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「フランスパンの香り成分と製法による影響」bread-lab.annex.jp/pdfs/No0726.pdf · フランスパンのクラストの匂いは、イースト量や製パン工程の違いにより異なる。

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NO.726

平成22年7月

h t t p : / / w w w . j i b t . c o m

「フランスパンの香り成分と製法による影響」

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目 次

Ⅰ.はじめに …………………………………………………………………… 1

Ⅱ.Crust Aroma of Baguettes(Ⅰ)

Key Odorants of Baguettes Prepared in Two Different Ways

1.Abstract(要約)…………………………………………………………… 4

2.Introduction(はじめに) ………………………………………………… 4

3.Material and methods(実験方法)……………………………………… 6

3-1.Bread preparation(製パン配合、工程)………………………… 6

3-2.Isolation of the volatiles(揮発性物質の分離方法)……………… 7

3-3.Chromatographic methods(クロマトグラフィーの使用方法)……… 7

3-4.High-resolution gas chromatography/mass spectrometry(HRGC/MS) …… 8

3-5.Aroma extract dilution analysis(AEDE)……………………… 8

3-6.Gas chromatography/olfactometry

of static headspace samples(GCOH)…… 10

3-7.Quantitative measurements(定量的測定方法)………………… 11

3-8.Odour thresholds in starch(澱粉内での嗅覚閾値)…………… 12

3-9.Flavour profile analysis(匂いの分析) ………………………… 12

4.Results and discussion(結果と考察)………………………………… 14

4-1.Odorants screened by AEDA and GCOH

(AEDA と GCOH でスクリーニングした香り成分)…… 14

4-2.Concentrations and OAVs of the odorants (匂い成分の濃度と OAV) … 16

4-3.Simulation of crust aromas(クラストの匂いのモデル化)……… 17

5.Conclusions(結論) ……………………………………………………… 18

6.References (参考文献) …………………………………………………… 19

Ⅲ.Crust Aroma of Baguettes(Ⅱ)

Dependence of the Concentrations of Key Odorants on Yeast Level

and Dough Processing

7.Abstract(要約)…………………………………………………………… 20

8.Introduction(はじめに) ……………………………………………… 20

9.Result and discussion(結果と考察)…………………………………… 21

9-1.Amount of yeast (イースト量)………………………………… 21

9-2.Fermentation time and temperature (発酵時間と温度)……… 22

9-3.Kneading (ミキシング)…………………………………………… 23

10.References(参考文献) ………………………………………………… 23

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Ⅰ.はじめに

一般にパンの香りとして知られている物質としては、アルコール、アセトア

ルデヒド、イソアルコール、フルフラール、酸類、ケトン、ジアセチル、エステル、

イソアルデヒドなど数多くの物質によって構成されていることが知られている。

また、Coffman(1966)によると焼成中のオーブンから蒸気凝縮液中に検出され

た物質として、n-プロピルアルコール、i-ブチルアルコール、iso,d-アミル

アルコール、γ-ブチルラクトン、β-フェネチルエタノール、2,5-フランジアル

デヒドが検出されている。これらの物質はパン製品のクラムのヘッドスペース

ガス分析によっても検出される物質であり、その多くがイースト(及び乳酸菌)

発酵によって生成される成分であることも知られている。従って、食パンや菓

子パンのクラムではこれらの成分が主体となっていると考えられている。

一方、配合がリーンで直焼きするハースブレッドでは、焼減率が高いことも

あって、これらの揮発成分の残存量が少ない上に、これらの成分だけでパンの

香りの善し悪しを判断できないことは、パン職人の間で経験的に知られている。

特に、焼色は非常に重要であるが、小麦粉の選択、イーストの添加量、ミキ

シングの程度と発酵条件が最適化された条件下で製パンを行わないと、幾ら焼

色が適正であっても甘い香りの強度とそのバランスが整わないのである。

フランスパンを例にとって述べると、小麦粉では一般に灰分値 0.40~0.48%、

蛋白値 10.5~12.2%、原料がフランス産では蛋白値は 8~9%となっており、

非常に幅広い規格値の小麦粉が市販されている。また、製粉方法においても一

般的な多段階ロール式製粉の他に石臼挽きも随分と広まってきた。そして、中

には粉末麦芽がブレンドされているものまである。そして、製法としては、90

分~3時間発酵ストレート法、ストレート法にオートリーズを組み合わせたデ

ィレクト法、ポーリッシュ法(小麦粉液種法)、発酵種法(古生地使用)、生地

冷蔵法など。使用するイーストとしては、純ドライイースト(粒状)、インスタ

ントドライイースト(顆粒状)、セミドライイーストなどが使用され、添加量は

少なくなる傾向が見られる。

他方、パンの着色を考慮すると、焼色はカラメル反応とメイラード反応によ

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って発色する。この内、食品の香りについて近年メイラード反応が重要である

