109
我が国皮革製品製造業の産業集積地における 競争力強化のための戦略検討調査 報告書 平成28年3月 平成 27 年度 経済産業省委託事業

我が国皮革製品製造業の産業集積地における 競争力 …1-1.本調査の背景と目的 我が国の皮革製品製造業は、国内の需要量は横ばいが続く一方、欧州やアジアからの輸入が年々増加

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 我が国皮革製品製造業の産業集積地における

    競争力強化のための戦略検討調査

    報告書

    平成28年3月

    平成 27 年度 経済産業省委託事業

  • 第1章 本調査の概要 .............................................................................................................. 5

    1-1.本調査の背景と目的 .................................................................................................... 6 1-2.本調査の進め方 ........................................................................................................... 7

    第2章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題 ...................................................................... 11

    2―1.本章の概要 ................................................................................................................. 12 2-2.なめし革製造業の状況 .............................................................................................. 13 2-3.鞄・ハンドバッグ製造業の状況 ................................................................................ 19 2-4.革製履物製造業の状況 .............................................................................................. 25

    第3章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み .................................................................. 31

    3―1.本章の概要 ................................................................................................................ 32 3-2.豊岡鞄に係る取り組み .............................................................................................. 33 3-3.今治タオルに係る取り組み ....................................................................................... 39 3-4.高岡銅器に係る取り組み........................................................................................... 41 3-5.甲州ワインに係る取り組み ....................................................................................... 43 3-6.燕三条の鋳物に係る取り組み ................................................................................... 45

    第4章 皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策検討 .......................................... 50

    4-1.姫路・たつののなめし革産業と豊岡の鞄産業の連携による活性化の方向性 ........... 51 4-2.浅草の革製履物産業の活性化の方向性 ..................................................................... 62

    第5章 競争力強化や高付加価値化の方策の検討への示唆 .................................................... 76

    参考資料 ................................................................................................................................. 82

    1.関西検討会最終資料 ......................................................................................................... 83 2.関東検討会最終資料(浅草靴産業のビジョン発表会資料) ........................................... 97

    目次

  • 第1章 本調査の概要

  • 第 1 章 本調査の概要

    6

    1-1.本調査の背景と目的

    我が国の皮革製品製造業は、国内の需要量は横ばいが続く一方、欧州やアジアからの輸入が年々増加

    し、国内事業者にとって非常に厳しい状況となっている。国内の事業所数・従業員数も減少しており、

    同産業の存続・発展を図るためには、国内市場において海外製品に打ち克つ競争力を身につけ、さらに

    は海外市場への進出も狙う意識を業界全体としてもち、具体的な行動に移していかなければならない。 こうした厳しい状況を脱する変革を実現する上で、個々の事業者それぞれの創意や努力が重要である

    ことは言うまでもない。一方で、我が国の皮革製品製造業は、いくつかの地域に事業者が集積している

    という特徴がある。将来を見据えた競争力強化の取り組みを行う際に、同一地域の事業者同士が協力・

    連携することで、より付加価値を高められる可能性もある。しかし、昨年度に全国中小企業団体連合会

    が実施した「皮革産業の国際競争力強化に向けたシニア人材等の活用に関する調査」報告書によると、

    必ずしも集積地の利益率が高くない現状が明らかとなっている。 以上を踏まえ本事業は、皮革製品製造業が集中している地域において、①競争力強化や高付加価値化

    の実現のために、競合者でもある同一地域内の事業者同士がいかにして協力・連携することができうる

    か、その手法とプロセスを体系化し、②さらに異業種も含めた同一地域の事業者同士の連携によって皮

    革製品製造業の競争力強化や高付加価値化を実現する方策を提示することを目的とする 1。

    これまでの事業について

    なお、経済産業省ではこれまで、平成 25 年度に「我が国皮革産業の国際競争力強化手法に関する基本調査」を、平成 26 年度に「我が国の皮革産業のブランド力強化に関する調査」を実施し、皮革産業に係る個社の企業の競争力強化に向けた方策の検討を行ってきた。

    平成 25 年度「我が国皮革産業の国際競争力強化手法に関する基本調査」(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/004197.pdf)では、海外皮革産業におけるタンナーやメーカー等の連携の実態について調査・分析することにより、我が国皮革産業におけるタンナーやメー

    カー等の連携のあり方等を検討した。 また、平成 26 年度「我が国の皮革産業のブランド力強化に関する調査」

    (http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000924.pdf)では、我が国の皮革産業の競争力強化を、ブランド力強化により目指し、そのより具体的な手法(皮革製品のブランド化に向けた戦略)を検討し

    た。 これらの事業は本事業とも関係が深いため、本報告書とあわせて参照いただきたい。

    1 本事業仕様書からの引用

    http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/004197.pdfhttp://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000924.pdf

  • 第 1 章 本調査の概要

    7

    1-2.本調査の進め方

    本調査は「(1)我が国の皮革産業集積地の状況と課題の整理」、「(2)皮革産業以外の産業集積地での取り組みの調査」、「(3)皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策検討」、「(4)競争力強化や高付加価値化の方策検討への示唆」によって構成されている。

    図表・1 本調査の構成と本報告書との対応

    1)我が国の皮革産業集積地の状況と課題の整理

    「我が国の皮革産業集積地の状況と課題の整理(本報告書 2 章に該当)」では、なめし革、鞄・ハンドバッグ、革製履物などの国内の産業集積地の状況と課題を整理している。

    2)皮革産業以外の産業集積地での取り組みの調査

    「皮革産業以外の産業集積地での取り組みの調査(本報告書 3 章に該当)」では、皮革製品製造業の集積地における取り組みの検討に参考となる成功事例について調査を行っている。

    具体的な調査対象と調査項目は以下のとおりである。

    図表・2 調査対象

    ・豊岡鞄(兵庫県豊岡市) ・今治タオル(愛媛県今治市) ・高岡銅器(富山県高岡市)

    ・甲州ワイン(山梨県甲州市) ・燕三条(新潟県燕市・三条市)

    図表・3 調査項目

    ・取り組みの概要と成果

    ・取り組みの詳細(取り組みの目的、変遷、体制、等)

    (1)我が国の皮革産業集積地の状況と課題の整理

    本報告書2章に該当

    (2)皮革産業以外の産業集積地での取り組みの調査

    本報告書3章に該当

    (3)皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策検討

    ・セミナーの実施・検討会での検討

    本報告書4章に該当

    (4)競争力強化や高付加価値化の方策検討への示唆

    本報告書5章に該当

  • 第 1 章 本調査の概要

    8

    3)皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策検討 本事業では皮革産業事業者等からなる「地域皮革産業将来戦略検討会」(以降、検討会)を開催し、

    「皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策検討(本報告書 4 章に該当)」を行った。また、検討会での議論の参考となる情報を共有するため、検討会構成員等を対象としたセミナーを開催した。

    各検討会やセミナーは基本的に㈱野村総合研究所が主導するとともに、各テーマにおいて知見のある

    外部講師にも必要に応じて参加頂いた。 検討会及びセミナーで対象とした地域とテーマは、「①姫路・たつの地区のなめし革産業と豊岡地区

    の鞄産業の連携による活性化」(以降、関西検討会)、「②浅草地区の革製履物産業の活性化」(以降、

    関東検討会)の 2 つとした。それぞれの検討会のメンバー、開催日時、外部講師は以下のとおりである。

    図表・4 関西検討会メンバー

    区分 氏名 所属

    タンナー

    姫路 福本 真也 ㈱三昌 金田 陽司 協伸㈱

    たつの 森脇 和成 ㈱モリヨシ 松岡 哲矢 松岡皮革 石本 晋也 エルヴェ化成

    鞄製造 豊岡 足立 哲宏 ㈱足立 宮下 栄司 ナオト商店 黒崎 將志 ㈱クロサキ

    その他 姫路 村田 浩司 (公財)姫路・西はりま地場産業センター 豊岡 林 健太 豊岡まちづくり㈱

    アドバイザー・外部講師 小林 新也 合同会社シーラカンス食堂

    図表・5 関西検討会・セミナー開催日時

    区分 開催日時 会場 第 1 回セミナー&検討会 11 月 5 日(木)14 時~18 時 豊岡市民会館 第 2 回セミナー&検討会 12 月 7 日(月)13 時~17 時 豊岡鞄協会

