38 図㉕

支の改善につながります。いか。エネルギー収支の改善が域際収エネルギー代金が域外に流出していな活性化 … · 環境省にはいろいろとな国民運動をおこしていきたいと思っだき、その自然の恵みを引き出すよう自然の恵みに対する意識をもっていたます(図㉟)。国民的な議論を喚起して、

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38

は何か。生産という面からみて、エネ

ルギーだけにとどまらず、その地域の

強みは何なのかということをまず知っ

ておきます。視点2は、域内に所得が

分配されているか。逆にいえば大都市

へ所得が流出していないかということ

です。視点3は、住民の所得が域内で

消費されているか。市街化のスプロー

ル化や自動車中心の生活になってきた

ことで、行政区域を越えたところの大

型ショッピングセンターなどに顧客が

流れますと、域外消費ということにな

ります。視点4は、住民の預金が域内

に再投資されているか。預貸率という

地域内で貸している比率は日本では三

割といわれています。域内投資をより

活性化することが大切です。視点5は、

エネルギー代金が域外に流出していな

いか。エネルギー収支の改善が域際収

支の改善につながります。

実際に地域で再生エネルギーを進め

ていくと、その地域にどのような意味

図㉕

35

図㉑

図㉒

36

ないし二酸化炭素の排出も少ないので、

低炭素政策、温暖化対策は考える必要

はないということではまったくなくて、

そこの資源をフルに活用して発電をし

て都会に売り込むというアプローチを

取ることによって、新たな産業が生ま

れ雇用が生まれていきます。植田先生

がお話されたエネルギーの地域経営に

よってその地域をまかなうだけではな

くて、都市部を支えていくということ

にもなっていくのです。

一つの試算として、再生可能エネル

ギーの導入で地域内の需要をまかなう

ならば、化石燃料への支払い分が減っ

て、地域内総生産の八パーセント以上

の域際収支の改善が見込まれます(図

㉓)。省エネ・再生エネルギーへの投資

はGDPベースで二パーセントという

こともいわれていますので、それが地

域に投資されて事業化されていけば、

地域経済のインパクトはかなり大きな

ものがあると思います。

図㉓

37

水俣市の事例を紹介します(図㉔)。

環境省は水俣病以来、水俣市と深い関

わりをもっていて、地域の活性化とい

う視点でも深くコミットしています。

産業連関表からいろいろな物流を調べ

るなどしてデータを集計して資金のフ

ローをまとめました。水俣市では二〇

〇五年に一〇〇〇億円を超える域内総

生産があり、エネルギーの代金として

八六億円が域外に出ています。域内総

生産の八パーセント強です。地域の金

融機関が市民の預金の二割ないし三割

しか再投資していないという構造もみ

えています。このようなお金のフロー

をベースにして分析すると、再生エネ

ルギーを導入することが地域に具体的

にどのような意味があるのかというこ

とが明確になります。

地域経済の活性化を図っていくとき

に、環境政策の観点から、考慮すべき

五つの視点があります(図㉕)。視点1

は、域外から資金を獲得している産業

図㉔

42

地下水に浸透したりして水は海にいき

ます。そして蒸発して大気にもどり、

循環していきます。そのような水の循

環とともに、生きとし生けるものが食

べたり食べられたりしながらやはり循

環しています。都市の人たちもその循

環があることで、自然のサービスを受

けて生活しています。

このような森・里・川・海のつなが

りがいま非常に危ういことになってい

ます(図㉚)。山村の人口が減少して森

の間伐が進まないために、植林した森

が非常に弱いかたちになっていて、集

中豪雨で崩れるという災害が多発しま

す。イノシシやシカが増え農業被害が

多発しています。ウナギが消滅しかか

っているのも、森・里・川・海のつな

がりが分断されてしまった結果です。

また、子どものころから自然とふれあ

う機会が減少したことが、生物多様性

を保全しようとする意識の低下を招い

ています。

図㉚

39

があるのか、生産・分配・支出の三局

面で分析できる手法の確立を目指して

います(図㉖)。水俣の例ですと、いま

再生エネルギーの導入を積極的に進め

ていますが、八六億円が流出していた

エネルギーの支払いを、逆にエネルギ

ーを売りに出せるようになります。一

