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JAMSTEC深海研究 第24号 63 「2003年十勝沖地震」に伴う 深海環境変動データの品質に関する検討 岩瀬 良一 *1 満澤 巨彦 *2 2003年9月26日に発生した「2003年十勝沖地震」では,北海道釧路・十勝沖「海底地震総合観測システム」先端観測ステー ションにより,海底地滑り等が原因と推定される海底付近の強い流れなどの深海環境変動が検出された。しかしながら,今回 の現象を含め,ステーション搭載の各センサの計測データについては,計測値や刻時精度についてこれまで十分な検討が行 われておらず,電磁流向流速計の流速値のずれや時刻ずれの存在など,特に今回の現象把握に重大な影響をあたえるデータ 品質上の問題が明らかとなった。これらのデータ品質及びその補正方法について流速データを中心に検討を行い,補正を 行った結果,本震発生後も10日以上に渡って継続している通常より速い西向きの海底付近の流れの存在などが明らかとなった。 キーワード:データ品質管理,ケーブル型リアルタイム観測ステーション,千島海溝,2003年十勝沖地震,強い底層流 A study on the data quality of the observed phenomena of deep seafloor environment associated with "The Tokachi-oki Earthquake in 2003" Ryoichi IWASE *3 Kyohiko MITSUZAWA *4 Some significant phenomena on the deep seafloor associated with "The Tokachi-oki Earthquake in 2003" occurred at Kuril Trench on September 26 th 2003, such as strong benthic water current expected to be caused by the seafloor land slide, were observed by JAMSTEC's "Long-Term Deep Sea Floor Observatory off Kushiro-Tokachi in the Kuril Trench". However, including these phenomena, quality of observed value and precision of time stamp on the environ- mental data of the observatory have not been discussed properly enough. This time, the existence of offsets in observed current velocity and delay of time stamp became apparent. Methods of quality control on the environmental data, main- ly on the benthic current data, which have serious problems on the understanding of deep sea phenomena, were studied. As a result of correction made by these methods, it was found out that faster westward benthic current than usual con- tinued for more than ten days after the main shock. Keywords : Quality control of data, Real time cabled observatory, Kuril Trench, 2003 Tokachi-oki Earthquake, Strong benthic water current *1 海洋科学技術センター情報業務部情報業務課 *2 海洋科学技術センターシアトル駐在員事務所 *3 Computer and Information Department, Japan Marine Science and Technology Center *4 Japan Marine Science and Technology Center Seattle Office

「2003年十勝沖地震」に伴う 深海環境変動データの品質に関す … · Electronics, Inc.の"SBE Data Processing-Winprogram"32,そ して地中温度計は日油技研(株)のASCII変換プログラム

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JAMSTEC深海研究 第24号

63

「2003年十勝沖地震」に伴う深海環境変動データの品質に関する検討

岩瀬 良一*1 満澤 巨彦*2

2003年9月26日に発生した「2003年十勝沖地震」では,北海道釧路・十勝沖「海底地震総合観測システム」先端観測ステー

ションにより,海底地滑り等が原因と推定される海底付近の強い流れなどの深海環境変動が検出された。しかしながら,今回

の現象を含め,ステーション搭載の各センサの計測データについては,計測値や刻時精度についてこれまで十分な検討が行

われておらず,電磁流向流速計の流速値のずれや時刻ずれの存在など,特に今回の現象把握に重大な影響をあたえるデータ

品質上の問題が明らかとなった。これらのデータ品質及びその補正方法について流速データを中心に検討を行い,補正を

行った結果,本震発生後も10日以上に渡って継続している通常より速い西向きの海底付近の流れの存在などが明らかとなった。

キーワード:データ品質管理,ケーブル型リアルタイム観測ステーション,千島海溝,2003年十勝沖地震,強い底層流

A study on the data quality of the observed phenomena of deep seafloor

environment associated with "The Tokachi-oki Earthquake in 2003"

Ryoichi IWASE*3 Kyohiko MITSUZAWA*4

Some significant phenomena on the deep seafloor associated with "The Tokachi-oki Earthquake in 2003" occurred at

Kuril Trench on September 26th 2003, such as strong benthic water current expected to be caused by the seafloor land

slide, were observed by JAMSTEC's "Long-Term Deep Sea Floor Observatory off Kushiro-Tokachi in the Kuril

Trench". However, including these phenomena, quality of observed value and precision of time stamp on the environ-

mental data of the observatory have not been discussed properly enough. This time, the existence of offsets in observed

current velocity and delay of time stamp became apparent. Methods of quality control on the environmental data, main-

ly on the benthic current data, which have serious problems on the understanding of deep sea phenomena, were studied.

As a result of correction made by these methods, it was found out that faster westward benthic current than usual con-

tinued for more than ten days after the main shock.