と言われている。メイラード反応とはアミノ酸と還元糖の過熱重合反応である

が、その副反応として起こるストレッカー分解反応が食品に特有の香りを与え

ることが判ってきた。ストレッカー分解反応とは「α-ジカルボニル化合物とα

-アミノ酸が反応して、アルデヒドやピラジンを生成する反応」を指す。よって、

この反応には還元糖とアミノ酸が必要であることが推測でき、フランスパンで

は無糖生地中の主となる麦芽糖の残存量+やや高い灰分の小麦粉中に含まれる

アミノ酸が、この反応に必要であると経験的に予測できる。

これを昨今、伝統的製法として主流といわれているディレクト法によるパン

の作り方に垣間見ることができる。先ず、オートリーズによって、小麦粉粒子

の水和による水和崩壊を進めると同時に小麦粉中のβアミラーゼ(+モルトシ

ロップ中のαアミラーゼ)によって損傷澱粉の分解が始まり麦芽糖の蓄積が開

始する。そして、リミックス時に添加するイーストは乳酸菌活性の低いインス

タントタイプを生地のガス保持力の構築に必要な最少量使用し、ミキシングは

気泡数が多くならない程度で留め、発酵温度は室温の 27℃程度に保つ。イース

トのガス発生は少ないためパンチは比較的強く生地表面を叩いて強化し、同時

に気泡はイーストによるガスの供給量が少ないために不安定化し、パンチによ

って不均一になった気泡は一部が合体し、粗く膜の厚い気泡構造になる。一方、

オートリーズ工程により損傷澱粉の分解時間は十分となることに加えて、イー

ストによる麦芽糖の消費が少ないため、ホイロ後の麦芽糖の残存量は比較的多

くなり、これがフランスパン特有の甘い香りを増強すると推測できる。また、

この時、灰分の高い小麦粉を併用した場合、遊離アミノ酸の量も多くなる。ま

た、pHが低く酢酸臭を低減化した発酵種の併用も有効で、pHが低い場合、

内在している酸性プロテアーゼが小麦粉中のタンパク質を分解するためアミノ

酸含有量が高くなる。この作用もストレッカーアルデヒド化合物の生成には一

層プラスに働くと推測される。

また、別途、当研究所においても、外部からの依頼によって各種条件でフラ

ンスパン調製し、麦芽糖の蓄積量とストレッカーアルデヒド化合物の含有量、

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フランスパンの甘い香りの強度に関係があることを確認している。当時の試験

結果では、キタノカオリとホクシンの単挽き小麦粉を使用し焼色指数が同等に

なるように焼上げた製品でキタノカオリがストレッカーアルデヒドの含有量が

多いこと、また、アミノ酸の含有量では純ドライイーストとインスタントドラ

イイーストを比べると純ドライイーストの方が多いこと、ポーリッシュ法とス

トレート法を比べるとストレート法の方が多いことを確認している。(外部から

の依頼試験によりデータは非公開とさせて頂きます。)

従って、フランスパンの甘い香りを出すためにはストレッカーアルデヒドを

如何に増やすかがカギとなるのである。

そこで、今回、この研究並びに情報提供の元となった学術論文をここに紹介

する。

昨今のフランスパン製法上の傾向ともいえる少ないイースト添加量で比較的

低温条件下、長時間発酵で調製されたフランスパンの香りが良いという傾向を

裏付けるものであり、大変興味深い論文である。

尚、フランスパンは職人間においても嗜好性の差が大きいパンであり、スト

レッカーアルデヒドが過剰に生成されたから風味のよい製品というように短絡

的に断言はできないが、現在行われている製パンに対して新たな改良の切り口

のヒントとして参考にして頂けると幸いに存じます。

また、本翻訳文は、ベーカリーにとって必要ないと思われる「使用試薬の紹

介」の項目について省略しています。もし、専門的に深耕されたい方は原文を

入手の上、ご検討下さい。

文献紹介および監修:研究調査部 原田昌博

翻訳及び編集 :研究調査部 佐藤 淳

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Ⅱ.Crust Aroma of Baguettes(Ⅰ)

「Key Odorants of Baguettes Prepared in Two Different Ways」

(2つの異なる製パン工程で作ったバゲットのキーフレーバーについて)

G.Zehentbauer and W.Grosch:Journal of Cereal Science 28 (1998) 81-92

1.Abstract (要約)

フランスパンのクラストの匂いは、イースト量や製パン工程の違いにより異なる。

このクラストの匂いを機器、嗅覚により分析した。その結果、2-acetyl-1-pyrroline、

4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone、 2,3-butanedione、 methional、

(E)-2-nonenal、methylpropanal、2-、3-methylbutanal がクラストの重要な

香り成分となることがわかった。機器による分析により、イースト量が通常よ

りも多いバゲットのより香ばしい匂いは pyrroline の濃度が高いことに依るこ

とがわかった。一方で、前発酵種を添加したバゲットのより甘い麦芽様の匂い

は aldehyde の methylpropanal と 2-、3-methylbutanal の濃度が高いことと

関係のあることがわかった。

2.Introduction (はじめに)

