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[特集] 特別インタビュー 銘木物語 鳥海山と埋もれ木 発行日/ 2018 年 2 月 1 日 企画・編集/鳥海山木育推進センター 〒015-0076 秋田県由利本荘市東町 89 TEL 0184-74-6177 構成協力/株式会社 鳥海トライブ デザイン・印刷/クロスフェイド Special Thanks /取材、制作にご協力いただいた皆様 ※取材、撮影など本誌作成にご協力いただいた皆様に厚 く御礼申し上げます。 ※掲載されている情報は平成 30 年 1 月 31 日現在のもの です。発行後の情報変更につきましてはご容赦下さい。 ※表紙のおもちゃ:木楽工房、ナカムラ工房、木心幢 ※無断転載禁止 佐々木 美喜子 (あきたグッド・トイ委員会 代表)

木のぬくもりに触れること。 - CHOKAI TRIBEchokaitribe.jp/mokuiku/wp-content/uploads/2018/02/Mokumo-Vol2.pdf · 銘木物語銘木物語物 鳥海山と埋もれ木 発行日/2018年2月1日

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木のぬくもりに触れること。

木の優しさに教わること。

[特集]]特別インタビュー

銘木物語銘木物語物鳥海山と埋もれ木

発行日/ 2018 年 2 月 1日企画・編集/鳥海山木育推進センター      〒015-0076 秋田県由利本荘市東町 89      TEL 0184-74-6177構成・協力/株式会社 鳥海トライブデザイン・印刷/クロスフェイドSpecial Thanks /取材、制作にご協力いただいた皆様

※取材、撮影など本誌作成にご協力いただいた皆様に厚 く御礼申し上げます。※掲載されている情報は平成 30 年 1月 31 日現在のもの です。発行後の情報変更につきましてはご容赦下さい。※表紙のおもちゃ:木楽工房、ナカムラ工房、木心幢※無断転載禁止

[特集]]特別インタビ特佐々木 美喜子(あきたグッド・トイ委員会 代表)

