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1 東地中海ガス開発 交錯する期待と課題 2018419調査部 加藤

東地中海ガス開発交錯する期待と課題...2018/04/19  · Production Recoverable Reserves Plateau Production 現在の 生産量 Zohr Shorouk Eni Aug2015 Dec2017 22tcf

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  • 1

    東地中海ガス開発交錯する期待と課題

    2018年4月19日

    調査部 加藤 望

  • 2

    免責事項

    本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。

    また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

  • 3

    本日の報告事項

    1. 東地中海ガス田の開発状況2. エジプトについて3. イスラエルについて4. キプロスについて5. レバノンについて6. 東地中海各国の開発状況総括7. 東地中海ガスの輸出について8. まとめ

  • 4

    1-1東地中海ガス田の開発状況• 現在、注目を集めている石油・ガス開発エリアは1) ガイアナ・スリナム沖(原油)、

    2) ブラジル・プレソルト(原油)および3)西アフリカのモーリタニア・セネガル沖(ガス)である。東地中海ガス田はモーリタニア・セネガル沖に匹敵もしくはそれを凌駕する規模を持つ可能性を秘めている。

    • これまで、エジプト、イスラエル、レバノン、キプロスと呼ばれる東地中海(シリア、ヨルダン、レバノン、イスラエル、パレスチナを含めレバント地域と呼ばれる)のオフショアガス探鉱開発は、2000 年頃までは積極的に行われてこなかった。

    • その後、2010年前後にイスラエル沖で中・大型ガス田が発見されたのを皮切りに次々とガス田が発見され、東地中海は世界の上流開発(E&P)企業の注目を集めた。米地質調査所(USGS)は、こうしたガス田は340tcfに達する可能性があると試算する。

    • 近くには欧州という理想的な市場がある。欧州は豊富な資金力を持ち、資源の自給率が低く、ロシアに対する過度なエネルギー依存から脱却を望んでいる。しかし地中海東部から欧州まで天然ガスを運ぶためには、長年紛争下にある国々との協力関係が必要となる。

  • 5

    1-2 世界で注目を集めている開発エリアおよび東地中海ガス田

    図1:注目を集めている石油・ガス田開発エリア

    図2:東地中海上流開発エリア図(エジプト、イスラエル、キプロス、レバノン)

    Source: JOGMEC作成 Source: JOGMEC作成

  • 6

    1-3東地中海におけるガス田発見の経緯

    2009年 イスラエル沖でNoble EnergyがTamarガス田(可採埋蔵10.8tcf)を発見

    2010年 イスラエル沖でNoble Energyが大型Leviathanガス田(可採埋蔵量22tcf)を発見

    2011年 キプロス沖でNoble Energyが可採埋蔵量4.5tcfの中型Aphroditeガス田を発見

    2015年 エジプト沖でEniが可採埋蔵量22tcfの大型Zohr ガス田を発見。2015年以降で世界最大のガス田の発見となる。

    2015年 エジプト沖でBPが可採埋蔵量1.5 tcfの小型ガス田Atollを発見。

    2015年 エジプト沖でEniが可採埋蔵量1.5-2.5tcfの小型ガス田Nooros発見。

    2018年 キプロス沖でEniがCalypso1のガス田を発見。現在埋蔵量評価中。3.5tcf~8tcfの埋蔵量が見込まれている。

  • 7

    1-4 IOCsからみた東地中海

    東地中海=現在のIOCsの戦略との合致 探鉱リスク回避、「Near-Field資産*」重視姿勢:油価下落以降、リードタイムが短く資本柔軟性が高い資産(契約手続きが簡易、探鉱リスク低、既存インフラ利用可能等の特徴をもつ)を「Near-Field」資産として重視。

    →Zohr開発による地質有望性の証明とインフラ整備への期待

    Totalの例:生産中資産、

    他社発見資産の近隣に探鉱鉱区取得Ex.・ガイアナ/スリナム(Exxonが開発中)・モーリタニア/セネガル(BPが開発中)

    図3:Total 有望探鉱資産 Source:同社2017年9月投資家向け発表資料より

  • 8

    2-1 エジプト‐最近開発された主要ガス田

    表1 2015年以降開発された主なエジプトのオフショアガス田ガス田 鉱区名 Operat

    orTime ofDiscovery

    Start ofProduction

    RecoverableReserves

    PlateauProduction

    現 在 の生産量

    Zohr Shorouk Eni Aug 2015 Dec 2017 22tcf 2.9 bcfd 400mmcfd

    Nooros(4ガス田の総称)