Keywords : Quality control of data, Real time cabled observatory, Kuril Trench, 2003 Tokachi-oki Earthquake, Strong

benthic water current

*1 海洋科学技術センター情報業務部情報業務課

*2 海洋科学技術センターシアトル駐在員事務所

*3 Computer and Information Department, Japan Marine Science and Technology Center

*4 Japan Marine Science and Technology Center Seattle Office

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1. はじめに北海道十勝沖を震源として2003年9月26日04時50分(日本

標準時)に発生したマグニチュード8.0の「平成15年(2003年)

十勝沖地震」(気象庁発表)は,千島海溝沿いの海域で発生

したプレート間地震であり,地震動による被害だけでなく,

北海道から東北にかけての太平洋沿岸において津波による

被害も報告されている。この地震の震源域近傍には,ケー

ブル型の海底観測ステーションである「北海道釧路・十勝沖

海底地震総合観測システム」が海洋科学技術センターにより

1999年に設置されており(Hirata, et al., 2002),地動だけでな

く,地震に伴う地殻変動を示唆する水圧変動(Watanabe, et

al., 2004)の他,海底付近に発生した強い流れなどの深海環

境変動が観測されている(Mikada, et al., 2004)。この「北海

道釧路・十勝沖海底地震総合観測システム」のデータの一部

は,海洋科学技術センターのホームページで公開されており,

インターネット経由でダウンロードできるようになっている。今

回の地震前後について,公開されている生データのうち,流

向流速計やCTD(海水の電気伝導度・水温・深度)などの深

海環境データを調べたところ,刻時精度や計測値の一部に

問題があり,地震波到達時刻と対比した場合の時刻ずれな

ど,公開データを利用する際に混乱が生じる恐れのあること

がわかった。これらのデータ品質については,Mikada, et al.

図1 「北海道釧路・十勝沖海底地震総合観測システム」設置位置と「2003年十勝沖地震」の震央

OBS1, OBS2, OBS3:海底地震計

PG1, PG2, OBS2:津波計

Fig. 1 Location of "Long-Term Deep Sea Floor Observatory off Kushiro-Tokachi in the Kuril Trench" and

epicenter of main shock of "The Tokachi-oki Earthquake in 2003"

OBS1, OBS2, OBS3 : Ocean bottom seismometer

PG1, PG2 : Tsunami pressure gauge

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(2004)を含め,これまであまり検討が行われていないが,今

回の現象を把握する上でも重大な影響がある。そこで,今

回の地震前後の期間を対象とし,これらの公開されている

深海環境データの品質及びその補正方法について流向流

速データを中心に検討を行った。

2. 観測システムの搭載センサと公開データ「北海道釧路・十勝沖海底地震総合観測システム」は,電

磁流向流速計,ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler,音

響層別流速プロファイラー),CTD,ハイドロフォン,地中温度

計及びビデオカメラ等のセンサが搭載された先端観測ス

テーションと,海底地震計3台並びに津波計2台が,全長

240kmの光・電気複合海底ケーブルにより接続された海底観

測システム(図1)である。3台の海底地震計にはそれぞれハ

イドロフォンが1台ずつ搭載されている。海底ケーブルは北

海道白糠郡音別町に陸揚げされており,ここに設置された

陸上局から海底の機器に対して給電が行われ,逆に各セン

サからのデータは光ファイバによりリアルタイムで陸上局に伝

送される。陸上局のデータの大半はさらに商用通信回線を

介して海洋科学技術センター横浜研究所に転送されている。

これらのデータの一部は,海洋科学技術センターのホームペー

ジで公開されている(http://www.jamstec.go.jp/scdc/top_j.html)。

公開されているデータのうち,地震計,津波計およびハイドロフォ

ンのデータは,国内の地震波形フォーマットとして広く流通してい

るWINフォーマット(http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/WIN/index.html)の

形で,直近の2か月分がほぼリアルタイムで掲載されている。

その他の深海環境データについては,電磁流向流速計,

ADCP,CTD,地中温度計のデータがバイナリの生データの

形で掲載されている。以前はCTDと地中温度計のデータに

ついてはASCII形式でのリアルタイムデータ提供がなされて

いたが,その後のシステム変更により現在はバイナリの生

データのみの提供となっている。

これらの深海環境データを見るためには,対応する各セ

ンサメーカーが配布しているソフトウェアが必要である。

Windowsマシン上で動くソフトウェアとして,電磁流向流速計

はInter Ocean Systems, inc.の"S4 Application Software",

ADCPはRD Instrumentsの"WinADCP",CTDはSea-Bird

Electronics, Inc.の"SBE Data Processing-Win32 program",そ

して地中温度計は日油技研(株)のASCII変換プログラム

"Mo2csv.exe"がある。CTDのソフトウェアについては,Sea-

Bird Electronics, Inc.のホームページ(http://www.seabird.com)

で無償配布されているが,他のものについては各センサメー

カーの制約がある。

3.「2003年十勝沖地震」前後の観測データ取得状況気象庁の速報値によれば「2003年十勝沖地震」の震央は,

図1の星印で示した場所であり,釧路・十勝沖観測システム

先端観測ステーション(搭載CTDセンサによる計測水深:

2610m)の西北西約25kmに位置している。震源の深さは約

40kmである。9月26日04時50分の地震(本震)発生直後,陸

上局を含む音別町一帯は停電に見舞われたが,観測シス

テムはUPSによる電源バックアップが機能し,地震後も停止

図2 本震前後の先端観測ステーションのハイドロフォン及び流速計の傾斜角並びに方位角の記録(時刻未補正)

Fig. 2 A profile of hydrophone, and profiles of tilts and heading of electro-magnetic current meter attached to the cable

end station before and after the occurrence of main shock (Time difference not corrected.)