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鳥海山のふもとで木育を考えるフリーマガジン

MokuMovol.22018.2

鳥海山の麓で

「木育」を育てる意味

02 鳥海山の麓で「木育」を育てる意味

08 銘木物語

組子作家と行く由利本荘まち歩き

鳥海山と埋もれ木

04 特別インタビュー (あきたグッド・トイ委員会 代表)(佐々木 美喜子

10 ちょっと一杯、もう一杯

木工職人インタビュー12 生まれくるこどもたちに。

木の仕事の現場から 有限会社 猪股林業14

[ モクモ ]木という一つのテーマから浮かび上がる街の文化や歴史を目

の当たりにし、自分たちの生まれ育った土地の新たな魅力に

気づく。

「木育」とは単に木の製品の良さや特徴を知ることではなく、

その街それぞれの木にまつわるエピソードから新たな発見を

し、元々あったはずの物語を掘り起こし、色を与え、言葉を

与え、現代に蘇らせる事ができる、まさにタイムマシーンの

ような役割を持つ、非常に多様性に富んだ教育テーマです。

鳥海山の麓の街に生まれた私たちにとって、世界中どこにも

ない自分たちだけのストーリーの世界の中心で、過去を知り、

現在を感じ、未来に想いを馳せる。それこそ「木育」の本質

ではないかと考えずにはいられません。

近年、日本で生れたばかりの「木育」を、鳥海の恵と共に大

切に育てていきたいと思います。

鳥海山木育推進センター 

代表 

松本

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0405

由利本荘市における木育の拠点、「鳥海

木のおもちゃ美術館」の開館が決ま

り、木育がこの街の一つのシンボルと

なることは、私たちにとって大変大き

な喜びです。その為にご尽力されたす

べての方々、応援し共に知恵を出し合

い、支えてくださったすべての方々に

深い感謝を申し上げます。

国指定有形文化財である旧鮎川小学校

のリノベーション、由利高原鉄道との

連携、市民参加型のおもちゃ学芸員制

度、全てが、「よりよい街の未来づくり」

という私たちの大きな目標に真っ直ぐ

に突き進む要素に溢れ、由利本荘市の

みならず、秋田県が全国に誇るべき新

たな物語の始まりと言えるかもしれま

せん。

今回はその新たな幕開けに際し、東京

と由利本荘を結び、由利本荘と全県の

木工業先進地域とを繋ぐという、もっ

とも重要な橋渡し的役を担う運命の女

神様、あきたグッド・トイ委員会代表

佐々木美喜子さんにお話を伺いまし

た。

特別インタビュー特別インタビ

おもちゃが繋ぐ笑顔のリレー

(あきたグッド・トイ委員会 代表)(あきたグッド・トイ委員会 代表)(あきたグッド・トイ委員会 代表)佐々木 美喜子

佐々木 美喜子あきたグッド・トイ委員会 代表手づくりおもちゃ工房「リップル」代表おもちゃコンサルタント・マスターNPO法人 由利本荘木育推進協会 副理事長

ささき・みきこ

特別インタビュー「佐々木 美喜子(あきたグッド・トイ委員会 代表)」

松本 

佐々木さんはどのようなきっか

けでおもちゃと関わるようになったん

でしょうか。

佐々木 

幼稚園・保育園に勤務してい

た頃から、

子どもにとっての「遊び」

の大切さを感じていました。「遊び」

の中で子どもは、他者との関わりや、

様々な考え方、状況判断など、大切な

ことを学んでいきます。「遊び」のツー

ルの一つである「おもちゃ」は種類も

その遊び方も様々。何を選び、どのよ

うに遊ぶかは千差万別です。

芸術と遊

び創造協会が認定する「おもちゃコン

サルタント」という資格は、赤ちゃん

の成長・発達とおもちゃの関わりから、

お年寄りのリハビリ、ヒーリングおも

ちゃまで、幅広い視点でおもちゃを捉

える資格です。優良なおもちゃや、遊

びをバランスよく与えることのできる

遊びの栄養士”

とも言われています。

自分が考える、子どもにとっての「遊

び」の答えの一つとして、幼稚園・保

育園を退職後、おもちゃコンサルタン

トを取得しました。

松本 

県内各地で開催されている「木

育キャラバン」でも佐々木さんが行う

手作りおもちゃワークショップはいつ

もたくさんの子どもたちで賑わってい

ますね。

松本学(以下「松本」)佐々木さんとは、

これまでも秋田で木育活動をするなか

で様々な場面でお会いする機会があり

ました。まずは、佐々木さんが代表を

務める「あきたグッド・トイ委員会」

について教えてください。

佐々木美喜子さん(以下「佐々木」)

