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地域資源を活かした 農村の振興・活性化 3

地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

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地域資源を活かした農村の振興・活性化

第3章

Page 2: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

農村は、農業の持続的な発展の基礎として国民に食料を安定供給するとともに、国土の保全や水源の涵

かん養よう

等多面的な機能の発揮の場となっています。しかし、農村では都市部に先駆けて高齢化や人口減少が進行し、地域によっては、集落機能や地域資源の維持にも影響が生じることも懸念されています。

一方で、近年、都市に住む若者を中心に農村の魅力の再発見が進み、都市と農村を人々が行き交う「田園回帰」ともいうべき流れが生まれるなど、農業・農村の価値が再認識され、農村の活性化につながる動きも見られています。

このような中、これからも農村が魅力ある存在であり続けるためには、農村の直面する課題を農村の住民のみならず、都市住民も含めた国民全体の課題として認識することが必要です。

(地方創生と農村の活性化)平成20(2008)年をピークに我が国の人口は減少傾向が続いていますが、特に農村地

域における人口減少及び高齢化の進行が顕著です(図3-1)。さらに総農家数が減少する一方で、土地持ち非農家 1数が増加しており、農村における農地等の資源やコミュニティの維持が困難になる可能性があります(図3-2)。また、多くの市町村において、事務事業の見直しや組織の合理化等による職員数、特に農林水産部局の職員数が減少している中、市町村財政の農林水産業費も大きく減少しており、将来にわたって地方における農政の推進体制の確保が必要となっています(図3-3、図3-4)。

図3-1 農村における人口・高齢化の推移と見通し

昭和45年(1970)

55(1980)

平成2(1990)

12(2000)

22(2010)

32(2020)

42(2030)

52(2040)

総人口 (推計)万人 %

農村人口

農村の高齢人口

422

4,867

8.7

525

4,71311.1

686

4,54615.1

937

4,412

21.3

1,123

4,194

26.8

1,307

3,919

33.4

1,269

3,584

35.4

1,211

3,225

37.5農村の高齢化率(右目盛)

全国の高齢化率(右目盛)14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

40

30

20

10

0

資料:総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)」を基に農林水産省で推計

注:1)国勢調査における人口集中地区を都市、それ以外を農村とした。2)高齢化率とは、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合

重点 テーマ

地方創生の動き人口減少や高齢化が進行する中、農業・農村の価値が再認識され「田園

回帰」の流れが生まれつつある。このような中、農村が有する地域資源を活用し住民自らが様々な取組を行い、地域活性化を目指す動きが見られる。

1 [用語の解説]を参照

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地方創生の動き重点テーマ

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しかしながら、農村を活性化させ、魅力ある存在とするためには、そこに人が住んでいなければならず、そのためには「田園回帰」の対話型社会を実現し、若者も高齢者も全ての住民が安心して生きいきと暮らしていける環境を作り出すことが重要です。このように農村をめぐる状況が大きく変化している中、平成26(2014)年11月に、まち・ひと・しごと創生法が制定され、関係府省の連携により政府全体で地方創生の深化を推進していくこととしています。

また、新たな食料・農業・農村基本計画(平成27(2015)年3月閣議決定)では、まち・ひと・しごと創生総合戦略等を踏まえ、関係府省の連携の下、農村の振興に向けた取組を総合的に推進することとしており、農林水産省においても、食料・農業・農村基本計画と併せて「魅力ある農山漁村づくりに向けて」(農山漁村活性化ビジョン)を策定し、①農山漁村にしごとをつくる、②集落間の結び付きを強める、③都市住民とのつながりを強めるという3点を基本的な視点とした農村の活性化に向けた方策の推進と地域の実践活動を後押しすることとしています(図3-5)。

このような観点から、農村の活性化に向けた地域コミュニティ機能の発揮等による農地等の地域資源の維持・継承や住みやすい生活環境の実現、都市と農村の交流や都市住民の移住・定住の促進、インバウンド需要 1にも対応した農村における雇用の確保と所得の向上等の取組が行われています。

図3-4 市町村における部門別普通会計決算額の比較(平成14(2002)年度=100)

総額

100100109109

100100

6767

100100

167167

農林水産業費 民生費

指数平成14(2002)年度

平成25(2013)年度

180

160

140

120

100

80

60

0

資料:総務省「地方財政統計年報」を基に農林水産省で作成

図3-3 市町村における部門別職員数の比較(平成14(2002)年=100)

一般行政関係

8080

6868

8181

100100100100 100100

農林水産関係 民生関係

指数 平成14(2002)年平成26(2014)年

120

100

80

60

0

資料:総務省「地方公務員給与実態調査」を基に農林水産省で作成注:各年4月1日現在

1 訪日外国人旅行者による様々な需要

図3-2 総農家数と土地持ち非農家数の推移

平成12年(2000)

1,097 1,2011,374

3,1202,848

2,528

2,155

1,414

17(2005)

22(2010)

27(2015)

総農家数

土地持ち非農家数

千戸3,500

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

資料:農林水産省「農林業センサス」

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第3章

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図3-5 農山漁村活性化ビジョン(イメージ)

資料:農林水産省作成注:魅力ある農山漁村の概念図であり、地域の特色に応じて様々な配置が考えられる。

農山漁村にしごとをつくる 都市住民とのつながりを強める

集落間の結び付きを強める

【「地域内経済循環」のネットワーク構築】

【社会的企業(ソーシャル・ビジネス)の活躍】

【女性の担い手・社会経験を積んだ者の活躍】

【拠点への機能集約とネットワーク化の強化】

【地域の暮らしを支える取組】

【多様なライフスタイルの選択肢の拡大】

【都市と農山漁村の結び付き】

人口減少や高齢化が進んだ島根県浜はま

田だ

市し

金かな

城ぎ

町ちょう

美み

又また

地区では、地域の資源である食材等を活用した地域活性化の取組を展開しています。

平成23(2011)年に地域住民等で設立された美又湯気の里づくり委員会は、地域特産の古代米、黒米に着目して、栽培、加工・商品化することを検討し、地域全戸を対象としたワークショップ等で商品名やパッケージデザイン等を決定しました。委員会は地域に特定非営利活動法人*美又ゆめエイトを設立、黒米を加工した焼酎の商品化に成功するとともに、同じく地域特産の黒大豆を加工した豆腐と併せ、黒食材と称して地元の美又温泉で販売しています。ブランド化の推進により、黒米や黒大豆を栽培する農業者の所得が3倍に増加する効果も出ており、地域資源を活用して「地域まるごと6次産業化」を実践しています。(第2回「ディスカバー農

む ら山漁村の宝」選定地区)

* [用語の解説]を参照

地域資源を活用した地域活性化の取組事 例

広島県

島根県

山口県

浜田市

黒米と黒大豆を加工した 焼酎と豆腐

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地方創生の動き重点テーマ

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(地域コミュニティ機能の維持・発揮)高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

模の縮小等により、地域コミュニティ機能の維持が困難になりつつあります。このような状況では、これまで地域の共同活動により維持されてきた農地等の地域資源の継承や地域の特性に応じた付加価値の高い農産物の生産・加工・販売等の活動の展開が困難となることも懸念されます。

このような中、地域全体でのコミュニティ機能の維持・発揮を図るため、地域の実情を踏まえつつ、小学校区など、複数の集落が集まる地域において、生活サービス機能等を基幹集落に集約・確保した「小さな拠点」と周辺集落をネットワークで結ぶ取組を関係府省の連携により推進することとしています。

そのためには、住民自らが主体となって話し合い、地域の将来像の合意形成とその実現に向けた取組を進めていくことが重要です。具体的には、地域住民からなる組織を中心として庭先集荷等の生活サポート等地域の暮らしを支える取組や、複数集落の連携による地域資源の維持や農産物の高付加価値化等を展開することが考えられます。その際には、市町村担当者や専門知識を有したファシリテーター1等、地域内外の多様な人材が参画したワークショップ等を実施することが効果的です。

このような取組を通じて、住民が主体となり日常生活に必要なサービスを確保・提供し、集落間の結び付きを強めていくことが重要であり、関係府省が連携し、その推進を図っているところです。

新潟県 上じょう

越えつ

市し

櫛くし

池いけ

地区は、櫛池川の両岸に散在する11集落からなり、肥沃な農地による稲作を主産業とした自然豊かな地域です。他方、標高100mから450mの中山間地域に位置し、冬期の積雪が2mから3mにまで及ぶなど、農業生産条件や居住条件が厳しく、集落人口の減少や高齢化の進行に伴い、農業生産や居住が困難となることが懸念されていました。

そこで、平成17(2005)年度から始まった中山間地域等直接支払の第2期対策をきっかけとし、地区全体で集落や農地等の地域資源の維持管理等を行う櫛池農業振興会を設立しました。

櫛池農業振興会は、農業上の共同活動にとどまらず、農産物の加工・販売や農産物の出荷手段に乏しい生産者への庭先集荷サービス、都市との交流活動の受入体制構築による地域の活性化を推進しています。また、小規模・高齢者集落間の生活支援も含めた取組を行い、安心した地域居住の実現を目指しています。

集落間の連携による生活支援も含めた農業振興の取組事 例

新潟県

群馬県 栃木県

福島県上越市

庭先集荷の様子

1 会議等において進行役として中立の立場でプロセスに関わり合いながら、会議の目的に沿って進むよう支援していく者

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第3章

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(多様な人材の都市部から農村への移住・定住)都市と農村の交流は、それぞれの住民による相互理解を深めつつ、農村の価値を再評価

することで、農村に人を呼び込み、新たな経済活動を創出する契機となることが期待されています。このような中、都市と農村との交流を一過性の取組に終わらせることなく、都市との交流人口を増加させ、農村への移住・定住へと発展させている事例が全国各地で展開されています。平成26(2014)年に東京在住者を対象とした移住に関する意向調査によると、今後地方へ移住する予定又は移住を検討したいと回答した人は全体の4割、関東圏以外の出身者においては5割となっており、移住を検討している住民が一定程度存在する結果となりました(図3-6)。

図3-6 東京在住者の今後の移住の希望の有無

関東圏以外の出身者

全体

移住したい・移住予定40.7

49.7

1年以内

2.3 6.7 5.0 35.7 50.3

59.328.83.55.82.7

5年以内10年以内

%100806040200

具体的な時期は未定

移住希望はない

資料:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(平成26(2014)年9月公表)

地方への移住希望者の面談やセミナーの開催、電話での問合せに応じている特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センターによると、移住を検討している都市住民から相談等を受ける件数は年々増加傾向にあります(図3-7)。また、移住を検討している住民の年齢構成では、若年層の割合が増加しており、移住に関心を示す年齢層に変化が生じつつあります(図3-8)。 図3-7 移住相談者数の推移

電話等問合せ 面談・セミナー参加等

25,000人

20,000

15,000

10,000

5,000

0平成20年(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

2,4753,823

6,021 7,062 6,445

9,653

12,430

21,584

資料:特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センター調べ

図3-8 移住相談者等の年代別割合

平成20年(2008)

22(2010)

24(2012)

27(2015)

~20歳代16.1

28.7

22.6

16.3

12.83.4 70歳代~

60歳代

50歳代

40歳代

30歳代

100

75

50

25

0

資料:特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センター調べ

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地方創生の動き重点テーマ

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しかしながら、これら移住を希望する者にとっては、地方での仕事の確保、生活施設や交通手段の利便性等、解決すべき課題が多数存在しています(図3-9)。このことから、都市と農村の交流から移住・定住への発展を戦略的に進めるためには、移住・定住希望者が「お試し」的に居住できる仕組みづくりや複数地域に生活・就業拠点を有する二地域居住の促進、移住前後のきめ細かな相談体制の整備を図ることが重要です。また、農村での就業に結び付けるためには、空き家、廃校等を活用した就農研修施設等の整備や、就農と住居をパッケージ化した総合的支援プランの策定等の取組を推進することも重要です。

図3-9 都市住民が農山漁村地域に定住する際の問題点

都市住民が定住するための

仕事がない

買い物、娯楽などの

生活施設が少ない

地域内での移動のための

交通手段が不便

医療機関(施設)が少ない

都市住民を受け入れる

サポート体制が整備されていない

子どもの教育施設が少ない

保育所等、就学前の子育て

環境が不十分

介護施設、福祉施設が少ない

近所に干渉されプライバシーが

保てないと都市住民が思う

地域住民が都市住民の

受け入れに消極的

75

50

25

0

平成17(2005)年調査

54.0

63.0

44.3 44.037.0

25.921.3 19.9

26.522.3 22.8

30.9

14.722.5

29.1

17.613.1

平成26(2014)年調査

資料:内閣府「農山漁村に関する世論調査」(平成26(2014)年8月公表)注:1)主な課題のうち平成26(2014)年調査項目の上位10位までを記載

2)居住地域に関する認識について「どちらかというと農山漁村地域」、「農山漁村地域」と回答した者から複数回答3)*は、平成26(2014)年のみの調査項目

***

さらに、農林水産省では、このような取組と併せて、地域の活性化を担う人材の育成に取り組む集落等を支援するため、平成20(2008)年度から「田舎で働き隊」事業により、農村に関心を持つ都市住民等を農村に派遣しています。本事業により派遣された者の中には、事業終了後も地域に定着し、地域のコーディネーター等として活躍している例も見られます。このような多様な人材が、地域住民では気付かない未利用資源を利活用することによって、地域活性化に取り組んでいます。

なお、本事業は平成27(2015)年度から総務省が実施する「地域おこし協力隊」と名称を統一するとともに、合同説明会や合同研修の実施、全国サミットを通じた隊員間の交流促進等の一体的な運用を行い、地域の人材育成や定住に向けた取組を強化しています。

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第3章

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兵庫県のほぼ中央部に位置する神かみ

河かわ

町ちょう

は、人口約1万2千人、町の面積の8割を山林が占める中山間地域です。

同町は他の中山間地域同様に高齢化・人口減少が進んでおり、集落に点在する空き家の利活用が地域の大きな課題となっていたため、都市住民の移住受入れを進めて町の活性化を目指すこととしました。平成22(2010)年には、建築業者、地域住民代表等で構成する、かみかわ田舎暮らし推進協会が設立され、同町が実施する「空き家バンク・空き土地運営」と連携して、田舎暮らし体験イベント、空き家見学ツアーや空き家再生等に取り組むことにより都市住民の移住を推進しています。

このうち、空き家再生の取組では、空き家再生講習会を開催し、都市部からのボランティアが地元の技術職人から空き家の改修・修繕技術を学んでいます。

これらの取組みの結果、平成26(2014)年度までに、改修を施した空き家等に140人が移住し、移住者自らがオーナーとなった店もオープンしています。また、空き家を活用した田舎暮らし体験施設を2件、空き家・空き店舗を利活用した店を11件(うち交流施設6件)開業するなどした結果、神

かみ河かわ

町ちょう

全体の交流人口は年間約70万人となり、移住者の増加と併せて地域の活性化に結び付いています。(第13回 オーライ!ニッポン大賞 審査委員会長賞受賞事例)

中山間地域の空き家を活用した地域活性化の取組事 例

大阪府

京都府兵庫県鳥取県

神河町

空き家再生講習会の様子

旅行会社においてインバウンド業務等に従事していた柴しば

田た

さほりさんは、平成22(2010)年に「田舎で働き隊*1」として長野県飯

いい山やま

市し

に赴き、グリーン・ツーリズム拠点施設で都市農村交流に係る取組を行っていました。任期満了後は現地に移住し、現在は、一般社団法人信州いいやま観光局の職員として、着地型旅行商品*2の開発や営業等の業務に従事しています。

旅行商品として、飯山の伝統工芸である仏壇に関係した体験商品や酒蔵巡りツアーを開発し、わら細工づくり体験メニュー開発に関しては地域の高齢者に指導役として協力してもらうなど、移住者の視点で地域の魅力や価値を発信することを心がけています。また、地域に多数存在する古民家を後世に残したいと考え、古民家で映画を上映する映画祭を開催するなどユニークな取組も行いました。

これらの活動により国内のみならず海外からの旅行者も増えつつあり、柴田さんは今後も地域の人とのふれあいを通じて飯山の自然、文化、人の魅力を発信し、地域と都市・海外の交流、地域の活性化につなげたいと考えています。(第12回 オーライ!ニッポン大賞 ライフスタイル賞受賞事例)*1 現在の名称は「地域おこし協力隊」*2 旅行者を受け入れる地域が企画する、その地域の観光資源を利用した旅行商品

田舎で働き隊をきっかけとした移住と都市農村交流活動への従事事 例

山梨県

富山県

新潟県

岐阜県

長野県

群馬県

飯山市

海外からの旅行者

178

地方創生の動き重点テーマ

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山形県南部に位置する飯い い で

豊町まち

中なか

津つ

川がわ

地区は、123世帯、305人、10集落で構成された山村集落です。

当地区では昭和49(1974)年、将来の人口減少等に危機感を持ち、中津川むらづくり協議会を立ち上げ、「地域と自然共生」や「住みよい中津川」等を目指し、農家民宿や移住・定住支援に取り組んでいます。

このうち、農家民宿には、平成26(2014)年度に1,165人が宿泊し、うち157人は台湾からの宿泊者でした。この農家民宿の取組により、都市と農村の交流が活発となり、高齢者の活動の場が広がりました。

また、移住・定住支援の取組では、農業や暮らし・雇用など専門分野ごとの支援員制度を設け、移住を希望する人をサポートしています。この取組により、平成23(2011)年度以降、7世帯15人が同地区へ移住し、農業のほかカフェの経営や草木染めなど様々な分野に就業しています。地区では、移住者が新たな移住・定住希望者の相談相手となっており、自主的に独自のホームページを開設し、SNS*等を活用した都市住民への情報発信に努めるなど、都市と農村の交流を通じ、地域の活性化が期待されています。(第12回 オーライ!ニッポン大賞受賞事例)* Social Networking Serviceの略。登録された利用者同士が交流できる

ウェブサイトのサービス

農家民宿、定住化促進を通じた農村の維持・活性化事 例

秋田県 岩手県

宮城県山形県

新潟県

飯豊町

農家民宿オーナー

移住者宅

(インバウンド需要への農村における取組)食をテーマに開催された2015年ミラノ

国際博覧会における日本館の盛況を始めとして、諸外国における我が国への関心は高くなっており、近年の円安方向への推移、新たな世界遺産の登録、短期滞在ビザの免除や緩和等もあいまって、訪日外国人旅行者数は、平成27(2015)年には約1,974万人と過去最高になりました(図3-10)。訪日外国人旅行者はその旅行において、我が国における食事に大きな期待を持っており、旅行中の飲食費として約6,400億円の消費をもたらしています(図3-11、図3-12)。

図3-10 訪日外国人旅行者数の推移

平成17年(2005)

19(2007)

21(2009)

23(2011)

25(2013)

27(2015)

万人2,000

1,500

1,000

500

0

1,974

673

733835

835

679

861

622

836

1,036

1,341

資料:日本政府観光局(JNTO)(平成28(2016)年1月公表)

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第3章

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図3-12 訪日外国人旅行者消費額(平成27(2015)年)

億円宿泊費

8,974億円

億円飲食費

6,420億円

億円交通費

3,678億円娯楽サービス費1,058億円

買い物代14,539億円

その他102億円

旅行消費額34,771億円

資料:観光庁「訪日外国人消費動向調査」(平成28(2016)年1月公表)

図3-11 訪日前に最も期待していたこと(全国籍・地域、単一回答)

日本食を食べること34.4%

ショッピング14.1%

自然・景勝地観光13.1%

温泉入浴7.1%

5.2%

4.8%

テーマパーク

日本の歴史・伝統文化体験

その他21.3%

資料:観光庁「訪日外国人の消費動向 平成26年年次報告書」を基に農林水産省で作成

注:その他は、繁華街の街歩き、四季の体感等

訪日外国人旅行者の多くは東京や大阪等の大都市を中心に訪問していることから、今後はこれら旅行者を地方へ呼び込むことが重要です。このため、農林水産省では、地域の食とそれに不可欠な食材を生産する農林水産業や特徴ある歴史、文化、景観等の地域の観光資源を一体的に海外に発信するための仕組みとして「食と農の景勝地」を創設し、観光庁等の関係府省庁のインバウンド促進施策と連携して情報発信していくこととしています。また、農林水産省と観光庁は、平成27(2015)年5月に外国人旅行者の農山漁村への訪問・滞在を促進し、農山漁村地域の活性化を図ることを目的として「Japan.Farm Stay」シンボルマークを制定し、訪日外国人旅行者の受入に意欲を有する農林漁業体験民宿のブランド化を推進しています

(図3-13)。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控え、今後更に増加が見

込まれる外国人旅行者を地方へ呼び込み、農村における交流人口の拡大や農林水産業の成長産業化を進めることで、雇用の確保と所得の向上に結び付くことが期待されています。

図3-13 Japan.FarmStayシンボルマーク

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地方創生の動き重点テーマ

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平成27(2015)年9月、岩手県遠とお

野の

市し

と住すみ

田た

町ちょう

の遠野・住田ふるさと体験協議会は、欧米を含む諸外国の旅行会社社員を対象として農家民宿への宿泊体験や農業体験ツアー*を受け入れ、我が国の農業・農村地域の魅力をアピールしました。

この体験ツアーには3泊4日の日程で、13の国や地域から30人が参加しました。体験ツアーでは、「Japan.Farm Stay」に認定されている農家民宿での食事や宿泊、農作物の収穫体験等が行われ、参加者からは「農業や漁業、ホームステイ等の田舎の生活の体験を通して、日本の田舎暮らしを深く知ることができた」等の感想がありました。

参加した旅行会社社員はこの体験ツアーを通じて、日本の農業・農村地域を対象としたツアーの商品開発を進めたいとしており、これらニーズを踏まえた訪日外国人旅行者の受入体制を早急に構築することが必要です。(第2回「ディスカバー農

む ら山漁村の宝」選定地区)

* VISIT JAPAN トラベルマート2015(日本政府観光局(JNTO)主催)の一環で行われたもの

日本のグリーン・ツーリズムのセールスポイント

地元の人たちとのふれあいや交流自然や農村、漁村の景観

果物を収穫してその場で食べる味覚狩り米や野菜、果物などの収穫体験

それぞれの地域に伝わる郷土料理(和食)田植えや草刈りなどの農作業体験

日本の田舎の暮らし(伝統的な暮らし)体験山や森林の散策

地域の伝統的な文化や行事、芸能等の体験地引き網や船釣りなどの漁業体験

86.776.7

70.070.0

63.360.0

26.726.723.3

10.0 %100500

資料:農林水産省調べ注:参加者へのアンケート調査・複数回答

外国の旅行会社を招いての農業・農村体験ツアーの実施事 例

山形県

秋田県 岩手県遠野市

住田町

稲の収穫体験

181

第3章

Page 12: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

1 農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮第 節

農業の持続的な発展の基盤であり、農業の持つ多面的機能の発揮の場でもある農村地域では、人口の減少や急速な高齢化の進行により、集落機能や地域資源の維持が困難となる懸念が生じています。他方、多様な主体との交流等を経て伝統的な農業・農村における地域資源の価値等が再認識され、農村の振興・活性化に向けた動きもみられます。以下では、農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮を図るために講じている施策や取組について記述します。

(農業・農村の持つ多面的機能)農業・農村は食料を供給する機能だけではなく、農業生産活動を通じて、国土の保全や水源の涵

かん養よう、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、様々な機能を有して

おり、このような多面にわたる機能による効果は、地域住民を含め国民全体が享受しています(図3-1-1)。

図3-1-1 農業・森林・水産業の多面的機能

資料:日本学術会議答申を踏まえ農林水産省で作成注:図中の用語については、[用語の解説]を参照

かんよう

かんよう

182

農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮第1節

Page 13: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

また、農業、林業及び水産業は農山漁村地域において、それぞれの基盤である農地、森林、海域の間で相互に関係を持ちながら、水や大気、物質の循環等に貢献しつつ、多面的機能を発揮しています。平成26(2014)年度には、これら農業・農村が有する多面的機能の維持・発揮を図るために行われる地域活動や農業生産活動、環境保全に効果の高い営農を支援する目的で日本型直接支払制度が創設されました(図3-1-2)。また、平成27(2015)年度からは「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、国、都道府県及び市町村が相互に連携を図りながらこれらの取組が実施されています。

(多面的機能支払)多面的機能支払では、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を図るための地域の共同活動に係る支援を行い、地域資源の適切な保全管理を推進することとしています。多面的機能支払のうち農地維持支払は、地域共同で行う水路の泥上げ、農道の路面維持等の地域資源の基礎的な保全活動等を対象としています。また、資源向上支払は、水路、農道等の軽微な補修や植栽による景観形成等農村環境の良好な保全を目的とした地域資源の質的向上を図る共同活動や施設の長寿命化のための活動を対象としています(図3-1-3)。これらの取組は、水田のみならず畑地や草地においても拡大しており、平成28(2016)年1月末現在の取組の見込みとして、農地維持支払は217万8千haの農用地を対象に2万8千組織、資源向上支払は193万3千haの農用地を対象に2万3千組織となっています(図3-1-4)。

183

第3章

図3-1-2 日本型直接支払制度の全体像

多面的機能支払

中山間地域等直接支払

環境保全型農業直接支払

【農地維持支払】農道の路面維持等の地域資源の基礎的保全活動等を支援

中山間地域等の条件不利地域の農業生産活動の継続を支援

自然環境の保全に資する農業生産活動を支援

【資源向上支払】水路、農道、ため池の軽微な補修等の地域資源の質的向上を図る共同活動等を支援

農道の路面維持

水路の補修

中山間地域

堆肥の散布

資料:農林水産省作成

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図3-1-3 多面的機能支払の構成

農地法面の草刈り 水路の泥上げ

ため池の草刈り 農道の路面維持

水路のひび割れ補修 農道の窪みの補修

植栽活動 ため池の外来種駆除

多面的機能支払

農地維持支払 資源向上支払【対象者】農業者のみ又は農業者及びその他の者(地域住民、団体等)で構成する活動組織

【対象活動】・農地法面の草刈り、水路の泥上げ、農道の路面維持等の地域資源の基礎的保全活動

・農村の構造変化に対応した体制の拡充・強化、保全管理構想の作成 等

【対象者】農業者及びその他の者(地域住民、団体等)で構成する活動組織

【対象活動】・地域資源の質的向上を図る共同活動(水路、農道、ため池の軽微な補修、農村環境保全活動の幅広い展開等)

・施設の長寿命化のための活動

資料:農林水産省作成

図3-1-4 多面的機能支払交付金の実施状況

平成19年度

(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

17,12218,973 19,514 19,658 19,677 18,662 19,018

24,88528,157

116.0136.1 142.5 143.3 143.0 145.5 147.4

196.2

217.8

活動組織数

取組面積(右目盛)

組織30,000 300

25,000 250

20,000 200

15,000 150

10,000 100

5,000 50

0 0

万ha

資料:農林水産省調べ注:1)平成27(2015)年度は、平成28(2016)年1月末現在の概数値

2)平成19(2007)年度から平成22(2010)年度までは「農地・水・環境保全向上対策」、平成23(2011)年度から平成25(2013)年度までは「農地・水保全管理支払交付金」における共同活動支援交付金の取組状況を参考として掲載

184

農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮第1節

Page 15: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

日本一のもち米作付面積を有する北海道北部の名な寄よろ市しでは、約

8,200haの農地を対象に、多面的機能支払に係る共同活動が実施されています。この地域は平成13(2001)年度の記録的な豪雨により農地の湛

たん

水すい被害を受けたため、田んぼダム*の検討がなされ、平成19(2007)年度から取組を開始しました。現在、約3,500haの水田において多面的機能支払を活用し、9つの活動組織の非農業者を含む約500人が参加し、田んぼダムの取組を実施しています。これにより、農地の湛水被害の面積の減少といった効果が認められ、名

な寄よろ市しのみならず周辺地域にまで田んぼダムの

取組が広がっています。* �田んぼダムとは、大雨の時、水田に一定程度の雨水を貯留し、農地からの雨水流出のタイミングを遅らせることにより、下流域の洪水被害を軽減・防止する取組

多面的機能支払による田んぼダムの取組事 例

名寄市

北海道

取組を伝えるポスター

(中山間地域等直接支払)中山間地域等直接支払は、農業の生産条件が不利な地域における農業生産活動を継続し、多面的機能の確保を図ること目的に平成12(2000)年度から実施しています。本制度は施策の評価を第三者委員会において実施しつつ5年ごとに対策の見直しを行っており、平成27(2015)年度から第4期目の対策が実施されています。第4期対策では、女性・若者等の集落活動への参画や、集落の枠を超えた広域での集落協定に基づく複数集落連携の活動体制づくり、条件が特に厳しい超急傾斜地における農業生産活動への支援が強化されています。平成28(2016)年1月末の取組の見込みは65万4千haとなり、前年度と比較して3万3千haの減少となりました(図3-1-5)。これは、小規模な協定集落における農業者の高齢化等による協定者数の減少や、新たな協定締結に必要な話合いに時間を要したこと等により新たな協定が締結できなかったこと、協定参加農家が耕作できなくなった農地の引き受け手がみつからなかったこと等により協定農用地の一部を除外したこと等が要因と考えられます。このため、農林水産省では、平成27(2015)年度から強化された支援策をさらに活用するため、小規模な集落を取り込んだ広域の集落に対して、農業生産活動の継続が難しくなった場合の交付金の返還ルールを緩和するなどして、取組の拡大を図っていくことを検討しています。

185

第3章

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図3-1-5 中山間地域等直接支払の実施状況

30,000協定

28,000

26,000

24,000

22,000

0

100万ha

90

80

70

60

50

027

(2015)26

(2014)25

(2013)24

(2012)23

(2011)22

(2010)21

(2009)20

(2008)19

(2007)18

(2006)平成17年度

(2005)

25,671

28,07828,00127,84927,57026,937

28,76528,75728,70828,51527,869

65.468.768.768.267.866.266.466.466.566.365.4

第4期対策

資料:農林水産省調べ注:平成27(2015)年度は、平成28(2016)年1月末現在の概数値

交付面積(右目盛)

協定数

第2期対策 第3期対策

富山県氷ひ見み市し論ろん田でん集落は氷

ひ見み市し西部に位置する中山間地域

の集落です。本集落の農地は傾斜が大きく、点在しており、農業者の高齢化や人口減少が進み、農地の荒廃が懸念されていました。このことから、集落では平成12(2000)年度から中山間地域等直接支払を活用して集落における農業生産活動を維持し、農地の荒廃を防ぐ活動を行ってきました。現在は、特産品加工組織「食彩ふるさと」の女性4人が中心となり、地域の特産品のもち米と集落内で採取されたヨモギを使用した草もちを製造し、市内スーパー等へ出荷しています。この草もちの年間製造数は約12万個にのぼり、特産品の製造により、集落内に雇用を創出することができるなど、集落に活気が生まれつつあります。

中山間地域集落の女性グループによる草もちの製造・販売事 例

岐阜県

長野県

石川県

富山県

氷見市

草もちの製造

186

農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮第1節

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(環境保全型農業直接支払)環境問題に対する国民の関心が高まる中で、農業分野においても地球温暖化防止や生物多様性保全に積極的に貢献していくために、環境保全に効果の高い営農活動を地域がまとまって行えるよう取り組む必要があります。環境保全型農業直接支払は、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて、地球温暖化防止や生物多様性に効果の高い営農活動に取り組む農業者の組織する団体等に対し実施しています。具体的には、土壌への炭素貯留を目的とした、①カバークロップ(緑肥)の作付けの取組、②堆肥の施用の取組、③化学肥料・農薬を使用しない有機農業があります。このほか、④地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、地域を限定して取り組むことができる地域特認取組を対象として支援しています。平成28(2016)年1月末現在での支援対象取組別の面積は、地域特認取組が3万2千haと全体の42%を占めており、次いで堆肥の施用の取組(23%)、カバークロップの作付けの取組(18%)、有機農業の取組(18%)と続いており、うち地域特認取組と堆肥の施用の取組は前年度と比較して大幅な増加となっています(図3-1-6)。

図3-1-6 環境保全型農業直接支払の実施面積の推移

堆肥の施用

地域特認取組*1

有機農業

冬期湛水管理

80,000

60,000

平成23年度(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

17,009

41,439

51,11457,744

76,863

2,9112,84011,258

11,344

7,079

14,469

8,547

11,831

10,426

13,320

15,539

11,849

13,263

20,240

12,392

13,612

17,483

13,541

32,226

40,000

20,000

0

ha

カバークロップ*2

資料:農林水産省調べ注:平成27(2015)年度は、平成28(2016)年1月末現在の概数値

*1 平成24(2012)年度の地域特認取組は、堆肥の施用を含む。平成25(2013)年度以降の地域特認取組は、草生栽培、リビングマルチ及び冬期湛水管理を含む。

*2 平成23(2011)年度及び平成24(2012)年度のカバークロップは草生栽培、リビングマルチを含む。

187

第3章

Page 18: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

2 鳥獣被害への対応第 節

シカやイノシシ、サル等の野生鳥獣による農業被害や自然生態系への影響が深刻化、その被害範囲も広域化しており、我が国全域的な課題となっています。また、これらの被害は、営農意欲の減退や耕作放棄地 1の増加要因となっています。一方で、捕獲の担い手である狩猟者は減少・高齢化傾向にあります。以下では、鳥獣被害の現状や鳥獣被害対策の具体的な取組について記述します。

(鳥獣被害の現状)野生鳥獣による農作物被害額は、近年200億円前後で推移しており、その被害額が大きい都道府県は北海道、福岡県、長野県等となっています。野生鳥獣による被害額のうち、全体の約7割がシカ、イノシシ、サルによるもので、特に、シカによる被害額が依然として高く推移しています(図3-2-1)。これら野生鳥獣による被害は、営農意欲の減退や離農の増加、耕作放棄地の増加等をもたらしており、被害額として数字に現れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。野生鳥獣被害が深刻化している要因としては、近年の少雪傾向等にも起因した鳥獣の生息域の拡大、狩猟者の減少・高齢化に起因する捕獲圧の低下、耕作放棄地の増加、過疎化・高齢化等に伴う人間活動の低下等複数の要因が複合的に関係しているものと考えられます。特に、これら野生鳥獣の捕獲の担い手である狩猟免許所持者数は減少傾向であるとともに高齢化が進んでおり、平成25(2013)年度における60歳以上の割合は66.5%となっています(図3-2-2)。

(鳥獣被害対策の推進)農林水産省では、市町村が鳥獣被害防止特別措置法 2に基づく被害防止計画を作成し、鳥獣被害対策実施隊(以下「実施隊」という。)による捕獲や追払い等の地域ぐるみの被害防止活動、侵入防止柵の設置、

1[用語の解説]を参照2 正式名称は「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」

188

鳥獣被害への対応第2節

図3-2-1 野生鳥獣による農作物被害額の推移

250億円

206196 199

239230

191

39 43 5878 82 65

56 5554

68 6255

16 1615

19 15

1317 2120

23 28

2035 3125

23 21

1743 30 26

30 21

21200

150

100

50

0平成16年度

(2004)

18(2006)

20(2008)

22(2010)

24(2012)

26(2014)

獣類

鳥類

シカ

イノシシ

サル

その他獣類

カラス

その他鳥類

資料:農林水産省調べ

図3-2-2 狩猟免許所持者数及び60歳以上の割合

300

250

200

150

100

50

0

70千人 %

60

50

40

30

20

10

0平成2年度

(1990)

25(2013)

23(2011)

21(2009)

19(2007)

17(2005)

12(2000)

7(1995)

1717

273273

290290

8181

9898

185185

66.566.5

66

7373

77

118118

198198

5858

88

119119

186186

5252

3939

139139

229229

4848

156156

204204

3131

178178

210210

2121

225225

246246

銃猟

網・わな猟

60歳以上の割合(右目盛)

わな猟網猟

資料:環境省調べ注:平成19(2007)年度から「網・わな猟免許」を「網猟免許」

と「わな猟免許」に区分

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地域リーダーの育成、野生鳥獣肉(ジビエ)の利活用等を図る人材育成の取組等を推進しています。鳥獣被害防止特別措置法に基づいて被害防止計画を策定した市町村は平成27(2015)年10月末時点で1,432まで増加しています。また、実施隊を設置している市町村は1,012まで増加しています(表3-2-1)。引き続き、被害防止対策の担い手である実施隊の設置の促進と体制の強化が重要です。さらに、環境省では、平成27(2015)年5月に改正された「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 1」に基づき、都道府県等が主体となって行う鳥獣の捕獲等事業や安全かつ効果的に捕獲等を行う事業者の認定制度等の鳥獣管理のための施策を推進しています。このように、鳥獣被害対策は複数の省庁が関係していることから、農林水産省では関係省庁と連携しながら対策を進めています。

長崎県雲うん仙ぜん市しではイノシシによる地域の農作物被害が深刻

な状況であったことから、平成23(2011)年、市職員5人で雲仙市鳥獣被害対策実施隊(以下「実施隊」という。)を結成しました。当初は市職員による実施隊が中心となって出前講座や研修会等を開催していました。その後、平成25(2013)年にイノシシ被害に悩む地域の20歳代から30歳代の若手農業者を実施隊に追加任命し、行政や地域住民と問題意識を共有しつつ被害対策の計画立案を行い、農業者の視点を取り入れた侵入防止柵の設置や緩衝帯整備、捕獲等総合的な対策を実施しています。また、実施隊はこれら活動の成果を検証することにより、効果的な対策を今後の活動へフィードバックするなど、地域ぐるみで対策に取り組む環境が醸成されつつあります。現在は、イノシシによる被害額がピーク時の約6千万円(平成18(2006)年)から700万円まで減少するなど取組の成果が顕著に現れています。加えて、狩猟免許所持者の高齢化が進んでいる中、若手農業者自らも狩猟免許を取得し捕獲にも従事するなど、被害対策を効果的に推進する実施隊の全国モデルとして注目されています。

農業者が主体となった鳥獣被害対策の取組事 例

熊本県

佐賀県

福岡県

長崎県雲仙市

実施隊に任命された若手農業者

1 環境省所管

189

第3章

表3-2-1 被害防止計画の作成及び鳥獣被害対策実施隊の設置状況

(単位:市町村)全市町村数*1

計画作成市町村数*2

実施隊設置市町村数

平成20年4月 (2008) 1,811 40 0

21年4月 (2009) 1,800 724 33

22年3月 (2010) 1,750 933 58

23年4月 (2011) 1,747 1,128 87

24年4月 (2012)

1,742

1,195 418

10月 - 52125年4月 (2013) 1,331 674

10月 1,369 74526年4月 (2014)

1,741

1,401 864

10月 1,409 93927年4月 (2015) 1,428 986

10月 1,432 1,012

資料:農林水産省調べ注:*1特別区を含む

*2都道府県と協議中のものを含む

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(野生鳥獣の食肉(ジビエ)利用)現在、捕獲鳥獣の多くは埋設、焼却処分によって処理されていますが、近年では野生鳥獣肉(ジビエ)として利活用し、レストランやスーパーに販売する動きが進展しています。平成24(2012)年度に厚生労働省が実施したアンケートによると、7割近くが日本産の野生鳥獣食肉に関して「今後機会があれば食べる」、「積極的に食べたい」と回答しており、今後野生鳥獣肉(ジビエ)消費量が増えることが想定されます(図3-2-3)。

図3-2-3 日本産野生鳥獣食肉の食への意向調査

シカ

イノシシ

機会があっても食べないと思う絶対食べないと思う

これから機会があれば食べたい

0 20 40 60 80 100

機会があれば食べるかもしれない

6.3 16.2 42.5 17.0 18.0

5.2 13.8 39.5 20.9 20.5

ぜひ食べたい

資料:厚生労働省「野生鳥獣食肉の安全性確保に関する報告書」(平成26(2014)年6月公表)

平成26(2014)年11月には「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)1」が策定され、捕獲・狩猟から消費に至るまでの各工程における安全性を確保する動きが広がっています。地域においては捕獲した鳥獣をジビエとして有効活用し、ブランド化を図る取組もみられます。捕獲した野生鳥獣の食肉利用のためには捕獲場所の近隣に処理加工施設が必要となりますが、これらの処理加工施設の整備も全国で増加傾向にあり、平成20(2008)年12月の42か所から平成27(2015)年6月末時点では172か所まで増加しています 2。

1 厚生労働省策定2 農林水産省が都道府県に行った聞き取り調査

190

鳥獣被害への対応第2節

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平成26(2014)年度の北海道における野生鳥獣の被害額約49億円のうち約44億円がエゾシカにより引き起こされており、地域農業に与える影響は深刻となっています。このような中、北海道釧

くし路ろ市し阿あ寒かん町ちょうの有限会社阿寒グリーンファームで

は、狩猟等により捕獲されたエゾシカを食肉として加工・販売し地域産業・経済に貢献する地産地消*1の取組を行っています。同社は、平成17(2005)年に、衛生・品質管理が徹底された食肉処理加工施設を整備し、HACCP*2認証を取得しました。また、捕獲に加え、冬期(1月から3月)に囲いわな等で生体捕獲されたエゾシカを「養鹿牧場」で一時養鹿し、冬期間に痩せた個体を回復させ、安定供給を確保することにより、年間約1,500頭の食肉処理加工を行っています。同施設で処理加工されたエゾシカ肉はブランド化され、また併せて同社ではエゾシカ肉の缶詰やスープカレー等の商品開発も行い、養鹿から食肉加工、販売までを一貫して実施できる体制を構築しています。さらに、トレーサビリティ*3

が可能な状態で生協等を通じて道内の消費者や道内外の飲食店等にも提供されており、エゾシカ肉は新たな地域資源としての地位を確立しています。*1~3 [用語の解説]を参照

ブランド化されたジビエ事 例

北海道

釧路市

生体捕獲(囲いわな) ブランド化されたエゾシカ肉

191

第3章

Page 22: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

3 地域資源の積極的な活用第 節

農村地域の活性化を図るためには、農村地域の豊かな地域資源を活用した新たな価値の創出や農業関連産業の導入等を通じて、地域全体の雇用の確保と所得の向上を図ることが重要です。以下では、再生可能エネルギー等の地域資源の積極的な活用を通じた雇用や所得の向上等、農村地域の活性化に向けた取組について記述します。

(再生可能エネルギーの現状)我が国の総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は、平成26(2014)年度の時点で12.2%となっています。第四次エネルギー基本計画 1を踏まえて平成27(2015)年7月に策定された長期エネ

ルギー需給見通し 2では、平成42(2030)年度に総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を22%から24%程度まで高めることが示されたところです。国土の大部分を占める農山漁村は、森林資源等のバイオマス 3、水、土地等の資源が豊

富に存在し、再生可能エネルギー源として高いポテンシャルを有しています。一方で、農山漁村はエネルギーの地域外への依存度が高い状況にあり、再生可能エネルギー源を地域主導で活用することで、農山漁村に新たな価値を創出し、地域内経済の循環を図るとともに、そこで発生する利益を農林漁業の発展につなげることにより、農山漁村の活性化を図ることが重要です。

香川県高たか松まつ市しで農業を営む伊

い藤とう伸のぶ一いちさんは、農家個人とし

て太陽光を活用して発電を行う、うさんこやま電力合同会社を設立し、平成27(2015)年2月に発電出力273kW、年間発電電力量32万kWhで運転を開始しました。事業開始に当たっては、ため池隣接地への太陽光パネル設置等に約9千万円の建設費が必要となりましたが、そのうち約3千万円を一般市民からのファンドにより調達しました。この市民ファンドへの配当の一部は、地域で生産された無農薬栽培小麦等の農産物や黒にんにく等農産加工品により行われ、また、うどん打ち体験ツアーも配当として提供されているなど、太陽光発電事業を中心とした地域農業の活性化にも結び付いています。

農家自らが取り組んだ市民ファンドによる太陽光発電事 例

高知県徳島県

愛媛県

香川県

高松市

ため池隣接地に設置された 太陽光パネル

1 平成26(2014)年4月閣議決定2 経済産業省策定3[用語の解説]を参照

192

地域資源の積極的な活用第3節

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(小水力発電)水力発電には、太陽光発電や風力発電と比較して、天候による発電量の変動が少ないという利点があります。特に農業用ダムや農業用水路等の落差等には多くの水力エネルギーが存在していることから、これら農業水利施設 1

と一体的に小水力発電施設の整備を図ることで、そのエネルギーを有効に活用することが可能となります。平成27(2015)年5月現在、農業農村整備事業等により45地区で小水力発電施設が整備され、出力合計約2.6万kW、年間約1億2,700万kWhの発電が可能となっています(図3-3-1)。また、81地区において小水力発電施設が計画・建設中であり、農業水利施設の維持管理費の軽減を通じた農業生産コストの削減や農業者の所得向上等につながる取組を推進しています。

栃木県那な須す塩しお原ばら市しの那

な須す野のヶが原はら土地改良区連合は、農業水

利施設の落差工を始めとした未利用エネルギーの有効活用により、農業水利施設の維持管理費の軽減や地球温暖化防止に貢献する取組を行っています。同土地改良区連合では、平成4(1992)年に第1号となる小水力発電施設(那須野ヶ原発電所)を整備して以降、順次整備を進め、現在は太陽光発電施設を含む合計9基(発電出力計1,900kW)を稼働させており、年間910万kWhの発電が可能となっています。これらの電気を、同土地改良区連合が管理する農業水利施設へ供給等することで、施設の維持管理費が大幅に軽減され、農業生産コストの削減につながっています。

小水力発電等による農業生産コスト削減への取組事 例

茨城県

栃木県

福島県

群馬県

那須塩原市

平成 26(2014)年 4 月に稼働を始めた小水力発電施設

(新青木発電所)

図3-3-1 小水力発電地区数及び年間発電可能量の推移(累計)

MWh150,000

100,000

50,000

0昭和63年度(1988)

平成4(1992)

10(1998)

18(2006)

26(2014)

50

40

30

20

10

0

年間発電可能量

地区数(右目盛)

地区

資料:農林水産省調べ注:農業農村整備事業等により整備された地区を対象

1[用語の解説]を参照

193

第3章

Page 24: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(太陽光発電)太陽光発電施設は、平成27(2015)年5月現在、農業農村整備事業等により全国83地区で整備が進んでおり、主に農地法

のり面めんや農業用施設の屋根等に太陽光パネルを設置する

などし、農業用施設等の電力として利用されています。また、営農を継続しながら農地に支柱を立てて、上部空間に太陽光パネル等を設置する発電設備等の技術開発やその実用化も進んでいます。このようなケースでは周辺農地における営農や農業水利施設の機能等に支障がないように配慮し、パネル下部の農地における継続的な農業生産を可能とすることで、農家の所得向上につなげるべく活用することが重要です。

(農山漁村再生可能エネルギー法活用の動き)地域資源の有効活用を進める一方、食料供給や国土保全等の農山漁村が持つ多面的機能の発揮に支障を来すことのないよう、農林地等の利用調整を適切に行うとともに、再生可能エネルギーの導入と併せて地域の農林漁業の健全な発展に資する取組を促進することも重要です。このため、農林水産省では、平成26(2014)年に施行された農山漁村再生可能エネルギー法 1に基づき、地域が主体となって協議会を設立し、農山漁村の健全な発展と調和のとれた形での再生可能エネルギー発電の導入を図る取組を促進しています。平成27(2015)年12月時点で、12市町村が同法に基づく基本計画を作成して取り組んでいます。

青森県下しも北きた半島の菜の花の生産で日本一の横

よこ浜はま町まちは、平成

27(2015)年6月に農山漁村再生可能エネルギー法に基づく、横浜町再生可能エネルギー基本計画を策定しました。同町は人口減少とともに高齢化が進み、耕作放棄地*も増加していることから、優良農地を確保して農産物生産を維持しつつ、未利用地、耕作放棄地の有効活用を模索していました。そのような中、再生可能エネルギーの導入に向け、発電事業者や資金調達の専門家参加のもとで協議会を設置し、事業性等を評価した上で、平成27(2015)年に町と風力発電会社との共同出資で、特別目的会社「よこはま風力発電株式会社」を設立しました。今後、町内に発電出力2.3MWの風力発電設備を計14基設置し、平成30(2018)年から発電を開始する予定です。発電開始後は、風力発電の売電収入の一部を町で基金化し、農林水産分野の施策に活用するとともに、出資見合いの配当金も地域貢献策に活用でき、町の新たな財源として有効活用される予定です。* [用語の解説]を参照

再生可能エネルギーを活用した戦略的な地域づくり事 例

秋田県 岩手県

青森県

横浜町

風力発電設備

1 正式名称は「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」

194

地域資源の積極的な活用第3節

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(再生可能エネルギーの地産地消)地域資源から生み出された再生可能エネルギーの電力や併せて発生する熱を、地域内の農林漁業施設等で活用する「再生可能エネルギーの地産地消」を進め、農林漁業のコスト削減や地域の活性化を図ることが重要です。平成28(2016)年度からの電力小売全面自由化の機会を捉え、地域の関係者が主体となって意思決定を行う小売電気事業の取組を促すための支援を行います(図3-3-2)。

図3-3-2 農山漁村における今後の再生可能エネルギーの地産地消のイメージ

電力供給電力需要熱供給

バイオマス発電 バイオガス発電

風力発電小水力発電

漁業関連施設

農業関連施設

地域外

農林水産物・加工品の販売

余剰電力の地域外への売電

林業関連施設

地域が主体となって意思決定を行う小売電気事業者

平成28年4月~電力小売全面自由化

太陽光発電

資料:農林水産省作成

(バイオマス産業を軸とする地域活性化の動き)バイオマスは、木質、家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥等の動植物に由来する有機性資源で、発電、熱、燃料、素材等幅広い用途に活用できる、地域に密着した身近な資源です。また、大気中の二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラル 1と呼ばれる特性により、その活用は地球温暖化対策に有効であるとともに、天候に左右される太陽光、風力に比べて安定的なエネルギー源とされています。農林水産省、経済産業省、環境省では農林漁業に由来するバイオマスを活用して持続可能な事業を創出し、ここから生み出された経済的価値を農業振興や地域活性化につなげる活動を推進 2しています。また関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)は地域の特色をいかしたバイオマス産業を軸とする環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市の構築を推進しており、平成27(2015)年度までに34地域(52市町村)がバイオマス産業都市に選定されています(図3-3-3)。また、平成25(2013)年度にバイオマス産業都市に選定された北海道別

べつ海かい町ちょうでは、酪農から供給される

家畜排せつ物を原料とした国内最大規模のバイオガス発電施設が平成27(2015)年度に運転を開始するなど、地域の雇用創出や活性化につながる動きがあります。

1 バイオマスは生物が光合成によって生成した有機物であり、バイオマスを燃料とすること等により放出される二酸化炭素は、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であることから、バイオマスはライフサイクルの中では大気中の二酸化炭素を増加させない。

2 農林漁業者とバイオ燃料製造業者が「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律」に基づいて策定し、国の認定を受けた認定生産製造連携事業計画は平成27(2015)年12月現在18計画となっている。

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第3章

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図3-3-3 バイオマス産業都市

【1次選定(平成25年6月) 】1. 北海道十勝地域2. 北海道下川町3. 北海道別海町4. 宮城県東松島市5. 茨城県牛久市6. 新潟県新潟市7. 愛知県大府市8. 香川県三豊市

【2次選定(平成26年3月) 】9. 北海道釧路市10.北海道興部町11.宮城県南三陸町12.静岡県浜松市13.三重県津市14.島根県奥出雲町15.岡山県真庭市16.岡山県西粟倉村

平成25年度(16地域)

と かち

うし く し

にい がた し

おお ぶ し

み とよ し

くし ろ し

おこ っぺちょう

みなみさん りくちょう

はま まつ し

つ し

おく い ずもちょう

ま にわ し

にしあわくらそん

しも かわちょう

べつ かいちょう

ひがしまつしま し

17.富山県射水市18.兵庫県洲本市19.島根県隠岐の島町20.福岡県みやま市21.佐賀県佐賀市22.大分県佐伯市

平成26年度(6地域)い みず し

す もと し

お き

さ が し

さ いき し

しまちょう

23.北海道平取町24.宮城県大崎市25.山形県最上町26.栃木県茂木町27.山梨県甲斐市28.京都府京丹後市29.京都府南丹市30.島根県飯南町31.岡山県津山市32.福岡県宗像市33.大分県臼杵市34.宮崎県小林市

