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特集2 風通しのよい組織,信頼構築のベース 接遇マインドと患者安全 接遇はどう「安全」を下支えするか?
医療従事者は各部門のプロフェッショナルであり,それぞれが担当する領域を尊重する傾向にある。そのため,職種間のコミュニケーション不全を招きやすく,本来患者に提供すべき業務に支障を来すことがしばしば見受けられる。 筆者は,病院におけるコミュニケーションには大きく2つの目的があると思っている。1つは,物事を正確に伝え患者の安全を守り医療事故を防ぐため,もう1つは相手の立場に立って状況を理解し,尊重することで信頼関係を築くためである。言い換えると,前者は医療安全における職員間に必要なスキルであるし,後者は接遇における患者・家族への思いやりや職員間での円滑な連携に必要なスキルである。 当院には,それぞれの角度からコミュニケーション能力向上に務める組織があるので,本稿で紹介していく。
リスクマネージャー養成研修会 当院では,「赤十字施設の医療安全推進担当者として,必要な態度・技能を修得する」ことを目標に,2009年度よりリスクマネージャー養成研修会を企画・実施している。参加者は,研修医を含む医師,看護師,事務職,コメディカルなど多職種にわたる約50人が,温泉地にて1泊2日の日程で医療安全の実践を真剣に取り組んでいる(写真1)。そこで,2013年度からは研修会にTeamSTEPPSを取り入れ,コミュニケーション能力の向上を目指している(図1)。この研修会は,医療安全をさまざまな職種の立場から考えることが最大の目標ではあるが,何よりも夕食の交流会を含めて他職種とコミュニケーションを図ることができ,病院職員の横のつながりが深まる大切な機会となっている。 2015年は,新しい試みとして「医療安全に大切な3つの言葉」のDVDを作成し,研修会にて上映した。院内31部署からの協力を得て,各々が考える医療安全に必要な3つ
「医療事故を防ぐ」「相手の立場に立ち,信頼関係を築く」 コミュニケーション能力を高める組織的活動
青木晋爾旭川赤十字病院 医療技術部 検査科副技師長/免疫・生化学検査課 課長1965年6月1日,北海道旭川市生まれ。1989年3月道立衛生学院を卒業。1989年4月旭川赤十字病院検査部(現・医療技術部検査科)に就職。一般検査室,血液検
査課,生理検査課を経て,2010年4月より免疫・生化学検査課課長となり,2016年4月より検査科副技師長を兼務。
旭川赤十字病院は,北海道のほぼ中心に位置する旭川市にあり,道北圏(人口約64万人)救命救急の中核病院として機能しています。病床数は514床,救命救急センターを併設している急性期病院で2016年DPC病院群Ⅱ群病院となりました。2016年4月現在,病院職員数1,132人(医師112人,看護要員706人),入院基本料7対1を取得し,病床利用率82.4%,平均在院日数12.0日です(2015年実績)。指定・併設などは,DPC対象病院,地域医療支援病院,災害拠点病院,道北ドクターヘリ基地病院,電子カルテ導入,病院機能評価機能種別版一般病院2〈3rdG:Ver.1.1〉の認定を受けています。病院理念は「赤十字の基本理念に基づき,個人の尊厳および権利を尊重し,質の高い医療を提供します」とし,方針として経営健全化と質的改善を図り,患者からも職員を含む医療従事者からもほかの医療機関からも選ばれる病院を目指しています。
施設概要●旭川赤十字病院
ポイント図解
病院におけるコミュニケーションの目的
組織的活動でスキルを高める
信頼関係の構築
接遇・思いやり
医療安全
医療事故防止
病院安全教育 Vol.4 No.154
の言葉を紙に綴り,一部署20秒程度でビデオ撮影を行った。それぞれが選んだ言葉では「コミュニケーション」が10部署と最も多く,次いで「チームワーク」が4部署,「連携」が3部署であった。これらは全体の55%に当たり,医療安全には情報の共有や伝達方法の重要性を考えている部署が多いことを再認識した。検査科では「あいさつ」「思いやり」「気配り」の3つの言葉を選んだ(写真2)。
