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地すべり災害対応の CIM モデル に関する技術資料(案) 令和 2 年 5 月 国立研究開発法人土木研究所 土砂管理研究グループ

地すべり災害対応のCIMモデル - PWRI1 1. はじめに 1.1 地すべり災害対応のCIM モデル作成の目的 発災直後から地すべり災害の全体像を3次元的に把握し、効果的かつ効率的な応急対策

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地すべり災害対応の CIM モデル

に関する技術資料(案)

令和 2 年 5 月

国立研究開発法人土木研究所

土 砂 管 理 研 究 グ ル ー プ

地 す べ り チ ー ム

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目次

1. はじめに ................................................................................................................. 1 1.1 地すべり災害対応の CIM モデル作成の目的 ...................................................... 1 1.2 適用範囲 ............................................................................................................. 2 1.3 事前準備 ............................................................................................................. 3

2. 地すべり災害対応の CIM モデル ........................................................................... 4 2.1 地すべり災害対応の CIM モデルの作成方針 ...................................................... 4 2.2 地すべり災害対応の CIM モデルの構成 ............................................................. 5 2.3 地すべり災害対応の CIM モデルの活用 ............................................................. 7

3. 概略地形モデルの作成.......................................................................................... 10 3.1 作業フロー ....................................................................................................... 10 3.2 写真撮影 ........................................................................................................... 11 3.3 3 次元点群データファイルの作成 ...................................................................... 12 3.4 モデルの確認 .................................................................................................... 13

4. 詳細地形モデルの作成.......................................................................................... 14 4.1 作業フロー ....................................................................................................... 14 4.2 レーザスキャナ計測 ......................................................................................... 15 4.3 地上写真撮影 .................................................................................................... 16 4.4 3 次元点群データの作成 .................................................................................... 17 4.5 モデルの確認 .................................................................................................... 18

5. 地すべり災害対応の CIM モデルの作成 ............................................................... 19 5.1 作業フロー ....................................................................................................... 19 5.2 データの統合 .................................................................................................... 20 5.3 統合モデルの確認 ............................................................................................. 20 5.4 レポートの作成 ................................................................................................ 21

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1. はじめに 1.1 地すべり災害対応の CIM モデル作成の目的

