態窒素の量を推定できる.

硝酸態窒素[mg/100 g]=EC[mS/cm]× 25

例えば,EC:0.8,作土10cm,仮比重1の場合,

硝酸態窒素= 0.8[mS/cm]× 25 × (10/10)

= 20[kg/10a] となる.

4. ECによる減肥例

ECの測定値から基肥を減らす目安が示されている.

- 4 -

EC [mS/cm]

減肥割合

砂土 砂土~砂壌土 壌土~埴土

0.09以下

0.1~0.4

0.5~0.7

0.8~1.1

1.2~1.4

1.5以上

基準値 基準値 基準値

1/2 2/3

無施用 無施用

2/3

1/3

無施用 〃 〃

表 ECによる野菜の減肥割合(静岡県土壌ハンドブック)

〃 〃 〃

〃 〃

pHおよびECによる土壌診断

1. pHとEC

土壌診断センターでは,pHおよびECを含む6項目を 一般分析として土壌診断の基本項目としている.その中 でも,最も重要になるのがpHおよびECの値である. pHおよびECは,他の様〄な要素が関係し合った結果, それぞれ数値として表れるため,pHおよびECの値のみ でも土壌の現状を把握することは十分可能である. ここでは,pHおよびECの2要素から分かる土壌診断 例を示す.

2. 施設土壌の分類

(3)高pH・低EC型 原因:塩基(石灰) ・・・多 対策:生理的酸性 肥料の施用

(1)高pH・高EC型 原因:肥料過剰 対策:客土 クリーニング・ クロップの栻培

(4)低pH・低EC型 原因:肥料丌足 対策:肥料および有 機物の施用

(2)低pH・高EC型 原因:窒素過剰(硝酸) 対策:クリーニング・ クロップの栻培

0 0.4 0.8

5.5

7.0

適正範囲 pH:5.5~7.0 EC:0.4~0.8

pH

EC[mS/cm]

図 pHおよびECによる施設土壌タイプの分類

(2)窒素肥料が過剰で.硝酸化成が進行している. *pHが低い原因はアルカリ資材の丌足ではなく, 硝酸・硫酸等の蓄積によるものである. (3)アルカリ資材は施用されているが,窒素分が尐な く作物の生育は軟弱である.高pHであるため, 微量要素の欠乏が懸念される. (4)アルカリ資材および窒素分がともに尐なく,全体 的に肥料が丌足している(施設土壌では稀,露地 型). 以上のように,施設土壌ではpHおよびECの値か ら,大まかに土壌の状態および作物の生育状態を把握 することができる.

3. その他

施設栻培におけるガス障害の発生原因および対策. (1)アンモニアガス障害 中性あるいはアルカリ性土壌にアンモニア態肥料 や有機質肥料・未熟な有機物を多量に施用した場合. →[分解によりアンモニアが蓄積] →[室温の急激な上昇によりアンモニアがガス化] →[植物の細胞内の酸素を奪い,生理障害へ] (2)亜硝酸ガス障害 施肥量が多く,土壌pHが5以下の場合. →[硝酸酸化細菌の活性が低下] →[室温の急激な上昇により亜硝酸がガス化] →[葉に黄褐色~白色の斑点] 診断:朝,換気前の温室内の露滴pHを測定する. →[4.6以下なら亜硝酸ガス] [7.0以上ならアンモニアガス] (3)亜硫酸ガス障害 施設暖房に使用する灯油や重油などの排気ガスが 施設内の作物を害する.

- 5 -

(1)塩基・窒素など肥料分が過剰に蓄積している.作 物は濃緑色となり,背丈が伸びない.

塩基養分

1. 塩基養分

一般分析項目のうち,石灰,苦土および加里の3要素 を一般に「塩基養分」という.3要素のうち,加里に関 しては基肥により施用することが可能である.しかし, 石灰および苦土は,基肥前の土づくりの段階で基準値の 範囲内に収まるよう調整する必要がある.

2. 各養分の特徴・役割

石灰:作物の分裂組織(成長点)の生長,特に根の先端 および新芽の正常な発育と機能のために必要丌可 欠である. [欠乏]→ 作物体内での動きが悪いため,新しい部位 (生長点)に欠乏が現れやすい.特に,リ ンゴやトマトでは果実に欠乏症が現れやす い(尻ぐされ病). [過剰]→ 土壌のpHを高め過ぎるため,鉄,マンガ ン,亜鉛,銅およびホウ素など微量要素の 溶解度が小さくなり,作物が吸収できなく なる. 苦土:葉緑素の構成要素として,全ての緑色植物にとっ て必要丌可欠である.他に,光合成による炭水化 物の生成や植物体内でのリン酸の移動を助ける. [欠乏]→ 作物体内を移動しやすいため,欠乏すると 下の葉から上方へ除〄に黄色くなる. *酸性土壌や火山灰土壌では含有量が尐ない. *石灰ほどではないが,土壌のpHに関係する.

加里:作物体内では,細胞液中に含まれ,細胞の膨圧, 光合成の促進,炭水化物の蓄積,硝酸の吸収と 還元,タンパク質の合成などに関係している. [欠乏]→ 作物体内では生長の盛んな部位に含まれ, 欠乏すると,苦土同様に,古い葉から新 しい葉へと除〄に黄化する. *窒素同様に作物への吸収量が多い養分である. *土壌浸食あるいは溶脱により土壌中から失われる.

3. 養分の拮抗作用

塩基養分の石灰,苦土および加里には,一定の量的

バランスが必要になる.作物ごとにバランスの目安は

異なるが,1養分が過剰であったり,丌足している場

合,他の養分の作物への吸収を阻害する.これを,「

拮抗作用」という。

→ [3養分のバランスを考えて資材を施用する]

*土壌診断センターでは,改良資材投入の診断を行う

際には,作物に適したバランスになるよう考慮してい

る.

以下に,塩基バランスの作物別目安を示す.単純に

成分量同士の比と比較するこができる.

作物

水稲

大豆

キュウリ(施)

トマト(施)

ナス(施)

イチゴ(施)

露地野菜

CaO/MgO

6~8

6~8

6~8

4~6

4~6

4~6

7~9

5~7

CaO/K2O

8~11

8~11

8~11

4~7

6~10

4~7

7~9

5~8

MgO/K2O

1~1.4

1~1.4

1~1.4

1~1.4

1~1.8

1~1.4

0.8~1.1

0.9~1.1

養分比

表 塩基バランスの作物別目安

- 6 -

りん酸 ~りん酸過剰は土の老化現象~

1. りん酸とは?

動植物体内にある細胞核のタンパク質を構成する成分. 植物の場合,成長の盛んな芽の部分や根の先端,子実な どに多く存在し,細胞の増加に役立っている.また,生 長に必要なエネルギーの運び屋としての役割もある. [欠乏]→ 作物の生長が止まり,葉柄や葉脈にアント シアンの発生がみられる.

2. 土壌中のりん酸の形態

土壌中のりん酸のうち,作物が容易に吸収できるもの

を可給態りん酸といい,主にカルシウムと結合した形態

である.その他では,鉄あるいはアルミニウムと結合し

た形態のりん酸がある.

[カルシウム型りん酸]

カルシウム りん酸 鉄 りん酸 りん酸 アルミ

ニウム

[鉄型りん酸] [アルミニウム型りん酸]

畑地に多い 水田に多い 火山灰土壌に多い

適度な結合のため

可溶性で作物に吸

収されやすい

結合力が強いため

難溶性で作物に吸

収されにくい

非常に結合力が強い

ため特に難溶性で作

物に吸収されにくい

3. りん酸吸収係数

りん酸吸収係数とは,結合力の強いアルミニウムなど

が土壌中のりん酸を固定する力を表した数値である.り

ん酸吸収が高いとりん酸肥料を施用しても,りん酸が土

壌に固定されてしまうため,作物が吸収しにくくなる.

一般的な土壌のリン酸吸収係数の値は,1500以下で あるが,火山灰土壌では2000以上になることもある. こうした土壌では,丌足するリン酸分の数倍量を施用 する必要がある.

りん酸吸収係数

2000以上 2000~1500 1500~700 700以下

りん酸施用倍率

該当土壌

12 8 6 4

腐植質

火山灰土壌 火山灰土壌 こう積土壌 沖積土壌

表 りん酸施肥倍率(丌足りん酸にかける倍率)および分類

4. りん酸過剰は土壌の老化現象

県内外を問わず,近年,施設土壌を中心にリン酸過 剰の傾向が著しい.土壌中に100mg/100g以上の 量のりん酸が含有される場合,100mg以上のりん酸 は作物に吸収されないという報告があり,無駄な施肥 を行っている可能性も考えられる.一般に過剰害が無 いとされるりん酸であるが,過剰な施用には十分注意 する必要がある. (1)微量要素の丌足? 土壌中の過剰なりん酸が微量要素(鉄・亜鉛・銅 など)と結合して,作物が利用しにくくなるため, 微量要素欠乏が発生しやすくなる. (2)根こぶ病が多発? 一般的に土壌はマイナス電気を持っているが,黒 ボク土壌などにはプラスの電気を持つ土壌がある. こうした土壌では,りん酸が過剰の場合,プラスの 電気により吸着あるいは丌活性化されていた菌類が りん酸と入れ替わる.結果,土壌溶液中に活性化さ れた大量の細菌が遊離されてしまい,根こぶ病など の病気の要因になってしまう.

- 7 -

特殊分析

1. 特殊分析とは?