平成27年度(12地域)びら とりちょう

おお さき し

も がみまち

もて ぎ まち

か い し

きょうたん ご し

なんたん し

いい なんちょう

つ やま し

むな かた し

うす き し

こ ばやし し

102

1

46

17

11

5

12713

188

222021

161514

19

23

25

26

2729

28

3130

32

33

34

24

93

資料:農林水産省作成

北海道別べつ海かい町ちょうは、乳牛約11万頭を飼育する日本有数の酪

農地域です。平成25(2013)年6月には、関係7府省によりバイオマス産業都市に選定され、平成27(2015)年度には、別

べつ海かい

町ちょうバイオマス産業都市構想の中核事業として、地域から供給

される家畜排せつ物を原料としたバイオガス発電施設が完成しました。この発電施設の計画発電量は年間約9,600MWhとしており、別

べつ海かい町ちょう全6,360世帯の電力消費量の44.2%に相当し、

家畜排せつ物を原料としたバイオガス発電施設としては国内最大規模の施設となっています。さらには、発酵過程において副産物として発生する消化液や敷料を地域の酪農家へ販売し地域酪農経営に寄与することとしています。別べつ海かい町ちょうは、引き続き発電事業者と協力して地域雇用の創出や地域活性化を図り、別海町バイ

オマス産業都市構想の実現を目指しています。

地域資源を活用したバイオガス発電施設事 例

別海町

北海道

バイオガス発電施設

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地域資源の積極的な活用第3節

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(地域の農産物等を活かした新たな価値の創出)農業の振興や農村の活性化を図るためには、地域の農業者が自ら生産した農産物をそのまま出荷するだけではなく、その副産物を含め、消費者や実需者のニーズに対応した加工、直売等を行い、高付加価値化を図るほか、地域の特性に応じて、観光農園、農家レストランや農家民宿等の多様な取組と融合した事業展開を図るなど、地域資源を最大限活用し、農業を起点として新たな価値を創出する6次産業化 1を推進する必要があります。農林水産省では、これら6次産業化に向けた取組を推進しており、例えば、自ら生産した農産物や地域の食材を調理し、地域ならではの料理を提供することにより、農産物の高付加価値化や地域文化の提唱等が行える農家レストランの年間販売額は、平成25(2013)年度で約310億円となり、前年度に比べて38億円増加しています(図3-3-4)。

(農村への農業関連産業の導入等による活性化)農村の活性化を図るためには、農村地域の住民が引き続き農村地域において生活をしていくための所得を確保するとともに、農村地域に人を呼び込む観点から、農村において就業機会を創出していくことも重要です。農村地域において就業機会を創出するための制度として、農業構造改革と工業等の導入を一体的に推進することを目的とする農工法 2が制定されています。平成26(2014)年3月時点で約9千社が操業し、約62万人が雇用されているとともに、市町村からも企業誘致による雇用機会の増大等が評価されるなど、農村地域における就業機会の創出に一定の効果があるところです(図3-3-5)。一方で、整備された工場用地の中には、企業の撤退等により活用されていない用地(遊休工場用地 3)も存在しています。このため、地方創生の一環として、平成27(2015)年8月には地域再生法の改正が行われ、遊休工場用地の有効活用を促進するための措置が講じられたところです。また、有識者からなる「農村における就業機会の拡大に関する検討会」を農林水産省に設置し、幅広い視点から就業機会の拡大に向けた総合的な施策の検討を進めています。

1[用語の解説]を参照2 正式名称は「農村地域工業等導入促進法」。昭和46(1971)年に制定3 農工法第5条の実施計画に従って整備された工場用地のうち、5年以上、工業等の用に供されていない工場用地

図3-3-4 農家レストランの年間販売額及び従事者数の推移

億円350

300

250

200

150

100

50

0

140

120

100

80

60

40

20

0

従事者数(右目盛)

百人年間販売額

81

181

90

199

113

272310

128

平成22年度

(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

資料:農林水産省「6次産業化総合調査報告」注:1)平成22(2010)年度及び平成23(2011)年度は、農

協等が運営する農家レストランは含まれていない。2)東日本大震災の影響により、①平成22(2010)年度及び平成23(2011)年度は、青森県、岩手県、宮城県及び福島県の一部地域、②平成24(2012)年度は、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い設定された警戒区域及び避難指示区域(計画的避難区域、帰還困難地域、居住制限区域又は避難指示解除準備区域をいう。)(平成25(2013)年4月1日時点)を調査範囲から除外した

197

第3章

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図3-3-5 農工法の取組が地域の活性化に及ぼした効果

その他

0 5 10 15 20 25 30

特になし

担い手の経営規模の拡大を通じた農業の振興

農村への若者等の人口増加による地域の活性化

地域外からの雇用者の増加による域内消費等の拡大

地方自治体の安定した税収の確保

農村からの人口流出の防止

企業誘致による農業従事者の雇用機会の増大

29.5

23.0

14.8

11.8

9.3

2.6

4.3

0.7

資料:農林水産省「農村における就業機会の拡大に関する地方自治体アンケート調査」(平成27(2015)年9月公表)注:全国の農工法対象市町村*を対象としたアンケート調査(回答総数1,052市町村)*次に掲げる市町村の区域を対象1)農業振興地域、振興山村地域、過疎地域12)ただし、首都圏整備法に規定する既成市街地等、人口20万人以上の市及び人口10万人以上20万人未満の市のうち人口増加率又

は製造業等の就業者割合が全国平均以上であるものを除く。

1[用語の解説]を参照

198

地域資源の積極的な活用第3節

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4 多様な分野との連携による都市農村交流第 節

都市と農村の交流は都市住民の農業や農村に対する理解と関心を深めるとともに、農村で暮らす人々にとっても、地域の魅力の再発見を促す機会となる取組です。以下では、教育や福祉等多様な分野と連携した都市農村交流の取組について記述します。

(都市農村交流の意義)農村は、その地域における農業生産活動を通じた、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の継承等、様々な役割を担っており、地域住民や農村を訪れる都市住民にゆとりや安らぎをもたらします。消費者を対象に行った調査では、農山漁村について「地元の新鮮な食材」、「豊かな自然環境」の2点に魅力を感じるとする割合が高く、また、若い世代ほど農林漁業体験に強い興味を寄せるなど農業・農村に対する関心の高さがうかがえます(図3-4-1、図3-4-2)。

図3-4-2 年代別農山漁村における余暇で過ごしてみたいこと

農林漁業

の体験

農家漁家

レストラン

での食事

農家漁家民宿

での宿泊

地域の伝統文化、

生活体験

お祭り、イベント

への参加

自然散策

直売所等で

特産品を購入

50 20歳代%

40

30

20

10

0

30歳代40歳代

50歳代60歳代70歳代

資料:株式会社日本政策金融公庫「平成26年度上半期消費者動向調査」(平成26(2014)年9月公表)注:全国の20歳代から70歳代の男女を対象としたインターネット調査(回答総数2千人)

(グリーン・ツーリズムの取組)農村において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動であるグリーン・ツーリズムは、都市住民の農業・農村への関心を高め、地域の活性化に大きな役割を果た

図3-4-1 農山漁村の魅力(主なもの2つまで回答)

特に魅力が無い %0 10 20 30 40 50 60 70

68.865.5

14.311.48.67.54.30.3

9.7その他

人口密度が低い農作業体験人の交流伝統文化物価が安い

豊かな自然環境地元の新鮮な食材

資料:株式会社日本政策金融公庫「平成26年度上半期消費者動向調査」(平成26(2014)年9月公表)

注:全国の20歳代から70歳代の男女を対象にしたインターネット調査(回答総数2千人)

199

第3章

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しています。滞在の期間は、日帰りから宿泊を伴う長期的なもの、定期的・反復的なもの等様々で、全国各地で多様な地域資源を活用した農家民宿や観光農園等の取組が展開されており、平成26(2014)年度の農家民宿等のグリーン・ツーリズム施設への宿泊者数は、1,027万人 1となっています。また、国内外の消費者のニーズの多様性を踏まえ、旅行会社の中には農家民宿や農業体験等を新しい旅行商品として販売する動きもみられるなど、地域の活性化等に大きく貢献しています。

(世界農業遺産認定地域の活用)国連食糧農業機関(FAO2)は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくら

れてきた伝統的な農林水産業とそれに関わって育まれた文化、ランドスケープ 3、生物多様性等が一体となった世界的に重要な農林水産業システムを世界農業遺産 4に認定しています。我が国では、平成25(2013)年までに認定された5地域に加え、平成27(2015)年12月に開催されたFAO会合において、岐阜県長

なが良ら川がわ上中流域の「清流長良川の鮎

あゆ~里川

における人と鮎のつながり~」、和歌山県みなべ・田た辺なべ地域の「みなべ・田辺の梅システ

ム」、宮崎県高たか千ち穂ほ郷ごう・椎

しい葉ば山やま地域の「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」

の3地域が新たに認定されました(表3-4-1)。認定が地域の人々に誇りと自信をもたらすとともに、農産物のブランド化や旅行者誘致を通じた地域経済の活性化が図られています。

表3-4-1 新たに認定された我が国の世界農業遺産地域

地域名 都道府県 認定を受けた地域の農業システム

長良川上中流域 岐阜県

鮎を中心とした内水面漁業が盛んな長良川は、流域の人々のくらしや水質保全活動により清らかな流れが保たれ、その清流により鮎が育ち、地域の人々が鮎からの恩恵を享受。人の生活、水環境及び漁業資源が相互に関連する長良川の里川システム

みなべ・田辺地域 和歌山県

養分に乏しい礫質の斜面を利用し、梅林としての利用と周辺には薪炭林を残すことで水源涵養や崩落防止等の機能を持たせ、薪炭林に生息するニホンミツバチと梅との共生等地域資源を有効活用して高品質な梅を持続的に生産する農業システム

高千穂郷・椎葉山地域 宮崎県

険しく平地が少ない山間地において、針葉樹と広葉樹で構成されるモザイク林等による森林保全管理、伝統的な焼き畑農業、急斜面に築かれた500km超の水路網を有する棚田の米作りなどの複合的農林業システムと神楽など特色ある伝統文化を継承

これまでに認定された我が国の世界農業遺産平成23(2011)年:�新潟県佐

さ渡ど市しの「トキと共生する佐渡の里山」�

石川県能の登と地域の「能登の里山里海」

平成25(2013)年:�静岡県掛かけ川がわ周辺地域の「静岡の茶

ちゃ草ぐさ場ば農法」�

熊本県阿あ蘇そ地域の「阿蘇の草原の維持と持続的農業」�

大分県国くにさき東半島宇

う佐さ地域の「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」

1 農林水産省調べ2 FoodandAgricultureOrganizationoftheUnitedNationsの略3 世界農業遺産においては、「土地の上に農林水産業の営みを展開し、それが呈する一つの地域的まとまり」と定義4 GIAHS「GloballyImportantAgriculturalHeritageSystems」。FAOにより平成14(2002)年から始められた取組

200

多様な分野との連携による都市農村交流第4節

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近年、課題解決の手段としてのデザインに着目した取組が多くみられます。デザインは、いわゆる見た目の工夫だけでなく、利用する人に商品や取組の背景を伝わりやすくしたり、人と人をつなぐ場を作り出すなど、物事をよりよくする仕組みのひとつとみることができます。農村には多数の地域資源がありますが、人口減少等様々な課題を抱えていることがあります。そこに新しい視点を加えることで、これまでなかった商品の開発や観光資源の発掘につながることがあります。農業分野でも、生産施設、農業機械や作業着等にデザインを取り入れ、従来よりも使いやすく、見た目にもこだわったものが出てきており、選択肢が広がっています。公益財団法人日本デザイン振興会の主催するグッドデザイン賞の受賞作品の中にも、食料・農業・農村分野の取組が多くみられるようになってきました。グッドデザイン賞では、有形無形を問わず、様々な物事を応募対象として受け付けており、応募作品の裏側にあるプロセスや意義等多様な面を総合的に判断し審査が行われています。平成27(2015)年には、観光資源となる牛舎等の生産施設、農家の民家を改修することによるコミュニティの創出等、多くの取組が受賞しました。いずれの作品も、デザインを通じて、課題に対して新たな視点で解決を図った取組となっています。生産者と消費者のコミュニケーションの道具としてもデザインは重要であり、地域を深く理解するデザイナーを活用する事例も多く出てきています。今後も、デザインを活用した課題解決を図る取組が増えることが期待されます。

安比高原牧場牛舎

農家の宿

天恵菇(生椎茸)

セカンドスクール

ソレーネ周南

ズッキン2(作業用帽子)

有限会社安比高原牧場の放牧地は岩手県八幡平市安比高原のリゾート地に位置しています。近年のスキー人気の減退により、一帯を酪農を中心とした観光地へ再整備することとなりました。それに併せ、機能面を高めるだけでなく、高原の風景と一体となる牛舎を新築しました。建物脇の通路には、観光客が生産の様子を見ることができるステップを設けているほか、散策の最後には酪農品が購入できる休憩所があります。

山形県最上郡真室川町にある農家「森の家」では、伝承野菜である里芋を生産しており、築150年以上の古民家を自宅兼宿として改装しました。部屋の仕切りを取り除き、農作業ができる土間スペースを復活させるなどの工夫を行いました。農家の宿では、地域の内外から訪れる宿泊者が地域の食や手仕事に触れながら、地元の若手農家や地域に長く住む住民と交流する場を提供しています。

協同組合日本茸師の会では、大型の椎茸品種である天恵菇を開発し、生産・販売を行っています。椎茸嫌いの子供が大きな椎茸に興味を示したことをきっかけに開発を始めましたが、大きい椎茸は市場価値がほとんどなかったことから、12年かけて一貫生産の体系を整え、生産組合を作りました。その大きさと風味でこれまでの椎茸との差別化をはかっています。

武蔵野市教育委員会では、自然豊かな農山漁村に長期滞在し、普段の学校生活では体験し難い自然体験や生活・文化体験等を授業の一環として行う「セカンドスクール」を平成8年度から市立小中学校全校(小学校5年生、中学校1年生)で実施しています。自然とのふれあい、長期宿泊、協働と交流をキーワードに、稲刈り体験や郷土食づくり等、実施地の協力のもとで豊かな体験学習活動を行っています。

山口県周南市の道の駅ソレーネ周南では、周南市の面積が広く、高齢者の出荷者も多かったことから、農産物の集荷が課題となっていました。午前中に運送会社が出荷者から農産物を集荷し、ソレーネ周南の専用車が運送会社の営業所を巡回して集荷し、昼に農産物を店頭に並べられる仕組みを確立しています。今後は、高齢者の生きがいづくりや安否確認、買い物弱者支援などの取組をしていきたいとしています。

茨城県のA-rueでは、作業用帽子の「ズッキン2」を製造・販売しています。作業服はデザインの選択肢が少ないが、気に入った物を身につけたいという要望があり、シンプルで使いやすい作業用帽子を開発しました。農作業やマルシェ等の対面販売に使えるようなデザインとしています。ひもの結び方で印象を変えることができ、裾を広げると日よけとして使用できるようになっています。

資料:公益財団法人日本デザイン振興会ホームページより農林水産省作成

デザインによる課題解決コラム

201

第3章

Page 32: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(教育分野との連携)子供が農業を体験することや農村地域の人々との交流を深めることは、将来の農業・農村に対する国民の理解を高める上で重要です。農林水産省、文部科学省及び総務省では、「子ども農山漁村交流プロジェクト」により、子供の農山漁村における宿泊体験を推進しており、農林水産省では宿泊・体験施設の整備や受入体制づくり、体験活動を支援する人材の育成等を支援しています。このプロジェクトでは、子供が農林漁家に宿泊するなどして、地域の人々との交流を行いながら、豊かな自然や伝統・文化に触れるなど、農山漁村の生活や農林漁業等を実際に体験します。体験を通じて食の大切さや農山漁村・農林漁業への理解を深めるとともに、子供の豊かな人間性や社会性を育むなどの教育効果、地域や集落の活性化、女性や高齢者の活躍の場の提供としても期待されています。

山口県周すおう防大

おお島しま町ちょうは山口県東南部の瀬戸内海に位置し、み

かんの生産が盛んな町です。同町では、高齢者の生きがいづくりや町内の活性化等につながることを期待して、平成20(2008)年から体験型教育旅行の受入れを始めました。受入窓口となる周防大島町体験交流型観光推進協議会は、農漁家への民泊を行いながら地域特産のみかんの収穫を行う農業体験や、収穫したみかんの加工を行う缶詰づくり体験、手作りジャムの専門店を起業した方との意見交換等を体験メニューとして開発し、平成27(2015)年度は3,674人の児童生徒が来訪しています。みかん収穫体験等を経験した児童生徒からは、「深い思い出になった」、「周りの人とのつながりや家族をもっと大事にしたい」等の感想が民泊先に寄せられるなど、交流を通じ、豊かな人間性や社会性が醸成できたと派遣元の学校では評価しています。受入先の農漁家も、「児童生徒の来訪により活気が出た」、「普段は気づかない生活の知恵や地域の財産などに改めて気づいた」等と評価しています。

体験型教育旅行を通じた交流事 例

島根県 広島県

山口県周防大島町

みかん収穫体験

202

多様な分野との連携による都市農村交流第4節

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(福祉分野との連携)近年、農業法人等が、障害者を個々の障害特性に応じて雇用する取組、高齢者が働きやすい環境を整備して、高齢者の健康や生きがいの向上に結び付ける取組等、農業と福祉が連携した取組(以下「農福連携」という。)が展開されています。特に、これまで農業分野は専門外であった企業が農業分野に進出する事例が増えており、障害者就労支援事業所へのアンケート調査によると23.7%は過去4年以内に農業活動を始めています(図3-4-3)。農林水産省と厚生労働省では農福連携の認知度向上に向け、平成25(2013)年10月に農林水産省で障害者就労支援施設が作る焼き菓子やジャム等の商品即売会を開催しました。さらに、平成27(2015)年6月には、両省の大臣が出席して農林水産省で農福連携マルシェを開催し、全国各地の障害者就労支援施設が生産した農産物や農産加工品等の販売が行われ、来場者の関心を集めました。

図3-4-3 障害者就労支援事業所の農業活動への取組状況

取り組んでいる33.5%

取り組むつもりはない39.8%

7.9%

12.7%

6.0%

今後取り組みたい地域農産物を用いた加工・飲食事業には取り組んでいる

取り組んでいたがやめた

1-2年前13.3%3-4年前10.4%

5-9年前22.6%10-19年前

24.7%

20-29年前15.1%

12.9%

30年以上前無回答1.1%

資料:特定非営利活動法人日本セルプセンター「農と福祉の連携についての調査研究報告」(平成26(2014)年3月公表)注:障害者就労支援事業所1,696か所を対象としたアンケート調査(回答率49.0%)

(農業活動の取組状況) (取組を開始した時期)

203

第3章

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(1)高齢者等が活躍する地域活性化の取組岩手県花

はな巻まき市しの高松第三行政区ふるさと地域協議会は、地

域住民全員を構成員として、少子高齢化等多くの課題を抱える地元を活性化する目的で、平成20(2008)年度に設立されました。同協議会は、貸し農園や神楽の伝承と後継者の教育、地域の名勝・旧跡の保全整備に取り組むとともに、地域のデイサービスや障害者施設と共同で高松福祉農園を運営しています。この農園では、山の果実(ガマズミ)、野菜等を栽培し、収穫された農産物や加工品は「ふるさと宅配便」として地元を離れた同地域の出身者等に届けられています。現在、同協議会では農園で生産された農作物の加工を通じた新商品の開発を進めており、収益の向上が見込まれるようになれば、活動している高齢者への還元も含め検討しているところです。また、今後の取組として、共同管理している農園の拡張や高齢者生活支援と農産物の加工ができる複合施設の建設等を進めるとともに、農福連携による地域づくりを進めるための法人の設立も検討しています。これらの活動を開始した後にUターン等の移住世帯の流入があり、世帯数が増加した同地域では高齢者等の活動の場が確保されるなど、農福連携を通じ、地域の活力が高まりつつあります。

(2)障害者が活躍する農業活動山口県萩

はぎ市しの社会福祉法人E.G.Fでは、メロン、いちご、

野菜の苗作りから収穫、加工まで、障害者の能力に応じ各工程に障害者が関わる農業事業を展開しています。下請け的な作業ではなく、本物づくりを目指して、12粒2,500円で販売する有機栽培いちご、高い需要の国産手むき栗等を生産し、営業にも力を入れ、農作物や農産物加工品を販売しており、ほ場での障害者の活動をみた地域住民や農地所有者からの農地の管理依頼も増加しています。このような活動により、これまで働く場所が少なかった障害者が、農業に生きいきと携わることで、地域の中での存在感が増しています。(第2回「ディスカバー農

む ら山漁村の宝」

選定地区)

福祉分野との連携による地域活性化事 例

山形県

秋田県 岩手県

花巻市

農産物加工作業の様子

島根県 広島県

山口県萩市

農作業に取り組む皆さん

204

多様な分野との連携による都市農村交流第4節

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5 都市農業の振興第 節

我が国の都市農業 1は、新鮮な農産物の生産・供給、防災空間の確保、良好な景観の形成、国土・環境の保全、農業体験の場の提供等、多様な機能を発揮しています。以下では、都市農業が有する多様な役割や都市農地の状況、都市農業の持続的な発展について記述します。

(都市農業が有する多様な役割)都市農業は、消費地に近い利点をいかし、直売所等を通じて消費者へ新鮮な農産物を供給しているほか、農業体験・交流活動の場の提供、都市住民の農業への理解の醸成等、多様な役割を果たしています(図3-5-1)。

図3-5-1 都市農業の多様な役割

新鮮な農産物の供給

都市住民の農業への理解の醸成

災害時の防災空間

国土・環境の保全

農業体験・学習、交流の場

良好な景観の形成

消費者が求める地元産の新鮮な農産物を供給する役割

火災時における延焼防止や地震時における避難場所、仮設住宅建設用地等のための防災空間としての役割

身近に存在する都市農業を通じて都市住民の農業への理解を醸成する役割

都市の緑として、雨水の保水、地下水の涵養、生物の保護等に資する役割

都市住民や学童の農業体験・学習の場及び生産者と都市住民の交流の場を提供する役割

緑地空間や水辺空間を提供し、都市住民の生活に「やすらぎ」や「潤い」をもたらす役割

資料:農林水産省作成

1 一般に市街化区域内農地とその周辺で営まれる農業をいう。

205

第3章

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市街化区域 1に農地のある市町村は、これら都市農業の多様な機能について農業体験・交流活動の場の提供や地産地消 2による新鮮で安全な食料の供給といった機能に大きな期待を寄せています(図3-5-2)。

図3-5-2 都市農業の多様な機能への期待

100806040200%

資料:農林水産省「市街化区域に農地のある市町村の農政担当部局へのアンケート調査」(平成25(2013)年3月公表)注:人口密度5千人/km2以上の都市を集計。(回答数78自治体)

26.7

34.7

41.3

65.8

47.4

57.9

46.7

42.7

37.3

27.6

43.4

36.8

国土・環境の保全

住民の農業への理解の醸成

防災空間の確保

地産地消による新鮮で安全な食料の供給

緑地等として良好な景観の形成

身近な農業体験・交流活動の場の提供大変期待している

ある程度期待している あまり期待していない

ほとんど期待していない

また、都市住民を対象に行ったアンケート調査でも、都市農地の保全を求める意見が8割弱を占めています(図3-5-3)。このような中、都市農地の保全や都市農業の安定的な継続を図るとともに、良好な都市環境の形成に資することを目的として、平成27(2015)年4月に都市農業振興基本法(以下「基本法」という。)が施行されました(図3-5-4)。この基本法においては、都市農業の振興に関する基本理念として、「都市農業の多様な機能の適切かつ十分な発揮と都市農地の有効な活用及び適正な保全が図られるべきこと」、「良好な市街地形成における農との共存に資するよう都市農業の振興が図られるべきこと」、「国民の理解の下に施策の推進が図られるべきこと」を明らかにするとともに、必要な施策推進が図られるよう、都市農業振興基本計画の策定が義務化されています。現在、農産物供給機能の向上、防災機能の発揮、的確な土地利用計画策定等のための施策や税制上の措置など基本的施策の具体的な検討が進められています。

図3-5-3 住民の都市農業・都市農地の保全に対する考え方

是非残していくべき40.3%

どちらかといえば残していくべき36.1%

どちらともいえない15.1%2.6%

6.1%

どちらかといえば宅地化すべき

積極的に宅地化すべき

資料:農林水産省「都市農業に関する意向調査」(平成27(2015)年3月実施)

注:三大都市圏特定市の都市住民を対象としたインターネット調査(回答総数2千人)

1 都市計画法に基づき、「すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」として指定されている区域

2[用語の解説]を参照

206

都市農業の振興第5節

Page 37: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

図3-5-4 都市農業振興基本法の概要

①都市農業の安定的な継続②都市農業の有する機能の適切・十分な発揮→良好な都市環境の形成

市街地及びその周辺の地域において行われる農業

基本理念等を定めることにより、都市農業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進

目的

都市農業の定義

施策推進のための三つのエンジン

基本理念 国・地方公共団体の責務等 都市農業振興基本計画等◆都市農業の有する機能の適切・十分な発揮とこれによる都市の農地の有効活用・適正保全

◆人口減少社会等を踏まえた良好な市街地形成における農との共存

◆都市住民をはじめとする国民の都市農業の有する機能等の理解

◆国・地方公共団体の施策の策定及び実施の責務◆都市農業を営む者・農業団体の基本理念の実現に取り組む努力◆国、地方公共団体、都市農業を営む者等の相互連携・協力◆必要な法制上・財政上・税制上・金融上の措置

◆政府は、都市農業振興基本計画を策定し、公表◆地方公共団体は、都市農業振興基本計画を基本として地方計画を策定し、公表

資料:農林水産省作成

207

第3章

Page 38: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(都市農地の状況)現在の都市農地の状況についてみると、市街化区域内の農地面積は、我が国の農地総面積の約2%にあたる約8万haです(図3-5-5)。都市農地は宅地等への転用需要が大きく、農地面積は一貫して減少しているものの、生産緑地地区 1の農地については、おおむね一定の面積が維持されています。また、市民農園の数は、土に触れ、野菜や草花を育ててみたいという都市住民の需要の高まりを受け、都市的地域 2を中心に年々増加しており、近年は農業者の指導付き農業体験農園や高齢者の生きがいづくり・健康づくりの場等、利用者のニーズを踏まえた多様な農園が誕生しています(図3-5-6)。また、都市農地は災害発生時の避難場所や火災の延焼防止等の防災機能を発揮する貴重な空間にもなっています。このことから、農家や農業協同組合、地方公共団体の間で都市農地を防災協力農地として位置付ける協定の締結が進められており、平成27(2015)年3月現在、三大都市圏特定市の7都府県56地方公共団体において、農地を緊急時に避難場所として利用すること、災害復旧用の資材の置場等として利用すること等を内容とした協定が結ばれています。都市部でも進行しつつある人口減少や高齢化に伴い、都市の開発需要も減少することが見込まれます。このような状況の下、農業が多様な機能を発揮し、宅地と農地が共生するまちづくりを推進することが重要となっています。

図3-5-6 市民農園の開設数の推移

平成17年度

(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

2,373 2,515 2,536 2,643 2,829 3,030 3,153 3,231 3,250 3,328

3,124 3,246 3,273 3,3823,596

3,811 3,968 4,092 4,113 4,178都市的地域 都市的地域以外5,000

か所

4,000

3,000

2,000

1,000

0

資料:農林水産省調べ注:「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」及び「市民農園整備促進法」に基づき開設されたもの

図3-5-5 市街化区域内農地面積の推移

16

14

12

10

8

6

4

2

0

万ha

うち生産緑地地区面積

市街化区域内農地面積

26(2014)

平成5年

(1993)

10(1998)

15(2003)

20(2008)

1.4

7.7

14.3

1.5

資料:総務省「固定資産の価格等の概要調書」   国土交通省「都市計画年報」

1 都市計画に定める地域地区の一つ。市街化区域内にある農地等で、良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ、公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものが指定され、開発行為等が規制される。

2[用語の解説]を参照

208

都市農業の振興第5節

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(1)都市近郊の若手農業者グループの活動神奈川県横

よこ須す賀か市しの20歳代の地域農業の後継者6人は、平

成24(2012)年11月に農業者グループ若わ こ う ず耕人’sを結成しま

した。地域特産のキャベツ等を生産する傍ら、生産地と消費地が近い都市農業の利点をいかし、消費者と積極的に交流を行い、農作物を地域の農産物直売所や飲食店等に出荷しています。地域では、顔がみえる若耕人’sが生産した野菜を指名買いする消費者や、「若耕人’sの野菜を使ったメニュー」として販売する飲食店が生まれており、生産者、消費者いずれにもメリットが生じる関係を構築しています。ブログやSNS*等を積極的に活用して、若手農業者の視点から情報発信を行う、都市近郊の若手農業者グループとして注目されています。*SocialNetworkingServiceの略。登録された利用者同士が交流できるウェブサイトのサービス

(2)都市部の小学校の農業体験学習東京都練

ねり馬ま区くの小学校では、身近に存在する都市農地や農業

に関心を持つことを目的として、3年生と5年生の児童を対象に農業体験学習を実施しています。この体験学習では、児童が小学校近くの農地を訪問し、農家から農地の役割や農作業の説明を受け、実際に栽培されているだいこんを収穫するなどし、都市農地・農業への理解を深めています。また、収穫された野菜がどのように販売されているかなど、直売所やスーパーを訪問して学習しています。児童からは、「近くの畑で収穫された直後の野菜は新鮮である」、「町並みに溶け込んだ都市農地が地域の景観を作り出していることに改めて気づいた」等の感想がありました。同様に東京都足

あ立だち区くの小学校では、学校給食に伝統野菜であ

るこまつなを提供する生産農家で農業体験学習を実施するなど、都市農地の果たす役割が身近に感じられる事例として注目されています。

(3)農業者が指導する農業体験農園大阪府大

おお阪さか市しにあるニコニコ農園は、一般の区画貸しの市民農

園と異なり、農業者からの営農指導付きの農業体験農園です。平成26(2014)年度に全30区画を開設し、現在は24区画で30歳から69歳までの利用者が家族や友人と農作業を体験しているほか、隣接する保育園の園児の農作業体験の場としても活用されています。同農園では、一般的な品種に加えて田辺大根や天

てん

王のう寺じ蕪かぶら等の伝統野菜の作付けや、農業者からの専門的な栽培技

術指導の実施に加えて、休憩施設やトイレ等附帯施設の整備も行ったことから、利用者からはおおむね高い評価を受けています。新規利用者の中には安全・安心な農産物を食べたいとの思いから「有機栽培で作付けしたい」との希望もありますが、指導側の農業者としては、まずは一般的な栽培方法で農業を体験し、化学肥料や農薬の使い方、作物への影響を知ってもらうことで、農業への理解が一層深まることにつながると考えています。都市農地における体験農園は、農業者と利用者及び利用者相互のコミュニケーションを図りながら作業を進める点において、一般の市民農園と異なっており、農作業の大変さや収穫の喜びを通じて農業への理解の醸成につながっています。

都市農業の多様な役割事 例

神奈川県静岡県

東京都山梨県

横須賀市

若耕人’sの皆さん

神奈川県

東京都埼玉県

静岡県

山梨県 練馬区

体験学習で農家から説明を受ける児童

和歌山県

奈良県

兵庫県

大阪府

京都府大阪市

体験農園で技術指導を受ける利用者

209

第3章

Page 40: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

東日本大震災からの復旧・復興

第4章

Page 41: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

1 地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第 節

平成23(2011)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により宮城県北部で最大震度7を観測するとともに、最大で高さ9.3m以上の津波を観測するなど、東日本の広い範囲で高い津波を観測しました。この大地震と大津波により、岩手県、宮城県、福島県の3県を中心とした東日本の広い地域に甚大な被害が生じるとともに、東京電力株式会社福島第一原子力発電所において大規模な原子力発電所事故が発生し、大量の放射性物質が放出され、これまでに経験のない被害がもたらされました(政府は、これらの災害を「東日本大震災」と呼称)。以下では、東日本大震災の発災から5年が経過する中、農林水産関係の被害と被災地における復旧・復興の取組状況について、平成27(2015)年度の動向を中心に記述します。

(1)農地・農業用施設の復旧の取組

(農林水産関係被害と復旧状況)東日本大震災における農業関係の被害額は9,049億円となっています(表4-1-1)。津波により被災した農地2万1,480haについては、損壊か所の農地復旧や除塩を実施しており、平成28(2016)年1月末までに、74%(1万5,920ha)で営農再開が可能となりました(図4-1-1)。また、営農再開後もきめ細かい対処を行い、営農の確保を図っています。残りの農地については、公共用地等への転用が見込まれる農地もありますが、農地復旧と一体的に大区画化等の実施を予定している農地、海水が浸入しているなど被害の甚大な農地及び福島県の避難指示区域内の農地があり、それぞれの課題に対処しつつ、復旧を進めています。復旧が必要な主要な排水機場については、98か所のうち93%(91か所)が復旧完了又は実施中となっています。また、復旧が必要な農地海岸 1については、127地区のうち84%(107地区)が復旧完了又は実施中となっています。さらに、被災した農業集落排水施設については、11県401地区のうち97%(388地区)が復旧完了又は実施中となっています。

1 農地を保全するために必要な施設等がある海岸

212

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

表4-1-1 農林水産関係の被害

区分 被害額(億円) 主な被害

農業関係 9,049農地・ 農業用施設 8,414 農地・農業用施設等

農作物等 635 農作物、農業・畜産関係施設等林野関係 2,155 林地荒廃、治山施設、林道施設等水産関係 12,637 漁船、漁港施設、共同利用施設等合計 23,841

資料:農林水産省調べ

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図4-1-1 農地・農業用施設等の復旧状況(平成28(2016)年1月末時点)

項目 被害状況 備考進捗状況0 20 40 60 80 100

(%)

農地

主要な排水機場

農業集落排水施設

農地海岸

資料:農林水産省作成

6県(青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県)の津波被災農地→2万1,480ha

農地転用が行われたもの(見込みを含む。)が1,270haあり、これを除く復旧対象農地2万210haに対する営農再開が可能と見込まれる農地の割合は79%

原発事故による避難指示区域内や津波被災地区等を除き、383地区で復旧が完了

太平洋に面する直轄代行区間約5.7kmのうち、約9割の堤防復旧が完了

82か所で復旧が完了

被害のあった青森県から長野県までの 11県の被災地区数→401地区

復旧が必要な主要な排水機場→98か所

復旧が必要な農地海岸→127地区

74%(営農再開可能:1万5,920ha)

93%(復旧完了又は実施中:91か所)

84%(復旧完了又は実施中:107地区)

97%(復旧完了又は実施中:388地区)

(農地・農業用施設の復旧に向けた取組)農林水産省では、被災した農地・農業用施設等の復旧を進めています。特に農地・農業用施設等の直轄特定災害復旧事業等については、地震被災地域6地区(迫

はざま川がわ上流・荒

あら砥と沢ざわ

ダム、迫はざま川がわ上流、河

か南なん、白

しら河かわ矢や吹ぶき、阿

あ武ぶ隈くま川がわ上流、芳

は賀が台地)及び津波被災地域1地区

(定じょう川がわ)では復旧事業が完了し、地震被災地域1地区(請

うけ戸ど川がわ)及び津波被災地域5地区

(仙せん台だい東ひがし、名

な取とり川がわ、亘

わた理り山やま元もと、亘

わた理り・山

やま元もと農地海岸、南

みなみ相そう馬ま)では引き続き事業を実施し

ています(図4-1-2)。平成27(2015)年10月には津波被災地域である亘

わた理り山やま元もと地区において、全ての排水

機場が本格稼働しました。仙せん台だい東ひがし地区においては、平成27(2015)年9月には全ての

排水機場が本格稼働しており、引き続き農地の大区画化等の整備を実施しています。亘わた

理り・山

やま元もと農地海岸については、平成28(2016)年1月末までに太平洋に面した海岸延長

5.7kmのうち98%(5.6km)の復旧工事が完了しました。

213

第4章

Page 43: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

図4-1-2 直轄特定災害復旧事業の実施地区

資料:農林水産省作成

【仙台東】ほ場整備(大区画化)①定川

(復旧完了)

⑥迫川上流・荒砥沢ダム(復旧完了)

②仙台東

③名取川

④亘理山元

⑤亘理・山元農地海岸

⑨白河矢吹(羽鳥ダム)(復旧完了)⑩阿武隈川上流(西郷ダム)(復旧完了)

⑦迫川上流(復旧完了)

宮城県

⑫南相馬

福島県

栃木県

⑬請戸川

⑪芳賀台地(復旧完了)

⑧河南(復旧完了)

【名取川】閖上排水機場ゆりあげ

※大区画化したほ場での営農状況(左:被災後、右:復旧後)

※損壊した建屋及びポンプ設備の復旧が完了

(上:被災後、下:復旧後) ※損壊した建屋及びポンプ 設備の復旧が完了

※一部、完成した堤防

※津波で護岸が損壊した排水 路の復旧が完了(上:被災後、下:復旧後)

※⑫南相馬及び⑬請戸川は避難指示 区域内

直轄特定災害復旧事業実施地区(津波被災地域)直轄災害復旧事業実施地区(地震被災地域)代行海岸保全施設災害復旧事業実施地区(津波被災地域)福島特別直轄災害復旧事業実施地区(地震被災地域)

【南相馬】村上第二排水機場 【亘理・山元農地海岸】海岸堤防

凡   例

【仙台東】大堀排水路

(2)農業の復興に向けた取組

(被災3県の農業経営体数は減少したものの、法人経営数は増加)被災3県の農業経営体 1数についてみると、平成27(2015)年は13万9千経営体で、震災前の平成22(2010)年に比べ22.5%減少し、全国の減少率よりも4.5ポイント大きくなっています。一方、被災3県の法人経営数についてみると、平成27(2015)年は2,007経営体で、震災前の平成22(2010)年に比べて29.3%増加し、全国の増加率よりも4.0ポイント上回っています(表4-1-2)。また、津波被害のあった沿海市区町村と内陸市区町村についてみると、沿海市区町村における農業経営体数が内陸市区町村に比べて大きく減少しています。

表4-1-2 被災3県の農業経営体数(単位:経営体)

農業経営体 うち法人経営沿海市区町村 内陸市区町村 沿海市区町村 内陸市区町村

平成22年(2010) 179,396 33,493 145,903 1,552 282 1,270

27(2015) 139,022 20,959 118,063 2,007 326 1,681

増減率(%) -22.5 -37.4 -19.1 29.3 15.6 32.4(参考)【全国】増減率(%) -18.0 … … 25.3 … …

資料:農林水産省「2015年農林業センサス」

1[用語の解説]を参照

214

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

Page 44: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(被災3県の1経営体当たりの経営耕地面積は増加)被災3県の1経営体当たりの経営耕地面積についてみると、平成27(2015)年は全ての県で平成22(2010)年よりも増加しています(表4-1-3)。また、津波被害のあった沿海市区町村と内陸市区町村についてみると、宮城県は両区分ともに大きく増加しているものの、岩手県及び福島県では内陸市区町村の増加が大きく、沿海市区町村は岩手県で0.2ha、福島県で0.1haの増加にとどまっています。

表4-1-3 全国及び被災3県の1経営体当たりの経営耕地面積(単位:ha)

全国 岩手県 宮城県 福島県沿海

市区町村内陸

市区町村沿海市区町村

内陸市区町村

沿海市区町村

内陸市区町村

沿海市区町村

内陸市区町村

平成22年(2010) 2.2 … … 2.3 1.9 2.3 2.3 2.0 2.4 1.7 1.8 1.7

27(2015) 2.5 … … 2.6 2.1 2.7 2.8 2.6 2.9 1.9 1.9 1.9

増減差 0.3 … … 0.3 0.2 0.4 0.5 0.6 0.5 0.2 0.1 0.2

資料:農林水産省「2015年農林業センサス」

(被災3県の経営耕地面積は大規模層で増加)被災3県の経営耕地面積規模別の農業経営体数について、平成22(2010)年から平成27(2015)年の増減率をみると、10ha未満層では岩手県の5ha未満層を除き全国平均を下回っている一方、10ha以上層では、福島県の50ha以上層を除き全国平均を上回っています(図4-1-3)。県別にみると、岩手県及び宮城県は50ha以上層が最も増加し、福島県では30haから50ha未満層が最も増加しています。

図4-1-3 経営耕地面積規模別農業経営体数の増減率

50%

403020100

-10-20-30-40

5ha未満

-19.3

-19.0

-25.8

-27.1

0.1

-5.5-1.1 -4.1

6.613.7

18.4

19.4 4.418.2

22.840.0

9.029.9

41.7

0.0

5~10 10~30 30~50 50ha以上

全国

岩手県

宮城県

福島県

資料:農林水産省「2015年農林業センサス」

215

第4章

Page 45: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(被災3県の農産物販売金額は一部を除き5,000万円以上層で増加)被災3県の農産物販売金額規模別の農業経営体数について、平成22(2010)年から平成27(2015)年の増減率をみると、岩手県では5,000万円以上層で増加し、宮城県についても1億円以上層で大きく増加しているものの、福島県は全ての層で減少しています(図4-1-4)。

図4-1-4 農産物販売金額規模別農業経営体数の増減率

40%

3020100

-10-20-30-40

-14.1

-11.8

-20.5

-16.8

-23.2

-22.8

-26.4

-32.4 -8.1-10.2

-14.2

-21.4

12.5

15.20.0

-15.4

17.47.3

28.7

-18.3

全国

岩手県

宮城県

福島県

50万円未満 50~1,000 1,000~5,000 5,000~1億 1億円以上資料:農林水産省「2015年農林業センサス」

(被害を受けた農業経営体の農業所得は順調に回復)津波被害を受けた農業経営体の経営の回復状況を継続的に把握するため、市町村を通じて協力を得られた経営再開の意志を有する326経営体を対象に、震災から数年間、定点調査を実施することとしており、調査対象経営体のうち平成26(2014)年12月末までに、8割以上の経営体が経営を再開しています(図4-1-5)。

図4-1-5 平成26(2014)年12月末までの経営再開状況の推移

未再開

350経営体

0 50 100 150 200 250 300

平成23年(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

(326)

(315)

(297)

(184)

105 213 8

48 198 69 11

95 2923 179

371052813818

26年調査対象から除外*1

再開(震災前水準に達していない)

再開(震災前水準を上回った)組織経営体への

参加、離農など*2

資料:農林水産省「東日本大震災による津波被災地域における農業・漁業経営体の経営状況について」(平成27(2015)年9月公表)注:1)東日本大震災において特に津波被害を受けた地域の、おおむね5年以内に経営再開意思を有する農業経営体を対象とした調査(福島

県は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故により警戒区域等に指定された市町を調査対象から除いたため、新地町、相馬市、いわき市の経営体を調査対象とした。)

2)*1は、平成25(2013)年までの調査結果において、農産物販売収入が震災前水準を上回った経営体3)( )内の数字は当該年の調査対象経営体数(326経営体から*1及び*2の経営体を除いた経営体数)

216

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

Page 46: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

経営を再開した経営体のうち、平成25(2013)年までの販売収入が震災前の水準に達しなかった経営体について、震災前の被災農業経営体の農業所得を100とした所得水準をみると、耕地の復旧が進んだこと等により、3県平均で平成25(2013)年の40から平成26(2014)年では49となっています(図4-1-6)。

図4-1-6 平成25(2013)年までの販売収入が震災前の水準に達しなかった経営体の平成26(2014)年の農業所得等の水準(県別)(平成22(2010)年=100)

平成25年(2013)

64

91

67

81

63

94

69

83

52

65

4957 51

66

5763

4049

34 39 4252

35 40

26(2014)

25(2013)

26(2014)

25(2013)

26(2014)

26(2014)

25(2013)

経営耕地面積

農産物販売収入

農業所得

3県平均 岩手県 宮城県 福島県

100指数

80

60

40

20

0

資料:農林水産省「東日本大震災による津波被災地域における農業・漁業経営体の経営状況について」(平成27(2015)年9月公表)注:1)図4-1-5の注1)を参照

2)農業所得は、農産物販売収入から農業にかかる現金支出を控除したものであり、補助金等の収入は含まない。

また、経営を再開し平成25(2013)年までの販売収入が震災前の水準を上回った経営体を含めた農業所得の水準は、3県平均で震災直後の平成23(2011)年の23から平成26(2014)年では70になると試算されています(図4-1-7)。経営を再開し、農業所得の回復を図るためには、集団化・大規模化等の新たな営農・流通システムの導入、新たな品目や高度な生産・管理技術の導入等を行うとともに、新たな販売先の開拓など販売面における課題等にも対応していくことが重要です。

図4-1-7 平成25(2013)年までの販売収入が震災前の水準を上回った経営体も含む農業所得等の水準(試算)(平成22(2010)年=100)

平成23年(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)(試算値)

農産物販売収入 農業所得

100指数

80

60

40

20

0

3県平均

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)(試算値)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)(試算値)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)(試算値)

32

6676

86

4557

6875

27

6476

87

58

75 79 83

23

59 64 70

29 3461 62

19

61 67 73

43 54 56 59

岩手県 宮城県 福島県資料:農林水産省「東日本大震災による津波被災地域における農業・漁業経営体の経営状況について」(平成27(2015)年9月公表)注:1)図4-1-6の注を参照

2)平成23(2011)年からの経年動向をみるために、平成26(2014)年調査から除外した経営体(平成25(2013)年までの調査結果において、農産物販売収入が震災前の水準を上回った経営体)についても、平成26(2014)年値として平成25(2013)年値を便宜代入した上で、集計経営体に加え平成26(2014)年結果を試算した。

217

第4章

Page 47: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

岩手県花はな巻まき市しの特定非営利活動法人東北開墾は、平成25

(2013)年7月から食べ物付き情報誌「東北食べる通信」を発行しています。東北地方では、東日本大震災からの復興が進む一方で、地域に就職しようとする若者がいない、農業を継いでも食べられない、親も継がせようとしないなどの担い手不足の問題を抱えていました。代表理事の高

たか橋はし博ひろ之ゆきさんは、分断された生産者と消費者を

情報でつなぐことが、一次産業再生のカギだと考え、「世なおしは、食なおし」を胸に、生産者の地位を高めるためにはどうしたらよいか考えました。そこで、ただ物を売るのではなく、価値を伝え、生産現場の裏側を知ってもらうことにより、愛着を持って食べてもらえるようになると考え、食べる通信を創刊しました。また、同法人では、情報の発信だけではなく、生産者と消費者の継続的なつながりが持てるように、消費者を生産現場に招待する企画や、購読会員のみのSNS*を設置することによる地方と都市の新しい関係づくりの試みを進めています。平成26(2014)年4月には、東北以外の、各地の個人・団体がそれぞれの地域で食べる通信を創刊できるよう、創刊サポートと全国の編集部の連携を行う「日本食べる通信リーグ」の運営を始めました。さらに、平成27(2015)年には、独自に全国各地の農家・漁師が、生産現場から生の言葉を届けることができるウェブメディア「NIPPONTABERUTIMES」の運営を始めるなど、取組の幅を広げています。今後も、全国で食べる通信を通じて生産者と消費者をつなげていき、都市から農村に実際に足を運んでもらう取組を進めていきたいとしています。*SocialNetworkingServiceの略。登録された利用者同士が交流できるウェブサイトのサービス

被災地の生産者と消費者をつなぐ食べ物付き情報誌事 例

山形県

秋田県 岩手県

花巻市

東北食べる通信

東北開墾のメンバーの皆さん

218

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

Page 48: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(農業者への支援等)農林水産省は、被災した農業経営体が、地域農業復興組合を設立し農地に堆積するごみや礫

れきの除去等の経営再開に向けた復旧

作業を共同で行う取組に対して、経営再開のための支援金を交付し、地域農業の再生と早期の経営再開に取り組んだところです。平成27(2015)年度においては、8市町村、15組合で取組が実施されました(図4-1-8)。また、被災した農業者の経営再開を支援するため、平成23(2011)年度から、被災農業者等が借り入れる株式会社日本政策金融公庫等の災害復旧・復興関係資金について、一定期間(最長18年間)実質無利子、実質無担保・無保証人での借入れ 1を可能とする等の措置を講じています。

宮城県仙せん台だい市しのJA仙台農産物直売所「たなばたけ高

たか砂さご店」

は、震災復興のシンボルとするため、仙台を代表する「七夕(たなばた)」と「畑(はたけ)」を組み合わせて名付けられ、平成23(2011)年10月にリニューアルオープンしました。前身の直売所は、震災の2日後には再開し、農協の精米工場をフル稼働して精米をそろえ、また、被害がさほど大きくなかった山側の生産者は自らトラックで野菜等を直売所に届けるなど、産地と直結したJA直売所として震災時に住民への貴重な食料供給の場として活動しました。新しくなった直売所は、もとの店舗の5倍の広さとなり、生産者からの出荷品のほか地元農産物を使っているスイーツ工房等が開設されており、平成28(2016)年3月には東北の玄関口であるJR仙台駅の駅ビルにスイーツ工房の2店舗目を出店しました。出荷登録者も当初の280人から平成28(2016)年2月には660人となり、年々増加しています。また他産地の農協と連携し、季節ごとの各地の新鮮な国産農産物を販売し、6次産業化*や農商工連携を推進する中で付加価値を付けた加工食品等の提供も行っています。今後は、消費者と生産者が共生できる場、食育の場となる都市対応型の農産物直売所として、

「たなばたけブランド」を育てていきたいとしています。* [用語の解説]を参照

地元農家と農業協同組合の連携による取組事 例

山形県

秋田県 岩手県

宮城県

仙台市

JA 仙台農産物直売所 「たなばたけ高砂店」

1 担保や保証人を徴求する場合にあっては、融資対象物件担保や同一経営の範囲内の保証人のみ徴求

219

第4章

図4-1-8 被災農家経営再開支援事業の取組市町村

※    は、復興組合を設立し事業に取り組んだ市町村

新地町

宮古市山田町

気仙沼市石巻市

東松島市

陸前高田市相馬市

資料:農林水産省作成

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(「新しい東北」の創造に向けた取組)東北地方では、震災前から人口減少、高齢化、産業の空洞化等、全国の地域が抱える課題が顕著に表れていました。このため、復興庁は、復旧・復興に取り組むに当たっては、単なる原状回復にとどめるのではなく、企業・大学・NPO1等の民間の人材やノウハウの活用によりこれらの課題の解決を進めることで、我が国や世界のモデルとなる「新しい東北」を創造することとしています。「新しい東北」の創造に向けた取組の推進に当たっては、企業・大学・NPO等の「民」のノウハウや新たな発想が十分にいかされるよう、官民が連携し、それぞれの強みを持ち寄って取組を進めていくことが重要です。このような認識の下、復興庁では、先進的な取組の加速化とその横展開、情報共有・マッチングに向けた場づくり、民間の人材・ノウハウ・資金の活用等の取組を進めています。まず、先進的な取組の加速化とその横展開については、被災地で既に芽生えている先導的な取組を加速し、「新しい東北」の創造に向けたノウハウを構築するため、東北産花きのブランド化等の先導モデル事業を実施しており、平成27(2015)年度は55事業を選定・支援しました。さらに、先導モデル事業で蓄積したノウハウ等の被災地での横展開に向けた施策として、平成27(2015)年2月に地方公共団体等をメンバーとする「地域づくりネットワーク」を立ち上げました。また、情報共有・マッチングに向けた場づくりとして、平成25(2013)年12月に立ち上げた「新しい東北」官民連携推進協議会を活用して、被災地の事業・取組を支援する様々な情報や各種イベントの情報を集約したウェブサイトを運営しています。さらに、協議会会員等が対面で情報共有や意見交換を行うことができる場として「交流会」等を開催しており、各種支援と支援ニーズとのマッチング、様々な主体間の連携、先進的な取組の横展開等のきっかけづくりの場を提供しています。平成27(2015)年度は、「交流会」等を岩手県、宮城県及び福島県の3県のほか、東京都や兵庫県でも開催しました。このほか、民間の人材・ノウハウ・資金の活用として、被災地での新たな資金供給の創出を目指す「復興金融ネットワーク」の取組や、被災地域の民間企業が産業復興の中核を担えるよう、地方公共団体、産業支援機関、商工会議所・商工会等の企業支援担当者、企業支援の専門家、民間復興支援団体・組織等が連携し、新たな事業の立ち上げへの支援、情報共有・協力関係を構築する「企業連携グループ」の取組を行っています。