発災直後から地すべり災害の全体像を 3 次元的に把握し、効果的かつ効率的な応急対策

の実施に資するため、「地すべり災害対応の CIM モデル」を作成する。

【解説】

斜面等に地すべりによる変状が確認された場合、変状範囲の調査や移動量の計測が行わ

れ、地すべり発生機構の推定、地すべりの運動予測、拡大の可能性の検討、影響範囲の推定

が行われる。これらを踏まえて警戒避難体制の整備や応急工事等が実施されるが、その際に

重要なのは斜面地形、変状の発生状況、保全対象の分布状況等の 3 次元的な位置関係をふま

えた地すべり災害の全体像を正確に理解し、検討を行うことである。

上記の目的に用いることができるデータとしては、オルソ画像、陰影図、DEM とオルソ画

像の重ね合わせ、カラー点群データ等がある。このうち、カラー点群データは、地形や地物

の形状・色を 3次元的に表現できるため、災害の全体像を把握しやすいと考えられる。

そこで、発災直後から地すべり災害の全体像を 3次元的に把握し、効果的かつ効率的な応

急対策の実施に資するため、カラー点群データからなる 3 次元地形モデルを基盤とした「地

すべり災害対応の CIM モデル」を作成する。

図 1 斜面地形の把握に用いられる各種データのイメージ

陰影図 オルソ画像

DEM とオルソ画像の重ね合わせ カラー点群データ

陰影図

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1.2 適用範囲

本資料で示す「地すべり災害対応の CIM モデル」は、地すべり災害発生直後に 1日程度の

作業で作成し、応急対策の検討に活用することを想定している。

【解説】

地すべり災害の発生後、応急対策段階において警戒避難対策や応急対策工事等の検討が

行われる。その後、復旧・復興段階に移行し、災害復旧事業、災害関連緊急事業等が本格実

施される 1,2)。

特に地すべりによる地形変化が大きい場合は、既往の地図等では現地状況の把握が難し

いため、地すべり発生後の地形データ等に基づく対策の検討が必要である。

発災直後の応急対策段階から CIM の活用が可能であれば、効果的かつ効率的な応急対策

の実施に資すると期待されることから,本資料においては、1日程度の作業によって、迅速

かつ簡便に実施できる「地すべり災害対応の CIM モデル」の作成方法を示す。復旧・復興段

階における CIM の活用については、CIM 導入ガイドライン 3,4)に沿った精度の高い CIM モデ

ルを用いた対応が可能と考えられる。もちろん、応急対策段階においても CIM 導入ガイドラ

インに沿った対応が可能であれば、より望ましいと考えられる。

表 1 地すべり災害対応における CIM 活用

段階 応急対策 復旧・復興

対応の例 警戒避難対策、

応急対策工事

災害復旧事業、

災害関連緊急事業

CIM モデル 地すべり災害対応の CIM モデル 地すべり機構解析の CIM モデル、

地すべり防止施設の CIM モデル

参考資料 本資料 CIM 導入ガイドライン

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1.3 事前準備

「地すべり災害対応の CIM モデル」を、地すべり災害発生直後に迅速に作成するため、使

用可能なデータの把握、協定会社の保有する資機材の把握、CIM モデル操作環境の整備等、

災害発生前から必要な準備をしておくことが重要である。

【解説】

基盤地図情報等の公開データや各機関において独自で整備されているデータ等、地すべ

り災害対応の CIM モデルに使用可能なデータを予め把握しておくことが重要である。また、

災害時に協力を依頼する協定会社等の保有する計測機材やソフトウエアを事前に把握して

おくことも重要である。

地すべり災害対応の CIM モデルを関係機関相互の情報伝達や打合せ協議、地域住民やマ

スコミへの説明に活用するためには、CIM モデルを操作可能なパソコンやソフト、オンライ

ン上で CIM モデルを共有可能なシステム等の環境が必要となるため、事前に整備しておく

ことが必要である。

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2. 地すべり災害対応の CIM モデル 2.1 地すべり災害対応の CIM モデルの作成方針