「あきたグッド・トイ委員会」は平成

27年に設立されました。 「認定NPO法

人芸術と遊び創造協会(東京)」の全

国に約20ある支部の一つで、「おもちゃ

コンサルタント」ら9名で構成されて

います。講座の開催や子育て支援関係

の研修での講話、おもちゃづくりの

ワークショップなど、

おもちゃと遊び

に関する様々な取り組みに関わらせて

いただいています。

遊びの中で子どもは、他

者との関わりや、様々な

考え方、状況判断など、

生きる上で大切なことを

学んでいきます。

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0607

松本 学鳥海山木育推進センター代表

(株)鳥海トライブ 代表取締役

まつもと・まなぶ

特別インタビュー「佐々木 美喜子(あきたグッド・トイ委員会 代表)」

いつも子どもと一緒に楽しく遊んでい

るから、いつも明るくお元気なんです

ね。

佐々木 

子どもに教えるという形を

とっていますが、実際は一緒に楽しく

遊んでいると言ってもいいかもしれま

せん(笑)。子どもは遊びの天才です。

どんどん新しい遊び方を編み出しま

す。自分で作ったおもちゃにアレンジ

を加えたり、自由に楽しく遊ぶ子ども

たちからは、いつもたくさんの元気と

笑顔をもらっています。

松本 

今年の7月にはいよいよ由利本

荘市に「鳥海山

木のおもちゃ美術館」

がオープンします。お立場上、ますま

す忙しくなりそうですね。

佐々木 

幼稚園・保育園を退職して、

おもちゃと木育に関わる活動を始めて

今年でちょうど10年になります。特に

意識するわけではありませんが、そん

な節目の年に秋田県に全国で4番目の

「おもちゃ美術館」が誕生することは、

自分の活動を振り返っても感慨深いも

のがあります。

秋田の木育の拠点として「遊び」の大

切さを伝えていけるよう、微力ながら、

自分の知識や経験を活かして協力して

いきたいと思います。

そして、開館後は赤ちゃんからおじい

ちゃんおばあちゃんまで、館内がたく

人生の大半を保育教育者として過ご

し、よりよい教育とは?という自問自

答と、けっして尽きる事の無いあくな

き探究心が見つけた新たな学びの場

所、形、精神。

かたや街づくりの基本は子供達の教育

からという信念のもとに活動し、かた

や由利本荘市の現状と特性と可能性を

懸命にやっていかなければならない」

なんとも頼もしい運命の女神様降臨の

エピソードは、由利本荘市にとっても、

秋田県にとっても、大きな希望への道

筋を照らす光となる。

信じゼロから木育普及活動を始めた小

さな会社。

それぞれの転機から3年、あきたグッ

ド・トイ委員会は秋田市を中心に様々

な活動を通じ、その想いを、その意義

を広め仲間を増やし、秋田県全体に活

動の場を広げる中、行政を巻き込み、

街の木工文化を掘り起こし、旧鮎川小

学校という歴史的文化財のリノベー

ション事業にまで発展した由利本荘市

との必然的な出会い。ある意味その一

番重要な中身の部分である木のおも

ちゃとその与え方、遊び方、まさに木

育の「育」の部分のプロデュースを担

うのが、「鳥海山

木のおもちゃ美術館」

を運営するNPOの理事であり、あき

たグッド・トイ委員会の代表である

佐々木さんの大きな仕事となる。

始終ニコニコと笑顔の絶えない彼女の

瞳の奥を除くと、冷静でいて熱い熱い

青色の炎が見える

「秋田市、由利本荘市だと言ってられ

ない、全ての垣根を超えて全員で一生

子どもは遊びの天才です。どんどん新しい遊び方を

編み出します。自分で作ったおもちゃにアレンジを

加えたり、自由に遊ぶ子どもたちからは、いつもた

くさんの元気と笑顔をもらっています。

秋田の木育の拠点として

「遊び」の大切さを伝え

ていく

さんの笑顔で溢れることを想像すると

楽しみでなりません。

佐々木さんのワークショップは子どもたちの笑顔で溢れる

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0809

「象潟」は古くから歌に詠まれる奥羽屈指の景勝地で

あった。その美しさはかの松尾芭蕉に「松島は笑ふ

が如く、象潟はうらむがごとし」と表され、文人墨

客のこぞって訪れた潟湖であった。その風光明媚な

風景を造ったのは鳥海山の山体崩壊であり、崩壊し

た土砂により地中奥深くに埋もれた樹木が「埋もれ

木」となった。

銘木物語「鳥海山と埋もれ木」

