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163 Graduate School of Policy and Management, Doshisha University あらまし まちづくり地域活性化地方自 治の分野でよく用いられる言葉の1つであるこれらの言葉は東日本大震災の経験によって個 人と地域とのつながりの重要性が再認識させら れたことでより広く用いられるようになったその一方でこれまでこのまちづくり域活性化の成功事例は必ずしも多いとは言え ない規範論としてのまちづくり地域 活性化が多方面で説かれることとは対照的に政策論としての まちづくり地域活性化は未成熟であると言えるこうしたギャップの原因の1つとして地域 活動の担い手の意識や関係性についての調査が 不十分であることがあげられるそこで本稿で 平成 23 年度に同志社大学プロジェクト科 目として開講された上京区活性化プロジェク 区民との協働で地域課題の解決を!~」 おいて学生が実施した調査の結果を述べ考察 を行うこの調査では地域コミュニティを担 うアクターとして志縁組織地縁組織大学学生を取り上げ学生については 300 名規模の アンケートをそれ以外についてはヒアリング を実施したこれらの分析結果をふまえ行政 からの視点で地域をめぐる各アクターの相互連 携を進めるうえでの留意点を示しより実効性 の高い 政策論としての まちづくり域活性化を展開するための論拠を提供するこのことが本稿のおもな目的であるがあわせ てそれを実現するための環境整備の重要性にも 言及する1.はじめに 近年、「まちづくり地域活性化という 言葉を耳にする機会が増えつつあるこれらはこれまでの地域コミュニティのあり方がうまく 機能しなくなったことを示しているその背景 としては現代社会の急速な変化たとえば科学 技術の加速度的な発展やグローバル化少子高齢化などによる生活様式の変化などが指摘さ れるこうしたことから公の担い手の議論やガ バナンス論が提起され行政だけでなく NPO や大学企業などのアクターとの協働やパート ナーシップが模索されている 1 住民自治を念頭に置けば地域活動を担うア クターは公の担い手の中でも特に重要なものの 1つである最近では平成 23 年3月 11 日に 発生し多くの犠牲者と甚大な被害をもたらし た東日本大震災を契機として地域コミュニ ティの重要性が見直されている日々の暮らし において個々人が地域とのつながりを持ってお くことの重要性が改めて注目され、「まちづく 地域活性化が各地で説かれているこうした規範が説かれる一方で実際にこ まちづくり地域活性化が成功した と言える事例はそれほど多くはないその原因 の1つとして地域コミュニティに関わるアク ターの意識や関係性についての調査がこれまで 十分に行われてこなかったことがあげられるの ではないかつまりまちや地域の姿はこうあ るべき=規範とは説かれてもそれぞれの 担い手やアクターがどのような意識を持ってお =分析)、それをふまえたうえで何ができ 地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 同志社大学プロジェクト科目における学生の調査結果から湯浅 孝康 1 今川晃 私たちが まちづくりの主人公佐藤竺監修,今川晃 馬場健編著 市民のための地方自治入門改訂版,実務教育出版, 2002 年, 2-13 ページ など

地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 · 1 今川晃「私たちが『まちづくり』の主人公」佐藤竺監修,今川晃・馬場健編著『市民のための地方自治入門』改訂版,実務教育出版,2002

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Page 1: 地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 · 1 今川晃「私たちが『まちづくり』の主人公」佐藤竺監修,今川晃・馬場健編著『市民のための地方自治入門』改訂版,実務教育出版,2002

163Graduate School of Policy and Management, Doshisha University

 「まちづくり」や「地域活性化」は、地方自治の分野でよく用いられる言葉の1つである。これらの言葉は東日本大震災の経験によって個人と地域とのつながりの重要性が再認識させられたことで、より広く用いられるようになった。その一方で、これまでこの「まちづくり」や「地域活性化」の成功事例は必ずしも多いとは言えない。規範論としての「まちづくり」や「地域活性化」が多方面で説かれることとは対照的に、政策論としての「まちづくり」や「地域活性化」は未成熟であると言える。 こうしたギャップの原因の1つとして、地域活動の担い手の意識や関係性についての調査が不十分であることがあげられる。そこで本稿では、平成 23年度に同志社大学プロジェクト科目として開講された「上京区活性化プロジェクト~区民との協働で地域課題の解決を!~」 において学生が実施した調査の結果を述べ、考察を行う。この調査では、地域コミュニティを担うアクターとして、志縁組織、地縁組織、大学、学生を取り上げ、学生については 300名規模のアンケートを、それ以外についてはヒアリングを実施した。これらの分析結果をふまえ、行政からの視点で地域をめぐる各アクターの相互連携を進めるうえでの留意点を示し、より実効性の高い「政策論」としての「まちづくり」や「地域活性化」を展開するための論拠を提供する。このことが本稿のおもな目的であるが、あわせてそれを実現するための環境整備の重要性にも言及する。

 近年、「まちづくり」や「地域活性化」という言葉を耳にする機会が増えつつある。これらは、これまでの地域コミュニティのあり方がうまく機能しなくなったことを示している。その背景としては現代社会の急速な変化、たとえば科学技術の加速度的な発展やグローバル化、少子・高齢化などによる生活様式の変化などが指摘される。こうしたことから公の担い手の議論やガバナンス論が提起され、行政だけでなく NPOや大学、企業などのアクターとの協働やパートナーシップが模索されている 1。 住民自治を念頭に置けば、地域活動を担うアクターは公の担い手の中でも特に重要なものの1つである。最近では、平成 23年3月 11日に発生し、多くの犠牲者と甚大な被害をもたらした東日本大震災を契機として、地域コミュニティの重要性が見直されている。日々の暮らしにおいて個々人が地域とのつながりを持っておくことの重要性が改めて注目され、「まちづくり」や「地域活性化」が各地で説かれている。 こうした規範が説かれる一方で、実際にこの「まちづくり」や「地域活性化」が成功したと言える事例はそれほど多くはない。その原因の1つとして、地域コミュニティに関わるアクターの意識や関係性についての調査がこれまで十分に行われてこなかったことがあげられるのではないか。つまり、まちや地域の姿はこうあるべき(=規範)とは説かれても、それぞれの担い手やアクターがどのような意識を持っており(=分析)、それをふまえたうえで何ができ

地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化―同志社大学プロジェクト科目における学生の調査結果から―

