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目次 1 SNPとは何か 2 ゲノムとは 3 ゲノムの中のSNPの数は? 4 遺伝子とは 5 ゲノムと遺伝子 6 各細胞で働いている遺伝子の数 7 病気と遺伝子 8 ゲノム研究と病気 9 ゲノム研究の成果の医療・健康への貢献 10 SNPの意義 11 SNPを利用した病気関連遺伝子の発見法 12 アソシエーション(関連)法 (Association Study) 13 アソシエーション(関連)法を行うための理論的根拠=連鎖不平衡 14 罹患同胞対法 15 病気関連遺伝子絞り込み可能な範囲 16 病気関連遺伝子を特定するために必要な患者サンプル数 17 病気関連遺伝子の発見によるエビデンスに基づく創薬 18 疾患発症に対する危険因子と決定因子 19 新規薬剤のスクリーニング法 20 薬剤応答性とSNP 21 SNPと薬剤の副作用 22 SNPと倫理問題 23 海外の動き 1 1 2 3 4 5 6 7 7 8 9 9 10 12 13 13 14 15 16 17 19 22 23 『医療分野におけるSNPの重要性』 図表作成 古川圭子

『医療分野におけるSNPの重要性』 目次SNIPとスペルを誤って綴る人が多く 見かけられるので、注意してください。1 SNPとは何か 卵 精子

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Page 1: 『医療分野におけるSNPの重要性』 目次SNIPとスペルを誤って綴る人が多く 見かけられるので、注意してください。1 SNPとは何か 卵 精子

目次

1  SNPとは何か

2  ゲノムとは

3  ゲノムの中のSNPの数は?

4  遺伝子とは

5  ゲノムと遺伝子

6  各細胞で働いている遺伝子の数

7  病気と遺伝子

8  ゲノム研究と病気

9  ゲノム研究の成果の医療・健康への貢献

10 SNPの意義

11 SNPを利用した病気関連遺伝子の発見法

12 アソシエーション(関連)法 (Association Study)

13 アソシエーション(関連)法を行うための理論的根拠=連鎖不平衡

14 罹患同胞対法

15 病気関連遺伝子絞り込み可能な範囲

16 病気関連遺伝子を特定するために必要な患者サンプル数 

17 病気関連遺伝子の発見によるエビデンスに基づく創薬 

18 疾患発症に対する危険因子と決定因子

19 新規薬剤のスクリーニング法 

20 薬剤応答性とSNP 

21 SNPと薬剤の副作用 

22 SNPと倫理問題

23 海外の動き

1

1

2

3

4

5

6

7

7

8

9

9

10

12

13

13

14

15

16

17

19

22

23

『医療分野におけるSNPの重要性』

図表作成 古川圭子

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SNP(Single Nucleotide Polymorphism)

AGCTAGCT

AGCGAGCT

一塩基のバリエーション

SNPとはsingle nucleotide poly-morphism の略であり、個人間における1遺伝暗号(1塩基)の違いを意味する。1塩基ポリモルフィズム、もしくは、1塩基多型と訳し、英語読みは「エス・エヌ・ピー」ではなく、「スニップ」と呼ぶ慣習となっている。スニップと聞いてSNIPとスペルを誤って綴る人が多く見かけられるので、注意してください。

1 SNPとは何か

卵精子

ハプロイドゲノム=30億塩基対 (卵や精子の中のDNA)

デイプロイドゲノム=60億塩基対 (大半の体の細胞)

体細胞

AA G

T C

TC

A G

GA

TT C

AC G

T G

A CTG C

AA G

G C

C GTT C

CC A

T A

A TGG T

TA T

T C

GC

GG

GG

T C

A GAT A

GA A

T C

A GCT T

GA A

T C

A GC AGC

T

AGC

T

T T

A GC

G

CC

CC

AA G

G C

C GTT CDNA

ゲノム(GENOME)の適当な日本語訳がないため、私は便宜的に「生命の設計図」と説明しているが、化学物質的には遺伝物質の総称と考えるべきものであり、ヒトの場合、24種類の染色体(22種類の常染色体とX・Yの2種類の性染色体)に分散する形で、遺伝情報が蓄えられている。この遺伝情報を担っているのは、DNA(デオキシリボ核酸)であり、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基がその構成要素である。ヒトのハプロイドゲノム(精子や卵に含まれる全遺伝暗号に相当する)はこれらの4種類の塩基が合計30億対で成り立っている。したがって、体細胞(精子や卵以外のほとんどの体の細胞)はデイプロイドゲノム=60億塩基対のDNAとなっている。

2 ゲノムとは

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3 ゲノムの中のSNPの数は?われわれの姿形が千差万別であるように、遺伝暗号もかなり多くの部位で異なっている。この遺伝暗号の違いを多型(ポリモルフィズム)と呼んでいるが、多型はある塩基の変化が人口中1%以上の頻度で存在しているものと定義されている。遺伝暗号のバリエーションには前述したSNPを含め、以下のようにいくつかの種類がある。