地すべり災害対応の CIM モデルは、時間的余裕がない発災直後に作成することから迅速

性を優先することとし、精度は地すべり災害の全体像の把握に必要なレベルとする。

【解説】

地すべり災害対応の CIM モデルを作成する目的は、発災直後の地すべり災害の全体像の

把握及び警戒避難対策、応急対策工事への活用である。本 CIM モデルに求められる要件はい

くつかあるが、まず、短時間で作成が可能であることが挙げられ、1 日程度で作成できるこ

とを目標としている。そのため、「UAV を用いた公共測量マニュアル(案)」5) や「地上レー

ザスキャナを用いた公共測量マニュアル(案)」6)で定められているような精度は求めず、あ

くまで地すべり災害の全体像の把握に必要なレベルとし、迅速性を優先する。また、実施で

きる者が限定されないよう、特殊な技術が不要であることも重要と考えた。

表 2 地すべり災害対応の CIM モデル作成方針

目的 ・発災直後の地すべり災害の全体像の把握

・発災直後の警戒避難対策、応急対策工事への活用

要件 ・短時間で作成が可能であること

・特殊な技術が不要であること

・精度は概要が把握できるレベルで可

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2.2 地すべり災害対応の CIM モデルの構成

地すべり災害対応の CIM モデルは、保全対象域も含めた地すべり災害全体の概略地形モ

デルを基本とし、必要に応じて、変状発生域の部分的な詳細地形モデルや緊急的な調査の結

果、警戒避難対策・応急対策工事の検討結果、基盤地図情報等の公開データ等を組み合わせ

たものとする。

【解説】

地すべり災害対応の CIM モデルは、迅速性を優先するために地すべり災害全体の概略的

な精度の地形モデルを基本とし、必要に応じて各種データを組み合わせる。

現地踏査において地すべり性の変状が確認された場合、主要な変状発生箇所について詳

細な点群データを取得し、地すべり災害全体の概略地形モデルと統合することが望ましい。

また、緊急的な調査の結果、警戒避難対策・応急対策工事の検討結果、基盤地図情報・国土

数値情報等の公開データ等を組み合わせることも効果的である。

例えば、地すべり災害全体の概略地形モデルと詳細地形モデルを組み合わせた手法では、

①地すべり災害全体の概略地形モデルを UAV による写真撮影と SfM 解析によって作成し、

②変状発生域の部分的な詳細地形モデルをレーザースキャナによって作成して、2つのモデ

ルを組み合わせる手法が実用的である。②変状発生域の部分的な詳細地形モデルの作成に

おいて、迅速性をさらに優先する場合は、精度は落ちるが、地上写真撮影と SfM 解析によっ

て地形モデルを作成する手法も有効である。

図 2 地すべり災害対応 CIM モデルの作成手法イメージ

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図 3 概略地形モデルと詳細地形モデルの組み合わせイメージ

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2.3 地すべり災害対応の CIM モデルの活用

地すべり災害対応の CIM モデルは、地すべり災害の全体像の把握、警戒避難体制の検討、

応急対策の検討等に活用できる。また、Web での共有を行うことで国土交通省・都道府県等

の関係機関相互の情報伝達や打合せ協議、専門家による技術支援にも活用できる。また、視

覚的にわかりやすい特徴を生かし、地域住民やマスコミへの説明に活用することも効果的

である。

【解説】

(1) 警戒避難体制の検討(例)

CIM モデルによって、地すべりの範囲と方向、拡大の可能性のある範囲、地すべり下方

斜面の形状、保全対象との位置関係等を 3 次元的に確認し、警戒避難範囲を検討する。

検討の際には、CIM モデルを動かして多数の方向からの視点で地すべりの影響範囲を予

測することが有効である。

図 4 警戒避難範囲の検討の活用イメージ(多方向からの確認)

(概略地形モデル+避難範囲の検討結果+国土地理院 5mDEM+国土数値情報)

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(2) 応急対策の検討(例)

CIM モデルによって、土砂流出が発生した場合の流出経路の 3 次元的な検討、地形形

状や地物の配置の現地の状況等を考慮し、応急対策工の配置計画や施工計画の検討に活

用する。発災後のカラー点群データを取得し、土砂の堆積状況や現地の段差や勾配の状

況、構造物・道路・河川・樹木の配置等を確認した上で検討を行うことが有効である。

図 5 応急対策の検討への活用イメージ

(3) CIM モデルの Web 共有(例)

国土交通省・都道府県等の関係機関相互の情報伝達、打合せ協議、専門家による技術

支援において、Web-GIS や Web 会議システムを活用してオンラインで現場の CIM モデル

を共有する。現地状況写真と 3 次元形状が組み合わさって表現される CIM モデルは、い

わば「バーチャル現場モデル」のようなものである。これを活用することで、状況認識

の共通化、判断の迅速化、誤解による間違い防止等の効果が期待される。

図 6 Web-GIS による CIM モデルの Web 共有イメージ

(概略地形モデル+1mDEM・オルソ画像+国土数値情報)

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図 7 Web 会議システムによる CIM モデルの Web 共有イメージ

(4) 地域住民やマスコミへの説明に活用(例)

視覚的にわかりやすい CIM モデルを地域住民やマスコミへの説明に活用することで、

地すべりの全体像、現地状況についての理解が向上すると考えられる。

図 8 CIM モデルを活用したマスコミ等への説明イメージ

(CIM モデルの画像はハメコミ合成)

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3. 概略地形モデルの作成 3.1 作業フロー

概略地形モデルの作成は、以下の手順に従って実施する。

① 写真撮影

② 3 次元点群データファイルの作成

③ モデルの確認

【解説】

時間的余裕がない発災直後における地すべり災害の全体像の把握が目的であるため、迅

速性を優先することとし、精度向上のための評定点及び検証点の設置については必須とし

ない。

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3.2 写真撮影

UAV を用いて 3 次元形状復元計算用に空中写真撮影を行う。

【解説】

撮影範囲等の仕様について表 3 に示す。

表 3 UAV を用いた写真撮影の主な仕様(例)

撮影範囲 地すべり全体を含めた周辺地形、及び周辺の保全対象域

周辺地形は、地すべり拡大の可能性をふまえて広めに設定すること

が望ましい

撮影形式 静止画(GPS 位置情報付き)

