14
10 09 08 07 06 05 04 03 02 01 00 99 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 88 87 86 85 84 83 0 30,000 20,000 10,000 40,000 50,000 80,000 90,000 60,000 70,000 18,066 15,246 15,485 14,297 15,335 17,926 22,798 26,893 32,609 39,258 51,295 55,145 59,468 59,460 62,324 64,284 75,586 76,464 78,151 79,455 74,551 82,945 80,023 76,492 75,156 66,833 59,923 58,060 (人) (出典)OECD「Education at a Glance」、ユネスコ統計局、IIE「Open Doors」、中国教育部、台湾教育部 日本から海外への留学者数の推移 Kawaijuku Guideline 2014.45 37 大学の国際化 学校法人河合塾教育研究開発本部と朝日新聞 社は、2011年から共同調査「ひらく 日本の大学」 を実施しており、2012年度からGuidelineで連載 している。 今回のテーマは、「大学の国際化」である。 大学の国際化は、2008年の「留学生30万人計画」 をきっかけに進んできたが、経済状況の悪化、若 者の内向き志向などから、日本から海外への留学 者数はここ数年減少傾向にある。 かつて、留学といえば、学位取得を目的とした 長期間にわたる大学院生の送り出しが多かった。 しかし、現在の大学の取り組みとしては、学士課 程・大学院の短期間の留学プログラムが最も多く なっている。 なお、大学の国際化といっても、学生の送り出 し(日本から海外へ)、学生の受け入れ(海外から 日本へ)に関する取り組みのほか、留学しやすい 環境を整えるためにアカデミックカレンダー(学 事暦)の柔軟化や、外国人教員の増加、大学教員 の英語力向上など、さまざまな取り組みがある。 …………………………………p38 ………………p42 …………………p44 ……………………………p46 ……………………………p48 概説 大学の取り組み 東京慈恵会医科大学 豊橋技術科学大学 玉川大学 京都大学 大学の国際化 朝日新聞×河合塾 共同調査   「ひらく 日本の大学」第9回 そこで、概説では、2013年度「ひらく 日本の 大学」の調査から、大学の国際化の現状をまとめ た。また、さまざまな大学の国際化の取り組みの 中から、今回は、大学教育(特に医学教育)の国 際通用性という観点から東京慈恵会医科大学、海 外の教育施設の整備と大学教員の英語力向上とい う観点から豊橋技術科学大学、英語教育プログラ ムの充実と留学の必修化という観点から玉川大 学、最後に、国際化に関する数値目標を定め、短 期留学プログラムを中心に大学全体の国際化に取 り組んでいる京都大学を紹介する。

朝日新聞×河合塾 共同調査 「ひらく 日本の大学」第9回 大学 …...朝日新聞社×河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」 では、2012年に引き続き、2013年度調査でも大学の国際

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Page 1: 朝日新聞×河合塾 共同調査 「ひらく 日本の大学」第9回 大学 …...朝日新聞社×河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」 では、2012年に引き続き、2013年度調査でも大学の国際

「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

10年

09年

08年

07年

06年

05年

04年

03年

02年

01年

00年

99年

98年

97年

96年

95年

94年

93年

92年

91年

90年

89年

88年

87年

86年

85年

84年

83年

0

30,000

20,000

10,000

40,000

50,000

80,000

90,000

60,000

70,000

18,066

15,246

15,485

14,297

15,33517,926

22,79826,893

32,60939,258

51,295 55,145

59,468

59,460

62,32464,284

75,586

76,464

78,151 79,455

74,551

82,94580,023

76,492 75,156

66,83359,923

58,060

(人)

(出典)OECD「Education at a Glance」、ユネスコ統計局、IIE「Open Doors」、中国教育部、台湾教育部

日本から海外への留学者数の推移

Kawaijuku Guideline 2014.4・5 37

大学の国際化 学校法人河合塾教育研究開発本部と朝日新聞社は、2011年から共同調査「ひらく 日本の大学」を実施しており、2012年度からGuidelineで連載している。 今回のテーマは、「大学の国際化」である。 大学の国際化は、2008年の「留学生30万人計画」をきっかけに進んできたが、経済状況の悪化、若者の内向き志向などから、日本から海外への留学者数はここ数年減少傾向にある。 かつて、留学といえば、学位取得を目的とした長期間にわたる大学院生の送り出しが多かった。しかし、現在の大学の取り組みとしては、学士課程・大学院の短期間の留学プログラムが最も多くなっている。 なお、大学の国際化といっても、学生の送り出し(日本から海外へ)、学生の受け入れ(海外から日本へ)に関する取り組みのほか、留学しやすい環境を整えるためにアカデミックカレンダー(学事暦)の柔軟化や、外国人教員の増加、大学教員の英語力向上など、さまざまな取り組みがある。

…………………………………p38

………………p42…………………p44

……………………………p46……………………………p48

●概説

●大学の取り組み  ◆ 東京慈恵会医科大学  ◆ 豊橋技術科学大学

  ◆ 玉川大学

  ◆ 京都大学

大学の国際化朝日新聞×河合塾 共同調査  「ひらく 日本の大学」第9回

 そこで、概説では、2013年度「ひらく 日本の大学」の調査から、大学の国際化の現状をまとめた。また、さまざまな大学の国際化の取り組みの中から、今回は、大学教育(特に医学教育)の国際通用性という観点から東京慈恵会医科大学、海外の教育施設の整備と大学教員の英語力向上という観点から豊橋技術科学大学、英語教育プログラムの充実と留学の必修化という観点から玉川大学、最後に、国際化に関する数値目標を定め、短期留学プログラムを中心に大学全体の国際化に取り組んでいる京都大学を紹介する。

Page 2: 朝日新聞×河合塾 共同調査 「ひらく 日本の大学」第9回 大学 …...朝日新聞社×河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」 では、2012年に引き続き、2013年度調査でも大学の国際

 朝日新聞社×河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」では、2012 年に引き続き、2013 年度調査でも大学の国際化に関する設問を設けた。 産業界からも大学教育のグローバル化が強く求められ、2013 年5月に公表された、教育再生実行会議第3次提言「これからの大学教育等の在り方について」でも、「大学のグローバル化の遅れは危機的な状況にある」と指摘されている。 大学もこれらの危機感は共有しており、「ひらく 日本の大学」調査でも、「大学にとって国際化は重要か」という各設問に対して、9割近い大学が「非常に重要」「重要」と回答している<図表1>。

 具体的に、国際化に関する取り組みとして自大学で実施しているもの(一部の学部で実施も含む)は何か。学士課程では学生の送り出し・受け入れともに、「短期間(1年未満)の留学プログラム、サマープログラム等」が最も多い。送り出しや受け入れ以外の国際化に関する実施状況としては、「海外の大学との単位互換」が 55%と最も多くなっている<図表2>。

 実施状況等について、もう少し細かく見ていこう。 <図表3>は、学士課程における送り出しに関する実施状況を設置者別にまとめたものである。「海外インターンシップ」は、国立大が 53%と他に比べて実施率が高いが、他の項目はそれほど大きな差がない。 「ひらく 日本の大学」調査では、実施状況とともに、特

大学にとって国際化は重要な課題

「ひらく 日本の大学」から見る大学の国際化の現状

に重視している取り組みについても聞いた。「特に重視している」についてはグラフ化していないが、設置者別に見ると、「短期間の留学プログラム等」(国立大 85%、公立大 84%、私立大 72%)、「海外インターンシップ」(国立大23%、公立大 14%、私立大 14%)で多少の差が生じているが、他の2つの項目では設置者による大きな差はない。