1個の塩基が他の塩基に置き換わっているもの(SNP)SNPは数百塩基対から一千塩基対に一カ所くらいの割合で存在していると推測されているので、ゲノム中には、300万ー1000万のSNPがあると考えられる。(DNAの特定の制限酵素認識配列にSNPがある場合にはRFLP=Restriction Fragment Length Polymorphism ; 制限酵素切断断片長の多型が生ずる)

1から数十塩基(数千塩基のこともある)が欠失や挿入をしているもの(インサーション/デレーション多型)

2塩基から数十塩基の遺伝配列が繰り返している部位の繰り返し回数が個人間で異なっているもの(VNTRは数塩基から数十塩基の繰り返し、マイクロサテライトは2-4塩基単位の繰り返し。)

           SNP  RFLP   VNTR  マイクロサテライトサンプル量      10ng   数ug     数ug      10ng多様性         +     +      ++      ++判定法        PCR  サザン法   サザン法     PCR判定の易しさ      1     2      3        4ゲノム上のコピー数 三百万~   数万     数千      数万           一千万

多型(ポリモルフィズム)は人口の1%以上にそのバリエーションが存在する場合と定義する。

SNP

マイクロサテライト

VNTR

挿入・欠失型

RFLP (SNPが制限酵素認識部位にある場合)

多 型全ゲノム中

300万~1000万カ所

(参考)遺伝子多型の種類とその違い

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遺伝子= どんな性質の蛋白質を作るのかの情報いつ(When)どこで(Where)どれだけ(How much)

蛋白質

遺伝子 遺伝子

遺伝子

遺伝子

蛋白質 蛋白質

{ {

4 遺伝子とはわれわれの体は、さまざまな蛋白質(体を形作っているものやホルモン・消化酵素・体を守るための抗体など)によって恒常性が維持されている。この蛋白質を作る情報を担っているのが遺伝子であり、遺伝子には、いつ(When)、どこで(Where)、どれだけ(How much)、どのような(What kind of)蛋白質を作るかを規定するプログラムが書き込まれている。ゲノム中には、このような遺伝子が約10万種類(5万種類という推測から15万種類という推測まである)存在しており、少なくとも10万種類(ひとつの遺伝子から2種類の蛋白質が作られることもある)の蛋白質を作り出す機能が備わっている。言い換えれば、10万種類のわれわれの体の維持に必要な部品を作る情報が備わっていることになる。

いつどこで

どれだけ

どのような(エキソンに書き込まれている)

蛋白質を作るかを規定

プロモーター エクソン イントロン

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5 ゲノムと遺伝子

ゲノム

遺伝子以外の機能不明の部位セントロメア

テロメアのすべてを含むもの

遺伝子 遺伝子 遺伝子 遺伝子

遺伝子 遺伝子 遺伝子 遺伝子

ゲノム

テロメア

テロメア

セントロメア

10万種類の遺伝子がゲノムに含まれているが、単に遺伝子がつながっているものがゲノムそのものではない。遺伝子と遺伝子の間には、遺伝子の働きに関係しないと考えられている部分(全く何の意味もないかどうかはまだ定かではない)があり、これがゲノムのかなり多くを占めている。また、染色体の両端にあるテロメアという構造や染色体の中央にあるセントロメアなどは遺伝子ではないものの、細胞が生きていくためには不可欠な構造である

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6 各細胞で働いている遺伝子の数

受精卵に含まれているゲノムDNAは細胞が増えていく度に同じものがコピーされて、それが等分に分割されていくので、約60兆個のそれぞれの細胞(赤血球を除いて)には全く同一のゲノムが含まれていることになる(厳密には抗体遺伝子など全く同一でないものもあるが)。同じゲノムを持ちながらも、60兆個の細胞は同じ性質を持った単なる細胞の塊として存在しているのではなく、それぞれの細胞は、心臓・肝臓・脳といった特別な役割を持った細胞として機能している。これはそれぞれの細胞が有している10万種類の遺伝子をすべて働かせて、10万種類の部品を常に同じように作り出しているのではなく、10万種類の遺伝子のうちから、それぞれの細胞に必要な部品だけを作り出すように遺伝子の働きを調節しているからである。それぞれの細胞においては、その細胞の機能に必要な約1ー2万遺伝子だけを選別して働かせ、1ー2万種類の部品(=蛋白質)を必要な量だけ作っているのである