湯浅 孝康

1 今川晃「私たちが『まちづくり』の主人公」佐藤竺監修,今川晃・馬場健編著『市民のための地方自治入門』改訂版,実務教育出版,2002年,2-13ページ など

Page 2: 地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 · 1 今川晃「私たちが『まちづくり』の主人公」佐藤竺監修,今川晃・馬場健編著『市民のための地方自治入門』改訂版,実務教育出版,2002

湯浅 孝康164

るのか(=政策)があまり検討されてこなかったのではないかと考えられるのである 2。 そこで本稿では、行政からの視点で、地域活動の担い手の意識や関係性がそれぞれどのようなものであるかを明らかにする。こうした調査・分析を通じて、地域コミュニティをめぐる各アクターの相互連携を進めるうえでの留意点を示すことができ、より実効性の高い政策を立案できるのではないかと考えられるからである。以下では、志縁組織 3、地縁組織 4、大学、学生という4つのアクターのそれぞれの意識や関係性について、平成 23年度に同志社大学プロジェクト科目 5として開講された「上京区活性化プロジェクト~区民との協働で地域課題の解決を!~」6において、受講生が実施した調査の結果を述べ、考察を行う。

志縁組織については、地域交流の学生サークル、コミュニティ再生を目的とする NPO、まち歩きをコーディネートする NPOの3つに対してヒアリング調査を実施した。 この地域交流の学生サークルは、大学生と近隣の小学生とのスポーツ交流の企画、他の学生サークルと連携した小学校での土曜学習のプログラム作り、大学生の放置自転車問題の改善プ

ロジェクトなどの活動を行っている団体である。地縁組織とは挨拶に行ったことで徐々に交流が芽生えつつある。大学との関係では、各アクターとの要望の調整や活動補助金を学生支援を担う部署から受けるなど、活動の仲介役としての大学の役割の大きさを感じている。行政との関わりでは、上京区担当のまちづくりアドバイザー7を通じて活動の支援を受けたり、放置自転車問題で警察とともに対策を考えたりしている。 同サークルは、各アクターに対する課題として次のことをあげている。まず、地縁組織については、普通に大学生活を送る中では自治会や町内会と大学生がつながる機会がないため、つなぐ役割の人が必要だという。大学生と地縁組織の交流のためには最初のきっかけづくりが肝要なのであろう。大学に対する課題としては、自らのサークル活動の広報活動への協力と地域における教員の活動の把握をあげていた。前者については、自らのサークルの活動自体を学生が知らないと学生が地域行事に参加する機会が減ってしまうこと、後者については、まちづくり活動を行っている教員やゼミを大学が包括的に把握していないため、学生と地域とのつながりが希薄であることを理由としてあげいていた。また、学生に対しては就職活動を考慮して早い時期にまちづくり活動に参加することを、行政に対しては区役所と大学生が直接つながることを望んでいた。 次に、コミュニティ再生を目的とする NPOについてはその代表者にヒアリングを行った。

2 「である論」(分析論)、「べき論」(規範論)、「できる論」(政策論)の着想は次の文献を参考にした。山脇直司『グローカル公共哲学―「活私開公」のヴィジョンのために―』東京大学出版会、2008年。

3 本稿でいう志縁組織とは、特定の地域に由来するものではなくボランティア団体・NPO法人など、特定の目的で集まった組織を指す。なお、学生が立ち上げた NPOもこれに含まれるものとする。

4 本稿でいう地縁組織とは、体育振興会、少年補導委員会、自主防災会、女性会、敬老会などを包括する住民福祉協議会を指す。5 プロジェクト科目とは、「地域社会や企業の方々に講師をお願いし、地域社会と企業がもつ『教育力』を大学の正規の教育課程の中に導入することによって、学生に生きた智恵や技術を学ばせるとともに、『現場に学ぶ』視点を育み、実践的な問題発見・解決能力など、いわば学生の総合的人間力を養成することを目的とするもの」と定義されている(http://pbs.doshisha.ac.jp/outline/outline.html(平成 25年3月2日最終閲覧。))。

6 本稿で取り上げる「上京区活性化プロジェクト~区民との協働で地域課題の解決を!~」は、このプロジェクト科目のテーマ公募に上京区長が応募し、採択・開講されたものである。本科目では、科目代表者を今川晃政策学部教授、科目担当者を上京区長とし、まちづくり推進課長、まちづくりアドバイザー、担当係員の4名の態勢で授業を行った。筆者は、この担当係員として一年を通じて行政側の事務員として授業に参加した。本プロジェクトの参加者は TA(Teaching Assistant)を含めて 12名であるが、その所属学部は政策学部のみならず、法学部、社会学部、経済学部、理工学部と多様で、また2回生から4回生までの回生の異なる多彩なメンバーが属していた。本科目では、科学的方法を用いて地域活動の実態把握を行い、それに基づいて政策を立案することを学生に学ばせることを目的とした。そこでの活動は、正規の授業外でも学生が何度も自主的に集まり、活動内容の方向性や日程等を決めていた。また、学生を除く各アクターへのヒアリングに際しては、志縁団体にはまちづくりアドバイザーが、地縁組織にはまちづくり推進課長が、大学には行政職員がそれぞれ事前にアポイントメントをとり、円滑なヒアリングが行えるよう配慮した。

7 まちづくりアドバイザーとは、「まちづくりに関する専門的な立場から、区役所・支所の職員とともに、区民の自主的活動を支援し、区役所・支所が実施する『まちづくり事業』全般の企画・運営への助言を行う、『まちづくりの専門家』」で、京都市の各区・支所を1名ずつが担当している。(http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000130289.html(平成 25年 3月 2日最終閲覧。))

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地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 165