1[用語の解説]を参照

220

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

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(1)世界にも通用する究極のお土産 ―「新しい東北」の挑戦―復興庁では、民間企業・団体と共同で、「新しい東北」を始めとした東北での挑戦の成果を、被災地や復興に関心が高い国民だけでなく、広く全国に発信する「『新しい東北』官民共同PR事業」を行っています。同事業の一環として、平成27(2015)年度には、東北のお土産に込められた挑戦のストーリーを全国に伝えることを目指した食品のコンテスト「世界にも通用する究極のお土産―「新しい東北」の挑戦―」が実施されました。同コンテストには東北6県から約500商品の応募があり、一次審査を通過した112商品について、最終審査会を行い、究極のお土産10商品と特別賞1商品が決定されました。決定した10商品については、最終審査員の10社等による「究極のお土産」をテーマとした催事の開催、特集記事の掲載等のタイアップ企画が順次実施されており、東北での挑戦の成果を全国に伝えています。

(2)郡山市ブランド野菜の取組福島県郡

こおり山やま市しは、ミネラル豊富な土質、安

あさ積か疏そ水すいの清ら

かな水、澄んだ空気等、農業に適した環境を有しながら、「土地を象徴するような野菜がない。ならば自分たちで創り上げよう。」そんな想いから、平成15(2003)年より農業の経験から培われた野菜の目利き力をいかし、数百種類の中から毎年1つだけ珠玉の野菜を選び抜き栽培する「郡山ブランド野菜」の取組を始めました。この取組は、東日本大震災で被災した後も続けられ、復興庁の平成27(2015)年度「新しい東北」先導モデル事業として採択・支援されることとなりました。先導モデル事業では、農業と観光を融合させた新たな6次産業化と関係団体によるネットワーク化の試行、販路拡大・品質安定化に向けた地域産品生産のモデルケース確立を目的とした取組を行っています。具体的には、農業と観光に関わる様々な担い手を集結し、「買う」、「食べる」、「体験する」をテーマとした情報と顧客を共有する枠組みを構築しています。平成27(2015)年11月には生産者、直売所、レストラン等が連携したツアーを開催し、畑を観光資源とした収穫体験やこだわりの料理教室等、ブランド野菜を丸ごと体感する機会を創出しました。併せて、栄養成分分析や味覚センサーを活用した「おいしさの数値化」にも継続して取り組んできており、平成27(2015)年度には生産工程のデータベース化による基準を策定し、生産量の拡大と品質維持の両立を図っています。さらには、このような取組を販路拡大に結び付けるため、栄養価の高さと、各種数値化の成果を根拠とした販売手法への活用手法の確立を目指しています。これらの農業を基軸とした体験型観光と担い手のネットワーク化、明確な数値を根拠とした販路拡大と新規就農者支援は、全国の6次産業化のモデルとなることが期待されています。

新しい東北の創造に向けた取組事 例

品評会(最終審査会)の様子

山形県 宮城県

福島県栃木県 茨城県

新潟県 郡山市

郡山ブランド野菜ツアーの様子

221

第4章

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(産学官が連携した先端的技術の大規模実証研究)東日本大震災の被災地を新たな食料生産地域としてより一層早期に復興させるため、農林水産省は、「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」により、これまで産学官が開発してきた多くの農林水産分野における先端技術を組み合わせ、最適化し体系化するための大規模実証研究を、岩手県、宮城県及び福島県の3県で37の研究課題について行うとともに、その成果の普及・実用化を推進しています。農林水産省は、実証研究を通じて、東日本大震災による被害を受けた地域における農林水産業の復旧を加速化し、単なる復旧にとどめることなく、多様な環境に応じた新しい技術体系の確立を目指し、持続可能な営農のために必要な研究開発等を実施しています。

宮城県名な取とり市しの有限会社耕

こう谷やアグリサービスは、農地集積

等による生産の効率化と高付加価値型農業による経営の安定化を目指す組織として、平成15(2003)年に地域の担い手農家4戸が役員となって設立されました。平成27(2015)年度は、役員3人のほか、社員9人、パート4人を雇用し、水稲85haを中心にして、経営面積148haを耕作しています。同社は、東日本大震災により、当時の経営面積76haのうち約9割が浸水したほか、トラクター等の農業機械も被害を受けましたが、被災後すぐにがれきの撤去や農地の除塩、農業機械の再整備等に着手しました。自社農地の復旧を進めていたところ、排水機場の被害で水稲の作付けを行えなくなった近隣の農家から60haの大豆作付の依頼があり、それら全てを引き受けて営農を再開しました。平成24(2012)年度からは、「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」による実証試験として、15haで水稲の直

ちょく播はん栽培を行い、そのうち乾田直

ちょく播はんを8haで実施しています。

乾田直ちょく播はんでは、2割程度の経費削減と播

は種しゅ作業の前倒しによる作業分散が図られることから、

低コスト化に向けて非常に手応えを感じています。さらに、同事業でICT*を活用した気象データの蓄積を行っており、平成27(2015)年度までの4年間のデータを活用することで、出穂時期や刈取時期の予測精度が向上し、作業計画の策定等の効率化に役立っています。社長の佐

さ藤とう克かつ行ゆきさんは、これからも地域の担い手と手を携えながら、地域に密着した農業を

続けていくため様々な取組を進めていきたいとしています。* InformationandCommunicationTechnologyの略。情報や通信に関する技術の総称

乾田直播とICTを活用した低コスト営農の取組事 例

山形県

秋田県 岩手県

宮城県

名取市

佐藤克行さん

222

地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組第1節

Page 52: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

(復興に向けた新たな動き)東日本大震災の復興期間は、「東日本大震災からの復興の基本方針」において、10年間とされ、また、当初の5年間を「集中復興期間」と位置付けました。一方、これまでに講じてきた加速化措置等により、被災地における産業・生

なり業わいの再生が

着実に進展してきたため、平成28(2016)年度以降については、復興の新たなステージとして、「復興・創生期間」と位置付けられました。今後は、復興期間の総仕上げに向け、将来を見据え、自立につながるような被災地域の農林水産業の復興を実現することを目指すこととしています。

223

第4章

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2 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第 節

東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)の事故により、大気中に大量の放射性物質が放出されました。この影響により、事故発生から5年が経過した後においても、東電福島第一原発周辺の一部地域に対する避難指示や、一部の農畜産物に対する出荷制限が続いています。このような中、農林水産省では、農畜産物の安全確保に向けた取組や食品に対する消費者の信頼を確保するための取組等を推進するとともに、避難指示区域等における農業者の経営再開を支援しています。

(1)福島県の避難指示区域等の復興に向けた取組

(避難指示区域の解除・見直し)東電福島第一原発事故に伴い、周辺住民に対する避難指示が行われました。この避難指示の対象区域は、平成24(2012)年4月以降、「避難指示解除準備区域」、「居住制限区域」及び「帰還困難区域」の3つの避難指示区域に再編され、平成25(2013)年に、避難指示区域の見直しが完了しました。平成26(2014)年の田

た村むら市しの避難指示解除、川

かわ内うち

村むらの避難指示一部解除に続き、平成27(2015)年9月5日に楢

なら葉は町まちの避難指示が解除さ

れました(図4-2-1)。平成28(2016)年3月現在、9市町村において避難指示区域が指定されているとともに、約4万3千人 1が福島県から県外へ避難している状況にあり、引き続き避難住民の早期帰還・定住に向けた取組を推進していく必要があります。

図4-2-1 避難指示区域の概要(平成27(2015)年9月5日現在)

広野町

伊達市

いわき市

飯舘村

楢葉町

川内村

帰還困難区域居住制限区域避難指示解除準備区域

凡例

大熊町

南相馬市

福島第一原子力発電所

福島第二原子力発電所

富岡町

葛尾村

双葉町

浪江町

川俣町

田村市

20km

資料:原子力災害対策本部「避難指示区域の概念図」注:*[用語の解説]を参照

≪避難指示解除準備区域≫ 年間積算線量が20ミリシーベルト*以下となることが確実であることが確認された地域≪居住制限区域≫ 年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難の継続を求める地域≪帰還困難区域≫ これから5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある、現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域

1 復興庁「全国の避難者等の数」

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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(原子力災害からの福島復興の加速に向けた取組)平成25(2013)年に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(以下「指針」という。)が閣議決定された後、田

た村むら市し、川かわ内うち村むらの避難指示解除の実現等が進捗したものの、

長期避難に伴う課題の顕在化や長引く風評被害等、更なる復興加速に向けて対応すべき状況があります。これを踏まえ、平成27(2015)年6月、指針が改訂されました。改訂においては、避難指示解除準備区域や居住制限区域について、遅くとも事故から6年後の平成29(2017)年3月までに避難指示を解除できるよう、環境整備を加速することとし、平成27(2015)年9月、楢

なら葉は町まちを避難指示解除しています。

また、原発事故による被災事業者等の生活再建、生なり業わい等の支援の実施に向け、自立支援

の新たな実施主体を設置することとされたことを踏まえ、平成27(2015)年8月に、国、福島県、民間をメンバーとする福島相双復興官民協議会が原子力災害対策本部長決定で設置され、その下に、福島相双復興官民合同チームが設置されました。官民合同チームでは、今後2年間、被災12市町村の商工事業者・農業者の個別訪問等を行い要望・意向を把握し、事業再建計画や地域農業の将来像の策定支援等きめ細かに対応していくこととしています。また、農業は、農地利用や水管理等で地域的なまとまりが不可欠であることから、市町村が行う農業者の意向把握やこれらを踏まえた地域農業の将来像の策定と、その実現に向けた取組を支援するため、官民合同チーム内の営農再開グループにおいて、市町村、農業協同組合等との打合せや農業者を交えた懇談会を行っています。さらに、避難指示区域等の地域においては、避難住民が帰還後速やかに営農再開できるよう、農林水産省では、除染の進捗状況に合わせた農業関連インフラの復旧、除染が終了した農地の保全管理、作付実証、大規模化や施設園芸の導入等の新たな農業への転換、放射性物質の吸収抑制対策、ため池等の放射性物質対策等の一連の取組を切れ目なく支援しています。平成27(2015)年には、南

みなみ相そう馬ま市し、広ひろ野の町まち、川かわ内うち村むら、田

た村むら市しの約1,500haで

水稲の作付けが本格的に再開されるなど、営農再開に向けた取組が進んでいます。

(関係省庁等と連携し復興を推進)長期避難者への支援から早期帰還への対応までを一括して支援することにより、福島の再生を加速化するため、福島再生加速化交付金が平成27(2015)年度も引き続き措置されました。また、福島県産農産物等の正しい理解の促進やブランド力の回復のためのPR等を行う風評被害対策や観光関連事業への支援も、引き続き措置されました。農林水産省は、関係省庁等と連携しながら福島の再生、復興まちづくり、産業の復興、被災者支援に引き続き取り組むこととしています。

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第4章

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福島県川かわ俣また町まちでは、福島県養鶏試験場と協力して、シャモ

独特の弾力のある食感を残しつつジューシーでコクのある川俣シャモを開発し、ブランドを築き上げてきました。一般的なブロイラーは肥育効率の良い生後50日程度で出荷されますが、川俣シャモはおいしさにこだわり独特の食感を出すため、100日以上かけて肥育しています。川俣シャモは株式会社川俣町農業振興公社(代表取締役:笠

かさ間ま英ひで夫おさん)が生産

計画立案や加工・販売を行い、有限会社川俣シャモファーム(代表取締役:斎

さい藤とう正まさ博ひろさん)が種鶏からの採卵や雛

ひな生産等

を行い、農家14戸に1週間ずつずらしてひなを供給することで安定出荷体制を構築してきました。しかし、東日本大震災以降、東電福島第一原発事故の影響から、販売先の取引停止が相次ぎ、震災翌年の鶏肉で4割、加工品等も含めた全体の売上げは17%減少しました。2年ほどは福島県産の食材を使用してもらえない状況が続きましたが、屋内型肥育鶏舎や育

いく雛すう施設を整備するとともに、

地道な営業活動等で粘り強く川俣シャモのおいしさや安全性を訴えて、新たな販売先を開拓しました。その結果、平成26(2014)年度の出荷羽数は震災前を上回る約6万5千羽となり、売上げも震災前を上回るまでに回復しました。地元では、飲食店前に「川俣シャモ」ののぼり旗が多く並び、ラーメンや親子丼等の食材にも利用されるなど、地元消費者にも根付いています。今後は、現在の設備で対応可能な年間8万羽の出荷を目指し、着実に取引先を積み増すことで、川俣シャモの振興による復興を進めていきたいとしています。

地元中心の着実な販路を積み上げた地鶏振興による復興に向けた取組事 例

山形県

福島県栃木県 茨城県

新潟県

川俣町

斎藤正博さん(左)と笠間英夫さん(右)

肥育中の川俣シャモ

(2)農畜産物の安全確保に向けた取組

(農畜産物の放射性物質の検査)食品中の放射性物質の基準値は、コーデックス委員会 1が定めた国際的な指標に沿って、

食品から受ける放射線量が年間1ミリシーベルトを超えないようにとの考え方の下、平成24(2012)年4月、厚生労働省が設定しました。食品中の放射性物質検査は、原子力災害対策本部が定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」により、地方公共団体において実施されています。この「考え方」は、直近約1年間の検査結果を踏まえて見直しが行われており、平成28(2016)年3月の改正においては、平成27(2015)年度の検査結果に基づき、重点的に検査すべき品目・地域の見直し等が行われました。農林水産省は、厚生労働省等の関係省庁と連携し、必要な検査が円滑に行われるよう、関係県に対する科学的な助言、検査機器の整備、検査費用の支援等を行っています。

1[用語の解説]を参照

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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(品目ごとの安全確保の取組)生産現場では、後述する農地土壌の除染を行うとともに、農畜産物の安全を確保するため、放射性物質の吸収抑制対策や暫定許容値以下の飼料の使用等、それぞれの品目の性質に合わせた取組が行われています。米については、作付制限、放射性物質の吸収抑制等の対策及び収穫後の抽出検査を組み合わせて安全確保を図っています。なお、福島県では、全域で抽出検査に替えて全袋検査が実施されています。また、平成27(2015)年産米については、福島県の関係市町村の意向を踏まえ、避難指示区域の見直しや前年産の調査結果に応じて、地域ごとに、作付制限、収穫後の検査や管理等の安全確保に取り組んでいます。平成27(2015)年産米の「作付制限」、「農地保全・試験栽培」、「作付再開準備」及び「全量生産出荷管理」の対象地域の水田面積(推計)の合計は、平成26(2014)年産米の1万2,100haから7,900haに減少しており、福島県の水稲(子実用)の作付面積は、6万5,600haとなりました(図4-2-2)。

図4-2-2 平成27(2015)年産米の作付制限等の対象地域

福島県

26年産米 27年産米

作付制限

農地保全・試験栽培

作付再開準備

全量生産出荷管理

福島第一原子力発電所

除染後農地の保全管理や市町村の管理の下で試験栽培を実施

管理計画を策定し、作付再開に向けた実証栽培等を実施

管理計画を策定し、全てのほ場で吸収抑制対策を実施、もれなく検査(全量管理・全袋検査)し、順次出荷

作付・営農は不可

拡大

資料:農林水産省作成

二本松市

南相馬市

国見町

桑折町

福島市 伊達市

飯舘村

新地町

相馬市

葛尾村浪江町

双葉町

大熊町

富岡町

楢葉町

広野町

川内村

川俣町

本宮市

三春町 田村市

小野町

平田村玉川村

二本松市

南相馬市

国見町

桑折町

福島市 伊達市

飯舘村

新地町

相馬市

葛尾村浪江町

双葉町

大熊町

富岡町

楢葉町

広野町

川内村

川俣町

本宮市

三春町 田村市

小野町

平田村玉川村

大豆、そばについては、農林水産省と地方公共団体、関係国立研究開発法人等が連携し、放射性物質濃度が高い大豆やそばが発生する要因とその対策について調査を行い、この調査結果に基づき、土壌中のカリウム濃度に応じた適切なカリ施肥による吸収抑制対策等を推進しています。畜産物については、飼料から畜産物への放射性物質の移行に関する知見等を活用して設定した暫定許容値以下の飼料の給与等を徹底するよう指導するとともに、畜産物中の放射性物質の検査を徹底することにより、安全を確保しています。牧草等の飼料作物について

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第4章

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は、モニタリング調査の結果により、利用の可否を判断しており、暫定許容値を上回ると考えられる牧草地においては、反転耕による放射性物質の移行低減対策等を推進しています。このような生産現場における取組の結果、基準値超過が検出された割合は、すべての品目で平成23(2011)年以降低下しており、平成27(2015)年度では基準値超過した農畜産物はほとんどみられなくなっています(表4-2-1)。なお、基準値を超過した農畜産物は、出荷されないよう隔離・処分されており、市場には流通していません。

表4-2-1 農畜産物の放射性物質の検査の概要(17都県)(平成28(2016)年3月28日現在)(単位:点、%)

品目平成23

(2011)年度末までの基準値超過率*1

平成24(2012)年度

の基準値超過率

平成25(2013)年度

の基準値超過率

平成26(2014)年度

の基準値超過率

平成27(2015)年度

検査点数 基準値 超過点数

基準値 超過率

米*2*3 2.2 0.0008 0.0003 0.00002 1,047万 0 0麦 4.8 0 0 0 323 0 0

豆類*2 2.3 1.1 0.4 0.1 1,700 0 0野菜類 3.0 0.03 0 0 12,188 0 0果実類 7.7 0.3 0 0 2,770 0 0茶*4 8.6 1.5 0 0 127 0 0

その他地域特産物 (そばを含む) 3.2 0.5 0 0 726 1 0.1

原乳 0.4 0 0 0 1,411 0 0肉・卵

(野生鳥獣肉を除く) 1.3 0.005 0 0 225,673 0 0

資料:厚生労働省資料、地方公共団体資料を基に農林水産省で作成注:1)基準値を超過した品目・地域については、出荷制限や自粛等が行われている。

2)*1 平成24(2012)年4月施行の基準値(100 Bq/kg)の超過率(茶については浸出液換算で10 Bq/kg、原乳については50 Bq/kg。)。Bq(ベクレル)については、[用語の解説]を参照

*2 穀類(米、豆類)について、生産年度と検査年度が異なる場合は、生産年度の結果に含めている。*3 福島県で行った平成23(2011)年度産の緊急調査、福島県及び宮城県の一部地域で平成24(2012)年度以降に行った全袋

検査の点数を含む。*4 平成24(2012)年度以降の茶は、飲料水の基準値(10 Bq/kg)が適用される緑茶のみ計上

(農畜産物の出荷制限の解除)東電福島第一原発の事故後、地域的な広がりをもって放射性物質の基準値を超える品目及び地域に対して出荷制限が指示されました。その後、原子力災害対策本部が取りまとめた「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」に沿って、検査結果が基準値を下回り、安全が確認された農畜産物及び地域については、出荷制限が解除されています(表4-2-2)。

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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表4-2-2 平成27(2015)年4月以降に農畜産物の出荷制限が解除された品目及び地域(平成28(2016)年3月末現在)

区分・品目 地域

大豆

岩手県一関市(旧磐清水村の区域)福島県福島市(旧野田村、旧平野村、旧立子山村、旧佐倉村、旧水保村、旧庭塚村の区域)、二本松市(旧小浜町、旧渋川村の区域)、須賀川市(旧長沼町の区域)、南相馬市(旧石神村、旧太田村の区域)、大玉村(旧玉井村、旧大山村の区域)本宮市(旧和木沢村(白沢村)及び旧白岩村の区域)

畑わさび 福島県川俣町(山木屋の区域を除く)うめ 福島県南相馬市の一部ゆず 福島県桑折町くり 福島県二本松市小豆 福島県福島市(旧大笹生村の区域)、南相馬市(旧石神村の区域)

非結球性葉菜類、結球性葉菜類、アブラナ科の花

か蕾らい

類及びかぶ 福島県南相馬市の一部、川俣町(山木屋の区域)、葛尾村の一部

平成25年産米 宮城県栗原市(旧沢辺村の区域)

資料:厚生労働省資料を基に農林水産省で作成

(ため池の放射性物質対策の推進)福島県では、ため池等の農業水利施設 1に含まれる放射性物

質により利用・管理に支障が生じており、営農再開・農業復興のために、その影響の程度に応じて適切に放射性物質対策を講じる必要があります。このため、農林水産省及び福島県は、福島県内のため池等を対象に、放射性物質の実態を把握するとともに、農業用水の利用及び農業水利施設の管理に係る放射性物質の影響を軽減するための対策を推進しています。平成27(2015)年10月、農林水産省及び福島県は、平成26(2014)年度に福島県内のため池等で実施した放射性物質調査の結果を取りまとめ、公表しました。また、ため池の放射性物質に対する不安を解消するため、平成28(2016)年2月、ため池の放射性物質に関するリスクコミュニケーション資料を市町村等に配布するとともに公表しました。さらに、福島県の15市町村は、平成27(2015)年度において福島再生加速化交付金により、底にある堆積物を除去するなどのため池の放射性物質対策の取組を進めているところです。引き続き、市町村等がため池の放射性物質対策を効果的かつ効率的に実施できるよう、農林水産省として、全体の工程管理や技術的助言等を行うこととしています。また、ため池における放射性物質の経年変化等を把握するため、代表的なため池においてモニタリング調査等を行うこととしています。

(農地除染及び農林業系汚染廃棄物の処理の推進)農地の除染については、放射性物質汚染対処特措法 2に基づき、環境省を中心に関係省

庁や県、市町村等との連携により取組が進められています。農林水産省では、農地等の効果的・効率的な除染に向けて、現場の課題に応じた除染技術の研究開発や、農地の除染と

ため池の放射性物質対策に係る リスクコミュニケーション資料

1[用語の解説]を参照2 正式名称は「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」

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第4章

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区画整理等農地整備の一体的な実施に向けた取組等を推進しているほか、除染が終了した農地等の保全管理や作付実証等、営農再開に向けた取組を支援しています。放射性物質に汚染された農林業系汚染廃棄物については、8千ベクレル/kg超は放射性物質汚染対処特措法に基づき国が処理し、8千ベクレル/kg以下は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき市町村等が処理することとなっています。福島県においては、放射能濃度が8千ベクレル/kgから10万ベクレル/kg以下の指定廃棄物は、既存の管理型処分場を活用して埋立処分することとしており、平成27(2015)年12月には、福島県・富

とみ岡おか町まち・楢なら葉は町まちから、当該処分場の活用が容認されたところです。

また、放射性物質汚染対処特措法は、施行後3年を経過した段階で施行状況を検討することとされていることから、環境省において有識者による検討会を開催し、平成27(2015)年9月30日、「放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関するこの取りまとめ」を公表しました。この「取りまとめ」では、現行の除染実施計画が終了する平成28(2016)年度末を目途に、現行の施策に一定の進捗状況があることを前提として、改めて放射性物質汚染対処特措法の施行・進捗状況の点検を行い、放射性物質汚染対処特措法に基づく一連の措置の円滑な完了に向けて必要な制度的手当て等を行うよう指摘しています。農林水産省は、環境省等関係機関と連携して放射性物質低減対策に取り組むとともに、営農上の支障が生じないよう、農林業系汚染廃棄物は、その処理を行う体制が整うまでの間、現場での隔離等を推進しています。

福島県では、東電福島第一原発事故により広範囲での農地の除染が必要となりました。除染と復興を一体的に進め、農村地域を速やかに再生させるため、復興庁を始め環境省(除染を所管)、農林水産省及び福島県(農地整備を所管)等の関係機関が連携し、「農地の除染と農業生産性向上の同時達成」に向けた取組を行っています。平成25(2013)年1月より川

かわ俣また町まち山やま木き屋や地区をモデル地

区とし、環境省の実施する除染工事と福島県等が実施する暗あん

渠きょ排水工や用排水路工等の農地整備工事が一体的に行われて

おり、平成27(2015)年度までに一部が完了しました。除染工事と農地整備工事の共通する工程である準備工や原形復旧工の重複が排除され、コストの縮減と現場工期の短縮という効果が出ており、避難指示解除後の速やかな営農再開につながるものと期待されています。もうひとつのモデル地区、郡

こおり山やま市し喜き久く田た地区においては、平

成27(2015)年度より事業に着手しており、農地整備と除染を同時に行う複数の区画整理工法を比較検証しました。その結果、農地整備において一度取り除く表土を通常よりも深い20cm程度とすることで、通常の除染の際に深く耕起する工法と同程度の効果が得られることが確認できました。この方法により除染と区画整理工を一体的に施工でき、コスト縮減及び工期短縮とともに農作業被爆の回避等の効果が期待されています。

農地の除染と農業生産性向上の同時達成の取組事 例

山形県

福島県

栃木県 茨城県

新潟県

川俣町

郡山市

モデル実施ほ場での田植え (川俣町山木屋地区)

空間線量を測定し、除染効果を検証 (郡山市喜久田地区)

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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(3)食品の信頼確保のための取組

(風評対策の強化)平成27(2015)年6月、震災から4年が経過しても、一部の消費者は福島県産品を買い控えるなど、未だに根強く残る風評被害の状況に鑑み、政府は、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」を開催し、平成26(2014)年における取組状況の進捗管理とともに、課題を洗い出し、風評対策の強化について検討しました。このタスクフォースの中で取りまとめられた風評対策強化指針に基づき、関係省庁一体となった対策を引き続き行っていくこととしています(図4-2-3)。

図4-2-3 風評対策強化指針に基づく主な取組状況と今後の取組の方向性

強化指針1.風評の源を取り除く

今後の方向性

今後の方向性今後の方向性

強化指針3.風評被害を受けた産業を支援する

強化指針2.正確で分かりやすい情報提供を進め、風評を防ぐ

福島県産米を全袋検査→ 26年産米の100.0%が基準値以内。

水産物の放射性物質調査→福島県海産物100%が基準値以内。

発災後4年間で400回以上の意見交換会を全国で開催。「食品と放射能Q&A」を改訂し全国約14万部配布。HPでも公開。「放射線リスクに関する基礎的情報」を約2万2千部配布。HPでも公開。

引き続きリアルタイムでHPで情報発信。

 (27年5月20日現在) (27年4月期)

(1)世界で最も厳しいレベルの基準値に基づく放射性物質検査の徹底による食品安全の確保

(1)「食べて応援しよう!」の実施・拡大、被災地産品の販路拡大等

(2)諸外国の輸入規制の緩和・撤廃に向けた粘り強い働きかけの継続平成26年6月以降、シンガポール、サウジアラビア、タイ、バーレーン、米国等で規制緩和が進展。現在、豪州をはじめ13か国が規制を完全撤廃されている。

民間企業の社内マルシェ等の「食べて応援しよう!」取組件数は累計1,106件。福島県関連の社内マルシェの実施回数は倍増(25年度:43件、26年度:91件)。流通事業者に対し、被災地産品の消費拡大に向けて、福島県・JA等が個別に商談できるよう働きかけ。テレビCM等メディアを活用した広報等による戦略的PRを実施。

(3)福島県への修学旅行等(震災前:約70万人泊→25年:約32万人泊)の回復に向けた対策の強化

「原子力災害からの福島復興交付金(26年度補正)」に基づき、福島県において、バス代を補助する教育旅行復興事業を創設(27年4月)。

(2)環境中の放射線量の把握と公表

食品中の放射性物質に関するリスクコミュニケーション及び情報提供の推進

放射線モニタリング、海洋モニタリング等の継続や放射性物質検査の徹底により、基準値を超えたものを市場に流通させない体制の継続。

①「県政だより」等の自治体広報を活用し、全国的に放射線リスクに関する正確な情報発信を行うことの積極的検討。

②広報資料等の配布先の更なる拡大。③放射性物質検査結果等の国内外への情報提供の継続。

①教育旅行等における教員や保護者向けのプロモーションの強化。②流通業界への働きかけによる被災地産品の棚の回復や棚場における消費者への直接的な販売促進活動の展開。

③国内外への魅力の発信と輸入規制等の解消に向けた諸外国への説明・働きかけの徹底。

資料:復興庁作成

(正確で分かりやすい情報の提供と被災地産品の販売促進の強化)食品等については、ほとんどが基準値以内であるにもかかわらず、平成28(2016)年2月に消費者庁が実施した、風評被害に関する消費者意識の実態調査によれば、一部の消費者は福島県を始めとする被災地産食品の購入に依然としてためらいがある状況です 1。このようなことから、食品安全関係府省である消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省及び農林水産省は連携して、食品中の放射性物質に関するリスクコミュニケーションに重点的に取り組んでおり、平成27(2015)年度は、専門家と消費者や生産者、事業者、地方公共団体等との意見交換会を全国で6回開催しました。また、これまでに生産者や事業者等の努力により放射性物質を低減させる様々な措置がとられ、食品中の放射性物質の基準値に基づいた出荷制限、作付制限等の措置により農畜産物等の安全が確保されてきました。これらの取組について、政府は消費者やメディアに対して周知を図っています。また、福島県を始めとする被災地及びその周辺地域で生産・製造されている農林水産物・食品を積極的に消費することで被災地の復興を応援するた

1 消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第7回)」(平成28(2016)年3月公表)

231

第4章

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め、「食べて応援しよう!」というキャッチフレーズの下、食品産業事業者、地方公共団体等の協力を得て、被災地産食品の販売フェアや社内食堂での積極的利用等の取組を進めており、平成28(2016)年3月末までに、1,547件の取組が行われました 1。農林水産省においては、引き続き、関係府省、地方自治体、消費者団体等と連携し、食品中の放射性物質対策に関する意見交換や情報提供を行うとともに、被災地産食品の販路拡大や積極的利用の推進に取り組むこととしています。

福島県福ふく島しま市しは、ももやりんご、さくらんぼ、なし、ぶど

う等の様々な果樹が栽培される果樹王国であり、髙たか橋はし賢けん一いちさ

んたち若手農家は農協系統への出荷に加え観光・直売等でも多く販売していました。ところが、東電福島第一原発事故により観光・直売等での販売は困難になり、農協系統に出荷するももの単価は7分の1まで下がりました。このような状況に対し、農業者と農業協同組合、行政が一体となって、樹園地2千ha、樹木20万本以上を高圧洗浄し、樹園地内の詳細な線量マップを作るなどの取組を進めました。現在、果樹からは、外部検査機関に委託して線量を計測しても全く検出されなくなっています。また、販路開拓や改植による収量・品質の向上等の経営努力によって震災前の水準まで売上げを回復する農家も出ていますが、観光・直売や単価の高い贈答品の需要はなかなか回復せず風評被害が続いている状況です。この対策として、平成27(2015)年2月、髙橋さんたちは「ふくしま土壌ネットワーク」を立ち上げ、福島果樹のメインとなるもものブランドを再構築する「桃の力プロジェクト」を開始しました。まず、マルシェ等で福島県産のもも「あかつき」を消費者に試食してもらい反応を調査したところ、食べると高評価ですが、果肉がしっかりした品種のため、未熟とみなされないように特徴を伝えることが重要となりました。また、ももをモチーフにした絵本を作り、食育に取り組むこととしており、リスがももを収穫して子どもたちに届ける紙芝居型の試作品は、読み聞かせで好評を得ています。今後、子どもが育った際に、もも畑が広がる地元に誇りを持ち、自信を持って人に果実を勧めてもらえるよう、ももブランドを再構築していきたいとしています。

ももブランド再構築による果樹王国の復興事 例

山形県

宮城県

福島県栃木県

茨城県

新潟県

福島市

左から、ふくしま土壌ネットワークの橘

きつ内ない

義よし

知とも

さん、髙橋賢一さん、安あん

齋ざい

直なお

樹き

さん

1 平成23(2011)年4月から平成28(2016)年3月末までの取組件数

232

東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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(日本産農林水産物・食品の輸出回復に向けた取組)東電福島第一原発の事故に伴い、多くの国・地域において、日本産農林水産物・食品の輸入停止や放射性物質の検査証明書等の要求、検査の強化といった輸入規制措置が実施されています(表4-2-3)。これらの輸入規制の緩和・撤廃に向けて、政府は、輸入規制措置を実施している諸外国・地域に対して、我が国が実施している安全確保のための措置やモニタリング結果等の科学的データ等の情報提供を行うことにより、政府一体となって輸入規制の緩和・撤廃に努めてきました。これらの取組により、平成27(2015)年4月以降には、タイ、ボリビア及びインドで輸入規制措置が撤廃され、米国、ロシア及びEU等において、輸入規制措置の緩和の動きがみられました(表4-2-4)。

表4-2-3 主な輸出先国・地域の輸入停止措置の例(平成28(2016)年3月末現在)

国・地域 対象都県 主な対象品目農林水産物・食品の輸出額

(平成27(2015)年)香港 福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県 野菜・果実、牛乳、乳飲料、粉ミルク 1,794億円米国 日本国内で出荷制限措置がとられた都県 日本国内で出荷制限措置がとられた品目 1,071億円台湾 福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県 全ての食品(酒類を除く。) 952億円

中国* 宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県、長野県 全ての食品、飼料 839億円

韓国日本国内で出荷制限措置がとられた都県 日本国内で出荷制限措置がとられた品目

501億円青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県 水産物

資料:農林水産省作成注:* 中国当局は、上記輸入停止措置対象都県以外の「野菜、果実、乳、茶葉等」について、放射性物質検査証明書の添付による輸入を認め

ているが、放射性物質の検査項目が合意されていないため、事実上輸入を停止している状態

表4-2-4 平成27(2015)年4月以降の主な輸出先国・地域の輸入規制措置緩和・撤廃の動き(平成28(2016)年3月末現在)

国・地域 年月 概要米国 平成27(2015)年4月 輸入停止(福島県他2県)→解除(一部の水産物)米国 5月 輸入停止(福島県)→解除(一部の水産物)タイ 5月 規制撤廃(一部の野生動物肉を除く。)

ロシア 7月 輸入停止(8県の水産物)→青森県を解除(検査証明書添付で輸入可能)米国 8月 輸入停止(福島県他2県)→解除(一部の水産物・農産物)

ボリビア 11月 規制撤廃米国 平成28(2016)年1月 輸入停止(福島県)→解除(一部の農産物)

EU* 1月 検査証明書及び産地証明書の対象地域及び対象品目が縮小(福島県の野菜、果実(かきを除く。)、畜産品、そば、茶等を検査証明対象から除外等)

米国 2月 輸入停止(福島県)→解除(一部の水産物)インド 2月 規制撤廃

エジプト 3月検査証明書(11都県の全ての食品・飼料)・産地証明書(11都県以外の道府県)→�検査証明書(7県の水産物)・産地証明書(水産物以外:47都道府県、水産物:7県以外の40都道府県)

米国 3月 輸入停止(宮城県・茨城県)→解除(一部の農産物・水産物)

資料:農林水産省作成注:*スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインもEUに準拠した規制緩和を実施

233

第4章

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(被害を受けた農業者への賠償等)「原子力損害の賠償に関する法律」においては、「原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」と規定しており、今回の東電福島第一原発の事故の損害賠償責任は一義的に東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が負っています。農林水産省が関係都道県等から聞き取りを行った結果によると、平成28(2016)年3月末までに、農業関係の損害賠償支払額は合計で約5,931億円となっています。また、東電福島第一原発の事故に伴う出荷制限や風評被害等を受けている農業者等に対しては、東京電力からの賠償が行われるまでの間、農協等の自主的な取組として、事業資金の一時的な不足を補うつなぎ資金の融資が平成23(2011)年3月31日から実施されており、平成28(2016)年3月末現在、つなぎ資金の貸付実績は、約2千件、約69億2千万円となっています。

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組第2節

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農業・農村地域の活性化を目指して―平成 27(2015)年度天皇杯等受賞者事例紹介―

効率的な農業経営や地域住民によるむらづくり等を行っている事例のうち、その内容が優れており広く社会の賞賛に値するものについては、毎年度、秋に開催される農林水産祭式典において天皇杯等が授与されています 1。ここでは、平成27(2015)年度の天皇杯等受賞者を紹介します。

1 天皇杯等三賞の選賞は、過去1年間(平成26(2014)年8月から平成27(2015)年7月)の農林水産祭参加表彰行事において農林水産大臣賞を受賞した491点の中から決定。選賞部門は、掲載の5部門のほか、林産部門及び水産部門を加えた7部門

平成 27(2015)年度天皇杯受賞者

中山間地域における地域対策と農業対策の一体化 ~6 次産業化で所得向上~○農産部門 ○経営(水稲) ○広島県 東

ひがし広ひろ

島しま

市し

○農事組合法人 ファーム・おだ(代表:吉

よし弘ひろ

昌まさ

昭あき

氏)

13集落の農業の永続と地域活性化を活動目的とするファーム・おだは、少子高齢化に伴う農業の担い手不足に対応するため、平成17

(2005)年に設立されました。同法人は、農地を守る兼業農家主体の組織形態をとりながら、次世代の担い手の受け皿組織として、役員の強いリーダーシップと先見性による積極的な経営戦略を持ち、稲作を中心とした6次産業化・経営多角化の事業を展開しています。

法人設立前の1戸当たりの平均耕作面積は小規模でしたが、現在では100haを超す経営規模となり、生産コストと農作物取扱量のスケールメリットが生まれ、構成員の収入は、大幅に増加しました。また、米粉パン工房「パン&米夢(ぱんとまいむ)」を開設し、女性の力を活用した商品開発や販路拡大に取り組んでいます。ファーム・おだは、全国の農業法人との情報共有や農政に対する提案活動にも積極的に参加しており、国や関係団体へ中山間地域の集落法人の実態を伝えながら、集落法人全体の底上げを図ろうと尽力しています。

オリジナル品種による地域一体となった世界に通用するブランド産地作り○園芸部門 ○経営(りんどう) ○岩手県八

はち幡まん

平たい

市し

○新岩手農業協同組合 八

はち幡まん

平たい

花か

卉き

生産部会(代表:髙たか

村むら

敏とし

彦ひこ

氏)

新岩手農業協同組合八幡平花卉生産部会は、地域オリジナル品種を活用したりんどうの産地化に取り組み、現在は全国のりんどう栽培面積の約4分の1、出荷数量の約3割を占める産地に成長しました。部会員数170戸、栽培面積110ha、販売額は平成17(2005)年以降、10年連続して10億円以上を達成しています。

系統出荷率90%以上の共販体制による安定した出荷ロットと、全量共同育苗、全戸一斉ほ場巡回指導、厳しい自主検査による高品質なオリジナル品種の生産、鮮度保持対策の徹底や出荷調整作業の機械化等のコスト削減努力により、「安

あ代しろ

りんどう」というブランドを確立しました。同部会では、販売額15億円を目標に、平成26(2014)年に市場投入した赤色品種「恋

こい紅べに

」のような今までのりんどうのイメージを変える品種の開発、新規栽培者の育成、知的財産の輸出を含む新たな輸出国の開拓等を進めており、更なる発展が期待されます。

第54回農林水産祭式典 受賞者に贈られる天皇杯

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日本型養豚のための純粋種豚改良・生産を支える 6 次産業化の展開○畜産部門 ○経営(養豚) ○栃木県那

な須

す郡ぐん

那な

珂か

川がわ

町まち

 ○有限会社星ほし

種しゅ

豚とん

場じょう

(代表:星ほし

正まさ

美み

氏)

星種豚場は純粋種豚を改良・生産する指定種豚場として、デュロック種を中心に全国規模で純粋種豚と精液の供給を行っています。デュロック種の飼養頭数は種雄豚70 頭、種雌豚120 頭ですが、種豚として需要のない雌豚の肥育を行い、精肉やハム・ソーセージの販売及びレストランでの豚肉料理の提供によって、種豚の評価をモニタリングし、豚肉資源の付加価値を高める6次産業化を展開して、経営資源を有効に活用した安定的な経営を実現しています。また、農場・食肉加工場・レストラン等での地元雇用の創出等による地域への貢献も非常に大きく、過疎化が進む農村地帯において、就業時間帯の限られた女性の雇用の受け皿となっています。

平成6(1994)年には個人では先駆けとなる人工授精センターを開設し、米国の大手豚精液販売企業との技術提携、精液保存チューブの改良、養豚農家への人工授精技術の指導に取り組むなど、人工授精の普及に尽力しています。また、大学等と連携して遺伝子解析による新しい改良手法を開発するプロジェクトにも参加しています。

生産・加工・販売が連携した緑茶の海外輸出の取組○蚕糸・地域特産部門 ○経営(茶) ○静岡県御

お前まえ

崎ざき

市し

 ○株式会社やまま満ま

寿す

多だ

園えん

(代表:増ます

田だ

剛つよ

巳み

氏)

株式会社やまま満寿多園は、平成3(1991)年の米国への輸出開始を皮切りに、本格的に輸出事業に着手しました。平成26(2014)年度現在では274トンの茶を27か国へ輸出しています。

やまま満寿多園では、系列の農家の意欲や知識の向上を図るための相互茶園巡回や研修会を開催するなど、茶園の一貫管理を行っています。また、自ら乗用型摘採機導入のための基盤整備を進め、農家の摘採労力軽減にも取り組んでいるほか、肥料や資材の一括購入や防除体系の効率化により、生産コストの低減や年間防除回数の削減にも成功しています。御

お前まえ

崎ざき

市し

として普及拡大を推進している茶品種「つゆひかり」の地域ブランド化に向けた宣伝・販路拡大に積極的に取り組むほか、地元の小学生を対象に「お茶博士になろう」をテーマに茶摘み体験やお茶の勉強会を17年間継続して実施しています。

都市近郊の伝統的な循環型農法を継承する住民参加型のむらづくり○むらづくり部門 ○むらづくり活動 ○埼玉県入

いる間

ま郡ぐん

三み

芳よし

町まち

○三

み芳よし

町まち

川かわ

越ごえ

いも振興会(代表:伊い

東とう

藏くら

衛え

氏)

三芳町川越いも振興会の活動する上かみ

富とめ

地区は、昭和50(1975)年頃に直売を始めた4戸の農家が中心となり、平成4(1992)年に「三芳町川越いも振興会」を立ち上げ、現在は29戸の会員がさつまいもの高品質化と農業後継者の育成に取り組んでいます。

さつまいもについて、「富とめ

の川越いも」の商標登録等によりブランド化を図るとともに、全国に先駆けたウイルスフリー苗の導入、「紅

べに赤あか

」の優良系統選定等により、品質の向上と安定化に寄与しています。直売による収入の安定化等によって、後継者世代が多く確保され、その世代は、都市住民に循環型農法を伝えるための活動や新たな作物のブランド化に取り組む組織を立ち上げ、都市住民と行う落ち葉掃き体験等の各種取組を実施しています。また、芋焼酎をはじめ、芋ようかん、さつまいもアイス等を製品化するほか、地区内の農家が経営するカフェにおいてさつまいもを使った料理を提供するなど、多様な6次産業化を実現しています。

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平成 27(2015)年度内閣総理大臣賞受賞者部門 出品財 住所 氏名等

農産 経営(水稲、小麦他)岩手県岩いわ

手て

郡ぐん

雫しずく

石いし

町ちょう 有限会社 ファーム管

すが

久きゅう

(代表:菅すが

原わら

 久ひさ

耕たか

氏)

園芸 経営(ミニトマト) 愛知県碧へき

南なん

市し

新にい

美み

 康やす

弘ひろ

氏・新にい

美み

 みどり氏

畜産 経営(酪農)北海道天

塩しお

郡ぐん

天て

塩しお

町ちょう 山

やま

下した

 雅まさ

博ひろ

蚕糸・ 地域特産

産物(茶) 滋賀県甲こう

賀か

市し 農事組合法人 グリーンティ土

つち

山やま

(代表:藤ふじ

村むら

 春はる

樹き

氏)

むらづくり むらづくり活動 山口県萩はぎ

市し

須す

佐さ

地区一いっぽん

本釣づり

船団(代表:一いち

木き

 清きよ

久ひさ

氏)

平成 27(2015)年度日本農林漁業振興会会長賞受賞者部門 出品財 住所 氏名等

農産 経営(大豆) 新潟県長なが

岡おか

市し

阿あ

部べ

 真しん

一いち

園芸 経営(ぶどう他) 長崎県大おお

村むら

市し

有限会社 シュシュ(代表:山やま

口ぐち

 成なる

美み

氏)

畜産 生活(生活改善) 鹿児島県志し

布ぶ

志し

市し

かあちゃんべぶんこ会(代表:立たち

迫ざこ

 眞ま

由ゆ

美み

氏)

蚕糸・ 地域特産

経営(生糸・絹織物) 東京都 中ちゅう

央おう

区く “ 絹を未来に ” プラチナボーイ研究会

(代表:木きの

下した

 幸こう

太た

郎ろう

氏)

むらづくり むらづくり活動 奈良県天てん

理り

市し 農事組合法人 南

みなみ

檜ひ

垣がい

営農組合(代表:松

まつ

井い

 義よし

憲のり

氏)

平成 27(2015)年度内閣総理大臣賞受賞者(女性の活躍)部門 出品財 住所 氏名等

畜産 経営(肉用鶏他) 佐賀県伊い

万ま

里り

市し

株式会社 百ひゃく

姓しょう

屋や

(代表:市いち

丸まる

 道みち

雄お

氏)

平成 27(2015)年度日本農林漁業振興会会長賞受賞者(女性の活躍)部門 出品財 住所 氏名等

園芸 経営(ミニトマト) 愛知県碧へき

南なん

市し

新にい

美み

 康やす

弘ひろ

氏・新にい

美み

 みどり氏

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用語の解説

目次

1.基本統計用語等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 240

(1)農業経営体分類関係(2005年農林業センサス以降の定義)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 240(2)農家等分類関係(1990年世界農林業センサス以降の定義)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 240(3)農家経済関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 241(4)農家世帯員の農業労働力関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 242(5)新規就農者関係(新規就農者調査の定義)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 242(6)農業地域類型区分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 243(7)地域振興立法の指定地域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 243(8)全国農業地域区分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 245

2.五十音順・アルファベット順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 246

(1)五十音順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 246(2)アルファベット順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 251

3.農業・森林・水産業の多面的機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 253

(1)農業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 253(2)森林・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 253(3)水産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 254

239

用語の

解説

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1.基本統計用語等(1)農業経営体分類関係(2005年農林業センサス以降の定義)

用   語 定     義

農業経営体

農産物の生産を行うか又は委託を受けて農作業を行い、(1)経営耕地面積が30a以上、(2)農作物の作付面積又は栽培面積、家畜の飼養頭羽数又は出荷羽数等、一定の外形基準以上の規模(露地野菜15a、施設野菜350m2、搾乳牛1頭等)、(3)農作業の受託を実施、のいずれかに該当するもの(1990年、1995年、2000年センサスでは、販売農家、農家以外の農業事業体及び農業サービス事業体を合わせたものに相当する。)

農業経営体のうち家族経営体

農業経営体のうち個人経営体(農家)及び1戸1法人(農家であって農業経営を法人化している者)

農業経営体のうち組織経営体 農業経営体のうち家族経営体に該当しない者

個人経営体 農業経営体のうち世帯単位で事業を行う者であり、1戸1法人を除く。

法人経営体 農業経営体のうち法人化して事業を行う者であり、1戸1法人を含む。

(2)農家等分類関係(1990年世界農林業センサス以降の定義)用   語 定     義

農家 経営耕地面積が10a以上の農業を営む世帯又は農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯

販売農家 経営耕地面積30a以上又は農産物販売金額が年間50万円以上の農家

主業農家 農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家

準主業農家 農外所得が主(農家所得の50%未満が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家

副業的農家 1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいない農家(主業農家及び準主業農家以外の農家)

専業農家 世帯員の中に兼業従事者が1人もいない農家

兼業農家 世帯員の中に兼業従事者が1人以上いる農家

第1種兼業農家 農業所得の方が兼業所得よりも多い兼業農家

第2種兼業農家 兼業所得の方が農業所得よりも多い兼業農家

自給的農家 経営耕地面積が30a未満かつ農産物販売金額が年間50万円未満の農家

農家以外の農業事業体 経営耕地面積が10a以上又は農産物販売金額が年間15万円以上の農業を営む世帯(農家)以外の事業体

農業サービス事業体 委託を受けて農作業を行う事業所(農業事業体を除き、専ら苗の生産及び販売を行う事業所を含む。)

土地持ち非農家 農家以外で耕地及び耕作放棄地を5a以上所有している世帯

240

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(3)農家経済関係用   語 定     義

総所得 農業所得+農業生産関連事業所得+農外所得+年金等の収入

農業所得 農業粗収益(農業経営によって得られた総収益額)-農業経営費(農業経営に要した一切の経費)

農業生産関連事業所得農業生産関連事業収入(農業経営関与者が経営する農産加工、農家民宿、農家レストラン、観光農園等の農業に関連する事業の収入)-農業生産関連事業支出(同事業に要した雇用労賃、物財費等の支出)

農外所得 農外収入(農業経営関与者の自営兼業収入、給料・俸給)-農外支出(農業経営関与者の自営兼業支出、通勤定期代等)

生産費 農産物を生産するために消費した費用合計(物財費と労働費)から副産物価額を控除したもの

物財費農産物を生産するために消費した流動財費(種苗費、肥料費、農業薬剤費、光熱動力費、その他の諸材料費等)と固定財(建物、自動車、農機具、生産管理機器の償却資産)の減価償却費の合計

支払地代 実際に支払った小作料に調査対象作物の負担率を乗じて、その当該作物が負担する地代を算出したもの

支払利子 支払った利子をその元金の使途により仕訳し、調査対象作物の負担率を乗じて、その当該作物が負担する借入資本利子を算出したもの

家族労働費家族労働時間に「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の「建設業」、「製造業」及び「運輸業、郵便業」に属する5人から29人規模の事業所における賃金データ(都道府県単位)を基に算出した単価を乗じて評価したもの

雇用労働費農産物を生産するために雇い入れた年雇、季節雇、日雇等の雇用労働に支払った賃金。賄いや現物支給の場合は時価で評価している。また、賃金とは別の謝礼金も含む。

自己資本利子 総資本額から借入資本額を差し引いた自己資本額に年利4%を乗じて算出したもの

自作地地代 その地方の類地(調査対象作物の作付地と地力等が類似している作付地)の小作料で評価したもの

農業経営費と生産費の関係

生産費

自作地地代自己資本利子家族労働費雇用労働費支払利子支払地代

物財費

うち自給

農業経営費

農業経営費

営農類型別経営統計

生産費統計

搬出費、包装荷造費経営管理費等

支払利子・地代

算入生産費

資本利子・地代

全額算入生産費

労働費

注:「生産費」、「支払利子・地代算入生産費」及び「資本利子・地代全額算入生産費」については、実際にはこれから副産物価額を差し引いたものをいう。

241

用語の

解説

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(4)農家世帯員の農業労働力関係仕事への従事状況 世帯員

自営農業のみに従事

自営農業とその他の仕事両方に従事 その他

の仕事のみに従事

仕事に従事しなかった

原則として住居と生計を共にする者

(1)基幹的農業従事者自営農業に主として従事した世帯員(農業就業人口)のうち、ふだんの主な状態が「主に仕事(農業)」である者(2)農業就業人口自営農業のみに従事した者又は自営農業以外の仕事に従事していても年間労働日数で自営農業が多い者(3)農業従事者15歳以上の世帯員で年間1日以上自営農業に従事した者

○農業専従者農業従事者のうち自営農業に従事した日数が150日以上の者

自営農業が主

その他の仕事が主

ふだんの主な状態

主に仕事

(2)

(1)

(3)

基幹的農業従事者

農業就業人口

農業従事者

主に家事や育児

その他

(5)新規就農者関係(新規就農者調査の定義)就農の形態 新規就農者

次のいずれかに該当する者

(1)新規自営農業就農者農家世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」又は「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者(2)新規雇用就農者調査期日前1年間に新たに法人等に常雇

い(年間7か月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者(3)新規参入者調査期日前1年間に土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始した経営の責任者及び共同経営者

○新規学卒就農者自営農業就農者で「学生」から「自営農業への従事が主」になった者及び雇用就農者で雇用される直前に学生であった者

自営農業に従事

法人等に常雇いとして雇用

新たに農業経営を開始

就農前の主な状態

学生

新規参入者新規自営農業就農者

新規雇用就農者

新規学卒就農者

(2)

(1)

(3)

他に雇われて勤務

家事・育児・その他

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(6)農業地域類型区分用   語 定     義

農業地域類型区分 地域農業の構造を規定する基盤的な条件(耕地や林野面積の割合、農地の傾斜度等)に基づき旧市区町村を区分したもの

区分 基準指標(下記のいずれかに該当するもの)

都市的地域

○ 可住地に占めるDID面積が5%以上で、人口密度500人以上又はDID人口2万人以上の旧市区町村○ 可住地に占める宅地等率が60%以上で、人口密度500人以上の旧市区町村 ただし、林野率80%以上のものは除く。