ゲノムDNAがすべての細胞にコピーされてゆく

卵 精子

受精卵

細胞の分裂 1個の受精卵からスタート

最終的には体ができ上がる

母親から1ゲノム

父親から1ゲノム

60兆の細胞

1ゲノム=30億塩基の     遺伝暗号

10万種類の遺伝子

それぞれの細胞に必要な部品(蛋白質)だけを作り出すように遺伝子の働きを調節している

遺伝子A ON

遺伝子B

遺伝子C

遺伝子D

遺伝子E

ON

OFF

OFF

OFF

OFF

OFF

OFF

OFF

OFF

ON

ON

ON

ON

OFF

細胞a 細胞b 細胞c

それぞれの細胞では1~2万種類の遺伝子のスイッチがONになっている

2ゲノム分のDNA

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7 病気と遺伝子ゲノムに書き込まれたプログラムにそって、遺伝子がいつ、どこで、どれだけ働けばよいか(どれだけ蛋白質を作るのか)は非常に厳密にコントロールされている。プログラムの厳密な運用によって、必要な蛋白が必要な細胞で必要な時期に必要なだけ生産されて健康な生活が維持されている。しかし、食事・生活環境・ストレスなどさまざまな外的要因や内的要因によって、この調節機構に異常が生ずると、必要な蛋白質が必要なだけ供給されなくなってしまう。蛋白質の量に過不足が生じたり、蛋白質の性質が変わって本来の働きができなくなると、生命活動の維持に必要なさまざまな物質にアンバランスが生じてしまい、これが結果として病気を引き起こすことになる。

遺伝子の調節のしくみ

遺伝子の調節のしくみのアンバランス

食  事ストレス生活環境

病 気病 気

病気

質的 (働きがおかしい)

量的 (量の過不足)蛋白質の 異常によって

体の維持機構がアンバランスとなった状態

蛋白質の 異常によって

体の維持機構がアンバランスとなった状態

{ {

=

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8 ゲノム研究と病気8 ゲノム研究と病気

9 ゲノム研究の成果の医療・健康への貢献

先に述べたように、病気とは、食事・生活環境・ストレスなどさまざまな外的要因や内的要因によって、正常な生活の維持に必要な物質にアンバランスをきたした状態と考えることができる。したがって、ゲノム研究が進み、どのような蛋白質が作られるのか、あるいは、いつ、どこで、どれだけといったその調節の仕組みが明らかとなれば、それと対比させる形で、病気では何がどのようにアンバランスになっているのかを明らかにすることが可能となり、病気を起こす仕組みについての科学的かつ詳細な機序の解明が進むことは確実である。

ゲノム研究が進むと

病気の原因が科学的に解明される

???

病気を起こす仕組みが科学的かつ分子(遺伝子や蛋白質)レベルで解明される。

病気をおこす原因(エビデンス)を標的分子とした、画期的な新規診断法や治療法が開発される。

"Evidence-Based Drug Development"

同じ診断名や類似の症状の病気であっても、その背景となる病気を起こす仕組みの違いが分子レベルで明らかとなり、それらの違いを考慮にいれた薬剤の使い分けなどの医療の個別化(オーダーメイド化)が起こる。

"Personalized Medicine"

個人個人の病気になりやすさのリスク判定が可能となり、個人個人がそれぞれに必要な、病気を避けるためのライフスタイルをとることによって、病気を予防したり、発症を遅らせたり、早期発見・早期治療をしたりすることが可能となる。

病原微生物のゲノム解析により、感染症の遺伝子診断の確立や耐性菌に対する新規抗生物質の開発が進展する。

ゲノム研究が進めば

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10 SNPの意義SNPは単に多型マーカーとして病気の発症や増悪に関連する遺伝子を見つけるために有用であるのみではなく、最終的には病気のリスク診断や薬剤の使い分けなどに利用することができる。

(1)多型マーカー、特にSNPは、病気に関係する遺伝子を探索するために非常に重要な道具である。

(2)SNPが遺伝子発現に影響を及ぼすものであったり、蛋白のアミノ酸を変化させてその働きに影響を及ぼして、遺伝子(産物)の質的異常・量的調節異常につながる場合、SNPそのものを病気のリスク診断や薬剤の使い分け(種類と量)診断に利用することができる。   ① 病気になり易さ(なりにくさ)の判定  ② 薬剤に対する応答性の違い  ③ 薬剤に対する副作用の違い

病気の原因を解明するための有用な道具

1. 病気の予防・治療2. 薬の使い分け

原因

SNPデータベース

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11 SNPを利用した病気関連遺伝子の発見法

12 アソシエーション(関連)法 (Association Study)

SNPを用いた、生活習慣病の発症・増悪に関与する遺伝子や感染症に対する応答性(感染性・重症度・予後)の違いを規定している遺伝子(群)を見つける方法として、以下のようなアプローチ法がある。方法の詳細は後述。

①アソシエーション(関連)法(Association Study)=数百・数千人単位の患者集団と正常コントロールの比較によって病因関連遺伝子を突き止める手法(1種のケースコントロールスタディ)

②罹患同胞対法(Sib-pair Analysis)=数十組から数百組の同じ病気を持つ兄弟姉妹が両親から共通の遺伝子座を受け継いでいるかどうかを指標として病因関連遺伝子を突き止める方法

一般コントロール集団と病気に罹患している集団で、特定のSNPの出現頻度に差があるかを調べていく方法。3つのSNP(いずれもG/Tの変化)を1000人ずつの患者および正常コントロール集団を用いて解析したと仮定する。この場合