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66 JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

することなく継続して運用された。但し,ADCPについては

陸上局内のコネクタ不良が原因と推測される障害により,

同日12時半以降のデータにエラーが発生し,以後10月17日

まで,そのままでは"WinADCP"ソフトウェアによるデータの

読み出しが出来なくなっている。

こうした問題はあるものの,本震発生後,同日12時までは

前述の全てのセンサで観測データが取得されている。しか

しながら,観測データによっては時刻ずれが生じていること

が判明した。例として,本震発生時刻前後の先端観測ス

テーションのハイドロフォン(低感度)と電磁流向流速計の傾

斜角及び方位角のデータを図2に示す。サンプリング周波

数は,前者が100Hz,後者が1Hzである。ハイドロフォンで

検出された地動は04:50以降であるのに対し,流向流速計

の傾斜角及び方位角にはその約12分前である04:38過ぎに

変動が現れ,本震による地動発生時刻には変動が見られ

ない。この流向流速計は先端観測ステーションのフレーム

上面に固定されており,これらの傾斜角や方位角の変動は

ステーション全体の動きを反映している。つまり方位角の変

動は,ステーション全体が時計方向に約13度向きを変えた

ことを示しているが,この変動は本震に伴う強い揺れによ

るものと考えるのが妥当である。従って,流向流速計デー

タのタイムスタンプはこの時点でハイドロフォンに対して約

12分進んでいると考えられる。

ここで,各センサの刻時方式は次のようになっている。

海底地震計,ハイドロフォン及び津波計の各データについ

ては,音別町の陸上局において,GPSに同期したタイムコー

ドが付与されており,刻時精度はサンプリング間隔である

0.01秒より小さい。それ以外のセンサのデータへの付与時

刻については,横浜研究所内に設置されたデータ収録に

用いている端末の時計に依存するほか,センサによって異

なる時刻の付与方法にも依存している。端末自体の時計は,

NTP(Network Time Protocol)により所内のLANを介して所

内のタイムサーバにアクセスして較正している。電磁流向流

速計とCTDは,データ収録ファイル名を手動で更新する必

要があり,各ファイルには,各々のファイルの先頭データを取

得した時点の端末の時刻のみが記録される。任意のデー

タの時刻は,各センサに対応するソフトウェアで読み出した

ときに,先頭から数えた当該データまでのデータ個数分の

サンプリング間隔を先頭データ時刻に加算することで算出

する。ADCPも手動でデータ収録ファイル名を更新する必

要があるが,水中部のセンサ内部に時計を有しており,

データ毎にこの内部時計のタイムスタンプが付与される。

通常はファイル更新時にこの内部時計を手動で端末時刻に

合わせている。地中温度計もADCPと同様,水中部のセン

サ内部に時計を有しており,データ毎にこの内部時計のタイ

ムスタンプが付与されるが,こちらは1日1回の割合でソフト

ウェアが自動的に内部時計を端末の時計に合わせている。

4. 観測データの時刻補正前述のように電磁流向流速計のデータには,本震発生時

刻において12分程度の時刻ずれが発生している。この時

刻ずれを補正するためには,その傾向を知る必要があるが,

本震のように傾斜角や方位角に変動が現れるような強い揺

れがある場合はともかく,それ以外では地動に対応した傾

斜角や方位角の変動は通常見られず,地動との比較による

時刻補正は困難である。

一方,ステーション設置当初より,ADCP動作時に,電磁

流向流速計及び各地震計に搭載されたハイドロフォンの

図3 電磁流向流速計の南北流速成分上のADCPノイズ波形例

Fig. 3 An example of ADCP noises on the profile of north-south current velocity component of electro-magnetic current

meter

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67JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

