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我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあり方 (最終報告) 2009 3 30 独立行政法人 水産総合研究センター - 1 -

我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

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我が国における総合的な水産資源・漁業

の管理のあり方

( 終報告)

2009 年 3 月 30 日

独立行政法人 水産総合研究センター

- 1 -

Page 2: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

はじめに

独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

あり方についての検討を行うこととしました。 近、我が国の水産資源管理手法に関する

議論が活発化しているなか、TAC(漁獲可能量)による漁獲量の量的規制に留まらず、禁漁

期や産卵・生育場の保護などの従来からの手法を含めた総合的な観点からの検討が必要で

あるとの、水産庁からの要望に応えたものです。

水産資源の持続的な有効利用を図る観点から、漁業権制度や漁業許可制度をはじめとす

る我が国の従来からの漁業制度の効果と課題を明らかにし、様々な水産生物を多様な漁法

で漁獲し利用してきた、我が国漁業の特徴に見合った「日本型」の水産資源や漁業の管理

のあり方を探ることが検討のねらいです。

平成 20 年 4 月から、水産総合研究センター内外の専門家による検討委員会を設置して検

討するとともに、関係団体や学識経験者等からもご意見を伺い、その結果を平成 20 年 7 月

に中間報告いたしました。その後、さまざまな分野の有識者・専門家にご講演いただくと

ともに、インターネットによるアンケート調査を行って議論を深め、このたび 終報告と

してとりまとめました。

報告では、我が国の水産業が対象としている水産資源及び産業構造の多様性や特徴をふ

まえ、現状の長所と問題点に関する分析を行い、水産資源及び環境保全の実現や地域社会

への貢献等、将来の望ましい水産業の理念について整理しました。その結果から、水産資

源及び漁業管理のグランドデザインと漁業制度の柔軟性の必要性等優先的に取り組むべき

課題を提示しています。また、様々な価値観の違いを明示的に反映した 3 つの政策選択肢

を提示し、その相対評価や、アンケート調査結果に基づく国民ニーズとの適合性を議論し

ました。

このような検討機会をくださった水産庁、そして、ご協力いただいた皆様に感謝すると

ともに、私共の検討結果が水産業の発展に少しでも役立つことを心より祈念いたします。

平成 21 年 3 月 30 日

独立行政法人水産総合研究センター

理事 石塚 吉生

- 2 -

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検討委員名簿(敬称略)

座長

石塚 吉生 独立行政法人水産総合研究センター 理事

外部委員

黒沼 吉弘 大妻女子大学社会情報学部 教授

馬場 治 東京海洋大学海洋政策文化学部 教授

山川 卓 東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授

内部委員 和田 時夫 水産総合研究センター 水産工学研究所長

馬場 徳寿 同、本部業務企画部長

堀川 博史 同、中央水産研究所資源評価部長

田坂 行男 同、中央水産研究所水産経済部長

本多 仁 同、遠洋水産研究所熱帯性まぐろ資源部長

岸田 達 同、日本海区水産研究所日本海漁業資源部長

谷津 明彦 同、西海区水産研究所東シナ海漁業資源部長

三谷 卓美 同、中央水産研究所水産経済部漁業管理研究室長

富塚 叙 同、中央水産研究所水産経済部水産政策研究員

牧野 光琢 同、中央水産研究所水産経済部漁業管理研究室研究員

大河内裕之 同、本部業務企画部研究開発コーディネーター

小倉 未基 同上

檜山 義明 同上

- 3 -

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目 次

要旨 5

1.検討の基本的考え方と手法 7

1.1 基本的な考え方 7

1.2 検討手法 7

2.検討結果 8

2.1 理念 8

2.2 現在の水産業の長所と問題点及びその相関関係 8

2.3 水産政策の基本的方向性 9

2.4 政策選択肢とその効果 21

2.5 アンケート調査による国民の政策ニーズの把握 24

2.6 引用文献 25

図表 28

3.資料

3.1 テーマ別レビュー

3.1.1)各国の水産業の生態的・社会的特性と資源・漁業管理制度 45

3.1.2)外国の管理方策・体系(かつお・まぐろ以外) 54

3.1.3)世界のカツオ・まぐろ類の漁業と資源状態 62

3.1.4)我が国周辺のまぐろ資源管理 67

3.1.5)多面的機能と環境保全との関係 71

3.1.6)日本における海洋保護区の考え方 79

3.1.7)文献「使用権と責任ある漁業」について 90

3.2 資源管理及び漁業管理に関わる国民の意向について

(アンケート調査) 99

3.3具体事例集 126

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要旨

水産資源・漁業の管理は、それぞれの国や地域における水産業の社会的・生態的特性に合

った方策がとられるべきであるとの観点から、我が国水産業の特性に適した水産資源・漁

業の管理のあり方について、政策立案者に選択肢を提供することを目的として、検討を行

った。

まず、将来の望ましい水産業の姿として、本検討会では 16 の属性を同定した。その内容

は、A 資源・環境保全の実現(資源・環境政策面)、B 国民への食料供給の保障(食料政策

面)、C 産業の健全な発展(産業政策面)、D 地域社会への貢献(地域政策面)、E 文化の

振興(文化・科学技術政策面)、の 5 つに分類することができた。

次に、現在の水産業が有している長所及び問題点を同定し、その結果をもとに、問題の相

関関係を問題相関図として描写した。また、問題相関図で同定された因果関係の分析をも

とに、様々な問題の要因の中から、優先的に取り組むべき課題の組合せを抽出した。

さらに、これら優先的に取り組むべき諸課題への対策を検討することを通じて、今後の水

産政策の基本的な方向性を議論した。その内容は、1)総合政策としての水産資源・漁業

の管理(目的・評価・施策の組合せ)、2)資源・漁業管理のグランドデザインの明確化、

3)制度的柔軟性の向上、4)流通システムの改善、5)科学的知見・モニタリング精度

の向上、6)国際的管理体制の構築、7)生態系の特性と消費者ニーズの双方に対応した

生産体制の構築、8)水産業・漁村の多面的な機能の評価、の 8 つにまとめられた。なお、

将来の望ましい水産業の姿とそのグランドデザインは次ページのようにまとめた。

具体的な政策を検討する際には、価値観の問題が深く関わる。これは、科学的に一意に決

まるものではなく、本来国民の選択にゆだねられるべき性質のものである。よって本検討

会では、様々な価値観の違いを明示的に反映した、3 つの政策選択肢を提示した。「グロー

バル競争シナリオ」では、産業の経済的(貨幣的)効率性を重視し、漁業は利潤の 大化

を追求、それ以外の部分は国が責任をもって管理する、という考え方に基づいた選択肢で

ある。「生態的モザイクシナリオ」は、資源・環境保全における地域(コミュニティー)の

役割を重視し、沿岸漁業は公的役割もふくめ地域の中核を担う一方で、沖合は産業効率の

改善と生産の増大を追及するという役割分担を想定した。「国家食料供給保障シナリオ」で

は、国民への食料供給の公共性を重視し、国際需給等に関係なく、安定した価格で安全な

水産物を国の責任として供給することを重視したものである。また、これら 3 つの政策選

択肢が A~E の各理念に寄与する程度を数値化することにより、各政策選択肢の相対評価を

試みた。

さらに、国民の政策ニーズを把握するためのアンケート調査を実施し、その結果に基づい

て 3 つの政策選択肢の妥当性を検討した結果、「生態的モザイクシナリオ」が も国民のニ

ーズに適合していることが示唆された。ただし、これら 3 つの政策選択肢は、価値観の違

いを明示的に際だたせた理論的シナリオである。実際の政策立案においては、各選択肢の

特徴を踏まえるとともに、国民の政策ニーズにきめ細かく配慮した形で、これら選択肢の

中庸を採るような現実的選択も必要となろう。

- 5 -

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グランドデザインの構成(太字は課題)

水産業をとりまく生態系

水産業をとりまく社会

モニタリング・調査研究

地域社会の維持発展

養殖業

沖合漁業

??

変動性・不確実性への対応

沖合漁業

沿岸漁業

沿岸漁業

漁業構造の改革(コスト構造再検討など)

合意形成とインセンティブ合理的漁業の推進

(未成魚保護など)

民国

サービス業沖合漁業と沿岸漁業の調和

沿岸漁業

教育・文化

里海・干潟魚付き林

資源・漁業の多様性(技術的手法の活用)

水圏観光・レクリエーション

造船・機械

流通加工業

フィードバック・順応的管理

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1.検討の基本的考え方と手法

1.1 基本的な考え方

水産資源・漁業の管理は、それぞれの国や地域における社会的・生態的特性に合った方策

がとられるべきである。よって本検討は、水産資源の持続的かつ有効利用を図る観点から、

漁業権制度や漁業許可制度をはじめとする我が国の漁業制度の効果と課題を明らかにする

とともに、我が国水産業の特性(対象資源、漁業構造、歴史・伝統、価値観、近年の状況

変化、等)に適した水産資源・漁業の管理のあり方について、政策立案者に選択肢を提供

することを目的とした1。なお、養殖業は国民への安定的な食料供給を実現するための重要

な施策の一つであるが、本検討では主に野生生物資源の採捕漁業を中心に検討することと

し、養殖業は考察の対象としていない。また、国の行う活動を、政策(あるべき姿、理念)、

施策(理念を実現するための方策)、事業(施策実施の具体的な個別手段)という 3 つのレ

ベルに区分したとき、本検討では主に政策と施策のレベルを中心にした分析を行った。

1.2 検討手法

本検討では、以下の 4 段階の手順に基づいて検討を行った。

手順(1)理念の明確化:検討の第一段階として、我が国の水産業が具備すべき様々な属

性や社会的役割を明確にし、それらを 5 つの理念に分類した。その結果は、2.1で述べ

る。

手順(2)問題の同定と相関関係の分析:現在の我が国の水産業が有している長所を整理

するとともに、現在の問題を引き起こしている様々な要因を同定し、問題相関図として整

理した。また、要素間の因果関係の分析により、手順(1)で整理した諸理念を効率的に

実現する上で優先的に対策を講ずるべき要因の組合せを抽出した。その結果は、2.2で

述べる。

手順(3)管理の方向性と選択肢の立案:前段で抽出した、優先的に対策を講ずるべき要

因を中心に、その解決の為の基本的な考え方を整理することにより、今後の我が国の水産

資源・漁業管理の基本的な方向性を明らかにした。その結果は、2.3で述べる。また、

様々な価値観の違いを考慮した上で、今後の水産政策が取りうる選択肢を 3 種類検討し、

手順(1)で整理した各理念への貢献度に即して相対評価した。その結果は2.4で述べ

る。

手順(4)政策ニーズの把握:国民の政策ニーズを把握するためのアンケート調査を行い、

その結果に基づいて、今後の水産資源・漁業管理の方向性を議論した。その結果は、2.

5で述べる。

なお、これらの検討作業の経過は、中間報告段階で、水産総合研究センター内の全ての職

員に公表し、各研究分野・専門家からの幅広い意見を募るとともに、その意見を検討委員

1我が国では、政策立案者(Policy Maker)と管理者(Manager:政策の執行者)は共に水産

庁あるいは都道府県水産担当部署であり、ほぼ同一であると考えることが出来るが、本報

告では文脈に合わせて適宜使い分けることとする。

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会での議論に反映した。また、外部の有識者・漁業関係者を招いてご意見を伺うことによ

り、「総合的」な視点を反映した。

2.検討結果 2.1 理念

我が国の水産業が具備すべき属性について、本検討では 16 の属性を同定した。その内容

は、A 資源・環境保全の実現(資源・環境政策面)、B 国民への食料供給の保障(食料政

策面)、C 産業の健全な発展(産業政策面)、D 地域社会への貢献(地域政策面)、E 文化

の振興(文化・科学技術政策面)、の 5 つに分類することができる(図 1、表 1)。

我が国の水産資源・漁業の管理は、これら 5 分類・16 属性を射程に入れた総合的な理念

に基づく政策でなければならない。この結果は我が国の水産業が目指すべき、将来の望ま

しい姿についての、定性的な理念・目的として位置づけられ、2.4において各選択肢の

相対評価を行う際、及び2.5において国民の政策ニーズに関するアンケートを実施する

際に使用する。

2.2 現在の水産業の長所と問題点及びその相関関係

1)長所・利点

現在の我が国の水産業が有している、様々な長所及び利点を検討し、2.1で整理した A

~E の理念に基づいて分類した(図 2)2。

ただし、これら長所・利点の一部は、次節で分析する短所・問題点の裏返しでもある。た

とえば、理念 C「産業の健全な発展」に関する長所として挙げられている「季節・海域に応

じた多様な魚種・漁法の存在」は、漁業種間調整機能が複雑となり機能しない原因の一つ

でもあり、また理念 D「地域社会への貢献」で挙げられている「地域慣習による沿岸利用秩

序の存在」は、制度的柔軟性が不足する一因にもなっている。よって、2.3で政策選択

肢を立案・評価する際には、ここで挙げた現行漁業の長所・利点を伸ばす効果とともに、

問題解決のための施策が、これらの長所・利点へ与える負の影響をも勘案する必要がある。

2)問題点とその相関関係

現在の我が国の水産資源・漁業管理が有している様々な問題について、その要因を検討し、

問題相関図を作成した(図 3~7)。さらに、要因間の因果関係の特性にもとづいた分類を行

った結果、ボトルネック要因、水産業内部の独立要因、水産業の外部の独立要因、相乗独

立要因、過程要因、の 5 種類に分類することができた(表2)。

3)優先的に取り組むべき要因の抽出

2 なお、全ての海域・漁業種でこれらの長所・利点が実現しているわけではない。

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問題相関図を構成する各要因に対する施策が、各理念(A-1~E-3)の向上に及ぼす効果を

集計することによって、優先的に取り組むべき要因の組合せを以下のように 2 種類作成し

た。各要因の詳しい内容については表 3 を参照されたい。

<効率性の高い効果>

以下の 4 つの要因を対象とした施策は、相乗効果が発生し、各理念の向上に関して効率性

の高い効果が期待できる。しかし、理念 E-3 科学技術振興と国際貢献、A-3 国際的管理体

制の構築、B-2 食の信頼・安全性の確保、D-2 沿岸域の総合的管理と防災、D-3 地域漁民

のライフサイクルへの対応、E-1 水産業・漁村文化、E-2 余暇・海レク・景観、については

ほとんど改善が期待できない。

(ウ)資源管理のグランドデザイン及び説明責任・透明性の不備

(エ)制度的柔軟性の不足

(オ)科学的知見・モニタリング精度の不足

(ク)流通システムの分断・不全

<全ての理念にわたる効果>

上記に加えて、下記の 6 つの要因を対象とした施策の実施により、 低限度、全ての理念

がカバーできる。しかし、その効果にはバラツキがあるため、D-2 沿岸域の総合的管理と

防災、E-1 水産業・漁村文化、については、他の理念に比べて大きな改善が期待できない。

(ア)国際管理機関の欠如・機能不全

(カ)対外戦略の不在

(キ)生産地での販売意識・衛生意識の低さ

(ケ)多面的機能面の支援不足

(コ)国土形成における漁業集落・漁港の位置づけが不明確

② 特定資源への操業の特化(未利用資源の有効活用不足も含む)

2.3 水産政策の基本的方向性

前節までの分析結果を踏まえ、我が国の水産政策の基本的な方向性をまとめる。続く2.

4では、様々な価値観の違いを反映した 3 つの政策選択肢を提示するが、この2.3の内

容はその全ての選択肢に共通して適用されるべき方向性として位置づけられる。

1)総合政策としての水産資源・漁業の管理(目的・評価・施策の組合せ)

(1)管理の目的

日本の水産政策が目指すべき、将来の水産業の望ましい姿について、本検討では2.1に

おいて 16 の属性を同定した(図 1)。その内容は、A 資源・環境保全の実現(資源・環境

政策面)、B 国民への食料供給の保障(食料政策面)、C 産業の健全な発展(産業政策面)、

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Page 10: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

D 地域社会への貢献(地域政策面)、E 文化の振興(文化・科学技術政策面)、の 5 つの理

念に分類することができる。我が国の水産資源・漁業の管理は、これら 5 分類・16 属性の

理念を射程に入れた総合的な理念に基づく政策でなければならない。具体的な諸施策は、

これらの諸理念を改善するために実施され、また施策の評価もこれらの諸理念への貢献度

に応じて判断されなければならない。

(2)管理の評価

評価基準には、効率性(経済効率性や雇用の効率性など、結果と努力量やコストの比較)

に加え、有効性(どれだけ目的を達成したか)、十分性(ニーズを十分満たしているか)、

公平性(受益や費用の分配)、対応性(特定のニーズ・価値を満たしているか)、適切性(社

会にとって適切か)等の尺度がある(宮川 1994)。また、Hilborn (2007) は、資源・漁業管

理の評価基準として、生物的基準(MSY)、経済的基準(MEY)、社会的基準(地域の雇用

創出としての Maximum Job Yield: MJY)、政治的基準(政治的不満を減らすための Minimum

Sustainable Whinge: MSW)の 4 つを提示し、過去の MSY 基準の失敗は、他の基準の成功か、

あるいは基準間の競合過程であると整理している。所謂新古典派経済学的な効率性の議論

の重要性は言うまでも無いが、単一の基準のみに過度に依存することを避け、総合的な評

価が必要である。

(3)管理施策の組合せ

資源・漁業の管理は、単一の施策のみに依存するよりも、複数の施策を組合せたほうが、

生態系及び社会の変化や不確実性、多様性に頑健であることが指摘されている(Charles 2007)3。よって、資源・漁業の管理政策の立案に際しては、図1の 5 分類・16 属性の理念に鑑み、

各施策の適性や有効範囲及び限界を踏まえた活用を図るとともに、複数の施策を組合せる

ことによって相乗的な効果を発揮させることに努める必要がある。具体的な管理施策の内

容と組合せ方は、個別の問題の構造や、緊急度の高さ、国民の政策ニーズ等に応じて決ま

るものであり、一意的な解は存在しない。しかしながら、その一般論は以下のように整理

することが出来る。

まず、資源・漁業の管理施策はその目的(海中の生物再生産から食卓に上がるまでの水産

システム全体の中で、どの部分に効果が期待される施策なのか)に応じて、表 4a に示すよ

うに、大きく 8 種類に分類できる。さらに、各施策の導入手法(どのようなアプローチで

導入するのか)に応じて、表 4b に示すように、5 種類に大きく分類することができる。図

8 は、それぞれの施策が水産システムのどの部分に効くのか、をイメージ化したものである。

また表 5 は、表側に目的別分類、表頭に手法別分類を用いて、管理施策の具体例を整理し

たものである。なお、それぞれの分類群には、表 6 に示したように、固有の長所と限界が

存在する。よって、管理施策の組合せを考案する際には、個別の問題構造を図 3~7 の問題

3 EU 内の各海域の漁業管理手法の構成を比較した Hadjimichael (2008) によれば、多様な国

と漁業種類が輻輳する地中海海域では他の海域よりも多様な管理手法をバランスよく組合

せていることが指摘されている。

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相関図に照らして把握した上で、表 4~6、及び図 8 に基づいて、各施策の組合せが有効か

つ十分に問題に対応しているかどうか、及び、その組合せ方のバランスが効率的かどうか、

等を検討することが有用である。

2)資源・漁業管理のグランドデザインの明確化

2.1にて整理したように、水産資源・漁業の管理においては水産資源を適切な水準に維

持し、低下した資源に対しては回復措置をとるとともに、生態系・環境と調和した漁業操

業を実現する必要がある。よって政府は、国としての資源管理・生態系保全に係る基本的

な考え方を国民・関係者に公表し、合意を形成することが求められる4。近年の資源状況や

資源・漁業管理に関する考え方の流れを踏まえ、以下に水産資源・漁業の管理のグランド

デザインとして重点となるべき事項を述べる。本文とあわせて、図 9 のイメージ図も参照

されたい。

(1)基本的な考え方

世界的に責任ある漁業の確立が求められており、国連海洋法条約や FAO が提唱する「責

任ある漁業のための行動規範(以下、行動規範)」では、資源の持続的(で 適な)利用、

予防的措置5、生態系・環境への配慮等が謳われている。

我が国が国連海洋法条約を批准していることや、水産資源・漁業管理に関する内外の論

議の高まり及び主要水産国としての我が国の責任等からみて、我が国の水産資源・漁業管

理を行うための基本的な考え方は、国連海洋法条約や行動規範に従うのが自然であろう。

総量規制等の管理に歴史的経験を有する諸外国や、国際的な資源管理機構での事例の多

くは、これらの考え方を基本としている。よって、我が国の管理方策を検討するうえでも、

多くの示唆を得ることができると考えられる(資料3.1.1)及び2)参照)。

(2)不確実性への対応

水産資源の管理には、資源が変動すること及び資源評価には誤差があることについての不

確実性がある。不確実性への対処としては、予防的措置と不確実性に頑健な管理方策の採

用が考えられる。後者は、表 4 に示す複数の管理施策の適切な組合せによる順応的管理を

意味し、前者はリスク許容度に直結する。

(リスク許容度)

例えば、TAC 制度の場合、回復が必要な資源に対して、どのような経路を経ていつまで

に回復を実現するのか、達成確率をどの程度とするか、という資源回復の方針(管理の考

え方)に応じて、ABC(生物学的許容漁獲量)の水準は異なることになる。ゆるやかな資

源回復方針では、急速な資源回復方針に比べて、資源が回復しないリスクや、資源が現状

4 これは、国民の共有財産としての資源の管理に関する情報開示として位置付けられる。

FAO の責任ある漁業のための行動規範(FAO 1995)においても、個々の法律や事業を総括

した管理の基本姿勢・目標を明確に宣言することが求められている。 5 予防的措置については、例えば、岸田(1999)を参照。

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より低下してしまうリスクが高まる。他方、漁業経営が悪化するリスクは、多くの場合、

急速な資源回復方針の方が高くなるであろう。よって回復が必要な資源に対しては、透明

性と一貫性を高めるため、TAC 制度と資源回復計画における回復シナリオや諸回復施策と

の連携が検討されるべきである。

なお、現在一部の漁業・魚種において資源水準(及び潜在的漁獲金額)と資本規模(潜在

的漁獲圧)の間にギャップが存在しているが、このような場合には資源悪化・経営悪化の

リスクを誰がどこまで負担するのか、という問題が生じる。さらに、資本規模を縮小する

ために減船措置や許可枠削減などを実施する場合には、その経済的負担を誰が負うのか、

という論点が存在する。これらは価値観や公平に関わる論点であり、本来国民の選択に服

するものであって、科学的に一意に決定できるものではない。よって本報告では、2.4

において 3 つの政策選択肢を提示する。

(順応的管理)

不確実性への対処としては、順応的管理が推奨されている(Walters and Hilborn 1976;松

田 2000)。Walters and Hilborn(1976)は、長期的な目的関数(例えば、割引率を考慮した

総漁獲量)を 大化するための毎年の意思決定を順応的(Adaptive)と呼んだが、現在の順

応的管理はそれにとどまらない意味を含んでいる。すなわち、順応的管理とは、状態の変

化を観測して、その変化に迅速に対応することで、不確実性に順応的に対処しようとする

管理の考え方である(水産総合研究センター 2006)。予測困難な将来に対して管理方策を

固定してしまうのではなく、資源を継続的にモニタリングしながら、その時の資源状態に

ついて 適と考えられる漁獲方法を改訂していく訳である。我が国では、鯨の資源管理に

ついて不確実な生物学的パラメタをなるべく使わないようにするという必要性から、鯨の

改訂管理方式(revised management procedure)として、同様な管理の考え方が発展してきた。

フィードバック管理とも呼ばれる。

モニタリングと意思決定の改訂が順応的管理の核心であるが、ふつう資源管理を行なおう

とする場合は、例えば毎年資源評価を行なって資源の変動傾向と管理基準(適正な漁獲係

数等)についての知見を更新した上で TAC を決定するなどのように、順応的な方法がとら

れる。順応的管理を強調する意味は、ひとつは資源の変動予測に基づく意思決定ではなく、

資源の現状評価に基づく意思決定であることを示すことであろう。もう一つは、あらかじ

め合意された方法に則って、資源評価と意思決定を行い、その意思決定の効果についても

評価した上で、次の意思決定を行なっていくという、モニタリングと意思決定の枠組みが

明確に定められるべきと主張することにあると考えられる。

(3)資源・漁業の多様性

我が国漁業の特徴として、多様な資源を多様な漁業が利用していることが挙げられる(資

料3.1.1)参照)。多様性は自然条件に恵まれるとともに伝統的に育まれた種々の技術

を持つという長所である一方、管理や調整に複雑な条件を与えるという問題点となって現

れる。例えば、我が国周辺のまぐろ資源は多様な漁業種によって漁獲されており、漁業実

態に合った管理が必要である(資料3.1.4)参照)。水産資源・漁業の管理施策は、そ

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れぞれの地域が持つ社会的・生態的特徴によって効果が異なる。ある地域には良い効果を

もたらした施策が、他地域に悪影響を与えてしまうなどということも起こり得るため、き

めの細かい検討が必要である。

我が国の漁業が持つさまざまな多様性(対象資源、漁法、漁業者、地域のあり方)を認

識し尊重することが、資源・漁業管理を考えるうえでも重要になる。

資源・漁業がどのような多様性を持つかによって、適切な管理施策の組合せ方あるいは

その有効性は異なる。たとえば TAC による総量規制のような直接的な方策は、特に単一魚

種を単一漁業で漁獲するような、単純な漁業構造においてはその有効性を十分に発揮する。

しかし、多様性が高い漁業構造においては、TAC の管理や配分の調整等に困難とコストが

伴うことになる。なお、単純な漁業構造においても、TAC 管理が必ずしも良好な管理効果

を発揮するとは限らない(Walters and Pearse 1996)。

TAC などの量的な出口管理を実施する場合でも、行政によるトップダウン的な規制的手

法のみならず、経済的手法、情報的手法、司法的手法、自主的手法(表 6)を組合せて、そ

れぞれの個別問題に合わせた管理を行っていくことが必要である。多様性が大きい我が国

の漁業構造においては、特に、質的な管理施策(表 4 における A 資源の保全(入口)の質

的施策、及び B 資源の保全(出口)の質的施策)が十分に機能することによって、資源・

漁業の持続性を保障することが期待される。

(4)資源変動への対応

気候海洋変動にともなう海洋生態系のレジームシフトによって、資源量が長期的に変動

することが知られている(青木ほか 2005)。レジームシフトへの柔軟な対処が必要である。

例えば、1970~80 年代にペルーのカタクチイワシ不漁期におけるフィッシュミール需要に

よる我が国のマイワシ漁獲増加があり、それに対応した漁船の大型化後の魚船寿命(約 25

年)までに、レジームシフト(1988 年)が起きてマイワシ資源が急減した結果、漁獲能力

が過剰になった(谷津 2005)。

低水準にある太平洋のマサバ資源では、1992、1996、2004 年に卓越年級群が発生し、1992

及び 1996 年級群については未成魚中心の漁獲によって強い漁獲圧が加えられたが、2004 年

級については、TAC と資源回復計画の実施により、3 歳魚までの残存量が増加したと見られ

ている。日本海のスケトウダラ資源は、海洋環境の影響によって近年の加入量が低い水準

にとどまっているため、相対的に漁獲圧が過剰になっていると考えられる。レジームシフ

トなどによって過剰となった漁獲圧を適正な水準に引き下げることが重要である。

卓越する魚種が入れ替わる浮魚類の漁獲方策として、増加した資源へ漁獲対象を切り替

える一方で、低水準な資源への漁獲圧を下げるスイッチング漁獲が提唱されている(勝川

2005)。資源量の増減に応じたすみやかな主対象種の転換を行えるような複合的漁業を育成

する必要があり、そのような操業が可能となるような許可制度についても検討すべきであ

ろう。

水産資源が持つ特性やレジームシフトについて、また、環境要因によって資源が大きく

変動する場合でも資源状態によって適切な資源管理が必要であることを、漁業者、加工流

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通業者、行政、科学者の対話を通じて、十分な理解を得ることが必要である。

(5)合理的な漁獲の推進

従来から行われてきた質的な管理施策による資源・漁業管理をさらに推進することが望

まれる。投棄や混獲を減少させ、経済価値の低い小型魚の漁獲を避けるなどの方策を講じ、

禁漁期や産卵・生育場の保護によって資源の持続的な利用を図るとともに、生態系の保全

や環境への配慮を明確に打ち出した責任ある漁業を推進することが重要である(資料3.

1.5)参照)。

例えば、島根県の小型底びき網漁業について、調査結果から高価格魚の漁獲量をあまり

減少させずに小型魚の混獲を回避する網目の拡大幅を提示し、より安全で操業しやすい漁

法への転換を提言する報告がある(由木・村山 1998)。なお、当該漁業については、すで

に自主的な機関馬力の上限設定が行われているが、出漁日数、操業時間、曳網回数につい

ても制限が必要であると論じられている。また、ブリの資源評価によれば、小型魚の漁獲

圧を減少させることによって、価格の高い大型魚の漁獲量を増加させることが期待できる

(水産庁・水産総合研究センター 2007)。価格の低い小型魚の漁獲を抑え、大きくして獲

る漁業を推進すべきである。

現行の資源回復計画制度では、期間を定めた休漁や保護区の設定、漁具・漁法改良など

合理的な漁獲を目指した様々な手法の組合せが実施されており、その一層の実施と着実な

成果が期待される。

(6)合意形成とインセンティブ

資源・漁業管理を円滑に実効性を持って進めるためには、当事者間の合意形成が必要で

ある。資源管理の成功例とされる伊勢湾のイカナゴ漁業(船越 1998)や秋田県のハタハタ

漁業についても、漁業者の積極的な姿勢が決定的な役割を果たしている。むしろ、漁業者

の協力なくしては、表 4 に示す諸管理施策の十分な効果はいずれも期待できない。

TAC 管理においても合意形成の必要性が論じられている。カナダのズワイガニ資源の例

では、漁獲状況や調査結果をもとに漁業者、科学者、管理者が議論し、漁獲率をあらかじ

め設定された範囲内におさめるという条件のもとでの合意によって TAC が設定される。

資源管理施策の必要性や有効性を漁業者、政策立案者に理解してもらうために、人為的

制御の可能性と限界を明確に説明することが科学者に求められる。また、合意形成は一気

には行えないことも容易に想定されるところから、段階的に行うことが重要である。例え

ば、体長規制など加入量当たり漁獲量(YPR)の向上は管理効果が比較的理解しやすいが、

親魚量あたり漁獲量(SPR)管理は加入量が環境の影響を大きく受けるため、理解が進みに

くいと思われる。その場合でも、YPR の改善による SPR の増加が見込まれるため、分かり

やすく受け入れられやすい管理方策の段階的実施が望ましい。

さらに、漁業許可や漁船建造に関する規制緩和と明確なルールによって、漁業者の努力

が報われるというインセンティブが与えられるような環境を作ることが期待される。

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(7)漁業構造の改革

長期的な燃油価格の上昇が懸念される状況にあって、コスト構造の見直し等を行い、燃

油高騰にも耐えうる漁業を創出することは喫緊の課題である。燃油高騰に対する短期的な

対処とともに、省エネルギー技術の開発を含む長期的な取り組みが必要である。

責任ある漁業を行うために、環境負荷を低減し、混獲・投棄を減少させ、必要な魚を必

要な量だけ漁獲する生産システムの開発を実現するとともに、国際競争力のある経営体の

育成や活力ある就業構造を確立し、資源状況に見合った持続可能な漁業生産構造を構築す

ることが必要である。生産の手段である漁船について、省エネルギー型で安全性、居住性

が高く、生産コストが低く、環境負荷が小さい次世代型漁船を開発する必要がある。同時

に、過剰投資が資源の減少に繋がり、経営の危機的状況から過剰な漁獲を継続して資源を

さらに減少させるという悪循環を断ち切るため、総漁獲能力(経営規模)と資源水準のバ

ランスをとることが重要である。

資源管理に必要な措置(例えば休漁、減船)や深刻な社会情勢の変化(例えば燃油高騰)

に対して、公的な補償・補填を行うことも重要な方策である。どのような政策選択肢をと

るかによってその判断は大きく異なるが(詳しくは2.4参照)、一次産業、地域産業、地

域雇用創出産業としての重要性を鑑みれば、より直接的な補償を行うことも考慮されるべ

きであろう。

(8)沖合漁業と沿岸漁業の調和ある発展

同じ海域で様々な規模の経営体が同じ資源を利用している状況は、我が国のいたるとこ

ろに存在する。沿岸漁業と沖合漁業が共に発展できるような漁業管理が必要である。沿岸

漁業と沖合漁業では同じ資源を対象とする場合も多く、漁場や漁法の違いにより、産卵群

と索餌群、未成魚と成魚など異なる生活史段階の資源を漁獲することが普通である。その

ため、先取り後取りの問題が生じている。この解決には、それぞれの漁獲が資源に与える

影響の定量的・定性的評価にもとづく漁業者間の理解が必要である。

沿岸漁業は対象種が多く許可条件も比較的緩やかなため、資源状態に応じた対象種の変

更(スイッチング漁獲)も容易である(秋田のハタハタ禁漁における代替資源の例)。また、

磯根資源のようにコンパクトな資源を対象とすることが多いため、管理効果は実感されや

すい。一方、資源状態や特定の資源に対する漁獲能力の定量的把握は困難である。また、

漁村の持つ多面的機能への寄与も大きい。そのため、一般的傾向として、沿岸漁業におい

ては質的管理が適している。

一方、沖合漁業は比較的対象魚種も経営体も少ないため、量的管理に適している。実際

に現在わが国での TAC 対象種の多くが沖合漁業で漁獲されている。しかし、先取り競争の

もとでの TAC 制度は過剰投資を回避することが困難であり、IQ や他の質的管理手法との組

合せを早急に探る必要がある。特に、漁獲能力が高い沖合漁業については、どのような将

来像を描いてどのような方法でそれに向かうのかを検討することが重要である。主要資源

の生産力及び漁船の漁獲能力、隻数等について検討し、沖合漁業の将来像を検討する必要

がある。沖合漁業におけるスイッチング漁獲を阻む要因として、魚種による需要と単価の

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問題がある。例えば、1990 年代以降はマイワシに替わってカタクチイワシが増加したが、

魚体がマイワシより小型なこと、自己消化が速く鮮度維持が困難なことなどによりカタク

チイワシへの需要が少ない。そのため、将来的に需要が見込まれるフィッシュミールや養

魚の餌としてのカタクチイワシ用途の研究開発と共に、フィッシュミール工場など加工産

業と一体化した取り組みも重要課題である。

また、すぐには実行不可能であっても、新たな管理方策の導入を検討することは、大き

な漁獲能力を有する沖合漁業の管理に、さまざまな示唆を与えると考えられる。例えば、

経済的手法として、特定魚種の水揚量に対して課金することは、低価格な小型魚の漁獲を

抑制する効果がある。また、努力量を管理するひとつの方法として、漁船が使用する燃油

量を制限する譲渡可能個別燃料割当制(ITOQ)が提唱されている(山川 2007)。

(9)生態系・環境とのリンク

水産資源は生態系の一部を構成しているため、海洋汚染防止や混獲問題、絶滅危惧種の

保全など、漁業操業を通じた生態系への影響についての対処方針(生態系アプローチ、予

防原則、生物多様性保全、地球温暖化対策など)を明らかにする必要がある。

特に、海洋基本計画においても言及されている海洋保護区は、国際的にも議論が始まっ

たところであり、単一種管理における不確実性に頑健であると同時に生態系保全にも有効

であることなどが指摘されている。我が国においても、水産資源保護法に基づく保護水面

や自然公園法に基づく海中公園地区など、法に基づいた取り組みに加え、地域の漁業者・

住民等による自主的な保護区も多数設定されいる。今後は、海洋基本法・同計画に基づき、

我が国における海洋保護区設定のあり方を明確化した上で、水産資源・漁業の管理におけ

る海洋保護区の位置づけと効果に関する議論を深めていく必要がある6。

他方、海洋生態系のレジームシフトに代表されるように、生態系本来の変動が原因で水

産資源の水準が変化する現象も明らかになりつつある。こうした変動は、人間が制御でき

る(すべき)ものではない。よって、対象魚種の迅速な切り替えを促進する施策を推進す

るとともに、水産物の国民への安定的供給を実現するための考え方を明らかにする必要が

ある。たとえば、管理の目標に資源回復だけではなく漁獲量の平準化・安定化を含める(漁

獲量の変動係数で指標化)ことにより、卓越年級群が発生したときの当歳魚・1 歳魚の多獲

を抑制し、産卵親魚量の増大を図ることも考えられる。

3)制度的柔軟性の向上

水産業への新規参入や権利・許可枠の運用、漁船・漁具の設計等について、様々な公的・

慣習的な制約が存在している。一部には、非民主的・前近代的な制約も残存しているため、

これらの制度的制約を可能な限り撤廃するとともに、適格性要件の検証や改善、違反処分

の強化が必要である7。この規制緩和により、コスト削減及び環境負荷低減のための新技術

の開発や採用、権利・許可の柔軟な運用による漁場豊度の効率的活用、新たな人材・アイ

6 海洋保護区の考え方や論点については、資料3.1.6)を参照。 7 撤廃の程度については、次節の政策選択肢を参照。

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デアの流入、雇用の拡大などが促されることが期待される。たとえば、現在の許可トン数

規制に替わる漁獲圧増大歯止め策として、IQ(漁獲量の個別割り当て)、ITQ(譲渡可能な

IQ)、IEQ(努力量の個別割り当て)、ITEQ(譲渡可能な IEQ)、GEQ(努力量のグループ別

割り当て)、GTEQ(譲渡可能な GEQ)などが考えられる(OECD 2006)。さらに、環境保全・

燃油消費削減の機能も備えた IOQ(個別燃料割り当て)及び ITOQ なども提案されている(山

川 2007)。また、費用削減に向けた操業形態のミニ船団化等が一部で導入されており、トン

数上限値の見直しや漁法のハイブリッド化等規制緩和による安全性や労働環境の改善、省

コスト化をすすめることも有効である。さらに、水産物の安定的供給を実現するため、ト

ロール技術とまき網技術をハイブリッド化した漁法の開発のように、資源状態に応じた柔

軟な漁獲対象の切り替えを可能とする技術開発とその制度的支援も必要である。

しかしながら、無批判な規制緩和は、我が国の漁民により歴史的に形成され制度間競争の

淘汰プロセスを経て根付いた自生的秩序(spontaneous order)の崩壊をもたらし、ひいては

現在の漁業制度が有している様々な長所(図 2)を損なう結果につながる恐れがある。よっ

て、現在の秩序が作られてきた歴史や社会背景についての理解とともに、各理念へのプラ

スの効果とマイナスの効果に関する比較衡量と政策判断が必要である。その合理的判断に

資するため、各漁業種の実態と我が国周辺海域の生態系の特徴に即した、自然科学的及び

社会科学的資料を用意する必要がある。

4)流通システムの改善

鮮度落ちが早く、小規模産地が各地に点在する上、様々な魚種が集中的に水揚げされ、

さらに同一魚種でもサイズや質が多様でそれぞれ用途が異なる水産物を効率的に捌くため、

わが国の水産物流通は、産地市場、消費地市場を経由する市場流通を中心に発達した。し

かしながら、現行の水産物流通には、多くの流通関係者が介在する一方で、生産者は産地

市場に生産物を上場して以降の水産物取引にあまり感心を持ってこなかった。このため、

生産状況、旬等の産地情報が十分に流通の末端や消費者に伝わらない反面、多様化する消

費者ニーズも生産者に伝わらない等の弊害が生じている。また、このような流通構造上の

歪みにより、価格形成や需給調整機能にも支障が生じている。よって、水産システム全体

の見地から、今日の物流技術を基礎とした場合の効率的な取引・流通のあり方を検討する

とともに、水産物流通の合理化へむけた施策を実施する必要がある。

そのためには、資源管理の意思決定の過程に加工・流通業者や漁港地域の代表を含めるこ

とにより、水産業界の一体的取り組みを促進するとともに、たとえば、生産・仲卸・消費

地卸売・輸送の一部の過程をつなぐ新業態の開発とビジネス環境の整備などにより、流通

機構の取引改善・簡素化・高度化を図る施策や、情報通信技術を活用したネット上での見

本取引市場の開設など、商品の質(食品面・環境面)に関する十分な情報と選択肢を消費

者に提供できる双方向型の体制を整えることも有効である。また、商品の質の客観的評価

方法の開発や、食品としての安全性をアピールするラベルの添付、調理の手間や残渣・煙

の出ない製品、地魚の活用等のように、多様な消費者ニーズを反映した商品作りを推進す

ると同時に、資源の自然変動を前提にした加工・流通・消費のあり方についても、検討・

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啓発(食育)する必要がある。

5)科学的知見・モニタリング精度の向上

資源・漁業管理を推進するためには、漁獲状況及び資源状態を的確にモニタリングする

ことが重要である。海洋基本計画においても、「水産資源の保存管理措置の充実を図るため、

水産資源の現状や動向、将来の予測評価の精度を高めるための科学的調査を推進する」こ

ととされる。TAC 管理は、ふつう、多くの科学的知見と資源評価を必要とし、TAC 以外の

管理方策においても、資源状態のモニタリングを継続して、その結果を管理方策にフィー

ドバックすることが求められる。どこで、どれだけ、どんな漁獲物が獲れたかという、漁

獲の情報を正確に把握することは、資源評価、資源管理の推進に不可欠である。生態系サ

ービス使用産業である水産業には、その使用の持続性・合理性に関する明確な説明責任が

求められる。よって、統計値の精度を維持向上させるとともに、資源評価に使うことを前

提にした漁獲成績報告書の改善や船舶位置管理システム(Vessel Monitoring System)の導入

などを行うべきである。

また、資源評価は ABC を算定することだけが目的なのではなく、資源状態を的確に把握

し、漁獲利用の問題点や改善点について、さまざまな管理手法の観点から勧告を行うこと

に大きな意味がある。漁業者をはじめ国民に、資源評価の持つ意義や、資源評価がどれく

らいの情報にもとづいて何をやっているのかを理解してもらい、資源評価をよりよくする

ために協力してもらうことも重要である。

現状では、資源動態の予測や ABC の効果、TAC が漁業関係者及び国民に与える影響等に

ついて、科学的な知見は限られており(未知及び本来的変動性の存在)、また、それらの分

析の基盤となるモニタリングや統計情報についても、その対象範囲や精度が十分ではない

ため、不確実性が大きいという問題がある。よって、現時点の科学的知見で理解できるこ

ととその限界を国民及び関係者に公開・共有するとともに、これまでの TAC 施策の効果や

資源回復計画の有効性を科学的に検証する必要がある。同時に、予防的措置の採用と共に

複数の管理施策を組合せた不確実性に頑健な管理方策の採用が望ましい。また、海洋基本

法の枠組みに基づいて、水産庁は研究及びモニタリングにおける主体的な役割を担うとと

もに、地方公共団体との役割分担についても、モニタリング体制自体の持続性と効率性の

観点から再検討する必要がある。なお、科学的知見を蓄積していく上では、仮説検証作業

としても順応的管理の活用が有効である。

特に、当歳・1 歳魚が資源構成の主体となっている資源(例:マサバ太平洋系群、太平洋

クロマグロ)では資源評価の不確実性が大きくなるため、若齢魚の生態に関する知見の蓄

積を促進するとともに、その結果に基づいて特定の時期・海域・漁具・漁法を限って若齢

魚を保護し、齢構成を回復させることも有効であろう。

以上の基本的方向性は、2.2.3)の分析結果より、施策の相乗効果による効率性の高

い効果が期待できる。特に理念 A 資源・環境保全の実現、及び C 産業の健全な発展、につ

いては、効率性の高い効果が期待できる。しかしながら、これらの施策のみでは我が国の

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水産業が目指すべき理念の 16 要素のうち、理念 A-3 国際的管理体制の構築、B-2 食の信頼・

