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日本結合組織学会 2019 年度ニュースレター No.2 2019 年 11 月発行 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 目次 1. 理事長より 2. 第 51 回学術大会を終えて 服部俊治(株式会社ニッピ バイオマトリ ックス研究所) 3. 結合組織研究と私 木村友厚(富山大学名誉教授,四條畷学 園大学) 西田輝夫(山口大学名誉教授) 4. 新評議員の紹介 今中恭子(三重大学大学院医学系研究科) 茂木精一郎(群馬大学大学院医学系研究 横山詩子(東京医科大学細胞生理学分野) 米澤朋子(岡山大学大学院医歯薬学総合研 究科5. 学会印象記 12 回ヒアルロン酸国際カンファレン (HA2019) 11 回プロテオグリカン国際会議 第十五回結合組織勉強会 6. 研究室紹介 東海大学医学部基盤診療学系先端医療科 東海大学大学院マトリックス医学生物学 センター 東京薬科大学 病態生化学教室 7. 52 回日本結合組織学会学術大会の案内 8. 日本結合組織学会若手セミナー 〜第 1 章・マトリックスを語ろう〜 の案内 9. 53 回日本結合組織学会学術大会の案内 10. 2020 年度日本結合組織学会大高賞募集案 11. JSMBM International Travel Award 募集 案内 12. 学会案内 13. 掲示板 14. 暫定事務局よりご連絡 ――――――――――――――――――――――― 1. 理事長より 理事長を拝命して 1 年半が経ちます。我が国では「若 手研究者の育成,活性化」がいたるところで提唱され ています。本学会も若手研究者の方々に活躍して頂い て,結合組織・細胞外マトリックス分野の次世代の研 究基盤を強化していかなければならないと痛感して おります。その絶好の機会が大高賞と International Travel Award (ITA)です。本ニュースレターにこの 2 の賞のご案内を掲載しました。是非奮ってご応募くだ さい。 2. 第 51 回学術大会を終えて 服部俊治 株式会社ニッピ バイオマトリックス研究所 顧問 2019 年の学術大会は Matrix Quest 2019 のコンセ プトを掲げ,5 月31日,6 2 日の日程で両国駅近 くの KFC ホールで行いました。参加者は 218 名で Matrix Quest Special Lecture (MQSL)として2題,シ ンポジウムとして4つのテーマで 17 題,一般演題口 39 題,ポスター発表 59 題,さらにランチョンセミ ナー1題と日韓結合組織学会シンポジウムとして2 題の発表がありました。MQSL NIH から Sergey Leikin 博士と東京医科歯科大学赤澤智宏教授に講演し ていただきました。シンポジウムにおいても国内外の 興味ふかい研究をされている研究者にお願いして,学

日本結合組織学会 2019 年度ニュースレター No10. 2020 年度日本結合組織学会大高賞募集案 内 11. JSMBM International Travel Award 募集 案内 12. 学会案内

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日本結合組織学会 2019 年度ニュースレター No.2

2019年 11月発行

――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 目次

1. 理事長より

2. 第 51 回学術大会を終えて

服部俊治(株式会社ニッピ バイオマトリ

ックス研究所)

3. 結合組織研究と私

木村友厚(富山大学名誉教授,四條畷学

園大学)

西田輝夫(山口大学名誉教授)

4. 新評議員の紹介

今中恭子(三重大学大学院医学系研究科)

茂木精一郎(群馬大学大学院医学系研究

科)

横山詩子(東京医科大学細胞生理学分野)

米澤朋子(岡山大学大学院医歯薬学総合研

究科)

5. 学会印象記

第 12 回ヒアルロン酸国際カンファレン

ス(HA2019)

第 11 回プロテオグリカン国際会議

第十五回結合組織勉強会

6. 研究室紹介

東海大学医学部基盤診療学系先端医療科

東海大学大学院マトリックス医学生物学

センター

東京薬科大学 病態生化学教室

7. 第 52 回日本結合組織学会学術大会の案内

8. 日本結合組織学会若手セミナー 〜第 1

章・マトリックスを語ろう〜 の案内

9. 第 53 回日本結合組織学会学術大会の案内

10. 2020 年度日本結合組織学会大高賞募集案

11. JSMBM International Travel Award 募集

案内

12. 学会案内

13. 掲示板

14. 暫定事務局よりご連絡

―――――――――――――――――――――――

1. 理事長より

理事長を拝命して 1年半が経ちます。我が国では「若

手研究者の育成,活性化」がいたるところで提唱され

ています。本学会も若手研究者の方々に活躍して頂い

て,結合組織・細胞外マトリックス分野の次世代の研

究基盤を強化していかなければならないと痛感して

おります。その絶好の機会が大高賞と International

Travel Award (ITA)です。本ニュースレターにこの 2 つ

の賞のご案内を掲載しました。是非奮ってご応募くだ

さい。

2. 第 51 回学術大会を終えて

服部俊治

株式会社ニッピ バイオマトリックス研究所 顧問

2019 年の学術大会は Matrix Quest 2019 のコンセ

プトを掲げ,5 月31日,6 月 2 日の日程で両国駅近

くの KFC ホールで行いました。参加者は 218 名で

Matrix Quest Special Lecture (MQSL)として2題,シ

ンポジウムとして4つのテーマで 17 題,一般演題口

頭 39 題,ポスター発表 59 題,さらにランチョンセミ

ナー1題と日韓結合組織学会シンポジウムとして2

題の発表がありました。MQSL は NIH から Sergey

Leikin 博士と東京医科歯科大学赤澤智宏教授に講演し

ていただきました。シンポジウムにおいても国内外の

興味ふかい研究をされている研究者にお願いして,学

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会員である方もそうでない方も快く講演を引き受け

てくださり本当にありがたかったです。内容はバイオ

マテリアル,多能性幹細胞とマトリックス,コラーゲ

ンの翻訳後修飾,腎臓,肝臓,肺疾患,結合組織成分

の食品としての機能についてなど基礎,臨床の双方か

ら多岐にわたる議論ができたと思います。今回特にで

きるだけ若い先生に熱い話を期待しましたが,期待通

りの議論ができたかなあという実感があります。

また今回本学会としては初めて託児室を開設して,

小さいお子様をお持ちで学会に参加しにくいという

方の便宜を図ることを期待しました。今回 4 組 5 名の

ご利用をいただきましたが,大変良かったので今後も

期待していますという意見をいただいています。まだ

運用には慣れていないので改善点もあると思います

が少しでもお役にお立てたなら嬉しく思います。

今回は企業の研究者が学会担当であったため,会場

選び,会場費などについて今までより厳しいかなと心

配していましたが,寄付や研究所の方々のご協力でと

りあえず無事追われたことは幸いです。特に事務のヘ

ッドとして働いた大谷さんと学術的なプログラム編

成の陣頭指揮してくださった水野さんには感謝して

います。また韓国からは招待者以外にも多くの先生が

手弁当で参加してくださり,アジア的国際的な交流も

できたと思います。

鍋島先生の 50 回を引き継ぎ,次の半世紀のスター

トが切れたことになれば嬉しく思います。参加された

全ての皆様の熱意で学会は維持できるものです,本当

にありがとうございました。

YIA 受賞者との記念撮影

託児室風景

韓国からの参加者の方々と

ユニークな講演者らと

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ポスター会場

強力な学会スタッフ陣

3. 結合組織研究と私

結合組織研究と私

木村友厚

富山大学名誉教授

四條畷学園大学

医師になって40年が過ぎ,

本年 3 月に富山大学整形外

科を定年退職しました。理事

長の渡辺秀人先生から,ニュースレターに寄稿するよう

にとお話を頂きました。私には結合組織研究を語るような

資格はありませんが,多くの素晴らしい先生方に出会い,

教えを乞える時があり,仲間と共に研究することもでき,

何よりも science に触れ楽しい数十年の時を過ごさせて

頂きました。そのような私的な思い出を記すことを,ご容

赦下さい。

コラーゲンと軟骨細胞との出会い

私は整形外科の臨床医です。「頭は大したことなくてい

いから,元気なやつは絶対に整形外科に来い!」と勧誘

された 1 人です。S53 年に入局したばかりの大阪大学整

形外科(以下 阪大整形)では,研修医として与えらえた

仕事を嬉々としてこなし,夜も頻繁に泊まりこんで当直の

手伝いをしていました。そんな研修医に医局のことはよく

わからなかったのですが,当時の阪大整形は,就任 7 年

目で 50歳になったばかりの小野啓郎教授が,「整形外科

研究に大いに力を入れて日本の整形外科学を何とかしよ

う」と意気が揚がっていた頃でした。そんなことはわから

ず,私は 3 年目に防衛医科大学校整形外科に人事異動

となりました。沢山の手術を経験したい盛りで,新設大の

附属病院は外傷も多く充実していました。しかし当時の下

村裕教授,故新名正由先生からも,「手術や手技に拘泥

するばかりでなく,整形外科医も science をしなくてはい

けない。手始めに成長軟骨細胞の培養をして,それに対

する特異抗体を作って,肥大軟骨細胞の運命を明らかに

せよ。」と言われ続けました。とはいえ,私は学生実習と

同じ程度の実験をしてお茶を濁してしまい,何も出せませ

んでした。

昭和 58年から阪大整形に医員として戻り,これを機会

に臨床のかたわら,安井夏夫先生の指導のもとで研究を

始めなさい,と小野教授に命じられました。安井先生は東

京医科歯科大学の難治研の永井裕先生の教室への国

内留学から戻って 1 年経った頃だったでしょうか。骨形成

因子やコラゲナーゼインヒビターの分離,靭帯骨化症の

軟骨内骨化などの研究に続いて,軟骨細胞のコラーゲン

ゲル内培養法を確立されていました。安井先生から「コラ

ーゲンは溶けにくいし,分子は変性しやすい。でもコラー

ゲンをしっかり扱えたら一流や!?」「頑張って研究して,い

つの日かライオンになろう!?」などなど,整形外科研究室

の奥の部屋で毎夜いろんな檄を飛ばされました。

手始めに「牛の皮を買ってきて,コラーゲンを取ること

から始めよう」ということになり,手に入れた仔牛の大きな

皮の毛を除去し,細切・ミンチし,難治研の「コラーゲンの

セミナーテキスト」(だったと思います)をバイブルに,塩析

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を繰り返して大量の native な I 型コラーゲンを取り,

DEAE や CM カラムでの分離,ショ糖密勾配遠心,2 次

元 SDS などなど,言われるがままにやりました。生化学

は大嫌いでしたが初めて経験する実験手法は楽しいこと

ばかりでした。

安井先生からは軟骨細胞の産生コラーゲンを解析する

指導も受け,軟骨細胞がコラーゲンゲル内では脱分化す

ることなく,長期にわたって分化形質と軟骨型コラーゲン

の産生を維持することを示すことができ,これを学位論文

(論博)にしました。

このような事がきっかけで,当時のコラーゲン研究会や

結合組織学会に初めて参加させて頂くことになりました。

そこで,論文上で知り,あるいは安井先生から名前だけを

聞いていた,コラーゲンやプロテオグリカン,あるいは軟

骨研究の先生方が講演や議論をされるのに,私は魅せら

れてしまいました。永井先生,林利彦先生,畑隆一郎先

生はじめとする難治研の先生方,名古屋大学理学部の

先生方,阪大歯学部生化学の先生方・・・・。思い起こせ

ば,木全弘治先生が「プロテオグリカン分子種 PG-Lt,-

Lb」の役割と分子構造を解き明かす講演をされた際も,

詳細は理解できないものの,圧倒され魅了され,自分自

身も何か研究したい,と強く思ったものでした。

軟骨修復研究,molecular biology との出会い

さて,軟骨コラーゲンの新分子を追いかけておられた

安井先生が,南カリフォルニア大学の Dr. M. Nimni,Dr.

Paul Benya のラボに留学されてしまい,残った 1 人で,

まずは肢芽細胞をコラーゲンゲル内培養し,分化過程で

コラーゲンや GAG の発現がどのように変わるか調べて

いました。一方で,軟骨細胞のゲル内培養法を用いれば,

細胞移植による関節軟骨の修復・再生ができるのではと

思い立ち,予備的にまず家兎の膝に軟骨欠損を作り,こ

れに他の家兎の軟骨細胞をコラーゲンゲル内に包埋して

移植してみました。すると 8 週後までに硝子様軟骨が再

生しているのを肉眼と組織で見て,「関節軟骨再生」は確

信に代わりました。その後,整形外科の同僚の脇谷滋之

先生をはじめ数名が参集して,多数の家兎で長期にわた

る実験を行い,関節軟骨の良好な修復が可能となること

を初めて示すことができ,臨床応用の可能性が開いたの

では,と喜んでいました。

そんな頃,米国で cDNA クローニングされたばかりの

IX 型コラーゲンの蛋白発現を研究しておられた安井先生

から早朝の国際電話で起こされました。「Rutgers から

Harvard に移られる Dr. Björn Olsen と二宮善文先生と

IX 型コラーゲンの話をしてたんやけど,ポスドクが1つ空

いてるらしいで。もし留学したいんやったら頼んでみるけ

ど,どうする?」との電話でした。すぐに返事をとのことで,

私は cDNA やクローニングなど意味もわからぬまま,「コ

ラーゲンの研究をしたいので応募してみます。」と返答し

ました。安井先生からの推薦に加えて,後日 Björn は旧

知の林利彦先生にも照会されたようで,両先生のおかげ

で Björn と二宮先生のラボに留学できることになりました。

S60 年(1985)に留学した Björn のラボで私に与えられ

たテーマは,ラットとヒト軟骨の cDNA ライブラリーを作っ

て,二宮先生がクローニングされた1(IX)の cDNA を用

い,クロスハイブリダイゼーションでラット・ヒト軟骨の

1(IX) cDNA をクローニングすることです。現在なら数日

で結果の出る実験ですが,当時はたくさんのpositiveクロ

ーンを取り,制限酵素 Sau96I で切断パターンを調べ,コ

ラーゲン cDNAの候補を選び,Maxam-Gilbert法で時間

をかけてシークエンスし,塩基・アミノ酸配列を目で比べる,

という流れでした。ですので,毎週毎週クローニングとシ

ークエンスを繰り返していました。いくらやっても I,II ある

いは III型コラーゲンの cDNAが取れるばかりで,1年余

り過ぎても negative data の山で落ち込んだものでした。

しかし,二宮先生のご指導と,ラボに当初おられた許斐博

史先生の励ましを頂いたおかげで,漸くラットとヒトの

(IX)cDNA をクローニングして報告することができました。

この間,たくさんのクローンを取ってシークエンスしてい

ましたが,その中に I,II,III型コラーゲンの propeptideの

シークエンスとは少し異なる線維性コラーゲンのcDNA ク

ローンがいくつかありました。mRNA 発現を見ると,軟骨

で高く線維芽細胞で低いものばかりでしたので,これは

1か 2(現在の XI 型コラーゲン)に違いない!と思い,

より長い cDNA と genomic DNAを取ろうと苦心していま

した。丁度同じころ Dr.F.Ramirez(Checco さん)のラボで

クローニングされていた未知のヒト・ラット cDNA とオーバ

ーラップするクローンであることがわかり,また Dr.M.van

der Rest の1(XI)鎖の CNBr ペプチド配列と一致したこ

と か ら , ”Pro-1(XI) collagen cDNA” と し て Dr.

