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Instructions for use Title 日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 : 北海道とヌエバエシー ハ州に住む妊娠・授乳・育児期の母親の調査研究を通じて Author(s) オカンポ, メリッサ・ブラザ Citation 北海道大學教育學部紀要, 72, 191-211 Issue Date 1996-12 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/29527 Type bulletin (article) File Information 72_P191-211.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康 ......Instructions for use Title 日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究

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Title 日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 : 北海道とヌエバエシーハ州に住む妊娠・授乳・育児期の母親の調査研究を通じて

Author(s) オカンポ, メリッサ・ブラザ

Citation 北海道大學教育學部紀要, 72, 191-211

Issue Date 1996-12

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/29527

Type bulletin (article)

File Information 72_P191-211.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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日本とフィリピンの母親と子どもの

栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究

一一一北海道とヌヱパヱシーハ州に住む

妊娠・授乳・育児期の母親の調査研究を通じて一一

オカンポ,メリッサ・プラザ

A Comparative Study of Nutrition, Health and Lifestyle of Mother and Child in Japan and the Philippines

191

一一-Fromthe白reesurveys of selected pregnant, lacta也19and weaning mothers living in Hokkaido泊Japanand Nueva Ecija血血eP凶ppmes-一一

OCAMPO, Merissa Braza

1.緒震

フィリピンで‘は, 1990年現在,感染癒が未だ主要な疾病であるが,感染症による死亡率はゆっ

くりとした速度ではあるが減少傾向にあり,替わって心臓血管系の病気や事故による死亡率が増

加しつつある(1)。栄養問題を考える時,栄養不足は次のような三つの形態をとる。(1)収入の低

いグループで問題になる総エネルギーとたんぱく質の摂取不足, (2)小児期や妊娠・授乳期のよう

に,栄養所要量が大きい人たちで関題となる栄養不足, (3)バランスの惑い食事によるビタミンや

無機質の不足である(2)。栄養不足は感染者主に穣患しやすくする要国のーっとして知られている。

1990年,フィリピンの 4つの市と 7つの州で調査された就学前克童の8.63%から33.05%が,基

準体重に満たない低体重児であった(3)。しかしこのような事情は,もしフィリピンの社会経済

的条件や環境条件が改善すれば,死亡率や騎気擢患率は低下し続けて,必ず良くなることに思わ

れる。問時に食事・栄養教育が適切に行われることが重要である。

一方自本における食生活の変化は第ニ次世界大戦終了までは比較的小さいものであった。臼本

の厚生省は.1946年以来,毎年間民栄養謂査を狩ってきたが,近年,肉類と脂肪の摂取の増加が

大きいことが認められている。このように食事内容の変化にともなって,たんぱく質の摂取が場

加したことが,日本の子どもの身長の増加のー要臨とみなされている(4)。日本とフィリピン国

民の1982年と1987年の平均的栄養素等摂取量を比較すると,エネルギー,たんぱく質,脂紡,ピ

タミン B1 • ビタミン B2 摂取量は日本でフィリピンより大きい(5, 6) (表 1)。日本における王子均

寿命の伸びも食事の改善が一因となっている。その他に第二次世界大戦終了後,肺炎,気管支炎,

結核のような感染症による乳児死亡を含む死亡率が低下したことが寄与している。しかし替わっ

て,癌,心疾患,糖尿病のような食物摂取やストレスのようなライフスタイルと関連する疾患に

よる苑亡率の増大が近年の問題である(7)0 8本人の特に若い世代の食生活について,さまざま

な問題指摘が多くの専門家によってなされているように,日本人の食生活にも問題が多い。

日本とフィリピンの健康をめぐる状況や保健システムには多くの違いがある。日本では,出産

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192 教脊学部紀要第72号

表 1 B本とフィリピンの盟民 1人 1Bあたり栄饗繁等摂取聾の比較(1982年一1987年)

栄 養1982年 1987年

日本 フィリピン 日本 フィリピン

エネルギー (kcal) 2,136 1,808 2,053 1.753

蛋白質(宮) 79.6 50.6 78.5 49.7

鉄(mg) 10.8 10.8 10.5 10.5

カルシウム(9 ) 0.56 0.45 0.55 0.4

ビタミン B1 (rng) 1.38 0.74 1.34 0.7

ビタミン B2 (mg) 1.26 0.58 1.25 0.6

ナイアシン (mg) 16.4 16.3

ビタミン C(mg) 132.0 6l.6 122.0 53.6

脂肪(9 ) 58.0 30.0 56.6 30.0

炭水化物(9 ) 306.0 327.0 291.0 313.0

出典:I翼民栄養の現状(1984年, 1989年)National Nutrition Surveys, Philippines, 1982 and 1987, Food andトlutritionRe守

search Institute, Department of Science and Technology (1993 Philippines Sta. tistical Yearbook)

の殆どが病院で底部立ち会いのもとに行われている。このことが,日本の乳児死亡率と妊産婦死

亡率がフィリピンのそれらの死亡率に比べて非常に小さい理由の一つになっている。表2に示す

ように, 1993年のフィリピンの乳児死亡率(出生1000人あたりの年齢 l歳までの死亡数)は45.0(8)

に対して,日本のそれは4.3(9)である。 1989年に,日本の乳児死亡の主要因はl.先天性の異

常 2.低酸素主主,窒息などであり,一方,フィリピンの主要国は1.肺炎 2.低酸素症,

窒息など 3.勝炎,下痢である(10)。臼本における適切な健漠サポートシステムや社会経済的

発展が国民の平均寿命の改善に寄与しているのは明らかである。一方で、,このような健康維持シ

ステムに不満を感じている日本人もいる。例えば,病院で,人工的に分娩した母親では,母性が

うまく発達しないことが報告されている o 多くの日本人が,社会経済的諸条件の変化や発展の速

表 2 日本とフィリピンの乳児死亡率(198かー1993)

(出生1∞0人あたりの死亡数)

年 日 * フィリピン

1980 7.5 59.0

1981 7.1 57.0

1982 6.6 57.0

1984 6.0 63.0

1986 5.2 63.0

1990 4.6 57.0

1993 4.3 45.0

資料:Maternal and Child Health in ]apan National Statistical Coordination Board,

Tas主 Force on Infant Mortality Rate,

1980-1990 1993 data-The State of the World's Children 1995 厚生省人口動態統計 (1993)

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fヨ本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに隠する比較研究 193