安全性の確保、D-2 沿岸域の総合的管理と防災、D-3 地域漁民のライフサイクルへの対応、

E-1 水産業・漁村文化、E-2 余暇・海レク・景観、E-3 科学技術振興と国際貢献、に関して

十分な改善が期待できない。よって、具体的な問題の緊急性と、国民の政策ニーズに基づ

き、以下の施策についても実施を検討する必要がある。

6)国際的管理体制の構築

国境をまたぐ、あるいは公海における資源や生態系の保全については、管理の体制が十分

に機能しておらず、また管理自体が存在していない場合がある。このような場合、有効な

国際的管理体制の構築を急ぐ必要がある。現在、そのような海域は領土問題が関係してい

る場合が多いが、領土問題と資源・漁業管理問題を分離することへの政治的判断が必要で

ある。領土問題はゼロ・サムゲームであり、ある一つの国にしか利益がもたらされないが、

資源乱獲は関係国全体に不利益をもたらすものであり、その解決は関係国全てに利益をも

たらす(win-win)ことを、関係国の水産関係者に周知し理解を深める必要がある。そのた

めには、関係国の漁業者会合など、民間国際交流の促進が有効と思われる。同時に、国際

的管理体制の下での施策と我が国 EEZ 内における施策との間の整合性について十分留意す

るとともに、先進的で実効性の期待できる新たな施策は随時導入を検討していくことが重

要である。

また、アジア太平洋共通漁業政策の可能性も視野に入れつつ、我が国の国益を見据えた、

中長期的な対外戦略を明確にしておく必要がある。この対外戦略は、諸外国への水産技術

援助事業においても参照されるべきである。たとえば、近隣関係国に対する基金や援助に

よって漁獲データ収集・共有体制を構築するとともに、国際的な海域生態系保全研究(例:

東シナ海)等への積極的な参画・発言が求められる。

7)生態系の特性と消費者ニーズの双方に対応した生産体制の構築

生産段階においては、資源条件と市場条件の双方が原因となり、操業が特定の資源・漁法

に特化する傾向がある。その結果、漁場の生産力を有効かつバランスよく活用することを

妨げ、未利用資源を存続させるとともに、生態系の不安定化や一部魚種の絶滅リスクの増

加、漁業経営の不安定化をもたらし、ひいては供給の不安定化につながる恐れがある。よ

って、適切な政府介入と技術開発・ソフト面のサポート等によって、漁場の生産力と生態

系の特性に適合的な操業のインセンティブが構築されるように、市場の歪みを是正する必

要がある。

一方、現在の生産現場では、一旦出荷した後は、誰がどこでどのように漁獲した魚なのか、

誰が商品を仕立てて出荷したか、などが見えない仕組みになっており、食料供給者として

の責任が問われにくいという問題がある。この問題は同時に、いくら生産現場が工夫・努

力したとしても、市場からの評価や反応が生産者に伝わらない、という問題にもつながっ

ている。「魚介採捕専門から商品提供者への意識脱皮(倉田 2006)」が必要である。よって、

上記4)の「流通システムの改善」と併せて、トレーサビリティーシステムの導入、エコ

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ラベル制度の奨励や、学校・病院などの給食や行政機関の食堂などによるグリーン購入等

の施策により、生産者の販売意識・衛生意識を改善し、人材を育成することを通じて、生

産現場への消費者ニーズの的確な反映を促進し、また水産物の付加価値向上をすすめる必

要がある。生産者が行う小売り活動の促進も有効であろう。

8)水産業・漁村の多面的な機能の評価

水産業が地域社会において果たしている役割は水産物の提供のみではない。地球環境・人

間生活に関わるさまざまな多面的機能(日本学術会議答申 2004)の正当な評価と、その機

能を維持・増進させるための支援措置が必要である。特に水産業・漁村による里海保全(柳

2006)や、流域圏の管理(長崎 1998)、生態系保全8、漁業法や水産資源保護法・自主的管

理措置等に基づく日本型海洋保護区(日本水産学会水産環境保全委員会 2008)などの、物

質循環・環境維持面の役割に対して、海洋基本法関連省庁との連携に基づく(定量的)評

価と経済的支援を実施することにより、沿岸域の自然環境・利用秩序を高めることが必要

である。また、国民の理解を醸成するために、たとえばブルーエコツーリズムなどの振興

や、地域の「お魚祭り」の多面的機能の理解・教育の場としての活用、さらには、漁港建

設の際には上記理解の場を提供する施設及びソフトを組み込み(環境省のフィールドセン

ターの海版)、学校教育に活用することも有効と思われる。

また国民に対して、国土の使い方と食料供給及び環境問題を総合的に考える議論を喚起す

る必要がある。これは第一次産業関係者だけに関わる問題ではなく、国民一人ひとりに関

わる問題である。しかしながら、人口減少が進む我が国の現状を踏まえれば、すべての漁

業集落を現在の数・規模のまま維持することは合理的ではない。とすれば、沿岸に集落が

形成され、人が住むことの国土形成上の位置づけや、その集落が形成された経緯、地域間

の均衡ある発展にむけた役割等を明確にした上で、資源的、生態的、社会経済的条件を考

慮しつつ、どの地域の漁村をどの程度維持することが国土全体の見地から望ましいかにつ

いての議論を進める必要がある9。

さらに、地域再生や今後の高齢化社会において水産業が積極的な役割をはたすことを目的

として、各年齢層に適した様々な職を確保することが重要である。たとえば高齢者問題の

場合、我が国の農山漁村では多くの高齢者が活発に生活しており、そのことが福祉関係の

社会的費用を低く抑えることに役立っている。我が国の漁村が今後も高齢者を包容しうる

能力を持ち続けることが出来るかどうかは、高齢者問題の大きな試金石である。むしろ、

高齢者がその力を発揮し、活き活きと働ける地域とは、すべての人にとって暮らしよい社

会に他ならないという見解(農文協文化部 1987)は、一定の説得力を有していると考えら

れる。すべての人にとって健康的で生きがいのある地域形成を実現するためには、その基

8 知床世界自然遺産海域では、地元漁業者が生態系保全において重要な役割を担っている

(水産庁 2008)。地元漁業者の役割を正当に評価した知床の生態系保全は、UNESCO 世界

遺産プログラムにおける新しい保全モデルとして、また費用対効果が著しく高いモデルと

して、国際的に高い評価を受けている(Makino et al. 2009)。 9 コミュニティー単位の使用権についても論じた Charles(2002)は、地域社会における資

源・漁業管理の参考になると考えられる(資料3.1.7))。

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礎的前提として、地域住民の生活ニーズを満たすインフラ整備が必要であり、関連省庁と

の連携と役割分担が重要となる。

2.4 政策選択肢とその効果

政策科学において、価値観の扱い方は重要である。図 1 の理念 A 資源・環境政策面と、

理念 B 食糧政策面に関しては、水産政策の至上命題であり、価値観の大きな相克はない10。

問題となるのは、理念 C の産業政策面、理念 D 地域政策面、及び、理念 E:文化・科学技術

政策面である。この部分については、たとえばだれがどのような利潤を得るのか(C)、富

をどの地域に還元するのか(D)、文化や景観などの非経済的価値をどの程度重要視するの

か(E)、というように、価値観に関わる問題が不可避である。これは科学的に一意に決ま

るものではなく、国民の選択にゆだねられるべきものである。さらに政策科学的見地から

重要と思われる点は、理念 C、D、E の重みの付け方次第で、理念 A、B の実現のための効

率的な施策内容が変化するという点である。たとえば、地域を重視するなら生態系保全や

沿岸域管理はできるだけ地域に任せるほうが効率がよく、また産業効率性を重視するなら、

市場の失敗を避けるために政府の補完政策が不可欠となろう。よって本節では、足立・森

脇(2003)及び Millennium Ecosystem Assessment(2005)11を参考に、資源・漁業の管理に

主眼においた 3 つの政策選択肢を提示する。なお、本検討では、価値観の違いに起因する

政策の違いを際だたせることによって国民の議論を喚起するため、理念型としてのいわば

極端なシナリオを作成した。

1)グローバル競争シナリオ:産業効率改善重視型の自由主義的シナリオ

産業は利潤追求、政府がそれ以外の部分、という役割分担を明確にしたシナリオである。

まず、現在の水産業の長所への適切な配慮を行いつつも、可能な限り規制緩和と競争促進

を行い、産業から創出される交換価値(貨幣価値)の 大化を進める。ただし、産業への

補助金は基本的に撤廃し、資源管理費用(ABC 推定費用など)についても相当分の産業負

担を求める(Cost Recovery 費用回収)。その結果、産業の国際競争力や就労者所得は高くな

り、また人材も流入する。ITQ、ITEQ、ITOQ など、市場原理を活用した管理手法について

も馴染みやすいが、その導入は、生態系サービスを根拠とした一種の財産権の創設に当た

るため、そのメリットとデメリットをも含めた国民の事前の理解が必須である。また、こ

れらの施策の導入直前の過剰投資を防止するためにも、生態系サービス使用料としてのロ

ーヤルティー(Clark 2006)の徴収が必要である。

資源変動への政府の対応は、TAC あるいは許可数の迅速で統制的(Top Down 的)な増減

を中心に資源の悪化に対して予防的な措置をとって対応する。そこから発生する漁業経営

10 捕鯨の是非に関する文化論・価値論的論争などの問題は存在する。 11 本文献は、国連が国連環境計画(UNEP)を事務局として作成した、生態系から人間の福

利への貢献を高めるために取るべき行動に関する報告書である。その統合報告書(Synthesis Report)p71 以降で、2050 年に焦点をあてた将来シナリオが複数提示されている。

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悪化のリスクは、基本的に全て産業側が負担するが12、迅速な漁獲圧の制御により資源悪化

のリスクは小さくおさえることが可能となる。

ただし、企業行動の原則は利潤 大化(Principal である株主の利益 大化)であるため、

公共財や非交換価値への関心は薄い。その結果、文化的及び漁業形態の多様性は低下し、

地元雇用や環境保全への問題が生じやすい(Matsuda et al. 2008)。さらに、突然の退出や、

創出された富の多くが地域外(東京など)へ流出することが危惧される。よって、政府に

よる社会政策として様々な直接的規制と監視を徹底することによりこれらの問題を未然防

止する必要があるとともに、環境保全や地域維持、及び供給量の安定性確保に関しても、

政府により別途補完施策の強化により対応する必要がある。

なお、このシナリオでは、表 4b における経済的手法を中心に理念 C の産業政策面に関す

る施策を実施しつつ、他の理念面は政府が社会政策として行政的手法を中心に補完するこ

とになると考えられる。

2)生態的モザイクシナリオ:資源・環境保全の地域主義的シナリオ

沿岸は公的役割を拡大した広い意味の漁業、沖・遠洋は産業効率重視という役割分担に基

づくシナリオである。

沿岸漁業に対しては、各海域の生態的特性に応じた資源の持続的利用・生態系保全・食料

生産の説明責任を明確にし(生態系サービス使用産業としての位置付けの明確化)、いわば

地域コミュニティーの中核としての公的な役割を付託する。地産地消や地域通貨による端

物の地域内流通、生態系保全の推進など、新しい役割を担う人材の流入を可能とする規制

緩和を行う。その結果、地域の生態・文化に合わせた多様な資源・漁業管理が実施され、

固有価値(素材面・自然生態面)の保全及び雇用維持・地域維持の効率性が高いが、交換

価値(貨幣価値)面の効率性は低い。よって、地域によっては多面的機能の維持・促進を

条件とした公費の投入が必要となる可能性が大きい。また、沿岸と沖合漁業が同一資源を

共有する場合には、漁獲能力が比較的高い沖合漁業への管理を相対的に強めることを基本

とするが、沿岸と沖合漁業者間の合意形成に特に配慮する必要がある.

遠洋に対してはグローバル競争シナリオと同様の施策を積極的に導入する.我が国 EEZ

内の沖合漁業では、グローバル競争シナリオを基本としつつも、各水域の資源・生態にあ

わせた競争主義的施策を導入し、食料生産の増大とともに交換価値(貨幣価値)面の効率

性を高める。

我が国 EEZ 内漁業における資源変動への対応は、グローバル競争シナリオとは異なり、

産業界と政府の協力によって行われる。水産物の国民への安定的供給を確保するために、

漁業操業が適切な水準に維持されるように配慮するとともに、資源回復が必要な資源に対

しては、資源回復シナリオの設定と、更に必要な場合には ABC シナリオの選択を行い、収

入減の一部に対する経営支援措置と併せた漁獲削減・減船措置によって休漁・退出を促す。

12 資源の自然変動を金融派生商品など資本市場にリスク移転する手法も提案されている

(丹羽 2007)。

- 22 -

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いわば、水産物の安定的供給を志向しつつ、漁業経営悪化のリスクを政府(国民)と産業

が分担する形となる。よって、資源が回復しないリスクと漁業経営が悪化するリスクを比

較衡量して合意形成を行う必要があるため、資源管理に純化した施策は取れず、結果的に

資源が回復しないリスクはグローバル競争シナリオよりも大きい。

なお、このように資源変動に由来する漁業経営リスクの一部を政府が公費で補償する場合

には、その科学的・客観的判断基準とするためにも、漁業者・加工流通業者に対して十分

な説明責任と経営データ提供義務が設定される必要がある。

このシナリオでは、沿岸では表 4b の自主的手法を中心に理念 A、D、E に関する施策を、

沖合では経済的手法を中心に理念 B、C に関する施策を、それぞれ重点的に実施することに

なると考えられる。

3)国家食料供給保障シナリオ:食料供給の公共性と新技術の開発・導入を重視した平等

主義的シナリオ

基本的に我が国 EEZ 内を対象とし、食料生産の公共サービス的な位置づけを重視したシ

ナリオである。

国による科学的調査に基づく資源管理・環境保全により、漁場の生産性を 大限に活用し

た生産体制が構築されるとともに、価格政策(漁獲税徴収や価格維持政策など)の厳密な

執行により、生産者には豊漁不漁に関わらず一定水準の所得を保証する、いわば準公務員

的な性格の食料供給産業を、国として確保する。一定の客観的要件を満たした国民は全て

漁業に参入する資格を有し、既存の生産者はその指導者としての役割を担うことになるが、

定年制などの導入により、人材の流動性を確保する必要がある。

消費者に対しては、国際需給に影響されない安定した価格で安全な水産物の供給を国の責

任として実現するために公費を投入する。また、自然条件と産業的経緯に即した計画的な

水産拠点地区の形成により、地域経済を維持するとともに、地域の文化も維持される。同

時に、操業・環境保全措置や経営に関するデータは全面公開し、生産者による資源・環境

のモニタリング実施と統計情報整備を義務化する。

ただし、業界の創意工夫や技術革新などの誘引は低下するため、科学技術の振興とその成

果の継続的導入により、操業の効率性を常に維持・促進することが重要となる。また、消

費者ニーズの的確な把握のため、別途補完施策が必要となる。

資源変動への対応は、国の責任において行われる。資源の回復が必要な資源に対しては、

水産物供給の安定性と資源回復の速度を衡量し、透明な意思決定過程を経て漁獲量を決定

する。その結果生じる漁業経営上のリスクや減船措置については全面的に公費で補償する。

当面の間、公費の支出量が大きくなるが、食料自給率は大幅に向上し、また長期的な国際

食料価格の上昇を想定すれば、費用対効果の面からも合理的な選択肢となる。

このシナリオでは、表 4b の行政的手法・司法的手法を中心とした施策により、特に理念

B を重点化した施策を実施することになると考えられる。

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4)各政策選択肢の相対評価

各政策選択肢の性格を相対化するため、上記1)~3)の 3 つの各選択肢を採用した際

に理念 A~E に及ぶ影響を、現状を 5.0 として、検討委員各自が 10 段階評価した。その平

均値をレダーチャートにより整理した結果を図 10 に示す。それぞれのシナリオで利害得失

があるが、グローバル競争シナリオでは、理念 C では大幅な改善、理念 A で中規模の改善、

理念 B で若干の改善が想定されるものの、理念 D、E に関しては大幅な悪化が想定される。

生態的モザイクシナリオでは、理念 A~E 全てに関して中規模の改善が想定される。国家食

料供給保障シナリオでは、理念 B で大幅な改善、理念 A、D では中規模の改善が想定され

る。

2.5 アンケート調査による国民の政策ニーズの把握

1)アンケート調査の結果

2.4で述べたように、政策の選択には価値観に関わる問題が不可避である。これは科学

的に一意に決まるものではなく、国民の選択にゆだねられるべきものである。よって、水

産政策に対する国民のニーズを把握するため、インターネットによるアンケート調査を行

った(分析サンプル数は 2000、調査の詳細は資料3.2を参照)。

この調査は、図1で示した理念 A~E について、各理念を構成する諸属性のうちでどれが

も重要と考えられるか、及び、理念 A~E の重要度の順位を質問した。 後に、海洋基本

法・同基本計画の着実かつ効果的な実施に資するため、日本周辺の海域の様々な利用法の

中で国民は何が も重要と考えるか、も併せて調査した。

まず理念 A の資源・環境政策面について、国民は、図1における「A-2 生態系・環境と

の調和」に対する関心が特に高いことがわかった。地域別に見ると、北海道、東北、九州・

沖縄など、漁業生産が大きな地域で特にその傾向が強い。理念 B の食料政策面については、

「B-1 生産増大と自給率の改善」と「B-2 食の信頼・安全性の確保」への関心が拮抗し

ている。この傾向は地域別・男女別に見ても同様であった。理念 C の産業政策面について

は、「C-2 効率的・安定的な経営の実現」を重視する回答者が も多いことが示唆された。

その傾向は 20 代、30 代の若い世代で高く、また、地域間に著しい差は認められなかった。

理念 D の地域政策面については、「D-3 地域漁民のライフサイクルへの対応」を重視する回

答者が多かった。その傾向は 50 代、60 歳以上など、年齢の高い世代で高く、年齢が下がる

ほど低かった。また、地域別では四国、東北、九州・沖縄、が高かった。理念 E の文化政

策面については、「E-1 水産業・漁村文化」の育成・発信に関する関心が も高かった。そ

の傾向は北海道、九州・沖縄、東北など、漁業生産の大きな地域で強くなっていた。

次に、5 つの理念 A~E についての重要性の順位については、「どれも同じぐらい重要(順

位はつけられない)」という回答がすべての地域で過半数を上回り、全国平均でも 54.5%を

占めた。よって、国民のニーズとしては、政策を選択する際に 5 つの理念の間に優先順位

や重み付けを設定することは適当ではないことが推察された。また、順位をつけることが

可能と回答した回答者(全体の 45.4%)に対してその順位を質問した結果、理念 A→理念 B→

理念 C→理念 D→理念 E という順位が示唆された。

- 24 -

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後に、日本周辺の海域の様々な利用法について、重要と考えられるもの(2 つ以内)を

選択してもらったところ、全体の 83.3%が「漁業による食料生産」を選択した。次いで、「潮

力発電や養生風力発電などエネルギー創出」が 54.4%、「海運による物資輸送」が 21.0%、

「釣りや海水浴・マリンスポーツによるレクリエーション利用」が 8.2%、「埋め立て等に

よる空間の創出」が 1.9%であった。なお、「漁業による食料生産」を選択した回答者は、

すべての地域において も多く、また年齢が高まるほどその比率も高まることが認められ

た。

2)政策選択肢との対応

上記結果に基づき、2.4で提示した 3 つの政策選択肢を考察する。まず、過半数の回

答者が、各理念 A~E の間に優先順位や重み付けを設定することが妥当でないと考えている

という結果に鑑みれば、図 10 において各理念のバランスが取れた改善を示している「生態

的モザイクシナリオ」が も国民の政策ニーズに沿っていると考えられる。さらに、順位

をつけることが可能と回答した 45.4%の回答者の間で も重要視されている理念 A につい

て、「A-2 生態系・環境との調和」に対する関心が特に高いこと、その傾向は漁業生産が

大きな地域で強いことにかんがみれば、沿岸域における生態系サービス使用産業としての

漁業の位置づけを明確化する本シナリオは適合性が高いといえよう。生物多様性条約の理

念・方法論を示す指針である生態系アプローチの第 2 原則では、生態系の保全活動を「

も低位の適正なレベルにまで 分権化させるべきである」と指摘している(資料3.1.

5)の補足資料 5 参照)。これは、各地域・海域の生態系サービス利用者が分権的・自治的

に管理を実施することで効果的かつ公平な管理が可能となるという、近年の環境政策の理

念的潮流に沿った考え方である(Dolsak and Ostrom 2003)。

ただし、2.4においても述べたように、本稿で提示した 3 つの政策選択肢は、価値観

の違いを意図的に際だたせて作成した理論的シナリオである。実際の政策立案では、各選

択肢の特徴を踏まえるとともに、国民の政策ニーズにきめ細かく配慮した形で、これらの

中庸を採るような現実的選択も必要となろう。

2.6 引用文献

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図1

理念

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図1

理念

:将

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水産

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水産

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あり

11

- 28 -

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図2

現在

の水

産業

の長

所・利

点図

2現

在の

水産

業の

長所

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22

- 29 -

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図3

現在

の水

産資

源・漁

業管

理の

問題

相関

図図

3現

在の

水産

資源

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業管

理の

問題

相関

33

- 30 -

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図4

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4「A

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た、

図資

源環

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問題

相関

図問

題相

関図

44

- 31 -

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図5

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図5

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問題

相関

図問

題相

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問題

相関

55

- 32 -

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図6

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健全

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健全

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図6

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問題

相関

図問

題相

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問題

相関

66

- 33 -

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図7

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関図

77

- 34 -

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図8

各施

策が

どこ

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売・

図8

各施

策が

どこ

に効

くの

か消

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4に

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43

45

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生物

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段階

43,4

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69,7

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1,7

2

加工

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流通

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段階

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63,6

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64

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37

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75

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6,6

3,6

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78

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2,5

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2,6

3,7

2,7

5

帰港

出漁

帰港

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業40,4

6

漁獲

出漁

陸1

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75

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23

陸との

1,2

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,5,6

,7,8

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61

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2,6

3,6

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5,7

6の物質

61,6

2,6

5,7

5,7

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031,3

2,6

3質循環

然環14,1

517,2

513,1

4,1

517,2

513,1

4,1

517,2

6,2

7環

環境変変動動/人

産卵

幼魚

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孵化

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魚期

産卵

幼魚

成魚

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28,3

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28,3

3

孵化

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カッ

プリ

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改変

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カッ

プリ

ング

33

35,6

336

55

63

競合

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害生

息域

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護・造

成63

- 35 -

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図9

グラ

ンド

デザ

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の構

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ザイ

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管理

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管理

民国

水圏

観光

民国

水圏

観光

・レクリエー

ション

養殖

業造

船・機

里海

・干

里海

干潟

魚付

き林

沿岸

漁業

魚付

き林

流通

加工

沿岸

漁業

沿岸

漁業

沿岸

漁業

資源

・漁

業の

多様

性流

通加

沿岸

漁業

沿岸

漁業

資源

漁業

の多

様性

(技

術的

手法

の活

用)

サー

ビス

業沖

合漁

業と

沿岸

漁業

の調

沖合

漁業

沖合

漁業

と沿

岸漁

業の

調和

沖合

漁業

沖合

漁業

沖合

漁業

教育

文化

教育

・文

地域

社会

漁業

構造

の改

革(

ト構

造再

検討

など

)地

域社

会の

漁業

構造

の改

革(コ

スト

構造

再検

討な

ど)

合意

形成

とイ

ンセ

ンテ

ィブ

維持

発展

合意

形成

とイ

ンセ

ンテ

ィブ

合理

的漁

業の

推進

合理

的漁

業の

推進

(未

成魚

保護

など

)水

産業

をと

りま

く?

(未

成魚

保護

など

)水

産業

をと

りま

く社

会?

水産

業を

とり

まく

社会

モニ

タリ

ング

?水

産業

をと

りま

く生

態系

モニ

タリ

ング

・調

査研

?

変動

性不

確実

性の

対応

生態

系調

査研

究変

動性

・不

確実

性へ

の対

- 36 -

Page 37: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

図1

0各

政策

選択

肢の

相対

評価

図1

0各

政策

選択

肢の

相対

評価

:そ

れぞ

れに

利害

得失

があ

るそ

れぞ

れに

利害

得失

があ

現状

=5

0グ

ロー

バル

競水

産業

は効

率性

の追

求。

現状

=5.0

グル

競争

シナ

リオ

水産

業は

効率

性の

追求

。そ

れ以

外は

政府

の役

割。

争シ

ナリ

オそ

れ以

外は

政府

の役

割。

国家

食料

供給

生態

的モ

ザイ

ク沿

岸は

海域

保全

等公

的役

国の

責任

とし

ての

食料

供国

家食

料供

給保

障シ

ナリ

オ生

態的

モザ

イク

シナ

リオ

沿岸

は海

域保

全等

公的

役割

も沖

合は

競争

主義

国の

責任

とし

ての

食料

供給

と準

公務

員的

漁業

保障

シナ

リオ

シナ

リオ

割も

。沖

合は

競争

主義

。給

と準

公務

員的

漁業

1010

- 37 -

Page 38: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

科学的根拠と透明な意思決定過程に基づく管理施策により、水産資源が適切な水準に維持され、低下した資源に対しては回復措置がとられる。

10年規模の環境変動(レジームシフト)や地球温暖化を含めた、資源・環境の変動に順応的な操業が行われる。省エネ・環境負荷削減・物質循環の促進等、漁業による環境保全への主体的取り組みにより、生態系の構造・機能が保全され、生態系サービスが持続的に享受できる。

国境をまたぐ、あるいは公海の資源や生態系の保全について、国際漁業管理機関など(地域的組織、NGO、草の根組織などの国際的連携による管理体制も含む)を通じて日本がリーダーシップを発揮しながら、国際的管理体制が構築される。

水産物の生産量と国民への供給量が増大し、自給率の改善に貢献する。

安全で汚染されていない水産物が、消費者にとって分かりやすく信頼できる情報とともに供給されることにより、国民の食生活・健康・福祉の向上に貢献する。

将来にわたり水産物が価格・量ともに安定的に国民に供給される。

国民の消費ニーズに的確に対応した多様な商品が市場に供給されると共に、グリーン購入・エコラベル商品などの選択肢が消費者に提供される。

水面の総合的な利用と「適度な競争原理」により、生産・雇用の効率性が保たれるとともに、外的ショックに頑健な経営体制が実現される。また、漁民の主体的な管理により行政費用が節約される。(「適度な競争原理」とは、沿岸と沖合の性格の違いや、漁獲対象魚種の生態的特徴など、各漁業種類の性格に即しつつ、漁獲能力の上限に有効な歯止めをかけた上で資源配分と利用の合理化を目指すことを意味する。)

日本産水産物のブランドが確立し、国際市場における差別化が実現されるとともに、海外への水産物輸出により価格の下支えが実現される。

安全で清潔な労働環境が整備され、魅力ある雇用条件によって新規就業者が確保される。

水産業により、地理的に万遍なく雇用が創出されるとともに、地域経済の活性化や住環境の整備、地域文化の創出・伝承などを通じて、若い年齢層や女性にとっても魅力のある地域が形成される。

地域の水産業関係者の主体的な活動により、環境保全や海面利用秩序の維持に寄与すると共に、災害救助・国境監視・生態系サービスの保全に貢献する。

地域内において各年齢層に適した職が存在し、生きがいのある生活環境が提供されるとともに、他地域からの定年退職後の新規参入も受け入れられる。

地域の自然に根ざした、地域特有の生活・知識・漁労技術や料理などの文化が育まれ、維持されると共に、それらの情報を積極的に社会に発信する。

余暇や保養、教育の場として、漁村が有する機能と魅力が高まるとともに、他の海洋産業と共生する。

資源管理のための基礎的情報の収集や科学技術の進歩に貢献するとともに、それらの知識や技術を国内外に普及することを通じ、国際社会に貢献する。

E 文化の振興(文化・科学技術政策面)E-1 水産業・漁村文化

E-2 余暇・海レク・景観

E-3 科学技術振興と国際貢献

C-3 国際競争力のある商品づくり

C-4 労働環境の整備

D 地域社会への貢献(地域政策面)D-1 地域再生(インフラ・福祉)

D-2 沿岸域の総合的管理と防災

D-3 地域漁民のライフサイクルへの対応

B-1 生産増大と自給率改善

B-2 食の信頼・安全性の確保

B-3 供給の安定性の確保

C 産業の健全な発展(産業政策面)C-1 消費者ニーズへの対応

C-2 効率的・安定的な経営の実現

表1 将来の望ましい水産業の姿

A 資源・環境保全の実現(資源・環境政策面)

A-1 水産資源の維持・回復

A-2 生態系・環境との調和

A-3 国際的管理体制の構築

B 国民への食料供給の保障(食料政策面)

- 38 -

Page 39: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

種類

性格

要因

①変

動性

・不

確実

性へ

の対

応不

全②特定資源への操業の特化(未

利用資源の有効活用不足も含む)

③不

合理

漁獲

の存

在④

高コスト化

⑤環

境へ

の悪

影響

の対策不足

⑥魚

価の

低下

・不

安定

化⑦

人材

・後

継者

不足

(ア)国

際管

理機

関の

欠如

・機

能不

全(イ

)多様

な魚

種・漁

法の

存在

による漁

業調

整の

複雑

さ(ウ

)資源

管理

のグランドデザ

イン及

び説

明責

任・透

明性

の不

備(エ

)制度

的柔

軟性

の不

足(オ

)科学

的知

見・モニタリング精

度の

不足

(カ)対

外戦

略の

不在

(キ)生

産地

での

販売

意識

・衛

生意

識の

低さ

(ク)流

通システムの

分断

・不

全 

(ケ)多

面的

機能

面の

支援

不足

(コ)国

土形

成における漁

業集

落・漁

港の

位置

づけが

不明

(サ)地

球温

暖化

(シ)領

土問

題の

存在

(ス)生

態系

本来

の資

源変

動の

存在

(セ)国

際需

要変

動(ソ

)為替

変動

(タ)燃

油価

格の

上昇

(ウ)資

源管

理の

グランドデザ

イン及

び説

明責

任・透

明性

の不

備(エ

)制度

的柔

軟性

の不

足(オ

)科学

的知

見・モニタリング制

度の

不足

(ク)流

通システムの

分断

・不

(あ)漁

業種間調整機能の不全

(い)自

主管理の弊害

(う)技

術開発の停滞

(え)過

剰資本・過剰装備

(お)CO2削減目標

(か)情

報発信・マーケティング不足

(き)地

元加工業の衰退

(く)漁

協の機能低下

表2 問

題相

関図

を構

成する要

因の

分類

ボトル

ネック要

矢印

の出

入りが

集中

している要

因であり、施

策の

主たる

ターゲットとなるべ

きもの。施策の考え方としては、ボトル

ネック要因への直接的施策(即

効性はあるが原因は解決

しない対

処療

法的

施策

)と、ボトル

ネック要

因の

原因

となっ

ている要

因へ

の施

策(効

果が

でるまでタイムラグが

存在

しやすい)が

ある。

水産業内部の独立

要因

因果

関係

の始

点(矢

印の

始点

)となっている独

立の

要因

。問題の原因と位置づけられるもの。

水産業の外部の独

立要因

水産

業の

外部

の要

因であり、直

接的

な対

応は

不可

能だ

が、その

影響

には

水産政策として対応すべきと考えられ

る独立要因。

相乗独立要因

水産業内部の独立要因のうち、各理念とボトルネック要

因の両方の直接的原因となっているもの。これらへの対

処は、直接的効果に加えてボトルネック要因の改善にも

つなが

るため、施

策としての

相乗

効果

が発

生し、費

用対

効果

が大

きくなることが

期待

され

る。

過程要因

上記

以外

の要

因であり、いわば因果関係の過程にあるも

の。これ

らの

要因

への直接的対策を打つよりも、むしろそ

の原

因となっている要

因へ

の対

策が

優先

され

るべ

きと考

えられる。

- 39 -

Page 40: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

表3 

優先

的に

取り

組む

べき

要因

要因

内容

(ウ)資

源管

理の

グラ

ンド

デザ

イン

及び

説明

責任

・透

明性

の不

資源

の動

向・水

準に

応じ

た不

確実

性へ

の態

度、

リス

ク許

容度

の関

係や

、そ

れら

と漁

船資

本規

模・許

可運

用の

関係

、さ

らに

生態

系の

変動

性と

不確

実性

を前

提と

した

AB

Cと

TA

Cの

関係

等に

つい

て、

国民

およ

び関

係者

が理

解し

やす

い考

え方

が整

理さ

れて

おら

ず、

また

意思

決定

の根

拠と

なっ

てい

る情

報を

十分

に開

示し

てい

ない

(エ)制

度的

柔軟

性の

不足

水産

業へ

の新

規参

入や

権利

・許

可枠

の運

用、

漁船

・漁

具の

設計

等に

つい

て、

様々

な公

的・慣

習的

な制

約が

存在

して

おり

、そ

のこ

とが

新技

術の

開発

や採

用を

遅延

させ

、ま

た権

利・許

可の

民主

的で

適切

な管

理を

妨げ

、人

材・ア

イデ

アの

流入

を妨

げる

こと

によ

り、

結果

とし

て技

術革

新や

イノ

ベー

ショ

ンを

妨げ

てい

る。

(オ)科

学的

知見

・モ

ニタ

リン

グ精

度の

不足

AB

Cの

推定

方法

や将

来予

測方

法、

TA

Cが

漁業

関係

者お

よび

国民

に与

える

影響

等に

つい

て、

科学

的な

知見

は限

られ

てお

り(無

知お

よび

本来

的変

動性

の存

在)、

また

、そ

れら

の分

析の

基盤

とな

るモ

ニタ

リン

グや

統計

情報

につ

いて

も、

その

対象

範囲

や精

度が

十分

では

ない

ため

、不

確実

性が

大き

い。

(ク)流

通シ

ステ

ムの

分断

・不

全生

産者

と加

工・流

通が

分断

され

てお

り、

また

流通

も何

段階

にも

分断

され

てい

るた

め、

全体

とし

ての

価格

形成

・情

報伝

達・需

要供

給機

能が

適切

に機

能し

てい

ない

。そ

の結

果、

過当

な規

格要

求や

、商

品多

様性

およ

び質

の低

下、

生産

地価

格の

低下

、消

費者

ニー

ズへ

の対

応不

全な

どが

生じ

てい

る。

(ア)国

際管

理機

関の

欠如

・機

能不

全国

境を

また

ぐ、

ある

いは

公海

にお

ける

、資

源や

生態

系の

保全

につ

いて

、国

境を

越え

た管

理体

制が

十分

に機

能し

てお

らず

、ま

たそ

うい

った

体制

が整

備さ

れて

いな

い場

合も

多い

。な

お、

管理

体制

とし

ては

、国

レベ

ルの

みで

はな

く、

地域

的組

織、

NG

O、

草の

根組

織な

どの

国際

的連

携な

ども

あり

うる

(カ)対

外戦

略の

不在

国際

的資

源管

理機

関へ

の参

加・協

力や

、諸

外国

への

技術

援助

にお

いて

、日

本の

国益

を見

据え

た中

・長

期的

戦略

が明

確で

はな

い。

(キ)生

産地

での

販売

意識

・衛

生意

識の

低さ

漁業

者ら

や生

産者

市場

が水

産物

の採

捕専

門家

とし

ての

意識

しか

有し

てお

らず

、ど

のよ

うに

売る

か、

どの

よう

にす

れば

売れ

るか

、ど

のよ

うに

水産

物を

取り

扱う

か、

とい

った

意識

が低

い。

その

ため

、消

費者

ニー

ズの

汲み

取り

能力

が不

足し

、ま

た衛

生対

応も

遅れ

てい

る。

(ケ)多

面的

機能

面の

支援

不足

水産

業・漁

村の

多面

的機

能(特

に物

質循

環や

環境

維持

面)へ

の公

的な

評価

が不

十分

であ

り、

よっ

て、

その

機能

を維

持す

るこ

とが

負担

にな

りこ

そす

れ、

メリ

ット

をも

たら

しに

くい

。そ

の結

果、

多面

的機

能の

低下

によ

り、

沿岸

域の

自然

環境

や利

用秩

序の

劣化

、沿

岸地

域の

魅力

の低

下な

どに

つな

がっ

てい

る。

(コ)国

土形

成に

おけ

る漁

業集

落・漁

港の

位置

づけ

が不

明確

沿岸

に万

遍な

く集

落が

存在

し人

が生

活す

るこ

とや

、集

落の

形成

・維

持に

おけ

るイ

ンフ

ラと

して

の漁

港の

存在

など

につ

いて

の非

経済

的意

義が

十分

に認

識さ

れて

いな

い。

国土

形成

とい

う観

点か

らみ

たと

きの

、漁

業集

落・漁

港が

果た

して

いる

(果

たし

うる

)役

割が

明確

に位

置づ

けら

れて

いな

い。

② 特

定資

源へ

の操

業の

特化

(未

利用

資源

の有

効活

用不

足も

含む

)操

業が

特定

の資

源・漁

法に

特化

し、

生産

力が

有効

かつ

バラ

ンス

よく活

用さ

れて

いな

い。

その

結果

、生

態系

や経

営の

不安

定化

、供

給の

不安

定化

にも

つな

がっ

てい

る。

効率性の高い効果I

全ての理念にわたる効果

- 40 -

Page 41: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

譲渡

不能

譲渡

可能

譲渡

不能

譲渡

可能

質的

固定

設備

操業

B. 資

源の

保全

(出

口)

量的

全体

個別

割当

A. 資

源の

保全

(入

口)

量的

固定

設備

操業

E. 経

営構

造の

改善

F. 処

理・加

工・流

通の

改善

船上

水揚

げ後

質的

C. 資

源の

積極

的添

D. 生

態系

の維

持・修

復陸

上海

指導

・命

2. 経

済的

手法

促進

抑制

中立

G. 人

的・組

織的

体制

の重

点化

H. 科

学・技

術の

振興

1. 行

政的

手法

法的

保護

規制

・制

29: 魚

付林

、30: 水

質管

理、

31: ダ

ム改

修、

32: 流

砂・土

砂管

理33: 藻

場干

の保

全・再

生、

34: 海

底耕

うん

、35: 漁

礁設

置、

36: 害

獣駆

除・間

引き

37: 減

船促

進、

38: 漁

業種

転換

・兼

業促

進、

39: ミ

ニ船

団化

など

によ

る資

本削

40: 船

上処

理の

改善

4. 司

法的

手法

私法

公法

3. 情

報的

手法

促進

抑制

14: 操

業海

域・時

期の

制限

(禁

漁区

、禁

漁期

、海

洋保

護区

)、

15: 漁

場輪

番・輪

採制

16: T

AC

(漁

獲可

能量

)、

17: 海

域別

・時

期別

TA

C、

18: 漁

業種

・漁

法別

TA

C

19: IQ

(個

別漁

獲割

当制

)、

20: IV

Q(個

別漁

船漁

獲割

当制

)、

21: G

Q(グ

ルー

プ漁

獲割

当制

22: IT

Q(譲

渡可

能個

別漁

獲割

当制

)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)、

 23: IT

VQ

(譲

渡可

能個

別漁

船漁

獲割

当制

)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)、

24: G

TQ

(譲

渡可

能グ

ルー

プ漁

獲割

当制

)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)

25: 漁

獲物

サイ

ズ(体

長等

)の

制限

、26: 漁

獲物

の雌

雄の

制限

、27: 成

熟個

体の

漁獲

制限

28: 種

苗放

75:資

源管

理協

定、

76:漁

場利

用協

定、

77:漁

協の

規定

や部

会決

定等

に基

づく規

78:そ

の他

法的

根拠

を超

えた

自主

規制

41: 価

格支

持・調

整保

管、

42: 漁

港・市

場整

備、

43: 輸

出促

進、

44: 流

通合

理化

、45: 新

商品

開発

等に

よる

付加

価値

向上

、46: 衛

生基

準等

によ

る品

質の

規格

化(ブ

ラン

ド価

値向

上)、

47: 流

通コ

スト

の削

減、

48: 加

工・流

通技

術の

蓄積

/改

49: 管

理組

織の

創設

・改

変、

50: 人

材の

育成

・抜

擢・リ

クル

ート

51: 漁

具開

発、

52: 漁

法開

発、

53: 漁

場・資

源開

発、

54: 利

用・加

工法

開発

、55: 自

然生

態機

序の

理解

・評

価・予

表4b 

手法

別大

5. 自

主的

手法

公的

自主

規制

一方

的誓

中立

66:プ

ール

制、

67:外

部民

間資

本等

の活

68:ブ

ラン

ド化

、69:エ

コラ

ベル

70:ブ

ラッ

クリ

スト

、71:ポ

ジテ

ィブ

リス

72:事

業報

告・プ

レス

リリ

ース

73:差

止請

求・損

害賠

償請

求等

74:刑

事罰

・行

政罰

56: 漁

業権

付与

57: 許

可の

発行

、58: 各

種制

限・規

制・手

続の

設定

59: 漁

業種

間調

整、

60:行

政指

導・普

及、

61:停

船命

令、

62:委

員会

指示

・裏

付命

令、

63: 環

境負

荷低

減に

資す

る物

品・設

備の

導入

64:補

助金

・奨

励金

・会

費か

らの

分配

表4a 

目的

別大

分類

 注

)日

本に

おけ

る海

洋保

護区

(M

PA

)の考

え方

につ

いて

は、

資料

3.

1.

