5
「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。進路 実績(5クラス)としては,100名程度が四年制大学や短大へ,50∼60名が看護系を含めた専門学校 へ,民間就職20名,公務員が10名程度となっております。石巻地域では3番目の普通高校として設 立され,進路の多様化(専門学校や公務員,看護専門学校,民間就職)への対応が求められていま す。また,国公立大学への進学者数を伸ばすべく手立てを模索している状況です。 開校以来「国際理解教育」を学校の柱としており,「異文化理解・異文化交流」のために毎年学年 単位で数回講演会を行っています。また,昨年度までは防災交流も兼ねて,他国の高校生(昨年度 は3カ国)を招いて「高校生国際フォーラム」を3年連続で実施していました。 本校は東日本大震災による被災地域(本校では,在校生9名,入学予定者2名が亡くなり,講 堂は遺体安置所,学校自体は避難所になりました)ということもあり,防災教育に力を入れてきました。 総合的な学習の時間やLHRに防災教育を組み込んでおり,年2回の防災体験学習や防災交流も行 っています。 学校全体として学力向上に向けた統一研究テーマを設定し,そのテーマを実現すべく,各教科で年 間スケジュールを立て,その成果を「研究集録」にまとめて次年度に引き継いできました。 ※統一テーマ 平成25年度~平成27年度・・・「自ら考え,ともに高め合う授業づくりの研究」 平成28年度~現在・・・・・・・・・「ともに学び合い,自らの考えを表現させる授業づくりの研究」 この取り組みの中で「主体的・対話的で深い学び」の実現をめざし,いわゆる「アクティブラーニング」的学 習が導入されています。 1.本校のアクティブ・ラーニング型授業の推進組織と方法,効果について (1)アクティブ・ラーニング型授業への推移 ①平成23年度~平成26年度 「~黎明期~」 東日本大震災の甚大な被害の後,「子ども達の生きる力・自ら学ぶ力」を引き出すために,「学びのサ プリ」「教えのサプリ」という一連のメソッド が導入されました。これは埼玉県開智未来 中・高等学校の関根均校長先生の実践 哲学であり,「生徒を育てるのは生徒であ る」という理念を学び,そのエッセンスが指 導に導入されました。これは「授業を受け る」のではなく「授業に係わる・参加する」こと 目的としたものでした。平成24年度~平 成26年度まではこのさらなる実践が行わ れました。

「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

「本校の主体的な学習に対する取組みについて」0.石巻西高校について今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。進路

実績(5クラス)としては,100名程度が四年制大学や短大へ,50∼60名が看護系を含めた専門学校へ,民間就職20名,公務員が10名程度となっております。石巻地域では3番目の普通高校として設立され,進路の多様化(専門学校や公務員,看護専門学校,民間就職)への対応が求められています。また,国公立大学への進学者数を伸ばすべく手立てを模索している状況です。開校以来「国際理解教育」を学校の柱としており,「異文化理解・異文化交流」のために毎年学年

単位で数回講演会を行っています。また,昨年度までは防災交流も兼ねて,他国の高校生(昨年度は3カ国)を招いて「高校生国際フォーラム」を3年連続で実施していました。本校は東日本大震災による被災地域(本校では,在校生9名,入学予定者2名が亡くなり,講

堂は遺体安置所,学校自体は避難所になりました)ということもあり,防災教育に力を入れてきました。総合的な学習の時間やLHRに防災教育を組み込んでおり,年2回の防災体験学習や防災交流も行っています。学校全体として学力向上に向けた統一研究テーマを設定し,そのテーマを実現すべく,各教科で年

間スケジュールを立て,その成果を「研究集録」にまとめて次年度に引き継いできました。※統一テーマ平成25年度~平成27年度・・・「自ら考え,ともに高め合う授業づくりの研究」平成28年度~現在・・・・・・・・・「ともに学び合い,自らの考えを表現させる授業づくりの研究」

この取り組みの中で「主体的・対話的で深い学び」の実現をめざし,いわゆる「アクティブラーニング」的学習が導入されています。

1.本校のアクティブ・ラーニング型授業の推進組織と方法,効果について(1)アクティブ・ラーニング型授業への推移①平成23年度~平成26年度 「~黎明期~」東日本大震災の甚大な被害の後,「子ども達の生きる力・自ら学ぶ力」を引き出すために,「学びのサプリ」「教えのサプリ」という一連のメソッドが導入されました。これは埼玉県開智未来中・高等学校の関根均校長先生の実践哲学であり,「生徒を育てるのは生徒である」という理念を学び,そのエッセンスが指導に導入されました。これは「授業を受ける」のではなく「授業に係わる・参加する」こと目的としたものでした。平成24年度~平成26年度まではこのさらなる実践が行われました。