鳥海山と埋もれ木

銘木物語「鳥海山と埋もれ木」

銘木物語

にかほ市象潟郷土資料館

現在の象潟といえば、田

んぼの中に点々と島が浮

かぶ九十九島の風景が思

い浮かびます。この風景

が出来上がるまでには

様々な地球のドラマが

あったと想像できますが、

壮大で劇的な物語の一部

をかいつまんで紹介しま

す。

まずは紀元前466年、

およそ2500年前の縄

文時代におこった鳥海山

の「山体崩壊」です。山

の北西部(まさににかほ

市側)が崩壊したことに

より、その岩なだれは日

本海まで達しました。こ

の時にできた流れ山とい

う地形が現在見られる

「島」となりました。やが

て浅瀬に砂嘴が発達し、

海と隔てられ、一帯は島

が点在する潟となりまし

た。

次のターニングポイント

は1804年、およそ2

00年前の江戸後期に起

こった「象潟地震」です。

この地震により土地が隆

起し、象潟は一夜にして

陸になりました。

だいぶかいつまんでいま

すが、このような土地が

持つダイナミックなドラ

マと生み出された景色に

より、古くから人々を惹

きつけ、芭蕉をはじめと

する多くの旅人が目指す

景勝地となりました。

そしてこの地球のドラマ

が生み出した副産物の一

つが「埋もれ木」です。

「埋もれ木」

とは「山体崩

壊」の岩なだれの下敷き

になり、地中に埋もれた

樹木のことです。釜ヶ台

地域では江戸時代から埋

もれ木を発掘していたこ

とがわかっており、「神代

木」として珍重されてき

ました。

また近年、日本海東北自

動車道の象潟ICの工事

現場から、ケヤキ、クリ、

コナラ類など落葉広葉樹

を主とした大量の埋もれ

木が出土しました。

地中に埋もれていた「埋

もれ木」は当時の出来事

を現代に伝える、まさに

タイムカプセルです。分

析することで、山体崩壊

当時(縄文時代)のこの

地の森林分布や、岩なだ

れの規模や状況を知るこ

とができます。

「埋もれ木」は長い間地中

に埋もれていたため、圧

力により変成し、半ば炭

化した状態で、黒く固い

という特徴があり、貴重

な資料であるとともに伝

統工芸品の材料としても

珍重されてきました。こ

の地域で発展した組子細

工などの木工芸品でも黒

のアクセントとして使わ

れいます。

「埋もれ木」が伝えるドラ

マを知ることは、その見

た目の美しさだけではな

く、そこにある土地の記

憶を感じることに繋がる

のだと実感します。

ここでは語り尽くせない

「象潟」と「埋もれ木」の

物語は、「にかほ市象潟郷

土資料館」でより詳しくわ

かりやすく知ることができ

ます。

ぜひ「埋もれ木」の魅力に

触れてみて下さい。

にかほ市象潟町狐森 31-1☎ 0184-43-2005営業時間:9:00 ~ 17:00休館日:月曜日

江戸時代の楔が入った埋もれ木埋もれ木の特色を活かした木工芸品

鳥海山がもたらす大地のドラマ

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1011

佐藤 咲夫 さとう・さきお

(※)森の名手・名人

工房 咲 代表(由利本荘市石脇)秋田県工芸家協会作品展工芸大賞6回受賞秋田県知事賞16回受賞秋田県芸術選奨 受賞現代の名工森の名人

の質、社会貢献的役割や後

身への伝承活動なども審査

の対象になったはずで、そ

こにはやはり一人の人間と

しての成熟、という本質が

評価されたといえる。

「俺が本当に良かったと思

うことは、今の今まで自分

のやりたいことをやりたい

ようにやってこれたこと

だ。それをやらせてくれた

女房や周りの人たちに本当

なぎなた茸みたいなもん

だ。松茸のような立派なも

のを持たなかった俺という

男の運命は、おのずと手先

の技をひたすら磨くことに

なったってわけだ」

えっ、俺のアレ?紫なぎな

た茸?

って下ネタかよ!

に感謝している」

自分で採ったキノコ料理を

つまみに大好きな日本酒を

身体に流し込み、まるでそ

の酒の着地音が言葉になっ

て聞こえたような心からの

想い。

私達はいつも探している。

この街の中にすでに在る答

えを。

この街で、好きなことを好

きなように好きなだけやり

続け生きていく。

それを体現するこの街の大

先輩が口にしたのは、自分

への賛辞ではなく周りへの

感謝だった。

一応、本人の見解を聞いて

みた。なぜ現代の名工にた

どり着くことが出来たの

か?