平地農業地域

○ 耕地率20%以上かつ林野率50%未満の旧市区町村 ただし、傾斜20分の1以上の田と傾斜8度以上の畑との合計面積の割合が90%以上のものを除く。○ 耕地率20%以上かつ林野率50%以上で、傾斜20分の1以上の田と傾斜8度以上の畑の合計面積の割合が10%未満の旧市区町村

中間農業地域

○ 耕地率が20%未満で、「都市的地域」及び「山間農業地域」以外の旧市区町村○ 耕地率が20%以上で、「都市的地域」及び「平地農業地域」以外の旧市区町村

山間農業地域 ○ 林野率80%以上かつ耕地率10%未満の旧市区町村

注:1)決定順位:都市的地域→山間農業地域→平地農業地域・中間農業地域2)DID(人口集中地区)とは、原則として人口密度が4千人/km2以上の国勢調査基本単位区等が市区町村内で互いに隣接して、それらの隣接した地域の人口が5千人以上を有する地区をいう。

3)傾斜は1筆ごとの耕作面の傾斜ではなく、団地としての地形上の主傾斜をいう。4)農業地域類型区分の「中間農業地域」と「山間農業地域」を合わせた地域を「中山間地域」という。5)旧市区町村とは、昭和25(1950)年2月1日時点での市区町村をいう。

(7)地域振興立法の指定地域用   語 定     義

特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律による「特定農山村地域」

(下記の1から3のいずれかに該当し、かつ、4に該当)1 勾配20分の1以上の田面積が全田面積の50%以上、ただし、全田面積が全耕地面積の33%以上2 勾配15度以上の畑面積が全畑面積の50%以上、ただし、全畑面積が全耕地面積の33%以上3 林野率が75%以上4 総土地面積に対する農林地割合が81%以上又は15歳以上人口に対する農林業従事者数の割合が10%以上 等

山村振興法による「振興山村」

○ 林野率が75%以上(1960年林業センサス)○ 人口密度が1.16人/町歩未満(1960年林業センサス)等

243

用語の

解説

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過疎地域自立促進特別措置法による「過疎地域」

次の1から3のいずれかに該当1 (1)かつ(2)に該当(1)� 人口要件:以下のいずれかに該当1) 昭和35(1960)年から平成7(1995)年の人口減少率が30%以上2) 昭和35(1960)年から平成7(1995)年の人口減少率が25%以上かつ平成7(1995)年の高齢者比率(65歳以上)が24%以上3) 昭和35(1960)年から平成7(1995)年の人口減少率が25%以上かつ平成7(1995)年の若年者比率(15歳以上30歳未満)が15%以下4) 昭和45(1970)年から平成7(1995)年の人口減少率が19%以上ただし、1)、2)、3)の場合、昭和45(1970)年から平成7(1995)年の25年間で10%以上人口が増加している団体は除く。

(2)� 財政力要件:平成8(1996)年度から平成10(1998)年度の3か年平均の財政力指数が0.42以下かつ公営競技収益が13億円以下

2 (1)かつ(2)に該当(1)� 人口要件:以下のいずれかに該当1) 昭和35(1960)年から平成17(2005)年の人口減少率が33%以上2) 昭和35(1960)年から平成17(2005)年の人口減少率が28%以上かつ平成17(2005)年の高齢者比率(65歳以上)が29%以上3) 昭和35(1960)年から平成17(2005)年の人口減少率が28%以上かつ平成17(2005)年の若年者比率(15歳以上30歳未満)が14%以下4) 昭和55(1980)年から平成17(2005)年の人口減少率が17%以上ただし、1)、2)、3)の場合、昭和55(1980)年から平成17(2005)年の25年間で10%以上人口が増加している団体は除く。

(2)� 財政力要件:平成18(2006)年度から平成20(2008)年度の3か年平均の財政力指数が0.56以下かつ公営競技収益が20億円以下

3 (1)かつ(2)に該当(1)� 人口要件:以下のいずれかに該当1) 昭和40(1965)年から平成22(2010)年の人口減少率が33%以上2) 昭和40(1965)年から平成22(2010)年の人口減少率が28%以上かつ平成22(2010)年の高齢者比率(65歳以上)が32%以上3) 昭和40(1965)年から平成22(2010)年の人口減少率が28%以上かつ平成22(2010)年の若年者比率(15歳以上30歳未満)が12%以下4) 昭和60(1985)年から平成22(2010)年の人口減少率が19%以上ただし、1)、2)、3)の場合、昭和60(1985)年から平成22(2010)年の25年間で10%以上人口が増加している団体は除く。

(2)� 財政力要件:平成22(2010)年度から平成24(2012)年度の3か年平均の財政力指数が0.49以下かつ公営競技収益が40億円以下

半島振興法による「半島振興対策実施地域」

○ 三方が海に囲まれ、平地に恵まれず、水資源が乏しい等国土資源の利用の面における制約から産業基盤及び生活環境の整備等について他の地域に比較して低位にある地域であって、2以上の市町村の区域からなり、一定の社会的経済的規模を有する地域

離島振興法による「離島振興対策実施地域」

○ 我が国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、自然環境の保全等に重要な役割を担っている離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上等が必要と認められる離島の地域

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(8)全国農業地域区分全国農業地域名 所属都道府県名 全国農業地域名 所属都道府県名

北 海 道 北海道 近 畿 滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山

東 北 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島

中 国山 陰山 陽

鳥取、島根岡山、広島、山口

北 陸 新潟、富山、石川、福井 四 国 徳島、香川、愛媛、高知

関 東・ 東 山北 関 東南 関 東東 山

茨城、栃木、群馬埼玉、千葉、東京、神奈川山梨、長野

九 州北 九 州

南 九 州

福岡、佐賀、長崎、熊本、大分宮崎、鹿児島

東 海 岐阜、静岡、愛知、三重 沖 縄 沖縄

245

用語の

解説

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2.五十音順・アルファベット順(1)五十音順あ

一般的衛生管理 HACCP導入の前提となる、施設・設備や機械・器具の衛生管理、食品の一般的取扱い、作業員の衛生管理等、作業環境を衛生的に確保するための管理事項

遺伝資源

植物・動物・微生物等あらゆる生物に由来する素材であって、現実の、又は潜在的な価値を有するもの。例えば、農業では品種改良の素材として活用される作物(最新の品種のみならず、古い品種や有用性がはっきりしないが潜在的に利用可能と思われるものも含む。)

温室効果ガス

地面から放射された赤外線の一部を吸収・放射することにより地表を暖める働きがあるとされるもの。京都議定書では、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4、水田や廃棄物最終処分場等から発生)、一酸化二窒素(N2O、一部の化学製品原料製造の過程や家畜排せつ物等から発生)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs、空調機器の冷媒等に使用)、パーフルオロカーボン類(PFCs、半導体の製造工程等で使用)、六ふっ化硫黄(SF6、半導体の製造工程等で使用)、三ふっ化窒素(NF3、半導体の製造工程等で使用。第二約束期間から追加)を温室効果ガスとして削減の対象としている。

家族経営協定

家族で営農を行っている農業経営において、家族間の話合いを基に経営計画、各世帯員の役割、就業条件等を文書にして取り決めたものをいう。家族農業経営においても、効率的・安定的な経営を目指すためには、経営に携わる構成員の役割、就業条件等の明確化を図っていくことが重要である。この協定により、女性や後継者等の農業に従事する世帯員の役割が明確化され、農業者年金制度等の助成対象となるほか、認定農業者制度の共同申請の活用等が可能となる。

牛疫

牛等への牛疫ウイルスの感染による伝染性疾病で、下痢等を伴い高い致死率を示す。18世紀に欧州では約2億頭の牛が死亡したとされる。日本での最後の発生は平成4(1992)年。平成6(1994)年、国際獣疫事務局(OIE)・国連食糧農業機関(FAO)は本病の根絶計画を作成し、平成23(2011)年に撲滅宣言が出された。日本は戦前から本病対策について最先端の技術を有し撲滅に大きく貢献した。

供給熱量(摂取熱量)

食料における供給熱量とは国民に対して供給される総熱量をいい、摂取熱量とは国民に実際に摂取された総熱量をいう。一般には、前者は農林水産省「食料需給表」、後者は厚生労働省「国民健康・栄養調査」の数値が用いられる。両者の算出方法は全く異なることに留意する必要があるが、供給熱量は流通段階も含めて廃棄された食品や食べ残された食品も含まれているため、これと摂取熱量との差は、食品産業において加工工程でやむを得ず発生する食品残さを含めた廃棄分や家庭での食べ残し等のおおよその目安とされる。

耕作放棄地

農林水産省の統計調査における区分であり、農林業センサスにおいては、以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意思のない土地をいう。なお、これに対して、過去1年間全く作付けしなかったが、ここ数年の間に再び耕作する意思のある土地は不作付地といわれ、経営耕地に含まれる。

耕畜連携米や野菜等を生産する耕種農家へ畜産農家から堆肥を供給したり、逆に耕種農家が飼料作物を生産し、畜産農家に供給したりするなど、耕種農家と畜産農家が連携した取組

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口蹄疫

口蹄疫ウイルスにより、牛・豚等の偶蹄類が感染する病気。口や蹄に水疱(水ぶくれ)等の症状を示し、産業動物としての生産性を低下させる。致死率は成畜で数%であるが、幼畜では50%を超えることがある。感染力・伝播力が強く、有効な治療法がないこと等から、家畜の感染症に関する国際機関である国際獣疫事務局(OIE)では、最も警戒する伝染病の一つとされている。なお、感染畜の肉等が市場に出回ることはないが、感染畜の肉や牛乳を摂取しても人体に影響はない。

荒廃農地 現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地

高病原性鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザのうち、家きんに高致死性を示すものを高病原性鳥インフルエンザという。家きんがこのウイルスに感染すると、神経症状、呼吸器症状、消化器症状等全身症状をおこし、大量に死亡する。なお、我が国ではこれまで鶏卵、鶏肉を食べることにより人が感染した例は報告されていない。

コーデックス委員会

消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、昭和38(1963)年に国連食糧農業機関(FAO)�及び世界保健機関(WHO)�により設置された国際的な政府間機関。国際食品規格の策定等を行っている。我が国は昭和41(1966)年から加盟

コールドチェーン 生鮮食料品等について、生産段階から消費段階まで所定の低温に保ちながら流通させる体系をいう。

国内総生産(GDP)

GDPは、Gross�Domestic�Productの略。国内において一定期間(通常1年間)に生産された財貨・サービスの付加価値額の総計をいう。国内の経済活動の水準を表す指標となる。

作況指数

作柄の良否を表す指標で、その年の10a当たり平年収量に対する10a当たり(予想)収量の比率で表す。10a当たり平年収量は、作物の栽培を開始する以前に、その年の気象の推移や被害の発生状況等を平年並とみなし、最近の栽培技術の進歩の度合いや作付変動等を考慮し、実収量のすう勢を基に作成したその年に予想される10a当たり収量をいう。

シーベルト放射線による人体への影響(人体が受けた放射線の量)を表す単位なお、1ミリシーベルトは1シーベルトの1/1000のこと(1シーベルト=1,000ミリシーベルト)

集落営農

集落等地縁的にまとまりのある一定の地域内の農家が農業生産を共同して行う営農活動をいう。(1)転作田の団地化、(2)共同購入した機械の共同利用、(3)担い手が中心となって取り組む生産から販売までの共同化等、地域の実情に応じてその形態や取組内容は多様である。

準単一複合経営(体)

農産物販売金額のうち、主位部門の販売金額が6割以上8割未満の経営(体)をいう。

食の外部化

共働き世帯や単身世帯の増加、高齢化の進行、生活スタイルの多様化等を背景に、家庭内で行われていた調理や食事を家庭外に依存する状況がみられる。これに伴い、食品産業においても、食料消費形態の変化に対応した調理食品、そう菜、弁当といった「中

なか食しょく」の提供や市場の開拓等に進展がみられている。こう

いった動向を総称して「食の外部化」という。→「中食」を参照

247

用語の

解説

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食料安全保障

我が国における食料安全保障については、食料・農業・農村基本法において、「国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じないよう、供給の確保が図られなければならない」とされている。他方、世界における食料安全保障(Food�Security)については、国連食糧農業機関(FAO)で、全ての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的にも経済的にも入手可能であるときに達成されるとされている。また、食料安全保障には4つの要素があり、適切な品質の食料が十分に供給されているか(供給面)、栄養ある食料を入手するための合法的、政治的、経済的、社会的な権利を持ちうるか(アクセス面)、安全で栄養価の高い食料を摂取できるか(利用面)、いつ何時でも適切な食料を入手できる安定性があるか(安定面)とされている。

食料自給率

国内の食料消費が、国内の農業生産でどの程度賄えているかを示す指標○品目別自給率:以下算定式により、各品目における自給率を重量ベースで算出

品目別自給率= =国内生産量国内消費仕向量

国内生産量国内生産量+輸入量-輸出量±在庫増減

食料自給率の算定式

○総合食料自給率:食料全体における自給率を示す指標として、供給熱量ベース、生産額ベースの2とおりの方法で算出。畜産物については、国産であっても輸入した飼料を使って生産された分は、国産には算入していない。○供給熱量ベースの総合食料自給率:「日本食品標準成分表2010」に基づき、重量を供給熱量(カロリー)に換算した上で、各品目を足し上げて算出。これは、1人・1日当たり国産供給熱量を1人・1日当たり供給熱量で除したものに相当○生産額ベースの総合食料自給率:農業物価統計の農家庭先価格等に基づき、重量を金額に換算した上で、各品目を足し上げて算出。これは、食料の国内生産額を食料の国内消費仕向額で除したものに相当○飼料自給率:畜産物に仕向けられる飼料のうち、国内でどの程度賄われているかを示す指標。日本標準飼料成分表等に基づき、TDN(可消化養分総量)に換算した上で、各飼料を足し上げて算出

食料自給力

国内農林水産業生産による食料の潜在生産能力を示す概念。その構成要素は、農産物は農地・農業用水等の農業資源、農業技術、農業就業者、水産物は潜在的生産量と漁業就業者○食料自給力指標農地等を最大限活用することを前提に、生命と健康の維持に必要な食料の生産を以下4パターンに分けた上で、それらの熱量効率が最大化された場合の国内農林水産業生産による1人・1日当たり供給可能熱量を示したもの①栄養バランスを一定程度考慮して、主要穀物(米、小麦、大豆)を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合(パターンA)②主要穀物(米、小麦、大豆)を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合(パターンB)③栄養バランスを一定程度考慮して、いも類を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合(パターンC)④いも類を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合(パターンD)

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た単一経営(体) 農産物販売金額のうち、主位部門の販売金額が8割以上の経営(体)をいう。

地産地消 地域の農林水産物の利用を促進することにより国産の農林水産物の消費を拡大する取組のこと

直ちょく播はん栽培�

(水稲)

稲の種籾を直接田に播は種しゅする栽培方法で、慣行栽培(移植栽培)で必要な育苗

や移植の作業を省略できる。播種の仕方等により様々な方法があるが、大別すると、耕起・代かき後の水を張った水田に播種する湛水直播栽培と、水を張っていない状態の田に播種する乾田直播栽培がある。

トレーサビリティ

農産物や加工食品等の食品が、どこから来て、どこへ行ったか「移動を把握できる」仕組み。食品の生産から消費にわたり、各自取り扱う商品(食品)の移動に関する記録を作成・保存することにより、結果として、生産から小売まで、食品の移動の経路を把握することが可能となり、食品事故が発生した際の迅速な回収等に役立つ。

豚コレラ

豚コレラウイルスにより、豚及びイノシシに感染する伝染性疾病で、高熱、下痢、神経症状等を伴い高い致死率を示す。我が国では、平成19(2007)年4月に清浄化を達成した。しかしながら、アジアを含め世界では本病の発生が依然として認められる。

中食

レストラン等へ出かけて食事をする「外食」と、家庭内で手づくり料理を食べる「内食」の中間にあって、市販の弁当やそう菜、家庭外で調理・加工された食品を家庭や職場・学校等で、そのまま(調理加熱することなく)食べること。これら食品(日持ちしない食品)の総称としても用いられる。

日本型食生活 ごはんを中心に、魚、肉、牛乳・乳製品、野菜、海藻、豆類、果物、茶等、多様な副食等を組み合わせ、栄養バランスに優れた食生活

認定農業者(制度)

農業経営基盤強化促進法に基づき、市町村が地域の実情に即して効率的・安定的な農業経営の目標等を内容とする基本構想を策定し、この目標を目指して農業者が作成した農業経営改善計画を認定する制度。認定農業者に対しては、スーパーL資金等の低利融資制度、農地流動化対策、担い手を支援するための基盤整備事業等の各種施策を実施

農業集落

市町村の区域の一部において、農作業や農業用水の利用を中心に、家と家とが地縁的、血縁的に結び付いた社会生活の基礎的な地域単位のこと。農業水利施設の維持管理、農機具等の利用、農産物の共同出荷等の農業生産面ばかりでなく、集落共同施設の利用、冠婚葬祭、その他生活面に及ぶ密接な結び付きの下、様々な慣習が形成されており、自治及び行政の単位としても機能している。

農業水利施設

農地へのかんがい用水の供給を目的とするかんがい施設と、農地における過剰な地表水及び土壌水の排除を目的とする排水施設に大別される。かんがい施設には、ダム等の貯水施設や、取水堰

せき等の取水施設、用水路、揚水機場、分水工、

ファームポンド等の送水・配水施設があり、排水施設には、排水路、排水機場等がある。このほか、かんがい施設や排水施設の監視や制御・操作を行う水管理施設がある。

農業生産工程管理(GAP)

GAPは、Good�Agricultural�Practice�の略称。農業生産活動を行う上で必要な関係法令等の内容に則して定められる点検項目に沿って、農業生産活動の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動

249

用語の

解説

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農業生産法人

農地法に基づき農地等の所有権を取得することができる法人で、(1)法人形態要件(株式会社(公開会社でないもの)、農事組合法人、合名・合資・合同会社のいずれかであること)、(2)事業要件(主たる事業が農業及び関連事業であること)、(3)構成員要件(原則として総議決権の4分の3以上が農業関係者であること等)、(4)役員要件(役員の過半が農業に常時従事する構成員であること等)の全てを満たす法人

農業総産出額農業生産活動による最終生産物の総産出額であり、農産物の品目別生産量から、二重計上を避けるために、種子、飼料等の中間生産物を控除した数量に、当該品目別農家庭先価格を乗じて得た額を合計したものである。

農事組合法人

農業協同組合法に基づき3人以上の農民が発起人となって設立される、組合員の農業生産の協業を図りその共同の利益の増進を目的とする法人農事組合法人には、機械・施設等の共同利用施設の設置又は農作業の共同化を行う法人と、法人自体が耕作等農業経営を行う法人、これらを両方とも行う法人がある。

農地の集積・集約化

農地の「集積」とは、農地を所有し、又は借り入れること等により、利用する農地面積を拡大することをいう。農地の「集約化」とは、農地の利用権を交換すること等により、農作業を連続的に支障なく行えるようにすることをいう。

バイオマス

動植物に由来する有機性資源で、化石資源を除いたものをいう。バイオマスは、地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使って、無機物である水と二酸化炭素から、生物が光合成によって生成した有機物であり、ライフサイクルの中で、生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能な資源である。

バリューチェーン 生産から加工、流通、販売に至るまで、各事業が有機的につながり、それぞれの工程で付加価値を生み出していくプロセスのこと

複合経営(体) 農産物販売金額のうち、主位部門の販売金額が6割未満の経営(体)をいう。

ベクレル放射性物質が放射線を出す能力(放射能)を表す単位ある放射性物質の原子核が、1秒間に1個崩壊して放射線を出すときに、その放射性物質の放射能は1ベクレルである。

遊休農地

農地法第32条第1項各号のいずれかに該当するもので、「現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地(第1号)」、「その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地(第2号)」

レギュラトリーサイエンス

レギュラトリーサイエンス(Regulatory�Science)とは、科学的知見と、規制等の行政施策・措置との間を橋渡しする科学のこと。行政施策・措置の検討に利用できる科学的知見を得るための研究と科学的知見に基づいて施策・措置を決定する行政の両方が含まれる。

6次産業化

農林漁業者等が必要に応じて農林漁業者等以外の者の協力を得て主体的に行う、1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組

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「和食;日本人の伝統的な食文化」

平成25(2013)年12月、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録された。この「和食」は、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」であり、①新鮮で多様な食材とその持ち味の尊重、②健康的な食生活を支える栄養バランス、③自然の美しさや季節の移ろいを表現した盛りつけ、④正月行事などの年中行事との関わりという特徴を持つ。日本人全体が担い手としてその保護・継承を推進することとしている。

(2)アルファベット順A

ASEAN

東南アジア諸国連合(Association�of�South-East�Asian�Nations)。昭和42(1967)年、東南アジアにおける経済成長や社会・文化的発展の促進、政治・経済的安定の確保、その他諸問題に関する協力を目的として、タイのバンコクにおいて設立された。設立当初は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5か国が加盟、その後、ブルネイ(昭和59(1984)年加盟)、ベトナム(平成7(1995)年加盟)、ラオス、ミャンマー(平成9(1997)年加盟)、カンボジア(平成11(1999)年加盟)が加わり、10か国となっている。また、平成9(1997)年のアジア通貨危機を契機に、我が国、中国、韓国の3か国が加わり、東アジアで地域協力をする「ASEAN+3」の枠組みも進められている。

B

BSE(牛海綿状脳症)

BSEは、Bovine�Spongiform�Encephalopathyの略。BSE型の異常プリオンたんぱく質(BSEプリオン:細胞たんぱく質の一種である正常プリオンたんぱく質が異常化したもの)に汚染された肉骨粉等の飼料の摂取により経口感染すると考えられている牛の疾病。BSEプリオンが牛に感染すると比較的長期の潜伏期間の後、脳組織がスポンジ状になり、行動異常等の神経症状を呈し、死に至る。

E

EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)

EPAは、Economic�Partnership�Agreement、FTAは、Free�Trade�Agreementの略。物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的として特定国・地域の間で締結される協定をFTAという。FTAの内容に加え、投資ルールや知的財産の保護等も盛り込み、より幅広い経済関係の強化を目指す協定をEPAという。「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)等においては、最恵国待遇の例外として、一定の要件((1)「実質上のすべての貿易」について「関税その他の制限的通商規則を廃止」すること、(2)廃止は、妥当な期間内(原則10年以内)に行うこと、(3)域外国に対して関税その他の通商障壁を高めないこと等)の下、特定の国々の間でのみ貿易の自由化を行うことも認められている(「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)第24条他)。

G

GLOBALG.A.P.

農産物生産における安全管理を向上させることにより、円滑な農産物取引環境の構築を図るとともに、農産物事故の低減をもたらすことを目的に、欧州の流通小売の大手企業が独自で策定していた食品安全規格を標準化するため、民間団体である欧州小売業組合(EUREP)が平成12(2000)年にEUREPG.A.P.を設立。その後、平成19(2007)年にGLOBALG.A.P.に改称

251

用語の

解説

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H

HACCP(危害要因分析・重要管理点)

HACCPは、Hazard�Analysis�and�Critical�Control�Pointの略。原料受入れから最終製品までの各工程で、微生物による汚染、金属の混入等の危害の要因を予測(危害要因分析:Hazard�Analysis)した上で、危害の防止につながる特に重要な工程(重要管理点:Critical�Control�Point、例えば加熱・殺菌、金属探知機による異物の検出等の工程)を継続的に監視・記録する工程管理のシステム

N

NPO(非営利団体)/NPO法人(特定非営利活動法人)

NPO�は、Non�Profit�Organizationの略で、様々な社会貢献活動を行い、団体構成員に対し収益を分配することを目的としない団体の総称である。様々な分野(福祉、教育・文化、まちづくり、環境、国際協力等)で、社会の多様化したニーズに応える重要な役割を果たすことが期待されている。NPOのうち、特定非営利活動促進法に基づき法人格を取得したものを特定非営利活動法人といい、銀行口座の開設や事務所の賃借等を団体の名で行うことができる。

W

WCS用稲(稲発酵粗飼料用稲)

実と茎葉を一体的に収穫し、乳酸菌発酵させ、飼料(ホールクロップ・サイレージ(WCS))として家畜に給与する目的で栽培する稲。水田の有効活用と飼料自給率の向上に資する飼料作物として、作付面積が拡大している。

WTO(世界貿易機関)

WTO�はWorld�Trade�Organizationの略。ウルグアイ・ラウンド合意を受け、「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)の枠組みを発展させるものとして、平成7(1995)年1月に発足した国際機関。本部はスイスのジュネーブにあり、貿易障壁の除去による自由貿易推進を目的とし、多角的貿易交渉の場を提供するとともに、国際貿易紛争を処理する。

252

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3.農業・森林・水産業の多面的機能(1)農業雨水の保水・貯留による洪水防止機能

畦畔に囲まれている水田や、耕された畑の土壌に雨水を一時的に貯留することで洪水を防止・軽減する機能

土砂崩壊防止機能

傾斜地農地において、農業の生産活動を通じて農地の崩壊を初期段階で発見し補修することにより、斜面の崩壊を未然に防ぐ機能。また、田畑を耕作することで、雨水を地下にゆっくりと浸透させ、地下水位が急上昇することを抑え、地すべりを防止する機能

土壌侵食防止機能 水田に水が張られたり、田畑の作物の葉や茎により雨水や風による土壌の侵食を防ぐ機能

水源涵かん養よう機能 水田で利用される農業用水や雨水が地下に浸透し、時間をかけて河川に還

元されるとともに、より深く地下に浸透した水が流域の地下水を涵かん養ようする機能

水質浄化機能 水田や畑の水中や土中の微生物が水中の有機物を分解し、作物が窒素を吸収するほか、微生物の働きにより窒素分を取り除き、水質を浄化する機能

有機性廃棄物分解機能 水田や畑の土の中で、バクテリア等の微生物が家畜排せつ物や生ごみ等から作った堆肥をさらに分解し、再び農作物が養分として吸収する機能

気候緩和機能 農地で栽培される作物の蒸発散によって熱を吸収し気温を下げることや水田の水面からの蒸発により気温が低下する機能

生物多様性保全機能水田・畑等が適切かつ持続的に管理されることによって、植物や昆虫、動物等の豊かな生態系をもつ二次的な自然が形成・維持され、生物の多様性が確保される機能

良好な景観の形成機能 農業の営みを通じ、農地と農家の家屋、その周辺の水辺や里山等が一体となった良好な農村の景観を形成する機能

文化の伝承機能 日本の年中行事や祭事の多くは、豊作を祈る祭事等に由来しており、このような行事や地域独自の祭り等の文化を、農業活動を通じて伝承する機能

(2)森林

生物多様性保全機能 多くの野生動植物が生息・生育するなど、遺伝子や生物種、生態系の多様性を保全する機能

地球環境保全機能 温暖化の原因である二酸化炭素の吸収や蒸発散作用により、地球規模で自然環境を調節する機能

土砂災害防止機能/土壌保全機能

森林の下層植生や落枝落葉が地表の侵食を抑制するとともに、森林の樹木が根を張りめぐらすことによって土砂の崩壊を防止する機能

水源涵かん養よう機能 森林の土壌が雨水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を

緩和するとともに、川の流量を安定させる機能

快適環境形成機能 蒸発散作用等による気候緩和や、防風や防音、樹木の樹冠による塵じん埃あいの

吸着やヒートアイランド現象の緩和等により、快適な環境を形成する機能

保健・レクリエーション機能

フィトンチッドに代表される樹木からの揮発性物質により直接的な健康増進効果や、行楽やスポーツの場を提供する機能

文化機能 森林景観が、伝統文化伝承の基盤として日本人の自然観の形成に大きくかかわるとともに、森林環境教育や体験学習の場を提供する機能

物質生産機能 木材のほか、各種の抽出成分、きのこ等を生産する機能

253

用語の

解説

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(3)水産業漁獲によるチッソ・リン循環の補完機能

適度な漁獲によって、食物連鎖によって海の生物に取り込まれたチッソ、リンを陸上へと回収し、チッソ・リンの循環を補完する機能

海域環境の保全機能 カキやアサリ等の二枚貝類が、海水をろ過し、プランクトンや有機懸濁物を餌とすることで海水を浄化するなど、海域環境を保全する機能

水質浄化機能 干潟、藻場及びそこに生育・生息する動植物が、水中の有機物を分解し、栄養塩類や炭酸ガスを吸収し、酸素を供給するなど海水を浄化する機能

生態系保全機能 適切な水産業の営みにより多くの水生生物に生息・生育の場を提供する干潟や藻場等の生態系が保全される機能

伝統漁法等の伝統的�文化を継承する機能 漁村の人々の営みを通じて、伝統漁法等の伝統的文化を継承する機能

海難救助機能 沈没・転覆・座礁・漂流・衝突・火災等船が航海中に起こる海難事故の発生時に、漁業者が行う救助活動

災害救援機能 震災やタンカー事故等災害時の、漁業者が行う物資輸送や流出油の回収等の救援機能

海域環境モニタリング機能

赤潮・青潮やクラゲの大量発生等の漁業者による早期発見等、海域環境の異変の監視機能

国境監視機能 貴重な水産資源の密漁監視活動を通じて、密輸や密入国の防止等国益を守る機能

交流等の場を提供する機能

海洋性レクリエーション等のリフレッシュの場、自然の大切さを学べる交流の場を提供する機能

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○輸出(第1章重点テーマ2 輸出促進と日本食・食文化の海外展開(P.24))

・特集 TPP 交渉の合意及び関連政策(P.9、10、13、14)・第1章第2節 世界の食料需給と食料安全保障の確立に向けた取組

(WTO農業交渉の状況)(P.48)・第1 章第4節 食の安全と消費者の信頼確保

(輸出促進に向けた動植物検疫の取組)(P.66)・第1章第5節 食品産業の動向

(食品流通の効率化や高度化等)(P.74)・第2章第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(5)果実(P.138)(6)花き(P.140)(7)茶(P.141)

・第2章第5節 気候変動への対応等の環境政策の推進(有機農業の推進)(P.165)

・ 第4章第2節 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響と復旧・復興に向けた取組(日本産農林水産物・食品の輸出回復に向けた取組)(P.233)

・平成27(2015)年度天皇杯等受賞者事例紹介(P.236、237)

○6次産業化(第1章第6節 農林水産物・食品の新たな需要の開拓(P.80))

・第1章重点テーマ2 輸出促進と日本食・食文化の海外展開(輸出促進の取組)(P.27)(知的財産の戦略的な創造・活用・保護)(P.31)

・第2章第1節 農地の集積・集約化と担い手の動向〈事例〉集落営農の6次産業化による地域の雇用確保の取組(P.101)〈事例〉女性目線に立った6次産業化の取組(P.110)

・第3章重点テーマ 地方創生の動き〈事例〉地域資源を活用した地域活性化の取組(P.174)

・第3章第3節 地域資源の積極的な活用(地域の農産物等を活かした新たな価値の創出)(P.197)

・第4章第1節 地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組〈事例〉地元農家と農業協同組合の連携による取組(P.219)〈事例〉新しい東北の創造に向けた取組(P.221)

・平成27(2015)年度天皇杯等受賞者事例紹介(P.236、237)

○飼料用米(第2章第3節 主要農畜産物の生産等の動向(P.126))

・第1章第1節 食料・農業・農村基本計画における目標と現状(食料自給率等の目標と現状)(P.36)

・第2章第1節 農地の集積・集約化と担い手の動向(経営所得安定対策の着実な実施)(P.113)

主な分野横断的テーマ・インデックス

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○ICT(情報通信技術)(第2章第4節 生産・流通現場の技術革新等の推進(P.152))

・第1章第4節 食の安全と消費者の信頼確保(「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」の更なる普及の推進)(P.63)

・第2章第1節 農地の集積・集約化と担い手の動向〈コラム〉クラウドファンディングの取組(P.115)

・第2章第2節 農業生産基盤の整備・保全(営農形態の変化に伴う用水の再編・水利システムの更新)(P.122)〈事例〉ICTを活用した施設維持管理コスト縮減(P.122)

・第4章第1節 地震・津波による被害と復旧・復興に向けた取組〈事例〉乾田直播とICT を活用した低コスト営農の取組(P.222)

○地方創生(第3章 地域資源を活かした農村の振興・活性化 重点テーマ 地方創生の動き(P.172))

・特集 TPP交渉の合意及び関連政策((3)「総合的なTPP関連政策大綱」の策定)(P.11)

・第1章第5節 食品産業の動向(P.72)・第3章第3節 地域資源の積極的な活用

(農村への農業関連産業の導入等による活性化)(P.197)

○人材の育成・活用・人材の育成・第1章第2節 世界の食料需給と食料安全保障の確立に向けた取組

(農林水産分野における国際協力)(P.46)・第1章第4節 食の安全と消費者の信頼確保(HACCP導入の推進)(P.64)・第2章第1節 農地の集積・集約化と担い手の動向

(青年層への新規就農に関する支援)(P.104)(道府県農業大学校等における就農支援対策)(P.105)〈事例〉 高等学校における農業関連人材育成の取組(P.106) (次世代の農業経営者教育の充実・強化)(P.106)〈事例〉 後継者育成に取り組む担い手(P.107)〈コラム〉 開発途上国等に対する人材育成支援(外国人技能実習制度)(P.107)

・第2章第3節 主要農畜産物の生産等の動向(酪農・肉用牛における担い手の育成と労働負担の軽減に向けた取組)(P.147)

・第2章第4節 生産・流通現場の技術革新等の推進(強みのある農林水産物や生産性の飛躍的向上に向けた研究開発)(P.154)(次世代施設園芸の推進)(P.158)

・第3章第2節 鳥獣被害への対応(鳥獣被害対策の推進)(P.188)

・人材の活用<6次産業化プランナー>・ 第1章第6節 農林水産物・食品の新たな需要の開拓(6次産業化プランナー)(P.84)<地域おこし協力隊(旧田舎で働き隊)>・ 第3章重点テーマ 地方創生の動き(多様な人材の都市部から農村への移住・定住)(P.176)

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平成27年度食料・農業・農村施策

第2部

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概説

1 施策の重点食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた

施策、食料の安定供給の確保に関する施策、農業の持続的な発展に関する施策、農村の振興に関する施策及び食料・農業・農村に横断的に関係する施策等を総合的かつ計画的に展開しました。また、環太平洋パートナーシップ(TPP)大筋合意を踏まえて「TPP関連政策大綱」を取りまとめ、「攻めの農林水産業への転換」のための競争力強化・体質強化対策、「経営安定・安定供給のための備え」としての経営安定対策の充実等を講ずることとしたとともに、農林水産業の成長産業化を一層進めるための検討継続項目について、平成28年秋までに具体的内容を詰めるための体制を整備しました。また、競争力強化・体質強化対策について、平成27年度補正予算において計上しました。さらに、東日本大震災及び東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)事故からの復旧・復興に関係省庁と連携しながら全力で取り組みました。

2 財政措置(1)27年度農林水産関係予算額は、2兆3,090

億円を計上しました。本予算は、「農林水産業・地域の活力創造プラン」(26年6月改訂)に基づき、農政改革を着実に進め、「強い農林水産業」と「活力ある農山漁村」を実現するための施策を措置しました。具体的には、①担い手への農地集積・集約化等による構造改革の推進、②新たな経営所得安定対策の着実な実施、③強い農林水産業のための基盤づくり、④畜産・酪農の競争力の強化、⑤農林水産物・食品の高付加価値化等の推進、⑥日本食・食文化の魅力発信と輸出の促進、⑦品目別生産振興対策、⑧食の安全・消費者の信頼確保、⑨人口減少社会における農山漁村の活性化、⑩林業の成長産業化・森林吸収源対策の推進、⑪水産

日本の復活を推進しました。また、27年度農林水産関係補正予算額は、4,008億円を計上しました。

(2)27年度の農林水産関連の財政投融資計画額は、2,535億円を計上しました。このうち主要なものは、株式会社日本政策金融公庫への2,390億円となりました。

3 立法措置第189回国会において、以下の法律が成立

しました。・「農林水産省設置法の一部を改正する法律」(平成27年法律第30号)

・「独立行政法人に係る改革を推進するための農林水産省関係法律の整備に関する法律」(平成27年法律第70号)

・「競馬法の一部を改正する法律」(平成27年法律第18号)

・「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」(平成27年法律第63号)また、27年度において、以下の法律が施行

されました。・「農業の担い手に対する経営安定のための交

付金の交付に関する法律の一部を改正する法律」(平成26年法律第77号)(27年4月施行)

・「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」(平成26年法律第78号)(27年4月施行)

・「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(平成26年法律第84号)(27年6月施行)

・「農林水産省設置法の一部を改正する法律」(27年10月施行)

・「独立行政法人に係る改革を推進するための農林水産省関係法律の整備に関する法律」のうち、「独立行政法人農業者年金基金法」及び「独立行政法人農林漁業信用基金法」の一部改正に関する部分(27年10月施行)

・「競馬法の一部を改正する法律」(27年11月施行)

4 税制上の措置施策の総合的な推進を図るため、以下を始め

261

第2部

Page 88: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

とする税制措置を講じました。(1)農業経営の安定化ア 農業経営基盤強化準備金制度を見直し(農業用建物の追加等)、適用期限を2年延長しました(所得税・法人税)。イ 軽油引取税の課税免除の特例措置の適用

期限を3年延長しました(軽油引取税)。ウ 利用権設定等促進事業により農用地等を

取得した場合における所有権移転登記の税率の軽減措置等の適用期限を2年延長しました(登録免許税・不動産取得税)。エ 27年度から29年度まで農地の負担調整

措置を存続しました(固定資産税・都市計画税)。オ 農業協同組合等が一定の貸付けを受けて

共同利用施設を取得した場合の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長しました

(不動産取得税)。(2)農林水産関連産業の振興

振興山村における工業用機械等の特例措置を見直し(取得価額2,000万円を500万円等)、適用期限を2年延長しました(所得税・法人税)。

5 金融措置政策と一体となった長期・低利資金等の融通

による担い手の育成・確保等の観点から、農業経営の特性に応じた資金調達の円滑化を図るための支援措置である農業制度金融の充実を図りました。(1)株式会社日本政策金融公庫ア 認定農業者であって、人・農地プランの

中心経営体として位置付けられた者又は農地中間管理機構から農地を借り受けた者が借り入れる農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)について、貸付当初5年間の金利負担を軽減し、実質無利子化する措置を講じました。イ 大規模災害等の発生時に民間資金が円滑

に供給されるよう危機対応円滑化業務の実施に必要な措置を講じたほか、株式会社日本政策金融公庫の円滑な業務に資するた

め、貸付けにより生じるコストについて、一般会計から補給金・補助金等を交付しました。

ウ 意欲のある農業法人の財務基盤の強化や経営展開を支援するため、「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法」(平成14年法律第52号)に基づき農業法人に対する投資育成事業を行う投資事業有限責任組合の出資原資を株式会社日本政策金融公庫から出資しました。

(2)農業近代化資金農林中央金庫の農業近代化資金の融通に

対し、利子補給金を交付しました。(3)農業経営改善促進資金(スーパーS資金)

民間金融機関と都道府県農業信用基金協会との協調融資方式により、農業経営改善促進資金(スーパーS資金)を低利で融通できるよう、基金協会が民間金融機関に貸付原資を低利預託するために借り入れた借入金に対し利子補給金を交付しました。

(4)農業信用保証保険農業経営の維持・再生に必要な資金の円

滑な供給が図られるよう、独立行政法人農林漁業信用基金に対して、保険引受に必要な財務基盤の強化を図るために必要な交付金を交付しました。

(5)被災農業者等支援対策ア 重大な気象災害等により被害を受けた農

業者等に対し、経営の早急な立ち直りに必要な資金が円滑に融通されるよう利子助成金を交付しました。

イ 重大な気象災害等により被害を受けた農業者等の農業経営の立ち直りに必要な農業近代化資金の借入れについて、都道府県農業信用基金協会の債務保証に係る保証料を5年間免除するために必要な補助金を交付しました。

6 政策評価効果的かつ効率的な行政の推進、行政の説明

責任の徹底を図る観点から、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第

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平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 89: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

86号)に基づき、「政策評価基本計画」(27年3月策定)及び「実施計画」(27年7月策定)により、事前評価(政策を決定する前に行う政策評価)、事後評価(政策を決定した後に行う政策評価)を推進しました。

Ⅰ 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた施策

1 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた取組食料自給力・食料自給率の維持向上に向け

て、以下の取組を重点的に推進しました。(1)食料消費ア 国内外での国産農産物の需要拡大

官民一体となった国産農産物の消費拡大の国民運動、国産農産物を求める食品産業事業者と生産現場との連携等を推進するとともに、日本食や日本の食文化に関する情報発信と併せ、農林水産物・食品の輸出を促進しました。イ 食育の推進

ごはんを中心に多様な副食等を組み合わせ、栄養バランスに優れた「日本型食生活」の実践を推進するため、消費者各層の特性に適した方策を検討し、実施するとともに、食品産業における情報提供等の取組を促進しました。また、幅広い世代に対する農林漁業体験の機会の提供により、消費拡大の前提となる食や農林水産業への国民の理解増進を図りました。ウ 食品に対する消費者の信頼の確保

食品の品質管理、消費者対応等の取組について、食品の生産から加工・流通、消費に至るまでの各段階の関係者が連携し、情報共有を通じた取組の向上と標準化等を図りました。また、加工食品の原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ拡大に向けた検討を進めました。

(2)農業生産ア 優良農地の確保と担い手への農地集積・集約化

優良農地を確保するとともに、農業水利施設の適切な保全管理等による農業用水の持続的な活用を推進しました。また、農地中間管理機構の取組、地域の話合いにより作成する人・農地プランの活用等による担い手への農地集積・集約化と荒廃農地対策を推進しました。

イ 担い手の育成・確保農業経営の法人化や経営の多角化・複合

化等を推進するとともに、農業の内外からの青年層の新規就農を促進しました。

ウ 農業の技術革新や食品産業事業者との連携等による生産・供給体制の構築等の実現

生産コストの低減を図るための省力栽培技術・新品種の導入等や、次世代施設園芸拠点の整備等を推進するとともに、食品産業事業者との連携等を通じて、需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の構築等を推進しました。

2 主要品目ごとの生産努力目標の実現に向けた施策

(1)米ア 水田活用の直接支払交付金により、飼料

用米等の生産拡大を図り、水田フル活用を推進しました。

イ 多収品種の導入や団地化、直ちょく

播はん

栽培の推進等による飼料用米、業務用米、加工用米等の低コスト生産の推進、カドミウム低吸収性品種及び植物浄化技術の実証を推進しました。

ウ 飼料用米等の増産等に対応するため、乾燥調製施設等の再編整備等を推進しました。エ 米穀の需給及び価格の安定を図るため、「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」を策定し公表しました。

オ 経営所得安定対策を円滑に実施し、米粉用米、飼料用米等の用途外への流通を防止することが必要であることから、「主要食

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第2部

Page 90: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号)に基づき、適切な保管及び販売を徹底しました。カ 生産者や集荷業者・団体が主体的な経営

判断や販売戦略等に基づき、需要に応じた米生産に取り組めるよう、きめ細かい需給・価格情報、販売進捗・在庫情報等を毎月公表しました。

(2)麦ア 経営所得安定対策の中でパン・中華麺用

小麦品種に対する加算措置を設けることにより、需要規模が大きいものの国産シェアが低いパン・中華麺用小麦の作付拡大を推進しました。イ 水田の高度利用(二毛作)に資する作付

体系への転換、実需者ニーズに対応した新品種や単収・品質向上技術等の導入の支援により、小麦、大麦・はだか麦の作付拡大を推進しました。ウ 麦の生産拡大に対応するため、乾燥調製

施設等の再編整備等を推進しました。(3)大豆ア 経営所得安定対策等により、単収向上や

作柄の安定化に資する耕うん同時畝うね

立て播は

種しゅ

栽培技術等の大豆300A技術の導入等による大豆の作付拡大を推進しました。イ 実需者ニーズに対応した新品種や栽培技

術の導入により、実需者の求める大豆の安定生産を支援し、国産大豆の需要拡大を推進しました。

(4)そばア 需要に応じた生産拡大を図るとともに、

国産そばの需要拡大に向けて、実需者への安定的な供給を図るため、排水対策等の基本技術の徹底、湿害回避技術の普及等を推進しました。イ 高品質なそばの安定供給に向けた生産体

制の強化に必要となる乾燥調製施設の整備等を支援しました。ウ 国産そばを取り扱う製粉業者と農業者の

連携を推進しました。

(5)かんしょ・ばれいしょア かんしょについては、担い手への農地・

作業の集積や受託組織の育成等を推進するとともに、生産コストの低減、品質の向上を図るため共同利用施設整備や機械化一貫体系の確立等への取組を支援しました。

イ ばれいしょについては、生産コストの低減、品質の向上、労働力の軽減やジャガイモシストセンチュウの発生・まん延の防止を図るための共同利用施設整備等を推進しました。加えて、安定生産に向けた作業の共同化やコントラクター等の育成による作業の外部化、加工食品用途への供給拡大に必要な技術を導入した省力的な機械化栽培体系の確立等への取組を支援しました。

ウ ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する新品種の普及を促進するため、産地や実需者など関係者が一体となった取組を支援しました。

エ でん粉原料用ばれいしょ及びかんしょについては、加工食品用途等への販路拡大や収益性の向上を図るため、特徴のあるでん粉品質を有する新品種栽培実証試験等を支援しました。また、国内産いもでん粉の高品質化製造技術の確立等に対する支援を行いました。

(6)なたねア 良質で高単収ななたね品種の作付拡大を

図るとともに、播は

種しゅ

前契約の実施による国産なたねを取り扱う搾油事業者と農業者の連携を推進しました。

イ なたねの生産拡大に伴い必要となる乾燥調製施設の整備等の支援を推進しました。

(7)野菜ア 野菜の生産・出荷の安定と消費者への野

菜の安定供給を図るため、野菜価格安定対策を円滑に実施するとともに、価格動向の変化に合わせて保証基準額を改定しました。

イ 加工・業務用野菜への転換を推進する産地に対し、加工・業務用野菜の安定生産に必要な作柄安定技術の導入を支援しまし

264

平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 91: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

た。あわせて、加工・業務用需要に対応したサプライチェーンの構築に加えて、加工・業務用野菜の生産を加速化するための新技術・機械化の導入等について支援しました。ウ 青果物流通の合理化・効率化を推進する

ため、物流業界との連携による新たな輸送システムの構築に向けた取組を支援しました。エ 木質バイオマス等の地域エネルギーと先

端技術を活用する次世代施設園芸拠点の整備を進めました。

(8)果樹ア 優良品目・品種への転換や小規模園地整

備など産地の構造改革を進めるほか、産地ぐるみで改植を実施した際の未収益期間に対する支援を引き続き行いました。イ 計画生産・出荷の推進や需給安定対策、

契約取引の強化や加工原料供給の安定化を図るための加工流通対策を総合的に行いました。

(9)甘味資源作物ア てんさいについては、労働力不足に対応

するため、省力化や作業の共同化、労働力の外部化や直

ちょく播はん

栽培体系の確立・普及等を推進しました。イ さとうきびについては、自然災害からの

回復に向けた取組を支援するとともに、引き続き土づくりや防除等の取組や機械化一貫体系の確立を推進しました。

(10)茶産地の生産性向上と収益力の強化を図る

ため、改植等による優良品種等への転換や茶園の若返り、玉露やてん茶(抹茶の原料)栽培に適した棚施設を利用した栽培法への転換、荒茶加工施設の整備、海外ニーズに応じた茶の生産・加工技術や低コスト生産・加工技術の導入の取組を支援しました。

(11)畜産物需要に即した畜産物の生産推進のため、

多様な経営の育成・確保、生乳需給の安定

や多様な和牛肉生産への転換及び改良・飼養管理技術の高度化等を推進しました。また、我が国畜産の競争力強化のため、生産性向上、畜産環境問題への対策等を進めることにより、地域ぐるみで収益性向上を図る取組を支援しました。

(12)飼料作物等輸入飼料に依存した畜産から国産飼料生

産基盤に立脚した畜産に転換するため、生産性の高い草地への改良、濃厚飼料原料

(イアコーン等)の増産、飼料生産組織の育成、レンタカウを活用した肉用繁殖牛等の放牧、飼料用米等の利活用の取組等を推進しました。

(13)その他地域特産物等ア こんにゃくいも等の特産農産物について

は、付加価値の創出、新規用途開拓、機械化・省力作業体系の導入等を推進しました。

イ 繭・生糸については、蚕糸業の再生と持続的発展を図るため、養蚕・製糸業と絹織物業者等が提携し、輸入品と差別化された高品質な純国産絹製品づくり・ブランド化を推進しました。

ウ 葉たばこについては、葉たばこ審議会の意見を尊重した種類別・品種別価格により、日本たばこ産業株式会社が買い入れました。

エ いぐさについては、輸入品との差別化・ブランド化に取り組むいぐさ生産者の経営安定を図るため、国産畳表の価格下落影響緩和対策の実施、実需者や消費者のニーズを踏まえた、産地の課題を解決するための技術実証等の取組を支援しました。

Ⅱ 食料の安定供給の確保に関する施策

1 国際的な動向等に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保リスクアナリシスに基づいた食の安全確保と

しては、科学的知見に基づき、客観的かつ中立

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第2部

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公正に食品健康影響評価(リスク評価)を実施しました。

また、リスクコミュニケーションの推進としては、食品の安全に関するリスク評価や施策等について、国民の意見を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保するとともに、消費者、事業者、生産者等の関係者による情報や意見の交換の促進を図るため、関係府省や地方公共団体及び消費者団体等と連携した意見交換会、施策の実施状況の公表、ホームページ等を通じた分かりやすく効果的な情報発信、意見・情報の募集等を実施しました。(1)科学の進展等を踏まえた食品の安全確保の取組の強化a 食品安全に関するリスク管理を一貫し

た考え方で行うための標準手順書に基づき、有害化学物質・有害微生物の調査や生産資材(肥料、飼料・飼料添加物、農薬、動物用医薬品)の試験等を実施しました。

b 試験研究や調査結果の科学的解析に基づき、施策・措置に関する企画や立案を行いました。

c 食品中に残留する農薬等に関するポジティブリスト制度の周知に努めるとともに、制度導入時に残留基準を設定した農薬等についての食品健康影響評価結果を踏まえた残留基準の見直し、新たに登録等の申請があった農薬等についての残留基準の設定を推進しました。

d 食品の安全性等に関する国際基準の策定作業への積極的な参画や、国内における情報提供や意見交換を実施しました。

ア 生産段階における取組(ア)生産資材の適正な使用

生産資材(肥料、飼料・飼料添加物、農薬、動物用医薬品)の適正使用を推進するとともに、科学的データに基づく生産資材の使用基準、有害物質等の残留基準値の設定・見直し等を行い、安全な農畜水産物の安定供給を確保しました。また、農薬による蜜蜂の被害事例に関する

調査等を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて被害を軽減するための対策を見直しました。

(イ)農業生産工程管理(GAP)の導入・推進

a 「GAPの共通基盤に関するガイドライン」(22年4月策定)に則した一定水準以上のGAPの導入を推進しました。

b 津波や放射性物質の影響により生産や販売が低下した地域において、震災被害

(塩害、放射性物質等)に対応したGAPの導入を推進しました。

イ 製造段階における取組(ア)食品製造事業者の中小規模層における

HACCP(危害要因分析・重要管理点)の導入を推進するため、HACCPに係る体制・施設の整備の支援、HACCP導入の前段階の衛生・品質水準の確保や消費者の信頼確保のための体制・施設の整備

(高度化基盤整備)の支援、HACCP導入を担う人材の養成研修や専門家による現場での助言・指導等の取組の支援を実施しました。

(イ)食品等事業者に対する監視指導や事業者による自主的な衛生管理を推進しました。

(ウ)食品衛生監視員の資質向上や検査施設の充実等を推進しました。

(エ)長い食経験を考慮し使用が認められている既存添加物については、毒性試験等を実施し、安全性の検討を推進しました。

(オ)国際的に安全性が確認され、かつ、汎用されている食品添加物については、国が主体的に指定に向けて検討しました。

(カ)保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)を始めとした健康食品について、事業者の安全性の確保の取組を推進するとともに、保健機能食品制度の普及・啓発に取り組みました。

(キ)特定危険部位(SRM)の除去・焼却、

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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BSE 検査の実施等により、食肉の安全を確保しました。