    工場見学会(豊岡)※1 12 月 7 日(月)17 時~19 時 12 月 8 日(火)9 時~17 時

    豊岡鞄メーカー等

    第 3 回セミナー&検討会 1 月 18 日(月)14 時~17 時 姫路市民会館 工場見学会(姫路・たつの)※2 1 月 19 日(火)9 時~17 時 姫路・たつのタンナー等 第 4 回検討会 2 月 29 日(月)14 時~18 時 ㈱三昌(姫路) 第 5 回検討会 3 月 7 日(月)14 時~17 時 ㈱三昌(姫路) ※1:㈱足立、マスミ鞄嚢㈱、木和田㈱、㈱由利の工場を見学するとともに、トヨオカ・カバン・アルチザン・

    アベニュー、豊岡市鞄縫製者トレーニングセンター、柳の宮神社などを見学。

    ※2:協伸㈱、㈱三昌、㈱モリヨシ、エルヴェ化成の工場を見学するとともに、松岡皮革の商品サンプルを確

    認。

  • 第 1 章 本調査の概要

    9

    図表・6 関東検討会メンバー

    区分 氏名 所属

    革製履物製造

    金井 将樹 ㈱ヤングシューズ 山田 裕亮 ㈱パナマシューズ 皿井 美緒 サラヰ製靴㈱ 吉見 鉄平 ㈱スタジオヨシミ

    革卸 藤田 晃成 富田工業㈱ その他 川島 武雄 浅草エーラウンド・㈲川島商店

    アドバイザー・外部講師

    鈴木 淳 台東デザイナーズビレッジ 戸村 亜紀 クリエイティブディレクター 木田 茂樹 ㈱ルミエール 大木 貴之 ローカルスタンダード㈱

    図表・7 関東検討会・セミナー開催日時

    区分 開催日時 会場 第 1 回セミナー&検討会 11 月 4 日(水)16 時~20 時 都立産業貿易センター(浅草) 第 2 回セミナー&検討会 11 月 24 日(火)16 時~20 時 TKP スター貸会議室(浅草) 第 3 回セミナー&検討会 12 月 14 日(月)16 時~20 時 浅草文化観光センター(浅草) 第 4 回検討会 1 月 20 日(水)16 時~20 時 浅草文化観光センター(浅草) 第 5 回検討会 2 月 8 日(月)16 時~20 時 浅草文化観光センター(浅草) 浅草靴産業のビジョン発表会 3 月 4 日(金)17 時~18 時 浅草文化観光センター(浅草)

    4)競争力強化や高付加価値化の方策検討への示唆

    「皮革産業以外の産業集積地での取り組みの調査」、「皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化

    の方策検討」を踏まえ、我が国の皮革産業集積地の競争力強化や高付加価値化の方策の検討を行う上

    での示唆を「①産業集積地において連携を行う利点」、「②産業集積地において連携を行ううえでの課

    題」、「③産業集積地において同様の検討を行ううえでの留意点」の視点から整理している。

  • 第2章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    12

    2―1.本章の概要

    本章では、なめし革製造業、鞄・ハンドバッグ製造業、革製履物製造業につき、我が国の皮革産業の

    状況(各節の第 1 項に該当)として、事業所数の推移、製造品出荷額の推移、輸出入額の推移、輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移などを、また、各産業集積地の状況(各節の第 2 項に該当)として、各県の事業所数や製造品出荷額が全国に占める割合とその推移、主要産地の 1 事業者あたりの製造品出荷額、そして本事業において検討会の対象とした地域につき該当県の製造品出荷額と全国に占める割合

    の推移を分析した。 加えて、各節の第 3 項では、検討会の対象地域について、その衰退もしくは活性化の要因を分析して

    いる。

    図表・8 本章の概要

    なめし革 製造業(第 2 節)

    鞄・ハンドバッグ 製造業(第 3 節)

    革製履物 製造業(第 4 節)

    我が国の皮革産業の 状況(各節第 1 項)

    ・事業所数の推移 ・製造品出荷額の推移 ・輸出入額の推移 ・輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移

    各産業集積地の状況 (各節第 2 項)

    ・各県の事業所数や製造品出荷額が全国に占める割合とその推移 ・主要産地の 1 事業者あたりの製造品出荷額 ・兵庫県の製造品出荷額

    と全国に占める割合の

    推移

    ・兵庫県の製造品出荷額

    と全国に占める割合の

    推移

    ・東京都の製造品出荷額

    と全国に占める割合の

    推移 産業衰退・活性化の 要因(各節第 3 項)

    ・姫路・たつののなめし

    革製造業の衰退の要因 ・豊岡の鞄製造業の活性

    化の要因 ・浅草の革製履物製造業

    の衰退の要因

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    13

    2-2.なめし革製造業の状況

    1)我が国の皮革産業の状況

    日本全体のなめし革製造業の事業所数、製造品出荷額を示したものが、図表・9 と図表・10 である。事業所数は 1992年の 682ヶ所から 2013 年には 185ヶ所に減少し、また、製造品出荷額は 1992年の 1,946億円から 2013 年の 460 億円まで減少している。

    図表・9 なめし革製造業の事業所数の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・10 なめし革製造業の製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    682

    579527

    496457

    388359 364

    320 316

    252 252 259 237 212 194 185

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    700

    800

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    20年間で

    73%減少

    195

    166

    138 137124

    112 11698 99

    86 82 85 8773 67 71 62

    49 45 43 46

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    20年間で

    76%減少

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    14

    なめし革 2の輸出入額を示したものが図表・11 である。輸出額は 1992 年の 282 百万ドルから 2015年の 184 百万ドル(224 億円)に減少している。輸入額も 1992 年の 693 百万ドルから 2015 年の 296 百万ドル(360 億円)に減少している。これまで常に輸入超過であり、2015 年は輸出の約 1.6 倍の輸入を行っている。

    また、なめし革の輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移を示したものが図表・12 である。1992年は国内生産額に対して約 4 割のなめし革を輸入していたが、2013 年はその割合が約 8 割に増加している。

    図表・11 なめし革の輸出入額の推移

    出所)UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    図表・12 なめし革の輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移(為替は固定)

    出所)工業統計、UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    2 統計上の項目は「Raw hides and skins (other than furskins) and leather」

    693

    296

    282

    184

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    700

    800

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    百万ドル

    輸入

    輸出

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1.2

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    15

    2)各産業集積地の状況 本事業の検討会において対象としている姫路・たつの地域が存在する、兵庫県のなめし革製造業の

    事業所数が全国に占める割合は 60%、製造品出荷額が全国に占める割合は 52%と共に全国で最大の産地となっている(図表・13)。

    また、兵庫県の製造品出荷額も全国と同様に減少しており、1992 年には 953 億円あったが、2013 年には 240 億円になっている。全国に占める割合は、分析を行った期間内において 1998 年が最も高く 55%であったが、以降は減少傾向にあり 2006 年には 43%まで低下した。直近の 2013 年は 52%である(図表・14)。