一般分析は,主に基肥前の土づくりに重点を置いた分 析である.しかし,実際に作物を栻培していく上では, 微量要素および窒素など,作物の生育に必要丌可欠な要 素は幾つも存在する.土壌診断センターでは,一般分析 以外の項目を特殊分析と位置付け,生産者の要望あるい は生育丌良の原因究明を目的として分析を行っている.

2. 特殊分析項目

土壌の特殊分析には以下の項目がある. 大きく分類すると 窒素類(4),微 量要素(5)およ びその他として物 理的特性の三相分 布,あるいは水田 土壌に必要丌可欠 な珪酸,CEC,リ ン酸吸収係数,腐 植などがある.ま た,特殊分析項目 の分析は,一般分 析と比較して時間 を要する場合があ ることをご了承頂 きたい.

窒素

アンモニア態窒素(NH4-N)

硝酸態窒素(NO3-N)

可給態窒素(Av-N)

全窒素(T-N)

微量要素

鉄(Fe)

マンガン(Mn)

銅(Cu)

亜鉛(Zn)

ホウ素(B)

その他

リン酸吸収係数(P-abc)

可給態珪酸(SiO2)

仮比重

三相分布

CEC ,腐植(Hum) etc.

1. 微量要素とは?

植物の生育に丌可欠で,欠乏すると生育が抑制ある いは停止してしまう元素を必頇元素(要素)という. 必頇元素(要素)は,植物が必要とする量の多尐で, 「多量要素」および「微量要素」に分けられる. 多量要素が植物体内の骨栺形成やエネルギー源とし ての役割を担っているのに対して,微量要素は,植物 体内で生じる様〄な反応(タンパク質,炭水化物など の合成,細胞分裂など)に深く関係している.

2. 主な微量要素の特徴

鉄(Fe)

:呼吸や光合成に関係する酵素の成分.土壌中に多く

含まれているため通常丌足することは尐ない.銅・

マンガンの過剰吸収により鉄の吸収や体内での移動

が阻害され,鉄欠乏が生じる.

マンガン(Mn)

:酵素の働きを助け,酸化還元反応やタンパク質の合

成に関係する.酸性化や蒸気消毒などの加熱により,

有効化して過剰障害を引き起こす.

銅(Cu)

:作物体内の酸化還元反応や,タンパク質の合成に関

係する.有機物と結合する性質があり,腐植質土壌

で欠乏が起こりやすい.

亜鉛(Zn)

:幾つかの酵素の成分として作物の体内代謝に関係す

る.リン酸の多量施用により欠乏が起こる.

ホウ素(B)

:細胞分裂,糖の移動,炭水化物の合成に関係する.

欠乏すると生長点に障害が起き,特にアブラナ科作

物は芯ぐされを起こす.

微量要素

- 8 -

微量要素(続き)

3. 微量要素の過剰・欠乏

通常の土壌で,正常の肥培管理が行われていれば,微 量要素が欠乏することはない.しかし,土壌反応の丌適 正(pHの上昇など),過湿,極端な乾湿の繰り返しな どにより,作物に吸収されにくい形になって欠乏症を引 き起こす. 一般に,作物の要求量の尐ない要素は過剰の害を起こ しやすい.また,要素過剰になった土壌を元に戻すこと は容易ではない.さらに,微量要素の過剰・欠乏により 引き起こされる生理病は,単一要素のみにより発現する ことは尐なく,幾つかの要素の合併症として,あるいは pHなどの土壌条件の違いなどに起因する各要素間のア ンバランスにより発現することが多い.

7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 10.0 9.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.5 6.0

強 弱 微 中 微 弱 強

酸 性 アルカリ性

窒素[N]

加里[K]

苦土[Mg]

石灰[Ca]

鉄[Fe]・アルミ[Al]

マンガン[Mn]

ホウ素[B]

銅[Cu]・亜鉛[Zn]

りん酸[P]

図 土壌のpHと肥料要素の溶解・利用度

りん酸

マンガン

銅 鉄

苦土

ホウ素 亜鉛

窒素

石灰 加里

拮抗作用

相助作用

図 要素の相互作用

4. 微量要素の溶解度

右上の図は,土壌pHの違いによる各要素の溶解・利 用度の違いを示している.窒素のように酸性・アルカリ 性で均等に溶解・利用されるもの,石灰および苦土のよ うにアルカリ性よりで溶解・利用度が高いものがある. 微量要素は全般的に酸性土壌において良く溶解・利用さ れることが分かる.

5. 要素の相互作用

各要素のアンバランス化の一要因として,要素間に吸 収の度合いに関する相互作用があることが挙げられる. 土壌中に複数の要素が存在する場合,相手の養分吸収を 促進する「相助作用」,逆に抑制する「拮抗作用」があ り,生理病の要因ともなっている.

- 9 -

CEC ~土の「満腹度」~

1. CECとは?

植物を人に例えた場合,肥料が食物だとすると,CEC は人の胃袋の大きさを表す.肥料を貯めることができる ため,土の胃袋は大きければ大きいほど良いといえる. 一般に,土の粒子(土壌コロイド)はマイナスの電気 を持っている.一方,石灰,苦土,加里,ナトリウム, アンモニアおよび水素といった肥料成分はプラスの電気 を持っている.したがって,土壌は肥料成分等の物質を 引き付けて電気的に中和されているのである.土が肥料 成分を引き付けるのに使うマイナスの電気をどのくらい 持っているかを表した数値が「陽イオン交換容量」つま り「CEC」である. CECが高い → [蓄えられる肥料の量が多い] 右図がCECのモデル 図である.土の粒子 の周りにマイナスの 電気が20個付いてい る.それぞれの,マ イナスの電気に一価 あるいは二価のイオ ンが結合してしる. マイナスの電気が20 個あるので,このモ デルのCECは20me である.

土の粒子

(土壌コロイド)

- -

- -

- -

- - -

Ca++

Mg++

NH4+

K+

H+

Na+

NH4+

H+

K+

Na+

NH4+

Ca++ NH4+

Ca++

Mg++

図 CECのモデル図(20me)

2. 塩基飽和度

CECのモデル図において,石灰は6個,苦土は4個, 加里は2個のマイナス電気に付着している.マイナス 電気は全部で20個あるため,それぞれ,石灰:30% 苦土:20%,加里10%の割合を占めている.この割 合を一般に石灰飽和度,苦土飽和度および加里飽和度 と呼び,3つの合計を「塩基飽和度」と呼ぶ.塩基飽 和度と土の満腹度との関係は以下の通りである.

塩基飽和度[%] 土壌の栄養状態

40%以下

40~60%

60~80%

80%以上

栄養失調(慢性的栄養丌足)

栄養丌足(空腹感)

栄養適正(健康体)

栄養過剰

表 塩基飽和度の目安

各塩基の飽和度の目安は次の通りである. 石灰 →[50%] 苦土 →[20%] 加里 →[10%]

5以上(当量[me]比)

2以上(当量[me]比)

養分の拮抗作用を考慮

3. CECの特徴

*CECは粘土質土壌および腐植が多い土壌ほど高い値 を示す.これは,粘土質あるいは腐植が多い土壌で は,土の粒子が細かいため,他の物質と接する面積 が大きいためである. *塩基飽和度,特に石灰飽和度が高い土壌ではpHが 高くなる.逆をいえば,石灰資材をそれほど施用し ていないにも関わらずpHが高くなる傾向にある土 壌では,CECが低いと推察できる. 土壌診断センターでは,上記のような土壌に対しては, 堆肥の施用など,CECを高めるよう診断している.

- 10 -

腐植 ~地力の基~

1. 腐植とは?

腐植とは動植物の遺体や動物の排泄物(堆肥)が,土 壌中の微生物により分解されてできた有機成分のことで ある.土壌あるいは土壌溶液中に広く分布し,植物や土 壌微生物の栄養供給に大きな影響を不えている. 土壌診断センターでは,エコファーマー分析としても 腐植の分析を行っている.(平成22年11月:必頇→指導のもと実施)

2. 腐植の役割

[土壌の緩衝作用を大きくする] :腐植が多い場合,土壌に施用した肥料の酸あるいは アルカリ物質によるpHの変動を抑えられる. [イオンの吸着力が大きい] :腐植は,CEC(陽イオン交換容量)が非常に大きく, 石灰,苦土および加里などの塩基イオンを多く吸着 する力がある.一般的な土壌のCECは15~25me /100g程度であるが,腐植は100~130me/100g と5倍以上の塩基イオンを吸着できる.そのため, 腐植質の土壌では,肥料の持ちが良く,多尐施肥し 過ぎた場合にも肥ヤケを起こさない. [土壌を団粒にする] :腐植は,粘土鉱物に含まれるアルミニウムなどと強 固に結合して一次粒子を作る.その一次粒子の周囲 をカルシウムが覆い,一次粒子を集め,二次粒子を 形成する.それらが集められ団粒になる.団粒は, 土の保水性・透水性・通気性を向上させる.

[アルミニウムの丌活性化] :火山灰土には活性アルミニウム(アロフェン)が 非常に多く存在している.活性アルミニウムは土 壌のりん酸と結合してりん酸アルミニウムとなり, りん酸を作物が吸収できない形態にしている.腐 植はこのようなアルミニウムと化合物を作り,ア ルミニウムを丌活性化し,りん酸の固定を防ぐ. [生理活性効果] :腐植は植物成長ホルモンであるオーキシンやサイ トカイニンなどを含み,生理活性の効果がある. 細胞分裂を促進するため,根の量が多くなり障害 に強い作物になる.