との結果が得られたとする。SNP-Xの場合、両集団に差がなく遺伝暗号の違いが病気の有無と無関係であるというのは一目瞭然である。SNP-Zの場合、この部位でTという遺伝暗号を持っていることが、病気につながりやすいことが容易に推測できる。しかしながら、生活習慣病の発症や感染性微生物に対する応答性には複数の遺伝子が関係していること、あるいは、それぞれの遺伝子が単独で発症や応答性に決定的な役割を果たしているのではなく、多くの場合特定の遺伝子変化を持っていることがそうでない人に対して数倍程度だけ病気になり易くしていたり、数倍強い反応を示す程度であることから、SNP-Zのような歴然たる差を示すような結果を得ることはあまり期待できない。現実的にはSNP-Yのような解析結果をして病因遺伝子をつきとめる手がかりとすることになる;SNP-Yの場合、Tを有している頻度が患者において有意に高い(χ2=14.0、p<0.001)。

正常

250

500

250

 

G/G

G/T

T/T

患者

250

500

250

SNP-X

正常

250

500

250

 

G/G

G/T

T/T

患者

180

550

270

SNP-Y

正常

750

150

100

 

G/G

G/T

T/T

患者

30

580

390

SNP-Z

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13 アソシエーション(関連)法を行うための理論的根拠=連鎖不平衡

図のように、遺伝暗号の多型、すなわち、SNPがX部位(遺伝暗号がGまたはT)、Y部位(GまたはT)、Z部位(GまたはT)の3ヶ所で存在すると仮定する。Y―Z間が物理的に近いとき(数百kb程度;10kb以下の場合に限り、強い連鎖不平衡を示すとの説もある。これらの差は仮定としている条件の違いに由来している)には、同一の染色体上ではY部位の遺伝暗号がGのときにはZ部位の遺伝暗号はGであり、Y部位の遺伝暗号がTのときにはZ部位はTであるといったように連動する。このような現象を連鎖不平衡と呼んでいる。SNPの存在している部位がX部位とZ部位のように物理的に離れている場合には、減数分裂時(精子や卵を作るときに起こる細胞分裂)の染色体組換えという現象(詳細は略)によって特定の連動関係が失われていくため、X部位の遺伝暗号がGであればZ部位がGであり、X部位がTであればZ部位がTであるというような関連は認められない。SNP-Zが病気の発症に直接つながる遺伝子であって、YとZのSNPに連鎖不平衡がある場合には、SNP-Zを直接調べなくとも、SNP-Y(Y部位におけるSNP)で患者とコントロール群におけるそれぞれの遺伝暗号の分布頻度を比較しても有意な違いが見つかることになる。したがって医学的な応用を考えた場合、必要な数の患者の協力が得られれば、約30万ヶ所程度のSNP(1万塩基対に1ヶ所)が用意されれば(上述したように、もっと少なく数万でもよいかもしれないが)、発症のリスクを1.5倍以上に高めるような原因候補遺伝子の同定は可能であると言える。

SNPと病気との連鎖

G/T G/T G/TX Y Z

G=G=正常,T=T=病気という関係が成り立つ

GまたはTと病気には関係がない

GとG,TとTが連動する

このような結果が得られた場合、①SNP-Y自身の遺伝暗号の差が遺伝子の量的調節に影響しているか、もしくは、②遺伝暗号の変化によってアミノ酸の置換えが起こり、蛋白質の性質変化を引き起こしたため、それが直接病気の発生に関係しているいる可能性がある。少なくとも、SNP-Yが病気に関係している遺伝子の近傍に存在しているものと判断することができる。

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cSNPとはこの領域のSNPである

プロモーター

cSNPの利点1 諸外国に先行したSNP情報

2 原因遺伝子を見つけるための時間の短縮

3 将来の利用価値と特許化

わが国は全長鎖cDNA作製技術に秀でており、現在cDNAシークエンスが科学技術庁・通産省によって進められている。ゲノム配列の80%は来年3月までに公開される。これらの情報を比較することにより、エクソンやプロモーター領域の配列情報を得ることができる。したがって、ゲノムDNAを用いてのcSNP解析が容易に可能となるし、cDNA情報やcDNAクローンを保持している利点がある。

プロモーターを含む遺伝子内にSNPが存在しているため、連鎖不平衡が得られやすい。SNPそのものが、易罹患性・薬剤に対する反応性・薬剤の副作用に関与する可能性がある。

cSNPを特許(あるいは、防衛特許)の形でわが国に置いておくことができる。将来(近未来)、薬剤の認可申請時にレスポンダー・ノンレスポンダーの見極めのためのSNP・副作用に関係するSNPなどの情報が要求されるが、独自のSNPを持つことにより、薬剤使用時に特許使用料を払わなくてすむ。

欧米では絨毯爆撃的に全ゲノムにわたって無作為にSNPを収集しようといった考えのもとに計画が実施されているが、遺伝子の機能に密接な関連のある領域(エキソンとその近傍のイントロン、および発現調節プロモーター領域)のSNP=cSNP(cDNAに相当する領域という限定した使い方もあるが、ここでは遺伝子機能に関連する領域という意味に用いる)を中心にSNPを開発しようとの考え方もある。この方法を用いると、少ない数のSNPで病気に関連する遺伝子を効率良く見つけ出しうると期待される。わが国としてこの方法を採択するほうが望ましい根拠を表に列記する。