撮影枚数 SfM 処理が可能な重複度(進行方向ラップ率 80%、隣接ラップ率 60%

程度を目安)で連続して複数枚撮影

撮影方法 「垂直写真+評定点による補正」を基本とする。

ただし、評定点を置けない場合や飛行制約がある場合、以下も可

「斜め写真+垂直写真」:同一ルートで2回撮影

→斜め写真と組合せることで Z座標の精度向上を図るもの

さらに迅速性を優先する場合は、斜め写真のみでも可

「斜め写真+垂直写真」による撮影方法イメージ

カメラ設定 ISO[100~400 程度] 、シャッタースピード [1/1000 程度]

機体操作 写真がブレないように低速飛行[1~2m/s 程度]

撮影高度 対地高度 10m~30m 程度。点密度の低下を防ぐために、なるべく対地

高度を一定とすることが望ましい。

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3.3 3 次元点群データファイルの作成

写真測量ソフトにより、3 次元形状復元計算を行い、3 次元点群データファイルの生成を

行う。

【解説】

生成する 3次元点群データファイルの仕様を表 4に示す。

表 4 3 次元点群データファイルの仕様(例)

データ形式 LAS 形式(CSV、TXT 形式でも可)

データ内容 座標値(X、Y、Z)と点の色彩を表す RGB 座標値(R、G、B)

座標系 平面直角座標系(JGD2011)

その他 迅速性を優先し、サーフェスモデルや DEM データ等は不要

3次元点群データ TXT 形式ファイルイメージ

X Y Z R G B

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3.4 モデルの確認

作成した 3 次元地形モデルの品質の把握を目的として、写真測量ソフトによるレポート

を作成し、位置のズレ等の確認を行うことが望ましい。

【解説】

作成した 3 次元地形モデルの 3 次元的なズレ等の品質の把握を目的として、写真測量ソ

フトによる点群作成時に、レポートを作成することが望ましい。

また、公開されている DEM データ(国土地理院 5mDEM 等)と作成した 3次元地形モデルを重

ね合わせ、XY方向、Z方向及び回転等のズレがどの程度のものか確認できるようにすること

が望ましい。これらの結果は、5.4 レポートの作成に反映させる。

本作業は、災害対応の検討・判断を行う上で、モデルのズレ等を考慮する際の参考にする

ものであり、成果品の品質チェックを行う目的ではない。

図 9 DEM データと 3次元地形モデルの重ね合わせによる位置のズレ確認イメージ

左図:3 次元地形モデルが Z 方向にズレ、斜面末端の地表面が住宅よりも高い

右図:Z 方向を修正し、地表面の高さを揃えたもの

図 10 写真測量ソフトによるレポートイメージ

Z 方向に ズレている

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4. 詳細地形モデルの作成 4.1 作業フロー

主要な変状発生箇所における詳細地形モデルの作成は、以下の手順に従って実施する。

① 地上踏査時の変状発生箇所の計測(レーザスキャナ計測または地上写真撮影)

② 3 次元点群データファイルの作成

③ モデルの確認

【解説】

地すべり災害対応の CIM モデルは、保全対象域も含めた地すべり災害全体の概略地形モ

デルを基本としており、主要な変状発生箇所における詳細地形モデルについては、必要に応

じて作成する。作成する場合の評定点及び検証点の設置は必須としない。

地上踏査時の変状発生箇所の計測はレーザスキャナ計測が望ましいが、機材確保が困難

な場合や迅速性を優先する場合には地上写真撮影による手法も、精度は落ちるが有効であ

る。

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4.2 レーザスキャナ計測

可搬型レーザスキャナを用いて地上踏査時に変状箇所について計測を行う。

【解説】

可搬型レーザスキャナ計測の主な仕様を表 5に示す。

表 5 レーザスキャナ計測の主な仕様(例)

計測範囲 地表面の亀裂や構造物の変状発生箇所等の部分的な変状発生域

評定点設置 点群統合のため、評定点を 3 点程度設置する。迅速性を優先させ

る場合、位置情報の取得までは求めない。

計測方法 可搬型レーザースキャナを用いて、変状発生域の 3 次元計測を行

う。計測回数は計測器の性能等に準拠する。

レーザスキャナによる計測方法イメージ

計測データ統合 評定点を用いて 3 次元点群の統合を行う。

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4.3 地上写真撮影

3 次元形状復元計算用に、地上踏査時に携行するカメラで変状箇所について写真撮影を行

う。

【解説】

地上写真撮影の主な仕様を表 6 に示す。

表 6 手持ちカメラによる地上写真撮影の主な仕様(例)