彼は桃園学区 8を中心とした地域コミュニティの再生を目指して、地元の祭りの保全活動、高齢者向けの自治会のイベントの企画、地域ならではの付加価値の高い観光ツアーの企画などの活動を行っている。また、大学の特任助教という立場も持ち合わせおり、研究と実践活動を並行して行っている人物でもある。 彼は、地縁組織と大学との関係について地域側の行事が大学内に伝わりにくいことを課題としてあげていた。大学そのものに対しては、教員の研究や活動内容が不明確であるなど内部の情報が共有されていないため、互いに協力しようにもできないことや、学生を受け入れて地域に振り分ける調整機能がないこと、外部から見たときのわかりやすい窓口がないことが課題であるという。また、学生に対しては、一人一人がもっと積極的に地域と関わることや、参加者が持続的に地域と関わることを望んでいた。行政に対しては、地縁組織内部の各アクターが活動を行う際に、自ら積極的に動いて調整を行うといったコーディネート機能が不十分であることが課題だと述べていた。 最後に、まち歩きをコーディネートするNPOについては、事務局の代表者にヒアリングを行った。この NPOでは、京都の地元住民が自らのまちの歴史や物語を知り、そのまちに誇りを持って紹介し合える文化を醸成することを目指して、さまざまなまち歩きツアーのあっ

せんを行っている。もっとも、このツアーを企画する主体はあくまでも住民ガイドであり、たとえば「森」「魔界」「仏像」「祭り」「庭園」など、住民ガイドは各々が得意とする分野で京都のまちを案内する。この NPOはこのようなガイドを取りまとめ、多様なメニューのある一つのまち歩き団体を形成している点に特徴がある。 この代表者にどうすれば学生が地縁組織と関わるようになるか尋ねたところ、町内会長の積極性やマンション管理者ないしは大家の意識改革、学生が参加しやすい地域づくりが必要であると述べるなど、おもに地縁組織側に課題を見出していた。大学に対しては、自らの NPOの活動が地域を知る契機となるよう活動の広報に協力してほしいことや、地域との関わりを持つために学生が生活のすべてを大学内で完結できないようにすること、地域と関わる講義を学生に受講させることなどを通じて学生の意識改革を促してほしいことを訴えていた。学生に対しては、同年代で固まらないことや寺子屋のように自分たちで誰かに教えることが重要であると述べていた。行政に対しては文化活動に対する金銭的補助を止めるべきだと述べていた。その理由としては、自由競争の原理によって質が向上することや、安価な文化イベントの実施が民間の芽をつぶしかねないことなど、市場原理の阻害によるデメリットをあげていた(以上、表1を参照)。

8 桃園学区は、東は堀川通、西は智恵光院通、南は一条通、北は五辻通に囲まれた元学区である。なお、元学区とは、江戸時代の住民自治組織の単位である「町組」をもとに 1869年(明治2年)に創設された「番組」及び「番組小学校」を起源とする小学校運営・行政機能の一部を担う地域単位で、現在も京都市中心部における地域行政・住民自治の単位となっている。

団体相手 地域交流の学生サークル コミュニティ再生 NPO まち歩き NPO

地縁組織

・ つなぐ役割の人が必要(きっかけづくり)

・ 地域側の行事が大学内に伝わりにくい

・町内会長の積極性・ マンション管理者や大家の意識改革・学生が参加しやすい地域づくり

大  学

・広報活動を手伝ってほしい・教員の活動を把握してほしい・地域とつながっていない

・ 教員の活動など内部の情報が不明確・ 調整機能やわかりやすい窓口がない

・まち歩き活動の広報協力・ 生活のすべてを大学内で完結できないように・外部と関わる講義を

学  生 ・早い時期に参加してほしい ・参加をもっと増やしたい・持続的な参加を望んでいる

・同世代で固まらない・自分たちで誰かに教えること

行  政 ・ 区役所と大学生が直接つながればよい

・コーディネート機能がない ・ 文化活動に対する金銭補助をやめるべき

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湯浅 孝康166

 地縁組織については、上京区内の2つの学区(A学区、B学区)に対してヒアリング調査を行った。まず、A学区では住民福祉協議会の会長に対応していただいた。A学区はこれまでから学生の受け入れについては寛容で、複数の大学の学生がゼミ単位で学区と関わるなど「来る者拒まず」の気風を持っている。また、学区内の組織同士のつながりが強く、地元住民のコミュニケーションが密であることや、財政的に余裕があることも学区の特徴としてあげられる。財政面の余裕については、地域の福祉委員が独居老人の身の回りの世話を行っているため、まれに独居老人の遺産による収入があるためとのことであった 9。地域に関わろうとする学生に対しては、「何事もやってみないとわからないから学生は積極的に地域に入るべき」「互いに相手の立場を理解することで、学生も地域の人に対して意見を言えるようになることが一番よい」などの意見を持っていた。 一方、B学区では住民福祉協議会の顧問、会長、副会長の3名の対応していただいた。B学区における学生の受け入れについては、各種行事や広報誌の作成などで手伝いに来てくれることを望んでいるものの、継続性がないことを課題としてあげていた。学生は就職活動で4年間のうち1年程度は地域を離れてしまうことが多いため、できるだけ早い段階で学生とつながる仕組みを作る必要性を感じているようであった。また、地域活動への参加の方法については、まず準備や当日の手伝いから始め、継続性が担保されて信頼関係が築ければ企画段階からの参加も歓迎するとの考えであった。学生の中には準備や手伝いではなく、最初からすぐに企画を行いたいと考えている者もいるが、この B学区のように、そうした学生の意識と受け入れ先の地域の意向とは少しズレがある。 大学に対してはあまり良い印象を持っていないようで、担当部署に何度か協力を要請したために担当者が数回訪れたことがあるが続かないことや、異動が激しく担当者が頻繁に変わるため、申請のたびに説明する必要があって煩わし

いなどをその理由としてあげていた。その他、大学行事と地元行事の日程が重なることや、地域の行事の際に施設を無償で提供してくれないことに不満を持っていた。 この2つの学区のヒアリング調査を通じて、次の課題も見出された。まず、学生と地域住民との情報伝達手段の違いである。地域の各種団体の役員は 60歳以上の高齢者が多いが、彼らの情報源はポスター、市の広報版、回覧板などである。一方、学生は、インターネット、ソーシャルメディア、電子メールをおもな情報源としている。意識の高い学生であればポスターや市の広報版を、町内会に入っている学生であれば回覧板を見ることで地域住民と同じ情報を得ることができるが、そのような学生は少数であろう。 この状況をさらに悪くしている要因がマンションやアパート建設の増加である。以前は大家を通じて地域と学生がつながることがあったが、マンションやアパートの建設によって不在地主が増え、そうした機会が減少しつつある。また、地元住民も町内会に入っていない学生には「(地域の)役員に聞けばいい」という態度をとる人がまだまだ多く、住民側にも学生に対する意識改革が必要であるように感じられた。このように、地域交流の前提としての「地域を知る」ことがまだまだ不十分だと思われる。 また、学区ごとの比較からは次の2点が指摘できる。まず、共通点として、地域には小学校を中心とした密接な関係が存在することがあげられる。これは番組小学校を起源として地域がまとまっていったという歴史的経過によるところが大きい 10。このため、各地域では小学生以下の児童が特に大切にされており、彼らを中心にコミュニティが形成されている。もう1つは学生に対する考え方が学区ごとで異なることである。A学区のようにこれまでから積極的に学生を受け入れ、現在の状況に満足しているところもあれば、B学区のように「(学生は)いたらいい」という立場のところもある。また、「現状ではボランティアが多いが、将来的には学生を受け入れることが必要」という学区もあるなど、学生の受け入れについての問題意識は異なっている(以上、表2を参照)。