    Nile Delta Eni Jul 2015 Aug 2015 1.5-2.5tcf*GreatNooros 3tcf

    1.2 bcfd 1.1 bcfd

    Atoll East NileDelta

    BP Mar 2015 Feb 2018 1.5tcf31mmbblcondensate

    - 350mmcfd

    Taurus West NileDelta

    BP Sep 2000 Mar 2017 1.5tcf* West NileDelta 全 体5tcf

    1.5 bcfd 700mmcfd

    Libra West NileDelta

    BP Jun 2001 Mar 2017 0.6tcf

    注:bcfd= Billion Cubic Feet per Day mmcfd=Million Cubic Feet per DayRecoverable Reserves = 可採埋蔵量:資源量のうち採取可能な資源量Plateau Production = 生産がピークに達し、その後フラットの状態で生産量が推移する状態

  • 9

    2-2 メジャーズのスピーディな開発とエジプトの厚みのあるサポート

    1. メジャーズは、低油価の時代にプロジェクトの開発プロセスを見直し早期開発を追求。

    2. Zohrは水深1500m, Atollは920mの大水深であり高度な技術力が求められる。*1と2 よりエジプト政府はオフショア開発についてはオペレーターにメジャーを起用する傾向がある。

    3. エジプト企業(コントラクター、ベンダー)の上流開発に対する経験と高い技術力。これに加えてエジプトのインフラが整備されている。スエズデルタ、ナイルデルタ及び内陸でのパイプラインネットワーク等

    4. 2017年の石油・ガス法の改正によって政府承認手続き及び期間が大幅に簡素化し短縮された。

    5. 上流開発企業にとって魅力的な契約条件、即ち生産分与契約(ProductSharing Contract)における政府取分65%(大水深は50%)。国内向けのガス買取も比較的高い買取価格で設定されている。

    6. オフショアにおいて未開発地域が残されている。

  • 10

    2-3 EniのParallel Approach手法

    Conventional ModelZohr's Model

    Engineering & ProcurementLong Lead Items Onshore

    Start Piling Start Preparation Sealine Laying

    Exploration

    Acquisition & Gas Intervention

    EXPLORATION EXECUTION

    Start Up

    DEVELOPMENT

    Reservoir StudiesEngineering Design

    Aug-15 Feb-16 Feb-17 Dec-17

    Zohr1 Zohr2 Zohr 3 Zohr4 Zohr5 Zohr6 Zohr7

    Site

    Exploration & Development

    Reservoir Studies

    Construction & Installation

    Start UpDiscovery FID Progress 50%

    2.3 5 Yearsyears

    図4 EniがZohrで採用した開発期間短縮手法(Parallel Approach)

    Source: Eni HPを参考にJOGMEC 再編集

  • 11

    2-4 エジプトでの外国E&P企業石油・ガス権益保有数

    表2 エジプトにおける主な外国上流開発(E&P)企業の石油・ガス権益保有フィールド数(Onshore & Offshore 計461フィールド )

    注: 1) 一鉱区に複数社が重複して権益を有する場合あり。2) ExxonMobilはエジプトに進出していないが、関心表明はしている。3) BPの権益のほとんどがオフショアであり、かつ最近ではスエズ・デルタ

    から西ナイル・デルタにAssetを移す動き(東から西へ)がある。BPとEniでオフショアの50%を占める。

    4) Apacheは、西部砂漠を中心に同地域の原油生産の40%を占める。5) 他にオンショアではPico(エジプト)、SDX(米)、Kuwait Energyが活動。

    source: 種々資料よりJOGMEC作成

    E&Ps in Egypt 保有フィールド権益数 内Offshore フィールドBP 76 73Eni 62 39Shell(旧BG) 41 13Total 2 1Apache 130 0