クラストの好ましい匂いは製パン工程中に香ばしい香り成分が形成されるた

めである。特に 2-acetyl-1-pyrrolineは機器、嗅覚による分析のどちらからも香ば

しい匂いにとって重要な成分であることがわかった 1,2。さらに、希釈実験により

3-methylbutanal、2-,3-butanedione、4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-

furanone、phenylacetaldehyde、(E)-2-nonenal、(E,E)-2,4-decadienal、acetic

acidがクラストの匂いにとって重要な成分となることがわかった 3-5。

バゲットには、’intensifiee’(INT)、’sur polish’、’artisanale’(ART)、’ancienne’

などの多くの製法がある。ここでの INTはイースト量が比較的多い(粉 100%

に対してイースト 2.6%)、短時間発酵の製法である。ART はイースト量が少

なく(粉 100%に対してイースト 1.5%)、低い発酵温度で長時間発酵を行う製

法である。そして ART には 4℃で 24 時間保管した生地と 4℃で 48 時間発酵

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させた発酵種が加えられている。このような製法(製パン配合、工程)の違いが、

バゲットの匂いに影響を与えている。パンのクラムに関して、製パン配合、発酵

時間、発酵温度が重要な香り成分へ与える影響について研究がなされている 6。

結果として、製パン工程がクラムの匂いに最も影響を与えることが明らかにされた。

本研究では、INT と ART を想定して作ったバゲットクラストの匂いを比較

した。表 1 に示すように製パン配合ではイースト量、工程では発酵条件が主に

異なっている。

表 1 INT と ART の製パン配合、工程

クラストの匂いを比較するため、強い影響を持つ香り成分を aroma extract

dilution analysis ( AEDA ) と gas chromatography/olfactometry of

headspace samples(GCOH)によりスクリーニングした。これらの手法の原

理は Grosch7,8 そして Grosch、Schieberle9 により確認されている。AEDA と

GCOH によるスクリーニングにより、高い flavor dilution(FD)factor を持

つ香り成分が特定された。FD-factor とは、はじめに抽出したある匂いの濃度

とその匂い成分をかろうじて GCO により検出できるまで最大限希釈したとき

の濃度の比である 10,11。INT と ART のバゲットクラストの香り成分の濃度の

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定量化、そして odour activity values(OAV)(OAVとは匂い成分の濃度と

その匂い成分の嗅覚閾値の比を表す。嗅覚閾値とはその匂いを感じる最小濃度

である。)の計算に基づき香り成分の選抜を行った。得られた結果をもとに INT

と ART のバゲットクラストの香り成分のモデル化を行い、実際の匂いと比較

した。

3.Material and methods(実験方法)

3-1.Bread preparation(製パン配合、工程)

(1) 製パン配合

小麦粉の規格値は、蛋白質 13.1%、灰分 0.54%、水分 13.1%。イーストは水

分 70%の生イーストを使用。生地改良剤は Softine(大豆粉、小麦粉、レシチ

ン、アスコルビン酸、αアミラーゼを含む)を使用した。

(2) 製パン工程

INT

UM12(Stephen, Hameln, Germany)ミキサーを使用。材料をすべて投入

し、750rev/min で 1 分、1500rev/min で 1 分 30秒混捏。1次発酵後、生地

を 400g に分割し、折りたたみ、2 次発酵後、50cm のバゲット形に成形し、

キャンバス上で最終発酵をとる。焼成は 220℃のオーブン(Type B4; Wiesheu,

Affalterbach, Germany)で 17分間行った。

ART

UM12 ミキサーを使用。はじめに小麦粉、水、イースト、発酵種(c)(4℃で

48 時間発酵させた発酵種)を入れ、750rev/min で 1 分、そして食塩と発酵種

(b)(4℃で 24 時間保管した生地)を入れ、1500rev/min で 2 分混捏。発酵条

件以外は INTと同様。バゲットの大きさと重さ、そしてクラスト量を表 2 に示す。

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表 2 平均的なバゲットの大きさ、重さ、クラスト量

3−2.Isolation of the volatiles(揮発性物質の分離方法)

焼成後、1 時間常温で冷却。その後、クラストを剥がし取り、液体窒素で冷

凍し、粉砕器(Waring Blender)で粉砕。粉砕試料はソクスレー抽出器へ入れ、

ジクロロメタンとジエチルエーテルにそれぞれ浸した。試料、溶媒の量は

Quantitative measurements に記す。7℃で 15 時間置いた後、抽出を開始し、

50℃で 8 時間続けた。抽出液を濃縮し、その濃縮液を減圧下で蒸留した。そし

て一般的化合物、酸性化合物を含む 2つの画分に分けた 26。

3−3.Chromatographic methods(クロマトグラフィーの使用方法)