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14 罹患同胞対法この方法は、同じ病気に罹った兄弟姉妹を比較して、病気関連遺伝子の存在する染色体領域を特定する方法である。その原理を図に示した。ある染色体領域について、多型DNAマーカーによって父母の染色体をA・B(父親)、C・D(母親)と区別可能とする。この場合、二人の兄弟姉妹に受け継がれる染色体はAC/AD/BC/BDの4通りのパターンをとりうる。父母からの子供への遺伝は一般的にはランダムに起こるので、兄弟姉妹の染色体がACとACのように共に一致する確率は25%、ACとBCのように一方だけが一致する確率は50%、ADとBCのように両方とも一致しない確率は25%である。しかし、これらの兄弟姉妹が同じ疾患に罹患しており、その背景となる病気関連遺伝子が特定の染色体領域に存在している場合、その領域については同一染色体領域を親から受け継いでいるはずある。したがって、SNPが物理的に病気関連遺伝子に近く位置しているならば、兄弟姉妹間の一致率は高くなっているものと推測される。もし、優性に働く遺伝子であれば、少なくとも一方が一致しているはずであり、共に一致していない割合は25%より、有意に低くなる。劣性の場合には、共に一致している割合が25%より、有意に高くなることが期待される。この解析のためには、多型に富んだ(染色体を区別する可能性の高い)マイクロサテライトマーカーが用いられているが、実際には正常集団において25:50:25のような分離比をとるような多型マーカーはそれほど多くなく、理論で考えるほど容易ではないが、すでにいくつかの疾患ではこの方法によって病気の発症に関連する遺伝子の部位が突き止められている。

一致するアレル数の期待値

(1)優性に作用する因子

(2)劣性に作用する因子

2 1 025% 50% 25%

>25% <75%

>75% <25%

2 1 0

2 1 0

? ?

A・CA・DB・CB・D

A・CA・DB・CB・D

A・B C・D

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15 病気関連遺伝子絞込み可能な範囲

アソシエーション法や罹患同胞対法によって病気関連遺伝子の存在部位を突き止める方法を上述した。ここで問題となるのはこれらの方法によってどの程度まで病気関連遺伝子の存在範囲を特定できるかという点である。図に示すように、罹患同胞対法では10-20cMが限界ではないかと推測されている。それに対して、SNPを用いた連鎖不平衡解析では数百数十kb、場合によっては数kbの範囲内に限局することが可能である。しかしながら、さまざまな仮定条件によってこの予測値(期待値)は大きく異なり、確定的ではない。もし、連鎖不平衡の認められる物理的な距離が大きいなら、数万種類のSNPのスクリーニングで十分であるが、数十kbやそれより小さいなら数十万種類のSNPのスクリーニングを行わないと病気の原因は突き止められないことになる。

罹患同胞対法 (マイクロサテライトマーカー)

アソシエーション法 (SNP)

10̃20cM

数十~数百kb

連鎖

連鎖

16 病気関連遺伝子を特定するために必要な患者サンプル数

それぞれの病気関連遺伝子の遺伝暗号変化がどの程度病気のリスクを高めるか、あるいは、それらの因子が人口のどの程度の割合を占めるているかにによって、必要なサンプル数は大きく異なる。ある遺伝子変化がある病気に罹患するリスクを4倍高くすると仮定した場合、その易罹患性遺伝子の頻度が人口中10%程度存在するのであれば、150人程度の患者とコントロールを比較することで病気感受性遺伝子の染色体部位の特定が可能である。

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しかし、リスクを1.5倍、あるいは2倍程度高くするだけの要因を見つけるには数千人単位での比較が必要となる。既知の遺伝子に限定するだけでなく、依然として機能未知の約9万種類もの遺伝子から病気関連遺伝子を見つけ出すためには、ゲノム全体にわたってSNPで検討する必要がある。例えば、2000人(1000人ずつの正常コントロールと患者集団)について、100、000SNP(1遺伝子1SNPに相当する)を検討すると2億の遺伝子型を決定せねばならない。したがって、この問題は、一大学一研究室の問題ではなく、全日本的な観点から研究体制の構築を進めていかなければならない。わが国には、大学間の縄張り意識など、一体となって研究を進めることを阻害する大きな(文化的?)障壁があるが、欧米とこの分野で競争するためには患者の協力を全国レベルで得るためのシステムを打ち立てることが極めて重要である。

アソシエーション研究に必要な患者数

0.010.100.500.800.010.100.500.800.010.100.500.80

4.0

2.0

1.5

1098150103222

5823695340640

193202218

9491663

2354861

1611970

264180394

7776941484941

遺伝的リスク易罹患性

遺伝子の頻度 罹患同胞対法アソシエーション

17 病気関連遺伝子(産物)を標的とするエビデンスに  基づく創薬HIV感染症は、膨大な数のHIV感染者、AIDS発症患者、高リスクにも関わらず感染しなかった人を数千人単位で多型解析を行った結果(この場合SNPではなく、他の種類の多型マーカーが用いられたが)、CCR5(ケモカインレセプターの一種)というHIVウイルスが細胞にくっつく際のレセプターが感染に重要な役割を果たしていることが証明された。CCR5変異遺伝子をホモでもつホモ接合体の人は非常に感染しにくいことが、また、変異遺伝子のヘテロ接合体の人はHIVが感染してもAIDSが発症しにくく、予後もよいことが示されている。これらのエビデンスは、CCR5の働きを阻害するとHIVに感染してもHIVウイルスの増殖を防ぎ、AIDSの発症を押さえる可能性を示したことになる。当然のことながら、CCR5阻害剤をAIDS発症予防薬として応用すべく、現在、世界中で開発が進められている。