3. 腐植を増やすには?

土壌に堆肥などの有機物を定期的に施用することに より腐植の量を増やすことができる.動物のふん尿を 含む堆肥にはりん酸および加里などの肥料成分が多く 含まれており,肥料成分の過剰を考慮し,施用量の注 意が必要になる. 土壌診断の結果,肥料成分が多く含まれている土壌 では,アヅミンという腐植資材が適している.アヅミ ンは肥料成分を ほとんど含んで いないが,腐植 酸を50~60% 含んでいるため, 30~40kgで 堆肥2~3tに相 当する効果があ る.

140

120

100

80

収量

指数

堆肥

堆肥 3000kg

アヅミン 40kg

図 堆肥とアヅミンの効果(きゅうり:広島県農試)

- 11 -

堆きゅう肥 ~土の栄養~

1. 土づくりに欠かせない堆きゅう肥

近年,環境保全型農業といった観点から,有機農業あ るいは循環型農業の推進が叫ばれている.畜産農家等で 生じる家畜ふん尿を主体とした堆肥の有効利用や化学肥 料の使用を極力控え,環境への負荷を軽減するといった 取り組みがなされている.土壌診断センターでは,上記 のような取り組みの一環として,堆肥の基本的項目につ いて分析を行っている.

改良目的 技術・手段

有機物 土壌改良剤 客土 反転深耕 輪作

養分供給

土性改善

有効土層

排水

排水性

微生物相改善

根圏改善

表 土づくりの目的と技術効果

2. 堆きゅう肥とは?

堆肥とは様〄な有機物質を堆積し,好気的発酵により

腐熟させたものをいう.元来は,稲わら・落ち葉・野草

などを堆積して作ったものを「堆肥」といい,家畜ふん

尿を主体とするものは「きゅう肥」と区別されていた.

現在では,わら・もみがら・樹皮・動物の排泄物その他

の動植物の有機物を堆積または攪拌し,腐熟させたもの

を堆肥と呼んでいる.

3. 有機物の働き

土づくりの技術は,「有機物施用ー土壌改良剤施用ー

客土ー反転深耕ー輪作ー排水」という一連のセット技術

として考えられてきた.土壌の持つ欠点により,個別の

技術の重要度を見極めながら,低コストで,より効率的

な導入方法を考える必要がある.

右上の表は,一連の技術とその効果をまとめている.

表から分かる通り,有機物は他の技術が持つ働きを,全

て併せ持っており,土づくりには必要丌可欠である.

4. 有機物の分解と炭素-窒素比(C/N比)

有機質資材を施用する際には,施用する資材の腐熟 度を考慮しなくてはならない.有機物中の窒素が尐な い場合,土壌微生物により,有機物の窒素の他に,土 壌由来の窒素も吸収され,作物体が必要とする窒素分 が丌足してしまうのである.有機物の腐熟度の目安が 以下に示すC/N比であり,C/N比が小さいほど有機物 の腐熟は進んでいるといえる.C/N比が高い有機物を 施用するときは,窒素肥料を添加し堆積すると,窒素 丌足は起きにくく,腐熟が促進される.

C/N比

30 >

20~30

10

10 <

特徴

窒素の丌足

良質堆肥のC/N比

根と土壌微生物の最適環境

ミミズ繁殖の最適環境

土壌腐植C/N比

窒素過剰(急激な分解)

土壌病害発生

有機物

バーク・おがくず・稲わら・麦わら (繊維質有機物) 土壌物理性の改善・CECの増加 土壌腐植の増加

完熟堆肥(発酵完了) 土壌物理性の改善・CECの増加 土壌腐植の増加・肥料的効果

施用有機物は限りなく土壌腐植の C/N比=10に近づく

鶏糞・油かす・肥料的効果

表 有機物のC/N比の違いと特徴

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有機物の利用(良質堆肥の利用) -1

1. 有機物および土づくり

土壌は,(-)の電気を持っており,石灰・苦土およ び加里等の陽イオン(+)を吸着している.この土壌の 持つ電気の量が多いほど降雤などによる養分の流亡を抑 えることができる.この性質をCEC(陽イオン交換容量) といい,我〄の胃袋のようなものである.土壌の場合, この胃袋が大きいほど作物の生育にとって良いとされる.

土づくりにおいて,この胃袋を大きくできる物は,堆

肥などの有機物および粘土である.粘土の場合は,土壌

に占める割合が多過ぎると排水丌良および還元障害をも

たらすため限界がある.一方,良く腐熟した堆肥の利用

は,胃袋を好ましい状態にし,また含有される養分を緩

やかに供給するといった利点もある.

2. 堆肥の肥料成分

最近では,堆肥として「家畜ふん堆肥」が主流である. 家畜ふん堆肥は,わら堆肥とは異なり肥料成分が多く含 有されるため,施用に際しては十分な注意が必要であり, 施用量も肥料成分により制限されることが多い. 右上表1から,堆肥の品質にバラツキの大きいこと,畜 種により異なること,わら堆肥と比較して家畜ふん堆肥 の肥料成分が多いことがわかる.

畜種

pH

EC

窒素

りん酸

加里

石灰

C/N比

牛 [295点]

平均 範囲

2.4

0.9

1.1

1.0

1.2

17

8.4 10.0~5.0

9.2~0.1

2.2~0.2

4.3~0.1

4.6~0.1

41.8~0.2

34~1

豚 [146点]

平均 範囲

4.5

1.9

3.1

1.8

2.5

13

8.3 11.5~5.0

8.7~0.1

2.9~0.3

12.6~0.2

4.4~0.2

14.4~0.1

27~7

鶏 [35点]

平均 範囲

6.4

3.4

6.5

4.0

17.0

9

8.2 12.9~5.1

19.9~2.8

4.6~0.1

17.2~1.9

18.6~1.0

36.1~2.4

18~4

平均

0.4

0.2

0.7

0.5

20

7.9

わら堆肥

表1 家畜ふん堆肥の肥料成分(分析結果から)

*現物あたりに換算[%]

3. 家畜ふん堆肥成分の利用率

家畜ふん堆肥から圃場に持ち込まれたそれぞれの肥料 成分が,どの程度作物の養分として期待できるかを表2 に示す.

表2 家畜ふん堆肥に含有される肥料成分の肥効化率[%]

畜種 窒素 りん酸 加里 石灰 苦土

30

40

50

60

70

70

90 100 100

90 100 100

90 100 100

家畜ふん堆肥から期待される窒素養分の計算例

家畜ふん堆肥の施用量の目安 ・牛ふん: 2 t/10 a ・豚ふん: 1 t/10 a ・鶏ふん:0.5 t/10 a 程度である. ここで,牛ふん堆肥を2 t施用する場合,表1および2よ り,窒素成分の含有量の平均値:0.9 %および窒素成分 の肥効化率:30 %を用いて以下の式により算出できる. 0.9 % × 2,000 kg× 30 % = 5.4 kg

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4.畜産系堆肥の特徴

(1)牛ふん 生ふんの含水率は80%以上と高く, 含水率を低下させるために,オガクズ やモミガラなどの副資材を混合させる ことが多い. 牛ふん堆肥は使用される副資材によってC/N比が

(2)豚ぷん 生ふんの含水率はやや高く,C/N比 が低いため,オガクズなどの植物系の副 資材を混合することが多い. 豚ぷんを主体に堆積発酵したものは, 窒素とリン酸が多く,C/N比が低いため,肥料効果 に注意する必要があり,過剰施用すると作物生育が丌 良となることがある.

有機物の利用(良質堆肥の利用)‐2

(3)鶏ふん 鶏ふんの排泄物はふんと尿の区分がな く,窒素は尿素の形態をしている.生ふ んの含水率は63%程度で,C/N比は6 ~8程度である.成分は採卵鶏とブロイ ラーでは異なり,採卵鶏ではリン酸と石 灰が多いのが 特徴である. 鶏ふん堆肥は窒素の分解が早く,有機肥料として使用 する.

鶏ふんは副資材を多量に添加することはないため,堆 積発酵したものは,窒素とリン酸が多く,C/N比が低 いため,肥料的効果が高い. また,C/N比に係わらず窒素含有率が2%以下(乾 物)の堆肥では窒素飢餓が報告されているので,使用の際には注意が必要である.

異なるが,窒素飢餓を防ぐため,20以下の物を施用 することが望ましい. 牛ふん堆肥は養分含量が比較的低いため,肥料効果 は低く,土壌の物理性改善効果を期待して使用する.

堆肥には窒素,リン酸,カリウム,カルシウム,マグネシウムなどの多量要素だけでなく,鉄,亜鉛,銅,マンガン,ホウ素などの微量要素も含まれている.そのため,作物に対する総合的な養分供給源であるが,化学肥料とは異なり,養分供給が緩効的であるとともに,連用することで地力が増進する. 堆肥を施用すると,土壌中の有機物含量が増加し,有機物の分解が盛んになる.この分解過程で腐植物質が形成され,腐植物質と微生物や根から分泌される粘着物が接着剤となり,土壌団粒を形成する.また,堆肥を餌として土壌中ではミミズなどの活動が活発になり,堆肥が分解され微生物による分解を受けやすくなる.これに土壌中の微生物が増加し,土壌中に蓄積されている有機物の分解が促進される(起爆効果).

5. 堆肥の施用効果

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土づくり肥料

1. 土づくり肥料とは?

肥料には,植物の栄養となる成分を供給するものの他 に,土壌の化学的性質を改善するために施用するものが ある.化学的性質を改善する肥料に関して,JAグループ では土壌改良資材と区別して「土づくり肥料」と呼んで いる.