短期間の留学プログラムの実施率が最も高い

0% 20% 40% 60% 80% 100%

0 20 40 60

非常に重要    重要       どちらとも言えない  重要でない     全く重要でない   その他

52% 10%36%

45% 9%44%

46% 6%47%

36% 44% 47%

52% 44% 46%

10% 9% 6%

1% 1% 1%

0% 0% 0%

0% 2% 0%

研究(n=582)

学士課程(n=612)

大学院(n=546)

<図表1>自大学にとって国際化は重要か

<図表2>大学での国際化に関する取り組みの実施状況 (n=587)

海外への留学義務づけ

長期間(1年以上)の留学プログラム

短期間(1年未満)の留学プログラム等

海外インターンシップ

海外への留学義務付け

長期間(1年以上)の留学プログラム

短期間(1年未満)の留学プログラム等

海外インターンシップ

外国人留学生の増加

英語による授業の増加

長期間(1年以上)の受け入れプログラム

短期間(1年未満)の受け入れプログラム等

外国人留学生の増加

英語による授業の増加

長期間(1年以上)の受け入れプログラム

短期間(1年未満)の受け入れプログラム等

海外の大学との単位互換

海外の大学との共同学位

クオーター制の導入

日本人学生に対するTOEIC/TOEFL等の実施

大学教員の英語による授業力向上

外国人教員の増加

アカデミックカレンダーの柔軟化

秋入学

その他

7%

40% 92%

32%

1%

22%

47%

17%

50%

26%

42%

68%

40%

20%

33%

37%

55%

21%

4%

33%

21%

29%

9%

25%

6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

学士課程送

り出し

受け入れ

その他

大学院

学士課程

大学院

国立大での国際化が進む大学院ではその傾向が顕著に

38 Kawaijuku Guideline 2014.4・5

概説

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

 しかし、大学院(送り出し ・ 受け入れ)、学士課程の受け入れでは、国立大、公立大、私立大で実施率に差がある項目があり、それに伴い重視しているかについても顕著な差が出ている。 <図表4>は、大学院における送り出しの実施状況である。実施率が全体でも1%と非常に低い「留学義務付け」も含めて、国立大での実施率が高くなっている。重視しているかについても、「長期間の留学プログラム」(国立大27%、公立大 9%、私立大 7%)、「短期間の留学プログラム等」(国立大 72%、公立大 43%、私立大 20%)、「海外インターンシップ」(国立大 25%、公立大 9%、私立大 4%)と、国立大の方がかなり高い。 <図表5>は、学士課程の受け入れに関する実施状況である。全体的な傾向として、国立大での実施率が高く、特に「外国人留学生の増加」「英語による授業の増加」ではかなり高くなっている。しかし、重視しているかについては、この2項目は国立大の方が重視しているが、「長期間の受け入れプログラム」(国立大 25%、公立大 41%、私立大 20%)と「短期間の受け入れプログラム等」(国立大37%、公立大 48%、私立大 35%)の2つは、公立大が高くなっている。 <図表6>は、大学院の受け入れに関する実施状況である。これも国立大での実施率が高く、特に、「英語によ

る授業の増加」は、国立大 62%、公立大 18%、私立大 13%と国立大での実施率が非常に高い。重視しているかについても、実施率に比例するように、「英語による授業の増加」(国立大 37%、公立大 11%、私立大 8%)と、それと関係が深い「外国人留学生の増加」(国立大 53%、公立大 11%、私立大 16%)で、設置者による違いが生じている。

 <図表7>は、送り出し・受け入れ以外の大学の国際

化への取り組みに関する実施状況をまとめたものである。「海外の大学との単位互換」は、国立大 83%、公立大 52%、私立大 50%と、国立大で実施率が高くなっている。単位互換をさらに進めた、「海外の大学との共同学位」の実施率は国立大で 44%と、半数近い大学で何らかの取り組みが実施されている。「外国人留学生の増加」と「英語による授業の増加」に深く関連している、「大学教員の英語による授業力向上」と「外国人教員の増加」も、国立大での実施率が高い。重視しているかについても、「大学教員の英語による授業力向上」(国立大 24%、公立大 11%、私立大 9%)と「外国人教員の増加」(国立大 29%、公立大 14%、私立大 8%)と、国立大で重視している。 さらに、国際化といえば、学生の英語力の向上が前提と

海外との単位互換の実施率は国立大で8割アカデミックカレンダーの柔軟化は今後推展か?

0%

20%

40%

80%

60%

100%

■国立大■公立大■私立大

96%89%91%

38% 41%35%

8%5% 3%

23%29%

53%

海外インターンシップ

短期間留学プログラム等

長期間留学プログラム

留学義務付け

<図表3>学士課程 送り出しの実施状況(設置者別)

0%

20%

40%

80%

60%

100%

■国立大■公立大■私立大

54%45%40%

20% 23%

47%47%

69%

43%

74%65%

83%

短期間受入プログラム等

長期間受入プログラム

英語による授業の増加

外国人留学生の増加

<図表5>学士課程 受け入れの実施状況(設置者別)

0%

20%

40%

80%

60%

100%

■国立大■公立大■私立大

91%

60%

36%

22%17%

44%

0%2% 0%

15%10%

53%

海外インターンシップ

短期間留学プログラム等

長期間留学プログラム

留学義務付け

<図表4>大学院 送り出しの実施状況(設置者別)

0%

20%

40%

80%

60%

100%

■国立大 ■公立大 ■私立大

62%

35%27%

18%13%

62%

34%

78%

38% 43%

29%

78%

短期間受入プログラム等

長期間受入プログラム

英語による授業の増加

外国人留学生の増加

<図表6>大学院 受け入れの実施状況(設置者別)

Kawaijuku Guideline 2014.4・5 39

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なるが、「日本人学生に対する TOEIC / TOEFL 等の成績基準の設定」も、国立大での実施率は 47%となっており、国立大では半数程度の大学で実施しているという結果となった。重視しているかについては、国立大・公立大とも23%と同じ程度重視しているのに比べて、私立大は 11%と、重視している割合が低くなっている。 一方で、今後、送り出し・受け入れを推進するにあたって、「クオーター制の導入」と「アカデミックカレンダーの柔軟化」もポイントとなるが、これらは設置者にかかわらず実施率が低かった。しかし、2013 年に文部科学省が大学設置基準の改正を行い、アカデミックカレンダーを柔軟化して、クオーター制等の採用を可能にした。大学設置基準の改正前から、慶應義塾大、早稲田大など、各大学での取り組みが始まっていた。さらに、東京大が 2015 年度末までを目途に4ターム制を導入する方向性を示すなど、今後ますます、各大学での導入が進むと予想される。

 このように「ひらく 日本の大学」調査によると、大学の国際化は、国立大で進んでいる傾向が見られた。これは、これまでの国の政策や事業に採択されたかが大きく影響しているようだ。 <図表8>は、大学の国際化に関する近年の主な政策・

施策の変遷をまとめたものである。2008 年に「留学生 30万人計画」が発表されて以降、それを実現するために「国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業)」(通称、グローバル 30)が始まった。採択されたのは、東北大、筑波大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大、慶應義塾大、上智大、明治大、早稲田大、同志社大、立命館大の 13 大学である。この事業では、学生寮・宿舎の拡充、奨学金など経済的な支援体制の充実など留学生受け入れ体制の整備・充実とともに、英語コースの設置などがなされた。2013 年度をもってこの事業は終了したが、他にも日本人学生の送り出しを支援する事業など、いろいろな事業が行われている。 各事業の採択状況をまとめたものが<図表9><図表

