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最適な手法の選択に資する バイアス補正手法の類型化 渡部哲史 (東京大学 工学系研究科) 創生D・バイアス補正WG

最適な手法の選択に資する バイアス補正手法の類型化...2014/09/05  · 最適な手法の選択に資する バイアス補正手法の類型化 渡部哲史 (東京大学

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最適な手法の選択に資する バイアス補正手法の類型化

渡部哲史 (東京大学 工学系研究科) 創生D・バイアス補正WG

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1.概要 • バイアス補正手法

– GCM出力値の統計的特徴を観測値と比較し、補正する。 – 多くの場合、ダウンスケールも同時に行われる。 – 通常、影響評価研究を行う際には必要不可欠 – 多くの手法が提案されているが、それらを体系的に整理したものは少ない

• 本発表の内容 2. バイアス補正手法の定義 3. 補正手法の分類 4. 各類型の特徴 5. 補正手法に関する課題

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ねらい

• どのようなバイアス補正手法か理解できるような分類法(名称)を提案

• 目的に応じて適切な手法を選択できる基準を提案

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2.背景(ダウンスケールとの関係) 3 力学的ダウンスケーリング(DD)

RCM

◎ 物理的 × 開発,計算コスト 結果にバイアスが残る

統計的ダウンスケーリング(SD)

GCM出力値 気温 降水量 放射↓ ・・・

影響評価研究 気温 降水量 放射↓ ・・・

統計的

GCM出力値 気温 降水量 放射↓ ・・・

影響評価研究 気温 降水量 放射↓ ・・・

バイアス補正(BC)

GCM出力値 気温 降水量 放射↓ ・・・

気温 降水量 放射↓ ・・・ 空間解像度変換

影響評価研究 気温 降水量 放射↓ ・・・

統計的

○ 変数間の関係 ✕ 詳細な観測値が必要 広域への適用が難しい

✕ 変数間の関係 ○ 開発,計算コスト

• 領域スケールでは(DD+BC)の研究が多い – 但し、DDを行うGCMの数に限りがある

• SDの研究は盛んだが、影響評価への応用例は(DD+BC)ほど多くない – SDよりもBCの方が良い (Themeßl et al., 2010)

• BCの長所は簡易、かつGCMを直接利用可能できる – 複数のGCM、アンサンブルの利用可能

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2.背景(バイアス補正手法の概要) 4

?

将来変化予測

GCM 参照データ(観測値)

30年程度

較正期間 (30 年程度)

⊿μ,⊿σ

統計的特徴 を比較

統計的特徴 を補正

①対象時間スケール:月 or 季節 or 年 : 時間単位 or 日単位 or 2段階補正(月→日)

⊿μ,⊿σ 補正後の変化量

②統計的特徴の比較方法: ・パラメトリック ・ノンパラメトリック (CDFマッピング、モーメント)

③将来変化量: ・ 保存(トレンド保存) ・ 陽に補正(→存在しない?) ・ 陰に補正

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3.補正手法の分類(1:対象時間スケール) • 統計の単位 月:多くの既往研究で採用。月と月の間のデータにジャンプが

生じる恐れあり。 年:データのジャンプは生じない。サンプル数が多い。季節毎の

将来変化を考慮できない。 季節:乾季、雨季で明確に別れる地域では有効か?

• 時間スケール 時間単位・日単位直接補正: 目的となる解像度の変数を直接補正する。

二段階補正 (月→日): 月単位の値を補正、その後月単位の値を保存したまま日単位の値を決定。 月単位の変動を重視する。 →GCMの再現性、観測値の精度を考えると大範囲での適応に妥当な仮定。

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3.補正手法の分類(2:統計的特徴の比較方法) 6

統計的特徴 を比較

GCM出力値 参照データ(観測値)

モーメント (μx1, μ’x2, μ’x3, μ’x4, ・・・) 平均 分散

統計量補正型 確率分布関数型 補正関数型

(x1, x2, x3, ・・・, xn) 値でソート

モーメント 平均 分散

(y1, y2, y3, ・・・, yn) 値でソート

(μy1, μ’y2, μ’y3, μ’y4, ・・・)

(x1, x2, x3, ・・・, xn)

(y1, y2, y3, ・・・, yn) 比較して関数を作成

A) 全区分共通

B) 区分分けあり 上位10%は別の関数等、値やパーセンタイルによって 適用する式が異なる

例:クオンタイルマッピング法 単純なものはモーメント補正型となる。多くの既往例。

適用には注意が必要

A) 観測値準拠型

B) GCM準拠型

観測値に統計量の将来変化分を上乗せ →事象のタイミングが全ての GCMで一致する。

補正する次数により異なる。例)1次モーメント(平均のみ補正)→デルタ型手法

GCM出力値(将来)の 統計量を補正

補正後の値が従う確率分布をあらかじめ仮定する

確率分布の母数を補正する (統計量補正型と同様)が 個々の値の分布は定義から求められる

GCMと観測値の確率分布のCDFから最終的に補正関数を導く場合は補正関数型

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3.補正手法の分類(補正関数型に関する注意点) 7

• 注意1:確率分布を仮定していても最終的に補正関数を作成する場合は確率分布型ではなく補正関数型

• 注意2:将来変化した後の分布と現在の分布は同一と考えても良いか?

(x1, x2, x3, ・・・, xn)

(y1, y2, y3, ・・・, yn)

GCM出力値

観測値 →

→ CDF(X)

CDF(Y)

比較して関数F(xft)を作成

将来のGCM出力値にF(xft)を適用した結果が仮定した確率分布に従うとは限らない

(x1, x2, x3, ・・・, xn)

(y1, y2, y3, ・・・, yn)

GCM出力値

観測値 比較して関数F(x)を作成

(x1, x2, x3, ・・・, xn) ? GCM出力値(将来)

→ そのまま将来にも 適用してOK??