    図表・13 なめし革製造業の各県の事業所数(左)/製造品出荷額(右)が全国に占める割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・14 兵庫県のなめし革製造業の製造品出荷額と全国に占める割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    兵庫60%

    東京16%

    埼玉5%

    和歌山3%

    千葉3%

    その他13%

    兵庫52%

    山形21%

    東京8%

    北海道5%

    奈良3% その他

    11%

    9585

    6670

    6358

    64

    51 5141 41 40 40

    3329 32 32 27 24 22 24

    49%

    55%

    43%

    52%

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    兵庫県の製造品出荷額等(十億円) 製造品出荷額等の全国に占める割合

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    16

    主要産地のなめし革製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額を比較したものが図表・15 である。兵庫県は 2.2 億円で山形県、北海道、奈良県を下回る。山形県は最大手のミドリホクヨー㈱(現ミドリオートレザー(株))が拠点を構えるため額が大きくなっていると考えられる。

    また、兵庫県では製造品出荷額と事業所数が同程度の割合で減少してきたため、なめし革製造業の 1事業者あたりの製造品出荷額の推移に大きな変化は生じてこなかった(図表・16)。

    図表・15 主要産地のなめし革製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・16 兵庫県のなめし革製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    2.2

    32.2

    1.2

    6.9

    3.0

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    兵庫

    (110社、240億円)

    山形

    (3社、97億円)

    東京

    (30社、37億円)

    北海道

    (3社、21億円)

    奈良

    (5社、15億円)

    億円

    2.2

    1.92.0 2.0 1.9 1.8

    2.01.9

    2.1

    1.7

    2.1

    2.4

    2.12.0 2.0 2.1

    2.2

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    億円

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    17

    主要産地のなめし革製造業の付加価値割合 3を比較したものが図表・17 である。兵庫県は 23%となっており、主要な産地のなかで最も低い。兵庫県では 2006 年には付加価値割合が 32%であったが、以降減少傾向にあり 2013 年は 23%まで低下している。この間に競争力を低下させていたと考えられる(図表・18)。

    図表・17 主要産地のなめし革製造業の付加価値割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・18 全国と兵庫県のなめし革製造業の付加価値割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    3 付加価値額は、従業者 30 人以上の場合、付加価値額=製造品出荷額等+(製造品年末在庫額-製造品年初在庫額)+(半製品及び仕掛品年末価額-半製品及び仕掛品年初価額)-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額-原材料使用額等-減価償却額として計算さ

    れている。また、従業者 29 人以下の場合は、粗付加価値額=製造品出荷額等-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額)-原材料使用額等として計算されている。本報告書では、付加価値額と粗付加価値額を合算したものを付加価値額と呼んでいる。 また、付加価値割合は、付加価値割合=付加価値額/製造品出荷額として算出している。

    23%

    48% 47%

    57%52%

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    兵庫

    (110社、240億円)

    山形

    (3社、97億円)

    東京

    (30社、37億円)

    北海道

    (3社、21億円)

    奈良

    (5社、15億円)

    34%32%

    23%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    35%

    40%

    45%

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    全国 兵庫県

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    18

    3)姫路・たつののなめし革製造業の衰退の要因 上記のとおり兵庫県(姫路・たつの等)のなめし革製造業は、近年、製造品出荷額を大きく減少さ

    せ、また、付加価値割合も低下している。 この大きな要因の 1 つとして「競争力のある海外製品(バッグ・靴)の流入」が挙げられる。1990

    年代以降は、グローバル化に伴い鞄・革製履物等の輸入額が大きく拡大し、その内訳はイタリアやフ

    ランスなどからの高価格製品、そして中国などからの低価格製品が占めている。これらの製品の輸入

    拡大の影響により、国内メーカーの製造品出荷額は減少しており、その製造において調達していた国

    内の皮革の購入額も減少したと考えられる。 また、要因の 2 つ目として「製品メーカーの海外への生産移転」が挙げられる。国内メーカーは低

    価格な製品に対抗するために、アジアに生産拠点を移転し、現地国または周辺国から皮革を調達する

    ようになったと考えられる。 これらの要因により、兵庫県のなめし革製造業の生産量は減少し、多品種少量生産化による生産の

    非効率化が進み、各事業者の利益率が悪化したのではないかと推測される(次図①②③に該当)。利益

    が減少すると、新規の設備や人材の採用・育成への投資力が低下し、これが中長期的には、技術力の

    停滞を招き、製造品の品質の低下も招く可能性がある(次図④⑤⑥に該当)。結果として、海外製品の

    コストパフォーマンスが相対的に高くなり、消費者から選好され、その結果、さらに我が国の事業者

    の生産量が減少するという悪循環に陥っていると推測される(次図⑦⑧に該当)。 さらには、近年の国際的な革製品の需要の高まりと、牛肉消費量の減少から、原皮の需給バランス

    が変化し、生産量が減少し発注ロットが小さくなっている国内事業者は良質な原皮を調達できなく

    なっていることも、品質の低下の一因となっている(次図⑨⑩に該当)。 また、利益の減少は国内のなめし革製造業者の廃業や事業の非継承を招き、姫路・たつのにおいて

    一定の市場規模があったから事業が成立していた薬品・機械メーカー等の皮革関連事業者も廃業した

    り撤退したりするようになった。これらを現地で調達できていたなめし革製造業の非効率化や、設備

    投資への非積極化も招いており、悪循環に拍車がかかっていると想定される(次図⑪⑫⑬に該当)。

    図表・19 姫路・たつのなめし革製造業の構造

    競争力のある海外製品

    (鞄・靴)の流入&製品メーカーの海外への生産移転

    各事業者の生産量の減少

    日本の事業者の廃業(非継承等)

    生産の非効率化

    技術力の停滞

    投資への非積極化

    (設備・人材)品質の低下

    利益の減少

    海外製品の選択

    地域内の競争環境の

    緩和

    皮革関連業の廃業・撤退

    (薬品、機械等)

    原皮の調達力の低下

    1 2

    3

    4

    56

    7

    8

    9

    10

    11 12

    13

    1314

    15

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    19

    2-3.鞄・ハンドバッグ製造業の状況

    1)我が国の皮革産業の状況

    日本全体の鞄・ハンドバッグの事業所数、製造品出荷額を示したものが、図表・20 と図表・21 である。事業所数は 1994 年には 1,760 ヶ所存在したが、2013 年には 419 ヶ所まで減少し、製造品出荷額は1992 年に 2,687 億円あったが、2013 年には 827 億円まで減少している。

    図表・20 鞄・ハンドバッグ製造業の事業所数の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・21 鞄・ハンドバッグ製造業の製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    1,6251,760

    1,3191,223

    1,050

    865736 723

    618 635 560 555634

    517 466 441 419

    0

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1,600

    1,800

    2,000

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    20年間で

    74%減少

    269 270

    225 225

    196182

    194

    158 159

    129119 113 107 103 105 104 110

    86 77 84 83

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    20年間で

    69%減少

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    20

    鞄・ハンドバッグ 4の輸出入額を示したものが図表・22 である。輸出額は 1992 年が 50 百万ドル、2015年は 51 百万ドル(63 億円)とこれらの期間内でほとんど変化がない。一方、輸入額は 1992 年が 1,707百万ドルであったが、2015 年には 5,291 百万ドル(6,443 億円)に大きく増加している。これまで常に大きな輸入超過であり、2015 年は輸出の 63 倍の輸入があった。