八億円の資金を域外から獲得すること

も可能であるかもしれません(図㉗)。

具体的なプロジェクトに関して、地域

の経済にどのような反映があるかを分

析することで、地域での合意に役立て

図㉖

図㉗

40

られるのではないかと考えています。

事業の主体は市民ベースであったり、

自治体が関わったり、地場の企業であ

ったりしますが、地域が自立・分散し

ていく絵柄が、客観的に視覚化できる

ような手法を今年いっぱいかけて形に

していこうと考えています。

一つの参考として、石炭火力と再生

エネルギーのコストの構造をお示しし

ます(図㉘)。バイオマス発電は石炭火

力よりコストが高いのですが、バイオ

マスでは燃料費が大きな割合を占めて

います。コストの安い発電ができたほ

うがいいというのはありますが、バイ

オマスの燃料のコスト部分は、域内で

回っているお金であるのは事実です。

コストの高さだけではなく、地域のな

かでお金を回していくという発想から

どう評価していくかということも考慮

すべきであろうと思います。

さて、今日の

後のテーマが国土の

価値です。ストックの視点が非常に大

図㉘

41

事です。再生エネルギーの資源もまさ

しく自然の恵みです。海に囲まれた日

本の国土にはたくさんの雨が降り、豊

かな森があり、いろいろな生態系があ

って、おいしい魚介類、おいしい山の

幸、おいしいお米を食べているという

ことを、われわれはあまりにも当たり

前に思っています(図㉙)。その恵みが

大きな意味で危機に直面しています。

地域資源を生かした地域づくりをして

いくということは非常に大事で、その

底辺となるのが自然の恵みに対する認

識です。国民ベースでこの問題を捉え、

森・里・川・海の連関を訴えて一つの

運動を起こすべき局面にあるのではな

いかということで、今年は環境施策の

大きな勝負の年であると私は思ってい

ます。皆さまのいろいろなご意見をい

ただきながら進めていきたいと考えて

います。

図㉙にはとくに水の循環が描かれて

います。山に雨が降り、川に流れたり

図㉙

46

ます(図㉟)。国民的な議論を喚起して、

自然の恵みに対する意識をもっていた

だき、その自然の恵みを引き出すよう

な国民運動をおこしていきたいと思っ

ているのです。環境省にはいろいろと

役所としての立場がありますが、草の

根のボトムアップの運動をおこして、

自然の怒りを鎮め、自然の恵みを引き

出す取り組みをしていきたいと思って

います。森・里・川・海の国民会議み

たいなものもつくって、一日一円ぐら

いの薄いお賽銭をみんなが払って、干

潟の再生に取り組んだり、森の再生に

取り組んだりしていきます(図㊱)。こ

れは地域の活性化とまさしく関連しま

す。都市と農山村が一つになって、安

全で豊かな国づくりを進めていきたい、

その一言に尽きます(図㊲)。

司会

中井様、どうもありがとうござ

いました。

それではここで再び会場の皆様より

図㊱

43

われわれが自然の恵みをどれほど得

ているのか、金銭ベースで可視化して

みますと、年間八〇兆円を超えるとい

われます(図㉛)。

図㉜と㉝は森林の管理がきちんとさ

れていないためにどのような問題が生

じているのかという資料です。政府と

して一〇年後にイノシシとシカを半減

させるという目標を立てなければなら

ない状況にまで立ち至っています。

また人口減少が進むなかで未利用地

が増え、未利用地をこれからどのよう

にしていくのか大きな課題になってい

ます。一つの大切な選択として再自然

化があると考えられています(図㉞)。

東日本大震災のあとで湿地が回復した

例があり、三重県の英虞湾で干潟の再

生が行われるなど、いくつかの事例が

あります。

こうした森・里・川・海のつながり

を認識して、その恵みを引き出すよう

な取り組みを進めていこうと考えてい

図㉛

44

図㉜

図㉝

45

図㉞

図㉟

50

くなってしまうおそれがあります。そ

こが集落として維持するのは本当に限

界がきてしまうのか、それとも何かを

すれば元気に立ち上がようになるのか、

いま議論をしています。住んでいるい

ろいろな人たち、さまざまなセクター

の方々がアイディアを出し合っていま

す。

図②の地図だけを見ていますと、真

っ赤なところは早晩消えてしまうのか

と思ってしまいますが、若い女性の人

口増減率(図③)や高齢化率の推移(図

④)、あるいは年代別人口の推移(図⑤)

