24
0 令和2年度 講義資料 No.1 材料科学B 亀川 厚則 [email protected] 希土類材料研究センター 1 R02 材料科学Bの講義計画(予定) 1. 材料の相平衡 2. 金属材料の強化機構 3. 固体中の拡散 3-2.アレニウスの式 4. 拡散方程式の解 5. 各種拡散 6. 拡散変態 6-2.スピノーダル分解 7-1.核生成 7-2.核成長 7-3.核成長と粗大化 8. 各種拡散変態:共析変態 8-2.各種拡散変態:時効析出 8-3.各種拡散変態:鋼の拡散変態と析出 8-4.ショートレンジ拡散による相変態 9. TTT線図とCCT線図 9. TTT線図とCCT線図 10. マルテンサイト変態 11. 金属の加工と回復 11-1.金属の塑性加工と加工硬化 11-2.回復 11-3.再結晶 11-4.集合組織 12. 金属材料の熱処理と組織 12-2.金属材料の一般的な熱処理 12-3.鉄鋼材料の熱処理と組織 13. 材料の機能と組織設計 2 1.材料の相平衡 3 物質の三態 気体 液体 固体 融解 昇華 気化 蒸発・気化 凝固 液化・凝縮 凝固 昇華 固体、液体、気体の 3つの状態で三態

令和2年度 講義資料No.1 材料科学B 1.材料の相平衡 - muroran ...Fe3C:セメンタイト 導線 純銅 Cu 磁石 (例) ネオジム磁石 Nd2Fe14B:磁性化合物

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0

令和2年度 講義資料 No.1材料科学B亀川 厚則

[email protected]

希土類材料研究センター

1R02 材料科学Bの講義計画(予定)1. 材料の相平衡2. 金属材料の強化機構3. 固体中の拡散3-2.アレニウスの式4. 拡散方程式の解5. 各種拡散6. 拡散変態6-2.スピノーダル分解7-1.核生成7-2.核成長7-3.核成長と粗大化8. 各種拡散変態:共析変態8-2.各種拡散変態:時効析出8-3.各種拡散変態:鋼の拡散変態と析出8-4.ショートレンジ拡散による相変態9. TTT線図とCCT線図

9. TTT線図とCCT線図10. マルテンサイト変態11. 金属の加工と回復11-1.金属の塑性加工と加工硬化11-2.回復11-3.再結晶11-4.集合組織12. 金属材料の熱処理と組織12-2.金属材料の一般的な熱処理12-3.鉄鋼材料の熱処理と組織13. 材料の機能と組織設計

2

1.材料の相平衡

3物質の三態

気体

液体

固体融解

昇華気化

蒸発・気化

凝固

液化・凝縮

凝固昇華

固体、液体、気体の3つの状態で三態

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4材料:金属、プラスチック、セラミックス

材材料料 化化学学結結合合金属 金属 金属結合

プラスチック 非金属・有機物 共有結合ファン・デル・ワールス結合

セラミックス 非金属・無機物 イオン結合共有結合

化学状態の比較

材 料無機材料

有機材料

金 属

セラミックス

金属材料

陶器、ガラス

プラスチック

(例)

5本講義における材料とは?

原則として、固体状態の化学物質・素材や固体のデバイスに用いられる物質を指し、一般に構造材料(機械材料)と機能性材料に分類される。

6材料の性質、特性構造的要因:機械的強度(延性、展性、靭性、硬度など)、密度など

機能的要因:熱伝導率、電気伝導性、半導性、磁性・超伝導、誘電性・光学特性、その他エネルギー変換能など

構造材料(強度材料、機械材料)

機能性材料

7材料と金属、化合物応応用用、、用用途途 材材料料 含含ままれれるる化化学学物物質質鉄骨 鋼 Fe(C):炭素が溶けた鉄

鋳物 鋳鉄 Fe(4.2%C):炭素が溶けた鉄Fe3C:セメンタイト

導線 純銅 Cu

磁石 (例)ネオジム磁石

Nd2Fe14B:磁性化合物Nd(Fe, B):高ネオジム相

航空機の翼 炭素繊維強化炭素複合材料

炭素繊維(C)プラスチック

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8様々な鉄材料の強度

強強度度 鉄鉄・・鋼鋼のの種種類類 強強化化機機構構200MPa 極低炭素鋼 炭素固溶強化

300MPa 低炭素鋼 炭素固溶強化+結晶粒径微細化

500MPa フェライトパーライト鋼 組織強化(パーライト)

1GPa(=1000MPa)

高張力鋼 固溶強化、組織強化(マルテンサイト組織)

4GPa 冷間引抜鋼線 冷間加工歪

77GPa 鉄ホイスカー 無欠陥化(鉄の理想強度)

鉄は鉄でも、化学組成、ナノオーダー、マイクロオーダーの微細組織、結晶の完全性(欠陥、転位など)結晶内の歪などによって強度は様々。

9固体の結晶構造の例

α-Fe δ-FeMn CrMo WNb β-Ti (>880oC)