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エビデンスに基づく薬剤開発

リンパ球 リンパ球

CCR5 変異CCR5

HIV

CCR5

HIVHIV

くっつけない

くっつけない

阻害剤

がんに目を向けると、乳がんや前立腺がんにおいて遺伝子増幅などによりHER遺伝子産物(細胞の分裂を刺激する物質)が過剰産生をきたし、がんの増悪因子となっているということが10年以上前に明らかにされていた。このエビデンスに基づいて、抗体によってHERの働きを抑えればがん細胞の増殖が抑えられるとの発想に基づき、そのモノクローナル抗体が作られ、現在、ハーセプチンという商品名ですでに治験が行われてその有効性が示されつつある。また、Ras遺伝子産物(同じく細胞の分裂を刺激する物質)の活性化にはファルネシール基という糖鎖の修飾が不可欠であることに注目して、この修飾酵素阻害剤をがんの治療薬として用いる研究も進んでいる。このように、病気の原因となっている物質を標的分子としたエビデンスに基づく薬剤開発というのが世界的趨勢であることは間違いない。

18 疾患発症に対する危険因子と決定因子「病気になりやすさ」という用語が頻回に用いられるようになったが、疾患発症に対する危険因子と決定因子の違いが理解されないまま用いられているため、非常に大きな誤解と混乱が生じている。単一(あるいはごく少数の遺伝子による)遺伝性疾患の場合は、遺伝的変化(この場合は遺伝子異常)を有している個体は数十%から100%の確率で特定の疾患に罹患することが予測され、疾患に対する決定因子を持っていることになる。これに対して、遺伝的変化(この場合には遺伝子異常とは定義されず、遺伝的なバリエーションといった意味合いとなる)を有している個体が、疾患に罹患する確率が数十%から数倍の割合で高くなる場合、疾患に対する危険因子を持っていることになる。このように記載するとあまり違いがないような印象を持ってしまうが、表に示すように疾患に対するそれらの因子の重みは全く異なるのである。

-15-

ひとつの決定因子・危険因子の有無による疾患の頻度の違い(千人当たり)

遺伝子変化+-

決定因子300̃1,000

0

危険因子 30  180 10  1003倍 1.8倍

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19 新規薬剤のスクリーニング法世界的には、標的とする分子に作用する物質を見つけだす方法として、① 標的分子と結合する物質(天然界に存在する物質や化合物)を高速にスクリーニングする方法、② 蛋白質の高次構造を手がかりに化合物を選別したり、合成する方法、③ プロテインチップを用いたスクリーニングなどがある。薬剤開発の標的としては、レセプターに対するアゴニスト・アンタゴニスト、分泌酵素の阻害剤、抗体、シグナル伝達物質の刺激剤・阻害剤、蛋白修飾酵素の阻害剤などがあげられるが、いずれにせよ、病気の原因となる遺伝子産物の発見なしに、分子標的薬の開発は行えない。このような戦略のもとに、一部ではすでにその戦略の成果も挙がっている。

コンピュータによるドラッグデザイン

標的分子

高速スクリーニング

標的分子の構造解析

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(注)疾患に対して3倍、あるいは1.8倍の危険因子の場合、糖尿病や肥満・高血圧などのありふれた生活習慣病の遺伝的危険因子は数十%から2-3倍程度の危険因子と推測されている。したがって、現時点での知識で一つの遺伝子で「肥満になりやすさを診断する」、「肺がんになりやすさを診断する」など、危険因子の診断をすることなどは、全くナンセンスと言わざるをえない。