10 >である。2012 年度からの「グローバル人材育成推進事業」によって私立大の採択が増えたため、設置者別の割合としては、国立大 57%、公立大6%、私立大 37%となっているが、「グローバル 30」と「大学の世界展開力強化事業」の2つの事業の合計では、国立大 66%、公立大4%、私立大 30% である。 一方、大学で国際化を進める上での問題として、「資金の確保」が最大の問題として挙がっており(注1)、これらの事業に採択されるかは、各大学での国際化の推進にとって非常に重要であることが推測される。国立大で国際化が進んでいる大きな要因は、採択結果の違いとも言えるだろう。

1983 年

2008 年

2009 年〜

2011 年〜 

2011 年 

2012 年〜

2013 年 

2013 年

2014 年〜

2014 年〜

(文部科学省資料より)

<図表8>大学の国際化に関する近年の主な政策・施策の変遷

<図表7>送り出し・受け入れ以外の大学の国際化への取り組み(設置者別)

83%

0%

20%

40%

80%

60%

100%

その他

秋入学

アカデミックカレンダーの柔軟化

外国人教員の増加

大学教員の英語による授業力向上

日本人学生に対するTO

EIC/TOEFL

等の

成績基準の設定

クオーター制の導入

海外の大学との共同学位

海外の大学との単位互換

52%50%44%

14%17%

9%5%3%

47%

34%31%

44%

20%17%

47%

28%25%17%

5%

49%

8%

20%21%

5%6%6%

■国立大■公立大■私立大

大学の国際化に関する事業は国立大での採択が多い

(注1)朝日新聞×河合塾「ひらく 日本の大学調査」(2013 年度)より。国際化を進める上での問題として挙げた8つの項目のうち、「非常に困難」「困難」の合計数が最も高かった項目が「資金の確保」で合計 73%。次は、「英語による授業担当教員の確保」(56%)と続く。詳しくは、2013 年度ガイドライン9月号、p45 を参照。

(図表1〜7は朝日新聞×河合塾共同調査「ひらく 日本の大学」2013 年度調査より)

留学生 10 万人計画

留学生 30 万人計画

国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネット

ワーク形成推進事業、グローバル 30)

大学の世界展開力強化事業(キャンパス・アジア等)

グローバル人材育成推進会議

グローバル人材育成推進事業

(“Go Global Japan”(GGJ))

教育再生実行会議(第3次提言)、日本再興戦略

世界の成長を取り込むための外国人留学生受入れ戦

略(報告書)

スーパーグローバル大学等事業

海外留学支援制度(グローバル人材育成コミュニ

ティ)の創設

40 Kawaijuku Guideline 2014.4・5

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

 「ひらく 日本の大学」調査によると、各大学では、短期間留学プログラム等の拡充を図っているが、これによって学生が得られるものはなんだろうか。 筑波大学金子元久教授によると、短期の、外国大学での学習経験の拡大は、世界中の先進国の間での大きな課題となり、すでに大きな勢いとなりつつあるという。いずれの国においても、語学の修得だけでなく、学生の自律的で高度な学習をいかに引き出すかが課題となっており、留学経験がそこで重要な役割を果たしえると考えられている。留学経験によって、学生が自分のアイデンティティを確立し、それと大学での学習との関係を意識して、さらに自己を維持しながら他者と共同する、という点で、自律的学習の基礎となることが期待されているそうだ(注2)。 大学教育において、学生の自律的な学習は重要なポイントである。留学プログラムに参加しなくてもそれは可能だが、自分の希望する学部・学科は、国際化やグローバル化には関係ないと思うのではなく、異なる文化や社会に接して自分が何を学びたいかを考えたり、自分とは異なる価値観を持つ人たちと共同し、何かを成し遂げることができる経験の1つとして、留学プログラムを利用することもできるのではないか。 留学プログラムへの参加は、経済的にも負担が大きいが、各大学とも経済的な支援の充実とともに、夏休みや春休みに行われるサマープログラムなど短期間のプログラムのほか、通常の授業の一環として、例えば1週間程度を海外で過ごし、さまざまな体験や研修をするプログラムの拡充などを図っている。 今後、大学選びの指標の1つとして、大学の国際化に注目することが重要になってくるだろう。

留学プログラムの持つ意味

(注2)金子元久(2014)「留学の新段階」『IDE 現代の高等教育 学生の国際交流プログラム』No558

設置者 グローバル30

大学の世界展開力強化事業 グローバル人材育成推進事業

2011 年度採択 2012 年度採択 2013 年度採択 2012 年度採択

A B Ⅰ Ⅱ A B国立 7 14 6 10 4 6 4 13公立 1 1 1 1 3私立 6 2 5 3 1 4 6 15総計 13 17 12 13 5 11 11 31

<図表9>各種国際化に関する事業の採択状況

<図表10>各種国際化に関する事業に採択された大学の一覧

設置者

大学名グローバル30

大学の世界展開力強化事業 グローバル人材育成推進事業

2011 年度採択 2012 年度採択 2013 年度採択

2012 年度採択A B Ⅰ Ⅱ A B

国立

北海道大学 ○ ○ ○東北大学 ○ ○ ○茨城大学 ○筑波大学 ○ ○ ○ ○埼玉大学 ○千葉大学 ○ ○ ○お茶の水女子大学 ○東京大学 ○ ○ ○ ○ ○東京医科歯科大学 ○ ○東京工業大学 ○ ○ ○東京海洋大学 ○東京農工大学 ○一橋大学 ○ ○新潟大学 ○福井大学 ○名古屋大学 ○ ○*1 ○ ○京都大学 ○ ○ ○ ○大阪大学 ○ ○ ○神戸大学 ○ ○ ○鳥取大学 ○岡山大学 ○広島大学 ○ ○ ○山口大学 ○香川大学 ○愛媛大学 ○高知大学 ○九州大学 ○ ○ ○ ○ ○長崎大学 ○ ○政策研究大学院大学 ○

公立

国際教養大学 ○ ○首都大学東京 ○愛知県立大学 ○山口県立大学 ○北九州市立大学 ○名桜大学 ○

私立

酪農学園大学 ○共愛学園前橋国際大学 ○神田外語大学 ○亜細亜大学 ○杏林大学 ○慶應義塾大学 ○ ○*2 ○国際基督教大学 ○芝浦工業大学 ○上智大学 ○ ○ ○昭和女子大学 ○創価大学 ○中央大学 ○東洋大学 ○法政大学 ○武蔵野美術大学 ○明治大学 ○ ○ ○早稲田大学 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○愛知大学 ○京都産業大学 ○同志社大学 ○ ○立命館大学 ○ ○ ○ ○関西学院大学 ○ ○立命館アジア太平洋大学 ○ ○

*1 タイプ A ーⅠで2件採択*2 タイプBのⅠとⅡのそれぞれで採択

(図表 9・10とも文部科学省資料をもとに作成)

Kawaijuku Guideline 2014.4・5 41

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 東京慈恵会医科大学では、国際基準を満たした医学教育への転換を図っており、今年6月には、その基準に基づいた試行的な認証評価のための外部評価を受ける予定である。まずは、その背景を簡単に紹介しよう。 発端は、アメリカの医師免許試験の受験資格が変更されることだ。2023 年以降、世界医学教育連盟 WFME あるいはアメリカ医科大学協会が策定した基準による認証を受けた医学部の卒業生でなければ、アメリカの医師免許試験の受験が認められないことになった。現在、日本の医学部を卒業してアメリカの医師免許試験を受験する人が一定数いるが(注1)、今後は、認証を受けた医学部の卒業生以外は受験できないことになってしまう。 「もともと医師の国際間移動は盛んに行われていましたが、世界的な医学部の急増を受けて、医師の質の保証が世界的にも課題となってきました。各国には独自の医師国家試験がありますが、それらの試験だけでは質の保証が不十分だからです。日本の医師国家試験は筆記試験のみですが、アメリカの医師免許試験は実技も含めて3段階の試験を課しています。しかし、国家試験だけの成績では医師の質の保証が十分ではない、自国民の健康を守ることができないということで、国際基準を満たした医学教育を前提とした受験資格の変更につながったのです」と、教育センター長の福島統教授は事情を説明する。 ポイントは、医師の質を、その医師を養成する医学教育の質によって担保しようという点だ。EU 域内で進行中のボローニャプロセス(注2)と同じ趣旨の試みである。 医学教育の国際認証を受けるには、政府とその国の全医学部に認められた認証評価団体が、国際基準に基づく