M.Bernardにより報告されました。

2 年余りの留学を終えて阪大整形に戻るに際して,未

だ同定できていないコラーゲン cDNA クローンがいくつか

あり,この中で圧倒的に軟骨特異的に発現しており

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2(XI)と信じて疑わなかったものをBjörnの許可を得て持

ち帰り,研究を続けることになりました。整形の研究室で

molecular biologyの研究ができるように set upするのに

少し時間がかかりましたが,やがて長い cDNA が取れ,

Dr. Kathy Cheahの genomic DNA と Dr. van der Rest

の蛋白データも得ることができ,これを “The human

alpha 2(XI) collagen (COL11A2) chain”として報告でき

たときは,何かほっとしたものです。この Col11a2 につい

ては,その後に妻木範行先生(現 CiRA 教授)が同僚とし

て加わられてから,N-propeptide コード領域の複雑な

alternative splicing や発現の違い,プロモーター部の解

析,軟骨発現にかかわる cis-elementなどを,次々と明ら

かにされました。妻木先生はその後,NIDR の山田吉彦

先生の下で,骨格形成における CDMP-1 の役割を解明

され,BMP シグナルの役割を示されたりと,独自に大きく

発展されました。

一方,私は整形外科医としてコラーゲンと骨系統疾患・

関節の関係にも興味がありました。丁度 Checco さんの

ラボで spondyloepiphyseal dysplasiaの家系で II型コラ

ーゲン遺伝子変異が発見された(1989 年)ばかりでした

が,私は minor collagen である IX 型コラーゲンの遺伝

子なら,もっと軽い疾患形質と関係があるだろうと想像し

ていました。そこで1(IX)の dominant negativeの Tgマ

ウスを作って疾患形質を解析したいと考えたのですが,

当時国内のラボで Tg を作成できたのは実中研と熊本大

の山村研一教授・宮崎純一助教授(現 大阪大特任教授)

の所だけでした。つてを頼りに何度か熊本大にうかがった

ところ,快く DNAコンストラクトの作成から injection,マウ

スの管理までご指導を受けることができました。中田研先

生(現 阪大教授)も加わってくれて熊本大で約 6 か月間

で Tg マウス作成を習得してくれました。中田先生が戻ら

れてから,研究費をかき集めて当初は阪大の古い古い動

物舎と阪大整形の研究室で Tg マウス作成を細々とスタ

ートし「日本で 3番目の Tg研究室!?」と勝手に思っていま

した。

しかし私と中田先生の 2 人だけの手で,増え続けるマ

ウスの管理と解析から,ケージ洗浄やオートクレーブ,繁

殖などなど全てを,それも診療の片手間にやるのはかな

り骨が折れることで,「こんなんやってて何になる? やっ

てられない」「でもいつかは結果がでるはず?!」と互いにぼ

やき励ましながら,数年やっていました。漸く1(IX)の

dominant negativeの lineがいくつかでき,発現コラーゲ

ンの解析や骨格の解析を続けていましたが,マウスの

line によっては週齢とともに関節軟骨や椎間板の変性を

生じることが明らかになり,1(IX)の変異が mild な軟骨

異形成症や変形性関節症の原因となりうることを示すこ

とができました。この時も,研究成果が出た嬉しさと同時

に,遺伝子改変マウスの実験から一時的に解放された感

で,何かほっとしたものです。

多くの結合組織研究の”Sensei”との出会い

私自身のささやかな結合組織研究はここまでです。そ

の後は前出の中田先生や妻木先生,そして阪大整形の

松井好人先生,杉本瑞生先生らが,分化過程での2(XI)

の詳細な発現解析,ヒトの軟骨形成不全症の遺伝子解

析,などなど展開されました。私がH10年(1998)に,富山

医科薬科大学整形外科(当時)に教授として赴任してから

は,研究もコラーゲンと軟骨に限るわけにはいかなくなり

ました。それでも,何人かの若い教室員が,軟骨やマトリ

ックス,椎間板疾患にかかわる研究をスタートしてくれ,ま

た国内外の先生方の所へ留学させて頂き指導を受けるこ

ともできました。ことに愛知医科大学の木全先生,渡辺先

生,理化学研究所の池川志郎先生,CiRA の妻木先生,

Rush の舛田浩一先生(現 UCSD),岩手医大の澤井高

志先生,学内にあっては臨床分子病態検査学の北島勲

先生,生命融合科学の笹原正清先生,再生医学の二階

堂敏雄先生らにご指導を受け,椎間板変性の疾患感受

性遺伝子の発見,PDGF 受容体による MSC 機能制御,

SF3b4 と骨軟骨細胞分化,軟骨分化における gas6,新

規 c-fos阻害による軟骨や椎間板再生,軟骨細胞肥大化

の阻害と変形性関節症治療など,結合組織研究の傍ら

で 20年の時を過ごすことができました。

あらためて,整形外科医として,継続して結合組織研

究に携わり続けることができたのは,大変に幸せなことだ

ったと思い返しています。Science の世界に少しだけ身を

置いて,新たな結果や知見が得られたとき,何かが解明

できた時の喜びは,臨床医にとってもかけがえのないも

のです。そしてこのような幸せな時を経ることができたの

は,結合組織研究ならではの,多くの“Sensei”方との出

会いがあったからこそと強く思っています。日本結合組織

学会や皆様に心から感謝を申し上げます。

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角膜と私

西田輝夫

山口大学名誉教授

眼科学

Ⅰ.はじめに

年齢を経て,自分自身

の歩んできた人生を振り返ってみますと,若い頃に予

期したものとは全く異なる道を歩んできたことに気

づきます。まさか生涯を大学で過ごすことになり,眼

科の臨床と研究を行うなどとは学生時代には全く考

えていませんでした。まして生涯の研究テーマが結合

組織である角膜になるとは夢にも思っていませんで

した。

内科開業医の長男として生を受け,医学部を卒業し

たら適当な臨床研修の後,父の後を継ぐものと私自身

もまた両親も考えていました。それが,医学部卒業の

直前の 2 月頃,「いずれ開業医になるのであれば,人

生で一度は医学研究というものを経験してみては」な

どという考えが頭に浮かびました。ここが人生で最大

の分かれ道であったと思います。卒業と同時に大阪大

学蛋白質研究所蛋白代謝部門の須田正己教授のご指

導を受けることになりました。

今回,日本結合組織学会の理事長,渡辺秀人先生と

日本結合組織学会ニュースレターを担当されていま

す佐藤隆先生から「結合組織と私」という題で執筆す

るようにとのご依頼を受け,改めて自分の研究者とし

ての人生を振り返ってみました。

Ⅱ.角膜という究極の結合組織

外界の光は,角膜と水晶体という生体内で唯一と言

って良い透明な組織を透過して,網膜に像を結びます。

このように角膜は,眼球の最表面を構成する透明な組

織で,いわば目にとって光の窓です。

角膜には血管が存在しません。表面を覆う角膜上皮

細胞と内面を覆う角膜内皮細胞との間に角膜実質(約

500 ミクロン)が存在しています。角膜実質では,均

一な直径を持つコラーゲン線維が密に規則正しく配

列しており,あたかもコラーゲン線維の結晶構造と言

えるようです。このコラーゲンの配列が,光学的に大

変重要です。さらにコラーゲン線維の間に散在してい

る角膜実質細胞(角膜線維芽細胞)が,コラーゲンの

合成,分泌から分解までを担当しています。分解が過

剰になりますと,いわゆる角膜潰瘍という病的状態に

なります。コラーゲン線維間は,含水性の高いプロテ

オグリカンで埋められており,角膜内皮細胞の Na+-

K+ ATPase により水がポンプアウトされて角膜実質

の含水量が一定に保たれ,透明性が維持されています。

このように角膜は極めて単純な構造を持つ組織です

が,いわば究極の結合組織であるといっても良いかも

しれません[1]。

Ⅲ.基礎医学時代

1971 年に大阪大学医学部を卒業し,蛋白質研究所

での大学院生時代,新設された愛媛大学医学部生化学

教室の助手時代,アメリカ ボストンの眼研究所への

留学と大体三年ごとに職場が変わり,研究内容も変わ

りました。アメリカ留学時代に,やはり医師免許を持

っているのだから臨床をやりたいという気持ちが強

くなり,母校の眼科で臨床眼科の研修を一から受け始

めたのが,1980 年です。その後 1984 年に近畿大学に

移り,初めて研究チームを持たせていただきました。

1993 年に縁があって,山口大学医学部の眼科学教室

の教授として,教室を主宰させていただきました。

1980 年に大阪大学の眼科に入局した時,眞鍋禮三

教授が主宰されており,角膜の研究が盛んに行われて

いました。眞鍋教授からは,角膜の研究をという指示

でした。それが生涯にわたる角膜研究の始まりでした。

今から振り返ってみますと,それぞれの時代の研究テ

ーマは異なりますが,その時点で学んだことが角膜研

究を行っていくために大きな力になっていました。50

年近く研究の場に身を置いていますと,互いには一見

関係無く見える研究でありながら,全てが自分の中で

集約されて,角膜,結合組織,細胞外マトリックス,

translational research などのキーワードで表せる自分

自身のライフワークと言えるものに役立ったのだな

と感じることができます。

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7

1)蛋白質研究所時代

1970 年頃は,蛋白質研究が主流の時代で,送られて

くる J. Biol. Chem.では新しい酵素が精製され結晶化

され,代謝経路やその生理学的役割を明らかにしたと

いう論文が毎月のように発表されていました。「全て

の酵素が解明されれば生命の秘密が解き明かされる」

と言われていた時代でした。丁度「全ての遺伝子が解

読できれば生命の秘密が分かる」と言われたその後の

事情ととてもよく似ています。しかし全てが明らかに

なっても生命の秘密はまた先にあり,完全には理解で

きないものなのです。逆に,自然の秘密を探ろうとす

る研究というのは,到達点が無く永遠に続いていくも

のなのでしょう。

蛋白質研究所時代は,ラットの肝臓からアミノ酸の

ヒスチジン分解酵素(histidase)を精製し,その酵素

学的特性を明確にするというテーマで,毎日 cold

room でカラムクロマトグラフィーに明け暮れていま

した。一旦精製を開始すると様々な操作を行いながら,

各段階での酵素活性を測定し,また次のカラムにかけ

るということの連続で,精製するまで数ヶ月かかった

ものでした。

後にフィブロネクチンの点眼療法を行う時に,患者

さんの血液からフィブロネクチンを精製して点眼薬

としてお返しするという発想は,この時の蛋白精製の

訓練のお陰かなと思います。フィブロネクチンの精製

は,ゼラチンとの affinity chromatography と gel

filtration だけですから,histidase を精製していた時の

ことを想い出せば,とても簡単なものでした。

2)愛媛大学医学部生化学教室時代

蛋白質研究所で師事していた須田正己教授が,当時

新設された愛媛大学医学部の医学部長として赴任さ

れることになり,「ついてこい」のお言葉で,1974 年

に第一生化学教室の助手として赴任しました。須田先

生は,「まるごとの生化学」というお考えを提唱されて

おり,生体をまるごとで捉えようというお考えでした。

当時助教授だった斉藤昌之先生のご指導をいただき

ながら,ラットを常に明室や暗室で飼育した時に,食

餌摂取量と小腸の消化酵素活性の日内変動がどのよ

うに変化するかという研究を行いました[2]。あえてい

えば暗闇の中でラットを飼育するということが,将来

眼科に進むことになるきっかけだったのかもしれま

せん。この時代の須田先生からの「まるごとの生化学」

というお考えは,臨床に進み,難治性の疾患に対する

何らかの治療法を探索する上で,physician-scientist と

しての道を進む上でとても重要な基本的な考えとな

りました。

愛媛大学医学部は,赴任した時には研究棟が建設中

でもあり,愛媛県の旧衛生研究所の建物に,生化学,

解剖学,病理学,生理学の先生方が一緒に生活して研

究(?)を行っていました。十分な研究設備はありま

せん。ただ毎週一度の雑誌会で,生化学にいた私にと

って初めて J. Cell Biol.なる雑誌が紹介され解剖学の

上原康生教授から電顕写真の読み方などを教えてい

ただきました。様々な大学から集まってきた専門分野

の異なる教員が飲んだり遊んだりしながらも夢を語

り刺激し合ったとても良い時代でした。電顕写真をも

とに三次元的に組織や細胞の構造を観察しようと上

原先生一門の方々は研究を行っておられました。後に

近畿大学時代に角膜実質中の線維芽細胞の三次元的

網目状構造を走査型電子顕微鏡で示すことができた

のは,この頃の学問的刺激によるものだと思います。

3)ボストン時代

1977 年から 3 年間,ボストンの Eye Research

Institute of Retina Foundation へ留学しました。後で知

ることとなるのですが,眼科の世界では世界的に有名

な研究所で,多くの日本からの眼科医が留学されてい

ました。私は,研究者(Ph.D.)として雇われていまし

たので,眼科臨床には一切関係しませんでしたが,そ

れでもいつも討論会やセミナーでは,研究の臨床的意

義というのが問われていました。「Bench to bed side」

という概念はここで身についたのかもしれません。

ボストンでは,網膜芽細胞腫という小児がんの培養

細胞を用いてがん細胞が接着しない機序を探索して

いました。今までラットを用いて酵素学的研究ばかり

してきた私にとって,初めて細胞を培養するという技

術を学んだのはこの時です。

当時がん細胞では発現が弱くなる LETS 蛋白(large

external transformation sensitive protein)が,細胞の

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8

がん化やがん細胞の転移に関与しているのではと言

われ始めていました。実はこの LETS 蛋白が後の

Fibronectin です(色々な名称で報告されていましたが,

同一の蛋白質であることが示され, 1978 年に

Fibronectin という名称で統一されました)。アメリカ

ではこの LETS 蛋白の研究をする機会はありませんで

したが,気になっていました。

Ⅳ.眼科医,眼科研究者としての時代(大阪大学時代,

近畿大学時代,山口大学時代)