9 その会長によれば過去には1件で 4,500万円もいただくことがあったという。10 番組小学校を含む京都の地域特性については、脚注8を参照。

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 大学については、京都市内にある3つの大学に赴き、学生と地域をつなぐそれぞれの窓口部署でヒアリングを行った。まず、大学所在地付近の地域住民や地縁組織との関係については、すべての大学でゼミやサークル単位で交流を行っていたことがあげられる。ゼミでは教員個人と関わりのある地域にゼミ生が赴くことが一般的である。サークルでは、落語、邦楽、茶道など、高齢者にもなじみのある文化的活動で交流を行っていた。また、大学が地域住民にとってなじみの深いものになるよう、夏祭りや一般公開講座などのイベントの開催、定期的に開催される映画上映会への招待、フィットネス施設や大学内のレストランの一般利用など、文化・体育施設の一般利用を行ったりするなどの取り組みが行われている。この他にも地域交流活動を目的とした学生主体のプロジェクトチーム制度を創設したり、学生が地域に対して行うボランティア活動を対象に交通手段や交通費等を支援したりと、それぞれの大学で独自の制度を持っている。一方で、大学生の素行に対する地域住民からの苦情がまだ多く寄せられ、その対応に追われているのも事実であり、担当部署の大きな課題となっている。この他には、大人数の学生を動員させるためには実行委員会を立ち

あげることが必要だと答えた大学もあり、組織上の問題を指摘する声もあった。 次に、学生との関係については、「国際」「子ども」「福祉」など、学生個々人が興味を持つ分野でのボランティア活動は各大学とも活発なようである。個々の大学独自の取り組みとしては、地域活動への参加を単位化した大学があった。その概要は次のとおりである。まず、大学が地域と関わるルールや特性、知識、課題などについて講義を行い、その後学生が実際に地域で活動を行う。そして活動についての評価やふりかえりを行い、その報告・レポートを提出する 11。この活動は年間を通じて行われ、単位は秋学期2単位となっている。そこでの課題は明確化されており、活動はプロジェクトごとに行われるが、毎年 100人の参加があるという。この他に、学生ボランティアを募る地域や、学生が参加できる地域でのイベントをメールで全学生に周知し、在学生に対して広く地域活動への参加を呼び掛けている大学もあった。そこでは担当部署から依頼を受けた広報部署が月2回程度各学生の学内メールアドレスに情報を送信する方法がとられている。さらに、学生企画のまちづくりプロジェクトを進めている大学もあった。これは、学生が地域と協働して主体的にまちづくりを企画・推進することを目的として、大学が学生団体やサークルなどに対して企画を公

11 講義の内訳は、40時間以上を地域で活動することが義務付けられ、最初と最後の講義部分は8コマが割り当てられている。なお、この40時間は学生の自主性を尊重したものになっており、その時間数は、「1コマ(1.5時間)×3(予習、実習、復習)×7コマ≒ 40時間」という数式をもとに算出されている。

A学区 B学区 共 通

学  生

・積極的に地域に入るべき・ 学生も地域住民に対して発言できる関係になることが理想

・いたら助かる・来てほしいが継続性がない・ まずは手伝いから。信頼関係ができれば企画も

・情報伝達手段が異なる・ マンションの増加でつながる機会が減少・地域を知ることが重要・ 学生の受け入れの意識が学区で異なる

大  学(なし) ・行事日程の重複

・担当者の異動・施設を提供してほしい

(なし)

行  政 (なし) (なし) ・ これまでからの深いつながり

志縁組織 (なし) (なし) (なし)

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募し、採択した企画についてはその経費を補助しながら学生と協働して実施するものである 12。その年間の上限は最大6つで、たとえば町家の保存と活用、商店街活性化、地域の防災についての調査、南丹の A地域での① NPOとのコラボレーション、②ふるさと新聞作成、③ B地区でのまちづくり活動などがある13。こうした先進的な取り組みが行われている一方で、大学側はいくつかの課題も認識しているようである。たとえば、「住民としての学生はほとんど地域に入らない」「地域活動に対する学生の継続的な参加があまりない(一度きり)」「アルバイト、サークル活動等のため、休日に地域活動に参加する学生は限定的」「新入生が地域になじむアプローチがない(活動が本格化する頃には就職活動が始まる)」などがあげられていた。 地域をめぐる大学間の取り組みついては、各大学とも他大学との交流を進めていると述べるにとどまり、具体的な取組等はあまり語られなかった。むしろ学内の課題をあげることが多く、

たとえば大学コンソーシアム京都 14をもっと活用するべきであるとか、そもそも学内の各組織の統合がまだまだ不十分だといった意見があった。また、学生と地域をめぐる先の課題にも関わるが、各大学とも学生の地域活動をほとんど把握できていないようであった。もっとも、学生が自主的に行う地域での活動は、その活動地域のコミュニティに大学が積極的に入らなければ明らかになりにくく、またそもそもそうした活動を大学が把握する必要はないのかもしれない。他方で、一回生等、地域活動の未経験者にとっては、活動実態が明らかでないとコミュニティに積極的に入っていくことは一般的には難しい。まずはある特定の地域ですでに行われている地域活動に参加し、経験を積むことが自主的な地域活動を行う前提になるからである。これらの点は、地域活動に参加する大学生を増やすための課題である。 行政との関係では、大学所在地の行政区と地域連携をめぐる協定を結んだり、国や自治体で