など、いろいろな地図やグラフをつく

ってみますと少し違った面もみえてき

ます。さらにいろいろな技術をもった

達人がどこにいるのかといったことも

含めて、資源と人のマップづくりも始

図①

図②

図③

47

質問を受け付けたいと思います。ご質

問のある方はどうぞ、恐れ入りますが

挙手をお願いいたします。

――

後に自然の恵みを引き出すこと

に関して環境省としての力強いメッセ

ージがあったのですが、その一方で、

温室効果ガスを二〇五〇年までに八〇

パーセント削減するということについ

て、環境省の考え方が政府のなかでど

のような位置づけになっているのか

少々疑問に感じています。経産省主体

で進めている日本のエネルギー計画の

内容をみると、相変わらず原子力中心

で、従来の考え方とほとんど変わって

いません。二〇五〇年というとすごく

先のようですけれども、エネルギー政

策の三五年間といったらすぐ明日の問

題といっていいくらいだと思います。

政府としての一環性はどのようになっ

ているのでしょうか。

図㊲

48

中井

国際的には、二〇三〇年の温暖

化対策について日本としての目標を出

さないことにはもう相手にされないと

いう状況になっています。二〇五〇年

までに八〇パーセント削減することは

閣議決定していますので、二〇三〇年

にどの程度にまでいくのか非常に大事

なポイントです。環境省としては、極

力再生エネルギーを導入することを考

えていて、発電量の三〇パーセントと

いう数字を出しています。経産省は二

〇パーセントを超えるところの数字を

出していて、一〇パーセントの差があ

ります。環境省としてはとにかく二〇

五〇年に八〇パーセントという目標に

沿ったものにしなければいけないとい

うことでがんばっています。

――世界的にみて、都市化は避けられ

ない状況で進んでいます。日本でも東

京や大阪はもっと大きくなっていくと

思いますが、それに逆流するかたちで

地方に人を移すには、国の直轄地のよ

うなことにして国の力で強力に進める

ということでもしないといけないので

はないかと思うのですが、どう思われ

ますか。

中井

まったくの個人的な見解とし

てお答えします。私は富山県に三年ほ

どいたことがあって、環境省が富山県

に移ってきたらいいではないかといわ

れたことがあります。個人的には実現

すればいいと思います。ただし、政府

の機構を移転することにはいろいろと

ハードルがあります。政府としての意

思決定がつつがなく行われるのかどう

かという懸念があります。いくらイン

ターネットが使え、スカイプで顔を見

ながら話ができるといっても、夜にち

ょっと飲んで本音を言い合うようなこ

とも、意志の疎通には必要であったり

します。首都移転の話は

近は下火に

なっていますが、究極的にはそのよう

なことをしてもいいのかもしれないと

思います。

司会

ありがとうございました。環境

省大臣官房審議官、中井徳太郎様より

基調講演をいただきました。

続きまして、NPO法人菜の花プロ

ジェクトネットワーク代表、藤井絢子

様より、「食とエネルギーの地域自立―

地域に生業とにぎわいを創る、滋賀県

東近江市」と題してご講演をいただき

ます。それでは藤井様、よろしくお願

いいたします。

49

ここまでの二つの基調講演で、植田

先生からは地域エネルギーの経営につ

いて、中井さんからは環境省としてど

のような地域の在り方を目指している

かについてのお話がありました。私か

らは滋賀県の小さな町、滋賀県東近江

市での挑戦をご紹介させていただきた

いと思います。

東近江市の位置をご覧いただきます

(図①)。滋賀県の中央に琵琶湖があり

ます。琵琶湖から敦賀の原発まで一番

近いところで一三キロ、高速増殖炉も

んじゅまで一五キロです。琵琶湖は滋

賀・京都・大阪・兵庫の一四五〇万人

の水源地です。非常に大事な水を預か

っています。東近江市は琵琶湖の南東

側にあります。鈴鹿の山ふところの永

源寺という森から一本の川、愛知川が

琵琶湖に注いでいて、その流域全部が

東近江市になっています。

先ほどから人口減ということが何度

もいわれています。東近江市でも人口

はいつも前月比マイナスです。増田寛

也さんの「消滅する市町村」のレポー

トが出され、滋賀県の一三市、六町の

なかで三つは消滅するということにな

っています。東近江市はその三つには

はいっていません。滋賀県では四つの

市町で人口が増えています。

東近江市には二五六の集落あります。

それらの集落で人口がどのように変化

するのか、シミュレーションがありま

す(図②)。真っ赤なところは集落がな

■講演1

食とエネルギーの地域自立

地域に生業とにぎわいを創る―滋賀県東近江市

藤井絢子

ふじい

あやこ

NPO法人菜の花プロジェクトネットワーク代表