データにノイズが重畳することが分かっている。これは,

ADCPの動作に伴い給電線上に発生する突入電流に起因

してこれらのセンサの電気回路に発生するノイズが原因で

ある。本震発生前後では,ADCPのサンプリング間隔を30

分としていたため,30分毎にADCPが動作しこれらのノイズ

が重畳していた。図3及び図4に,本震発生前の9月26日0時

半のADCP動作時前後の流向流速計の東西流速成分及び

地震計搭載のハイドロフォン記録をそれぞれ示す。流向流

速計ではノイズが0:18に発生している(図3)のに対し,ハイ

ドロフォンでは0:30に発生している(図4)。ADCPの動作に

起因するこのノイズは,本来流向流速計とハイドロフォンの

いずれにも同一時刻に記録されるべきものである。従って

このことは,図2に示した本震時における先端観測ステー

ションのハイドロフォンに記録された地動と流向流速計の傾

斜角・方位角変動の時刻ずれと同じく,両者の間に約12分

の時刻ずれがあることを示している。

このADCP動作に起因してハイドロフォンと流向流速計に

重畳するノイズは,通常は30分間隔,つまり毎時正時と30分

に定期的に発生しているため,ハイドロフォンの刻時精度と

このADCPノイズを使用することにより,流向流速計データ

の時刻補正が可能と考えられる。但し,いずれに重畳する

ノイズ波形も10秒程度の広がりを有しており,また波形も一

定ではないので,同程度の刻時誤差を伴うことが推定され

る。まず,9月10日から10月3日までのOBS1のハイドロフォン

に重畳するADCPノイズの時刻を読み取り,正分(ADCP動

作の設定時刻である毎正時または毎時30分)からの遅れを

調べた。なお,前述の通りADCPのデータには9月26日12時

半以降陸上局内でエラーが発生しているが,ADCP自体は

それ以降も動作し続けている。簡便のため,ADCPノイズ

の検出時刻は振幅が最大となる時刻とし,また地震等の擾

乱がある部分や読み取り誤差が大きいと思われるデータは

除外し,秒未満は切り捨てた。こうして得られた結果を図5

に示す。横軸の下側はOBS1のハイドロフォンにおいて

ADCPノイズを検出した時刻,上側は9月10日0時から数えた

日数(変数X),縦軸はその読み取り時刻の正分からの遅れ

(変数Y)である。読み取り誤差はおよそ4秒程度で,直線

近似によりADCPの内部時計は1日あたり約1秒(0 .997

sec/day)の割合で遅れていくことが分かる。この近似直線

から任意のADCPノイズの発生時刻が得られるので,これと

流向流速計に重畳しているADCPノイズ検出時刻を対比す

ることで,流向流速計データの時刻ずれが推定できる。ハ

イドロフォンの場合と同様に流向流速計上のADCPノイズ検

図4 ハイドロフォン上のADCPノイズ波形例

Fig. 4 An example of ADCP noises on hydrophone profiles

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出時刻を読み取り,図5で得られるADCPノイズ発生時刻か

らのずれをプロットしたものが図6及び図7である。流向流

速計は9月26日15:45にファイルを更新しているため,この前

後で生データのタイムスタンプが変更されている。図6は

ファイル更新前,つまり9月26日15:45以前のデータ,図7はそ

れ以降のデータである。なお,10月4日以降のADCPノイズ

発生時刻についても図5で得られた近似直線を適用した。

図6及び図7に示されたとおり,流向流速計の時刻ずれの傾

向は単純ではない。読み取り誤差を考慮しても時刻ずれ

には全期間を通じた規則性がなく,現在のところ原因は不

明であるが,不規則かつバースト的にデータ抜けが発生し

ているものと考えられる。このため,単一の近似曲線を得

るのは無理があり,いくつかの期間に分けて各々の期間内

での近似直線もしくは近似曲線を求めることとし,その結果

を図6及び図7に併せて示した。プロットのばらつきから,9

月22日以前のデータについては最大で40秒程度,9月22日以

降のデータについては十数秒程度,補正時刻に誤差があ

ると推定される。

図6及び図7で求めた近似曲線を用いることにより,この

期間における流向流速計の時刻ずれを補正することが可

能である。図2に示した流向流速計の傾斜角及び方位角

データに対して,時刻補正をおこなったものを図8に示す。

傾斜角及び方位角の変動が,地動と整合性を有するように

補正されたことが分かる。

先端観測ステーションに搭載されたCTDセンサについて

は,ADCPノイズの重畳がないので,時刻補正に関して流向

流速計の手法は適用できない。しかしながら,ある程度大

きな地震が発生していれば,地動に対応した水圧変化が

CTDセンサにより検出されるため,この検出時刻を先端観

測ステーションのハイドロフォンデータと対比することで時刻

補正が可能である。

本震発生前後のデータが含まれているCTDの生データ

のファイルは,2003年8月30日に記録が開始され,同年10月6

日に記録が終了されたものである。生データファイルのヘッ

ダにおいて"System UpLoad Time"と記された時刻が先頭

データの収録時刻に相当し,収録に用いている端末の時

計をもとに付与されたタイムスタンプである。CTDのサンプ

リング間隔は0.5秒であるので,対象とするデータの時刻は,

"System UpLoad Time"に先頭から対象データまでのデータ

数分だけ0.5秒を加算していくことで算出される。この生

データファイルには地動に伴う水圧変化がいくつか記録さ

れているが,このうち,8月30日19:06,9月26日04:49及び10月

2日08:04の記録を,対応する先端観測ステーションのハイド

ロフォン記録とともにそれぞれ図9,図10及び図11に示す。

図10の記録は本震に対応するものである。ハイドロフォン

記録との対比により得られるCTDデータの時刻ずれは,そ

れぞれのイベントについて順に43.5秒,41.9秒,41.4秒の進

みである。先頭データにこれだけの時刻ずれが生じた理由

は不明であるが,その変化の割合は1日当たり約0.06秒と小

さいので,読み取り誤差やCTDのサンプリング間隔が0.5秒

であることを考慮すれば,本震前後では約42秒の固定値と

見なしても差し支えないと言える。

68 JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

図5 OBS1のハイドロフォン記録上に現れたADCPノイズの時刻遅延の変化

X : 2003年9月10日0時(日本標準時)からの時間

Y : ADCPノイズの時刻遅延

Fig. 5 Temporal variation of time delay of ADCP noise on the OBS1 hydrophone profile