共通の取り組み 独自の取り組み 課題

地縁組織

・ゼミやサークル単位で交流・イベントの開催・文化・体育施設の貸出

・ 地域交流活動ためのPT制度の創設・ 学生の地域ボランティアに対する支援

・ 大人数の動員には実行委員会が必要・ 学生の素行に対する苦情がまだまだ多い

学  生

・ 各分野のボランティア活動は活発

・地域活動を行うことが単位化・ 学生を募る地域をメールで全学生に周知・ 学生企画のまちづくりプロジェクト

・ 住民としての学生は地域に入らない・継続的な参加がない・土日の参加は限定的・ 新入生が地域になじむアプローチがない

大  学

・他大学との交流 (なし) ・大学コンソーシアムの活用・学内の各組織の統合は不十分・ 学生の地域活動をすべて大学が把握できていない

行  政 ・協定の締結・国や自治体からの資金補助

(なし) (なし)

志縁組織 (なし) (なし) (なし)

12 このプロジェクトが過去には京都府の制度で採択された実績もある。13 この A地域での活動は継続して実施され、現在では地域要望への回答から提案型へ変化したという。14 大学コンソーシアム京都とは、「大学、地域社会及び産業界との協力による大学教育改善のための調査研究、情報発信交流、社会人教育に関する企画調整事業等を行い、これらを通じて大学と地域社会及び産業界の連携を強めるとともに大学相互の結びつきを深め、教育研究のさらなる向上とその成果の地域社会・産業界への還元を図る。」ことを目的として 1998年3月 19日に認可された財団法人である。(大学コンソーシアム京都ホームページより引用。2013年3月2日最終閲覧。http://www.consortium.or.jp/contents_detail.php?co=cat&frmId=18&frmCd=23-1-0-0-0)

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地域活動の担い手の意識と地域コミュニティの活性化 169

認められた地域活性化のための活動について資金援助を受けたりしているとのことであった。悲観的に見れば、前者は行政を仲介とした大学間連携、後者は学生の多様な教育のための一つの取り組みであるから、単独の大学が行政と協働して地域課題の解決を図るものとは言い難い。また住民から寄せられた学生のマナーの悪さを改善することはここに分類される取り組みであるとも言えるが、決して積極的なものではなく、地域活性化に資するものとは言えない。 なお、志縁組織との関係の話はほとんど聞くことができなかった。志縁組織とは大学が直接関わるのではなく、学生と志縁組織が協働して行う活動を大学が支援するにとどまっているようである(以上、表3を参照)。

 地域活動に対する学生の関心度を調査するため、下記の要領でアンケートを実施した。

・実施時期:2011年 12月~ 2012年1月・実施場所:同志社大学等・実施対象: 大学生・大学院生 310名(同志社

大学に在籍する学生が大半)

 これらを集計した結果と考察は以下のとおりである。まず、地域活動に参加したことがあると答えた学生は 105人(34%)で、このうち参加したことがある活動はお祭り(78人)が最も多く、運動会(20人)、商店街のイベント(20人)など他の活動と比較しても圧倒的であった 15。その参加回数については、1回が 22人、2回が 35人、3回が 12人、4回が7人、5回以上が 30人と二極化する傾向が見られた。参加した理由は「ゼミ・サークル」が 44人、「活動に興味があった」が 37人、「親族が参加している」が 18人、「友人に誘われた」が 14人であった。ゼミ・サークルにはもともと地域活動に理解のある学生が集まる傾向があるので、こ

の結果からは総じて地域活動に興味・関心があるから参加しているという実態が見えてくる。逆に、地域活動に参加したことがないと答えた学生は 191人(62%)で、その理由は「知らなかった」が 99人と最も多く、続いて「特に必要ない」が 58人、「窓口がわからない」が 35人であった。一般的に大きな理由と考えられている「地域住民が排他的」や「人間関係がわずらわしい」はそれぞれ 10人程度で、今回の調査では少数派であった。 また、「何らかの組織に所属して地域との関わりを持っているか」という設問では、「ゼミ」が132人と圧倒的で、続いて「サークル」が31人、「学生支援組織」が 18人、「町内会」が 17人と、ゼミが学生と地域を結びつきに大きな役割を果たしているようであった。参加してみたい地域活動についての設問では、お祭りが 194人と突出しており、続いて子どもとの触れ合い(48人)、運動会(45人)、芸術活動(40人)、音楽会(33人)、清掃活動(32人)と続き、その他の項目はいずれも15人以下であった 16。先の「参加したことがある地域活動」と同様に、お祭りにはかなりの人気が、それ以外の各種イベントにも一定の人気があった一方で、「防災会議」「町内会会議」「防犯講習」などには学生の関心がほとんど向いていないようである。「どのような大学の(地域の)活動があれば参加してみたいか」という設問では、アルバイトが 108人、フィールドワークが 87人、ゼミが 72人、講義が 70人、インターンが 65人、ボランティアが42人、残りの選択肢は 20人以下という結果であった 17。やはり活動に対して何らかの見返りを求める学生が多いものの、見返りを求めずに地域と関わりたいと答えた学生も少なからずいた。「どのようなメリットがあれば地域での活動に参加したいと思うか」という設問でも、単位認定が 125人、スキルアップが 113人、地域住民との交流が 93人、就職活動対策が 83人、学生交流が 79人、お金や景品が 77人、地域貢献が 72人、地域をもっと知るが 42人、その他6人と 18、多くの学生は地域活動が自らに何ら

15 複数回答可で調査を実施した。16 複数回答可で調査を実施した。17 複数回答可で調査を実施した。18 複数回答可で調査を実施した。

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かの実利をもたらすことを求めている一方で、地域住民との交流という純粋な理由の選択肢にも一定数の回答があった。 以上が設問に対するおもな回答結果であるが、さらに詳細な実態を知るため、クロス集計もあわせて実施した。まず、回生と地域活動の有無については表4のとおりであった。全体的には、地域活動に参加したことがある学生よりも参加したことがない学生の方が多かった。集計対象の学生の多くが属する政策学部では2回生の秋学期からゼミが始まるが、回生ごとで大きな変化は見られなかった。つまり、もともと地域活動に関心がある学生は、ゼミでフィールドワークとして地域活動に参加する以前に、すでに自ら地域活動に積極的に参加していることが推察される。また、就職活動が終了した4回生も2~3回生と比べてあまり変化がないこと