度に適応できずにいて,このことが母殺を含めて,日本人で精神障害が増えている (11)ことのー

悶と推測される。

2.本研究の背景

多くの健康な集閣では,適切な栄養教脊に関心を払ってきた。農業改良普及員や学校の教師が

かれらのできる範囲で,栄養教育に力をさくように奨励されてきた(12)。私は修士課程における

研究の主要な課題として,母親と子どもの食べ物に関する俗信と慣習を設定した。もしこれらの

母親が目的を自覚し,適切な教育をうけるならば,健康な地域や掴家の担い手として働くに違い

ないと考えたからである。私がこの課題に興味を持ったのは,フィリピンのヌヱパエシーハ州,

ムニョズ町にある地域健康増進計画のスタッフとして,栄養教育を担当していたときの経験に

よっている。特にいなかに住む母親に食べ物に関する俗信が強く残っていて,これらの俗信は妊

娠中の母親と生まれてくる子ども遠の健康に, r妨害医子Jとして強く影響するにちがいないと

考えたからである。妊娠,出産,子育てに関する俗信を母親が信じる韓度をアンケートで謂査し,

3歳までの子どもの栄養状態を知るために,体重を測定して歩いた。その結果,妊娠前期の食べ

物に関する 9項自の俗信,例えば「暗い色の食べ物を食べると,生まれてくる子どもの脱の色に

影響するJr妊婦がピーナッツをたくさん食べると賢い子どもが生まれるJのうち 1項目はそ

う患うと承認(同意)され 8項目がややそう患うと承認された。各項目の選択肢の承認するに

3点,やや承認するに 2点,承認しないに 1点を与えて,回答者の平均点を求めた。平均点が 1

-1. 66を平均的にみて承認されていない,1.67-2.33をやや承認されている, 2.34-3.00を承認

されているとみなした。妊嬢後期の食べ物に関する 6項目の俗信では 1項告は同意され 1項

目がやや伺意され,残り 4項目が悶意されなかった。離乳に関する 7項目の言い伝えでは 1項

目は同意され 1項目がやや開意され,残り 5項目は同意されなかった。さらにこれらの食べ物

に関する俗信・慣習を母親が信じる程度とその子どもの栄養状態のあいだに,負の相関のあるこ

とを明らかにした。また,子どもの栄養状態と母毅の教育水準,子ども数のあいだにも,それぞ

れ負の椙関があることを認めた(13)。これらの研究結果に基づいて,地域健康増進計画の担当局

に栄養教育についていくつかの提案を持った。例えば,母親に適切な栄養と健痩教育,特に食物

の選び方や食生活についての訓練を行うことである。修士課程の本研究を終えた後,臼本とフィ

リピンの食べ物に関する俗信と慣習についての比較研究を行うことにした。

臼本の北海道に住む母親がフィリピンにある食べ物に関する俗信と慣習を詰じる程度を謂査し

た(14)。フィリピンの母親の謂査に用いた質問項目を日本語に翻訳して,尽本での調査を開始した。

妊娠中と 3歳までの子どもを持つ母親を対象にして調査を行った。調査用紙は, 13市町村の役場・

健康センター・病院の協力で母親に配布され回収された。その結集,日本の母親は妊娠期の15項

目と子育てに関する 7項目に対して 1項目を除いて同意しなかった。その 1境目「妊娠中,甘

い食べ物は避けるjは,保健婦や怪師も太りすぎの母親では指導している内容であった。 B本の

母親とは対照的に,フィリビンの母親はこれらの俗信や慣習に同意することが多かった。

この調査と王子行して,北海道の市町村に残っている,妊婦・授乳婦の食べ物に関する言い伝え

を北海道内各地の保健婦に教えてもらった。フィリピンの俗信と比べて似ているものと,選って

いるものがあった。たとえば似ているものに, r黒っぽい色の食べ物を妊婦が食べると,生まれ

てくる子どもの皮膚も黒くなるJがあった。これらのフィリビンの俗語に叡ている10の俗信と慣

習に対しでも,日本の母親は悶意しなかった。日本の母親を住んでいる地域(市町村)とプロフイ

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194 教育学部紀要第72号

jレ(年齢,職業,最終学麗)で小グループに分けて,これらの食べ物に関する俗信や慣習在承認

する桂度を比較したところ,住んでいる地域,年齢,職業は承認の緯度に影響しなかった。ただ

妊娠前期の俗信や積習を承認する韓度に,最終学麗の高いグループ。と低いグループで差が認めら

れ,高学麗の母親のほうが向意する桂度は低かった(14)。本比較研究の結果は,日本の母親のお

かれている環境がフィリピンのそれとは違っているためと考えられた。平均して臼本の母親の教

育水準は高く,妊娠中の母親はさらに母親教室で栄養についても教育をうけるといった社会的支

援システムもフィリピンの母親のそれとは違っている。そこで,フィリピンの母親と子どもの健

康や平均余命の改善の将来的麗望を見いだすために,日本とフィリピンの母親と子どもの栄養状

態,健康状態,ライフスタイルに関する比較研究を博士課程でさらに続けた。

3.本研究の方法

白本の北海道とフィリピンのヌエパエシーハ州の市,町,村lこ住んでいる妊娠,授乳,育兜期

の母親を調査対象者として,妊娠期,出産後の時開の経過による生活や体調の変化と子どもの誕

生後の成長を考慮して,第 1問調査から第 2圏,第 3固と計3回,識査用紙と 1週鴎の食べ物日

記に回答するよう依頼した。本調査を1993年11月に開始し, 1995年 1月に終了した。第 1問調査

の対象者は妊娠中と出産後の人たちからなっていたが,第 3囲調査時には,全ての対象者が分娩

を終えていた。調査対象者として,臼本人の母親39人とフィリピンの母親40人を最終的に選定し

た。北海道の議査対象者の選定に捺しては,その地域の保健婦,看護婦,助産婦,保育闇保母の

紹介によった。またヌエパエシーハチトiに住んでいる調査対象者の選定においては,地域健康増進

計画のスタップ,州政府の栄養士と衛生監督官,ウィスリアン大学のかつての同僚の援助をうけ

た。北海道の 3鴎の調査は,すべて私が行ったものである。一方ヌエパエシーハ州に住む母親の

第 1聞と第 3由の調査は私自身で、行ったが,第 2問調査には出向くことができず,私の母親オカ

ンポ・レディネラが調査時紙の配布と回収を行い, E3本に郵送してくれたものを用いた(表

3 )。

調査表は以下の六つのパートから構成されていた。1.母親の健康自覚症状 2.母親のライ

フスタイル,ストレス対処行動とその効果 3.母親自身と家族のフロフィル 4.母殺と子ど

もの栄養と健康状態, 5.母親の 1週間の食べ物日記, 6.子どもの 1週間の食べ物日記である。

これらの調査表を英語で作り,日本の母親用には日本語に,フィリピンの母親用にはタガログ語

に翻訳して用いた。

3回の調査を通じて,閉じ対象者に,同じ調査表と食べ物日記を依頼したが,全員から囲答が

得られず,第 I回調査の調査表と食べ物日記の回答者は,日本の母親で38名と33名,フィリピン

の母親で39名と37名,第2回調査の調査表と食べ物日記の鹿答者は,日本の母親で25名と24名,

フィリピンの母親で29名と26名,第 3凹謂査の調査表と食べ物日記の回答者は,日本の母毅で25

名と25名,フィリピンの母親で29名と28名であった。このうち,各調査の金調査剤紙に答えた日

本の母親は16名,フィリピンの母親は19名であった。さらにこのうち,各調査の全食べ物日記に

記入した日本の母親は12名,フィリピンの母親は13名であった。

食べ物日記に記述された食品の栄養評価のために 2つの方法を用いた。第ーの方法は 3群食

品分類法に従って食品に診断得点を与えて,計算する方法である。 3群食品分類の第一群は体構

成要素として重要なたんぱく質とカルシウムの主供給源であり,第ニ群は野菜,果物,海草類か

らなり,体内の代謝を調節するビタミンと無機質の主供給源であり,第三群はエネルギ供給

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日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・鍵療・ライフスタイルに関する比較研究 19う

表3 鵠査表と食べ物白詑に回答した日本とフィリピンの母親の居住地域

一回白調査 二 回 目 三回 日

日本(北海道) 調査表 食べ物日記 調 査表 食べ物日記 調変表 食べ物日記

頻度(人)% 頻度(入)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)%

神恵内村 l 2.6 I 3.0 O O O O I 4.0 l 4.0

愛浦町 18 47.4 15 45.5 11 44.0 11 45.8 10 40.0 10 40.0

札幌市 12 31.6 12 36.3 9 36.0 9 37.5 8 32.0 8 32.0

多"路市 7 18.4 5 15.2 5 20.0 4 16.7 6 24.0 6 24.0

合計 38 100.0 33 100.0 25 100.0 24 100.0 25 100.0 25 100.0

フィリピン(ヌエ

パエシーハ州)

ギンパ村 9 23.1 9 24.3 5 17.2 4 15.4 9 31.0 9 33.3

ムニョズ町 11 28.2 10 27.0 9 31.0 9 34.6 9 31.0 9 33.3

カパナツアン市 15 38.5 14 37.8 14 48.3 12 46.2 10 34.5 8 29.6

サンホセ市 2 5.5 2 5.4 O O O O O O O O

ケイソン町 5 5.1 2 5.4 1 3.4 1 3.8 l 3.4 l 3.7

合計 39 100.0 37 100.0 29 100.0 26 100.0 29 100.0 27 100.0

源である炭水化物と脂肪を含む砂糖,穀類(米,パン,麺類)などである。これら三群をさらに

細分化し,第一群を 3小群に,第二群を 5小群に,第三群を 3小群,計11小群に分類した。この

11食品群を, 1 a 3回の各食事でとることが望ましい食品の単位と考え,各ノト群に基準点とよぷ

得点 (3-5点)を配点している(基準点合計:50点)011ノj、群は1.牛乳と乳製品 2.那,

肉類,魚介類 3.大豆とその製品, 4.緑黄色野菜, 5.淡色野菜 6.芋類 7.果物, 8.

海草類 9.油脂, 10.穀類, 11.菓子類である。これら111J、群を共通した栄養素を含む小群を

集めて 6群とし1.牛乳と乳製品 2.卵,肉類,魚介類,大豆とその製品 3.緑黄色野菜,

4.淡色野菜,芋類,巣物,海草類,に各10点のバランス点 5.油脂,穀類 6.砂糖と菓子

類に各 5点,計50点のバランス点を与えている。基準点とバランス点の合計点を母親の食事診断

得点として用いた。本食事診断法は第 1自調査の食べ物日記から第 3閣の食べ物臼記の評鑑まで

用いたが,本方法の利用は森谷による利用(15)に従った。食事診断合計点で50点在一つの目安とし,

50点以下が続くと健康障害が心配されるものである。食事をしなかった場合には O点とし,間食

は時照的に近い朝食,昼食,夕食のいずれかに加えて評価した。

第二の栄養評価法として,第 3回調査の食べ物日記について,摂取栄養素の定量的評価を行っ

た。臼本に住む人々の定量的食事分析のために「四訂食品成分表(科学技術庁)j(16)のデータに

もとづいて作られた NAPS(Nu釘itiona1Ad対cePersona1 Computer System) (中央オフィスメー

ション)を用いて計算し,フィリピンに住む人々の定量的食事分析のために rPhilippines' Food Composition Tables ( Food and Nutrition Research Institute )j(17)を用いて,摂取栄養素の定量的評