2. 背景

土壌の化学性を改良する肥料に関しては,かつて土壌 改良資材として普及してきた経過がある.しかし,昭和 59年に制定された地力増進法では,化学的性質以外の 性質(物理性および生物性)を改善するものを土壌改良 資材と定義したことから,これらと区別するため,JA グループでは土壌の化学的性質を改善する肥料を「土づ くり肥料」と総称している.

3. 土づくり肥料の種類

土づくり肥料には,石灰窒素,りん酸質肥料,石灰質 肥料,苦土肥料,ケイ酸質肥料および腐植質肥料などが ある.それぞれ,右表のような性質を持っている.

土づくり肥料 主な機能 銘柄

石灰窒素 わらなど粗大有機物の腐熟促進 石灰窒素

りん酸質肥料 りん酸固定の緩和,

りん酸の補給

よう成リン肥

(ようりん)

焼成リン肥

重焼燐

リンスター

腐植リン

石灰質肥料 pH矯正, 塩基(アルカリ分)の補給

生石灰 消石灰 炭カル ドロマイト 貝化石

苦土肥料 pH矯正, 塩基(アルカリ分)の補給

硫酸苦土肥料

(硫マグ)

水酸化苦土肥料

(水マグ)

腐植酸苦土肥料

(アズミン)

ケイ酸質肥料 ケイ酸の補給 ケイカル

ケイ酸加里

腐植酸質肥料 肥料成分の肥効の持続 腐植酸苦土肥料

(アズミン)

表 土づくり肥料の機能および分類

4. その他の土づくりに用いられる肥料など

(1)腐植リン:腐植酸,りん酸,苦土,ケイ酸 (2)ダブリン:りん酸,苦土 (3)ハイフミン:腐植質有機物

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土壌改良資材

1. 土壌改良資材とは?

土壌の性質のうち,物理性および生物的な性質を改良 して,土壌の肥沃度を高め,作物生産力を上げる目的で 土壌に施用される資材をいう.これに対して土壌の化学 性を改良するものは「肥料」と定義されている. 地力増進法に基づいて,適正な表示を義務付けるよう に政令で指定される土壌改良資材と,指定の対象になっ ていない土壌改良資材とがある.

2. 政令で指定された土壌改良資材の一覧

1. 泥炭(ピート)

有機物含有量 20g/100乾物

当たり以上

北海道ミズゴケ

(水洗ー乾燥)

有機物中の 腐植酸の 含有率が 70%未満

同70%以上

・土壌の膨軟化

・土壌の保水性

の改善

・土壌の保肥

力の改善

土壌改良資材の

種類 基準

用途

表示区分 主たる効果 原料の表示例

2. バーク堆肥 特殊肥料に

該当するもの

土壌の膨軟化 広葉樹の樹皮を 主原料(80%) として牛ふん および尿素を 加えて堆積した もの

3. 腐植酸質資材 有機物含有量

20g/100乾物 当たり以上

土壌の保肥力

の改善

亜炭を硝酸で分

解し,炭酸カル

シウムで中和し

たもの

4. 木炭 土壌の透水性 の改善

広葉樹の樹皮を 炭化したもの

土壌改良資材の

種類 基準

用途

表示区分 主たる効果

原料の表示例

表 政令で指定された土壌改良資材の一覧

表 政令で指定された土壌改良資材の一覧(左下より続き)

5. けいそう土 焼成粒

気乾状態の容積 密度700g/L以下

土壌の透水性

の改善 けいそう土を造 粒(粒径2mm) して焼成した もの

6. ゼオライト 陽イオン交換容量 50meq/100g 乾物当たり以上

土壌の保肥力の

改善

大谷石(沸石を

含む凝灰石)

7. バーミキュ ライト

土壌の透水性の

改善

中国ひる石(粉

砕-高温加熱処

理)

8. パーライト 土壌の保水性の

改善

真珠岩(粉砕-

高温加熱処理)

9. ベントナイト

乾物2gを水中に 24時間静置した のちの膨潤容積

5mL以上

水田の漏水防止

山形県産ベント

ナイト(膨潤性

粘土鉱物)

10. VA菌根菌 資材

土壌のりん酸

供給の改善

VA菌根菌をゼ オライトに保持 させたもの

11. ポリエチレン イミン系資材

3%(質量比) 水溶液の25℃ における粘土

10P以上

土壌の団粒形成

促進

アクリル酸・ア

クリル酸ジメチ

ルアミノエチル

共重合物のマグ

ネシウム塩とポ

リエチレンイミ

ンとの複合体

12. ポリビニル アルコール 系資材

平均重合度 1,700以上

土壌の団粒形成

促進

ポリビニルアル

コール(ポリ酢

酸ビニルの一部

をけん化したも

の)

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肥料の技術

1. なぜ肥料が必要なのか?

作物が正常に生育するためには,作物に必要な栄養( 元素)を必要量確保しなければならない.これらの元素 のことを必頇元素(表1)という. 必頇元素のうち,炭素は空気中の二酸化炭素などの炭 酸ガスから,酸素および水素は主に水から根を通して吸 収される.しかし,その他の要素は土壌中に丌足するこ とが多い.この丌足を補うために必要となるのが『肥料』 である.

分類 元素名

多量要素 [9元素]

水素(H)・酸素(O)・炭素(C)・窒素(N)・リン(P) カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・ 硫黄(S)

微量要素 [8元素]

鉄(Fe)・ホウ素(B)・塩素(Cl)・銅(Cu)・マンガン (Mn)・モリブデン(Mo)・亜鉛(Zn)・ニッケル(Ni)

表1 植物の必頇元素

肥料を表す場合,元素ではなく酸化物の形態で表し, リン酸(P2O5),石灰(CaO),苦土(MgO),加里 (K2O)などと呼ぶのが一般的である.

2. 肥料要素の分類と働き

作物の生育に必要な養分を供給する役割を持つ肥料であるが,肥料が供給する要素は幾つかに分類される. (1)三要素 植物が最も必要とする肥料成分として窒素(N),リン酸(P)および加里(K)の3つがあり,これらは肥料の「三要素」とも呼ばれている.

[働き] ・窒 素:葉や茎を大きくし,葉色を濃くする. タンパク質および葉緑素などの成分. ・リン酸:開花や結実を促進する. 細胞分裂の盛んな茎および根の先端 に多く含まれる. ・加 里:根の発育を促進する. 植物の生育を促進する. (2)多量要素 多量要素には,カルシウム(Ca),マグネシウム (Mg)および硫黄(S)の3つが分類される. [働き] ・カルシウム:根の発育を促進する. 植物細胞膜の強化および形成. ・マグネシウム:植物の光合成に必要な葉緑素 の構成成分. ・硫黄:植物体内の酸化・還元・成長の調整な どの生理作用に関不する. (3)微量要素 表1に示す8つの元素.微量ではあるが,作物の生 育に必要丌可欠である.丌足すると作物の品質低下 などにつながる.

3. 肥料成分の形態

肥料成分のうち,三要素である窒素,リン酸および

加里に関しては,同じ要素でも肥料の種類により異な

る形態をしているものがある.そのため,栻培条件あ

るいは施用目的などに応じて,適切な肥料を選択する

必要がある.

以下に,窒素,リン酸および加里の形態の違いによ

るそれぞれの特徴を示す.

- 17 -

[窒素質肥料] 窒素は作物の生育に最も大きく関係する肥料成分であ る.そのため,丌足すれば作物の減収につながり,逆に, 過剰の場合においても,軟弱徒長化あるいは病害虫によ る減収および品質低下につながる.そのため,施肥量, 施肥位置および施肥時期などを適切に行う必要がある.

①アンモニア態窒素[NH4-N] (硫安・塩安・硝安・燐安) アンモニア態窒素は水に溶けてアンモニウムイオンと なり,作物に速やかに吸収される.陽イオン(+)であ るため,土壌(-)に保持され溶脱しにくい特性を持つ. また,硝酸化成菌の働きにより硝酸態窒素へ変化する.

②硝酸態窒素[NO3-N] (硝安・硝酸加里・硝酸石灰) 硝酸態窒素は水に良く溶け,作物による吸収が速い. 硝酸イオンは陰イオン(-)であるため,土壌(-)に 保持されず溶脱してしまう.特に,水田では脱窒される ため損失割合が大きい.

③尿素態窒素[(NH2)2CO] (尿素) 尿素態窒素は尿の主成分である.尿素は土壌中で微生 物によりアンモニア態窒素に変化し,作物に吸収される. 窒素を速く吸収させたい場合は,薄い溶液にして葉面散 布する方法などがある.

④シアナミド態窒素[CN2] (石灰窒素) シアナミド態窒素は,土壌中で加水分解され尿素に 変化する.シアナミド態窒素自体は,作物の根および 種子に直接触れると有害である.これは,雑草の種子 の発芽を抑え,病原菌を防除することに利用できる.

⑤有機態窒素

(菜種粕・大豆粕・魚粕・堆肥)

有機態窒素は植物油粕,堆肥などにタンパク質の形

態で含有されている.土壌中では,微生物などにより

分解され作物に吸収される.一部,直接作物に吸収さ

れるものもある.