Co ZnZr α-Ti (<880oC)Mg

γ-FeNi CuAu PtAl AgSi

Body Centered Cubic(BCC)Structure

Hexagonal Close-Packed(HCP)Structure

Face Centered Cubic(FCC)Structure

体心立方格子構造 面心立方格子構造 六方晶最密充填構造

立方、六方など7つの結晶系がある

←同素体

10

単結晶(Single Crystal)

半導体用単結晶シリコンとシリコン・ウエハー

塩(NaCl)の単結晶 ダイヤモンド水晶(SiO2)単結晶クラスタ

自然界においても手に取れるほどの大きさを持つ単結晶材料は比較的少ない

溶解・鋳造により粗大な単結晶を作製するには、高度な技術とコストがかかる

11

金属の結晶は物質全体に渡って連続なのか?

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12金属の結晶は物質全体に渡って連続なのか?

たとえば、この金(FCC)の延べ棒が、端から端まで単一の結晶でできているのだろうか?

13多結晶体と結晶粒界

結晶粒界

結晶粒界

結晶粒界

多くの金属は、微細な単結晶で構成される多結晶体である。

14結晶の大きさは様々

オーステナイト鉄(γ-Fe)の破断面

多結晶シリコン太陽電池

実用材の多くは数μm~数cm程度の結晶粒径ナノオーダー(nm)や数10cm以上の結晶粒を持つ多結晶材料もある

15なぜ多結晶体ができるのか?

結晶核生成(晶出、析出)

結晶粒成長(粒成長)

多結晶組織

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16結晶の不完全性

格子間原子

侵入型不純物原子

置換型不純物原子

原子空孔

転位

17結晶の不完全性

格子間原子

侵入型不純物原子

置換型不純物原子

原子空孔

転位

空洞(ボイド)

18刃状転位

19らせん転位

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20合金の種類と構造

固溶体合金

置換型固溶体

侵入型固溶体

金属間化合物

Cu3AuCuAu

不規則に混じる

結晶構造中に規則的に配位

合金 intermetallic compound(intermetallics)

solid solution 原子半径が小さな侵入型元素( )が結晶格子間に進入侵入型元素:B, C, Si, Ge, As Sbなど例)鋼(Fe-0.5%Cなど)

例)真鍮(Cu-Zn)結晶構造を維持したままCu(FCC)の位置(サイト)をZnに置換できる(約38%まで)

「固溶限」という

5円硬貨は真鍮製

21合金の種類と構造(二次元的に考えると、、、)

置換型固溶体 侵入型固溶体 金属間化合物

侵入型でも規則的に配列し、組成が定比となれば化合物

構成元素の多数が金属元素なら金属間化合物

22ギブスの相律(phase rule)系の自由度を規定する式で、相と成分で規定される。

:自由度 :成分の数 :相の数

自由度が0の系を不変系、自由度が1、2、3を一変系、二変系、三変系という。

例) 2成分1相 自由度3 1成分2相 自由度11成分1相 自由度2 1成分3相 自由度0

23合金の二元系状態図!"##

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液相線

固相線

組成 (wt%Ni)

温度/℃

Cu Ni

Niの融点

Cuの融点

軸が純Ni軸が純Cu

単成分系(純物質)で固相の融解は、融点でのみ起こる。多成分系(二元系以上)での固相の融解は、固相線と液相線で囲まれた温度領域で起こる。

合金の二元系状態図は一般に・縦軸に温度(℃またはK)・横軸に組成(wt%またはat%)で記述される。

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24全率固溶の二元系状態図全率固溶系:(同形系(isomorphous system))固溶限なく互いに全量(全率)で固溶する。→固相でも液相でも完全に混じり合う

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1455℃

1085℃

Liquid

α

液相線

固相線

α+L

組成 (wt%Ni)

温度/℃

Cu Ni

状態図は3つの領域に分けられる・液相(L)・液相(L)+固相(α):固液共存領域・固相(α)

全率固溶系の一例:Cu-Ni二元系

Note)しばしば固相はギリシア文字(α, β, γ,・・・)と略号を付される。

液相線(liquidus line):液体から固体が出現しはじめる温度

固相線(Solidus line):全てが固体になる温度

Cu-Ni二元系状態図

25二相共存領域における各相の組成の求め方

1)組成と温度を定める→point B

2)二相共存領域におけるタイライン(tie line)または等温線(isotherm)を描く

3)液相線および固相線との交点が、それぞれ液相および固相の組成( )と決定される

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Tie line

Liquid

α

L+α

B

組成 (wt%Ni)

温度/℃

Point Bにおける、固相の組成は 、液相の組成はex.) Cu-35wt%Niの1250℃における固相は32wt%Ni、液相は43wt%Ni

26

てこの法則(lever rule)1)組成と温度を定める2)二相共存領域におけるタイラインを描く

3)相の割合は、もう一方の相との相境界までのタイラインの長さをタイライン全長で割ることで決められる。

二相共存領域における相の割合の求め方

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Tie line

Liquid

α

L+αB

組成 (wt%Ni)

