Upload
others
View
3
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
― 記者発表資料 ―
令 和 2 年 4 月 1 6 日
日 本 下 水 道 事 業 団
日本下水道事業団(JS)技術評価委員会
「アンモニア計を利用した送風量制御技術の評価」を答申
- 新たな自動制御により曝気風量を削減! -
令和 2 年 4 月 13 日、「アンモニア計を利用した送風量制御技術の評価」について、古米
弘明 技術評価委員会会長(東京大学大学院 教授)より辻原俊博 日本下水道事業団(JS)
理事長に答申されました。
「アンモニア計を利用した送風量制御技術の評価」は、平成 31 年 3 月に JS 理事長より技
術評価委員会へ諮問され、同委員会に設置された「アンモニア計を利用した送風量制御技
術専門委員会」(委員長:長岡裕 東京都市大学教授)において、約 1 年間の詳細な検討が
行なわれてきました。本検討結果が「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術の評価に
関する報告書」として取りまとめられ、この度、答申されたものです。
本技術評価により、下水処理場の反応タンクにおける曝気風量の新たな自動制御技術で
ある「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術」について、実規模での実証実験結果等に
基づき効果や機能・性能が明確にされ、同時に、設計・運転管理手法が提案されました。JS
では、本技術評価結果を基に、新たな曝気風量制御技術の導入促進を進め、下水処理場の
省エネ化や処理水質安定化に貢献していきます。
「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術(アンモニア制御技術)」は、活性汚泥法の
反応タンクにおける曝気風量を自動で制御する「曝気風量制御技術」の一種で、反応タンク
内等に「アンモニア性窒素濃度計(アンモニア計)」を設置し、これを含む計測データを利
用して曝気風量を自動調整するものです。これにより、反応タンクの流入負荷量(水量お
よび水質)の変動に対して曝気風量を適正化することが可能となり、曝気風量の削減や処
理水質の安定化といった効果が期待できます。
JS では、平成 25 年度以降、民間企業との共同研究や国土交通省の B-DASH プロジェ
クトにより、複数のアンモニア制御技術の実証実験を行ってきました。本技術評価では、
JS がこれまでに実施した 4 種のアンモニア制御技術の実証実験結果等を使用し、技術の分
類、原理、効果および目的、適用対象、構成、機能・性能、経済性といった特徴に加えて、
計画・設計手法、運転管理手法について最新の知見を取り纏めています。
※本件を含めた JS のこれまでの技術評価報告書(答申)は、JS の HP にてご覧頂けます。
https://www.jswa.go.jp/g/g01/g4g/g4g.html
(問い合わせ先)
技術戦略部 技術開発企画課長 糸川浩紀
TEL: 03-6361-7844 FAX: 03-3359-6380 E-mail: [email protected]
1
「アンモニア計を利⽤した送⾵量制御技術の評価」
評価のポイント
⽇本下⽔道事業団(JS) 技術戦略部
1.評価のスキーム
(1) 評価の経緯
下⽔処理場における省エネ化の必要性、⽔処理施設における送⾵機動⼒削減の必要性
従来の⾃動制御技術(送気倍率⼀定制御、DO ⼀定制御等)の課題
イオン電極式アンモニア計の実⽤化、これを利⽤した曝気⾵量制御技術の実⽤化
(2) 評価の⽬的
実証実験結果等の最新の技術的知⾒を統合的に整理
技術の特徴、機能・性能、導⼊効果等の明確化
技術の導⼊検討⼿法、設計・運転管理⼿法の明確化
(3) 評価対象技術