1)フィブロネクチンと角膜上皮創傷治癒

1980 年にアメリカから帰国して,臨床眼科の研修を

母校の大阪大学医学部の眼科で受け始めました。眞鍋

教授のご配慮で,臨床研修の傍ら,研究を続けても良

いと言うことで,網膜芽細胞腫と LETS 蛋白の研究を

しようと準備をしていましたが,ある日,「君は角膜の

研究をするように」との鶴の一言で研究テーマが角膜

に変わりました。

当時は,フィブロネクチンの抗体は市販されていま

せんでしたので,Guinea pig で家兎血漿フィブロネク

チン抗体を自分で作成したところでした。そこで,そ

の抗体を用いて家兎の角膜を傷つけ蛍光抗体法で,フ

ィブロネクチンの消退を検討したところ,傷が付くと

フィブロネクチンが創部に出現し,創傷治癒と共に消

えていくことが分かりました。これが角膜の創傷治癒

とフィブロネクチンの研究に進んでいく第一歩とな

りました[3]。

創部に出現するフィブロネクチンが,実際に角膜上

皮の伸張を促進するかどうかが次の質問でした。家兎

角膜を小さなブロックに切り,培養した後に,断面を

伸びてきた上皮層の長さを組織切片から計測すると

いう新しい方法を開発し,培養液に添加したフィブロ

ネクチンの濃度に応じて,上皮の伸張が促進されると

言うことを明らかにしました[4]。更に in vivo でフィ

ブロネクチンの点眼が上皮欠損の修復を促進するこ

とを確認しました。ある日,眞鍋教授からお電話を頂

き,フィブロネクチンを使ってみたい患者さんがいる

から至急用意をするようにとのことでした。生物活性

を持つ精製フィブロネクチンはまだ市販されていま

せん。そこで,フィブロネクチンが血漿中に 0.3mg/mL

の比較的高濃度で存在することに目をつけ,患者さん

から採血して,一時間ほどでフィブロネクチン点眼液

を精製するシステムを作り上げ,使っていただきまし

た。長い間角膜上皮欠損が修復せず,放置すれば角膜

潰瘍に進行し失明する可能性の高い方でしたが,フィ

ブロネクチン点眼療法が功を奏し見事に 2週間で完全

な上皮欠損の被覆が得られました[5]。この症例がフィ

ブロネクチンを臨床の場で使用して有効だったとい

う世界で最初の報告だと思います。Erkki Ruoslahti 教

授の眼に触れ,Gordon Research Conference に招か

れフィブロネクチンの臨床応用可能性について話さ

せていただきました。良い思い出です。

大阪大学時代に遷延性角膜上皮欠損に対して自己

血漿由来フィブロネクチン点眼療法を行って以来,近

畿大学時代そして山口大学時代とずっと同じ方法で

患者血液からフィブロネクチン点眼液を精製して用

いてきました。ただこの方法では,いわゆる承認薬で

はなく,研究的治療法である限り,患者さんのお役に

広く立ちません。そこで,当時世界でウイルス汚染が

なく,もっとも安全なフィブロネクチンを供給してい

た New York Blood Center と共同で,日本の製薬会社

と共同で臨床試験を行いました。結果は期待以上に良

いものでしたが,当時 HIV による AIDS が大きな社会

問題となっており,いかなるウイルスの混在もないこ

との証明を当局から求められ,開発が中止となりまし

た。アカデミアでの研究と臨床開発研究の乖離は実に

大きいものだと言うことを実際に体験しました。

2.神経麻痺性角膜上皮欠損の病態

角膜は生体内で最も知覚が鋭敏な組織です。フィブ

ロネクチン点眼療法を行っていますと,多くの症例で

は角膜知覚が低下していることに気付きます。この臨

床での経験を医学的に明らかにするために,sensory

neurotransmitter の一つである Substance P が角膜上

皮の伸張にどのような作用を持っているのかという

研究をはじめました。

まず大阪大学時代にフィブロネクチンの作用を観

察するために開発した角膜組織の培養法を用いまし

た。ところが予想に反して,Substance P を添加して

も全く上皮伸張は変化しません。しかし,ひょんなこ

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とからEGFと一緒に添加するとEGFの作用以上に角

膜上皮の伸張が促進されたのです。そこで,冷凍庫に

ある色々な成長因子を試してみますと,それぞれ単独

では何の変化もありませんが,IGF-1 と Substance P

を両方同時に添加すると,角膜上皮の伸張が促進され

ました[6]。今までと同じように,in vivo での効果を確

認し,最初の症例をアメリカの Texas の共同研究者と

試み,臨床的に効果があることを確認しました[7]。た

だ Substance P も IGF-1 も多彩な生物活性を有する

ペプチドですので,臨床応用を考えるときに,副反応

を最小限にするためにも,この相乗作用を示す必要最

小限のアミノ酸配列を同定しておかねばと考えまし

た。Substance Pは,11個のアミノ酸からなりますが,

C 端の FGLM-amide の4個のアミノ酸配列が最小必

須配列であることを明らかにし[8],更に 70 個のアミ

ノ酸残基からなる IGF-1 に関しては,C-domain の

SSSR というアミノ酸配列が角膜上皮の伸張への

Substance P との相乗作用に関与していることを明ら

かにしました[9]。これらの 4 個のアミノ酸残基からな

る二つのペプチドの点眼液が神経麻痺に伴う遷延性

角膜上皮欠損の治療に臨床的に有効でした[10-12]。

一方で,フィブロネクチン点眼療法に関しても,血

液由来であることや高分子糖蛋白質であることから,

角膜上皮に対する作用を有するアミノ酸配列を同定

し,最小必須アミノ酸配列を探索研究を行いました。

第 2 の細胞結合部位であります PHSRN という 5 個の

アミノ酸残基からなるペプチドが作用を持つことを

明らかにし[13],in vivo での効果などを確認して,実

際に遷延性角膜上皮欠損の症例で上皮修復に有効で

あることを報告しました[14]。大きな蛋白質の作用を

示す最小必須単位を探索しペプチドとして薬剤に使

用という考えでした。これら一連のアミノ酸配列を探

索する研究は,山口大学医学部薬理学教室の乾誠教授

や東京薬科大学薬学部病態生化学教室の野水基義教

授との共同研究でした。[15]

3)角膜線維芽細胞とコラーゲン

角膜上皮の創傷治癒の研究を続けながらも,通常は

一両日で上皮欠損が修復するのに,いつまでも上皮下

しない遷延化した症例では,角膜実質に問題があるの

ではと言うことに興味を持ちました。そこで,細胞と

しては上皮細胞とは全く性質の異なる角膜実質細胞

(角膜線維芽細胞)の研究にテーマを広げました。

1.線維芽細胞の三次元構造

生体内では,密に配列しているコラーゲン線維の中

で,静かな細胞として存在している角膜線維芽細胞で

すが,一旦何らかの原因でコラーゲンの状態が変化す

ると,活動性の極めて高い細胞に変化します。細胞を

コラーゲンが取り囲んでいることが細胞を静的なも

のに保つのに必要ではと考えました。培養した角膜線

維芽細胞をプラスチックの培養皿の上で培養したと

きとコラーゲンゲル内で培養したときでは形態が大

きく変化し,しかも可逆的であることを見いだしまし

た[16]。細胞を取り巻くコラーゲンの状態が,角膜線

維芽細胞の形態や機能を制御していると考えられま

す。

透過型電子顕微鏡で観察するとコラーゲン線維の

間に細胞が散在し,細胞突起を伸ばし,隣接する細胞

と gap junctions で結合しています[17]。コラーゲンを

熱と酸で溶かした後に細胞を走査型電子顕微鏡で観

察しますと,三次元的に網目構造を形成していること

が分かりました[18]。一般化できるかどうかは分かり

ませんが,皮膚でも線維芽細胞というのは網目構造を

持ち gap junctions で結合することにより,隣接する

細胞の機能が同期されて生体を護っているのかなと

考えています。この電顕像は,Molecular Biology of the

Cell に引用され,最新の版でも掲載されています。

実はこの研究成果は,コラーゲン研究会で初めて報

告し,永井裕先生に褒めていただいたことがとても嬉

しかったことが今でも鮮明に覚えています。基本的な

形態の仕事と言うのは,流行に左右されず寿命が長い

ものだと言うことを実感しています。

2.角膜潰瘍の病態に関する研究

臨床の場で観察していますと,上皮欠損の遷延化と

角膜実質の融解がまるで悪循環のようであることに

気づきます。以前から角膜潰瘍に対する治療法として,

EDTA 点眼,血清点眼や MMP 阻害剤点眼などが試み

られてきましたが,どれも臨床的に確実な方法ではあ

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りませんでした。未だに有効な治療法がありません。

分泌され活性化された MMPs を阻害するという考え

方では臨床的に潰瘍(コラーゲンの過剰分解)を抑制で

きないと考え,角膜実質の細胞の機能を調整すること

が治療につながるのではと推測しました。

そこで角膜実質の線維芽細胞がどのように活性化

され,実質のコラーゲンを融解していくのかを探索し

ようとしました[19]。単層に培養した角膜実質細胞が

発現している MMPs や uPA などを蛋白レベルや

mRNA レベルで検出する研究方法が従来から用いら

れてきていました。しかし実際の生体内では線維芽細

胞はコラーゲンに囲まれている状態です。そこで角膜

実質細胞をコラーゲンゲルの中に包埋して培養し,培

養液中の小分子化したコラーゲン断片をプロリン量

として定量する方法を考えました[20]。この方法を用

いて,様々なサイトカイン,LPS などの細菌由来の物

質や多核白血球などの炎症性細胞を共培養し,コラー

ゲンの分解量を全体として把握することができるよ

うになりました[21] [22]。まだまだこれから明らかに

していかねばならない事が沢山ありますが,臨床での

病態を想定して,研究室で実験する手法として,有効

な方法だと考えています[19]。山口大学を退職してい

ますが,幸い近畿大学時代に一緒に研究した三島弘教

授と杉岡孝二准教授が,この方法を駆使して研究を進

めてくれています[23] [24]。

Ⅴ.研究者としての人生を振り返って

山口大学で 16 年半,眼科学教室を主宰させていた

だくことができました。「山口から世界の眼科学へ。最

良の医療を山口に。」を教室のモットーにし,研究室で

の成果を臨床にできるだけ還元できるように,また臨

床での経験に基づいて研究室で展開していくように

と心がけました。

私はひ孫弟子に相当し,直接ご指導を頂いたことは

一度もありませんが,須田正己先生から繰り返し繰り

返し古武弥四郎先生(大阪大学医学部生化学教室教授)

の語録を聴かされていました。後に臨床に進み気をつ

けていたのは,古武語録の次の二つのお言葉かもしれ

ません。

「臨床家は些細な音調とか色調とかにも心せねばな

らぬが,基礎学者はそれらを明確に認識せねばなら

ぬ。」

「医学なくして医療はなく,医療なくして医学なし。」

山口大学では,臨床的には,角膜疾患のセンターを

築き上げようと張り切ったものでした。また現在の医

学知識で治癒せしめ得ない疾患に対する治療法を開

発したいと願ったものでした。大学での研究としては

bench-to-bed side の姿勢で研究を行い,臨床的に役立

つ治療法を開発してきましたが,承認薬として広く臨

床に役立つものにまでどれも未だ開発されていませ

ん。社会的な興味,政府の方針,そしてなにより営利

企業としての製薬会社の投資へのリスクや収益性な

ど,様々な問題が横たわっていることを痛感していま

す[25]。

Ⅵ.おわりに:コラーゲン研究会(マトリックス研究

会)と日本結合組織学会との関わり

大阪大学時代に,眞鍋教授がボストンに留学されて

おり,永井裕先生を存じ上げているよとの一言で,あ

る日お茶の水の永井先生の教授室に押しかけました。

若さ故の無謀な行動であったような気がします。しか

し永井先生がお時間を割いて下さり,フィブロネクチ

ンについてまた角膜のコラーゲンについて私の話を

ゆっくり聞いて下さり,色々と教えて下さいました。

以来 30 年以上にわたり,何かと可愛がっていただけ

たことは有難いことでした。何よりも,眼科では全く

耳慣れない結合組織学会やコラーゲン研究会にいら

っしゃいと誘ってくださいました。それ以来,新海浤

教授,木全弘治教授,岡田保典教授,伊東晃教授,岩

本幸英教授はじめ全ての先生方のお名前を列挙でき

ないほど沢山の先生方にご指導いただき懇意にして

いただきました。

毎年出席しているうちに,旧結合組織学会の機関誌

であります Connective Tissue の編集に参加させてい

ただけるようになりました。1997 年 3 月 27 日-28 日

には,第 44 回マトリックス研究会を宇部市で,2003

年 6 月 3 日-7 日には,The 5th Pan-Pacific Connective

tissue Societies Symposium および第 35 回日本結合

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組織学会学術大会を宇部市で主催させていただきま

した。専門の眼科学の学会と異なり,かなり緊張しま

したが,盛況のうちに無事に終えることができ,とて

も素晴らしい経験をさせていただきました。

日本結合組織学会の様な複合領域にまたがる学会

では,臨床の他科の先生方や基礎医学あるいは生物学

の幅広い領域の研究者と忌憚のない討論ができまし

た。このことが,自分自身の専門領域での研究を進め

ていく上でどれほど役に立ったか知れません。振り返

って,私は日本結合組織学会で育てていただいたのだ

と感謝の気持ちで一杯です。研究はより深く,より専

門化していかねばなりませんが,同時に幅広い知識や

他分野での成果を知ることも自身の狭い専門分野で

の思い切った研究の進め方の道筋の選択に役立った

ことを確信しています。

これからも日本結合組織学会が複合領域での学会

として,発展されることを祈念して筆を置かせていた

だきます。

写 真 The 5th Pan-Pacific Connective Tissue

Societies Symposium の reception

1. Nishida, T., Cornea, in Cornea: Fundamentals of

cornea and external disease, J.H. Krachmer, M.J.