6)を

参照

65:税

・課

徴金

・会

費徴

1: 漁

船の

総ト

ン数

制限

、2: 漁

船エ

ンジ

ンの

馬力

制限

、3: 漁

具の

大き

さ制

限、

4: 魚

槽容

量の

制限

、5: 光

力制

6: 努

力量

規制

(出

漁日

数、

操業

回数

、網

数 他

)、

7: IE

Q(個

別努

力量

割当

制)、

8: G

EQ

(グ

ルー

プ努

力量

割当

制)、

9: IO

Q(個

別燃

料割

当制

10: IT

EQ

(譲

渡可

能個

別努

力量

割当

制)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)、

11: G

TEQ

(譲

渡可

能グル

ープ努

力量

割当

制)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)、

12: IT

OQ

(譲

渡可

能個

別燃

料割

当制

)(譲

渡制

限あ

り/な

し、

期限

あり

/な

し)

13: 漁

具・漁

法制

限(漁

具・漁

法の

種類

の制

限、

目合

制限

、選

択漁

具の

義務

付け

他)

- 41 -

Page 42: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

1,2

,3,4

,5,5

859,6

3,6

0,6

264

65

71

70

72

73

74

1,2

,3,4

,5,5

8,5

9,

75,7

71,2

,3,4

,5,5

8,

59,7

8

譲渡

不能

56

57

59,6

0,6

264

65

6,7

,8,9

69,7

170

72

73

74

6,7

,8,9

,59,7

5,

76,7

76,7

,8,9

,59,

75,7

8

譲渡

可能

56

65

10,1

1,1

269,7

170

72

73

74

58,5

963,6

0,6

264

65

68,6

9,7

170

72

73

74

13,5

8,5

9,7

5,7

713,5

8,5

9,7

8

56

14,5

7,5

960,6

1,6

264

65

68,6

9,7

170

72

73

74

14,1

5,5

9,7

5,

76,7

714,1

5,5

9,7

8

16,1

7,1

860,6

264

65

66

68,6

9,7

170

72

73

74

75,7

6,7

778

譲渡

不能

56

60,6

264

65

19,2

0,2

168,6

9,7

170

72

73

74

19,2

0,2

1,7

5,7

719,2

0,2

1,7

8

譲渡

可能

56

65

22,2

3,2

468,6

9,7

170

72

73

74

25,2

6,2

760.6

264

65

68,6

9,7

170

72

73

74

25,2

6,2

7,7

5,7

725,2

6,2

7,7

8

60

28,6

4,6

768,6

972

73

74

75,7

728,7

8

30,3

1,3

229,3

1,3

2,

63,6

064,6

765

68,6

9,7

172

73

74

29,3

0,7

5,7

729,3

0,7

8

33

33,3

4, 6

0,6

335,3

6, 6

4,6

765

68,6

9,7

172

73

74

33,3

4,3

5,3

6,

75,7

733,3

4,3

5,3

6,7

8

37,3

8,3

9,6

0,

62,6

337,3

8,3

9,6

4,6

772

73

74

37,3

8,3

9,7

737,3

8,3

9,7

8

40,6

0,6

340,6

4,6

740,6

8,6

9,7

172

73

74

40,7

740,7

8

43,4

4,4

5,4

6,

48,6

0,6

341,4

2,4

3,4

4,4

546,4

7,4

8,6

4,6

746,4

8,6

8,6

9,7

172

73

74

41,4

2,4

5,4

6,4

8,

77

41,4

2,4

3,4

4,

45,4

7,4

8,7

8

49,5

049,5

049,5

0,6

0,6

2,6

349,5

0,6

4,6

749,5

072

49,5

0,7

5,7

749,5

0,7

8

51,5

2,5

3,5

4,

55,6

051,5

2,5

3,5

4,5

5,

64,6

755

55

55,7

255,7

5,7

751,5

2,5

3,5

4,

55,7

8

表5 

各管

理施

策の

整理

 (各

番号

は表

4に

対応

G. 人

的・組

織的

体制

の重

点化

H. 科

学・技

術の

振興

D. 生

態系

の機

能維

持・

修復

陸上

海中

E. 経

営構

造の

改善

F. 処

理・加

工・流

通の

改善

船上

水揚

げ後

B.

出口

量的

全体

個別割当

質的

C. 資

源の

積極

的添

公的

自主

規制

一方

的誓

資源の保全

A.

入口

量的

固定

設備

操業

質的

固定

設備

操業

中立

促進

抑制

中立

私法

公法

1. 行

政的

手法

2. 経

済的

手法

3. 情

報的

手法

4. 司

法的

手法

5. 自

主的

手法

法的

保護

規制

・制

限指

導・命

令促

進抑

- 42 -

Page 43: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

ABCDEFGH12345 表6 各

分類

群の

長所

と限

資源

の保

全(入

口)

操業

の質

や量

を規

基礎的・長期的効果がある。複数の資源全体を対象に出来

る。対象生物の生活史に応じた対策が可能。資源評価や規

制の

不確

実性

に頑

健。個

別漁

業者

への

対応

が容

易。個

別割当の場合は先取り競争抑制や計画的操業が期待され

、ま

た担保価値も出る。

柔軟

で機

動的

な管

理に不

適。資

源量

への

効果

は間

接的

で評

価が

困難

。努

力量

・漁

獲圧

の把

握が

困難

な場

合が

ある。個

別割

当の

場合

、初

期配

分や

総量

変更

が困

難で

あり、また取り締まりコストが大きくなる。

資源の保全(出

口)

漁獲物の質や量を規制

資源変動に応じた機動的管理が可能。手法が分かりやす

い。特

に越

境・広

域分

布資

源の

管理

に適

用しや

すい。個

別割当の場合は先取り競争抑制や計画的操業が期待され

、ま

た担保価値も出る。

数量の設定・執行コストが大きい。生活史に応じたきめ

細か

い管

理が

出来

ない。資

源変

動や

評価

誤差

が大

きい

場合

は効

果が

低減

する。多

魚種

漁業

では

管理

が困

難。

個別

割当

の場

合、初

期配

分や

総量

変更

が困

難であり、

海上投棄や虚偽報告などの取り締まりコストが大きくな

る。

目的

別大

分類

減船

の場

合、財

政(国

民)や

残存

漁業

者の

負担

が大

きい。関

係漁

業種

との

調整

が困

難。

資源

の積

極的添加

低下した資源を人為的に添

加局所的資源低下を直接改善できる。手法が分かりやすく、漁

業者

の理

解を得

やすい。

種間

関係

の変

化や

遺伝

的多

様性

など生

態系

への

影響

の把

握が

困難

、対

象が

添加

技術

の開

発種

に限

定、広

域的

資源

低下

への

対応

が困

難。

生態系の維持・修復

漁場生産力の向上

生態系保全を通じた多面的機能が発揮できる。

効果の程度や時期が不明確。

技術

・資

源開

発や

生態

機序

の理

解・予

測中

長期

的・根

本的

に問

題を改

善・解

決しうる。産

業発

展の

方向性を提示しうる。

機動

的対

応が

困難

。初

期投

資が

大きい。期

待した結

果が

出るか

どうか

は不

確実

処理

・加

工・流

通の

改善

魚価

・付

加価

値の

向上

、利

用の効率化

漁業

や加

工・流

通業

の収

入が

増加

、漁

業地

域へ

の経

済波

及・雇

用創

出効

果、消

費者

の多

様なニーズに対

応できる。

資源

量へ

の直

接的

な効

果の

程度

や時

期が

不明

確。

経営構造の改善

資本設備の削減や漁業転換

経営コストの削減や、他の収入源が確保できる。

行政

的手

法政府が法に基づき直接的に

実施

法に基

づくため正

当性

・安

定性

が高

い。局

所的

な問

題へ

の早期対策として有効。

対象

が分

散・小

口・多

様な場

合監

視が

困難

。多

くの

場合

他の手法よりコストが高い。機動的対応が困難。

長所

限界

経済

的手

法経済インセンティブで間接的

に誘導

機動

性が

高い。各

主体

の創

意工

夫・イノベーションが

促進

。行政的手法よりコストが低い。

施策

目標

への

直接

的効

果が

不確

実。分

配面

への

考慮

は別

途対

策が

必要

情報

的手

法利害関係者への情報の開

示・提

供各主体の取り組み状況が広く共有・把握できる。

正確な情報発信がなされるための担保措置が必要。

司法

的手

法司法判断に基づく懲罰や命

令法

・判

例に基

づくため正

当性

・安

定性

が高

い。同

様の

問題

の抑制に効果的。

時間

的・金

銭的

費用

が大

きい。挙

証責

任が

負担

となりや

すい。

自主

的手

法関

係者

が自

ら施

策を実

施個

別具

体的

状況

に柔

軟に対

応。行

政費

用が

低い。

拘束

力・強

制力

が弱

い。目

標達

成が

不確

実。

内容

長所

限界

手法

別の

大分

類内容

人的

・組

織的

体制

の重

点化

管理に係る人材の育成・確

保、組

織の

改変

・強

化様々な問題に柔軟で創意に満ちた対応が可能。魅力ある地

域形成にも貢献できる。

人材育成には時間がかかる。組織が硬直化すると保守

的・排

他的

になりや

すい。

科学

・技

術振

- 43 -

Page 44: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

- 44 -

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3.資料

3.1 テーマ別レビュー

3.1.1)各国の水産業の生態的・社会的特性と資源・漁業管理制度

目的

水産業は、生態系サービスの一つとしての水産資源を食料として利用する産業である。そ

の管理のあり方を考察する際には、自然側の条件としての生態系の特性と、人間側の条件

としての社会の特性という二つの側面を考慮する必要がある。前者は利用海域の生物地理

学的性格、資源(生物)の多様性、生産力などを意味し、後者は水産物の食料としての重

要性や、水産業の社会的位置付けなどに相当する。

よって本稿では、各種統計資料をもとに、これら二つの側面に関して国別の比較を行った。

また、その結果に基づいて、我が国の生態的・社会的特性を前提とした資源・漁業管理の

あり方について、国ごとの比較考察を行った13。

方法

熱帯から高緯度に向かってその地域に住む種の多様性が減少するパターン、即ち「種の多

様性の緯度勾配」は生態学における も共通性の高い原理として知られている(Gaston and

Blackburn 2000, 宮下・野田 2003)。このような「種の多様性の緯度勾配」という自然的条件に

対応して世界の水産業が営まれてきたとすれば、各国の漁業生産、ひいては資源・漁業管

理制度のあり方にも「種の多様性の緯度勾配」が影響を及ぼしている可能性が考えられる。

そこで、今回各国の首都の緯度とその漁獲統計の関係に着目した。主要漁業国の漁獲統計

に対して Shannon の多様度指数(MacArthur and MacArthur 1961)を適用し、水産資源利用

多様度を算出した(指標 A)。

また、各国の社会システムの特性に関する指標としては、水産物の食としての重要性を示

す指標として動物性タンパク質供給における水産物の割合(指標 B)、水産業の職業として

の重要性を示す指標として漁業者が総人口に占める割合(指標 C)、管理執行上のコストに

係る指標として海岸線 1km 当りの平均海洋漁業者数(指標 D)を算出した。

後に考察において、上記の各種指標と各国の資源・漁業管理の関係について、主に ITQ

制度に着目した議論を行った。

データ

本稿では、漁獲量の統計資料として FAO FishSTAT の直近 5 ヵ年の平均値を利用した。食

料供給に関する資料は FAO Food Balance Sheet、漁民数の資料として FAO (1999)、漁船数の

資料は FAO Global Fishing Fleet を使用した14。また、海岸線と総人口の資料として CIA (2008)、

13 なお、水産資源や漁業の管理を考察する場合、一国内における特定の資源や特定の地域・

漁業種類の実態に関する考察も非常に重要である。本稿では、国ごとの比較を目的にした

マクロな議論を目的とするが、これらの側面については考察において簡単に言及する。 14 FishSTAT、FAO Food Balance Sheet、FAO Global Fishing Fleet はともに FAO のウェブサイ

- 45 -

Page 46: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

-主要国の資源・漁業管理制度等に関しては OECD (2005, 2006)を使用した。

結果

1)指標 A:水産資源利用多様度

水産資源利用多様度指数を算出する際、厳密には、各国の統計制度における項目の詳細度

によって誤差が生じる。特に、統計制度が整備されている先進諸国と、制度整備が比較的

遅れていると思われる発展途上国とを同時に比較することは不適当であろう。よって本稿

では、まず図 1 において、先進国のグループとしての OECD 諸国15を対象に、緯度別の水産

資源利用多様度を表した16。なお、図 1、図 2 中の点線は筆者が加筆したものである。

高緯度ほど利用多様度が低く、低緯度ほど利用多様度が高いことが分かる。これは、主に

各国の周辺水域の水産資源の多様性、すなわち海域生態系の多様性の違いに由来している

ものと考えられる17。

次に、OECD 諸国に加えて年間漁獲量の世界上位 20 カ国を加えた結果を図 2 に示す。図

中の点線で囲まれた国名が OECD 非加盟国を示している。下方にシフトした別の緯度傾斜

の存在も示唆され、これは OECD 非加盟国における統計項目の荒さが要因となっていると

解釈できるが、依然として全体的には右下がりの傾向があるように見える。

2)指標 B:動物性タンパク質供給における水産物の割合

図 3 に、水産物の食料安全保障上の重要性あるいは食文化上の重要性を示す指標として、

国別の総動物性タンパク質供給に対して水産物が占める割合を示した18。高緯度ほど低く、

低緯度ほど高いが、アイスランド、ノルウェーは高緯度に位置しながらも割合が高く、ま

た日本と韓国は中緯度ながら突出していることが分かる。

3)指標 C:漁業者が総人口に占める割合

図 4 に、漁業の職業としての重要性を示す指標としての漁業者割合を示す19。アイスラン

ドとベトナムが突出しているものの、右下がりの傾向がうかがえる。

少なくとも前世紀までは、各国の経済が発展するにつれて一次産業から二次産業・三次産

業へと労働者人口が移行する傾向があった。よって、低緯度の発展途上国で漁業者が多い

理由にはこうした経済的要因も考えられ、また経済発展に伴ってこの分布が変化すること

トで公表されている。現時点での 新のデータ年次は、FishSTAT が 2006 年、Food Balance Sheet が 2003 年、Global Fishing Fleet が 1995 年である。 15 以下本稿で OECD 諸国とは、OECD 加盟国のうちで漁獲量が世界 100 位以内の国を対象

とし、100 位以下の国(ベルギー111 位、ハンガリー146 位、チェコ 157 位、スロベキア 184位、スイス 186 位、オーストリア 203 位、ルクセンブルグ 232 位)は分析から除外する。 16 ただし、これは多様度であって総生産量ではない点に注意が必要である。 17 さらに図 3 に示す食としての重要度の違いが影響している可能性もある。 18 対象国は漁獲量上位 40 カ国+OECD 諸国である。 19 対象国は、漁獲量上位 40 カ国+OECD 諸国のうち、FAO(1999)において総漁業者数が記

載されている国のみである。

- 46 -

Page 47: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

も考えられる。今世紀以降このような動態が継続するかどうかは不明であるが、すくなく

とも現状においては、図 4 に示された就業構造上の特徴を前提とした資源・漁業管理の実

施が各国において重要であることは言うまでもない。

4)指標 D:海岸線 1km 当りの平均海洋漁業者数

図 5 に、海岸線 1km 当りの平均海洋漁業者数を示す20。

一般に、管理の執行コストは漁民数や漁船数、対象魚種数などの増加関数と考えられてい

る。特に発展途上国ほど、政府の財政能力や統治能力は低いため、統制的(Top Down 的)

な漁業管理は困難になると考えられている。

しかしながら、漁民数が多く、その密度も比較的高い場合には、日本でいう「とも詮議」

などの共同体規範を活用し、管理執行の権限と責任を、政府と地域の資源利用者が分担す

る(Co-management)ことによって、公費による執行コストを抑えることが政策効率上望ま

しいことが指摘されている(Pomeroy and Berks 1997, Charles 2001)。このような見地からは、

図 5 に示す漁業者の密度は、その値が高いほど、管理実施の為の潜在的人的資源が大きい

という解釈も可能である。

考察

日本を含む中・低緯度の国は、高緯度に比べて、その自然的条件の反映としてより多様

な水産資源を利用しており(図 1、図 2)、水産業が食料供給源としても職業としても重要

な位置付けを有しており(図 3、図 4)、さらに海岸線1km 当りの海洋漁業者数も高いこと

が分かった(図 5)。

表 1 は、主要国における ITQ の導入状況と、漁民数・漁船数・零細漁船比率を整理した

ものである。表 2 は、各指標の結果と表 1 の内容を要約したものである。国内の主要な漁

業管理手法として ITQ を導入している国はアイスランドとニュージーランドである。

アイスランドは、水産物の食としての重要度は中位(29%)である。国民一人当りの消費

量は 90.05kg であり、日本の 66.18kg を大きく越えるが、それ以上に肉類・乳製品等を大量

に摂取するため、割合は日本より低くなっている。水産資源の利用多様度は非常に低く(H’

= 2.96)、漁獲構成は単純である。また、後述のニュージーランドや豪州とは異なり、漁業

生産が GNP の 15%近くを担う漁業立国であり(黒沼 2005)、単純な漁業構造である。漁業

の職としての重要度は非常に高いが、国民人口が小さいため、漁業者数、漁船数ともにき

わめて少なく、また零細漁船の比率と漁業者密度もきわめて低い21。いわば、アイスランド

における漁業は、国の主要産業の一つとしての企業的漁業が、単純な構造の資源を対象に、

蛋白源の一つとしての水産物を有効利用するという位置付けになっていると思われる。

ニュージーランドは、水産資源の利用多様度は中位(H’ = 4.39)であるものの、食として

20 対象国は、漁獲量上位 40 カ国+OECD 諸国のうち、FAO(1999)において海洋漁業者数が

記載されている国のみである。 21 ただし、陸地の約 75%が不毛地帯とも言われており、地域的な漁業者密度の違いが大き

いと思われる。

- 47 -

Page 48: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

の重要度は低く(動物性タンパク質に占める割合は 13%)、水産業は輸出産業として位置づ

けられている。また、漁業者数や漁船数は極めて少なく、零細漁船比率と漁業者密度もき

わめて低い。いわば、ニュージーランドにおける漁業は、原油や鉱物資源と同様、特定の

企業が天然資源の 適な利用によって外貨を獲得するための産業という位置付けになって

いると思われる22。

この両国のように、漁業者数も零細漁業比率も小さく、企業的な漁業を管理する場合には、

ITQ などの市場原理に基づく管理手法が有効とおもわれる。たとえば、ノルウェーにおける

水産業は、多様度・食の重要性・職の重要性はアイスランドと類似の位置付けとなってい

る。しかし、零細漁船比率が高く、漁業者密度は中位である。このことが、ノルウェーに

おいて ITQではなく漁業者組織や共同体による管理が志向された要因の一つと考えられる。

ITQ による漁業管理が比較的大きな割合を占めている国は、豪州である。豪州は大陸全体

が国土であるため、熱帯域から寒帯域までの海域を含んでおり、利用多様度が高い(H’ =

5.19)。しかし、その他の指標(食と職の重要性、漁業者密度、漁民数)はニュージーラン

ドと同じく低位である。漁船数と漁船規模については、統計情報が存在しなかった。ニュ

ージーランド漁業との社会的特性の類似度から考えれば、豪州は現在以上に ITQ を導入し

ていても不思議ではない。もし今後も更なる導入が進まないとすれば、その理由として、

生態系特性の国内でのばらつきの大きさが考えられる。国としての管理制度の一貫性を重

視する視点にたてば、操業海域の生態系が比較的均一である場合と、熱帯域から寒帯域ま

での海域を含む場合とでは、おのずと採用される制度に違いが出るであろう23。

日本も豪州同様に南北に長い EEZ を有しており、生物地理学的には亜寒帯から熱帯を含

んでいる。よって水産資源利用多様度は高いが(H’ = 5.09)、豪州とは異なり、食としての

重要度が非常に高い(45%)。職としての重要度は、ニュージーランド及び豪州よりは高い

ものの、国家人口が多いため、アイスランドやノルウェーよりは低く、全体的に見れば低

位である。漁業者数、漁船数ともにきわめて多いが、その零細漁業の割合が著しく高いこ

とがわかる。海岸線 1km あたりの漁業者密度はアイスランド、ノルウェー、ニュージーラ

ンド、豪州よりも高いが、全体としては中位である。いわば、日本における漁業は、多様

な資源を国民の主たる蛋白源として有効利用すると同時に、きわめて多数の零細漁業者が

操業し生計を立てるための産業という位置付けになっている。

日本と類似した位置付けの漁業は、韓国漁業である。表 2 を見る限り、日本と韓国は、ア

イスランドとニュージーランドとの共通点がほとんど無い24。手元の情報では、韓国では IQ

すら導入されていない。よって、本分析からは、今後この両国及び類似の特性を有する東

南アジア諸国等においては、全面的な ITQ を導入する必然性は低く、むしろ共同体や漁業

者組織を主体とした管理が適していると推察される。 22 本稿におけるニュージーランドと豪州に関する考察では、旧入植者を中心とした議論を

行っている。マオリやアボリジニーなど先住民族については別途管理制度が設けられてい

るため、議論の区別が必要である。 23 表 1 における豪州と米国の ITQ に関する整理は国・連邦管理漁業に限っている。よって、

州管理漁業については別途議論が必要である。 24 韓国漁業の職としての位置付けは、アイスランドほどではないが、比較的高い。

- 48 -

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ただし、デンマーク、英国、カナダ、米国、(及びノルウェー)では国内漁業の一部に ITQ

を導入している。ITQ が導入されている漁業種は、所謂冠漁業(魚種名が頭についた、特定

魚種の採捕に特化した漁業)や、定着性資源が多い。よって、たとえ国単位ではアイスラ

ンドやニュージーランドとの共通点がなくても、関係漁民数が少なく、なおかつ特定の資

源に特化した企業的操業が行われているような漁業種類に関しては、ITQ 制度の有効性が議

論されてよいであろう25。

後に、今後の生態的及び社会的な動向について言及したい。生態的には、地球温暖化等

の環境変化によって、また社会的には、食糧不足や魚食文化の普及、あるいは恐慌による

失業者の大量流入などによって、表 2 に整理した各国の特性が変化する可能性は大きい。

よって、各国の今後の生態的・社会的変化の予測を行うとともに、その変化に対応できる

ような長期的な頑健性・柔軟性を伴った制度設計が重要である。

引用文献

Charles A. T.(2001)Sustainable Fishery Systems. Blackwell Science, Oxford.

CIA(2008)The World Fact Book. CIA.

Clark C. W.(2006)The worldwide Crisis in Fisheries. Cambridge University Press.

FAO(1999)Number of fishers 1970-1997. FAO Fisheries Circular 929. FAO.

Gaston and Blackburn(2000)Pattern and Process in MacroEciology. Blackwell Science.

黒沼吉弘(2005)TAC の国際比較-内部経済化への対処方策-.(小野征一郎編著)TAC 制

度下の漁業管理.農林統計協会.

MacArthur R. and MacArthur J. W.(1961)On Bird Species Diversity. Ecology, 42, 594-598.

宮下直・野田隆史(2003)群集生態学. 東京大学出版会.

OECD(2005)Review of Fisheries in OECD Countries: Polices and Summary Statistics. OECD.

OECD(2006)Review of Fisheries in OECD Countries: Country Statistics, 2002-2004. OECD.

Pomeroy R.S. and Berks F.(1997)Two to Tango: The Role of Government in Fisheries

Co-management. Marine Policy, 21, 465–80.

25 たとえば Georges Bank の大西洋ホタテ貝資源の場合、カナダと米国の両国が同一資源を

採捕しているが、9 社の企業のみによって操業が行われているカナダでは ITQ が導入され、

零細漁業もふくめ関係漁民が多くその行動原理が不均一な米国では ITQ が導入されていな

い(Clark 2006)。

- 49 -

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NZ

AUAlsentinaChile

S.Africa

Namibia

Brazil

Peru

Indonessia

MalaysiaGhana

NigeriaVenez

CamboThai

Phil iSeneg

Myanm

MexicoVietnam

Bangra

IndiaEgypt

PakiMorocco

JapanKoreaGreece PortUSA China

Turk SpeinItaryCanSwissHan

SloAustria

FranceChek UK

Pol ゙NetherGer

Ireland

DenmRussia

Swe NorwayFin

Iceland゙

0

10

20

30

40

50

60

70

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

Lat

itude

図 1 緯度別の水産資源利用多様度(OECD 諸国のみ)

図 2 緯度別の水産資源利用多様度

(OECD 諸国と漁獲量上位 20 カ国、点線で囲まれた国名が OECD 非加盟国)

図 3 水産物が動物性タンパク質供給に占める割合

Iceland

Finland

PolandFrance

CanadaItaryNZTurkey

AU

Mexico

NorwaySweden Denmark Ireland

GermanyNetherland

UK

Spain

USA

PortugalGreece

Korea Japan

0

10

20

30

40

50

60

70

2 3 4 5 6 7

H' (OECD only)

Lat

itude

Iceland

France

Turkey China

AUChile

India

Vietnam Mexico

Peru

IndonesiaMalaysia

Finland Norway

Sweden RussiaDenmark Ireland

GermanyNetherlandPoland

UK

CanadaItary

NZSpainUSA

Portugal

GreeceKorea Japan

PhilippineThailand

0

10

20

30

40

50

60

70

0 1 2 3 4 5 6 7

H' (OECD+Top 20)

Lat

itude

- 50 -

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図 4 漁業者が総人口に占める割合

図 5 海岸線 1km 当りの平均海洋漁業者数

Iceland

UK

ChinaUSAJapan

VietnamMyanmar

Peru

IndonessiaMalaysia

FinlandNorwaySwe

DenmarkIreland

Germany

FranceCanada

ItaryNZ SpeinPortgal

Korea

Australia ChileIndia

Mexico

BrazilSenegal

PhillipineThailand

Cambodia

VenezeraNigeria

Gahna

0

10

20

30

40

50

60

70

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

Percentage of Fishers to the total population (%)

Lat

itude

Norway

IrelandFrance

CanadaItary

USAJapan

Senegal

IndonesiaMalaysia

IcelandFinland

SwedenDenmUK

NZ Spain

PortugalAU

Chile

Mexico

Philippine

ThailandPeruVenez

0

10

20

30

40

50

60

70

0 20 40 60 80 100

MarineFishers/km

Lat

itude

- 51 -

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国名

(緯

度順

TA

C管

理の

手法

業実

ITQ

IQ

リン

ピッ

ク漁

民数

漁船

数零

細漁

船比

率(注

) IT

Q適

用状

アイ

スラ

ンド

6300

826

0.63

・総

漁獲

量の

98%

以上

を管

理。

ノル

ウェ

(○

22916

8664

0.8

9

・船

別ク

ォー

タが

基本

だが

、一

部で

は制

限付

で売

買も

行わ

れて

いる

デン

マー

4792

4285

0.8

6

・北

海ニ

シン

漁業

(漁

船数

約100

隻)に

暫定

導入

イギ

リス

(○

19044

9562

0.82

・2002年

から

一部

の船

別割

当は

実質

上の

ITQ

化。

フラ

ンス

2611

3 6586

0.78

カナ

8477

5 1828

0 0.74

・1985

年に

大西

洋ホ

タテ

漁業

、2002

年に

メカ

ジキ

延縄

漁業

に導

入。

ニュ

ージ

ーラ

ンド

2227

1375

0.74

・総

漁獲

量・金

額の

9割

以上

を管

理。

スペ

イン

7543

4 1524

3 0.76

アメ

リカ

2900

002720

0 0.53

・オ

ヒョ

ウ・ギ

ンダ

ラ漁

業、

大西

洋貝

類(バ

カガ

イ・ホ

ンビ

ノス

ガイ

)、

大西

洋ク

ロマ

グロ

、ベ

ーリ

ング

海タ

ラバ

など

、連

邦管

理漁

業の

総漁

獲量

の約

2%

、総

漁獲

金額

の約

10%

に相

当。

韓国

1806

495039

8 0.9

日本

2782

002194

660.98

オー

スト

ラリ

13500

約5

千情

報な

・国

管理

漁業

のう

ち、

ミナ

ミマ

グロ

、南

東海

域ト

ロー

ルな

どの

3漁

業種

総漁

獲量

・金

額の

約4

割に

相当

表1 主要国における

ITQの導入状況と漁業実態

(注)零細漁船比率は、

FAO

Global Fishing Fleet

において

ISCFV

単位

25未満の漁船数の割合

を示している。

- 52 -

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国名

ITQ

状況

緯度

H

’ 食

密度

漁民数

零細比率

アイスランド

全面

ニュージーランド

全面

豪州

一部

n.a.

デンマーク

一部

英国

一部

カナダ

一部

米国

一部

ノルウェー

(一部)

フランス

なし

スペイン

なし

韓国

なし

日本

なし

表2

各国漁業の

ITQの導入状況と生態的・社会的特性のまとめ

(H

’:水産

資源利用多様度、食:動物性タンパク質供給における水産物の割合、職:漁業者が総人口に占める割合、密度:海岸線

1km当り

の平均海洋漁業者数、零細比率:表

1の零細漁船比率)

- 53 -

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3.1.2)外国の管理方策・体系(かつお・まぐろ以外)

はじめに

1960 年代、70 年代から中南米諸国、アフリカ諸国を中心に、海洋資源に対する沿岸国の

権利が主張され、拡大した。各国が排他的経済水域の設定を行う流れの中で、海洋資源な

どに関する沿岸国の権利と自由通航の関係などを規定する国連海洋法条約が作成され、先

進国も多くの国が批准した。海産魚類の漁獲量の 90 から 95%は国家管轄権下にある水域か

らのものであるといわれ、排他的経済水域は漁業における重要な海域となった(水上、2006)。

国連海洋法条約の中では排他的経済水域が規定され、生物資源に対する権利と義務が規

定された。以下に、主に 200 海里時代を迎えてからの各国の沿岸資源管理の方策、体系を

レビューする。

1.国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea)

1982 年の第 3 次国連海洋法会議(第 11 会期)で作成され国連総会で採択された条約で、

1994 年に批准国が 60 ヶ国を越え、発効した。

この条約は、沿岸国が排他的経済水域(EEZ)において生物資源の探査、開発、保存、管

理のための主権的権利を有することを規定し、一方、沿岸国が資源の保存、管理及び 適

利用に関し一定の義務を負うことを規定している。

EEZ 内の生物資源の保存管理については、沿岸国が漁獲可能量(TAC)を決定し、保存

措置をとると定められている。MSY の達成を管理目標に置いている。

なお、同条約では規定されていないが、漁獲可能量による保存管理の方法として各国が

取り入れているのは以下の方法である(桜本、1998)。

1)IQ (individual catch quota):TAC を個々の漁業者に割り振ることで競争的な漁獲を回

避しようとする制度。ノルウェー、EU 各国などが採用。

2)ITQ (individual transferable catch quota):個々の漁業者が割り当てられた漁獲枠を自由

に売買できる制度。1986 年にニュージーランドで採用。オーストラリア、アイスラン

ド、南アメリカ、オランダ、カナダなどで採用。アメリカも 1991 年からハリバット、

銀ダラなどに適用。

3)オリンピック方式:個々の漁業者が自由競争で TAC を消化する方式。スウェーデン、

アルゼンチン、日本などで採用。

2.OECD 加盟国の資源管理

先進工業国によって構成される OECD(経済協力開発機構)加盟国における漁業資源管理

の方策を見る。現在、海面漁業を行う OECD 諸国のほとんどが、漁獲量規制と漁獲努力量

規制及びその他の手法を併用して漁業管理を行っている(表1)。このうち漁獲量規制は、主

に「国連海洋法条約」の枠組みに関して国連等における議論が活発化した 1970 年代に、そ

れまで漁業管理の主体であった漁獲努力量規制に加えて導入がはじまった(農林水産省

1999)。

- 54 -

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3.国別事例

3-1.アメリカ

マグナソン漁業保存管理法(MFCMA)が 1976 年に制定された。適正生産量(OY)を管

理目標の一つとして採用している。資源管理に関しては、全国を8海区に分け、地域漁業

管理委員会を置く。そこが漁業管理計画を国家基準に従って作成し実施する。

(http://www.nmfs.noaa.gov/sfa/magact/)。

国家基準とは、

1)乱獲の防止と持続的なOYの達成

2)入手可能な 良の科学的情報に基づくこと

3)個々の stock は生息範囲の全域に亘って1単位として管理する

4)資源の利用効率を高める

5)資源が変動し、その予知が困難であるという事情を考慮した対応を行う

6)管理費用を 小にし、不必要な重複を避ける

などである(水産庁 HP)。

1996 年には MFCMA を大改正し持続可能漁業法(Sustainable Fisheries Act)が制定された。

それぞれの魚種・漁業種ごとに漁業管理計画(Fisheries management Plan;FMP)を立て目

標と測定可能な乱獲の基準を明記することになっている。

沿岸浮魚種(Coastal Pelagic Species)の FMP では MSY 制御ルールを用いて ABC を出す

ことになっている。

○ 沿岸浮魚種(CPS)に対する MSY 制御ルールは以下の通りである。

1.default MSY 制御ルール:ABC は MSY の1/4

2.積極的に管理されている魚種(太平洋マイワシ、マサバなど)では、

目標漁獲量=(資源量-禁漁水準)×漁獲割合

資源量=漁期初めの1歳魚資源量

とされ、具体的な例では

2-1) 太平洋マイワシの MSY 制御ルール

・禁漁水準=15万トン

・漁獲割合=残りの部分の5~15%(3年間平均水温による)

・ 大漁獲量=20万トン

によって ABC(生物学的許容漁獲量)を設定している。漁獲割合を決める Fmsy は

水温の2次関数で決めている。ABC は資源量全体に対する目標漁獲量に対して計算

され、米国水域中の資源量に対して比例配分される。

2-2) 太平洋マサバの MSY 制御ルール

・禁漁水準=18,200 トン

・残りの資源に対する漁獲割合=30%

・ 大漁獲量は規定せず。

3.監視(monitored)資源では、以下の例などがある。

3-1)Market イカ:

- 55 -

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・伝統的な SPR 理論で規定され、親魚資源の30%を残す。

○ 2006 年に再び法改正があり、科学的な資源管理への取り組み、乱獲状態の資源の回復計

画への取り組みなどが更に強化された(水産庁 HP)。

乱獲状態、あるいは乱獲になりつつある資源に対する資源回復措置については、1996 年

以降、地域漁業管理委員会が FMP を1年以内に策定し、原則 10 年以内に回復させること

とされていたが、2006 年の法改正以降は FMP により2年以内に乱獲行為を停止させ、原則

10 年以内に回復させるよう改正された(大橋、2007)。

○ ITQ 制による資源管理

オープンアクセスを基本としているアメリカでは、ハリバット漁業において、オリンピッ

ク方式による総漁獲量規制を行っていたが、過剰投資を止められず、過当競争のため各船

の操業日数が極端に短くなってしまうという問題が生じた。1980 年代に入って銀ダラでも

同様の問題が生じた。そのため8つの地域漁業管理委員会の一つである北太平洋漁業管理

委員会は、私有権制である limited entry(隻数制限付きの許可制)や ITQ 制への移行を検討し、

1991 年から ITQ 制を採用した(平沢 1994)。

1996 年の法改正により、ITQ についてはメリット、デメリットを検討し、新規導入は凍

結された(水産庁 HP)。凍結は 2002 年まで続いたが、2006 年の法改正で再び推進の方向が

とられた。ITQ 制は過剰漁獲能力削減のため、減船プログラムとの組合せで推進されようと

している(大橋、2007)。

○ 参入制限による資源管理

アメリカでは、以下の漁業では漁船数が過剰になることを防ぐため、許可漁業の制度が

取り入れられている。すなわち、アラスカのサケ漁業、米国西岸のカキ、ハマグリ、アワ

ビ、サケ、五大湖の漁業(カナダと共同)、ニューイングランドの沿岸ロブスター漁業、米

国東岸の貝類漁業などである(山本、1994a)。

アメリカでの参入制限には、譲渡性のない許可制の他に譲渡性のある参入権制限プログ

ラム(limited access privilege programs)が策定されている。後者は 1996 年の法改正前後より、

dedicated access privilege programs として個人やグループに占有的に資源の利用権を与える

制度として導入され、2006 年の法改正で譲渡の対象が地域漁業管理委員会で承認された地

域共同体、漁業協同組合にまで拡大された(大橋、2007)。

3-2.EU 諸国

EU 加盟諸国は、1970 年に EC 共通漁業政策を実施に移した。その柱は、

1)水産物の価格維持政策 (管理対象魚種全てに対し 低保証価格制度を適用)

2)構造政策(漁業者の公正な生活水準を維持しつつ漁業の合理的発展を目指す補助金政

策)

3)漁業資源の保存と管理

- 56 -

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4)第3国の漁業水域ならびに公海での漁業政策

であった。このうち「3)漁業資源の保存と管理」のための漁業資源管理政策が も困難

な問題であった(山本 1994b)。

1983 年から EC 漁業資源管理政策を実施に移した。

これは共通海域における漁業資源の TAC を決定し、国別に配分するものである。TAC は

後述の ICES が勧告し、EU 閣僚理事会で決定される。実際の漁獲量が、割り当てられた TAC

に達したか否かの監視は各国政府の責任とされる。

TAC の勧告を付託されている ICES の機構と管理方策について以下に述べる。

ICES(http://www.ices.dk/aboutus/aboutus.asp)は 1902 年に設立された国際海洋調査機関。

加盟国は、ベルギー、カナダ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイ

ツ、アイスランド、アイルランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポー

ランド、ポルトガル、ロシア、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカの 20 カ国。

その他ICESとの提携国としてオーストラリア、チリ、ギリシャ、ニュージーランド、

ペルー、南アフリカが挙げられる。

ICES は毎年北東大西洋、及び北海、バルト海など付属海における主な漁業資源の MSY

を評価し、資源ごとに TAC を決定し、EU 委員会に提示する。委員会はそれを国別・漁場

別に配分する。

TAC 決定までの作業の流れとしては、

1)資源評価ワーキンググループが国際共同調査の計画立案、データ集約と解析、評価、

ABC 算定を行う。

2)漁業管理勧告委員会(ACFM)が ABC の妥当性を検討し、recommended TAC を提出

する。ACFM(advisory committee for fisheries management)は ICES の加盟国から1名ず

つ指名された水産科学者によって構成される。

3)加盟国、漁業管理機関(管理母体)が社会・経済的要因を加味して TAC を決定する。

ICES 勧告の考え方と形式を ICES 共同研究レポート序文(ICES/ACFM、2002)から抜粋

する。

ICES は、一度崩壊するとなかなか回復しない漁業資源の特性などを考慮し、予防的措置

の必要性を認識し、1998 年に予防的管理基準を導入した。

ICES では産卵親魚量が 低限度を下回るリスクを低水準に抑えることを狙いとした勧告

を出す。すなわちそれ以下では加入量が危機的に低減する親魚量 Blim を設定する。

漁獲係数としては、その水準が維持されると資源が崩壊する限界の値として Flim を設定

する。

産卵親魚量及び漁獲係数は不確実性を常に含むため、実務上の管理基準はこの点を考慮す

る。そのため、Blimについては、不確実性を考慮してBpaを設定し(pa=precautionary approach)、

親魚量が Bpa 未満と算定されれば、Bpa を超える水準に資源を増大させるための勧告を行う。

- 57 -

Page 58: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

Flim についても Fpa を設定し、漁獲係数が Fpa を超えている場合には、それを下回るよう

勧告する。

ICES は資源評価がなされず、以上のような管理基準が設定されない資源についても勧告

を行う。これらの場合も予防的措置を用いる。これらの場合は資源量の指標値などを用い

た方式が適用される。

ICES の勧告は基本的にリスク回避型であり、目標管理基準の数値は提言しない。

産卵親魚量が Bpa を下回っていると評価された場合、妥当な時間スケールにおいて産卵

親魚量 SSB が Bpa を超えるように増大させる施策を明記した回復計画の展開を勧告する。

3-3.ノルウェー

ノルウェーではタラ、ニシン、サバ、ハドック等主要魚種について TAC による管理が行

われている。これら魚種で水揚げされる魚の 95%に達する。TAC は漁船グループごとに配

分され(Group Quota)、更に漁船別に配分される(Individual vessel Quota)(水産庁 HP)。

過剰漁獲能力削減のため、漁船をスクラップする時は、その船の割当量をグループ内の

他の船に移すことが認められている(Structural Quota System)(水産庁 HP)。

3-4.ニュージーランド

ITQ を真っ先に導入した国として注目されるニュージーランドの資源管理に触れる。

ニュージーランド政府は 1980 年代、新たに設定した EEZ 内の漁業資源を保存しつつ、沿岸

で過剰となった漁獲能力の深海漁業への分散を目指すため先ず深海漁業に ITQ と類似の制

度を導入した。ITQ が割り当てられれば企業側の投資に対するリスクは減るため企業側も賛

成した(草川、1994a)。一般に ITQ 導入の目的は過剰漁獲能力の排除への動機付けである

が、この試行的なケースは深刻な過剰漁獲、過剰漁獲能力が引き金となったわけではなか

った。

ITQ は上記の如く当初はヘイク、ホキなど深海魚種に導入したが、1986 年漁業修正法に

より沿岸漁業にも全面的に ITQ を導入した。この時は沿岸漁業者の賛成を得るためにIT

Qは過去の実績に基づき無料で配分された。ITQ は譲渡可能であるが外国漁船に売却しては

ならないとされている(草川 1994a)。

漁獲可能量が変動し当初の ITQ との間に差が生じた場合、初期には政府が余剰分を保有

したり、逆に買い戻したりしたが、1990 年以降はその変化に応じて ITQ も変化させるよう

になった(桜本 1998)。

なお、ニュージーランドでは、特定の漁業者に ITQ を配分する代償として資源レンタル

料を徴収している。これは ITQ の市場価格を0にする狙いがあった(草川 1994a)。

3-5.カナダ

Gordon などの経済学者の考えを入れ、200 海里時代が始まる以前の 1969 年から TAC 制

を導入するとともに、過剰労働、過剰資本を避けるための参入制限を資源管理に取り入れ

た。

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1973 年から始まった第3次国連海洋法会議では 200 海里体制の強力な推進国であり、

1977 年から 200 海里漁業水域法を施行した。1977 年以降は EEZ の設定により拡大された管

轄水域の資源を保存しつつ漁業の経済性を改善するために IQ、ITQ を取り入れ、適用範囲

が次第に拡大されていった(草川 1994b)。

資源管理は連邦政府が一括して行う点が、8ブロックに分けた米国と異なる。参入制限

はカナダ西岸のサケ漁業、カナダ東岸の沿岸ロブスター漁業などで行われている。

カナダでは TAC の配分やライセンスの発給において社会経済的な配慮を行っているが、

その規準で大きなウエイトを占めるのは、漁獲及び加工雇用の維持と創出、及び小さな漁

業コミュニティーの経済的基盤の維持である(草川 1994b)。

3-6.北西大西洋における EEZ 外部の資源管理

カナダ東岸の広大な大陸棚は好漁場であり、従来 ICNAF(International Commission of the

Northwest Atlantic Fisheries)によって管理が行われたが、過剰漁獲は避けられなかった。そ

れもあり、カナダは 1977 年に EEZ を設定したが、その外側になお好漁場が残った(Grand

Bank の 2 箇所、及び Fremish Cap)。この EEZ 境界をまたぐストラドリングストックの管理

のため、新たな管理の枠組みが必要となり ICNAF を引き継ぐ形で NAFO(Northwest Atlantic

Fisheries Organization)が 1979 年に設立された。

NAFO メンバー国は 12(北・中米、ヨーロッパ、アジア)であり、そのうち4カ国(ア

メリカ、カナダ、フランス、デンマーク)は沿岸国である。

NAFO は規制水域(沿岸国 EEZ の外側)の資源(サケ、マグロ・カジキ、クジラ、定着

性生物(貝など)を除く多くの漁業資源)の管理と保存に責任を有している

(http://www.nafo.int/about/frames/about.html)。

NAFO における TAC と配分の決定について以下に紹介する(余川 1995)。

・本会議(Fisheries Commission)(行政サイド)から毎年科学委員会(Scientific Council)に

リクエストという形で要望される。科学委員会はこのリクエストに沿って資源解析・評価

を行う。

・1980 年代からTAC算出の参照値としてF0.1、Flast year、Fmax を用いている。近年他

の BRP(基準値)との比較検討は行われていない。

・多くの場合、TAC は F0.1 に基づいて計算された値が勧告値として採用されるが、本会議

にはその値以外にも幾つかのオプションを提示する。

・SSB が著しく減少している場合等 F0.1 から算出した TAC が資源の減少を招くと判断した

場合には、プロダクションモデル等を使用して F0.1、Flast year、Fmax 等で漁獲を続け

た場合の 10~20 年先までの予測を行い、どの規準が適当か判断を行うことがある。

・SSB に注目した管理規準(BRP)は必要なデータが揃っていないので、NAFO では採用で

きないでいる。

・幾つかの資源では資源が乱獲状態にあるかどうかの一つの判断基準として Frep 等の使用

が試みられている。

・現在は多くの資源が減少し、漁業からの情報が資源解析に使用できなくなってしまった

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ため、F0.1 に基づいて TAC の勧告を行っている魚種は全体の1割にも満たない。

・その他多くの資源では、これまでの CPUE、資源量指数、漁獲量のトレンドや、資源の年

齢構成(SSB)、卓越年級群の有無などを参考に TAC を決めている。

・本会議は、科学理事会の TAC の勧告値を尊重はするが、それに縛られることなく、科学

理事会が示した幾つかの管理オプションの中から、都合の良い値を選んで TAC を決定し

ている。

EU 加盟諸国では、OECD の項で示したとおり TAC 制による出口規制の他にそれぞれの国

で入り口規制、漁具の規制等を行っている(水産庁 HP)。

EU は 2001 年にこれまでの共通漁業政策の問題点と今後の改善点を発表した。それによ

れば、EU の船舶の漁獲能力は持続可能な漁獲水準をはるかに超えているとし、資源保護政

策の強化、漁船能力の処理などを目標に掲げている(水産庁 HP)。

現行の共通漁業政策は 2003 年から採られている。そのポイントとして、国別に漁獲能力

の上限を設定、資源状態の悪化が著しい資源(タラ、ヘイク等)について資源回復計画を

策定、漁獲努力量の削減に対する公的支援を引き続き実施などが挙げられる(水産庁 HP)。

引用文献

平沢 豊(1994)アメリカ合衆国の漁業管理.世界の漁業管理(下巻),(国際漁業研究会

編),(財)海外漁業協力財団,413-446.