Page 2: 「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

②平成27年度~平成29年度 「~研修期~」新学習指導要領の大きな柱としてアクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントが注目される中,

平成27年度に赴任してきた校長のリーダーシップによりアクティブ・ラーニングについての勉強が始まりました。平成27年9月14日に総合教育センター指導主事,11月25日に岩手県立遠野高校校長(元盛岡第三高校副校長)下町壽男先生を迎えて,アクティブ・ラーニングの研修会を実施しました。理論的な部分と実際の体験を通してアクティブ・ラーニングについて学びました。平成27年度は,その研修を経て各自がアクティブ・ラーニングを取り入れていくことを確認し,公開研究授業で実施して頂きました。さらに,先進校視察で岩手県立盛岡第三高等学校に2回(数学2名,理科1名,地歴公民1名),そのほか埼玉県教育委員会とCorefで共同で実施している知識構成型ジグソー法による授業実践フォーラム(国語1名,地歴公民科1名),東京でのシアターラーニング研修会への参加(国語1名,英語1名),他校での研修会への参加など多くの研修へ参加しました。特定の教員ではなく,多くの教員が様々な研修を積み,その結果を他の教員に伝えることによりその理念やメソッドが若手を中心に広がり始めました。

平成28年度は,10月27日に文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官である樋口雅夫 氏を迎えて「観点別評価・アクティブラーニングについて」研修会を実施しました。その目的や理念に関して,非常に簡明な説明でわかりやすくその骨子を説明頂きました。先進校視察としては,函館中部高校におけるライティングやスピーキングに関する英語の先進的授業を視察し(英語科2名),さらに大阪教育センター附属高校に「ルーブリックに基づく体育の観点別評価」「探求ナビ」を視察(体育科1

平成23年度教育シンポジウム 平成23年度公開研究授業

平成27年度アクティブラーニング研修会 平成27年度 盛岡三高視察̲世界史

Page 3: 「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

名,地歴公民科1名),神奈川県立港北高等学校・静岡県立裾野高等学校におけるアクティブラーニングと防災教育に関する視察(理科1名,地歴公民科1名)を実施しました。平成29年度は茨城県立並木中等教育学校・栃木県立佐野高等学校にアクティブラーニングとIT

機器を利用したポートフォリオ作成の視察を行っています(英語科1名,数学科1名)。

③平成30年度~現在 「~定着期~」平成30年度はかえつ有明高等学校で合科目型授業「プロジェクト」と学校独自の統合型授業「歴

史総合」の授業を研修し,神奈川県立藤沢清流高等学校で民間企業とタイアップした「リーダーシップ教育」を学んできました。(地歴公民科1名,数学科1名)また,地域協働に関する研修のために東北芸術工科大学に2名,進路指導研修のために白石高校・名取北高等学校・仙台三桜高等学校に2名が視察を行っています。令和元年度には文科省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」指定校となったことを

受けて,小規模ながら地域のとの連携によって魅力ある生徒を養成している兵庫県立北条高等学校と同じく兵庫県立太子高等学校で研修し(数学科1名,国語科1名),地域協働の研修のために東北芸術工科大学に研修(国語科1名,数学科1名),今回本校においで頂いた松尾先生にご指導を受けるため岩手県立不来方高等学校に2名の英語科教員が視察を行っています。

先進校視察は特に本校に転勤して間のない先生方に行って頂いています。「石巻西高校はこんなやり方…」というような先入主や固定観念を持たない時期にすぐに先進校に行って頂き,「こんなことができたらいいなぁ」という先進的な授業を学び,その経験をフィードバックしてもらっています。4~5クラス規模の学校ですので,若手~中堅の教員は必ず何かしらの視察に行って研修をしてきていることになります。「見てくることが当たり前」,「目の前のことで満足するのではなくより高い目標をもって努力する」,「職員室での日常の会話が研修に結びつく」というような環境ができています。ですから特別なことはしていないけれども,「アクティブラーニング的学習」は本校全体としては定着期に入ってきたと考えます。また,学校の環境としても,「素直な生徒」と「チャレンジをしやすい環境(若手教師が多く,極端に