ホスピタリティチーム 1999年度より,患者満足度の向上のため,患者目線に立ったサービスの向上を目的とした患者サービス向上委員会が発足した。さらに2008年度には,病院職員の接遇レベルの標準化を図る目的で,院内接遇研修会を担当するホスピタリティチームが発足した。
研修会では,よりよい患者サービスを行うためには,職員間の協力・連携が大切と考え,挨拶や電話応対の基本などを実施している。2015年は新たな試みとして,他部署からホスピタリティの高評価を得ている部署がシンポジストとなり,自部署の業務内容や接遇への取り組みを発表した後,挨拶や電話応対などに関して討論を行った。また,毎年4月に開催している新入職員研修会においては,よい患者対応や職員間の情報伝達を考え実演するロールプレイングを行っている(写真3)。
エクセレントホスピタルチーム 当院は,2012年に牧野憲一院長が新院長に就任した際に,ビジョン3-3-3として「3つの方針」「3つの推進」「3つの充実」が打ち出された(図2)。その中の方針の一つに,「選ばれる病院」がある。「選ばれる病院」とは,患者・家族,地域の医療機関のみならず,医療従事者からも選ばれる病院を目指すことである。 そのためには,患者満足度を向上させるこ
写真1●リスクマネージャー養成研修会
図1●TeamSTEPPSによるコミュニケーション能力の向上
パフォーマンス
医療チーム
知識
態度
リーダーシップ
相互支援
コミュニケーション
状況監視
モニター
写真2●医療安全に大切な3つの言葉
病院安全教育 Vol.4 No.1 55
とが必要であり,さらには職員満足度を向上させる必要があると考え,エクセレントホスピタルチームを発足した。チームの最初の活動として,チーム医療の推進,コミュニケーションの向上を目的として,「オンリーワンプロジェクト~一人ひとりを大切に(旭川赤十字病院行動規範5つの約束)」(図3,資料1)を作成した。また,2015年は当院創立
100周年記念イベントとして「サンクスカード」を職員全員に配布した(資料2)。職員同士がちょっとした感謝の言葉をしたためてカードを贈ることが相互理解のきっかけとなり,さらには個々のモチベーションアップにつながるのではないかという思いでイベントを行った。
おわりに 当院のインシデント・アクシデントレポートにおいて「連携」が要因となっている報告数は,2013年度が1,168件中151件(12.9%),2014
写真3●新入職員研修会
図2●ビジョン3-3-3
健全経営
選ばれる病院
3つの方針
救急医療 がん診療
3つの推進
スタッフ 教育研修
3つの充実
質の追求
地域連携
真心
資料1●オンリーワンプロジェクト
図3●オンリーワンプロジェクトテーマ
職員一人ひとり
患者様一人ひとり 地域連携病院
・職員の意識の活性化・喜びを感じ働ける病院づくり
・治療,看護への満足度 ・信頼される病院
選ばれる病院を目指して「オンリーワンプロジェクト」
「一人ひとりを大切にする」
病院安全教育 Vol.4 No.156
年度が1,266件中153件(12.1%),2015年度が1,252件中168件(13.4%)となっている。医療安全推進室,ホスピタリティチーム,エクセレントホスピタルチームがそれぞれの角度から取り組みを行っている現在の状況がこの数値であり,今後それぞれの取り組みの
成果がこのデータで評価できると考えている。 病院は,患者・家族に安全・安心を提供し病気を治すことが第一の使命である。しかし,患者・家族にとって安全・安心を目に映すことは難しく,病気を治すこと以外に心のケアを求めるのも事実である。これからも,職員間のコミュニケーションを強化し,安全な医療の提供と患者満足度の向上を図っていきたいと思っている。
引用・参考文献1)種田憲一郎:チーム医療とは何ですか?―エビデン
スに基づいたチームトレーニング:チームSTEPPS―医療のためのチームワークシステム,medical forum CHUGAI,Vol.16,No.1~4,2012.
2)クィント・ステューダー著,鐘江康一郎訳:エクセレント・ホスピタル―メディカルコーチングで病院が変わる,ディスカヴァー・トゥエンティワン,2015.
資料2●サンクスカード
表
中身
裏
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