ウ 危機管理等に関する取組(ア)食品関係事業者のコンプライアンス確

立のための取組食品関係事業者の自主的な企業行動規

範等の策定を促すなど食品関係事業者のコンプライアンス(法令の遵守及び倫理の保持等)確立のための各種取組を促進しました。また、昨今の状況を踏まえ、

「食品事業者の5つの基本原則」を改訂しました。

(イ)危機管理体制の整備a 食品の摂取による人の健康への重大な

被害が拡大することを防止するため、関係府省庁の消費者安全情報総括官等による情報の集約及び共有を図りました。

b 食品安全に関する緊急事態等における対応体制を点検・強化しました。

c 伊勢志摩サミット会場及び関係閣僚会合会場における食品テロを防止するため、事業者が取り組む具体的な対策を構築しました。

エ 輸入に関する取組輸出国政府との二国間協議や在外公館を

通じた現地調査等の実施、情報等を入手するための関係府省との連携の推進、監視体制の強化等により、輸入食品の安全性の確保を図りました。

(2)食品表示情報の充実や適切な表示等を通じた食品に対する消費者の信頼の確保ア 食品表示の適正化の推進(ア)食品表示に関する規定を一元化した

「食品表示法」(平成25年法律第70号)の下、関係府省の連携を強化して立入検査等の監視業務を実施するとともに、科学的な分析手法を活用することにより、業務の効率化を図りました。さらに、26年6月に改正された「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号)に基づき、関係府省が連携した監視体制の下、外食メニュー等の適切な

表示を推進しました。(イ)加工食品の原料原産地表示について、

実行可能性を確保しつつ拡大に向けた検討を進めました。また、その他の個別課題について順次実態を踏まえた検討を行いました。

(ウ)米穀等については、「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」(平成21年法律第26号、以下「米トレーサビリティ法」という。)により産地情報伝達を徹底しました。

イ 流通段階における取組(ア)食品事故発生時の回収や原因究明等の

迅速化に資するため、食品の移動の追跡・遡及の備えとするトレーサビリティに関し、米穀等については、米トレーサビリティ法に基づき、制度の適正な運用に努めました。他の飲食料品については、実践的なマニュアルを用いる等して、トレーサビリティの取組の拡大を図るよう、その普及・啓発に取り組みました。

(イ)国産牛肉については、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(平成15年法律第72号)による制度の適正な実施が確保されるようDNA分析技術を活用した監視等を実施しました。

ウ フード・コミュニケーション・プロジェクトの推進

消費者の「食」に対する信頼向上に向けた食品関連事業者の主体的な活動を促すため、フードチェーンの各段階で事業者間のコミュニケーションを円滑に行い、食品事業者の取組を消費者まで伝えていくためのツールの開発・普及を進めました。

エ 消費者への情報提供(ア)食品安全等について、消費者に分かり

やすいホームページによる情報提供を行いました。

(イ)「消費者の部屋」等において、消費者からの相談を受け付けるとともに、特別

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第2部

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展示等を開催し、農林水産行政や食生活に関する情報を幅広く提供しました。

2 幅広い関係者による食育の推進と国産農産物の消費拡大、「和食」の保護・継承

(1)食育の推進と国産農産物の消費拡大ア 国民運動としての食育の推進(ア)「第2次食育推進基本計画」(23年3月

策定)等に基づき、関係府省が連携しつつ、様々な分野において国民運動として食育を推進しました。

(イ)朝ごはんを食べることなど、子供の基本的な生活習慣を育成するための「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進しました。

(ウ)食と農林漁業の食育優良活動表彰を実施し、農林水産業への理解の増進や、日本型食生活を推進する食育活動で優れた実績を上げた農林漁業者、食品事業者等を表彰することにより、普及・啓発を図りました。

イ 生産から消費までの段階を通じた食育の推進

(ア)日本型食生活を推進する取組や、食や農林水産業への理解を深めるための体験活動等の食育活動を、消費者の多様なライフスタイルの特性やニーズに対応して一体的に行うモデル的な取組を支援しました。

(イ)日本型食生活の推進や農林漁業体験を通じて食や農林水産業への理解を深める教育ファームなど、地域における食育活動を支援しました。

ウ 学校における食育の推進(ア)学校における食育を推進するため、各

種外部機関と連携し、食育プログラムを開発するスーパー食育スクールを指定し、栄養教諭を中心に外部の専門家等を活用しながら食育の推進を図りました。

(イ)学校給食を取り巻く様々な行政上の課題に関する調査研究を行いました。

エ 国産農産物の消費拡大の促進(ア)消費者、企業、団体、国等が一体と

なって国産農林水産物の消費拡大を図る「フード・アクション・ニッポン」を推進しました。

(イ)学校給食等における米の利用の促進、朝食欠食の改善等による米消費拡大を図るため、地域における商品開発、販路開拓、全国段階における商談会、消費拡大フェア等を支援しました。また、消費者ニーズに対応した新たな米の需要創出に向けた取組を支援しました。

(ウ)官民一体による「米粉倶楽部」の取組を展開し、様々な企業・団体等が米粉の消費拡大の活動に取り組んでいくこと等で、米粉の良さを広く知ってもらい消費の拡大を図りました。

(エ)「米穀の新用途への利用の促進に関する法律」(平成21年法律第25号)に基づき、米粉用米、飼料用米の利用促進を図るため、米粉用米、飼料用米の生産・利用拡大や必要な機械・施設の整備等を総合的に支援しました。

(オ)麦や大豆等の生産拡大を図るため、需要に応じた品種の作付けや、実需者等と産地が連携した特色のある製品づくりを推進し、需要の拡大を図りました。

オ 地産地消の推進地産地消の中核的施設である農産物直売

所の商品開発力・販売力の強化や農林水産物の加工・販売のための機械・施設等の整備を支援するとともに、学校給食の食材として地場産農林水産物を安定的に生産・供給するモデル的な取組を支援しました。

カ 「食と農林漁業の祭典」の開催生産者と消費者、日本と世界のきずなを

深め、我が国の「食」と「農林漁業」についてのすばらしい価値を国内外にアピールするため、「食と農林漁業の祭典」を開催しました。

(2)「和食」の保護と次世代への継承ユネスコ無形文化遺産に登録された「和

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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食」の保護・継承、国民の関心と理解の促進のため、産学官が一体となって、効果的な保護・継承策の明確化、和食の栄養バランスの健康への寄与等に関する科学的解明とその普及、学校給食や家庭における和食の提供機会の拡大、和食文化の継承に向けた地域における食育活動、和室等を活用した和の文化の一体的な魅力発信などを推進しました。

3 生産・加工・流通過程を通じた新たな価値の創出による需要の開拓

(1)6次産業化等の取組の質の向上と拡大に向けた戦略的推進ア 6次産業化等の推進(ア)都道府県及び市町村段階に、行政、農

林漁業、商工、金融機関等の関係機関で構成される6次産業化・地産地消協議会を設置し、6次産業化戦略・構想を策定する取組を支援しました。

(イ)6次産業化等に取り組む農林漁業者に対するサポート体制を整備するとともに、農林漁業者等が多様な事業者とネットワークを構築して行う新商品開発・販路開拓の取組、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年法律第67号)等に基づき認定された農林漁業者等が農林水産物を加工・販売するための機械・施設の整備等を支援しました。

(ウ)市町村の6次産業化戦略・構想に沿って、市町村が地域ぐるみで行う6次産業化の取組を支援しました。

イ 農林漁業成長産業化ファンドの積極的活用

農林漁業成長産業化ファンドを通じて、農林漁業者が主体となって流通・加工業者等と連携して取り組む6次産業化の事業活動に対し、資本の提供と経営支援を一体的に実施しました。

(2)食品産業の競争力の強化ア 新たな市場を創出するための環境づくり(ア)介護食品に関する検討

新しい介護食品(スマイルケア食)について、課題の検討を進め、認知度の向上に向けた取組や地域の農産物等を使った介護食品の開発等を支援しました。また、輸出促進の取組を行いました。

(イ)食品における規格等の検討食品に対する消費者の信頼の確保を図

りつつ、市場の拡大に資する観点から、新たな消費者ニーズを踏まえたJAS規格等について、調査会等における意見等を踏まえ、検討を進めました。

イ 食品流通の効率化や高度化等(ア)食品流通の効率化

食品流通の効率化を図るため、フードチェーンの各段階において、関係者が連携して行う取組を推進しました。

(イ)卸売市場の機能強化・活性化等卸売市場の機能強化・活性化を図るた

め、各市場の在り方等を明確化した経営戦略の策定を促進するとともに、生産者・実需者との連携を通じた魅力ある生産物の集荷・販売や市場を活用した輸出など新たな需要開拓に向けた取組等を推進しました。

(ウ)商品先物市場の活性化a 商品先物市場の健全な運営を確保する

ため、商品先物市場の監視を行うとともに、外国規制当局と協力しつつ適切な市場管理を行いました。

b 商品先物取引に関する勧誘等における禁止事項の見直しの実施を行い、顧客保護に欠ける事態が生じないよう取り組むなど、商品先物市場の環境整備等を行いました。

ウ 生産性向上等の取組家族経営等の中小規模の事業者が多い食

品産業における生産性向上や労働力確保等に向け、優良事例の共有化等を図る官民一体となった協議会の立ち上げや、ロボット

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第2部

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技術の導入等の取組を推進しました。エ 環境問題等の社会的な課題への対応(ア)食品ロスの削減に向けた取組

a 関係府省庁との連携の下、個別企業等では解決が困難な商慣習等の見直しに向けたフードチェーン全体の取組を支援するとともに、フードバンク活動等を総合的に支援することにより、食品ロス削減国民運動(NO-FOODLOSS PROJECT)を展開しました。

b 食品ロスの削減による環境負荷の低減効果の「見える化」や「環境にやさしい買物キャンペーン」等により、都道府県・市町村、食品関連事業者等の協力を得て食品ロス削減を含めた3R行動の実施を消費者に呼びかけました。

c 食品廃棄物等の発生抑制について、設定に係るデータが整い対応が可能となった業種については、新たに目標値の設定を行いました。

(イ)食品産業における環境負荷の低減及び資源の有効利用

a 食品循環資源有効利用促進対策(a)食品関連事業者、再生利用事業者、

農業者等の関係者間のマッチングの強化等や、地域における多様な食品リサイクルループの形成を促進しました。また、食品廃棄物のバイオガス化により再生可能エネルギー創出と農業生産の高度化に寄与する食品リサイクルループの推進等の活動の支援を行い食品廃棄物の有効利用のための取組を促進しました。

(b)「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(平成12年法律第116号)に基づき、新たな「食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針」(27年7月策定)の策定等を行いました。

b 容器包装リサイクル促進対策「容器包装に係る分別収集及び再商品

化の促進等に関する法律」(平成7年法律第112号)の施行状況の点検をするとともに、義務履行の促進、容器包装廃

棄物の排出抑制のための取組として、食品関連事業者への点検指導等を実施しました。

c CO2排出削減対策食品産業におけるCO2 排出削減に向

けた多様な取組事例の調査・検討・分析を実施し、研修会及び優良事例の表彰を開催するとともに、自主行動計画の進捗状況の点検等を実施しました。

(ウ)高齢化の進展等に対応した食料提供等民間事業者等が、食料品の購入や飲食

に不便や苦労を感じる「食料品アクセス問題」を抱える市町村等と連携して行う地域の実態を踏まえた取組の企画を支援しました。

4 グローバルマーケットの戦略的な開拓(1)官民一体となった農林水産物・食品の輸出促進

ア オールジャパンでの輸出促進体制の整備2020年に1兆円とする目標の達成に向

けて官民一体となって「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」(25年8月策定、以下「国別・品目別輸出戦略」という。)の着実な実行に努め、以下の取組を行いました。

(ア)輸出戦略実行委員会において、品目別の輸出拡大方針の実行状況を踏まえ、品目別部会の活動の点検・分析を行うとともに、輸出環境課題等について議論し、優先的に取り組むべき課題の整理等を行いました。

(イ)水産物、コメ・コメ加工品、林産物(木材)、花き、青果物、畜産物及び茶の品目別輸出団体が、ジャパンブランドの確立を目的として、国内検討会の開催や海外マーケットの調査、輸出環境課題の解決等を実施する取組を支援しました。

( ウ ) 独 立 行 政 法 人 日 本 貿 易 振 興 機 構(JETRO)との連携強化を通じた、事業者発掘から商談支援に至る総合的なビジネスサポート体制を強化しました。具体

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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的には、JETROにおける情報収集・発信機能、相談窓口機能の強化、海外見本市への出展や国内外での商談会の開催、専門家の設置、新たな海外市場で試験販売等を行うためのマーケティング拠点の設置などを実施しました。

イ 輸出阻害要因の解消等による輸出環境の整備

輸出先国の規制等、輸出促進の阻害要因となっている課題を洗い出し、改善に向けた対応状況を明らかにした輸出環境課題レポートを作成、公表し、輸出環境課題の解決に向けた取組を、優先順位を付けながら計画的に推進しました。

(ア)農産物等輸出促進a 23年3月の東電福島第一原発事故を

受けて、諸外国・地域において日本産食品に対する輸入規制が行われていることから、関係省庁と協力して、各種資料・データを提供しつつ輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを継続して実施しました。

b 日本産食品等の安全性や魅力に関する情報を諸外国・地域に発信するほか、海外におけるプロモーション活動の実施により、日本産食品等の輸出回復に取り組みました。

c 輸出先となる事業者等から求められるHACCP、GLOBALG.A.P.等の認証取得を促進しました。また、国際的な取引にも通用する、HACCPをベースとした食品安全管理に関する規格・認証の仕組みやGAPに関する規格・認証の仕組みの構築を推進しました。

d 輸出先国で登録されていない農薬等の国内での使用を低減する新たな防除体系やIPMを活用した防除技術の確立及び産地への導入に取り組みました。

(イ)輸出検疫a 輸出解禁協議等において必要となる国

内病害虫情報の収集等の取組を支援しました。また、畜産物を輸出する際の相手

国からの要件を満たすよう、牛白血病等の伝染性疾病対策を支援するとともに、野生動物を対象とした伝染性疾病の監視を行いました。

b 植物の輸出に必要な検査手続や輸出先国の検疫条件を産地等へ情報提供するとともに、卸売市場や集荷地等での輸出検疫を行うことにより、産地等の輸出への取組を支援しました。また、畜産物の迅速な輸出検疫手続のため、輸出検査証明書を電子的に発行するシステムを構築しました。

c 輸出解禁協議については、輸出戦略実行委員会で優先的に取り組むべき環境課題として整理された国・品目を中心に協議を行うことにより戦略的に推進しました。

d これらのほか、輸出検疫の円滑化や輸出可能品目についての訪日旅行者に対する情報提供や、農産物を販売する事業者が取り組みやすい植物検疫の受検方法・体制の確立により、お土産としての農畜産物の持ち帰りを推進しました。

(ウ)フードバリューチェーンの構築開発途上国等において、官民連携によ

るフードバリューチェーンの構築を図るため、「グローバル・フードバリュ-チェーン戦略」(26年6月策定)に基づき、官民協議会や二国間政策対話等を活用して、我が国食産業の海外展開等によるコールドチェーン(低温流通体系)、流通販売網等の輸出環境の整備を推進しました。

(エ)輸出促進等に向けた取組を更に促進することを目的として、計58の在外公館等に日本企業支援担当官(食産業担当)を設置(27年12月)しました。

ウ 輸出促進等に向けた日本食や日本の食文化の海外展開

(ア)「地球に食料を、生命にエネルギーを」がテーマの2015年ミラノ国際博覧会に日本館を出展しました。

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第2部

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(イ)国内外の市場拡大を目指して、現場発の発想で国産農林水産物・食品とこれに関連する多様なモノ・サービスとを結び付けるなどし、地産地消、国産消費の拡大、輸出の促進等を推進しました。

a 料理学校や海外給食事業者等と連携したメニュー開発による日本産食材の活用促進、海外主要都市での日本食文化週間の実施、海外メディア等を活用した日本食・食文化の魅力発信等の取組を実施しました。

b 海外の料理学校等を活用した日本食料理講習会の開催、海外主要都市での日本食レストランウィークの実施、日本食の海外出店等の取組を支援しました。

(ウ)北海道産食の海外需要拡大等を図るため、食と観光の連携によるフードツーリズムの展開を通した食の魅力発信についての調査や、海外への小口冷凍・冷蔵貨物の宅配小口輸送サービスの利用拡大の取組を進めました。

(2)食品産業のグローバル展開ア 海外展開による事業基盤の強化(ア)日本の「食文化・食産業」の海外展開

(Made BY Japan)を促進するため、海外展開における阻害要因の解決を図るとともに、グローバル人材の確保に向け、食関連企業及びアセアン各国の大学と連携し、食品加工・流通等に関する教育を行う取組等を推進しました。

(イ)JETROにおいて、商品トレンドや消費者動向など現場目線のマーケティング情報やその活用ノウハウの提供を行うとともに、輸出先国バイヤーの発掘・関心喚起等輸出環境整備に取り組みました。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構では、食品に対する国内展示会への出展支援や実現可能性調査支援等を通じ中小企業の海外展開を支援しました。

イ ビジネス投資環境の整備「グローバル・フードバリューチェーン

戦略」に基づき、我が国食産業の海外展開

を図るため、二国間政策対話や経済連携等を活用し、ビジネス投資環境の整備を推進しました。

ウ 食料産業における国際標準への戦略的対応

我が国の食品産業事業者の国際的な取引における競争力を確保し、消費者に対してより安全な食品を供給するため、以下の取組を実施しました。

(ア)日本発の国際的に通用するHACCPをベースとした食品安全管理に関する規格や認証の仕組みの構築とその国際規格化に向けた取組を官民が連携して推進しました。

(イ)事業者におけるHACCP等食品安全に関する知識を有する人材や国際的な基準の策定等の過程に参画できる人材の育成と、我が国におけるこうした取組の海外への積極的な発信等を推進しました。

(3)知的財産の戦略的な創造・活用・保護ア 品質等の特性が産地と結び付いている我

が国の伝統的な農林水産物・食品等を登録・保護する地理的表示(GI)保護制度の運用を開始したことを踏まえ、登録申請に係る相談を一元的に受け付ける窓口を整備したほか、GIの周知、普及・啓発や登録申請に係る個別相談を行う説明・相談会を全都道府県で開催しました。

イ 知的財産発掘・活用推進協議会を設置し、知的財産の総合的なデータベースを構築して公表したほか、地域協議会を設置し、地域産品のブランド化に向けた地方セミナーの開催や知的財産マネジメントの普及とその能力を持った人材育成等を行いました。

ウ 育成者権や栽培ノウハウ等の知的財産を総合的に活用し、地域ブランド産品の国内外における価値を最大限に高め、これを活用して地域振興を図る取組を支援しました。

エ 我が国の農業や食品産業の分野において知的財産の利活用が進んでいないことか

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平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 99: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

ら、戦略的知的財産活用マニュアルの普及・啓発を推進しました。オ 地域の生産者等と協働し、日本産食材の

利用拡大や日本の食文化の海外への普及等に貢献した料理人を顕彰する制度である

「料理マスターズ」を引き続き実施しました。カ 「東アジア植物品種保護フォーラム」の

下、東アジアにおける品種保護制度の整備・充実を促進するための協力活動を推進しました。キ 我が国の地名等が海外で第三者によって

商標出願される問題に対し、「農林水産・食品知的財産保護コンソーシアム」への支援を通じ、現地人材等を活用した共同監視、海外展開食品企業の知的財産担当OBを活用した国別担当者(相談窓口)の設置等により、グローバル展開を図る我が国農林水産物・食品の知的財産の保護・活用対策の強化を図りました。ク 海外への輸出を図る農産物のDNA品種

識別技術及び産地判別技術の実用化に取り組み、品種保護を図る取組を支援しました。ケ ICT技術によってデータ化された熟練

農家のノウハウについて、生産方法の実証を通じて、その知的財産としての帰属や保護・活用の在り方等を定めたガイドラインを策定する取組を支援しました。コ 知的財産に関する施策を効果的かつ効率

的に推進するため、「農林水産省知的財産戦略2020」(27年5月)を策定しました。

5 様々なリスクに対応した総合的な食料安全保障の確立

(1)食料供給に係るリスクの定期的な分析、評価等ア 主要な農林水産物の供給に影響を与える

可能性のあるリスクを洗い出し、そのリスクごとの影響度合い、発生頻度、対応の必要性等について分析、評価を行いました。イ 不測の事態が発生した場合に備え、「緊

急事態食料安全保障指針」(24年9月策定)に基づく具体的な対応手順について、関係者に幅広く周知するとともに、想定される不測の事態ごとのシミュレーション等を実施し、対応手順の実効性の検証を行い、必要に応じた見直しや更なる充実に向けた課題・対応について整理を行いました。

(2)海外や国内におけるリスクへの対応「緊急事態食料安全保障指針」に基づき、

食料の安定供給を確保するための平時の取組を行いました。また、食料の安定供給に関するリスクの定期的な分析・評価結果を踏まえ、平素から、食料供給への影響を軽減するための対応策を検討・実施しました。ア 国際的な食料需給の把握、分析

省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信しました。

イ 輸入穀物等の安定的な確保(ア)輸入と備蓄の取組

穀物の輸入先国との緊密な情報交換等を通じ、安定的な輸入を確保しました。また、海外依存度の高い飼料原料について、天災等による海外からの供給途絶や国内の配合飼料工場の被災といった不測の事態に対応するとともに、調達先の多元化に伴い、脆

ぜい弱じゃく

なインフラ等に起因する輸送遅延が発生したことも踏まえ、とうもろこし・こうりゃんを60万t備蓄しました。

(イ)国際港湾の機能強化a ばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入

を実現するため、大型船に対応した港湾機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を引き続き推進しました。

b 国際海上コンテナターミナル、国際ターミナルの整備等、国際港湾の機能強化を推進しました。

(ウ)海外農業投資の支援

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第2部

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a 関係府省・機関により取りまとめた「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」(21年8月策定)に基づき、民間企業に対する海外農業投資に係る情報提供を実施するとともに、投資対象国における日本向け農産物の生産可能性調査やビジネスマッチングのためのフォーラムを実施しました。

b 国連食糧農業機関(FAO)等3つの国際機関が運営する世界食料安全保障委員会(CFS)において、26年10月に採択された「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」の運用に資するため、我が国が拠出する世界銀行の信託基金を用いて、当該原則の有効性等についての調査を行いました。

(エ)肥料原料の供給安定化対策肥料原料については、海外からの輸入へ

の依存度を低減させるため、国内の未利用資源の活用に向けた技術開発、実証・実用化等をコストに配慮しつつ推進しました。

(オ)遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化

a 食料の安定供給に資する品種の育成・改良に貢献するため、農業生物資源ジーンバンクにおいては、収集した遺伝資源を基に、幅広い遺伝変異をカバーしたコアコレクションの整備を進め、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進しました。

b 食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)の枠組みを活用した他国との植物遺伝資源の相互利用や、植物遺伝資源に関するアジア諸国との二国間共同研究等を推進することによって、海外遺伝資源の導入環境を整備しました。

ウ 国際協力の新展開(ア)世界の食料安全保障に係る国際会議へ

の参画等a G7・G20サミット及びその関連会合、

アジア太平洋経済協力(APEC)関連会

合、ASEAN+3農林大臣会合、CFS等FAO関 連 会 合、 経 済 協 力 開 発 機 構

(OECD)農業委員会等世界の食料安全保障に係る国際会議等に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献しました。

b フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信しました。

c 28年4月に開催するG7新潟農業大臣会合において、食料安全保障について有意義な議論を行うため、準備会合を開催しました。

(イ)官民連携によるフードバリューチェーンの構築

二国間政策対話等を活用し、フードバリューチェーンの構築を推進するため、民間投資と連携した協力を行いました。

(ウ)食料・農業分野における技術・資金協力

世界の貧困削減・飢餓撲滅に貢献すべく、食料・農業分野における以下の国際協力を実施しました。

a 開発途上国からの要請に応じ、技術協力及び資金協力を実施しました。また、世界の食料安全保障の確立に取り組む国際機関への拠出を通じた協力を実施しました。

b ①開発途上国でのフードバリューチェーンの構築支援、②飢餓・貧困対策への貢献、③気候変動や越境性感染症等の地球規模課題への適切な対応を農林水産分野のODAにおける重点分野とし、国際協力を効果的に実施する上で必要となる基礎的な調査、技術開発、人材育成等を実施しました。

(エ)食料・農業分野での取組を通じた食料安全保障の強化

a アフリカを始めとした世界の栄養改善

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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に向けて、官民連携による栄養改善事業の国際展開検討チームを、総理大臣を本部長とする健康・医療戦略本部の下に設置しました。

b 大規模災害等の緊急時に対処することを目的としたASEAN+3緊急米備蓄

(APTERR)協定に基づき、APTERR体制の確立に向けた基金の造成や現物備蓄事業への支援を行いました。

エ 動植物防疫措置の強化(ア)家畜防疫体制の強化や植物病害虫の防

除の徹底a 口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ等

が発生しているアジア諸国等から訪日旅行客が増える中、水際での疾病侵入対策の強化とともに、日中韓農業大臣による越境性動物疾病への対応に関する協力覚書への署名、口蹄疫防疫に関する日中韓等東アジア地域シンポジウムの開催、ワンヘルスの考え方の下OIE・WHO・FAOの活動への支援等の実施等により我が国への疾病侵入リスクの低減を図りました。また、国内防疫では、飼養衛生管理基準の徹底、特定家畜伝染病防疫指針の改正等により、防疫体制の強化を図りました。

b 海外における植物病害虫の発生や植物検疫規制に関する情報を収集・分析し、病害虫侵入の防止の観点から、我が国の輸入検疫措置の見直しを実施しました。国内検疫については、ミカンコミバエ種群及びウメ輪紋ウイルスのまん延の防止及び根絶を図るために、植物防疫法(昭和25年法律第151号)に基づく緊急防除を実施するとともに、ジャガイモシロシストセンチュウについて、発生範囲調査及び植物防疫官による収穫物の移動前検査を実施しました。

(イ)輸入検疫体制の強化a 家畜防疫官・植物防疫官の適切な配置

及び検疫探知犬の増頭等検査体制の整備・強化により、円滑で確実な水際対策

を講じるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延を防止しました。また、多言語ホームページによる動物検疫・水際対策の情報提供を行い、検疫制度の周知徹底を図りました。

b 政府が輸入する米麦について残留農薬等の検査を実施しました。

(ウ)産業動物獣医師の育成・確保産業動物獣医師への就業を志す獣医系

大学の学生や地域の産業動物獣医師への就業を志す高校生等への修学資金の貸与、獣医系大学の学生を対象にした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床研修や女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修等の実施による産業動物獣医師の育成等の支援、産業動物獣医療の提供体制整備に取り組む地域への支援を実施しました。

オ 食品流通における不測時への備えの強化(ア)食のライフラインの確保

震災時においても、食品流通に係る事業継続等を目的とした食品産業事業者等による連携・協力体制の構築を促進するための支援を行いました。

(イ)適切な備蓄の実施a 米穀の備蓄運営について、米穀の供給

が不足する事態に備え、国民への安定供給を確保するため、100万t程度(27年6月末時点)の備蓄保有を行いました。

b 海外依存度の高い小麦について、港湾スト等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成しました。

c 緊急時に備えた家庭における食料品の備蓄を推進しました。

6 国際交渉への戦略的な対応(1)EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)への取組等「日本再興戦略」改訂2014(26年6月

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第2部

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策定)等に基づき、グローバルな経済活動のベースとなる経済連携を進めました。

具体的には、TPPについては、27年10月に大筋合意に至り、28年2月4日に参加国で署名が行われました。また日EU・EPAをはじめ、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTA等のグローバルな経済活動のベースとなる経済連携について、我が国の農林水産品がこれらの交渉において慎重に扱うべき事項であることに十分配慮し、重要品目の再生産が引き続き可能となるよう、交渉を行いました。

(2)WTO交渉における取組「多様な農業の共存」という基本理念の

下、食料輸出国と輸入国のバランスの取れた農産物貿易ルールの確立に向けて、WTO交渉の前進と、多角的貿易体制の維持・強化に積極的に貢献しました。

Ⅲ 農業の持続的な発展に関する施策

1 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保

(1)法人化、経営の多角化等を通じた経営発展の後押しア 担い手への重点的な支援の実施(ア)認定農業者等の担い手が主体性と創意

工夫を発揮して経営発展できるよう、担い手に対する農地の集積・集約化の促進や経営所得安定対策、出資や融資、税制など、経営発展の段階や経営の態様に応じた支援を行いました。

(イ)担い手の育成・確保に向けた施策について、構造改革の進展の状況を踏まえつつ、担い手の経営発展に資するよう、分析、検証を行いました。

イ 農業経営の法人化等の加速化(ア)農業経営の法人化を促進するため、大

規模な家族農業経営や集落営農等を中心に、法人化のメリットや手続、法人経営に必要となる財務・労務管理に関する情

報やノウハウ等の普及・啓発を行うとともに、税理士等の経営に関する専門家による相談・指導体制の整備などを推進しました。

(イ)労働力不足の状況に対応し、農業法人において、幅広い年齢層や他産業からの人材などの活用を図るため、他産業並の就業環境の整備を推進するとともに、従業員のキャリアパスとして別の法人の経営者として独立する取組等を促進しました。

(ウ)担い手が少ない地域においては、地域における農業経営の受皿として、集落営農の組織化を推進するとともに、これを法人化に向けての準備・調整期間と位置付け、法人化を推進しました。

ウ 経営の多角化・複合化雇用労働力の有効活用や農業機械等の経

営資源の有効利用、価格変動や自然災害による経営リスクの分散等を図るため、経営の多角化や複合化を推進しました。

(2)新規就農や人材の育成・確保、経営継承等

ア 青年層の新規就農(ア)将来の我が国の農業を支える人材を確

保するためには、青年新規就農者を増大させる必要があることから、青年の就農意欲の喚起と就農後の定着を図るため、① 就農の準備(2年以内)及び経営が

不安定な就農直後(5年以内)の所得の確保に対する給付金の給付

② 農業法人等が実施する新規就農者に対する実践研修への支援

を推進しました。(イ)初期投資の負担を軽減するため、農業

機械等の取得に対する補助や無利子資金の貸付けを行いました。

(ウ)就農希望者等に対する全国的な求人情報等の提供や就農相談、就農前の短期間就業体験(インターンシップ)の実施を支援しました。

(エ)地域の農業大学校、農業高校等の卒業

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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生の就農を促進するため、関係府省や都道府県等の連携の下、先進的な農業経営の学習の充実や就農支援体制の強化等を推進しました。

イ 経営感覚を持った農業者の育成・確保(ア)今後の地域農業のリーダーとなる人材

の層を厚くするとともに、農業界をけん引するトッププロを育成するため、高度な経営力、地域リーダーとしての人間力等を養成する高度な農業経営者育成教育機関等への支援を推進しました。

(イ)社会の変化や産業の動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成するため、先進的な卓越した取組を行う専門高校を指定し、取組を支援しました。

(ウ)被災地の人材ニーズに対応し、復興の即戦力となる専門人材や次代を担う専門人材の育成等を支援しました。

ウ 次世代の担い手への円滑な経営継承今後、担い手の優れた技術や農地等の生

産基盤を確実に次世代の担い手に継承していくため、農業法人や大規模な家族農業経営が経営継承の重要性の理解を深め、円滑に経営継承を行うための具体的な計画を策定し、実施する取組を促進しました。エ 企業の農業参入

企業の農業参入は、特に担い手が不足している地域においては農地の受皿として期待されていることから、農地中間管理機構を中心としてリース方式による企業の参入を促進しました。オ 農地所有適格法人の要件見直し

農地所有適格法人(農地を所有できる法人)について、6次産業化等経営発展を推進していく観点から、当該法人の要件の見直しを行うため、第189回国会で「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。

2 女性農業者が能力を最大限発揮できる環境の整備

(1)女性の活躍推進ア 女性農業者が、その能力を最大限に発揮

し、農業経営や6次産業化を展開することができる環境を整備するため、経営体向け補助事業について女性農業者等による積極的な活用を促進したほか、地域農業における次世代のリーダーとなり得る女性農業経営者の育成及び農業で新たにチャレンジを行う女性の経営の発展を促進するための取組を推進しました。

イ 女性農業者の知恵と民間企業の技術、ノウハウ、アイデアなどを結び付け、新たな商品やサービス開発等を行う「農業女子プロジェクト」の活動を拡大しました。

(2)政策・方針決定過程への女性の参画の促進

ア 「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」を踏まえ、全国各地における女性農業委員の研修会や改正農業協同組合法に係る説明会の開催、女性の登用状況の調査・公表、女性の登用促進に向けた推進活動等を実施しました。

イ 地域農業に関する方針等に女性農業者等の声を反映させるため、人・農地プランを検討する場への女性農業者の参画を義務づけるなど、地域の方針決定過程への女性の参画を促進しました。

3 農地中間管理機構のフル稼働による担い手への農地集積・集約化と農地の確保

(1)担い手への農地集積・集約化の加速化ア 人・農地プランの活用

各地域の人と農地の問題を解決していくため、人・農地プランの作成と定期的な見直しを推進しました。また、人・農地プランに即して担い手が行う経営規模の拡大等の取組を、融資等を通じて促進しました。

イ 農地中間管理機構のフル稼働26年度の各都道府県の農地中間管理機

構の実績を評価し、その評価に基づき、同

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第2部

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機構の機能強化に係る施策を講じ、同機構を通じた農地の集積・集約化を推進しました。

(2)荒廃農地の発生防止・解消等農業者等が行う、荒廃農地を再生利用す

る取組を推進するとともに、農地法(昭和27年法律第229号)に基づく農業委員会による利用意向調査、農地中間管理機構との協議の勧告等の一連の手続を活用して再生利用可能な荒廃農地の農地中間管理機構への利用権設定を進めることにより、荒廃農地の発生防止と解消を図りました。

(3)農地転用許可制度等の適切な運用農地の転用規制及び農業振興地域制度の

適正な運用を通じ、優良農地の確保を図るとともに、地方分権改革の一環として、農地転用許可に係る国の権限を、国との協議を付した上で都道府県に移譲する等を内容とする農地法等の改正を行いました。

4 担い手に対する経営所得安定対策の推進、収入保険制度等の検討

(1)担い手を対象とした経営所得安定対策の着実な推進

担い手の農業経営の安定を図り、我が国農業の更なる構造改革を進める観点から、

「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」と「米・畑作物の収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)」について、27年産から認定農業者、認定新規就農者、集落営農を対象として、規模要件を課さずに実施しました。ア 畑作物の直接支払交付金

諸外国との生産条件の格差から生じる不利がある畑作物(麦、大豆、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたね)を生産する農業者に対して、標準的な生産費と標準的な販売価格の差に相当する額を直接交付する「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」を実施しました。イ 米・畑作物の収入減少影響緩和対策

国民に対する熱量の供給を図る上で特に重要なもの等で、収入の減少が農業経営に

及ぼす影響を緩和する必要がある農産物を生産する農業者に対して、農業者拠出に基づくセーフティネットとして、「米・畑作物の収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)」を実施しました。

ウ 米の直接支払交付金米の直接支払交付金について、29年産

米までの時限措置として実施しました。(2)経営の新たなセーフティネットとしての収入保険制度等の検討

農業経営全体の収入に着目した収入保険の導入について、制度の仕組みの検証等を行う事業化調査を実施するなど、検討を進めました。また、収入保険の検討と併せて、農業災害補償制度の在り方を検討しました。

5 構造改革の加速化や国土強きょう

靱じん

化に資する農業生産基盤整備農地集積の加速化、農業の高付加価値化に資

する農地の大区画化・汎用化や畑地かんがい等の整備、老朽化した農業水利施設の長寿命化・耐震化対策等を推進しました。また、生態系や景観等の農村環境の保全・形成に配慮した農業生産基盤の整備を推進しました。(1)力強い農業を支える農業生産基盤整備ア 大区画化・汎用化等の基盤整備を実施

し、農地中間管理機構とも連携した担い手への農地集積・集約化や農業の高付加価値化を推進しました。

イ 農地整備状況について、地理情報システムを活用した情報の可視化、共有を図りました。

ウ パイプライン化やICTの導入等により、水管理の省力化と担い手の多様な水利用への対応を実現する新たな農業水利システムを構築し、農地集積の加速化を推進しました。

(2)老朽化等に対応した農業水利施設の持続的な保全管理

ア 点検、機能診断及び監視を通じた適切なリスク管理の下での計画的かつ効率的な補

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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修、更新等により、施設の徹底した長寿命化とライフサイクルコストの低減を図りました。イ 地理情報システムを活用した国営造成農

業水利施設に係る点検、機能診断結果等の情報の蓄積、可視化、共有を推進しました。

(3)農村地域の強きょう

靱じん

化に向けた防災・減災対策ア 基幹的な農業水利施設やため池等の耐震

診断、ハザードマップの作成、耐震対策、集中豪雨による農村地域の洪水被害防止対策等を実施しました。特に、下流に人家等があり、施設が決壊した場合に影響を与えるおそれのあるため池(防災重点ため池)の豪雨対策を実施しました。イ 津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の

変動による被害等から農地等を防護するため、海岸保全施設の整備等を実施しました。

(4)農業・農村の構造の変化等を踏まえた土地改良制度の検証・検討

農業・農村の構造の変化を見極めつつ、土地改良事業や土地改良区の現状、ニーズ等について把握、分析した上で、新たな土地改良長期計画の検討等と併せ、土地改良制度の在り方について検証、検討を行いました。

6 需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の改革

(1)米政策改革の着実な推進、飼料用米等の戦略作物の生産拡大ア 米政策改革の着実な推進(ア)需要に応じた生産を推進するため、水

田活用の直接支払交付金による支援、中食・外食等のニーズに応じた生産と播

は種しゅ

前契約、複数年契約等による安定取引の一層の推進、県産別、品種別等のきめ細かい需給・価格情報、販売進捗、在庫情報の提供等の環境整備を推進しました。

(イ)定着状況を見ながら、30年産を目途

に行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政、生産者団体、現場が一体となって取り組みました。

(ウ)28年産の生産数量目標及び自主的取組参考値の設定に当たっては、自主的に主食用米以外に転換しても次年度の配分に影響を与えないよう、27年産の都道府県別のシェアを固定して配分することを基本としました。

イ 飼料用米等の戦略作物の生産拡大(ア)食料自給力・食料自給率の維持向上を

図るため、飼料用米、麦、大豆など、戦略作物の本作化を進めるとともに、地域の特色のある魅力的な産品の産地づくりに向けた取組を支援することにより、水田のフル活用を図りました。

(イ)飼料用米及び米粉用米について、単収向上へのインセンティブとして、生産数量に応じて交付金を支払う数量払い等により戦略作物の生産への支援を行うとともに、地域が作成する「水田フル活用ビジョン」に基づき、地域の特色のある魅力的な産品の産地を創造するため、地域の裁量で活用可能な産地交付金により、産地づくりに向けた取組を支援しました。

(2)畜産クラスター構築等による畜産の競争力強化

ア 畜産・酪農の競争力強化(ア)畜産農家を始めとして、地域に存在す

る外部支援組織(コントラクター、TMRセンター、キャトル・ステーション、ヘルパー等)や関連産業等の関係者

(乳業、食肉センター等)が有機的に連携、結集し、地域ぐるみで収益性を向上させる畜産クラスターの取組を推進するため、新規就農者等の確保や経営資源の円滑な継承を促進するとともに、搾乳ロボットや哺乳ロボット等の省力化機械の

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第2部

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導入・活用、外部支援組織の活用による労働負担の軽減を推進しました。

(イ)酪農経営における受精卵移植・性判別技術を活用した優良な乳用後継雌牛の確保や、和牛主体の肉用子牛の生産拡大、和牛繁殖経営におけるICT等の新技術を活用した繁殖性の向上等を図る取組を支援しました。

(ウ)輸入飼料に依存した畜産から国内の飼料生産基盤に立脚した畜産に転換するため、国産飼料の生産・利用の拡大や流通基盤・体制の強化、放牧の活用や食品残さ等の飼料利用の拡大等を推進しました。

(エ)需要面での変化については、チーズ、発酵乳、適度な脂肪交雑の牛肉への需要の拡大や安全・安心への関心等を踏まえ、多様な消費者ニーズに的確に対応した生産等を推進しました。また、酪農家による6次産業化の取組を支援するため、指定生乳生産者団体との生乳取引の多様化を推進しました。

イ 畜産・酪農関係の経営安定対策経営安定対策として、以下の施策等を実

施し、畜産農家等の経営安定を図りました。

(ア)畜種ごとの経営安定対策a 酪農関係では、①加工原料乳に対する

加工原料乳生産者補給金の交付、②加工原料乳の取引価格が低落した場合の補

ほ塡てん

金の交付、③自給飼料生産基盤に立脚した経営を行う酪農家(自給飼料の生産を行うとともに環境負荷軽減に取り組んでいる者)に対し、飼料作付面積に応じた交付金の交付等の対策

b 肉用牛関係では、①肉用子牛対策として、肉専用種を対象に肉用子牛生産者補給金制度を補完する肉用牛繁殖経営支援事業、②肉用牛肥育対策として、粗収益が生産コストを下回った場合に補

ほ塡てん

金を交付する肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)

c 養豚関係では、粗収益が生産コストを下回った場合に補

ほ塡てん

金を交付する養豚経営安定対策事業(豚マルキン)

d 養鶏関係では、鶏卵の取引価格が補ほ

塡てん

基準価格を下回った場合に補ほ

塡てん

金を交付する鶏卵生産者経営安定対策事業

(イ)飼料価格高騰対策配合飼料価格の大幅な変動に対応する

ための配合飼料価格安定制度を適切に運用するとともに、国産飼料の増産や食品残さを飼料として利用する取組等を推進しました。

(3)実需者ニーズ等に対応した園芸作物等の供給力の強化

ア 野菜関係対策(ア)野菜価格の低落に際しては、生産者補

給交付金等の交付を円滑に行いました。(イ)価格動向の変化に合わせて、直近6か

年の平均卸売価格を基に保証基準額を改定しました。

(ウ)加工・業務用野菜への転換を推進する産地に対し、加工・業務用野菜の安定生産に必要な作柄安定技術の導入を支援しました。あわせて、加工・業務用需要に対応したサプライチェーンの構築に加えて、加工・業務用野菜の生産を加速化するための新技術・機械化の導入等について支援しました。

(エ)燃油価格の高騰の影響を受けにくい経営構造への転換を進めるため、省エネ設備のリース導入及び燃油価格高騰時のセーフティネットの構築を支援しました。

イ 花き関係対策(ア)「花きの振興に関する法律」(平成26

年法律第102号)に基づき、国産シェアの奪還と輸出拡大を図るため、花き業界関係者が一堂に会する協議会の設置・運営や、日持ち性の向上、コールドチェーンの確立、広域連携による加工技術の向上等の国産花きの強みを活かす生産・供給体制の強化、花育活動等の需要

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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拡大に向けた取組等を支援しました。(イ)「花きの輸出戦略」(25年8月策定)を

踏まえ、多様で高品質な国産花きの輸出拡大に向けた取組を支援しました。

(ウ)2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の成功に向けて、「ビクトリーブーケ」や会場内外の装飾に利用される国産花きの安定供給に向けた取組を支援しました。

ウ 茶関係対策茶の輸出拡大や高付加価値化に向け、輸

出向け商品の生産・加工技術や機能性成分等の特色を持つ品種の導入やてん茶(抹茶の原料)栽培に適した棚施設を利用した栽培法への転換等を支援しました。エ 砂糖及びでん粉関係対策

「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律」(昭和40年法律第109号)に基づき、さとうきび・でん粉原料用かんしょ生産者及び国内産糖・国内産いもでん粉の製造事業者に対して、経営安定のための支援を行いました。

(4)需要拡大が見込まれる有機農産物や薬用作物の生産拡大ア 有機農産物関係対策

有機農産物の生産拡大のため、有機農業に取り組む産地の供給力拡大に向けて、地域の気象、土壌条件等に適合した栽培技術の実証、研修受入農家の拡大及び有機農業者の定着、地域ブロックごとのマッチングフェアの開催等の取組を支援しました。また、有機JAS認証の取得を推進するとともに、輸出促進に向けた諸外国との有機同等性の取得等を推進しました。イ 薬用作物関係対策

薬用作物の産地化に向けて、実需者(漢方薬メーカー等)と連携した地域ごとの気象・土壌条件等に適した品種の選定、安定した生産に資する栽培技術の確立のための実証ほの設置、低コスト生産体制の確立に向けた農業機械の改良等の取組を支援しました。

7 コスト削減や高付加価値化を実現する生産・流通現場の技術革新等

(1)戦略的な研究開発と技術移転の加速化ア 現場のニーズを踏まえた戦略的な研究開発

様々な農政の課題に技術面で的確に対応するため、「農林水産研究基本計画」(27年3月策定)に基づきつつ、「攻めの農林水産業」の展開に向けて、以下の施策を推進しました。その際、農業現場のニーズに直結した戦略的な研究開発を推進するため、農業者や普及組織等の研究への参画を推進しました。

(ア)生産現場強化のための研究開発a 稲作経営の収益を向上させる、野菜等

を組み入れた水田複合経営の新作型の開発を推進しました。

b 飼料用米の収量を高位安定化させる生産技術、飼料の給与による畜産物の差別化技術等の開発を推進しました。

c 家畜の遺伝子の網羅的解析等により、優良な形質を持つ家畜を育成し、効率よく増やし、健康に育てるための技術の開発を推進しました。

d 温暖化の将来予測に基づく品種育成・生産安定技術等、豪雨などの異常気象による被害を回避・軽減する技術を開発しました。

e 有機資源の循環利用や微生物を利用した化学肥料や農薬の削減技術、養分利用効率の高い施肥体系、土壌に蓄積された養分を有効活用する管理体系等の確立を推進しました。

f ゲノム情報を最大限に活用して、高温や乾燥等に適応する品種の開発を推進しました。

g 国産花きの競争力強化のため、実需ニーズの高い新系統及び低コスト栽培技術、品質保持期間延長技術の開発を推進しました。

h 自動走行トラクター、生育予測システム、自動水管理システム、植物工場にお

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第2部

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ける収量・成分の制御を可能とする栽培管理技術など、農業のスマート化を実現するための様々な技術の開発を総合的に推進しました。

(イ)需要フロンティア拡大のための研究開発

a 機能性農林水産物・食品の開発・エビデンスの獲得を行うとともに、開発された機能性農林水産物・食品の利用を促進するため、データベースの構築及び栄養指導プログラムの開発を推進しました。

b 密閉型植物工場において、遺伝子組換え植物を活用したワクチン・機能性食品等有用物質生産の実用化のために使用エネルギー効率の高い生産技術、品質管理技術を開発しました。

c 農産物の多様な品質を集出荷施設等で迅速に評価する新しい技術の開発を推進するとともに、輸出先の嗜

し好こう

に適合する品種を容易に選定する技術の開発を推進しました。

(ウ)バリューチェーン構築のための研究開発

a 実需者等のニーズに的確に対応し、大規模生産が可能となる業務・加工用の水稲・小麦・大豆等品種及び生産技術を開発するとともに、実需者等のニーズに応じた加工適性を持つ野菜・果樹品種及び生産・加工・鮮度保持技術の開発を推進しました。

b 稲、麦、大豆、園芸作物等の農業上有用な遺伝子を同定し、DNAマーカーの開発・利用を推進するとともに、ゲノム情報を活用した新しい育種技術や、遺伝資源等から有用遺伝子を効率よく発掘する技術、害虫の薬剤抵抗性管理技術等の開発を推進しました。また、海外植物遺伝資源の導入環境を整備しました。

c 農山漁村の自立・分散型エネルギー供給体制の形成に向けて、バイオ燃料や熱エネルギーを効率的に生産・利用するための技術の開発を推進しました。

イ 技術移転の加速化(ア)「橋渡し」機能の強化

a 「知」の集積と活用の場による技術革新

(a)市場開拓等に意欲的な民間企業と、異分野の革新的な技術シーズ等を有する研究機関を結び付ける「知」の集積と活用の場の在り方について取りまとめを行いました。

(b)産学を結び付ける研究開発プラットフォームづくりのため、産学官連携協議会の準備会を設けるとともに、技術シーズ・開発ニーズ等を民間企業と研究機関で共有するセミナー等を開催し、28年度以降の本格実施につなげました。

b 異分野融合研究の強化医学や工学など異分野の技術を農林水

産分野に導入・活用するための共同研究を進めるとともに、研究成果を社会実装につなげるための講演・セミナーの開催やパネル・実機の展示等を行う機会を設る等研究開発を推進しました。

c 研究開発・普及・生産現場の連携による技術開発・普及

(a)農林水産業・食品産業等におけるイノベーションにつながる革新的な技術シーズを開発するための基礎研究及び開発された技術シーズを実用化に向けて発展させるための研究開発を推進しました。

(b)研究開発から産業化までを一貫して支援するため、大学、民間企業等の地域の関係者による技術開発から改良、開発実証試験までの取組を切れ目なく支援するとともに、民間企業等における事業化を支援しました。

(c)全国に配置されたコーディネーターが、技術開発ニーズ等を収集し、研究の課題設定を現場ニーズに対応したものとするとともに、研究の開発段階から産学が密接に連携し、早期に成果を

282

平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 109: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

実現できるよう支援しました。(d)農業技術に関する近年の研究成果

のうち、早急に生産現場への普及を推進する重要な技術として選定した最新の農業技術成果(27年3月公表)等について、情報提供を行い、各地域に適した研究成果の円滑な普及に努めました。

(e)産地においては、普及指導センターと大学、企業、試験研究機関等が連携しつつ、技術指導を核に総合的な支援を展開するなど、研究成果の普及・実用化体制の強化を推進しました。

(イ)効果的・効率的な技術・知識の普及指導

国と都道府県が協同して、高度な技術・知識を持つ普及指導員を設置し、普及指導員が農業者に直接接して行う技術・経営指導等を推進しました。

(ウ)戦略的な知的財産マネジメントの推進a 研究開発の推進に当たっては、事業

化・商品化に向けた知的財産戦略を研究開発の企画・立案段階から描き、研究開発を効果的に推進していくための仕組みを整備しました。

b 研究成果については、秘匿化や特許等の独占的な実施許諾も選択肢として、社会還元を加速化する観点から最も適切な方法が採用されるよう、研究機関に対して指導・支援していくための「農林水産研究における知的財産に関する方針」

(28年2月策定)を定めました。(エ)レギュラトリーサイエンスの充実・強

化a 取り組むべき調査研究の内容や課題を

明確化した、新たな「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」(27年6月策定)を策定し、関係者と共有しました。

b 研究開発部局と規制担当部局とが連携して、食品中の危害要因、家畜疾病・植物病害虫等のリスク管理に必要な調査研究を推進しました。

c レギュラトリーサイエンスに属する研究成果を国民に分かりやすい形で公表するとともに、行政施策・措置の検討・判断に活用された研究成果の報告会を開催しました。

(オ)国民理解の促進最先端技術の研究開発及び実用化に当

たっては、国民への分かりやすい情報発信、生産者や消費者との意見交換を並行して行い、研究成果の実用化に向けた環境づくりを進めました。特に、遺伝子組換え技術等は、飛躍的な生産性の向上等が期待される一方、国民的理解を得ていくことが課題であることから、関係府省の連携によるリスクコミュニケーション等の取組を強化しました。

(2)先端技術の活用等による生産・流通システムの革新

ア 規模拡大、省力化や低コスト化を実現するための技術導入

(ア)スマート農業の実現に向けた取組a ロボット技術やICTを活用して、超

省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)を実現するため、スマート農業の将来像や実現に向けたロードマップ及び「ロボット新戦略」(27年2月決定)に基づき、土地利用型農業における省力化のための自動農作業体系化技術などの研究開発・実証、高度な栽培技術の形式知化による生産管理や営農指導等ができるシステムの開発を推進しました。

b ロボット技術・ICTの今後重点的に取り組む課題について取りまとめるとともに、ロボット農機の安全性確保ガイドライン案を策定しました。

(イ)次世代施設園芸の推進我が国の施設園芸を次世代に向かって

発展させるため、大規模に集約された拠点において、木質バイオマス等の地域エネルギーと先端技術を活用し、化石燃料依存からの脱却、所得向上、地域雇用の

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第2部

Page 110: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

創出を実現する次世代施設園芸を推進しました。

(ウ)産地の戦略的取組の推進産地の活性化を図るため、「強み」の

ある産地形成に向けた取組、品目ごとの多様な課題の解決に向けた取組、産地に人材を供給する取組等を支援しました。

(エ)作業を受託する組織の育成・確保農作業の外部化により、高齢化や担い

手不足が進行している生産現場の労働負担の軽減を図るとともに、規模拡大や主要部門への経営資源集中等を通じた経営発展を促進する観点から、地域の実情を踏まえつつ、飼料生産組織やヘルパー組織の育成・確保を推進しました。