ICES/ACFM(2002)Report of the ICES Advisory Committee on Fishery Management, Cooperative

Research Report, pp225.

草川恒紀(1994a)ニュージーランドの漁業管理.世界の漁業管理(下巻),(国際漁業研究

会編),(財)海外漁業協力財団.

草川恒紀(1994b)カナダの漁業管理.世界の漁業管理(下巻),(国際漁業研究会編),(財)

海外漁業協力財団.

水上千之(2006)排他的経済水域.有信堂高文社.

農林水産省(1999)平成 10 年度漁業の動向に関する年次報告.

OECD(1997)Towards Sustainable Fisheries: Economic Aspects of The Management of Living

Marine Resources.

大橋貴則(2007)米国の漁業管理政策について-マグナソン・スティーブンス漁業資源保

存管理法改正からの示唆―.水産振興,473.

桜本和美(1998)漁業管理の ABC-TAC 制がよくわかる本-.成山堂書店.

水産庁 HP,米国の漁業と漁業政策,http://www.jfa.maff.go.jp/gate/beikoku.pdf

水産庁 HP,EU の漁業と漁業政策,http://www.jfa.maff.go.jp/gate/eugyogyou1.pdf

水産庁 HP,ノルウェーの漁業と漁業政策,http://www.jfa.maff.go.jp/gate/noruwe.pdf

山本 忠(1994a)200 海里時代以降の世界の漁業管理の流れ.世界の漁業管理(上巻),(国

際漁業研究会編),(財)海外漁業協力財団,37-56.

山本 忠(1994b)EC の共通漁業政策.世界の漁業管理(下巻),(国際漁業研究会編),(財)

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海外漁業協力財団,387-412.

余川浩太郎(1995)NAFO における資源管理.報告書(資源管理目標ワーキンググループ編),

(mimeo)

表1 主要 OECD 諸国における漁業管理手法 (OECD 1997 より)

漁獲量規制 漁獲努力量規制 地域レベル

の自主的な

管理組織 TAC IQ ITQ 免許・許可制 その他

アイスランド ○ ○ ○ ○

EU

アイルランド ○ ○ ○ ○

イタリア ○ ○ ○ ○

英国 ○ ○ ○ ○

オランダ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ギリシャ ○

スウェーデン ○ ○ ○ ○ ○

スペイン ○ ○ ○ ○

デンマーク ○ ○ ○ ○ ○

ドイツ ○ ○ ○

フィンランド ○ ○ ○

フランス ○ ○ ○ ○

ベルギー ○ ○ ○ ○

ポルトガル ○ ○ ○ ○

オーストラリア ○ ○ ○ ○

カナダ ○ ○ ○ ○ ○

韓国 ○ ○ ○ ○

日本 ○ ○ ○ ○

ニージーランド ○ ○ ○ ○

ノルウェー ○ ○ ○ ○

米国 ○ ○ ○ ○ ○

メキシコ ○ ○ ○

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3.1.3)世界のカツオ・まぐろ類の漁業と資源状態

はじめに

クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、そしてカツオの 6 魚種の世界

の総漁獲量は、過去 50 年間一貫して増大傾向にあり、特に 100 万トンを超えた’70 年以降

の増加傾向が著しく、’03 年には 400 万トンを超えている。その中で、主要 6 魚種の日本の

漁獲量は 78 万トンを’84 年に記録した後は減少し、2005 年には約 50 万トンになった。ここ

10 年間は日本やアメリカなどで漁獲量が横ばいであるが、インドネシア、フィリピン、台

湾などでは増えている。魚種別の漁獲量では、温帯性まぐろ類 3 種(クロマグロ、ミナミ

マグロ、ビンナガ)で低迷しているが、熱帯性まぐろ類(キハダ、メバチ)は’70 年代以降

増えています。魚種別の漁獲量ではカツオが 大であり、年間平均漁獲量は過去 50 年間で

8 倍以上に増え、2002 年以降の平均が 215 万トンであり、世界の主要まぐろ類の総漁獲量

の半分を占める。カツオに次ぐのはキハダで、世界のまぐろ類の漁獲量のかなりの部分は

カツオとキハダによるものである。このうちキハダの増加は、はえ縄中心で漁獲されてい

たものが、1970 年代に入りヨーロッパや韓国、台湾のまき網漁船が著しく増え、その漁獲

量が急速に増え始めたこと、この漁獲増には漁船数の増加に加えて、1990 年に入ってこれ

までより盛んに行われるようになった人工浮魚礁(FADs)を活用する操業方法が大きく影

響している。

1.日本のまぐろ漁業

日本の漁獲対象まぐろ類は、1950 年代には缶詰材料の供給源としてキハダやビンナガが

主体であったが、1970 年代に入ると冷凍技術の発達とともに刺身材料としての需要が増え

クロマグロ、ミナミマグロ、メバチへと変化した。また、外国から供給されるまぐろ(生

鮮及び冷凍)との競合が激しくなるなどの影響もあって、1980 年代半ばをピークに日本の

漁獲量は減少し、世界の漁獲量に対してその占める割合は急速に下がっている。魚種別漁

獲量では、日本のまぐろ漁業における漁獲量も、世界の傾向と同様、1970 年以降カツオが

主体を占めている。大洋別にみると、太平洋での漁獲量(2005 年約 43 万トン)が、インド洋

や大西洋の漁獲量(4.2 万トン及び 2.6 万トン)より圧倒的に多く、近年では全体の 90%弱

(2003-2005 年の平均値)を占めている。しかし、その太平洋での漁獲量も 1984 年をピークに

減少傾向にある。

日本のまぐろ漁業の漁獲量はカツオが圧倒的に多いものの、生産金額はカツオの魚価が

安いこともあって、メバチ、カツオ、キハダの順になっている。人気の高いクロマグロや

ミナミマグロは資源の減少による管理措置が適用されて漁獲量が減少したため、生産金額

も低迷している。

2.市場・蓄養(養殖)まぐろ

まぐろ類の三大市場は、日本の刺身・鰹節市場、北米、ヨーロッパの缶詰市場である。

刺身用のまぐろは日本の高単価市場を目指して世界中から集まっている。日本におけるま

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ぐろ市場への供給量は、自国の漁獲量 50 万トン強と輸入量 40 万トン弱の、合わせて 90 万

トンである。特に輸入量は 近まで着実に増加してきたが、ここにきてやや減少の気配が

見られる。このうち刺身としての消費はカツオを除いた量に匹敵するものと推察され、近

年は 55 万トン(一人当たりの年間消費量は 4.6 kg)であり、残りはほぼ缶詰や鰹節関連(調

味料を含む)で消費される。

一方、健康食ブームや寿司人気の高まりにより、米国やヨーロッパでのまぐろの寿司や

刺身の消費が米国やヨーロッパで急速に拡大しつつある。人口 13 億の中国でもまぐろ消費

の啓蒙普及が始まり、市場の多様化、複雑化が進んでいる。責任あるまぐろ漁業推進機構

(OPRT)の推定によれば、海外での生鮮まぐろ類の消費は着実に増加しており、米国、韓

国を筆頭に合計で 6 万トン弱から 9 万トン強の潜在市場があるものと見積もられている。

また、缶詰の消費も増加傾向にあり、 も多く消費しているヨーロッパで約 130 万トン、

次いで北米の 60 万トンである。まぐろ缶詰総生産 155 万トンのうち、第 1 位(25%)の生

産がタイによって行われており、次いでスペイン、米国、日本は第 7 位にランクされてい

る。まぐろ缶詰総生産量は原魚換算で全まぐろ漁獲量の 3 分の 2 に相当する。なお、まぐ

ろ缶詰生産量第一位のタイは、自国周辺での小型まぐろ類の漁獲は 12 万トン程度で、その

6 倍以上の 80 万トン弱を台湾、バヌアツ、日本、韓国等から輸入している。

一方、日本の消費者のトロ嗜好とともに、クロマグロ、ミナミマグロの蓄養(養殖)が

近年急増し、その量(出荷量)は 2006 年で約 48,000 トンと見積もられるが、クロマグロで

は蓄養場への活け込み量報告や魚体サイズ等の科学データが提供されていないため、正確

な蓄養量は不明である。これらの蓄養まぐろに関するデータ不足は、詳細な資源評価や TAC

による資源管理を困難にしている。

3.まぐろ類の資源評価

まぐろ類の資源の増減に関する将来動向を推定するためには、まぐろ類が大洋の非常に

広い範囲に分布していることから、現在は、漁獲試験などの調査データからではなく、漁

船の魚種別漁獲量、漁獲した漁場位置、出漁隻数、操業日数などの漁業データを基礎とし

て、標識放流調査による再捕尾数や再捕場所、経過日数などの情報も分析するなど、様々

な情報を基に種々の統計学等を応用した資源解析手法によって科学的な資源評価を行って

いる。漁業データのうち、我が国のはえ縄漁業が提供する漁獲成績報告書資料は、漁場の

カバー率が広く、諸外国に比べて精度が良く、長期間にわたって整備されているため貴重

な資料として様々な地域漁業管理委員会(RFMO)で使用されている。資源評価では資源量

指数としての CPUE(単位漁獲努力量当たりの漁獲量)の動向が注目されるため、漁獲努力

量に含まれる様々な要因の影響(漁具の違いが漁獲に及ぼす影響など)を除去する標準化

という作業が重要となる。現在まで、このような情報を提供できるのは我が国しかなく、

ほとんどのまぐろ類の資源評価に我が国のデータが用いられているのが現状である。しか

しながら、近年の漁獲量に占める日本のシェアの低下と発展途上国のまぐろ漁業への新規

参入の増加などによって資源評価に用いる漁業データの質と量が低下していることが、科

学的根拠に基づく資源評価において大きな問題となっている。

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4.まぐろ類の国際調査

まぐろ類は高度回遊性魚類であり、公海域のみならず日本及び外国の 200 海里経済水域

内を移動する。そのため一国だけで資源を管理することは困難であり、各地域の RFMO に

よる包括的な管理が必要とされる。日本は、これまで各地域の RFMO でリーダー的役割を

果たしてきた。しかしながら、他の先進国の漁業や沿岸国である途上国の漁業の発達と我

が国漁業の経済的な競争力の衰退とともに、前述のようなデータ面や資源管理面での我が

国の貢献度が相対的に縮小しつつある。 近ではまぐろ類の調査研究のみならず、混獲状

況の把握やその削減、生態系保存を目的としたオブザーバー調査のカバレッジ向上や混獲

削減のための調査研究の実施が急務とされている。我が国においても、今後将来にわたり

適切かつ持続的なまぐろ類資源の利用を行うために、科学的な資源評価の精度を維持・向

上させる研究を進めるとともに各海域の RFMO 科学委員会に積極的に参加して科学的情報

の収集体制の整備や委員会で勧告された調査研究の実施に協力・努力していく必要がある。

5.まぐろ類の資源管理

各国の 200 海里内経済水域内におけるまぐろ類の資源管理に関しては国連海洋法条約に

基づき所管国に責任があるが、公海域におけるまぐろ類の資源管理に関しては RFMO に任

されている。2004 年 12 月これまで漁業管理機関がなかった中西部太平洋にも地域漁業管理

機関である中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が設立され、世界的なまぐろの資源管

理体制が整った。日本は 2005 年 8 月にその委員会に加盟し、WCPFC 内で北緯 20 度以北の

中西部太平洋におけるまぐろ・かつお資源を管理する北小委員会の活動へも積極的に関与

している。WCPFC では 2005 年 12 月には中西部太平洋のメバチについて漁獲を現状に凍結

する案が採択され、2006 年 12 月にはキハダについて同様の案が採択された。

世界的な過剰漁獲の削減問題はどの RFMO にとっても重要な課題である。2006 年には

VMS(漁船位置自動報告)システムの採用、はえ縄漁獲物の転載をモニタリングするため

の運搬船監視の仕組み等が幾つかの RFMO で決定される等、漁業監視の強化策の導入が図

られた。また、漁獲物の貿易監視強化の一環として従来の統計証明制度に代わる漁獲証明

制度の導入が一部で検討されており、大西洋クロマグロについては既に導入が決定してい

る。

大西洋まぐろ類保存国際委員会 ICCATにおいては2006年東大西洋クロマグロの管理案が

採択され、蓄養漁業のモニタリングやデータ収集強化が決定したが、これらの実施が一部

の加盟国では十分になされていないことが判明した。そこで、2007 年の会合において、2008

年 3 月に我が国において、東大西洋のクロマグロ漁業関係者(管理当局、漁業、蓄養業、

貿易業の各関係者)を対象とする会合を開催し、規程遵守のための生産量抑制を指導する

こと、その他各国の規制遵守状況をチェックし、必要に応じて保存管理措置を見直すこと

を決定した。また、クロマグロについて、これまで国際流通される漁獲物のみが対象の統

計証明制度に替わり、全ての漁獲物が対象となる漁獲物証明制度の導入が決定された。ま

た、2007 年 1 月には我が国がリーダーシップを執って、全てのまぐろ RFMO が神戸に一同

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に会し、IUU(違法で管理されておらず、どこにも漁獲を報告しない漁業)、漁獲能力削減、

キャパシティの制限、蓄養漁業の管理等共通の重要課題を協議し、より一層の世界的な協

調による諸問題の解決が図られたことは特に有意義であった。我が国も今後も世界のカツ

オ・まぐろ漁業における課題の解決に積極的に貢献していく必要があり、国際的枠組みの

中でも科学的根拠に基づき我が国の管理方策を反映させていくための貢献が求められる。

6.今後の課題と問題点

まぐろの資源管理に関する今後の課題と問題点は以下のようなものである。

○漁獲統計、生物統計の精度とカバー率の向上及びデータ収集の迅速化

○はえ縄、竿釣り、まき網漁業等における漁獲努力量の標準化及び漁獲努力量の動向把握

○FADs による小型メバチの多獲が資源に及ぼす影響の評価と小型魚混獲回避方策の開発

○蓄養まぐろに関するデータの収集とその漁獲が資源に及ぼす影響の評価

○資源評価精度の向上

○資源管理目標の評価手法の検討

○資源変動要因の解明及び資源加入モニタリング技術の開発

○地球温暖化がまぐろ資源へ及ぼす影響の検討

○CO2排出規制及び燃油高騰に対する対策の検討

○海鳥、海亀、さめ類の混獲実態の把握と混獲回避技術の開発及び混獲影響の評価

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カツオ・まぐろ類の資源状態と管理目標

単位:トン

魚種/大洋 大西洋 太平洋 インド洋

クロマグロ 東

MSY

西

MSY3,200

?(調査中)

検討中

ミナミマグロ 見直し作業中

メバチ

MSY

9.0~9.3 万

AMSY*中西部☆

MSY

11.1 万

キハダ MSY

14.8 万

AMSY*中西部☆

MSY

30 万

ビンナガ

MSY

30,200

MSY

33,000

検討中

検討中

MSY

2 万~3 万

カツオ 東?

MSY

西

MSY

MSY

中西部

MSY

200 万

検討中

量力な規制で

資源回復を

放置すると危険/要規

制 適正 漁獲増加可能

☆中西部太平洋のメバチ・キハダの管理目標:資源の長期保存と継続的利用

*MSY: 大持続生産量

*AMSY:平均 大持続生産(平均的な加入量での 大持続生産)

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3.1.4)我が国周辺のまぐろ資源管理

1.我が国周辺海域のまぐろ類資源管理

まぐろ類の資源管理の基本方針は、我が国 EEZ 内への回遊資源についても沿岸国として

公海部分の管理と整合性を保ちながら責任を持って適正に行うことである。しかしながら、

現状では我が国周辺海域を含む太平洋で厳格な規制措置が入っているまぐろ類資源は無い

状況にあり、関係した EEZ 内での資源管理も行われていない。一方、我が国のまぐろ漁業

管理は、許可により漁船数が制限される形になっているが、実質の隻数コントロールが行

われているのはまき網漁業程度である。

一般にまぐろ類(高度回遊性魚類)は広範に移動するため、日本周辺での漁業が成長段

階全体をカバーすることはクロマグロ以外では困難であり、また、成長に伴う集群性の変

化により、単一漁業種が全成長段階をカバーしていないのが通常で、先取り・成長乱獲が

争点になる。今後、各まぐろ資源について地域漁業管理機関(RFMO)で資源評価が進めら

れると考えられるが、我が国周辺海域での漁業実態・資源分布実態を反映した評価を行う

努力が必要である。

RFMO での管理方策の議論においては、沿岸国としての立場と遠洋漁業国としての立場

を国内調整しながら進める必要がある。さらに、管理目標議論においては、持続的生産の

確保・成長乱獲の防止以外も含めた管理の価値を何に準拠するか(何を持続的 大にする

管理を行うか)を、我が国周辺の漁業の存在も考慮してリードしていく必要がある。特に、

ビンナガ、クロマグロについては、国内中小漁業への影響を考慮して、国際資源管理の議

論に小規模・地域的・伝統的漁業の維持の考え方を入れさせることも必要である。また、

充分な国内議論を行った上で国際議論に望むことも必要である。

さらに、国際的な管理措置と整合性を保った我が国周辺(特に単独で管理責任を負う EEZ

内)漁業の管理検討において、漁獲量が大きく資源への影響の大きい漁業を管理対象にし

て影響の少ない漁業は管理コストパフォーマンスが悪いので対象外もしくは現状漁獲の維

持とすることや、伝統的漁業としての権利や根拠地から遠くに離れられない来遊を待ち受

ける沿岸の漁業の特性等の我が国の立場を、対外的に明確に表明しつつ、EEZ 内資源管理

方針を決定する必要がある。

2.背景情報

(1)我が国周辺海域(北緯 20 度以北の北太平洋、または我が国 EEZ)に分布するまぐろ

類資源の全体的管理

我が国周辺海域で我が国漁業の対象となる主なまぐろ類(この表現にカツオも含むこと

にする)は、クロマグロ、ビンナガ、カツオ、メバチ、キハダである。

まぐろ類の資源管理に関しては、国連海洋法条約に基づき沿岸国及び漁業国は地域漁業

管理機関(RFMO)を通して協力することとなっている。2004 年 12 月これまで漁業管理

機関がなかった中西部太平洋にも地域漁業管理機関である中西部太平洋まぐろ類委員会

(WCPFC)が設立され、我が国周辺海域に分布・回遊するまぐろ類の資源管理体制も整っ

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た。特に、WCPFC 内の北緯 20 度以北の海域におけるまぐろ・かつお資源の管理は北小委

員会で行うこととしている。日本は 2005 年 8 月に WCPFC に加盟し活動に積極的に関与し

ている。

各魚種の資源評価は、次のような単位で行われている; クロマグロは太平洋全域(僅

かな漁獲が南半球で見られる)、ビンナガは北太平洋(太平洋の北半球全域)、メバチ・キ

ハダ・カツオは中西部太平洋(概ね 150W 以西の太平洋)。資源評価結果に基づく各魚種の

現在の保存管理措置は、クロマグロでは資源評価結果の不確実性が大きいことから WCPFC

北委員会は予防的措置として漁獲死亡率をこれ以上増やすべきではない、ことを勧告して

いる。ビンナガについても、WCPFC 北委員会から本資源に対する漁獲努力量を現状以上に

増加させないとした保存管理措置を決定した。中西部太平洋のメバチ資源について WCPFC

(2006 年 12 月)では、漁獲努力量抑制などの(定性的な)保存管理措置を採択している。

同海域のキハダ資源についての保存管理措置議論は、WCPFC で合意に至っていない。カツ

オについては自身の資源的問題は指摘されていないが、WCPFC(2005 年 12 月)でキハダ・

メバチ小型魚混獲減少の観点から、熱帯域(20N~20S)のまき網努力量を 2004 年レベルに

制限する管理措置が採択された。

(2)我が国周辺海域に分布する資源の位置づけ

クロマグロは産卵場が沖縄~台湾の太平洋側水域及び日本海に位置し、当歳魚から日本周

辺を回遊し、その後も日本近海から北太平洋を広く回遊している。日本周辺海域は本種の

全ての生活史段階にとって主要な分布域となっている。ビンナガはアジア側から北米大陸

側まで北太平洋に広く分布するが、主な産卵場は 20N を中心とした太平洋東経域に偏って

おり、我が国周辺は分布の一部を占め、産卵親魚の分布中心にも近い。メバチ・キハダ・

カツオは熱帯域を中心とした分布であり、温帯域へは季節的な索餌回遊が中心となってお

り、我が国周辺海域は資源分布の縁辺部にあたっている。

(3)我が国周辺海域でのまぐろ類を対象とした漁業

クロマグロ:まき網、はえ縄、ひき縄、竿釣り、定置網等により漁獲している。ここ 10 年

は 1 万~2 万 4 千トンであり、その 6 割はまき網により漁獲されている。まき網漁獲の過

去の主な漁場は三陸沖であったが、1981 年より日本海南西部に成魚を対象とした漁場が形

成され、さらに 1991 年からは未成魚を対象とした漁場が形成された。まき網の漁獲対象は

幅広いサイズ範囲にわたっているが、海域・漁具仕立てによりヨコワ対象と成熟サイズに

達した大型魚を対象とするものに分けられる。曳き縄漁獲量は 1,000 トン程度に過ぎないが

当歳魚から1歳魚を主に対象としており、尾数ベースでの貢献(死亡)は大きい。はえ縄

は回遊中及び産卵場周辺での漁獲を行う。本種は沿岸性も高く、日本海及び北日本沿岸で

の定置網漁獲も見られる。

ビンナガ:我が国の漁獲量約 4 万トンは北太平洋全体の 6 割以上にあたる。日本の漁獲

は、主に東沖で未成熟の 2~4 歳魚を漁獲する遠洋竿釣り(年によって近海竿釣りも)、大

型魚も漁獲対象とする沿岸小型・近海はえ縄がほとんどで、わずかに沿岸で曳き縄による

- 68 -

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漁獲が見られる。

メバチ・キハダ:中西部太平洋のキハダ漁獲 40 万トン前後の内日本は約 5 万トンをまき

網・はえ縄を主体に漁獲しているが、漁場は主に熱帯域で、日本周辺では伊豆諸島近海か

ら常磐沖での春~夏のまき網と沖縄周辺海域でのパヤオを用いた竿釣りによるわずかな漁

獲のみである。メバチは中西部太平洋で 10 万トン強の漁獲があるが、日本は熱帯域のはえ

縄を中心に 3.5 万トン程度の漁獲を行っている。日本の沿岸では目立った漁獲はないが、三

陸東沖で小型・近海はえ縄船により多い年で 5,000 トン弱の漁獲が見られる。

カツオ:中西部太平洋の 150 万トン近い漁獲量の内、20N 以北の北西太平洋での漁獲量は

約 10 万トン程度に過ぎない。漁業種類は、常磐三陸漁場におけるまき網(北部太平洋海域

大中型まき網と海外まき網)、九州周辺から本邦太平洋側の近海竿釣り(漁獲量の中心は常

磐三陸沖)、常磐三陸及び東沖の遠洋竿釣り、西日本太平洋岸の沿岸小型竿釣り、九州周辺

から西日本・東海沿岸の曳縄、冬季の常磐沖大目流し網、と多くの漁法が関係するが、漁

獲量の大きいものは、まき網と竿釣りである。主体となるサイズは1歳前後の北上回遊群

である。

(4)我が国周辺海域でのまぐろ類漁業管理

現在の我が国のかつおまぐろ対象の漁業の管理は許可制によっている。知事が管理して

いる漁業もあり、大臣(国)が全てを管理しているとは言えない。

◎大臣許可

・大中型まき網漁業(総トン数 40 トン以上、北部太平洋のみは、15 トン以上)。ただし、

実際のかつおまぐろをとるのは、135 トン以上のまき網漁船で、海まきのみ遠洋課で所管

し、その他の大中まきは沿岸沖合課で所管。

・遠洋かつお・まぐろ漁業(総トン数 120 トン以上、浮きはえ縄又は釣りによる漁業)

・近海かつお・まぐろ漁業(総トン数 10 トン以上 120 トン未満、浮きはえ縄又は釣りによ

る漁業)

◎特定大臣許可

・東シナ海等かじき等流し網漁業。沿岸沖合課の所管。

◎大臣届出

・かじき等流し網漁業。沿岸沖合課の所管。知事の許可漁業になっているものもあり、実

質的な管理が都道府県と考えられる場合もある。

・沿岸まぐろはえ縄漁業。遠洋課の所管。都道府県により許可制をとっているところがあ

り、実質的には都道府県が調整。

以下は、沿岸沖合課の所管であるものの、実質的には県の所管で直接的に国として指導す

るのは難しい。

◎知事許可

・中型まき網漁業

・小型まき網漁業(総トン数 5 トン未満の船舶を使用するもの)

・小型定置漁業

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◎知事漁業権免許

・大型定置網

◎自由漁業

・曳き縄

(5)各魚種の資源管理上の留意点

クロマグロは大多数を我が国で利用しており、EEZ 内を主体に関連する漁業が複雑で調

整が難しいことが予想される。さらに、国際舞台での資源評価が求められ、漁業上・管理

上それほどの重要性がない諸外国(我が国沿岸漁業の実態を理解しきっていない点も注意

が必要)を入れた国際的な議論が避けられない。

ビンナガは、漁業国である米国・台湾と共に資源評価を実施し管理方策を検討する形にな

り、対等の漁業国の立場で議論することになる。EEZ 内漁業は小型はえ縄、さらに海域範

囲を広げた場合の我が国漁業も遠洋竿釣りが主体で、国内調整の要する漁業構造は比較的

単純であろう。

メバチ、キハダ、カツオは我が国 EEZ 内漁業及び周辺海域漁業が資源全体に与える影響

は極めて小さく、これらを厳密に管理することが資源動態に大きく影響するとは考えられ

ない。一方で、分布の縁辺部に位置する海域であり、全体の資源管理の行方には受け身的

影響を受ける立場にある。これらの魚種については沿岸・近海竿釣りや小型はえ縄を主と

する漁業国としての我が国は、分布の中心である熱帯域で操業する漁業に対して、漁場競

合の無い沿岸国の立場で、厳格な資源管理を求める交渉が必要である。この場合、我が国

の遠洋漁業への影響について国内調整を行う必要がある。

- 70 -

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3.1.5)多面的機能と環境保全との関係:漁業管理への生態系アプローチを中心に

1.はじめに

水産資源は、様々な地球環境と生態系の変遷に適応して進化してきたと考えられる。し

かし、これまでの漁業管理や水産資源管理は基本的に単一種あるいは系群を対象に論じら

れることが多かった。その理由は、これまでは海洋環境が比較的良好であったとともに、

複雑な生態系における水産資源の動態を表現する科学的手段が未発達であったこともある。

近年では、漁業管理のあり方に対して生態系あるいは生物多様性の観点から見直す動き

が盛んになっている。この背景には、地球温暖化に象徴される人間活動に由来する「環境

危機」の時代に入ったとの認識がある(鷲谷 2008)。また、生態系に関する調査研究も徐々

に発展してきた。さらに、環境保全や再生事業には順応的管理と呼ばれる手法を採用する

ことが多くなっており、生態系の複雑さ及び予測困難性に対処すことが実践されている(鷲

谷 2007)。なお、順応的管理とは、実践・事業を「仮説-実験-検証サイクル」として多

様な主体のかかわりのもとに進めることを意味する(図 1)。

一方、生態系の持つ多面的機能も近年注目され、漁業は生態系サービス26の一部と考えら

れている。持続的な漁業の

ためにも生物多様性など環

境保全の重要性が高まって

きており、漁業管理にもこ

れらの要素を考慮する必要

がある。また、持続的な漁

業は健全な生態系の証左と

しても位置付けることがで

きるだろう。

しかし、このことは漁業管

理のために生態系の動態把握

に基づく複数種管理モデルが

必須であることを意味はしな

い。なぜなら、現在世界の多

くの水産資源が満限まで利用されあるいは過剰利用になっている原因は過剰投資によると

ころが大きいと考えられているためである(Mace 2004)。また、不確実性への対処方策とし

ての順応的管理も実践されている。

26生態系サービスは、供給サービス(食料、水、燃料、繊維、化学物質、遺伝資源)、調整

サービス(気候、水質浄化、 洪水)、文化的サービス(精神的癒し、レクリエーション、

エコツーリズム、教育)、これらを支える維持サービス(基礎生産、物質循環)から構成さ

れる。

図 1 順応的管理の概念

(http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~kaiseki/doc/abstract041105.pdf、

http://kaiseki1.ori.u-tokyo.ac.jp/study/presentation/2003/

sinpro.doc などを参考に作成)

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2.生物多様性と生態系

生物多様性とは、生物種における遺

伝的なもの回遊経路や年齢構成など生

態的な多様性、種の多様性、生物群集

の多様性、生態系を支える景観の多様

性を含む幅広いものである。生物多様

性あるいは水産資源の成育場(ハビタ

ット)が保全されることが、長期的に

見て水産資源の安定的・持続的な利用

に不可欠と考えられている。例えば、

カリフォルニア海流域の魚類におい

ては開発資源の幼魚量の変動幅が未

開発資源に比べて大きくなっている

が(図 2)、この現象には漁獲による生

態的多様性の低下が関与している可

能性がある。

海洋生態系は閉じたもの

ではないが、ある特定の海流

系や地形的に特徴づけられ

る海域を基礎とするのが一

般的である。生態系の重要な

特徴の一つとして、閾値を越

えた変化は不可逆的となる

ことがある。例えば、水草が

生息可能な範囲の濁度であ

れば水草による栄養塩消費

に基づく浄化作用により濁

度が可逆的に変化するが、水

草が生息可能な濁度の閾値

を超えると植物プランクト

ンが独占する異質な状態とな

ってしまう(図 3)。この状態

からは、植物プランクトンや濁

度を人為的に減少させない限り水草の復活は困難である。

このように、生態系に与える様々な負荷は、生態系の回復力の範囲に留めることが重要

となる。しかし、生態系は複雑であるため、一般にその挙動は予測困難で、回復力の閾値

図 2 カリフォルニア海流域の魚類における

成熟年齢(X 軸)と年々の幼魚量の変動係

数(Y 軸)との関係(Hsieh et al. 2006)●:

開発資源,△:未開発資源

図 3 沈水植物の植生がある系とない系での水中の栄養

塩と濁度の関係.矢印は系が平衡状態でないときに変

化する方向を示す(高村 2002 より略写)

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の特定も容易ではない。そのため予防的アプローチが重要となる。

3.生態系アプローチ

上記のような生態系の特徴と「環境危

機」を背景として、生態系アプローチ

Ecosystem Approach(以下 EA と略記)

が生物多様性条約第 5 回締約国会議

(2000 年)において採択された。EA は

同条約の理念と方法論を示す原則であ

るとともに、土地資源、水資源、生物資

源の持続的利用と統合管理のための戦

略でもある。ここでは、文化的な多様性

をもった人間も様々な生態系に必要な

構成要素とされている。EA の 12 原則

は補足資料に示した。特に「生態系は

変化するため、管理は変

化に適合しなければな

らない」(原則 9)は不確

実性への対処として重

要と思われる。

鷲谷(2007)は減少し

たウナギ資源について、

「完全養殖技術の開発」

が従来型のテクノロジ

ーによる解決策、ウナギ

が暮らせる海~河川に至る

生息環境の復活と保全が「生

態系アプローチ」による解決策としている。EA による解決策はウナギだけでなく、多面的

な生態系サービスに寄与することができる。

漁業管理への生態系アプローチ Ecosystem Approach to Fisheries(以下 EAF と略記)は、

文字通り EA を漁業管理へ適用したものである。EAF は「責任ある漁業」27の一部として位

置づけてられている(図 4)。EAF は、不確実性に対してモニタリングに基づく順応管理、

予防的措置、生態系に関する知見の利用、及びインセンティブに基づく自治的管理を目指

している。EAF は伝統的漁業管理の置換(革命)ではなく、伝統的管理からの拡張あるい

27 1995 年 10 月の第 28 回国連食糧農業機関 (FAO) 総会において採択された「責任ある漁

業のための行動規範 (Code of Conduct for Responsible Fisheries)」に基づく漁業政策理念

図 4 水産資源の持続的利用と開発をめぐる枠

組みとアプローチの関係

(Garcia and Cochrane 2005)

伝統的アプローチ 生態系アプローチ

少数の目的 多数の目的

セクト的 総合的

目標種(漁獲対象)と非目標種(混獲) 生物多様性と環境

系群と漁業のスケール 複数の階層を持ったスケール

予測に基づく管理 順応的管理(学習とフィードバック)

科学的知見 幅広い知見(漁業者などの)

法による規制 インセンティブ(やる気)

トップダウン管理 双方向,参加型管理

漁業共同体 一般国民,透明性

拡 張

図 5 漁業管理における伝統的アプローチと生態系アプロー

チの比較(Garcia 2006)

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Page 74: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

は進化として位置づけられている(図 5)。なお、生態系をベースとする漁業管理

Ecosystem-based fisheries management も類似概念であるが EAF の方が幅広いものとされて

いる。

具体的に EAF で着目する生態系の要素と伝統的漁業管理あるいは水産業との関連は図 6

のように整理されている。

図 6 EAF で着目する生態系の要素と相互作用 (Garcia et al. 2003)。

黄色系:伝統的漁業管理、緑色系: EAF

EAF において漁業者、政策立案者及び科学者がとるべき行動は次のようである。

A.漁業者

1)漁業という職業のイメージの積極的改変

2)漁獲能力削減へのチャレンジ

3)環境にやさしい漁具と操業方法の採用

4)漁業権への働きかけ28

B.政策立案者

1)漁業統治(governance)イメージの改善

2)主要な操作的(具体的)目標の設定 28日本では基本的に漁業権による漁業制度が主体となっているのに対し,欧米では参入離脱

が自由で TAC 管理(出口管理)が主流である.

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3)適切な権利システムを通じての資源配分

4)利害関係者の適切な同定、及び排除という困難事項の衡平な解決

5)環境負荷を削減しつつ漁業生産を維持

6)沿岸環境汚染と劣化削減のための働きかけ

C.科学者

1)効果的かつ実行可能な手段の同定

2)生態学的・制度的に妥当な地理的境界設定へのアドバイス

3)生態系に対する MSY 相当概念の創出

4)生態系の状態を も端的に表す指標セット、及び関連する価値の同定

5)生態的リスクの評価

6)(悪化した生態系の)回復戦略の開発

7)実現可能な移行段階の工夫

8)社会科学との統合

4.引用文献

Garcia SM (2006) The ecosystem approach to fisheries.

http://www.globaloceans.org/globalconferences/2006/pdf/SergeGarcia.pdf

Garcia SM, Cochrane KL (2005) Ecosystem approach to fisheries: a review of implementation

guidelines. ICES Journal of Marine Science, 62: 311-318.

Garcia SM, Zerbi A, Aliaume C, Do Chi T, Lasserre G (2003) The ecosystem approach to fisheries.

Issues, terminology, principles, institutional foundations, implementation and outlook. FAO

Fisheries Technical Paper, 443, 71pp.

Hsieh CH, Reiss SC, Hunter JR, Beddington JR, May RM, Sugihara G (2006) Fishing elevates

variability in the abundance of exploited species. Nature, 443: 859-862.

Mace MP (2004) In defence of fisheries scientists, single species models and other scapegoats:

confronting the real problems. Marine Ecology Progress Series, 247: 285-291.

高村典子(2002)湖沼の生物多様性とその保全. 海洋と生物, 140: 197-202.

鷲谷いづみ(2007)使命の科学としての保全生物学/生態学との分野間協同. 学術の動向

2007, 4: 58-63.

鷲谷いづみ(2008)今日から明日への生態学.学術の動向 2008, 5: 58-60.