    5社計 311 126全体 461 212

  • 12

    2-5 エジプトの基礎情報

    Source: EIA

    人口:約97百万人 → 2030年には1億4000万人と推測 面積:約100万平方キロメートル (日本の約2.7倍) 一人あたりのGDP(2016年):3,514米ドル(2016年世銀) 大統領El-Sisi (2018年3月大統領選挙実施。投票率41%、獲得投票97%で二期目当選) ムバラク大統領の辞任に至った2011年1月の政変後,政治の表舞台に躍り出たムスリム

    同胞団は、支配の強化を試みるが、悪化する経済・治安状況のなか、イスラム勢力とリベラル・世俗勢力間の亀裂が深まり、国論が二極化し、2013年の軍事クーデターに繋がった。

    2014年5月の大統領選挙の結果,Sisi前国防相が当選した。 エネルギー監督省庁:Ministry of Petroleum。傘下にEGPC (Egypt General

    Petroleum Corporation)、EGAS(Egyptian Gas Holding Company)他4社 LNGを2015年260万ton輸入、2016年は750万ton(Qatar, Nigeria等から)

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

    表3 エジプトの天然ガス生産量/消費量推移

    Production Bcf/y Consumption Bcf/y

  • 13

    2-6 エジプトの2030年までのガス需給予測

    表4 今後のエジプトのガス供給予測2017年~2030年(mid-case scenario) 単位:Bcfd

    Source: Gaffney, Cline & Associates

  • 14

    2-7 Zohrと西ナイル・デルタ(WND)の生産見通しを加味した生産量予測(Bcfd)

    Source: Gaffney, Cline & Associates

    表5 今後の生産量予測

    図5 :エジプト沖開発図

  • 15

    2-8 エジプトのLNG液化基地

    No. ofTrain

    液化能力(万トン)

    プロセス タンク数

    貯蔵能力(KL)

    生産開始年

    所有者 コントラクター

    現状

    SEGAS LNG(at Damiette)

    Train 1 500 C3MR 2 30 2004 SEGAS* (UnionFenosa Gas: Eni50%, Gas Natural Fenosa 50%) 80%, EGPC 10%,EGAS 10%

    KBR, JGC,Tehcnigas

    生産停止中

    Train 2(計画中)

    500 C3MR N.A. N.A. N.A Eni, BP, EGAS KBR,JGC,Foster-Wheeler,Snamprogetti

    N.A

    EgyptianLNG (ELNG) at Idku

    Train 1 360

    Conoco-Philips Cascade

    2 28 2005

    Shell 35.5%, Petronas 35.5%, EGAS 12%, EGPC 12%, ENGIE 12%

    Bechtel, Phillips

    少量で稼働中Train 2 360 Shell 38%,Petronas 38%,

    EGAS 12%, EGPC 12%

    Train 3(計画中)

    N.A N.A N.A N.A N.A. Shell N.A N.A.

    Source: JOGMEC天然ガスリファレンスブック

    表6 エジプトLNG液化基地

  • 16

    2-9 エジプトのエネルギーHub化 Sisi大統領が「エジプトのエネルギーHub化」を表明。

    2011年の「アラブの春」の動乱後、政情不安から海外からの投資が激減。エジプトは外国石油・ガス会社に2013年時点で63億米ドルの負債を負っていた。2017年末には、28億米ドルまで減少。政府は、2019年までに完済する意向。

    一方、外国の石油会社に多額の負債を作った結果、返済のためIMFと120億ドル3年間の借入契約をした。

    また、ガスの不足に対応するため2015年よりLNGを輸入(2015年260万トン、2016年750万トン)。2017年の輸入LNGの支払いは7億2000万ドルに達した。

    Zohrの生産開始に伴い、LNGの輸入を2018年末には停止。これに伴い、スエズ湾にて稼働中の二隻のFSRUのうち一隻のリース契約を解約予定。かつ早期に借金の返済を行う。

    Sisi大統領は、Zohr級ガス田をあと10ほど欲しいと述べる。現状では、Zohrをもってしても輸出は続かない(13ページ参照)。5-6年後にはLNG輸入国に再度転じる。近隣諸国からガスを受け入れLNG液化を請け負うHub化構想を打ち出した。

  • 17

    3-1イスラエルの主要オフショアガス田

    フィールド名 発見年 生産状況 推定埋蔵量 *Operator/Co-investorsNoa North 1999 2012年生産開始 50 bcf *Noble Energy (米国) /

    Delek Drilling (イスラエル)