54

ルトもつくり、鶏を育ててローストチ

キンをつくるというようなことをやっ

ています。ただ地域との結び付きがほ

とんどなかったので、私たち菜の花プ

ロジェクトがコーディネートして、こ

の子たちが主役になるような高校生レ

ストランを開いて、学校でつくったも

のを地域の人に食べてもらうというこ

とを行いました。それが定着してずっ

と続いています。農業高校の卒業生は

いままではなかなか就職する先が地元

になくて、町工場やスーパーマーケッ

トに勤めたりするくらいであったので

すが、農家レストランに就職するよう

なことも少しずつ出始めています。

この地域は食材が豊かで、都会から

くると地域の食材でつくった料理がと

てもおいしく感じるそうです。地域の

図⑧

図⑨

51

めていています。

このような東近江市ですが、意外と

元気に動いていますということで、こ

れから菜の花プロジェクトをご紹介さ

せていただきます。

菜の花プロジェクトは私が中心にな

って進めてきているものですが、私た

ちの地域づくりは、いまから四〇年近

く前の琵琶湖の水環境の再生から始ま

りました。当時、琵琶湖では富栄養化

が進んで、比較的きれいであった琵琶

湖の北部でも赤潮が発生するまでにな

ってしまいました。富栄養化の原因と

してリンを含む合成洗剤の使用の増加

があると考えて、粉せっけんを使う運

動が市民の間から始まりました。それ

が大きな広がりをみせ、その次に、天

ぷら油を回収してせっけんをつくる運

動が始まりました。そのころは武村正

義知事の時代で、知事は市民の運動を

後押ししてくださいました。

市民がイニシアティブを取ってずっ

と水環境の問題に取り組んできたので

すが、一九九〇年代に入りますと地球

温暖化問題が出てきましたので、次な

る挑戦として、天ぷら油をバイオ燃料

にしてみようと考えました。そのとき

に、ドイツではすでに一九七三年のオ

イルショックのときから、農地に菜種

を植えて食用とエネルギー用と両方に

活用しているということを知りました。

しかし、日本は食糧自給率が低いので、

食べ物をバイオ燃料にするなどという

ことはとてもできないと思いまして、

図④

図⑤

52

それまでの市民運動の成果として、天

ぷら油の回収が行われていましたので、

大胆にも、その天ぷら油を燃料にする

バイオディーゼルの実験に取り組んだ

のです。本当に大胆なことで、何もわ

からずに滋賀県工業技術総合センター

に飛び込んで精製法を教わって、どう

にかこうにかバイオディーゼル燃料の

試作にまでこぎつけました。しかし、

きちんとして精製を行っていくには実

験プラントをつくる必要がある、小型

の装置でも五〇〇万円がかかるといわ

れて、場所も資金もあてがなくて困っ

てしまいました。そのときに愛東町、

現在の東近江市の柿田仁敏町長が「私

の町へ」といってくださって、実験プ

ラントをつくることができたのです。

プラントはその後、改良を重ねて完成

版に至り、全国的にも広がりをみせて

いるところです。

こうして、地域のなかにある資源も

生かして化石燃料の代わりに使うこと

図⑥

53

で、二酸化炭素の削減になるというこ

とを地域の方たちとともに進めていっ

たのですが、地域では別の問題として、

耕作放棄地がどんどん広がるようにな

っていました。いま全国で耕作放棄地

は大体滋賀県の面積ぐらいあります。

今後高齢化がさらに進むと、もっと増

えていきます。東近江市でもたくさん

の耕作放棄地があります。米が多すぎ

るということで減反政策が行われたの

が耕作放棄地の始まりでしたが、東近

江市では転作対象地が三三パーセント

もあって、稲をやめて何を植えるのか

というのが大問題でした。そこで私は

菜種を植えようという提案をしました。

以前は食糧自給率の低い日本ではでき

ないと思ったことが、耕作放棄地や転

作対象地に菜種を植えて、それを食用

に使って、そして廃食油をバイオ燃料

にするということで実現できるのでは

ないかと考えたのです。しかも、菜種

を植えることで農地がよみがえって景

観が再生されますし、ハチがくればハ

チミツも採れます。環境学習にもつな

がっていくだろうと、少し欲張ったか

たちでプロジェクトを始めたのがいま

から一七年前です。

菜の花プロジェクトは資源循環サイ

クルを目指しています(図⑥)。それは

農地を中心にした動きだけではなくて、

さまざまな人が動いて、地域を元気に

していきます(図⑦)。たとえば農業高

校の生徒さんと連携した高校生レスト

ランがあります(図⑧)。農業高校では、

生徒さんが学校のなかで、米をつくり、

牛を育てて乳を採り、そこからヨーグ

図⑦

58

ものすごくうれしく思っています。

滋賀県の中央には琵琶湖があると

初に申し上げました。子どもたちに、