5.補足資料.生態系アプローチ(EA)の 12 の原則(生物多様性条約第 5 回締約国会議

文書 UNEP/CBD/5/L.16 の一部抜粋,環境省仮訳)

・12 の原則は相互補完的で連動している

原則1 土地資源、水資源、生物資源の管理目的は社会的選択による。

・ 社会のセクターは、それぞれに、自身の経済的、文化的、社会的ニーズの観点から生態

系に対してそれぞれの見方をする。

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・ その土地に住んでいる原住民や地域社会は重要な利害関係者であり、その権利と利益が

認識されるべき。

・ 文化と生物の多様性はいずれも EA の中心的要素であり、管理に当たってはこのことが

考慮されるべき。

・ 社会的選択はできる限り明確に表現されるべき。

・ 生態系は、その固有の価値と人間への有形無形の利益のために、公正で公平な方法によ

って管理されるべきである。

原則2 管理は も下位の適切なレベルまで浸透されるべき。

・ 地方分権化されたシステムは、効率的、効果的、公平な管理を導く。

・ 管理にはすべての関係者を含み、地域の利益とより広域での公益のバランスを図るべき。

・ 生態系に対し、綿密な管理をすればするほど、責任、所有、義務、参加、地元の知識の

利用が大きくなる。

原則3 生態系管理者は、彼らの行動による近隣及び他の生態系に対する影響(実際又は可

能性)を考慮すべき。

・ 生態系への管理による介在は、他の生態系へ未知な、あるいは予測できない影響を与え

ることがしばしばあるため、影響の可能性を慎重に考慮し、分析する必要がある。

・ このことは、必要であれば適当な妥協を図るような意志決定に関する制度の新たな整備

や編成を必要とするかもしれない。

原則4 管理により取得されうる物を認識しつつ、常に経済的観点から生態系を理解し、管

理する必要がある。いずれの生態系管理プログラムも

(a) 生物多様性に悪影響を及ぼす市場のゆがみを軽減し、

(b) 生物多様性保全と持続可能な利用を促進する奨励措置を調整し、

(c) 可能な範囲で、生態系における損失と利益を内部化すべき。

・ 生物多様性への 大の脅威は、土地利用の別のシステムへの置き換えにある。

・ このことは市場のゆがみによってしばしば生じ、そのゆがみは、自然のシステムと人口

についての低い評価によって生じ、より多様性の低いシステムへの土地利用の転換を導く

悪質な奨励措置や補助金を供給している。

・ しばしば保全によって利益を得ている者は保全に関係したコストを支払っていないこと

が多く、同様に汚染等により環境コストを生じさせている者が責任を逃れている。

・ 奨励措置の調整とは、資源を管理する者に対して利益をもたらし、環境コストを生じさ

せている者が支払いを行うことを確保するものである。

原則5 生態系のサービスを維持するために、生態系の構造と機能を保全することが、EA

の優先目標であるべき。

・ 生態系の機能と回復力は、環境中の物理化学的な相互関係と同様に、種内の、種間の、

また種と非生物的な環境との間の動的な関係に依拠している。

・ このような相互関係と作用の保全と、適当な場合にはその回復は、単なる種の保護に比

べ生物多様性の長期的な維持にとってより大きな重要性をもっている。

原則6 生態系はその機能の範囲内で管理されなければならない。

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・ 管理目的の達成の見込み、容易さを考慮する場合、自然の生産性、生態系の構造、機能、

多様性を制限している環境条件に対して注意が払われるべきである。

・ 生態系の機能の範囲は、一時的な条件、予測できないような条件あるいは人工的に維持

された条件によって様々に影響を受けるため、管理は慎重であるべき。

原則7 EA は、適切な空間的・時間的広がりで実施されるべき。

・ アプローチは目的に従って適切な空間的、時間的規模で区切られるべきである。

・ 管理の境界は、利用者、管理者、科学者、原住民や地域住民によって使いやすいように

定義されるべきである。

・ 地域相互の接続性については、必要に応じ考慮すべきである。

・ EA は、遺伝子間、種間、生態系間の相互作用と調和によって特徴づられる生物多様性

の階層構造の特質に立脚している。

原則8 生態系の作用を特徴づける時間的広がりの多様さや遅延効果を認識しつつ、生態系

管理の目標は長期的に策定されるべき。

・ 生態系の作用は時間的広がりの多様さや遅延効果によって特徴づけられる。

・ このことは本質的に、人間の将来のものよりも短期間での達成を好む傾向や当座の利益

を好む傾向と相反するものである。

原則9 管理するにあたって、変化は避けられないことを認識すべき。

・ 種の構成や個体の数量を含め、生態系は変化する。

・ 従って、管理は変化に適合しなければならない。

・ 生態系が本質的に変化するものであることをさしおいても、生態系は人間と生物、環境

の領域にあって、様々な不確実性と驚きの可能性の複合によって満ち満ちているものであ

る。

・ 伝統的な攪乱をもたらす体制が、生態系の構造と機能にとって重要で、維持や回復が必

要であることがある。

・ EA は、変化と結果を予測しそれに対応するために順応的管理を活用すべきであり、選

択肢を前もって排除してしまうようないかなる意志決定をすることにも慎重になるべき

である。しかし、同時に、気候変動のような長期的な変化に対する影響軽減のための行動

を考慮すべきである。

原則10 EA では、生物多様性の保全と利用の適切なバランスと統合に努めるべき。

・ 生物多様性は、その本質的な価値と、われわれすべてが究極的に依存している生態系や

その他のサービスを提供しているという点での鍵となる役割を果たしているがゆえに重

要である。

・ 過去において、保護されているものでも保護されていないものでも、生物多様性の構成

要素を管理しようとする傾向があった。

・ 保全と利用とを一連のものとしてとらえ、厳格に保護されたものから人が形成した生態

系まで連続したものに対して十分な方策を適用できるようなより柔軟な立場に移行して

いく必要がある。

原則11 EA では、科学的な知識、固有の地域の知識、革新的なものや慣習などあらゆる

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種類の関連情報を考慮すべき。

・ 様々な発信源からの情報は効果的な生態系管理の戦略に到達するために重要である。

・ 生態系の機能と人間の利用の影響に関するよりすぐれた知識が必要である。

・ あらゆる関係のある地域からのすべての関係する情報は、特に条約8条(j)に基づいてな

される決定を考慮しつつ、すべての利害関係者と活動者によって共有されるべき。

・ 提案された管理についての決定の背後にある仮定は、明確にされ、利用できる知識と利

害関係者の知見に照らしてチェックされるべきである。

原則12 EA は、関連する社会のセクター、科学的分野のすべてを巻きこむべき。

・ 生物多様性の管理の問題の大半は、多くの相互作用、副作用、関係性を持っており複雑

であり、地元、国家、地域、国際のそれぞれのレベルで、必要な専門家、利害関係者を関

与させるべきである。

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3.1.6)日本における海洋保護区の考え方29

1.海洋保護区に関する議論の背景

国連ミレニアム生態系評価(The Millennium Ecosystem Assessment)では、地球上の生態

系のうち海域・沿岸域が も危機に瀕していると指摘されている30。海洋保護区(Marine

Protected Areas: MPAs)は、漁業による海洋生態系劣化の防止や、マングローブ・さんご礁

などの重要な生息域の保全のため、また、陸上起源の環境負荷を管理する手法として、さ

らには気候変動に起因するグローバルな生態リスクに対するヘッジ策の一つとして、国際

的議論が高まっている。このような議論の背景には、1)生態系サービス、2)伝統的な

漁業管理手法の限界、3)自然保護主義、という3つの概念がある。

1)の生態系サービスとは「人々が生態系から、食料、人間環境の制御、生物圏の過程の

支持、文化へのインプットという形で得ている便益」をいう(UNEP CBD 2003)。いわば

「自然の恵み」である。国連ミレニアム生態系評価では、生態系サービスを、食料や水・

資源等の供給(供給サービス)、疾病の予防や気候・水・自然災害の調節ならびに浄化機

能(調節・制御サービス)、精神的な満足や審美的楽しみの提供(文化的サービス)、及

び、以上3つのサービスを支える一次生産や栄養塩循環・水循環等(サポート機能)の 4

つに分類している。そして、これまで貨幣的な評価が行われず、その価値が明示的に扱わ

れてこなかったものも含め、生態系サービス全体の見地から保全・管理を目指していこう

という考え方である。

2)については、まず、漁業の努力量管理(トン数、隻数規制など)や出口管理(漁獲可

能量、個別割当など)といった単一種動態モデルに基づく伝統的漁業管理手法が、これま

で水産資源の保全に成功していないという認識がある。ミレニアム生態系評価の詳細報告

書第18章においても、現在の漁獲圧が既に持続可能な水準を大きく超えており、少なくと

も重要な水産資源の4分の1が乱獲されていること、漁獲対象魚種の食物網における位置を

示す漁獲物の栄養段階が1950年代以降低下していること、よって、未開発資源を求めてし

だいに深い水深で操業するようになっていること(漁場の垂直拡大)といった、一連の「漁

業の危機」説が展開されている。こうした認識から、これまでに無い新たな、そして抜本

的な管理手法として、海洋保護区の設置が必要である、という考え方である。

3)自然保護主義については、たとえばディープエコロジーに代表される環境哲学の主張

が有名である。そこでは、現在の人間による自然への介入は既に限度を超えたものであり、

直ちに自然資源利用を縮小すべきこと、そのためには人口の大規模削減を含めた抜本的行

動が必要であること、などが主張されている(森岡 1996)。こうした考え方からは、海洋

保護区はあくまで「人間による利用の排除」を意味し、たとえば漁業等による資源利用を

29 本資料は、牧野光琢(印刷中)日本における海洋保護区とモニタリング、(沿岸環境関

連学会協議会編)沿岸環境モニタリングの意義及びその継続の危機、月刊海洋.の内容を

基に、一部改変したものである。 30 ミレニアム生態系評価の全ての報告書は http://www.maweb.org/en/index.aspxからダウンロ

ードできる。海洋漁業に関する評価概要とその批評は牧野(2007)を参照されたい。なお、

本評価の日本語訳は横浜国立大学 21 世紀 COE 翻訳委員会(2007)。

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通じた人類の福利の向上は主要な目的ではなく、2次的な「ボーナス」程度のもの(Ballantine

2002)、あるいはそもそも考慮する必要がない、もしくは考慮すべきで無いもの(Halpern et

al. 2004)とされる31。

次に、海洋保護区の設置を巡る国際的情勢を紹介する。海洋保護区の設置自体について

は、既に日本が署名したさまざまな宣言・文章で数値目標を含む具体的な行動が定められ

ているという現状を認識する必要がある。たとえば、2002 年にヨハネスブルグで開催され

た「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」では 2012 年までの海洋保護区設置が

宣言されている。2003 年の G8 サミット(G8 Action Plan)では、参加各国が海洋保護区の

ネットワークを 2012 年までに設置することが合意されている32。また、2006 年にブラジル

で開催された生物多様性条約第 8 回締約国会議では、2010 年までに世界の海域ならびに沿

岸の生態域(Ecological regions)の少なくとも 10%を効果的に保全することを目標として設

定している。よって、日本はこれら国際的な約束としての数値目標を達成すると同時に、

日本の生態的・社会的特性を踏まえた海洋保護区のあり方を国際社会に提示していく必要

がある。

2.海洋保護区の定義と目的

さまざまな国際会議、条約等で言及され、数値目標や達成期限までもが設定されている

海洋保護区であるが、その定義自体はいまだ明確に定まっておらず、国際的に統一された

具体的概念も存在しない。いわば、依然として発展途上の概念であり(加々美 2009)、言

葉だけが独り歩きしているのが現状である。たとえば生物多様性条約第7回締約国会議で

は「海洋・沿岸保護区(Marine and Coastal Protected Area)」を「海洋環境の内部またはそ

こに接する限定された区域であって、その上部水域及び関連する植物相、動物相、歴史的

及び文化的特徴が、法律及び慣習を含む他の効果的な手段により保護され、海域または/及

び沿岸の生物多様性が周囲よりも高度に保護されている区域」と定義している(CBD 2007

COP7 Decision VII/5 note 11)。またIUCN(国際自然保護連合)は、海洋保護区を、海陸両

方に適用される「保護区(Protected areas)」の一部と位置づけた上で、その保護区を「法

律又は他の効果的な手段により自然及びそれに関係する生態系サービスと文化的価値の長

期的な保全を達成するために認められ、奉仕され及び管理される明確に定められた地理的

空間」と定義している(Dudley 2008;加々美 2009)。以下本稿では、生物多様性条約の定

義に基づいて議論をすすめる。その理由は、1)本条約は法的拘束力を有する国際環境条

約であり、日本はその正式な締約国であること、2)本条約は1992年にリオデジャネイロ

で開催された「環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)」で採択されており、2002年

に海洋保護区の数値目標を定めた「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」はそ

31 このほかに倫理的側面から海洋保護区の議論を整理した文献として、Callicot (1991) 、Jones (2007) など。 32海洋保護区のネットワーク(Ecosystem networks of marine protected areas)とは、対象とす

る生態系の空間特性や代表性を考慮した海洋保護区自体の空間的ネットワークと、海洋保

護区に関する人と情報のネットワークの二つの意味がある。

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の後継会議であること、3)アメリカ合衆国、イラク、ソマリアなど本条約を批准してい

ない国・地域も一部に存在するが、現在世界の大多数から支持を得ている条約であること、

の3つである33。

ここで注意すべきは、海洋保護区は、いわゆる禁漁区・立ち入り禁止海域とは異なる概

念であるという点である。禁漁区等人間による利用を排除する海洋保護区は、様々な海洋

保護区の一つのタイプにすぎない34。たとえばIUCNは、原則として科学的研究のみを許容

し他の全ての利用を強く制限する「Ia 厳正自然保護区」から、人間による自然資源の持続

的利用を許容する「VI 自然資源の持続的利用を伴う保護区」まで、7種類の保護区を階層

化して整理している(表1、Dudley 2008)。World Bank (2006) は「厳正海洋保護区」、「禁

漁区」、「多目的利用海洋保護区」、「生物圏保護区」など様々なタイプの海洋保護区を

入れ子状に整理している。また、前節で紹介したように、生物多様性条約における海洋保

護区の制度的根拠は法律のみではなく「慣習を含む他の効果的手段」も含まれている。つ

まり、日本で行われている様々な自主的管理措置も、その目的によっては海洋保護区とし

て正当に位置づけられ得ると理解できる。

表 1 IUCN による保護区のカテゴリー(Dudley 2008、著者による仮訳)

Ia 厳正自然保護区(Strict nature reserve)

Ib 原自然地区(Wilderness area)

II 国立公園(National park)

III 自然記念物または特徴(Natural monument or feature)

IV 生息地/種の管理地区(Habitat/species management area)

V 保護された景観(Protected landscape/seascape)

VI 自然資源の持続的利用を伴う保護区(Protected area with

sustainable use of natural resources)

次に海洋保護区の目的を整理する。本稿では、定義に関する考察と同様に、生物多様性

条約の決議を基に考察を行う。本条約の目的は、生物多様性の保全と、その持続的な利用、

及びそこから生ずる利益の公正かつ衡平な配分である(生物多様性条約第一条)。さらに、

本条約の具体的な理念・方法論は、生態系アプローチ(Ecosystem Approach)の 12 原則に

まとめられている(資料3.1.5)参照)。その第 5 原則では、生態系サービスを維持

するために、生態系の構造と機能を保全することが優先目標となるべきこと、が述べられ

ている。さらに第 1 原則では、生態系サービスに対する認識や評価は文化的・経済的・社

会的ニーズによって様々であり、先住民族や地域集落の住民は重要な利害関係者としてそ

の権利・利益が認識されなければならないという前提の下で、「管理目標は社会が選択すべ

き課題である」と述べている。 33 本資料第 5 節の海洋基本計画本文も参照。 34 こうした海洋保護区は、marine reserve、no-take zone、no-take marine protected area などと

呼ばれることもある。

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以上より、海洋保護区を議論する際には、1)海洋保護区があくまで目的実現のための

手段であり、設置そのものが目的ではないこと、2)海洋保護区設置の第一の目的は生物

多様性の確保とその持続的利用・その利益の公正かつ衡平な配分であり、そのためには生

態系の機能と構造の保全を通じた生態系サービスの維持が重要であること、3)望ましい

生態系の姿は社会的選択として決定されるべきこと、の 3 点に注意する必要がある35。

3.現在の海洋保護区に関する議論の問題点

現在の海洋保護区に関する議論には、以下の4つの問題点があると思われる。まず第一

点目は、海洋保護区の設定行為自体が目的化しており、何のための海洋保護区なのかが十

分に考慮されていないという点である。前節で生態系アプローチを参照して整理したよう

に、海洋保護区の設置目的の設定はすぐれて社会経済的な行為である。海洋保護区さえ設

置すれば全ての問題が解決するかのごとき議論の単純化は避けなければならない。

これに関連して、第2点目に、海洋保護区の執行(Enforcement)や、生態系変動への順

応的対応の仕方などが十分に議論されていないという問題である。特に、誰がどのように

海洋保護区の執行を担当するのか、政府が公的資金で行うのか、そのコストはどれくらい

なのか、あるいは地元の住民が一定の役割を担うのか、それで厳密な執行は担保できるの

か、などの論点は、特に日本を含むアジア太平洋海域において効果的な海洋保護区を設置

する上で重要な論点である(本資料第5節参照)。

第3点は、海洋保護区という管理手法の発想が陸上の保護区に起源することから、陸と

海との差異が十分に認識されていないという問題である。海域は陸上よりも地理的区分が

不明瞭であり、「よく定義された所有権」も技術的に設定しえない。海域生態系は 3 次元的

に連続でさまざまなスケールのサブシステムが多重に連成しているため(灘岡 2005)、ま

た、陸上よりも監視が困難であるため、効果的な執行には陸上よりも大きなコストが必要

となる可能性が高い。

後に、海洋保護区の効果についての議論である。海洋保護区の設置がもたらす便益と

しては、生態系の機能・構造・特異性が維持される、外的なかく乱に対するレジリアンス

(回復能力)が向上する、非消費的な利用の機会が増える、生息域が拡大する、生息域の

質が向上する、絶滅リスクが下がる、保護区内の生物多様性が向上する、等が指摘されて

いる。また、こうした効果が間接的に漁業全体に対しても収入増をもたらすことが期待さ

れている(Grafton et al. 2005)。しかし同時に、単純な数値目標に基づく海洋保護区設置が

本当に生態系保全に効果的かどうかについては、様々な議論が行われている。たとえば自

然科学的見地からは、対象の生物・生態的特性(底魚/浮魚、回遊性/定着性、底質・物理環

境の種類、シンク/ソース、卵・稚魚・仔魚・成魚・産卵親魚等の生活史との対応、等)に

35 第 1 節で紹介したディープエコロジーなどの自然保護倫理についても、社会的多様性を

構成する一つの考え方である。ある国や地域・地方が正当な手続きを経てこの考え方に基

づく目標を決定した場合には、当然その決定が尊重されなければならない。同様に、生態

系アプローチ第9原則にも謳われているように、生態系サービスの持続的利用と人間福利

の向上など、保全と利用の両立を目標においた施策の決定に対しても、自然保護倫理論者

はその決定を尊重すべきである。

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あわせた保護区の設計が重要であり、単に大規模な海洋保護区を設置するだけではほとん

ど効果がないという指摘は依然根強い。こうした見地から Hilborn et al. (2004) は、海洋保護

区以外の手法も含めた多様な手法の組合せの必要性を主張している。また社会科学的見地

からの批判として、たとえば Smith and Wilen (2003) は、資源経済学のモデル分析を行った

結果から、これまでの海洋保護区の理論は資源利用者の経済的インセンティブを無視した

「楽観的仮定」に基づく不自然な結果であって、実際には期待されたほどの効果は得られ

にくいであろうと指摘している。

なお、保護区の対象とすべき海域を選定する基準や手順については、2008 年 5 月の生物

多様性条約第 9 回締約国会議にて採択されている(CBD Decision IX/20 annex I, II)。

4.我が国の海洋基本計画における海洋保護区の考え方

日本国内における海洋保護区に関する法規としては、海洋基本法に基づいて 2008 年 3 月

に策定された海洋基本計画がある。そこでは「生物多様性の確保や水産資源の持続可能な

利用のための一つの手段として、生物多様性条約その他の国際約束を踏まえ、関係府省の

連携の下、我が国における海洋保護区の設定のあり方を明確化した上で、その設定を適切

に推進する」と規定されている。この文言の背景には、日本の海と人間の関係に関する以

下の4つの特徴があると考えられる。

第一は、日本社会における水産業の位置づけである。その特徴は、水産魚介類は日本国

民の 大の動物性たんぱく質源であり食料としての重要度が非常に高いこと、日本では多

様な漁具・漁法により国際的に見ても幅広い生物が食料として利用されていること、日本

の沿岸には多数の漁業集落及び零細漁民が存在していること、にまとめられる(Makino and

Matsuda printing)。こうした水産業の位置づけを反映した社会的選択として設定された海洋

保護区の目的が、本計画の文言における「生物多様性の確保や水産資源の持続的な利用」

を可能にすることであると理解できる。

第2は、日本の制度的特徴である。まず、我が国の漁業制度は、行政による公的管理に

加え、地域の資源利用者自身による自主的管理の実施が制度的に期待されており、現場で

は幅広い自主的管理施策が実施されている(Makino and Matsuda 2005)。なお、その管理対

象は有用生物資源の保全に主眼がおかれることが多いが、一部では生態系全体の保全を目

指した魚付林の維持や陸上からの流入水の水質改善、藻場・干潟の保全・回復などの活動

も長年にわたり実施されている。一方、自然公園法、自然環境保全法、種の保存法等を根

拠とする海の環境行政においても、実務段階においては漁業との両立が志向されている。

たとえば UNESCO の知床世界自然遺産では、海域生態系保全のための管理計画において、

海域生態系の保全と持続的な水産資源利用による安定的漁業の両立が目的として明記され、

また地元漁業者による自主的管理活動が生態系保全施策の一部として正式に位置づけらて

いる(Makino et al. 2009)。海洋基本計画では、このような日本の制度的特徴を反映した形

で海洋保護区の目的が設定されており、また、様々な海域生態系保全施策の中の「一つの

手段として」海洋保護区が位置づけられていると理解できる。

第3は、日本の海と地域住民の関係の歴史である。そもそも地球では、豊かな生態系サ

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ービスの近傍に自然に人間がい集し、集落が形成され、国家が形成され、文明が発達して

きたと考えられる。世界有数の海域生態系サービスに恵まれている日本においては、生物

生産力が大きい海域には古くから集落が形成され、海の生産力に頼った生活が営まれてき

たであろう。そのような海域では、長い時間を経て人間が海域生態系に組み込まれており、

真に生態系の一部を占めているのである。再び知床世界自然遺産の例を引けば、知床沿岸

の海域生態系を構成する種の多く、鍵種のほとんどは、漁業により長年にわたって利用さ

れてきた(図1)。つまり、現在の生態系を前提にすれば、多様な水産資源を持続的に利用

するということと、生態系の保全はほとんど一致している36。換言すれば、持続可能で多様

な漁業が存在することが、海域生態系全体の健全性を示す指標であり、また、持続可能な

漁業が上位捕食者としての鍵種であるとも言える(Makino and Matsuda printing)。この点は、

いわゆる新大陸における未踏のフロンティアに開発された国家と日本の海域生態系の「歴

史的及び文化的特徴」の本質的な違いであり、国際的議論の場では十分に認識し主張され

るべき特徴である。

図 1 知床世界自然遺産海域における食物網(知床世界自然遺産地域多利用型

統合的海域管理計画より。図中の P はプランクトンの略)

後に、日本の漁業政策と環境政策のギャップについて言及する必要がある。日本でも、

人の手つかずのフロンティアや、絶滅危惧種、脆弱海域等については、漁業管理とは別の

視点から、環境政策による補完が必要である(牧野・松田 2006)。このギャップの同定には、

当該生態系サービスの利用に係る多様な利害関係者の参画が必要である。これまでの日本

36 ただし、日本あるいは知床地域の社会的選択として、人間の介入が存在する前の自然生

態系(Wilderness)に戻すことが決定されるのであれば、この論理は成立しない。

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の海洋関連行政では、いわゆる伝統的な「縦割り行政」の弊害が大きく、セクターや所管

を越えた多様な利害関係者が参画して包括的な対応を実施する体制が著しく弱い。これま

でも日本各地に点在する先進的な海域生態系保全の事例では、自生的な制度としてのセク

ター間調整組織が設立されていることが多いが、今後は海洋基本計画の実施により、セク

ター別の切り貼りアプローチを超えた包括的な仕組みの模索が期待される。

5.日本における海洋保護区とアジア太平洋

我が国では海洋保護区の議論は未だ十分に行われていない。特に漁業関係者には、海洋

保護区=禁漁区という誤解から生じる拒否反応が根強い。しかし、第2節及び前節で整理

したように、日本は日本の社会的・生態的特徴を踏まえつつ、国際的な海洋保護区の理論

に基づいて目的・手法等の再整理を行う必要がある。例えば既存の仕組みとしては、水産

資源保護法に基づく保護水面や、自然公園法に基づく海中公園地区制度、漁業法及び水産

資源保護法に基づく沖合底びき網漁業の禁漁区(通称、沖底禁止ライン)の他、水産業協

同組合法・海洋水産資源開発促進法に基づく規定・協定、その他の自主的管理における空

間的管理措置などが海洋保護区に相当すると考えられるのではないだろうか。

こうした考え方に基づいて、現在の日本の海洋保護区の暫定的整理を試みた結果が表 2

である。法に基づく、いわば「法的海洋保護区」は少なくとも 6 種類存在する。さらに、

たとえば特定資源の保護や、アマモ再生、珊瑚礁保護、磯焼け対策など、各海域の個別問

題に対応した自主的な活動として空間的管理措置を行う「自主的海洋保護区」が多数存在

する。

表 2 日本における海洋保護区(面積等の情報は環境省による)

名称 根拠 主な目的 規制内容 状況

底びき禁止ライ

漁業法、水産資源

保護法

ゾーニングによ

る沿岸漁業との

紛争回避

底びき網漁業の

操業

おおよそ沿岸か

ら 3 海里の範囲

保護水面 水産資源保護法 水 産 資 源 の 産

卵・生育、種苗

発生等の保護培

指定動植物の採

捕や指定漁具・

漁船の使用等

約 2,950ha

自然環境保全地

域の海中特別地

自然環境保全法 自然環境が優れ

た状態を維持し

ている区域を保

工作物の新改増

築・採掘・土砂

採取・埋立・干

拓、指定動植物

の捕獲の規制等

128ha

国立公園・国定

公園の海中公園

自然公園法 我が国の風景を

代表するに足る

工作物の新改増

築・採掘・土砂

約 170 万 ha

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地区・普通地域 傑出した風景等

の保護・利用促

採取・埋立・干

拓、指定動植物

の捕獲等

鳥獣保護区の特

別保護区

鳥獣の保護及び

狩猟の適正化に

関する法律

鳥獣またはその

生息地の保護

工作物の新改増

築、埋立・干拓、

指定期間におけ

る動植物の採捕

20,750ha

自然海浜保全地

瀬戸内海環境保

全特別措置法

自然の状態が維

持され、将来に

わたり公衆に利

用されるべきも

のの保護

工作物の新改増

築・採掘・土砂

採取・埋立・干

拓、等

91 地区

自主的海洋保護

自主的取り決め、

協定等

個別問題の解決 個別問題にあわ

せた禁漁区・禁

漁期の設定等

特に「自主的海洋保護区」には、以下のような長所がある。第一は海洋保護区に必要な

情報である。日本では、海洋保護区の設置場所や広さの検討、期待される効果の予想など

を行う際、科学的知見とともに地元資源利用者の有する経験的・伝統的知識を活用する場

合が多い。これは生態系アプローチの第 11 原則にも合致する手法である。

長所の 2 つめは、モニタリング費用の安さである。生態系は本質的に変動するものであ

り、海洋保護区を設定した場合はその後のモニタリングと、その結果に基づく施策への順

応的フィードバックが重要である。日本型海洋保護区では地域漁民・住民が主体になった

モニタリングが行われ、行政費用を大幅に削減できる可能性がある。また、諸関係者との

調整のうえでの合意形成を重視するため、保護区設置後は地元関係者による相互監視(と

も監視)が効き、少ない行政コストで高い遵守率が期待できる。知床世界自然遺産では、

地元漁業者の有する情報で足りない部分を補うかたちで環境政策を実施することにより、

生態系保全に必要な行政支出は漁業生産の1%以下にまで抑えられている(Makino et al.

2009)。

一方で、表 2 に暫定的に整理した日本の海洋保護区が国際的に認知され、正当に評価さ

れるためには、主に以下の二つの課題があると考える。第一は、利害調整型意思決定過程

の限界である。関係者の合意形成に由来する施策執行の効率性と、目的が本当に達成でき

るのかどうかという施策内容の十分性とは分けて議論する必要がある。一般に、利害調整

的な意思決定では抜本的な取り組みは合意されにくい。よって、生物多様性確保や生態系

サービス保全の効果を科学的に検証し、漸次的であっても常に改善を続けることが必要で

ある。

短所の第 2 番目として、自主管理ベースでは執行の公的担保が弱いという点が指摘され

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るべきである。もし関係者の一部が自主管理を一方的に破棄して無秩序な行動をとった場

合、自主管理はその行動を強力に規制する能力を持たない。こうした事態を避けるために

は、集落(コミュニティー)能力の維持とともに、漁業制度における委員会指示の知事に

よる裏付命令制度や資源利用協定における認定協定制度のように、公的規制との連動過程

が有効である。また、万が一関係者の全員がモラルハザードをおこして目的達成を放棄し

た場合、自主的管理は公的管理よりも環境を破壊する恐れが高い。よって、漁業を含めた

生態系サービス利用者に対しては、持続的な利用に関する説明責任が明確化されるべきで

ある。この説明責任には、社会的価値判断に加えて科学的根拠が必要であり、後者を自主

的管理において如何に担保するかも実際的な問題である。

なお、第 4 節で整理した、日本の水産業の社会的位置づけ及び海と地域住民の歴史は、

アジア太平洋海域の国々と多くの共通点を有している。よって、日本型の海洋保護区は、

アジア太平洋諸国においても一定程度の効果を持ちうることが期待される。この海域の多

くの国々では、水産物の食料安全保障上の位置づけや、水産業の雇用創出源としての重要

性が高く、また利用対象資源の多様性も大きい。沿岸に膨大な数の人が住んでいる一方で、

政府の環境政策に関する財政能力・強制能力は一般に低い。また、藻場や干潟は日本やア

ジア各国では急速に減少し、生態系の劣化が懸念されている。地元の資源利用者・住民と

公的機関の役割分担に基づいて生態系保全を実施し、そのための様々な手法の一つとして

海洋保護区を位置づけることが有効であろう。

6.海洋保護区とモニタリングの重要性

海洋保護区に関する議論やその設置を行う際には、主に以下の諸理由により、海洋生態

系の継続的モニタリングが重要な役割を果たしている。

まず、生態系の構造と機能、及びその変動を把握する上で、過去 100 年以上にもわたる

公的モニタリングで蓄積された情報は貴重な歴史的財産である(桜井 2004)。日本のよう

に沿岸漁業が長年にわたり盛んに行われている国の場合は、知床の事例が示すように、漁

業情報を通じたモニタリングも大きな役割を果たす。しかし漁業は有用魚種・個体を選択

的に産業として採捕する商業活動であり、漁業のみによる生態系全体のモニタリングは不

可能である。たとえば単位努力量あたり漁獲量(CPUE)に基づいた資源量推定は一般的に

行われる簡易手法である。しかしながら、ごく沿岸の生態系を対象とする定置網を除けば、

漁業は動力機関を用いて魚影を追いかける商売である。よって CPUE には資源変化の時期

及び程度に関するバイアスがかかるため、漁業から独立した公的モニタリングによる補正

が必要である。また、海洋物理・化学的側面や気象情報など、環境基礎情報把握について

は、公的モニタリング機関のはたす役割が大きい。

禁漁区など、人間の影響を排除した海域については、海域内での生態系変化や、近隣海

域へ及ぼす効果についてのモニタリング及び違法操業の監視が重要である。そのコストを

行政が負担することが困難な場合には、地元資源利用者による適切な役割分担が実施され

るような制度的枠組み(社会的名誉・責任、法的義務、経済的インセンティブなど)が必

要となろう。

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海洋保護区の広域ネットワークの設立を検討・検証する際には、漁業が所有する「海況」

レベルの情報では十分ではない。また、海は陸起源の物質が流れつく空間であり、1970 年

代に日本各地で頻発した海洋汚染に代表されるように、陸上活動の影響を受けやすい。特

に沿岸生態系は、陸上生態系起源の栄養塩や有機物など他生的物質流入に依存して成立し

ており(向井ほか 2002)、沿岸域という空間のみを対象とした施策では十分な効果が期待で

きない。さらに、海域を空間的に構成する水は陸・沿岸・沖合という区分を超えて移動す

る。よって、陸・沿岸・沖合の相互作用も含めた統合的システムとしての広域的モニタリ

ング体制が求められており、いわばモニタリングのネットワークの確立が重要である。

後に、生物多様性の観点から も重要な施策の一つである絶滅危惧種の保護やそのハ

ビタットの保全については、行政が責任を持って施策を実施する必要がある。

7.今後の方向性と研究課題

以上本稿では、海洋保護区を巡る議論の背景、定義と目的、現在の問題点を整理し、日

本における海洋保護区の考え方とその長所・短所、アジア太平洋海域における可能性、そ

してモニタリングの重要性を述べた。

今後の海洋保護区を巡る国際的な議論の方向性として重要度が高まると思われる論点を

2つ指摘したい。第一は、持続可能な食料生産や、海運・観光、エネルギー開発など、人

と海との多様な関わりを含めた海域生態系保全のツールとしての海洋保護区という概念で

ある。いわば、セクター間海域利用調整を促進するための海洋保護区の役割である。第2

は、公海における環境保全、特に公海の漁業資源・海底資源・遺伝資源と海洋保護区の関

係である。

海洋保護区に関して現在もっとも必要とされる科学的知見は、まず第1に、モニタリン

グ結果に基づく順応的管理の理論の確立である。生物多様性を確保し、また生態系の構造

と機能を保全し生態系サービスを維持していくという目的に照らしたとき、モニタリング

結果にどのような変化が出たらどのように対応するのか、を科学的に考察し、事前に関係

者で合意しておく必要がある。第 2 は、冷水域と温水域、熱帯域の海域生態系の違いが、

保全施策にどのような差異を示唆するのかを理論的に明らかにする必要がある。この作業

は、今後の海洋保護区に関する国際的な論議の中で、既存の欧米主導の海洋保護区の理論

に対して、日本型の海洋保護区やアジア太平洋型の海洋保護区を相対化していく上で、必

須の作業である。 後に、日本では海洋生態系保全を行う主体が地域の漁民・住民である

ことに鑑みれば、海洋科学の成果は漁業者・地域住民・行政に分かりやすい形で発表され

るべきである。

8.引用文献

Ballantine WJ (2002) MPA Perspective: MPAs improve general management, while marine reserves

ensure conservation. MPA News 4(1): 5.

Callicot JB (1991) Conservation ethics and fishery management. Fisheries, 16: 22-28.

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Grafton RQ, Kompas T, Schneider V (2005) The bioeconomics of marine reserves: selected review

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3.1.7)文献「使用権と責任ある漁業」について

FAO のテクニカル・ペーパー No.424「漁業管理ガイドブック.管理手法とその適用.」

の第 6 章にあたる Charles の論文は、ともすると欧米型資源管理理念の発想のみに基づいて

行われやすい漁業管理の議論を相対化し、世界的かつ総合的な視点からの議論を行ってい

る。歴史的に漁業権を基礎としてきた我が国の資源・漁業管理に有用な示唆を与えると考

えられるので、要点を紹介する。

表題:使用権と責任ある漁業:権利ベースの管理による参入と漁獲の制限

著者:Anthony T. Charles(セント・メリーズ大学教授、現国際漁業経済学会(IIFET)会長)

1.使用権とは何か?

漁業における使用権とは、漁業者あるいは漁業のコミュニティーが、水産資源を利用す

る権利のことである。例えば、資源管理で言う入口管理は、漁業管理での参入権というよ

うに捉え直すことができる。同様に、漁具数の上限という(ネガティブな)制限は、漁業

者、漁業者のグループまたはコミュニティーが、ある数の漁具を使える(ポジティブな)

権利と見なせる。

当然ながら、権利には義務が伴う。責任ある漁業を行うためには、効果的で漁業者に受

け入れられる、権利と責任のセットが必要である。

使用権のオプションは様々だが、大きく二つのカテゴリーに分けることができる。

(a)参入権(access rights):漁業に参入する、または特定の漁場に入ることを認める。

(b)漁獲権(withdrawal rights):典型的には一定の漁獲努力(操業時間、使用漁具等)

や特定の漁獲量を認める。

これらの権利は、個人、コミュニティー、地方、漁業種類によるセクターといった様々

な階層で考えられる。通常は個人の権利が主に議論の対象になるが、資源・漁業の管理に

おいてはコミュニティーの権利も重要である。

2.なぜ使用権は漁業管理に必要なのか?

使用権によって、漁業者に漁場、操業、漁獲量に対する権利の保障を与えられるととも

に、権利を持つ者が誰なのかを明確にすることになり、管理がしやすくなる。

明確に定義された権利による漁業は、オープンアクセスな漁業と対極をなす。理論的に

も経験上も、オープンアクセスは過剰な漁獲を招きやすいと言える。なお、オープンアク

セスという言葉は、漁獲の上限は決められていても、他には何の規制もない状況を指す場

合があることに注意すべきである。これは過剰投資を招くため、資源状態は良くても、経

済的に良くない状況に陥る危険性がある。オープンアクセスの欠点を補うため、参入権を

制限することが有効な手段だと考えられている。これまで使用権は世界各地で非公式・伝

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統的に存在することが多かったが、近年は政府が直接管理する場合でも、使用権を設定す

る事例が増えてきている。

使用権は、オープンアクセス問題の解決だけではなく、管理によって誰が影響を受ける

かを明らかにすることに利点がある。

・当事者を特定して管理するという、難しい仕事を無くす(軽減する)。

・使用権が明確であれば、操業計画を立てたり、資源管理をしつつ利益の 大化を図っ

たり、変化する状況に適応しやすい。漁業種間の対立を軽減し得る。

・資源管理方策を導入しやすい(資源管理に有効な漁具や操業形態の普及)。

・長期的な管理目標が、漁業者の利益と一致する。

3.使用権は漁業の他の権利とどのように関係するか?

政府のような単一の管理者のみによる管理は、数多くの漁業に対応しきれるものではな

く、うまく行かない場合が多い。漁業者の協力(少なくとも合意)や自主管理が必要であ

る。権利という視点からは、管理権、つまり漁業管理に参加する権利を考えなければなら

ない。政府は管理権を有するが、コミュニティー、NGO や国民一般がどの程度の管理権を

持つべきかは議論のあるところである。

漁期、漁具数、網目サイズといったレベルの管理は、漁業者が主体的に行うべきで、生

態系保全に関することを除いて、一般的な感心も低い。一方、管理目標や政策決定といっ

た戦略的な管理は、公共利益の問題であり、国民一般や漁業コミュニティーが当事者とな

る。

管理権は 3 種類ある「集団的選択」権のひとつである。他の二つは、排他権(使用権を

特定者に与える)と譲渡権(権利の譲渡・売買を認める)である。使用権は原則的に漁業

者(ユーザー)だけが持つのに対して、「集団的選択」権は、ユーザーでなくても持つこと

が可能である。

さらに、使用権を持つ漁業者は、漁業に参入する権利を持つのであって、実際に漁獲す

るまでは、魚を所有しているのではないということに注意すべきである。使用権は資源そ

のものの所有を意味しない。

4.使用権にはどんな種類があるか?

参入権と漁獲権には、さまざまなオプションがある。これらは多くの場合、入口管理、

出口管理に対応している。また、どのような使用権を適用しても、以下のような政策問題

が生じる。

・使用権は、個人も集団も持ち得る。

・使用権をどのように、初期及び長期において設定するかは、市場原理、戦略的プラン、

他の政策によっても決まり得る。

・使用権を具体化するためには、どの個人やグループが権利を持つのか、どのように初

期設定するのか、期間をどれくらいの長さにすのか、譲渡可能かどうかを決めなけれ

ばならない。

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4.1 漁場の使用権

主要な管理手法の多くは、漁場に関係していて、二つのタイプに分けられる。ひとつは、

禁漁区の設定で、全船に同じ影響を与える。もうひとつは、個人やグループ各々に特定の

場所で漁業を行う権利を与える、権利ベースの方法で、伝統にもとづくものが多い。

伝統的な海域保有制度(CMT)や地域漁業権(TURFs)を含む権利ベースの方法は、世

界中のいたるところで行われていて、地域社会に支えられて比較的安定した管理となる可

能性を持っている。TURFs の例としては、象牙海岸のラグーンでの漁業、西アフリカ沿岸

の地びき網、韓国や日本の採貝、スリランカでの外部の人に対する管理などが挙げられる。

特によく知られた二つの例は、日本の沿岸漁業で伝統的な制度が、現代的な資源管理に組

み込まれていることと、北米北東沿岸のロブスター漁業で、漁業者が参入権について超法

規的な管理を維持していることである。TURFs は長い歴史を持っていて、カナダの大西洋

域に住む先住民や、チリの伝統的漁業における、漁場利用決定の社会的プロセスの例があ

る。

このようなシステムは、現在でも、そして他の漁業についても有効である可能性を持っ

ているが、いまだ十分にその有効制が認識されていない。あらゆる状況に適応できる訳で

はないが、割り振りを行うためのコストがかかる他は、比較的簡単に具体化でき、現行の

制度の枠組みの中で運用が可能である。権利ベースの方法は、漁業コミュニティー自体、

あるいはそのリーダーによって管理されるときに も効果的な方法だから、他の手法とよ

く比較検討することが重要である。

なおCMTやTURFsは長年すたれてきたが、今や維持や再建へと転換しようとしている。

4.2 参入制限

参入制限は政府が限られた数のライセンスを出す、普通に行われる方法である。これが、

使用権を生み出す。参入制限は、漁獲の潜在能力を管理する目的で、新たな漁船や漁業者

の参入を防ぎ、うまく行けば、資源の維持と使用権保有者の収入を増加させることにつな

がる。使用権を持つ人に支持され、持たない人の反対に合うのは、驚くにあたらない。

参入制限には、アラスカやコスタリカの太平洋岸など、さまざまなタイプの漁業で成功

例がある。

参入制限は、新規参入を制限するだけで、現状の管理には関係しない。能力拡大競争を

防ぐことはできないので、以下に述べる漁獲努力や漁獲量の権利などと組合せる必要があ

る(management portfolio のひとつ)。総合的な管理の目的のひとつは、過剰な漁獲能力にな

らないようにする、あるいは削減することである。

参入制限が成功する可能性を高めるためには、漁獲能力が過剰になる前に導入すること

が肝心である。一旦過剰になったライセンスを減らすのは難しい。

4.3 漁獲努力に関する権利

漁獲能力が資源の生産力に対して過剰になることがあるから、漁獲努力の制限が必要で

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ある。参入制限に加えて、操業時間、漁船規模、漁具数、漁具特性など、漁獲努力に関す

る権利を具体的に定める方法がある。1 日に出漁できる漁船数のように、総量として決める

こともできるし、1 隻当たりの操業時間や漁具数のように、個別に指定することもできる。

ロブスターやカニ漁業の漁具数などが典型例である。各漁業者に均等に配分してもよい

し、異なる努力量を指定することもできる。

漁獲努力に関する権利の問題は、漁業者が他の改良によって漁獲効率を上げることによ

り、実質的な努力量が過剰にならないようにすることが必要である。効率が上がった分、

漁具の数を減らすなどの調整を行えば、資源の管理が行えるとともに、コスト削減にもつ

ながるのだから、漁業者が自主的な調整を行うことが期待される。

権利の定義に注意し、適切な権利の組合せ(portfolio)が確立されるならば、漁獲努力に

関する権利ベースの管理は有効である。

4.4 漁獲クォータ

TAC は資源管理方策ではあるが、漁獲する権利については何も言っていないので、使用

権ではない。しかし、TAC がクォータとして漁業セクター(漁業者、コミュニティー)に

割り当てられると、一定の量を漁獲する権利になる。これには、いくつかの場合がある。

・漁業セクターが総量として保有する。個々の漁業者あるいは漁業種類への配分はセク

ター内の制度によって行われる。

・権利はコミュニティーにも与え得る(community quotas)。コミュニティーの状況や価

値観に応じて配分される。

・漁獲量の上限は、出漁当たりの漁獲量として個々の漁業者に配分することもできる(trip

limits)。出漁数も定めることで、全体の TAC を超えないようにできる。

・個々の漁業者に年間の値として漁獲する権利を配分することもできる(IQs)。譲渡可

能な場合(ITQs)と不可能な場合(INTQs)がある。

漁獲努力に関する権利があまり研究者に注目されないのとは対照的に、IQ はニュージー

ランド、アイスランド、オーストラリア、カナダ、アメリカの事例について、漁業経済学

者が熱心に論じている。財政や人員的な理由によって、発展途上国における IQ の事例は少

なく、ナミビア(INTQs)、チリ(ITQs)、ペルー、南アフリカにおける大規模漁業の例があ

る程度である。

漁期において漁獲する権利が確かなものなら、漁業者は、先取り競争をせずに、市場に

合った水揚げをする操業計画をたてられる。参入制限と漁獲努力配分では起こり得た、過

剰装備へのインセンティブは低くなり、個々の漁獲が低コストで行われる。Trip limits も同

様な効果を生むが、出漁ごとの計画ではなく年間計画を立てられることから、IQ の方が効

果が大きい。IQ のこのような効果は以下につながると言われる。(1)船団数、漁業者数と

いった漁業インプットの減少。(2)漁業レントの増加。(3)魚価の向上。これを支持する

具体例があるが、利益の程度に関する疑問の声もある。

個人の漁獲する権利は、資源管理と社会的な問題に関係するが、資源管理については、

以下のような議論がある。

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・漁獲量の過小申告問題。

・ハイグレーディング問題。

・譲渡可能な権利を購入する費用がかさむことで、TAC を増加させようとする圧力が高

まる。

この他に、漁獲努力に関する権利と同様に、関係データ収集とモニタリングが必要であ

るという問題がある。全体のシステムは TAC に依存しており、TAC の設定にはたいてい多

くの科学的知見を必要とする。

5.どうやって使用権を現実のものにするか?

使用権を現実のものとするにあたって、三つの鍵になる質問がある。

・使用権はすでに存在するか?(5.1)

・存在しないなら、どんなオプションが対象となる漁業に 適なのか(5.2)

・どんな政策によって、望まれるオプションを実行しようとするのか(5.3)

5.1 使用権はすでにあるか?

長い歴史のある漁業では、伝統的に形作られてきた使用権がすでに存在するかどうかを

理解することが重要である。存在するならば、それがどれくらい有効に機能しているかを

調べ、それを強化する機構があるかどうかを判断する必要がある。現存のシステムが持続

的でない場合にかぎり、全く新しい権利システムの導入を考えるべきであろう。

5.2 使用権のベストな組合せは?

権利システムが存在しないか、持続的でない場合は、新たなシステムとして、どのよう

な権利のオプションが必要かを判断しなければならない。検討するにあたって重要な要素

がある。

・漁業に関する、生物的、経済的、社会的な多様性からみて、どこにでも適用できるア

プローチというものは存在しない。

・それぞれのオプションは、利点と限界を持ち、対象とする漁業によって異なる。どれ

が 良かは、対象とする漁業による。

・上記から、単一の権利では不十分で、受入やすく、漁業が行いやすく、 も利益をも

たらす権利の組合せ(portfolio)が必要である。

単一の権利ではなく、 良な組合せを考えるために、漁業の特性を知ることが大切であ

る。

・漁業の社会的な目的。

・権利に関係する漁業の構造、歴史、伝統。

・権利に関係する社会的、文化的、経済的環境。

・資源や生態系の特徴。

どのような場合に、どのような権利の組合せがよいか、ということについて、結論はな

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いが、いくつかの対応方針があげられる。

・定着性生物の資源管理には、漁場に関する権利(TURFs)がなじみやすい。

・資源量推定の信頼性が低い場合や、漁獲モニタリングのコストが大き過ぎる場合は、

漁獲量に関する権利(harvest rights)よりも努力量に関する権利(effort rights)による

アプローチがよいだろう。

・多国間で TAC を配分するような、高度回遊性の資源については、漁獲量に関する権利

に焦点が当てられる。漁獲技術が均一な漁業については、努力量に関する権利が、多

様な漁業種類を管理する場合は、漁獲量に関する権利がより有効であろう。

5.3 基礎となる政策の枠組みは?