価をおこなった。また栄養摂取率を計算するためには,個人の栄養所要最を年齢,性別,体格,

生活活動強度,妊娠・腕L期を考慮して求める必要がある oNAPSを用いて,日本人の母親個々

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196 教育学部紀要第72号

人の栄養所要最を求めた。フィリピン人の母親の栄養所要最も,日本人と開様に NAPSによった。

その理由は,日本とフィリピンの母親の栄養摂取率を比較するための基準は共通のものが良いと

考えたからである。 f栄養所要量jの決め方は各国によって異なっている。定量的評備を行った

栄養素等はエネルギー,たんぱく質, ij旨肪,カルシウム,鉄,ピタミン A,Bl' Bz, Cである。

また第 3因調査で収集した食べ物日記に記述された食品名を,日本とフィリピンについてそれ

ぞれ出現頻疫を数え,よく食べられている食品のリストを作成し,碍障の比較を符なった。

4.結果と 考察

4-1. B本とフィリピンの母親と家族のプロフィル

データを収集した母親の現在の妊娠・出産後の状態は,食物の選択や健康自覚症状に影響する

重要な要因である。そこでつぎのような 6段階に分けた。第 1段階は「妊娠 2-5カ丹j,第 2

段階は「妊娠 6カ月一分娩j,第 3段階は「出産産後から産後 4カ月までj,第 4段階は f出産後

5-8カ月までj,第 5段階は「出産後 9-12カ丹までJで,第 6段階は「出産後 1年以上jで

ある。第 1由,第 2回,第 3回調査の母親の妊娠・出産後の段階を表4に示した。

3回の調査における日本の母親の年齢は,フィリピンの母親の年齢分布とは幾分異なっていた。

フィリピンの母親の年齢分布は表5に示す概ね 5歳毎の年齢区分のすべてに克られたのに対し,

日本の対象者には, 15-20歳の母親はいなかった。若い母親と36-40識のように年齢の高い母親

の人数がフィリピンの対象者で多かった。また 3図の識査における日本の対象者の家族数は,フィ

リピンの対象者の家族数に比べて少なかった。子どもの数も日本の対象者で 1-3人lこ対し,フィ

衰 4 調査表と食べ物B記に自答したg本とフィリピンの母親の今の状態(妊娠・出産後の段階)

一鶴自調査 一霞目 三留認

日本 調 査 表 食べ物日記 調査表 食べ物日記 調査表 食べ物日記

頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(入)% 頻度(人)%

妊娠2 5カ月 (段階1) 10 26.3 8 24.2 O O O O O O O O

妊娠6カ月一出産(段階 2) 5 13.2 5 15.2 O O O O O O O O

出産直後一 4カ月(段階 3) 5 13.2 4 12.1 7 28.0 7 29.2 O O O O

出産 5 8カ月 (段階的 8 21.0 7 21.2 5 20.0 4 16.7 7 28.0 7 28.0

出産9-12カ月 (段階的 10 26.3 9 27.2 G 24.0 6 25.0 8 32.0 8 32.0

出産 1年以上 (段階 6) O O O O 7 28.0 7 29.2 10 40.0 10 40.0

合計 38 100.0 33 1α0.0 25 1∞.0 24 100.0 25 100.0 25 100.0

フィリピン

妊娠2-5カ月 (段鐙1) O O O O O O O O O O O O

妊娠8カ月一出濠(段滋 2) 31 79.5 29 78.4 O O O O O O O O

出産度後-4カJ1(段階3) 8 20.5 8 21.6 25 86.2 23 88.5 O O O O

出産 5 8カ月 (段階4) O O O O 4 13.8 3 11.5 10 34.5 10 37.0

出産 9-12カ月 (段階 5) O O O O O 。O o I 19 65.5 17 63.0

出産 l年以上 (段階 6) O O O O O O O O O O O O

合計 39 100.0 37 1∞.0 29 1∞.0 26 100.0 29 100.0 27 100.0

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日本とフィリピンの母親と予どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 197