    また、鞄・ハンドバッグの輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移を示したものが図表・23 である。1992 年は国内生産額に対して 9 割の鞄・ハンドバッグを輸入していたが、2013 年は国内生産額の8 倍もの製品を輸入するようになっている。

    図表・22 鞄・ハンドバッグの輸出入額の推移

    出所)UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    図表・23 鞄・ハンドバッグの輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移(為替は固定)

    出所)工業統計、UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    4 「Trunks, suit-cases, camera cases, handbags, etc」と「Sacks and bags of a kind used for packing of goods」の合算

    1,707

    5,291

    50 510

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    百万ドル

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    10

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    21

    2)各産業集積地の状況 本事業の検討会において対象としている豊岡地域が存在する、兵庫県の鞄・ハンドバッグ製造業の

    事業所数が全国に占める割合は 18%で全国 3 位、製造品出荷額が全国に占める割合は 22%で全国 2 位の規模である(図表・24)。

    また、兵庫県の製造品出荷額も全国と同様に減少し、1992 年に 345 億円あった製造品出荷額が 2002年には 139 億円に減少している。ところが 2003 年以降は上昇に転じ、2013 年には 179 億円となっている。また、製造品出荷額が全国に占める割合は 1992 年には 13%であったが、これまで上昇傾向にあり、2013 年には 22%となっている(図表・25)。

    図表・24 鞄・ハンドバッグ製造業の各県の事業所数(左)/製造品出荷額(右)が全国に占める割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・25 兵庫県の鞄・ハンドバッグ製造業の製造品出荷額と全国に占める割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    東京22%

    大阪20%

    兵庫18%

    埼玉8%

    愛知7%

    その他25%

    東京29%

    兵庫22%大阪14%

    千葉6%

    埼玉6%

    その他23%

    3433

    28 27

    2220

    2522 22

    18

    14 1516 17

    1819

    22

    17 15

    211813%

    22%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    兵庫県の製造品出荷額等(十億円) 製造品出荷額等の全国に占める割合

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    22

    主要産地の鞄・ハンドバッグ製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額を比較したものが図表・26 である。兵庫県は、千葉県、東京都に次いで大きい。

    また、兵庫県では製造品出荷額が 2003 年以降増加しているが、事業所数は 95 ヶ所(2003 年)から75 ヶ所(2013 年)に減少しているため、1 事業者あたりの製造品出荷額は 2002 年の 1.3 億円から 2013年の 2.4 億円に増加している(図表・27)。

    図表・26 主要産地の鞄・ハンドバッグ製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・27 兵庫県の鞄・ハンドバッグ製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    2.62.4

    1.4

    4.7

    1.4

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    東京

    (93社、241億円)

    兵庫

    (76社、97億円)

    大阪

    (83社、120億円)

    千葉

    (10社、47億円)

    埼玉

    (34社、47億円)

    億円

    1.61.4

    1.3 1.2

    1.5 1.6

    1.3

    1.6

    1.9 1.8

    2.12.2 2.3

    2.0 2.0

    2.7

    2.4

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    億円

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    23

    主要産地の鞄・ハンドバッグ製造業の付加価値割合 5を比較したものが図表・28 である。兵庫県は49%となっており、主要な産地のなかで最も高かった。2010 年まではほぼ全国と同水準で推移してきたが、2012 年以降に上昇している(図表・29)。

    図表・28 主要産地の鞄・ハンドバッグ製造業の付加価値割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・29 全国と兵庫県の鞄・ハンドバッグ製造業の付加価値割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    5 付加価値額は、従業者 30 人以上の場合、付加価値額=製造品出荷額等+(製造品年末在庫額-製造品年初在庫額)+(半製品及び仕掛品年末価額-半製品及び仕掛品年初価額)-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額-原材料使用額等-減価償却額として計算さ

    れている。また、従業者 29 人以下の場合は、粗付加価値額=製造品出荷額等-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額)-原材料使用額等として計算されている。本報告書では、付加価値額と粗付加価値額を合算したものを付加価値額と呼んでいる。 また、付加価値割合は、付加価値割合=付加価値額/製造品出荷額として算出している。

    39%

    49%

    41% 43%47%

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    東京

    (93社、241億円)

    兵庫

    (76社、97億円)

    大阪

    (83社、120億円)

    千葉

    (10社、47億円)

    埼玉

    (34社、47億円)

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    全国 兵庫県

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    24

    3)豊岡の鞄製造業の活性化の要因 我が国では 1990 年代以降、アジアで製造された安価な製品の輸入が急増しており、その影響で中価

    格帯の鞄を受託製造(OEM 製造)していた豊岡のメーカーの生産額も減少したと考えられる(次図①に該当)。これらの状況への対策として、豊岡では 2006 年以降「豊岡鞄」を商標登録し、オリジ

    ナル製品を展開している。各製品ともに「廉価で品質が良く」、末永く使える「スタンダード

    なデザイン」であり、また「アフターサービスが充実」しているという明確なポジショニン

    グにより次第に消費者や小売の支持を得るようになっている(次図②③に該当)。

    豊岡では依然として OEM 製造の割合が高いものの、オリジナル製品を消費者から選択して

    もらい、鞄産地豊岡という知名度が高まっていることを背景に、OEM の受託においてもメー

    カーが積極的に豊岡のメーカーを選択する動機が強まり、豊岡のメーカーの交渉力も強く

    なっていると考えられる(次図④⑤に該当)。それが豊岡の製造品出荷額の持ち直しと付加価値割合

    の増加に結実していると推測される(次図⑥に該当)。 豊岡ではさらに、個社の売上・利益増加を背景として、各社が積極的な設備投資や採用・人材育成

    を行っている。また、特筆すべきは、トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー、豊岡市鞄縫製者

    トレーニングセンターなど地域として人材育成を行っており、中長期的に技術力やサービス力の向上

    し、消費者の満足につながり、豊岡鞄が選好につながると考えられる(次図⑦⑧⑨⑩に該当)。豊岡で

    は、このような好循環サイクルが生まれはじめている。

    図表・30 豊岡の鞄製造業の構造

    価格競争力のある海外製品の

    流入各事業者の生産量の減少

    明確にポジショニング

    されたオリジナル製品&豊岡ブランドの展開

    技術力・サービスの向上

    個社&地域による投資への積極化

    (設備・人材)

    消費者満足の向上

    生産量の拡大・利益の確保

    OEM製品の対メーカーの交渉力強化

    オリジナル製品の消費者の選択

    1 2

    4

    6

    8

    9

    10

    7

    3

    5

    6

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    25

    2-4.革製履物製造業の状況

    1)我が国の皮革産業の状況

    日本全体の革製履物製造業の事業所数、製造品出荷額を示したものが、図表・31 と図表・32 である。約 20 年間のあいだに、事業所数は 69%、製造品出荷額は 76%減少している。

    事業所数は 1992 年には 1,283 ヶ所存在したが、2013 年には 394 ヶ所まで減少し、製造品出荷額は 1992年に 4,909 億円あったが、2013 年には 1,199 億円まで減少している。

    図表・31 革製履物製造業の事業所数の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・32 革製履物製造業の製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    1,283

    9731,060

    992934

    864

    740695

    625 603554 561 575

    502456

    402 394

    0

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    20年間で

    69%減少

    491451

    351388 384

    346 330300 285

    252221

    197 197 188 178 193 174149 136 120 120

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    20年間で

    76%減少

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    26

    革製履物 6の輸出入額を示したものが図表・33 である。輸出額は 1992 年に 32 百万ドルであったが、2015 年には 14 百万ドル(17 億円)に減少している。一方、輸入額は 1992 年の 506 百万ドルから、2015年には 1,304 百万ドル(1,588 億円)に大きく増加している。これまで常に大きな輸入超過であり、2015年は輸出の 17 倍の輸入があった。