(1) Column chromatography

バゲットクラスト試料(500g)の一般的な化合物の分画画分は、10~12℃

に保った 2つの水冷カラム(20×1cm)で行った。このカラムにはペンタン/

ジエチルエーテル(95+5,v/v)に浸したシリカゲルを充填している。ペンタ

ンとジエチルエーテルの混合割合を徐々に変化させた混合液により分画した。

画分 Aは 25mL(95+5,v/v)(溶媒はペンタン 95 に対してジエチルエーテル

5 の混合溶液)、画分 Bは 50mL(85+15,v/v)、画分 C は 45mL(7+3,v/v)、

画分 Dは 50mL(1+1,v/v)、画分 Eは 25mL(2+8,v/v)、画分 Fは 100mL

(ジエチルエーテルのみ)をそれぞれ溶出液として用いた。

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表 3 INT と ART のクラストの一般的な香り成分

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(2) High-resolution gas chromatography/olfactometry(HRGCO)

HRGCO には type5300 ガスクロマトグラフィー(Carlo Erba, Hofheim,

Germany)と以下の溶融シリカキャピラリーカラムを用いた。キャピラリーカ

ラム DB-FFAP(長さ 25m、直径 0.32mm、膜厚 0.25μm)、DB-1701(長さ

25m、直径 0.32mm、膜厚 0.25μm)は共にアメリカ J&W Scientific社製。

また SE-54(長さ 25m、直径 0.32mm、膜厚 0.25μm)、DB-WAX(長さ 50m、

直径 0.32mm、膜厚 1μm)は共にドイツ Chrompack 社製を使用。

試料(各 0.5μL)を 35℃で供与し、2 分後、カラムオーブンの温度を 40℃

/min の割合で 60℃まで上げた(DB-1701 と SE-54 は 50℃)。そして 2 分間

温度を保った後、4℃/min の割合で 230℃まで上げた(DB-FFAPと DB-WAX

は 6℃/min)。キャリアーガス(ヘリウム)の流速は 2mL/min。キャピラリー

カラム出口流出ガスはスプリット比 1:1(v/v)で水素炎イオン化検出器(FID)

と匂い嗅ぎ口へと分けた19

3−4.High-resolution gas chromatography/mass spectrometry(HRGC/MS)

質量分析はキャピラリーカラムに MS8230(Finnigan, Bremen, Germany)

を接続し、測定を行った。イオン化には電子衝撃法と化学イオン化法を用いた。

3−5.Aroma extract dilution analysis (AEDE)

FD-factor 値と揮発性物質の匂いの特性判断は HRGCO で行った 3,30。クラ

ストの一般的、酸性揮発性物質(各 200μL)はジクロロメタンを 1:1(v/v)

同量加えることで段階的に希釈を行った。HRGCO は表 3、4 に示すキャピラ

リーカラムを用いて行った。各化合物の保持時間のデータは retention indices

(RI)として表中に示している。この RIは van den Doolらの文献を参照した 31。

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表4 INT と ART のクラストの酸性香り成分

3−6.Gas chromatography/olfactometry of static headspace samples(GCOH)

スタティックヘッドスペースを用いた分析は、パージ&トラップシステム

TCT/PTI4001(Chrompack,Frankfurt,Germany)と接続したガスクロマトグ

ラフィーCP-9001 を用いて行った 32。焼成 1 時間後、クラストを剥がし取り、

280mL の容器に入れて密閉し、40℃に 2 分間保温後、ヘッドスペース部の気

体を取り出し、流速 3mL/min でパージシステムへ供給した。パージシステム

は 200℃で 10 分間、熱脱着させ、ガスクロマトグラフィーに供与した。(表 5)

表 5 INT と ART のクラストのヘッドスペース部の香り成分

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3−7.Quantitative measurements(定量的測定方法)

表 6 の香り成分は内部標準として添加した物質と比較することで測定した。

マスクロマトグラフィーはイオン検出器 ITD800(Finnigan MAT, Bremen,

Germany)を用いて行った。検出器は表 6 に示すキャピラリーカラムとつなが

っており、イオン化には化学イオン化法を用いた。Calibration factors と数値

データは過去の研究論文を参考に算出した 33。

(1) Quantification of compounds 1, 2, 3 and 4

クラストから得られた粉末は溶剤に内部標準(c=carbon13, d=deuterium)