東京慈恵会医科大学医学教育の国際基準に合わせ学内に内部質保証の仕組みを構築 医学教育では国際基準が確立されており、日本でも早急にその基準に合わせる必要が出てきた。1881(明治 14)年に高木兼寛が開設した成医会講習所を前身とし、日本最古の私立医学校である東京慈恵会医科大学は、「病気を診ずして病人を診よ」という建学の精神の下、全人的な医療を実践できる医療人を多数育成している。現在、医学教育改革を先導する6大学の1つとして、国際基準に則った医学教育の分野別質保証の実施に向けた取り組みを始めている。

外部評価を実施することが必要になる。しかし、現在、日本では、学士課程における分野別質保証は行われていない。そのため、医学教育でも分野別質保証は行われておらず、認証評価機関もない。 そこで 2012 年から大学改革推進等補助金による「医学・歯学教育認証制度等の実施」事業が始まった。日本医学教育学会が WFME 国際基準に準拠した「医学教育分野別評価基準日本版」(以下、日本版)を策定した。東京医科歯科大学を中心に、東京慈恵会医科大学を含む6大学(注3)が、それに基づいた認証評価のための外部評価を試行的に実施する予定である。認証評価機関としては、日本医学教育認証評価評議会(JACME)(仮称)の設立に向けた検討が進んでいる。 「2012 年 10 月に、東京女子医科大学が日本で初めて国際基準による国際外部評価を受けました。さらに、昨年12 月、新潟大学が日本版による認証を初めて受審しました。今後、本学をはじめ6大学が試行を重ねて、評価基準や仕組みを改善していく予定です」(福島センター長)

 国際基準では何が求められているのか。講義や実習などの教育内容や最低時間数など細目が定められていると思いがちだが、実際は「使命と教育成果」「教育プログラム」「学生評価」など9領域と、その下に位置する 36の下位領域で構成され<表>、その各下位領域において、達成しなければならない“基本的水準”と、今後の改善の方向性を示した“質的向上のための水準”という2つの達成度を示しているにすぎない。 日本版では、例えば「2. 教育プログラム」の、「2.5

自国民の健康を守るため医学教育の質保証が世界的潮流に

医学教育で最も大切なことはプロフェッショナリズムの育成

(注1)アメリカの医師免許試験を受験している日本の医学部・医科大学の卒業生は、2009 年度 68 名、2010 年度 63 名である。(注2)ボローニャプロセスは学士課程と修士課程の学位授与基準を統一して、EU 域内であればどの国の大学を出ても同等の能力を持つことを認めようとする試み。(注3)「国際基準に対応した医学教育認証制度の確立」プログラムの選定大学は東京医科歯科大学で、連携校として千葉大学、東京大学、新潟大学、東京慈恵会

医科大学、東京女子医科大学が参加。

福島統教育センター長

42 Kawaijuku Guideline 2014.4・5

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

<表>医学教育分野別評価基準日本版

臨床医学と技能」という下位領域では、“基本的水準”として「重要な診療科で学習する時間を定めなくてはならない」、“質的向上のための水準”として「全ての学生が早期に患者との接触機会を持ち、徐々に実際の患者診療への参画を深めていくべきである」などと記述されている。 「国際基準では、医学教育で教える内容には具体的に触れていません。医師の『質』は、医師として職責を果たすことができるかどうか、言い換えればプロフェッショナリズムを備えているかどうかで判断されるべきものです。職責を果たすには、最新の知識や技術を獲得する努力をするのは当然なのです。ところが、このプロフェッショナリズムは国家試験では測定できません。だからこそ、医師を育成する教育機関に対して、プロフェッショナリズムを身につけさせることを求めているわけです。国際基準は、患者安全を守るための医学教育という、ただ一点を確保するための指針なのです」(福島センター長) つまり、国際基準による認証とは、学ぶべき領域と達成度を用いて、医科大学・医学部が自らの教育をきちんと現状分析し、使命に沿った改革案を策定しながら常に改善を進めていく仕組みを保証していくものということができる。

 東京慈恵会医科大学では、日本版による認証評価のための外部評価を受けるにあたって着々と準備を重ねている。認証評価に不可欠なものは、国際基準に沿った自己点検評価の仕組みの構築である。そのため、新たに教育 IR(注4)

部門を設立し、WFME 国際標準の原本と日本版、さらにWFME スタンダードに基づいて自己点検評価を行った他大学の報告書などを参考にしながら、自己点検評価のた

めのデータベースのフォーマットの作成を開始している。 「自己点検評価における世界の潮流は、データに基づく客観的な分析による『内部質保証』です。本学の教育活動に関わるデータの収集と分析を容易にするデータベースを構築することで、国際基準に則した評価システムに転換する予定です」(福島センター長) 国際基準では、卒前教育と卒後教育における教育成果を結びつけることも求めている。そこで、卒業生に対するインタビューを複数回行い、大学のカリキュラムと卒業時の教育成果に関する調査を自己点検評価に組み込むことで、卒後教育まで含めた評価が可能な体制を整えた。 「国際基準に対応した医学教育認証制度の確立」プログラム(注 3)では、日本版を使った国際基準に基づく認証評価を 2016 年まで繰り返し行い、経験を蓄積していく。その知見を、やがて設立される JACME(仮称)に引き継ぎ、JACME(仮称)が国際的認証機関として認証されることで、日本の医学教育を国際基準に沿ったものとしていく予定である。 しかし、現在の機関別認証評価と同じ7年ごとに受ける前提だとすると、2023 年の7年前となる 2016 年頃には、国際基準に対応した医学教育認証制度が始まっていなければならない。 「この2年間で、日本の全医科大学・医学部と国民に、国際基準に基づいた医学教育に転換していくことの意味を理解してもらう必要があります。医師の国際間移動の問題は、日本にとっても人ごとではありません。医学教育の質を保証することは、結局はその国の国民を守り、世界の市民を守ることにつながります。認証を受けるといった実務的なことに終始することなく、世界の医療を見据える広い視野に立って、日本の医学教育の国際化を図っていくという意識が求められているのです」(福島センター長)

卒業生インタビューを含め国際基準による自己点検評価の仕組みを構築

1. 使命と教育成果1.1 使命1.2 使命の策定への参画1.3 大学の自律性および学部の自由度1.4 教育成果

2. 教育プログラム2.1 カリキュラムモデルと教育方法2.2 科学的方法2.3 基礎医学2.4 行動科学と社会医学および医療倫理学2.5 臨床医学と技能2.6 カリキュラム構造、構成と教育期間2.7 プログラム管理2.8 臨床実践と医療制度の連携