Mannis, and E.J. Holland, Editors. 2005, Mosby: New

York, 3-26.

2. Nishida, T., M. Saito, and M. Suda, Parallel between

circadian rhythms of intestinal disaccharidases and

foot intake of rats under constant lighting conditions.

Gastroenterology, 1978. 74(2 Pt 1): 224-7.

3. Nishida, T., The role of fibronectin in corneal wound

healing explored by a physician-scientist. Jpn J

Ophthalmol, 2012. 56(5): 417-31.

4. Nishida, T., et al., Fibronectin promotes epithelial

migration of cultured rabbit cornea in situ. J Cell Biol,

1983. 97(5 Pt 1): 1653-7.

5. Nishida, T., et al., Fibronectin. A new therapy for

corneal trophic ulcer. Arch Ophthalmol, 1983. 101(7):

1046-8.

6. Nishida, T., et al., Synergistic effects of substance P

with insulin-like growth factor-1 on epithelial migration

of the cornea. J Cell Physiol, 1996. 169(1): 159-66.

7. Brown, S.M., et al., Neurotrophic and anhidrotic

keratopathy treated with substance P and insulinlike

growth factor 1. Arch Ophthalmol, 1997. 115(7): 926-7.

8. Nakamura, M., T. Chikama, and T. Nishida,

Synergistic effect with Phe-Gly-Leu-Met-NH2 of the C-

terminal of substance P and insulin-like growth factor-

1 on epithelial wound healing of rabbit cornea. Br J

Pharmacol, 1999. 127(2): 489-97.

9. Yamada, N., et al., Promotion of corneal epithelial

wound healing by a tetrapeptide (SSSR) derived from

IGF-1. Invest Ophthalmol Vis Sci, 2006. 47(8): 3286-

92.

10. Chikama, T., et al., Treatment of neurotrophic

keratopathy with substance-P-derived peptide (FGLM)

and insulin-like growth factor I. Lancet, 1998.

351(9118): 1783-4.

11. Morishige, N., et al., Direct observation of corneal

nerve fibres in neurotrophic keratopathy by confocal

biomicroscopy. Lancet, 1999. 354(9190): 1613-4.

12. Yamada, N., et al., Open clinical study of eye-drops

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12

containing tetrapeptides derived from substance P and

insulin-like growth factor-1 for treatment of persistent

corneal epithelial defects associated with neurotrophic

keratopathy. Br J Ophthalmol, 2008. 92(7): 896-900.

13. Kimura, K., et al., Stimulation of corneal epithelial

migration by a synthetic peptide (PHSRN)

corresponding to the second cell-binding site of

fibronectin. Invest Ophthalmol Vis Sci, 2007. 48(3):

1110-8.

14. Yamada, N., et al., Open clinical study of eye drops

containing the fibronectin-derived peptide PHSRN for

treatment of persistent corneal epithelial defects.

Cornea, 2012. 31(12): 1408-13.

15. Nishida, T., M. Inui, and M. Nomizu, Peptide

therapies for ocular surface disturbances based on

fibronectin-integrin interactions. Prog Retin Eye Res,

2015. 47: 38-63.

16. Nishida, T., et al., Interactions of extracellular

collagen and corneal fibroblasts: morphologic and

biochemical changes of rabbit corneal cells cultured in

a collagen matrix. In Vitro Cell Dev Biol, 1988. 24(10):

1009-14.

17. Ueda, A., et al., Electron-microscopic studies on

the presence of gap junctions between corneal

fibroblasts in rabbits. Cell Tissue Res, 1987. 249(2):

473-5.

18. Nishida, T., et al., The network structure of corneal

fibroblasts in the rat as revealed by scanning electron

microscopy. Invest Ophthalmol Vis Sci, 1988. 29(12):

1887-90.

19. Nishida, T., Commanding roles of keratocytes in

health and disease. Cornea, 2010. 29(Suppl 1): S3-S6.

20. Hao, J.L., et al., Galardin inhibits collagen

degradation by rabbit keratocytes by inhibiting the

activation of pro-matrix metalloproteinases. Exp Eye

Res, 1999. 68(5): 565-72.

21. Li, Q., et al., Enhancement by neutrophils of

collagen degradation by corneal fibroblasts. J Leukoc

Biol, 2003. 74(3): 412-9.

22. Quan, W.Y., et al., Integrin-mediated inhibition of

interleukin-8 secretion from human neutrophils by

collagen type I. J Leukoc Biol, 2010. 87(3): p. 487-91.

23. Sugioka, K., et al., Extracellular Collagen Promotes

Interleukin-1-Induced Urokinase-Type Plasminogen

Activator Production by Human Corneal Fibroblasts.

Invest Ophthalmol Vis Sci, 2017. 58(3): 1487-1498.

24. Sugioka, K., et al., Plasminogen-Dependent

Collagenolytic Properties of Staphylococcus aureus in

Collagen Gel Cultures of Human Corneal Fibroblasts.

Invest Ophthalmol Vis Sci, 2018. 59(12): 5098-5107.

25. Nishida, T., Translational research in corneal

epithelial wound healing. Eye Contact Lens, 2010.

36(5): 300-4.

4. 新評議員の紹介

今中恭子

三重大学大学院医学系研究科

修復再生病理学

この度新しく評議員となりま

した今中恭子でございます。ど

うぞよろしくお願い申し上げま

す。

私はもともと循環器内科医でしたが,大学院の時に,

心筋細胞の細胞骨格に興味を持ち,博士研究員として

ペンシルバニア大学の Drs. Joseph and Jean Sanger

の研究室で,筋原線維形成,特にアクチンダイナミク

スを調べていました。ちょうどその頃,インテグリン

が脚光を浴び始め,近くに有名なインテグリン研究者

がたくさんいて話を聞く機会が多かったため,心筋細

胞と細胞外基質の接着について調べたくてたまりま

せんでした。幸い,非常に自由な研究室だったため,

同僚や,インテグリンの研究室でポスドクをしていた

友人と共同で心筋細胞の細胞骨格と細胞外マトリッ

クスとの接着装置について調べ始めました。 Dr.

Sanger は I do not care about outside of the cells と言

いながらも面白がって encourage してくれました。私

の興味が徐々に細胞内から細胞外に向かっていた頃,

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母校の病理学教室のスタッフとして日本に戻りまし

た。ほどなく,テネイシン C の発見者である坂倉照妤

先生が病理学教室の教授として赴任してこられたた

め,迷うことなく,心臓のテネイシン C の研究を始め

ました。テネイシン C はもともと癌間質特異抗原とし

て見つかった分子であるため,心臓,血管の分野でテ

ネイシン C に興味を持つ人はほぼ皆無でした。また,

テネイシン C は,おそらく,重要だと思われるのに遺

伝子をノックアウトしたマウスは大きな異常を示さ

ないという最初のケースだったため,テネイシン C 研

究者はグラントが取れず厳しい時期を過ごしたので

すが,それにもほとんど気づかず,胎児の形態形成,

様々な心筋疾患や血管疾患で一過性に限られた発現

様式を示すのがおもしろくてたまりませんでした。現

在では,テネイシン C をはじめとする matricellular

protein に共通する context dependency という性質に

悩まされながらも,様々な病態でのテネイシン C の分

子機能解明と同時に,臨床応用,特に川崎病や拡張型

心筋症の病態診断マーカーとしての実用開発に力を

入れています。循環器の医者は,線維化という病態に

興味は持ちながらも,細胞外マトリックスの持つ多様

性という極めて生物学的な性質を曖昧であるとして

敬遠しがちでしたが,組織再生を考えることをきっか

けに,最近では興味を持つ人が僅かながらも増えてい

る印象です。今後,仲間を少しずつ増やし,日本結合

組織学会の発展に少しでもお役に立てればと思って

います。

茂木 精一郎

群馬大学大学院医学系研究

科皮膚科学

この度,日本結合組織学会

の評議員に選出されました

群馬大学大学院医学系研究

科皮膚科学の茂木精一郎と申します。宜しくお願い致

します。私は 1999 年に群馬大学を卒業し,群馬大学

皮膚科学教室(石川 治教授)に入局しました。2001

年から群馬大学生体調節研究所バイオシグナル分野

にて的崎 尚教授(現神戸大学教授)のご指導の下,

大学院生として細胞内シグナル伝達に関する基礎研

究を始めました。2007 年から米国国立衛生研究所

(NIH)国立癌研究所に研究留学し,Mark Udey 教授

の研究室で分泌蛋白質 MFG-E8 の役割について研究

を始めました。MFG-E8 がペリサイトから多く産生さ

れ,血管新生を促進させることと,その機序について

明らかにしました。2011 年より群馬大学皮膚科に戻っ

た後は,血管新生,創傷治癒,細胞外基質(コラーゲ

ン)産生の制御などの研究をしています。特に,皮膚

を含めた全身の臓器の線維化と血管障害を来す難病

である全身性強皮症の病態制御と新たな治療法の開

発を目指した研究を行っています。今後もご指導ご鞭

撻の程,宜しくお願い致します。

横山詩子

東京医科大学細胞生理学分野

この度,愛知医科大学分子

医科学研究所 渡辺秀人教授

および関西医科大学医学部薬

理学 中邨智之教授よりご推

薦を頂き,日本結合組織学会の評議員に選出してい

ただきました東京医科大学細胞生理学分野の横山で

ございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

私は岡山大学を卒業後,横浜市立大学とその関連

病院で小児科医,特に循環器を専門として 9 年間勤

務いたしました。循環器疾患は治癒することがない

ことを実感する中で徐々に基礎的研究への興味が募

り,2003年から横浜市立大学の生理学の講座で

ある循環制御医学で石川義弘教授のもと,南沢享先

生(現東京慈恵会医科大学細胞生理学教授)のご指

導で心血管に関する基礎研究を始める機会を頂きま

した。

小児科医であるという背景から血管の分化に興味

を持ち,特に出生前後の循環器系のアダプテーショ

ンをテーマとして研究をして参りました。出生前の

水中生活から出生後の陸上生活に適応するために,

心血管は非常にダイナミックな構造の変化を起こし

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ますが,中でも胎生期に肺動脈と大動脈をバイパス

する動脈管では,出生後の速やかな閉鎖のために著

明な細胞外基質の産生と細胞遊走,血管弾性線維の

低形成といった特徴を有します。胎盤から産生され

る高濃度のプロスタグランディン E が EP4 受容体を

介してこれらの細胞外基質を軸としたリモデリング

を引き起こすことを明らかにしたことから,細胞外

基質の役割に魅せられて現在に至っております。カ

リフォルニア大学サンディエゴ校では薬理学教室で

G蛋白共役型受容体やG蛋白の専門家である Paul

Insel 博士のもとで,線維芽細胞に着目してサイクリ

ック AMP のエフェクター分子である Epac が心臓線

維化に果たす役割を研究しました。帰国後は横浜市

立大学循環制御医学に戻り,大動脈瘤における弾性

線維破壊の分子機序にも興味を持ち研究を進めて参

りました。また,細胞表面にフィブロネクチン原線

維を形成させると平滑筋細胞を重層させることがで

き,移植可能な弾性と剛性を持つ血管壁を作製でき

ることを見出したことから,実験ツールとしても再

生医療技術としても三次元血管モデルを展開してゆ

きたいと考えております。

本年度から東京医科大学細胞生理学分野に異動と

なり,現在新たな研究室を立ち上げるべく奮闘してお

ります。この度貴重な機会を頂きましたので, 日本結

合組織学会発展に少しでも貢献できるように精進し

たいと思っております。ご指導ご鞭撻を賜りますよう

何卒よろしくお願い申し上げます。

米澤朋子

岡山大学大学院医歯薬学総

合研究科,分子医化学

この度,新しく評議員とな

りました米澤朋子です。私

は,東京農工大学農学部を卒

業し,株式会社ニッピのバイオマトリックス研究所に

所属しました。当時,服部俊治先生が行われていたコ

ラーゲンや皮膚表皮細胞の接着に関わるタンパク質

の研究に携わりました。細胞外マトリックス,特にコ

ラーゲンの分子状態に応じて細胞の応答が全く異な

ることを顕微鏡を覗きながら実感し,以降,細胞外マ

トリックスに興味を持ち続けています。その頃にマト

リックス研究会や日本結合組織学会の会員となりま

した。その後,岡山大学医学部・分子医化学教室に所

属し,故二宮善文教授が興味をもっておられた血液-脳

関門に関わる基底膜の研究を始めました。試行錯誤の

末,アストログリアが形成するグリア境界膜が血液-脳

関門の維持に重要なのですが,そのグリア境界膜に存

在する Limitrin と名付けた分子を同定し,博士号を取

得しました。現在,大橋俊孝教授が主宰する分子医化

学教室の一員として,基底膜の役割について研究を続

けています。そして,この度,服部俊治先生と大橋俊

孝先生に評議員のご推薦をいただきました。

現在,皮膚創傷治癒における XVIII 型コラーゲンや

眼疾患における IV 型コラーゲンの役割を解析中です。

日本結合組織学会の発展に少しでも貢献できるよう

努力してまいります。どうぞご指導ご鞭撻を承ります

よう何卒よろしくお願い申し上げます。

5. 学会印象記

第12回ヒアルロン酸国際カンファレンス(HA2019)

レポート

大橋俊孝(岡山大学)