定義︓アンモニア計を利⽤した曝気⾵量制御技術(アンモニア制御技術) =「活性汚泥法の反応タンク内等におけるアンモニア性窒素(NH4-N)濃度を 含むセンサー計測値に基づき、反応タンクの曝気⾵量を⾃動で制御する技術」
※本定義に合致する技術全般を対象とするが、評価の中では JS が実証した 4 種類の個別技術の実証実験 結果等を使⽤(ただし個別技術の評価を⾏なったものではない)。
※本評価の諮問・答申は「アンモニア計を利⽤した送⾵量制御技術」について⾏われたものであるが、審議の 過程で対象技術名称が「〜を利⽤した曝気⾵量制御技術」へと⾒直されたため、評価報告書では 後者の名称を使⽤。
適⽤対象︓ ①対象施設︓ 下⽔処理場の⽔処理施設(反応タンク) ②⽔処理⽅法︓ 硝化を⾏う活性汚泥法 (硝化促進運転を⾏う標準活性汚泥法/⽣物学的窒素・リン除去法) ③対象規模︓ 概ね 1 万 m3/⽇以上(導⼊対象系列等の処理⽔量として)
2
施設・設備の範囲︓センサー類により計測を⾏ない、⽬標⾵量を演算・出⼒する部分 (付図1、付表 1 参照) ・ 対象範囲内︓ センサー類、コントローラ、その他電気設備(計装盤、監視制御装置等) ・ 対象範囲外︓ 制御の出⼒を受けて動作する設備(⾵量調節弁、送⾵機等)
2.主要な評価効果
(1) 技術の原理(付図2参照)
曝気⾵量制御技術全般の根本的な動作原理︓反応タンクにおける⽣物処理過程での酸素要求量の時間変化に対して、酸素供給速度を追随させる。 ⇒アンモニア制御技術では、NH4-N 濃度を指標として酸素供給速度を変化。その⽅法は個別技術により様々だが、DO ⼀定制御等と⽐較して酸素要求量への追随性を向上。
(2) 技術の効果(付図3参照)
曝気⾵量の適正化による直接的な効果︓①曝気⾵量の削減、②処理⽔の NH4-N 濃度の安定化。
曝気⾵量削減による間接的な効果︓送⾵機動⼒の削減(省エネ化)、電⼒費や温室 効果ガス排出量の削減。
処理⽔ NH4-N 濃度安定化による間接的な効果︓処理⽔の全窒素(T-N)濃度の 安定化、BOD 上昇のリスク低減(硝化反応に起因する N-BOD 発現の抑制)。
(3) 技術の機能・性能
曝気⾵量の削減︓従来の DO ⼀定制御と⽐較して「10%以上」の削減が期待できる。 ※ただし、硝化性能の向上を優先する場合には曝気⾵量が増加することもある。
処理⽔質の安定化︓実証実験実績において、処理⽔の NH4-N 濃度の平均値および 標準偏差がいずれも「1 mg/L 未満」。
(4) 経済性
導⼊コスト︓建設費(アンモニア計等の計測器の設置費、コントローラ等の改造費)、 運⽤費(アンモニア計等の計測器の維持管理費)。
削減コスト︓送⾵機の運転に係る電⼒費。
経済性︓DO ⼀定制御に対して経済的なメリットが出る⽔量規模=1.5 万〜3 万 m3/⽇(曝気⾵量削減率=10〜20%での試算結果)。
3
付図1 アンモニア制御技術のイメージ (⾚⾊は本技術の典型的な構成設備を⽰す)
付表1 アンモニア制御技術の構成設備の概要
コントローラ
AF
NH4計反応タンク流⼊⽔
反応タンク最終
沈殿池
送⾵機⾵量調節弁⾵量計
その他センサー等
散気装置
計装盤
監視制御装置
区分 主たる機能 新設/既設等の別
アンモニア計 NH4-N濃度を計測する。 新設
その他計測器 その他、制御で使⽤する計測を⾏なう(個別技術により異なる)。
新設/既設※計測器により異なる
計測信号に基づき制御の演算を⾏ない要求⾵量等を出⼒する。
原則として新設※既設コントローラも併⽤または既設へ組込みむこともある
計測器への電源供給、計測信号の取込み等を⾏なう。
制御の状況を含めた⽔処理施設の運転状況を監視する。
既設(改造)※技術によっては不要
制御の出⼒を受け、制御対象施設(対象系列/池等)への曝気⾵量を調節する。
原則として既設※電動弁でない場合には新設
同上 既設
制御の操作対象(構成設備外)
⾵量調節弁(電動)
送⾵機※直接の操作対象とする場合
設備名称
構成設備(制御機能⾃体を担う設備)
計測器
コントローラ
構成設備(制御の動作/監視のための補助的機能を担う設備)
計装盤
監視制御装置
4