    また、革製履物の輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移を示したものが図表・34 である。1992年は国内生産額に対して 2倍の革製履物を輸入していたが、2013年はその割合が 10倍に増加している。

    図表・33 革製履物の輸出入額の推移

    出所)UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    図表・34 革製履物の輸入額が製造品出荷額に占める割合の推移(為替は固定)

    出所)工業統計、UN Comtrade を元に野村総合研究所作成

    6 Footwear with uppers of leather

    506

    1,304

    32 140

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1,600

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    百万ドル

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    27

    2)各産業集積地の状況 本事業の検討会において対象としている浅草地区が存在する、東京都の革製履物製造業の事業所数

    が全国に占める割合は 24%、製造品出荷額が全国に占める割合は 24%と、共に全国で最大となっている(図表・35)。

    また、東京都の製造品出荷額も減少しており、1992 年には 1,523 億円あったが、2013 年には 287 億円になっている。全国に占める割合は分析を行った期間内では 2000 年が最も高く 36%であったが、2013年には 24%まで減少している(図表・36)。

    図表・35 革製履物製造業の各県の事業所数(左)/製造品出荷額(右)が全国に占める割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・36 東京都の革製履物製造業の製造品出荷額と全国に占める割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    東京24%

    兵庫23%

    埼玉9%

    大阪9%

    秋田5%

    その他30%

    東京24%

    兵庫18%

    埼玉8%

    福島7%

    山形6%

    その他37%

    152

    135123124121119116

    102101

    8676

    60 59 58 5664

    5846

    4029 29

    36%

    24%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    35%

    40%

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    十億円

    東京都の製造品出荷額等(十億円) 製造品出荷額等の全国に占める割合

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    28

    主要産地の革製履物製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額を比較したものが図表・37 である。東京都は 3.0 億円で山形県、福島県を下回る。

    また、東京都では事業所数の減少よりも製造品出荷額の減少スピードの方が大きいため、1 事業者あたりの製造品出荷額が減少している(図表・38)。

    図表・37 主要産地の革製履物製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・38 東京都の革製履物製造業の 1 事業者あたりの製造品出荷額の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    3.0

    2.3

    2.9

    4.54.8

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    東京

    (94社、287億円)

    兵庫

    (91社、211億円)

    埼玉

    (34社、100億円)

    福島

    (18社、82億円)

    山形

    (15社、72億円)

    億円

    4.44.0

    4.3 4.4

    4.0

    3.53.8

    3.3

    3.8 3.73.9 4.0

    3.63.4 3.4

    3.1 3.0

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    3.5

    4.0

    4.5

    5.0

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    億円

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    29

    主要産地の革製履物製造業の付加価値割合 7を比較したものが図表・39 である。東京都の割合は 33%となっており、埼玉県、兵庫県よりも低かった。また、東京都の割合は直近 20 年間においてほぼ横ばいである。(図表・40)。

    図表・39 主要産地の革製履物製造業の付加価値割合

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    図表・40 全国と東京都の革製履物製造業の付加価値割合の推移

    出所)工業統計を元に野村総合研究所作成

    7 付加価値額は、従業者 30 人以上の場合、付加価値額=製造品出荷額等+(製造品年末在庫額-製造品年初在庫額)+(半製品及び仕掛品年末価額-半製品及び仕掛品年初価額)-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額-原材料使用額等-減価償却額として計算さ

    れている。また、従業者 29 人以下の場合は、粗付加価値額=製造品出荷額等-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額)-原材料使用額等として計算されている。本報告書では、付加価値額と粗付加価値額を合算したものを付加価値額と呼んでいる。 また、付加価値割合は、付加価値割合=付加価値額/製造品出荷額として算出している。

    33%

    37%41%

    28%31%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    35%

    40%

    45%

    東京

    (94社、287億円)

    兵庫

    (91社、211億円)

    埼玉

    (34社、100億円)

    福島

    (18社、82億円)

    山形

    (15社、72億円)

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    35%

    40%

    45%

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2012

    2013

    全国 東京都

  • 第 2 章 我が国の皮革産業集積地の状況と課題

    30

    3)浅草の革製履物製造業の衰退の要因 これまで浅草は、産業集積地としての様々な恩恵を享受してきたと考えられる。例えば、浅草地区

    では革製履物製造業のほか、履物卸、履物部品製造業、皮革卸など様々な革製履物関連事業者が集積

    しており、物理的な輸送コストが低く、また、革製履物を取り扱う卸・小売にとっても、浅草地区に

    行けば複数のメーカーと交渉・取引ができ、取引がしやすいというメリットが存在した。 そのほか、事業者間の情報のやり取りも集積地では密になる傾向があり、ビジネス上、重要な情報

    も人づてに効率的に伝達されていたと考えられる。また、集積していることにより、各製造工程を分

    業しやすくなり、作業効率が向上し、各事業者が専門性を特化してきたと考えられる。結果として、

    多くの技能者(職人)を育成したり、浅草において革製履物事業を開業したりする者も多かったと考

    えられる。 これらのメリットから浅草地区は日本の一大履物産地として振興していたが、徐々にトラック等の

    国内輸送網の発達により、流通コストは下がり、むしろ人件費(あるいは土地代)の高い浅草の他地

    域に対する競争優位は小さくなっていった。また、インターネットの普及により、国内外の情報は集

    積地でない事業者でも容易に獲得できるようになった(情報コストの低下)。 また、1990 年代から国外からの輸入が急増し、あわせて、国内事業者がコスト競争力を求めて国外

    に生産拠点を移転していったことにより、浅草地区の革製履物製造業の集積度も下がり、分業の効率

    も落ちていったと考えられる。 そのほか、従来の浅草のメリットは、良い品質の製品を効率的に製造するという点において特に機

    能してきたが、履物の一定の市場浸透により、顧客の嗜好は多様化し、また、品質だけではなく、履

    物を購入する、使用するという体験の全てを評価するように変化しており、これまでの強みに加えて

    顧客視点から評価される新たな強みを構築する必要性に迫られている。

    図表・41 浅草の革製履物製造業の構造

    事業者間の分業による効率化

    物理的な輸送コストの低さ

    事業者間の効率的情報交換

    技能者の集中

    卸・小売にとっての取引のし易さ

    流通・情報コストの低下

    安価な海外製品の輸入

    生産拠点の国外への移転

    顧客の嗜好の変化

    顧客視点から評価される新たな強みを構築する必要性

  • 第3章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    32

    3―1.本章の概要

    本章では、皮革製品製造業の集積地における取り組み検討に参考となる成功事例について調査を行っ

    ている。具体的な調査対象と、参考としている取り組みは以下のとおりである。

    図表・42 調査対象と主な取り組み

    調査対象 主な取り組み

    豊岡鞄(兵庫県豊岡市) ・地域ブランド:豊岡鞄(2006 年~) ・鞄縫製者トレーニングセンター(2013 年~) ・トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー(2014 年~)

    今治タオル(愛媛県今治市) ・地域ブランド:今治タオル 高岡銅器(富山県高岡市) ・共通ブランド:KANAYA

    甲州ワイン(山梨県甲州市) ・ワインツーリズムやまなし(2008 年~) ・Koshu of Japan(2009 年~)