概要

第 12 回ヒアルロン酸国際カンファレンス(HA 2019)

が,2019 年 6 月 9 日から 5 日間の会期で,イギリス,

ウェールズの首都カーディフ中心部,Cardiff 城のほと

りにある Hilton Hotel で開催された。今大会は,主催

者の Cardiff 大学の Soma Meran, Aled Phillips, Tim

Bowen と Robert Steadman 博士が中心となり,前大

会主催者の Carol de la Motte(Cleveland Clinic, USA),

前々大会主催者の Davide Vigetti (University of

Insubria, Italy),Anthony Day (Manchester University,

UK) そして Mary Cowman (NYU, USA)先生たちが組

織委員として参加して,企画・運営された。この国際

会議は,International Society for Hyaluronan Sciences

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(ISHAS)の主催で 2〜3 年間隔で開催されている。

今大会は,イギリスの EU 離脱(Brexit)が話題となって

いる中での開催であったが特に混乱はなく,世界各国

から 170 名のヒアルロン酸研究者が一同に会して,最

新の研究発表に対して活発な議論が繰り広げられた。

大会期間中 10 のセッションで延べ 60 の口演と 123

のポスター発表(ポスター発表から 63 のフラッシュト

ーク)があり,ヒアルロン酸に関する基礎から応用に至

る広範な内容が網羅されたプログラム構成となって

いた。各セッションにおける発表内容は以下のとおり

であった。

・Session1: HA in Chronic Diseases1 (Cardiovascular

and Pulmonary)

・ Session2: HA in Stem Cells, Growth and

Differentiation

・Session3: HA Physics, Chemistry and Structure

・Session4: HA in Cancer Biology

・Session5: HA Metabolism and Assembly

・Session6: HA Signaling

・Session7: Novel HA Interactions in Biology and

Disease

・Session8: HA in Immunity and Inflammation

・Session9: Chronic Diseases 2 (HA in Diabetes,

Kidney, Liver and Joint Disease)

・Session10: HA in Development and Aging

筆者の大橋はヒアルロン酸に結合するリンクプロ

テイン(HAPLN)の研究を長年している関係で,ヒアル

ロン酸の国際会議に時々参加しており,HA2003

(Cleveland), HA2010(Kyoto), HA2015 (Florence)そし

て今回が 4 回目である。

このたびのカンファレンスでは,初日に Thomas

Wight 先生(シアトル,ベナロヤ研究所)のヒアルロ

ン酸研究における国際的な貢献がお祝いされ,

Rooster Award(HA の治療への応用に重要な貢献をし

た研究者に贈られる賞)の受賞記念講演があり ISHAS

からの記念品が Wight 先生に授与されたそうである。

動脈硬化病変に関わるヒアルロン酸と Versican(ヒア

ルロン酸の friend と抄録に表記がある)の重要性を熱

く語られたに違いない。残念なことに筆者は日本発の

飛行機の大幅遅延により,拝聴する機会を逃してしま

った。しかしながら,会議を通じて Wight 先生が度々

鋭く本質的な質問をされていたことからまだまだ消

えぬヒアルロン酸研究への情熱を感じた(写真1)。

2日目は,Anthony Day 博士の Keynote lecture に

より開始された。ヒアルロン酸は GluNAc と GlcA の

2 糖の繰り返しからなる非常に単純な構造であるが,

超高分子(メガ Da まで)である。例外的には一部の細

菌が発現しているものの,その発現は脊椎動物の

hallmark でもあり発現組織も広範で,その作用機序は

結合タンパクやクロスリンクの仕方,分解されたサイ

ズ,さらにレセプターの違いなどで多岐にわたる。こ

のようなヒアルロン酸の特徴を包括しつつ,ヒアルロ

ン酸結合タンパク質の構造学的解析からヒアルロン

酸の作用機序,例えばどのようにヒアルロン酸のサイ

ズの違いが感知されるかなど,に切り込む内容であっ

た。セッション1に続く9つの素晴らしいセッション

の 詳 細 は 下 記 の URL か ら 閲 覧 で き る 。

https://ishas.org/previous-conferences/2019-ha-

conference 本稿では,筆者のメモよりいくつかのト

ピックを掻い摘んで紹介したい。

第1セッションの Paul Nobel 研究室(Ceders-Sinai

Medical Center)からの発表では,胚性肺の single cell

transcriptome 実験の結果が紹介され,ヒアルロン酸の

合成,分解,受容体など関連遺伝子の細胞型によるプ

ロファイルの違いが注目された。

Day先生と第2セッションの座長を務められた板野

直樹先生は,ヒアルロン酸を高発現し悪性度の高い乳

がん細胞は巨大なヒアルロン酸をたくさん生合成す

るために HAS が高発現になることから,さらにその

同化反応に必要な細胞内のヘキソサミン経路に焦点

を当てて近年研究されている。化学療法等に抵抗性が

あるがん幹細胞の形質維持に,HAS が重要であること

に加えて,いろいろなタンパク質の O-GlcNAc 化が亢

進し寄与していると考えられ研究を進められている

ことを紹介された。ちなみに,板野先生が,弘前大学

柿崎先生との共同研究で 2003 年に Cleveland で発表

された HAS 阻害剤の 4-MU に関連する研究発表,即

ちヒアルロン酸生合成を操作する研究手法も今回目

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立つと感じた。筆者はフラッシュトークで aggrecan

(Acan)遺伝子の Rosa26-CreERT2 による global KO の

結果を紹介させていただいた。生後の aggrecan 遺伝

子の機能解析について有用なモデルである。また,僭

越ながら9月末に金沢で開催される Proteoglycans

2019(渡辺秀人愛知医科大教授主催)の宣伝も行った。

第3セクションはヒアルロン酸の biophysics のセ

ッションであった。この領域の若手の一人 Ralf Richter

博士(University of Leeds)は shear stress の高い血管内

皮のヒアルロン酸受容体 CD44 と stress の低いリン

パ管内皮の受容体 LYVE-1 に mechanical force の与え

る影響の違いについて説明した。また,血管内皮のヒ

アルロン酸リッチな glycocalyx と密度の低い

glycocalyx をヒアルロン酸の分子量や密度を変えて

cover slip 上につくり,CD44 を結合させた CD44+ビ

ーズを流し cell-matrix interaction を RICM(reflection

interference contrast microscopy)などで検証した。ヒ

アルロン酸と結合分子との相互作用を定量的に研究

するプラットフォームで有用だと感じた。ポスターセ

ッションは毎日昼食後に設けられ,フラッシュトーク

のおかげもあって,若手中心に熱心な発表と質問でか

なり盛況であった。

第4セッション HA in Cancer Biology では,LYVE-

1で有名なDavid Jackson先生の発表が興味を引いた。

リンパ行性の細胞のトラフィキングについてである

が,樹状細胞がリンパ管内への migration には樹状細

胞の周りのヒアルロン酸(100nm ほどの厚み)のリン

パ管内皮細胞上の二量体化した LYVE-1 との結合が必

要であることを示した。樹状細胞が管腔内に移行して

いくとき,transmigratory cup 様構造を形成すること

を示した。ケモカイン CCL21 に惹起された ICAM-1 な

どの細胞接着分子の関与も言及された。

第5セッションHA Metabolism and Assemblyでは,

Alberto Passi 研究室から HAS2 のナチュラルアンチ

センスの発表があった。HAS2AS は HAS2 の Exon2

と相補的に始まる long-non coding RNA (lnc RNA)で,

HAS2 の発現にクロマチンレベルで影響するなどの以

前の発表に続き,今回は microRNA への作用について

であった。HAS2-AS1 をサイレンシングすると 37 遺

伝子発現が変化した。特定の miRNA と結合す

る”sponge”として働くということが紹介された。また,

van den Berg 先生(Leiden University)は内皮細胞特

異的タモキシフェン誘導型 Has2 KO マウスにより,

糸球体内皮細胞の glycocalyx が 80%低下し,糸球体構

造・機能への重要であることを示した。さらに経時的

に観察すると糖尿病性腎症の進行した病態を再現す

るようになっていた。また,反対にヒト糖尿性腎症で

糸球体内皮のヒアルロン酸の calyx 減少が観察された。

糸球体病変で従来認識されていなかったヒアルロン

酸が今後重要コンポーネントとして注目され得る。フ

ラッシュトークでは,名古屋大学整形外科学の先生お

二人が軟骨のヒアルロン酸代謝について発表された。

日本では軟骨代謝でヒアルロン酸代謝の研究はよく

聴くが,今回の会議では少なく感じた。

第6セッションは,HA signaling のセッションで,

日本の留学生を多く受け入れてこられた Knudson 先

生(East Carolina University)の CD44 endocytosis のお

話しなどがあった。

第7セッションは新規 HA interaction のセッショ

ン:Yu Yamaguchi 先生は,プロテオグリカン研究で

も著名だが,HAS を板野先生とほぼ同時にクローニン

グされたご経歴からヒアルロン酸研究でも有名であ

る。今回はヒアルロン酸分解酵素の TMEM2 の生理的

機能について未発表データを加えてのご発表であっ

た。いつも先生の研究はビジュアルにもきれいでかつ

新しいもので常にリードされている点が印象的であ

る。前回の学会に引き続き,ヒアルロン酸の分解系に

注目したお話であった。皮膚などはヒアルロン酸の代

謝(異化)が非常に早い事が知られていたにも関わら

ず,主要な分解酵素と考えられてきた HYAL では十分

に説明できなかった部分の穴を埋めるような TMEM2

の発表であった。内在性 TMEM2 の生理活性は,

conventional に KO すると 10.5 日胚で 3 胚葉が正常

にできず,基底膜も形成されない。そのため,adult の

inducible KO もお示しされた。様々な組織で TMEM2

の発現がありそうだが,リンパ節でこの II 型膜タンパ

ク酵素が発現しており全身のヒアルロン酸の代謝に

関わっているようである。Banquet で Yamaguchi 先

生の方から我々のテーブルに来られ,脳でのヒアルロ

ン酸代謝や我々の行なっているペリニューロナルネ

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ット機能について意見交換をさせていただくことが

できたのは非常に貴重な機会であった。Kwok 博士

(University of Leeds)の話も興味深かった。彼女は筆者

と同じく Perineural net(PNN)の研究者で,脊髄損傷

後 ChaseABC 処理によりコンドロイチン硫酸鎖を除

去すると神経可塑性が回復することをかつて報告し

ている。今回は 4-MU をリード化合物として新しいヒ

アルロン酸合成阻害剤候補を探索し,その新規薬物の

効果を示した。ヒアルロン酸がなくなるだけでなく,

aggrecan などプロテオグリカンもなくなり,さらに後

肢の運動機能の回復もみられた。

第8セッションは免疫関係のセッションで,de la

Motte 先生(Cleveland Clinic)の HA35 のお話や Nagy

先生(Stanford University) の 4-MU の活性代謝物 4-

MGU のお話などがあった。

午前 8 時より午後 6 時過ぎまで,ランチを挟んで連

日連夜口演やポスターセッションが続き活発な議論

が行われたが,大会 4 日目の午後のポスターセッショ

ン後に,やっとエクスカーションを兼ねたディナーが

郊外の Caldicot 城で催された。バスに揺られて東に進

むこと1時間,鎧を着た兵士と当時の衣装を着た女性

に出迎えられて入場した。小雨が降っていたが,大き

なテントの下で夜遅くまで,ゆっくりと食事をしなが

ら参加者といろいろな談義を楽しんだ(写真 2-4)。

最終日の午前中,第9,10セッションがあり,慢性

疾患や加齢に関する発表で締めくくられた。

筆者は,ロンドンへの移動のため,共同研究者や友

人に挨拶を済ませてから少し早く切り上げ,今回の会

議出席をきっかけに研究が面白く進展することへの

期待を抱きながら会場を後にした。

次回は二年後の 2021 年に,米国オレゴン州ポート

ランドで開催されるとのことである。

写真1:Wight 先生 Rooster 賞受賞,右下は記念品

(HA2019 website から転載)

写真2:Caldicot 城

写真3:HA2019 のプロジェクションと Banquet の行

われたテント(HA2019 website から転載)

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写真4:Banquet で(右から Leeds 大学 Dr. Richter,

京都産業大 板野教授,大橋)

Glycoforum> Conference Reports>第12回ヒアル

ロン酸国際カンファレンス から改変

https://www.glycoforum.gr.jp/article/22A9J.html

第 11 回プロテオグリカン国際会議を主催して

渡辺秀人(愛知医科大学・分子医科学研究所)

令和元年 9月 29日(日)から 10月 3日(木)の日

程で石川県金沢市の石川県立音楽堂にて第 11回プ

ロテオグリカン国際会議を開催しました。本会議は西

暦奇数年に各国持ち回りで行われ,第 1回が日本(木

全弘治名誉教授主催),その後はイギリス,イタリア,

スウェーデン,ブラジル,フランス,オーストラリア,ドイ

ツ,韓国,イタリアと続いて今回 20年ぶりに日本で開

催することとなりました。

プロテオグリカン/グリコサミノグリカンの研究分野に

は Gordon Research Conference(GRC)-

Proteoglycans (PGs)という権威ある学会があります。

GRC-PGsは通常西暦偶数年の 7月第 1週にアメリ

カニューハンプシャー州にて参加者 200名までの限定

で開催されるため,若手研究者はなかなか参加できな

いという問題があります。この点を解消するために西

暦奇数年に各国持ち回りでプロテオグリカン国際会議

を開催することとなった次第です。

今回の日本での開催の話は 2年前に提案され,私

渡辺を会長,名城大学・山田修平教授を副会長として

開催することとなりました。早速海外組織委員 10名と

国内組織委員 6名を設定し,準備を始めました。海外

組織委員からは,1)参加費を 500US$までに抑え,大

学院生やポストドクトラルフェローに対して安価な参加

費を別途設定すること 2)観光地で開催すること 3)