付図2 流⼊負荷量の時間変化に対する DO ⼀定制御およびアンモニア制御の動作のイメージ
流⼊負荷量
流⼊⽔量流
⼊⽔
量/負
荷量
DO⼀定制御①(⽬標DO⾼)※最⼤負荷に合せた設定
※各種制御の違いを⽰すためのイメージ図であり、反応タンクの混合特性に応じた時間遅れ等は反映していない。
※図内の⽮印は、DO⼀定制御と⽐較した場合のアンモニア制御における増減傾向を⽰す。
時間(時刻)
DO濃
度
DO⼀定制御②(⽬標DO低)※平均負荷に合せた設定
処理
⽔NH
4-N濃
度
NH4制御
NH4制御
⾵量減 ⾵量減
⾵量増 ⾵量増
NH4減NH4減
NH4増 NH4増
NH4制御の挙動【DO⼀定制御②(平均負荷ベース)との⽐較】・ 低負荷の時間帯: 曝気⾵量が低減される代りに処理⽔NH4-N濃度が上昇。・ ⾼負荷の時間帯: 曝気⾵量が増加し処理⽔NH4-N濃度が低減。
NH4制御の挙動【DO⼀定制御①(最⼤負荷ベース)との⽐較】
・ 概ね1⽇を通して、曝気⾵量が低減される代わりに処理⽔NH4-N濃度が上昇。
DO⼀定制御①
DO⼀定制御②
5
付図3 アンモニア制御技術の機能と導⼊効果の関係
NH4-N濃度計測値に基づく曝気⾵量の
⾃動調整
制御の機能 制御の効果(直接)
曝気⾵量の削減
処理⽔NH4-N濃度の安定化
送⾵機の運転動⼒/消費電⼒の削減
制御の効果(間接)
送⾵機に係る電⼒費の削減
処理⽔T-N濃度の安定化
処理⽔BOD濃度の安定化(N-BOD抑制)
曝気⾵量の適正化
電⼒削減に伴なう温室効果ガス排出量の削減
【影響因⼦】・ 送⾵系統/送⾵機構成・ 送⾵機の制御⽅法/動⼒特性
【影響因⼦】・ 処理条件・ 設備制約(散気装置等)
アンモニア計を利用した
曝気風量制御技術の評価
に関する報告書
令和2年4月
日本下水道事業団 技術評価委員会
審議の経過
平成31年 3月26日 第79回技術評価委員会
令和元年 8月23日 第1回アンモニア計を利用した
送風量制御技術専門委員会
令和2年 1月17日 第2回アンモニア計を利用した
送風量制御技術専門委員会
令和2年 3月 6日 第3回アンモニア計を利用した
送風量制御技術専門委員会
令和2年 3月26日 第81回技術評価委員会
委員の構成
(令和 2 年 3 月 26 日現在)
技術評価委員会
会 長 東京大学大学院工学系研究科附属
水環境制御研究センター教授 古米 弘明
委 員 東京都市大学工学部都市工学科教授 長岡 裕
〃 大阪大学大学院工学研究科
環境・エネルギー工学専攻教授 池 道彦
〃 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授 高岡 昌輝
〃 国土交通省水管理・国土保全局下水道部長 植松 龍二
〃 国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部長 岡本 誠一郎
〃 東京都下水道局技監 神山 守
〃 大阪市建設局長 渡瀬 誠
〃 埼玉県下水道局長 福島 英雄
〃 公益社団法人日本下水道協会常務理事 中島 義成
旧会長 京都大学名誉教授 津野 洋
アンモニア計を利用した送風量制御技術専門委員会
委員長 東京都市大学工学部都市工学課教授 長岡 裕
委 員 日本大学理工学部土木工学科教授 齋藤 利晃
〃 国土交通省水管理・国土保全局下水道部
下水道企画課長補佐 村岡 正季
〃 国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部
下水処理研究室長 田隝 淳
〃 東京都下水道局計画調整部技術開発課技術開発担当
総括課長代理 葛西 孝司
〃 福岡県建築都市部下水道課長 宇都宮 道明
目 次
(技術評価の経緯) ............................................................ 1
(技術評価の目的) ............................................................ 2