表 5 調査表と食べ物a記に閥答した日本とフィリピンの母親の年齢

一凶日調査 二罰 B 三間 日

日本 調査表 食べ物日記 調査表 食べ物日記 識変表 食べ物日記

頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)%

15-20歳 O O O O O O O O O O O O

21-25歳 7 18.4 6 18.2 4 16.0 4 16.7 5 20.0 5 20.0

26-30歳 19 50.0 17 51.5 11 44.0 10 41. 7 12 48.0 12 48.0

31-35歳 11 28.9 9 27.3 9 36.0 9 37.5 7 28.0 7 28.0

36-40歳 1 2.6 1 3.0 1 4.0 1 4.1 1 4.0 1 4.0

合計 38 100.0 33 100.0 25 100.0 24 100.0 25 100.0 25 100.0

フィリピン

15-20歳 4 10.3 4 10.8 2 6.9 2 7.7 2 6.9 2 7.4

21-25歳 6 15.4 8 16.2 5 17.2 4 15.4 4 13.8 3 11.1

26-30歳 19 48.7 19 51.4 14 48.3 13 50.0 16 55.2 15 55.6

31-35歳 9 23.1 8 21.6 5 17.2 5 19.2 4 13.8 4 14.8

36-40歳 1 2.5 O O 3 10.3 2 7.7 3 10.3 3 11.1

合計 39 100.0 37 100.0 29 100.0 26 100.0 29 100.0 27 100.0

表 6 調査表と食べ物日記に回答した呂本とフィリゼンの母親の学歴

一回目識変 間 日 三 回 日

日本 調査表 食べ物日記 調 査表 食べ物日記 調査表 食べ物日記

頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)% 頻度(人)%

中学校 2 5.3 2 5.1 1 4.0 1 4.2 O o 113 52.0

高等学校 19 50.0 16 48.5 10 40.0 10 41.7 13 52.0 9 36.0

専門学校 13 34.2 11 33.3 10 40.0 9 37.5 9 36.0 3 12.0

大学 4 10.5 4 12.1 4 16.0 4 16.6 3 12.0 O O

合計 38 100.0 33 100.0 25 100.0 24 100.0 25 100.0 25 100.0

フィリピン

学校に入らなかった O O O O O O O O l 3.4 1 3.7

小学校 5 12.8 5 13.5 4 13.8 2 7.7 3 10.3 3 11.1

中学校 5 12.8 4 10.8 4 13.8 4 15.4 4 13.8 3 11.1

高等学校 7 17.9 7 18.9 6 20.7 5 19.2 6 20.7 6 22.2

専門学校 6 15.4 6 16.2 3 10.3 3 11.5 3 10.3 3 11.1

大学 16 41.0 15 40.5 12 41.4 12 46.2 12 41.4 11 40.7

合計 39 100.0 37 100.0 29 100.0 26 100.。29 100.0 27 100.0 一一一一」ー

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198 教育学部紀要第72号

リピンでは 1-5人であった。各識査における日本の母親の最終学臆を 4分類(中学校卒,高等

学校卒,短大・専門学校卒,大学・大学院卒)して,人数の分布を示した。一方フィリピンの母

親の最終学震は 6分類(学校に入っていない,小学校卒,中学校卒,高等学校卒,専門学校卒,

大学・大学院卒)して,人数の分布を示した(表 6)。

4-2.日本とフィリピンにおける母親と子どもの栄華状態

母親から見た自分の子どもの栄養状態の評価は,日本の母親では fとてもよいJと「よいJで

「わるいJという評価は第 I田,第 2回,第 3回調査を通じて認められなかった。フィリピンの

母親の評価では「わるいJ(血液の病気に,寵患している子ども)も 1例あり,また「とてもよいj

という評価は日本の母親の評髄に比べてすくない傾向であった。母親自身の栄養バランスの自己

評価については,日本とフィリピンの対象者の大多数が「少しはバランスよい」と答えており,

fとてもよい」と「偏食Jという回答はわずかであった。

表 7aに,第 1回,第 2回,第 3因調査を通じて,調査回筈者全員の食べ物臼記から診断した

全ての朝食,昼食,夕食の食事診断合計点の分布を示した。食事診断合計点が50点以下の食事が

続くと,健康障警が心配される目安の値なので, 50点以下(グループA)と51点以上(グルー

プB)に二分割して,各調査の三食について分布を示した(表 7b)。臼本とフィリピンの母親

の朝食診断合計点の分布の割合を見ると,第 1囲,第 2回,第 3問調査を通じて,グループA

の割合がグループBのそれより大きかった。昼食診断合計点の分布の割合では,臼本の母親の

第 I回調査では,グルーフ Aとグループ Bの割合がほぼ等しく,また第 2回,第 3回調査では,

グループBの製合がグループ Aのそれより大きかった。一方フィリピンの母親の昼食では,第

3回調査でグループBの割合がグループAのそれより大きかったが,第 l国,第 2回調査では

グループAの離合がグルーフ Bのそれよりわずかながら大きかった。夕食診断合計点でみると,

B本の母親の第 1回,第 2回,第 3回謂査を通じて,グループBの割合がグループAより大きかっ

た。一方フィリピンの母親の夕食では,第 1回,第 2由調査ではグループAの割合がグループ

Bのそれより大きく,第 3回讃査でのみグループ Bの割合がグループ Aのそれより大きかった。

このように,日本の母親の食事診断合計点は 1回目から 3由自調査までを通じて,フィリピン

の母親の食事診断合計点より高い方に分布していた。フィリピンの 1屈自 2罰回調査では,朝

食,昼食,夕食の全てにおいて, 50点以下のグループAの割合がグループBの割合より高く,フィ

リピンの母親の食事は日本の母親のそれに比べて,より改善の必要性のあるものと考えられる。

日本とフィリピンの母親の第 1囲 2回 3回目調査の自答者全員の食べ物臼記から診断した

食事診断合計点の平均績と標準偏差を示した(表 8a)。日本とフィリピンの 3回の調査を通じて,

日本の夕食の食事診断合計点がフィリピンのそれより有意に高かった。また日本とフィリピンの

母親の第 l回から 3回目調査まですべての食べ物日記に記述した,日本の母親12名とフィリピン

の母親13名の各回の食事診断合計点の平均値と標準偏差を表 8bに示した。日本とフィリピンの

3回の調査を通じて,日本の夕食診断合計点がフィリピンのそれより有意に高かった。また日本

とフィリピンの母親の中で,第 I白から 3回調査まですべての食べ物日記に回答した母親の食事

診断合計点の各国の謁査結果(表 8b)は各諦査で回答した母親全体の結果を示した表8aに類

似した傾向が認められた。

臼本とフィリピンの母親の第 3回食べ物日記に寒かれた食品名と数量をもとにして,栄養素等

摂取量を計算した。また年齢,体格,妊嬢・授乳の有無,生活活動強度を考慮した個々人の栄養

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a本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 199

所要量と栄養素等摂取量から計算した栄養摂取率を,日本の母親 25人について(表 9),フィ

リピンの母親25人について(表10),それぞれ偶人データを示した。表9と表10から明らかなよ

うに,両匿の母親ともに,栄養摂取率には大きな個人差が認められた。 B本とフィリピンの各25

人の栄養摂取率から,両国の母親の王子均栄養摂取率を求めた(表11)。王子均エネルギー摂取率は,

B本の母親で105.4土17.6%に対して,フィリピンの母殺の平均値は84.3土17.2%と所要量を下

表 7a 日本とフィリピンの母親の一回目から三回臨輯査の食事診断得点(合計点)の分布の比較(10分離)

日本の 車時食 昼食 夕食

母親の 一回g ニ岡沼 ミ主主沼 一回自 ニ回日 三罰日 一限8 二節目 三闘目

合計点 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 %

。10 26 11.5 16 9.5 25 14.4 7 3.0 。。 0.6 2 1.0 。。 0.5

11-20 11 4.9 9 5.4 12 6.9 2 1.0 3 1.8 3 1.7 6 2.6 。。。。21-30 29 12.8 32 19.0 20 11.5 20 8.8 13 7.7 13 7.5 9 3.9 3 1.8 9 5.2

31-40 24 10.6 29 17.3 23 13.2 34 15.0 9 5.4 24 13.8 25 11.1 4 2.4 7 4.0

41-50 39 17.3 22 13.1 28 16.1 52 23.0 30 17.9 33 19.0 41 18.1 24 14.3 23 13.2

51-60 48 21.2 24 14.3 26 14.9 50 22.1 38 22.6 36 20.7 58 25.7 30 17.9 35 20.1

61-70 27 11.9 19 11.3 21 12.1 37 16.4 41 24.4 38 21.8 44 19.5 60 35.7 61 35.1

71-80 15 6.6 5 3.0 12 6.9 18 7.9 19 11.3 13 7.4 24 10.6 34 20.2 17 9.8

81-90 2.2 10 5.9 2.9 4 1.8 14 8.3 11 6.3 17 7.5 11 6.5 20 11.5

91-100 1.0 2 1.2 2 1.1 2 1.0 0.6 2 1.1 10 Q 2 1.2 0.5

合計 226 1∞.0 168 100.0 174 100.0 226 1∞.0 168 100.0 174 100.0 226 1∞.0 168 100.0 174 100.0

7ィリピン 朝食 昼食 夕食

の母親の 一回目 二回目 三回目 一問目 二鹿島 三三回自 一回騒 二濁毘 三回目

合計点 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 % 頻度 %

。-10 2 0.9 0.9 。。2 0.9 3 1.3 。。2 0.9 3 1.3 。。11-20 19 8.2 19 8.2 4 2.2 。。。。 0.5 0.4 0.4 。。21-30 57 24.6 59 25.3 13 7.1 24 10.3 25 10.7 2.7 47 20.3 46 19.7 8 4.3

31-40 53 22.8 53 22.7 35 19.0 33 14.2 32 13.7 12 6.5 88 37.9 89 38.2 35 19.0

41-50 38 16.4 38 16.3 56 30.4 68 29.3 69 29.6 20 10.9 30 12.9 31 13.3 41 22.3

51-60 38 16.4 37 15.9 33 18.0 62 26.7 61 26.2 52 28.3 44 18.9 44 19.0 46 25.0

61-70 13 5.6 13 5.6 35 19.0 27 11.6 27 11.6 50 27.2 15 6.5 15 6.4 39 21.2

71-80 7 3.0 7 3.0 5 2.7 11 4.7 11 4.7 30 16.3 5 2.2 4 1.7 12 6.5

81-90 5 2.1 5 2.1 3 1.6 2.2 2.1 10 5.4 。。。。 2 1.1

91-100 。Q 。。。。。。。。4 2.2 。。。。 oぷ合計 232 1∞.0 233 100.0 184 100.0 232 1∞.0 233 100.0 184 100.0 232 1∞.0 233 100.0 184 100.0

日本と 7ィリピンの比較

カイ平方健 33.4 15.8 113.5 11.3 35.4 21.1 109.2 180.4 40.9

L一と一一一有一一意一一一水準 Fく0.01 P<0.05 Pく0.01 NS P<0.01 Pく0.05 Pく0.01 P <0.01 Pく0.01

頻度は食事数を表す

表 7b 日本とフィリピンの母親の一国闘から三割醤調査の食事診断得点(合計点)の分布の比較 (2分割)

朝 食 主差 食 タ 食

一回目識変 こ闘自 三回g 一回尽 二限目 三凶日 一郎自 二回琵 三岡目

日本 頻度% 頻 度 % 頻度% 頻度% 頻度% 頻 度 % 鋲皮% 頻 度 % 頻度%

か 50(グループA) 12吉57.1 108 64.3 108 62.1 115 50.9 55 32.7 74 42.5 83 36.7 31 18.5 40 23.0

51伊 100(グループB) 97 42.9 60 35.7 66 37.9 III 49.1 11367.3 10057.5 14363.3 13781.5 13477.0

合計 226 1∞ 168 100 174 100 226 1∞ 168 1∞ 174 100 226 100 168 100 174 100

7ィリピン

0-50(グループA) 16972.8 171 73.4 108 58.7 12754.7 12955.4 382日.7 168 72.4 170 73.0 84 45.7

51叩 100(グループB) 63 27.2 62 26.6 76 41.3 105 45.3 104 44.6 146 79.3 64 27.6 6327.0 10054.3

合計 232 100 232 100 184 100 232 1∞ 233 1∞ 184 100 232 100 233 100 184 100

頻度は食事数を表す, 50点以下はこのような食事が絞くと健康障害が心配される日安の食事診新合計点である

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200 教育学部紀要第72号

表8a B本とフィリピンの母親の食事診断合計点

(食べ物日記回答者会員)

一回8調査

朝食 昼食 夕食 朝食

日本

毘 33 33 33 24

平均値 43.5 50.2 55.6 44.1

標準偏差 16.7 8.8 10.4 16.4

フィリビン

日 33 37 37 26

平均値 38.6 48.7 41.8 45.9

標準偏差 12.9 8.8 6.9 10.7

日本とフィリピン

の比較

Cochran t鐙 6.4

t-テスト NS NS ** NS

昼食

24

56.6

8.4

26

59.1

8.5

NS

n=母親の人数, NS=有意差なし, ** = P <0.01, *** = P <0.001

表8b 日本とフィリピンの母親の食事診断合計点

(1-3闘の食べ物日記に全て回答した母親)

一回目調査 二 回

朝食 昼食 夕食 朝食 昼食

日本

n 12 12 12 12 12

平均値 49.2 51.5 54.3 40.9 58.0

標準偏差 18.7 9.6 9.9 20.9 10.6

フィリピン

n 13 13 13 13 13

平均値 42.3 48.9 42.8 46.6 59.2

標準偏羨 8.9 9.2 6.7 7.5 9.2

百本とフィリピン

の比較

Cochran tfI直 3.4

t-テスト NS NS ** NS NS

夕食 朝食

24 25

62.5 47.3

6.2 15.1

26 27

51.0 48.6

6.2 8.3

6.3

*** NS

夕食 車号食

12 12

61.9 47.3

7.3 20.8

13 13

49.6 48.2

5.8 8.9

4.7

*** NS

n=母親の人数, NS=有意差なし, * = P <0.05, ** = P <0.01, *** = P <0.001

コ 隠 目

昼食 夕食

25 25

55.0 61.7

11.1 8.9

27 27

61.1 53.2

7.8 8.9

3.4

NS **

コ閲 g

昼食 夕食

12 12

60.0 62.9

12.1 10.1

13 13

59.4 53.5

8.7 9.2

2.5

NS *

回る結果であった。日本の母親のエネルギー以外の平均栄養摂取率をみると,たんぱく質,脂肪

が120%を越えていたが,カルシウム,鉄,ビタミン A摂取量は所要最をかなり下回った。一方

フィリピンの母親のエネルギー以外の平均栄養摂取率をみると,たんぱく質が141.8%と高く,

カルシウム,鉄,ピタミン C摂取量も所要最を上由った。平均栄養所要量を大きく下由った栄

養素は,路肪とどタミン Blであった。

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日本とフィリピンの母親と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 201