として d-1(50μg), c-2(50μg), d-3(25μg)を加えたジエチルエーテル

(200mL)を用いて、ソクスレー抽出器で抽出を行った。抽出液は減圧下で蒸

留し 26、0.5M 炭酸ナトリウム水溶液(2×100mL)で中和した。ジエチルエー

テル溶液は硫酸ナトリウムで脱水処理し、得られた濃縮液 0.2mLをマスクロマ

トグラフィーで分析した(表 6)。

(2) Quantification of compounds 7, 33 and 38

クラストから得られた粉末は溶剤に内部標準として d-7(10μg), d-33(50

μg), d-38(70μg)を加えたジクロロメタン(200mL)を用いて、ソクスレ

ー抽出器で抽出を行った。抽出液の蒸留、抽出は 1 から 4 と同様である。水相

は高濃度の塩酸で酸性化し、ジエチルエーテル(2×100mL)で抽出した。38

はジエチルエーテル抽出液の中から、7 と 33 は中性にした濃縮液からマスク

ロマトグラフィーにより特定された(表 6)。

(3) Quantification of compounds 9, 11, 12, 12, 20, 27, 28, 31, 32 and 35

クラストから得られた粉末(500g)は溶剤に内部標準として d-9(13μg),

d-11(6μg), d-13(1μg), d-20(2μg), d-25(0.5μg), d-27(0.2μg),

d-28(27μg), d-31(18μg), d-32(27μg), d-35(5μg)を加えたジクロ

ロメタン(1.8L)を用いて、ソクスレー抽出器で抽出を行った。減圧化で蒸留

した後 26、濃縮液は塩酸(3×50mL)で抽出を行った。酸性相には水酸化ナト

リウムを加え pH12 に調整した。そしてジエチルエーテル(3×100mL)で抽

出した。ジエチルエーテル溶液は濃縮し、マスクロマトグラフィーにより 11, 20,

27を分析した(表 6)。ジクロロメタン相は 0.5M 炭酸ナトリウム水溶液により

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抽出し、1mL に濃縮した後、カラムクロマトグラフィーに供与した。12 は画

分 Aから、25, 28, 31 は画分 Bから、35 は画分 C から摘出した。各画分は 0.2mL

にまで濃縮しマスクロマトグラフィーで分析した(表 6)。

(4) Quantification of compounds 36 and 42

クラストから得られた粉末(5g)は内部基準として溶剤に c-36(1000μg),

c-42(30μg)を加えたジクロロメタン(100mL)を用いて、ソクスレー抽出

器で抽出を行った。減圧下で蒸留した後、酸性化合物を含む濃縮液を分離した。

0.2mLまで濃縮した後、マスクロマトグラフィーで分析した(表 6)。

表 6 マスクロマトグラフィー実験結果

3−8.Odour thresholds in starch(澱粉内での嗅覚閾値)

香り成分の odour thresholds values(嗅覚閾値)を澱粉内で測定した 26。

3−9.Flavour profile analysis(匂いの分析)

焼成1時間後、粉末にしたバゲットクラスト(8g)をガラスのビーカー(高

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さ 70mm、容積 45mL)に入れ、ガラスの蓋で閉じ、各検査官に室温の状態で

渡した。10 人の検査官は年齢が 25~35才、女性 3人、男性 7人である。蓋を

外した後、試料の匂いを嗅ぎ、口に入れ、噛んでいるときに鼻にぬける香りを

調べた。先ずはじめに調査員は 2つのバゲットクラストの特徴を把握した。そ

して、匂いを形成する香りの特性について、香ばしい、甘い麦芽様、油っぽい、

酸味のあるかどうかを挙げ、表 7 に示すように同様の香り成分を選びだした。

さらにクラストの匂いを表 8 のように調整した匂いモデルと比較した。このモ

デルは 10g ずつガラスのビーカーに入れた。クラスト、匂いモデルの分析では、

各特性の強さを 0 から 3.0 の間、0.5刻みの点数で評価し、その結果を平均した。

表 7 クラストの特性となる香り成分

表 8 INT と ART のクラストの匂いモデルの香り成分と濃度

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4.Results and Discussion(結果と考察)

4−1.Odorants screened by AEDA and GCOH

(AEDA と GCOH でスクリーニングした香り成分)