東近江市の山から琵琶湖までは遠いけ

れど、実はみんな川でつながっている

んだという話をしています(図⑬)。廃

食油からのリサイクルでせっけんを中

図⑫のつづき

55

人にとっては当たり前のものなので、

「そんなにご馳走ですか?」というこ

とだったのですが、おいしく食べてい

ただけるのならとオープンしたのが農

家レストランです(図⑨)。ここでは地

産地消のものでおもてなしをします。

それと、この地域には大きな家にお

年寄りが二人だけで住んでいるという

ような家がたくさんあります。町には

視察などでたくさんの人がいらっしゃ

るのですが、泊まるところがなかった

ので、農家を民宿として活用できない

かということを考えました。農家民宿

を始める方が少しずつ出てきたところ

で東近江市に修学旅行にきたいという

話がありまして、いまでは農家民宿・

民泊あわせて八〇軒ほどになりました

ので、三〇〇人ぐらいの修学旅行の生

徒さんを受け入れられようになりまし

た。食べるものは旬のものをお出しし、

秋なら芋掘り、春なら田植えと、農作

業も一緒にするというプログラムをつ

くって、かなりの好評を得ています。

琵琶湖の水源はまわりを囲む山で、

ここの地域は七〇パーセントが山です。

私たちの活動は田んぼから次は山をど

う動かすかということが課題になりま

した。この地域にずっと住んできた方

に伺うと、山で松茸が採れて、松茸で

キャッチボールをしたと言います。だ

ったら、松茸でキャッチボールができ

るようになるまで整備をしようという

ことで、里守隊を編成して、この七年

間ほど山の「地かき」をしています(図

⑩)。松食い虫でやられた松の木を引き

出すなど、林を整備しています。まだ

図⑩

56

松茸は出てきていませんが、今がんば

っている人たちの子どもたちの代にな

るころまでには出てくるだろうと、だ

んだん鷹揚に考えるようになってきて

います。

山で薪割りをし、腐葉土を集めてい

ます(図⑪)。それらを全部お金に換え

ようと考えています。薪を割って薪を

くくる作業を誰が担うのかということ

で、一般の人ですと日当が一万二〇〇

〇円ほどかかります。この地域には、

引きこもりの人や障害のある方がいら

っしゃることが調査のなかでわかって

いましたので、社会に出る取っかかり

ができないだろかということで日当六

〇〇〇円で薪をくくる作業をしてもら

っています。薪はガソリンスタンドな

どいろいろなところに置いてもらって

います。薪の需要を生み出すために、

薪ストーブのある家づくりという大工

さんのプロジェクトもあります。

図⑪

57

人の暮らしにはさまざまな側面があ

り、地域には環境の問題もあれば福祉

の問題もあって、いろいろな問題が渾

然一体となっています。そのときに何

が一番共通するかというと、食べるこ

とだと思います。ですから菜の花プロ

ジェクトでは必ず食べることを入れて

います。そのときにそこで取れるもの

を食べます(図⑫)。食べるだけではも

ったいないので、田舎者体験というこ

とで、米づくり、味噌づくり、たくあ

んづくりなどいろいろなプログラムを

始めて、都会の方たちがずいぶんとき

てくださって定着してきています。果

樹農家が高齢化してきて、このままで

はこの地域で

大の売上げとなってい

る果樹がだめになってしまうというこ

とを発信しましたら、Iターンの若者

が少しずつですが、農業の現場に入っ

てきてくれるようになりました。小さ

な子どもたちと一緒に移住してくれて、

図⑫

62

すでにこれまでのご講演にありまし

たように、地域資源を活用して、エネ

ルギーシステム、あるいは社会システ

ムそのものにイノベーションをおこし

ていこうということがさまざまに考え

られているわけですが、地域を変えて

いくために大学にどのようなことでき

るのか、私たちの取り組みをご紹介し

たいと思います。

低炭素化、温室効果ガスの排出の削

減に関していろいろな方法論が提案さ

れています(図①)。マクロ的な解析な

どから、どのような技術を組み合わせ

ればどれぐらい削減できるのか、いろ

いろなかたちで検討されています。現

実には化石資源の価格にかなり左右さ

れるところがありますので、価格に依

存しないような技術の導入が必要であ

るといわれています。将来的には再生

可能資源を使うのがいいとわかってい

ても、明日から何をやるのかというと

ころの設計がなかなかできません。中

長期的に移行していくための「トラン

ジションマネジメント」を可能とする

技術パッケージを設計しておかなけれ

ばいけません。もちろん社会経済性の

評価も必要です。それらが、いままさ

に大学の課題であろうと考えています。

山林の森林資源をバイオマスとして

活用することが考えられています(図