温度/℃

Note)てこの法則を天びんの法則ということもある。

BLiquid

αL+α

mLiq.mα

27

てこの法則:平衡状態の凝固では液相は液相線に沿って、固相は固相線に沿って組成変化し、固相と液相の割合はてこの法則に従う。各相の重量比率

二相共存領域における相の割合の求め方

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Tie line

Liquid

α

L+αB

組成 (wt%Ni)

温度/℃

BLiquidα

L+α

mLiq.mα

ーーーー

Note)実際の凝固は非平衡状態で進み溶質元素は液相に濃縮され、固相、液相ともに内部に濃度勾配が生じる。成分の移動は液相内では拡散と対流が生じ、固相では拡散が生じる。

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28

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二元系の共晶型状態図

αα+L

Liquid

β+L β

α+β固溶度線

固相線

液相線

共晶等温線

共晶点

共晶反応(eutectic reaction)液相L 固相α + 固相β冷却

組成 (wt%B)

温度/℃

BA

共晶温度

共晶組成

A, B 両元素が、液体状態では任意の割合に完全に解け合うが、固体状態ではある限度内(固溶限)だけ解け合う。⇒全率固溶体と比較して、共晶状態図は固体状態での溶解性の範囲が限られているときに生ずる状態図の一例。

◆ 共晶反応は、ただ一つの液相が冷却中分離して異なる二つの固相になる反応である。

◆ 共晶冷却反応中、液相Lは固相αおよび固相βと平衡状態にある。

◆ 共晶点(三相平衡)の自由度はF = 0 (=C-P+1=2-3+1)

⇒3相が一つの温度でしか平衡状態であることができないことを意味する。(不変系)

◆ この特別な温度は共晶温度と呼ばれ、平衡状態図において等温線で表される。

29分解型不変系反応冷却時に、1相が2相に分離するもの

冷却

冷却

冷却

冷却

共晶反応(eutectic reaction)液相L 固相α + 固相β共析反応(eutectoid reaction)固相γ 固相α + 固相β偏晶反応(monotectic reaction)液相L1 固相α + 液相L2再融反応(remelting reaction)固相β 固相α + 液相L

L

α βα+β

α+L β+L

γ

α βα+β

α+γ β+γ

L1

L2αα+L2

α+L1 L1+L2

β

Lαα+L

α+β β+L

共晶型

共析型

偏晶型

再融型

30加成型不変系反応冷却時に、2相が反応して第3の異なる相を生ずるもの

包晶反応(peritectic reaction)液相L + 固相α 固相β包析反応(peritectoid reaction)固相α + 固相β 固相γ合成反応(syntectic reaction)液相L1 + 液相L2 固相β

冷却

冷却

冷却

L

α

βα+β

α+L

β+L

合成反応型

L2

L1

βL1+β

L1+L2

β+L2

β

α

γα+γ

α+β

β+γ

包晶型

包析型

31

2.金属材料の強化機構

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32材料の強度(さまざまな尺度)

降伏強度、降伏強さ(yield strength)降伏応力(yield stress)ともいう。塑性変形を起こさずに、材料に生じさせることのできる最大応力のこと。ひずみが大きくなると、ひずみと応力との関係が比例しなくなり、応力を除去してもひずみが残る場合がある。この現象は降伏と呼ばれ、この現象が起き始める応力を降伏強さと呼ぶ。材料の種類によっては降伏現象が明確にみられないものもある。

強度を表す指標は様々であり、材料の変形挙動の種類によって以下のように用語を使い分ける。

降伏(yielding)ひずみが大きくなると、ひずみと応力との関係が比例しなくなり、応力を除去してもひずみが残る現象を降伏と呼ぶ。

応力‒ひずみ曲線(引張試験)

降伏強度応力

降伏点

ひずみ

破断

33材料の強度(さまざまな尺度)引張強度、引張強さ(tensile strength)ひずみが大きくなると材料は破断するが、破断する前に材料に表れる最大の引張応力、あるいは材料が耐えうる最大の引張応力を引張強度(強さ)と呼ぶ。概念的には塑性変形強度、変形抵抗と概ね一致する。

引張強度応力

ひずみ

破断

破断ひずみ

延性(ductility)材料が破断する直前における最大の変形量を破断ひずみ(fracture strain)と呼び、引張変形における延性の指標となる。延性の指標には伸びと絞りが代表的であるがその他の指標もある。

引張強さの大きい材料は「高強度 」、小さい材料は「低強度」と表現される。

34材料の強度(さまざまな尺度)靭性(toughness)破壊するまでに材料に加えられる総エネルギーを破壊エネルギーと呼び、靭性という指標で表される。破壊エネルギーの大きい材料は「靭い (ねばい;tough) 」と表現される。

曲げ強度、曲げ強さ、抗折力(bending strength, flexural strength)部材の破壊は引張りより曲げモードの負荷で破損することが多いことより多用される指標。靭性と傾向は大まかには一致する。