    Mari-B 2000 2003年生産開始 1 tcf *Noble Energy / DelekDrilling

    Tamar 2009 2013年生産開始 10.8 tcf *Noble Energy / DelekDrilling

    Dalit 1 2009 未生産 (LeviathanにTie back)

    700 bcf *Noble Energy / DelekDrilling

    Leviathan 2010 2019 年生産開始(FID Feb 2017)

    22 tcf *Noble Energy / DelekDrilling

    Tanin 2012 未 生 産 (FID Mar2018) KarishのTieback

    1.2-1.3 tcf Ocean Energean Oil &Gas (ギリシャ)

    Karish 2013 2020 年生産開始(FID Mar 2018)

    2.3 - 3.6 tcf Ocean Energean Oil &Gas

    表7 イスラエルの主要オフショアガス田

  • 18

    3-2イスラエルのガス消費量予測

    Source: Ministry of Energy/Delek Group

    • Tamarガス田だけでもイスラエルの国内消費を現状の消費量が続けば約20年間まかなえる量。

    • 今後も自給自足体制は続くだろう。

    • Leviathanの位置づけは、当初は輸出向け。生産開始は2019年予定。発電用 産業・配給用 輸送セクター メタノール

    表8 イスラエルのガス消費量予測

  • 19

    3-3イスラエルの基礎情報

    人口:868万人(イスラエル中央統計局) 面積:2.2万平方キロメートル (日本の四国程度) 一人あたりのGDP(2016年):35,343米ドル 首相兼外相Netanyahu(ネタニヤフ) エネルギー監督省庁:Ministry of Energy 天然ガス生産および消費推移(2003年~2015年)

    Source: EIA

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

    イスラエルのガス生産及び消費量(Bcf/y)

    Production Consumption

    • ほぼ自給体制。• 少量のLNGを

    Trinidad&Tobagoから輸入

    表9 2003年~2015年

  • 20

    3-4イスラエルのガス・パイプライン・ネットワーク

    Source: Ministry of Energy, Israel

    • イスラエルが近隣諸国と国交があるのは、エジプトとヨルダン、トルコ。

    • イスラエルからヨルダンへのガスの供給は契約締結済み。Israel-Jordanパイプラインは26km区間未開通部分あるものの2019年に開通予定。オーナーはガス開発企業のNoble EnergyとDelek Drilling である。

    図6: イスラエルのガス・パイプライン・ネットワーク

  • 21

    4 キプロス概況

    フィールド名発見年

    事業者埋蔵量

    (資源量)現状

    Calypso 1(Block 6) Feb-18 Eni Op. 50%Total 50% (6-8Tcf) 評価中

    Onesiphoros West 1(Block 11) Sep-17

    Total Op. 50%Eni 50% 500Bcf

    商業性なし

    Aphrodite 1(Block 12) Dec-11

    Noble Op. 35%Delek Drilling 30%BG (Shell) 35%

    4.54Tcf(2P) 生産準備

    表10 掘削済み鉱区

    現在生産中資産なし。2012年第2次入札ラウンドでEni、2016年の第3次入札でメジャーズ(Total, Exxon)参入。

    2017年Onesiphoros West1掘削。2018年Calypso 1掘削、“Zohr類似”構造の発見か?

    ※2018年は上半期にBlock3,8をEni, ExxonMobil/QPが下半期にBlock10を掘削予定

    図7:キプロス沖鉱区図

  • 22

    5 レバノン概況 - 探鉱開発の歴史

    探鉱の歴史

    1940~50年代

    陸上探鉱を実施

    2010年2009年に隣国イスラエルでTamarが発見されたことにより、炭化水素法を制定

    2010年イスラエル海域でLeviathanガス田が発見され、レバノン沖合でも探鉱活動の気運が加速

    2013年2011年に入札開始を目指していたが政治的理由により遅延2013年に入札を実施するも政情不安の中、保留

    2016年10月 Michel Aoun がレバノン議会により大統領に選出(それまで2年以上にわたり大統領不在)