から、大学生活を通じて「そもそも地域活動に興味がない」あるいは「地域活動について知らない」学生が一定数存在することが予想される。 ところで、自らが居住する地域の活動に参加するためには、まずその地域に暮らす住民との関係が良好でなければならない。その指標の1つとして、地域住民とあいさつをする頻度を取り上げた。これについて、学生の住居の種別との関係で調査したところ、「実家以外」に住む学生よりも「実家」暮らしの学生の方があいさつをするようである(表5参照)。「実家以外」の内訳では、「学生マンション」「マンション」「学生寮」「間借り」の順であいさつをする割合が増えている。ここから、家主や大家などとの関係の深浅が地域との関わりの深浅につながっていることが予想される。 また、学生と地域とのつながりを知るため、

一回生 二回生 三回生 四回生 大学院生 その他 計ある 1 1% 25 24% 51 49% 23 22% 4 4% 1 1% 105

ない 1 1% 53 28% 85 45% 46 24% 3 2% 3 2% 191

計 2 1% 78 26% 136 46% 69 23% 7 2% 4 1% 296

コンビニ スーパー 商店街 外食 その他 計実家 49 32% 84 56% 3 2% 9 6% 6 4% 151

実家以外 19 15% 99 76% 8 6% 4 3% 0 0% 130

計 68 24% 183 65% 11 4% 13 5% 6 2% 281

毎回する ほとんど ときどき あまり 全くない 計実家 29 21% 34 25% 41 30% 13 9% 21 15% 138

実家以外 8 7% 7 6% 31 27% 33 29% 34 30% 113

計 37 15% 41 16% 72 29% 46 18% 55 22% 251

毎回する ほとんど ときどき あまり 全くない 計学生マンション 1 3% 0 0% 8 21% 16 42% 13 34% 38

マンション 3 5% 7 11% 20 30% 16 24% 19 29% 66

学生寮 2 33% 0 0% 2 33% 1 17% 1 17% 6

間借り 2 100% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 2

その他 0 0% 0 0% 1 50% 0 0% 1 50% 2

計 8 7% 7 6% 31 27% 33 29% 34 30% 114

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食料品や日用品の購入場所、観光の頻度 19について調査したところ、食品購入はスーパーが最も多く、この傾向は実家以外で特に顕著であった(表6参照)。日用品購入については、実家でスーパーやドラッグストアがほぼ同程度、実家以外ではドラッグストアが多かった。他方で、商店街で購入する割合は、実家・実家以外ともに非常に小さい。これらのことから、学生は地域住民との接点に乏しい実態が見て取れる(表7参照)。観光の頻度については、一般的に考えられているように実家以外の方が高かった(表8参照)。出身地との関係でも、近畿圏に住

む学生が観光に出かけることはまれで、遠方出身の学生、つまり下宿の学生の方が頻度が高いことが明らかになった(表9参照)。 最後に、行政とのつながりについて、市の広報物の閲覧頻度からの検討を試みた。住居の種別ではほぼ同程度であったが、性別では若干女性の方が多かった。また、回生との関係では、学部生では母数の少ない1回生を除いて約60%が「全く見ない」と回答するなど、従来からの行政の広報手段はあまり有効でないことがわかった(表 10~ 12参照)。

19 ここで観光を取り上げた理由は、地域資源に学生が目を向けていれば、そこから地域との関わりを持つきっかけとなると考えたためである。なお、ここでの観光とは「住んでいる地域」と定義したため、その範囲は回答者によって認識の差があることには注意されたい。

コンビニ スーパー 商店街 ドラッグストア その他 計実家 16 11% 62 41% 1 1% 64 42% 9 6% 152

実家以外 9 7% 37 27% 4 3% 85 63% 0 0% 135

計 25 9% 99 34% 5 2% 149 52% 9 3% 287

毎日 週 1,2 月 1,2 年 1,2 ほぼ無し 計実家 1 1% 7 5% 20 13% 70 46% 55 36% 153

実家以外 3 21% 8 6% 51 38% 53 39% 21 15% 136

計 4 3% 15 5% 71 25% 123 43% 76 26% 289

毎日 週1 月1 全く見ない 計実家 4 3% 14 9% 54 35% 83 54% 155

実家以外 4 3% 10 7% 35 26% 88 64% 137

計 8 3% 24 8% 89 30% 171 59% 292

毎日 週 1,2 月 1,2 年 1,2 ほぼ無し 計中部以北 2 3% 2 3% 29 43% 22 32% 13 19% 68

近畿 1 1% 12 7% 26 14% 85 47% 57 31% 181

中国以南 0 0% 1 3% 16 42% 15 39% 6 16% 38

その他 1 50% 0 0% 0 0% 1 50% 0 0% 2

計 4 1% 15 5% 71 25% 123 43% 76 26% 289

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 これまでの分析から、各アクター間の関係性を示すと図1のようになる。また、各アクターが取り組むべき課題は次の通りとなる。地縁組織については、まず自ら各アクターに働きかける積極性が必要だろう。特に学生に対してはきっかけづくりが重要であり、その手段としてはお祭りや地域資源を活用した観光が有効であると言える。あるいは、旧小学校単位で形成されている京都の特性を生かし、子どもを通じて学生と関わることも有効かもしれない。小学生に対して大学生が何かを繰り返し教えることで、地域住民との信頼関係が形成される可能性

があるからである。また、学生とのコミュニケーションをより豊かなものにするために、情報伝達手段の理解と習熟も重要である。FAXや地域新聞だけではなく、電子メール、ホームページ、各種ソーシャルメディアなどの電子媒体を利用することで、学生や NPOとの接点は飛躍的に拡大するだろう。 志縁組織については、他のアクターからのヒアリングにおいてほとんど言及がなかったことから、まず活動について知ってもらえるように積極的な広報活動や営業活動を行う必要がある。より多くのアクターにその活動内容を知ってもらえれば、それだけ関係も広範なものになり、結果として地域活動によりよい影響を与え