既存の権利システムを改善するにせよ、新しいシステムを作るにせよ、政策の問題が現

れる。権利は論点が多い繊細な問題であり、一旦、決めてしまうと大きな変更は難しいの

で、明確な政策があれば、権利の具体化は行いやすくなる。

5.3.1 市場原理か戦略的プランか?

権利に関する議論の鍵となるのが、市場原理によるのか、多目的なプラン(ふつう、コ

ミュニティーレベルのプラン)によるのかという問題である。市場原理による場合は、ITQ

によって示されるように、誰が漁業を行い、誰が漁獲可能量の配分を受けるのかは、権利

の売買を通じて市場が決めることになる。より経済効率の高い者が、低い者から権利を買

い取り、あるいは(多くの発展途上国では)産業資本に近い者が買い手となる。また、市

場ベースの権利システムは、たいてい個々の漁業者について議論されるが、集団的(会社

やコミュニティー)な売り手・買い手であってもかまわない。しかし、売買の結果として

の権利は、買い手が個人か会社かコミュニティーかによって違ってくる。

市場ベースの権利システムは、全体として市場が持つのと同じ利点・欠点を持つことに

なるだろう。市場は、漁業者間の権利譲渡を も経済効率よく行うかもしれないし、そう

ではないかもしれない。漁業操業のフレキシビリティを増すかもしれないし、増さないか

もしれない。市場は経済的に馴染みのあるものなので、比較的簡単に権利システムを具体

化し易いかもしれない。

対照的に、戦略的プランによるアプローチは、一方では、(a)多面的な社会的目標によ

り、(b)コミュニティー、地方、国といった適切な範囲で、(c)法律や政府決定による権利

も含む、意思決定プロセスによって、一方では、伝統的・非公式的に、権利を割り当てる。

権利は個人レベルのこともあるし、集団レベルのこともある。

5.3.2 個人の権利かコミュニティーの権利か?

漁業者個人レベルの権利と集団レベルの権利の違いは重要な点である。ある漁業では、

管理者が個人レベルまで権利を割り当て、ある漁業では、沿岸コミュニティーや漁業者団

体に割り当てて、その集団内で個人レベルまで割り当てが行われる、ということが考えら

れる。

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個人の権利か集団の権利かは、歴史的な面と漁業がめざす目的の両面から考えるべきで

ある。対象が、 近発展した漁業で、産業面が主であれば、個人レベルの権利に向かうの

が自然である。伝統的な漁業では、集団の権利が重要である。

集団的な権利がどこでもうまく働くとは限らず、その条件は明らかではないが、コミュ

ニティー内の結びつきの強さ、地域的な管理の経験・能力、コミュニティーの地理的な独

立性や大きさに関係するらしい。集団的な権利が有効なコミュニティーでは、資源管理と

効率的な管理へのインセンティブが働く。

5.3.3 権利の期間をどれくらいの長さにするか?

管理のフレキシビリティと資源管理へのインセンティブのバランスの問題である。期間

を短くすれば、社会状況の変化等に応じて権利を設定し直すことができるし、長くすれば、

漁業者に長期展望を与えることになり、資源管理へのインセンティブが高まる。ある漁業

を行うために資本投入が必要であり、それを行おうとする企業が少数であるなら、期間を

長くしてよいだろうし、伝統的な漁業の状況を改善するのが目的なら、長い期間設定は目

的の達成を阻害するだろう。

このようなトレードオフ問題に一般解はないけれど、長い期間設定についても、目的を

持って権利譲渡を認めるなど、フレキシビリティを増す方法がある。

多くの(小型・伝統的)漁業については、無期限の権利が与えられる。管理のフレキシ

ビリティや再編の必要がないなら、妥当であろうし、ある期間について参入を制限すると

いう考え方ではなくなる。

使用権の明確な期限は、産業的な漁業にふつうで、外国漁船に漁獲を許可する場合も含

まれる。

5.3.4 誰が使用権を持つべきか?

政策レベルの問題。2つの論点がある。

・ 初に、誰が権利を持つべきか。それに伴って、権利をどのように割り当てるか。

・未来において、誰が権利を持つべきか。譲渡を認めるべきか。

5.3.5 使用権の初期設定をどうするか?

新しく権利を設定する、あるいは既存の権利を調整するには、どのように権利を割り当

てるのか決めなければならない。なるべく対立を少なくする方法を探ることになる。以下

のような、割り当て方法が挙げられる。

・オークション(Auction):経済効率を 大にするためには、オークションを行うこと

が望まれる。社会的、伝統的な要素を考えなくてもよい、純粋に産業的な漁業には向

いている。

・実績(Catch History):現実的に行われる方法だが、どのように決めれば 善なのかわ

かりにくい。IQ を例にとると、 近の漁獲のみが考慮されるとすると、漁獲を行っ

ていない者は不利だが、もしも、過剰漁獲により資源が悪化していれば、過剰漁獲に

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も責任のない者が、 も少ない割り当てしか受けられないことになる。等

・実績+公平性(History + Equity):ある部分は実績で、ある部分は均等に配分するとい

う折衷案が考えられる。

・委員会(Allocation Panel / Board):政策として富裕層ではない人に漁業への参入を許可

しようとする場合、特定のグループやコミュニティーに権利を与えるための、特別な

組織が必要になる。

・集団的な割り当て(Community / Sector / Group Allocations):オークションは個人(企

業)に、実績は個人レベル、集団レベル両方に向いており、委員会形式は、集団への

割り当てに適している。まず、集団に割り当てて、集団内で個人に割り当てるという

方法が考えられる。

5.3.6 譲渡可能にすべきか?

権利が割り当てられると、あとは譲渡可能にすべきかどうか、という問題が残る。この

問題は、市場原理か戦略的プランかという問題とも密接に関係している。いくつかのアプ

ローチがある。

・譲渡不可能(completely non-transferable)。権利は保持者のみが行使できて、その者が

漁業を離れれば無効になる。

・分割しない譲渡(non-divisible transfer)は漁業者間で認める。

・分割して譲渡(divisible transfer)可能。

・譲渡は漁業セクターあるいはコミュニティーの内部のみで認める。漁業セクター、コ

ミュニティーの安定を図る。

・異なる階層がある権利について、ある部分を譲渡可能にし、ある部分を不可能にする

折衷案。フルタイムの漁業は譲渡可能で、パートタイムは不可能等。

譲渡は一次的なものと、恒久的なものがあり、恒久的なものは長期的に大きな影響を及ぼ

す。

効率性(Efficiency)。譲渡可能性は、ふつう、経済効率を上げるために導入される。ITQ

のような、市場ベースのシステムでは、与えられたクォータからより多くの利益を上げる

船主が、他の船主からクォータを買い取ることで、効率的な船主が漁業に残るという考え

にもとづいている。しかし、譲渡可能性が必ずしも効率を上げるとは限らないことに注意

すべきである。例えば、その漁業に対する支配力を得ようとして戦略的に買う場合、寡占

化は進むが、効率性に与える影響は不明である。

持っているものから 大の利益を上げるという効率性が望ましいとしても、政策目的に

照らして検証されるべきである。個々の船主だけではなく、全ての利害関係者を、漁獲か

ら得られる金銭的な利益だけではなく、金銭的ではない利益も考慮に入れるべきである。

それぞれの状況によるが、乗組員や陸上労働者、沿岸域の経済やコミュニティーの利益が、

これに含まれる。無視されることが多いが、権利の譲渡可能性を考えるうえで、考慮に入

れるべきことである。

効率性は漁業全体及び沿岸経済を広く見て考えるべきであるだけではなく、長期的な資

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源管理の問題としてとらえるべきである。例えば、地域から外に権利が譲渡されれば、伝

統的に培われた管理の知恵が減ることを意味し、資源管理に負の影響を与える恐れがある。

また、効率的な漁業とは、漁獲した魚から 大の利益を上げることであって、大量の魚を

速く低コストに海から引き上げることではない。譲渡可能な権利を売買することが、広い

視野から見た効率性を反映すると期待する理由はない。

流動性(Fisher Mobility):譲渡可能性は、権利を売って得られる利益が漁業を続けるこ

とで期待される利益を上回ったときに、漁業から離れることを可能にし、個々の漁業者の

流動性を高める。しかし、使用権を地域コミュニティーにとどめる制限がなければ、この

流動性は、漁業コミュニティーの安定性を低めることになる。逆に、譲渡不可能な権利は、

コミュニティーの安定性を高め、流動性を低くし、漁獲能力の削減を難しくする。実際の

利益追求とともに、あとで譲渡可能の決定がなされた場合のタナボタを期待して、譲渡不

可能な権利を持ち続けようというインセンティブが働く。これによって、漁船が老朽化し

ても使い続けられることになり、安全性の問題も生じる。

社会的一体性(Social Cohesion):譲渡可能性は社会福祉に大きな影響を与えうる。まず、

権利の譲渡は乗組員の仕事を奪う。次に、社会の一体性を損なう。影響は、コミュニティ

ー外に譲渡されるときに顕著である。譲渡不可能な権利はコミュニティーの安定に貢献し

得るが、譲渡可能へ変更するようプレッシャーがかかる可能性があることに留意すべきで

ある。

権利の集中(Concentration of rights):譲渡可能性は権利の集中を招く。利害関係者を減

らすのが目的であれば、有効な方法である。一方、権利の集中は、以下に負の影響を与え

るという、社会経済的な問題をはらんでいる。

・漁業者の伝統的な組織協定

・乗組員の雇用

・沿岸域経済の全体的な価値

・漁業コミュニティーの安定性

権利の集中を防ぐためには、権利を譲渡不可能にするか、個人・企業が保有できる権利

の上限を定めることや、船主=経営者条件(船主のみが経営者になれる)をつけることが

考えられる。しかし、抜け道もあって、権利の集中が望ましくないと考えるのであれば、

注意が必要である。

6.まとめ、7.文献(省略)

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3.2 資源管理及び漁業管理に関わる国民の意向について(アンケート調査)

1.調査概要

調査目的:「我が国における総合的な水産資源・漁業の管理方策のあり方」の検討に関連

し、水産業の社会的・国土形成論的位置づけに関する国民の意識を把握するこ

とを目的として実施する。

調査実施時期:2009 年 1 月 23 日 ~ 2009 年 1 月 26 日

調査実施方法:

ヤフー・バリュー・インサイトパネルを利用したインターネット調査(パソコン)

調査対象:

・全国調査

・全国を8ブロックに分け、人口比率でブロック別回答数を確定。

北海道(北海道)

東 北(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)

関 東(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県)

甲信越・北陸・東海(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、山梨県、長野県、新潟県、

富山県、石川県、福井県)

近 畿(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県)

中 国(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)

四 国(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)

九州・沖縄(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県)

・調査依頼数 7,820 サンプル

・総回収数 2,112 サンプル

・分析対象サンプル数 2,000 サンプル

回答者属性:①性別 ②年齢階層 ③職業 ④同居家族構成 ⑤居住地 ⑥世帯年収

調査項目:

問1.日本の食文化と深く関わっている「水産資源」について、あなたは、我が国がど

のような姿勢に立つべきだとお考えですか。

問2.将来にわたって、水産物を安定的に、かつ安心して購入してゆくことができるよ

うにするために、あなたは、どのような点が重要であるとお考えですか。

問3.日本の水産業が食料供給産業として発展していくためには、どのような点を重視

して振興を図っていく必要があるとお考えですか。

問4.漁村は国民へ魚介類を供給する役割だけでなく、地域経済の活性化や魅力ある地

域形成、環境保全や水産物資源の保護などの役割をもっていますが、あなたはそ

の中の何を重視して漁村振興を図っていく必要があるとお考えですか。

問5.漁村は、独特の文化や景観を国民に提供するなど、文化の振興にも寄与していま

すが、あなたはその中の何を も重視して漁村振興を図っていく必要があるとお

考えですか。

- 99 -

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問6.あなたは、日本の水産業や漁村を振興していくにあたって、上記5つの項目のう

ち何が も重要であるかについて順位を付けることができるとお考えですか。

問7.上記5つの項目について重要と考える順位をお答えください。(上記設問で順位付

けが可と回答した方への付問)

問8.さまざまな海の利用法のうち、日本周辺の海ではどれが重要と思いますか。

問9.水面に関係するレクリエーションのうち、あなたが 2008 年に行ったものを全てお

選びください。

2.調査結果

(1)「水産資源」に対して我が国が立つべき姿勢について(問1)

「水産資源に対して我が国が立つべき姿勢」に関して下記の3つの選択肢を与え、その

重要性の順序について聞いたところ、 も指摘率が高かったのは「B→A→C」の順を指

摘するもので、全体の 38.4%を占めた。次いで「A→B→C」(20.6%)の順を指摘するもの

が多く、以下「B→C→A」(8.3%)、「A→C→B」(6.8%)、などであった。また、他の選

択肢との組合せに関係なく「B」を第1位に挙げた回答者は全体の 46.7%(前

(選択肢)

A.水産資源の維持・回復に努めることが も重要である。 (具体的内容)科学的な根拠をもった複数の代案から分かり易い説明を通じて管理施策を選択します。管理

の実施によって水産資源を持続的に利用できる水準に維持し、低下した資源には回復措置

をとって資源を回復させます。

B.生態系・環境との調和に努めることが も重要である。 (具体的内容)地球温暖化等による資源・環境の変動に即した適切な操業を行います。省エネルギーや環境

負荷の削減に主体的に取り組みます。生態系の構造・機能を保全して、生態系からの恵み

を持続して受けられるようにします。

C.国際的管理体制の構築に寄与することが も重要である。 (具体的内容)国境をまたぐ、あるいは公海の資源管理や生態系の保全について、国際的な漁業管理機関(政

府間はもとより NGO による連携も含む)を通じて日本がリーダーシップを発揮し、国際的

な資源管理体制を構築していきます。

述の 38.4%を含む)に達しており、生態系・環境との調和に対する関心が高い。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「A」を第1位に挙げた回答者は全体の 27.4%(前

述の 20.6%を含む)、「C」を第1位に挙げた回答者は全体の 7.2%に止まった。なお、「(3

つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」との回答も 15.4%あった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かった「B→A→C」(38.4%)を指摘する者は、男性で 31.0%、女性で

45.8%であり、女性の指摘比率が男性のそれを大きく上回っている。2番目に指摘率の

高かった「A→B→C」(20.6%)については、男性(23.1%)、女性(18.0%)であり、性

別による差はあまりない。

- 100 -

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「水産資源」に対してわが国が立つべき姿勢

05

1015202530354045

A     

→ 

B     

→ 

C

A     

→ 

C     

→ 

B

B     

→ 

A     

→ 

C

B     

→ 

C     

→ 

A

C     

→ 

A     

→ 

B

C     

→ 

B     

→ 

A

どれも同

じくら

重要

からな

(%)

【年代別傾向】

も指摘率が高かった「B→A→C」(38.4%)を指摘する者の比率は「20代」が 44.5%

で も高い。年代が高まるほど指摘する者の比率は低下し、「60代以上」では 26.2%ま

で低下する。一方、2番目に指摘率の高かった「A→B→C」(20.6%)については、「6

0代以上」が 26.2%で も高い。年代が低まるほど指摘する者の比率は低下し、「20代」

では 17.6%まで低下する。なお、3番目に指摘する者の比率が高かった「どれも同じぐら

い重要」についても、同様に年代が低まるほど指摘する者の比率は低下する傾向が認めら

れる(20.1%→11.3%)。

【地域ブロック別傾向】

いずれのブロックにおいても「B→A→C」の順を指摘する者の比率が も高い。全体

では 38.4%の指摘率であったが、この値を上回っているのは「九州・沖縄」(43.0%)、「北

海道」(41.1%)、「東北」(40.8%)、「甲信越・北陸・東海」(39.3%)、など漁業生産金額が

多いブロックである。一方、2番目に指摘率の高かった「A→B→C」(20.6%)については、

全国値を上回るブロックとして「中国」(25.8%)、「四国」(25.8%)、「近畿」(24.7%)が挙

げられる。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」を第1位に挙げた回答者は全体の 46.7%

に達したが、この結果を地域ブロック別にみると、「九州・沖縄」(53.5%)、「北海道」(50.0%)、

「東北」(48.7%) など漁業生産金額が多いブロックにおいて生態系・環境との調和に対する

関心が高いという結果であった。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「A」を第1位に挙げた回答者は全体の 27.4%

であったが、この結果を地域ブロック別にみると、「四国」(31.9%)、「中国」(31.6%)、「近

畿」(30.3%)等において、他ブロック以上に「水産資源の維持・回復」を強く求める比率が

高い。なお、「甲信越・北陸・東海」(19.4%)、「中国」(19.2%)、「東北」(19.1%)、「四

国」(18.2%)においては、他ブロック以上に「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」と

回答した比率が高い。

- 101 -

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地域ブロック別・「水産資源」に対してわが国が立つべき姿勢

05

101520253035404550

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

A→B→C A→C→B B→A→C

B→C→A C→A→B C→B→Aどれも同じくらい重要 分からない

(%)

(2)水産物を安定的に、かつ安心して購入できる環境を作っていくための重要点について

(問2)

(選択肢)

A.生産の増大と自給率の改善を図ることが も重要である。 (具体的内容)現在の日本の水産業は、過剰な漁獲や環境汚染、価格の低迷などの諸原因により、海

の生産力を十分に活用していないので、きちんとした資源の管理により海の生産力を

大限活用し、水産物の生産量を増加させると共に、今後の世界的な食料不足に備え、自

給率の改善を実現します。

B.食の信頼・安全性の確保が も重要である。 (具体的内容)水産物は日本人にとって も重要な動物性たんぱく質源です。日本人が健康的な生活を送

れるために、信頼のできる安全な水産物を供給します。

C.安定した水産物の供給を確保することが も重要である。 (具体的内容)水産物には、各季節ごとの旬や、各地域の名産があります。食生活を豊かにして

いくために、多様な水産物をより安定的な価格で供給できるようにします。

「水産物の安定、かつ安心して購入できる環境づくりに向けての重要点」に関して上記

の3つの選択肢を与え、その重要性の順序について聞いたところ、 も指摘率が高かった

のは「A→B→C」の順を指摘するもので、全体の 22.5%を占めた。次いで「B→A→C」

(21.7%)の順を指摘するものが多く、以下「B→C→A」(15.0%)、「A→C→B」(12.4%)、

などであった。また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」(食の信頼・安全性の確保が

- 102 -

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水産物を安定的に、かつ安心して購入できる環境を作っていくための重要点

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5

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A     

→ 

B     

→ 

C

A     

→ 

C     

→ 

B

B     

→ 

A     

→ 

C

B     

→ 

C     

→ 

A

C     

→ 

A     

→ 

B

C     

→ 

B     

→ 

A

どれも同

じくら

重要

からな

(%)

も重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 36.7%(前述の 21.7%を含む)であったが、「A」

(生産の増大と自給率の改善を図ることが も重要) を第1位に挙げた回答者も 34.9%であ

り、両者が拮抗した状態である。「C」(安定した水産物の供給を確保することが も重要)

を第1位に挙げた回答者は全体の 12.1%に止まる。なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐ

らい重要」との回答も 13.8%あった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かった「A→B→C」(22.5%)を指摘する者は、男性で 22.7%、女性で

22.2%であり、性別による差はない。2番目に指摘率の高かった「B→A→C」(21.7%)に

ついても、男性(19.7%)、女性(23.6%)であり、性別による差はあまりない。この傾向は他の

組合せにおいても同様である。

【年代別傾向】

も指摘率が高かった「A→B→C」(22.5%)を指摘する者の比率が も高いのは「4

0代」(23.2%)であった。一方 も低いのが「60代以上」(20.4%)であり、年齢差はな

い。一方、2番目に指摘率の高かった「B→A→C」(21.7%)については、「30代以上」

が 25.1%で も高い。年代による傾向は認められないが、 も低い「20代」でも指摘率

は 16.5%であり、年齢差はさほどない。この傾向は他の組合せにおいても同様である。

【地域ブロック別傾向】

「A」(生産の増大と自給率の改善を図ることが も重要)と「B」(食の信頼・安全性の

確保が も重要)が拮抗した状態である点は、ブロック別の傾向にも見てとれる。 も指摘

率が高かった「A→B→C」の順を指摘する者の比率は全体で 22.5%であったが、この値

を上回っているのは「北海道」(26.7%)、「九州・沖縄」(25.4%)、「関東」(23.4%)、等で

ある。また、「四国」(16.7%)、「近畿」(19.4%)における値は低い。一方、2番目に指摘率

の高かった「B→A→C」(21.7%)については、全国値を上回るブロックとして「関東」

(23.5%)、「甲信越・北陸・東海」(21.9%)、が挙げられる。ただし、各ブロックの値にはさ

- 103 -

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地域ブロック別・水産物の安全・安心環境を作るための重要点

0

5

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九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

A→B→C A→C→B B→A→C

B→C→A C→A→B C→B→A

どれも同じくらい重要 分からない

ほど差は認められない。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」を第1位に挙げた回答者は全体の 36.7%

であったが、この結果を地域ブロック別にみると、「近畿」(40.1%)、「中国」(37.5%)、「関

東」(37.4%)、「甲信越・北陸・東海」(37.2%)などにおいて食の信頼・安全性の確保に対す

る関心が高いという結果であった。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「A」を第1位に挙げた回答者は全体の 34.9%

であったが、この結果を地域ブロック別にみると、「北海道」(41.1%)、「九州・沖縄」(38.6%)、

「関東」(36.7%)、等において、他ブロック以上に生産の増大と自給率の改善に対する関心

が高いという結果であった。なお、「四国」(16.7%)、「東北」(16.4%)、「中国」(15.8%)、

「甲信越・北陸・東海」(15.6%)においては、他ブロック以上に「(3つの選択肢が)どれも

同じぐらい重要」と回答した比率が高い。

(3)日本の水産業が食料供給産業として発展していくため重視しなければならない振興姿

勢について(問3)

(選択肢)

A.国際競争力のある商品を作り出していくことが も重要である。 (具体的内容)魚介類の摂取量が多い日本の食生活は栄養バランスの点からも世界的に注目されている

ので、日本の文化輸出戦略の中で国際競争力のある「日本ブランド魚」を位置づけ、

その確立を通じて国内漁業の経営を安定させます。

B.効率的で安定的な経営を実現することが も重要である。

(具体的内容)①効率的な漁場利用や安全な就労環境の整備を行います。②適度な競争環境のもとで消費

の実情に則した合理的な生産流通システムを構築し、商品供給力を強化します。これによ

- 104 -

Page 105: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

食料供給産業として発展していくための振興姿勢

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A     

→ 

B     

→ 

C

A     

→ 

C     

→ 

B

B     

→ 

A     

→ 

C

B     

→ 

C     

→ 

A

C     

→ 

A     

→ 

B

C     

→ 

B     

→ 

A

どれも同

じくら

重要

からな

(%)

って経営を安定させ、漁業就業人口の維持を図ります。

C.消費者ニーズに対応していく視点が も重要である。 (具体的内容)①多様な種類の魚介類を、②高鮮度な状態で、③安定的に、かつ④合理的な価格で提供す

ることにより、地域によって異なる我が国の消費者ニーズに対応できる産業を目指します。

「水産業が食料供給産業として発展していくため重視すべき振興姿勢」に関して上記の

3つの選択肢を与え、その重要性の順序について聞いたところ、 も指摘率が高かったの

は「B→C→A」の順を指摘するもので、全体の 27.6%を占めた。次いで「C→B→A」(19.9%)

の順を指摘するものが多く、以下「B→A→C」(16.6%)、「A→B→C」(6.9%)、などで

あった。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」(効率的で安定的な経営を実現する

ことが も重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 44.2%(前述の 27.6%を含む)に達する。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」(消費者ニーズへの対応)を第1位に挙げた回

答者は全体の 27.3%(前述の 19.9%を含む)、「A」(国際競争力のある商品作り)を第1位に

挙げた回答者は全体の 13.6%に止まった。なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」

との回答も 10.8%あった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かった「B→C→A」(27.6%)を指摘する者は、男性で 25.5%、女性で

29.7%であり、性別による差はあまりない。2番目に指摘率の高かった「C→B→A」(19.9%)

についても、男性(19.1%)、女性(20.7%)であり、性別による差はない。この傾向は他の組合

せにおいても同様である。

【年代別傾向】

も指摘率が高かった「B→C→A」(27.6%)を指摘する者の比率は各年代とも高くな

っているが、傾向としては「20代」(29.5%)、「30代」(30.3%)など若い世代で高く、年

- 105 -

Page 106: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

齢が高まるほど低くなる(「60代以上」13.6%)。一方、2番目に指摘率の高かった「C→

B→A」(19.9%)については、「60代以上」が 25.2%で も高い。年代が低まるほど指摘

する者の比率は低下し、「20代」では 18.8%まで低下する。なお、3番目に指摘する者

の比率が高かった「B→A→C」(16.6%)については、年齢差はさほど認められない。

【地域ブロック別傾向】

いずれのブロックにおいても「B→C→A」の順を指摘する者の比率が も高い。全体

では 27.6%の指摘率であったが、この値を上回っているのは「四国」(34.8%)、「中国」(29.2%)、

「東北」(28.3%)、「関東」(28.3%)、などあった。一方、2番目に指摘率の高かった「C→

B→A」(19.9%)については、全国値を上回るブロックとして「近畿」(22.5%)、「甲信越・

北陸・東海」(21.6%)、「東北」(21.1%)、「中国」(20.8%)が挙げられる。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」(効率的で安定的な経営を実現すことが

も重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 44.2%に達したが、この結果を地域ブロック別に

みると、「四国」(53.0%)、「北海道」(50.0%)、「関東」(46.8%)、「東北」(46.1%) など

で指摘率が高くなっている。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」」(消費者ニーズへの対応)を第1位に挙げ

た回答者は全体の 27.3%であったが、この結果を地域ブロック別にみると、「近畿」(31.5%)、

「北海道」(31.1%)、「甲信越・北陸・東海」(29.5%)、「東北」(28.3%)等において、他ブ

ロック以上に「消費者ニーズへの対応」を重視する傾向が見られる。なお、「東北」(15.1%)、

「近畿」(11.4%)、「九州・沖縄」(11.0%)、では、他ブロック以上に「(3つの選択肢が)ど

れも同じぐらい重要」と回答した比率が高い。

(4)地域経済の活性化や魅力ある地域形成、環境保全や水産物資源の保護などの役割を発揮

地域ブロック別・食料供給産業として発展していくための振興姿勢

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九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

A→B→C A→C→B B→A→C

B→C→A C→A→B C→B→A

どれも同じくらい重要 分からない

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Page 107: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

していくために必要な漁村振興のあり方について(問4)

(選択肢)

A.住環境やインフラのバランスある整備により地域の魅力を高めることが重

要である。 (具体的内容)僻地・離島等においても雇用が創出されるとともに、その地域経済の活性化や住環境のイ

ンフラ整備、地域文化の創造・伝承などが行われるなど、水産業を核とした魅力のある地

域形成を目指します。

B.漁村がもつ沿岸域管理や防災の機能を高めることが重要である。 (具体的内容)沿岸地域内に住む水産業関係者の活動により、①汚水(工場等から、タンカー座礁等)の

海面流入の防止、②秩序ある海面利用への貢献、③海面における救難活動、④密入国等の

国境監視、等が実施できる体制の実現を目指します。

C.年齢各層が生きがいを持って就業して生活ができる、地域漁民のライフサ

イクルに対応した環境を整えていくことが重要である。 (具体的内容)沿岸地域内において、各年齢階層に適した仕事が存在し、生きがいのある生活環境が提供

されるとともに、他地域や他産業からも漁業に就業できる漁村の形成を目指します。

「水産地域の活性化や環境保全、水産物資源保護などの役割発揮のための漁村振興のあ

り方」に関して上記の3つの選択肢を与え、その重要性の順序について聞いたところ、

も指摘率が高かったのは「C→A→B」の順を指摘するもので、全体の 25.8%を占めた。

以下「A→C→B」(14.0%)、「C→B→A」(13.6%)、などであった。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」(年齢各層が生きがいを持って就業

して生活ができる、地域漁民のライフサイクルに対応した環境を整えていくことが重要)を

第1位に挙げた回答者は全体の 39.4%(前述の 25.8%を含む)に達する。また、他の選択肢と

の組合せに関係なく「A」(住環境やインフラのバランスある整備により地域の魅力を高め

ることが重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 20.7%(前述の 14.0%を含む)、「B」(漁村

がもつ沿岸域管理や防災機能の強化)を第1位に挙げた回答者は全体の 15.4%に止まった。

なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」との回答も 16.9%であり、他の項目に比

較して高い値であった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かった「C→A→B」(25.8%)を指摘する者は、男性で 29.8%、女性で

21.7 であり、やや男性における指摘率が高めである。2番目に指摘率の高かった「A→C

→B」(14.0%) についても、男性(16.8%)、女性(11.2%)であり、男性における指摘率がやや

高くなっている。一方、「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」(16.9%)については、

男性の 14.1%に対して女性は 19.7%であり、やや女性における指摘率が高めであった。

- 107 -

Page 108: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

地域活性化や環境保全。資源保護に関わる漁村振興のあり方

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5

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25

30

A     

→ 

B     

→ 

C

A     

→ 

C     

→ 

B

B     

→ 

A     

→ 

C

B     

→ 

C     

→ 

A

C     

→ 

A     

→ 

B

C     

→ 

B     

→ 

A

どれも同

じくら

重要

からな

(%)

【年代別傾向】

も指摘率が高かった「C→A→B」(25.8%)を指摘する者の比率は各年代とも高いが、

傾向としては「60代以上」(33.0%)、「50代」(32.2%)など年齢の高い世代で高く、

年齢が下がるほど比率は低くなる(「20代」24.6%)。一方、2番目に指摘率の高かった

「A→C→B」(14.0%)については、各年代とも 10%~15%の指摘率であり、年齢差は

さほど認められない。なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」(16.9%)につ

いては、若い世代ほど指摘率が高く、年齢とともに指摘率は低くなる。(「20代」18.5%

→「60代以上」11.7%)

【地域ブロック別傾向】

いずれのブロックにおいても「C→A→B」の順を指摘する者の比率が も高い。全体

では 25.8%の指摘率であったが、この値を上回っているのは「四国」(37.8%)、「北海道」

地域ブロック別・地域活性化や環境保全に関わる漁村振興のあり方

0

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九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

A→B→C A→C→B B→A→C

B→C→A C→A→B C→B→A

どれも同じくらい重要 分からない

- 108 -

Page 109: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

(27.8%)、「九州・沖縄」(26.8%)、などであり、特に「四国」では高い比率となっている。

一方、2番目に指摘率の高かった「A→C→B」(14.0%)については、全国値を上回るブロ

ックとして「九州・沖縄」(20.2%)、「北海道」(17.8%)、「中国」(15.0%)が挙げられる。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」(年齢各層が生きがいを持って就業

して生活ができる、地域漁民のライフサイクルに対応した環境を整えていくことが重要)を

第1位に挙げた回答者は全体の 39.4%に達したが、この結果を地域ブロック別にみると、

「四国」(51.5%)、「東北」(41.4%)、「九州・沖縄」(40.4%)などで指摘率が高くなってい

る。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「A」(住環境やインフラのバランスある

整備により地域の魅力を高めることが重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 20.7%であっ

たが、この結果を地域ブロック別にみると、「九州・沖縄」(28.1%)、「北海道」(25.6)にお

いて、他ブロック以上に「インフラ整備による地域の魅力をつけていくことを重視する傾

向が見られる。なお、「中国」(19.2%)、「甲信越・北陸・東海」(19.1%)、「関東」(17.3%)

では、他ブロック以上に「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」と回答した比率が高い。

(5)漁村が有する独特の文化や景観を文化振興に寄与させていくに際して重視すべき漁村

振興のあり方について(問5)

(選択肢)

A.余暇活動や海洋性レクリエーションの場を提供するとともに魅力ある景観

を作り出し、維持していくことが重要である。 (具体的内容) 海洋性レクリエーションや保養機会があり、美しい景観を持つ漁村を形成します。

B.水産業が持つ諸技術を使って、科学技術の進歩や国際社会に貢献していく

ことが重要である。 (具体的内容)水産業が水産資源管理のための基礎的情報の収集や科学技術の進歩に貢献するとともに、

漁村に蓄積された知識や漁労技術を海外に発信し、国際社会に貢献します。

C.水産業や漁村の文化を育て、発信していくことが重要である。 (具体的内容)地域特有の生活・知識・漁労技術や郷土料理などの文化を育み、維持すると共に、それら

の情報を積極的に社会に発信します。

「漁村が有する独特の文化や景観を文化振興に寄与させていくに際して重視すべき漁村

振興のあり方」に関して上記の3つの選択肢を与え、その重要性の順序について聞いたと

ころ、 も指摘率が高かったのは「C→B→A」の順を指摘するもので、全体の 22.7%を

占めた。次いで「B→C→A」(18.2%)の順を指摘するものが多く、以下「C→A→B」(17.1%)、

「B→A→C」(10.3%)、などであった。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」(水産業や漁村の文化を育て、発信

していくことが重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 39.8%(前述の 22.7%を含む)に達す

る。また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」(水産業が持つ諸技術を使って、科学技

- 109 -

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漁村文化や景観を文化振興に寄与させるための振興のあり方

0

5

10

15

20

25

A     

→  

B     

→  

C

A     

→  

C     

→  

B

B     

→  

A     

→  

C

B     

→  

C     

→  

A

C     

→  

A     

→  

B

C     

→  

B     

→  

A

どれも同

じくら

い重

からな

術の進歩や国際社会に貢献していくことが重要)を第1位に挙げた回答者は全体の 28.5%

(前述の 18.2%を含む)、「A」(余暇活動や海洋性レクリエーションの場を提供するととも

に魅力ある景観を作り出し、維持していくことが重要)を第1位に挙げた回答者は全体の

13.1%に止まった。なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐらい重要」との回答は 11.4%で

あった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かった「C→B→A」(22.7%)を指摘する者は、男性で 21.2%、女性で

24.1%であり、性別による差はあまりない。2番目に指摘率の高かった「B→C→A」(18.2%)

についても、男性(17.3%)、女性(19.0%)であり、性別による差はあまりない。この傾向は他

の組合せにおいても同様である。

【年代別傾向】

も指摘率が高かった「C→B→A」(22.7%)を指摘する者の比率は各年代とも高くな

っているが、傾向としては年齢の高い世代で若干高く、若い世代ではやや低くなる傾向が

ある(「60代以上 25.2%→「20代 22.3%)。同様の傾向は、2番目に指摘率の高かった「B

→C→A」(18.2%)についても認められる(「60代以上 23.3%→「20代 15.6%)。その他

の事項については、年齢差はさほど認められない。なお、「(3つの選択肢が)どれも同じぐ

らい重要」(11.4%)については、若い世代ほど指摘率が高く、年齢とともに指摘率は低くな

る。(「20代」13.6%→「60代以上」5.8%)

- 110 -

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【地域ブロック別傾向】

ほとんどのブロックにおいて「C→B→A」の順を指摘する者の比率が も高い。全体

では 22.7%の指摘率であったが、この値を上回っているのは「北海道」(30.0%)、「九州・

沖縄」(26.8%)、「中国」(26.7%)、「東北」(23.7%)などであった。一方、2番目に指摘率

の高かった「B→C→A」(18.2%)については、全国値を上回るブロックとして「近畿」

(21.3%)、「関東」(19.7%)が挙げられる。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「C」(水産業や漁村の文化を育て、発信

していくことが重要))を第1位に挙げた回答者は全体の 39.8%に達したが、この結果を地域

ブロック別にみると、「北海道」(51.1%)、「九州・沖縄」(44.8%)、「東北」(43.4%)、

などで指摘率が高くなっている。

また、他の選択肢との組合せに関係なく「B」(水産業が持つ諸技術を使って、科

学技術の進歩や国際社会に貢献していくことが重要) を第1位に挙げた回答者は全体の

28.5%であったが、この結果を地域ブロック別にみると、「四国」(33.4%)、「近畿」(31.5%)、

「中国」(30.9%)において、他ブロック以上に「水産業が持つ諸技術を使って、科学技術の

進歩や国際社会に貢献していくことが重要」と指摘する向きが見られる。なお、「四国」

(16.7%)、「甲信越・北陸・東海」(14.5%)では、他ブロック以上に「(3つの選択肢が)どれ

も同じぐらい重要」と回答した比率が高い。

地域ブロック別・漁村文化や景観を文化振興に寄与させるための振興のあり方

0

5

10

15

20

25

30

35

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

A→B→C A→C→B B→A→C

B→C→A C→A→B C→B→A

どれも同じくらい重要 分からない

- 111 -

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水産業や漁村の振興策に対する順序付けの可能性

0

10

20

30

40

50

60

順位を付けることができる どれも同じくらい重要 分からない

(%)

(6) 日本の水産業や漁村を振興していく際に も重要であることについて

1)項目間に順位を付けることの可否について(問6)

上記の設問では、水産業の振興を考える際に必要となる5つの項目について、それぞれ

3つの選択肢を掲げて、重要さの順番について回答を求めた。ここではさらに、日本の水

産業や漁村を振興していくにあたって、これら5つの項目(上記)のうち何が も重要である

かについて回答を求めた。

まず、上記の5つの項目について「順位を付けることが可能か否か」を聞いたところ、

「どれも同じくらい重要」(順位は付けられない)との回答が全体の 54.5%を占めた。

【男女別傾向】

「どれも同じくらい重要」と回答した者は、男性(49.9%)に対して女性(59.0%)であり、

女性での指摘率が男性を大きく上回っている。「順位を付けることができる」とするのは

男性で 44.3%と女性上回っている。

【年代別傾向】

いずれの年齢層においても「どれも同じくらい重要」と回答した者の比率が高くなって

いるが、年齢が高まるに伴い回答率も高まる傾向が認められる(「20代」53.5%→「60

代以上」64.1%)。一方、「順位を付けることができる」と回答した者の比率は各年代とも

30%半ばから 40%水準となっており、年齢差はさほどない。

【地域ブロック別傾向】

「北海道」を除く全てのブロックにおいて「どれも同じくらい重要」と回答した者の比

率が「順位を付けることができる」と回答した者の比率を上回った。「どれも同じくらい

重要」と回答した者の全国値は 54.5%であったが、この値を上回ったのは「東北」(61.8%)、

- 112 -

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「四国」(59.1%)、「甲信越・北陸・東海」(59.0%)、「近畿」(57.7%)などであり、逆

に「北海道」(45.6%)、「中国」(47.5%)での指摘率は他ブロックに比べて低い値であっ

た。

一方、「順位を付けることができる」と回答した者の全国値は 38.2%であったが、この

値を上回ったのは「北海道」(47.8%)、「関東」(41.9%)、「中国」(40.8%)などであり、逆

に「東北」(28.9%)、「近畿」(34.7%)、「甲信越・北陸・東海」(34.6%)での指摘率は他ブ

ロックに比べて低い値であった。

2)項目間の順位付けについて(問7)

上記の設問で「順位を付けることができる」と回答した764名を対象に、下記に掲げ

た5つの選択肢について、重要と考える順位を聞いた。

(選択肢)

A.資源・環境保全の実現 (具体的内容)環境負荷削減等に取り組みつつ、水産資源を持続的に利用していきます。適切な管理施策

を選択し、また国際的な資源管理体制を通じて、水産資源の維持・回復や生態系の構造・

機能の保全を実現します。

B.国民への食料供給の保障 (具体的内容)日本のまわりは世界でも有数の生産力を有する海であるので、この生産力を子々孫々まで

持続的に活用し、安全で安心な水産物を十分に国民に供給できる体制を構築し、健康的な

国民生活の実現に寄与します。

C.産業の健全な発展 (具体的内容)効率的な漁場利用や操業方法の導入、海外市場も視野に入れた生産流通システムの構築な

地域ブロック別・水産業や漁村の振興策に対する順序付けの可能性

0

10

20

30

40

50

60

70

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

順位を付けることができる どれも同じくらい重要 分からない

- 113 -

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水産業や漁村を振興していく際に重要であること(1位)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

(%)

水産業や漁村を振興していく際に重要であること(2位)

0

5

10

15

20

25

30

35

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

(%)

どによって商品供給力を高め、経営の安定化漁業就業人口の維持を通じて、国民の水産物

に対するニーズに対応できる産業の育成を目指します。

D.地域社会への貢献 (具体的内容)漁村は、国民へ魚介類を供給する役割のみでなく、地域経済の活性化や魅力ある地域形成、

国民の就労の場、漁業者が管理することによって実現されている環境保全や水産物資源の

保護などの役割がありますが、水産業の衰退によって十分に役割を果たしていない状況に

あります。このことから漁村(水産業)の活性化を図り、これらの役割を十分に果たせる

漁村形成を目指します。

E.文化の振興 (具体的内容)水産業や漁村が持つ独自の文化を維持継承しつつ、海洋性レクリエーションや保養機会が

あり、美しい景観を持つ漁村を形成し、漁業を通じた科学技術の振興とそれらを活用した

国際貢献を行います。

- 114 -

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水産業や漁村を振興していく際に重要であること(3位)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

(%)

水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(4位)

0

10

20

30

40

50

60

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

(%)

水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(5位)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

(%)

- 115 -

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「重要度1位」として も指摘率が高かったのは「A.資源・環境保全の実現」(45.7%)

であり、次いで「B.国民への食料供給の保障」(33.5%)、「C.産業の健全な発展」(15.8%)

であった。「D.地域社会への貢献」(4.5%)、「E.文化の振興」(0.5%)を「重要度1位」

の事項とする者は少なかった。

「重要度2位」として も指摘率が高かったのは「B.国民への食料供給の保障」(29.7%)

であったが、「A.資源・環境保全の実現」(29.5%)、「C.産業の健全な発展」 (28.7%)

を挙げる者も多く、3つの事項が拮抗している。なお、「重要度2位」の事項として「D.