補正関数を出力値毎に決めるのではなく、パーセンタイル値毎に決めれば この問題は回避される

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3.補正手法の分類(3:将来変化量) 8

将来変化 GCM出力値(現在) GCM出力値(将来)

モーメント (μx1, μ’x2, μ’x3, μ’x4, ・・・) 平均 分散

(x1, x2, x3, ・・・, xn) 値でソート

モーメント 平均 分散

(y1, y2, y3, ・・・, yn) 値でソート

(μy1, μ’y2, μ’y3, μ’y4, ・・・) どのように 補正値に 反映?

保存型(トレンド保存型) 変化を陽に考慮 (トレンド補正型)

変化が陰に反映される (トレンド非保存型)

補正の前後でGCMが示した将来変化量(の一部)が 保存される。

モーメント補正型・ 確率分布関数型 →トレンド保存型

GCMが示した将来変化に 対しても陽に補正を考慮する 長期間(気候変動を含む)の観測値を必要とする 現時点では該当する手法は存在しない

補正関数を適用する事によりGCMが示す将来変化量も 変化する。

補正関数型 →基本的にトレンド非保存型

• 補正関数が将来も一定と言えない場合はトレンド保存が妥当 • 将来的にはトレンド補正型を考慮すべき

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4.各類型の特徴(類型化・呼称案) • 統計的特徴の比較方法により将来変化量の扱いも決まる • 統計的特徴を補正する手法と値そのものを補正する手法に分類できる

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• 日単位 • 時間単位 • 2段階 (月→日)

• 2段階 (月→時間)

・・・

• 補正関数型手法 (全区分共通型)

• 補正関数型手法(区分分割型)

• 確率分布 を仮定

• 確率分布 を仮定しない

• 確率分布関数型手法 (○○分布型)

・・・

• 統計量補正型手法 (観測値準拠1変数型)

• 統計量補正型手法 (GCM準拠2変数型)

・・・

• 値を直接補正 • 統計量を補正

(⇔トレンド非保存)

(⇔トレンド保存)

○○(時間区分)△△型手法(✕✕型) 日単位確率分布型手法(ガンマ分布型)

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4.各類型の特徴 • 補正関数型手法 ○:観測値再現性 ✕:将来変化を考慮していない

• 確率分布関数型手法 ○:将来変化保存、解析(とくに極値)が容易 ✕:極端な値が生じやすい、分布の仮定の妥当性

• 統計量補正型手法(GCM準拠) ○:将来変化保存、将来的に変化量補正型に応用可能 ✕:観測値再現性は劣る

• 統計量補正型手法(観測値準拠) ○:将来変化保存、詳細なスケールに対応可能 ✕:イベントのタイミングがGCM間で同じ

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4.各類型の特徴 11

観測値 解像度 将来変化 連続 データ

GCM間 の差

補正関数型 手法

△ 詳細なものが良い

△ 詳細なものが良い

✕ 考慮しない

○ 容易に可能

○ 異なる

確率分布関数型手法

✕ 詳細なものが必要

○ 分布に 準拠

△ 分布は同じ

△ 可能だが 工夫が必要

△ 分布は 同じ

統計量補正型手法 (GCM準拠)

○ 統計量 のみ利用

✕ GCMに準拠

○ 考慮する

△ 可能だが 工夫が必要

○ 異なる

統計量補正型手法 (観測値準拠)

△ 詳細なものが良い

◎ 観測値に準拠

△ 統計量のみ考慮

✕ 現在のところ不可能

✕ 全て同じ

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4.各類型の特徴(手法選択チャート) 12

「連続データが必要」もしくは「GCM(RCM)間の差が重要」

予測される将来変化は小さい

統計量 補正型手法 (GCM準拠)

統計量 補正型手法

(観測値準拠)

補正関数型 手法

確率分布 関数型手法

「詳細な観測値が利用可能」 もしくは「対象空間解像度がGCM(RCM)に対して詳細」

確率分布が明らか

YES 「詳細な観測値が利用可能」 もしくは「対象空間解像度がGCM(RCM)に対して詳細」

NO

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5.補正手法に関する課題 • 過去の再現性から手法を選択することの危険性

– 過去の再現性は過去の情報を多く使う補正手法程高い – しかし、そのような手法が将来よいという保障はない – 将来変化をどのように考慮するかという点が非常に重要 – 手法型を選択した後に同一手法型内で再現性を比較することは有用

• 差か比か?(簡単なようで非常に難しい問題)

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例)GCM(現在)の平均 100[mm/month] 観測値の平均 10[mm/month] GCM(将来)の平均 200[mm/month] のとき 加算の場合 110[mm/month] 乗算の場合 20[mm/month]

特に(観測値)>>(GCM) の場合 GCMの僅かな変化が比の場合極端な結果を生じさせる

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まとめ • バイアス補正手法を分類する基準を提案

– 時間単位:日単位、時間単位、2段階(月→日)など – 統計的特徴の比較方法

• 補正関数型手法(トレンド非保存型) • 確率分布関数型手法(トレンド保存型) • 統計的補正型手法(トレンド保存型)

• 目的に応じて適切な手法を選択するチャートを作成 – 手法型を選択後、各手法型内で手法を選択する際は観測値再現性について調査することが有用

• 各手法型に属する具体的な既往手法や該当文献については今後投稿する解説論文に記載予定

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ありがとうございました。