3. 学生評価3.1 評価方法3.2 評価と学習との関連

4. 学生4.1 入学方針と入学選抜4.2 学生の受け入れ4.3 学生のカウンセリングと支援4.4 学生の教育への参画

5. 教員5.1 募集と選抜方針5.2 教員の能力開発に関する方針

6. 教育資源6.1 施設・設備6.2 臨床トレーニングの資源6.3 情報通信技術6.4 医学研究と学識6.5 教育の専門的立場6.6 教育の交流

7. プログラム評価7.1 プログラムのモニタと評価7.2 教員と学生からのフィードバック7.3 学生と卒業生の実績・成績7.4 教育の協働者の関与

8. 統轄および管理運営8.1 統轄8.2 教学のリーダーシップ8.3 教育予算と資源配分8.4 管理職と運営8.5 保健医療部門との交流

9. 継続的改良

(注4)IR(Institutional Research =機関調査)とは、学内の多様な教育情報を収集し、数値化、可視化して、その分析結果を教育・研究、学生支援、経営などの改革に役立てる取り組みのこと。

(世界医学教育連盟(WFME)グローバルスタンダード2012 年版準拠より9つの領域とその下位領域を抜粋)

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 豊橋技術科学大学は、開学当初より国際化に力を入れてきた。例えば 1990 年から 2002 年まで、JICA(独立行政法人国際協力機構)との連携で「HEDS」と呼ばれる「高等教育開発支援プロジェクト」に参画し、インドネシア高等教育の質の向上に貢献した。それ以降、アジア地域を中心に高等教育の向上に関する取り組みに協力している。また、豊橋技術科学大学の在学生は、約 2,000 名中10%程度が留学生と留学生比率が高く、ASEAN諸国、特に近年ではマレーシアからの留学生が多い。さらに、大学設置の趣旨から、学生の約 80%が高等専門学校(以下、高専)からの編入生であり、その中にはASEAN諸国から高専に留学し、高専から大学に入学する学生もいる。 こうした背景もあって、「三機関が連携・協働した教育改革」事業では、豊橋技術科学大学が「グローバル指向人材育成」を、長岡技術科学大学が「イノベーション指向人材育成」を主に担当している。「グローバル指向人材育成」について、具体的には1. 海外教育施設の設置とグローバル教育 2. 教員のグローバル化支援 3. グローバル工学教育推進機構の設置と事業展開の3つを実施している。

 まず、「1. 海外教育施設の設置とグローバル教育」として、2013 年 12 月にマレーシアのペナン州にペナン校を設置した。その理由について、井上光輝副学長は「エンジニアを育成するためには、座学に加え、実務訓練が不可欠です。そこでペナン校を拠点に、近隣の企業でイ

豊橋技術科学大学マレーシアに海外教育施設を設置し6カ月間の長期インターンシップの拠点に 豊橋技術科学大学は、1976(昭和 51)年に、主に高等専門学校からの編入を受け入れ、大学院に重点を置いた大学として設立された工学系の単科大学である。同様の設置目的の大学として長岡技術科学大学がある。豊橋技術科学大学では、現在、文部科学省の「国立大学改革強化推進事業」として採択された「三機関(豊橋技術科学大学、長岡技術科学大学、国立高等専門学校機構)が連携・協働した教育改革」の中でグローバル指向人材の育成に取り組んでいる。

ンターンシップを実施することを通し、グローバルに活躍できる優秀なエンジニアを育成することにしたのです」と説明する。 ペナンはリゾート地として有名だが、実はマレーシアでも有数の工業地帯であり、周辺には約 300 もの企業が立地する。そこには、東レ、SONY、パナソニックなど日本の企業、インテルやモトローラ、ボッシュなどの多国籍企業のほか、現地企業も多い。業種もエレクトロニクスだけでなく、機械・電気・電子・情報・化学・医薬品・環境など多様な業種が揃っている。さらにマレーシアでは、小・中学校の授業は英語のため、学生が街に出ても英語で会話できる。 「グローバル人材に英語力が求められるのは当然ですが、日本国内で英語だけを学ぶのではなく、実際に現地の人と一緒に働くことを通じて、お互いに理解し合える真のグローバル人材が育成できると考えています。また、現在の日本の学生は、生まれた時から不況ですが、ASEAN諸国には明日は今日より良くなるという右肩上がりの雰囲気があります。そうした熱気の中で働く経験をしてほしいという思いもあります」(井上副学長) ペナン校でのインターンシップは6カ月間と、長期間である点が特筆される。豊橋技術科学大学では、開学当初から国内企業での2カ月間のインターンシップを実施する「実務訓練」を必修科目としている。この2カ月間のインターンシップは、期間も内容も非常に充実したものとして知られているが、ペナン校ではさらに長い6カ月である。それは、海外の企業では、インターンシップとは職場見学や職場体験ではなく、少なくとも6カ月は滞在して、企業で課題を研究したり、製品開発に実際に携わったりするインターンシップを前提としているためだ。

留学生受け入れや国際協力の実績を背景に大学の国際化に取り組む

マレーシアにペナン校を設置し欧米型の長期インターンシップを実現

井上光輝副学長

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

<図>ペナン校を活用したマレーシアを中心としたASEAN諸   国の学生を対象とした大学院教育プログラム(案)

 しかし、日本の大学の学事暦で6カ月間学生を派遣するのは難しい。そのため、「3年次に高専から編入して、約 90%の学生が修士課程に進学する」という特徴を活かし、ペナン校でのインターンシップ希望者は、学部4年生の1月から3月までは必修科目の「実務訓練」として派遣し、現地で学部の卒業式と修士課程の入学式を行い、そのまま4月から6月までは修士課程の選択科目としてインターンシップを行う予定だ。 「2013 年度は試行として 16 人の日本人学生と、費用は自費ですが5人のマレーシア人の学生を派遣しました。来年度以降からは最大 50 名程度をめざして派遣する計画です。さらに、欧米では、工学系は博士論文の作成を企業で行うのが一般的です。そこで、ペナン校でのインターンシップをいわば博士課程での研究として活用し、優秀な学生は博士課程に進んだ際に、インターンシップ先の企業で研究ができるようにしたいと考えています」

(井上副学長)

 「2. 教員のグローバル化支援」については、学生を海外で教育するには教員のグローバル化も不可欠との考えから、教員のFD(注)として実施している。プログラムには、1年程度の長期の「グローバル教員養成プログラム」、1カ月程度の中期の「世界研究拠点ビジットによる教育研究力強化プログラム」、1週間程度の短期の「最先端教育研究動向調査研究プログラム」があり、大学と高専の教員が対象である。 このうち特に注目されるのが、ニューヨーク市立大学クイーンズ校と提携して行う長期のプログラムである。対象は高専教員が中心である(2014 年度は高専教員 10名、豊橋技術科学大学教員1〜 2 名を派遣)。長期プログラムでは、1年間のうち最初の3カ月は豊橋技術科学大学で英語の研修を行う。ニューヨークでの生活で困らないための日常英会話に加え、豊橋技術科学大学の教員とペアになり、留学生を対象に英語で研究指導を行う。ここで一定の準備をした後、ニューヨークに派遣される。 「ニューヨーク市立大学では、それぞれの専門に近い学部の講義を受講し、単位をとってもらいます。授業はもちろん英語です。これは、海外の大学ではどのような講義を行うかを体験してもらうためです。さらに、ニュー

ヨーク市立大学には、英語での講義の方法論を教授する特別プログラムを作ってもらいました。英語が話せれば、英語で授業ができるというわけではありません。どのように内容を組み立てて教えているのか、どのような指導法を用いているのかなど、単に授業で英語を話すのではなく、英語で授業ができる教員を育成するのが狙いです」