(オ)一時的な労働力(援農隊)の育成・確保

定植期や収穫期等に一時的に必要な労働力を確保するため、地域の状況を踏まえた援農者の確保・育成・組織化等を推進しました。

イ 需要に応じた生産や高付加価値化を進めるための技術導入

我が国の強みである技術力を生かした新たな品種や技術の開発・普及を進め、かつ知的財産を総合的に活用することにより、日本各地で品質やブランド力など「強み」のある農畜産物を実需者と連携して生み出すため、「新品種・新技術の開発・保護・普及の方針」(25年12月策定)に基づく取組等を推進しました。

(ア) 実需者や産地が参画したコンソーシアムを構築し、実需等ニーズに対応した新品種の開発等の取組等を推進しました。また、実需者等の多様なニーズに即応するため、育種期間を短縮するためのDNAマーカーの開発、様々な形質の導入を可能とする新たな育種技術の開発を行うとともに、独立行政法人等が所有する埋もれた品種等をデータベース化し、その利用を促進しました。

(イ)新品種やICT等の新技術等を活用し

た「強み」のある産地形成を図るため、実需者、生産者等が連携して新たな産地形成を行う取組を総合的に支援しました。また、埋もれた品種等の発掘や実需者等との結び付き強化、普及指導員を含めた産地の人材育成、産地におけるGAPの導入、種苗の機動的な供給体制の整備、農業機械のリース導入、共同利用施設整備等の取組も支援しました。

(ウ)海外遺伝資源を戦略的に確保するため、締約国として食料・農業植物遺伝資源条約の運営に参画するとともに、種苗会社等の国内遺伝資源利用者と遺伝資源保有国との遺伝資源取得に係る調整を支援しました。また、二国間共同研究による海外植物遺伝資源の特性情報の解明等を推進することにより、海外植物遺伝資源へのアクセス環境を整備しました。

(エ)植物新品種の保護強化・活用促進を図るため、種苗輸出大国オランダの業界団体(プランタム)の取組をモデルに、種苗産業の共通課題の解決を可能とする総合的な取組体制の構築に向け、必要な環境整備等を推進しました。

ウ 異常気象などのリスクを軽減する技術の確立

(ア)気候変動に負けない持続的な産地づくり

農業分野における気候変動及び極端な気象現象の影響を回避・軽減できる産地づくりを推進するため、産地ぐるみで回避・軽減策等をまとめた技術導入計画の策定による気象予測データを活用した予防対策、高温等の影響を回避又は軽減できる技術実証等の取組を推進しました。

(イ)農業生産資材費の低減a 肥料、飼料、農薬、農業機械等の農業

生産資材費の低減に向け、単肥、単肥を混合した配合肥料、国内未利用資源(鶏ふん焼却灰等)を用いた肥料、エコフィード等の低コスト飼料、大型包装農薬やジェネリック農薬、中古農業機械や

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平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 111: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

基本性能に絞った海外向けの農業機械等の低コスト生産資材の活用を推進するとともに、フレキシブルコンテナによる肥料の流通・利用の合理化を図りました。

b 農業者の生産資材の効率的利用を促進するため、土壌中の肥料成分を踏まえた施肥や局所施肥、地域の土壌条件や作物に応じた減肥基準の策定等による肥料利用効率の向上、作期分散による農業機械稼働率の向上等を推進しました。

(ウ)省エネルギー対策ヒートポンプ、木質バイオマス利用加

温設備等の施設園芸省エネ設備のリース導入支援を実施しました。また、電気利用設備の電気消費量を節減するため、省電力で効果的な加温技術の組合せ等の取組を推進しました。

(3)効果的な農作業安全対策の推進年間約400件発生している農作業死亡

事故の低減に向け、以下の取組を実施しました。ア 一連の農作業の中の危険要因を洗い出

し、評価することにより、対策をたてる優先順位を決め、実際に対策を考えて周知徹底する農作業へのリスクアセスメントを適用しました。イ 行政機関や民間事業者等の関係者の協力

の下、春と秋に実施する「農作業安全確認運動」等を通じ農業者の安全意識の向上を図りました。ウ 農業女子プロジェクト等と連携するとと

もに、農作業ウェアや熱中症計等の事故予防に資するグッズの利用を推進しました。エ 農作業事故の詳細な要因の調査・分析を

実施するとともに従来の安全研修の内容や手法を調査し、PDCAサイクルを取り入れた研修内容を検討しました。オ 乗用型トラクターの片ブレーキによる事

故を防止する装置や、自脱コンバインの手こぎ部における巻き込まれを防止する緊急即時停止装置を搭載した機種の普及及び安全な農業機械の開発を促進しました。

カ 関係省庁が連携し、農業現場への熱中症対策関連情報を周知しました。

キ 労災保険制度の周知及び加入を促進しました。

8 気候変動への対応等の環境政策の推進(1)気候変動に対する緩和・適応策の推進ア 農業分野における温室効果ガス排出削減

に貢献するため、温室効果ガス排出削減技術の検証等への支援や施設園芸における省エネ設備の導入支援、施肥の適正化を推進しました。

イ 農地からの温室効果ガスの排出・吸収量の国連への報告に必要な農地土壌中の炭素量等のデータを収集する調査を行うとともに、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対して支援しました。

ウ 温室効果ガスの更なる排出削減対策や吸収源対策の推進のため、排出削減・吸収量を認証しクレジットとして取引できるJ-クレジット制度において、農林水産分野の取組を推進しました。

エ 近年の局地的な豪雨や極端な小雨による渇水などを契機とした水問題への関心の高まりを受け、農林水産業が有する水源涵

かん養よう

等の機能の評価手法策定等を実施しました。

オ バイオマスの変換・利用施設等の整備等を支援し、農山漁村地域におけるバイオマス等の再生可能エネルギーの利用を推進しました。

カ 廃棄物系バイオマスの利活用については、「廃棄物処理施設整備計画」(25年5月策定)に基づく施設整備を推進するとともに、市町村等における生ごみのメタン化等の活用方策の導入検討を支援しました。

キ 「地球温暖化対策研究戦略」(20年7月策定)に基づき、農林水産分野における地球温暖化防止技術・適応技術の開発等を推進しました。

ク 各国の研究機関等との連携により気候変動適応・緩和技術を開発し、開発途上国で

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第2部

Page 112: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

の気候変動対策及び持続可能な食料安定供給への取組を支援しました。ケ 政府全体の適応計画の策定と連動し、農

林水産分野における適応計画を策定し推進しました。コ 気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)等の地球環境問題に係る国際会議に参画し、農林水産分野における国際的な地球環境問題に対する取組を推進しました。

(2)生物多様性の保全及び利用ア 有機農業や冬期湛水管理等、生物多様性

保全に効果の高い営農活動等に対して支援しました。イ 企業等による生物多様性保全活動への支

援等について取りまとめた農林漁業者及び企業等向け手引き及びパンフレットを活用し農林水産分野における生物多様性保全活動を推進しました。ウ 遺伝子組換え農作物に関する取組につい

ては、生物多様性に及ぼす影響についての科学的な評価、安全性未確認の遺伝子組換え農作物に対する輸入時検査、国内の生産状況の把握、生態系への影響の監視等の調査を実施しました。エ 農林水産分野における遺伝資源の持続的

利用を推進するため、以下の取組を実施しました。

(ア)遺伝資源の持続可能な利用等の推進を目的とする食料・農業植物遺伝資源条約の運営等に対して支援を行いました。

(イ)国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得するために必要な情報の提供や、相手国等との意見調整の支援を行いました。

(ウ)既に海外から導入されている遺伝資源の実態等について調査しました。

(エ)国際農業研究機関の遺伝資源活用のための取組を推進しました。

(3)農業の自然循環機能の維持増進とコミュニケーション

環境保全型農業を推進するため、次の取

組を実施しました。ア 「農業の有する多面的機能の発揮の促進

に関する法律」に基づき、化学肥料・化学合成農薬の使用を原則5割以上低減する取組と一体的に実施する地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に対して支援を実施しました。また、持続性の高い農業生産方式の導入の促進、「農業環境規範」(17年3月策定)の普及・定着にも取り組みました。

イ 環境保全型農業の取組の推進を図るため、農業者、消費者、流通関係者等に対し、エコファーマーが行う取組を始め環境保全型農業に関する情報発信を実施しました。

ウ 「有機農業の推進に関する法律」(平成18年法律第112号)及び「有機農業の推進に関する基本的な方針」(26年4月策定)に基づき、有機農業の取組面積の拡大に取り組むとともに、有機農業への参入・定着支援や有機農産物の流通・販売面の支援、技術開発等の促進や消費者の理解等の増進を図りました。

エ 「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号)の趣旨を踏まえ、家畜排せつ物の適正な管理に加え、その利活用を図るため、耕畜連携の強化やニーズに即した堆肥づくり、地域の実情に応じてエネルギー利用等の高度利用を推進しました。

Ⅳ 農村の振興に関する施策

1 多面的機能支払制度の着実な推進、地域コミュニティ機能の発揮等による地域資源の維持・継承等

(1)多面的機能の発揮を促進するための取組ア 多面的機能支払制度(ア)農業者等による組織が取り組む、水路

の泥上げや農道の路面維持等の地域資源の基礎的保全活動や農村の構造変化に対

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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応した体制の拡充・強化等、多面的機能を支える共同活動を支援しました。

(イ)地域住民を含む組織が取り組む水路、農道等の軽微な補修や植栽による景観形成等の農村環境の良好な保全といった地域資源の質的向上を図る共同活動や、施設の長寿命化のための活動を支援しました。

イ 中山間地域等直接支払制度(ア)条件不利地域において、引き続き農業

生産活動の維持を通じて多面的機能を確保するため、中山間地域等直接支払制度に基づく直接支払を実施しました。

(イ)高齢化や人口減少の進行を踏まえ、女性・若者等の集落活動への参画や広域での集落協定に基づく複数集落が連携した活動体制づくり、条件が特に厳しい超急傾斜地における農業生産活動への支援など、集落の維持、強化に向けた取組を推進するなどにより、中山間地域等における自律的かつ安定的な農業生産活動を促進しました。

(2)「集約とネットワーク化」による集落機能の維持等ア 地域のコミュニティ機能の維持(ア)地域住民が主体となった地域の「将来

ビジョン」の策定や地域全体の維持・活性化を図るための体制構築を支援しました。

(イ)地域の実情を踏まえつつ、小学校区など複数の集落が集まる地域において、生活サービス機能等を基幹集落に集約・確保した「小さな拠点」と周辺集落とをネットワークで結ぶ取組を推進しました。

(ウ)地域活性化や地域コミュニティ再生の取組の拡大を図るため、「都市農村共生・対流総合対策交付金」を軸として、集落が多様な主体と連携し、農山漁村の持つ豊かな自然や「食」を福祉、教育、観光等に活用する地域の手づくり活動等を支援しました。

(エ)今後の人口減少を見据え、北海道の人

口低密度地域における農村の維持に資する方策について調査を実施しました。

イ 生活環境の整備(ア)農村における効率的・効果的な生活環

境の整備a 地域再生等の取組を支援する観点か

ら、地方公共団体が策定する「地域再生計画」に基づき、関係府省が連携して道路や汚水処理施設の整備を効率的・効果的に推進しました。

b 高齢化や人口減少が進行する農村において、住みやすい生活環境を整備するため、農業・生活関連施設の再編・整備を推進しました。

c 農山漁村における定住や都市と農山漁村の二地域居住を促進する観点から、関係府省が連携しつつ、計画的な生活環境の整備を推進しました。

(イ)交通a 交通事故の防止、交通の円滑化を確保

するため、歩道の整備や交差点改良等を推進しました。

b 生活の利便性向上や地域交流に必要な道路、都市まで安全かつ快適な移動を確保するための道路の整備を推進しました。

c 多様な関係者の連携により、地方バス路線、離島航路・航空路などの生活交通の確保・維持を図るとともに、地域鉄道の安全性向上に資する設備の整備など、快適で安全な公共交通の構築に向けた取組を支援しました。

d 地域住民の日常生活に不可欠な交通サービスの維持・活性化、輸送の安定性の確保等のため、島しょ部等における港湾整備を推進しました。

(ウ)衛生a 下水道、農業集落排水施設及び浄化槽

等について、未整備地域の整備とともに、より一層の効率的な汚水処理施設整備のために、社会情勢の変化を踏まえた都道府県構想の見直しの取組について、

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第2部

Page 114: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

関係府省が密接に連携して支援しました。

b 下水道、農業集落排水施設においては、既存施設について、長寿命化や老朽化対策を適時・適切に進めるための地方公共団体による機能診断等の取組や更新整備を支援しました。

c 農村における汚水処理施設整備を効率的に推進するため、農業集落排水施設と下水道との連携及び農業集落排水施設と浄化槽との一体的な整備を推進しました。

d 農村地域における適切な資源循環を確保するため、農業集落排水施設から発生する汚泥や処理水の循環利用を推進しました。

e 下水道や農業集落排水施設等複数の汚水処理施設が共同で利用できる施設の整備を図る汚水処理施設共同整備事業

(MICS)や従来の技術基準にとらわれず地域の実情に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法の導入を図る「下水道クイックプロジェクト」(18年11月策定)等により、効率的な汚水処理施設の整備を推進しました。

f 人口の少ない地域において、より効率的な汚水処理施設である浄化槽の整備を推進しました。特に、地球温暖化対策の促進を図るとともに、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を促進するため、低炭素社会対応型浄化槽(省エネルギータイプ)の整備を推進しました。

(エ)情報通信高度情報通信ネットワーク社会の実現

に向けて、河川、道路、下水道において公共施設管理の高度化を図るため、光ファイバ及びその収容空間を整備するとともに、民間事業者等のネットワーク整備の更なる円滑化を図るため、施設管理に支障のない範囲で国の管理する河川・道路管理用光ファイバやその収容空間を開放しました。

(オ)住宅・宅地a 優良田園住宅による良質な住宅・宅地

供給を促進し、質の高い居住環境整備を推進しました。

b 地方定住促進に資する地域優良賃貸住宅の供給を促進しました。

(カ)文化a 「文化財保護法」(昭和25年法律第

214号)に基づき、農村に継承されてきた民俗文化財に関して、特に重要なものを重要有形民俗文化財や重要無形民俗文化財に指定するとともに、その修理や伝承事業等に対する補助を行いました。

b 保存及び活用が特に必要とされる有形の民俗文化財について登録有形民俗文化財に登録するとともに、保存箱等の修理・新調に対する補助を行いました。

c 棚田や里山等の文化的景観や歴史的集落等の伝統的建造物群のうち、特に重要なものをそれぞれ重要文化的景観、重要伝統的建造物群保存地区として選定し、修理・防災等の保存及び活用に対して支援しました。

(キ)公園都市計画区域の定めのない町村におい

て、スポーツ、文化、地域交流活動の拠点となり、生活環境の改善を図る特定地区公園の整備を推進しました。

ウ 医療・福祉等のサービスの充実(ア)医療

「第11次へき地保健医療計画」に基づき、へき地診療所等による住民への医療提供等農村を含めたへき地における医療の確保を推進しました。

(イ)福祉介護・福祉サービスについて、地域密

着型サービス拠点等の整備等を推進しました。

エ 安全な生活の確保(ア)山腹崩壊、土石流等の山地災害を防止

するための治山施設の整備や、農地等を飛砂害や風害、潮害から守るなど重要な

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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役割を果たす海岸防災林の整備等を通じて地域住民の生命・財産及び生活環境の保全を図りました。

(イ)山地災害による被害を軽減するため、治山施設の設置等のハード対策と併せて、山地災害危険地区等の山地防災情報を行政と地域住民とが相互に伝達・共有する体制の整備等のソフト対策を推進しました。

(ウ)高齢者や障害者等の自力避難の困難な者が入居する要配慮者利用施設に隣接する山地災害危険地区等において治山事業を計画的に実施しました。

(エ)激甚な水害の発生や床上浸水の頻発により、国民生活に大きな支障が生じた地域等において、被害の防止・軽減を目的として、治水事業を実施しました。

(オ)土砂災害の発生のおそれのある箇所において、砂防堰

えん堤てい

等の土砂災害防止施設の整備や警戒避難体制の充実・強化など、ハード・ソフト一体となった総合的な土砂災害対策を推進しました。また、近年、死者を出すなど甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進しました。

(カ)南海トラフ地震や首都直下地震等による被害の発生及び拡大、経済活動への甚大な影響の発生などに備え、防災拠点、重要交通網、避難路等に影響を及ぼすほか、孤立集落発生の要因となり得る土砂災害の発生のおそれのある箇所において、土砂災害防止施設の整備を戦略的に推進しました。

(キ)社会福祉施設、医療施設等の要配慮者利用施設が存在する土砂災害の発生のおそれのある箇所において、土砂災害防止施設を重点的に整備しました。

(ク)土砂災害から人命を保護するため、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号)に基づき、土砂災害警戒区域等の指定を促進し、土砂災害のお

それのある区域についての危険の周知、警戒避難体制の整備及び特定開発行為の制限を実施しました。

(ケ)農地災害等を防止するため、ハード整備に加え、防災情報を関係者が共有するシステムの構築や減災のための指針づくり等のソフト対策を推進し、地域住民の安全な生活の確保を図りました。

(コ)橋きょう

梁りょう

の耐震対策、道路斜面や盛土等の防災対策、災害のおそれのある区間を回避する道路整備を推進しました。また、冬期の道路ネットワークを確保するため、道路の除雪、防雪、凍雪害防止を推進しました。

オ 経済の活性化を支える基盤の整備(ア)日常生活の基盤としての市町村道から

国土構造の骨格を形成する高規格幹線道路に至る道路ネットワークの強化を推進しました。

(イ)農産物の海上輸送の効率化を図るため、船舶の大型化等に対応した複合一貫輸送ターミナルの整備を推進しました。

(ウ)「道の駅」の整備により、休憩施設と地域振興施設を一体的に整備し、地域の情報発信と連携・交流の拠点形成を支援しました。

(エ)都市と農村地域を連絡するなど、地域間の交流を促進し、地域の活性化に資する道路の整備を推進しました。

(3)深刻化、広域化する鳥獣被害への対応ア 「鳥獣による農林水産業等に係る被害の

防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)に基づき市町村による被害防止計画の作成及び鳥獣被害対策実施隊の設置・体制強化を推進しました。

イ 鳥獣の急速な個体数増加や分布拡大により、被害が拡大するおそれがあることから、関係省庁が連携・協力し、個体数等の削減に向けて、25年12月に定めた「抜本的な鳥獣捕獲対策」及び26年4月に定めた「ニホンザルの被害対策の考え方」に基づき、捕獲等の対策を推進しました。

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第2部

Page 116: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

ウ 市町村が作成する被害防止計画に基づく、鳥獣の捕獲体制の整備、箱わなの導入、侵入防止柵の設置、鳥獣の捕獲・追払い、緩衝帯の整備、捕獲鳥獣を地域資源として利用するための処理加工施設の整備等の取組を推進しました。エ 東日本大震災や東電福島第一原発事故に

伴う捕獲活動の低下による鳥獣被害の拡大を抑制するための侵入防止柵の設置等を推進しました。オ 鳥獣の生息環境にも配慮した森林の整

備・保全活動等を推進しました。カ 地域における技術指導者の育成を図るた

め、普及指導員、市町村職員、農林漁業団体職員等を対象とする研修を実施しました。キ 鳥獣を誘引しない営農管理手法など、鳥

獣被害を防止する技術の開発を推進しました。ク 地域ブロック単位の連絡協議会の積極的

な運営や、鳥獣被害対策のアドバイザーを登録・紹介する取組を推進しました。

2 多様な地域資源の積極的活用による雇用と所得の創出

(1)地域の農産物等を活かした新たな価値の創出ア 潜在的な需要を開拓して新たな素材や新

商品を開発するとともに、他産業における革新的な活用方法の創出と新たなビジネスモデルの創造を推進しました。イ 農林水産業・農山漁村に豊富に存在する

資源を活用した、革新的な産業の創出に向け、農林漁業者と異業種の事業者間の連携により、市場ニーズに即した商品開発や新たなサービスを創造するための事業化可能性調査や新技術等の実証を支援しました。ウ 山村の豊かな地域資源の活用を通じた地

元の所得や雇用の増大に向け、農林業者を始めとする地域住民が協力して行う、農林水産物やその加工品などの地域資源の利用状況・活用可能量の調査、資源活用のため

の活動組織づくり、技術研修などの人材育成、地域産品のマーケティング調査、商品開発、商品パッケージのデザイン検討等の取組を支援しました。

(2)バイオマスを基軸とする新たな産業の振興

ア バイオマスの活用の推進に関する施策についての基本的な方針、国が達成すべき目標等を定めた「バイオマス活用推進基本計画」(22年12月策定)及び「バイオマス事業化戦略」(24年9月策定)に基づきバイオマス産業都市の構築等の施策を推進しました。

イ バイオマスの効率的な収集・変換等の技術の開発、システムの構築を進めることとし、以下の取組を実施しました。

(ア)農林漁業に由来するバイオマスのバイオ燃料向け利用の促進を図り、国産バイオ燃料の生産拡大に資するため、「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律」(平成20年法律第45号)に基づく事業計画の認定を行い支援しました。

(イ)農山漁村の自立・分散型エネルギーシステムの形成に向けて、バイオ燃料や熱エネルギーを効率的に生産・利用するための技術の開発・実証を推進しました。

(ウ)下水道を核とした資源・エネルギーの循環のため、バイオマスである下水汚泥等の利活用を図り、下水汚泥等のエネルギー利用、リン回収・利用等を推進しました。

(3)農村における地域が主体となった再生可能エネルギーの生産・利用

農山漁村に豊富に存在する土地、水、バイオマス等の資源を再生可能エネルギーとして活用し、農山漁村の活性化を図るため、次の取組を実施しました。

ア 「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(平成25年法律第81号)を積極的に活用し、農地等の利用調整を適切に

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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行いつつ、再生可能エネルギーの導入と併せて、地域農業の健全な発展に資する取組を促進しました。イ 農林漁業者やその組織する団体が主導す

る再生可能エネルギー発電の事業構想から運転開始に至るまでに必要な様々な手続・取組、小水力等発電施設の整備に係る調査設計及び施設整備等の取組を支援しました。

(4)農村への農業関連産業の導入等による雇用と所得の創出

食品製造業など農業関連産業の農村への導入等を通じた、農村における雇用と所得の創出の促進を図りました。

3 多様な分野との連携による都市農村交流や農村への移住・定住等

(1)観光、教育、福祉等と連携した都市農村交流ア グリーン・ツーリズム等、農山漁村の持

つ豊かな自然や「食」を観光、教育等に活用する集落連合体による地域の手づくり活動を支援し、都市と農山漁村の共生・対流等を推進しました(子ども農山漁村交流プロジェクト、「農」と福祉の連携プロジェクト、空き家・廃校活用交流プロジェクト、農観連携プロジェクトを関係省庁と連携して重点的に実施)。イ 観光に関係する府省庁の連携により都市

と農村の交流を促進しました。また、農林水産省と観光庁の「農観連携の推進協定」

(26年1月締結)に基づき、グリーン・ツーリズムと他の観光の組合せによる、新たな観光需要の開拓等について連携しました。ウ 観光を通じた地域振興を図るため、地域

の関係者が連携し、地域の幅広い資源を活用し地域の魅力を高めることにより、国内外の観光客が2泊3日以上の滞在交流型観光を行うことができる「観光圏」の整備を促進しました。エ 農山漁村が有する教育的効果に着目し、

農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村宿泊体験等を推進するとともに、農山漁村を健康づくりの場等として活用する取組を支援しました。

オ 高齢者の生きがいづくり、障害者の就労訓練・雇用の場として「農」を取り入れたいというニーズに応えるため、関係省庁が連携し高齢者や障害者を対象とした福祉農園等の開設・整備に関する取組、農業・福祉関係者を対象とした研修会の開催、農業専門家の派遣等を支援しました。

カ FAOへ世界農業遺産への認定申請を行おうとする地域の評価を目的として、26年3月に世界農業遺産専門家会議を農林水産省内に設置しました。本会議の評価を経て、初めて農林水産省が承認した3地域が27年12月に世界農業遺産に認定され、国内では計8地域となりました。

キ 「「子どもの水辺」再発見プロジェクト」の推進、水辺整備等により、河川における交流活動の活性化を支援しました。

ク 「歴史的砂防施設の保存活用ガイドライン」(15年5月策定)に基づき、景観整備・散策路整備等の周辺整備等を推進しました。また、歴史的砂防施設及びその周辺環境一帯を地域の観光資源の核に位置付けるなど、新たな交流の場の形成を推進しました。

ケ 「エコツーリズム推進法」(平成19年法律第105号)に基づき、全体構想の認定・周知、技術的助言、情報の収集、普及・啓発広報活動などを総合的に実施しました。

コ エコツーリズムに取り組む地域への支援として、交付金により魅力あるプログラムの開発、ルールづくり、推進体制の構築等を支援するとともに、有識者をアドバイザーとして派遣したほか、地域におけるガイドやコーディネーター等の人材育成事業を実施しました。

サ 良好な農村景観の形成等(ア)良好な農村景観の再生・保全を図るた

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第2部

Page 118: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

め、コンクリート水路沿いの植栽等、土地改良施設の改修等を推進しました。

(イ)棚田・疏そ

水すい

など将来に残すべき農村景観・資源を保全・復元・継承するための取組を推進しました。

(ウ)河川においては湿地の保全・再生や礫れき

河原の再生等、自然再生事業を推進しました。

(エ)魚類等の生息環境改善等のため、河川等に接続する水路との段差解消により水域の連続性の確保、生物の生息・生育環境を整備・改善する魚のすみやすい川づくりを推進しました。

(2)多様な人材の都市から農村への移住・定住ア 福祉、教育、観光等との連携により交流

人口の拡大や農山漁村地域への定住促進を図るため、農山漁村の空き家・廃校・耕作放棄地等の地域資源を活用した取組や、拠点施設等の整備等を関係省庁と連携して支援しました。イ 農山漁村の持つ豊かな自然や「食」を福

祉、教育、観光等に活用する地域の手づくり活動の推進に必要な外部専門家や都市人材を長期に受け入れ、地域活性化と暮らしの安心につなげていく取組について、総務省の「地域おこし協力隊」と一体的に運用を行いました。ウ 二地域居住等に関する国や地方公共団体

の支援策や取組について情報発信を行いました。

(3)多様な役割を果たす都市農業の振興新鮮な農産物の供給、農作業体験の場や

防災空間の確保等、都市農業が有する多様な機能の発揮のため、都市住民の理解の促進を図りつつ、都市農業の振興に向けた取組を推進しました。また、関係省庁と連携して、都市農業に関する制度等の調査・検討を進めました。

Ⅴ 東日本大震災からの復旧・復興に関する施策

「東日本大震災からの復興の基本方針」(23年8月改定)に沿った復興に向けた支援としては、「農業・農村の復興マスタープラン」(23年8月策定)や「避難指示解除準備区域等における公共インフラ復旧の工程表」に沿って、農地の大区画化等の取組を推進するとともに、被害が甚大な農地や避難指示区域内の農地の復旧と早期の営農再開に向けた支援を行いました。

また、東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)に沿って、関係府省が連携し、津波被災地域等の円滑かつ迅速な復興を図りました。(1)地震・津波災害からの復旧・復興ア 農地等の生産基盤の復旧・整備(ア)農地・農業用施設災害復旧等

被災した農地や農業用施設等の着実な復旧を進めました。

(イ)農業水利施設等の震災対策地震により損壊のおそれがある農業水

利施設の改修・整備等を実施しました。(ウ)被災土地改良区復興支援

被災により経常賦課金の支払が困難な農家の迅速な営農再開を図るため、土地改良区に対して資金借入れの無利子化や業務書類・機器等の復旧支援を行いました。

(エ)農地・水保全管理支払震災の影響により破損や機能低下した

農地周りの施設の補修等に取り組む集落を支援しました。

(オ)被災者営農継続支援耕作放棄地活用被災を免れた地域や避難先等において

荒廃農地を活用し営農活動を再開する被災農業者等の取組を支援しました。

(カ)災害廃棄物処理への対応a 福島県(避難区域を除く)において

は、個々の市町村の状況に応じて、災害廃棄物等の処理を進めることが必要であ

292

平成27年度 食料・農業・農村施策

Page 119: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

り、引き続き災害等廃棄物処理事業費補助金や災害廃棄物処理代行事業により、市町への支援を継続しました。

b 避難区域については、対策地域内廃棄物処理計画(25年12月一部改定)に基づき、国が災害廃棄物等の処理を行っており、帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入を優先目標として処理を進めました。

イ 経営の継続・再建(ア)被災農家経営再開支援

被災農業者の経営再開を支援するため、被災農業者が地域において共同で行う復旧の取組に対して支援金(水田:3万5千円/10a等)を交付しました。

(イ)農業経営の復旧・復興等のための金融支援

東日本大震災により被災した農業者等に対して、速やかな復旧・復興のために必要となる資金が円滑に融通されるよう利子助成金等を交付しました。

(ウ)東日本大震災被災地域土地改良負担金の償還助成

被災した農地・農業用施設に係る償還中の土地改良事業等の負担金について、利子助成事業を実施し、営農再開まで農家を支援しました。

(エ)浸水農地における農業共済の引受け海水が流入した浸水農地にあっても、

除塩により収穫が可能と見込まれる農地については、現地調査を行い、水稲等の生育状況を踏まえて共済引受を行いました。

(オ)地域農業経営再開復興支援津波被害を受けた市町村を対象とし

て、被災地域における担い手の経営再開と地域農業の復興を図るため、集落・地域での話合いに基づき、担い手を定めた経営再開マスタープランの作成等に必要な取組を支援しました。

(カ)被災者向け農の雇用対策被災農業者等の就業場所を確保すると

ともに、農業技術等の習得のため、農業法人等が被災農業者等を雇用して実施する実践的な研修を支援しました。

ウ 東日本大震災農業生産対策交付金による生産手段の回復

震災の影響により低下した被災地の生産力の回復、農畜産物の販売力の回復などに向けた取組について、都道府県向け交付金として支援しました。

エ 再生可能エネルギーの導入被災地域に存在する再生可能エネルギー

を活用し小水力等発電施設の整備に係る調査設計等の取組を支援しました。

オ 農山漁村対策(ア)被災地の復興のための先端技術展開

被災地を食料生産地域として再生するため、岩手県、宮城県、福島県で実施している大規模実証研究の取組を引き続き行い、技術の導入効果を分析し、研究成果の普及を促進しました。

(イ)農山漁村被災者受入円滑化支援被災地から他の地域への移転を行わざ

るを得ない被災農家等に対し、受入情報を提供し、受入地域とのマッチングを支援しました。

カ 東日本大震災復興交付金(ア)被災地域農業復興総合支援

被災市町村が農業用施設・機械を整備し、被災農業者に貸与等することにより、被災農業者の農業経営の再開を支援しました。

(イ)震災対策・戦略作物生産基盤整備震災によって著しい被害を受けた地域

において、畦けい

畔はん

除去等による区画拡大や暗あん

渠きょ

排水等の農地の整備、老朽施設の更新等の農業水利施設の整備をきめ細かく支援しました。

(ウ)農林水産関係試験研究機関緊急整備被災県の基幹産業たる農林水産業を復

興するための農林水産研究施設等整備を支援しました。

(エ)農山漁村地域復興基盤総合整備

293

第2部

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被災地域における農地・農業用施設や集落道等の整備を支援しました。

(オ)農山漁村活性化プロジェクト支援(復興対策)

被災地域の復旧・復興のため、生産施設、地域間交流拠点施設等の整備を支援しました。

(2)原子力災害からの復旧・復興ア 食品中の放射性物質の検査体制及び食品の出荷制限

(ア)原子力災害対策本部は、食品中の放射性物質の基準値を踏まえ、検査結果に基づき、都道府県等に対して食品の出荷制限・摂取制限の設定・解除を行いました。

(イ)都道府県等に食品中の放射性物質の検査を要請しました。また、都道府県の検査計画策定の支援、都道府県等からの依頼に応じた民間検査機関での検査の実施、検査機器の貸与を行いました。さらに、引き続き、都道府県等が行った検査の結果を集約し、公表しました。

(ウ)消費者の安全・安心を一層確保するため、独立行政法人国民生活センターとの共同により、希望する地方公共団体に放射性物質検査機器を貸与し、消費サイドで食品の放射性物質を検査する体制の整備を支援しました。

(エ)児童生徒や保護者のより一層の安心を確保するため、学校給食における放射性物質の検査を実施し、結果を公表しました。

イ 稲の作付制限等27年産稲の作付制限区域及び農地保全・

試験栽培区域における稲の試験栽培や、作付再開準備区域における実証栽培等の取組に対して支援を行いました。ウ 放射性物質の吸収抑制対策

放射性物質の農作物への吸収抑制を目的とした資材の施用、品種・品目転換等の取組を支援しました。

エ 農業系副産物循環利用体制の再生・確立放射性物質の影響から、利用可能である

にも関わらず循環利用が寸断されている農業系副産物の循環利用体制の再生・確立を支援しました。

オ 避難区域等の営農再開支援避難区域等において、除染終了後から営

農が再開されるまでの間の農地等の保全管理、鳥獣被害防止緊急対策、放れ畜対策、営農再開に向けた作付実証、避難からすぐに帰還しない農家の農地の管理耕作、収穫後の汚染防止対策、水稲の作付再開及び新たな農業への転換に対して支援しました。

カ 肥料等の規制肥料の検査計画立案、検査法開発に必要

な科学的データを収集するための試験や実態調査を実施しました。

キ 農産物等輸出回復諸外国・地域において日本産食品に対す

る輸入規制が行われていることから、関係省庁と協力し、各種資料・データを提供しつつ輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを継続して実施しました。

ク 農産物等消費拡大推進(ア)福島県産農産物等について、産地と連

携しつつ出荷時期に合わせて戦略的かつ効果的にPRを行うことにより、福島県産農産物等に対する正しい理解を促進し、ブランド力を回復する事業を実施しました。

(イ)被災地及び周辺地域で生産された農林水産物及びそれらを活用した食品の消費の拡大を促すため、生産者や被災地の復興を応援する取組をPRするとともに、被災地産食品の販売促進等、官民の連携による取組を推進しました。

ケ 農地土壌等の放射性物質の分布状況等の推移に関する調査

今後の営農に向けた取組を進めるため、農地土壌等の放射性核種の濃度を測定し、農地土壌の放射性物質濃度の推移を把握しました。

294

平成27年度 食料・農業・農村施策

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コ 放射性物質対策技術の開発東電福島第一原発事故の影響を受けた被

災地での本格的な営農の早期再開のため、除染後農地の省力的維持管理技術や農地への放射性物質の流入防止技術等の開発、放射性セシウムの吸収モデルの構築を推進しました。サ ため池等の放射性物質のモニタリング調査、ため池等の放射性物質対策

ため池等における水質・底質の放射性物質の経年変化等を把握するため、放射性物質のモニタリング調査等を行いました。また、市町村等がため池の放射性物質対策を効果的・効率的に実施できるよう技術的助言等を行いました。シ 東電福島第一原発事故で被害を受けた農林漁業者への賠償等

東電福島第一原発事故により農林漁業者等が受けた被害については、東京電力株式会社から適切かつ速やかな賠償が行われるよう、引き続き、関係省庁、関係県や団体、東京電力株式会社等との連絡を密にし、必要な情報提供や働きかけを実施しました。ス 食品と放射能に関するリスクコミュニケーション

食品中の放射性物質に関する消費者の理解を深めるため、関係府省、各地方公共団体及び消費者団体等と連携した意見交換会等のリスクコミュニケーションの取組を促進しました。セ 福島再生加速化交付金

福島の復興を加速化するため、以下の取組を行いました。

(ア)農山村地域復興基盤総合整備事業農地・農業用施設の整備や農業水利施

設の保全管理、ため池の放射性物質対策等を支援しました。

(イ)農山漁村活性化プロジェクト支援(福島復興対策)事業

生産施設、地域間交流拠点施設等の整備を支援しました。

(ウ)農業基盤整備促進事業地域の実情に応じ、農地の畦

けい畔はん

除去による区画拡大や暗

あん渠きょ

排水整備等の簡易な基盤整備を支援しました。

(エ)被災地域農業復興総合支援事業被災市町村が農業用施設・機械を整備

し、被災農業者に貸与等することにより、被災農業者の農業経営の再開を支援しました。

(オ)農林水産関係試験研究機関緊急整備事業

基幹産業たる農林水産業を復興するための農林水産研究施設等整備を支援しました。

(カ)木質バイオマス施設等緊急整備事業木質バイオマスや小水力等再生可能エ

ネルギー供給施設、木造公共建築物等の整備を支援しました。

Ⅵ 団体の再編整備等に関する施策

ア 農業協同組合系統組織農業協同組合の在り方については、地域

の農業協同組合が、それぞれの地域の特性を活かして創意工夫しながら、自由な経済活動を行い、農業所得の向上に全力投球し、農業協同組合連合会及び農業協同組合中央会については、地域の農業協同組合を適切にサポートする観点から見直しを行うため、第189回国会で「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。イ 農業委員会系統組織

農業者、特に担い手からみて、地域における農地等の利用の最適化(担い手への農地利用の集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規参入の促進)が進むよう農業委員会制度の見直しを行うため、第189回国会で農業委員会等に関する法律の一部改正を含む「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。

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第2部

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ウ 農業共済団体収入保険制度導入の検討と併せて農業災

害補償制度の在り方を検討する中で、農業共済団体の在り方についても検討を行いました。エ 土地改良区

土地改良区の組織運営基盤の強化を図るため、広域的な合併支援等を行いました。

Ⅶ 食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

1 幅広い関係者の参画と関係府省の連携による施策の推進食料自給率の向上に向けた取組を始め、政府

一体となって実効性のある施策を推進しました。

2 施策の進捗管理と評価(1)施策の進捗管理

施策の着実な推進を図るため、その実施に当たっては、手順、時期、手法及び目的を明らかにするとともに、随時、対象者の対応状況を把握することにより、進捗管理を行いました。

(2)政策評価の適切な活用政策評価については、「食料・農業・農

村基本計画」(27年3月策定)等を踏まえた目標の設定を行い、設定した目標の達成度に関して実績の測定を行いました。また、政策評価第三者委員会を公開し、議事録等をホームページに掲載するなど情報の公開を進めました。

3 財政措置の効率的かつ重点的な運用厳しい財政事情の下で予算を最大限有効に活

用する観点から、既存の予算を見直した上で「農林水産業・地域の活力創造プラン」に基づき、必要な農業・農村政策を着実に実行するための予算に重点化を行い、財政措置を効率的に運用しました。

4 国民視点や地域の実態に即した施策の決定

(1)国民の声の把握ア 透明性を高める観点から、国民のニーズ

に即した情報公開、情報の受発信を推進しました。

イ 幅広い国民の参画を得て施策を推進するため、国民との意見交換等を実施しました。ウ 本省の意図・考え方等を地方機関に的確

に浸透させるとともに、地方機関が把握している現場の状況を適時に本省に吸い上げ施策立案等に反映させるため、本省における会議のほかテレビ会議システムを活用して、地方農政局長等会議を開催しました。

(2)科学的・客観的な分析ア 施策の科学的・客観的な分析

施策の立案から決定に至るまでの検討過程において、できる限り客観的なデータに基づいた計量経済分析等の科学的な手法を幅広く導入したり、国民に分かりやすい指標を開発したりするなど、施策を科学的・客観的に分析し、その必要性や有効性を明らかにしました。

イ 政策展開を支える統計調査の実施と利用の推進

農政の推進に不可欠な情報インフラを整備し、的確に統計データを提供しました。

(ア)農家等の経営状況や作物の生産に関する実態を的確に把握するため、農業経営統計調査、作況調査等を実施しました。

(イ)面積調査の基礎となる農地ごとの区画情報の衛星画像を活用した電子化を推進し、これに地番情報、耕作者情報、農地利用状況等の情報を付加することにより、精度の維持向上を図るとともに各種農林水産統計調査を効率的に実施しました。

(ウ)6次産業化に向けた取組状況を的確に把握するため、26年度に引き続き、農業経営体等を対象とした調査を実施しました。また、農観連携や医福食農連携等の新たな6次産業化の取組について、その市場規模の推計や取組実態を把握する

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平成27年度 食料・農業・農村施策

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ための試行調査を実施しました。(エ)市場化テスト(包括的民間委託)を導

入した統計調査を引き続き実施しました。(オ)「2015年農林業センサス」において、

農林業経営体調査の取りまとめ及び農山村地域調査の本調査(実査)・取りまとめを行い、その概要について公表しました。

(カ)外食における食べ残しの発生状況等を的確に把握するため、食品ロス統計調査を実施しました。

5 効果的かつ効率的な施策の推進体制(1)施策の具体的内容等が生産現場等に速や

かに浸透するよう、関係者に対する周知・徹底、人材の育成や組織づくりを促進しました。

(2)農林水産統計調査の実施に必要な高い専門性を身に付けた専門調査員の導入による職員調査の外部化を実施し、質の高い信頼性のある統計データの提供体制を確保しました。

(3)農林水産分野の情報化と電子行政の実現ア ICTを活用した日本の農業・周辺産業

の高度化・知識産業化と国際展開に向けた取組を推進しました。イ 国民の利便性・サービスの向上等を図る

ため、国民に広く利用されているオンライン手続の改善の取組及び政府情報システム改革ロードマップ等の着実な実施による業務・システムの改革等を推進しました。

Ⅷ 災害対策

27年度は、台風第11号、台風第15号、関東・東北豪雨(台風第18号等による大雨)等により、農作物、農林水産関係施設等に大きな被害が発生しました。

1 災害復旧事業の早期実施農地・農業用施設、林地荒廃、治山施設、林

道施設、漁港等の被害に対して、災害復旧事業

等により早期復旧を図りました。

2 激甚災害指定特に被害が大きかった以下の災害等について

は、激甚災害に指定し、災害復旧事業費に対する地方公共団体等の負担の軽減を図りました。

(1)「平成27年6月2日から7月26日までの間の豪雨及び暴風雨による災害(台風第9号、第11号、第12号)」

(2)「平成27年8月24日から8月26日までの間の暴風雨による三重県多

た気き

郡ぐん

大おお

台だい

町ちょう

及び北きた

牟む

婁ろ

郡ぐん

紀き

北ほく

町ちょう

の区域に係る災害(台風第15号)」

(3)「平成27年9月7日から9月11日までの間の暴風雨及び豪雨による災害(台風第18号)」

3 被災農林漁業者等の資金需要への対応被災農林漁業者等に対する資金の円滑な融通

及び既貸付金の償還猶予等が図られるよう、関係機関に対して依頼通知を発出しました。

また、台風第9号、第11号、第18号等により被災した農業者等が借り入れる災害関連資金について、貸付当初5年間の金利負担を軽減し、実質無利子化する措置を講じました。

4 共済金の迅速かつ確実な支払災害発生時における遺漏なき被害申告、迅速

かつ適切な損害評価の実施及び共済金の早期支払体制の確立等が図られるよう、農業共済団体を指導しました。

5 その他の施策地方農政局等を通じ、台風等の暴風雨、高

温、大雪等による農畜産物等被害に対する農業者等への適切な技術指導が行われるよう通知を発出しました。

また、台風第18号により収穫後に保管していた米が被害にあった農家に対し、特例として、翌年の営農再開に向けた準備等に要する経費について助成を行うとともに、民間保険等への加入などを周知しました。

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第2部

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平成28年度食料・農業・農村施策

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第190回国会(常会)提出

平成28年度食料・農業・農村施策

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目 次

平成28年度 食料・農業・農村施策

概説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1 施策の重点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 財政措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 税制上の措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 金融措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 政策評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

Ⅰ 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた取組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 主要品目ごとの生産努力目標の実現に向けた施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Ⅱ 食料の安定供給の確保に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

1 国際的な動向等に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 幅広い関係者による食育の推進と国産農産物の消費拡大、

「和食」の保護・継承 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 生産・加工・流通過程を通じた新たな価値の創出による需要の開拓 ・・・・・・・・・・・・・・・・・84 グローバルマーケットの戦略的な開拓 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105 様々なリスクに対応した総合的な食料安全保障の確立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136 国際交渉への戦略的な対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

Ⅲ 農業の持続的な発展に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

1 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・152 女性農業者が能力を最大限発揮できる環境の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163 農地中間管理機構のフル稼働による担い手への農地集積・集約化と

農地の確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174 担い手に対する経営所得安定対策の推進、収入保険制度等の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・175 構造改革の加速化や国土強靱化に資する農業生産基盤整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・186 需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の改革 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 コスト削減や高付加価値化を実現する生産・流通現場の技術革新等 ・・・・・・・・・・・・・・208 気候変動への対応等の環境政策の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

iii

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Ⅳ 農村の振興に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

1 多面的機能支払制度の着実な推進、地域コミュニティ機能の発揮等による 地域資源の維持・継承等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

2 多様な地域資源の積極的活用による雇用と所得の創出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・303 多様な分野との連携による都市農村交流や農村への移住・定住等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

Ⅴ 東日本大震災からの復旧・復興に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

Ⅵ 団体の再編整備等に関する施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

Ⅶ �食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために�必要な事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

1 幅広い関係者の参画と関係府省の連携による施策の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・362 施策の進捗管理と評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・363 財政措置の効率的かつ重点的な運用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・364 国民視点や地域の実態に即した施策の決定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・365 効果的かつ効率的な施策の推進体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36

「平成28年度食料・農業・農村施策」の年次は、法律名や予算の引用が必要となることから、和暦を用いています。なお「平成」は省略しています(ただし法律番号を除く)。

iv

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概説

1 施策の重点食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた

施策、食料の安定供給の確保に関する施策、農業の持続的な発展に関する施策、農村の振興に関する施策及び食料・農業・農村に横断的に関係する施策等を総合的かつ計画的に展開します。また、東日本大震災及び東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)事故からの復旧・復興に関係省庁と連携しながら全力で取り組みます。

2 財政措置(1)28年度農林水産関係予算額は、2兆3,091

億円を計上しています。本予算は、「農林水産業・地域の活力創造プラン」(26年6月改訂)に基づき、農林水産業の成長産業化を促進し、美しく伝統ある農山漁村を継承していくための施策を措置しています。具体的には、①水田フル活用の推進と経営所得安定対策、②強い農林水産業のための基盤づくり、③担い手への農地集積・集約化等による構造改革の推進、④畜産・酪農の競争力の強化、⑤農林水産物・食品の高付加価値化等の推進、⑥輸出の促進と日本食・食文化の魅力発信、⑦品目別生産振興対策、⑧食の安全・消費者の信頼確保、⑨人口減少社会における農山漁村の活性化、⑩林業の成長産業化・森林吸収源対策の推進、⑪水産日本の復活を推進します。

(2)28年度の農林水産関連の財政投融資計画額は、2,629億円を計上しています。このうち主要なものは、株式会社日本政策金融公庫への2,490億円となっています。

3 税制上の措置施策の総合的な推進を図るため、以下を始め

とする税制措置を講じます。(1)農業構造改革の推進ア 農地中間管理機構への貸付けなど農地の

利用の効率化及び高度化を図るための農地の保有に係る課税の強化・軽減の措置を創設します(固定資産税・都市計画税)。

イ 農地中間管理機構への貸付けを促進するための農地の贈与税納税猶予制度の納税猶予打切要件を見直します(贈与税、不動産取得税)。

ウ 農地中間管理機構が農用地等を取得した場合の所有権移転登記の税率の軽減措置の適用期限を2年間延長します(登録免許税)。

(2)農山漁村の活性化等ア 農村地域工業等導入促進法(昭和46年

法律第112号)に基づく工業等導入地区内の農地等を工場用地等として譲渡した場合の譲渡所得の特別控除の要件を緩和します(農村地域に係る人口規模要件の緩和)

(所得税)。イ エネルギー環境負荷低減推進設備等を取

得した場合の特別償却又は税額の特別控除(グリーン投資減税)の対象設備に木質バイオマス発電設備等を追加する等の見直しを行った上、適用期限を2年延長します

(所得税・法人税)。ウ 農業協同組合等の合併に係る課税の特例

措置(適格合併の要件緩和)の適用期限を3年延長します。

4 金融措置政策と一体となった長期・低利資金等の融通

による担い手の育成・確保等の観点から、農業経営の特性に応じた資金調達の円滑化を図るための支援措置である農業制度金融の充実を図ります。(1)株式会社日本政策金融公庫ア 認定農業者であって、人・農地プランの

中心経営体として位置付けられた者又は農地中間管理機構から農地を借り受けた者が借り入れる農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)について、貸付当初5年間の金利負担を軽減し、実質無利子化する措置を講じます。

1

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イ 大規模災害等の発生時に民間資金が円滑に供給されるよう危機対応円滑化業務の実施に必要な措置を講じるほか、株式会社日本政策金融公庫の円滑な業務に資するため、貸付けにより生じるコストについて、一般会計から補給金・補助金等を交付します。ウ 意欲のある農業法人の財務基盤の強化や

経営展開を支援するため、「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法」(平成14年法律第52号)に基づき農業法人に対する投資育成事業を行う株式会社又は投資事業有限責任組合の出資原資を株式会社日本政策金融公庫から出資します。

(2)農業近代化資金農林中央金庫の農業近代化資金の融通に

対し、利子補給金を交付します。(3)農業経営改善促進資金(スーパーS資金)

民間金融機関と都道府県農業信用基金協会との協調融資方式により、農業経営改善促進資金(スーパーS資金)を低利で融通できるよう、基金協会が民間金融機関に貸付原資を低利預託するために借り入れた借入金に対し利子補給金を交付します。

(4)農業信用保証保険農業経営の維持・再生に必要な資金の円

滑な供給が図られるよう、独立行政法人農林漁業信用基金に対して、保険引受に必要な財務基盤の強化を図るために必要な交付金を交付します。

(5)被災農業者等支援対策ア 重大な気象災害等により被害を受けた農

業者等に対し、経営の早急な立ち直りに必要な資金が円滑に融通されるよう利子助成金を交付します。イ 重大な気象災害等により被害を受けた農

業者等の農業経営の立ち直りに必要な農業近代化資金の借入れについて、都道府県農業信用基金協会の債務保証に係る保証料を5年間免除するために必要な補助金を交付します。

5 政策評価効果的かつ効率的な行政の推進、行政の説明

責任の徹底を図る観点から、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき、「政策評価基本計画」(27年3月策定)及び毎年度定める「実施計画」により、事前評価(政策を決定する前に行う政策評価)、事後評価(政策を決定した後に行う政策評価)を推進します。

Ⅰ 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた施策

1 食料自給力・食料自給率の維持向上に向けた取組食料自給力・食料自給率の維持向上に向け

て、以下の取組を重点的に推進します。(1)食料消費ア 国内外での国産農産物の需要拡大

地産地消など国産農産物の消費拡大に向けた取組や、国産農産物を求める食品産業事業者と生産現場との連携等を推進するとともに、日本食や日本の食文化に関する情報発信と併せ、農産物・食品の輸出を促進します。

イ 食育の推進ごはんを中心に多様な副食等を組み合わ

せ、栄養バランスに優れた「日本型食生活」の実践を推進するため、自治体、生産者や食品企業等の地域の関係者が一体となって取り組む食育活動や食品産業における情報提供等の取組等を推進し消費拡大の前提となる食や農林水産業への国民の理解を増進します。

ウ 食品に対する消費者の信頼の確保食品の品質管理、消費者対応等の取組に

ついて、食品の生産から加工・流通、消費に至るまでの各段階の関係者が連携し、情報共有を通じた取組の向上と標準化等を図ります。また、加工食品の原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ拡大に

2

平成28年度 食料・農業・農村施策

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向けた検討を進めます。(2)農業生産ア 優良農地の確保と担い手への農地集積・集約化

優良農地を確保するとともに、農業水利施設の適切な保全管理等による農業用水の持続的な活用を推進します。また、農地中間管理機構を軌道に乗せ、地域の話合いにより作成する人・農地プランの活用等を進めることにより担い手への農地集積・集約化と荒廃農地対策を推進します。イ 担い手の育成・確保

農業経営の法人化や経営の多角化・複合化等を推進するとともに、農業の内外からの青年層の新規就農を促進します。ウ 農業の技術革新や食品産業事業者との連携等による生産・供給体制の構築等の実現

生産コストの低減を図るための省力栽培技術・新品種の導入等や、次世代施設園芸拠点の整備等を推進するとともに、食品産業事業者との連携等を通じて、需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の構築等を推進します。