日曜日の午後から計 5日間の予定で開催することが

決められました。これを元に国内組織委員会で相談し

た結果,石川県金沢市で開催することとなりました。金

沢市の様々な施設を検討した結果,金沢コンベンショ

ンビューローの支援を得て,石川県立音楽堂にて開催

する運びとなりました。会場は音楽堂内の交流ホール

で約 200人がスクール形式で集まることができるちょ

うど良い大きさのホールです。ホールの両脇には廊下

がありポスター掲示ができるスペースがありました。一

言で言えばきわめて使い勝手の良い会場であったとい

えます。

参加者は合計 168名でした。そのうち 69名が外国

人で,合計 20 カ国(出身国を入れると合計 24カ国)

からの参加で,極めて国際色豊な会議となりました。正

直なところ,これほど沢山の外国人研究者が参加して

くれるとは思いませんでした。特に参加した若い海外

研究者の方々は日本への出張・旅行の金銭的支援を

ボスから取り付けているわけで,発表内容を見ても確

かに皆さん未来を嘱望された若手研究者なのだろう,

と思いました。

さて発表内容に関しては,ヘパラン硫酸の機能に関

する発表が目立ちました。その他ヒアルロン酸,コンド

ロイチン硫酸の研究成果,コアタンパク質については

主としてシンデカンの研究成果が発表されました。日

程的な流れとして,最新の知見に関するセッションから

始まり,へパラン硫酸やヒアルロン酸の合成・分解機

構に関する発表,炎症や癌におけるグリコサミノグリカ

ンプロテオグリカンの役割に関する発表へと続き,最

後に治療戦略に関する成果が発表されました。当初の

予想に反してがんや疾患の治療に関する発表は少な

かったように思います。

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今回強く印象に残ったのは若い研究者の研究発表

の質の高さです。外国人に関しては上に書いた通りで

すが,日本の研究者も全くひけを取らないというか,本

当に素晴らしい内容ばかりでした。本国際会議の重要

な目的の一つは若手研究者の育成です。この点で本

会議の目的は十分に果たせたと自負しております。

主催者としてつくづく感じたのは,皆さんが積極的に

助けてくださったり手伝ってくださったことです。

本国際会議で最も重要なことは「組織委員や招待講

演者であっても原則旅費は自腹」ということです。この

慣習は会議の予算面でたいへん助かります。今回海

外組織委員 10名のうち 3名は様々な都合で来日しま

せんでしたが 7 名は参加してくれました。招待講演者

に関しても同様で新たに重要な予定が入ったからとい

う理由でキャンセルされた方はいましたが大部分の

方々は参加してくれました。海外組織委員と海外から

の招待講演者に一定の謝金はお支払いしましたが,

到底旅費をカバーできる金額ではありません。国内の

通常の学会では海外から数十万円支払って来てもらう

ことが多いのですが,この取り決めがあったおかげで

少額の予算で第一線の研究者を招聘できたわけです。

国際組織委員の先生方は忌憚ない建設的な意見を

沢山伝えてくださり,たいへん参考になりました。国内

の組織委員の先生方には重要な局面で助けて頂いた

り,必要な時に適切な対応をしてくださいました。Vice

Chair の山田先生は懇親会で「自分は何もやっていな

い,全てヒデがやった」とおっしゃってくださいましたが,

プログラム策定という最も重要なところは最終的に 2人

で練りました。私一人ではこのようなプログラムを組む

ことは決してできません。本当に助かりました。自分の

研究室のメンバーのことなので記載するのは些か憚れ

ますが,事務局を担当してくれたスタッフを始め,優秀

で段取り力のあるメンバーが実務を担当してくれたこと

も成功の大きな要因でした。

日本にいるとなかなか気が付かないことかもしれま

せんが,開催地が日本だったことも大きな利点だったと

思います。日本は清潔で治安が良く,公共交通機関は

時間どおりに運行し,観光地には見どころが多く,日本

人は親切だという評判をよく耳にしました。「日本だか

ら参加する」という人も多かったと思います。

さて次回の第 12 回は英国にて開催予定です。同研

究分野には英国の研究者が沢山いますので,充実し

た会議になるだろうと期待しています。

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第十五回結合組織勉強会参加記

村澤裕介((株)ニッピ)

今,手元に一枚の写真があります(写真 1)。なんだ

か,みんな嬉しそうです。みんな笑ってリラックスで

す。この集合写真一枚見ているだけで,今勉強会の良

さが心にジーンとくるのです。

先日の 10 月 26 日,第十五回北海道結合組織勉強会

に参加しました。10 月末の江別は,朝晩少し肌寒い程

度で,風が気持ちよく,とても過ごしやすい時期。札

幌周辺の紅葉も美しく,支笏湖のそれは,心洗われる

ものでした(写真 2.3.4)。会場は江別市にある酪農学

園大学。牧歌的な緑広がる美しい大学です。構内は秋

色の白樺並木(写真 5)。初めてこの並木に立ったのは,

いつだったでしょうか。爽やかな夏の朝でした。例年,

この並木道に佇むと,嬉しくなります。漸く身辺が落

ち着いたこの頃。この並木前に再び立てたこと,只々

有難く感謝です。朗らかな心持ちで,本会が始まりま

した。獣医では畜産における身近な結合組織そのもの

を研究している場合が多く,結合組織好きにはたまら

ない発表が目白押しです。発表者,参加者共に,特に

形態をじっくり観察されてきた方が多く,一枚の組織

切片画像についての形態学的考察,質疑応酬は,傍で

聴いていても勉強になります。個人的にも,熟成牛の

結合組織研究,プロイラーの胸肉の研究等,どのくら

いコラーゲン線維が残れば美味なのか?弾性線維は

どうか,炎症はどうか,美味しいお肉とはなんなの

か?色々妄想膨らむ面白い発表の連続。ウシ腱の発生

におけるコラーゲン細線維の編みこみ構造化と細線

維と並行して存在する細胞との関係,基底膜コラーゲ

ン変性に伴う,卵管上皮繊毛運動異常,そこからの卵

管内への卵子のピックアップ機構不全の話,プラナリ

ア再生時のコラーゲン可視化など聞いているだけで

嬉しくなる発表ばかりです。そして,圧巻は,目から

鱗画像のオンパレードとなった,特別講演,山梨大学

大野先生の 50 年にわたる生きた臓器形態の観察研究

です。細胞組織の急速凍結固定法(凍結置換法)とい

う,動物生体の時間をそのまま止めた様な固定法での

データは,美しく煽情的で,自分も,帰ったらすぐに

やるぞ!と思い立った次第です(本記現在,凍結置換

固定を同時進行中)。セッション最後で高校生を呼ん

で行った,ニッピ服部氏のコラーゲン教室(写真 6)

も又,楽しく,勉強になり,もう,今日は満足-満足。

さて,結合組織勉

強会(ケツベン!)

といえば,意見交換

会です。札幌ビール

園で,若手も学生も

大先生も意見を交換

しまくるのです(写真 7.8)。楽しいです。コラーゲン

について,結合組織について,現象を見る楽しさにつ

いて。熱く語り合うのが王道です。そしてまた来年の

出会いを楽しみに,今回のケツベンは終了を迎えまし

た。

写真 1

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今村先生談『学問をそれぞれが楽しむという大事なこ

とが,ケツベンにはありますよね。』はい。ほんとうに。

6. 研究室紹介

東海大学医学部基盤診療学系先端医療科学

東海大学大学院マトリックス医学生物学センター

住吉秀明(文責),稲垣 豊

私達の研究室は医学部と付属病院が所在している

東海大学伊勢原キャンパスにあります。伊勢原市は人

口 10 万人と適度に田舎で,静かで住居費も安く,勉

学と研究にはうってつけの環境でありながら,小田急

電鉄のおかげで都心まで1時間と少しで行けますので

東京圏で開かれる学会には日帰りで参加できます。

少々の不便さも聞かれますが住めば都というところ

でしょう。東海大学付属病院は 804 床の規模で高度救

命救急センターとドクターヘリを持ち,関東の拠点病

院として機能しています。

現在(2019年 10月)の研究室のメンバーはPrincipal

Investigator である稲垣 豊教授と,講師の住吉秀明(筆

者),助教の柳川享世 3 名がスタッフで研究員 4 名,

博士課程大学院生 1名,同大学工学部学生(医工連携)

1 名,技官 2 名,事務職員 1 名が在籍しています。

教室の研究の内容を紹介する前に東海大学(医学部)

における研究環境への取り組みについて触れておき

ましょう。と言いますのも,色々な研究室を渡り歩い

た筆者の視点で,そのコンセプトに大いに感銘を受け

たからであります。まずひとつに集約された実験支援

施設,「生命科学統合支援センター」の存在がありま

す。動物の維持管理,細胞・組織学,蛋白質解析,ゲ

ノム情報解析等,各専門分野にわたり総計 40 余名の

技官さんが我々のサポートをしてくれます。共焦点レ

ーザー顕微鏡,蛋白質質量分析装置,FACS,次世代シ

ークエンサー,マイクロアレイ装置のような,高価な

機器が大学の予算によって購入・設置されており,専

属のオペレーターが配置されています。我々はこれら

を実費のみで利用することが出来ます。勿論,動物の

手術・解剖の補助や病理切片の作製など細やかな支援

も受けられます。これらはルール化された依頼書のや

りとりによって全ての教室がイーブンに享受できま

す。教室に大型機器を置く必要がない分,研究資金を

本質的研究戦略に運用することが出来ることになり

ます。ふたつめには研究組織があり,早くからユニッ

ト制がとられています。研究費を有する講師以上の研

究者は自分のユニットを持つことが出来,所属と独立

して領域横断的・有機的な研究設計と研究グループを

組織できます。そこには垣根を越えた新しい風が存在

します。自由には責任が存在し,ユニットの成果と業

績は評価されます。当教室には稲垣教授の肝線維化の

病態解明と治療法の研究と,住吉のコラーゲンを用い

たバイオマテリアルについての 2つのユニットが存在

し,お互いに連携しながら独自の研究ネットワークが

拡がっています。最後に,東海大学全体の研究指針は,

ゲノム解析,再生医療,創薬等,幾つかを拠点化し,

戦略性をもった方向付けがなされています。学内に多

くの競争的研究助成制度があり,若い研究者がいち早

く外部競争資金を獲得できる独立した研究者となれ

るように支援が行われています。またシニアの研究者

には,より大型の研究プロジェクトの採択への足掛か

りを提供し,また催促をします。合理的・戦略的な体制

的取り組みは,在って然るべきものであり,多くの大

学や研究機関も同じ取り組みがあると思いますが,全

学スケールで徹底して行われている事例は実際には

そう無いのではと思いました。

それでは研究室の近況をお知らせします。稲垣研究

室は先端(再生)医療科学という領域に属しています。

大学の掲げる研究拠点,再生医療研究を推進する分野

であり,今年度から更に先を目指して先端と名を改め

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ました。我々はここで肝臓の再生医療を手掛けていま

す。それは肝線維症の治療と克服に他なりません。ま

た大学院の研究機関として「マトリックス医学生物学

センター」を設けており,我々の研究室が主宰してお

ります。これは稲垣教授が東海大学の研究推進部責任

者の任にあるときに,大型外部資金「私立大学戦略的

研究基盤形成支援事業」(2015-2019)の採択を得て

2015 年に設立されました。臓器線維症は肝臓のみな

らず,全ての診療科に共通する重篤な線維性変性病変

であり,また高齢化・飽食化等の社会構造変化に伴い

増加する慢性疾患の終末像となっている非常に重要

な医学テーマでありますが,線維症を共通テーマとす

る組織はこれまでありませんでした。本センターは基

礎・臨床各科の研究者が分野横断的に情報を共有し,

研究資金と設備を供給する唯一無二の研究拠点を創

設するというコンセプトで認可を得ました。この新し

い試みに,再生医療,分子生物学,免疫・生体防御学(基

礎系),循環器,呼吸器,消化器,脳神経,腎内分泌,

血液腫瘍,臨床薬理学(臨床系)等,様々な領域の研

究者達が集まり成果を得ています。学術的な成果に止

まらず,形成された新しい機会と繋がりが新しいプロ

ジェクトにつながっています。稲垣教授は AMED の公

募研究「肝炎等克服緊急対策研究事業」において「エ

クソソーム内包再生促進因子に着目した線維肝再生

の新たな診断・治療法の創出」を提案し採択を得てい

ます(2018-2020)。改めて紹介するまでもありません

が,稲垣教授の研究は線維化病変の主座である I 型コ

ラーゲン(COL1A2)の遺伝子転写制御領域の決定,転

写レベルが TGF-β,TNF-α,IFN-γ の刺激により増減

する細胞内メカニズムの解明,細胞内シグナル伝達機

構に立脚したコラーゲン遺伝子転写抑制低分子化合

物の開発,コラーゲン遺伝子発現動態を可視化できる

Col-EGFP トランスジェニックマウスの樹立,その他

にも枚挙に暇がない業績があります。しかし,過去の

成果に安住することなく,リスクを賭けた新しい領域

へと研究を進めています。特に現在の研究は実験室の

成果を患者に届ける,臨床応用を見据えたテーマへと

シフトしてきています。以下に,現在進行中の主なプ

ロジェクトと発表論文を紹介します。

(1)新規エクソソーム内包タンパク質を用いた線維肝

に対する再生治療戦略

肝再生促進因子 Opioid growth factor receptor-like 1

(OGFRL1)は,線維肝が G-CSF によって改善すること

に端を発し,肝病変部に侵入した骨髄由来細胞中から

G-CSF 投与により発現誘導される遺伝子を網羅的に

解析し単離された遺伝子産物で,単離した時点で機能

未解明とされていました。本遺伝子を過剰発現する間

葉性幹細胞を線維肝モデルマウスに投与すると線維

化病変の軽減と肝細胞分裂が促進されることが確か

められました。この遺伝子は骨髄内細胞に強く発現し

ていますが,四塩化炭素投与によってダメージを受け

て回復する過程の肝細胞に特異的な局在が認められ

ています。ただし四塩化炭素投与によって肝臓や骨髄

で発現はむしろ低下する矛盾がありました。このテー

マに取り組んでいる柳川享世助教は OGFRL1 のタン

パク質が細胞外分泌小胞に存在し,四塩化炭素投与時

に血中で増加することを突き止めました。これにより

矛盾が解決されるとともに新しい治療法の道標が示

され,先の AMED の新しいプロジェクトに繋がってい

ます。博士課程大学院 2 年生の松木勇樹は,リポソー

ムの研究実績を生かして柳川助教と共に細胞外分泌

小胞を模した効率的ドラッグデリバリーシステムに

よる新しい肝治療法開発を進めています。

Yanagawa T, Sumiyoshi H, Higashi K, Nakao S,

Higashiyama R, Fukumitsu H, Minakawa K, Chiba Y,

Suzuki Y, Sumida K, Saito K, Kamiya A, Inagaki Y.