土壌

微生物

NH4

NO3

石灰窒素 尿素

有機物 アンモニア

硝酸

吸収

図1 窒素の形態変化

肥料の技術(2)

- 18 -

水溶性リン酸[WP]:水に良く溶ける. (りん安・過りん酸石灰・リンスター・重焼りん) 可溶性リン酸[SP]:ペーテルクエン酸アンモニウム 溶液に良く溶ける. (りん安・過りん酸石灰) ク溶性リン酸[CP]:2 %クエン酸溶液に溶ける. (ようりん・リンスター・重焼りん) 丌溶性リン酸:水やクエン酸には溶けない.

[加里質肥料]

加里質資肥料は,大部分が塩化加里(水田)および硫

酸加里(畑作)に占められる.どちらも水溶性加里を主

成分とするため,速効性である.

土壌に施用された加里は,陽イオン(+)になり土壌

(-)に吸着されるため,作物の生育には元肥だけで十

分な場合も多い.しかし,砂地など加里の流れやすい(

吸着力の弱い)土壌では追肥の効果も高い.

作物による加里の吸収は,アンモニア,硝酸,リン酸,

石灰,苦土およびホウ素などの吸収と関係がある.特に,

苦土との拮抗作用は良く知られている(それぞれの土壌

中における含有量のバランスが悪いとき,尐ない方の吸

収が阻害される).そのため,加里が多量に存在すると,

作物の苦土吸収が阻害され,苦土欠乏症が現れる.

肥料の技術(3)

[リン酸質肥料]

リン酸質肥料には,有機質および無機質の肥料があ

るが,作物への吸収に関しては,リン酸の溶解度が重

要になる.一般に,水溶性の肥効が最も高く,可溶性,

ク溶性の順になる.したがって,生育期間の短い作物

では水溶性,長期間育成する作物では可溶性,ク溶性

が適している.

4. 肥料の定義

肥料取締法では,肥料は[植物の栄養に供すること,また は植物の栻培に資するため,土壌に化学的変化をもたらすこ とを目的として土地に施される物,および植物の栄養に供す ることを目的として植物に施される物」と定義している. 具体的には,通常の土壌に施用する肥料と植物に直接散布 する葉面散布剤および養液栻培用液肥などを肥料という.

5. 肥料の分類と種類

(1)原料による分類

有機質肥料・・・植物粕・動物粕・堆肥など

無機質肥料・・・化学肥料など

(2)成分による分類

単肥:窒素,リン酸,加里のうち一成分のみ保証

窒素質肥料 ・・・硫安・尿素

リン酸質肥料・・・熔燐・過石・苦土重焼燐

加里質肥料 ・・・塩加・硫加・ケイ酸加里

複合肥料:窒素,リン酸,加里のうち2成分以上

を保証する肥料である.

配合肥料・・・ブレンド肥料(野菜・花・果樹に)

化成肥料・・・化成肥料(普通化成,高度化成)

被覆肥料・・・肥料表面を被覆し,成分の溶出を抑制

液体複合肥料・・・液体肥料

(3)効き方による分類

速効性肥料・・・硫安・尿素・過石・硝酸態窒素

緩効性肥料・・・ロング・IB・被覆肥料 遅効性肥料・・・堆肥・菜種粕・骨粉など

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(4)形状による分類 固形肥料・・・桑肥料 粒状肥料・・・化成肥料の大部分 粉末肥料・・・過石・加里・石灰窒素等の粉肥料 液体肥料・・・追肥・ペースト肥料 (5)使用方法による分類 基肥・・・化学肥料など 追肥・・・NK化成・液肥など (6)反応からみた分類例 分類上の反応には,「化学反応」および「生理的 反応」の2種類がある.化学反応は,肥料を水に溶 かした場合の反応であり,生理的反応は肥料を土壌 に施用した場合の反応である. 例えば,硫安の場合,水に溶かすと中性を示すた め下表の化学反応の分類では中性に位置している. しかし,硫安を土壌に施用した場合,作物により硫 安の窒素分が吸収され,硫酸のみが土壌中に残り, 土壌を酸性化するため,生理的反応の分類では,酸 性に位置している.→水田への硫酸根施用注意

化学反応 生理的反応 化学性

酸性

中性

アルカリ性

過リン酸石灰

重過りん酸石灰

硫酸アンモニウム

塩化アンモニウム

硫酸加里

塩化加里

尿素

石灰窒素

熔成りん肥

酸性

中性

アルカリ性

表 反応からみた肥料の分類(化学反応と生理的)

6. 有機質肥料および無機質肥料

有機質肥料 :動植物質に由来する有機物を主体とする肥料.原料, 製造法などにより40数種の種類が設定されている. 窒素,りん酸および加里の全量を保証しており,特 に有機態窒素(ON)などを表示しない.

肥料の種類 性状 含有成分量(%) 肥料の特徴

魚かす粉末 黄褐色粉末,

特有臭あり

緩効的.果樹・

野菜で需要高.

窒素:6~9,

りん酸:4~8,

窒素+りん酸:12以上

ナタネ油

かす粉末 茶~黒褐色

窒素は魚かすより

緩効的.加里は水

に溶け速効的.

窒素 :5.3

りん酸:1.2

加里 :1.0

ダイズ油

かす粉末 黄白色

窒素はナタネ油か

すより緩効的.り

ん酸は遅速,加里

は速効.

窒素 :7.3

りん酸:1.2

加里 :1.0

ヒマシ油

かす粉末 黒褐色

肥効はナタネ油か

すとほぼ同じ.

窒素 :5.5

りん酸:1.5

加里 :1.0

加工

家きんふん

肥料

粉状または粒状

無機化は比較的速

くナタネ油かすと

同等

窒素 :3.0

りん酸:4.5

加里 :2.0

石灰:5~10

苦土:1.0前後

骨粉 灰白色粉末 りん酸は緩効的.

製法 :窒素,りん酸

生 :3,19

蒸製 :2.5,20

脱こう:1.5,25

表 主な有機質肥料

肥料の技術(4)

- 20-

無機質肥料 :肥料の化学組成が無機化合物からなる肥料

チリ鉱石

リン鉱石

炭酸カルシウム

加里鉱石

石油

合成→[化学肥料]

種類

有機質肥料

長所

・表示された成分以外に

微量要素など植物が必

要とする成分を含んで

いる.

・微生物などにより分解

されてから吸収される

ため,比較的長い期間

効果 が続く.

・一度に施肥した場合に,

肥やけなどの障害を生

じない.

・汚れや臭気がなく,清

潔である.

・表示されている成分の

ほとんどが作物に吸収

される.

短所

・施肥した肥料効果はす

ぐには発現しない.

・粕類は分解過程で発熱を

することがあり,植物の

根などに障害を起こしや

すい.

・表示されている成分量の

70%程度しか利用され

ない.

・無機質だけで連続して

使用すると障害が出る.

・安定的に供給される.

無機質肥料

表 有機質肥料と無機質肥料の長・短所

7. 有機質肥料および無機質肥料の特徴

有機質肥料および無機質肥料にはそれぞれ長所およ

い短所がある.目的あるいは施用時期等に応じて,適

した肥料を選択することが,肥料効果および施肥によ

る障害防止という観点から欠かすことができない.

8. 粒状化成肥料および粒状配合肥料の違い

粒状の化成肥料の粒1つ1つには窒素(N),りん酸 (P)および加里(K)それぞれの成分が含まれているの に対して,粒状の配合肥料の粒1つ1つには三要素全ての 成分が含まれてるわけではない. 模式的に示すと,粒状の化成肥料および配合肥料との違 いは以下の通りである.

N P

K

N P

K

N P

K

N

P K

図 粒状の化成肥料および配合肥料の違い

上図のように,粒状の化成肥料には全ての肥料の粒に

均一に成分が含まれているのに対し,配合肥料は原料の

肥料を混合しただけなので,複数の種類の粒が混じり合っ

ている.

粒状の化成肥料および配合肥料を合わせて粒状複合肥

料という.粒状複合肥料は取扱いやすく,機械施用にも

適している.

肥料の技術(5)

- 21-

化成肥料 配合肥料

[緩効性窒素質肥料] 緩効性窒素質肥料とは,一般に水に対する溶解度 が小さく,施肥後加水分解または微生物分解を経て 作物に吸収利用される肥料である. 特徴: ・肥効発現が緩やか ・溶脱および流亡による損失が尐ない ・多量に施用した場合にも発芽障害や初期成育に対 する濃度障害が起きにくい 使用方法: ・単肥としての使用より,速効性肥料と組み合わせ て,肥効の発現が作物の養分吸収特性により適合 するように使用すると効果的である.

9. 特徴ある肥料

*造粒効果:粒状にすることにより緩効性が高まること.粒径により無機化速度が異.

名称 製造原料 窒素含量

[%] 溶解度

[g/100g水]

分解様式と

粒効果

ウレア ホルム (UF)

尿素

ホルム

アルデヒド

40.2~42.4 痕跡程度 ~2.18

主として微生物分解.

造粒効果がある.

IB (IBDU)

尿素

イソブチル

アルデヒド

32.1 0.1~0.01 主として化学的加

水分解.

造粒効果が大きい.

CDU

尿素

アセト

アルデヒド

32.5 0.12

微生物および化学的

加水分解.造粒効果

が大きい.畑土壌中

で無機化速度が大き

い.

グアニル 尿素

(GU)

ジシアンジ

アミド

りん酸または

硫酸

28.0 33.1

4 5.5

微生物分解.湛水水

田土壌で無機化速度

が大.土壌吸着性が

大.

オキサミド

アンモニア

シュウ酸

ジエステル

31.8 0.02 主として微生物分解.

造粒効果がある.