シビアな進路要求がない)」から自然と新しいメソッドが受け入れられているといえます。

H28大阪教育センター視察 探究ナビ

H29並木中等教育学校視察̲英語

H30かえつ有明視察̲ダイアローグ

Page 4: 「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

ICTについては少しずつできる範囲から整備を進め,現在教室への持ち運びができるプロジェクターとスクリーンのセットが7セットあり,そのうち4台にはアップルTVも準備し,ワイヤレスでプレゼンテーションが可能になっています。また,タブレットおよびPCについてはマックエアーが1台,新型ipadが3台,旧型のipadが4台,ウィンドウズタブレットが2台準備されています。若手の先生方が競うようにしてプロジェクターを使用した授業を行っているため,1学年4クラスで4台プロジェクターを使用していることもありました。

(2)推進組織特に推進する組織があるわけではありません。何かあれば,授業に関わることなので教務部で担当す

ることになると思います。組織があるわけではないので,推進する方法ということもなく,研修等で学んだ先生方が実践することで,他の先生方へ波及することをねらいとしています。授業の形式であれば,ペア,グループ,ワールドカフェなど様々な手法がありますが,大切なのは,「活動ありて学びなし」ということがないように,つまりアクティブ・ラーニングが目標ではなく手段となるように授業を考えることを重視しています。あくまでも「生徒が主体的に学び始める」ための方法の一つということです。

(3)効果について効果という点では,みやぎ学力状況調査における授業の理解度に関するデータがあげられます。以下は「ほとんどの授業よく理解できる」と「理解できる授業の方が多い」を併せた数字学年/年度 令和元年度 平成30年度 平成29年度 平成28年度1学年 52.9% 51.6% 47.4% 55.1%2学年 48.1% 52.3% 69.4% 55.7%

ご覧の通り,年度によって多少増減はありますが,授業理解が深まっているのでは…といえます。また,寝る生徒が減ったという教員の意見もあります。但し,進研模試などでの全国偏差値データとしてはほとんど横ばいであり,「分かった気になっている」と

いう可能性も否定できません。

(4)アクティブ・ラーニング型授業の実際について授業の実際については,前述のとおり,少しずつ取り入れていくという方針の下,各教科や各担当に

任されているのが実情です。おおよその先生方が,これまでの視察や研修などで学んだメソッドに基づき,部分的に導入しているのが実情だといえます。また,アクティブラーニング型メソッドと従来型の授業の割合についても考えるべき時期にあると思います。例えば授業の構成の中で,アクティブ2割+通常型8割のように現実的にはその組合せ・割合を考え,授業進度の確保なども大切だと思います。

プロジェクターと台車 普段の授業の様子 職員室のタブレット保管庫

Page 5: 「本校の主体的な学習に対する取組みに ... · 「本校の主体的な学習に対する取組みについて」 0.石巻西高校について 今年で開校から36年を迎える普通科4クラスの高校です(現在1・2年:4クラス,3年:5クラス)。

2.公開研究授業の企画・開催について教務部と学力向上対策委員会(教頭,教務部長,教務副部長,進路指導部長,学年主任,

各教科主任で構成)で企画・運営を行っています。例年,5教科での公開授業・分科会(分析会,合評会)と講演会で構成していましたが,今年度から,地域協同事業との関連でさまざまな要素を加えて統合し「まなびフォーラム」という形になりました。おおよその流れですが,前年度までに,各教科で助言いただける先生,講演者に内諾をいただき(こ

のあたりは主に管理職にお願いしています),前年度末までに公開研究授業の反省を踏まえて年間の研究テーマを決定します。新年度になってから,年間テーマに基づいた教科ごとのサブテーマの設定,年間スケジュールの作成,授業者の決定を行い,10月末の公開授業に向けて授業実践を行っていきます。公開研究授業後は,反省とまとめを兼ねて研究集録も作成しています。

3.その他,学力向上・進路指導に関する特色ある取り組みについて特色とまではいきませんが,通常のいわゆる宿題の他に,木曜日に週末課題を課し,翌週の月曜

日に提出させています。毎週ではありませんが,週末課題を対象として「WHT(週末課題テスト)」を火曜日の5時間目に設定し,国数英のテストを実施しています。各教科15分ずつ,国数は30点,英語は40点の100満点で行い,成績表も渡しています。学年によっては,学年集会の折に上位10名を発表したり,クラスの平均点で順位を発表する等して,モチベーションを高める工夫をしています。「観点別評価」に関しては6年前から全ての教科で導入し,学習評価規定・シラバスも「観点別評

価」に基づいたものになっています。