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旬レポ中国地域 2017 3 月号 1 「木質系バイオマスを新素材として利活用する」 ■セルロースナノファイバーを活用した商品化■ (一社)中国地域ニュービジネス協議会 チーフコーディネーター 竹内善幸 岡山県では、県内に豊富に存在する木質資源を活用し、セルロースナノファイバー(CNF)の高付加価値新素材の生産技術及びCNFを含む木質バイオマスを利活用した新技術・新製品 の研究開発並びに開発成果の事業化支援により、環境に配慮した新たなバイオマス産業の創 出を図っています(図1.参照)。 図1.おかやまグリーンバイオプロジェクト http://www.pref.okayama.jp/sangyo/sangyo/greenbio/参照) 前回(地球を笑顔に!第50回(H28-3) 参照)は本プロジェクト全体の概要を紹介いたしまし た。今回は、本プロジェクトに関連するCNF商品化の現況についてご紹介いたします。 ◆リグノセルロースナノファイバー 木質系バイオマスの細胞壁の主成分は、リグニンとセルロースが結合して骨格を形成していま す。この主要な構成分子は、セルロース(45~50%)、ヘミセルロース(15~30%)、リグニン(2 5~30%)(重量比)です。 これらを原料として、硫酸など化学薬品を使用する化学変性法や、水 蒸気を使用して機械的に微粉砕するメカノケミカル法などで製造した微細な繊維がセルロースナ ノファイバー(CNF)です。 地球を笑顔に!(第 51 回)

林地残材の圧縮結束搬出システムの可能性 · セルロースナノファイバーを活用した商品化 (一社)中国地域ニュービジネス協議会. チーフコーディネーター

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旬レポ中国地域 2017年 3月号 1

「木質系バイオマスを新素材として利活用する」

■セルロースナノファイバーを活用した商品化■

(一社)中国地域ニュービジネス協議会

チーフコーディネーター

竹内善幸

岡山県では、県内に豊富に存在する木質資源を活用し、セルロースナノファイバー(CNF)等

の高付加価値新素材の生産技術及びCNFを含む木質バイオマスを利活用した新技術・新製品

の研究開発並びに開発成果の事業化支援により、環境に配慮した新たなバイオマス産業の創

出を図っています(図1.参照)。

図1.おかやまグリーンバイオプロジェクト

(http://www.pref.okayama.jp/sangyo/sangyo/greenbio/参照)

前回(地球を笑顔に!第50回(H28-3) 参照)は本プロジェクト全体の概要を紹介いたしまし

た。今回は、本プロジェクトに関連するCNF商品化の現況についてご紹介いたします。

◆リグノセルロースナノファイバー

木質系バイオマスの細胞壁の主成分は、リグニンとセルロースが結合して骨格を形成していま

す。この主要な構成分子は、セルロース(45~50%)、ヘミセルロース(15~30%)、リグニン(2

5~30%)(重量比)です。 これらを原料として、硫酸など化学薬品を使用する化学変性法や、水

蒸気を使用して機械的に微粉砕するメカノケミカル法などで製造した微細な繊維がセルロースナ

ノファイバー(CNF)です。

地球を笑顔に!(第 51回)

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製紙用原料としてのパルプ化では、リグニン等を分離するために精製しますが、木粉等を直接

原料として、リグニンやヘミセルロースを含有するものを「リグノセルロースナノファイバー(LCNF)」

と呼びます。

CNFを樹脂(ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)など)と混合して、軽量化や強度向上を

狙った素材開発が行われています。樹脂と複合化する場合、樹脂が疎水性(水と混ざりにくい性

質)であるのに対して、CNFは親水性を示し、お互いが馴染みにくく複合化に課題が発生しま

す。

そこで、CNFの疎水化表面処理技術を岡山県工業技術センター(岡山県岡山市)、モリマシ

ナリー(株)(岡山県赤盤市)、(国研)産業技術総合研究所中国センター(広島県東広島市)が共

同開発しました。

図2.岡山県工業技術センター

◆リグノセルロースナノファイバーの疎水化

モリマシナリー(株)では、岡山県産の木質バイオマスを原料として、化学処理することなく、繊

維幅 500 nm 以下のリグノセルロースナノファイバー(LCNF)を製造するために、連続運転が可能

な湿式微粉砕装置を新規に開発しました。

CNF製造プロセスフロー全体を図3.に、新規開発したCNF製造装置を図4.に示します。

(注)1nm=1/1000(μm)=1/1000000(mm)