X : The number of days from 0 o'clock(JST) on September, 10th, 2003

Y : Time delay of ADCP

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69JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

図6 電磁流向流速計の時刻ずれの変化(2003年9月10日0時から9月26日15時45分まで)

X : 2003年9月10日0時(日本標準時)からの時間

Y : 電磁流向流速計の時刻ずれ

Fig. 6 Temporal variation of time difference of electro-magnetic current meter (00:00 on

September 10th - 15:45 on September 26th, 2003)

X : The number of days from 0 o'clock(JST) on September 10th, 2003

Y : Time advance of electro-magnetic current meter

図7 電磁流向流速計の時刻ずれの変化(2003年9月10日0時から9月26日15時45分まで)

X : 2003年9月10日0時(日本標準時)からの時間

Y : 電磁流向流速計の時刻ずれ

Fig. 7 Temporal variation of time difference of electro-magnetic current meter (15:45 on

September 26th - October 7th, 2003)

X : The number of days from 0 o'clock(JST) on September 26th, 2003

Y : Time advance of electro-magnetic current meter

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図8 本震前後の先端観測ステーションのハイドロフォン及び時刻補正した流速計の傾斜角並びに方位角の

記録

Fig. 8 A profile of hydrophone, and time-corrected profiles of tilts and heading of electro-magnetic current meter

attached to the cable end station before and after the occurrence of main shock

図9 先端観測ステーションのCTDセンサ水圧計及びハイドロフォンの記録(2003年8月30日19:06-19:07(JST),

時刻未補正)

Fig. 9 Profiles of pressure sensor of CTD and hydrophone attached to the cable end station (19:06-19:07(JST) on

August 30th, 2003. Time difference not corrected.)

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図10 先端観測ステーションのCTDセンサ水圧計及びハイドロフォンの記録(2003年9月26日04:49-

04:50(JST),時刻未補正)

Fig.10 Profiles of pressure sensor of CTD and hydrophone attached to the cable end station (04:49-

04:50 (JST) on September 26th, 2003. Time difference not corrected.)

図11 先端観測ステーションのCTDセンサ水圧計及びハイドロフォンの記録(2003年10月2日08:04-

08:05(JST),時刻未補正)

Fig.11 Profiles of pressure sensor of CTD and hydrophone attached to the cable end station (08:04-

08:05 (JST) on September 28th, 2003. Time difference not corrected.)

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72 JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

先端観測ステーションに搭載された地中温度計は,サン

プリング間隔が10秒であるが,CTDの水温データとの対比

から,時刻ずれは数秒程度であると推測される。前述の通

り,毎日自動的に内部時計が較正されるため,それほど大

きな時刻ずれは生じていないと考えられる。

5. 電磁流向流速計の計測値補正図12は,本震前後の2003年9月18日から9月28日まで,及

び,9月26日の本震から約3週間後の10月18日から10月28日

までの期間の電磁流向流速計のデータ(東西成分,南北成

分,及び全流速)を,ADCPの最下層(海底面からの高度:

12m)のデータとともに示したものである。9月26日の本震の

後に見られる流速の大きな変化は,Mikada, et al.(2004)で

報告された"Benthic storm"である。流向流速計のデータは,

前者の期間については,図6及び図7の近似曲線を用いて

時刻補正を行った。後者の期間についてもこれらと同様に

して求めた図13の近似曲線を用いて時刻補正を行った。

また同期間のOBS1ハイドロフォン上のADCPノイズ読み取

り時刻と正分からの遅延時間の分布を図14に示す(図6,

図7に対する図5に相当)。なお,図12ではサンプリング周期

1秒で取得されたデータについて,間引き等を行わずに全

てプロットしているが,流向流速計データに重畳するADCP

ノイズを取り除くため,図5と図14の近似直線から得られる

ADCPノイズの発生時刻の前後1分間(合計2分間)の流向流

速計データを削除した。図12の流向流速計データに見られ

るスパイク状の変化は,地震もしくは取り除ききれなかった

ADCPのノイズによるものである。

ADCPのデータは,前述のように9月26日12時半以降はエ

ラーによりそのままではソフトウェアで読み出せなくなってい

る。しかしながら,このうちのいくつかのデータについては,

修復により読み出しが可能となった。ADCPのデータは,1

レコード長(つまり,1サンプルあたりのデータ長)が,1074

バイトで構成されている。各レコード末尾の2バイトに

チェックサムが格納されており,エラーによりこのチェックサ

ムに問題のあるレコードはソフトウェアで読み出せなくなっ

ている。今回修復ができたのは,レコードの末尾部分が欠

落したものである。各レコードの後半には流速以外のデー

タなどの記録領域があり,欠落の程度によっては流速値に

は影響が出ない。修復は,欠落バイト数分のダミーバイト

をレコード末尾に追加し,チェックサムを再計算することに

より行った。ダミーバイトとして,00hとFFhを使用し,いず

れを挿入した場合でもソフトウェアで読み出した流速値に

相違がないことを確認した。こうして9月27日の12時半まで

は,数レコードを除き,ほぼ連続的に流速データが読み出

せるようになった。一方,これ以降のデータの大半には読

み出せないほどのエラーが生じていた。ADCPデータが正

常に記録されるようになったのは,10月17日以降である。図

12に示したADCPデータは,以上の手法で修復されたデー

タも含まれている。

電磁流向流速計は,岩瀬ほか(1999)が「相模湾初島沖

深海底総合観測ステーション」の電磁流向流速計で指摘し

ているように,他のセンサや伝送装置の存在など周辺の電

図12 未補正の電磁流向流速計(黒線)及びADCP最下層(赤線)の東西,南北各成分及び全流速の記録

Fig.12 Uncorrected profiles of east-west and north-south component of current velocity and total current velocity of electro-mag-

netic current meter (black line) and profiles of bottom layer of ADCP (red line)