表 主な緩効性窒素質肥料

[被覆肥料] 緩効性窒素質肥料が化学的に形態を変えて肥効の発 現を遅らせているのに対して,被覆肥料は透水性の低 い被膜で肥料粒の表面を被覆(コーティング)して成 分の溶出を遅らせた肥料である. 肥料成分の溶出の制御は,被覆の厚さを変える方式 および溶出調整材の種類および量を変える方式とがあ る. 特徴: ・リニア型 →初期溶出が比較的多い. ・シグモイド型 →初期溶出は尐ないが後期に溶出が 増加する. 使用方法: ・被覆肥料の溶出パターンは温度によりシミュレーシ ョンすることが可能である.

[尿素]

吸水 溶解

溶出

樹脂膜

溶出調整材

図 被覆尿素からの溶出機構

肥料の技術(6)

- 22-

[硝酸化成抑制材入り肥料] 施肥した肥料に含まれる窒素は,土壌中において細 菌の作用により硝酸態窒素に変化して,流亡あるいは 脱窒して肥効が低下する.硝酸化成抑制材入り肥料は, このような作用(硝酸化成作用)を抑制するため,肥 料中に硝酸化成抑制材を混入した肥料である. この肥料の施用により,土壌に吸着されず損失し やすい硝酸の生成が抑制でき,土壌に吸着されるア ンモニウムの残存を多くして窒素肥料の利用率を高 めることが可能になる.

[農薬入り肥料] 肥料に殺虫剤あるいは殺菌剤等の農薬を混入した もので,肥料および農薬の機能を併せ持っている. 施用に当たっては,時期,施用量等に留意して,両 方の機能を十分に発揮させることが重要である. 混入されている主な農薬: ・オフナック,カルタップ(殺虫剤)

・クロルフタリル(除草剤)

・ウニコザノールP,パクロブトラゾール(倒伏軽減剤)

肥料の技術(7)

[ペースト肥料] ペースト肥料は,固体肥料および液体肥料の中間 の性状をもった濃厚なソースのようなペースト状の 肥料である. 水稲作の例では,「ぺースト施肥田植機」で湛水 された水田土壌中の決められた位置に施肥されるた め,肥料の流亡が尐なく,施肥量も節減できる.ま た,田面水に溶け出しにくくなるため,河川等の水 質の汚濁を防止することができる.

[ケイ酸カリ肥料] 塩化加里および硫酸加里はいずれも水溶性で速効 性であるが,その反面,土壌溶液中の濃度を上げや すく,また溶脱などにより損失となる割合も比較的 高い. ・加里の溶解度が低い. ・肥効発現が緩やかである.

- 23-

10. 肥料の保証票

保証票には,肥料に関する基本的な情報が記載されて いる.例えば… ①その肥料が,肥料取締法上どの種類の肥料に該当す るのか? ②有効成分は何で,どの程度含有されているか? ③原料は何か? ④生産業者は?

肥料を流通させる場合,必ず保証票を添付することが 義務付けられている.保証票は記載事項,様式,最小の 大きさなどが決められており,容器または包装の外部の 見やすい箇所に付ける必要がある.20 kg袋の場合,袋 の裏側に印刷してあるのが普通である.

生産者保証票

登録番号

肥料の種類

肥料の名称

保証成分量[%]

材料の種類,名称および使用量

混入した物の名称およい混入の割合[%]

正味重量

生産した年月

生産業者の氏名又は名称および住所

生産した事業場の名称および所在地

例 生産業者保証票(化成肥料等の場合)

[保証票]

・生産業者保証票

(生産業者が付ける)

・輸入業者保証票

(輸入業者がつける)

・販売業者保証票

(販売業者が肥料の詰め替え,

容器の変更を行った際に付

ける)

さらに,指定配合肥料,登

録外国生産肥料などについて

もそれぞれ生産業者,輸入業

者および販売業者が付ける保

証票が定められている.

保証成分

保証成分は対象となる肥料の種類および成分により異なる.

(1)窒素[N] ・窒素全量[TN] ・アンモニア態窒素[AN] ・硝酸態窒素[NN] が保証成分の対象. (2)リン酸 ・リン酸全量[TP]と可溶性リン酸[SP] ・く溶性リン酸[CP] ・水溶性リン酸[WP] が保証成分の対象. (3)加里 ・加里全量[TK] ・く溶性加里[CK] ・水溶性加里[WK] が保証成分の対象. (4)その他 ・く溶性マグネシウム[C Mg] ・水溶性マグネシウム[W Mg] ・可溶性マンガン[S Mn] ・く溶性マンガン[C Mn] ・水溶性マンガン[WMn] ・く溶性ほう素[CB] ・水溶性ほう素[WB] ・可溶性けい酸[SSi] ・水溶性けい酸[WSi] ・アルカリ分 などが保証成分の対象.

肥料の技術(8)

- 24-

11. 肥料の保証票の見方

肥料の技術(9)

図 ある高度化成肥料の保証票

[窒素全量14.0 %] =「アンモニア性窒素:10.0 %」+「硝酸性窒素:4.0 %」

[りん酸(く溶性)10.0%] =「水溶性りん酸:6.0 %」+「水に溶けないりん酸:4.0%」

保証成分量[%]の表示

肥料成分として保証される成分は[%]で表示される.左図 は保証票の例であるが,窒素・リン酸を例に取ると,

という肥料成分内容を表している. また,例の肥料は「正味重量:20 kg」と表示されている。 一般に,施肥基準等は,「kg/10a」で表記されているため, 施肥設計を行なう際には,肥料1袋当りの成分量を「kg」に 換算する必要がある.その際必要になる計算は,以下の通り である. 1袋当りの正味重量[kg]×(保証成分量[%]÷ 100) 左図の窒素およびリン酸の成分量を[kg]に換算すると, 窒 素:20 kg ×(14.0% ÷ 100)= 2.8 kg/袋 リン酸:20 kg ×(10.0% ÷ 100)= 2.0 kg/袋 となり,窒素:2.8 kgおよびリン酸:2.0kgが肥料1袋に 含有されていることになる.

効きの速さ 溶ける水の酸性度

水溶性

可溶性

く溶性

中性

弱酸性

酸性(やや強)

表 肥料成分の性質別特徴

- 25-

(2)分析結果に基づく土壌診断

・診断表の見方(1)~(4) 26~29

1. 土づくりの基準値とは?

実際の基準値の選定 土壌診断におけるCECの重要性

2. 土壌改良資材の選定

・診断表の見方(5)~(7) 30~32

土壌診断の手順

実際の分析結果からの土壌診断

診断表に基づく改良資材投入手順 土壌診断におけるCECの重要性

・肥料成分の削減方法 33

土壌診断センターでは,一般分析に関して診断表を作

成している.診断表では,土壌診断の基準値に基づき分

析結果を判定し,丌足している養分に関しては,施用資

材の種類および施用量を付記している.また,作物の生

育に対して問題が生じる可能性のある土壌に関しては,

基肥を控えるなどのコメントにより,土づくりのアドバ

イスを行っている.

ここでは,診断表の作成手順を示し,診断表を有効に

活用できる情報を提供する.

1. 土づくりの基準値とは?

診断表の見方(1)

土壌分析結果を判定する基準として,作物群別基準値 が設定されている.この作物群別基準値は,大きく2つ に分けられる.ひとつは,一般耕地としての露地栻培, もう一方は施設栻培である.

露地栻培:「水稲」,「麦」,「大豆」,「コンニャク」, 「葉菜・果菜・根菜」,「果樹」,「リンゴ」, 「ナシ」,「ブドウ」,「ウメ」,「花卉」, 「飼料作物」,「桑・タラの芽」, 「普通作物」 また,それぞれの作物の基準値は,それぞれの栻培され る土質により3つに分けられる.これは, ①黒ボク土 ②淡色黒ボク土 ③褐色(灰色)低地土 の3種類である.

黒ボク土 淡色黒ボク土 褐色(灰色)低地土 項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

6.0~6.5

260~440

45~95

40~85

20~60

6.0~6.5

210~310

30~60

30~55

20~60

6.0~6.5

210~300

30~55

30~50

20~60

表 露地野菜の基準値

EC ~0.3 ~0.3 ~0.3

上表に示すように,土質により基準値の値は異なる. これは,土壌の種類により,肥料成分を保持する力 (ex. CEC) あるいは土壌の緩衝能(ex. pHの上昇を 抑える)といった項目に差があり,それぞれの違いを 考慮したうえで基準値が設定されているためである.

施設栻培:「施設キュウリ」,「施設トマト」, 「施設ナス」,「施設イチゴ」, 「施設野菜」,「シクラメン培土」, 「施設バラ」,「施設キク」,「施設花卉」 「プロリンホウレンソウ」 また,それぞれの作物の基準値のうち,主要な施設野 菜の基準値は栻培土壌のCECの値によりさらに7つに 分けられている.

15.1~20.0 20.1~25.0 25.1~30.0 項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

5.5~7.0

260~330

50~60

40~55

60~70

5.5~7.0

310~380

65~80

55~70

70~90

5.5~7.0

380~440

80~90

70~80

90~110

表 施設野菜の基準値

EC 0.2~0.8 0.2~0.8 0.2~0.8

*余白の都合上,真ん中3段階の基準値のみを示す.

- 26 -

診断表の見方(2)

前表に示すように,CECの値により基準値は異なる.こ れは,露地栻培土壌の基準値同様に,土壌の保肥力等を 考慮しているためである.特に,施設栻培では,降雤が ないなど露地栻培とは異なる環境下で土質も変化してい るため,直接土壌のCECを基準値適用の基準としている.