(井上副学長) そして、最後の3カ月はペナン校に派遣され、提携校である国立マレーシア科学大学(USM)の学生や、日本の学生に対して英語で講義を行う。さらに、英語でe -ラーニング教材を作成し、それを高専でも活用してもらう計画である。 派遣される教員は、全国の高専 51 校に対して国立高専機構が志願者を公募し、選抜する。なお、豊橋技術科学大学、長岡技術科学大学から派遣される教員は、講義の受講のほか、ニューヨーク市立大学の教員との共同研究を行う予定である。帰国後も共同研究ができる相手先を見つけるとともに、修士課程や博士課程の学生が海外の研究室との交流する環境が整うことも期待している。 「3.グローバル工学教育推進機構の設置と事業展開」は、1と2を円滑に行うために、三機関が連携して 2013 年 10月に豊橋技術科学大学に「グローバル工学教育推進機構」を設置して事業を本格的に展開するものである。 「マレーシア、インドネシアに強い本学に対し、姉妹校の長岡技術科学大学は、タイ、ベトナムにネットワークを持っています。今年度から本格化する取り組みが軌道に乗り、ニーズがあることがわかれば、この事業をさらに拡大・充実させていきたいと考えています」(井上副学長)

高専教員を中心に長期間海外に派遣し「本物の英語の講義」ができる教員を養成

(注)ファカルティ・ディベロップメント

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益田誠也観光学部長

 玉川大学で ELF(English as a Lingua Franca(注1))が導入されたのは、次のような問題意識が出発点になっている。 「英語は話者数では3番目ですが、それにもかかわらず、英語が国際共通語であるのは、英語を母語としない人(ノンネイティブ)同士がコミュニケーションを図る際に、最も多く用いている言語が英語だからです。グローバル化が進行する中で、おそらく日本人が英語を使うときの相手は、8 割がノンネイティブでしょう。英語を専門に学ぶ学生は別として、それ以外の学生に求められる英語力は、完璧なネイティブスピーカーの発音をめざす必要はありません。自分が専門とする分野に関しては、英語でも日本語でも理解でき、自分なりの考えが伝えられる力です。そのための橋渡しとなる英語プログラムを構築したいと考えました」(小田眞幸 ELF センター長) 新しい英語プログラムは、2012 年度、経営学部国際経営学科と観光経営学科(2013 年度に観光学部に改組)、文学部比較文化学科の必修科目として試行された。2013年度に ELF という名称になり、これらの学部・学科に加え、リベラルアーツ学部でも必修科目になったとともに、他学部でも選択科目として受講可能になった。2014 年度には、芸術学部パフォーミング・アーツ学科とメディア・デザイン学科が必修(4セメスター)となり、文学部人間学科でも1セメスターのみだが必修となる。 「受講者数が増加したことから、非常勤教員を採用していますが、採用条件からネイティブであることを撤廃しました。これまで大学の英語教員は、ネイティブであることが最大の条件で、それ以外の資質は軽視されてき

玉川大学世界で通用する英語を身につけるプログラムを導入新設の観光学部では1年間の海外留学を義務化 玉川大学は、トータルな人間性を育む「全人教育」を基盤に、幅広い学問領域を学べる 8 学部を擁する大学である。玉川大学では「ELF」という新しい発想による英語プログラムを導入している。このプログラムは、4つのレベルにクラス分けし、段階的に英語力を高めるとともに、ノンネイティブ教員を積極的に登用しているところに特色がある。また、2013 年度に新設された観光学部では、1 年間の海外留学を義務化している。

たように思います。本学では、 ネイティブかどうかは問わず、『大学院修士課程で英語教授法、あるいは応用言語学を修得』『英語を母語としない学生に教えた経験を有すること』『母語以外の外国語を上級まで学習した経験、つまり苦労して身につけた経験があること』の3つを条件にしました。極めて多くの応募があり、ノンネイティブに優秀な人材が埋もれていたことを実感しています。現在、専任 10 名、非常勤約 40 名、12 カ国にのぼる英語担当教員が在籍しています。中には5〜6カ国語を駆使できるノンネイティブ教員もいます」(小田 ELF センター長)

 ELF は、週2回授業(1回 100 分)が行われる4単位科目で、レベルは1〜4の4段階に分かれている。入学時にプレイスメントテストが実施され、成績上位の学生はレベル2からスタートできる。1クラス 18 〜 20 名(最大 24 名)の少人数制で、学部・学科に関係なく各自のレベルに合ったクラスで学び、各レベルで到達目標が設けられている。 自ら外国語学習経験が豊富な英語教員が担当することによる成果について、小田 ELF センター長は、「ノンネイティブ教員は、自分自身で苦労して英語を修得した経験がありますから、学生がつまづきやすい部分がよくわかっています。例えば、文法を解説するときにそういった部分を詳しく扱うなど、時間配分に長けています」と、十分な手応えを感じている。 また、ELF では、単位の実質化をめざして、週4時間

日本人が英語を使う相手の8割はノンネイティブノンネイティブ教員を積極的に採用

週8時間分の宿題を課しチューターシステムでサポート

(注1)Lingua Franca(リンガ・フランカ)とは共通の母語を持たない人同士のコミュニケーションに使われる言語。

小田眞幸ELF センター長

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

の授業に対して、8時間分の宿題を課している。その支援にもノンネイティブの非常勤教員が活躍している。 「英語の非常勤教員によるチューターシステムを取り入れています。学生には、オフィスアワーの時間に、宿題に関する相談、TOEIC、留学の相談のほか、雑談でもいいので積極的に訪問するように勧めています。会話はすべて英語ですから英語力が高まります。また、英語は国や地域によってアクセントや発音が異なることが少なくありません。12 カ国の教員が在籍していますから、アクセントの違いも体得できます。さらに、チューターシステムができたことによって、非常勤教員に学生の英語力向上への、より大きな責任感が生まれていることも有意義だと思います」(小田 ELF センター長) オフィスアワーの活用は学生の自主性に任されているが、かなり多くの学生が相談に訪れている。それだけ学生の英語学習への意欲が高まっているようだ。

 玉川大学では、2013 年度、経営学部観光経営学科を改組して、観光学部を開設した。観光を通して社会に貢献するグローバル人材の育成をめざす学部で、国際感覚の養成と英語運用能力の向上に力を注いでいる。 特に注目されるのが、1 年間の海外留学が義務化されていることだ。留学先はオーストラリア・メルボルンのディーキン大学、ビクトリア大学、スィンバーン工科大学で、同国のビクトリア州政府の支援を得ている。 「メルボルンの大学を選んだのは、世界一住みたい街に 3 年連続で選定されるなど、治安が良好な街ですし、約 30 カ国から留学生が訪れており、多様な文化が混在している街だからです。現地の大学では、本学の学生だけのクラスを作らず、現地の学生やさまざまな国の留学生と一緒に学ぶことで、多彩な文化、宗教、ものの考え方が理解できる力を身につけてほしいと考えています」

(益田誠也観光学部長) 海外留学を経験するためには、TOEIC500 点以上が条件になる。そのために入学直後から始まるのが 「英語シャワープログラム」 だ。先述した ELF のほか、観光学部独自の授業も含めて、毎日英語を受講する。 「宿題として 1 週間で 7,000 語の英作文を課すなど、徹底的に鍛えます。海外の大学ではハードな宿題が与えら