2 主要品目ごとの生産努力目標の実現に向けた施策

(1)米ア 水田活用の直接支払交付金により、飼料

用米等の生産拡大を図り、水田フル活用を推進します。イ 多収品種の導入や団地化、直

ちょく播はん

栽培の推進等による飼料用米、業務用米、加工用米等の低コスト生産の推進、カドミウム低吸収性品種及び植物浄化技術の実証を推進します。ウ 飼料用米等の増産等に対応するため、乾

燥調製施設等の再編整備等を推進します。エ 米穀の需給及び価格の安定を図るため、「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」を策定し公表します。オ 経営所得安定対策を円滑に実施し、米粉

用米、飼料用米等の用途外への流通を防止

することが必要であることから、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号)に基づき、適切な保管及び販売を徹底します。カ 生産者や集荷業者・団体が主体的な経営

判断や販売戦略等に基づき、需要に応じた米生産に取り組めるよう、きめ細かい需給・価格情報、販売進捗・在庫情報等を毎月公表します。

(2)麦ア 経営所得安定対策の中でパン・中華麺用

小麦品種に対する加算措置を設けることにより、需要規模が大きいものの国産シェアが低いパン・中華麺用小麦の作付拡大を推進します。

イ 水田の高度利用(二毛作)に資する作付体系への転換、実需者ニーズに対応した新品種や単収・品質向上技術等の導入の支援により、小麦、大麦・はだか麦の作付拡大を推進します。

ウ 麦の生産拡大に対応するため、乾燥調製施設等の再編整備等を推進します。

(3)大豆ア 経営所得安定対策等により、単収向上や

作柄の安定化に資する耕うん同時畝うね

立て播は

種しゅ

栽培技術等の大豆300A技術や適正な輪作体系の導入等による大豆の作付拡大を推進します。

イ 実需者ニーズに対応した新品種や栽培技術の導入により、実需者の求める大豆の安定生産を支援し、国産大豆の需要拡大を推進します。

ウ 国産大豆の安定取引を図るため、新たな取引制度の円滑な導入に向けた検証を行います。

(4)そばア 需要に応じた生産拡大を図るとともに、

国産そばの需要拡大に向けて、実需者への安定的な供給を図るため、排水対策等の基本技術の徹底、湿害回避技術の普及等を推進します。

イ 高品質なそばの安定供給に向けた生産体

3

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制の強化に必要となる乾燥調製施設の整備等を支援します。ウ 国産そばを取り扱う製粉業者と農業者の

連携を推進します。(5)かんしょ・ばれいしょア かんしょについては、担い手への農地・

作業の集積や受託組織の育成等を推進するとともに、生産コストの低減、品質の向上を図るため共同利用施設整備や機械化一貫体系の確立等への取組を支援します。イ ばれいしょについては、生産コストの低

減、品質の向上、労働力の軽減やジャガイモシストセンチュウの発生・まん延の防止を図るための共同利用施設整備等を推進します。加えて、安定生産に向けた作業の共同化やコントラクター等の育成による作業の外部化、加工食品用途への供給拡大に必要なソイルコンディショニング技術(畦

うねか

ら土ど

塊かい

・礫れき

を取り除くことにより、ばれいしょの高品質化、収量向上及び収穫作業の効率化を可能にする技術)を導入した省力的な機械化栽培体系の確立等への取組を支援します。ウ ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有

する新品種の普及を促進するため、産地や実需者など関係者が一体となった取組を支援します。エ でん粉原料用ばれいしょ及びかんしょに

ついては、加工食品用途等への販路拡大や収益性の向上を図るため、特徴のあるでん粉品質を有する新品種栽培実証試験等を支援します。また、国内産いもでん粉の高品質化製造技術の確立等に対する支援を行います。

(6)なたねア 良質で高単収ななたね品種の作付拡大を

図るとともに、播は

種しゅ

前契約の実施による国産なたねを取り扱う搾油事業者と農業者の連携を推進します。イ なたねの生産拡大に伴い必要となる乾燥

調製施設の整備等の支援を推進します。

(7)野菜ア 野菜の生産・出荷の安定と消費者への野

菜の安定供給を図るため、野菜の価格が著しく低落した場合に生産者補給交付金等を交付する野菜価格安定対策を円滑に実施します。

イ 加工・業務用野菜への転換を推進する産地に対し、加工・業務用野菜の安定生産に必要な作柄安定技術の導入を支援します。あわせて、加工・業務用需要に対応したサプライチェーンの構築に加えて、加工・業務用野菜の生産を加速化するための新技術・機械化の導入等について支援します。

ウ 青果物流通の合理化・効率化を推進するため、物流業界との連携による新たな輸送システムの構築に向けた取組を支援します。

エ 木質バイオマス等の地域エネルギーと先端技術を活用する次世代施設園芸を各地域へ展開するため、次世代施設園芸拠点の成果を活用した情報発信、人材育成の取組を支援するとともに、次世代型大規模園芸施設の整備を支援します。

(8)果樹ア 農地中間管理機構の活用等による優良品

目・品種への転換の加速化や小規模園地整備など産地の構造改革を進めるほか、産地ぐるみで改植を実施した際の未収益期間に対する支援を引き続き行います。

イ 計画生産・出荷の推進や需給安定対策、契約取引の強化や加工原料供給の安定化を図るための加工流通対策を総合的に行います。

(9)甘味資源作物ア てんさいについては、労働力不足に対応

するため、省力化や作業の共同化、労働力の外部化や直

ちょく播はん

栽培体系の確立・普及等を推進します。

イ さとうきびについては、自然災害からの回復に向けた取組を支援するとともに、地域ごとの「さとうきび増産計画」に定めた、地力の増進など特に重要な取組や機械

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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化一貫体系の確立を推進します。(10)茶

産地の生産性向上と収益力の強化を図るため、改植等による優良品種等への転換や茶園の若返り、玉露やてん茶(抹茶の原料)栽培に適した棚施設を利用した栽培法への転換、担い手への集積等に伴う茶園整理(茶樹の抜根)、荒茶加工施設の整備を推進するほか、海外ニーズに応じた茶の生産・加工技術や低コスト生産・加工技術の導入、新たな抹茶加工技術の実証や緑茶生産において使用される主要な農薬について、輸出相手国に対し日本と同等の基準を新たに設定申請する取組に対して支援します。

(11)畜産物需要に即した畜産物の生産推進のため、

多様な経営の育成・確保、生乳需給の安定や多様な和牛肉生産への転換及び家畜改良の推進、生産性の向上の取組等を推進します。また、我が国畜産の競争力強化のため、生産性向上、畜産環境問題への対策等を進めることにより、地域ぐるみで収益性向上を図る取組に対して支援します。

(12)飼料作物等輸入飼料に依存した畜産から国産飼料生

産基盤に立脚した畜産に転換するため、生産性の高い草地への改良、濃厚飼料原料

(イアコーン等)の増産、飼料生産組織の育成、レンタカウを活用した肉用繁殖牛等の放牧、飼料用米等の利活用の取組等を推進します。

(13)その他地域特産物等ア こんにゃくいも等の特産農産物について

は、付加価値の創出、新規用途開拓、機械化・省力作業体系の導入等を推進します。イ 繭・生糸については、蚕糸業の再生と持

続的発展を図るため、養蚕・製糸業と絹織物業者等が提携し、輸入品と差別化された高品質な純国産絹製品づくり・ブランド化を推進します。ウ 葉たばこについては、葉たばこ審議会の

意見を尊重した種類別・品種別価格により、日本たばこ産業株式会社が買い入れます。

エ いぐさについては、輸入品との差別化・ブランド化に取り組むいぐさ生産者の経営安定を図るため、国産畳表の価格下落影響緩和対策の実施、実需者や消費者のニーズを踏まえた、産地の課題を解決するための技術実証等の取組を支援します。

Ⅱ 食料の安定供給の確保に関する施策

1 国際的な動向等に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保リスクアナリシスに基づいた食の安全確保と

しては、科学的知見に基づき、客観的かつ中立公正に食品健康影響評価(リスク評価)を実施します。

また、リスクコミュニケーションの推進としては、食品の安全に関するリスク評価や施策等について、国民の意見を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保するとともに、消費者、事業者、生産者等の関係者による情報や意見の交換の促進を図るため、関係府省や地方公共団体及び消費者団体等と連携した意見交換会、施策の実施状況の公表、ホームページ等を通じた分かりやすく効果的な情報発信、意見・情報の募集等を実施します。(1)科学の進展等を踏まえた食品の安全確保の取組の強化a 食品安全に関するリスク管理を一貫し

た考え方で行うための標準手順書に基づき、有害化学物質・有害微生物の調査や生産資材(肥料、飼料・飼料添加物、農薬、動物用医薬品)の試験等を実施します。

b 試験研究や調査結果の科学的解析に基づき、施策・措置に関する企画や立案を行います。

c 食品中に残留する農薬等に関するポジティブリスト制度の周知に努めるととも

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に、制度導入時に残留基準を設定した農薬等についての食品健康影響評価結果を踏まえた残留基準の見直し、新たに登録等の申請があった農薬等についての残留基準の設定を推進します。

d 食品の安全性等に関する国際基準の策定作業への積極的な参画や、国内における情報提供や意見交換を実施します。

ア 生産段階における取組(ア)生産資材の適正な使用

生産資材(肥料、飼料・飼料添加物、農薬、動物用医薬品)の適正使用を推進するとともに、科学的データに基づく生産資材の使用基準、有害物質等の残留基準値の設定・見直し等を行い、安全な農畜水産物の安定供給を確保します。また、農薬による蜜蜂の被害事例に関する調査の結果等を踏まえ、必要に応じて被害を軽減するための対策を見直します。

(イ)農業生産工程管理(GAP)の導入・推進「GAPの共通基盤に関するガイドライ

ン」(22年4月策定)に則した一定水準以上のGAPの導入を推進します。

イ 製造段階における取組(ア)食品製造事業者の中小規模層における

HACCP(危害要因分析・重要管理点)の導入を推進するため、HACCPに係る体制・施設の整備の支援、HACCP導入の前段階の衛生・品質水準の確保や消費者の信頼確保のための体制・施設の整備

(高度化基盤整備)の支援、HACCP導入を担う人材の養成研修等の取組の支援を実施します。

(イ)食品等事業者に対する監視指導や事業者による自主的な衛生管理を推進します。

(ウ)食品衛生監視員の資質向上や検査施設の充実等を推進します。

(エ)長い食経験を考慮し使用が認められている既存添加物については、毒性試験等を実施し、安全性の検討を推進します。

(オ)国際的に安全性が確認され、かつ、汎

用されている食品添加物については、国が主体的に指定に向けて検討します。

(カ)保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)を始めとした健康食品について、事業者の安全性の確保の取組を推進するとともに、保健機能食品制度の普及・啓発に取り組みます。

(キ)特定危険部位(SRM)の除去・焼却、BSE検査の実施等により、食肉の安全を確保します。

ウ 危機管理等に関する取組(ア)食品関係事業者のコンプライアンス確

立のための取組食品関係事業者の自主的な企業行動規

範等の策定を促すなど食品関係事業者のコンプライアンス(法令の遵守及び倫理の保持等)確立のための各種取組を促進します。

(イ)危機管理体制の整備a 食品の摂取による人の健康への重大な

被害が拡大することを防止するため、関係府省庁の消費者安全情報総括官等による情報の集約及び共有を図ります。

b 食品安全に関する緊急事態等における対応体制を点検・強化します。

c 伊勢志摩サミット会場及び関係閣僚会合会場における食品テロを防止するため、事業者に対し指導及び助言を行います。

エ 輸入に関する取組輸出国政府との二国間協議や在外公館を

通じた現地調査等の実施、情報等を入手するための関係府省との連携の推進、監視体制の強化等により、輸入食品の安全性の確保を図ります。

(2)食品表示情報の充実や適切な表示等を通じた食品に対する消費者の信頼の確保

ア 食品表示の適正化の推進(ア)食品表示に関する規定を一元化した

「食品表示法」(平成25年法律第70号)の下、関係府省の連携を強化して立入検

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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査等の監視業務を実施するとともに、科学的な分析手法を活用することにより、業務の効率化を図ります。さらに、26年6月に改正された「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号)に基づき、関係府省が連携した監視体制の下、外食メニュー等の適切な表示を推進します。

(イ)加工食品の原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ拡大に向けた検討を進めます。また、その他の個別課題について順次実態を踏まえた検討を行います。

(ウ)米穀等については、「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」(平成21年法律第26号、以下「米トレーサビリティ法」という。)により産地情報伝達を徹底します。

イ 流通段階における取組(ア)食品事故発生時の回収や原因究明等の

迅速化に資するため、食品の移動の追跡・遡及の備えとするトレーサビリティに関し、米穀等については、米トレーサビリティ法に基づき、制度の適正な運用に努めます。他の飲食料品については、実践的なマニュアルを用いる等して、トレーサビリティの取組の拡大を図るよう、その普及・啓発に取り組みます。

(イ)国産牛肉については、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(平成15年法律第72号)による制度の適正な実施が確保されるようDNA分析技術を活用した監視等を実施します。

ウ フード・コミュニケーション・プロジェクトの推進

消費者の「食」に対する信頼向上に向けた食品関連事業者の主体的な活動を促すため、フードチェーンの各段階で事業者間のコミュニケーションを円滑に行い、食品事業者の取組を消費者まで伝えていくためのツールの開発・普及を進めます。

エ 消費者への情報提供(ア)食品安全等について、消費者に分かり

やすいホームページによる情報提供を行います。

(イ)「消費者の部屋」等において、消費者からの相談を受け付けるとともに、特別展示等を開催し、農林水産行政や食生活に関する情報を幅広く提供します。

2 幅広い関係者による食育の推進と国産農産物の消費拡大、「和食」の保護・継承

(1)食育の推進と国産農産物の消費拡大ア 国民運動としての食育の推進(ア)「第3次食育推進基本計画」(28年3月

作成)等に基づき、関係府省が連携しつつ、様々な分野において国民運動として食育を推進します。

(イ)朝ごはんを食べることなど、子供の基本的な生活習慣を育成するための「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進します。

(ウ)国民運動として食育を推進するため、食育推進全国大会や食育優良活動表彰を実施するとともに、「第3次食育推進基本計画」の主要課題の解決に向けた実態調査や事例調査等を実施します。

イ 生産から消費までの段階を通じた食育の推進

(ア)日本型食生活を推進する取組の食育活動を、消費者の多様なライフスタイルの特性やニーズに対応して一体的に行うモデル的な取組を支援します。

(イ)郷土料理など地域の食の魅力再発見や地域における日本型食生活の普及活動を促すため、自治体、生産者や食品企業等の地域の関係者が一体となって取り組む地域における食育活動を支援します。

ウ 学校における食育の推進(ア)学校における食育を推進するため、各

種外部機関と連携し、食育プログラムを開発するスーパー食育スクールを指定し、栄養教諭を中心に外部の専門家等を

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活用しながら食育の推進を図ります。(イ)学校給食を取り巻く様々な行政上の課

題に関する調査研究を行います。エ 国産農産物の消費拡大の促進(ア)食品関連事業者と生産者団体、国が一

体となって、食品関連事業者等における国産農産物の利用促進の取組等を後押しするとともに、消費者に日本の食を伝える取組を実施します。

(イ)学校給食等における米の利用の促進、朝食欠食の改善等による米消費拡大を図るため、地域における商品開発、販路開拓、全国段階における商談会、消費拡大フェア等を支援します。また、消費者ニーズに対応した新たな米の需要創出に向けた取組を支援します。

(ウ)「米粉倶楽部」の取組を通じ、官民一体による米粉の消費拡大の活動を展開していくほか、米粉の用途別基準づくり、新商品の開発・普及、消費者等へのアピール等の民間の米粉消費拡大に向けた取組を支援します。

(エ)「米穀の新用途への利用の促進に関する法律」(平成21年法律第25号)に基づき、米粉用米、飼料用米の利用促進を図るため、米粉用米、飼料用米の生産・利用拡大や必要な機械・施設の整備等を総合的に支援します。

(オ)麦や大豆等の生産拡大を図るため、需要に応じた品種の作付けや、実需者等と産地が連携した特色のある製品づくりを推進し、需要の拡大を図ります。

(カ)飼料用米を活用した豚肉、鶏卵等のブランド化を推進するための付加価値の向上等に向けた新たな取組を支援します。

オ 地産地消の推進地産地消の中核的施設である農産物直売

所の運営体制強化のための検討会の開催及び観光需要向けの商品開発や農林水産物の加工・販売のための機械・施設等の整備を支援するとともに、学校給食等の食材として地場産農林水産物を安定的に生産・供給

するためのメニュー開発等の取組を支援します。

カ 「食と農林漁業の祭典」の開催生産者と消費者、日本と世界のきずなを

深め、我が国の「食」と「農林漁業」についてのすばらしい価値を国内外にアピールするため、「食と農林漁業の祭典」を開催します。

(2)「和食」の保護と次世代への継承ユネスコ無形文化遺産に登録された「和

食」を国民全体で保護・継承するため、「和食」をテーマに次世代継承型の食育活動として、食習慣を変えることに抵抗感の少ないと考えられるライフステージ(幼少期、育児世代等)にある者に対し、「和食」に慣れ親しみ、食生活の和食化を促す集中的な「和食」の普及活動に取り組みます。また、メディア等と連携して「和食」の魅力等を効果的に発信することで、国民に食生活の見直し等を促し、「和食」の次世代への継承を図ります。

3 生産・加工・流通過程を通じた新たな価値の創出による需要の開拓

(1)6次産業化等の取組の質の向上と拡大に向けた戦略的推進

ア 6次産業化等の推進都道府県及び市町村段階に、行政、農林

漁業、商工、金融機関等の関係機関で構成される6次産業化・地産地消協議会を設置し、6次産業化戦略を策定する取組を支援します。

6次産業化等に取り組む農林漁業者に対するサポート体制を整備するとともに、農林漁業者等が多様な事業者とネットワークを構築して行う新商品開発・販路開拓の取組、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年法律第67号)等に基づき認定された農林漁業者等が農林水産物を加工・販売するための機械・施設の整備等を支援します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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また、市町村の6次産業化等に関する戦略に沿って、市町村が地域ぐるみで行う6次産業化の取組を支援します。イ 農林漁業成長産業化ファンドの積極的活用

農林漁業成長産業化ファンドを通じて、農林漁業者が主体となって流通・加工業者等と連携して取り組む6次産業化の事業活動に対し、資本の提供と経営支援を一体的に実施します。

(2)食品産業の競争力の強化ア 新たな市場を創出するための環境づくり(ア)介護食品に関する検討

新しい介護食品(スマイルケア食)について、課題の検討及び認知度向上に向けた取組、市町村や地域の食品事業者や大学・介護施設等が参加し、地域の創意工夫を活かすような地場産のスマイルケア食の商品開発・普及の取組を支援します。

(イ)食品における規格等の検討食品に対する消費者の信頼の確保を図

りつつ、市場の拡大に資する観点から、新たな消費者ニーズを踏まえたJAS規格等について、調査会等における意見等を踏まえ、検討を進めます。

イ 食品流通の効率化や高度化等(ア)食品流通の効率化

食品流通の効率化を図るため、食品流通構造改善促進法(平成3年法律第59号)に基づく事業計画の認定等により、共同配送等の物流の効率化や電子商取引による情報ネットワーク化等を進め、フードチェーンの各段階において、関係者が連携して行う取組を支援します。

(イ)卸売市場の機能強化・活性化等卸売市場については、第10次卸売市

場整備基本方針(28年1月策定)に基づき、生鮮食料品等の基幹的な流通インフラとして、その機能や役割の強化・高度化を図るため、各卸売市場の経営戦略の策定及びその着実な遂行を促進すると

ともに、卸売市場を活用した国産農林水産物の輸出促進や、農林漁業者が6次産業化に取り組む際のパートナーとしての機能発揮など新たな需要開拓の取組等を推進します。

(ウ)商品先物市場の活性化a 商品先物市場の健全な運営を確保する

ため、商品先物市場の監視を行うとともに、外国規制当局と協力しつつ適切な市場管理を行います。

b 顧客の保護及び取引の適正化を図るため、商品先物取引法(昭和25年法律第239号)の迅速かつ適正な執行を行います。

ウ 生産性向上等の取組家族経営等、中小規模の事業者が多い食

品産業の生産性向上等に向けて、優良事例の収集、共有化等を図る表彰事業等を通じて、生産性向上に向けた課題解決を図る取組を支援します。また、外食・中食産業の生産性向上を図るため、生産性向上の推進を啓発・普及する研修会や異業種交流会等を実施するとともに、ICT・ロボット技術の導入、業務の共同化、サービス工学の知見を活用した業務の最適化等のモデル的な取組を支援します。

エ 環境問題等の社会的な課題への対応(ア)食品ロスの削減に向けた取組

食品関連事業者による商慣習の見直し等の食品ロス削減に向けた取組について、その効果や実施に当たってのポイント等を分析・整理し、他の事業者による食品ロス削減の実践を促す取組やフードバンク活動を支援します。また、食品ロスの削減による環境負荷の低減効果の

「見える化」や「環境にやさしい買物キャンペーン」等により、都道府県・市町村、食品関連事業者等の協力を得て食品ロス削減を含めた3R行動の実施を消費者に呼びかけます。

(イ)食品産業における環境負荷の低減及び資源の有効利用

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a 食品循環資源有効利用促進対策食品流通の川下における食品循環資源

の再生利用等を促進するため、外食産業における収集運搬の効率化や新たな技術の導入等による再生利用、減量の効果等を分析・整理し、普及する取組を支援するとともに、食品関連事業者、再生利用事業者、農業者等の関係者間のマッチングの強化等や、地域における多様な食品リサイクルループの形成を促進します。また、食品廃棄物のバイオガス化により再生可能エネルギー創出と農業生産の高度化に寄与する食品リサイクルループの推進等の活動の支援を行い食品廃棄物の有効利用のための取組を促進します。

b 容器包装リサイクル促進対策「容器包装に係る分別収集及び再商品

化の促進等に関する法律」(平成7年法律第112号)に基づく、義務履行の促進、容器包装廃棄物の排出抑制のための取組として、食品関連事業者への点検指導、食品小売事業者からの定期報告の提出の促進等を実施します。

c CO2排出削減対策食品産業におけるCO2排出削減に向

けた多様な取組事例の調査・検討・分析を実施し、研修会及び優良事例の表彰を開催するとともに、自主行動計画の進捗状況の点検等を実施します。

(ウ)高齢化の進展等に対応した食料提供等民間事業者等が、食料品の購入や飲食

に不便や苦労を感じる「食料品アクセス問題」を抱える市町村等と連携して行う地域の実態を踏まえた取組の企画を支援します。

4 グローバルマーケットの戦略的な開拓(1)官民一体となった農林水産物・食品の輸出促進ア オールジャパンでの輸出促進体制の整備

2020年に1兆円とする目標の達成に向けて官民一体となって「農林水産物・食品

の国別・品目別輸出戦略」(25年8月策定、以下「国別・品目別輸出戦略」という。)の着実な実行に努め、以下の取組を行います。

(ア)輸出戦略実行委員会において、品目別の輸出拡大方針の実行状況を踏まえ、品目別部会の活動の点検・分析を行うとともに、輸出環境課題等について議論し、優先的に取り組むべき課題の整理等を行います。

(イ)水産物、コメ・コメ加工品、林産物(木材)、花き、青果物、畜産物及び茶の品目別輸出団体が、ジャパンブランドの確立を目的として、国内検討会の開催や海外マーケットの調査、輸出環境課題の解決等を実施する取組を支援します。

( ウ ) 独 立 行 政 法 人 日 本 貿 易 振 興 機 構(JETRO)等への補助を通じて、事業者発掘から商談支援に至る総合的なビジネスサポート体制を強化します。具体的には、JETRO等における情報収集・発信機能、相談窓口機能の強化、海外見本市への出展や国内外での商談会の開催、専門家の設置、新たな海外市場で試験販売等を行うためのマーケティング拠点の設置などを実施します。

イ 輸出阻害要因の解消等による輸出環境の整備

輸出先国の規制等、輸出促進の阻害要因となっている課題を洗い出し、改善に向けた対応状況を明らかにした輸出環境課題レポートを作成、公表し、輸出環境課題の解決に向けた取組を、優先順位を付けながら計画的に推進します。

(ア)農産物等輸出促進a 23年3月の東電福島第一原発事故を受

けて、諸外国・地域において日本産食品に対する輸入規制が行われていることから、関係省庁と協力し、各種資料・データを提供しつつ輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを引き続き実施します。

b 日本産食品等の安全性や魅力に関する

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情報を諸外国・地域に発信するほか、海外におけるプロモーション活動の実施により、日本産食品等の輸出回復に取り組みます。

c 輸出先となる事業者等から求められるHACCP、GLOBALG.A.P.等の認証取得を促進します。また、国際的な取引にも通用する、HACCPをベースとした食品安全管理に関する規格・認証の仕組みやGAPに関する認証の仕組みの構築を推進し、運用を支援します。

d 輸出先国で登録されていない農薬等の国内での使用を低減する新たな防除体系やIPMを活用した防除技術の確立及び産地への導入の取組を支援します。

(イ)輸出検疫a 輸出解禁協議等において必要となる国

内病害虫情報の収集等の取組を支援します。また、畜産物の輸出先国が求める家畜衛生上の要件に対応するため、牛白血病等の家畜の伝染性疾病対策を支援するとともに、野生動物を対象とした伝染性疾病の監視を行います。

b 植物の輸出に必要な検査手続や輸出先国の検疫条件を産地等へ情報提供するとともに、卸売市場や集荷地等での輸出検疫を行うことにより、産地等の輸出への取組を支援します。

c 輸出解禁協議については、輸出戦略実行委員会で優先的に取り組むべき輸出環境課題として整理された国・品目を中心に協議を行うことにより戦略的に推進します。

d これらのほか、輸出検疫の円滑化や輸出可能品目についての訪日旅行者に対する情報提供や、訪日外国人が、直売所などで購入した農畜産物を動植物検疫を経て空港やクルーズ船の寄港地で受け取ることができる体制の整備により、お土産としての農畜産物の持ち帰りを推進します。

(ウ)フードバリューチェーンの構築

開発途上国等において、官民連携によるフードバリューチェーンの構築を図るため、「グローバル・フードバリュ-チェーン戦略」(26年6月策定)に基づき、官民協議会や二国間政策対話等を活用して、我が国食産業の海外展開等によるコールドチェーン(低温流通体系)、流通販売網等の輸出環境の整備を推進します。

ウ 輸出促進等に向けた日本食や日本の食文化の海外展開

(ア)海外の市場拡大を目指して日本食・食文化の魅力を適切かつ効果的に発信する取組を推進します。

a 日本食・食文化の魅力発信による農産物等の輸出促進を加速化するため、トップセールスの実施、海外主要都市での日本食文化週間の開催、料理学校や海外給食事業者等と連携した日本産食材の活用促進、海外メディア等を活用した取組を実施します。

b 日本食・食文化の普及を担う海外人材の育成、日本食レストランの海外出店をサポートするための取組等を支援します。

c 増大するインバウンドを国産農林水産物・食品の需要拡大や農山漁村の活性化につなげていくため、「食と農の景勝地」として、地域の食や農林水産業、景観等の観光資源を活用して訪日外国人をもてなす取組を認定し、一体的に海外に発信します。

(イ)北海道産農水産物・加工食品の輸出拡大や物流活性化を図るため、海外向け冷凍・冷蔵貨物の宅配小口輸送サービスの利用拡大の取組を進めます。

(2)食品産業のグローバル展開ア 海外展開による事業基盤の強化(ア)日本の「食文化・食産業」の海外展開

(Made BY Japan)を促進するため、海外展開における阻害要因の解決を図るとともに、グローバル人材の確保に向

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け、食関連企業及びアセアン各国の大学と連携し、食品加工・流通等に関する教育を行う取組等を推進します。

(イ)国別・品目別輸出戦略に沿った取組を円滑に進めるために、JETROにおいて、商品トレンドや消費者動向など現場目線のマーケティング情報やその活用ノウハウの提供を行うとともに、輸出先国バイヤーの発掘・関心喚起等輸出環境整備に引き続き取り組みます。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構では、食品に対する国内展示会への出展支援や実現可能性調査支援等を通じ中小企業の海外展開を支援します。

イ ビジネス投資環境の整備「グローバル・フードバリューチェーン

戦略」に基づき、我が国食産業の海外展開を図るため、二国間政策対話や経済連携等を活用し、ビジネス投資環境の整備を推進します。ウ 食料産業における国際標準への戦略的対応

我が国の食品産業事業者の国際的な取引における競争力を確保し、消費者に対してより安全な食品を供給するため、日本発の国際的に通用するHACCPをベースとした食品安全管理に関する規格や認証の仕組みの構築とその国際規格化に向けた取組を官民が連携して推進します。あわせて、事業者におけるHACCP等食品安全に関する知識を有する人材や国際的な基準の策定等の過程に参画できる人材の育成と、我が国におけるこうした取組の海外への積極的な発信等を推進します。

(3)知的財産の戦略的な創造・活用・保護ア 品質等の特性が産地と結び付いている我

が国の伝統的な農林水産物・食品を登録・保護する地理的表示(GI)保護制度の円滑な運用を図るとともに、引き続き、登録申請に係る支援や制度の周知と理解の促進に取り組みます。また、GIを活用してブランド化に取り組む産地関係者のネット

ワークを構築するため、全国の産地関係者が一堂に会するGIサミットを開催するほか、GI登録産品を中心とした展示・商談会を開催するなどによりGIやGIを活用した地域ブランド産品の知名度向上等を通じたビジネス化の支援を行います。さらに、知的財産マネジメントを理解し実践できる人材の育成等を行います。

イ 我が国の農業や食品産業の分野において知的財産の利活用が進んでいないことから、戦略的知的財産活用マニュアルの普及・啓発を推進するとともに、GI、育成者権等の知的財産を総合的に活用し、地域ブランドの保護・活用を図る取組を支援します。

ウ 地域の生産者等と協働し、日本産食材の利用拡大や日本の食文化の海外への普及等に貢献した料理人を顕彰する制度である

「料理マスターズ」を引き続き実施します。エ 「東アジア植物品種保護フォーラム」の

下、東アジアにおける品種保護制度の整備・充実を促進するための協力活動を推進します。

オ 我が国の地理的表示保護制度で申請後公示された名称や国内外で商標登録したGIマーク、我が国農林水産物・食品等や地名について、海外における不正な商標出願・登録・使用の監視や現地調査を行い、ジャパンブランドの知的財産侵害対策を強化します。

また、海外への輸出を図る農産物のDNA品種識別技術及び産地判別技術の実用化に取り組み、品種保護を図る取組を支援します。

カ 農業分野のICT規格の標準化を図るため、実証展示ほにおいて農業分野のICT関連のシステムの接続性及び互換性を検証し、ICT関連事業者に採用される標準化技術仕様の策定を支援します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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5 様々なリスクに対応した総合的な食料安全保障の確立

(1)食料供給に係るリスクの定期的な分析、評価等

主要な農林水産物の供給に影響を与える可能性のあるリスクを洗い出し、そのリスクごとの影響度合、発生頻度、対応の必要性等について分析、評価を行います。また、不測の事態が発生した場合に備え、

「緊急事態食料安全保障指針」(24年9月策定)に基づく具体的な対応手順について、関係者に幅広く周知するとともに、想定される不測の事態ごとのシミュレーション等における、対応手順の実効性の検証結果に基づき、必要に応じた見直しや更なる充実を図ります。

(2)海外や国内におけるリスクへの対応「緊急事態食料安全保障指針」に基づき、

食料の安定供給を確保するための平時の取組を行います。また、食料の安定供給に関するリスクの定期的な分析・評価結果を踏まえ、平素から、食料供給への影響を軽減するための対応策を検討・実施します。ア 国際的な食料需給の把握、分析

省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信します。イ 輸入穀物等の安定的な確保(ア)穀物の輸入先国との緊密な情報交換等

を通じ、安定的な輸入を確保します。輸入依存度の高い飼料穀物について、

不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激なひっ迫等に備え、配合飼料メーカー等が事業継続計画に基づいて実施する飼料穀物の備蓄85万tの取組に対して支援します。

(イ)国際港湾の機能強化a ばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入

を実現するため、大型船に対応した港湾

機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を引き続き推進します。

b 国際海上コンテナターミナル、国際ターミナルの整備等、国際港湾の機能強化を推進します。

(ウ)海外農業投資の支援a 関係府省・機関により取りまとめた「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」(21年8月策定)に基づき、民間企業に対する海外農業投資に係る情報提供を実施するとともに、投資対象国における日本向け農産物の生産可能性調査やビジネスマッチングのためのフォーラムを実施します。

b 国連食糧農業機関(FAO)等3つの国際機関が運営する世界食料安全保障委員会(CFS)において、26年10月に採択された「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」の理解・普及を図るため、海外投資に関心を持つ我が国企業に対して情報提供説明会の開催等を行います。

(エ)肥料原料の供給安定化対策肥料原料については、海外からの輸入

への依存度を低減させるため、国内の未利用資源の活用に向けた技術開発、実証・実用化等をコストに配慮しつつ推進します。

(オ)遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化

食料の安定供給に資する品種の育成・改良に貢献するため、農業生物資源ジーンバンクにおいては、収集した遺伝資源を基に、幅広い遺伝変異をカバーしたコアコレクションの整備を進め、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進します。また、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR) の枠組みを活用した他国との植物遺伝資源の相互利用や、植物遺伝資源に関するアジア諸国との二国

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間共同研究等を推進することによって、海外遺伝資源の導入環境を整備します。

ウ 国際協力の新展開(ア)世界の食料安全保障に係る国際会議へ

の参画等28年4月にG7新潟農業大臣会合を開

催し、議長国として、世界の食料安全保障の強化に向けて議論をリードします。

G7伊勢志摩サミット・G20サミット及びその関連会合、アジア太平洋経済協力(APEC)関連会合、ASEAN+3農林大臣会合、CFS等FAO関連会合、経済協力開発機構(OECD)農業委員会等世界の食料安全保障に係る国際会議等に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献します。また、フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信します。

(イ)官民連携によるフードバリューチェーンの構築

フードバリューチェーンの構築に向け、官民連携による二国間政策対話や合同ミッションの派遣、生産・流通・投資環境調査等を実施し、民間投資と連携した国際協力を推進します。

(ウ)食料・農業分野における技術・資金協力

世界の貧困削減・飢餓撲滅に貢献すべく、食料・農業分野における以下の国際協力を実施します。

a 開発途上国からの要請に応じ、技術協力及び資金協力を実施します。また、世界の食料安全保障の確立に取り組む国際機関への拠出を通じた協力を実施します。

b ①開発途上国でのフードバリューチェーンの構築支援、②飢餓・貧困対策への貢献、③気候変動や越境性感染症等

の地球規模課題への適切な対応を農林水産分野のODAにおける重点分野とし、国際協力を効果的に実施する上で必要となる基礎的な調査、技術開発、人材育成等を実施します。

(エ)食料・農業分野での取組を通じた食料安全保障の強化

a アフリカを始めとした世界の栄養改善に向けて、官民が一体となった具体的な方策を検討し、実施します。また、アフリカ・アジアにおける栄養不足人口の削減に貢献するため、栄養改善に関する啓発を行う講義・セミナーの開催を支援します。

b 大規模災害等の緊急時に対処することを目的としたASEAN+3緊急米備蓄

(APTERR)協定に基づき、APTERR体制の確立に向けた基金の造成や現物備蓄事業への支援を行います。

c TICAD Ⅵ(アフリカ開発会議)に対応し、アフリカにおけるフードバリューチェーン構築に向け、農家のマーケティング能力の向上、流通・投資環境の改善等を支援します。

エ 動植物防疫措置の強化(ア)家畜防疫体制の強化や植物病害虫の防

除の徹底世界各国における口蹄疫、高病原性鳥

インフルエンザ等の発生状況、地球温暖化に伴う新たな植物病害虫の侵入等を踏まえ、国内における家畜の伝染性疾病や植物の病害虫の発生予防及びまん延防止対策、発生時の危機管理体制の整備等を実施します。

(イ)輸入検疫体制の強化a 家畜防疫官・植物防疫官の適切な配置

及び検疫探知犬の増頭等検査体制の整備・強化により、円滑で確実な水際対策を講じるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延を防止します。

b 政府が輸入する米麦について残留農薬

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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等の検査を実施します。(ウ)産業動物獣医師の育成・確保

産業動物獣医師への就業を志す獣医系大学の学生や地域の産業動物獣医師への就業を志す高校生等への修学資金の貸与、獣医系大学の学生を対象にした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床研修や女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修等の実施による産業動物獣医師の育成等の支援、産業動物獣医療の提供体制整備に取り組む地域への支援を実施します。

オ 食品流通における不測時への備えの強化(ア)食のライフラインの確保

震災時においても、食品流通に係る事業継続等を目的とした食品産業事業者等による連携・協力体制の構築を促進するための支援を行います。

(イ)適切な備蓄の実施a 米穀の備蓄運営について、米穀の供給

が不足する事態に備え、国民への安定供給を確保するため、100万t程度(28年6月末時点)の備蓄保有を行います。

b 海外依存度の高い小麦について、港湾スト等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成します。

c 緊急時に備えた家庭における食料品の備蓄を推進します。

6 国際交渉への戦略的な対応(1)EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)への取組等「日本再興戦略」改訂2015(27年6月

策定)等に基づき、グローバルな経済活動のベースとなる経済連携を進めます。

具体的には、日EU・EPAをはじめ、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTA等の経済連携について、我が国の農林水産品がこれらの交渉において慎重

に扱うべき事項であることに十分配慮し、重要品目の再生産が引き続き可能となるよう、交渉を行います。

(2)WTO交渉における取組「多様な農業の共存」という基本理念の

下、食料輸出国と輸入国のバランスの取れた農産物貿易ルールの確立に向けて、WTO交渉の前進と、多角的貿易体制の維持・強化に積極的に貢献していきます。

Ⅲ 農業の持続的な発展に関する施策

1 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保

(1)法人化、経営の多角化等を通じた経営発展の後押し

ア 担い手への重点的な支援の実施(ア)認定農業者等の担い手が主体性と創意

工夫を発揮して経営発展できるよう、担い手に対する農地の集積・集約化の促進や経営所得安定対策、出資や融資、税制など、経営発展の段階や経営の態様に応じた支援を行います。

(イ)担い手の育成・確保に向けた施策について、構造改革の進展の状況を踏まえつつ、担い手の経営発展に資するよう、分析、検証を行っていきます。

イ 農業経営の法人化等の加速化(ア)農業経営の法人化を促進するため、大

規模な家族農業経営や集落営農等を中心に、法人化のメリットや手続、法人経営に必要となる財務・労務管理に関する情報やノウハウ等の普及・啓発を行うとともに、税理士等の経営に関する専門家による相談・指導体制の整備などを推進します。

(イ)労働力不足の状況に対応し、農業法人において、幅広い年齢層や他産業からの人材などの活用を図るため、他産業並の就業環境の整備を推進するとともに、従業員のキャリアパスとして別の法人の経

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営者として独立する取組等を促進します。

(ウ)担い手が少ない地域においては、地域における農業経営の受皿として、集落営農の組織化を推進するとともに、これを法人化に向けての準備・調整期間と位置付け、法人化を推進します。

ウ 経営の多角化・複合化雇用労働力の有効活用や農業機械等の経

営資源の有効利用、価格変動や自然災害による経営リスクの分散等を図るため、経営の多角化や複合化を推進します。

(2)新規就農や人材の育成・確保、経営継承等ア 青年層の新規就農(ア)将来の我が国の農業を支える人材を確

保するためには、青年新規就農者を増大させる必要があることから、青年の就農意欲の喚起と就農後の定着を図るため、① 就農の準備(2年以内)及び経営が

不安定な就農直後(5年以内)の所得の確保に対する給付金の給付

② 農業法人等が実施する新規就農者に対する実践研修への支援

を推進します。(イ)初期投資の負担を軽減するため、農業

機械等の取得に対する補助や無利子資金の貸付けを行います。

(ウ)就農希望者等に対する全国的な求人情報等の提供や就農相談、就農前の短期間就業体験(インターンシップ)の実施を支援します。

(エ)地域の農業大学校、農業高校等の卒業生の就農を促進するため、関係府省や都道府県等の連携の下、先進的な農業経営の学習の充実や就農支援体制の強化等を推進します。

イ 経営感覚を持った農業者の育成・確保(ア)今後の地域農業のリーダーとなる人材

の層を厚くするとともに、農業界をけん引するトッププロを育成するため、高度な経営力、地域リーダーとしての人間力

等を養成する高度な農業経営者育成教育機関等への支援を推進します。

(イ)社会の変化や産業の動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成するため、先進的な卓越した取組を行う専門高校を指定し、取組を支援します。

(ウ)被災地の人材ニーズに対応し、復興の即戦力となる専門人材や次代を担う専門人材の育成等を支援します。

ウ 次世代の担い手への円滑な経営継承今後、担い手の優れた技術や農地等の生

産基盤を確実に次世代の担い手に継承していくため、農業法人や大規模な家族農業経営が経営継承の重要性の理解を深め、円滑に経営継承を行うための具体的な計画を策定し、実施する取組を促進します。

エ 企業の農業参入企業の農業参入は、特に担い手が不足し

ている地域においては農地の受皿として期待されていることから、農地中間管理機構を中心としてリース方式による企業の参入を促進します。

2 女性農業者が能力を最大限発揮できる環境の整備

(1)女性の活躍推進女性農業者が、その能力を最大限に発揮

し、農業経営や6次産業化を展開することができる環境を整備します。このため、経営体向け補助事業について女性農業者等による積極的な活用を促進するほか、地域農業における次世代のリーダーとなり得る女性農業経営者の育成及び農業で新たにチャレンジを行う女性の経営の発展を促進するための取組を推進します。

また、女性農業者の知恵と民間企業の技術、ノウハウ、アイデアなどを結び付け、新たな商品やサービス開発等を行う「農業女子プロジェクト」の活動を拡大します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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(2)政策・方針決定過程への女性の参画の促進ア 地域農業に関する方針等に女性農業者等

の声を反映させるため、人・農地プランを検討する場への女性農業者の参画を義務付けます。イ 「農業協同組合法等の一部を改正する等

の法律」(平成27年法律第63号)による28年4月改正後の「農業委員会等に関する法律」(昭和26年法律第88号)及び農業協同組合法(昭和22年法律第132号)において、農業委員会の委員や農業協同組合の役員について、年齢及び性別に著しい偏りが生じないよう配慮しなければならない旨の規定が置かれたことを踏まえ、委員・役員の任命・選出が男女共同参画の視点から行われるよう、女性の参画拡大に向けた取組をより一層促進します。

3 農地中間管理機構のフル稼働による担い手への農地集積・集約化と農地の確保

(1)担い手への農地集積・集約化の加速化ア 人・農地プランの活用

各地域の人と農地の問題を解決していくため、人・農地プランの作成と定期的な見直しを推進します。その際、地域内外の幅広い関係者が参画した徹底的な話合いを進め、担い手を同プランに位置付けていくとともに、農地利用状況の電子地図システムを話合いのベースとして全面的に活用します。

人・農地プランに即して担い手が行う経営規模の拡大等の取組を、融資等を通じて促進します。イ 農地中間管理機構のフル稼働

全都道府県に設立された農地中間管理機構を本格的に軌道に乗せることで担い手への農地集積・集約化を更に進めます。

(2)荒廃農地の発生防止・解消等農業者等が行う、荒廃農地を再生利用す

る取組を推進するとともに、農地法(昭和27年法律第229号)に基づく農業委員会

による利用意向調査・農地中間管理機構との協議の勧告等の一連の手続を活用して再生利用可能な荒廃農地の農地中間管理機構への利用権設定を進めることにより、荒廃農地の発生防止と解消に努めます。

(3)農地転用許可制度等の適切な運用農地の転用規制及び農業振興地域制度の

適正な運用を通じ、優良農地の確保に努めます。

4 担い手に対する経営所得安定対策の推進、収入保険制度等の検討

(1)担い手を対象とした経営所得安定対策の着実な推進

担い手の農業経営の安定を図り、我が国農業の更なる構造改革を進める観点から、

「畑作物の直接支払交付金」(ゲタ対策)と「米・畑作物の収入減少影響緩和対策」(ナラシ対策)について、27年産から引き続き、認定農業者、認定新規就農者、集落営農を対象として、規模要件を課さずに実施します。

ア 畑作物の直接支払交付金諸外国との生産条件の格差から生じる不

利がある畑作物(麦、大豆、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたね)を生産する農業者に対して、標準的な生産費と標準的な販売価格の差に相当する額を直接交付する「畑作物の直接支払交付金」(ゲタ対策)を実施します。

イ 米・畑作物の収入減少影響緩和対策国民に対する熱量の供給を図る上で特に

重要なもの等で、収入の減少が農業経営に及ぼす影響を緩和する必要がある農産物を生産する農業者に対して、農業者拠出に基づくセーフティネットとして、「米・畑作物の収入減少影響緩和対策」(ナラシ対策)を実施します。

ウ 米の直接支払交付金米の直接支払交付金について、29年産

米までの時限措置として実施します。

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(2)経営の新たなセーフティネットとしての収入保険制度等の検討

農業経営全体の収入に着目した収入保険の導入について、制度の仕組みの検証等を行う事業化調査を実施するなど、検討を進めます。

また、収入保険の検討と併せて、農業災害補償制度の在り方を検討します。

5 構造改革の加速化や国土強きょう

靱じん

化に資する農業生産基盤整備農地集積の加速化、農業の高付加価値化に資

する農地の大区画化・汎用化や畑地かんがい等の整備、老朽化した農業水利施設の長寿命化・耐震化対策等を推進します。

また、生態系や景観等の農村環境の保全・形成に配慮した農業生産基盤の整備を推進します。(1)力強い農業を支える農業生産基盤整備ア 大区画化・汎用化等の基盤整備を実施

し、農地中間管理機構とも連携した担い手への農地集積・集約化や農業の高付加価値化を推進します。イ 農地整備状況について、地理情報システ

ムを活用した情報の可視化、共有を図ります。ウ パイプライン化やICTの導入等により、

水管理の省力化と担い手の多様な水利用への対応を実現する新たな農業水利システムを構築し、農地集積の加速化を推進します。

(2)老朽化等に対応した農業水利施設の持続的な保全管理ア 点検、機能診断及び監視を通じた適切な

リスク管理の下での計画的かつ効率的な補修、更新等により、施設の徹底した長寿命化とライフサイクルコストの低減を図ります。イ 地理情報システムを活用した国営造成農

業水利施設に係る点検、機能診断結果等の情報の蓄積、可視化、共有を推進します。

(3)農村地域の強きょう

靱じん

化に向けた防災・減災対策

ア 基幹的な農業水利施設やため池等の耐震診断やハザードマップの作成、耐震対策、集中豪雨による農村地域の洪水被害防止対策等を実施します。特に、下流に人家等があり、施設が決壊した場合に影響を与えるおそれのあるため池(防災重点ため池)の地震対策や豪雨対策を実施します。

イ 津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害等から農地等を防護するため、海岸保全施設の整備等を実施します。

(4)農業・農村の構造の変化等を踏まえた土地改良制度の検証・検討

農業・農村の構造の変化を見極めつつ、土地改良事業や土地改良区の現状、ニーズ等について把握、分析した上で、新たな土地改良長期計画の検討等と併せ、土地改良制度の在り方について検証、検討を行います。

6 需要構造等の変化に対応した生産・供給体制の改革

(1)米政策改革の着実な推進、飼料用米等の戦略作物の生産拡大

ア 米政策改革の着実な推進(ア)需要に応じた生産を推進するため、水

田活用の直接支払交付金による支援、中食・外食等のニーズに応じた生産と播

は種しゅ

前契約、複数年契約等による安定取引の一層の推進、県産別、品種別等のきめ細かい需給・価格情報、販売進捗、在庫情報の提供等の環境整備を推進します。

(イ)定着状況を見ながら、30年産を目途に行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政、生産者団体、現場が一体となって取り組みます。

(ウ)29年産の生産数量目標及び自主的取組参考値の設定に当たっては、自主的に

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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主食用米以外に転換しても次年度の配分に影響を与えないよう、27年産の都道府県別のシェアを固定して配分することを基本とします。

イ 飼料用米等の戦略作物の生産拡大食料自給力・食料自給率の維持向上を図

るため、飼料用米、麦、大豆など、戦略作物の本作化を進めるとともに、地域の特色のある魅力的な産品の産地づくりに向けた取組を支援することにより、水田のフル活用を図ります。

飼料用米及び米粉用米について、単収向上へのインセンティブとして、生産数量に応じて交付金を支払う数量払い等により戦略作物の生産への支援を行うとともに、地域が作成する「水田フル活用ビジョン」に基づき、地域の特色のある魅力的な産品の産地を創造するため、地域の裁量で活用可能な産地交付金により、産地づくりに向けた取組を支援します。

(2)畜産クラスター構築等による畜産の競争力強化ア 畜産・酪農の競争力強化(ア)畜産農家を始めとして、地域に存在す

る外部支援組織(コントラクター、TMRセンター、キャトル・ステーション、ヘルパー等)や関連産業等の関係者

(乳業、食肉センター等)が有機的に連携、結集し、地域ぐるみで収益性を向上させる畜産クラスターの取組を推進するため、新規就農者等の確保や経営資源の円滑な継承を促進するとともに、搾乳ロボットや哺乳ロボット等の省力化機械の導入・活用、外部支援組織の活用による労働負担の軽減を推進します。

(イ)酪農経営における受精卵移植・性判別技術を活用した優良な乳用後継雌牛の確保や、和牛主体の肉用子牛の生産拡大、和牛繁殖経営におけるICT等の新技術を活用した繁殖性の向上、種豚生産経営における優良な純粋種豚の導入による豚の生産能力の向上等を図る取組を支援し

ます。(ウ)輸入飼料に依存した畜産から国内の飼

料生産基盤に立脚した畜産に転換するため、国産飼料の生産・利用の拡大や流通基盤・体制の強化、放牧の活用や食品残さ等の飼料利用の拡大等を推進します。

(エ)需要面での変化については、人口減少等により、国内需要は減少が見込まれる中、チーズ、発酵乳、適度な脂肪交雑の牛肉への需要の拡大や安全・安心への関心等を踏まえ、多様な消費者ニーズに的確に対応した生産等を推進します。また、酪農家による6次産業化の取組を支援するため、指定生乳生産者団体との生乳取引の多様化を推進します。

イ 畜産・酪農関係の経営安定対策経営安定対策として、以下の施策等を実

施し、畜産農家等の経営安定を図ります。(ア)畜種ごとの経営安定対策

a 酪農関係では、①加工原料乳に対する加工原料乳生産者補給金の交付、②加工原料乳の取引価格が低落した場合の補

ほ塡てん

金の交付、③自給飼料生産基盤に立脚した経営を行う酪農家(自給飼料の生産を行うとともに環境負荷軽減に取り組んでいる者)に対し、飼料作付面積に応じた交付金の交付等の対策

b 肉用牛関係では、①肉用子牛対策として、肉専用種を対象に肉用子牛生産者補給金制度を補完する肉用牛繁殖経営支援事業、②肉用牛肥育対策として、粗収益が生産コストを下回った場合に補

ほ塡てん

金を交付する肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)

c 養豚関係では、粗収益が生産コストを下回った場合に補

ほ塡てん

金を交付する養豚経営安定対策事業(豚マルキン)

d 養鶏関係では、鶏卵の取引価格が補ほ

塡てん

基準価格を下回った場合に補ほ

塡てん

金を交付する鶏卵生産者経営安定対策事業

(イ)飼料価格高騰対策配合飼料価格の大幅な変動に対応する

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ための配合飼料価格安定制度を適切に運用するとともに、国産飼料の増産や食品残さを飼料として利用する取組等を推進します。

(3)実需者ニーズ等に対応した園芸作物等の供給力の強化ア 野菜関係対策(ア)野菜の生産・出荷の安定と消費者への

野菜の安定供給を図るため、野菜の価格が著しく低落した場合に生産者補給交付金等を交付する野菜価格安定対策を円滑に実施します。

(イ)加工・業務用野菜への転換を推進する産地に対し、加工・業務用野菜の安定生産に必要な作柄安定技術の導入を支援します。あわせて、加工・業務用需要に対応したサプライチェーンの構築に加えて、加工・業務用野菜の生産を加速化するための新技術・機械化の導入等について支援します。