毎日 週1 月1 全く見ない 計男 2 1% 13 8% 46 27% 112 65% 173

女 6 5% 11 9% 42 36% 59 50% 118

計 8 3% 24 8% 88 30% 171 59% 291

毎日 週1 月1 全く見ない 計一回生 0 0% 0 0% 0 0% 2 100% 2

二回生 1 1% 6 8% 25 32% 46 59% 78

三回生 4 3% 10 7% 40 29% 84 61% 138

四回生 2 3% 5 8% 20 32% 36 57% 63

大学院 1 14% 1 14% 3 43% 2 29% 7

その他 0 0% 2 50% 1 25% 1 25% 4

計 8 3% 24 8% 89 30% 171 59% 292

注.矢印の線の太さはアクターの関係性や影響力の強さを示している。

志縁組織 地縁組織

学生 行政

大学

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ることができるからである。 大学については、教員が地域で行っている活動の情報を集約することが求められている。繰り返しになるが、その理由は地域活動の未経験者や他のアクターからの照会に答えることができれば、地域活動のさらなる活性化が期待できるからである。もしこれを全学的に実施することが困難であれば、学部単位で収集する、あるいはそうした収集活動自体を学生の力を借りて実施することも1つの手段である。そして、収集した情報を各アクターに公表すれば、地域活動をさらに深化させることができるかもしれない。また、これらを含めて、学生が地域と関わるための広報活動の支援を行うことも重要であると言える。地域や NPOと協力し、それぞれの情報を学生に広く伝えることで、参加者数が増加する可能性は高い。ある大学が行っている学内メールでの学生への一斉送信は、この有効な手段の1つである。これと同時に、地域やNPOに対する包括的な窓口を設置し、広報していくことも重要である。 学生については、まず活動を行いたいと考えている地域を知ることから始めなければならないだろう。初めて地域を訪れた学生がすぐに企画に参加することに対して地縁組織が難色を示したように、地域活動において地域住民との信頼関係は重要である。この信頼関係を築くための第一歩として、まず相手を知ることから始めなければならない。そのためには、情報伝達の違い、すなわち学生が頻繁に利用する電子媒体では地域での情報を得られにくいことを理解し、市や地域の広報物を積極的に調べる必要がある。また、地域活動に参加する際には、学生に対して悪いイメージを持っている地域住民もいることをふまえ、素行に気をつけなければならない。こうして継続的に地域活動に参加することではじめて、地域コミュニティの活性化に資する真の地域活動の実施が可能になるのである。こうしてある程度経験を積んだ学生には、自らが居住する地域にも関心を向けることも求められている。 最後に、行政についてはこれらのアクターを

コーディネートする機能が求められている。その前提として各アクターの実情を知ることが必要であるが、そうした意味では、学生を通じて各アクターのさまざまな情報を知ることができたこのプロジェクト科目は意義のあったものであると言えるかも知れない。また、これは大学や学生にも言えることだが、信頼関係の構築と保持という意味で、人事異動は大きな障害となっている 20。このことをふまえ、より十分な引き継ぎ、あるいは引き継ぎのあり方そのものも検討していく必要があるかもしれない。他方、学生を行政の活動に参加させることも重要である。このプロジェクト科目では区主催の事業の一つとして 10名の一般参加者を迎えてまち歩きツアーを実施し、学生は区内の地域資源を実際に調べて上京のまちの魅力を伝える機会を得ることができた。こうした企画も含めた活動を最初から行うことは困難であるが、たとえば行政が主催するイベントのボランティアとして学生を積極的に活用するだけでも、学生に対して一定の教育効果を与えることができると思われる。

 以上では、平成 23年度に開講された同志社大学プロジェクト科目「上京区活性化プロジェクト~区民との協働で地域課題の解決を!~」において、学生が実施した調査結果をふまえ、筆者なりの考察を行った。回生がさまざまな学部生によるものであったため、その調査・分析は厳密な社会科学の視点からは不十分である点が多いが、それでもこうした調査活動を学部生が実施した意義は大きい。本プロジェクト科目の学生による成果報告書において、受講生が「調査を重ねる内に、同じ志を持った団体が接点を持たずに点在している現状を目の当たりにしました。トップダウンによる強制ではなく、自ら進んで自治を行う為に必要な枠組みは何なのかを考える良い機会になりました。」21とまとめているように、地域活動に対する一定の教育効果はあったと言える。

20 たとえば、大森彌は行政職員の定期的な人事異動について住民に対する説明がないことを取り上げ、人事システムの改革の必要性を説いている(西尾勝・金泰昌・小林正弥編『公共哲学(11)自治から考える公共性』東京大学出版会,2004年,178-179ページ。)。

21 http://pbl.doshisha.ac.jp/pdf/report/11_17.pdf(平成 25年3月2日最終閲覧。)

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 また、本プロジェクト科目を開講した行政職員の意識が変化したことにも意義がある。本プロジェクト科目ではトップ・マネジメントである区長が講師として主体的に活動に参加したが、一年間の活動を通じて区長が「プロジェクトの目標設定が当初『上京区の地域活性化』と抽象的で大きすぎたと反省している。また春,秋学期のテーマ,目標の関連性を学生が肌で感じるには時間的にタイトすぎたとも感じている。」と述べている。ここから、このプロジェクトに参加した学生を通じて最近の大学生の生活実態や意識を直接感じることができたこと、特に予想以上に大学生は多忙だと知ることができたことはよい経験となったと区長も感じていることがわかる。また、本プロジェクト科目は平成 23年度の上京区運営方針における重点取組に位置付けられているが 22、その成果資料において「今年度の授業をふまえた,より多くの学生がさまざまな地域活動に参加する仕掛けづくりに向けた具体的な活動」や「大学と地域とのさらなる連携に向けた,上京区と近接した区役所同士との連携」が今後必要な取り組みとしてあげられるなど、本プロジェクト科目を通じて行政側も新たな課題を認識できたようである。今後はこの結果を政策形成や政策立案に活用し、精神論ではなくエビデンスに基づくより冷静な政策を立案・実施することが期待される。 最後に、住民自治の視点から行政の現状と今後の課題について触れておきたい。昨今の行政を取り巻く環境は厳しく、財政難の影響から行政の効率化のためのさまざまな取り組みが行われている。この効率化は消費者としての市民を強調することになるが、他方で市民は自治の主人公としての側面も持っている。過度の効率性の強調は市民のこうした側面を見失う可能性が