予備実験において、窯から出た後 1 時間アルミホイルに包んだ INT と ART

のバゲットのクラストの匂いを 10 人の検査官が判定した。アルミホイルの隙

間からクラストの匂いを嗅ぎ、10 人中 9 人の検査官が INT と ART の違いを

判断できた。そして、INT よりも ART の方が香ばしい、甘い麦芽様の匂いが

よりよく、またより調和がとれていると評価した。

この時の製品は INTの方が ARTよりもボリュームが大きく、表面積で 31%

も広かった。しかし、剥がし取ったクラスト量はほぼ同等であった(表 2)。

また、クラストの一般的揮発性成分を抽出し AEDA を行った。表 3 に示す

ように FD-factor 32~1024 範囲の香り成分が 35 種類検出された。これらの

揮発性物質は 6つの画分に分けられ、それぞれをHRGCOで分析した。この内、

34 種類の香り成分は HRGC と MS(質量分析法)によって特定された。6 の香

りの濃度のみ低く、MS(質量分析法)によって正確な結果を得られなかった。

高い FD-factorを判断基準とすると methional (9)、2-acetyl-1-pyrroline (11)、

2-ethyl-3,5-domethyl pyrazine (20)、(E)-2-nonenal (28)、2,3-butanedione (2)、

3-methylbutanal (3)、(E,E)-2,4-decadienal (32)はどちらのバゲットクラスト

においても強い香りとなることがわかった(表 3)。

そして、ほとんどの香り成分の FD-factorは INTとARTでほぼ一致しており、

違いは AEDAの誤差範囲内である。しかし(Z)-4-heptenal (8)、acetylpyrazine

(17)、2-ethyl-3,5-dimethylpyrazine(20)、2-acetyl-2-thiazoline(21)、(Z)-2-

nonenal(25) 、 2,3-diethyl-5-methylpyrazine (27) 、 (E)-2-nonenal (28) 、

(E,E)-2,4-nonadienal (30) は例外で、ARTよりも INTの値の方が 4倍以上高

く、逆に trans-4,5-epoxy-(E)-2-decenal (35)は ARTの値の方が高がった。

酸性揮発性物質の AEDA より、furanone の (42)、mixture of 2-、3-

methylbutyric acid (38)、vinyguaiacol (33)、vanillin (47) が 2つのバゲッ

トの中で強い香りとなることが明らかにされた(表 4)。

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GCOHにより、バゲットクラストで最初に匂いを感じる高い揮発性物質の成

分が特定された。しかし、予備実験では GCOHを行う条件によりクラストの香

り成分の組成が異なることがわかっている。表 9 に示すように、INTのクラス

トにおいて、1分後のヘッドスペース部の香りは弱い香ばしい匂いのみである

が、2分後は強い香ばしい匂いと、とても弱い油っぽい匂いであった。その後、

時間が経つにつれ、油っぽい匂いは強くなり、香ばしい匂いは弱まった。これ

より 2 分で匂いは平衡状態になるといえる。この 2 分後のヘッドスペース部試

料による GCOHの実験結果を表 5 に示す。

表 5 の結果に示すように、INTから 13種類、ARTから 11 種類の香り成分

がそれぞれ、ヘッドスペース部試料 20mL中から検出された。表 5 の volume

(mL)の値は香り成分を感知できるヘッドスペース部最小の気体体積である。

気体体積がより少ないということは、より揮発性が高く、強い香りであること

を意味する。INTでは 2,3-butanedione (2)、1-octen-3-one (13)、methional (9)

が 0.2~1mLと最も少ない体積で感知できた。ARTでは、methylpropanal (1)、

(13)が 1mL と最も少ない体積で感知できた。そのため、ART において (1)、

(13)の甘い麦芽様の匂いの中では、(2)、(9)はそう強い香り成分とはなりえない。

またどちらの製法においても 3-methylbutanal (3)、dimethyltrisulphide (12)

は 1.0、2.5mL と少ない体積であるため、最初に感じる香りに影響を持つと考

えられる。

表 9 gas choromatography/olfactometry に供与する 40℃に保温した容器内の

INT のヘッドスペース部試料(20mL)の各経過時間における匂いの特徴

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4−2.Concentrations and OAVs of the odorants(匂い成分の濃度と OAV)

AEDAで香り成分を完全に揮発させ HRGCOにより測定した。この工程では、

揮発性物質の匂いを嗅ぐために、通常バゲットを食べる場合よりも高い温度負

荷を試料にかける。そのため、AEDA と GCOH により検知される香り成分の

定量分析結果と部屋温度における嗅覚閾値を基にした OAV の計算によっての

み、バゲットクラストにとっての重要な香り成分がわかり、またこれらの香り成

分が INTと ARTの香りの違いに与える影響について明らかにできる。

表 10 より、hexanal (7)、2-acetyl-1-pyrroline (11)、1-octen-3-one (13)、

pyrazineの(20)と(27)、nonenalの(25)と(28)で OAVは ARTよりも INTの方

が大きい 。 一方で Strecker aldehydes である metylpropanal (1)、2-、

3-methylbutanal (3、 4) 、 methional (9) 、 2,4-decadienals (31 、 32) 、

4-vinylguaiacol (33)は INT よりも ART の方が大きい。また、他の研究 34 で

は Strecker aldehydes である(1)、(3)、(4)が少なく、(E)-2-nonenal (28)が多

いと 3時間の保管後、古くなったような匂いとなることがわかっている。ART

では INTよりも(1)、(3)の濃度が高く、(28)の濃度が低いため、ARTでは好ま

しい匂いから、古くなったような匂いへの変化がゆっくりであった 34。

表 10 に示す澱粉中での嗅覚閾値の値を基準にすると、OAVの高い値から順

に香ばしい匂いとなる pyrroline の (11)、キャラメルのような匂いとなる

furanoneの(42)、2,3-butanedione (2)、(9)、(28)となる。これらの香り成分は

バゲットクラストにおいて強い影響を持つことを示している。この結果は食パ

ンのクラスト 2-5 やトーストした食パン 26 の重要な香りを特定した研究結果と

一致している。

イーストにより作られるアミノ酸「オルニチン」は pyrroline の(11)を生成

する上で最も重要な成分であることがわかっている 35。INTではよりイースト

使用量が多いので、INT の方が ART よりも(11)の濃度が高いことをこれによ

り説明できる(表 1)。

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表 10 INT と ART のクラストの香り成分濃度と