    2017年1月 海洋石油資源にかかる2法案を承認し、初のオフショア入札が再開できるようになったことが発表

    2017年9月 レバノン議会が石油事業からの歳入税制を承認

    入札期限が9月15日から10月12日に延期

    2017年10月 Abi Khalilエネルギー・水資源相が入札の終了を発表

    2017年12月入札に出された全5鉱区のうち、ブロック4、9をTotal/Eni/Novatekのコンソーシアムへ授与

    2018年2月 ブロック4,9で EPAs が締結

    これまでに石油・ガスの発見はなし 政治情勢不安により、入札実施が遅延 日本企業を含め52社がPQ取得するも、

    最終的な関心は低く、唯一Total/Eni/Novatekコンソーシアムが5鉱区のうちブロック4,9の2鉱区へ参加、他社による入札はなし

    ブロック9はEEZ境界侵犯としてイスラエルよりクレームを受けている もし国境をまたぐ発見となった場合には、遂行困難となる可能性がある

    Source:Lebanon Petroleum Administration

    表11 レバノン探鉱開発の歴史

    図8:レバノン沖鉱区図

  • 23

    6 東地中海各国の開発状況総括国名 状 況

    エジプト

    1. 陸上油田の商業生産は1910年から始まり、1975年に純輸出国となった。ピークは1996年の93万bbl/dであった(2016年69.1万bbl/d)

    2. 天然ガスは1990年以降開発が進み、パイプラインでの輸出は2003年から始まり、ヨルダン、シリア、レバノン、イスラエルに出荷された。LNGは2004年から生産が始まり、米国、フランス、スペイン等に輸出された。

    3. 2010年に原油の純輸入国に、2015年に天然ガスの純輸入国に転じた。4. 2015年にZohrガス田を発見、2017年12月に生産開始。2019年には再び天然ガス

    の輸出国に転ずると予測されている。

    イスラエル

    1. 原油の産出量は、6, 000bbl/d程度と微量である。2. 天然ガスは、2009年に発見され2013年から生産を開始したTamarガス田によって、

    国内消費量を当分賄うことが出来るといわれている。3. 2011年に発見された大型ガス田Leviathanは、2019年生産開始予定である。

    キプロス

    1. 現在、原油・天然ガスの産出はない。2. 2011年に発見された、Aphroditeガス田は可採埋蔵量が4.54tcfであるが、規模が

    中型かつ沖合いであることからファイナンスの目処がつかず、生産に至らず。3. その後、2018年にEniがガス田Calypso 1を発見したというニュースが伝わったが、

    埋蔵量の確認はこれからである。

    レバノン1. 現在、原油・天然ガスの産出はない。2. イスラエルでのガス田発見に刺激され、2013年に鉱区入札を実施するも、保留。3. 2017年に鉱区入札結果を公表。Totalコンソーシアムが2鉱区で権益を取得。

  • 24

    7-1 東地中海ガス輸出への障害(1)

    1. エジプトを巡る係争の状況① EastMed Pipeline(エジプトが輸出余力があった時代にエジプトからイスラ

    エルへの輸出用パイプライン)に係るイスラエル電力公社とエジプト政府との係争。2011年以降15回に亘りシナイ半島のオンショアパイプラインが爆破され、2012年に送ガスが停止したのに加え、輸出用ガスが払底。カイロ仲裁では、エジプト側が約10億ドルイスラエル電力公社に支払う裁定が出された。

    ② エジプトDamietta LNG液化基地に関するオーナー(Union Fenosa Gas:スペインUnion Fenosa GasとEniのJV)とエジプト政府との2億7000万ドルの係争。

    両係争は、2011年のアラブの春以降の政治の不安定さおよび生産量の減少より輸出向けガスがなくなり、ガスの供給義務を負うエジプト政府(国営企業含む)が契約違反として仲裁に申し立てられたものである。いづれも仲裁判断が下され、それに沿う形で処理が進んでいる。但し、時間を要する懸念は残る。

  • 25

    7-2 東地中海ガス輸出への障害(2)

    2. 各国間の紛争① レバノン・イスラエル間の境界問題及びヒズボラ

    ・レバノンのBlock 9は、イスラエルとレバノンの主張が対立する860km2 のEEZ境界紛争のうち180km2を含む。同鉱区開発はイスラエルが神経を尖らせ、オペレーターのTotalは紛争海域より25km離れた地点で探鉱を行うと表明。・レバノンのシーア派イスラム主義のヒズボラのイスラエルガス田への攻撃に対処するためイスラエルは4隻のコルベット艦をドイツから購入予定。(2021~22年に配備予定)。