(評価対象技術) ................................................................ 2
(評価の範囲) ................................................................... 3
(技術の特徴) ................................................................... 3
(計画・設計手法) .............................................................. 9
(運転管理手法) .............................................................. 10
(今後の課題) .................................................................. 11
1
(技術評価の経緯)
下水処理場における省エネ化は、運転コスト削減や温室効果ガス排出量削減
等の見地から重要な課題である。各種活性汚泥法を使用する下水処理場では、
エネルギー消費量の 50%近くが水処理施設に由来するが、この中でも送風機の
寄与が大きく、水処理施設の省エネ化のためには送風機の運転に係る動力の低
減が有効である。
反応タンクにおける曝気風量を調整するために、水量比例制御(送気倍率一
定制御)や DO 一定制御等の自動制御技術(曝気風量制御技術)が古くから使
用されているが、曝気風量を過度に削減すると水処理機能が悪化する恐れがあ
る等の理由により安全側の制御値設定となりやすく、風量の削減効果や流入水
量・負荷量変動への対応性等の見地から課題を有している。
これに対して、日本下水道事業団(JS)では、平成 15 年度以降、新たな曝
気風量制御の技術開発に継続して取り組んでおり、特に平成 25 年度以降には、
イオン電極式のアンモニア性窒素(NH4-N)濃度計(アンモニア計)を利用し
た複数の曝気風量制御技術について、民間企業等との共同研究や下水道革新的
技術実証事業(B-DASH プロジェクト)により開発・実証を行なってきた。アン
モニア計を利用した曝気風量制御は、同計器により計測される反応タンク内等
の NH4-N 濃度を主要な指標として曝気風量を自動で調整する技術である。これ
により、反応タンクにおける重要な生物反応である硝化反応の進行状況を反映
した制御が可能となり、曝気風量の更なる削減と処理水質(NH4-N 濃度等)の
安定化を両立する運転が期待できる。
このような制御技術に対しては、上述の通り JS により複数の技術の開発・実
証が行われてきたほか、地方公共団体や民間企業による検討事例も報告されて
いるが、いずれも個別技術の実証等に留まっている。新たな制御技術の普及を
2
図るためには、複数の技術の実証結果等を統合的に整理し、技術の機能・性能や
導入効果等を明確にすることが有効と考えられる。
以上のような背景から、平成 31 年 3 月に JS 理事長より技術評価委員会へ諮
問があり、アンモニア計を利用した曝気風量制御技術の評価を行なうこととな
った。なお、本諮問は「アンモニア計を利用した送風量制御技術」について行な
われたものであるが、審議の過程で対象技術名称が「アンモニア計を利用した曝
気風量制御技術」へと変更されたことから、本報告書ではこれを技術名称として
使用する。
(技術評価の目的)
本技術評価では、JS による研究成果を中心に、複数の「アンモニア計を利用
した曝気風量制御技術」に係る 新の技術的知見を統合的に整理し、技術の特徴、
機能・性能、導入効果等を明確にすると共に、技術の導入検討手法、設計・運転
管理手法を明確にすることを目的とする。これにより、本技術の普及促進を図
り、下水処理場における省エネ化・低コスト化を推進することを目指す。
(評価対象技術)