檜チップ 水熱処理装置 粉砕装

撹拌タンク 微粉砕装置

分 級

疎水化

粉末CNF

図3.CNF製造プロセスフロー

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岡山県真庭市で製造した檜チップを原料とするLCNF(図5.参照)は、杉材に比較して繊維長

が短く、繊維幅が若干大きくなっており、アスペクト比が小さい傾向となります。

図6.に走査型電子顕微鏡(SEM)写真(産業技術総合研究所中国センター協力)を、図7.に

疎水化したLCNF粉末を示します。

一般に、CNFとは、繊維幅100nm 以下で、アスペクト比100以上のものをさしています。

一般に、CNF製造方法として以下が開発されています。

図5.リグノセルロースナノファイバーLCNF

水分量90%、繊維幅50~300nm

比表面積90m2/g

図6.SEM写真

図7.疎水化したLCNF粉末

図4.新規開発した

CNF製造装置

(注:アスペクト比…繊維長/繊維幅)

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①化学的方法…TEMPO酸化法、酵素加水分解法等

②物理的方法…ウオータージェット法(対向高圧噴流の衝突)、グラインダー法、高圧ホモジナ

イザー法、凍結粉砕法等

◆樹脂とリグノセルロースナノファイバーの複合化

LCNFは、樹脂(ポリエチレンPEやポリプロピレンPP等)との複合化により、軽量化や強度向

上等の機能性向上が期待されている新材料です。

LCNFと樹脂とを混合して製造したマスターバッチ(図8.参照)を原料として製造した試作例を

紹介いたします。

CNFは、部品の細部への均一な分散が容易なため、櫛の歯の先端部(図9.参照)や、凹凸が

多い部品の末端部分の補強(図10.参照)に有効です。

(注)マスターバッチ…樹脂原料に添加剤(塗料や他の添加物)を予め混合してペレット化したもの

その他の試作例を図11.~14.に示します。

図9.サンヨー化成工業(株)の試作例

櫛(LCNF+PP)

図10.自動車関連部品

図8.LCNFとPEのマスターバッチ

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◆ゴムとリグノセルロースナノファイバーLCNFの複合化

ゴムも樹脂と同様に疎水性であるため、親水性のセルロースナノファイバーを問題ない範囲

で分散させることには、数々の課題があります。ゴムとセルロースナノファイバーを混練する技

術を丸五ゴム工業(株)は岡山県工業技術センターなどと共同で研究開発しています。

その技術を用いて、複合化したゴムの特徴を生かし、部品の高強度化、薄肉化による軽量化

を狙うべく、セルロースナノファイバーの材料を作製しているモリマシナリー(株)と作業靴や手袋

を製造している(株)丸五は検討を重ねています。

●山林作業靴

これらの作業靴の中には、地面をホールドするために、靴底ゴムだけではなく、鋼製

スパイクピンがあるものがあります。靴底ゴムにセルロースナノファイバーを添加する

ことにより、ゴムのスパイクピンの保持力が上がり、ホールド性と耐久性の向上を狙っ

た試作品を丸五ゴム工業(株)と(株)丸五が協力して作製しました(図15.および16.参

図11.ワタナベ工業(株)協力

図12.ワタナベ工業(株)協力

洗濯バサミ(LCNF+PE)

(耐候性向上)

図13.(株)ケイズデザインラボ・(株)ミヨシ協

力による試作例

扇子(LCNF+PP)

(展開ノッチ等細かい部品の強度向上)

図14.(株)ケイズデザインラボ・(株)ミ

ヨシ協力による試作例

ペーパーナイフ(LCNF+PP)

(刃の強度向上)