②)。森林資源を上手に使っていくには、

付加価値の高い木材、集成材、合板な

どの素材をつくって売らなければいけ

■講演2

地域資源・エネルギーと

社会システムイノベーション

菊池康紀

きくち

やすのり

東京大学総括プロジェクト機構「プラチナ社会」総括寄付講座特任講師

59

学生につくってもらって、水の循環に

ついて考えようということもしていま

す。

昨年、あいとうふくしモールがスタ

ートしました。(図⑭)。エネルギーと

食と高齢者福祉・障害者福祉を一体と

したモールです。ここに農家レストラ

ンがあります。屋根に太陽光パネルが

載っているのは市民が出資した市民共

同発電所です。薪が積んであるのは薪

ストーブに使うためで、この地域の鉄

工所が開発した薪ストーブが建物のな

かに入っています。左下の小さな写真

は、ここで開いている一輪車市です。

一輪車に載せて、自分の作ったもの、

野菜や花をもってきて売っています。

初めは一輪車五台ぐらいでしたが、今

はたくさんの一輪車が並んでいます。

その土地のお年寄りがいろいろなもの

をもってきて一輪車市をやるというの

が大変好評を博していて、お年寄りの

図⑬

60

元気につながって、結果的に高齢者福

祉にもなっているのかなとも思います。

少しずつお金が回る仕組みにもなって

います。

福島とのつながりをお話する時間が

なくなってしまいました。図⑮のイル

ミネーションは全部バイオ燃料で光ら

せています。相馬農業高校、相馬商業

高校、相馬工業高校の皆さんとも南相

馬でずっと交流を続けています。

後に全国菜の花サミットのご紹介

です(図⑯)。

菜の花プロジェクトは初めは地域の

人のボランタリーな活動でした。小金

が回る仕組みを作りながら、生業とも

つながってきました。田んぼから山か

ら湖まで少しずつ動き出してきました。

今日はこのような小さな町の一つの地

図⑭

図⑮

61

域づくりをご紹介させていただきまし

た。

司会

藤井様、どうもありがとうござ

いました。NPO法人菜の花プロジェ

クトネットワーク代表、藤井絢子様よ

りお話をいただきました。

では続きまして、東京大学総長室総

括プロジェクト機構プラチナ社会総括

寄付講座特任講師、菊池康紀より、「地

域資源エネルギーと社会システムイノ

ベーション」と題して講演させていた

だきます。それでは菊池先生、よろし

くお願いします。

図⑯

66

進国であるといわれました。少子高齢

化など先進国が抱える課題に、他国に

先駆けて直面しているのが日本だとい

うことですが、課題先進国のなかでも

さらに課題が先進している地域が離島

ではないかと考えています(図⑤)。簡

単な統計をみていただきますと、人口

の減少、高齢化、産業労働力の減少が、

離島では他の地域に比べてかなり速い

スピードで進んでいます。そういった

課題の先進する離島地域で何か改革が

できないかということにここ数年私ど

もは取り組んできました。

鹿児島県に種子島があります。ロケ

ット打ち上げの宇宙センターがあるこ

とで有名です。種子島で地域イノベー

ション、社会システムイノベーション

の取り組みをさせていただいていて、

二〇一四年八月に種子島でシンポジウ

ムを開催しました(図⑥)。武内先生に

も講師としてきていただいて、いろい

ろな議論をしました。このシンポジウ

図⑤

63

図①

図②

64

ません。そのことがきちんとあって、

その傍らで、バイオマスエネルギーの

事業を展開していくのが持続的な事業、

健全な事業であるといえます。そのた

めには、ICTを駆使してものの流れ

を制御したり、サプライチェーンを設

計したりといった取り組みが間違いな

く必要になります。そういった仕組み

づくりは、まさに大学がやっていかな

ければいけないことだと思っています。

また、水資源は山林を考える際の要で

す。それは農業や漁業に大きく影響し

ます。水資源についても仕組みをきち

んと理解しながら、山林をどう考えて

いくのかということにも大学は取り組

まなければいけません。

地域で何かしていこうという取り組

みに、われわれもいくつかの地域で入

らせていただいています。そこから実

にさまざまな問題が出てきます(図③)。

「地域システムのNレンマ」と書きま

したが、地域の皆さまはさまざまなお

図③

65

立場でいろいろな目的をお持ちですの

で、これをすり合わせていくのは容易

ではありません。決してどこかにルー

ズなところが発生しないように、ウィ

ンウィンな関係をつくって、一歩一歩

前に進めていくようにするというとこ

ろが大きな課題です。

基本的なコンセプトは皆さまにご同

意いただいて、目標もビジョンもいい

とご理解いただいても、実際に明日か

ら何をしましょうかということになる

と、うちはなかなかできないとか、あ