香り成分の澱粉内の OAV (odour activity values)

4−3.Simulation of crust aromas(クラストの匂いのモデル化)

バゲットクラストから検出された香り成分をひまわりの油に溶かすことで、

香りのモデルをつくった。嗅覚による予備試験では表 8 に示す 14 種類の香り

成分を溶かしたもので INT、ART それぞれの匂いを非常によく再現できた。

高い OAV を示す成分である furanone の(42)、また acetic acid (36)、

methylbutanoic acid (38)はこのモデルから省いた。これらの成分をひまわり

の油に溶かすと、強いキャラメルのような、また極端に酸っぱい、汗臭い、と

いうバゲットクラストからは感知できない香りとなってしまうためである。表

11 より、モデルが INT と ART の違いを非常によく再現できていることがわ

かる。INT のクラストを再現したモデルは、ART のモデルよりも香ばしい匂

いが強い。これは INT のクラストで、pyrroline (11)の濃度が ART より高い

ことに依る(表 10)。一方で ART では甘い麦芽様のような匂いが強い。これ

は ARTのクラストで甘い麦芽様の香りとなる aldehydeの(1)、(3)、(4)の濃度

が高いことに依る。2,3-butanedione (2)の弱いバター風味、そして酸っぱい匂

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いは共に強い香り成分ではないが、クラストの匂いに丸みを与えている。

バゲットの味と食べた後に鼻にぬける香りは一致した。このことは、味は主

に香りに依るということを示している。

表 11 INT と ART の実際の香り成分とモデル化した香り成分

5.Conclusion(結論)

イースト量と発酵条件の違いがバゲットクラストの香ばしい匂いと甘い麦芽様

の匂いに影響を与えている。装置、嗅覚に依る分析により、香ばしい香り成分である

2-acetyl-1-pyrroline (11)と甘い麦芽様の香り成分である methylpropanal (1)、

2-、3-methylbutanal (3,4)が香りの違いの原因である。

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6.Reference(参考文献)

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Ⅲ.Crust Aroma of Baguettes(Ⅱ)

「Dependence of the Concentrations of Key Odorants on Yeast

Level and Dough Processing」

(キーフレーバーとなる香り成分の濃度はイースト量、製パン工程に依存する)

G.Zehentbauer and W.Grosch:Journal of Cereal Science 28 (1998) 93−96

7.Abstract (要約)

バゲットの香り成分には「香ばしい」、「甘い・麦芽様」、「油っぽい」などの

匂いのもととなる 7 つの香り成分があることを、我々は第Ⅰ報で明らかにした。

そこで、今回はバゲットの中でも特にクラスト部の匂いが製パン配合、工程の

違いによりどのような影響を受けるか、さらに明らかにするため、この7つの

香り成分の数値を計測し比較した。本試験の結果、次のような傾向が明らかに

された。

イースト添加量が多くなるほど、香ばしい匂いのもととなる 2-acetyl-1-

pyrroline の濃度が高くなる。また、生地を低い温度で長時間発酵させると、

麦 芽 の 甘 い 匂 い の も と と な る methylpropanal、 2-. 3-methylbutanal と

methional の濃度が高くなり、逆に油っぽい匂いのもととなる 1-octen-3-one

と(E)-2-nonenal の濃度が低くなる。また、ミキシング工程において、ミキシ

ング時間の延長により生地へのエネルギー負荷が高まるほど、麦芽の甘い香り

のもととなる methylpropanal と 2-. 3-methylbutanal の濃度が低くなること

が明らかとなった。

8.Introduction(はじめに)

Crust Aroma of Baguettes Ⅰで示したように、イースト量、発酵時間、発

酵温度が異なる 2 つの製法、INT と ART によって調製したバゲットの匂いを

比較した。INT で作ったバゲットは ART で作ったものよりもより香ばしい匂

いがするが、麦芽の甘い匂いは少なかった。香り成分を数値化し比較すると、

INT は ART と比べて香ばしい匂いのもととなる 2-acetyl-1-pyrroline (1)の

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濃 度 が 高 く 、 麦 芽 の 甘 い 香 り の も と と な る methylpropanal (2) と 2-.