    燕三条(新潟県燕市・三条市) ・工場の祭典 本検討会の対象にもなっている兵庫県豊岡市では、兵庫県鞄工業組合が 2006 年より地域ブランドとし

    て豊岡鞄を展開している。また、2013 年からは兵庫県鞄工業組合の加盟事業者のうち、有志の 12 事業者によって「鞄縫製者トレーニングセンター」を整備するとともに、2014 年からは豊岡市が、地場産業である鞄に特化した拠点施設である「トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー」が整備されている。

    愛媛県今治市では、四国タオル工業組合が 2007 年より地域ブランドとして今治タオルを展開、また富山県高岡市では、2011 年より有志の 14 社によって金屋町にちなんだ高岡銅器のブランド「KANAYA」を展開している。 山梨県甲州市では、2008 年から一般社団法人ワインツーリズムにより「ワインツーリズムやまなし」

    という甲州のワイナリーをめぐることができるイベントが実施されている。また、あわせて 2009 年からは日本のワイン生産地である山梨県内のワイン生産者 15 社と甲州市商工会、甲府商工会議所、山梨県ワイン酒造協同組合によって Koshu of Japan が設立され、国外において共同プロモーションを実施している。 また、これと類似の取り組みとして、新潟県燕市・三条市において 2013 年より両地域の約 50 の工場

    の見学を行うことができる「工場の祭典」というイベントが行われている。

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    33

    3-2.豊岡鞄に係る取り組み

    (1)地域ブランド:豊岡鞄(2006 年~)

    ・兵庫県鞄工業組合は 2005 年 12 月頃から、豊岡鞄の製品の審査システムや品質基準を守ることなどを会員が誓約するマニフェストの整備を行い、2006 年 4 月から運用が始まった地域団体商標制度に出願、地域ブランド「豊岡鞄」の運用が認められた。

    図表・43 「豊岡鞄」の認証方法

    出所)豊岡鞄公式 Web サイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    34

    ・「豊岡鞄」の商標は兵庫県鞄工業組合に所属し、「豊岡鞄」地域ブランドマニフェスト(図表・44)に署名した事業者が製造し、かつ、兵庫県鞄工業組合「豊岡鞄」地域ブランド委員会が製品基準

    に基づき審査し合格の認定を与えた製品にのみ使用が認められている(図表・45)。

    図表・44 「豊岡鞄」ブランドマニフェスト

    出所)「豊岡鞄」地域ブランド 参加マニュアル

    図表・45 「豊岡鞄」応募製品の条件

    企画 ・自社企画・共同企画及び国内外は不問 製造 ・兵庫県鞄工業組合企業の工場(協力工場・内職)で製造すること。

    ・海外生産は対象外 ・半製品の輸入で地域内加工品は対象外

    種類 ・鞄の種類は不問 ブランド ・自社・他社のブランドとの併用は不問 材料 ・生地・金具・部品などの原産地は不問

    出所)「豊岡鞄」地域ブランド 参加マニュアルを基に野村総合研究所作成

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    35

    ・「豊岡鞄」の認証を受けた商品の欠陥については交換・無料修理を保証している(図表・46)。 ・現在、「豊岡鞄」地域ブランドマニフェストに署名した企業は 18 社。 ・兵庫県鞄工業組合では、保証書、縫着織ネーム、下げ札、取扱い説明書などを販売しており、こ

    れらをブランドの運用の原資としている。なお、保証書、縫着織ネームに関しては装着を必須と

    している(図表・47)。 ・「豊岡鞄」は豊岡の鞄産業の高付加価値化に向けた重要なきっかけとなっている。

    図表・46 「豊岡鞄」の製品保証

    出所)豊岡鞄公式 Web サイト

    図表・47 「豊岡鞄」の認証マークの使用料金とパターン

    出所)豊岡鞄公式 Web サイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    36

    (2)鞄縫製者トレーニングセンター(2013 年~) ・兵庫県鞄工業組合では、加盟 50 数社を対象にアンケートしたところ「縫製者の人手不足と高齢

    化」が課題として指摘されたことを受け、兵庫県鞄工業組合の加盟事業者のうち、有志の 12 事業者によって「市鞄縫製者育成組合」を 2013 年 5 月に設立し、同年 9 月より「鞄縫製者トレーニングセンター(以下、トレーニングセンター)」を運営している 8。

    ・トレーニングセンターは豊岡市の空き施設を活用し、豊岡で鞄作りを行っているベテランの職人

    が指導を行っている。 ・トレーニングの全行程は 3 ヶ月に設定されており、2 ヵ月間の実技指導の後、1 ヵ月間メーカーで実習を受ける(平日 9 時~17 時、土日祝日は休み)。

    ・各期約 10 名の実習生を受け入れており、受け入れはこれまで 8 回行われている(合計約 80 名)。 ・修了後は、ハローワークによる職業斡旋も行われ、豊岡の鞄メーカーに就業する方も多い。第 1期(2013 年 9 月~11 月)の生徒 10 名のうち、7 名が市内の鞄メーカーに就業している 9。

    ・本センターは当初厚生労働省の緊急雇用創出事業を活用(年 1,750 万円の助成)した豊岡市の委託事業として行われており、実習生は時給 800 円とともに通勤手当が支払われる 10。

    図表・48 鞄縫製者トレーニングセンターの外観と内観

    出所)豊岡市公式 Web サイト

    8 2013/06/28 神戸新聞地方版 9 2013/11/30 神戸新聞地方版 10 豊岡市 Web サイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    37

    (3)トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー(2014 年~) ・2014 年 4 月、豊岡市は豊岡駅から徒歩 10 分ほどの宵田商店街に、鞄に特化した拠点施設である「トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー(以下、アルチザン)」の整備を行った 11。

    ・アルチザンは、大型空き店舗を改装した施設で、1F の鞄ショップ、2F の鞄のパーツを販売する専門店、そして 3F の鞄職人育成専門校で構成されている 12(図表・49)。

    図表・49 トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニューの外観と内観

    (左上・外観、右上・1 階、左下・2 階、右下・3 階)

    出所)トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー公式 Web サイト(写真撮影:下村康典)

    11 2015/08/10 日経消費インサイト、トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー公式 Web サイト 12 トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー公式 Web サイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    38

    ・1 階の鞄ショップには、アルチザンオリジナルブランドである「A&D27」や「BELCIENTO」の他、豊岡産の様々なブランドが置かれている。

    ・3 階の鞄職人育成専門校では、年間プログラムで上限 10 名の生徒を受け入れている(2014 年度:6 人、2015 年度:9 名)

    ・生徒の大半は豊岡市外から入校し、多くの卒業生が市内の事業者で就業している(第 1 期の 6 人は企業派遣の 1 名を除き全員が豊岡市の事業者に入社)13。

    ・約 1,380 時間/年の授業を行っており、授業料は年間 126 万円である。応募の条件は、「入学時の年齢が 18 歳から 40 歳までの男女」、「高等学校卒業(見込み)以上」等となっている。

    ・アルチザンは、豊岡市、商工会議所、商店街らによって作られた豊岡まちづくり㈱が設立・運営

    を行う。 ・設立にあたっては、豊岡市が整備費として 1 億 3,000 万円(土地・建物取得費:2,900 万円、建物設計費等:1,100 万円、建物改修工事費:9,000 万円)を補助するとともに、豊岡商工会議所等が 1,500 万円の支援を行った。

    ・現在、アルチザンは豊岡の鞄産業の振興において重要な拠点となっている。

    図表・50 トヨオカカバンアルチザンスクールの特徴

    出所)トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー公式 Web サイト

    13 2015/08/10 日経消費インサイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    39