そこが先に変わってくれないとならな

いとか、いろいろなことを皆さま方は

思っておられます。そういったところ

のすり合わせを、利害関係のないわれ

われ大学がうまくサポートできるとい

いのではないのかと考えています。大

学が地域のいろいろなステークホルダ

ーの間の潤滑剤のようになれたらとい

うことです。

地域資源を上手に使っていくには、

先ほども少し申し上げましたように、

高付加価値で高品質な農産物・木材・

集成材を外に出しながら、低付加価値

でかつ大量に存在するバイオマスを地

域のなかでうまく使えるような状況に

していくことが大切です(図④)。バイ

オマスは地域資源として巡るものもあ

れば、エネルギーとして巡るものもあ

ります。そのためのシステムを改革す

ることが、農業や林業など地域の生業

で一番重要な高付加価値なものを生産

する技術やプロセスを支援するような

かたちになるのがいいと考えます。つ

まり、エネルギーのためのエネルギー

のシステムではなくて、地域の生業を

支えるためのエネルギーのシステムで

あるということです。当たり前のこと

ですけれど、エネルギーを消費するた

めにエネルギーを使っているわけでは

ありません。何かしたいことがあるか

らエネルギーを使うのです。それがう

まく実現できるような仕組みを地域に

入れていきたいというのが私どもが考

えていることです。

私どもが入っているいくつかの地域

のなかに離島があります。東大の前の

総長の小宮山宏先生は、日本は課題先

図④

70

林の保全にもうまくつなげていけるの

ではないかということで、取り組みを

始めさせていただいているところです。

種子島では、自治体と企業体、住民

も含めていろいろな方々とともにグラ

ンドデザインを描こうというプロジェ

クトを立ち上げました(図⑧)。グラン

ドデザインで重要なのは外から地域に

入ってくる移入資源を減らして、地域

の外へ出ていく製品の販売を増やして

いくことです。また、地域のなかでは

もっともっと回しやすくしていくこと

です。

そのときに考えなければいけないの

は、地域の社会経済への波及効果です

(図⑨)。たとえばトマトが地域外品だ

と一〇〇円で、地域内品だと一五〇円

だったときに、地域内品の一五〇円は

高いということになってしまいますが、

地域内品の一五〇円は地域のなかで循

環してもしかすると自分の収入として

回ってくるということなら、本当は高

図⑨

67

ムを皮切りに、種子島において具体的

な地域の活動をさせていただいている

ところです。

エネルギーの側面から種子島をみて

いきます(図⑦)。種子島は水稲栽培の

南限で、サトウキビの栽培の北限です。

ざわわのサトウキビの景観と水田の田

園風景が一緒に存在しているのが種子

島です。エネルギーを考えたときに、

サトウキビをうまく使っていきたいと

いうのがわれわれの思いです。サトウ

キビから砂糖を作る製糖工場の横にサ

トウキビの絞りかす(バガス)を使っ

て熱と電気の両方をつくるコジェネレ

ーションのプラントがあります。この

プラントをうまく活用していきたいと

考えています。

サトウキビは連作障害があって、同

じ場所でつくり続けると病気が発生し

やすくなります。それで輪作をしてい

ますが、輪作の相手はイモです。種子

島には安納芋など名の知れたいろいろ

図⑥

68

なイモがあります。イモとサトウキビ

は統計上は別になりますが、芋農家と

サトウキビ農家が実は同じ人だったり

します。イモの生産量のうちの六割か

ら七割は加工用で、デンプンに加工さ

れています。このデンプン工場がいま

エネルギーコストが高くなってきて困

っています。イモというかなり水分の

多い原材料からデンプンをつくるには、

水を飛ばす工程がどうしても必要です。

単純にいえば温めて蒸発させるので、

それには大量の熱が必要です。

サトウキビの製糖工場からは絞りか

すのバガスが出ます。バガスは非常に

豊富なエネルギーを含んでいて、バイ

オマスエネルギーとして優秀な燃料で

す。ですからサトウキビの製糖工場で

はエネルギーが余ってしまってしょう

がないぐらいにあるのです。デンプン

工場からもデンプンかすが出て、これ

もバイオマスとして使えます。それら

のバイオマスを集めた地域のエネルギ

図⑦

69

ー拠点のようなものをつくって、熱と

電気の両方を融通していけばいいので

はないかと考えています。それによっ

てデンプンの生産コストを下げられる

のではないかと議論しているところで

す。

同じような話が製材所でもあります。

高付加価値な木材をつくるには潤沢な

熱エネルギーが必要です。ここでもバ

イオエネルギーをうまく利用していけ

ないかと考えています。

太陽光発電や風力発電には自然の条

件で発電量に変動があるために、島と