硬度(hardness)傷の付きにくい材料は「硬い (hard) 」と表現され、おおむね塑性変形強度(変形抵抗)と一致する。◆ モース硬度:標準物質と擦り合わせた傷の有無で判定◆ ビッカース硬度:ダイヤモンド針を押し当てた傷の大きさで判定

35構造敏感・構造鈍感合金の性質構造敏感な性質(structure sensitive)微視的構造に依存する材料の性質のこと。熱処理などによって制御される。転位密度や配列などミクロな構造の不均一が性質を左右する。i.e.) 加工硬化、異種原子の固溶、微細粒子の析出、結晶粒径の減少など

構造鈍感な性質(structure insensitive), 構造敏感でない性質存在する原子の種別に依存する材料固有の性質のこと。原子の種類や結晶形に依存するが、構造には依存しない。熱処理により制御できない。→相が荒く(1μm以上)分散する場合には、混合則(複合則)が成り立ち易い。しかし、第2相が微細かつ高密度に分散している場合には、混合則より大きな値になることがある。

構構造造敏敏感感 構構造造鈍鈍感感

力力学学的的性性質質塑性的性質

(降伏応力、引張強さ、延性など)

弾性的性質(ヤング率、ポアソン比など)

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36種々の材料の変形

脆性破壊

延性破壊

延性破壊

セラミックス

金属材料

ポリマー

ひずみ

応力

37弾性変形と塑性変形

応力

加工硬化

降伏点

ひずみ

塑性変形域弾性変形域 破断

応力‒ひずみ曲線(引張試験)

弾性変形(elastic deformation)

塑性変形(elastic deformation)

38弾性変形と塑性変形

応力

加工硬化

降伏点

ひずみ

塑性変形域弾性変形域 破断

応力‒ひずみ曲線(引張試験)

弾性変形(elastic deformation)

塑性変形(elastic deformation)

可逆的な変形

39弾性変形と塑性変形

応力

加工硬化

降伏点

ひずみ

塑性変形域弾性変形域 破断

応力‒ひずみ曲線(引張試験)

弾性変形(elastic deformation)

塑性変形(plastic deformation)

可逆的な変形

転位のすべり運動

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40金属材料の強化(室温における)金属の変形機構は転位のすべり運動によるもの。金属材料の強化指針→すべり変形を起こしにくくする

→いかに転位の移動を抑えるか?

◆ 転位をまったく含まない結晶ウイスカー(whisker)→理論値に近い強さ。

微細粒のため母材と複合化して使用◆ 転位の移動を抑制する。1)固溶強化 →置換型または侵入型固溶原子の導入2)析出強化 →主に時効熱処理により微細な第2相析出物を分散3)分散強化 →酸化物などの粒子を分散4)加工硬化 →塑性変形によって転位密度を高める5)結晶粒微細化 →強化結晶粒の大きさを小さくする6)複合強化 →異なる材料を複合化する

41① 固溶強化固溶強化(solid solution strengthening)固溶する溶質原子と転位との相互作用を利用して材料を強化する方法。固溶体の降伏応力は溶質原子濃度増加するにつれて増大する。転位の移動にあたって溶質原子は弱い障害物となる。

置換型固溶体(substitutional solid solution)

侵入型固溶体(interstitial solid solution)

42固溶強化固溶強化(solid solution strengthening)固溶する溶質原子と転位との相互作用を利用して材料を強化する方法。固溶体の降伏応力は溶質原子濃度増加するにつれて増大する。転位の移動にあたって溶質原子は弱い障害物となる。

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PBe

SnTi

W

MoPt

V

Si

Cr

AlCo

Ni

固溶原子濃度 (at%)

引張降伏応力の増加量/MPa

種々の溶質原子による鉄の降伏応力の変化

(1)溶質原子は転位に移動を妨げるような力を及ぼす。

(2)溶媒原子と溶質原子の大きさの差が大であるほど転位移動は妨げられる。

溶質原子周辺の格子のゆがみは転位移動に対する抵抗となる。

↓塑性変形を生じさせるために、より大きな応力が必要となる。

↓固溶強化

鉄に異種金属を固溶させると大きさの異なる原子ほど降伏応力を上昇の効果は大きい。

43コットレル効果コットレル効果(Cottrell effect)結晶内の転位の周辺の格子のひずみにより溶質原子(不純物原子)の大きさが適当であれば、転位周辺に溶質原子が集まり格子ひずみを緩和しようとする。これをコットレル効果という。また、転位の周りの高濃度の溶質原子の雰囲気が形成され、これをコットレル雰囲気(Cottrell atmosphere)という。この雰囲気のため、溶質原子(不純物原子)による転位運動が固着(ピン止め; pinning)される。