表9 隠本の母親の栄華摂取率の傭人データと平均栄養摂取率(%)

Resp. no. Energy Protein Fat Calcium Iron Vit.A

I 108.7 117.3 145.6 98 70.4 110.4

2 89.1 105.6 82.6 60.1 61.1 68.9

3 121.7 157.7 139.3 48.7 02.4 78.6

4 75.7 80.3 124.4 50.9 44.3 54.6

5 86.4 96.6 127.7 50.7 68.7 84.7

6 123.6 134.6 134.4 77 .1 63 78.4

7 131.7 131.4 156.6 45.9 61 44.7

8 102.1 133.4 102.3 73.3 62.9 57.4

9 92.3 119.3 105.9 53 73.1 70.6

10 91.9 96.9 85.9 51. 7 62 96.6

19 94.3 77.6 125.8 77.3 57.3 57.7

20 1:00.3 120.1 143.4 38.3 61 61. 7

21 89.6 114.4 104 69 59 83.3

22 116.7 119.7 151.6 55 68.6 63.3

25 97.7 131.7 126.1 90.7 56.4 65.9

26 113.7 122.6 131 96.7 76.6 106.9

27 115.7 178.9 134.1 118.7 82.9 147.9

28 112.3 139.4 125.1 144.9 78.7 150.3

29 114.9 123.0 156.4 114.7 81.3 92.6

32 128.9 157.7 220.4 155.4 107.3 190.3

33 95.0 104.3 133.1 50.1 54.1 59.7

36 148.5 181.3 203.8 117.8 61.2 100.2

37 76.3 83.1 99.6 39.6 37.1 58.9

38 91.8 132.4 144.3 53.7 76.1 78.0

39 115.6 142.1 182.7 90.0 63.1 127.4

sum 2634.4 3101.5 3386.2 1921.4 1659.4 2188.9

mean 105.4 124.1 135.4 76.9 66.4 87.6

SD 17.6 26.6 32.0 32.3 13.4 34.6

倒人の栄養摂取率は栄養素ごとに栄養摂取髪/栄養所要量XlOOで求めた個人の栄養所要蚤は年齢,体格,日常活動最に基づいて計算した

Vit. Bl Vit. B2 Vit. C

139 134.6 132.6

98.9 81. 7 126.9

121.9 115 135.7

77.3 69.9 66.3

79.9 79.6 145.6

115.1 119.4 65.7

107.7 109.1 120.1

99.7 104.4 56.7

74.1 90.9 76.9

98.4 53.1 152.6

83.4 79.7 59.7

135 89 70.7

89.4 81.9 146.9

96.3 96.7 76.7

90.7 102.7 53.9

103.7 132.7 86.4

140.4 155.9 306.9

111.4 164.3 155.1

136.1 126.7 179.1

156.7 173.4 199.1

75.6 77.9 152.0

179.3 179.2 150.8

59.9 136.6 45.4

96.9 106.7 78.9

138.0 124.4 84.4

2704.8 2815.4 2925.2

108.2 112.6 117.0

28.4 31.0 58.0

個人の栄養摂取量は「食べ物日記jに警かれた食品名とおよその量ならびに常用量を参考にして濁訂食品成分表(日本,科学技術庁)に基づいて計算した

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202 教育学部紀委第72号

表10 フィリピンの母親の栄養摂取量の傭人データと平均栄華摂取事(%)

Resp. no. Energy Protein Fat Calcium Iron Vit. A

I .101.2 175.9 94.2 180.3 202.5 92.2

2 82.1 93.4 38.3 122.4 118.3 53.6

3 114.3 168.2 130.6 232.2 308.3 173.3

4 97.6 145.8 83.9 223.7 149.2 75.3

5 92.3 156.4 84.3 208.8 188.3 204.8

6 91.5 149.8 82.4 159.5 140.8 85.6

7 97.5 140.6 163.5 121.3 200 65.2

8 95.7 143.6 93.1 173.3 208.3 115

10 114.2 190 117.6 119.1 217.5 115.7

11 104.3 201.8 76.1 265 215.8 135.7

12 111.4 156 162.2 178.7 193.3 190.7

14 76.9 138.2 62.9 158.3 180 72.6

16 66 117.4 66.7 182.7 140 107.9

17 59.4 106 64.9 125.8 95 60

18 60.6 118.6 35.2 113.9 155.8 70.6

19 59.9 113.8 56.5 131.4 103.3 58.8

21 71.8 112.3 50.7 148.2 193.3 108.4

24 74.9 147.2 57.1 114 148.3 31.5

27 74.5 147.4 59.6 117.8 122.5 53.4

29 93 160.4 75.9 161.9 188.3 99

30 64.8 132.1 36.9 167 160 82.1

31 68.6 119.7 58.2 139.5 169.2 75.9

34 66.9 140.2 33.9 165.2 129.2 85.8

36 88.3 116.5 121.6 72.4 125.8 42.5

40 80.8 154.3 55.5 159.3 176.7 86.4

S祖m 2108.5 3545.6 1961.8 4021.7 4229.7 2342.0

mean 84.3 141.8 78.5 160.9 169.2 93.7

SD 17.2 25.7 35.6 42.4 44.9 42.9

億人の栄養摂取率は栄養素ごとに栄養摂取量/栄養所婆量XI00で求めた偶人の栄養所婆釜は年齢,体格,日常活動震に纂づいて計算した

Vit. 81

64.2

50

92

74

82

66

74.4

91

91

94.4

67

56.7

60.9

50

66.4

50

77.5

48.2

40

90

53.3

64.6

50

162.5

63.6

1779.7

71.2

24.3

Vit. 82 Vit. C

66.7 203.8

63.3 184

125 314.4

92.9 285.6

107.7 434.4

92.9 157.6

216.7 129.4

176.9 229.8

146.2 197.5

141. 7 259.6

85.7 274.8

193.3 205.6

54 326.4

44.6 143.4

128.6 135.4

41.3 150.6

137.5 324.2

86.7 78.8

60 128.6

113.3 258.8

146.7 242

82.4 221.4

66.7 284.8

281.8 213.2

100 337.8

2852.6 5721.9

114.1 228.9

56.6 81.2

億人の栄養摂取量は「食べ物日記jに舎かれた食品名とおよその量まならびに常用量を参考にして標準食品成分表(フィリピン.Food and Nutrition Research Institute)に2毒づいて言七算した

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日本とフィリピンの母殺と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 203

表11 日本とフィリピンの母親の平均栄饗摂取率

日 本 フィリビン

(25入) (25人)

平均値 標準偏羨 平均値 標準偏差

エネルギー % 105.4 17.6 84.3 17.2

蛋白質 124.1 26.6 141.8 25.7

脂紡 135.4 32.0 78.5 35.6

カルシウム 76.9 32.3 160.9 42.4

鉄 66.4 13.4 169.2 44.9

ピタミン A 87.6 34.6 93.7 42.9

VB1 108.2 28.4 71.2 24.3

VB2 112.6 31.0 114.1 56.6

VC 117.0 58.0 228.9 81.2

個人の栄養摂取率は栄養素ごとに栄養摂取最/栄養所要最X100で求めた

表12 B本の母親の「食べ物日記jに普かれたよく食されていた念品の種類

穀類 1. ご飯 (320) 肉類 1.卵 (106) 魚介類 1.鮭 (26)

2. ノfン (94) 2. n啄掬 (97) 2. かつおぶし (16)

3.麺類 (94) 3.鳥肉 (48) 3. いカ、 (15)

4. じゃがいも (78) 4.牛肉 (27) 4. ほっけ (12)

5. さつまいも (12) 5. ウインナー (18) 5. えぴ (12)

6.焼魚 (12)

7. たら (9)

野菜・ 1.海草類 (147) 果物 しみかん (39) 乳製品 1.牛乳 (92)

海草類 2.ねぎ (145) 2. りんご (35) 2. チーズ (19)

3.玉ねぎ (107) 3.バナナ (18) 3. 1'¥ター (18)

4. にんじん (92) 4.柿 (7) 4. ヨーグルト (18)

5. キャベツ (68) 5. いちご (3) 5. アイスクリーム (8)

6. もやし (49) 6. プリン (7)

7.大根 (39)

8. トマト (32)

9. ほうれん草 (30)

10. きゅうり (20)