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73JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

図13 電磁流向流速計の時刻ずれの変化(2003年10月17日から10月30日まで)

X : 2003年10月17日0時(日本標準時)からの時間

Y : 電磁流向流速計の時刻ずれ

Fig.13 Temporal variation of time difference of electro-magnetic current meter (October 17th

- 30th, 2003)

X : The number of days from 0 o'clock(JST) on October 17th, 2003

Y : Time advance of electro-magnetic current meter

図14 OBS1のハイドロフォン記録上に現れたADCPノイズの時刻遅延の変化

X : 2003年10月17日0時(日本標準時)からの時間

Y : ADCPノイズの時刻遅延

Fig.14 Temporal variation of time delay of ADCP noise on the OBS1 hydrophone profile

X : The number of days from 0 o'clock(JST) on October, 17th, 2003

Y : Time delay of ADCP

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74 JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

磁場環境に起因すると考えられる影響により,流速の計測

値にオフセットが生じることがある。先端観測ステーション

に搭載された電磁流向流速計にも同様の現象が見られる。

ADCPと電磁流向流速計の流速値は,計測点の高度差が

12mであることを考えれば,同様の計測値が得られてしか

るべきであるが,図12を見ると,特に東西流速成分につい

ては,全期間を通じて流向流速計とADCPとの間で30cm/s

以上の差がある。南北成分については,本震発生前は両

者ともほぼ同じ値であるが,本震後は10cm/s程度の差が生

じている。海底付近の流速は,通常海底面に近い方が小

さくなるものと考えられるが,電磁流向流速計の計測点の

方が海底面により近いのに流速値が逆に大きくなっている

ことから,電磁流向流速計の流速値にオフセットが生じて

いると判断される。また特に南北成分に顕著なように,そ

のオフセットの状態は本震の前後で変化しているが,この

オフセット変化は流速計の方位角の変化によるものと考え

られる。その理由は,オフセット自体はもともと電磁流向流

速計の流速検出部である2対の直交電極に生じたものであ

り,流速の東西,南北成分は直交電極対の座標系により得

られた計測値の地理座標系への射影であるため,直交電

極の座標系上では固定値のオフセットでも,方位角が変わ

れば,つまり直交電極の座標系が回転すれば,地理座標系

の各軸に投影されるオフセット値が変化することになるから

である。従って,電磁流向流速計の流速値からこのオフ

セットを取り除くには,東西,南北の流速成分を直交電極対

の座標系に引き戻して検討する必要がある。つまり直交電

極対の座標系上で,電磁流向流速計とADCP最下層の流速

値を対比することで,オフセットを見積もるべきである。図

15及び図16が,電磁流向流速計とADCP最下層の流速値

の相関を,電磁流向流速計の直交電極対の座標系に変換

して示したものである。両図とも横軸がADCP最下層の流

速値,縦軸が電磁流向流速計の流速値である。対象期間

は,電磁流向流速計とADCPの両方のデータが存在し,な

おかつ流速に大きな変動がない2003年9月10日0時半から9

月26日4時半まで及び10月17日15時半から10月30日14時半

までのデータである。図15が直交電極対の座標系でのx軸

の相関,図16がy軸の相関を示している。x軸は電磁流向

流速計搭載の方位計の基準軸に一致する。ADCPの動作

時には電磁流向流速計のデータにノイズが重畳することか

ら,相関を求めるために用いた電磁流向流速計のデータは,

図12を作成する過程で行った手順と同様に,図5と図14の

近似直線から得られるADCPノイズの発生時刻の前後1分

間(合計2分間)のデータを削除した後,更にその前後1分

間の流速値の平均値とした。図15,図16とも対象期間に

よってADCPと電磁流向流速計の流速値の相関に若干の相

違があるが,流速値の差としては図12で見られた相違に比

べれば小さく,どちらの期間もほぼ同じ相関を有している。

両図の近似直線の傾きは電磁流向流速計とADCP間の流

図15 ADCP最下層と電磁流向流速計X軸成分の相関

横軸:ADCP最下層の水平流速のうち電磁流向流速計のX

軸に対応する成分

縦軸:電磁流向流速計の流速のX軸成分

Fig.15 Relation of X-axis component of current velocity between

ADCP bottom layer and electro-magnetic current meter

Horizontal axis : horizontal current velocity of ADCP bottom

layer corresponding to X-axis component of

electro-magnetic current meter

Vertical axis : X-axis component of current velocity of elec-

tro-magnetic current meter

図16 ADCP最下層と電磁流向流速計Y軸成分の相関

横軸:ADCP最下層の水平流速のうち電磁流向流速計のY

軸に対応する成分

縦軸:電磁流向流速計の流速のY軸成分

Fig.16 Relation of Y-axis component of current velocity between

ADCP bottom layer and electro-magnetic current meter

Horizontal axis : horizontal current velocity of ADCP bottom

layer corresponding to Y-axis component of

electro-magnetic current meter

Vertical axis : Y-axis component of current velocity of elec-

tro-magnetic current meter

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75JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