地域社会への貢献」(8.8%)、「E.文化の振興」(0.5%)を「重要度2位」の事項とする者は

少なかった。

「重要度3位」として も指摘率が高かったのは「C.産業の健全な発展」(37.8%)であ

り、次いで「B.国民への食料供給の保障」(20.0%)、「D.地域社会への貢献」(19.6%)、

「A.資源・環境保全の実現」(16.1%)の順であった。「E.文化の振興」(6.4%)を「重要

度3位」の事項とする者は少なかった。

「重要度4位」として も指摘率が高かったのは「D.地域社会への貢献」(56.3%)であ

り、次いで「E.文化の振興」(13.6%)であった。上位での指摘が多かった「A.資源・環

境保全の実現」(6.5%)、「B.国民への食料供給の保障」(12.0%)、「C.産業の健全な発

展」(11.5%)の事項を「重要度4位」の事項とする者は少なかった。

「重要度5位」として も指摘率が高かったのは「E.文化の振興」(76.0%)であり、次

いで「D.地域社会への貢献」(10.9%)であった。上位での指摘が多かった「A.資源・環

境保全の実現」(2.2%)、「B.国民への食料供給の保障」(4.7%)、「C.産業の健全な発展」

(6.2%)の事項を「重要度5位」の事項とする者は少なかった。

【男女別傾向】

「重要度1位」としては「A.資源・環境保全の実現」を挙げる者の比率が男女共に

も高かったが、男性 43.6%に対して女性 48.6%であり、女性の指摘率のほうが5ポイント

高い。また、「重要度1位」として「B.国民への食料供給の保障」を挙げる者の比率は

男女共に2番目に高かったが、男性 35.0%に対して女性 31.5%であり、男性での指摘率の

ほうがやや高い。なお、その他の「選択肢C」から「選択肢E」を「重要度1位」として

指摘する者の比率は低かったが、その傾向に男女差は認められない。

「重要度2位」としては「B.国民への食料供給の保障」を挙げる者の比率が全体では

29.7%で も高かったが、男女別では男性 28.4%に対して女性 31.5%であり、女性の指摘率

のほうがやや高い。男性の場合、「重要度2位」として「B.国民への食料供給の保障」

よりは「A.資源・環境保全の実現」「C.産業の健全な発展」あるいは「C.産業の健

全な発展」(29.6%)」を挙げる比率のほうがやや高く、やや男女の差となっている。ただし、

「選択肢B」と「選択肢A」「選択しC」が拮抗した状態であることは変わらない。

「重要度3位」としては「C.産業の健全な発展」を挙げる者の比率が男女共に も高

かったが、男性 35.9%に対して女性 40.5%であり、女性の指摘率のほうが5ポイント高い。

次いで「B.国民への食料供給の保障」(20.0%)、「D.地域社会への貢献」(19.6%)の指摘

- 116 -

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率が高いが、その他の選択肢を含め男女差は認められない。

「重要度4位」としては「D.地域社会への貢献」を挙げる者の比率が、男性 55.5%、

女性 57.3%であり、男女とも も高かった。男女差は認められず、この傾向は指摘率が低

かったその他の選択肢においても同様である。

「重要度5位」としては「E.文化の振興」を挙げる者の比率が男女共に も高かった

が、男性 73.6%に対して女性 79.4%であり、女性の指摘率のほうが6ポイント高い。

指摘率が低かったその他の選択肢では男女差は認められない。

【年代別傾向】

「重要度1位」としては各年代とも「A.資源・環境保全の実現」を挙げる者の比率が

も高い。特に、「50代」(52.5%)、「40代」(48.8%)における指摘率は高い。また、「6

0代以上」(41.7%)及び「20代」(41.4%)においては「B.国民への食料供給の保障」を指

摘する者の比率もそれぞれ 38.9%、36.8%と比較的高く、拮抗している。なお、その他の「選

択肢C」から「選択肢E」を「重要度1位」として指摘する者の比率は低かったが、その

傾向に年齢差は認められない。

「重要度2位」としては「B.国民への食料供給の保障」を挙げる者の比率が全体では

29.7%で も高かったが、年代による差がみられる。すなわち、「B.国民への食料供給の

保障」を指摘する比率が も高い年代は「30代」(31.5%)のみであり、「A.資源・環境

保全の実現」を指摘する者の比率も 30.5%と高く、拮抗している。「20代」「40代」

では「A.資源・環境保全の実現」と「B.国民への食料供給の保障」と拮抗した状態な

がらも「C.産業の健全な発展」を指摘する者の比率がそれぞれ 29.3%、32.9%と も高い。

また、「50代」「60代以上」では「B.国民への食料供給の保障」と「C.産業の健

全な発展」が拮抗した状態ながらも「A.資源・環境保全の実現」を指摘する者の比率が

それぞれ 31.3%、30.6%と も高い。「重要度2位」については、上位3つの選択肢をめぐ

って拮抗した評価となっている

「重要度3位」としては各年代とも「C.産業の健全な発展」を挙げる者の比率が も

高い。特に、「50代」(46.3%)、「40代」(40.1%)における指摘率は高い。また、指摘率

はやや低いものの、各年代とも「B.国民への食料供給の保障」と「D.地域社会への貢

献」を指摘する者の比率もやや高く、年代によっては「A.資源・環境保全の実現」をあ

わせた3つの選択肢間で拮抗した評価となっている。

「重要度4位」としては各年代とも「D.地域社会への貢献」を挙げる者の比率が も

高い。特に、「40代」(64.3%)における指摘率が高い。その他の「選択肢A」から「選択

肢C」及び「選択肢E」を「重要度4位」として指摘する者の比率は低かったが、その傾

向に年齢差は認められない。

「重要度5位」としては各年代とも「E.文化の振興」を挙げる者の比率が も高い。

それは「20代」(69.2%)→「60代以上」(91.7%) のように、年齢が高まるほど強まる傾

向がある。

- 117 -

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地域ブロック別・水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(1位)

0

5

10

15

20

25

30

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

地域ブロック別・水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(2位)

0

5

10

15

20

25

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

【地域ブロック別傾向】

「重要度1位」としては各ブロックとも「A.資源・環境保全の実現」を挙げる者の比

率が も高い。全国平均(45.7%)を上回る指摘率を示したのは、「九州・沖縄」(53.5%)を筆

頭に「北海道」(52.8%)、「東北」(50.0%)、「近畿」(48.8%)であった。「重要度1位」と

して2番目に指摘率が高かったのは各ブロックとも「B.国民への食料供給の保障」であ

り、「九州・沖縄」(37.2%)、「中国」(36.9%)、「関東」(34.7%)における指摘率が高い。

特に「中国」「関東」については「A.資源・環境保全の実現」に近い比率であった。な

お、その他の「選択肢C」から「選択肢E」を「重要度1位」として指摘する者の比率は

低かったが、その傾向に地域差は認められない。

「重要度2位」としては「B.国民への食料供給の保障」を挙げる者の比率が全体では

29.7%で も高かったが、地域ブロックによる差がみられる。すなわち、「B.国民への食

料供給の保障」を指摘する比率が も高いブロックは「甲信越・北陸・東海」(37.5%)を筆

頭に、「近畿」(33.9%) 、「関東」(32.7%) 、「九州・沖縄」(32.6%)等であったが、「東

北」(50.0%) 、「四国」(38.6%) 、「北海道」(33.7%)では 「C.産業の健全

- 118 -

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地域ブロック別・水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(3位)

0

5

10

15

20

25

30

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

地域ブロック別・水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(4位)

0

5

10

15

20

25

30

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

地域ブロック別・水産業や漁村を振興していく際に重要なこと(5位)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

九州

・沖縄

四国

中国

近畿

甲信

越・北

陸・東

海関

東東

北海

選択肢A 選択肢B 選択肢C 選択肢D 選択肢E

- 119 -

Page 120: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

な発展」を「重要度2位」として挙げる者の比率が「B.国民への食料供給の保障」より

も上回っている。また「中国」では「A.資源・環境保全の実現」を「重要度2位」とし

て挙げる者の比率が 34.3%と高く、その他の選択肢を上回っている。

また、「D.地域社会への貢献」については「西高東低」(「九州・沖縄」16.3%→「北

海道」6.7%、「東北」3.8%)の傾向が認められる。

「重要度3位」としては、ほとんどのブロックで「C.産業の健全な発展」を挙げる者

の比率が も高い。全国平均(37.8%)を上回る指摘率を示したのは、「九州・沖縄」(58.1%)

を筆頭に「中国」(39.1%)、「近畿」(38.6%)であった。ただし、「四国」では「E.文化の

振興」を除くその他の選択肢を挙げる者の比率もほぼ同率であること、「甲信越・北陸・

東海」では「D.地域社会への貢献」を挙げる者の比率がやや高いこと、「関東」では「A.

資源・環境保全の実現」を挙げる者の比率がやや高いこと、「北海道」や「東北」では「B.

国民への食料供給の保障」を挙げる者の比率が高く、特に「東北」では「C.産業の健全

な発展」を上回る指摘となっていること等、地域ブロックによる差異も認められる。

「重要度4位」としては各ブロックとも「D.地域社会への貢献」を挙げる者の比率が

も高い。特に「東北」(65.4%)を筆頭に、「近畿」(60.6%)、「中国」(58.4%)における指

摘率が高い。その他の「選択肢A」から「選択肢C」及び「選択肢E」を「重要度4位」

として指摘する者の比率は低かったが、その傾向に地域ブロック差は認められない。

「重要度5位」としては各ブロックとも「E.文化の振興」を挙げる者の比率が も高

い。特に「東北」(84.6%)を筆頭に、「北海道」(78.7%)、「甲信越・北陸・東海」(78.6%)、

「九州・沖縄」(76.7%)における指摘率が高い。その他の「選択肢A」から「選択肢D」を

「重要度5位」として指摘する者の比率は低かったが、その傾向に地域ブロック差は認め

られない。

(7)日本周辺の海において重要と考えられる海の利用法について(問8)

(選択肢)

1)漁業による食料生産

2)海運による物資輸送

3)埋め立て等による空間の創出

4)釣りや海水浴・マリンスポーツによるレクリエーション利用

5)潮力発電や洋上風力発電などエネルギー創出

6)その他

- 120 -

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日本周辺の海において重要な利用法について

0102030405060708090

漁業

による食料生産

海運

による物資輸送

め立

て等

による空

の創出

や海水浴

・マリ

ンスポー

ツによる

エー

ョン利用

潮力発電

や洋上風力

発電

など

エネ

ルギー

創出

その他

からな

2007 年 4 月に「海洋基本法」が制定され、我が国において海面をどのように利活用して

いくべきか検討が行われている。ここでは、さまざまな海の利用法のうち、日本周辺の海

ではいかなる海面利用が重要であるかについて国民に聞いた(上記の選択肢の中から2個以

内で選択)。

その結果、 も指摘率の高かったのは「漁業による食料生産」(83.3%)であり、次いで「潮

力発電や洋上風力発電などエネルギー創出」(54.4%)、「海運による物資輸送」(21.0%)であ

った。「釣りや海水浴・マリンスポーツによるレクリエーション利用」(8.2%)、「埋め立て

等による空間の創出」(1.9%)の回答は少なかった。

【男女別傾向】

も指摘率が高かったのは男女共に「漁業による食料生産」であり、男女差は認められ

ない(男性 83.4%、女性 83.2%)。「潮力発電や洋上風力発電などエネルギー創出」(54.4%)

を挙げた者は男性 52.9%、女性 55.8%であり、やや女性の指摘率が高い。一方「海運によ

る物資輸送」(21.0%) を挙げた者は男性 23.2%、女性 18.8%であり、やや男性での指摘率

が高い。指摘率の低かった事項についての男女差は認められない。

【年代別傾向】

各年代とも「漁業による食料生産」を挙げる者の比率が高いが、年齢が高まるほどこの

事項を指摘する比率は高まる傾向がある(「20代」78.9%→「60代以上」89.3%)。次い

で各年代とも「潮力発電や洋上風力発電などエネルギー創出」を指摘する者が多いが、年

齢差は認められない。その他の事項についても同様である。

【地域ブロック別傾向】

各地域ブロックにおいても、「漁業による食料生産」を挙げる者の比率が も高く、次い

で「潮力発電や洋上風力発電などエネルギー創出」であった。

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(8)2008年に行った海洋レクリエーションについて(問8)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 海水浴 599 30.0

2 遊漁案内船に乗船しての海釣り 63 3.2

3 マイボートでの海釣り 29 1.5

4 海面釣り堀、釣り筏・釣り用桟橋(さんば

し)等有料施設での海釣り 72 3.6

5 その他の海釣り 170 8.5

6 渓流釣り 44 2.2

7 アユ釣り 20 1.0

8 バス釣り 27 1.4

9 淡水の釣り堀での釣り 32 1.6

10 その他の河川・湖沼での釣り 51 2.6

11 潮干狩り 182 9.1

12 ダイビング 60 3.0

13 ホエール・ドルフィンウオッチング 24 1.2

14 海岸でのバードウオッチング 32 1.6

15 ビーチコーミング(海岸漂着物収集) 32 1.6

16 地引き網 22 1.1

17 観光定置網・観光底曳き網などの海での観

光漁業や体験漁業 14 0.7

18 やなや鵜飼い漁などの河川・湖沼での観光

漁業や体験漁業 10 0.5

19 水産物直売所・朝市等での水産物の購入 304 15.2

20 漁村民宿への宿泊 77 3.9

21 魚市場・漁港の見学 187 9.4

22 漁村特有の祭りの見学 40 2.0

23 水産関係の資料館・博物館の見学 101 5.1

24 海岸での観光船・グラスボートへの乗船 121 6.1

25 海浜清掃へのボランティア参加 26 1.3

26 ヨットの操船 5 0.3

27 モーターボート・水上バイクの操船 21 1.1

28 シーカヤック・手こぎボートの操船 22 1.1

29 サーフィン・ウインドサ-フィン 42 2.1

30 当てはまるものはない 904 45.2

無回答 0 0.0

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(9) 回答者の属性

(性別)

(年齢)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 20 代 346 17.3

2 30 代 760 38.0

3 40 代 552 27.6

4 50 代 239 12.0

5 60 代以上 103 5.2

無回答 0 0.0

(職業)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 自営業 165 8.3

2 公務員 120 6.0

3 会社員 854 42.7

4 パート・アルバイト 251 12.6

5 専業主婦 385 19.3

6 学生 67 3.4

7 農林漁業 6 0.3

8 無職 117 5.9

9 その他 35 1.8

無回答 0 0.0

(同居人)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 配偶者 1277 63.9

2 子供 940 47.0

3 親 547 27.4

4 兄弟、姉妹 185 9.3

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 男性 1000 50.0

2 女性 1000 50.0

無回答 0 0.0

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5 祖父母 63 3.2

6 その他 20 1.0

7 同居家族はいない 293 14.7

無回答 0 0.0

(居住地)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 北海道 90 4.5

2 青森県 25 1.3

3 岩手県 25 1.3

4 宮城県 41 2.1

5 秋田県 15 0.8

6 山形県 13 0.7

7 福島県 33 1.7

8 茨城県 24 1.2

9 栃木県 18 0.9

10 群馬県 18 0.9

11 埼玉県 94 4.7

12 千葉県 84 4.2

13 東京都 253 12.7

14 神奈川県 163 8.2

15 山梨県 13 0.7

16 長野県 28 1.4

17 新潟県 28 1.4

18 富山県 13 0.7

19 石川県 18 0.9

20 福井県 9 0.5

21 岐阜県 29 1.5

22 静岡県 58 2.9

23 愛知県 140 7.0

24 三重県 30 1.5

25 滋賀県 12 0.6

26 京都府 43 2.2

27 大阪府 157 7.9

28 兵庫県 92 4.6

29 奈良県 12 0.6

30 和歌山県 8 0.4

31 鳥取県 12 0.6

32 島根県 12 0.6

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33 岡山県 32 1.6

34 広島県 44 2.2

35 山口県 20 1.0

36 徳島県 11 0.6

37 香川県 12 0.6

38 愛媛県 32 1.6

39 高知県 11 0.6

40 福岡県 110 5.5

41 佐賀県 10 0.5

42 長崎県 23 1.2

43 熊本県 17 0.9

44 大分県 11 0.6

45 宮崎県 16 0.8

46 鹿児島県 17 0.9

47 沖縄県 24 1.2

無回答 0 0.0

(世帯年収)

度数 %

集計母数 2000 100.0

1 200 万円未満 166 8.3

2 200 万円以上~300 万円未満 176 8.8

3 300 万円以上~400 万円未満 281 14.1

4 400 万円以上~500 万円未満 279 14.0

5 500 万円以上~600 万円未満 276 13.8

6 600 万円以上~700 万円未満 191 9.6

7 700 万円以上~800 万円未満 165 8.3

8 800 万円以上~900 万円未満 123 6.2

9 900 万円以上~1000 万円未満 120 6.0

10 1000 万円以上~1200 万円未満 109 5.5

11 1200 万円以上~1500 万円未満 65 3.3

12 1500 万円以上 49 2.5

無回答 0 0.0

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3.3 具体事例集

ここでは、我が国の漁業制度の下でこれまで各地で行われてきた、あるいは現在行われて

いる水産資源・漁業管理の様々な事例(事例 1~16)、及び、現在指摘されている各地の問

題点(事例 17~22)について、その概容を簡単に紹介する。各事例に対応する主たる理念

属性は、下表のとおりである。文中の太字は、図 2、3 と表 2 に対応している。

理念属性 取り組みの紹介 問題点の指摘・考察

A1 1, 2

A2 3 17

A3 4

B1 4, 5, 6

B2 7 18

B3 14

C1 9

C2 1, 5, 8, 10, 11 18

C3 2, 8, 9, 15

C4 11, 12 20

D1 7, 13, 14

D2 3 17

D3 21

E1 13, 15, 16

E2 6, 16

E3 22

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事例 1 秋田県のハタハタ漁業における減船・禁漁と数量管理

<背景>

・ 秋田県では、ハタハタは 1966 年に過去 高の 20,607 トンを記録し、1963 年から 1975

年までは 1 万トンを超える漁獲量を持続した。1975 年当時は海面漁業漁獲量の 1/2、漁

獲金額の 1/4 を超え、秋田県漁業においてハタハタは重要な地位を占めていた。

・ ハタハタは秋田県民にとっては欠くことが出来ない魚として食文化が存在している。

<問題>

・ 1975 年以降、ハタハタ漁獲量は減少の一途をたどり、1991 年には過去 低の 71 トンに

終わっている(B-1 生産量の低下)。このような資源減少の背景には、「(ス)生態系

本来の資源変動の存在」、「②特定資源への操業の特化」や、「A-2 生態系・環境の悪

化」として産卵場としての藻場の減少がある。漁獲の減少により「E-1 地域の魅力・文

化の低下」も起きた。資源の悪化により漁業は「(え)過剰資本・過剰装備」となり、

「C-2 経営の悪化・不安定化」が生じ、「D-1 地域の活力低下」が起きた。

・ ハタハタは、秋田県内では沖合での底びき網と沿岸での小型定置網・刺し網により漁獲

されており、「(イ)多様な漁法の存在による漁業調整の複雑さ」がある。

・ 底びき網の漁獲におけるハタハタの地位は、1975 年には量で 44%、額では 1/4 を占めて

いたのに対し、1980 年以降は量では1けたの%となった。一方、沿岸での漁獲は第 2

種共同漁業として各漁協で定められたはたはた小型定置網漁業とはたはた刺し網漁業

によるが、これらの漁法はハタハタの産卵接岸期にハタハタを狙って操業するものであ

り、ハタハタに 100%依存する漁業である。沿岸漁業者にとってこれらのハタハタ漁業

は正月前の貴重な収入源であった。沿岸漁業者は長期間にわたりハタハタを追いかけて

操業する底びき網が漁獲減少の原因であると主張する反面、底びき網漁業者は産卵群を

集中して漁獲する沿岸漁業者が悪いという主張であり、両者間の反目は大きなものがあ

った。

<取り組みと効果>

・ 1991 年にハタハタの漁獲量が過去 低の 71 トンに終わったことで、関係漁業者の間に

は危機感が広まり、2 月に緊急全県組合長会議が開催され、全面禁漁を含めてハタハタ

資源対策に取り組むことについて合意を得た。その後 3 月には秋田県水産振興センター

によるシミュレーション予測、4 月から 5 月に各漁協の漁業者に対しての現地説明会を

開催した。当初は全面禁漁は困難という意見が大勢を占めていたが、漁業者がハタハタ

資源の状況に強い危機感を抱いていたことから、徐々に全面禁漁やむなしという方向に

進んでいった。そして「(イ)多様な漁法の存在による漁業調整の複雑さ」を乗り越え、

1992 年 10 月1日に、10 月1日から 1995 年 6 月 30 日までの間ハタハタ採捕を全面禁止

する「はたはた資源管理協定書」が関係漁協の間で締結された。

・ ハタハタ禁漁期間中の代替資源として、沿岸はトラフグ、沖合はアンコウの好漁があ

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り、漁業収入を支えた(②特定資源への操業の特化の回避)。

・ 行政も様々な支援を実施したが、代表的なものをあげると、1つは底びき網漁業の減船

事業で、減船等に伴い不要となった漁船と漁具の残存価額への国と県の補助金である。

また、沿岸の小型定置網と刺し網に対しても統数削減に伴う不要漁具の漁協による買い

取りへの補助金が拠出され、8 つの漁協で定置網 297 統、刺し網 1,797 反が処分された。

これにより、「(え)過剰資本・過剰装備」は解決に向かう。また県は藻場造成やふ化

放流を行い、「A-2 生態系・環境の悪化」の影響を軽減させた。

・ 1995 年 10 月1日からのハタハタ解禁に当たり、県水産振興センターは資源調査結果か

ら秋田県の資源量は「禁漁前の 2 倍の約 1,000 トン」で、「このうち漁獲の対象となる

2 歳魚以上は 360 トン」と推定した(A-1 資源の回復)。また、資源を減少させないた

めには各種の資源管理措置を実施しつつ漁獲率は 0.5 に押さえるべきとし、この数値を

もとに漁業者の任意団体であるハタハタ資源対策協議会で協議を行った結果、1995 年 9

月 2 日に漁獲可能量は合計 170 トン、うち沿岸 85 トン沖合 85 トンの均等配分と決定し

た((あ)漁業種間調整の成功)。

・ 沿岸では 12 漁協の 17 地区に、2 割の 17 トンを均等割りし、残る 68 トンは 12 漁協に過

去 5 年間の実績割りとして配分し、12 漁協のうち 9 漁協では「オリンピック方式」、3

漁協では主として IQ 制で管理された。沖合の底びき網は、3 漁協に 85 トンの漁獲可能

量の 1 割に当たる 9 トンは 3 地区均等、4.5 割の 38 トンは過去 3 年間の漁獲実績割りに、

残る 4.5 割の 38 トンは隻数割り、ただし沖底1隻は小底 1.5 隻分として配分された。2

漁協では IQ(船別個別割り当て)が行われ、1漁協では共同操業・プール制で管理さ

れた。

・ 解禁後の 1995 年には沿岸は割り当てを 4%上回る 88.7 トン、沖合は割り当ての 63%に

あたる 53.8 トンだった。底びき網の水揚全体では量では 2%だが、額では1割を超え、

底びき網の魚種区分別漁獲額ではカレイ類、ヒラメに続き、ハタハタは第 3 位の魚種区

分となった(B-1 生産量の回復、C-2 経営の改善・安定化)。

<考察と今後の課題>

・ ハタハタの復活は地域の食文化の復活でもあるが(E-1 水産業・漁村文化)、解禁当所

は魚価が高騰し、地元の新聞で批判記事が出る等、一部県民の批判もあった(C-1 消費

者ニーズに対応できない)。

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事例 2 川内町漁協ナマコ管理の事例

<背景>

・青森県下北半島南西部の陸奥湾に面して位置する漁協(2004 年現在の組合員数 236 名)

<問題>

・川内漁協では、ホタテに特化した操業(水揚げの過半)がおこなわれ、「②特定資源への

操業の特化」が進んでいた。近年、生産過剰による全国的なホタテの「⑥魚価の低下」が

進むなか、1996 年ごろから近隣地区との「(あ)漁業調整不全」や「A-2 環境の悪化」が

原因とおもわれる「B-1 生産量低下」により、「C-2 経営の悪化・不安定化」が顕在化。

・1998 年ごろからのナマコの「(セ)国際需要変動」(主に中国を中心とした需要急増)を

受け、漁獲量が急増したが(このこと自体は幅広い漁場資源の活用として評価できる)、

その結果乱獲が生じ、大型ナマコの減少に加え、稚ナマコも減少するなど「③不合理漁獲」

の兆候がでてきた。

<取り組みと効果>

・これまでも、青年部を中心に、自主的調査、植林などを実施してきた。

・1999 年に漁協内部にナマコ資源有効利用推進協議会を設立。桁網の漁獲効率、ナマコ資

源分布、資源量推定を実施。また、2001 年からはナマコ礁や天然採苗試験も実施。自主

管理により、禁漁区や体長制限、採捕量制限を実施。これらの取り組みにより、科学的

知見の整備とモニタリングにもとづく自主管理施策を実現し、「A-1 資源の維持・回復」

と「B-1 生産量の増大」、「C-3 国際競争力のある商品づくり」を実現させた。

・同時に、地元自治体や試験場、民間企業の協力により、流通ルート・販売方法の工夫や

干しナマコ生産技術の習得を併せて実施したことにより、販売価格の改善も実現された。

・2003 年には原因不明のホタテ大量斃死が発生し、一年貝は全滅したが、その突発的損害

を埋めるために一時的にナマコ漁獲量を増加させたことにより、窮地をしのぐことがで

きた。つまり、資源量の維持や操業の多角化(幅広い漁場資源の活用)と、現場での販

売意識の改善にもとづくマーケティングや流通システムの工夫により、「C-1 経営の改善

と安定化」にも寄与した。

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事例 3 赤須賀漁協のハマグリ資源回復の事例

<背 景>

・赤須賀漁協は伊勢湾に注ぐ揖斐川河口に位置し、赤須賀産ヤマトシジミは日本有数の生

産を挙げている。

・組合員は 160 名(秋田組合長)でシジミ、ハマグリ、アサリなど周年採貝操業が主たる

漁業で、2004 年の貝類漁獲高は 6 億 2 千万円である。

・木曽三河口域で漁獲されるハマグリは昔から「桑名のハマグリ」と称され歴代将軍へ献

上され、名物「焼き蛤」は三重県の特産品としても有名。

<問 題>

・かつての赤須賀漁協では、魚、エビなど 30 魚種以上を対象とした多種多様な漁業が営な

まれていたが、漁場環境の変化とともに現在の採貝漁業が中心となり、「②特定資源への

操業の特化」が進んでいる。

・主漁業である、シジミ、アサリの生産も 1980 年以降「B-1 生産量の低下」が続き現在で

は、シジミでは 1980 年当時の 1/4 の漁獲量となっている。

・ハマグリの生産も同様で、昭和 40 年代に年間 3,000 トンの漁獲が 1995 年には 1 トン以下

にまで落ち込んだ。急激な減産化には、漁業管理上の問題以外に環境劣化が大きく介在

しており、①生息場である干潟の消失、②有機物の堆積による貧酸素水塊発生の増加、

③長良川河口堰の運用など「A-2 生態系・環境の悪化」が原因と考えられる。

<取り組みと効果>

・「A-1 資源回復」に向けた漁協独自の取り組みとして、出漁日数制限(2 回/週)、漁獲量制

限(現行ではアサリ、ハマグリは 30Kg/day、シジミは 160Kg/day)などの取決めを実施。

また、県の指導を受け、1975 年以降種苗生産によって 3mm サイズ稚貝 100 万個を放流し

ている。但し、密漁による被害も増大傾向にあり対策に苦慮している。

・近年、ハマグリ資源が回復傾向にあり、年間 80 トン程の漁獲量が維持されているが、こ

れは主に天然資源の加入によるものである。資源回復の要因としては、組合による漁業

管理、種苗放流に加え、生息場である干潟の再生(2 か所、10ha 規模の人工干潟造成)や

排出負荷の総量規制による水質環境の向上など「A-2 生態系・環境との調和」が大きいと

考えられている。

・赤須賀の豊かな漁場を守り、次世代に残すために、1)上流の森造成(三重県漁民の森

造成運動)、2)干潟環境の維持(小学生を対象にした干潟観察会)などに取り組んでい

る(A-2 生態系・環境との調和)。

・学校給食の献立にシジミ汁を提供し食育を進めるとともに、シジミ漁業見学、干潟観察

会などを実施して、産業としての漁業と漁場環境保全について理解を深める活動を実施

している(E-2 余暇・海レク・景観)

・「D-1 地域再生」として、「赤須賀漁業まつり」を 2000 年から開催し、都市住民との交流

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Page 131: 我が国における総合的な水産資源・漁業 の管理のあ …...はじめに 独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の水産資源・漁業の総合的な管理の

を図るとともに、木曽川上流・東白川村との交流「海と山の交流」も 2000 年以降継続実

施し、水系としての環境保全意識を育てる努力をしている(D-2 沿岸域の総合的管理と

防災)。

<考察と今後の課題>

・東京湾、伊勢・三河湾、大阪湾等などの内湾では、河川由来の排出総量規制により窒素、

リンは昭和 50 年代後半に比べ大幅に減少している。水質の向上には効果的であるが、底

質の改善やそれに伴う、貧酸素水塊発生の緩和には期待されるほどの効果はみられず、

反対に回遊性魚類やノリなどペラジックな生産に対してはマイナスの作用も指摘されて

いる。

・伊勢湾・有明海に顕在化しているノリ養殖の生産過剰と過度な漁場占有率は物質循環の

面から、二枚貝の生産や魚類・エビ類の生産に悪影響を及ぼしている可能性がある。調

和のとれた漁業生産構造は「A 生態系・環境との調和」及び「C産業の健全な発展」に

は不可欠である。

・伊勢湾における、 近の漁業従事者の意識には、3K 的な漁船漁業、ノリ養殖から経済的

安定性と比較的過重労働の少ない採貝漁業への志向性が若年層で高まり、多様性のある

漁業の維持が困難となっている(D-3 ライフサイクルに応じた雇用機会の減少)。

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事例 4 サンマ漁業の事例

<背景>

・ 従来サンマ漁業は生産調整組合法等により生産調整が行われてきた経過がある。TAC 制

度の導入以降、安定した漁獲量、漁獲高で経過し、制度導入以前に比較しては安定した

漁業経営がなされていた。

・ 水産庁は生産者側とともに、関連業者等への影響も勘案したTAC設定を検討していた。

・ 20-30 万トンの漁獲量水準にあり、資源が高水準であれば現漁船勢力でさらに数十万ト

ンの漁獲量増も可能とされている。サケ・マス漁業の裏作としてのサンマ棒受網漁業か

ら、短い漁期ではあるもののサンマ専業船が増加している。

・ 高齢船の割合が増大している。

・ 台湾、韓国、ロシアを含めた場合、近年の日本の漁獲量割合は 50%を下回るまでに至り、

サンマは国際商材となっている。国内では、刺身による利用が開発され定着した。

<問題>

・ さんま選別機(セパレーターの隙間の間隔の大きいもの)が漁船に搭載され、鮮魚販売

に対応した大銘柄の水揚割合が極めて大きくなり、値崩れする傾向が顕著となっていた。

・ 中小銘柄の加工用のサンマの供給、安定した流通量の確保、養殖餌のサンマの確保、等

について、関連業界から生産者団体及び水産庁への要請がなされるようになった。

<取り組みと効果>

・ TAC案へのパブリックコメントに対する水産庁からの従来の回答では「漁獲可能量は、

資源の動向等を基礎に漁業の経営その他の事情を勘案して定めることとされています。

サンマは漁獲量の増減が漁業経営に大きな影響を与えることから、将来に向けて安定的

な供給を確保する観点から、漁獲可能量を安定的に設定することに配慮することが必要

と考えています。17年の漁獲可能量については、サンマの水揚金額が も大きくなるの

が漁獲量20万トン程度であることを勘案しつつも、関連産業への影響を重視して、16年

と同じ28万6千トンとしたところです。・・・漁獲可能量制度を適切に運用するために

は、漁業者自身が資源管理に積極的に取り組むとともに、水揚げの集中による価格の乱

高下、過剰な設備投資の抑制等を図る必要があることから、漁業者による自主的な協定

の締結を指導しているところであり、月別漁獲目標は、このような協定の趣旨に則して

設定されているものです。国としては、サンマ生産者と流通・加工業界とが良好な関係

を維持・構築できるよう、生産者側に対し、意見交換の場を設けることなどを指導して

参ります」とある。

・ これに従い、水産庁はサンマ関係の生産者団体、流通業者団体等に出席を求めて、サン

マ関係者懇談会を毎年開催してきている。これは「柔軟な調整システムが存在し、産業

として歴史が長く安定供給の知恵が蓄積」していると言えよう。

・ 基本計画におけるサンマの中期的管理方針は、「漁獲量の増大により漁獲金額が減少す

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る傾向が顕著であることから、将来に向けて安定的な供給を確保する観点から、資源に

悪影響を与えない範囲内において、漁獲可能量を安定的に設定するものとする」となっ

ている。これは、「A 資源・環境保全の実現」、「B 国民への食料供給の保障」、及び「C

産業の健全な発展」が我が国漁業には 3 者共に必要であることを示していると理解でき

る。

・ サンマの TAC は 2006 年当初の 28 万 6 千トンから 2008 年の期中改訂で 45 万 5 千トン

と順次増枠されてきている。審議会資源管理分科会において、このうち 2006 年当初の

28 万 6 千トンは、費用と価格形成との関係等から 20.5 万トン~26 万トンを TAC 数量の

候補(委託調査において中央水産研究所水産経済部は当時の需給関係、漁船勢力と社会

的余剰を勘案、TAC の定義に反するが漁業生産の 低数量の案を社会的情報の整理とし

て案出)の範囲とし、これに外国割り当て分を考慮したうえで前年と同数量に設定。以

降の TAC 増大については既公表の平成 19 年分科会議事録によれば、漁期終盤における

産地水産業への供給、ミールや餌料用需要の増大、加工・生鮮向け需要も堅調、資源は

高水準であることによる。

・ 自主的協定による積荷制限については撤廃したうえで、水揚げの平準化が行われている。

・ 水産庁は、さんま船上選別機(セパレーターの隙間の間隔が 8mm を超える等のもの)

は禁止する取り扱い方針とした。これは、「B-1 生産増大と自給率改善」とともに「C-1

消費者ニーズへの対応」、「C-2 効率的・安定的な経営の実現」に繋がる施策と言える。

<考察と今後の課題>

・ 水産総合研究センターにおいては、未利用資源である公海の沖合サンマ資源について漁

場開発を行うとともに、国内生鮮市場と競合しない市場を開発するため、市場評価を踏

まえたミール製品等の生産体制の開発に取り組む計画が進行している。これは「C-2 効

率的・安定的な経営の実現」及び「C-3 国際競争力のある商品づくり」のためであり、

「B 国民への食料供給の保障」の全ての基盤となる。また、サンマが国連海洋法の定義

からは高度回遊性魚種であり、「A-3 国際的管理体制の構築」を見据えた課題とも考え

られる。

・ 農林水産省は輸出ビジネスモデル実施者の一つとして全サンマを選定・支援している。

これは「自然的・地理的条件に恵まれている」「日本産ブランドの評価が高い」ことを

背景とした施策と考えられる(日本水産(株)等も輸出用サンマの商品化に着手)。2008

年末からは急激な円高により輸出量は伸び悩んでいるが、これは同時にサンマに日本産

ブランドが確立されていないことを示しているとも言えよう。

・ 輸出は近年増大しているが、「B.国民への食料供給の保障」、「C.産業の健全な発展」の

ためには、漁業生産増が、利用加工、ミール、養殖餌、輸出、新開発製品にどのように

配分され、価格が形成されるかを注視しつつ、調査研究から関連業種を含めたサンマ漁

業のあり方までに議論を進める必要がある。

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事例 5 北部太平洋大中型まき網漁業の事例

<背景>

・ 大中型まき網漁業は我が国基幹漁業の一つである。その主対象資源であるマイワシ、マ

サバ・ゴマサバ、カタクチイワシは、気候海洋変動に伴い資源量が長期的似変動するこ

とが知られている((ス)生態系本来の資源変動の存在)。

・ 各許可には操業区域、制限又は条件が与えられている(総合的漁業調整による柔軟な調

整システムの存在)。また、入り口(許可数)規制の他、TAC 制度導入以降、ここで主

に取り扱う 8O トン型大中型まき網漁業が主対象とするマイワシ、マサバ及びゴマサバ、

マアジ、スルメイカには漁獲可能量(TAC)が基本計画で示され、指定漁業等の種類(大

中型まき網漁業)別に定める数量が決定されてきている。

<問題>

・ 本来、船団規模等は資源水準に併せたものとすべきである。しかし現状では、マイワシ

の豊漁期であった 1980 年代の後半に新造した漁船(主に大型運搬船)の存在に起因す

る「(え)過剰資本・装備の存在」が、「④高コスト化」をもたらし、「C-2 経営の悪化・

不安定化」が発生している。さらに「(タ)燃油価格の上昇」により、経営悪化に追い

打ちをかけた。

・ こうした経営事情から、1992 年及び 1996 年に発生したマサバ卓越年級群については未

成魚中心の漁獲が行われ(③不合理漁獲の存在)、「A-1 資源が回復しない」状況が続い

た。その結果、生鮮流通及び加工に適した魚体が不足し(B-3 供給の不安定化)、「(き)

地元加工業の衰退」の一因になったと考えられる。マサバ大型魚の供給ではノルウェー

等からの輸入が大きな位置を占めた(近年はその割合は大きく低下している)。

・ 世界的な食料需給の逼迫等により、マサバ小型魚を中心とする輸出が急増している((セ)

国際需給変動)。同時に、国内では養殖餌が不足し、単価も上昇している(⑥魚価の不

安定化)。

<取り組みと効果>

・ TAC 制度では、水産資源の動向等を踏まえ、水産物供給の担い手である漁業の経営状況

等に配慮しながら、関係者の合意を形成しつつ、出口管理を実施している。

・ また 2003 年より、マサバ太平洋系群に資源回復計画を導入し、減船による「過剰資本・

装備の解消」を行うとともに、多獲された翌日の休漁と可変費用の一部への補助(経営

支援措置)を実施してきた。その結果、2004 年級については、3 歳魚までの残存量が増

加したとみられている(A-1 水産資源の維持・回復)。

・ 大中型まき網漁業の生産者団体は、「大中型まき網漁業の中長期展望」を公表した。漁

船漁業構造改革に併せ「C-2 効率的・安定的な経営の実現」、「C-4 労働環境の整備」に

向けた、ミニ船団化、作業省力化によるフィッシュポンプの導入、運搬船の共用等によ

る経費削減等が一部の船団では実現されつつある。

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・ 漁獲後のスラリーアイス(微細粒子状の流動状氷)の使用や船上凍結等、「販売意識・

衛生意識の高揚」による漁獲物の高品質化に向けた取り組みが進められている(C-1 消

費者ニーズへの対応)。また、新たな漁具・漁法の開発として、水産総合研究センター

開発調査センターを中心に、まき網漁業の対象魚種であるさば類などを漁獲できる中層

トロールの開発、船上でスリミ等を作成する技術開発も行われている(C-3 国際競争力

のある商品づくり)。

<考察と今後の課題>

・ 「A 資源・環境保全の実現」のためには、レジームシフト等を前提とした漁業管理施策

を展開する必要がある。そのためには、変動性・不確実性に関する「科学的知見・モニ

タリング体制の整備」を進めるとともに、TAC 制度と資源回復計画の二つの管理制度が

あいまった具体的な目標設定、公的資金の導入等の順応的実施が必要である。

・ 新水産基本計画では、漁獲量の個別割当(IQ)方式に関し、漁獲競争の抑制や計画的な

漁獲活動の促進の面で効果が期待されるため、本漁業も含めた導入の検討を行うとして

いる。実際に北まきでは、自主的取り組みとして、漁期後半に IQ 的な取り組みが試行

されており、その有効性等を科学的に評価する必要があろう。また、漁期内の水揚げ平

準化や未成魚採捕の回避など、合理的操業を実現するための検討も始まっている(C-2

効率的・安定的な経営の実現、A-1 水産資源の維持回復)。我が国では多様な漁業種類

が存在し、漁船・水揚港の多さに起因して遵守徹底が難しいといった側面があることを

踏まえた検討が重要である。

・ カタクチイワシ等の低(未)利用である資源利用の試験研究も進展している。これは、

消費者ニーズを踏まえつつ「②特定資源への操業の特化」を緩和することによって「B-3

供給の安定性の確保」を図ると同時に、「C-2 効率的・安定的な経営の実現 」に向けた

取り組みとして位置づけられる。また、低(未)利用資源の有効活用は「B-1 生産増大

と自給率増大」への効果も期待できる。

・ 小型魚、特にさば類の若齢魚については、国内養殖餌仕向けと輸出が競合し、養殖餌の

確保が困難となってきている。「A-1 水産資源の維持回復」、「B-1 生産増大と自給率増大」

という目的に照らした時、この小型魚漁獲がどの程度の影響を与えているかを定量的に

分析する必要がある。その結果に基づき、漁業生産と流通業、加工業等関連産業、販売、

消費まで一体化した視点からの取り組みが必要とされている。

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事例 6 鹿児島県奄美大島海区における浮魚礁の設置

<背景>

・ 奄美大島の名瀬漁協では近海カツオ釣り漁船 2 隻が漁業生産組合を作って操業。瀬戸内

漁協は、かつお一本釣りは 7 隻(2000 年現在、以下同じ)あり、旗流し釣りは、年間を

通して旗流し釣りだけを行う船が 4 隻あった(②特定資源への操業の特化)。

<問題>

・ 1983年カツオが不漁のため名瀬漁協の生産組合は解散寸前であった(B-1生産量の低下、

C-2 経営の悪化・不安定化、D-1 地域の活力低下)。

<取り組みと効果>

・ 名瀬漁協組合長が 1982 年に鹿児島県漁業振興大会・漁村青壮年婦人グループ実績発表

大会において、甑島手打漁協が実施する「漬漁業」によるカツオ好漁の情報を入手。加

えて、沖縄県地方紙において、与那国、伊良部漁協等のパヤオ(浮魚礁)漁の記事を読

み、名瀬・瀬戸内漁協役員・町役場職員等が 1984 年 2 月に沖縄県宮古島、伊良部島調

査に行ったところ、カツオやマグロがパヤオ周辺で好漁であった((く)漁協の指導機

能)。そこで名瀬漁協でも名瀬市の 1/3 補助を受けて 1983 年度中に浮魚礁を設置する

こととなった((う)技術開発)。浮魚礁は 1984 年度から県単事業での補助が開始さ

れ、1994 年度からは第 4 次沿整事業による国の補助事業が開始された。

・ 浮魚礁の設置により、これまで漁場探索にかけていた時間・燃料が節約され、水揚量も

安定化した(B-1 生産量の回復、④低コスト化、C-4 労働環境の改善、①変動性・不確

実性への対応)。

<考察>

・ また、遊漁案内業者による利用も行われているが、準組合員となっているため、これま

で大きな問題は発生していない(E-2 余暇・海レク・景観)。

・ 浮魚礁の設置を巡っては、かつて沖縄・鹿児島の沿岸漁業者と宮崎の近海かつお一本釣

漁業者の間の調整問題等、発展過程で調整問題も発生したが((イ)多様な漁法の存在

による漁業調整の複雑さ)、近年は設置と利用についてある程度のルール化が確立した

ものとみられ、トラブルが長期化することはない。鹿児島県が奄美大島海区に設置した

沿整事業による大型浮魚礁においても、沖縄県・宮崎県の沿岸漁業者や、沖縄県の近海

かつお釣り漁業者が協議会の承認を受けて操業を行っている((あ)漁業種間調整機能

の改善)。

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事例 7 北海道標津町の地域 HACCP 導入の事例

<背景>

・ 標津町は北海道東部の根室海峡の奥に位置する漁業集落で、北に知床半島、南に野付半

島、東に国後島に囲まれている。

・ 標津町の水産加工業の中心はイクラ、筋子の製造である。

・ 人口は 6,151 人、従業者数 2,274 人の内、製造業には約 2 割が従事し、食品製造業は 86%

を占める(2005 年)。

・ 漁獲量は 22,776 トン、漁獲金額 56 億円。そのうち、サケが 42 億円でホタテが 12 億円で

ある(2005 年)。サケとホタテ併せて漁獲金額の 96%になる。

<問題>

・ 標津町地先は漁場が狭く水深が浅いため、サケ定置網漁業への依存度が極めて高く、水

揚げ量の影響を受けやすい(B3 供給の不安定化、②特定資源への操業の特化)。

・ 1990 年代から秋サケ魚価の低迷が起き、2003 年は近年では 高の漁獲量となったが、金

額は 低であった(C2 経営の悪化・不安定化、⑥漁家の低下・不安定化)。

・ 1998 年に O157 によるイクラの食中毒事件が発生した。標津町内の水産加工場が原因で

はなかったが、著しい風評被害を被った。秋サケの加工製品に依存する比重が高い標津

町にとって深刻な事態であった(B2 食の信頼・安全性の低下)。

<取り組みと効果>

・ 危機感を持った標津町の水産加工業者は、水産加工振興協会を設立(1998 年)。工場で

使用する水の完全殺菌を実施した。また、1999 年には HACCP 推進連絡会議設立。品質

管理マニュアルを策定し、2000 年からは地域 HACCP を実行した。

・ 漁業者は船を大型化して積載量を増やし、漁場との往復回数を減らした。また、船を清

潔に維持し漁獲したサケは水氷と共に船倉内で保管され、魚体腹部内の温度をチェック

して漁獲物の品質・鮮度向上をはかった(C-1 消費者ニーズへの対応)。

・ 漁協の市場では、床面の殺菌洗浄、専用タンクと魚箱を利用した競りを行い、サケはタ

ンク毎に加工場へ輸送された。加工業者はマニュアルに基づいて加工する。従業者の健

康状態、使用水の管理が記録保管される。運送業者は輸送の温度条件を維持し、経時的

に記録保管される。全ての工程を通過した製品は地域 HACCP 認証のラベルが添付され

る(B-2 食品の信頼・安全性の確保)。

・ 地域 HACCP 導入への取り組みによって、魚価は導入前の水準を上回るようになった

(C-2 効率的・安定的な経営)。また、地域 HACCP は標津産水産製品の宣伝効果につな

がり、観光客の誘致に役立っている(E-2 余暇・海レク・景観)。

・ 標津町が町ぐるみで地域 HACCP による衛生管理を行っていること、秋サケを原料とし

た加工に特化してきたことから、秋サケの未利用資源を商品化する新しい産業が立地し

た。2007 年に北日本化学が標津工場を稼働し、イクラ製造後の卵巣外皮から健康食品や

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化粧品の原料となるサーモンオリバーペプチド(SOP)を製造販売する事業を開始した