れますから、それに負けないだけの精神的な強さを養うことも目的です。留学のために必要ということで、学生の意欲は高く、TOEIC の平均スコアは入学時と比較して100 点以上アップしています。入学時で留学基準の 500点を満たした学生は、102 名のうち2名だけでしたが、昨年 12 月段階で 57 名に増加。留学に出かけるまでにはもっと増えると期待しています」(益田学部長) 留学基準を満たした学生は、2年次後期から3年次前期までの 1 年間、留学することができる(注2)。留学先では、英語のレベルに応じた教育を受ける。TOEIC650 点以上の場合は、すぐに現地の大学の授業に参加する。650 点に満たない場合は、いったん併設の語学学校に入り、一定のレベルに達した時点で大学の授業に参加する。基準に達しない学生は語学学校で学んで過ごすことになるが、それは非常に稀な場合だと想定している。 「現地の大学の先生方が、本学の英語プログラムの様子を視察して、9割の学生は少なくとも現地の後期から、大学の授業に参加できるだろうと予想しています。また、最後まで語学学校で学ぶことになっても、語学学校の授業に、マネジメント、会計学などの専門的な内容の科目も組み込まれています」(益田学部長) なお、12 単位までは現地の大学の授業を受けるが、それ以外に、観光学部独自の科目「国際研究」「インターンシップ」が必修科目として課される。「国際研究」 は遠隔講義を実施、「インターンシップ」は約 1 カ月間、現地の企業で就業体験をする。玉川大学は1年間の留学によって16 単位までの履修を認めているが、オーストラリアの多くの大学では 12 単位までしか履修を認めていないため、その分の単位を「国際研究」「インターンシップ」としているのである。このため、留学しても4 年間で卒業が可能である。 帰国後は、専門科目を中心に履修するが、そのうち3〜5割は英語による授業が予定されている。 「観光学部では、TOEIC700 点以上が卒業要件です。そのため、留学を経験した後も英語力の強化に力を入れます。また、英語の学修を意識させるために入学式翌日の学部ガイダンスは英語です。学生からはどよめきが起こりますが(笑)、それで覚悟が決まるようです。かなり早い時期から、さまざまな授業で英語のレポートも課しますが、最初はとまどっていても、3 カ月もすると十分に対応できるようになっており、意欲の高い学生が多いと感じています」(益田学部長)

観光学部では 「英語シャワープログラム」 を実施さらにオーストラリアへの海外留学を義務化

(注2)万一基準に達しない場合は、翌年度に留学できる。

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馬場貴司留学生課 課長補佐

 2013 年度、新たに提唱された国際戦略「2× by 2020」(Double by Twenty–Twenty)の狙いを、国際交流推進機構長の森純一教授は次のように語る。 「京都大学が持つ伝統的な強みは、自由な学風、独善に陥らない対話を大切にする学風が生み出してきた、独創力です。また、京都には 1200 年に及ぶ東西交流が生み出した重層的な文化が蓄積されています。そうした京都大学ならではの強みを原動力として、これまで以上に国際的な評価を高めることが、国際戦略である『2× by 2020』の基本理念です。そのために、研究、教育、国際貢献を3本柱として、2020 年度までにさまざまな国際化の指標を2倍にすることを目標にしています」 例えば、学生の海外留学者は現在の短期 235 名を 2020年度までに 600 名、中長期 544 名→ 1,000 名、海外からの留学生受け入れは学位取得・コース認定型 1,912 名→ 4,000 名、交換留学生 170 名→ 300 名、全学共通科目・専門科目における英語による講義は 5.1%→ 30%、外国人教員数は 240 名→ 500 名、外国人研究者の受け入れは2,950 名→ 6,000 名など、具体的な数値目標が掲げられている。

 留学を希望する学生に対しては、すでに多彩な留学プログラムが実施されている。いくつか例を見てみよう。 2013 年度に本格的にスタートしたのが「ジョン万プロ

グラム」。オックスフォード大学やケンブリッジ大学に、

京都大学国際戦略「2×by 2020」を策定研究、教育、国際貢献を3本柱に国際化を推進 京都大学では 2013 年度、新たな国際戦略「2× by 2020」を策定した。研究、教育、国際貢献を3本柱として、2020 年度までに国際化の指標を現在の2倍にすることを目標にしている。すでに多様な留学プログラムが次々に導入されており、2014 年度から英語で行われる授業が大幅に増加するなど、さまざまな改革が進行している。

大学院生やポストドクター(博士課程を修了し、常勤研究職になる前の研究者)などの若手研究者を派遣し、グローバルマインドを育成して、研究者同士の国際的なネットワーク形成に寄与することが主目的だ。学部生がオックスフォード大学の特別サマースクールに参加できるプログラムもあり、2013 年度は 33 名の学部生・大学院生が派遣された。 「SEND 日本再発見プログラム」は、京都大学が 2012年 10 月に 開 始 し た 大 学 の 世 界 展 開 力 事 業・SEND

(Student Exchange–Nippon Discovery)の一環として、ASEAN を中心とした各国に短期留学できるプログラムだ。留学先の言語・文化を学ぶだけでなく、現地の学生に日本語・日本文化を紹介し、議論を通して相互理解を深め、日本文化の再発見を促進するところに特色がある。そのために、留学前に 「日本語日本文化実習」 の受講が義務づけられている。2012 年度はサマープログラム(修士課程)を実施し、学生 15 名を受け入れ、学生 15 名、教員1名を派遣した。 「国際交流科目」 は、全学共通科目の1つで半期の授業である<表1>。学部1・2年生対象で、夏休み・春休みなどに 10 日前後の日程で、教員と 10 〜 15 名の学生が海外視察や現地大学での受講・研修などを行っている。同行する教員の専門分野に関わる内容の研修であり、例えば、「暮らし・環境・平和-ベトナムに学ぶⅡ」では、メコン川を渡り、水質を調査する。「復興から学ぶ 21 世紀の防災と環境」では、2005 年にハリケーン・カトリーナの被害が大きかったニューオリンズを視察した。 英語圏・海外研修プログラムとして、「Kyoto–DC

Global Leadership Program」は、ワシントン在住の卒業

2020 年度までに国際化の指標を現在の 2倍にすることが目標

「ジョン万」など多彩な留学プログラムを導入交流協定締結校も大幅に増加中

森純一国際交流推進機構長

48 Kawaijuku Guideline 2014.4・5

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「ひらく 日本の大学」 第9回 大学の国際化

生が費用を全額負担して実施される。3回生以上の学部生、大学院生を対象としたプログラムであり、NASA、WHO などの各種機関、現地企業、財団などを訪問し、そこで働く研究者や専門家の講義を受け、ディスカッションをする研修プログラムである。将来、国際的な活躍をしたいという意識を持つ学生を育てたいという思いが込められている。人気が高い研修プログラムで、2013 年度は約6倍の競争率を勝ち抜いた、10 名の学生が参加した。 そのほか、英語圏の海外研修プログラム<表2>としては、カリフォルニア大学デービス校での実習型・夏期短期留学プログラム(2011 年度 22 名、2012 年度 34 名が参加)、オーストラリア英語研修プログラム(2011 年度 62 名、2012 年度 59 名が参加)などもある。 さらに、大学間学生交流協定による短期留学プログラ

ムも実施<表3>。その内容は、語学学習にとどまらず、特別講座の受講、現地学生との共学、フィールドトリップなどが含まれている。 いずれも充実した内容だが、短期の留学プログラムへ

の力の入れ方が目立つ。この点について森国際交流推進機構長は次のように説明する。 「本学の学生には、卒業後、研究者として、あるいは社会人として、世界を舞台に活躍してほしいと期待しています。そのためには、大学在学中、もしくは大学院を修了するまでに、1 年間以上の長期留学を経験することが望まれます。しかし、いきなり長期留学に挑戦するのは難しい面があるため、まずは短期留学を経験して、新しい発見に刺激を受けて、自分なりの課題を見つけて、本格的な長期留学につなげてほしいと考えています。実際、『国際交流科目』でニューオリンズを視察した学生の中には、マイノリティの方々が暮らす地域ほどハリケーンの被害が大きかったことを知り、自分なりに問題意識を感じたのでしょう。その後の学びの真剣さが変わったと聞きました。短期留学プログラムは、そうした学生に『火をつける』意義が大きく、さらに各種プログラムの拡充に力を入れていくつもりです」 もちろん、大学間学生交流協定に基づく、1 学期以上1 年間以内の長期の派遣留学も大幅に拡充される予定だ。