「俺のアレは例えるなら紫

この記事を書こうとする

数週間前に、佐藤咲夫氏

の「現代の名工(卓越し

た技能者)」受賞が決まり、

今回の取材会場となった

「酔処

和さ美(わさび)」

での取材は自然と彼の祝

賀会となった。無論「和

さ美」のママさんが作る

料理の至る所に、今朝採

れたての咲夫キノコが散

りばめられた。やはり写

真より実物、実物より調

理され、味覚に届けられる

佐藤咲夫氏に秋に会うと、決まってこちらから頼ん

でもいないのにボロボロのガラケーをピコピコいじ

りながら、もはや懐かしい画質のいわゆる写メなの

だが、今朝採って今朝撮った、採りたて撮りたての

キノコの写真を、その捕獲ストーリーとともに見せ

られる。いや、見せていただける。

そう、彼はキノコを愛している。キノコを愛しすぎ

て森の名人(※

)にも選出されてしまう、自他共に

認めるキノコ愛好家である。

のは大変ありがたく、立派

な高級朝摘みキノコの料理

は言わずもがな贅沢の極み

である。

佐藤咲夫氏のこれまでの作

品を知り、その作品が創ら

れた工程や発想の特異さを

想像できれば、特別驚く事

もない今回の受賞に、

「えっ!まだ現代の名工

じゃなかったの?」という

別の驚きがあったぐらい。

勿論その活動の年数や活動

組子職人と行く由利本荘まち歩き「ちょっと一杯、もう一杯」

森の名人の本日の収穫の一部

暖簾をくぐると海の幸と山の幸がお出迎え

酔処 和さ美由利本荘市谷地町1☎ 0184-24-6028営業時間:18:00 ~ 25:00定休日:不定休

ちょっと一杯、もう一杯組子職人と行く由利本荘まち歩き

(公社)国土緑化推進機構では、「もりのくに・にっぽん運動」のリーディングプロジェクトとして、森に関わる樵、炭焼き、木地師、大工、椎茸生産等の生業において、優れた技を極め、他の模範となっている達人を「森の名手・名人」として、毎年選定を行っている。佐藤咲夫さんは平成 26 年度に加工部門で選定されました。

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1213

由利本荘市が行った「ウッドスタート宣言」の取り

組みの一つとして、市内で生まれた子どもに地元の

職人が地元の木で作った「木のおもちゃ」を贈る「誕

生祝い品」制度を平成30年度から開始します。

贈呈される2種類のおもちゃを製作した「木楽工房

和田良司さん」と「木工舎つきのわ

岡本雄さん」に

話を伺いました。

和田 良司 木楽工房 代表(由利本荘市小人町)1960年 旧本荘市生まれ14歳でギターを自作由利工業高校卒業後、大工の道へ2000年頃から手作り木工品をクラフト市などに出品2009年「木楽工房」として本格的に製作活動開始現在は本業の大工を続ける傍ら、木工品の製作を行うNPO法人 由利本荘木育推進協会 副理事長

わだ・りょうじ岡本 雄木工舎つきのわ 代表(由利本荘市大内)1984 秋田県美郷町生まれ2007 大阪芸術大学デザイン学科卒業    岐阜県高山市の家具工場に勤務2012 アフリカンドラムに出会い、ギニア共和国に渡航2014 岩手県の木工所に勤務2015 秋田県由利本荘市に移り、独立

おかもと・ゆう

木工職人インタビュー「生まれくるこどもたちへ。」

生まれくるこどもたちへ。

【木工職人インタビュー】

和田良司×岡本雄×太田賢和田良木楽工房

岡本雄×木工舎つきのわ

太田賢鳥海山木育推進センター

太田賢(以下「太田」)ま

ず製作したおもちゃにつ

いて教えていただけます

か?

和田良司さん(以下「和

田」)米どころ

由利本荘を

イメージしたおむすび型

の積み木で名前は「おむ

すびころりん」です。さ

らに鳥海山をイメージし

た形でもあります。秋田

杉本来の木目と色で、パ

ズルのように遊ぶもよし、

ままごとしてもよし、六

角形の枠で音を出したり、

遊び方は千差万別です。

岡本雄さん(以下「岡本」)