病気になりやすさ

遺伝子異常 遺伝的バリエーション

遺伝的変化

決定因子 危険因子

病気がん

糖尿病高血圧

肥満など

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20 薬剤応答性とSNPある疾患に対して薬剤を投与した場合、患者の応答性は様々で、著効を示すもの(good responder)、有効性の低いもの(poor responder)、まったく効果を示さないもの(non responder)と大きな違いがある。これは、症状が同一で同じ診断名であっても、その背景となっている病気を起こしている経路が異なっている(あるいは、薬剤の代謝速度が大きく異なっている可能性もある)からである。たとえば、QT延長症候群と呼ばれている病気がある。この病気は心電図検査においてQT時間が延長していることがその特徴であることからこのような診断名がついているが、不整脈によっておこる反復する失神発作が主症状である。この患者に対して、β-ブロッカーが投与されているが、数十%の患者に対してはほとんど無効であり、不整脈によって生ずる失神発作が繰り返され、最悪の場合、不整脈が回復しないことによって突然死を起こしてしまう。これまで、この応答性を前もって見極める手立てはなかったが、遺伝子研究の進歩によって、心電図上で同じ異常所見を示していても病気を引き起こす遺伝子の種類の違いが、薬剤応答性を規定していることが明らかにされた。したがって、今後は、QT延長症候群に対しては、原因遺伝子のSNPなど遺伝子多型を参考にしながら、β-ブロッカー単独の治療、あるいは、β-ブロッカー+坑不整脈剤(もしくは、ペースメーカー)による治療などの選択をすることにより、突然死という不幸を防ぐことができると考えられる。また、応答性の違いを明らかにしたい場合には、レスポンダー・ノンレスポンダー患者のDNAを利用してSNPを用いたアソシエーション解析をすることにより、両者を規定している因子を捕まえることが可能である。したがって、今後は、治験を行う際に患者のDNAをSNPで検討するといった同意をあらかじめ得ておいて、レスポンダー・ノンレスポンダーを見極めるための方策をとっておけば「必要な患者に、必要な薬剤を投与する」といった、医療にとって当然の目標を達成する道が開けていくことは確実である。

心室性頻脈

0.40秒

0.58秒

QT時間

QT時間

正常心電図

QT延長症候群患者の心電図

QRS

T波

QT延長症候群患者と突然死の危険につながる心室性頻脈の心電図パターン

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不整脈失神発作

不整脈失神発作

の消失 の継続} }

突然死

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QT延長症候群

βブロッカーの投与

レスポンダー有効

ノンレスポンダー無効

QT延長症候群

レスポンダー有効

(LQT1遺伝子が異常) (LQT2遺伝子が異常)

不整脈失神発作

ノンレスポンダー無効

不整脈失神発作

の消失 の消失} }

βブロッカーの投与βブロッカー+抗不整脈

orペースメーカー

SNP診断

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21 SNPと薬剤の副作用

また、抗がん剤は、不活性化(活性化)に関わる酵素の遺伝子多型によって、個人個人でこれらの酵素の活性やその産生量に大きな違いの生ずることが報告されている。たとえば、図に示すように、5-FUを不活性化する酵素では個人間の活性の差が10倍、6-MPやアザチオプリンでは30倍以上、イリノテカンでは50倍以上もの差が遺伝子の差によって生じていると報告されている。

アミノグリコシド系抗生物質による難聴

ミトコンドリア アミノグリコシド(ストレプトマイシン, カナマイシン)

A1555G12S RNA

難聴障害?

薬剤に対する応答性に加えて、時には致死的となるような強い副作用の問題も、医療従事者が対処していかなければならない大きな問題のひとつである。薬は諸刃の剣であり、効く薬であればあるほど、その代謝系に異常を持っている患者に対して重篤な副作用を引き起こしてしまうことは当然ともいえる。したがって、処方ミスなどによる過剰投与がなくとも、時には、思わぬ致死的な副作用に遭遇することがある。

麻酔薬による副作用である悪性過高熱は、いまでこそ対処法が確立されて必ずしも死につながるものではないが、かつては、ほぼ致死的なものであった。異常な筋肉の収縮とそれに引き続いて起こる40℃を越す発熱によって、全身の血液凝固機能異常を誘発し命を落としたものである。これも遺伝子研究の結果、ライアノジンレセプター遺伝子の異常がその原因であることが明らかにされスクリーニングが可能となっている。

また、ストレプトマイシンなどのアミノグリコシド系に属する抗生物質による聴覚障害という副作用は、広く知られている。最近、この副作用を起こしやすいヒトは、ミトコンドリア遺伝子の1555番目がアデニンがグアニンに換わっていることが報告されており、これらのSNPが投与の適否を決定する指標のひとつになると思われる。

遺伝子多型と抗がん剤の代謝

5-fluorouracil

MP, TG, azathioprine

Amonafide

Busulfan

Irinotecan

Cyclophosphamide

dihydropyrimidinedehydrogenaseによる不活化

TPMTによる不活化

Nacetyltransferaseによる活性化

glutathione Stransferaseによる不活化

uridine diphoshateglucuronosyltransferse

による不活化

cytochrome P450による活性化

(+)

(+)

(+)

?

(+)

(+)

Diasio et al.1998;Wei et al.1996

Krynetski et al.1996

Ratain et al.1991

Czerwinski et al.1996

Iyer et al.1998

Chang et al.1997

抗がん剤 代謝酵素 個人の活性の差 多型の遺伝性 文献

10倍

>30倍

>3倍

10倍

50倍

4̃9倍

10倍

>30倍

>3倍

10倍

50倍

4̃9倍

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TPMTの場合、正常な遺伝暗号に対して酵素活性の低下をきたす6種類の遺伝子多型がこれまでに見つけられており、分子診断(SNP診断)による副作用を避けるための投与量の調節が提唱されている。6-MPの場合、コントロールの患者では500mg/m2/weekの投与量に対して、一対のいずれかの遺伝子に欠陥のある患者では半分量の投与を、一対の両方に欠陥のある患者では20mg/m2/weekと25分の1量を投与すべきとの意見が報告されている。 