コットレル雰囲気により安定位置となった侵入型不純物原子

コットレル雰囲気

固溶強化のつづき

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44軟鋼におけるひずみ時効

応力

ひずみ

除荷

再荷重

再荷重

除荷

リューダース伸び① リューダース伸びが降伏現象により現れる。転位がコットレル雰囲気により固着され、その運動が困難になることに起因する。リューダース帯(Lüders band)→ストレッチャーストレインができ、しわがよる。製品価値低下

② 除荷後、単時間後に応力を加えると、上降伏点が消失する。→侵入型原子(C, N)が転位からはずれており、転位が動ける。

③ 除化後、しばらく放置した後に再荷重すると上降伏点が現れる。→C, Nで転位が固着される。

軟鋼における降伏現象

① ② ③

45ストレッチャーストレイン(stretcher-strain)

46② 析出強化、③ 分散強化析出強化(precipitation strengthening)微細な析出物を母相に密に分散させ、転位の障害物として強化する方法。溶体化処理後に比較的低温で時効によって母相中に微細な析出物を分散させ強化させる。後述の分散強化との違いは、析出物が微細であるため障害物として弱い点にある。障害物としての弱さは、析出物の多さでカバーされる。i. e. )Al-4%Cu 合金の時効析出過飽和固溶体→GP(I) →GP(II) →(θ” →) θ’→θ

時効析出の強化機構・GPゾーン、整合析出物:転位が析出粒子をせん断→整合ひずみによる粒子近傍の内部応力によって転位運動の障害となる。

・非整合析出物→転位がオロワン機構で通り抜ける。(オロワンのバイパス機構)

47② 析出強化、③ 分散強化分散強化(dispersion strengthening)材料内に母相よりも硬く塑性変形しにくい粒子を分散させ、転位運動の障害物として強化する方法。この場合、強い障害物として粒子は転位に切られることのない硬化な障害、絶対的なピン止め点であると考える。

オロワンループ

転位分散粒子

オロワン機構(Orowan mechanism)

一般に、析出強化は障害物の粒子である析出物が微細でり、塑性変形可能な場合もあるため弱い障害物として作用すると理解される。一方、強固な障害物の粒子(母相に対して硬く塑性変形が困難な相)を分散させた場合は分散強化として区別される

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48転位運動の阻害粒子の強化機構転位がオロワン機構で通り抜ける

転位が析出粒子をせん断する

GPゾーン、整合析出物< 0.1

非整合、半整合析出物> 0.1

大きい小さい

依存性:大きい

依存性:小さい

転位と粒子との相互作用

析出相の種類と粒子間距離( )

加工硬化系数( )

降伏応力の温度依存性

応力, σ

伸び, ε

応力, σ

伸び, ε

温度, T温度, T 降伏応力, σ

y

降伏応力, σ

y

49スピノーダル分解強化スピノーダル分解による強化析出強化とよく似ているが、スピノーダル分解によって結晶中の溶質原子の濃度が場所の関数として周期的に変動する場合は、格子定数も周期的に変わるので、すべり面上に周期的な内部応力場が発生する。転位はこれと相互作用を起こす。広義には析出強化の一つとされているが、析出物ではなく濃度変調が与える格子定数の変化が転位運動の障害となるため、強化機構が異なる。スピノーダル分解による強化は、微細組織における濃度変調の振幅 Aに比例し、波長λには無関係となることが分かっている。

50④ 加工硬化加工硬化( work hardening )金属に応力を与えると塑性変形によって硬さが増す現象。降伏応力以上の応力を与えると、金属の結晶面にすべりが生じ、弾性変形(elastic deformation)する。これよって結晶内に多量の転位を生成する。加工が増すに従い転位密度が高まり、次第に蓄積して絡み合い、そのすべり面に対しての抵抗が徐々に大きくなり、金属は硬さを増す。

応力

加工硬化

降伏点

ひずみ

塑性変形域弾性変形域 破断

非可逆的

可逆的

金属材料の応力‒ひずみ曲線

塑性変形弾性変形

すべり面

51

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52⑤ 結晶粒微細化強化結晶粒微細化強化(grain refinement strengthening)微細な結晶粒からなる多結晶体ほど降伏応力が高くなる。結晶粒界(grain boundary)は異なる結晶方位を持つ隣接粒間の境界である。したがって一般にある結晶粒中のすべり面は粒界を挟んで連続してはおらず、通常転位は粒界を通り越えて運動することはできない。結晶粒の微細化方法(1) 温間、もしくは熱間で大ひずみ(真ひずみで2 程度)をあたえつつ、再結晶または相変態を起こして、粒径 d = 1 μm 程度の微細粒を生成する方法。

(2) 形状不変加工(冷間)によって、真ひずみで5程度の大ひずみをあたえ、転位密度を大きく上げ、 転位セル組織を発達させて、大傾角な転位セル境界によって結晶粒を微細化する方法。

53ホール・ペッチの式ホール・ペッチの式(Hall-Petch relationship)一般に、材料の降伏強度 と平均結晶粒径 の間には、

となる関係が経験的に成り立つことが知られている。ホール・ペッチの関係は、降伏応力だけではなく、引張強度やあるひずみの時の変形応力、あるいは劈開破壊応力などについても成り立つことが多い。また、材料の靭性も に比例して向上する場合がある。