( )内の数字は食べ物日記(第3凶調査)閥答者25名の計522凶の食事中にあらわれた頻度を表す

臼本の母親が記述した「第 3回食べ物日記jの合計522食に醤かれていた食品名について,各

食事を単位として記述の多い食品名をリストアップして,出現部会を計算し,日本の母親によく

食べられている食品名として示した(表12)。同様にフィリピンの母親でも,合計513食によく書

かれていた食品名をリストアップし,出現割合を計算し,表13に示した。穀類では「米:ご飯J

が両国共通で一番多かったが,臼本よりフィリピンの方が f食べ物日記J出現頻度が高かった|日

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204 教育学部紀委第72~手

本では522食中320閏(出現割合:61.3%)に対し,フィリピンでは513食中477回(出現割合:

93.0%)であった|。肉類でみると,日本の母親では豚肉,鳥肉,牛肉,食用ガエjレの 4種をあ

わせて, 522食中172匝(出現製合:33.0%)に対して,フィリピンでは513食中114屈(出現割

合:21. 8%)であった。鶏卵は日本の母親522食中106回(出現割合:20‘3%)に対して,フィリ

ピンでは513食中74回(出現割合:14.4%)であった。フィリピンでは肉類や鶏卵の摂食が少な

いのに対して,魚介類の食事が多かった。 rBagoon (小魚の塩漬けりゃ ra1amang (小えびの

穫類)Jr milk fish (鯖の穣類)Jなどがよく食べられていた。また rmarine oil (魚から抽出し

た油)Jがよく食されていた。野菜で見ると,臼本の母親が多く摂取していた食品は fねぎ:522

食中145回(出現割合:27.8%) rたまねぎ:522食中107問(出現割合:20.5%)J rにんじん:

522食中92回(出現割合:17.6%)であった。一方フィリピンの母親が多く食していた野菜は「ト

マト:5131支中144関(出現割合:28.1%はやfたまねぎ:513食中90回(出現離合:17.5%)Jr garlic

(にんにくの穣類) : 513食中89間(出現割合:17.3%)などであった。フィリピンの母親の「食

べ物日記Jに警かれている野菜の種類は,表13に示すように多種類であり,野菜を食する頻度が

高かった。采物とそのジュースで見ると,日本の母親が多く摂取していた食品は「みかん:522

食中39回(出演割合 :7.5%)Jに対し,フィリピンの母親の「食べ物8記Jに書かれた果物とそ

のジ、ユース類は,種類も屈数も多かった。多いものでは「バナナ:513食中39田(出現割合:7.6%)J

r unripe (パパイヤ) : 513食中30回(出現観合:5.8%はなどであった。また臼本の母殺の「食

べ物日記jに警かれた食品をフィリピンの母親のそれと比較したときの特徴として,海草類の多

いことがあげられる 15221設中147由(出現都合:28.2%)1。また牛乳を飲んでいる人が多かった

1522食中92回(出現割合:17.6%)1。全体的に,動物性食品の摂取はフィリピンの母親に比べて,

臼本の母親のほうが多いといえる。一方野菜や果物は,フィリピンの母親の方が日本の母親より

種類も頻度も豊富であった。フィリピンの母親のたんぱく源は小魚,大豆製品も多く,肉類の摂

取は日本ほど多くなかった。またカルシウム源としては rbagoongJのような野菜,小魚,

r a1amang Jのような小えびなどがよく食べられていた。鉄分を多くふくむ食品としては,野菜

r sa1uyot J (近年尽本でも「モロヘイヤJとして食されるようになってきた野菜), rkamote J

r ma1unggay Jなどがよく食べられていた。フィリピンの家庭で使われる roilJは rm釘 ineoil

(魚油)Jでどタミン Aを多く含むことや,野菜 rsa1uyot Jなどは鉄分と陪時にピタミン Aを

多く含むことで,日本の母親以上iこ,ビタミン Aを多く摂取できていると考えられる。

フィリピンの母親の食べ物の定量的分析から,フィリピン人全体について報告されている栄養

摂取率(Nationa1 Nutrition Surveys, 1987)を上田る fたんぱく質JrカルシウムJr鉄Jrビタ

ミン AJ摂取率が得られた。本研究で用いた定量的分析方法は,食事量について正確さを欠く

ものの,フィリピンで生産される食物の榎れた性質を示唆する結果と考えられる。また,本研究

の調査対象者の特性(地域,教育水準など)が,フィリピンの平均栄養摂取率に比べてその値が

良いことに影響している可能性がある。ビタミン民摂取量は,本調査「食べ物日記Jの結果で

も,フィリピンの母親では摂取率が最も少ない栄養素であった。

呂本は急速な社会経済的発展をなしとげ,食生活の洋風化が日本人の体格向上に寄与してき

た(針。本研究の日本人の母親で明らかになった栄養素等摂取の傾向は,北海道全体の食事の特

徴と矛躍しないものであった。厚生省の国民栄養講査の結果によると,北海道は日本の都道府県

のなかで,王子均カルシウム摂取震が最も少なく,肉類,魚介類,乳製品の摂取が多く,野菜と果

物の摂取が少ない地域である (18)。

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EM肯~Hけ

H

4

G

ペvsmw滋九日」市内ゲ

SW郡繊・藤岡糊・叶W4UN比可、『」で一円羽J『向

VR索開端滞

フィリピンの母親の f食べ物日記jに書かれたよく食されていた食品の種類

Cereals まice(ご飯) 477 Meat, egg itlog (egg) (卵) 74 Fish and oil (marine oil) (魚油) 109 products Bread (パン) 149 and baboy (抑rk) (豚肉) 60 fish alamang (shrimp paste) ('j、ェピ) 59 (穀類) pansit (春隠) 28 products 血 ano主(chickenmeat) (鳥肉) 39 p(魚ro介du類cts) bagoon (fermented fish) (魚の漬け物) 54

suman/puto (rice cake) (餅) 26 (肉類) adobong baboy at manock (アドボー) 24 bangus (田ilkfish) (鱗の種類) 33 payless (めん) 8 baka (beef) (牛肉) 12 tinapa (smoked fish) (魚のくんせい) 25 cereals (シリアル) 4 langonisa (native saッuグsa)ge}(ソーセージ) 9 daing (short finned shad, dry) (魚の子物) 23 paradusdos/kalamay (glutinous rice pre hotdog (ホァトド 4 hasa一hasa(short bodied mackarel魚)(魚、の緩類) 19 paration with coconut milk, bスanーanプa),sweet 2 palaka (frog's meat) (カエルの肉) 3 dalagang buud {golden ca(e魚sioの) ( の種類) 15 potato, s ugar (併や巣物入り corned beef (コ ン・ピーフ) 2 galun時ggo(nz(round scad) 稜類) 12

tapa/usa (venison cured salted) (鹿の肉) 1 tilap テイラピア) 11 sardinas (sardines w/ tomato) (缶詰) 10 hipon (shrimp) (エピ) 8 dilis (Iong-jawed anchovy) (小魚) 7 hito (freshwater catf目的魚、の種類) 3 tulya (clam) (只) 3 pusit (s司uid)(いか) 2 suso (fresh water snail) (つぶ員) 1

表13

Vegetables kamatis (tomato) (トマト) 144 Fruits saging (banana) (バナナ) 39 Milk and gatas (powder filled milk) (粉ミルク) 36 (野菜・ sibuyas (onion) (タマネギ) 90 and pa予aya(unripe) (パパイヤ) 30 回 ilk cheese (チーズ) 4 海草類) bawang (garlic) (にんにく) 89 fruit sampalck (tamarind) (unripe) (タマリンド) 26 p(乳ro製du品cts)

talong (eggplant) (なす) 57 pr( oducts pa註wan(water melon) (すいか) 19 ampalaya (bitter melon) fruit (苦瓜) 44 薬物) Kalamansi juice (すだち) 13 kamote trber ((sこweetよpoうta)to)(さつまいも) 39 halu-halo (mixed fruits w/削除) (缶詰) 11

luya (g(iおngくerら)し 37 buko (young (ノcoconutpプulレp))(ココナッツ) 8 okra ($ < G) 36 pineapple {! {イナッ J 7 sitaw (string beans) (きゃいんげん) 32 gata (coconut milk) (ココナッツミルク) 6 beans (主主) 29 阻 anga(ripe) (7ンゴー) 5 repolyo (cabbage) (ちんl:fんさい) 27 mani (pean ut) (ピーナッツ) 3 petsay (chinese cabぬge)(中図産ちんげんきい) 21 makopa(curacao app) ie frmt)(マコパ) 2 ampalaya (young leaves) (苦瓜の業) 20 avokado (アポガド 2 kalabasa (Squash) fruit (か』まちゃ) 18 田 ansanas(apple) (リンゴ) 1 kamote young leaves (さつまいもの葉) 17 langka (j ack fruit) (ジャック・フルーツ) 1 upo (bottle gourd f刊誌) (ウポ) 15 lansones (lanzon fruit) (ランソネス) 1

FZn aatias ta(Cso{rpao)ta(加と) (じゃカ%、も) 13 atis (sweet apple fruit) (アティス) 1 (corn) うもろこし) 13

gabi (taro tu ber) (さといも) 10 mustasa (皿ustardleaves) (マスタードの葉) 9 sili (pepper young leaves) (とうがらしの業) 9 cauliflower (カリフラワー) 8 carrot (にんじん) 8 saluyot (jute) (モロヘイヤ) 7 malunggay (horse radish) leaves (大根の葉) 6 kabute (mushroom) (7ッシュルーム) 2 labanos (raddish) 大根) 2 labong (bamboo shoot) (たけのこ) 1 kalabasa (f1ower) (かぼちゃの葉) 1