(D-1 地域再生)。

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事例 8 北海道東部地域の秋サケ処理能力増強の事例

<背景>

・ 北海道東部のオホーツク海側の網走漁協、斜里漁協、ウトロ漁協及び根室海峡側の羅臼

漁協、標津漁協、野付漁協の地先は、我が国有数の秋サケ定置網漁場である。

・ これら 6 単協による秋サケの水揚げ金額は、北海道全体の 5 割以上を占めている。

<問題>

・ 漁協の水揚げ金額に占める秋サケ定置網漁業の比重が大きい地域である(②特定資源へ

の操業の特化)。

・ 1990 年代にふ化放流事業の効果によって秋サケの回帰資源が急増したこと、同時にチリ

やノルウェーから養殖サケの輸入量が増大したこと、消費者の嗜好が塩蔵サケから生鮮

サケへとシフトしつつあったこと、さらに外食産業の普及などによって、国内のマーケ

ットでは秋サケは供給過剰状態に陥いり秋サケの産地価格は低落した(⑥魚価の低下・

不安定化、B-3 供給の不安定化、C-2 経営の悪化・不安定化)。

・ 塩蔵サケ主体の加工態勢であったため、水揚げ地には秋サケをニーズに合わせて大量処

理加工できる施設や、生鮮に対応する冷蔵保管施設が整備されていなかった。水揚げさ

れた秋サケは漁港に山積みしなければならない状態で、価格の低下が一層助長された。

(C-1 消費者ニーズに対応できない)。

<取り組みと効果>

・ 1990 年代半ばに、国内のマーケットで過剰になった秋サケを処理する試案として、秋サ

ケを中国東北部に冷凍で輸出した。これが安価であったことと、天然魚需要の高まりか

ら、欧米輸出向けの加工原料として中国への輸出が 2000 年前半から本格化した。さらに

BSE(狂牛病)や鳥インフルエンザの問題によって水産物需要が拡大し、秋サケ輸出は軌

道に乗った。輸出価格の上昇が産地価格を上昇させ、価格低下に抑制がかかった。(C-3 国

際競争力のある商品づくり、C-2 効率的・安定的な経営の実現)。

・ 秋サケの輸出を可能にした背景には、水揚げされた秋サケのドレス加工施設と冷凍保管

施設の新設・整備への取り組みによるところが大である。今では道東地区の漁協では、

一日の水揚げが 500 トン以上であっても処理可能な態勢になっている。2007 年には斜里

漁協とウトロ漁協で 2,000 トン規模の水揚げがあったが処理が可能となった。国内加工向

け・輸出加工向けとニーズ対応して処理できる態勢になった(B-3 供給の安定性の確保、

C-3 消費者ニーズへの対応)。

・ 北海道全体では 1 日 8,000 トン台の処理が可能となり、集中的な水揚げがあっても価格の

暴落を抑制し、輸出可能な態勢が整備されるようになった。こうして水揚げされる秋サ

ケの約 4 割が加工原料として中国、タイへ輸出され、秋サケの価格安定と地域経済の振

興につながっている(D-1 地域再生)。

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事例 9 日本産スケトウダラの韓国等への輸出の事例

<背景>

・ 北海道では沖底や沿岸漁業(刺し網・底建網・延縄)により、岩手県では沖底により、

スケトウダラを漁獲している。

・ スケトウダラは、国内では鮮魚や冷凍としての利用が少なく、すり身加工原料魚として

の利用が多い。

<問題>

・ スケトウダラは、従来、すり身加工原料魚としての利用が主体であったため、価格が安

かった。

・ 釧路地区の沖底は、1990 年代後半にスケトウダラ漁獲量の減少や価格安により経営が悪

化し、「C-2 経営の悪化、不安定化」が顕在化した。その結果、1998 年に 6 隻が減船

した(以降、15 隻が操業)。

・ 岩手県沖底が宮古市(母港)に水揚げしたスケトウダラは、地元にすり身加工場がない

ため、宮城県石巻市のすり身加工場へ搬送されていた。

<取り組みと効果>

・ 韓国の沿近海漁業は、スケトウダラ漁獲量が 1998 年には 6 千トンであったが、海水温

の上昇による来遊量の減少や過剰漁獲により、2006 年には 60 トンに激減した。このた

め、韓国は、高品質の生鮮ものを専ら日本から輸入するようになった。日本から韓国へ

の生鮮ものの輸出量は、釧路地区沖底が も多い。釧路地区では、すり身向け原料魚が

1kg あたり 30~50 円程度の産地価格で取り扱われていたが、生鮮ものとしての輸出が

1999 年以降本格化し、輸出用生鮮ものの産地価格が 200 円台に上昇した。このため、沖

底 1 隻あたり生産額が、1990 年代半ばの 2.5 億円程度から、2000 年代半ばには 3.5 億円

程度に増加した(C-2 効率的・安定的な経営、C-3 国際競争力のある商品づくり)

・ 韓国の遠洋漁業によるスケトウダラ漁獲量は、ロシアでの漁獲量の減少や北海道沖操業

からの撤退などにより大幅に減少したため、1990 年代末からロシアや日本から冷凍もの

を輸入している。日本では輸出用冷凍ものの産地価格が 60 円前後であり、すり身加工

価格よりも高い。

・ 岩手県沖底が水揚げするスケトウダラは、従来、すべてが宮城県石巻市のすり身加工場

に搬送されていたが、冷凍ものが輸出されるようになると、宮古市の冷凍工場で冷凍す

るようになり、地元加工場の稼働率が向上した(D-1 地域再生)。

・ 釧路地区沖底は、網からあがってきた活きの良いスケトウダラを選んで船上で箱詰めし

ており、出荷後 5 日目に生鮮ものがソウル市に到着するが、高鮮度で保持されている

(C-1 消費者ニーズへの対応)。

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事例 10 秋田県における沖底漁船小型化の事例

<背景>

・ 秋田県沖底漁船のトン数階層は、1983 年当時 25~39.99 トンが主体であり、20 トン未満

の小型漁船がみられなかった。

・ 1980 年頃までは、アブラツノザメ、ハタハタ、スケトウダラ、マダラなどの多獲性魚種

を漁獲していたので、25 トン以上の比較的大型の漁船が必要であった。しかし、その後、

これら魚種が減少し、これら魚種に代わって、ホッケを大量に漁獲するようになった。

<問題>

・ 秋田県で沖底が も盛んな金浦地区における沖底1隻の乗組員は、1986 年当時は 5 人が

主体であったが、その後、バブル時期に漁業就業者が減少したため、乗組員が 4 人に減

少した。

・ ホッケの漁獲量は、1982 年が 4,631 トンのピークに達し、1991 年までは 1,000 トン台以

上の水揚げであった。ホッケは大きな魚群を形成するため、1網で大量に漁獲されるの

で、船上での漁獲物処理作業には大きな労働力が必要であった。

・ ホッケの魚価は、1986 年当時には 92 円で割高であったが、1994 年以降 20 円台が続い

たため、25 トン以上の漁船がホッケを満載して水揚げしても、採算割れの状態になった。

その結果、「C-2 経営の悪化、不安定化」と「C-4 労働環境の悪化」が顕在化。

<取り組みと効果>

・ ホッケの漁獲物処理作業は、5 人でも大変な作業であった中、現在のように 4 人に減少

した上高齢者が多くなると、ホッケを大量に処理することが困難になった。このため、

沖底は、ホッケ漁獲を敬遠して、沿岸寄りでカレイ類などの高価格魚を少量漁獲するよ

うになったことから、ホッケ漁獲量は、1992 年には 943 トン、1999 年には 272 トンに

減少した。

・ 1隻あたり全体漁獲量は、1982 年には 213 トンであったが、1992 年以降 100 トン前後

に半減した。しかし、1 隻あたり漁獲金額は、1991 年の 36 百万円から、1999 年には 50

百万円に増加したことから、カレイ類などの高価格魚の漁獲量の比率が高くなったこと

が推察される。

・ 金浦地区では、20 トン未満の漁船が 1998 年まで見られなかったが、2001 年には 3 隻に

なった。

・ このように、秋田県の沖底は、大量漁獲方式から少量漁獲方式に転換し、漁船の小型化・

コスト削減によって、「C-2 効率的・安定的な経営」を実現している。

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事例 11 神奈川県福浦地域の労働環境改善の事例

<背景>

・ 神奈川県福浦漁協地域の大型定置網は、戦前から漁協自営で存続してきた。そのため、

船頭と乗組員ともに、組合員が自ら営む自営漁業の傍らに定置網へ従事していた。しか

し、地域漁業の衰退とともに、定置網乗組員の減少と高齢化が進行した一方で、若年乗

組員の加入はなかった(⑦人材・後継者の不足)。

・ このような状況は、操業体制の不備や定置網の整備不良、市場対応の弱体化を引き起こ

し、経営の悪化を招いた(C-2 経営の悪化・不安定化)。さらに、経営の悪化は、給与

の低下や労働時間の増加を招くとともに、機械化による省力化などの設備投資を不可能

とした(C-4 労働環境の悪化)。このような労働環境の悪化は、ますます若年乗組員の

加入を減少させる。

・ つまり、人材・後継者の不足→経営の悪化・不安定化→労働環境の悪化、という悪循環

が繰り返されたのである。現在の我が国において、このような悪循環に陥った漁業経営

体が多く見られることから、重要な問題構造であると指摘することができる。

・ さらに、定置網の経営悪化は、漁協経営を悪化させるとともに地域の雇用機会を減少さ

せた((く)漁協の機能低下、D-3 地域漁民のライフサイクルに応じた雇用機会の減少)。

このような状況は、地域の活力低下を招くとともに(D-1 地域の活力低下)、若年漁業

者の不足と経営の悪化は、「(う)漁業の技術開発の停滞」をも生じさせた。そして、当

地域の大型定置網は操業不能に陥ったのである。

<取り組みと効果>

・ 操業不能に陥った当地域の大型定置網(有限会社)は、漁協自営から有限会社へ経営体

制を変えて再建が図られた。この有限会社は、漁業資材会社が出資して設立されたもの

である。

・ この有限会社では、定置網資材を 先端素材に切り替えるとともに、ネットホーラーな

ど省力化のための漁労機器などの設備投資を行うことで操業効率を高めた。

・ また、乗組員の固定給与分を増加させ、定期休漁日を設けるなど、乗組員の労働環境の

改善を図った(C-4 労働環境の整備)。そして、組合員や地域とは無関係に乗組員の募

集を行い、若年乗組員の確保に努めた。その一方で、定置網の漁労技術を熟知した社員

を船頭として送りこみ、若年乗組員の技術指導役を務めさせた。

・ このようにして確立された操業体制によって、定置網経営は改善の方向に向かった(C-2

効率的・安定的な経営)。そして、経営改善の結果、乗組員の歩合給が増加したことで、

若年乗組員の確保がしやすくなったということである。

・ つまり、漁業自営当時と反対に、労働環境の改善→人材の確保→経営の改善という好循

環となったのである。そして、大型定置の再建は、漁協経営へ寄与し地域雇用の増加を

もたらしたことで、「D-1 地域の活性化」にも貢献している。

- 142 -

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<考察>

・ 当事例は、定置網の経営形態の変化によって、操業効率や乗組員待遇を改善する資本投

資が可能となり、その結果として労働環境が改善され、人材・後継者の不足→経営の悪

化・不安定化→労働環境の悪化、という悪循環を断ち切ることが可能となったと理解で

きる。

- 143 -

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事例 12 岩手県ワカメ養殖の事例

<背景>

・ ワカメ産地は、岩手県が国内 大で約 40%のシェアを占めており、青森県や宮城県を含

めた三陸地域全体では約 70%のシェアを占めている。その他のワカメ主産地である鳴門

地域(徳島県・兵庫県)は約 15%のシェアである。

・ 三陸ワカメ・ブランドや鳴門ワカメ・ブランドは消費者ニーズが高く、量販店において

中国産塩蔵ワカメの 2~3 倍の価格を実現している。価格は 2001 年前後に一時期低迷し

たが、その前後の期間は平準あるいは高値を維持している。

<問題点>

・ 漁業は、高齢化、担い手不足による労働力低下が著しいが、岩手県ではワカメ養殖業は

労働力の低下が著しい漁業の代表的存在である。

・ 高齢化、担い手不足が起因して岩手県では毎年約 100 漁家がワカメ養殖業から離脱して

おり、生産量は 44 千トン(1985 年)、40 トン(1995 年)、28 トン(2005 年)と著しく減少し

ている。他の地域も同様に減少している。産業波及の側面を考慮すれば、ワカメ減産額

+αの域内生産額が地域において失われていると考えることができる。

<取り組みと考察>

・ 年間の作業別ワカメ養殖投下労働時間を分析した結果、3~4 月の収穫時期に 81%の労

働が短期集中的に投下されていることが明らかとなっている。この中でも、湯通し・塩

蔵・芯抜きが 58%、さらに芯抜き作業に大半の時間を費やしている。このことが過重労

働となり、ワカメ養殖業から離脱する漁家が続出しているのである。

・ この分析結果にもとづき、現在は芯抜き機械等の開発が進められているところである

(C-4 労働環境の整備)。

・ このように、漁業や経営の実態を分析することによって、その漁業が抱えている問題を

明確にし、政策の集中、補助金等の集中を図り、漁村新興、地域経済の維持を目指す研

究、政策が必要と考えられる。

- 144 -

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事例 13 徳島県伊座利地区の事例

<背景>

・ 徳島県の南部、海部郡美波町(旧 由岐町)の東端、リアス式海岸に位置する漁業集落。

・ 瀬戸内海由来の紀伊水道水と黒潮がぶつかり、豊かな漁場が形成。

・ 明治 23 年(1890 年)8 月、伊座利浦村漁業組合が設立

・ アワビ、サザエ、アラメ、イセエビ、ワカメ、ヒジキなど磯物の他、主要漁業として定

置網漁(ハマチ・ブリ・サバ・アジ・イサギ・タチウオ・スズキ・ イワシ・スマ・メ

ヂカ・カツオ・カマス・カワハギ・トビウオ・ヒラメ・タイ・ サワラ・アオリイカ・

アカイカ・スルメイカ・コチ・ホウボウなど)。

<問題>

・ 「漁業経営悪化」などによる過疎化が進み、人口は 盛期の 400 人から 1995 年に 97 人

へと減少した結果「人材・後継者不足」が問題となった。

・ 1992 年に、地元の学校である伊座利校(小中学校併設)が閉鎖の方針を発表し、「D1

地域の活力低下」が顕在化した。

<取り組みと効果>

・ 1999 年に、地元漁業者らを中心とした有志により、県内外の子どもたちを対象に定置網

漁やクルージング、地元料理などを体験してもらう一日漁村留学体験「おいでよ海の学

校へ」を実施し、伊座利校への転校をよびかけ。また、留学生を受け入れるためには全

住民で地域づくりを進める必要があるため、その主体として 2000 年に「伊座利の未来

を考える推進協議会」を漁協内に設立。また、外部からの知恵・意見を導入するため、

「伊座利の未来を考える応援団」を設立し、関西、関東、徳島市内などの都市部を中心

に約 600 名の団員。つまり、漁協を中心としたコミュニティーの組織化、イベント・PR

活動、参入者のための環境づくり、都市との連携を実施。

・ アワビ稚貝の放流や漁場作り、資源管理・密漁監視による資源回復と、出荷調整による

価格改善の取り組みにより、漁獲成績が向上。さらに、海藻アラメを商品化・特産品と

した。つまり、自主管理の実施と幅広い漁場資源の活用などにより、「A-1資源の回復」、

「C-1 消費者ニーズへの対応」「C-2 経営の改善・安定化」を実現

・ そのほかにも、鮮魚の通販の実施。震災時の疎開パッケージの提供(会費 5,250/年。震

災がなければ地元名産品と交換)。インターネットを使った魅力的な情報発信。住民が

管理運営する交流拠点施設「にぎわいの館(通称:交流会館 2000 年築)」の整備。休

業中の町管理キャンプ場を住民が整備・復活「倶楽部イザリ~ノ・キャンプ場」。美し

い自然とその恵みを保全するため、海岸や川、道路などの清掃(伊座利クリーンアップ

大作戦)などの活動。つまり、情報発信・マーケティングの実施、流通販路の開拓、多

面的機能の発揮などにより、「D-2 沿岸域管理の実施」、「E-1 地域の魅力・文化の改善」

を実現。

- 145 -

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・ 2007 年までに、13 回の漁村留学を実施。北海道、千葉、東京、京都、大阪、徳島市内

などから家族が転入し、伊座利校の生徒数は 2008 年に 24 人に、人口も 130 人ほどに増

加。住民の平均年齢も若齢化。「D-1 地域の活力の向上」、「人材・後継者不足」の改善

を実現。

- 146 -

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事例 14 熊本県天草市河浦町崎津地区における中小漁港整備の事例

<背景>

・ 熊本県の西部、天草諸島の下島西岸の羊角湾に面する漁業集落。天草灘に面する。

・ 天草中央漁協と統合し、崎津支所として今日に至る。

・ 手繰り網漁船 10 ヶ統。主な漁獲物はイトヨリ、マダイ、ヒラアジ類、コチ、カマス、

グチ、ハモ、ホーボーなど。

<問題>

・ 10 ヶ統の手繰り網漁船は、個別に販売事業を実施。水揚げ地が狭隘な集落内の 3 箇所に

分散していた。

・ 接岸条件が悪いために荷揚げ時間がかかり、かつ荷作りにも時間を要する。全船水揚げ

後に選別が開始されることや、道幅が狭い中での搬出作業に時間を要する→量が纏まら

ないことから熊本県内市場のみに出荷→十分な価格がつかない→評価の低い産地。

・ 「C-2 漁業経営悪化」などによる「人材・後継者不足」→「D-1 地域の活力低下」が顕

在化。

<取り組みと効果>

・ 第 9 次漁港整備長期計画の一環として 1998 年に荷捌き施設を整備。

・ 荷捌き施設開設前の水揚げ地は、狭隘な集落内の 3 か所に分散状態であったが、荷捌き

施設の整備により、従来午前 1 時であったトラック搬出時刻を夜 7 時の搬出時間を可能

とした。この結果、高鮮度な水産物を直送便で午前零時から 1 時半までの間に、混載便

でも 1 時半から 3 時までの間に福岡・北九州方面に輸送することが可能となり、出荷圏

域の拡大に成功(D-1 地域再生、C-2 効率的・安定的な経営の実現)。ちなみに 2000

年の年間出荷量 278.6 トンのうち 41%は福岡・北九州方面、32%は下関市場、13%は

筑後市場に出荷している。

・ 北九州中央卸売市場を例とした、魚種別・出荷地別入荷量と価格動向の分析によれば、

崎津地区からの底魚類の搬入が卸売市場において「供給増大効果(安定供給効果)」と「提

供期間の延長効果」をもたらしていることが観測された。例えば「グチ」を例とすれば、

崎津からの入荷は主力産地及び県内出荷量が減少して市場に品薄感が強い 10~12 月に

行われ、この期における崎津の入荷寄与率は 25~35%に達する(B-3 供給の安定性の

確保)。

<考察>

・ 福岡・北九州地域における大型量販店にテナントとして出店している「A 社」は、二年

前から高鮮度でかつ安定提供が受けられる崎津産の底魚を差別化可能商品として評価

し、優先的に購入している。そこで同社が出店している高級量販店「S」各店舗の二次

商圏人口を求めたところ 6店舗で 55万 6千人であった。二次商圏の販売シェアは 3~4%

- 147 -

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と想定しているので受益者は 22,222 人と試算された。この数は、中小漁港の水揚げ施設

整備により、従来よりも品質面で優れている底魚を居住地近隣で安定的に購入できると

いう便益を享受した消費者数として評価できる(C-1 消費者ニーズへの対応)。

- 148 -

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事例 15 刺身文化の伝播と輸出入の展開事例

<背景>

・ 韓国では、1990 年代に海洋法条約の一連の動きの中で、遠洋・近海漁業の漁場の縮小に

伴い、漁船漁業から養殖業への転換が図られた。

・ 韓国では、ヒラメは陸上水槽により、マダイは小割式生け簀により養殖される。ヒラメ

はほとんど自給しているが、マダイは水温が低く養殖生産量が少ないため、日本と中国

から輸入している。また、日本と同様に、タイやヒラメは高級魚として高い価格で販売

されている。

・ 韓国における刺身文化は、戦前に日本から持ち込まれた。日本の刺身は活魚と鮮魚の両

方から作られるが、韓国の刺身は活魚(養殖魚の利用が多い)のみから作られることが

多い。韓国国内では刺身消費量が増加している。

<問題>

・ 日本はマダイ養殖が、韓国ではヒラメ養殖が、それぞれ生産過剰である(⑥魚価の低迷、

C-2 経営の悪化・不安定化)。

<取り組みと効果>

・ 韓国のヒラメ養殖は、特に、済州道では、適水温の地下海水を利用して陸上養殖を行う

ので成長が早く、種苗から出荷サイズ(1.1kg)までの飼育期間が韓国内で も短いため、

生産コストが も少ない(済州道では、愛媛県よりも飼育期間が 2 か月短い)。その結

果、済州道のヒラメ養殖の生産コストは日本国内よりも低く、済州道のヒラメが日本へ

大量に輸出されている。

・ 韓国では、2005 年の養殖ヒラメ生産量が 40 千トンであり、このうち、5 千トンを日本

へ輸出し、大部分が済州道産である。日本国内における養殖ヒラメ総供給量に占める韓

国産ヒラメの比率は、2005 年には 55%に増加した。

・ 一方、韓国のマダイ養殖は、日本に比べて水温が低いので斃死率が高く、日本に比べて

生産コストが高い。このため、日本産マダイが韓国へ大量に輸出されている。

・ 日本では、マダイ養殖が生産過剰であるため、日本産マダイの一部を韓国へ輸出するこ

とによって、マダイ価格の低落を防止している面がある(C-2 効率的・安定的な経営、

C-3 国際競争力のある商品づくり)

・ 一方、韓国でもヒラメ養殖が生産過剰であるため、韓国産ヒラメの一部を日本へ輸出す

ることによって、ヒラメ価格の低落を防止している面がある。

・ このように日本と韓国は、相互に生産コストの低い養殖魚(活魚)を輸出して、相手国

の消費者に相対的に安い価格で刺身を提供している。このことから、日韓両国は、刺身

文化を共有しており、「E-1 水産業・漁村文化」を実現していると捉えることができる。

- 149 -

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事例 16 漁業産地の文化情報発信の事例

<背景>

・ 物心がついた時から、町のメインストリートはシャッター通りであるような環境で育っ

た高校生達は、活気、華やかさ、人も少ないこの町に将来性を感じることはできない。

そして、高校生達は町から離れ、町は高齢化・過疎化が進む。さらに、このような町で

は、観光名所となるような文化財等が存在しない限り、集客力も乏しい。このような町

は漁村・農村に非常に多い。

・ その一方で、このような町には都会に無いものも多い。大自然、静けさ、澄みわたった

星空、澄みきった川、そして美味しい水産物である。当然、その水産物を利用した食文

化も、多様性もある。

<問題>

・このような地域資産を有効活用できていない。

<取り組みと効果>

・ 五味の市(岡山県日生町):漁家の主婦が、ロットが揃わず、地域以外では食べ方も知

らない二束三文であった魚を市場で売り始めた。このときに、客とのコミュニケーショ

ン(セールトークも含む)で旬やその魚に纏わる情報も伝えるし、料理方法も伝え(E-1

水産業・漁村文化)、さらにその料理に応じた1次加工もその場で行う。加えて、市場

という鮮度感が溢れる場所で、活魚の品揃えも豊富で、鮮度の高さを売りにしている。

勿論、漁家直販ということで値頃感がある(C-1 消費者ニーズへの対応)。また、市場

の横に食堂も兼ねそろえ、地元の魚をその場で体験(食べられる)できるため、平日で

も観光バスが来る観光名所となっている(E-2 余暇・海レク・景観)。漁家の利益も大

きく、この直販部門だけで数百万円となる(C-2 効率的・安定的な経営)。

・ 三陸とれたて市場(岩手県大船渡市):インターネット水産物販売店。元々は零細鮮魚

店である。北里大学水産学部の近くに立地しており、6~7 年前に HP を北里大生に構築

してもらったことから始まる。この店の特徴は、情報の提供内容と提供量の調整(管理)

の品質の高さである。自動海洋観測装置を利用した欠品予想(漁獲予想)、浜のライブ

カメラ、料理方法、そして旬の魚の地元の情報などをリアルタイムで提供している(E-1

水産業・漁村文化)。また、インターネットによって顧客とつながっており、インタラ

クティブ・コミュニケーションを実現している(C-1 消費者ニーズへの対応)。零細鮮

魚店時は老夫婦だけの店であったが、その後、売り上げが順調に増加し、5~6 人(北里

大卒が 2~3 名)に増加している(D-1 地域再生)。

<考察>

・ これらの事例は、当事者が生産地の人間だったからこそ、地元の魚が美味しい時期、そ

の魚に適した料理方法、産地情報などの情報を熟知しており、さらにここにサービス、

- 150 -

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良の情報発信方法などを融合する能力があったことによって生まれた価値である。

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事例 17 沖縄県恩納村の環境・生態系保全活動の教訓

<背景>

・ 我が国においては、主に九州、奄美、沖縄海域においてサンゴ礁海域がみられる。この

サンゴ礁海域に攪乱を引き起こす大きな要因としては、海水温の上昇による白化、赤土

の流入、大量に発生したオニヒトデによる食害が挙げられている。

<問題>

・ このうち、オニヒトデについては、1940 年頃から琉球列島を中心として度々大量発生し

ていたとされている。 特にサンゴ礁に大きな被害をもたらしたものは、1970~1980 年

代を中心として県内全域で起こった大量発生である。1990 年代初頭にはオニヒトデの分

布密度は低下し大量発生は沈静化したものの、1996 年に再び恩納村で大量発生が確認さ

れ、その後、沖縄本島全域に広がり、2001 年には沖縄本島から西へ約 30 ㎞離れた慶良

間海域でも大量発生が確認された。2004 年に入り、宮古島、石垣島、西表島周辺でも大

量発生の兆候が確認されている(A-2 生態系・環境の悪化)。

<取り組みと効果>

・ 恩納村漁協では、1983 年以来、オニヒトデの駆除を毎年実施しているが、2000 年以降

は財政上の理由から、国及び県の支援を受けることなく駆除を実施しているのが実情で

ある(D-2 沿岸域の総合的管理と防災)。

<考察と今後の課題>

・ 地域の漁業者らによるこのような活動は、単に漁業活動への利益のみならず、幅広く国

民に利益をもたらす多面的な機能を有しており、漁業者だけに任せておけばいいという

性格のものではない。なお、恩納村におけるオニヒトデの駆除活動を、サンゴの CO2

吸収機能で経済評価すると 1,300 万円~1 億 3,000 万円になり、これを森林で代替した場

合東京ドーム 30~300 個分に相当する。

・ 我が国では、沖縄県内全域で起こった大発生に対し、1970~1983 年に 6 億円を投入して

1,300 万匹のオニヒトデを駆除した。しかし、その駆除方法が買い上げ方式であったた

め、その効果について当初から疑問視する向きがあった。買い上げ方式では、駆除数を

増やすためにオニヒトデの分布密度が高いところに駆除が集中し(CPUE が減少すると

他の海域への移動を繰り返し)、過密になったオニヒトデを適度に間引く効果を生み、

結果としてオニヒトデの大量発生を長期化させてしまったのではないかという意見で

ある。

・ この論議については、事業を企画した国からの反論(オニヒトデの大量発生の長期化は、

駆除によりサンゴが生残したためである)もあったが、海外でもこの事例がオニヒトデ

駆除の失敗事例として取り上げられるに及んで収束した感があり、現在では、沖縄本島

におけるオニヒトデの駆除方法でも買い上げ方式は行われていない。

- 152 -

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・ 今後行政がオニヒトデ駆除に対する支援措置のスキームを企画する際には、上記の経験

を十分留意する必要がある。また、農林水産省、環境省に分散し、積算方法が異なると

いう技術的問題点はあるにはせよ支援予算はある。要は、予算が限られた中での支援す

べき駆除実施地域の採択に当たっては、過去の駆除個体数の実績にとらわれることな

く、海域の重要性及びその地域の駆除プログラムの的確性等を十分勘案することが肝要

である。

- 153 -

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事例 18 産地市場再編の問題点

<背景>

・ 漁業協同組合は、近年、組合員数の減少や水揚の減少に伴い、縮小再編に向けた合併が

各地で進められている。漁協の合併によって、それまで各漁協にあった産地市場が拠点

市場に統合されることは自然の流れといえる。

・ 多くの場合、旧漁協の従来市場は廃止され、新たに拠点市場が新設されている。このよ

うな拠点市場の新設によって期待されることは、第1に人件費をはじめとするコストの

削減である。次に集荷量の増大に伴う販売力改善(その結果である魚価上昇や新規事業

展開)と考えられている。

<問題と考察>

・ 昨今、市場を新設する場合には、高度衛生対応型の市場でないと補助の対象とならない。

これは衛生管理に対する国民の期待の高まりを受けた農水省の施策の結果である(B-2

食の信頼・安全性の確保)。しかしながら、高度衛生管理型市場は建設コストが割高で

あることに加え、その運用にも多額の費用が必要である。前者については、合併助成金

が充てられることでクリアーされているが、後者については、漁協の経営を将来にわた

って圧迫する可能性が大きい。水産物卸売市場の衛生管理基準強化の方法としてハード

対策に偏っている点の是非については議論が分かれようが、仮に、ハード対策を中心と

するにしても、それに対する予算措置が不十分である結果、漁協経営の圧迫要因となる

点は大きな問題といわざるを得ない(C-2 効率的・安定的な経営)。

・ 漁協の販売事業は漁協の経済事業の中心であることから、合併漁協の経営は統合市場の

経営によって支えられているといっても過言ではない。市場が統合、大規模化すること

によって、集荷量や取扱魚種が増大し、販売力が改善されることが期待されている。す

なわち、それまでロットや魚種の不足が魚価安の一因とされてきたことから、それが改

善されれば魚価が上昇するという期待である。しかし、鳥取県や山口県の市場統合に伴

う魚価の追跡調査によると、魚価上昇はきわめて限定的であることが明らかとなってい

る。従って、市場統合に伴う魚価上昇期待に基づく経営試算はリスクが大きく、それに

よらない新規事業展開を検討することが必要といえる。さらに、漁協の事業であること

から、事業規模の拡大に伴う経営リスクの増大をどのような形でバッファーするかとい

うことの検討が必要である(C-2 効率的・安定的な経営)。

・ 漁村にとって、漁協や産地市場は経済の中心であり、それに依存して生計を立てている

企業や個人も多い。また、産地市場があることによって、漁村の賑わい、活気、観光が

維持されてきたといえる。被統合市場を抱える地区では、こうした産地市場がもたらし

てきた経済効果や活力効果の減少が問題となっている。東京一極集中化による都市と地

方の問題のミニ現象のようなことがまさに漁村地域で起こっているといえる。漁協の経

営改善は必要不可欠であるにしても、地域対策も併せて行うことが必要であろう(D-1

地域再生)。また、産地市場統合は漁業者の生産活動等にも影響を与えていることから、

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その 適規模や配置の検討が重要である。

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事例 19 養殖対象種の天然魚価格の低下

<背景>

・ 日本国内で水産物輸入量が増加する以前には、産地市場で競り落とされた価格に、運送

費等の流通経費を上乗せした価格が、消費地市場の価格の目安となることが多かった。

・ しかし、国内価格よりも安い輸入水産物が大量に国内で流通するようになると、消費地

市場価格は産地市場価格に連動しなくなり、産地価格が低迷するようになった。

・ 養殖魚の生産量が少ない頃には、養殖対象種の天然魚価格は比較的高かった。

<問題>

・ 近、養殖対象種の天然魚価格の下落が続いている。下に、日本における主要な天然魚

種6魚種の価格(消費者物価指数の補正済み)の推移を例示した。

・ このうち、クロマグロ、サケ類、ヒラメの3魚種は既に養殖(外国からの蓄養・養殖魚

輸入を含む)が行われており、1970 年以降では、2005 年にいずれも 低価格を記録し

た。

・ 一方、マイワシ、マダラ、スケトウダラは日本では養殖されていないため、価格の低迷

が見られず、 低価格がいずれも 1985 年以前であった。

・ 日本では、養殖魚の価格があまりにも低落しすぎたため、養殖対象種の天然魚価格も低

下が続いているものと思われる(⑥魚価の低下・不安定化)。

日本における主要天然魚種の価格の推移(漁業・養殖業生産統計年報より作成)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

価格

(円

/kg

クロマグロ

ヒラメ

サケ類

マダラ

マイワシ

スケトウダラ

- 156 -

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事例 20 長崎県の野母崎三和漁協地域の一本釣漁業の課題

<背景>

・ 長崎県の野母崎三和漁協地域の一本釣漁業者は、漁獲量の減少と魚価の低迷によって漁

業経営が厳しい状況にあった(C-2 経営の悪化・不安定化)。このため、後継者の確保

が進まず、漁業者の減少と高齢化が続いていた(⑦人材・後継者不足)。

・ このような状況を改善すべく、主要な漁獲物であるマアジをブランド化する取り組みを

開始した。このブランドは、その品質を市場から評価され、主に料亭を対象とした取引

を行い、普通のマアジの 2 倍近くの価格を実現した時期もあった。しかし、すでに一本

釣漁業者は 9 人に減少していたため、マアジのロットを確保しづらく安定供給が難しい

状況にあった(C-1 消費者ニーズに対応できない)。このような状況は、取引先からの

信用を失い、魚価の低下を引き起こすことが危惧された(⑥魚価の低下・不安定化)。

<問題>

・ このような状況への対応として、漁業者は自ら営む一本釣の漁業者を増やす取り組みを

開始した。しかし、子弟の後継者は得られないため、都市部に在住する I ターン希望者

に新規就業を求め、6 人の一本釣漁業者を誕生させた。しかし、好漁持は大量に漁獲さ

れ、不漁時は漁獲がない状況しかもたらされず、安定供給体制の確立までは至っていな

い。

・ また、一本釣漁業者の半数は刺網や採貝藻などの兼業漁種を有していたが、新規就業し

た I ターン者は、一本釣以外の漁業種類を営むことが認められなかった(C-4 労働環境

の悪化)。これは、一本釣以外の漁業種類を営む漁業者に、I ターン者の新規就業に対す

る抵抗感が強かったためであった。

・ また、当地域の漁協は、経営が苦しいことから、合併を繰り返して広域化していた((く)

漁協の機能低下)。このため、地域の漁業者間の調整能力が低下したこともあり、共同

漁業権漁業の漁業権行使規則における資格は、事実上は漁業者の意向の追認となった

((あ)漁業種間調整機能の不全)。このような状況のため、漁業種類の複合的な操業が

困難な新規就業者は、経営に苦労する場面も生じた((エ)制度的柔軟性の欠如)。

<考察>

・ 当事例は、ブランド化開始から数年しか経過していないため、今後の推移を見守る必要

がある。しかし、これまでのところはブランド化や新規就業者の確保が十分な成果を挙

げているとは言えず、一本釣漁業者の労働環境の改善にも寄与しているとは認められな

い(部分的には魚価向上など成果は認められる)。

- 157 -

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事例 21 岩手県における地域漁民のライフサイクルへの対応上の問題

<背景>

・ 純漁村においては得てして、漁協が中心のコミュニティーを形成する。漁協で漁具、餌、

船などを購入し、さらに食料、衣服なども購入する地域もある。しかし、漁村の高齢化

は漁業者だけの問題ではなく、コミュニティーの中心である漁協の役員はさらに高齢化

しているのである。年功序列は良い面もあろうが、高齢化が進んだ漁村では問題が多い

ように思われる。

<問題>

・ 岩手県におけるヒラメの資源管理について、複数漁協により構成される協議会において

体長 30cm 未満の漁獲規制が取り決められた。しかしながら、各漁協内の理事会等では

実施が難航した。

・ その理由は、幾つかの漁協が集まる協議会では、多くの参加者が正しいと考える規制に

ついて、漁協(漁村)のプライドがあるので、協議会委員は正面切って反対できないた

めであり、一方、漁協内では、そのようなプライドは必要なく、さらに権力のある理事

は高齢化、後継者不在であることが多いため、現在の自らの漁業経営に負担となる規制

は賛成できないということである((く)漁協の機能低下)。

・ また、養殖施設(区画内の場所)の配分においては、古くから漁業を行ってきた漁業者

が優位であるが(既得権)、往々にして高齢化で生産性が低下していることがある。こ

のようなことから、意欲ある青壮年漁業者等が規模拡大できないため、ノリ養殖の小間

問題等に指摘されるような、区画漁業権の管理上適さない闇の売買が横行することとな

る((エ)制度的柔軟性の不足)。

・ すなわち、将来、持続性に重きを置かない高齢理事や組合員が多い現在、未来ある若者

の意見が通らないため、青壮年ががんばれる場所が漁村には存在しない問題がある(D-3

ライフサイクルに応じた雇用機会の減少)。

<取り組みとその効果>

・ ヒラメの資源管理については、県の水産技術センターの実施したコホート解析等にもと

づく将来の漁獲体長組成とヒラメの価格が推定され、これに基づいて規制実施、規制非

実施の場合に分けて時系列で漁獲金額を算定した資料が漁業者に提示された。このよう

な資料により、スムーズな合意形成が可能となり、その後、マコガレイ、アイナメ、ミ

ズダコの規制が合意された。なお、規制後、長期間(感覚としては7年以上)収入が増

加に転じない場合は合意形成が困難となろう。

<考察と今後の課題>

・ 養殖施設の配分の問題については、点数(機械的)によって養殖施設を配分する方法が

考えられる。たとえば、漁協(役員や養殖部会等)で決めた施設当たりの生産量が数年

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間下回った場合、施設を漁協に戻し、生産性の高い漁家に再分配する方法である。実力

主義となる。

・ すなわち、精度より漁業生産者が理解し易い分析方法によって、あるいはより機械的に

判断する手法によって、漁業管理の 適化が図れるようなツールの開発が必要と考えら

れる。

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事例 22 海外からの加工研修生との関わり方と国際貢献にむけた課題

<背景>

・ 現在我が国に滞在する外国人研修生は約 4,500 人(女性が約 8 割)であり(全水加工連、

2007 年)、そのうち中国人研修生が9割以上を占める。

・ 研修生は、①通訳もできる研修生、②複数年経験あるいは再研修経験のある研修生、③

研修期間が短い研修生に分けられる。

・ フォーマル組織(会社)及びインフォーマル組織(会社外)のリーダーは①である。つ

まり、会社内あるいは生活地域内において、異文化に対応するため日本語を話せる研修

生がその他の研修生にとってリーダー的存在となる。なお、②が経験・勉強して①にな

ることもある。

<問題>

・ 水産加工産地を見渡してみると、週末に買い物で町をぶらつく研修生の姿がある。また、

地域の祭りでもぶらつく姿がある。しかし、買い物で困ることも頻繁にあるし、祭りも

傍目の参加あるいは CSR(水産加工場の地域貢献)としての黒子であることが多い。や

やもすれば、水産加工産地では日本人の職場を奪う存在と認識されることさえある。ま

た、外国人の少ない漁村では人種差別(ジロジロ見るなど)の問題もある。

<考察>

・ 通訳もできる中国人女性研修生の事例では、日本で研修生として働き、日本語、日本の

文化・食文化、日本の消費行動、日本の水産加工場の役員の考え方などを学び、そして

中国に帰国した後、日本と取引の多い水産加工場へ就職した。現在では日本との取引に

おいて重要な役割を果たすとともに、日本から来客があるときは社長の補佐役として会

合・会食に出席し、重要な役割を果たす。そう遠くない将来、幹部となろう。

・ この女性は日本が好きであるという。それは、日本人及び組織が非常に真面目で信用が

できるからであるという。このことから、日本製の時計を買い、中国製の車を買い換え

るときには日本の車(関税約 40%)を買いたいという。将来のオピニオン・リーダーと

なるだろう彼女、そして彼女たちは、日本にとって重要な存在となろう。

・ 日本において、研修生は普通のパート職員であるかもしれないが、将来、研修生は大な

り小なり日本と海外の架け橋役となる。特に、グローバル化・ボーダレス化する現在、

この概念の認識が水産産地の地域全体に必要と思われる。

・ このことから、水産産地はもっと積極的に研修生と関わり合いを持つべきである。また、

漁村には都会と違い今も息づくすばらしい文化が多く存在するので、文化の交流を積極

的に進めるべきである。そして、研修生に日本が好きになってもらえるような努力が必

要である。こうした取り組みが推進されれば、水産業は、国際貢献はもちろん、日本と

海外の架け橋役を創造できる重要な役割も担うことが期待される。

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