本技術評価では、「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術」(以下、適宜「ア
ンモニア制御技術」と略記)を対象とする。
技術の性能や経済性の評価に際しては、本定義に該当する技術のうち、JS が
民間企業との共同研究等で開発・実証した 4技術の実証実験結果等を主として使
用する。
3
(評価の範囲)
アンモニア制御は、原理的に、硝化を行なう活性汚泥法の反応タンクへ汎用
的に適用可能な技術である。このうち本技術評価では、硝化促進を行なう標準
活性汚泥法および各種生物学的窒素・リン除去法を使用する下水処理場の反応
タンクを主たる適用対象とする。また、経済性の見地から、本技術の導入対象
施設(系列等)の処理水量(制御対象水量)が概ね 1 万 m3/d 以上の箇所を主た
る適用対象とする。
本技術評価で対象とする設備の範囲は、センサー類により計測を行ない、目
標とする曝気風量(目標風量)を演算し、これを風量調節弁等へ出力する機器
類とする。
(技術の特徴)
1. 技術の定義および分類
(1) 技術の定義
本技術評価では、「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術」を、「活性汚泥
法の反応タンク内等におけるアンモニア性窒素濃度を含むセンサー計測値に基
づき、反応タンクの曝気風量を自動で制御する技術」と定義する。
(2) 技術の分類
曝気風量制御技術は一般に、(a)フィードフォワード(FF)制御、(b)フィー
ドバック(FB)制御、(c)両者の組合せ(FF+FB 制御)に大別される。アンモ
ニア制御技術については、FB 制御もしくは FF+FB 制御に分類される多様な技
術が開発・実証されてきている。このうち本技術評価で使用した 4 技術は、
4
(a)NH4-ファジィ制御、(b)NH4-DO 制御、(c)NH4-FF+FB 制御のいずれか
に分類される。
2. 技術の原理
① 曝気風量制御技術の も根本的な動作原理は、反応タンクにおける生物処理
過程での酸素要求量の時間変化に対して、酸素供給速度を追随させることに
ある。
② このうちアンモニア制御技術では、反応タンク内等の NH4-N 濃度を指標と
して曝気風量を増減させることで酸素供給速度を変化させることになる。そ
の方法は個別の制御技術によって様々であるが、基本的には従来の制御方法
(水量比例制御、DO 一定制御等)と比較して、酸素要求量の時間変化に対
する追随性向上を図るものである。
③ 従来の制御方法と比較したアンモニア制御技術の曝気風量削減効果は、主と
して反応タンクに流入する有機物や窒素の負荷量が小さく酸素要求量が低
い時間帯における過剰な曝気を抑制することで得られる。一方、流入負荷量
が大きく酸素要求量が高い時間帯には、アンモニア制御技術における曝気風
量が従来の制御方法を上回ることもある。
④ アンモニア制御技術が動作する典型的な時間周期は 1 時間未満であり、活
性汚泥中の硝化細菌量を積極的にコントロールするものではない。すなわち、
硝化抑制の状態から、アンモニア制御単独で硝化促進の状態へ移行させるこ
とは、原理的に想定しない。
5
3. 技術の効果および目的
(1) アンモニア制御技術の効果
① アンモニア制御技術の一義的な機能は、NH4-N 濃度等の計測値に基づき反
応タンクの曝気風量を自動で調整し、曝気風量の適正化を図ることにある。
これにより期待できる直接的な効果として、(a)曝気風量の削減と、(b)処理
水の NH4-N 濃度の安定化の 2 点が重要である。
② 曝気風量が削減されることによる間接的な効果として、送風機の動力の削減
(省エネ化)およびこれに伴う電力費や温室効果ガス排出量の削減が期待で
きる。
③ 処理水の NH4-N 濃度が安定化されることによる間接的な効果として、処理
水の全窒素(T-N)濃度の安定化が期待できるほか、N-BOD の発現に伴う
BOD 濃度上昇のリスクを低減することができる。