    ② トルコの北キプロス(北キプロス・トルコ共和国)支援と南キプロス(キプロス共和国)への妨害従来よりトルコは、キプロスにおけるガス開発は南北共同もしくは産出されたガスの取分50%を要求。2018年2月にキプロスのBlock 3に向かっていた、Eniの傭船した掘削船Saipem 12000はトルコ海軍艦艇より軍事演習という名目で退去させられた。この件は、米国が仲介に入りEU、国連に持ち込んだ結果、トルコ艦艇は帰還。なお、この掘削船はその後モロッコ沖の掘削に従事している。Block 3の掘削再開の見通しは不明。

  • 26

    7-3 イスラエルとキプロスガスの欧州への出口

    1. イスラエル・キプロスからトルコへのパイプライン輸出 → 現状困難だが可能性は残されている。① イスラエルとトルコは国交はあるが現在悪化。② イスラエルは途中のレバノンとシリアとの関係が悪いため、トルコへの陸上

    パイプラインの敷設は現状無理。③ レバノンとシリア沖合いに海底パイプラインを敷設しトルコに送る方法は、途

    中4000mの海溝があり、技術的、経済的に困難を伴う。

    2. イスラエル・キプロスからエジプトLNG液化設備に輸出。LNGに液化して欧州へ→ Damietta LNGとIdkuのELNGが使用できれば現実性は高い。① Damiettaは改修が必要であり、それには数百万ドル必要とされている。② ELNGは、現在少量ながら稼働中である。③ エジプトのガスの生産量のうち輸出に回せるのは6年間程度(13ページ参

    照)と見込まれるが、キプロスとイスラエルのガス液化を引き受けるTolling ビジネスが確立されるのであればエジプトのHub化、そして将来LNG液化設備拡張の可能性はある。

    では、どのパイプラインルートを使用してエジプトの液化施設までガスを運ぶのか?

  • 27

    7-4 エジプトへのパイプラインルート案

    輸送ルートは、まだ決まっていない。

    1. 第一案としてEMG Pipeline(EastMed Gas Pipeline:エジプト・アリシュ~イスラエル・アシュケロン)を逆方向に使用する方法。2018年2月23日にエジプトのイスマイル首相は国際仲裁に付されていたイスラエル電力公社(IEC)に対する賠償金問題について約10億ドルを支払うことで同意に至ったと発言。障害は取り除かれたと考えられる。ただし、同Pipelineは老朽化が進んでいるうえに、シナイ半島はエジプト軍も掌握できておらず再度武力勢力から攻撃される可能性がある。

    2. 第二案は、イスラエル-ヨルダン間で建設されるIsrael-Jordan PipelineおよびArab Pipelineを使用しヨルダンのアカバ経由で送ガスする案が浮上。

    3. 第三案は、パレスチナのガザ地区沖の老朽化したEMG Pipelineに追加新設する案も考慮されている。

    4. 第四案は、LeviathanからキプロスのAphrodite経由、エジプトのポートサイド向けPipelineを新設する案である。

  • 28

    7-5 イスラエル・キプロス各ガス田から各国への距離

    Source: Delek Group HP

    図9: イスラエル・キプロスから各陸上施設への直線距離

  • 29

    7-6 東地中海ガス輸出を巡る動き

    1.イスラエルのガス、エジプトへ売却する契約締結2018年2月19日の各誌報道によれば、TamarとLeviathanのオペレーターのNoble EnergyおよびそのパートナーのDelek DrillingとエジプトのSisi大統領に近いとされるAlaa Arafa氏率いる民間企業Dolphinusは、イスラエルガスの売買契約を150億ドルで締結した。この金額には、7-1で触れたこれまで争ってきたEastMedパイプラインの解決金が含まれているという。供給期間は10年間。ただし、供給開始時期については2030年までと触れるにとどまる。かつ販売量は年間約70億立方メートル/年(10年で640億立方メートル、約2.5tcf)、年間換算約630万トンとエジプトのLNG液化設備において処理できる量である。今後、両国政府の承認が待たれる。なお、NobleとDelekは2019年よりヨルダンにLeviathanガスの供給を始める契約を2016年9月に締結している。

