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日本語学習者による
動詞の使い分けの習得
-切断・破損系動詞を中心に- (仮)
日本言語文化専攻 日本語教育学講座 D1 薛 恵善(ソル・へソン)
2014年度 博士後期課程報告会 2015.02.03.
2014年 7月5日 国際言語文化研究科 オープンキャンパス ポスター発表(於 名古屋大学)
7月12日 2014年シドニー日本語教育国際大会(ICJLE2014) ポスター発表(於 豪州 シドニー工科大学)
8月4日 第12回日本語教育研究集会 口頭発表 (於 名古屋大学)
8月23日 日韓学術交流会-言語文化を巡って- ポスター発表(於 名古屋大学)
日本語学習者による語彙の使い分けの習得
対象語:日本語の切断・破損(切る・壊す系)動詞
物体の分離(separation in the material integrity of objects)を表す
“the kinds of events known in English as cutting, breaking,
slicing, chopping, hacking, tearing, ripping, smashing, shattering, snapping, and so on.”
- Majid et al. (2007)
モノを破損すること(cutting & breaking)は、人間の活動において重要であり、異言語間においても共通して存在する出来事であるが、それをいくつの動詞を使ってどのように線引きを行い、区別するかは言語により異なる
(Majid, Boster, & Bowerman, 2008)
日本語と韓国語は、破損事象を同数の動詞で使い分けているが、その切り分け方は一部異なる (Fujii, 1999)(下記参照)
第二言語環境で学習する日本人と韓国人中国語学習者の概念表象は、L1の影響を受けるものであるか?
対象物を「持つ」動作を描写した13場面に対し、中国語母語話者が13個の動詞を産出する反面、日本語と韓国語をL1とする中国語学習者は限定された動詞を使用 ⇒L1動詞のパターンと類似した使用パターン ⇒学習者と中国語母語話者の「持つ」系の動作に対する語の使い分けと大きく異なる。
• 韓国人学習者 5つの動詞産出、最頻出「拿na3」
teulda(特に「手」で持つ意の汎用的動詞)の影響
• 日本人学習者 5つの動詞産出、最頻出「拿na3」 「拿na3」 ・「带dai4」の汎用 日本語で「持つ」以外の動詞が使われる際には、 「拿na3」以外を使用
「壊す/Break」に関連する破損系動詞に対して、日本人英語学習者はどのような意味表象を持つか?
物に力を加えてその形状や機能を破損させる場面を見せ、どのように各場面を名づけるかという産出課題で、英語母語話者がsmash, snap, bend, crackなど複数の語を用いる場面に学習者はbreakを頻出する傾向
→ある場面でどの動詞が使われるかは、日本人英語学習者と英語母語話者の間で大きく異なり、日本人英語学習者と日本語母語話者の使い分けも低い相関関係にあった。
「割る」を、破損・分割を表す類義語と区別して使えるかを、共起する名詞を組み合わせて作成した文の判断課題を通して調査
*このスパゲティは量が多いので、2人で割って食べよう。
*ウーロン茶を4つのコップに割って入れてください。 上級学習者にも安定した言語直感が培われてはおらず、学習者の誤った運用には、母語の語彙知識が深く関与している可能性がある
学習者の母語でどのように「割る」と他の類義語が使い分けられているかは調べておらず、異言語間の動詞による破損事象の切り分け方の違いが第二言語習得にどのように影響しているかは不明
出来事をどのような動詞を使ってどのように切り分けているか⇒言語個別的
第二言語(L2)学習者による語の意味関係の理解は母語話者の理解と大きく異なる場合がある
一つの語を多義語として捉え、その語が持つ多義性
に着目した研究が多い 例)多義動詞「開ける」・「開く」・「開く」と「見る」の様々な用法の習得に母語の用法の典型性の影響が働いている(加藤 2005)
一つの意味カテゴリー内の意味的に隣接した、
語の使い分けの習得に着目した研究はまだ少ない(cf. 松田 2000)
Object Japanese(6) Korean(6) Chinese(7)
脚/骨 折る pwureturita 折断(zhe2duan4) 棒 鉛筆 バット 大枝 糸 切る kkunta 拉断(la1duan4) 針金 コップ 割る kkayta 打碎(da3sui4) 花瓶 ガラス 氷
たまご 紙 破る ccicta 撕(si1) 服 壁 pwuswuta 打破(da3po4) ドア 金庫
ラジオ/テレビ 壊す 砸坏(za2huai4) 時計 椅子
おもちゃ 車 砂山 崩す mwunetturita 挥(hui1)
松田(2000, pp.82)の「割る」とその類義語との意味ネットワーク図
韓国語の「nanwuta」とその類義語の意味ネットワーク図(松田(2000, pp.82) に基づき作成)