NCM

数字は食べ物日記(第3回調査)回答者25名の計513図の食事中にあらわれた食品の頻度を表す

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206 教育学部紀要第72号

またフィリピンのメトロマニラで, 1974年から1987年の簡に 6年調査された食物摂取の傾向

を,その他の都市ゃいなかの食物摂取の傾向と比較して,以下のようなことが明らかになったと

報告されている。メトロマニラでは,砂糖,シロッフ,乾燥大豆,木の実,種子のような脂肪を

多く含む食品,肉類,牛乳のような良質のたんぱく源の摂取が増加し,逆に穀類,果物,野菜,

香辛料などの摂取が減少していた。しかし1984年と1985年の経済恐慌のときには,全体的な食物

摂取は減少したが,価格を維持した米の消費は安定しており,縁黄色野菜の消費は増加が認めら

れた。緑黄色野菜は,メトロマニラの市場で入手できる最も安い食品であった(19)。本報告から,

フィリピンにおいても,社会経済的発展が食物の摂取や食生活に影響することが示唆される。フィ

リピンにおける変化の方向は,日本のそれと類叙しているといえよう。

4-3.母競の健康自覚寵状

表14に示すように 1困問の調査で臼本の母親がフィリピンの母殺よりも有意に訴えの多い健

康自覚症状は f肩こりがするjと「便秘をするjだけであった。しかしフィリピンの母親は日本

の母親に比べて次のような健康自覚症状において有意に訴えが多かった:r頭痛がするHちょっ

としたことでかっとするJrぼんやりして注意散漫なことがあるJrばくぜんとした不安感があるj

fくよくょすることがあるJr他人によく見られたいJr気分に波がありすぎるJr体重が変わり

やすいJr筋肉が痛いJr悪夢を見るJr根気がないJ。フィリピンの母親が感じている健康自覚症

状は心理的なものが多く,身体的な健康自覚盤状としては「筋肉が痛いJと「体重が変わりやす

いjであった。

2回目の健康自覚症状の訴えの結果をみると,時間の健康自覚症状は 1由呂の調査結果と大差

ないものであった。日本の母親は 1回目と向じ項目でフィリピンの母親より有意に訴えが多く,

一方フィリピンの母親は 1回目の謂査でB本の母親より有意に訴えが多かった症状を保ちなが

ら,さらに「疲れやすいJr息切れがするJr食欲がないJの3症状が追加された。 3困呂の調査

結果では,日本の母親で訴えが有意に多い健康自覚癒状は f肩こりがするJだけになり,フィリ

ピンの母親は「頭痛がするjと「体重が変わりやすいjを酷いては 1@]目と 2由自と向じ盤状で

日本の母毅より有意に訴えが多かった。日本の母親が訴えた健康自覚症状の中には,母親の食べ

物日記の記述と関わりのあることが推測されるものがある。日本の母親には「便秘することがあ

るjと回答した人が多かったが,これは日本の母親が果物や野菜をあまり摂らないことによって,

食物繊維が不足していることによるものではないかと推測される(制。…方フィリピンの母親で

有意に訴えが多かった健康自覚症状に「疲れやすいJr体重が変わりやすいjといった項目があっ

たが,これは食事診断合計点が低いことや,栄養所要最に比べて総エネルギー摂取震が少ないこ

とは体力不足を生み,疲れやすい,意欲の減退につながると考えられる。またどタミン民摂取

量の不足は食欲不振,いらいら,疲れやすい,不安感の強い精神状態になることが報告されてい

る(21)。フィリピンの母親の健康自覚症状の訴えが何故心理的なものに多いのかは,今後さらに

研究していきたい課題である。

1回呂から 3回目調査まですべての調査で,健康自覚症状を記入してくれた母親は日本で 16

名,フィリピンで19名であった。 B本の母親の金調査結果を比較すると 3留の結果において,

訴えの分布に違いがなかった。しかしフィリビンの母親では 1回自謡査時の方が2回目の時より

「疲れやすいJr朝,起床するのがつらいjと感じていた。これは 1出自の調査時には多くの母

親が妊娠中であったことによるのかもしれない。

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国勢作,U

4

Q

ペv、sm側議什市市代品

vsw需搬・総織・JW

よ斗討は可ムぞれ湿J

『か冥柵神間早滞

日本とフィリピンの母親の鍵濠自覚症状の訴えの分布の比較(1臨自調査)

包本の母親 フィリピンの母親 B本とフィリピンの比較

よく 時々 いいえ よく 華寺々 いいえ カイ王子方テストの症状 日 % n % n % n % n % 日 % 有意水準

1.最近疲れやすいと感じますか 11 28.9% 21 55.3% 6 15.8% 14 35.9% 17 43.6% 8 20.5% NS

2. かぜをひきやすいと患いますか。 8 21.1 7 18.4 23 60.5 4 10.3 10 25.6 25 64.1 NS

3.食欲のないことがありますか 4 10.5 13 34.2 21 55.3 1 2.6 19 48.7 19 48.7 NS

4.頭が痛くなりますか 4 10.5 12 31.6 22 57.9 3 7.7 25 63.2 11 29.0 * 5.寝つきが悪いですか 3 7.9 8 21.1 27 7l.0 I 2.7 14 36.1 24 6l.1 NS

6.少しのことで息切れしますか 5 13.2 11 28.9 22 57.9 3 7.6 18 46.2 18 46.2 NS

7. 13まいや立ちくらみをしますか 3 7.9 16 42.1 19 50.0 4 10.3 21 53.8 14 35.9 NS

8.身体が熱っぽかったり,微熱がでますか 4 10.5 8 21.1 26 68.4 2 5.4 4 10.8 33 83.8 NS

9.肩こりしますか 19 50.0 10 26.3 9 23.6 l 2.6 13 33.3 25 64.1 ** 10.便秘することがありますか 9 23.7 16 42.1 13 34.2 3 7.9 6 15.8 30 76.3 ** 11.腎(複)痛をおこしますか 4 10.5 15 39.5 19 50.0 8 20.5 20 51.3 11 28.2 NS

12. いらいらすることがありますか 5 13.2 24 63.2 9 23.7 3 8.1 20 51.3 16 40.5 NS

13. ちょっとしたことでかっとしますか 3 7.9 18 47.4 17 44.7 16 41.0 19 48.7 4 10.3 ** 14. Iまんやりして注意散漫なことがありますか 1 2.6 13 34.2 24 63.2 7 17.9 19 48.7 13 33.3 * 15. ばくぜんとした不安惑がありますか 1 2.6 9 23.7 28 73.7 11 28.2 19 48.7 9 23.1 ** 16. くよくょすることがありますか 1 2.6 13 34.2 24 63.2 7 17.9 19 48.7 13 33.3 * 17.他人によく見られたいと思いますか 4 10.5 13 34.2 21 55.3 14 35.1 16 40.5 9 24.3 ** 18.気分に波がありすぎると患いますか 4 10.5 15 39.5 19 50.0 9 23.1 26 66.7 4 10.2 ** 19.朝起床するのがつらいですか 10 26.3 14 36.8 14 36.8 13 33.3 15 38.5 11 28.2 NS

20.人に顔色が悪いといわれますか 5 13.2 11 28.9 22 57.9 2 5.4 16 40.5 21 54.1 NS

21.体重が変わりますか 3 7.9 11 28.9 24 63.2 7 17.1 27 68.6 5 14.3 ** 22.筋肉が痛いですか 3 7.9 6 15.8 29 76.3 6 16.2 18 45.9 15 37.8 ** 23. はぎしりをしますか 1 2.6 3 7.9 34 89.5 O O 6 15.4 33 84.6 NS

24.悪夢をみますか O O 3 7.9 35 92.1 2 5.3 24 60.5 16 34.2 ** 25.根気がないと患いますか 1 2.6 18 47.4 19 50.0 8 20.5 24 61.5 7 17.9 **

表14

N

。一可n,主回答数, N S=有意羨なし, * = P <0.05, ** = P <0.01

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208 教育学部紀婆第72号

4-4. ライフスタイル

回答者のライフスタイルについて注目すべき点は,妊娠中においても臼本の母親は28-48%が

お溺を飲んだと回答し, 4 -21%の母殺がタバコを毎日すった,たまにすったと回答しているこ

とである。フィリピンの母親には妊娠中に喫煙したり,お酒を飲んだりすると回答した人は 1-

2名 (2.6-6.9%)しかいなかった。妊蝦中の飲酒や喫煙は胎児に先天性の病気を引き起こす要

盟となることが知られている (22)。

ストレス対処方法については,平均得点が2点以上の行動が比較的よく行われている対処方法

とみなした。日本の母親では 1由自調査から 3回目までを通して次の 6項目の対処方法を比較

的よく行っていた。1.風呂に入る 2. テレピ・ラジオ・ピデオを見る 3.読書(新鶴・雑

誌を含む)をする 4. ショッビングをする 5.友人等とだんらんをする 6.掃除をする。

一方,フィリピンの母親がよく行っている対処方法は次の通りであった。1.風呂に入る 2.