Identification of a novel bone marrow cell-derived

accelerator of fibrotic liver regeneration through

mobilization of hepatic progenitor cells in mice. Stem

Cells 37: 89-101, 2019. DOI: 10.1002/stem.2916

(2)肝星細胞の脱活性化因子の同定と線維化治療への

応用

活性化肝星細胞を脱活性化することは既に進行し

た肝線維症を治療回復させる有益な治療手段であり

ますが,肝星細胞の活性化と脱活性化のメカニズムは

わかっていません。中野泰博研究員(2019 年度から東

京大学定量生命科学研究所)は胎児発生過程の肝星細

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胞を FACS によって単離し,全遺伝子発現を網羅的に

追跡することで静止期肝星細胞に特徴的な転写因子

を選定,培養星細胞に遺伝子導入を行った結果,活性

化星細胞を脱活性化できる転写制御遺伝子を特定し

ました。更に,この転写因子をアデノ随伴ウイルスに

よる遺伝子治療に用いることで肝線維症モデルマウ

スに治療効果が認められました。安田純平研究員は今

年度から教室に加わり,過去手掛けていた心臓の研究

ノウハウを生かして高血圧負荷による心線維化リモ

デリングモデルマウスの作製に取り掛かっています。

心臓の線維モデルは新しい試みであり,我々の教室で

培ってきた線維化進行の可視化技術と,肝星細胞脱活

性化が心臓の線維産生細胞にも適用できるか,治療技

術の普遍性の観点からも研究の結果が大いに注目さ

れています。

Nakano Y, Kamiya A, Sumiyoshi H, Tsuruya K,

Kagawa T, Inagaki Y. A novel deactivation factor of

fibrogenic hepatic stellate cells induces regression of

liver fibrosis in mice. Hepatology 2019, online

published. DOI:10.1002/hep.30965

(3)クラゲコラーゲンを用いた新たな創傷治癒促進剤

の開発

当研究室のもう一つのユニットであるコラーゲン

を用いたバイオマテリアルの研究分野は住吉秀明講

師が東海大学の進める産学協同研究事業から生じて

きたもので,新しい産業素材であるミズクラゲコラー

ゲンに優れた表皮再生促進効果があることを見出し,

再生促進薬の創薬,また新型の人工皮膚を開発するプ

ロジェクトとして立ち上げたものです。この領域は医

学部だけではなく,全学のプロジェクト研究としての

支援のもと,工学部の先生と有益な連携研究を行って

います。この研究テーマでは久保田朋子研究員がミズ

クラゲコラーゲンの再上皮化作用を定量する動物実

験の取り組みを始めたところです。また,今年から腱

の再生というテーマで工学部材料科学科と連携研究

が始まり,学生 1 名が卒業研究のために腱の損傷モデ

ルの研究を始めています。

Sumiyoshi H, Nakao S, Endo H, Yanagawa T, Nakano

Y, Okamura Y, Kawaguchi AT, Inagaki Y. A novel

composite biomaterial made of jellyfish and porcine

collagens accelerates dermal wound healing by

enhancing reepithelization and granulation tissue

formation in mice. Advances Wound Care 2019, online

published. DOI:10.1089/wound.2019.1014

最後にどの研究室でもやはり人材の確保が最大の

課題となっております。ここまで,研究内容について

述べてきたのですが,稲垣教授が大事にしている研究

室の指針がもう一つあり,それは若手研究者の育成で

あります。ここまでに名前が挙がっている教室員で,

稲垣,住吉以外の方は皆若手でありまして,多くが科

研費や学内研究費の採択を得ています。当教室の経験

がよい糧となり,自身の研究者としての位置を切り開

くのに役だってほしいと切に願っております。新規学

生の募集については最近,学部間交流によって,他学

部の学生さんが卒業研究で医学研究を行うケースが

増えています。東海大学内のみならず,他大学との大

学間連携も経験しています。生物学の経験がなかった

り,就職活動や教員免許等で大変忙しい学生さんもい

ますが,納得出来る自分の卒業研究にたどり着けてい

ます。

結合組織学会やこのニュースレターを通じて私た

ちの研究室に興味ある方は,以下までお問い合わせく

ださい。

〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋 143

東海大学医学部先端医療科学

住吉秀明([email protected]

稲垣 豊 ([email protected])

TEL: (0463) 93-1121 内線 4082(住吉)2611(稲垣)

http://matrix.med.u-tokai.ac.jp/

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マトリックス医学生物学センター開設時(2015 年)

稲垣 豊 教授 左から 5 人目, 住吉秀明 講師 同 6 人

目, 柳川享世 助教 左端,中野泰博 研究員(現東京大

学)右から 4 人目

現在の研究室(肝細胞研究会主催・横浜開港記念会館

2019 年 5 月)

安田純平 研究員 2 列目右端, 松木勇樹 大学院生 同

2 人目,久保田朋子 研究員 3 列目左から 2 人目

東京薬科大学 薬学部 医療薬物薬学科

病態生化学教室 (野水研究室)

濵田 圭佑

1. 東京薬科大学の沿革と所在地

東京薬科大学は,2020 年に創立 140 周年を迎える

日本で最も古い私立薬科大学です。1880 年 (明治 13

年) に,医師である藤田正方 (文部省属官旧丸岡藩士)

が本学の前身である東京薬舗学校を本所区亀沢町 (現

墨田区) に創立したことに遡ることができます。その

後,1883 年の東京薬学校,1949 年の東京薬学専門学

校(男子のみ),東京薬学専門学校女子部を経て,現在

の東京薬科大学が設立されました。男女別々の専門学

校が一緒になって大学が設立されたことから,現在で

も男子部と女子部が存在しており,1-3 年生の間は全

国的にも珍しい男女別学の体制を継続しています。学

部4年次からは共学となり,男女ともに研究室への配

属となります。研究室に入って,久しぶりに男子学生

と話した女子校出身の学生とか,女子がいることに舞

い上がる男子学生などもチラホラ見受けられます。

東京薬科大学の所在地は,その名のとおり東京都に

あるものの,東京駅から JR 中央線の快速に乗って 1

時間かかる八王子市にあります。もともとは,東京薬

学専門学校が新宿に,東京薬学専門学校女子部が上野

にありましたが,手狭になったことから,1976 年に現

在の所在地である八王子市の堀之内へ移転しました。

現在の地は,京王線の平山城祉公園駅あるいは京王相

模原線の京王堀之内駅から徒歩にて約 20 分もしくは

路線バスにて 6 分程度,JR 中央線豊田駅からは大学

直通バスにて約 10 分の距離にあります。大学の周囲

は,学生街特有の飲食店がなく残念なのですが,学業

に専念できる環境が整っています。ただ,このまま田

舎のままではなく,近くの JR 橋本駅がリニアモータ

ーカーの駅となることが決まっており,新副都心とし

て発展することが期待されています。

2. 病態生化学教室の概要

病態生化学教室は,野水基義教授が 2004 年に本学

に着任されたことを機に始まりました。その 1年後に,

吉川大和先生が札幌医科大学より着任され,2007 年

に保住建太郎先生が NIH より,2008 年に片桐文彦先

生が大分大学より着任され教室の体制が整いました。

その後,2018 年に保住先生が北里大学へ,片桐先生が

本学の薬効解析学教室へ転出されたことを機に,筆者

が本学の薬品化学教室から,山田雄二先生が NIH から

着任し,現体制の野水基義教授,吉川大和准教授,山

田雄二助教,筆者の濵田圭佑助教の 4名となりました。

また,病態生化学教室は,日本結合組織学会と合併

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したマトリックス研究会の事務局を担当し,2008 年

には野水教授が世話人としてマトリックス研究会学

術集会を,東京駒場エミナースで日本結合組織学会学

術集会との共催で開催しました。

病態生化学教室では,当初より「創薬・再生医療を

目指した細胞接着分子の機能解明」をテーマとして掲

げ,基底膜の構成タンパク質である「ラミニン」をキ

ーワードに,ペプチド化学を基盤としたアプローチと

細胞生物学を基盤としたアプローチにより研究を推

し進めています。研究成果は,2010 年結合組織学会大

高賞 (吉川大和),2010年日本ペプチド学会奨励賞 (保

住建太郎),2013年結合組織学会大高賞 (保住建太郎),

2015 年日本ペプチド学会奨励賞 (片桐文彦),2019 年

日本ペプチド学会賞 (野水基義)としても評価されて

います。

病態生化学教室は,6 年制薬学部の専門教室として,

卒論研究の学生を 3年生の後期から受け入れています。

各学年 15 名ほど所属するので,多いときは 60 名近く

になる大所帯なります (図 1)。しかしながら,4 年生

は講義・実習に CBT や OSCE と忙しく,5 年生は各

地の病院や薬局へ実務実習に忙しく,6 年生は早くか

ら国家試験の受験勉強に入るため,実質的に卒業研究

に費やせる時間はさほど多くありません。また,卒論

の学生のうち 1/3 は文献の調査研究コースとなるため,

実験を行うのは残り 2/3 の学生になります。大学院は,

6 年制を卒業した学生のための薬学研究科博士課程と

薬学部以外または 4年制薬学部を卒業した学生のため

に薬学研究科修士課程が設置されています。現在,博

士課程大学院生 2 名が所属しています。また,2-3 年

に 1名ほど生命科学部より大学院の修士課程の院生を

受け入れています。この他,米国南カルフォルニア大

学および中国瀋陽薬科大学からの留学生の受け入れ

も行い,国際色もある研究室になっています。

3. 現在のスタッフの研究概要

野水基義教授は,米国 NIH の在職中に Dr.Yoshihiko

Yamada, Dr.Hynda Kleinman と共に,ペプチド化学に

よるラミニンの機能解明を開始し,さらにその応用に

関する研究を行っています。野水基義教授は,ラミニ

ン-111 のアミノ酸配列 (α1,β1,γ1 鎖) を網羅した

673 種類のペプチドを皮切りに,ほぼすべてのラミニ

ンアイソフォームのアミノ酸配列を網羅する約 3000

種類のペプチドを合成し,種々の細胞を用いて細胞接

着活性,神経突起伸長活性を測定することで,ペプチ

ドの生物活性およびラミニンの生物活性部位の同定

を行なってきました。さらに,これら細胞接着ペプチ

ドは,細胞表面の受容体に特異的に結合することから,

創薬への応用,分子プローブとして DDS への応用,

バイオマテリアルとして再生医療への応用を試みて

います (図 2)。

吉川大和准教授は,横浜市立大学大学院にて宮崎香

教授に師事し,ラミニン-332 の発見により学位を取得

しました。その後,ラミニンの中心的な研究者である

大阪母子センター研究所の関口清俊部長やワシント

ン大学の Prof. J.H. Miner などの研究室を経て,東京

薬科大学へ着任しました。吉川大和准教授は,生化学

および細胞生物学的な手法を用いて,①癌の浸潤・転

移に関連する蛋白質の探索を行い,②新規ラミニンを

図1. 2019年度研究室メンバー

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同定し,③ラミニンが癌細胞の接着・運動だけでなく,

④胚発生や腎障害などの病態にも関係する機能的な

蛋白質であることを明らかにしてきました。さらに,

⑤ラミニン機能の培養基質への応用も試みています

(図 3)。

山田雄二助教は,東京薬科大学で学部大学院を病態

生化学教室にて過ごした後,米国国立保健衛生研究所

にて自己会合ペプチド研究を世界的にリードする

Prof. J. Schneider の下,5年半に渡り NIH Visiting

Fellow としてゲルを用いた三次元培養およびドラッ

グデリバリーの研究に従事しました。現在は,ラミニ

ン由来の生物活性ペプチドの探索研究,およびペプチ

ド−高分子材料を用い,生体材料への応用を目指した

研究を行っています(図 4A)。

筆者は,同様に東京薬科大学で学部大学院 (薬品化

学教室) を修了後,2017 年より当研究室にてラミニン

由来活性ペプチドの構造最適化研究を行なっていま

す。中でも,ラミニン2 鎖 LG4-5 モジュールから見

出された,筋細胞表面に高発現する-ジストログリカ

ンへ選択的に結合するペプチド,A2G80 に着目した構

造活性相関研究に注力しており,DDS ツールとしての

応用を目指しています(図 4B)。

4. 病態生化学教室が目指すところ

病態生化学教室の特色は,各スタッフが異なる研究

背景を持つことにあります。今後もラミニンを含めた

細胞外マトリックスに対して,野水基義教授のペプチ

ド化学的,吉川准教授の生物学的,山田助教の高分子

化学的,そして筆者のケミカルバイオロジー的なアプ

ローチを有機的に融合することで,創薬および再生医

療への発展に貢献していきたいと思っています。

追記:当教室では日常的にペプチドを合成していま

す。研究者の方で,通常のペプチドだけでなく,複雑・

特殊な構造のペプチドの合成を考えておられる場合

は,是非ご相談ください。

7. 第 52 回日本結合組織学会学術大会の案内

会期:2020 年 6 月 26 日(金)〜6 月 27 日(土)

会場:名古屋国際センター(名古屋市中村区)

大会長:磯貝善蔵(国立研究開発法人国立長寿医療研

究センター)

事務局長:渡辺研(国立研究開発法人国立長寿医療研

究センター)