撮影範囲 地表面の亀裂や構造物の変状発生箇所等の部分的な変状発生域

撮影形式 静止画(GPS 位置情報付き)

撮影枚数 SfM 処理が可能な重複度(ラップ率 80%程度を目安)で連続して複

数枚撮影

撮影方法 ①変状発生箇所に対して平行に移動しながら、撮影写真が重なる

ように連続撮影する

②対象物に対して斜めの位置からの写真を複数枚撮影する。撮影

位置は対象物撮影範囲の両端からの撮影を標準とし、規模に応

じて、平行移動の途中の箇所でも複数枚写真撮影を行う。

③上記で撮影する写真のうち数枚については、位置補正に活用す

るため、水平及び垂直に設置したスケール(ポールやスタッフ等

の)を写真内に入れる。

※評定点の設置が可能な場合は、評定点を含む写真撮影でも可

手持ちカメラによる地上写真撮影方法イメージ

カメラ設定 ISO[100~400 程度] 、シャッタースピード [1/1000 程度]

カメラ操作 写真がブレないように注意する

撮影距離 対象物との距離がほぼ一定となるようにする

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4.4 3 次元点群データの作成

レーザスキャナ計測の場合は、機器付属ソフト等により、測量したデータから 3 次元点群

データの生成を行う。地上写真撮影の場合は、写真測量ソフトにより、3 次元形状復元計算

を行い、3次元点群データの生成を行う。

【解説】

生成する 3次元点群データファイルの仕様を表 7に示す。

表 7 3 次元点群データファイルの仕様(例)

データ形式 LAS 形式(CSV、TXT 形式でも可)

データ内容 座標値(X、Y、Z)と点の色彩を表す RGB 座標値(R、G、B)

座標系 平面直角座標系(JGD2011)

その他 迅速性を優先し、サーフェスモデルや DEM データ等は不要

3次元点群データ TXT 形式ファイルイメージ

X Y Z R G B

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4.5 モデルの確認

作成した点群データによる 3 次元地形モデルの品質の把握を目的として、地上踏査時に

現地で確認した変状等の状況と比較して確認を行うことが望ましい。

【解説】

作成した点群データによる 3 次元地形モデルの 3 次元的なズレ等の把握を目的として、

地上踏査時に現地で撮影した変状等の写真と作成した 3 次元地形モデルとを目視で比較し

て大きな相違がないか等の確認を行う。地上写真撮影による手法では、写真測量ソフトによ

るレポートも作成することが望ましい。これらの結果は、5.4 レポートの作成に反映させ

る。

本作業は、災害対応の検討・判断を行う上で、モデルのズレ等を考慮する際の参考にする

ものであり、成果品の品質チェックを行う目的ではない。

図 11 現地踏査時の写真と作成した 3 次元モデルとの比較確認イメージ

左図:現地で撮影した写真

右図:点群データによる 3 次元地形モデル

写真 点群データ

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5. 地すべり災害対応の CIM モデルの作成 5.1 作業フロー