Fe-1wt% Ni合金におけるHall-Petchの関係

54転位運動の障害物強強化化機機構構 転転位位運運動動のの障障害害物物 関関連連キキーーワワーードド

① 固溶強化 置換型または侵入型固溶原子 コットレル雰囲気

② 析出強化 微細な析出物、整合性析出物 時効析出物スピノーダル分解

③ 分散強化 半整合性、非整合性析出物 酸化物粒子

④ 加工硬化 高密度化した転位 冷間加工組織

⑤ 結晶粒微細化強化 結晶粒界 加工・再結晶組織

⑥ 複合材料強化 異種材料との界面

55

3.固体中の拡散

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56移動現象論移動現象論:粒子(物質、成分)、熱、運動量などの

物理量が移動する現象を扱う。

均質化するための各物理量の移動方法熱 :熱伝導、対流、熱放射運動量 :伝達(拡散)、対流成分(流体):拡散、対流成分(固体):拡散

57拡散の現象論エントツの煙は空気中に広がり、やがて見えなくなる。ビーカーの水に垂らした1滴のインクは、水をかき混ぜなくてもいつしか広がって、全体を淡く色づける。

液体においては巨視的な流れがなくても分子の移動(=拡散)が起こり、水とインクが違いに混ざり合う。

気体や液体だけでなく、、、

拡散(diffusion): 粒子、熱、運動量などが広がる現象

固体内でも、原子、イオン、欠陥は動く(拡散する)。

58固体内の拡散原子が整然と配列している固体では、気体や液体に比べると原子は動きにくいが、固体でも拡散は起こっている。

物質Aと物質Bの界面近くでA原子は物質B側へ、B原子は物質A側へと流れ込み、物質Aと物質Bが混合する。

59鋼の焼き入れ(実際の固体中の拡散)

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60拡散対とFickの法則純Feと炭素を含むFeの棒を接合し高温に保持したとする。十分長時間経過すると炭素が拡散し、炭素濃度は均一になる。

Note)・CはFeの侵入型元素である。

61フィックの法則(Fick’s law)

Fickの第1法則(Fick’s first law):拡散による濃度変化を記述する式

:原子流束(単位時間当たりの単位面積を通過する粒子数,あるいはモル数)[mol/m2s]:拡散係数(diffusion coefficient)[m2s--1]:溶質原子のモル濃度 [mol m-3]:距離 [m]

濃度勾配:

A原子の移動

[cm2s-1]が使われることもある。

濃度

距離

① Aの濃度が高い方から低い方へAは移動する。

② 単位時間当たりのAの移動量はAの濃度勾配に比例する。

③ 単位時間当たりのAの移動量は物質移動面積(通過面積)に比例する。

AB 2成分系(成分Aの移動に関して)

62フィックの法則(Fick’s law)

時間 の間に ~ の領域に流入する溶質の量は

であり、これが 間の溶質濃度増大 となるから

濃度の時間変化、距離変化を加味して考える(実際の系に近い)

従って、

濃度

距離

63フィックの法則(Fick’s law)

Fickの第2法則(Fick’s second law)::拡散係数 [m2s--1]:溶質原子のモル濃度 [mol m-3]:距離 [m]:時間 [ t ]

Fickの第1法則の式から

(但し が に依存しない場合)

前式

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64アレニウスの式

拡散係数のアレニウスの式:拡散係数の温度依存性:拡散係数:定数(振動数因子):拡散の活性化エネルギー:気体定数、 :温度

アレニウスの式: ある温度での化学反応の速度を予測する式(Arrhenius equation) :温度に無関係な定数(頻度因子)

:活性化エネルギー(1モルあたり):気体定数:温度

アレニウスプロット:

[1/K]

単位がK(ケルビン)であることに注意

65固体中の拡散(拡散対の実験)A-x%B固溶体とA純物質を拡散接合した場合でも、見かけ上はB原子がA純物質側に移動しただけに見えるが、実際は、双方のA原子もやりとりをしている。

66原子スケールの拡散の機構

原子スケールの拡散機構の種類:

直接交換 リング機構 空孔機構 格子間原子

空孔

原子

格子間原子

67空孔機構による拡散空孔機構: 置換型原子などの場合、原子空孔を媒介として、結晶格子上にある原子が位置交換することで拡散する。

置換型原子

空孔

空孔

(原子)空孔

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68

3-2.アレニウスの式

69固体中の原子の移動と拡散空孔機構(vacancy mechanism):

同種原子の自己拡散(self diffusion)のほか、置換型原子の拡散、合金原子の相互拡散(inter-diffusion)などで起こることが多い。

原子空孔を媒介として、結晶格子上にある原子が位置交換することで拡散する。

70格子中には熱平衡状態で空孔がある濃度で安定に存在する。その熱平衡濃度 は、

空孔形成のための自由エネルギー変化:エントロピー変化 :エンタルピー変化 :