④ アンモニア制御技術の導入による副次的な効果として、通常の運転管理等に
おける NH4-N 濃度計測データの活用性を挙げることができる。
(2) アンモニア制御技術の目的
アンモニア制御技術の主要な目的は、目標とする処理水質(主に NH4-N 濃度)
を満足しながら曝気風量を適正化することである。
4. 技術の適用対象
① 本技術評価では、アンモニア制御技術の主たる適用対象を以下の通りとする。
・対象施設:下水処理場の水処理施設(反応タンク)へ導入する。
・水処理方法:硝化を行なう活性汚泥法として、標準活性汚泥法(硝化促進
運転)、生物学的窒素・リン除去法(硝化促進運転を行なうものに限る)
6
を主たる対象とする。
・対象規模:導入対象施設(系列等)の処理水量(制御対象水量)として概
ね 1 万 m3/d 以上の箇所を対象とする。
② 上記の適用対象のうち、アンモニア制御の導入が特に推奨される条件として、
以下がある。
・硝化性能の改善効果が大きくなる条件:流入 NH4-N 負荷量の変動が大き
い、現状で処理水の NH4-N 濃度が不安定、等。
・曝気風量削減効果が大きくなる条件:反応タンク 1 池当りの規模(処理水
量)が大きい、現状の送気倍率が大きい、等。
5. 技術の構成
① アンモニア制御技術を構成する 低限の機器として、水質等の計測器(アン
モニア計を含む)および制御用コントローラがある。ただし、導入に当って
は、個別技術および既設の電気設備構成に応じて、監視制御設備等の改造を
要することがある。
② アンモニア制御技術の操作対象は、導入対象施設(系列等)への曝気量を調
整する風量調節弁が基本となるが、送風機構成や送風系統によっては、送風
機を直接の操作対象とすることも有り得る。
③ 本技術評価では、アンモニア計として、リアルタイムでの連続測定が可能な
イオン電極式の使用を前提とする。
6. 技術の機能・性能
(1) 曝気風量の削減
① アンモニア制御技術は、反応タンク内の酸素要求量の時間的な変動に対して、
7
酸素供給量を追随させるように機能する。その追随性は従来の DO 一定制
御より一般に高く、特に流入負荷量が小さい時間帯に対して過剰な曝気風量
が抑制されるように働く。
② アンモニア制御技術による曝気風量の削減効果は、流入負荷量の変動状況や
反応タンクの処理条件(ASRT 等)の影響を受ける他、比較対象となる曝気
風量調整/制御方法にも依存するが、実証実験の結果等によれば、従来の DO
一定制御と比較して 10%以上の削減が期待できる。
③ 活性汚泥法では、曝気風量削減と硝化性能(処理水の NH4-N 濃度等)が原
則としてトレードオフの関係にある。処理水に低濃度の NH4-N が残存する
ことを許容すると、曝気風量削減効果が向上する可能性がある。
④ 上と同一の見地から、硝化性能が不安定な状態に対してアンモニア制御によ
り処理水 NH4-N 濃度の低減を図る場合には、現状よりも曝気風量が増加す
ることがある。
(2) 処理水質の安定化
① アンモニア制御技術は、硝化が進行する条件において、処理水の NH4-N が
低濃度に維持されるように機能する。
② アンモニア制御技術には、反応タンク下流側の NH4-N 濃度に対して、その
目標濃度を制御パラメータとして持つものと持たないものがある。すなわち、
処理水の NH4-N 濃度に対応する目標 NH4-N 濃度を直接的に設定できるか
どうかは、個別の制御技術により異なる。
③ 実証実験の結果によれば、アンモニア制御技術の運用期間における処理水の
NH4-N 濃度(1 日平均水質)の実績は、平均値および標準偏差のいずれも 1
mg/L 未満である。
8
④ 処理水のNH4-N濃度が低濃度に維持されることによる間接的な効果として、
処理水の T-N 濃度や BOD 濃度の安定化が期待できる。
⑤ アンモニア制御技術には、硝化が進行しない条件を硝化促進へと移行させる
機能は期待できない。また、硝化抑制を維持する用途も原則として想定しな
い。
7. 経済性
(1) 導入コスト