    2. キプロスのAphrodite ガスをエジプト液化設備へ供給エジプトの石油大臣Tarek al-Mulla(ターレク・ア・ムッラー)は、2018年2月ロンドンでの「石油週間」においてキプロス政府とキプロスとエジプトを結ぶガス・パイプラインを建設することで仮合意書を締結したと述べた。詳細は今後詰めることになる。LeviathanとAphrodite共にオペレーターは、Noble Energyであることから8-4の第四案が安全性からみて有力と思われるが、他方距離がありコストは掛かる。

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    7-7 東地中海ガスパイプライン構想

    過去、2016年にイタリア、ギリシャ、キプロスおよびイスラエルの4カ国で東地中海ガスパイプライン構想の協定が交わされた。キプロス沖のAphroditeガス田からキプロス、クレタ島を経てギリシャに上陸、その後ペロポネソス半島を北上しギリシャ西部に至るものである。EU機関であるINEAがPre-FEEDを2015年に開始、2018年3月に終了。イタリア、ギリシャ、キプロス及びイスラエルの4カ国協議が2017年12月に行われた。

    総延長: 1,900km内 海底部分 1,300km

    陸上部分 600km輸送能力:当初10bcm/y (350 bcf/y)

    総工費 70億米ドル(内EUが半額負担)

    図10: 東地中海パイプライン構想図

    Source: INEA (Innovation and Networks Executive Agency )

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    8 まとめ

    東地中海における中大型ガス田の開発生産に伴い生産国経済への効果が期待できる。また、エジプトのエネルギーHub構想が現実味を帯びてきている。最後に、今後この地域を混乱させうる懸念事項について触れておく。

    1. 北キプロス・トルコ共和国を巡りトルコの妨害が引き続き懸念される。同国を承認しているのはトルコだけであり、トルコが北キプロスも南部沖ガス田に利益があると主張するも国際世論は容認しないだろうとの楽観論がある。一方、領土問題と南北統合問題が絡んでいるためトルコ側の軟化は期待できないという見方もある。

    2. エジプトの社会問題。人口増加に経済が追いつかないと、今後人口の3分の2を占めるであろう30歳未満の若年層の失業対策等への不満が噴出することが考えられ、社会不安が引き起こされる。また、強権的なSisi大統領の言論統制・人権抑圧が懸念される。

    3. レバノンやキプロスで今後大型ガス田が発見された場合は、両国の出口シナリオは見直されるだろう。レバノンの場合はガス田を巡ってシリア、ヒズボラがどう絡んでくるか予測がつかない。キプロスでの大型ガス田発見の場合は、ギリシャへの東地中海ガスパイプライン構想が実現に向かうかあるいは独自もしくはイスラエルと共同でLNG液化設備を持つ選択肢も出てくる。

    4. 米国のイスラエルの首都エルサレムの容認と米国大使館移転については、エジプト、ヨルダンは現在のところ静観。

    東地中海ガス開発 交錯する期待と課題免責事項本日の報告事項1-1東地中海ガス田の開発状況1-2 世界で注目を集めている開発エリアおよび東地中海ガス田1-3東地中海におけるガス田発見の経緯1-4 IOCsからみた東地中海2-1 エジプト‐最近開発された主要ガス田2-2 メジャーズのスピーディな開発とエジプトの厚みのあるサポート2-3 EniのParallel Approach手法2-4 エジプトでの外国E&P企業石油・ガス権益保有数2-5 エジプトの基礎情報 2-6 エジプトの2030年までのガス需給予測2-7 Zohrと西ナイル・デルタ(WND)の生産見通しを加味した生産量予測(Bcfd)2-8 エジプトのLNG液化基地2-9 エジプトのエネルギーHub化3-1イスラエルの主要オフショアガス田3-2イスラエルのガス消費量予測3-3イスラエルの基礎情報3-4イスラエルのガス・パイプライン・ネットワーク4 キプロス概況5 レバノン概況 - 探鉱開発の歴史6 東地中海各国の開発状況総括7-1 東地中海ガス輸出への障害(1)7-2 東地中海ガス輸出への障害(2)7-3 イスラエルとキプロスガスの欧州への出口7-4 エジプトへのパイプラインルート案7-5 イスラエル・キプロス各ガス田から各国への距離7-6 東地中海ガス輸出を巡る動き7-7 東地中海ガスパイプライン構想8 まとめ