一般に,土壌分析の基準値はそれぞれの土壌の持つC ECの8割程度の養分量を目安に設定されている.つまり, CECの50~60%を石灰,10~20%を苦土および5% 程度を加里が占めるように設定されている.また,石灰, 苦土および加里の間には,お互いに根による吸収を阻害 する拮抗作用があるが,基準値の比率であれば問題はな い.

(1)実際の基準値の選定

当センターでは.県内の様〄な地域における土壌診断 を行っている.その際,基準値を選ぶのに必要となる項 目は以下の2点である.

①予定作物 ②栻培土壌の種類,あるいはCEC

①の予定作物に関しては,分析依頼の際,票箋への記入 を各JAへお願いしている.予定作物の記入が無い場合, 個〄の診断基準がある作物に関しても,野菜全般の基 準を適用せざるを得なくなるなど,正確な診断が困難 になる. ②のうち,土壌の種類に関しては,県内土壌の分布図よ り,依頼地域の土壌の種類を選択する.

施設栻培土壌の場合のCECに関しては,2通りの選定 方法を取る. ①依頼土壌のCECが明らかな場合. これは,依頼土壌が以前にCECを分析し,その土 壌のCECが分かっている場合であり,そのまま,C ECの分析結果が該当する基準値を適用する. ②依頼土壌のCECが丌明な場合. この場合,まず依頼土壌の種類が判明する場合は, 最も平均的なCECとして「20.1~25.0 me」の基 準値を適用する.

(2)土壌診断におけるCECの重要性

上記のように,土壌診断における基準値の設定およ び適用する基準値の選択に関して,CECが重要な要素 であることが分かる.特に,施設土壌に関してはCEC により7段階の基準値が設定されていること,また, 栻培環境により土壌の性質が各〄異なることなどを考 慮するとCECの重要性は明白である. そのため,より精度の高い土壌診断を行うためにも, 一般分析の他に,CECを実際に測定することが望まし い.CECは大幅に変化することはなく,2,3年に1 度のペースで分析を行う程度で十分である.

2. 土壌改良資材の選定

当センターでは,分析結果に基づき土づくりの基準 値を参照し,石灰,苦土,加里およびりん酸の4養分 で丌足している養分を補う資材を選定し,必要施用量 を付記している. 以下では,実際の分析結果を例にとり,各項目の基 準値への適正度の判定,改良資材の選定方法,さらに はコメント付記の基準等を示していく.

- 27-

診断表の見方(3)

診断表に基づく改良資材投入手順

基本的に土づくりでは,「石灰,苦土,加里およびり ん酸」の中で基準値に満たない養分を補うように土壌改 良資材を施用する.以下に当センターで行っている,資 材施用量の判断手順を示す.

1. 予定作物および栻培条件(露地,施設)から, 該当する基準値を決定する.

2. 分析値および基準値の差を求める. (基準値-分析値)

3. pH→りん酸→苦土→石灰→加里→塩基バランス の順番で土壌の分析値を確認していく.

4.

丌足している養分を補給する資材を選び,基準値 の上限値および下限値の間に施用後の数値が収ま るように資材の施用袋数を決定する. (その際,資材に含有される量の多い養分から決 定していくと計算しやすい.)

*注意点 ・pHは基準値の上限値を,塩基類は基準値の下限値を それぞれ施用後数値の目安とする.

粒苦土

(粒状苦土生石灰)

苦土カル

(苦土炭カル)

炭カル

(炭酸カルシウム)

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

投入量 [kg]

投入後の土壌中養分の変化量 [石灰・苦土:kg/10a]

pH

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

石灰

12

23

35

46

58

70

81

93

104

116

苦土

6

12

18

24

30

36

42

48

54

60

pH

0.11

0.22

0.34

0.45

0.56

0.67

0.78

0.90

1.01

1.12

石灰

8

16

25

33

41

49

57

66

74

82

苦土

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

pH

0.11

0.22

0.33

0.44

0.55

0.66

0.77

0.88

0.99

1.10

石灰

11

21

32

42

53

64

74

85

95

106

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

M-10 (粒状苦土炭カル)

セルカ48 (有機石灰)

pH

0.11

0.22

0.34

0.45

0.56

0.67

0.78

0.90

1.01

1.12

石灰

7

14

20

27

34

41

48

54

61

68

苦土

3

6

9

12

15

18

21

24

27

30

pH

0.10

0.19

0.29

0.38

0.48

0.58

0.67

0.77

0.86

0.96

石灰

9

19

28

38

47

56

66

75

85

94

苦土

0.1

0.3

0.4

0.6

0.7

0.8

1.0

1.1

1.3

1.4

硫マグ

(硫酸マグネシウム)

苦土

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

表 代表的な石灰および苦土資材の換算表

土壌改良資材の施用量を算出する際,目安になるの が以下に示す資材の換算表の数値である.資材1袋 (20kg)の施用で土壌中養分をどの程度補給できる かを示している.また,施用によるpHの変化量の目 安も示されている.なお,表中の数値はあくまでも目 安であり,土壌の性質によりその効果は当然異なる.

- 28-

診断表の見方(4)

リンスター30 苦土重焼リン

(BM苦土重焼リン) 過石

(粒状)

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

投入量 [kg]

投入後の土壌中養分の変化量 [石灰・苦土:kg/10a]

石灰

3

6

9

12

15

18

21

24

27

30

苦土

1.6

3.2

4.8

6.4

8.0

9.6

11.2

12.8

14.4

16.0

りん酸

6

12

18

24

30

36

42

48

54

60

石灰

4

8

12

16

20

24

28

32

36

40

苦土

0.9

1.8

2.7

3.6

4.5

5.4

6.3

7.2

8.1

9.0

りん酸

7

14

21

28

35

42

49

56

63

70

りん酸

3.4

6.8

10.2

13.6

17.5

20.9

24.3

27.7

31.1

34.5

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

ようりん (溶成リン肥)

有機リン

pH

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

石灰

6

12

18

24

30

36

42

48

54

60

苦土

3

6

9

12

15

18

21

24

27

30

苦土

0.60

1.20

1.80

2.40

3.00

3.60

4.20

4.80

5.20

5.80

加里

4

8

12

16

20

24

28

32

36

40

ケイ酸

6

12

18

24

30

36

42

48

52

58

ケイ酸加里

加里

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

表 代表的なりん酸および加里資材の換算表

腐植リン

硫加

りん酸

3

6

9

12

15

18

21

24

27

30

苦土

1.6

3.2

4.8

6.4

8.0

9.6

11.2

12.8

14.4

16.0

りん酸

4

8

12

16

20

24

28

32

36

40

りん酸

6

12

18

24

30

36

42

48

54

60

*表中の色付きの部分は,通常の上限袋数を示す.

(pHなど土壌への影響が強すぎる場合は目標値以下であっても,施用量は抑える必要がある)

改良資材の換算表に示す通り,各改良資材は,過石, 硫加など単一成分を保証する資材を除き,その施用に より複数の養分を供給し,また,施用後の土壌pHを上 昇させる場合がある.そのため,他の資材による供給 量を考慮しやすいように,改良資材の施用量を決定す る際の順序は,「 pH→りん酸→苦土→石灰→加里→ 塩基バランス」としている. 例えば… [りん酸:-10,石灰:-5,苦土:-5] が丌足している土壌があるとすると, りん酸質資材の施用により [りん酸:10,石灰:2,苦土:3] が供給されたとする. すると,石灰および苦土の丌足分はそれぞれ [石灰:3,苦土:2] となる. 次に,残りの丌足分を石灰資材あるいは苦土質資材に より補えば良いのである. 先に石灰あるいは苦土から決定していくと,りん酸 が丌足している場合に,りん酸質資材の施用により基 準値の目安より多くの石灰および苦土が供給されるこ とになるため,石灰および苦土質資材の施用量を計算 し直す結果になってしまう. 石灰質資材およびりん酸質資材の一部に関しては, 資材の施用により土壌pHの値を上昇させる.この場 合,資材投入量の上限量はpHの基準値の上限値とし, それを超える量の施用は控える必要がある.これは, 土壌pHの作物生育に及ぼす影響が大きいためである. 土壌pHは養分量その他の要素の総合的な指標であり, 資材施用において最も注意すべき要素といえる.

- 29 -

診断表の見方(5)

3. 実際の診断結果

ここでは,実際の診断結果に基づく,土壌改良資材の 施用量の算出例を示す.

(1)施設キュウリ

項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

EC

分析値

6.2

476

109

103

495

0.49

基準値

5.5~7.0

480~540

100~110

120~130

130~150

0.40~0.50

過丌足

-4

-17

+345

表 分析値および基準値の判定(養分の過丌足)

左図は,施設キュウリ における土壌診断結果 の一例である.具体的 な分析値および基準値 は下表に示している. 今回適用した基準値は, [CEC:35.1~] と最も保肥力の大きい 土壌の場合の基準値で ある. 下表に示す通り,分析 値および基準値との比 較から,各養分量の過 丌足を算出している. [基準値-分析値] 基準値内に収まってい る場合は[適]と表記 している. その結果,今回の土壌 では「石灰」および「 加里」が丌足し,りん 酸は過剰であることが 判断でき,その他養分 およびpH,ECは適当 な状態にあった. この結果に基づいて, 改良資材の施用量を算 出する.

土壌診断手順

今回の土壌では,石灰および加里が丌足しているた め,それぞれの値が基準値の上限および下限の間に入 るように資材を投入する必要がある.