速に対す応答特性の差と海底面からの高度差による海底

境界の影響を反映し,近似直線の定数項は電磁流向流速

計のオフセットに相当すると考えられる。そこで今回採用し

たオフセット値は,両期間の近似直線の定数項の平均値,

つまりx軸が-26.3cm/s,y軸が-18.0cm/sとした。このオフセッ

ト値を使用して補正した電磁流向流速計のデータを図17

に緑線で示す。定常状態では両期間とも補正後の流速値

が東西,南北の両成分で0cm/sを中心として分布し,本震発

生前と後とで異なっていたオフセットの差も解消され,補正

は適切であると考えられる。

6. 電磁流向流速計で検出された"Benthic storm"図18に補正後の2003年9月26日の電磁流向流速計の記

録(1秒値)を示す。Mikada, et al.(2004)では,04:50(JST)

の「2003年十勝沖地震」本震から約2時間後の07:01(JST)

に,海底地滑りの発生を示す海底の強い南西向きの流れ

"Benthic storm"が発生し,流速が最大で140cm/sに達した

ことが報告されている。Mikada, et al.(2004)における流速

値の補正は,地理座標系上で行ったものであり,今回行っ

たような直交電極対の座標系上での補正ではないため,前

述のように電磁流向流速計の方位角変化による影響が必ず

しも取り除かれているとは言えない。今回の補正により得

られた結果からは,流速の最大値は09:10(JST)頃に全流

速にして約150cm/sとなっている。また,Mikada, et al.(2004)

では指摘されていないが,これに先立ち05:21(JST)頃にも

流速が最大で20cm/s程度と小規模ながら南西向きの流速

の増加が見られる。このことは先端観測ステーションが設

置された斜面上において,07:01の流速変化に対応する地

滑り発生に加え,ステーションにより近い地点でも小規模な

地滑りが発生したことを示していると考えられる。

図19は,2003年9月10日から10月30日までの電磁流向流

速計の記録(1分平均値)である。ここで,ハイドロフォンに

重畳しているノイズから,ADCPは9月26日12時半のデータエ

ラー発生以降も10月7日までは30分間隔で規則的に動作し

ていたと考えられるが,それ以降はノイズ発生間隔が約65

分になるなど,10月17日の復旧に至るまで不規則な動作を

示しており,この間の流向流速計の時刻補正に支障をきた

している。このため,この間の時刻補正は,この前後期間

の時刻ずれの値を用いた直線補間により行った。流速値

は平均化する前の1秒値について,図17を求める際と同一

の補正を行った。また流速値からのADCPノイズの除去は,

30分間隔もしくは65分間隔の規則性が見られるものについ

て行った。特にこの期間に関して図19に見られるスパイク

状のピークは,除去し切れなかったADCPノイズと地震に伴

う流速計本体の振動による擾乱である。

Mikada, et al.(2004)では,07:01から発生した強い流れ

が,本震発生から約24時間後にはほぼ通常の状態に戻っ

たされているが,図19をよく見ると本震発生から24時間以

降も,それ以前に比べて西向きの速い流れが10月10日頃ま

で継続している傾向が認められる。このことは,地震に伴

図17 補正前(黒線)と補正後(緑線)の電磁流向流速計の東西,南北各成分及び全流速の記録

Fig.17 Uncorrected (black line) and corrected (green line) profiles of east-west and north-south component of current velocity and

total current velocity of electro-magnetic current meter

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76 JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

図18 補正した2003年9月26日の電磁流向流速計の記録

上:流速

下:流向

Fig.18 Corrected profiles of electro-magnetic current meter on September 26th, 2003

Top : current velocity

Bottom: current direction

図19 補正した電磁流向流速計の記録(2003年9月10日-10月30日)

上:流速

下:流向

Fig.19 Corrected profiles of electro-magnetic current meter (September 10th - October 30th, 2003)

Top : current velocity

Bottom: current direction

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77JAMSTEC J. Deep Sea Res., 24(2004)