3-methylbutanal (3,4)の濃度が低かった(Crust Aroma of BaguettesⅠの表

10 参照)。

そこで本研究は製パン配合、工程の異なる ITN と ART で作ったバゲットの

クラスト部の香り成分を比較し、クラスト部の匂いに大きな影響を持つ香り成

分の濃度の違いとその要因を調べ比較することを目的とした。

(試験方法については Crust Aroma of Baguettes Ⅰと同じであるために省略する。)

9.Result and discussion(結果と考察)

9−1.Amount of yeast (イースト量)

INT では粉 1kg 当たり 26g のイーストを使用するのに対して、ART では粉

1kg 当たり 16g である。そこで、INT のイースト量の違いがクラストの匂いに

与える影響を調べるため、同じ INT でイースト量のみ変化させ、バゲットを作

った。粉 1kg 当たりイースト量 26g のものを Sample A、16g のものを Sample

B とする。尚、当然ではあるが A と B の体積は 5 から 10%程度の違いが出た。

その結果、表 12 に示すように、イースト量の多い方が、2-acetyl-1-pyrroline

(1)と methional (5)の濃度が高く、A の 2-acetyl-1-pyrroline と methional は

B よりもそれぞれ、34、32%多かった。Schieberle 2,3 により、バゲットのク

ラスト部において、イースト量が増えると 2-acetyl-1-pyrroline の濃度が高く

なることが確認されている。そして、イーストにより作られるアミノ酸「オル

ニチン」と「シトルリン」がメイラード反応において 2-acetyl-1-pyrroline を

生成する大きな要因であることを明らかにしていることから、本データもその

結果を踏襲するものとなった。また、1-octen-3-one (6)と(E)-2-nonenal (7)は

イースト量の影響を受けないことがわかる。おそらく、これらのカルボニル化

合物は小麦粉中に存在する脂質の中の主要な脂肪酸であるリノール酸の酸化反

応によって形成されると推測されるため、影響を受けないのではないかと考え

られた。

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表 12 Sample A と Sample B の香り成分の分析結果

9−2.Fermentation time and temperature (発酵時間と温度)

INT と ART は発酵時間や温度が異なっている。そこで、発酵条件が香り成

分に与える影響を調べるため、INT の生地を 2種類作り発酵条件を変えて、そ

の違いによる影響について比較した。1 つは INT の工程通りに作り(Sample A)、

もう 1 つは ART の工程で作った(Sample C)。A と C の体積は INT と ART

で作ったバゲットと同様の違いとなり、当然ではあるが A の方がボリュームが

出た。しかし、C のクラストの方が厚かったため、サンプルとして採取したク

ラスト量としてはほぼ同量であった。

その結果、表 13 に示すように、Sample C は、Strecker aldehydes である(2)

~(5)の濃度が ART のバゲットの濃度(カッコ内の数値)とほぼ同等であった。

さらに C の methylpropanal (2)の値は A の 1.7mg/kg から 4.3 mg/kg に増え、

ART の 4.7mg/kg より 10%少ないだけとなった。Strecker aldehydes (2)~(5)

の香りの増加は長い発酵時間中にタンパク質分解が進んだためと予測される。

これにより、Strecker aldehydes (2)~(5)を生成する要因となる遊離アミノ酸

の量が増加したのではないかと考えられた。

また、methylpropanal (2)や 2-、3-methylbutanal (3,4)は麦芽様の甘い匂い

のもととなるが、この匂いが増すと、バゲット全体の匂いがよくなるように思

われた。

さらに、C は ART よりも 2-acetyl-1-pyrroline の濃度が高い。これは C の

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方が ART よりイースト量が多いためであると考えられた。

また、C の 1-octen-3-one (6)と(E)-2-nonenal (7)は A よりも濃度が低かった。

これより、低温による発酵が 1-octen-3-one と(E)-2-nonenal の生成につながる

リノール酸の酸化反応を遅らせたのではないかと推測された。(E)-2-nonenal

は焼成後、時間の経ったバゲットから匂う古くなった匂いのもととなる。この

(E)-2-nonenal の濃度を抑えるのに低温での発酵は有効である。

表 13 Sample A と Sample C の香り成分の分析結果

9−3.Kneading (ミキシング)

表 14 に示すように、INT の生地をミキシングする際、1500rev/min の時間

を 60 から 150秒まで変化させ、ミキシングによる影響を比較した。本試験に

おいてミキシング時間を長くするほど、捏上温度は上がり、1500rev/min が

60秒では 25.3℃、150 秒では 35.5℃となった。このミキシング時間の延長が

麦芽の甘い香りのもととなる Strecker aldehydes(2)~(4)の濃度に影響を与え、

1500rev/min の時間が 60 から 150秒では Strecker aldehydes (2)~(4)が 32

から 38%減少した。おそらく、ミキシングによる生地への強いエネルギー負荷

が生地の温度上昇に繋がり、イーストの代謝を変化させ、Strecker aldehydes

(2)~(4)の生成を妨げた、もしくはより早く消費してしまうようになったと考え

られる。

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3-methylbutanal (3)などのような枝分かれした aldehydes (2)~(4)から酵素

による水素添加反応によってできる生成物はパンのクラム部に酵母の風味を与

える重要な匂いであるため、ミキシング工程における aldehydes とアルコー

ルの関係を調べることは興味深いと思われる。

表 14 異なるミキシング時間においての香り成分の分析結果

10.References 参考文献

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非  売  品

製パン技術資料 No.726

平成22年7月発行

発行編集人  井  上  好  文

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