上式より、温度が上昇すると、空孔の熱平衡濃度は急激に増加することがわかる。

移動する原子が隣の空孔サイトにジャンプする過程では、隣接する原子を押しのけて歪ませる。この を原子移動の活性化エネルギー

(activation energy for migration) という。あらゆる平衡にある系において、原子は

互いに衝突し、振動エネルギーを交換している。

71原子が空孔にエネルギーの山を越えてジャンプする確率 は、

は格子振動の振動数で、あまり低温でなければおよそ1012~1013s-1程度の値をもち、通常の有限温度の範囲内では温度に依存しないと見なせる。

1秒間に の頻度で山を乗り越えようとしても、隣に空孔がなければ原子の移動は不可能である。一つの原子の隣に空孔が存在する確率は空孔の濃度そのものと考えて良いから、原子の移動速度は に比例する。

従って、拡散係数 は ジャンプ確率! 空孔濃度"

エネルギーを原子1個あたりで表したもの(左式)

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72

:定数(振動数因子):拡散の活性化エネルギー

拡散係数のアレニウスの式

空孔機構による自己拡散の活性化エネルギーは空孔の形成エネルギーと原子移動の活性化エネルギーの和として表されることがわかる。

空孔機構による拡散の活性化エネルギーを原子1個あたりで表すと、

このエネルギーを1モルあたりで表すと、

73格子間原子による拡散機構

侵入型原子の拡散

格子間型の拡散機構: 金属結晶の母格子を構成する元素に比べて原子サイズが相当小さい侵入型元素は、母格子の間をすりぬけて拡散する。

侵入型原子(H, B, C, N, Oなど)

74侵入型原子(格子間原子)でも、隣の格子間サイトにジャンプする過程では、隣接する原子を押しのけて歪ませる。空孔機構と同様に、これを乗り越えさせるためには、系の自由エネルギーを増加させる必要がある。

すなわち、結晶中の原子は熱振動により隣接するサイトにジャンプする頻度によって拡散係数が求められる。

.温度に依存しない項

75

.温度に依存しない項

空孔機構の時と同様に、温度に依存しない項を として、1モル当たりのエネルギーとしてまとめ直すと、(拡散係数のアレニウスの式)

ジャンプ頻度

振動数項エントロピー項

エンタルピー項

:拡散係数:定数(振動数因子):拡散の活性化エネルギー:気体定数、 :温度

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76拡散のアレニウスの式これまで述べてきたように、いずれの拡散機構(空孔型、格子間型)でも拡散係数は、アレニウスの式で記述され、拡散は熱活性化型の物理現象であることが確かめられた。つまり温度が上昇すると拡散係数は急激に増加する。一方、拡散係数を参照する場合、しばしばグラフで表される場合がある。この場合、縦軸に表せる拡散係数は自然対数ではなく常用対数であることが一般的である。

[1/K]

単位がK(ケルビン)であることに注意

.切片と傾きから、それぞれ と が求められる。

77拡散係数の温度依存性

H

ニッケル(Ni)中の種々の元素の拡散係数実際の例としてNi中の種々の元素の拡散係数のアレニウスプロットを示す。

温度の逆数, 1000/T [1000/K]

温度, T [℃]

拡散係数, D [m

2 /s] B

CCo

Al

Ni (自己拡散)

W

H, B, CはNi中で侵入型に固溶

Co, Al, Wなどは置換型固溶元素Niは自己拡散係数

拡散係数

大きい

小さい

78

4.拡散方程式の解

79拡散方程式の解

定常状態では、溶質濃度 は距離 の1次式で表され、直線関係がある。

これらの解はいずれも、

1)定常状態での拡散溶質濃度 が時間 と共に変化しない拡散を定常状態の拡散という。つまり、Fickの第1法則では 一定、第2法則ではであるからそれぞれ、

,

( は定数)

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80拡散方程式の解2)非定常状態での拡散溶質濃度 が時間 と共に変わる非定常状態の拡散について、長い棒に挟んだ薄膜状拡散源 (厚さ 溶質濃度 )を考える。Fickの第2法則の式の解は、

!!""## ! $!$% %#

&'( "%

)%#

! ! !" "#

#$% $"

&"# 左図は、濃度分布の時間変化。溶質の総量は一定であり、曲線の面積は同じであることに注目。

とした

81

平均拡散距離

拡散方程式の解

!!"" # ! $

% %&'( "%

% %

!"! !"# $#$ !先の解を とすると、

←正規分布関数となる。

! ! !"#

正規分布関数の性質より、曲線で囲まれる面積(溶質の成分)が下記の範囲に含まれる割合は次のようになる。

棒の長さが より長ければ、(半)無限媒質とみなせる。ここで、

82

5.各種拡散

83体拡散(格子拡散)

空孔機構 格子間原子

これまでの空孔機構や格子間原子による拡散は、比較的に完成度の高い結晶格子中(結晶粒内)の拡散を考えてきた。これを、体拡散(volume diffusion)または格子拡散(lattice diffusion)という。