<表1>国際交流科目(半期・全学共通科目拡大科目群)プログラム ・ 内容 留学先 主催部局 留学期間 休学 学費

変容する東南アジア-環境 ・ 生業 ・ 社会 カセサート大学(タイ) 農学研究科 9 月 3 日〜 15 日(13 日間) 不要 自己負担東南アジアの再生可能エネルギー開発 ガジャマダ大学(インドネシア) エネルギー科学研究科 9 月(10 日間) 不要 自己負担暮らし ・ 環境 ・ 平和-ベトナムに学ぶⅡ- フエ農林大学(ベトナム) 地球環境学堂 9 月初旬(2 週間)(前期事前講義有) 不要 自己負担

「復興」から学ぶ 21 世紀の防災と環境 ニューオリンズ等(U.S.A) 防災研究所 2014 年 2 月(1 週間程度) 不要 自己負担

<表2>短期留学プログラム

プログラム名 派遣先機関 対象 派遣期間・ 時期 休学 費用負担

オーストラリア 春季英語研修 プログラム

文系 ・ 異文化 英語研修プログラム シドニー大学

学部生約 3 週間

(2 月中旬〜 3 月中旬)

不要 自己負担理系 ・ サイエンス

英語研修プログラムニューサウス

ウェールズ大学

UC 実習型 ・ 米国夏季短期留学プログラムカリフォルニア大学

デービス校 Extension

2 回生以上の学部生、院生(工学部 / 工学研究科、農学部 / 農学研究科、経営管理大学院)

約 3 週間 (8 月上旬〜

9 月上旬)不要 自己負担

米国短期留学プログラム “Kyoto‒DC Global Leadership Program”

ワシントン DC の各種機関および現地企業 ・財団を訪問

3 回生以上の 学部生、院生

約 2 週間 (2 月末〜 3 月初旬)

不要

S&R Foundation が負担。ただし、関西国際空港までの交通費、現地での食事代、電話代などの個人的な費用、研修日程以外および自由行動に伴う費用、海外旅行保険料等を除く。

<表3>大学間学生交流協定による短期留学プログラム

プログラム名 対象 休学 派遣期間 ・ 時期 学費免除 (2012 年度の場合)

香港中文大学インターナショナルサマースクール英語コース

学部生 ・ 院生

所属部局と要相談 約 4 週間(6 月末〜 7 月末) 学費免除香港中文大学インターナショナルサマースクール中国語コース 不要 約 3 週間(8 月) 学費免除韓国 ・ 慶北大学校の夏休み文化研修プログラム 不要 約 1 週間(8 月初旬) 学費免除中国 ・ 西安交通大学サマースクール 不要 約 2 週間(9 月中旬〜下旬) 学費免除中国 ・ 浙江大学スプリングスクール 不要 約 2 週間(3 月上旬〜中旬) 学費免除台湾 ・ 国立清華大学スプリングスクール 不要 約 2 週間(3 月上旬〜中旬) 学費免除韓国 ・ 延世大学校のスプリングスクール 不要 約 3 週間(3 月)

(2014 年3月現在)

Kawaijuku Guideline 2014.4・5 49

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現在、京都大学の協定校は約 60 校で、2012 年度は 79 名が参加した。「2× by 2020」では、学術交流協定 93 件→ 200 件、学生交流協定 69 件→ 150 件に増やすという数値目標が設定されている。特に現在、協定校がなく、学生からの希望も多いスペイン、イタリア、ブラジルなどについては、協定締結に向けた動きが始まっている。

 こうした留学制度を実りのあるものにするためには、学生の英語力を高めることが前提である。そこで、「2×by 2020」では、英語力を測る指標の1つである TOEFL iBT で 80 点以上(IELTS の場合は 6.0 点以上)を、学部卒業時までに達成する学生の比率を 50%に引き上げるとしている。 また、2013 年度には、1・2 年生が中心に学ぶ全学共通科目の企画・運営を担う新組織「国際高等教育院」が設置された。この名前には、国際的な学びの環境を充実させたいという思いが込められている。 「全学共通科目は約 1,000 科目開講されていますが、将来的にその半分を英語による授業にする構想です。その手始めとして、2014 年度には約 110 科目を英語で実施します。2013 年度までは英語による授業は 26 科目で、しかもその多くは外国人留学生が主な対象でしたから、大幅な増加となります。この構想を実現するために、2013年度からは、毎年約 20 名の外国人教員を新規採用します。それによって、今後の京都大学では、英語で授業を受けるのは何ら特別なことではなく、ごく当たり前になっていくでしょう。つまり、『英語を学ぶ』のではなく、『英語で学ぶ』環境になっていくわけです」(森国際交流推進機構長) もちろん、専門科目でも英語による授業の拡大が予定されており、全授業の約 3 割にするという目標が設定されている。日常的に英語で授業を受けていれば、当然、海外に留学しても、抵抗感なく授業が受けられるようになるはずである。 さらに、京都に立地する大学の特徴を生かして、系統

講義 「京都で学ぶ日本学・アジア学」 も開設された。いままで京都に関する授業はあったが、それを系統立て、かつ正課外授業も増やして、体系化したものだ。留学先では、日本の政治・文化・社会などに関する見識がなけ

れば相手にされない。英語力とともに、日本について語れるだけの素養を身につけておくことは重要なことといえるだろう。

 森国際交流推進機構長は、こうした制度面の充実を図るとともに、早い時期から学生の留学意欲を高める指導の強化も重要になると語る。 「3 年生になってから留学を希望しても、就職や、研究室・ゼミの活動で多忙になり、なかなか困難になるのが実情です。特に大学間交流協定校への長期留学は、2年次に体験するのが最もよいのですが、英米圏の大学の受け入れ条件はかなり厳しいので、1 年間程度の準備が必要です。そこで、早めに留学への意識づけを図るために、さまざまなイベントを開催しています」 例えば、入学直後の 「新入生特別セミナー」 では、多彩な留学プログラムの内容と、参加するためにどのような勉強が必要になるのかを紹介する。 また、そのほか、留学生課でも独自のイベントを行っている。 「年間約 20 回、昼休みにキャンパス内で『留学フェア』を開催しています。内容は回によって異なります。例えば、留学体験談のほか、専門家による危機管理の講演、留学経験者による相談会など、さまざまな内容を実施しています。最近では、学生が自主的に主催する『海外大学留学説明会』も増えています」(研究国際部留学生課馬場貴司課長補佐) このように、京都大学では国際化に向けた多様な戦略が進行している。このほか、「2× by 2020」のもう1つの柱である研究機能では、若手研究者に5年間、自由な研究環境を提供し、世界トップレベルの研究者を養成する 「白眉プロジェクト」 など、3本目の柱である国際貢献に関しては、グローバルリーディング大学院構想のもと、大学院生に海外インターンシップの機会を与えて、将来、国際的な機関で貢献できる人材の育成をめざすなど、さまざまな取り組みが進められている。 近い将来、こうした多様な活動を集約して、より全学的な戦略性を持って推進するために、「京大グローバルアカデミー(仮称)」 という組織を設立することも構想されている。

毎年約 20名の外国人教員を新規採用「英語で授業を受ける」 のが当たり前の環境に

早期から留学への意識を高めるために留学関連のセミナー、フェアを開催

50 Kawaijuku Guideline 2014.4・5