大会ウェブサイト:http://jsmbm2020.umin.jp

来年 6 月 26 日・27 日両日で,名古屋国際センター

(写真 1,2)にて開催いたします第 52 回日本結合組織

学会学術大会についてお知らせ致します。会場は例年

どおり,梅雨時の開催となることを考慮して名古屋国

際センターとしました。会場へは国内随一の名古屋駅

地下街を通れば雨風の心配なく名古屋駅から徒歩7分

ほどでお越しいただけます。また,地下鉄桜通線「国

際センター駅」(名古屋から1駅)の2番出口直結で,

利便性は抜群です(写真3)。大規模な学会が開催され

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ることが多い「名古屋国際会議場」ではありませんの

で,ご注意をお願いします。

現在,大会プログラムを検討中ですが,「結合組織学

会ケースレポート」を新しい試みとして企画しました。

また大会前日の 25 日に国立長寿医療研究センターで

開催します「日本結合組織学会若手セミナー」を中堅

〜若手の先生方に世話人をお願いし企画しました。海

外からの招請講演では ASMB (American Society for

Matrix Biology)の President である Lynn Y Sakai 博士

にお願いしました。また,ここ数年の学術集会でもあ

ったように,KSMB(Korean Society for Matrix Biology)

との交流セッションも予定しております。JSMBM と

ASMB,KSMB とのますますの交流も期待しています。

一般演題の募集につきましては,正式なアナウンス

は後日させて頂きますが,2 月に行う予定です(〆切:

2 月末)。学術大会のメインは皆様の一般演題ですので

沢山の演題応募をお待ちするともに,学術大会で有意

義な議論ができるようなプログラムを考えてまいり

ます。

会場は名古屋駅周辺の高層ビルに近いものの,昔な

がらの四間道(しけみち)の街並み(写真4)に隣接す

る場所にあり,散策も楽しい場所です。来年は東京オ

リンピック・パラリンピックの関係で首都圏以外の学

会が多いと聞いておりますが,6月に名古屋で会員の

皆様にお会いできるのを楽しみにしております。

お問い合わせ:

学術大会事務局 e-mail: [email protected]

8. 日本結合組織学会若手セミナー 〜第 1

章・マトリックスを語ろう〜 の案内

第 52 回日本結合組織学会学術大会のサテライト企

画として『マトリックスと聞いてワクワクする人』

を対象にした若手セミナーを催します。奮ってご参

加ください。

会期:2020 年 6 月 25 日午後(第 52 回日本結合組織

学会学術大会前日)

場所:国立長寿医療研究センター 教育研修棟

会費:学生・ポスドクは無料(懇親会・宿泊費込),

その他は宿泊費のみ負担

世話人:大野 充昭(岡山大),折本 愛(岩手大),

谿口 征雅(大阪大),橋本 恵(UCSF),山城 義人

(筑波大)

*詳細は,第 52 回日本結合組織学会学術大会 HP 内

の若手セミナー

(http://jsmbm2020.umin.jp/seminar.html)を御覧く

ださい。

お問い合わせ:第 52 回日本結合組織学会学術大会事

務局([email protected]

9. 第 53 回日本結合組織学会学術大会の案内

会期:2021 年 6 月 26 日(土)~27 日(日)

会場:順天堂大学(東京都)

会長:平澤恵理(順天堂大学医学部)

10. 2020 年度日本結合組織学会大高賞 募集案

2020 度の大高賞募集を開始いたします。本ニュー

スレターのうしろに募集案内を記載しました。応募締

切りは 2020 年 2 月末日です。3 月末日には結果をご

報告する予定でおります。なお本学会のウェブサイト

には「平成 31 年度応募申請書」と記載されておりま

すが,2020 年度の大高賞に応募の際も当該申請書を

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ご使用ください。会員の諸兄姉には奮って応募下さる

ようお願いいたします。(渡辺秀人)

11. JSMBM International Travel Award 募集

案内

国際担当理事 大橋俊孝

理事長 渡辺秀人

2019 年度は生憎 ITA の受賞者はいませんでした。

本学会としましては若手研究者の方々に是非海外の

学会に参加戴き,研究成果を発表して欲しいと願っ

ております。些か私見ですが日本の研究は素晴らし

いものが多く,海外の研究者に積極的に周知してい

く必要があると感じております。

さて 2020 年度の主要な海外の学会として,

Matrix Biology Europe (MBE): Florence, Italy: 5/24-28

GRC on Proteoglycans: New Hampshire: 7/12-17

ASMB biennial meeting: St. Louis: 11/8-11

Ppctss: Melbourne: 11/22-26

があります。

もちろんその他の学会参加でも構いません。

是非応募くださいますようご案内申し上げます。

ITA 募集要項と細則は以下のとおりです。

************************************************************

2020 年度 日本結合組織学会 International Travel

Award (ITA) 募集要項

2020 年 ITA を以下のとおり募集いたします。JSMBM

ITA 応募規程が一部改訂されました(HP 上にも掲載し

ましたのでご覧ください)。

応募資格

1. 2020 年 4 月 1 日の時点で 40 歳未満であること

2. 応募時に 2019 年度までの学会会費を完納してい

ること

3. 2020 年 6 月 26 日-27 日開催の第 52 回日本結合

組織学会にて発表すること

4. 2019 年度に本学会 ITA を受賞していないこと

応募先と締切:

日本結合組織学会暫定事務局宛

[email protected]

にメール添付の形でお送りください。

締切:2020 年 3 月 31 日

************************************************************

12. 学会案内

*学会案内(pdf)はニュースレターに添付してあるので

参照してください。

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13. 掲示板

書籍紹介

科学者の研究倫理 化学・ライフ

サイエンスを中心に(東京化学同

人)

田中 智之/小出 隆規/安井 裕之

(著)

http://www.tkd-

pbl.com/book/b361263.html

日本における再生医療の真実

(幻冬舎ルネッサンス新書)

佐藤正人

再生医療は健康寿命を延ば

す最強の治療法となる可能性

がありますが,同時に治療を

行う側も受ける側も,気を付

けなくてはいけないことがい

くつかあります。その辺のことを再生医療の解説をし

ながら分かり易く伝えたいというのが本書執筆のモ

チベーションでした。

この度,出版から約 1 年を迎え,この間の新しい再

生医療の臨床応用などの内容を少し加えて,電子書籍

化いたしました。新書は定価(本体 800 円+税),電

子書籍は定価(本体 640 円+税)です。Amazon 等か

ら購入できます。日本結合組織学会の会員の皆様にも

この領域に興味を持っていただければ望外の喜びで

す。

以下は,本書内容紹介のコピーです。

再生医療は健康寿命を延ばす最強の治療法

根本的な治療法のない変形性膝関節症に対し軟骨

細胞シートによる関節軟骨の修復再生効果を世界で

初めて報告した東海大学整形外科チームの著者が,新

しい領域の学問であり,法整備が未だ十分に整わない

再生医療の真実について語る。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が

樹立した iPS 細胞を用いた治療のほか,「日本発世界

初」の細胞シートを使った最新の研究などをわかりや

すく紹介する。

また,民間バンクからの臍帯血の流出事件に端を発

した「再生医療等安全性確保法」を無視した違法な細

胞療法,有効性を声高に謳う,がん・免疫細胞療法や

PRP(多血小板血漿)療法等における自由診療の横行

について見解を述べ,患者が不利益を被らないように

警告する。知らないと恐ろしい自由診療における「再

生医療」に警鐘を鳴らす。

再生医療がロコモティブシンドロームへ応用され

ることにより健康寿命の延伸など,超高齢化社会にお

ける再生医療の意義を語る。

Human Pathobiochemistry: From Clinical Studies

to Molecular Mechanisms を出版して

岡山大学 大橋俊孝

今年(平成最後の 4 月)に,Springer 社から"Human

Pathobiochemistry: From Clinical Studies to Molecular

Mechanisms"という英語の教科書を出版することが

できましたので,このテキストブックを紹介させてい

ただきます。この本は全 29 章からなりますが,その

特徴として,本のサブタイトルにあるようにすべての

章が患者の Case report から始まり,診断,生化学的・

分子生物学的メカニズム,治療に至る形式となってい

ます。医学生だけでなく広く医療系の学生で,臨床実

習前でも教科書の中で患者さんの診断から治療まで

を考えてみることができるようにという趣旨ででき

ています。実は,このようなユニークな形式の教科書

は初めてではなく,Oxford University Press 社から

Clinical Studies in Medical Biochemistry という教科書

が 2007 年に出版されており,当医学科の「基礎病態

演習」でも使用していました(写真1左上)。2015 年

ごろ,さすがに内容も古くなってきていたので,この

本の Editor の Glew 教授宛にメールを差し上げ,そろ

そろ改訂版は出さないのかと厚かましく聞いてみた

ところ,「私はリタイアした身分で改訂するつもりは

ない。あなたがやりなさい。」との返事でした。そこで

普通はあきらめるところですが,当学小児科の塚原教

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授が英語の教科書を出版されてることをお聞きし,相

談しご援助いただけるとのことで,やってみようかと

考えてみました。次は,出版社との交渉です。皆さん,

Oxford University Press と聞いたら,イギリスにオフ

ィスがあると思われるでしょうが,この Medical 関係

のオフィスはなんとニューヨークのマンハッタンに

あります。そこで,2015.12 にマウントサイナイ医科

大学の Ramirez 教授(写真1右下)にご同行いただき,

交渉しました。多分私一人でしたら,まともな交渉に

もならなかったと思います。しかしながら,結局交渉

は不調に終わりました。そこで,日本に帰国後今度は

Springer 社の日本オフィスの編集担当者に掛け合い,

我々の提案を審査いただくことになりました(2016.1)。

英文での企画書を作成し提出,その後外部審査委員に

よるレビューを受け,社内審査を経て最終的に

Publish Agreement をいただいたのが 2016.6 です。こ

の段階で,英文企画書作成にご援助をいただいたのが

Calfornia Lutheran 大学准教授の Chad Barber 先生で

す。Chad(親しみを込めて;写真左下)は岡山大学人

体構成学分野百田龍輔先生の UCLA 留学時代の同僚

で,岡山大学の基礎病態演習授業の特別外国人チュー

ターをお引き受けいただいた先生でした。当学医学部

塚原教授,Ramirez 教授,Chad, 大橋に総合内科大塚

文男教授を加えた 5 名が Editor となりました(写真

1)。

そこからの著者執筆依頼,初稿受け取り,査読,修

正依頼のやりとりなどを延々と経て(そこで終わりと

思っていましたが),編集担当者とのやりとり・校正依

頼,催促,最終校正などにさらに時間がかかり,電子

版の出版が 2019.3 でした。近年,世界的な出版社は

グローバル化が進み,部署がいろいろな国に散らばっ

ていて,本ケースでは校正以降の工程はインドで行わ

れ,その担当者とやりとりも強いられました。そして,

自分の手元にプリント版が届いたのが 2019.4.3 でし

た。

今回の経験で,テキストブックの出版までのほぼ全

ての工程を経験させていただきました。上記の先生方

はもちろん,その他にも色々な先生方に大変お世話に

なり,その援助がなければ出版にまでたどり着かなか

ったと思います。章ごとに eBook での販売も行われて

います。You tube にも宣伝がございます。

https://www.youtube.com/watch?v=JTS8U3osOWM

あとは,本学あるいは他学で使用いただければ編集者

冥利につきると思います。

最後に,テキストブックの Preface の一段落を紹介

しておきます。

Okayama University Medical School has a long history

of experience in delivering a Pathobiochemistry tutorial

course. Since its initiation in the 1990’s by Prof.

Ninomiya, it has conducted the course in English for

approximately 30% of the students each year. The

students and instructors use English in all discussions,

written assignments and presentations. Faculty who

have been involved in the course have unanimously

agreed on the need of a new pathobiochemistry text

dedicated to a project-based learning for the clinician

in training. Recently our school has begun accepting

undergraduate or graduate (Masters level) students

from other Asian countries (e.g. China, Korea,

Indonesia, and Myanmar) as part of exchange

programs. Their inclusion in the English-speaking

student groups provide a positive stimulus for

Japanese students to communicate in English.

Furthermore, the faculty from those countries have

also joined the course as tutors. It is therefore likely

that their experience may translate in using the same

English textbook for their own teaching. This

international collaboration has clearly benefitted all

involved.

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14. 暫定事務局より連絡

学協会サポートセンターから本研究室に事務局が

移管して 1 年以上が経ちました。この 1 年間で幾つか

のことがわかって参りました。

まず事務局の仕事には繁忙期と閑散期があります。

学術大会の演題募集時期から大会終了までの2月-6月

が繁忙期になります。4 月には年会費の請求を,6 月

の学術大会の時期には学術大会の事務局と連携して

新入会員の手続き等を行います。8 月になるとひと段

落です。年度内に会費再請求等の用務がありますし定

期的に入会希望や入金等を確認する必要があります

が,仕事量は決して多いとはいえません。

さて,そろそろ本年度会費をまだ納めていらっしゃ

らない方々へ会費納入のお願いをする時期が近づい

てまいりました。引き続き学会運営へのご支援を賜り

ますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

理事長 渡辺秀人

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

編集発行者:日本結合組織学会 総務広報担当理事

佐藤隆(編集長,東京薬科大学)

小出隆規(早稲田大学)

佐藤正人(東海大学)

平澤恵理(順天堂大学)

吉田利通(三重大学)

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PAN PACIFIC CONNECTIVE TISSUE

SOCIETIES SYMPOSIUM 2020IN CONJUNCTION WITH THE SCIENTIFIC MEETINGS OF

Frontiers in Matrix Biology

Frontiers in Cutaneous Biology

Therapies & Clinical Advances

Regenerative Medicine

Stem Cells

Inflammation & Chronic Wounds

Chronic Wounds

Tissue Repair & Fibrosis

Topics

Keynote Speakers

Winthrop Professor Fiona Wood, AM University of Western Australia

Professor Anthony Weiss, AM, University of Sydney

November 22 – 26, 2020

Ian Potter Auditorium, Melbourne Brain Centre, Melbourne, Australia

Conference Chairs

Professor John Whitelock, University of New South Wales, Sydney

Dr Brooke Farrugia, The University of Melbourne

Organising Committee

A/Professor Larisa Haupt, Queensland University of Technology

A/Professor Pritinder Kaur, Curtin University

Dr Zlatko Kopecki, University of South Australia

A/Professor Megan Lord, University of New South Wales Sydney

https://ppctss2020.smalltalkevents.com.au/

Matrix Biology Societyof Australia and New Zealand