1994年の米国のデータでは、薬剤の副作用によって入院を余儀なくされた患者数は二百万人、死亡した患者数は十万人、副作用により派生した医療費は約8兆円となっている。わが国の人口は、この約半数であるので単純に考えると4兆円前後が薬剤の副作用のために費やされていると推測される。しかし、この数字に対しては、日本人は薬が好きなのでもっと多いかもしれないという考えと、日本の場合には効かない薬が多いので副作用が少ないのではとの意見がある。

m/m wt/m wt/wt

250

250

500

6MP の投与量

mg/

m2/w

k

00 5 10 15 20 25 30

2

4

6

8

 10

Per

cent

(%)

TPMT 活性

m/mwt/m

wt/wt

1

G238C

2

G460AA719G

3

TPMT 多型

(*2,3は低活性型)

Wt/Wt Wt/Mut Mut/Mut

293bp207bp

86bpACCI: - + - + - +

副作用を避けるための適応量の調節

分子機構

分子診断

Kynetski and Evans (1998)

薬の副作用

入院患者致死性

医療費

2,000,000人 100,000人 

$700億(8兆4,000億円)

(1994年 アメリカ合衆国)

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いずれにせよ、それぞれの患者に適したオーダーメイド医療を目指して、「必要な患者に、必要な薬剤を」だけでなく、「必要な量を」といった考え方が重要であり、これらはSNPを柱とするゲノム研究的アプローチ法を応用することによって実現可能である。

米国のFDAでは薬剤の認可申請に際して、その応答性を判別したり、副作用のリスクを調べるための指標として、どのSNPを用いるべきであるかの情報を添えなければ認可しない方向性を検討しており、これに対応するための体制作りの確立が急がれる。

SNP判定

必要な患者に

至適な量を

薬の申請

1 

副作用の強く出る人のSNPによる予測

のSNPによる識別レスポンダーノンレスポンダー

SNP番号の国際的統一化 (アメリカ標準化?)

2

SNPによる投与量の調節

個人の背景に基づく薬剤の適正な投与

レスポンダー

ノンレスポンダー

強い副作用

SNPによる薬剤の選択

SNPによる3群の比較薬剤の開発

臨床試験

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個人の遺伝子情報個人の診療内容情報

個別化した適切な医療

○×病院

○×病院

ICカード

将来的(10ー20年後)には、さまざまな医療上重要な遺伝子多型(SNP)情報を個人個人がICカードなどに保持し(診療内容も?)、医療機関において、それらの情報に基づいて個人別の適切な(オーダーメイドの)医療を受けることができるようなシステムができあがるようになるものと推測される。しかし、どの範囲の情報を調べるべきかは今後検討すべき重要な課題であり、病気になり易さなど知りたくない人に対して強制的に検査すべきでないことは当然である。しかしながら、副作用などに関する遺伝子情報は致死的な場合もあり、防ぐことのできる不幸を防ぐ意味からも、社会的なコンセンサスのもとに積極的に利用する方向を期待したい。

22 SNPと倫理問題これまでに述べてきたように、SNPは基本的には個人個人の遺伝暗号の違いに基づいて、より適切な医療体系を確立するため道具として利用することになるため、当然のことながら、個人のプライバシーの問題に関わってくることになる。「何人も遺伝子の違いによって差別されるべきでない」という考え方を否定する人はいないと思うが、どのようにそれを実現するかに対しては意見が分かれる。人の心、すなわち、倫理の問題であり、法律によって拘束されるべき問題ではないという立場の研究者が多いが、倫理問題として片付けられるならば、この世には犯罪など存在しないはずである。これらSNP研究を推進して、よりよい医療を目指した方向性を打ち立てていくためには、患者の協力は不可欠である。しかしながら、研究に協力を申し出た患者に対して、遺伝子情報がリークされ、就職・結婚・生命保険などの社会的な差別が生じ、不利益の及ぶことが決しておこってはならない。

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23 海外の動き

これを防ぐためには、倫理という奇麗事で片付けることではすまないと強く思っている。不利益を蒙った人は謝罪などという上っ面なことだけでは救われないし、世の中に悪の種は尽きないのであるから、法律といった形で、不利益をもたらしたものに対する厳罰と不利益を蒙った人に対する賠償制度を早急に確立すべきである。

遺伝子型

プライバシーの侵害

社会的不利益の可能性(就職・結婚・生命保険)

防ぐための

被害に対する保障のための

立法化

実施機関 目  標 現 状 等  

GENSET社(仏)

The SNP       consortium (米)

Celera Genomics (米)

     

60,000 SNP (1999末)30疾患遺伝子の発見

300,000 SNP (2001初)

30,000,000 SNP

 

全世界の医療機関より患者DNA収集ABI377・・・50台MegaBase ・・・13台研究者350人

約50億円(2年間)平成11年4月スタート

30億円(5年間)で企業に公開ABI3700・・・300台Compaq社と提携