① アンモニア制御技術の導入(設置)に係る建設費として、アンモニア計を含
む計測器および制御用コントローラの設置費、その他監視制御設備等の改造
費がある。
② アンモニア制御技術の運用に係るコストとして、アンモニア計を含む計測器
の維持管理に係るコストが新たに必要となる。
(2) 削減コスト
① アンモニア制御技術の導入により曝気風量が削減されると、それに応じて送
風機の運転に係る電力消費量および電力費の削減が期待できる。
② ただし、曝気風量の削減量に対する送風機動力の削減幅は、送風機の動力特
性や制御方法等、送風機および送風系統に係る条件に強く依存する。
(3) 経済性
① アンモニア制御技術の導入コストは制御ユニット(制御構成設備一式の 小
単位)の数に概ね比例する一方、1 ユニット当りの導入コストは制御対象水
量に依存しない。一方、同技術による削減コスト(送風機に係る電力費削減)
は、制御対象水量に概ね比例し、制御ユニット数には依存しない。すなわち、
9
アンモニア制御技術の経済性は制御 1 ユニット当りの対象水量に大きく依
存し、同水量が大きいほど経済性の見地からは有利となる。
② 本評価で使用した 4 技術の 小コストを使用した試算によると、DO 一定制
御に対して経済的なメリットが出る 1 ユニット当り制御対象水量は、曝気
風量削減率が 10~20%の条件で 1.5 万~3 万 m3/d 程度以上である。
(計画・設計手法)
1. 技術の導入検討
① 計画・設計段階でアンモニア制御技術の導入を検討する際には、導入効果お
よび導入コストを概算した上で、コストに見合った効果が得られることを確
認する。
② 具体の導入検討に当っては、技術の適用条件を確認した上で、導入効果およ
び導入コストを検討し、経済性等に基づき導入の判断を行なう。
2. 技術の設計検討
(1) システム構成の検討
アンモニア制御技術のシステム構成として、以下の事項について検討を行な
う。
・導入対象施設(系列等)の範囲および制御ユニット数
・制御フローおよび構成設備
(2) 個別設備の設計検討
アンモニア制御技術を構成する設備毎の設計検討を行なう。具体の内容は個
別の制御技術の設計方法に準拠するが、アンモニア制御に固有の設備であるア
10
ンモニア計および制御用コントローラについて、共通する留意事項を以下に示
す。
① 個別技術における要求性能等に基づき、使用するアンモニア計の方式・仕様、
設置場所等を検討する。
② 既設の監視制御設備に合せて制御用コントローラの実装箇所および機能等
の設計を行なう。その際には、アンモニア計の不調時等のバックアップ用制
御への切替え機能を検討する。
③ アンモニア制御技術による曝気風量の削減が送風機動力の削減に繋がるよ
う、送風機の制御方法を併せて検討することが望ましい。
(運転管理手法)
1. 水処理施設の運転管理
① アンモニア制御技術の導入施設(水処理系列等)では、同制御が適切に機能
するように水処理施設としての運転管理を行なう。
② 具体的には、硝化促進を前提とした運転管理を行なう。そのために、硝化細
菌の系内保持のための ASRT 管理を行なう。
③ 複数池の一括制御を行なう場合には、代表池と他池間で処理状況が同等とな
るよう留意する。
2. アンモニア制御技術の維持管理
① 制御で使用する計測器の維持管理を適切に行なう。アンモニア計については、
(a)センサーの定期的な校正・洗浄、(b)電極の劣化度合いに応じた電極の交換
が必要である。
② 制御のパラメータや目標値等について、運用の中で適宜見直し・更新を行な
11
う。
③ その他の制御を構成する設備についても適切に保守点検を行なう。
(今後の課題)
アンモニア制御技術に関して、今後の検討や知見の蓄積が必要な事項は以下
の通りである。
・実証や実運用に係るデータの蓄積
・複数池一括制御の方法および実績
・新規の制御方法/技術
・導入効果(曝気風量削減、処理水質等)の予測手法
・多様な硝化管理への展開(季節別運転管理等)
・アンモニア計の改良・コスト削減