    3-3.今治タオルに係る取り組み 14

    ・タオルの業界団体である四国タオル工業組合では、衰退の危機感から「産地ビジョン策定委員会」

    が設置され、1995 年に「産地ビジョン」(今治産地に未来はあるか)を策定した。 ・しかし、既に輸入量が国内生産量を逆転した当時ですら、タオルメーカーの危機意識は大きくは

    なく、「技術や品質では輸入品に負けない」、「いいものをつくっていさえいれば売れる」、「いつか

    は見直される日が来る」という、漠然とした期待感が漂っており、「産地ビジョン」は事業者に浸

    透しなかった。 ・その後も市場の衰退は進み、2001 年に日本タオル工業組合連合会は経済産業省にセーフガードの発動を要請した。しかし、4 度の決定見送りののち、2004 年 4 月に調査が打ち切りとなり、産業はさらに厳しい状況に追い込まれることとなった。

    ・2004 年 5 月には、「新産地ビジョン策定委員会」が設置され、産地ビジョン「「MADE IN 今治」で差別化」が策定された。タオル事業者の自立の方向性を示したビジョンを示したことで、卸か

    らは一定の圧力の圧力を受けたが、下請けビジネスは限界であるという危機感からこのビジョン

    を実行していった。 ・2006 年にはプロジェクト費用の 2/3 が補助される中小企業庁「JAPAN ブランド育成支援事業」に「Imabari タオルプロデュース~「新 Towel ライフ」の演出~」」というプロジェクトに応募し、採択された。

    ・本事業予算により佐藤可士和氏がクリエイティブディレクターに就任し、はじめに、今治タオル

    の提供価値である「安心・安全・高品質」を伝達するブランドロゴを設定し、今治の表記を「imabari」に統一した。

    ・このロゴは各商品に、商品に縫い付ける織りネームとして取り付けることとした。

    図表・51 今治タオルのブランドロゴ

    出所)今治タオル公式 Web サイト

    14 佐藤可士和・四国タオル工業組合「今治タオル 奇跡の復活 起死回生のブランド戦略」を参考に記述。

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    40

    ・当時、今治タオルの事業者は技術に自信を持っていたため、様々な柄を表現したいと考えていた

    が、顧客にとっての「安心・安全・高品質」のわかりやすさを重視し、商品は白に統一した。 ・また、今治タオルに関して厳格な品質基準を設定した。具体的には吸水性、脱毛率、パイル保持

    率、耐光、洗濯、汗、摩擦、引張強さ、破裂強さ、寸法変化率、メロー巻き部分の滑脱抵抗力、

    遊離ホルムアルデヒドという 12 の試験項目を設け、それをクリアしたもののみを今治タオルとすることにした。

    ・今治タオルのお披露目イベントとして、2007 年 2 月に青山のスパイラルホールにて、5 日間の「今治タオルプロジェクト展」を行うとともに、初日にはマスメディアを対象としたプレス発表会を

    行った。 ・2012 年 6 月は南青山に直営店舗を設けている。この店舗は必ずしも売上をあげることを目的とした店舗ではなく、今治タオルの PR を目的としたものであった。

    ・また、国内外の各種展示会に積極的に出展してきた。国内ではじめて、出展した「インテリア・

    ライフスタイル展」は伊勢丹百貨店新宿店での取り扱いのきっかけとなり、また国外では近年、

    インテリア等における影響力の大きな展示会に出展することができるようになっている。 ・また、国内外の展示会ともに、今治タオルの「安心・安全・高品質」のイメージを伝えるために、

    ブースは白木による日本調に統一している。

    図表・52 今治タオルの国内外プロモーションイベント例

    国内 ・インテリア・ライフスタイル展(2007 年、東京・ビッグサイト) ・インテリア・ライフスタイル展(2008 年) ・今治タオルメッセ(2007 年、2008 年) ・今治タオルメッセの東京開催(2009 年)

    国外 ・ハビターレ 09(2009 年、フィンランド) ・上海インターナショナルギフトショー(2011 年) ・マチェフ展(2011~2013 年、ミラノ) ・メゾン・エ・オブジェ・アジア(2014 年、シンガポール) ・100%デザイン(2014 年、ロンドン) ・スプリング・フェア・インターナショナル(2015 年、バーミンガム)

    図表・53 南青山店の内観

    出所)今治タオル公式 Web サイト

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    41

    図表・54 国外展示会での展示ブース

    出所)今治タオル公式 Web サイト

    3-4.高岡銅器に係る取り組み

    ・高岡銅器の卸など 62 社によって構成される高岡銅器協同組合では、2010 年から「販路改革 10年計画」に取り組み、高岡市金屋町で鋳物が発祥して 400 周年にあたる 2011 年に、有志の 14 社によって金屋町にちなんだ高岡銅器のブランド「KANAYA」を立ち上げた 15。

    図表・55 KANAYA の商品郡

    出所)KANAYA 公式 Web サイト

    ・本取り組みは、中小企業庁「JAPAN ブランド育成支援事業」の補助を受け行ったもので(補助は 2010 年~2013 年の 4 年間受けていた)。補助 1 年目は、燕三条などの先行プロジェクトの視察、勉強会、パリやフランクフルトの見本市見学や市場調査などを行い 16、2 年目に「KANAYA」を立ち上げている。

    15 2011/05/11 北日本新聞朝刊 16 2011/05/11 北日本新聞朝刊

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    42

    ・同組合では「KANAYA」のプロデューサー業務を富山県デザインセンターに 20 年間、非常勤で勤務しており、高岡の産地の気質や、生産のレベルなども熟知している桐山登士樹氏に依頼し、

    既存商品を利用した新商品を展開している。

    ・KANAYA の設立当初は、桐山氏に全てのデザインを委託していたが、現在は商品のバリエーションも増えてきたため、桐山氏と相談のうえ、8 人(組)の 30~40 代の若手のデザイナーと協業している 17。

    ・トレンドの移り変わりが早すぎないため、地方の産地が取り組むには適正であると判断され、イ

    ンテリアを中心に企画・販売されている。 ・2011 年 7 月には東京にてブランド発表会を行い、「KANAYA」ブランドの商品約 25 点を展示するとともに、同年 10 月にも発表会を行った 18。

    ・2012 年には「KANAYA」を株式会社化するとともに、ショップを構えている。また、フランス・パリ市で開催される世界最大級のインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展している(2012年~2014 年に出展)。

    ・現在、「KANAYA」は 9 社によって運営されており、専任はパートタイムの 1 名のみである。9社の経営者が財務、営業、開発などを分業している。

    ・展示会などを基にした引き合いなどで、現在、KANAYA は主に大塚家具の店舗、百貨店の企画展、個人のセレクトショップなどで販売されている。2014 年時点の年間売り上げは約 2,000 万円とされている 19。

    図表・56 KANAYA の直営店の外観と内観

    出所)KANAYA 公式 Web サイト

    17 2011/09/21 日経 MJ 18 2011/07/08 東京読売新聞 19 2014/01/24 東京読売新聞

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    43

    3-5.甲州ワインに係る取り組み

    (1)ワインツーリズムやまなし(2008 年~)

    ・山梨県では 2008 年より「参加者が自分たちで行動スケジュールを考え、ワインが造られる地域を自らの足で体感する 20」イベント、「ワインツーリズムやまなし」が実施されている。

    ・このイベントは毎年実施されており、初回となる 2008年には甲州市の 30のワイナリーが参加し、1 日の開催期間中に 1,284 人が来場した。

    ・現在、「ワインツーリズムやまなし」には甲斐、山梨、笛吹、甲府のワイナリーが加わり、60 に拡大している。

    ・開催当初のフリーパスは 2,500 円に設定していたが、年々来場者数が増加し、ワイナリー側が十分に対応できるキャパシティの観点から、2012 年には 2 倍の 5,000 円に値上げし、1,500 人限定とした。2013 年は定員に満たなかったものの、その後、受け入れ体制の整備を徐々に行うとともに、人気がさらに拡大し、2014 年には 2,000 人、2015 年には 2,500 人に限定枠を拡大している。