あり 23、また組織本来の政策目標が疎かになりかねない状況も見られる24。行政が担うべき役割は何か、行政に期待されている責任と機能を全うするため、また自治体の意思決定や政策決定が迅速かつ的確に行われるためにはどのような組織編成が望ましいのか、これらが十分に検討されないままに、組織の簡素化や職員定数の削減など、単に規模が縮小されている側面もあることには批判も多い 25。 この課題を解決するためには、やはり主人公たる市民の積極的な行政への関与が欠かせない。市民参加とはガバメントの関係抜きには議論できないし、逆に言えば市民がガバメントのあり方に踏み込み、ガバメントにおける意思決定の仕組みに修正を迫ること 26が住民自治の本来の姿であろう。地域自治のための「政策」を実施するのであれば、担当する組織の物理的裏付けや制度的前提が必要となるが、地域自治の活性化に資する制度や活動に対する金銭的補助があっても、それを管理・運営する職員に余裕がない場合もある。仮にこうした裏付けや前提を欠く場合、それは政策とは言えず、精神論や運動論のレベルにとどまってしまう 27。こうした現状を市民自らが問題視し、地域、ひいては地域コミュニティを取り巻くアクターから行政全体を動かす仕組みづくりを提起することも住民自治の一部なのかもしれない。 翻って、地域自治の主人公たる市民が一人でも多く地域活動に関われるような環境を作ることも行政の課題の1つである。公共性の条件の一つとして、「人々のいだく価値が互いに異質なものであること」があげられるように 28、地域活動への参加者の多様性は重要である。そのためには市民への啓発をどのように行うのかも重要であるが 29、同時に市民が活動に参加するため

22 平成 23年度上京区運営方針(平成 25年3月2日最終閲覧)  http://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/cmsfiles/contents/0000049/49835/23unei.pdf23 今川晃「政策の管理と価値―地方分権と市民をめぐる一断面―」『季刊行政管理研究』(行政管理研究センター)No.125,1999年3月, 26ページ。

24 佐川公也・山谷清志「『地域力再生』政策の研究と実践―政策学、行政学、評価学―」真山達志・今川晃・井口貢編著『地域力再生の政策学―京都モデルの構築に向けて―』ミネルヴァ書房,2010年,134ページ。

25 真山達志「現代自治の現状と課題」真山達志編著『ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス―』ミネルヴァ書房,2012年,7ページ。26 今川晃「ガバメントを創造すること―行政統制における制度設計の政策学―」『季刊行政管理研究』(行政管理研究センター)No.125,

2009年3月,1-2ページ。27 佐川・山谷、前掲書、121ページ。28 斉藤純一『公共性』岩波書店,2000年,5ページ。29 今川晃「地方自治組織と一人ひとりの市民、NPO、行政―地域自治をどうデザインするか―」『地方自治職員研修』(公職研)第 42巻通巻 588号,2009年6月,16ページ。

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の時間をいかに確保するかも重要である。公共的空間へのアクセスを左右する資源の1つに自由時間があるが、仕事と家事の「二重負担」を課せられるなど、現代人にとって「時間の貧困(time-poverty)」は切実な問題となっている 30。たとえば、小川有美は毎日深夜に仕事から帰宅していてはボランティアに参加できないことをあげ、時間的な分権化が必要だと述べている31。仕事と家事の両立がワーク・ライフ・バランスだと誤解されている場合もあるが、こうした公共的活動への参加が可能になってはじめて真のワーク・ライフ・バランスが実現されるのではないだろうか。ワークシェアリングはその手段の一つであり、それはこうした住民自治の視点からも好ましいものである。「医者の不養生」と批判されないためにも、行政はその職員の働き方を見直す時期に差し掛かっているのかもしれない。 1970年代にアメリカで新行政学運動(New Public Administration Movement)を主導した行政学者のフレデリクソン(H. G. Fredrickson)は、正義と博愛は節約と能率と同じように重要であり、それらによって行政の仕事は高貴なものとなると述べた。このことを財政難に苦しむ現代行政の課題に対する切り口とし、自治体職員のミッションは経費削減ではなく「世直し・人助け」に邁進することにあると説く研究者もいる 32。こうした理想の職員像、ひいてはローカル・ガバメントのあり方を変えていくのは住民自治を置いて他にない。本稿の調査・分析で明らかになったことをふまえて政策を立案・実施するため、またよりよい住民自治を実現するためにも、こうした課題の解決は今後ますます重要になると考えられるが、これらについては機会を改めて論じることにしたい。

 本稿は筆者の個人的な見解に基づくものであり、京都市とは一切関係なく、またその公式な見解ではないことには注意されたい。

30 斎藤、前掲書、10ページ。31 西尾・金・小林、前掲書、236ページ。32 今里滋「ソーシャル・エンタープライズとしての自治体へ」『地方自治職員研修』(公職研)第 41巻 No.8,2008年 8月, 10ページ。

今川晃「政策の管理と価値―地方分権と市民をめぐる一断面―」

『季刊行政管理研究』(行政管理研究センター)No.125,1999

年3月,23-30ページ。

今川晃「私たちが『まちづくり』の主人公」佐藤竺監修,今川晃・

馬場健編著『市民のための地方自治入門』改訂版,実務教育

出版,2002年,2-13ページ。

今川晃「ガバメントを創造すること―行政統制における制度設

計の政策学―」『季刊行政管理研究』(行政管理研究センター)

No.125,2009年3月,1-2ページ。

今川晃「地方自治組織と一人ひとりの市民、NPO、行政―地域

自治をどうデザインするか―」『地方自治職員研修』(公職研)

第 42巻 No.8,2009年6月,14-16ページ。

今里滋「ソーシャル・エンタープライズとしての自治体へ」『地

方自治職員研修』(公職研)第 41巻No.8,2008年8月,9-10ペー

ジ。

斉藤純一『公共性』岩波書店,2000年。

佐川公也・山谷清志「『地域力再生』政策の研究と実践―政策学、

行政学、評価学―」真山達志・今川晃・井口貢編著『地域力

再生の政策学―京都モデルの構築に向けて―』ミネルヴァ書

房,2010年,119-140ページ。

西尾勝・金泰昌・小林正弥編『公共哲学(11)自治から考える

公共性』東京大学出版会,2004年。

真山達志「現代自治の現状と課題」真山達志編著『ローカル・

ガバメント論―地方行政のルネサンス―』ミネルヴァ書房,

2012年,1-13ページ。

山脇直司『グローカル公共哲学―「活私開公」のヴィジョンの

ために―』東京大学出版会,2008年。