う海底の擾乱がこれだけの長期間にわたって継続していた

ことを示唆している可能性がある。あるいは,地震によって

発生した乱泥流によって乱された密度等のバランスを元に

戻すためのメカニズムとも考えられる。9月27日12時半以降

のADCPのデータはほぼ修復不能で欠落しており,上層の

流速が把握できないのが非常に残念だが,他の深海環境

データ等もあわせ,この現象が地震に伴うものか否かを詳

細に検討する必要がある。

7. 考察これまで述べてきたように,海洋科学技術センターの

ホームページに公開されている深海環境データの生データ

の品質について,「2003年十勝沖地震」発生前後の期間を

対象に調査したところ,対応する各センサの時刻ずれと電

磁流向流速計の計測値に生じたオフセットが明らかとなっ

た。電磁流向流速計の計測値のオフセットについては,他

の機器との干渉として岩瀬ほか(1999)など,従来から知ら

れている現象だが,特に電磁流向流速計に生じていた不

規則な時刻ずれについては,今回明らかになった特異な

傾向である。本震が発生した2003年9月26日04:50(JST)に

おいて,電磁流向流速計には約12分の遅れ,CTDには約42

秒の遅れが生じている。ADCPは図5から1分未満の遅れと

推定されるが,サンプリング間隔30分と計測に要する動作

時間(数十秒)に比べれば実際上は無視しても差し支えな

いと思われる。各センサの時刻ずれの変化量は,CTDが1

日あたり約0.06秒,ADCPが同約1秒で,直線的な変化であ

るが,電磁流向流速計の変化量はこれらに比べて大きく,

また不規則かつバースト的な変化である。電磁流向流速計

の時刻ずれの原因はデータ収録用端末での取りこぼしや

伝送過程でのエラーなどが考えられるが,現在のところ特

定されていない。CTDについても,初島沖ステーション

(Iwase et al., 2001)などで使用されている同等のセンサに

比べて時刻ずれの初期値が大きい。「2003年十勝沖地震」

に伴う"Benthic storm"をはじめとする深海環境変動現象を

詳細に把握するためには,これらの補正が必須であるが,

通常は機器間の干渉ノイズとして観測上の障害となるADCP

ノイズによりこれらの補正ができたのは皮肉なことである。

こうした時刻ずれや計測値のオフセットは「2003年十勝

沖地震」前後に限らず,定常的に発生しているはずであり,

他の期間のデータに対しても同様の補正をする必要があ

る。公開されているデータの利用に際し,本稿での補正手

法が参考になれば幸いである。

8. まとめ2003年9月26日に発生した「2003年十勝沖地震」の際,北

海道釧路・十勝沖「海底地震総合観測システム」先端観測

ステーションにより,海底地滑り等が原因と推定される海底

付近の強い流れ"Benthic storm"をはじめとする深海環境変

動現象が検出された。しかし,これらの深海環境変動を詳

細に把握する上で,海洋科学技術センターのホームページ

で公開されている先端観測ステーションの各センサの計測

値や刻時精度を検討したところ,電磁流向流速計の計測値

に生じているオフセットの存在や,本震が発生した2003年9

月26日04:50(JST)前後における時刻ずれが,電磁流向流速

計では約12分の遅れ,CTDでは約42秒の遅れとなっている

ことなどが明らかとなった。電磁流向流速計の計測値に対

しては,ADCPの最下層のデータとの比較により,また時刻

ずれに対しては,時刻精度が0.01秒以下であるハイドロ

フォンのデータと比較することにより,それぞれ補正が可能と

なり,本震発生後も通常より速い西向きの海底付近の流れ

が10日以上に渡って継続していることなどが明らかとなった。

謝辞本稿の執筆にあたって,「北海道釧路・十勝沖海底地震

総合観測システム」及びその公開データを掲載している「海

底ケーブルデータセンター」を運用している深海研究部の

森田重彦氏並びに(株)マリン・ワーク・ジャパンの大塚梨代

氏,「かいれい」KR99-02航海のシービームデータを提供し

ていただいた深海研究部の平田賢治研究員並びにその

アーカイブデータを提供していただいた日本海洋事業(株)

の樋泉昌之氏に御礼申し上げます。

引用文献Hirata, K., Aoyagi, M., Mikada, H., Kawaguchi, K., Kaiho, Y.,

Iwase, R., Morita, S., Fujisawa, I., Sugioka, H., Mitsuzawa,

K., Suyehiro, K. and Kinoshita, H., "Real-Time

Geophysical Measurements on the Deep Seafloor using

Submarine Cable in the Southern Kurile Subduction Zone",

IEEE Journal of Oceanic Engineering, 27, 170-181(2002)

岩瀬良一,満澤巨彦,門馬大和,1998年4月伊豆半島東方

沖群発地震に伴う泥流の発生-相模湾初島沖「深海底

総合観測ステーション」による観測-,JAMSTEC深海研

究,14, 301-317(1999)

Iwase, R., Asakawa, K., Mikada, H., Goto, T., Mitsuzawa, K.,

Kawaguchi, K., Hirata,K. and Kaiho, Y., "Off Hatsushima

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International Workshop on Scientific Use of Submarine

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Mikada, H., Mitsuzawa, K., Sugioka, H., Baba, T., Hirata, K.,

Matsumoto, H., Morita, S., Otsuka, R., Watanabe, T., Araki,

E. and Suyehiro, K., "New discoveries in dynamics of an

M8 earthquake - Phenomena and their implications from the

2003 Tokachi-oki Earthquake using a long term monitoring

cabled observatory -", Tectonophysics (2004) (submitted)

Watanabe, T., Matsumoto, H., Sugioka, H., Mikada, H.,

Suyehiro, K., and Otsuka, R., "Offshore Monitoring

System Records Recent Earthquake Off Japan's

Northernmost Island", Eos, 85, 14 (2004)

(原稿受理:平成16年2月3日)