いう限られた空間のなかでは、太陽光

発電や風力発電を取り込んで電力グリ

ッドを動かすのは難しい面があります。

製糖工場の横にあるバガスのボイラー

などでバイオマス火力発電を行えば、

太陽光や風力の変動に対応した調整用

に使える可能性があるでしょう。

バイオマスの活用は、もちろん雇用

の創出・安定化や、林業の健全化、森

図⑧

74

私は佐渡に生まれ、大学からは東京

に移り、その後映画会社に勤めて一九

九五年に帰郷。いまは実家である佐渡

島の蔵元で、五代目蔵元として働いて

います(図①)。当蔵は一八九二年創業、

真野鶴というお酒を造っています(図

②)。

皆さんのなかで佐渡島に行ったこと

がある方はいらっしゃいますか。結構

いらっしゃいますね。ありがとうござ

います。

行ったことのない方のなかには、「た

らい船でいけるの?」とか「自転車で

一周できちゃうんだよね」とかいわれ

たりもしますが、島の周囲は二六〇キ

ロ以上、面積は東京二三区の一・四倍、

一〇〇〇メートルを超す山もあって、

人口は六万人弱(図③)で、よく「日

本の縮図」と言われます。

人口の推移をみていきますと、約一

〇年間で一万人減っていることがわか

ります(図④)。野生に放鳥されたトキ

はどんどん増えていますが、一方の人

間は毎年一〇〇〇人ぐらい減っていま

す。高齢化率は全国平均よりも高く、

出生率こそは平均より高いものの、出

生数自体は減少しています。先ほどの

お話につながりますが、佐渡島は日本

が抱える課題の多くが集積する課題先

進地だといえます。

佐渡島には、歴史、自然、文化、ト

キと多くの宝があります(図⑤)。この

自然と文化が注目されて、二〇一一年

■講演3

幸せを醸す酒造り

佐渡・学校蔵プロジェクトの取り組み

尾畑留美子

おばた

るみこ

「真野鶴」五代目蔵元・尾畑酒造株式会社専務取締役

71

くはないということになるのかもしれ

ません。このような経済の仕組みをき

ちんと見ていこうと私たちは考えてい

ます。

産業連関分析などを使いながら、地

域のなかでどのようにエネルギーのビ

ジネスを展開させれば、地域のなかで

循環するお金の量をもっと増やせるの

か、解析を共同研究者と一緒に進めて

います。図⑩は佐渡島の例です。佐渡

島で、林業の経済波及を可視化させて

いくと、林業で一億円生産すると、循

環額が一・二九億円になります。一・

二九倍の経済波及があるのです。これ

をもっと大きくしていきたいと思って

います。実は日本の林業全体の波及効

果は三倍弱なので、佐渡島の一・二九

倍は十分に林業が展開できている状態

だとはいえません。もっと高い数字に

もっていくために、ガスや電気へのコ

ネクションをつくって、木質バイオマ

ス由来のエネルギービジネスを展開し

図⑩

72

ていくといった議論を地域のなかで行

っている

中です。

地域でイノベーションをおこしてい

こうと考えたときに、単純に新しい技

術がありますとか、経済の波及効果化

を分析するとこうなりますとかいった

知識や情報だけを提供しても、なかな

か地域は動けるものではありません。

どういう方にやっていただくのか、資

金をどういうところから集めてくるの

か、制度はどう変えていけるのか、地

域の風土や文化に合った形の仕組みは

何なのかといったさまざまなことを議

論していかなければなりません(図⑪)。

そのような場の構築に向けて私どもが

何をさせていただけるのか一生懸命考

えている

中です。

図⑫は種子島で私どもがやっている

活動の全体像を描いたものです。島の

外でおきている技術や仕組みやシナリ

オや制度の新しい動きを、島のなかへ

ともっていく会をつくっているところ

図⑪

73

です。先ほどのシンポジウムに始まっ

て、さまざまな研究会、講演会、セミ

ナー、座談会をいろいろな方々と一緒

にやらせていただいています。地域の

外にあるものを、地域のなかの夢や目

標・想いとうまくマッチさせながら、

実現させていこうと考えています。

地域のビジョンを実現させるための

ポイントをまとめてみました(図⑬)。

自然資本を効果的に使い、将来を見つ

めながら今を考え、民生や産業のいろ

いろな業態をつなぎ合わせて、地域が

主役のイノベーションの場をつくりま

す。こういったことに、大学が取り組

むという新しい活動としてまさに始め

ているところです。皆さまからもさま

ざまなご意見やご指導、ご支援をいた

だきたいと思っています。

司会

菊池先生、どうもありがとうご

ざいました。

続きまして、真野鶴五代目蔵元、尾

畑酒造株式会社専務取締役、尾畑留美

子様より、「幸せを醸す酒造り―佐渡・

学校蔵プロジェクトの取り組み」と題

してご講演をいただきます。それでは

尾畑様、よろしくお願いいたします。

図⑫

図⑬