テレど・ラジオ・どデオを見る 3. 読書(新聞・雑誌を含む)をする 4.友人等とのだんら

んをする 5.音楽を穂く 6.捕除をする 7. いつもよりたくさん食べる 8. がまんをす

る。両患のストレス対処方法を比較すると,次の項目は両欝とも比較的よく行っている行動であ

る。1.風呂に入る 2. テレビ・ラジオ・ピデオを見る 3.読醤(新聞・雑誌を含む)をす

る 4.友人等とのだんらんをする 5.掃除をする。両国の母親のストレスを感じたときに行

う対処方法はかなりよく似ているといえよう。

4-5.現在の妊娠・出産後の段構,居住地域,最終学麗で分けた母親の栄養状態

4 -5. 1 現在の摂娠・出産後の設階

表4に示したように,対象とした岡留の母親の妊娠期と出産後の時期が,各調査で、揃っていな

いことを考慮して,第 1思から第 3盟講査の全ての f食べ物包記jの回答から計算した食事診断

合計点の平均舗を妊嬢期と出産後の各時期に分けて,両国の母殺で比較した(表15)。日本の母

親では,妊娠中も,出産後の時期も朝食,昼食,夕食それぞれの平均食事診断合計点には,

差が認められなかったのに対し,フィリビンの母親では妊娠期に平均食事診断合計点が一番低く,

次いで出産鹿後から 4カ月までの母親(段階 3)で低く 5カ月(段構 4)以捧には有意表は認

められなかった。妊難中の母体環境は一人の人間の一生の健康状態を左右するほど重要な意味を

持つものであり,出産鹿後の授乳期も同様に母子の健康に影響が大きい時期である。これらの時

期に,フィリピンの母親の王子均食事診断合計点が低いことは問題であろう o B本の母親ではその

ような傾向は認められず,出産後の時期を全てまとめた母親の平均食事診断合計点と比べると,

むしろ妊娠中の母親の夕食診断合計点が授乳・育児期の母親のそれより高い傾向が見られた。

5本の母親とフィリピンの母親の妊娠中の王子均食事診断合計点安比較すると,白本の母親の夕

食診断合計点がフィリピンの母親のそれより高かった。分娩後の段階 3と4の母親の食事診断合

計点には,日本とフィリピン両国の母親で有意差が認められなかった。段階5と6の母親の平均

食事診断合計点は,昼食においてはフィリピンの母親で臼本の母親より高得点で,夕食では日本

の母親が高得点であった。

4-5. 2 居住地域

妊蝦中と授乳・育児期の母親の栄養に影響する要盟として,住んでいる市町村の影響を検討し

た。住んでいる地域ごとにみた母親の平均食事診断合計点の比較から,日本では町村より市に住

む母親で平均診断得点がいくぶん高い傾向を示した。一方フィリピンでは,村に住む母親の王子均

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日本とフィリピンの母殺と子どもの栄養・健康・ライフスタイルに関する比較研究 209

表15 a本とフィリピンの母親のー,ニ,三回目調査をあわせた今の状態(妊娠・出産後の

時期)による食事診断合計点の比較

妊娠中 出産後 出産後一,ー,三回目調査

(2 -10カ月)(A) (0勾 4カ月)(B) (5-8カ月)(c)

日本 朝食 主主食 夕食 朝食 昼食 夕食 朝食 昼食

n 13 13 13 10 10 10 18 18

平均値 46.2 51.9 60.1 44.7 49.8 55.9 41.5 54.9

標準室長異 16.4 9.6 6.1 14.3 14.5 18.1 19.8 11.1

フィリピン 朝食 昼食 夕食 朝食 昼食 夕食 朝食 昼食

n 28 28 28 27 27 27 14 14

王子均{薮 39.9 49.7 42.5 43.5 26.2 48.5 50.2 59.9

標準偏差 11.1 8.1 6.9 9.6 9.9 7.7 10.7 9.0

日本のデータの比較

t値(A)と(B) NS NS NS

(B)と(c) NS NS NS

(c)と(ひ) NS NS

フィリピンのデータの比較

t値 2.6 3.0 2.0 (A)と(B) NS * ** (B)と(c) NS NS * (c)と(D) NS NS

尽本とフィリピンの比較

t値 7.9

NS NS *** NS NS NS NS NS

Cochran tテストによった n=食事数(1限の食事は 7個の食事の王子均である).NS=有意義なし. *=P<0.05. **=P<O.Ol. ***=P<O.OOl

夕食

18

59.8

9.6

夕食

14

55.1

7.4

NS

NS

NS

食事診断合計点が,町または市に住む母親よりいくぶん高い傾向であった。

4-5. 3 最終学歴

出産後

( 9カ月以上)(D)

朝食 昼食 夕食

40 40 40

43.4 52.4 59.0

12.4 7.2 8.4

朝食 昼食 夕食

16 16 16

17.3 60.3 49.9

7.3 7.1 7.2

3.7 4.0

NS ** ***

母親の最終学歴の影響をみるために,日本の母親を低学歴者(6 -12年間)と高学歴者(就学

年数13年以上)に二分し,フィリピンの母親も低学歴者(12年以下)と高学歴者(就学年数日年

以上)に二分し,それぞれの平均食事診断合計点を比較した。日本の母親では高学麗者で低学歴

者に比べて,王子均食事診断合計点が高い額向を示したのに対し,フィリピンではそのような差違

は認められなかった。

5.結論

臼本とフィリピンの本比較研究は,フィリピンにある妊娠酪期・後期,授乳,離乳期の食べ物

に関する俗信と慣習,例えば「妊婦はお産を軽くするためにたくさん食べてはいけないjを収集

し,日本でも向様の俗信と慣習を収集し,似ているものと異なるものを明らかにした。両慢で似

ている俗信と慣習であっても,日本の母親は全体的に承認(同意)しないのに対し,フィリピン

の母親は全体的に承認することを明らかにしたことからスタートした。次いで両国の母親の栄養

状態,健康状態,ライフスタイルの比較を行った。

食事診断合計点で評価したフィリピンの母親の食事と栄養摂取状態が,日本の母親のそれに比

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210 教育学部紀要第72号

べて改善の必要性の高いものであることが,第 1回,第 2回,第 3回調査で同様に明らかになっ

た。食事診断合計点の平均値でみると,朝食と盤食には両国の母親で有意差はなかったが,夕食

で日本の母親の食事診断合計点がフィリピンの母親のそれより有意に高かった。特にフィリピン

の母親の妊娠中の平均食事診断合計点が日本の母親のそれにくらべて低いことが明らかになった

が,この結果は,フィリピンの母親が妊娠期の食べ物に関する俗信と慣習を爵じる程度が高いこ

とと関連しているか否かは,本研究からは明らかでない。

フィリピンの母親では妊娠期に平均食事診断合計点が…番低く,次いで出産直後から 4カ月ま

での母親(表 4の段階 3)で低く 5カ月{表 4の段階 4)以降に高かった。妊娠中の母体環境

は,生まれて来る子どもの一生の健康状態を左右するほど重要な意味を持つものであり,出産直

後の授乳期も詞様に母子の健康に影響の大きい時期である。これらの時期に,フィリピンの母親

の平均食事診断合計点が低いことは問題であり,改善が必要である。日本の母親ではそのような

傾向は認められず,出躍後の時期を全てまとめた母親の平均食事診断合計点でみると,むしろ妊

娠中の母殺の夕食診断合計点が授乳・育児期の母親のそれより高い候向が見られた。

平均栄養摂取率でみると,日本の母親はたんぱく賓と脂肪を王子均栄養所要量に比べてとりすぎ

ており,逆にカルシウム,鉄,ピタミン Aが不足していた。一方フィリピンの母親ではたんぱ

く質を平均栄養所要量に比べてとりすぎており,カルシウム,鉄,ピタミン Aは充分羅摂取さ

れていたが,エネルギー,脂肪,ビタミン Bl摂取率は不足していた。

しかし,ひとりひとりの母殺の食事診断得点と栄養摂取率(栄養摂取量/栄養所要最)で見る

持,日本とフィリピン荷額ともに個人差が大変大きく,健康教育の課題が明らかになった。

日本とフィリピンの母親で,それぞれ訴えの多い健康自覚症状と摂取栄養素の不足の関連が示

唆されたが,これらの関連について,さらに今後検討していきたい。

日本の一部の母親(都市に住んでいる,高学歴)グループが示した平均食事診断合計点が高い

傾向,すなわち栄養槙取のバランスの良い横向は,本研究のフィリピンの向グループでは認めら

れないものであった。食生活に露響する要因が臼本とフィリピンで奥なることを示唆するが,今

後,さらに研究を続けて,検討したい課題である。

これらの結果に基づいて,日本とフィリピン詞鴎の母親と子どもの栄養状態や健康状態の違い

を引き超こす要因について,さらに今後も研究していきたいと考える。

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