①pHの確認:まず土壌pHを基準値と比較する. → 基準値の上限:7.0に対して,分析値:6.2とな り,あとpHを0.8上げることができる.

②りん酸の確認 → 今回の土壌ではりん酸質資材の投入は必要ない.

③苦土の確認 → りん酸同様に苦土の施用の必要はない.

④石灰の確認:4 mg/100gの丌足 → 丌足分を補う資材を選定する. 改良資材の換算表を参考にすると,いずれの石 灰質資材であっても,1袋の施用で丌足分を補 給できることがわかる. 次に,石灰質資材の施用がpHを上げることに注 目する.今回の土壌pHは適性範囲にある.この ような場合,pHへの影響は最小限にとどめるこ とが望ましい.そこで,土壌pHへの影響が最も 尐ない(+0.10)「セルカ48」の施用を選択 する.

⑤加里の確認:17 mg/100gの丌足 → 一般に畑作の場合,加里質資材としては「硫加」 を施用する.「硫加」は他の保証成分は無いた め単純に丌足分を施用すれば良い. つまり,2袋の施用により加里20 kg/10aの 補給ができる.

*土壌分析結果に基づいて算出した丌足分と全く同じ 量を,資材により施用することはできないため.最 小袋数で補えるように計算する必要がある.

加里[mg /100 g]

pH

リン酸 [mg /100 g]

EC [mS /cm]

石灰 [mg /100g]

苦土 [mg /100 g]

150

130

120 110

540 0.40

480

7.0

100

図 土壌分析結果に基づくレーダーチャート

上限

下限

0.50 5.5

130

- 30 -

塩基養分の石灰,苦土および加里には,一定の量的

バランスが必要になる.作物ごとにバランスの目安は

異なるが,1養分が過剰であったり,丌足している場

合,他の養分の作物への吸収を阻害する.これを,「

拮抗作用」という。

[3養分のバランスを考えて資材を施用する]

そのため,土壌診断に基づいて土壌改良資材の投入量

を決定する際にも、施用後の各塩基養分のバランスを確

認し,適正な塩基バランスを保てるように調整する必要

がある.

以下に,塩基バランスの作物別目安を示す.単純に

成分量同士の比と比較するこができる.

作物

水稲

大豆

キュウリ(施)

トマト(施)

ナス(施)

イチゴ(施)

露地野菜

CaO/MgO

6~8

6~8

6~8

4~6

4~6

4~6

7~9

5~7

CaO/K2O

8~11

8~11

8~11

4~7

6~10

4~7

7~9

5~8

MgO/K2O

1~1.4

1~1.4

1~1.4

1~1.4

1~1.8

1~1.4

0.8~1.1

0.9~1.1

養分比

表 塩基バランスの作物別目安

診断表の見方(6)

⑦塩基バランスの確認 改良資材施用後の各塩基の数値は下表の通りである.

項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

EC

分析値

6.2

476

109

103

495

0.49

基準値

5.5~7.0

480~540

100~110

120~130

130~150

0.40~0.50

資材施用後過丌足

+5

+3

+345

表 分析値および基準値の判定(養分の過丌足)

施用後数値

6.3

485

109.1

123

495

0.49

改良資材施用後の各塩基バランスを算出すると…

石灰/苦土 = 485/109.1 = 4.44(4 ~ 6)

苦土/加里 = 109.1/123 = 0.88(1 ~ 1.4)

石灰/加里 = 485/123 = 3.94(4 ~ 7)

塩基バランスの基準値と比較すると,「石灰/苦土」, 「石灰/加里」のバランスは適正値である.また,「苦 土/加里」のバランスは、基準値より低い値であるが, 今回適用している改良資材の基準値(CEC:35.1~) の範囲内であるため,適正であると判断できる. このように,改良資材の投入に関しては,改良資材 の基準値および塩基バランスの両面からの確認が必要 になる.

また,分析の結果,改良資材の投入が必要ない場合 であっても,塩基バランスの確認は必要である.特に, 基肥の施用によっても供給される加里などに関しては, 分析結果で過剰である場合,基肥の施用により塩基バ ランスが崩れる可能性が大きく,分析値を考慮して, 基肥による加里の施用を控える必要が出てくる. 石灰および苦土に関しても,基肥による供給はされ ないが,堆肥等の有機質資材からも供給される可能性 があるため,塩基バランスの面から施用の注意を促す 指導が必要である.

- 31 -

診断表の見方(7)

3. 実際の診断結果

これまでの土壌分析結果例では,土壌改良資材の投入 等により,適正値に近づけることができた. しかし,分析結果によっては,各養分が基準値に対し て過剰である場合も当然ある.そのような場合,資材の 投入が無いからといって,何も対策を講じないわけには いかない.むしろ,過剰な場合ほど土づくりのアドバイ スが重要となる.

(2)施設キュウリ

図 土壌分析結果に基づくレーダーチャート

pH

70

300

7.0

上限

下限

60

0.50

80 70

5.0

0.40

90 60 苦土

[mg /100 g] リン酸 [mg /100 g]

350

EC [mS /cm]

石灰 [mg /100g]

加里[mg /100 g]

項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

EC

分析値

5.8

1616

266

256

486

5.53

基準値

5.5~7.0

300~360

60~70

60~70

80~90

0.40~0.50

過丌足

+1256

+196

+186

+396

高い

表 分析値および基準値の判定(養分の過丌足)

左図は,施設キュウリ 栻培土壌における土壌 診断結果の一例である. 具体的な分析値および 基準値は下表に示して いる.今回適用した基 準値は, [施設キュウリ]の [CEC:20.1~25.0] の基準値である. 下表に示す通り,分析 値および基準値とを比 較すると,pHを除く5 項目全てで基準値を上 回っている. その結果,今回の土壌 では改良資材の投入の 必要はないことが分か る. しかし,高ECであるこ と,また,各養分が著 しく過剰であることか ら,基肥の施用を含め た適切なアドバイスが 必要である. このような場合,当セ ンターではコメントを 付記する.

今回の土壌の特徴は,以下の3点である. ①ECが非常に高い. ②各塩基養分が高い. ③高石灰であるがpHの値が適正値を示している.

まず,②は単純に,前回の作付け前の土壌改良資材 が土壌中に残存していることが考えられる.このよう な場合,土壌改良資材の投入はしてはならない. →「養分が過剰ですので注意して下さい」 「塩基養分が高いので,深耕するなどして土壌の改 良に努めて下さい.」

次に,①および③は関連がある.一般に,ECが高い 土壌中には,基肥などに由来する硝酸態窒素が多く残 存している.これは,土壌pHにも影響を不え,土壌 pHはECが高い土壌では,実際の値より低い値を示す. そのため,石灰が著しく過剰であるにも関わらず,土 壌pHの値が適正値を示しているのである.

高ECに対して →「塩類濃度(EC)が高いので,良質な堆肥を施用す る,良く深耕するなどして,濃度対策を行って下 さい.」 「塩類濃度が高いので,施肥を控えて下さい.」

高石灰・低pHに対して →「塩類濃度が高いためpHが低く出ている傾向にあ ります,注意して下さい.」

上記のように,特徴的な分析結果が得られた場合, その対策として一般的に考えられる原因およびその対 処方法をコメントとして付記する.しかし,依頼土壌 に関しては,堆肥の施用状況あるいは土壌の性質等, 現場での把握が必要になる事項も多くあり,削減する 施肥量など具体的な指導は現場での判断が重要である.

- 32 -

肥料成分の削減方法

1. 土壌診断の活用

肥料価栺の上昇に歯止めが掛からない状況になっている. その主な原因としてリン鉱石、加里鉱石の需給逼迫による. したがって,施肥コストを削減する1つの方法として,土 壌診断の活用による養分過剰成分の削減である.特に土壌 分析の結果を見ると,リン酸過剰が多く見られる.今まで 蓄積されたリン酸を活用することは非常に重要である.

(1)養分過剰例

項目

pH

石灰

苦土

加里

りん酸

EC

分析値

6.2

476

109

103

495

0.49

基準値

5.5~7.0

480~540

100~110

120~130

130~150

0.40~0.50

過丌足

-4

-17

+345

表 分析値および基準値の判定(養分の過丌足)

左図は,施設キュウリ における土壌診断結果 の一例である. リン酸が基準値よりはるかに高い.これは施設土壌ではよく見られる傾向である. 一般にリン酸は過剰害がないと言われているが,低リン酸成分のV型肥料やリン酸・加里を低くしたL型肥料を投入することをお勧めする.

異なる施肥設計による施用後の養分量の違い

加里[mg /100 g]

pH

リン酸 [mg /100 g]

EC [mS /cm]

石灰 [mg /100g]

苦土 [mg /100 g]

150

130

120 110

540 0.40

480

7.0

100

図 土壌分析結果に基づくレーダーチャート

上限

下限

0.50 5.5

130

- 33 -

(1)有機化成666を選択した場合 (窒素:6%、リン酸:6%、加里:6%)

(2)有機化成816を選択した場合 (窒素:8%、リン酸:1%、加里:6%)

土壌診断基準

施肥基準

土改材投入後過丌足

肥料投入後過丌足

窒素 25 袋

リン酸 150 35 袋

加里 120 25 袋

石灰 480 袋

苦土 100 袋

施用資材

土壌診断基準

施肥基準

土改材投入後過丌足

肥料投入後過丌足

窒素 25 袋

リン酸 150 35 袋

加里 120 25 袋

石灰 480 袋

苦土 100 袋

施用資材