一方、実際の材料中には空孔以外にも種々の格子欠陥(lattice defect)が存在し、それら格子欠陥に沿ってより高速の拡散が生じうる。

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84拡散経路(diffusion path)

(1)体積拡散(volume diffusion)

(2)表面拡散(surface diffusion)

(3)粒界拡散(grain boundary

diffusion)(4)転位拡散(dislocation diffusion)

体拡散(格子拡散)

表面拡散

粒界拡散

転位拡散

結晶粒界

A B

金属材料におけるAの各種拡散経路

85高速拡散経路1)表面拡散:

結晶粒界2)粒界拡散:

物質の自由表面は、原子の拘束が極めて小さいため、原子の移動(拡散)は物質内部(体拡散)より容易に生じる。

多結晶体(polycrystal)における結晶粒界(grain boundary)は、一般的に結晶粒子内部よりも原子が疎であるため、体拡散より原子の移動が容易。3)転位拡散:転位(dislocation)の芯(core)近傍は、原子の配列が乱れて疎な状態になっている。高温では体拡散が早く起こるが、低温では転位拡散の寄与が大きくなる。特に加工材は転位密度が増加しているので影響は大きい。

86高速拡散経路(つづき)一般的に、 表面 粒界 体拡散 である。

一般的なバルク多結晶金属材料の結晶粒径は数1~1000μm程度で、粒界の総面積が表面積より大きい。つまり、表面より粒界拡散を十分に考慮することが重要である。また、全ての温度域でであるが、単位体積あたりの体拡散成分は粒界に比べて圧倒的に大きいため、高温域では体拡散が支配的である。!"#$#!

拡散係数, % [m

2 /s]

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%(

%)

FCC金属における自己拡散係数( :融点)

液相

体拡散

粒界

表面

~ 以上:体拡散が支配的以下:粒界拡散が支配的

さらに低温域 :表面拡散の影響大

87

これまで拡散現象を定式化する理解のため、拡散係数 が濃度に依存しないと仮定し、「拡散係数 は定数である」ことを前提として説明してきた。

濃度勾配が小さい系の拡散

不純物拡散(impurity diffusion):

自己拡散(self diffusion):その物質を構成している原子が拡散する。例)Fe中のFeの拡散※区別がつかないので放射性同位体を使う→トレーサー拡散

A原子からなる物質中のごく微少濃度のB原子の拡散。

拡散係数の濃度依存性を考慮することが必要な場合を考え、次の相互拡散では2種の異なる金属を接合し、広い濃度範囲にわたる拡散プロファイルを扱う。

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88相互拡散(inter-diffusion)Aの原子濃度,

最初の接合界面(カーケンドール界面)俣野界面A→Bに拡散した原子数とB→Aに拡散した原子数が等しいとして決まる界面

俣野界面

流束に差があると界面はずれる。

拡散対

距離,

89

ここで、 (固有拡散係数: )

相互拡散(つづき)

Aの原子濃度,

カーケンドール界面俣野界面距離,

! "#!

#$:俣野界面:任意の濃度

:濃度 における接線の傾き

ボルツマン‒俣野の解析(図式解法による相互拡散係数の求め方)

相互拡散係数:!!"# " !#$$

%&%" "!"#

& %"%

"#

! !

!"# ! !"$# "!#$"

原子分率:

90

Cu-30%Zn真鍮

Cu

マーカー(Mo細線)

カーケンドール効果

注)MoはCu, Znのいずれとも合金をつくらない(反応しない)

Cu-30%Zn

Cu

Moマーカーは拡散アニールによって内側へ移動する。(マーカーの移動は拡散が原因)これは、ZnがCuより早く拡散する( )ためである。

カーケンドールの実験拡散アニール前 拡散アニール後

(Kirkendall effect)

91エレクトロマイグレーション(electromigration)

電子の動き

EM前

EM後

比放射強度

距離,

放射性同位体

電子

原子原子 電流を電気伝導体に通すと原子の移動が起こる。移動する電子は金属原子と衝突して運動量を交換する。

純金属のエレクトロマイグレーション(EM)は、一般的に電子と同じ方向に原子も移動するが、遷移金属などの中には逆方向に移動する元素もある。(正孔が寄与)

電場によってイオンが移動する電気化学マイグレーション(イオンマイグレーション)とは異なる。

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92集積回路におけるエレクトロマイグレーション

集積回路の配線:Al, Cu集積回路における配線の原子は電子が動く方向に掃き寄せられ、カソード側には原子が不足し、過剰になった空孔がボイド(void)形成、アノード側では原子が過剰になりヒロック(hillok)形成し、隣を走る配線と接触しショートする。

原子が移動する方向粒界が不揃いな配線部における欠陥の発生粒界をメジャーな拡散経路とすると左から3本の経路が合流するあたりでヒロックが、5本に分岐するあたり で空洞が形成される。