市の木である「ケヤキ」

を使用して、市の鳥であ

る「キジ」をイメージし

ました。名前は「よちよ

ちとりっこ

キジ」です。

角度を付けて取り付けた

車輪でよちよち歩きを表

現、胴体には小豆を入れ

てあるので、ベビーラト

ルとしても遊べます。

太田 

製作の上でのご苦

労や込めた思いなどあり

ましたら教えてください。

和田 

自分が普段の仕事

でもよく加工している秋

田杉を使用していますが、

今回のような加工では柔

らかくて難しいんです。

杉の赤身、白身と木目の

美しさを活かせるように

工夫しています。自分は

トロの部分(境目)が好

きだったりします(笑)。

岡本 「とり=キジ」のお

もちゃを作りたいという

イメージはありましたが、

市産のケヤキを調達する

難しさがありました。こ

のおもちゃについては、

一本の木から一年分を製

作したいと考えています。

一つの木から生まれたお

もちゃを、同じ年に生ま

れた子どもたちが持つと

いう絆のようなものも込

めたいと思っています。

生まれてくる子どもた

ちが触れて遊ぶことを

イメージして作られた

二つの作品。どちらも

作り手の思いと愛情が

込められた優しく美し

い作品です。

誕生祝い品は由利本荘市で

平成30年4月2日以降に生

まれた子どもに贈呈されま

す。二つの作品から一つをお

選びいただきます。

おむすびころりん(右)よちよちとりっこ キジ(左)

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「木育」の素晴らしいところの一つは、木を知ろうとする時に、

森の成り立ちや山の歴史から木の本質を探ろうとする点だ。自

然とのかかわり合い、国と、街と、人々との関わり合いを知る

ことによって得られる木のありのままの情報は、上辺だけでは

ない、木の未来にとって本当に必要な対策や考え方を導き出し、

それがしっかりと自分たちの問題として捉えられる所にある。

今回はまさにこれがなければ木製品など存在しない、森から木

を切り出すのが仕事、有限会社猪股林業の代表取締役

猪股政

子さんから様々なお話を聞くことが出来た。

木を知ろうとする時、街

の様々な現状に触れ、そ

れらが全て自分たちの問

題である事に気づく。

1415

有限会社 猪股林業由利本荘市山内字上長田10-3☎ 0184-27-2578http://rinmaruya.xsrv.jp

有限会社 猪股林業

森と

木と

人と

【木の仕事の現場から】

有限会社

猪股林業は代々

林業に携わってきた家系

で、昭和60年に法人化

され、民有林の山の手入

れ・林地購買・素材生産

など山と木に関する業務

を行っている。

林野庁は

2021年の日

本の木材自給率を50%以

上にすることを目標に掲

げており、近年は少しず

つ上昇し、2016年は

34.8%だった。

近年、映画などの題材に

も難しさをはらむ。

「品質の良い木材を伐り出

すためには定期的な下刈、

間伐などの山主の手入れ

が必要不可欠です。

最近の山主は世代交代が

進み、山に興味がなく、

代々所有している山の所

在すらもわからないとい

う相談も多くなってきて

います。最終的に品質の

良い木材を生産していく

ためには山主の山や木に

対する前向きな意識の変

革も求められます。しか

し、経済的な面で考える

と費用をかけてまで手入

れしても、その金銭的な

恩恵を受けるのは何世代

か先の子孫の話になって

しまうので、なかなか厳

しいのが現状です」

7割を超える森林率を誇

る由利本荘市は昨年2月

に「ウッドスタート宣言」

を行った。

これは、「木」

を真ん中に置いた子育て・

子育ち環境を整備し、子

どもをはじめとする全て

の人たちが、木の温もり

を感じながら、楽しく豊

かに暮らしを送ることが

できるようにしていく取

り組みだ。

「木育」自体は産業全体に

とってはごく小さな取り

組みかもしれない。しか

し、「木」を真ん中に置く

暮らしを始めることが、

業・林産業の未来を明る

く照らすことに繋がって

いくに違いない。

もなり「林業」という職

業が注目されたことも

あったが、現実は厳しい

という。

「自然を相手にする仕事な

ので、常に自分の力で考

え、判断する必要がある。

それが面白いところで、

やり甲斐でもある。でも

求人してもなかなか若い

従業員が集まらないし、

定着率も悪い。山の中で

仕事をする以上、3Kど

ころじゃなく厳しい現場

もある。人材を育成して

いくのが難しい状況です」

日本の森林は空前の伐り

どきを迎えていると言わ

れている。戦後、植林さ

れた人工林、特にスギが

伐りどきなのだ。

確かに秋田県全体を見回

しても、里山は杉の人工

林に覆われている。

しかし、林業の数十年に

およぶ生産サイクルは、

資源としても資産として

この街の林業の未来は、

即ちこの街の木育の未

来である。