薪 西瓜
肉 リンゴ
ケーキ
豆腐
手で
煎餅
卵
水と油
本とノート
ゴミ
ウーロン茶
スパゲティ
サラダ
数字で/に 手で
費用 饅頭
儲け
党
caruta、karuta kkayta
ccogayta
pwuswuta nanwuta
鈍器で
くるみ
石
破損の意味領域においては、どの言語でも動詞を使い分けているが、その適用範囲においては一部ズレがある
同一の破損物に対して異なる動詞を使ったり、一方の言語で動詞を使い分けるが、一方では使い分けなかったりする事例がよく見られる
例)壁やドア:破る・壊す(日)/ 壊す(pwusuta)(韓) 鈍器でくるみ:pwusuta (壊す) ・kkayta (割る) 卵:kkayta (割る) (韓) 鈍器でくるみ、卵:割る(日)(?くるみを壊す)
手で饅頭を:割る(日) 手で饅頭を:nanwuta(分ける), ccogayta(分ける)(韓) (?饅頭をkkayta) (卵と同じ動詞を用いて言わない)
「破る」
깨뜨리다; 부수다; 뚫다; 깨다. 「壊す」
파괴하다; 부수다; 파손시키다. 「割る」
깨뜨리다; 깨다; 다치다.
『ESSSENCE 日韓辭典』
→目標言語の関連した語と語の使い分けの習得を困難にさせる
同一意味カテゴリー内のL1とL2の細かな違いが、日本語を第二言語とする学習者の日本語の破損動詞の使い分けにどのように影響するかを明らかにする
破損領域に関する学習者の中間言語体系を記述するとともに、L2学習者がなぜそのような体系を構築するのかに関して、L1の影響や普遍性などの観点から説明を試みる
(General)
日本語学習者は破損動詞の使い分けをどのように習得しているか。
(Specific)
日本語学習者の破損動詞の使い分けの習得に母語がどのように影響しているか。
日本語学習者の破損動詞の使い分けの習得に何らかの普遍的な傾向が見られるか。
1.被調査者
韓国語を母語とする日本語学習者、中国語を母語とする日本語学習者、日本語母語話者
2.産出タスク
動作が行われる場面を見て、その状況に適する動詞を産出する
3.受容性判断タスク
文の中に使用された動詞の容認度をスケールで判断、または その正誤を○・×で判断する
1. 類義動詞の使い分けに関する言語学や言語習得論 (L1, L2) の先行研究に当たり、この分野のこれまでの知見に精通する。
2. 習得ターゲットとしての日本語の破損動詞の分析を深める。
3. L1の影響を考慮するため、日本語、韓国語、中国語における破損動詞の使い分けに関する対照研究を行う。
4. 1〜3を総合して日本語破損動詞の第二言語習得のシナリオを考え、研究仮説を導く。
5. 4の研究仮説を検証するための習得研究をデザインし、実施する。
加藤稔人(2005) 「中国語母語話者による日本語の語彙習得―プロトタイプ理論、言語転移理論の観点から―」『第二言語としての日本語の習得研究』 8号, 5-23
佐治伸郎・梶田祐次・今井むつみ(2011)「L2習得における類義語の使い分けの学習‐複数のことばの意味関係理解の定量的可視化の試み」Second Language 9,83-100
綱井勇吾(2013)『外国語学習者によるの意味獲得関す研究‐英語の 「壊す/切る」系動詞を例として‐』慶應義塾大学院政策・メディア研究科博士論文(未公刊)
松田文子(2000)「日本語学習者による語彙習得-差異化・一般化・典型化の観点から-」『世界の日本語教育』10号, 73-81
Fujii, Y.(1999). The Story of 'break': Cognitive Categories of Objects and the System of Verbs. In Cultural, psychological, and typological issues in cognitive linguistics: selected papers of the bi-annual ICLA meeting in Albuquerque, edited by Masako K. Hiraga et al.(pp.313-332). John Benjamins.
Majid, A., Bowerman, M., Van Staden, M., & Boster, J. S. (2007). The semantic categories of cutting and breaking events: A crosslinguistic perspective. Cognitive Linguistics, 18, 133-152.
Majid, A., Boster, J. S. & Bowerman, M. (2008). The cross-linguistic categorization of everyday events: A study of cutting and breaking.Cognition, 109, 235-250.
辞典 安田吉実・孫洛範他(2013)『ESSSENCE日韓辭典』 民衆書林