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照)。

●作業用ゴム手袋

ゴム手袋の指先部位は、作業によっては、安易に割けたりします。指先のゴム部にセルロース

ナノファイバーの複合化ゴムを被覆した試作品を丸五ゴム工業(株)と(株)丸五が協力して作製し

ました。(図17.参照)。

図17.作業用ゴム手袋の試作品

図16.山林作業靴の底 図15.山林作業靴の試作品

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🔶🔶CNF活用機能性成品

フタロシアニンは多くの金属元素(Fe、Cuなど)と化合物を作ります(図18.参照)。これを金属

フタロシアニンとよび、その機能は化学分野(脱臭剤、反応触媒)、エレクトロニクス分野、光学分

野(光制御材料、顔料)、電気化学分野(燃料電池、二次電池)等で活用されています。

鉄フタロシアニンの場合には、酸化・還元能が大きく、悪臭物質である硫化水素、メルカプタン、

アンモニア、アルデヒド化合物、酢酸等を分解します。

活性炭等の吸着剤による消臭の場合、吸着量が飽和すると、吸着された悪臭(臭気成分)は平

衡状態となり、再放出が発生します。一方、鉄フタロシアニンは、反応速度が速く、高分解率の消

臭剤として使用できます。

真庭バイオケミカル(株)(岡山県真庭市)は、真庭市の木質バイオマス素材を原料として製造し

たLCNFに特殊機能材を化学結合して、新規に消臭剤を商品化しました(図19.および20.参

照)。

+ Fe

フタロシアニン 鉄フタロシアニン

図18.金属フタロシアニン

図19.金属フタロシアニン系消臭剤

(P-CNF)

図20.反応性消臭剤

(A-CAT/i-CAT)

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P-CNFは、硫化水素、メルカプタン、アンモニア等の悪臭物質を高効率で分解します。

図21.に消臭剤のメカニズム、図22.に消臭能力を示します。

A-CAT/i-CATは、アルデヒド化合物や、酢酸、イソ吉草酸などの有機酸を反応除去しま

す。図23.に消臭剤のメカニズム、図24.に消臭能力を示します。

メカニズム

Fe

悪 臭 物 質 無 臭 物 質

N N

N

N

N

N

N

N

COOH

COOHHOOC

HOOC

Fe

アルデヒド・酢酸イソ吉草酸

CNF

A-CAT

i-CATメカニズム

図21.金属フタロシアニン系CNF消臭剤のメカニズム

図22.金属フタロシアニン系CNF消臭剤の消臭能力

図23.反応性CNF消臭剤のメカニズム

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旬レポ中国地域 2017年 3月号 9

開発した消臭剤は、下記分野への活用を計画しています。

【活用分野】清掃工場、下水処理場、病院、介護施設、ゴム加工工場、有機合成フェザー加工場、

住宅(トイレなど)、ペット関連、農業、畜産業

【注】イソ吉草酸:汗や皮脂などをバクテリアが食べ、その分泌物がイ

ソ吉草酸。足などの臭気。

【参 考】

岡山県産業労働部産業振興課新産業推進班 おかやまグリーンバイオ・プロジェクト

http://www.pref.okayama.jp/sangyo/sangyo/greenbio/

岡山県工業技術センター http://www.pref.okayama.jp/sangyo/kougi/

トクラス(株) http://www.toclas.co.jp/

ワタナベ工業(株) http://www.watanabe-ind.co.jp/

モリマシナリー(株) http://www.mori-machinery.co.jp

丸五ゴム工業(株) http://www.marugo-rubber.co.jp

真庭バイオケミカル(株) http://www.maniwabc.sakura.ne.jp/

国立研究開発法人産業技術総合研究所中国センター

http://www.aist.go.jp/chugoku/ja/access/

図24.反応性CNF消臭剤の消臭能力

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著者プロフィール

昭和48年 三菱重工(株)入社 広島研究所所属

平成15年 菱明技研(株) 移籍

同年4月より(社)中国地域ニュービジネス協議会

(現在は(一社)中国地域ニュービジネス協議会)

チーフコーディネーターとして活動中

平成27年4月より岡山県産業労働部産業振興課所属

グリーンバイオプロジェクト・コーディネータとして活

動中

スマート・ケミカルリファイナリー協議会主催

■趣味 観世流能楽

(広島市能楽愛好者連盟理事)

経済産業省 中国経済産業局 広報誌

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