    図表・57 ワインツーリズムやまなしの参加者数の推移

    出所)2015/11/06 日本経済新聞電子版

    ・イベントの当日は、ワイナリーを巡る参加者専用の循環バスが用意されており、参加申し込み者

    には事前に簡易マップ、時刻表、ワイナリー情報が送付され、参加者は計画を立て参加する。当

    日は試飲用のワイングラス(プラスチック製)もプレゼントされる。 ・このイベントは 2000 年に甲府市市内にレストランを開業した大木氏が仕掛け人となり行われたものである。大木氏は山梨県出身で、東京でコンテンツを提案する業務を経験した後、甲府に Uターンを行った。山梨のレストランでは、必ずしも山梨産のワインが楽しまれていないことを問

    題視し、一般社団法人ワインツーリズムを立ち上げ、このような取り組みを行っている 21。 ・大木氏は当初甲州ワインに関する作り手の思いなどを盛り込んだ小冊子を作り、800 円で販売を行った。また、2007 年には地域の名所や旧跡などを盛り込んだ「ワイナリーマップ」を作成し、500 円で販売した 22。

    20 2015/11/06 日本経済新聞電子版 21 2015/10/26 日本経済新聞 22 2015/11/06 日本経済新聞電子版

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    44

    (2)Koshu of Japan(2009 年~) ・日本のワイン生産地である山梨県内のワイン生産者 15 社と甲州市商工会、甲府商工会議所、山梨県ワイン酒造協同組合によって 2009 年 7 月に Koshu of Japan(以下、KOJ)が設立された。その後、一部企業が入れ替わり現在は 12 社が参加している。

    ・KOJ では、「日本を代表する「甲州」の品質向上をはかり、世界市場において認知を向上させ、適切なマーケットプレイスを獲得すること」を目的としている 23。

    ・具体的には、甲州ブドウや産地の歴史を説明した冊子、各社の製品を紹介するカタログ、Webサイトなどを英語でも用意し、プロモーション活動を行っている。また、毎年、ロンドンなどで、

    ワイン関連のジャーナリストや料飲関係者などを招く試飲会を実施している。 ・2011 年度はロンドンに加えパリで、2015 年度にはストックホルムでもプロモーション活動を実施している。

    ・また、2010 年度からは英国在住でワイン業界の世界的権威である「マスター・オブ・ワイン」の資格を持つリーン・シェリフ氏をコンサルタントとして迎えている 24。

    ・本取り組みは、中小企業庁「JAPAN ブランド育成支援事業」の補助(2/3 補助)を受けて行われていた。2010 年度の活動費は 3,000 万円で 2,000 万円を中小企業庁の補助で、1,000 万円を山梨県、甲州市、甲州市商工会などの負担でまかなっている(補助は 2009 年~2011 年の 3 年間受けていた)25。

    23 Koshu of Japan 公式 Web サイトより 24 Koshu of Japan 公式 Web サイトより 25 2010/06/15 日本経済新聞

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    45

    ・このような活動の結果、KOJ 加盟ワイナリーは、2010 年度:1,992 本、2011 年度:3,388 本、2012年度:6,168 本、2013 年度:16,818 本、2014 年度:22,284 本を輸出している 26。

    ・また、2012 年度までは全て EU 向けの輸出だったが、2013 年度以降は香港や台湾、オーストラリア、インドネシアなど EU 以外の国々にも輸出されるようになっている(2014 年度は EU 以外が全輸出量の 71.4%を占める)27。

    図表・58 KOJ の国外プロモーションイベント例

    2009 年度 ・ジャパン・ソサエティー会員ら約 100 人を対象に、日本大使館でイベントを開催(1 月 12 日)

    ・世界のワイン流通に影響力を持つジャーナリスト 20 人以上を日本料理店に招待(1 月 13 日)

    ・現地のレストランや酒類小売店、報道関係者ら約 100 人を招待し、試飲・商談会を開催(1 月 15 日)

    2010 年度 ・具体的に輸出を目指すワイナリーが個別に商談(1 月 17 日) ・現地のすし店に食のジャーナリストを招待し、和食と甲州ワインの相性を体験

    (1 月 18 日) ・豪州のワイナリー各社がロンドンで開く大規模試飲会「ワイン オブ オーストラリア」を視察(1 月 19 日)

    ・業界関係者 150 人ほどを招き大規模商談会。夜は日本文化の親睦会「ジャパン・ソサエティー」の会員ら 100 人と懇談会(1 月 20 日)

    ・ワイン専門店の担当者と意見交換会(1 月 21 日) ※プロモーション事業には、KOJ に加盟する 14 社のワイナリー経営者のほか、県商工労働部長、甲州市長ら約 30 人が参加

    出所)2009/12/25 日本経済新聞、2010/11/26 日本経済新聞、2011/01/18 山梨日日新聞、2011/01/22 山梨日日新聞を基に野村総合研究所作成

    3-6.燕三条の鋳物に係る取り組み

    ・燕三条では 2013 年より「工場の祭典」というイベントが行われている。 ・工場の祭典は、燕市、三条市、燕三条地場産センターなどによる実行委員会形式により実施され

    ており、年 1 回数日間のみ両地域の約 50 の工場の見学を行うことができる。 ・2013 年は 54 事業者が参加し、来場者は当初目標の 2 万人を下回り、来場者は 10,708 人であったが、2014 年には 59 事業者が参加し 12,661 人が来場、2015 年は 68 事業者の参加で 19,312 人が来場するなど年々人気が拡大している 28。

    ・例年、来場者の約 4 割が県外客で占められており、また、20 代~30 代が 5 割弱を占めている 29。 ・2015 年の「工場の祭典」では、12 コースのバスツアーを用意するとともに、工場や寺院などでレセプションを開催し、来場者には飲み物や食べ物が提供された 30。

    26 2013/07/01 山梨日日新聞、2016/03/13 山梨日日新聞 27 2016/03/13 山梨日日新聞 28 2016/02/10 新潟日報 29 2013/10/30 日経 MJ 30 2015/09/18 新潟日報、2015/08/13 日刊工業新聞

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    46

    図表・59 第 4 回「燕三条 工場の祭典」の概要

    開催期間 2016 年 10 月 6 日(木)~10 月 9 日(日)9:00-16:00(12:00-13:00 を除く) 開催場所 新潟県三条市・燕市全域 主催・運営 「燕三条 工場の祭典」実行委員会 共催 一般財団法人燕三条地場産業振興センター、三条市、燕市 監修等 method/イベント全体監修

    SPREAD/アートディレクション、デザイン HOW INC/PR

    出所)工場の祭典第4回「燕三条 工場の祭典」参加募集要項

    図表・60 第 2 回「燕三条 工場の祭典」の様子

    出所)工場の祭典 PressRelease(2015 年 6 月)写真撮影:Jingu Ooki

  • 第 3 章 皮革産業以外の産業集積地での取り組み

    47

    ・元々、三条市では 2007 年より「越後三条鍛冶まつり」を実施し、製品製造の体験や展示販売を行っていたが、来場者からは工場見学へのニーズが高く、ツアー形式で工場をまわれるイベント

    として発展させた 31。 ・また、当初のイベントは三条市のみで実施する予定であったが、「県外や世界に売り込むには三

    条単体でなく、食器や調理機器で知られる