地すべり災害対応の CIM モデルの作成は、以下の手順に従って実施する。

① データの統合

② 統合モデルの確認

③ レポートの作成

【解説】

地すべり災害対応の CIM モデルは、保全対象域も含めた地すべり災害全体の概略地形モ

デルを基本とし、必要に応じて、変状発生域の部分的な詳細地形モデルや緊急的な調査の結

果、警戒避難対策・応急対策工事の検討結果、基盤地図情報等の公開データ等を組み合わせ

たものとしている。

地すべり災害対応の CIM モデルの作成は、以下の手順に従って実施する。

① 概略地形モデル、詳細地形モデル、調査結果、検討結果、公開データ等の統合

② 統合モデルの確認

③ レポートの作成

地すべり災害対応の CIM モデルは、時間的余裕がない発災直後に作成することから、迅速

性を優先することとし、精度向上のための評定点及び検証点による、各モデルやデータ間の

精緻な位置合わせは必須作業とはしない。

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5.2 データの統合

概略地形モデルをベースとして、必要に応じて作成した、詳細地形モデルや調査結果、検

討結果、公開データ等を統合する。

【解説】

概略地形モデルとして作成した 3 次元点群データをベースとして、詳細変状モデルとし

て作成した 3 次元点群データや緊急的な調査の結果、警戒避難対策・応急対策工事の検討結

果、基盤地図情報等の公開データ等を、GIS ソフトや CAD ソフトにより統合する。

データの統合の具体的な手法としては、まず、点群データや各種公開データ等の保有する

座標値をもとに GIS ソフトや CAD ソフトに表示する。次に、各データ間で同一点とみなす

ことができる特徴を持つ点を参考にして、ソフト上で相対的な位置合わせを行い、データの

統合を行う方法が実用的である。

5.3 統合モデルの確認

3 次元点群データ等を統合した CIM モデルの品質の把握を目的として、統合した各モデル

やデータ間の位置関係や縮尺等を比較して確認を行う。

【解説】

3 次元データを統合した CIM モデルの 3 次元的なズレ等の把握を目的として、統合した各

モデルやデータ(概略地形モデル、詳細変状モデル、緊急的な調査の結果、警戒避難対策・

応急対策工事の検討結果、基盤地図情報等の公開データ等)の位置関係や回転の程度、縮尺

等を比較して確認を行う。また、地上踏査時に現地で確認した状況とも比較して定性的な確

認を行う。これらの結果は、5.4 レポートの作成に反映させる。

本作業は、災害対応の検討・判断を行う上で、モデルのズレ等を考慮する際の参考にする

ものであり、成果品の品質チェックを行う目的ではない。

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5.4 レポートの作成

統合した各種モデルやデータ間の位置関係の確認等、地すべり災害対応の CIM モデルを

利用するうえで留意しておくべき事項を明示したレポートを作成する。

【解説】

本モデルの活用を想定している発災直後の段階においては、警戒避難体制の検討等の災

害対応にあたり、その時点で収集された資料に基づいて検討をしていく必要がある。そのた

め、対応の検討に利用する資料の正確性もしくは不確実性等も考慮したうえで災害対応の

検討を行う必要があり、地すべり災害対応の CIM モデルについても、位置のズレ等、利用に

あたり留意しておくべき事項を明示したレポートを作成する必要がある(表 7)。

統合した地すべり災害対応の CIM モデルのレポート作成においては、概略地形モデルの

確認(3.4 章)や詳細地形モデルの確認(4.5 章)、統合モデルの確認(5.3 章)をまとめた総

合的なレポートを作成し、CIM モデルを使用する上での留意点等を取りまとめることとする。

表 8 レポート作成の主な項目

位置関係の確認

・各モデルやデータ間の位置関係の確認

→位置のズレ、回転の程度、縮尺等の記載

位置合わせ等の修正を行った場合には、修正内容を記載

写真測量ソフトによる

レポート

・概略地形モデルや詳細変状モデルの 3次元点群データ作成時

における写真測量ソフトによるレポートの提示

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参考文献

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2)竹下航・杉本宏之・和田佳記(2019):地すべり CIM の活用による調査・対策の迅速化・効率

化に向けた取組、土木技術資料、Vol.61-2、pp20-23

3) 国 土 交 通 省 ( 2020 ): CIM 導 入 ガ イ ド ラ イ ン ( 案 ) 第 1 編 共 通 編 、

http://www.mlit.go.jp/tec/content/001334802.pdf

4) 国 土 交 通 省 ( 2019 ): CIM 導 入 ガ イ ド ラ イ ン ( 案 ) 第 9 編 地 す べ り 編 、

http://www.mlit.go.jp/common/001289037.pdf

5) 国 土 交 通 省 国 土 地 理 院 ( 2017 ): UAV を 用 い た 公 共 測 量 マ ニ ュ ア ル ( 案 )、

https://www.gsi.go.jp/common/000186712.pdf

6)国土交通省国土地理院(2017):地上レーザスキャナを用いた公共測量マニュアル(案)、

https://www.gsi.go.jp/common/000186713.pdf