(ウ)燃油価格の高騰の影響を受けにくい経営構造への転換を進めるため、燃油価格高騰時のセーフティネットの構築を支援します。

イ 花き関係対策「花きの振興に関する法律」(平成26年

法律第102号)に基づき、国産シェアの奪還と輸出拡大を図るため、花き業界関係者が一堂に会する協議会の設置・運営や、日持ち性の向上、コールドチェーンの確立、広域連携による加工技術の向上等の国産花きの強みを活かす生産・供給体制の強化、花育活動等の需要拡大に向けた取組等を支援します。また、「花きの輸出戦略」

(25年8月策定)を踏まえ、全国花き輸出拡大協議会(27年2月発足)を核とし、オールジャパンの体制で行う国産花きの輸出拡大に向けた取組を推進します。さらに、トルコにて開催されるアンタルヤ国際園芸博覧会に政府出展します。ウ 茶関係対策

茶の輸出拡大や高付加価値化に向け、輸

出向け商品の生産・加工技術や機能性成分等の特色を持つ品種の導入やてん茶(抹茶の原料)栽培に適した棚施設を利用した栽培法への転換、新たな抹茶加工技術の実証等を支援します。

エ 砂糖及びでん粉関係対策「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法

律」(昭和40年法律第109号)に基づき、さとうきび・でん粉原料用かんしょ生産者及び国内産糖・国内産いもでん粉の製造事業者に対して、経営安定のための支援を行います。

(4)需要拡大が見込まれる有機農産物や薬用作物の生産拡大

ア 有機農産物関係対策有機農産物等の生産拡大を推進するた

め、生産者と実需者(スーパーマーケット、レストラン等)の連携を促進し円滑なビジネス環境を整えるとともに、新規就農・転換者の定着・拡大や地域の生産供給拠点を構築するための取組を支援します。また、有機JAS認証の取得を推進するとともに、輸出促進に向けた諸外国との有機同等性の取得等を推進します。

イ 薬用作物関係対策薬用作物の産地形成を加速化させるた

め、産地と実需者(漢方薬メーカー等)とが連携した栽培技術の確立のための実証ほの設置や省力化のための農業機械の改良のほか、事前相談窓口の設置や栽培技術の指導体制の確立に向けた取組を支援します。

7 コスト削減や高付加価値化を実現する生産・流通現場の技術革新等

(1)戦略的な研究開発と技術移転の加速化ア 現場のニーズを踏まえた戦略的な研究開発

様々な農政の課題に技術面で的確に対応するため、「農林水産研究基本計画」(27年3月策定)に基づきつつ、「攻めの農林水産業」の展開に向けて、以下の施策を推進します。その際、農業現場のニーズに直

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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結した戦略的な研究開発を推進するため、農業者や普及組織等の研究への参画を推進します。

(ア)生産現場強化のための研究開発a 輸入飼料と同等の価格の自給濃厚飼料

の生産・利用技術の開発を推進します。b 畜産・酪農の生産力強化を図るため、

家畜の繁殖機能の早期回復技術、精液の高品質化技術等の開発を推進します。

c 家畜の遺伝子の網羅的解析等により、優良な形質を持つ家畜を育成し、効率よく増やし、健康に育てるための技術の開発を推進します。

d  水田作における大豆等の収量の高位安定化技術の開発を推進します。

e 有機資源の循環利用や微生物を利用した化学肥料や農薬の削減技術、養分利用効率の高い施肥体系、土壌に蓄積された養分を有効活用する管理体系等の確立を推進します。

f ゲノム情報を最大限に活用して、高温や乾燥等に適応する品種の開発を推進します。

g 国産花きの競争力強化のため、実需ニーズの高い新系統及び低コスト栽培技術、品質保持期間延長技術の開発を推進します。

h 自動走行トラクター、生育予測システム、自動水管理システム、植物工場における収量・成分の制御を可能とする栽培管理技術など、農業のスマート化を実現するための様々な技術の開発を総合的に推進します。

(イ)市場開拓に向けた取組を支える研究開発

a 薬用作物の国内生産拡大に向け、カンゾウ、トウキ等の需要が多い品目について、低コストで安定生産を可能とする栽培・生産技術の開発を推進します。

b 地域の農林水産物・食品について、機能性表示を可能とするエビデンスを取得すると共に、機能性を高めるための栽

培・加工技術の開発を推進します。c 密閉型植物工場において、遺伝子組換

え植物を活用したワクチン・機能性食品等有用物質生産の実用化のために使用エネルギー効率の高い生産技術、品質管理技術を開発します。

d 農産物の多様な品質を集出荷施設等で迅速に評価する新しい技術の開発を推進するとともに、輸出先の嗜

し好こう

に適合する品種を容易に選定する技術の開発を推進します。

(ウ)バリューチェーン構築のための研究開発

a 実需者等のニーズに的確に対応した業務・加工用の野菜・果樹等の品種及び生産・加工・鮮度保持技術の開発を推進します。

b 稲、麦、大豆、園芸作物等の農業上有用な遺伝子を同定し、DNAマーカーの開発・利用を推進するとともに、ゲノム情報を活用した新しい育種技術や、遺伝資源等から有用遺伝子を効率よく発掘する技術、害虫の薬剤抵抗性管理技術等の開発を推進します。また、海外植物遺伝資源の導入環境を整備します。

c 農山漁村の自立・分散型エネルギー供給体制の形成に向けて、地域資源を活用した効率的かつ低コストなエネルギー利活用技術の開発を推進します。

(エ)農林水産分野における気候変動対応のための研究開発

a 農林水産分野における気候変動への適応を進めるため、温暖化の進行による農林水産業への影響を高精度に評価します。

b 温暖化の将来予測や影響評価に基づく品種育成・生産安定技術の他、豪雨などの異常気象による被害を回避・軽減する技術等を開発します。

c 温暖化の進行による環境の変化に伴う野生鳥獣の分布拡大及び被害予測マップやロボットやICT等の利用及び獣種特

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性等に応じた野生鳥獣被害対策技術、海外から侵入が危惧される有害動植物の迅速な検出・同定技術を開発します。

d 各国の農業研究機関等との密な連携により気候変動適応・緩和技術を開発し、開発途上国での気候変動対策及び持続可能な食料安定供給への取組を支援します。

イ 技術移転の加速化(ア)「橋渡し」機能の強化

a 「知」の集積と活用の場による技術革新

(a)市場開拓等に意欲的な民間企業と、異分野の革新的な技術シーズ等を有する研究機関を結び付ける「知」の集積と活用の場の在り方についての取りまとめを基に、事業の本格展開を図ります。

(b)産学を結び付ける研究開発プラットフォームづくりのため、産学官連携協議会を設けるとともに、技術シーズ・開発ニーズ等を民間企業と研究機関で共有するセミナーワークショップ等を開催します。

(c)研究開発プラットフォームから形成された研究開発コンソーシアムで行われる研究開発を国と民間企業等が、資金を出し合うマッチングファンド方式等により支援します。

b 異分野融合研究の強化工学など異分野の技術を農林水産分野

に導入・活用するための共同研究を進めるとともに研究成果を社会実装につなげるための講演・セミナーの開催や試作物の展示等を行う機会を設ける等、研究開発を推進します。

c 研究開発・普及・生産現場の連携による技術開発・普及

(a)農林水産業・食品産業等におけるイノベーションにつながる革新的な技術シーズを開発するための基礎研究及び開発された技術シーズを実用化に向

けて発展させるための研究開発を推進します。

(b)研究開発から産業化までを一貫して支援するため、大学、民間企業等の地域の関係者による技術開発から改良、開発実証試験までの取組を切れ目なく支援するとともに、民間企業等における事業化を支援します。

(c)全国に配置されたコーディネーターが、技術開発ニーズ等を収集し、研究の課題設定を現場ニーズに対応したものとするとともに、研究の開発段階から産学が密接に連携し、早期に成果を実現できるよう支援します。

(d)農業技術に関する近年の研究成果のうち、早急に生産現場への普及を推進する重要な技術として選定した最新の農業技術成果(28年5月公表)等について、情報提供を行い、各地域に適した研究成果の円滑な普及に努めます。

(e)産地においては、普及指導センターと大学、企業、試験研究機関等が連携しつつ、技術指導を核に総合的な支援を展開するなど、研究成果の普及・実用化体制の強化を推進します。

(イ)効果的・効率的な技術・知識の普及指導

国と都道府県が協同して、高度な技術・知識を持つ普及指導員を設置し、普及指導員が農業者に直接接して行う技術・経営指導等を推進します。また、その際には、営農情報を提供する民間企業等との役割分担を図り、地域の合意形成や新規就農者の支援、地域温暖化及び災害への対応等、公的機関が担うべき分野についての取組を一層強化します。

(ウ)戦略的な知的財産マネジメントの推進a 研究開発の推進に当たっては、事業

化・商品化に向けた知的財産戦略を研究開発の企画・立案段階から描き、研究開発を効果的に推進します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

Page 151: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

b 研究成果については、秘匿化や特許等の独占的な実施許諾も選択肢として、社会還元を加速化する観点から最も適切な方法が採用されるよう、「農林水産研究における知的財産に関する方針」(28年2月策定)に基づき、研究機関に対して指導・支援します。

(エ)レギュラトリーサイエンスの充実・強化

a 「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」(27年6月策定)で明確化した取り組むべき調査研究の内容や課題について、その進捗状況の検証、見直しを行うとともに、所管法人、大学、民間企業、関係学会等への情報提供や研究機関との意見交換を行い、研究者の認識や理解の醸成とレギュラトリーサイエンスに属する研究の拡大を促進します。

b 研究開発部局と規制担当部局とが連携して、食品中の危害要因、家畜疾病・植物病害虫等のリスク管理に必要な調査研究を推進します。

c レギュラトリーサイエンスに属する研究事業の成果を国民に分かりやすい形で公表するとともに、行政施策・措置の検討・判断に活用された研究成果の報告会を開催します。

(オ)国民理解の促進最先端技術の研究開発及び実用化に当

たっては、国民への分かりやすい情報発信、生産者や消費者との意見交換を並行して行い、研究成果の実用化に向けた環境づくりを進めます。特に、遺伝子組換え技術等は、飛躍的な生産性の向上等が期待される一方、国民的理解を得ていくことが課題であることから、関係府省の連携によるリスクコミュニケーション等の取組を強化します。

(2)先端技術の活用等による生産・流通システムの革新

ア 規模拡大、省力化や低コスト化を実現するための技術導入

(ア)スマート農業の実現に向けた取組ロボット技術やICTを活用して、超

省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)を実現するため、ICTを活用した高度な生産管理やロボット農機などの生産農業現場における実証研究を推進し、これまでに開発された先進技術の実用化を図るとともに、将来に向けて競争力の飛躍的な向上を図るため、規模拡大や低コスト化に向けたロボット技術やICTを活用した省力化・自動化などの新たな生産体系の研究開発等を実施します。また、ロボット技術の安全性確保策等の残された課題の解決に向けた検討を引き続き進めます。

(イ)次世代施設園芸の地域展開の促進次世代施設園芸拠点で得られた知見を

活用し、次世代施設園芸を各地域に展開するため、拠点の成果に関するセミナー等の情報発信、拠点における実践的な研修等の人材育成を支援するとともに、次世代型大規模園芸施設の整備を支援します。

(ウ)産地の戦略的取組の推進産地の活性化を図るため、「強み」の

ある産地形成に向けた取組、品目ごとの多様な課題の解決に向けた取組、産地に人材を供給する取組等を支援します。

(エ)作業を受託する組織の育成・確保農作業の外部化により、高齢化や担い

手不足が進行している生産現場の労働負担の軽減を図るとともに、規模拡大や主要部門への経営資源集中等を通じた経営発展を促進する観点から、地域の実情を踏まえつつ、飼料生産組織やヘルパー組織の育成・確保を推進します。

(オ)農業労働力を確保・活用する仕組みの構築

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産地における人手不足を補うため、労働力の募集・産地への派遣を一体的に行う仕組みや、農業サービス事業体による農作業の外部化・援農隊(農繁期等に農作業を支援する援農者の組織)による労働力の提供を円滑に行う仕組みの構築を支援します。

イ 需要に応じた生産や高付加価値化を進めるための技術導入

我が国の強みである技術力を生かした新たな品種や技術の開発・普及を進め、かつ知的財産を総合的に活用することにより、日本各地で品質やブランド力など「強み」のある農畜産物を実需者と連携して生み出すため、「新品種・新技術の開発・保護・普及の方針」(25年12月策定)に基づく取組等を推進します。

(ア)実需者や産地が参画したコンソーシアムを構築し、実需等ニーズに対応した新品種の開発等の取組等を推進します。また、実需者等の多様なニーズに即応するため、育種期間を短縮するためのDNAマーカーの開発、様々な形質の導入を可能とする新たな育種技術の開発を行います。さらに、独立行政法人等が所有する埋もれた品種等をデータベース化し、その利用を促進します。

(イ)新品種やICT等の新技術等を活用した「強み」のある産地形成を図るため、実需者、生産者等が連携して新たな産地形成を行う取組を総合的に支援します。また、埋もれた品種等の発掘や実需者等との結び付き強化、普及指導員を含めた産地の人材育成、産地におけるGAPの導入、種苗の機動的な供給体制の整備、農業機械のリース導入、共同利用施設整備等の取組も支援します。

(ウ)海外遺伝資源を戦略的に確保するため、締約国として食料・農業植物遺伝資源条約の運営に参画するとともに、種苗会社等の国内遺伝資源利用者と遺伝資源保有国との遺伝資源取得に係る調整を支

援します。また、二国間共同研究による海外植物遺伝資源の特性情報の解明等を推進することにより、海外植物遺伝資源へのアクセス環境を整備します。

(エ)種苗の輸出を促進するため、国内における種子検査体制の強化、DNA品種識別技術の開発による侵害対策等に向けた取組を推進します。

ウ 異常気象などのリスクを軽減する技術の確立

(ア)気候変動に負けない持続的な産地づくり

農業分野における気候変動及び極端な気象現象の影響を回避・軽減できる産地づくりを推進するため、産地ぐるみで回避・軽減策等をまとめた技術導入計画の策定による気象予測データを活用した予防対策、高温等の影響を回避又は軽減できる技術実証等の取組に加え、適応策を計画的に推進する体制を作り、高温耐性品種等への転換等を促進する導入実証の取組を推進します。

(イ)農業生産資材費の低減a 肥料、飼料、農薬、農業機械等の農業

生産資材費の低減に向け、単肥、単肥を混合した配合肥料、国内未利用資源(鶏ふん焼却灰等)を用いた肥料、エコフィード等の低コスト飼料、大型包装農薬やジェネリック農薬、中古農業機械や基本性能に絞った海外向けの農業機械等の低コスト生産資材の活用を推進するとともに、フレキシブルコンテナによる肥料の流通・利用の合理化を図ります。

b 農業者の生産資材の効率的利用を促進するため、土壌中の肥料成分を踏まえた施肥や局所施肥、地域の土壌条件や作物に応じた減肥基準の策定等による肥料利用効率の向上、作期分散による農業機械稼働率の向上等を推進します。

(ウ)省エネルギー対策資材高騰等に左右されない省エネ型の

生産方式への転換に向け、省エネ設備等

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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について技術の確立を推進します。また、電気利用設備の電気消費量を節減するため、省電力で効果的な加温技術の組合せ等の取組を推進します。

(3)効果的な農作業安全対策の推進年間約400件発生している農作業死亡

事故の低減に向け、以下の取組を実施しますア 地方公共団体はもとより、農業機械メー

カー、農業機械販売店などからの事故情報を効果的、体系的に収集する仕組みの構築イ 農業機械の安全鑑定や事故調査に取り組

んでいる生研センターにおいて、機械設計の専門家や、労働安全衛生や防止活動に携わるコンサルタントなど、各種専門家を交えた事故分析体制の構築、一人一人の農業者に伝える観点による分析情報の発信の充実ウ 乗用型トラクターの片ブレーキによる事

故を防止する装置を搭載した機種の普及及び農業機械の安全性を向上させる研究開発や、農業機械メーカー等の企業における安全設計を一層促進する方策の検討エ 「農作業安全確認運動」の実施、PDCA

サイクルを取り入れた研修内容の検討、労災保険制度の周知及び加入促進等の安全意識を高め、安全利用の促進を図る取組の充実オ 危険箇所の改善など安全に作業できる生

産環境の整備カ 農業女子プロジェクト等と連携するとも

に、農作業ウェアや熱中症計等の事故予防に資するグッズの利用を推進キ 関係省庁が連携し、農業現場への熱中症

対策関連情報の周知

8 気候変動への対応等の環境政策の推進(1)気候変動に対する緩和・適応策の推進ア 農業分野における温室効果ガス排出削減

に貢献するため、省エネ設備等の技術の確立への支援や施設園芸における省エネ設備の導入支援、施肥の適正化を推進します。

イ 農地からの温室効果ガスの排出・吸収量の国連への報告に必要な農地土壌中の炭素量等のデータを収集する調査を行うとともに、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対して支援します。

ウ 温室効果ガスの更なる排出削減対策や吸収源対策の推進のため、排出削減・吸収量を認証しクレジットとして取引できるJ-クレジット制度において、農林水産分野の取組を推進します。

エ バイオマスの変換・利用施設等の整備等を支援し、農山漁村地域におけるバイオマス等の再生可能エネルギーの利用を推進します。

オ 廃棄物系バイオマスの利活用については、「廃棄物処理施設整備計画」(25年5月策定)に基づく施設整備を推進するとともに、市町村等における生ごみのメタン化等の活用方策の導入検討を支援します。

カ 「地球温暖化対策研究戦略」(20年7月策定)に基づき、農林水産分野における地球温暖化防止技術・適応技術の開発等を推進します。

キ 各国の研究機関等との連携により気候変動適応・緩和技術を開発し、開発途上国での気候変動対策及び持続可能な食料安定供給への取組を支援します。

ク 「農林水産省気候変動適応計画」(27年8月策定)及び「気候変動の影響への適応計画」(27年11月策定)に基づき、農林水産分野における気候変動の影響への適応に関する取組を推進するため、以下の取組を実施します。

(ア)中長期的な視点に立った我が国農林水産業に与える気候変動の影響評価や適応技術を開発するとともに、各国の研究機関等との連携による気候変動適応・緩和技術を開発します。

(イ)気候変動の影響を受けにくい強きょう

靱じん

で持続的な産地を確立するため、気候変動適応策に計画的に取り組む体制を作り、高温耐性品種等への転換、適応技術導入等

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の対策の実証に取り組む産地を支援します。

(ウ)地域毎の気候の違いを踏まえた、気候変動への適応の取組を促進するための調査・分析を行います。

ケ 気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)等の地球環境問題に係る国際会議に参画し、農林水産分野における国際的な地球環境問題に対する取組を推進します。

(2)生物多様性の保全及び利用ア 有機農業や冬期湛水管理等、生物多様性

保全に効果の高い営農活動等に対して支援します。イ 企業等による生物多様性保全活動への支

援等について取りまとめた農林漁業者及び企業等向け手引き及びパンフレットを活用し農林水産分野における生物多様性保全活動を推進します。ウ 遺伝子組換え農作物に関する取組につい

ては、生物多様性に及ぼす影響についての科学的な評価、安全性未確認の遺伝子組換え農作物に対する輸入時検査、国内の生産状況の把握、生態系への影響の監視等の調査を実施します。エ 農林水産分野における遺伝資源の持続的

利用を推進するため、以下の取組を実施します。

(ア)遺伝資源の持続可能な利用等の推進を目的とする食料・農業植物遺伝資源条約の運営等に対して支援を行います。

(イ)国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得するために必要な情報の提供や、相手国等との意見調整の支援を行います。

(ウ)国際農業研究機関の遺伝資源活用のための取組を推進します。

(3)農業の自然循環機能の維持増進とコミュニケーション

環境保全型農業を推進するため、次の取組を実施します。ア 「農業の有する多面的機能の発揮の促進

に関する法律」(平成26年法律第78号)に基づき、化学肥料・化学合成農薬の使用を原則5割以上低減する取組と一体的に実施する地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に対して支援を実施します。また、持続性の高い農業生産方式の導入の促進、「農業環境規範」(17年3月策定)の普及・定着にも取り組みます。

イ 環境保全型農業の取組の推進を図るため、農業者、消費者、流通関係者等に対し、エコファーマーが行う取組を始め環境保全型農業に関する情報発信を実施します。

ウ 「有機農業の推進に関する法律」(平成18年法律第112号)及び「有機農業の推進に関する基本的な方針」(26年4月策定)に基づき、有機農業の取組面積の拡大に取り組むとともに、有機農業への参入・定着支援や有機農産物の流通・販売面の支援、技術開発等の促進や消費者の理解等の増進を図ります。

エ 「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号)の趣旨を踏まえ、家畜排せつ物の適正な管理に加え、その利活用を図るため、耕畜連携の強化やニーズに即した堆肥づくり、地域の実情に応じてエネルギー利用等の高度利用を推進します。

Ⅳ 農村の振興に関する施策

1 多面的機能支払制度の着実な推進、地域コミュニティ機能の発揮等による地域資源の維持・継承等

(1)多面的機能の発揮を促進するための取組ア 多面的機能支払制度(ア)農業者等による組織が取り組む、水路

の泥上げや農道の路面維持等の地域資源の基礎的保全活動や農村の構造変化に対応した体制の拡充・強化等、多面的機能を支える共同活動を支援します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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(イ)地域住民を含む組織が取り組む水路、農道等の軽微な補修や植栽による景観形成等の農村環境の良好な保全といった地域資源の質的向上を図る共同活動や、施設の長寿命化のための活動を支援します。

イ 中山間地域等直接支払制度(ア)条件不利地域において、引き続き農業

生産活動の維持を通じて多面的機能を確保するため、中山間地域等直接支払制度に基づく直接支払を実施します。

(イ)高齢化や人口減少の進行を踏まえ、女性・若者等の集落活動への参画や広域での集落協定に基づく複数集落が連携した活動体制づくり、条件が特に厳しい超急傾斜地における農業生産活動への支援など、集落の維持、強化に向けた取組を推進するなどにより、中山間地域等における自律的かつ安定的な農業生産活動を促進します。

(2)「集約とネットワーク化」による集落機能の維持等ア 地域のコミュニティ機能の維持(ア)地域住民が主体となった地域の将来像

の合意形成や地域全体の維持・活性化を図るための体制構築を支援します。

(イ)地域の実情を踏まえつつ、小学校区など複数の集落が集まる地域において、生活サービス機能等を基幹集落に集約・確保した「小さな拠点」と周辺集落とをネットワークで結ぶ取組を推進します。

(ウ)地域活性化や地域コミュニティ再生の取組の拡大を図るため、「農山漁村振興交付金」を軸として、集落が多様な主体と連携し、農山漁村の持つ豊かな自然や

「食」を福祉、教育、観光等に活用する地域活動等を支援します。

(エ)今後の人口減少を見据え、北海道の人口低密度地域における農村の維持に資する方策について調査を実施します。

イ 生活環境の整備(ア)農村における効率的・効果的な生活環

境の整備a 地方創生等の取組を支援する観点か

ら、地方公共団体が策定する「地域再生計画」に基づき、関係府省が連携して道路や汚水処理施設の整備を効率的・効果的に推進します。

b 高齢化や人口減少が進行する農村において、住みやすい生活環境を整備するため、農業・生活関連施設の再編・整備を推進します。

c 農山漁村における定住や都市と農山漁村の二地域居住を促進する観点から、関係府省が連携しつつ、計画的な生活環境の整備を推進します。

(イ)交通a 交通事故の防止、交通の円滑化を確保

するため、歩道の整備や交差点改良等を推進します。

b 生活の利便性向上や地域交流に必要な道路、都市まで安全かつ快適な移動を確保するための道路の整備を推進します。

c 多様な関係者の連携により、地方バス路線、離島航路・航空路などの生活交通の確保・維持を図るとともに、地域鉄道の安全性向上に資する設備の整備など、快適で安全な公共交通の構築に向けた取組を支援します。

d 地域住民の日常生活に不可欠な交通サービスの維持・活性化、輸送の安定性の確保等のため、島しょ部等における港湾整備を推進します。

(ウ)衛生a 下水道、農業集落排水施設及び浄化槽

等について、未整備地域の整備とともに、より一層の効率的な汚水処理施設整備のために、社会情勢の変化を踏まえた都道府県構想の見直しの取組について、関係府省が密接に連携して支援します。

b 下水道、農業集落排水施設においては、既存施設について、長寿命化や老朽化対策を適時・適切に進めるための地方公共団体による機能診断等の取組や更新

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整備を支援します。c 農村における汚水処理施設整備を効率

的に推進するため、農業集落排水施設と下水道との連携等による施設の再編や、農業集落排水施設と浄化槽との一体的な整備を推進します。

d 農村地域における適切な資源循環を確保するため、農業集落排水施設から発生する汚泥や処理水の循環利用を推進します。

e 下水道や農業集落排水施設等複数の汚水処理施設が共同で利用できる施設の整備を図る汚水処理施設共同整備事業

(MICS)や従来の技術基準にとらわれず地域の実情に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法の導入を図る「下水道クイックプロジェクト」(18年11月策定)等により、効率的な汚水処理施設の整備を推進します。

f 人口の少ない地域において、より効率的な汚水処理施設である浄化槽の整備を推進します。特に、循環型社会・低炭素社会・自然共生社会の同時実現を図るとともに、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を促進するため、環境配慮型の浄化槽(省エネルギータイプに更なる環境性能を追加した浄化槽)整備や、公的施設に設置されている単独処理浄化槽の集中的な転換を推進します。

(エ)情報通信高度情報通信ネットワーク社会の実現

に向けて、河川、道路、下水道において公共施設管理の高度化を図るため、光ファイバ及びその収容空間を整備するとともに、民間事業者等のネットワーク整備の更なる円滑化を図るため、施設管理に支障のない範囲で国の管理する河川・道路管理用光ファイバやその収容空間を開放します。

(オ)住宅・宅地a 優良田園住宅による良質な住宅・宅地

供給を促進し、質の高い居住環境整備を推進します。

b 地方定住促進に資する地域優良賃貸住宅の供給を促進します。

(カ)文化a 「文化財保護法」(昭和25年法律第

214号)に基づき、農村に継承されてきた民俗文化財に関して、特に重要なものを重要有形民俗文化財や重要無形民俗文化財に指定するとともに、その修理や伝承事業等に対する補助を行います。

b 保存及び活用が特に必要とされる有形の民俗文化財について登録有形民俗文化財に登録するとともに、保存箱等の修理・新調に対する補助を行います。

c 棚田や里山等の文化的景観や歴史的集落等の伝統的建造物群のうち、特に重要なものをそれぞれ重要文化的景観、重要伝統的建造物群保存地区として選定し、修理・防災等の保存及び活用に対して支援します。

(キ)公園都市計画区域の定めのない町村におい

て、スポーツ、文化、地域交流活動の拠点となり、生活環境の改善を図る特定地区公園の整備を推進します。

ウ 医療・福祉等のサービスの充実(ア)医療

「第11次へき地保健医療計画」に基づき、へき地診療所等による住民への医療提供等農村を含めたへき地における医療の確保を推進します。

(イ)福祉介護・福祉サービスについて、地域密

着型サービス拠点等の整備等を推進します。

エ 安全な生活の確保(ア)山腹崩壊、土石流等の山地災害を防止

するための治山施設の整備や、農地等を飛砂害や風害、潮害から守るなど重要な役割を果たす海岸防災林の整備等を通じて地域住民の生命・財産及び生活環境の

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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保全を図ります。(イ)山地災害による被害を軽減するため、

治山施設の設置等のハード対策と併せて、山地災害危険地区等の山地防災情報を行政と地域住民とが相互に伝達・共有する体制の整備等のソフト対策を推進します。

(ウ)高齢者や障害者等の自力避難の困難な者が入居する要配慮者利用施設に隣接する山地災害危険地区等において治山事業を計画的に実施します。

(エ)激甚な水害の発生や床上浸水の頻発により、国民生活に大きな支障が生じた地域等において、被害の防止・軽減を目的として、治水事業を実施します。

(オ)土砂災害の発生のおそれのある箇所において、砂防堰

えん堤てい

等の土砂災害防止施設の整備や警戒避難体制の充実・強化など、ハード・ソフト一体となった総合的な土砂災害対策を推進します。また、近年、死者を出すなど甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進します。

(カ)南海トラフ地震や首都直下地震等による被害の発生及び拡大、経済活動への甚大な影響の発生などに備え、防災拠点、重要交通網、避難路等に影響を及ぼすほか、孤立集落発生の要因となり得る土砂災害の発生のおそれのある箇所において、土砂災害防止施設の整備を戦略的に推進します。

(キ)社会福祉施設、医療施設等の要配慮者利用施設が存在する土砂災害の発生のおそれのある箇所において、土砂災害防止施設を重点的に整備します。

(ク)土砂災害から人命を保護するため、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号)に基づき、土砂災害警戒区域等の指定を促進し、土砂災害のおそれのある区域についての危険の周知、警戒避難体制の整備及び特定開発行為の

制限を実施します。(ケ)農地災害等を防止するため、ハード整

備に加え、防災情報を関係者が共有するシステムの構築や減災のための指針づくり等のソフト対策を推進し、地域住民の安全な生活の確保を図ります。

(コ)橋きょう

梁りょう

の耐震対策、道路斜面や盛土等の防災対策、災害のおそれのある区間を回避する道路整備を推進します。また、冬期の道路ネットワークを確保するため、道路の除雪、防雪、凍雪害防止を推進します。

オ 経済の活性化を支える基盤の整備(ア)日常生活の基盤としての市町村道から

国土構造の骨格を形成する高規格幹線道路に至る道路ネットワークの強化を推進します。

(イ)農産物の海上輸送の効率化を図るため、船舶の大型化等に対応した複合一貫輸送ターミナルの整備を推進します。

(ウ)「道の駅」の整備により、休憩施設と地域振興施設を一体的に整備し、地域の情報発信と連携・交流の拠点形成を支援します。

(エ)都市と農村地域を連絡するなど、地域間の交流を促進し、地域の活性化に資する道路の整備を推進します。

(3)深刻化、広域化する鳥獣被害への対応ア 「鳥獣による農林水産業等に係る被害の

防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)に基づき市町村による被害防止計画の作成及び鳥獣被害対策実施隊の設置・体制強化を推進します。

イ 鳥獣の急速な個体数増加や分布拡大により、被害が拡大するおそれがあることから、関係省庁が連携・協力し、個体数等の削減に向けて、25年12月に定めた「抜本的な鳥獣捕獲対策」及び26年4月に定めた「ニホンザルの被害対策の考え方」に基づき、捕獲等の対策を推進します。

ウ 市町村が作成する被害防止計画に基づく、鳥獣の捕獲体制の整備、箱わなの導

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入、侵入防止柵の設置、鳥獣の捕獲・追払い、緩衝帯の整備、捕獲鳥獣を地域資源として利活用するための処理加工施設の整備やジビエの需要拡大等の取組を推進します。エ 東日本大震災や東電福島第一原発事故に

伴う捕獲活動の低下による鳥獣被害の拡大を抑制するための侵入防止柵の設置等を推進します。オ 鳥獣の生息環境にも配慮した森林の整

備・保全活動等を推進します。カ 地域における技術指導者の育成を図るた

め、普及指導員、市町村職員、農林漁業団体職員等を対象とする研修を実施します。キ 鳥獣を誘引しない営農管理手法など、鳥

獣被害を防止する技術の開発を推進します。ク 地域ブロック単位の連絡協議会の積極的

な運営や、鳥獣被害対策のアドバイザーを登録・紹介する取組を推進します。

2 多様な地域資源の積極的活用による雇用と所得の創出

(1)地域の農産物等を活かした新たな価値の創出ア 農林漁業者等と食品製造・流通業者等の

多様な事業者がネットワークを構築して取り組む新商品開発、農林水産物の加工・販売施設の整備等の取組及び市町村の6次産業化等に関する戦略に沿って行う地域ぐるみの6次産業化の取組を支援します。イ 農林水産業・農山漁村に豊富に存在する

資源を活用した、革新的な産業の創出に向け、農林漁業者と異業種の事業者間の連携により、市場ニーズに即した商品開発や新たなサービスを創造するための事業化可能性調査や新技術等の実証を支援します。ウ 山村の豊かな地域資源の活用を通じた地

元の所得や雇用の増大に向け、農林業者を始めとする地域住民が協力して行う、農林水産物やその加工品などの地域資源の利用状況・活用可能量の調査、資源活用のため

の活動組織づくり、技術研修などの人材育成、地域産品のマーケティング調査、商品開発、商品パッケージのデザイン検討等の取組を支援します。

(2)バイオマスを基軸とする新たな産業の振興

ア バイオマスの活用の推進に関する施策についての基本的な方針、国が達成すべき目標等を定めた「バイオマス活用推進基本計画」(22年12月策定)及び「バイオマス事業化戦略」(24年9月策定)に基づき施策を推進します。関係府省の連携の下、地域のバイオマスを活用した産業化を推進し、地域循環型の再生可能エネルギーの強化と環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市の構築に向けた取組を支援します。

イ バイオマスの効率的な収集・変換等の技術の開発、システムの構築を進めることとし、以下の取組を実施します。

(ア)農林漁業に由来するバイオマスのバイオ燃料向け利用の促進を図り、国産バイオ燃料の生産拡大に資するため、「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律」(平成20年法律第45号)に基づく事業計画の認定を行い支援します。

(イ)農山漁村の自立・分散型エネルギーシステムの形成に向けて、地域資源を活用した効率的かつ低コストなエネルギー利活用技術の開発を推進します。

(ウ)下水道を核とした資源・エネルギーの循環のため、バイオマスである下水汚泥等の利活用を図り、下水汚泥等のエネルギー利用、リン回収・利用等を推進します。

(3)農村における地域が主体となった再生可能エネルギーの生産・利用

農山漁村に豊富に存在する土地、水、バイオマス等の資源を再生可能エネルギーとして活用し、農山漁村の活性化を図るため、次の取組を実施します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

Page 159: 地域資源を活かした 農村の振興・活性化...(地域コミュニティ機能の維持・発揮) 高齢化や人口減少の進行が著しい中山間地域等においては、多くの集落において集落規

ア 「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(平成25年法律第81号)を積極的に活用し、農地等の利用調整を適切に行いつつ、再生可能エネルギーの導入と併せて、地域農業の健全な発展に資する取組を促進します。イ 農林漁業者やその組織する団体が主導す

る再生可能エネルギー発電の事業構想から運転開始に至るまでに必要な様々な手続・取組、エネルギーの地産地消に向けた農林漁業を中心とする地域内のエネルギーマッチング、小水力等発電施設の整備に係る調査設計及び施設整備等の取組を支援します。

(4)農村への農業関連産業の導入等による雇用と所得の創出

食品製造業など農業関連産業の農村への導入等を通じた、農村における雇用と所得の創出の促進を図ります。

3 多様な分野との連携による都市農村交流や農村への移住・定住等

(1)観光、教育、福祉等と連携した都市農村交流ア グリーン・ツーリズム等、農山漁村の持

つ豊かな自然や「食」を観光、教育等に活用する地域協議会による地域活動を支援し、都市と農山漁村の共生・対流等を推進します(子ども農山漁村交流プロジェクト、「農」と福祉の連携プロジェクト、空き家・廃校活用交流プロジェクト、農観連携プロジェクトを関係省庁と連携して実施)。イ 観光に関係する府省庁の連携により都市

と農村の交流を促進します。また、農林水産省と観光庁の「農観連携の推進協定」

(26年1月締結)に基づき、グリーン・ツーリズムと他の観光の組合せによる、新たな観光需要の開拓等について連携します。ウ 観光を通じた地域振興を図るため、地域

の関係者が連携し、地域の幅広い資源を活用し地域の魅力を高めることにより、国内外の観光客が2泊3日以上の滞在交流型観光を行うことができる「観光圏」の整備を促進します。

エ 農山漁村が有する教育的効果に着目し、農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村宿泊体験等を推進するとともに、農山漁村を健康づくりの場等として活用する取組を支援します。

オ 高齢者の生きがいづくり、障害者の就労訓練・雇用の場として「農」を取り入れたいというニーズに応えるため、関係省庁が連携し高齢者や障害者を対象とした福祉農園等の開設・整備に関する取組、農業・福祉関係者を対象とした研修会の開催、農業専門家の派遣等を支援します。

カ 広域観光周遊ルート上の農山漁村地域において、訪日外国人旅行者による農林水産物等に関する新たな需要を創出するための受入体制づくりを支援するため、訪日外国人による農林水産物購入を促進する環境構築や施設整備を実施します。

キ 地域の伝統的農林水産業の価値及び認知度向上につながる世界農業遺産の拡大に向けた取組を推進します。また、こうした取組を更に盛り上げていくため、世界農業遺産の国内版として日本農業遺産の創設を検討します。

ク 「「子どもの水辺」再発見プロジェクト」の推進、水辺整備等により、河川における交流活動の活性化を支援します。

ケ 「歴史的砂防施設の保存活用ガイドライン」(15年5月策定)に基づき、景観整備・散策路整備等の周辺整備等を推進します。また、歴史的砂防施設及びその周辺環境一帯を地域の観光資源の核に位置付けるなど、新たな交流の場の形成を推進します。

コ 「エコツーリズム推進法」(平成19年法律第105号)に基づき、全体構想の認定・

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周知、技術的助言、情報の収集、普及・啓発広報活動などを総合的に実施します。サ 自然観光資源を活用したエコツーリズム

を推進するため、全体構想の作成、魅力あるプログラムの開発、ガイド等の人材育成など、地域における活動の支援を行います。シ 良好な農村景観の形成等(ア)良好な農村景観の再生・保全を図るた

め、コンクリート水路沿いの植栽等、土地改良施設の改修等を推進します。

(イ)棚田・疏そ

水すい

など将来に残すべき農村景観・資源を保全・復元・継承するための取組を推進します。

(ウ)河川においては湿地の保全・再生や礫れき

河原の再生等、自然再生事業を推進します。

(エ)魚類等の生息環境改善等のため、河川等に接続する水路との段差解消により水域の連続性の確保、生物の生息・生育環境を整備・改善する魚のすみやすい川づくりを推進します。

(2)多様な人材の都市から農村への移住・定住ア 福祉、教育、観光等との連携により交流

人口の拡大や農山漁村地域への定住促進を図るため、農山漁村の空き家・廃校・耕作放棄地等の地域資源を活用した取組や、拠点施設等の整備等を関係省庁と連携して支援します。イ 農山漁村の持つ豊かな自然や「食」を福

祉、教育、観光等に活用する地域活動の推進に必要な外部専門家や都市人材を長期に受け入れ、地域活性化と暮らしの安心につなげていく取組について、総務省の「地域おこし協力隊」と一体的に運用を行います。ウ 二地域居住等に関する国や地方公共団体

の支援策や取組について情報発信を行います。

また、本格的な二地域居住等に繋げていくための潜在的な需要を喚起するため、官民が連携した二地域居住等の推進に係る取組をモデル的に支援し、その成果等を普

及・啓発します。(3)多様な役割を果たす都市農業の振興

新鮮な農産物の供給、農作業体験の場や防災空間の確保等、都市農業が有する多様な機能の発揮のため、都市住民の理解の促進を図りつつ、都市農業の振興に向けた取組を推進します。

また、関係省庁と連携して、都市農業に関する制度等の調査・検討を進めます。

Ⅴ 東日本大震災からの復旧・復興に関する施策

「東日本大震災からの復興の基本方針」(23年8月改訂)に沿った復興に向けた支援としては、「農業・農村の復興マスタープラン」(23年8月策定)や「避難指示解除準備区域等における公共インフラ復旧の工程表」に沿って、農地の大区画化等の取組を推進するとともに、被害が甚大な農地や避難指示区域内の農地の復旧と早期の営農再開に向けた支援を行います。

また、東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)に沿って、関係府省が連携し、津波被災地域等の円滑かつ迅速な復興を図ります。(1)地震・津波災害からの復旧・復興ア 農地等の生産基盤の復旧・整備(ア)農地・農業用施設災害復旧等

被災した農地や農業用施設等の着実な復旧を進めます。

(イ)農業水利施設等の震災対策地震により損壊のおそれがある農業水

利施設の改修・整備等を実施します。(ウ)被災土地改良区復興支援

被災により経常賦課金の支払が困難な農家の迅速な営農再開を図るため、土地改良区に対して資金借入れの無利子化や業務書類・機器等の復旧支援を行います。

(エ)農地・水保全管理支払震災の影響により破損や機能低下した

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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農地周りの施設の補修等に取り組む集落を支援します。

(オ)被災者営農継続支援耕作放棄地活用被災を免れた地域や避難先等において

荒廃農地を活用し営農活動を再開する被災農業者等の取組を支援します。

(カ)災害廃棄物処理への対応福島県(避難区域を除く)において

は、個々の市町村の状況に応じて、災害廃棄物等の処理を進めることが必要であり、引き続き災害等廃棄物処理事業費補助金や災害廃棄物処理代行事業により、市町への支援を継続します。避難区域については、対策地域内廃棄物処理計画

(25年12月一部改定)に基づき、国が災害廃棄物等の処理を着実に進めていきます。

イ 経営の継続・再建(ア)農業経営の復旧・復興等のための金融

支援東日本大震災により被災した農業者等

に対して、速やかな復旧・復興のために必要となる資金が円滑に融通されるよう利子助成金等を交付します。

(イ)東日本大震災被災地域土地改良負担金の償還助成

被災した農地・農業用施設に係る償還中の土地改良事業等の負担金について、利子助成事業を実施し、営農再開まで農家を支援します。

(ウ)浸水農地における農業共済の引受け海水が流入した浸水農地にあっても、

除塩により収穫が可能と見込まれる農地については、現地調査を行い、水稲等の生育状況を踏まえて共済引受を行います。

ウ 東日本大震災農業生産対策交付金による生産手段の回復

震災の影響により低下した被災地の生産力の回復、農畜産物の販売力の回復などに向けた取組について、都道府県向け交付金として支援します。

エ 再生可能エネルギーの導入被災地域に存在する再生可能エネルギー

を活用し小水力等発電施設の整備に係る調査設計等の取組を支援します。

オ 農山漁村対策(ア)被災地の復興のための先端技術展開

被災地を食料生産地域として再生するため、岩手県、宮城県、福島県で実施している大規模実証研究の取組を引き続き行い、技術の導入効果を分析し、研究成果の普及を促進します。

(イ)農山漁村被災者受入円滑化支援被災地から他の地域への移転を行わざ

るを得ない被災農家等に対し、受入情報を提供し、受入地域とのマッチングを支援します。

カ 東日本大震災復興交付金(ア)被災地域農業復興総合支援

被災市町村が農業用施設・機械を整備し、被災農業者に貸与等することにより、被災農業者の農業経営の再開を支援します。

(イ)震災対策・戦略作物生産基盤整備震災によって著しい被害を受けた地域

において、畦けい

畔はん

除去等による区画拡大や暗あん

渠きょ

排水等の農地の整備、老朽施設の更新等の農業水利施設の整備をきめ細かく支援します。

(ウ)農林水産関係試験研究機関緊急整備被災県の基幹産業たる農林水産業を復

興するための農林水産研究施設等整備を支援します。

(エ)農山漁村地域復興基盤総合整備被災地域における農地・農業用施設や

集落道等の整備を支援します。(オ)農山漁村活性化プロジェクト支援(復

興対策)被災地域の復旧・復興のため、生産施

設、地域間交流拠点施設等の整備を支援します。

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(2)原子力災害からの復旧・復興ア 食品中の放射性物質の検査体制及び食品の出荷制限

(ア)原子力災害対策本部は、食品中の放射性物質の基準値を踏まえ、検査結果に基づき、都道府県等に対して食品の出荷制限・摂取制限の設定・解除を行います。

(イ)都道府県等に食品中の放射性物質の検査を要請します。また、都道府県の検査計画策定の支援、都道府県等からの依頼に応じた民間検査機関での検査の実施、検査機器の貸与を行います。さらに、引き続き、都道府県等が行った検査の結果を集約し、公表します。

(ウ)消費者の安全・安心を一層確保するため、独立行政法人国民生活センターとの共同により、希望する地方公共団体に放射性物質検査機器を貸与し、消費サイドで食品の放射性物質を検査する体制の整備を支援します。

(エ)児童生徒や保護者のより一層の安心を確保するため、学校給食における放射性物質の検査を実施し、結果を公表します。

イ 稲の作付制限等28年産稲の作付制限区域及び農地保全・

試験栽培区域における稲の試験栽培、作付再開準備区域における実証栽培等の取組に対して支援を行います。ウ 放射性物質の吸収抑制対策

放射性物質の農作物への吸収抑制を目的とした資材の施用、品種・品目転換等の取組を支援します。エ 農業系副産物循環利用体制の再生・確立

放射性物質の影響から、利用可能であるにも関わらず循環利用が寸断されている農業系副産物の循環利用体制の再生・確立を支援します。オ 避難区域等の営農再開支援

避難区域等において、除染終了後から営農が再開されるまでの間の農地等の保全管理、鳥獣被害防止緊急対策、放れ畜対策、

営農再開に向けた作付実証、避難からすぐに帰還しない農家の農地の管理耕作、収穫後の汚染防止対策、水稲の作付再開及び新たな農業への転換に対して支援します。

カ 肥料等の規制肥料の検査計画立案、検査法開発に必要

な科学的データを収集するための試験や実態調査を実施します。

キ 農産物等輸出回復諸外国・地域において日本産食品に対す

る輸入規制が行われていることから、関係省庁と協力し、各種資料・データを提供しつつ輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを引き続き実施します。

ク 農産物等消費拡大推進(ア)福島県産農産物等について、産地と連

携しつつ出荷時期に合わせて戦略的かつ効果的にPRを行うことにより、福島県産農産物等に対する正しい理解を促進し、ブランド力を回復する事業を実施します。

(イ)被災地及び周辺地域で生産された農林水産物及びそれらを活用した食品の消費の拡大を促すため、生産者や被災地の復興を応援する取組をPRするとともに、被災地産食品の販売促進等、官民の連携による取組を推進します。

ケ 農地土壌等の放射性物質の分布状況等の推移に関する調査

今後の営農に向けた取組を進めるため、農地土壌等の放射性核種の濃度を測定し、農地土壌の放射性物質濃度の推移を把握します。

コ 放射性物質対策技術の開発東電福島第一原発事故の影響を受けた被

災地での本格的な営農の早期再開のため、除染後農地の省力的維持管理技術や農地への放射性物質の流入防止技術等の開発、放射性セシウムの吸収モデルの構築を推進します。

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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サ ため池等の放射性物質のモニタリング調査、ため池等の放射性物質対策

ため池等における水質・底質の放射性物質の経年変化等を把握するため、放射性物質のモニタリング調査等を行います。また、市町村等がため池の放射性物質対策を効果的・効率的に実施できるよう技術的助言等を行います。シ 東電福島第一原発事故で被害を受けた農林漁業者への賠償等

東電福島第一原発事故により農林漁業者等が受けた被害については、東京電力株式会社から適切かつ速やかな賠償が行われるよう、引き続き、関係省庁、関係県や団体、東京電力株式会社等との連絡を密にし、必要な情報提供や働きかけを実施します。ス 食品と放射能に関するリスクコミュニケーション

食品中の放射性物質に関する消費者の理解を深めるため、関係府省、各地方公共団体及び消費者団体等と連携した意見交換会等のリスクコミュニケーションの取組を促進します。セ 福島再生加速化交付金

福島の復興を加速化するため、以下の取組を行います。

(ア)農山村地域復興基盤総合整備事業農地・農業用施設の整備や農業水利施

設の保全管理、ため池の放射性物質対策等を支援します。

(イ)農山漁村活性化プロジェクト支援(福島復興対策)事業

生産施設、地域間交流拠点施設等の整備を支援します。

(ウ)農業基盤整備促進事業地域の実情に応じ、農地の畦

けい畔はん

除去による区画拡大や暗

あん渠きょ

排水整備等の簡易な基盤整備を支援します。

(エ)被災地域農業復興総合支援事業被災市町村が農業用施設・機械を整備

し、被災農業者に貸与等することによ

り、被災農業者の農業経営の再開を支援します。

(オ)農林水産関係試験研究機関緊急整備事業

基幹産業たる農林水産業を復興するための農林水産研究施設等整備を支援します。

(カ)木質バイオマス施設等緊急整備事業木質バイオマスや小水力等再生可能エ

ネルギー供給施設、木造公共建築物等の整備を支援します。

Ⅵ 団体の再編整備等に関する施策

ア 農業協同組合系統組織「農業協同組合法等の一部を改正する等

の法律」を踏まえ、農業者の所得向上に向けた自己改革を進めていくための取組を促進します。

イ 農業委員会系統組織「農業協同組合法等の一部を改正する等

の法律」を踏まえ、地域における農地等の利用の最適化(担い手への農地利用の集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規参入の促進)を推進します。

ウ 農業共済団体収入保険制度導入の検討と併せて農業災

害補償制度の在り方を検討する中で、農業共済団体の在り方についても検討を行います。

エ 土地改良区土地改良区の組織運営基盤の強化を図る

ため、広域的な合併支援等を行います。

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Ⅶ 食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

1 幅広い関係者の参画と関係府省の連携による施策の推進食料自給率の向上に向けた取組を始め、政府

一体となって実効性のある施策を推進します。

2 施策の進捗管理と評価(1)施策の進捗管理

施策の着実な推進を図るため、その実施に当たっては、手順、時期、手法及び目的を明らかにするとともに、随時、対象者の対応状況を把握することにより、進捗管理を行います。

(2)政策評価の適切な活用政策評価については、「食料・農業・農

村基本計画」(27年3月策定)等を踏まえた目標の設定を行い、設定した目標の達成度に関して実績の測定を行います。また、政策評価第三者委員会を公開し、議事録等をホームページに掲載するなど情報の公開を進めます。

3 財政措置の効率的かつ重点的な運用厳しい財政事情の下で予算を最大限有効に活

用する観点から、既存の予算を見直した上で「農林水産業・地域の活力創造プラン」に基づき、新たな農業・農村政策を着実に実行するための予算に重点化を行い、財政措置を効率的に運用します。

4 国民視点や地域の実態に即した施策の決定

(1)国民の声の把握ア 透明性を高める観点から、国民のニーズ

に即した情報公開、情報の受発信を推進します。イ 幅広い国民の参画を得て施策を推進する

ため、国民との意見交換等を実施します。

ウ 本省の意図・考え方等を地方機関に的確に浸透させるとともに、地方機関が把握している現場の状況を適時に本省に吸い上げ施策立案等に反映させるため、本省における会議のほかテレビ会議システムを活用して、地方農政局長等会議を開催します。

(2)科学的・客観的な分析ア 施策の科学的・客観的な分析

施策の立案から決定に至るまでの検討過程において、できる限り客観的なデータに基づいた計量経済分析等の科学的な手法を幅広く導入したり、国民に分かりやすい指標を開発したりするなど、施策を科学的・客観的に分析し、その必要性や有効性を明らかにします。

イ 政策展開を支える統計調査の実施と利用の推進

農政の推進に不可欠な情報インフラを整備し、的確に統計データを提供します。

(ア)農家等の経営状況や作物の生産に関する実態を的確に把握するため、農業経営統計調査、作況調査等を実施します。

(イ)面積調査の基礎となる農地ごとの区画情報の衛星画像を活用した電子化を推進し、これに段階的に、地番情報、耕作者情報、農地利用状況等の情報を付加することにより、精度の維持向上を図るとともに各種農林水産統計調査を効率的に実施します。

(ウ)6次産業化に向けた取組状況を的確に把握するため、27年度に引き続き、農業経営体等を対象とした調査を実施します。

(エ)市場化テスト(包括的民間委託)を導入した統計調査を引き続き実施します。

(オ)27年2月1日現在で実施した「2015年農林業センサス」の報告書及び総合分析書を作成・公表します。

5 効果的かつ効率的な施策の推進体制(1)施策の具体的内容等が生産現場等に速や

かに浸透するよう、関係者に対する周知・

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平成28年度 食料・農業・農村施策

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徹底、人材の育成や組織づくりを促進します。

(2)農林水産統計調査の実施に必要な高い専門性を身に付けた専門調査員の導入による職員調査の外部化を引き続き推進し、質の高い信頼性のある統計データの提供体制を確保します。

(3)農林水産分野の情報化と電子行政の実現ア ICTを活用した日本の農業・周辺産業

の高度化・知識産業化と国際展開に向けた取組を推進します。イ 国民の利便性・サービスの向上等を図る

ため、国民に広く利用されているオンライン手続の改善の取組及び政府情報システム改革ロードマップ等の着実な実施による業務・システムの改革等を推進します。

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