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2011 2 No.1 シラバス( しい ・E215 クラス:S4 はじめに 数学基礎考究の目標 じて, める. ,ベクトル ,一 ベクトル,ジョルダン ), ベクトル ベクトル める. に慣れる. に,ベクトル 扱い に慣れる. 数学基礎考究の進め方 した演 題を いて する. お, B A より しい れる. いている かり すいように 掛ける. コメントをする. によって ,レポート テスト?) 単位の基準 いた (レポート テストがあれ .) 1

No.1 シラバス(の少し詳しい説明)kawaguch/pdf/11KisoKokyu.pdf2011 年度 2 学期 数学基礎考究 No.1 シラバス(の少し詳しい説明) 日時・場所:水曜日2限・E215

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.1

シラバス(の少し詳しい説明)日時・場所:水曜日2限・E215

クラス:S4

担当:川口周

はじめに

数学基礎考究の目標

• 演習を通じて,線形代数,線形代数続論の内容の理解を深める.具体的には,ベクトル空間と線形写像,行列・行列式・連立一次方程式,一次変換(固有値と固有ベクトル,ジョルダン標準形),商ベクトル空

間,双対空間,計量ベクトル空間などの内容の理解を深める.

• 抽象的な概念や数学的推論に慣れる.特に,ベクトル空間の公理的な扱いや,証明の仕方に慣れる.

数学基礎考究の進め方

• 事前に配布した演習問題を解いて黒板の前で発表する.なお,問題 B は問題 A よりも難しいと思わ

れる.

• 発表は,聞いている人に分かりやすいように心掛ける.教員は質問やコメントをする.•(授業の進み具合によっては,レポートや小テスト?)

単位の基準

• 黒板発表の問題数と内容,解いた問題の難易度.•(レポートや小テストがあればその結果も.)

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今日は,線形代数の復習として次の 4問を解く.

問 A.1. t ∈ Rとする.ベクトル

1

0

1

,

0

1

1

,

2

t

t2

∈ R3 はいつ一次独立になるか.

問 A.2. (1) 行列の行に関する基本変形とはどのような操作か.

(2) 具体的に一次連立方程式が与えられたときに,行列の行の基本変形を用いて解を求める方法(掃き出

し法)を,次の問題を解くことで説明せよ:

a ∈ Rとする.R上の連立一次方程式 x + 3y − z = 52x + y + 3z = 03x + 2y + 4z = a

が解をもつための aのみたすべき必要十分条件を求め,さらに解をもつときに,解をすべて求めよ.

問 A.3. 3次の複素正方行列 A =

3 −1 0

2 0 0

2 −1 0

を考える.(1) Aの固有多項式を求めよ.また,Aの固有値と対応する固有空間の基底を一組求めよ.

(2) P−1AP が対角行列となるような正則行列 P をひとつ求め,そのときの P−1AP を求めよ.

(3) B = P−1AP とおく.B の k 乗を求めよ(k = 1, 2, . . .).

(4) P−1 を求めよ.さらに,Aを B と P, P−1 で表すことにより,Aの k 乗を求めよ(k = 1, 2, . . .).

問 B.4. R3 には標準内積が入っているとする.

(1) R3 の部分空間W =

x

y

z

∈ R3

∣∣∣∣∣∣∣∣ x + y + z = 0

の正規直交基底を一組求めよ.(2) R3 のW への直交射影 π : R3 → W を求めよ.

(3) R3 の中で,

0

0

1

,

1

0

0

,

0

1

0

,

−1

0

0

,

0

−1

0

,

0

0

−1

を頂点とする正八面体 P を考える.π(P )

はどのような図形か.

注意. (3) π(P )は,R3 の直線

8

>

<

>

:

t

0

B

@

1

1

1

1

C

A

: t ∈ R

9

>

=

>

;

の遠くから,正八面体 P を眺めた図形と考えられる.

2

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.2

ベクトル空間と線形写像

行列やベクトルの成分は,断りのない限り,ある固定された体 K の元とする.体に慣れていない人は,K

は R(実数全体)または C(複素数全体)と思っても構わない.

基本的な概念

ベクトル空間と線形写像に関する基本的な定義をまとめる.

定義 1 (ベクトル空間). K を体とする.V がK 上のベクトル空間であるとは,集合 V に以下で述べる加法と

スカラー倍が定まっているときにいう.V の元をベクトル,K の元をスカラーとよぶ.

(I)(和)任意の二つのベクトル v, w ∈ V に対して,ベクトル v + w ∈ V が一つ定まる.

(II)(スカラー倍)任意のベクトル v ∈ V と,任意のスカラー a ∈ K に対して,ベクトル a v ∈ V が一つ

定まる.

さらに,加法とスカラー倍は次の 8つの条件を満たす.ただし,u, v, w ∈ V は任意のベクトル,a, b ∈ K は

任意のスカラーを表す.

(i) (u + v) + w = u + (v + w).(和の結合法則)

(ii) v + w = w + v.(和の交換法則)

(iii) 零ベクトルとよばれる元 0 ∈ V が存在して,v + 0 = 0 + v = v.(零ベクトルの存在)

(iv) 各ベクトル v ∈ V に対して,v + w = w + v = 0となるベクトル w ∈ V が存在する.この w を −v

と書く.(逆ベクトルの存在)

(v) (ab) v = a(b v).

(vi) (a + b) v = a v + b v.

(vii) a (v + w) = a v + aw.

(viii) 1 v = v.

定義 2 (一次独立,一次従属,一次結合). V をK 上のベクトル空間とし,v1, v2, . . . , vk ∈ V をとる.

(1) a1, a2, . . . , ak ∈ K に対して,

a1v1 + a2v2 + · · · + akvk = 0 =⇒ a1 = a2 = · · · = ak = 0

が成り立つとき,v1, v2, . . . , vk は一次独立であるという.

(2) v1, v2, . . . , vk は一次独立でないとき,これらは一次従属であるという.

(3) a1v1 + a2v2 + · · · + akvk(a1, a2, . . . , ak ∈ K)の形で得られるベクトルを v1, v2, . . . , vk の一次結合

という.

定義 3 (基底). V をK 上のベクトル空間とする.V の部分集合 U が次の二つの条件を満たすとき,U は V の

3

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基底であるという.

(i) U に属する互いに異なる有限個のベクトルは一次独立である.(ii) V に属する任意のベクトルは,U に属する適当な有限個のベクトルの一次結合として表される.

注意. U は無限集合の場合もある(そのとき,V は無限次元ベクトル空間という).U が有限集合の場合(そのとき,V は

有限次元ベクトル空間という),U = {u1, . . . , un}が V の基底であるとは,(上の (i)(ii)を言い換えて)次が成り立つことである.

(i) u1, . . . , un は一次独立である

(ii) V に属する任意のベクトルは,u1, . . . , un の一次結合として表される.

定義 4 (次元). U = {u1, . . . , un}が V の基底になっているとき,nを V の次元といい,dimV で表す.(この

とき,V を n次元ベクトル空間という.)

注意. 線形代数または線形代数続論の講義で習ったように,任意のベクトル空間 V には基底が存在する.また,V の次元

は V の基底の選び方によらずに,V から一意に定まる.

定義 5 (線形写像). V , W を K 上のベクトル空間とする.写像 f : V → W が次の二つの条件をみたすとき,

線形写像であるという.

(i) 任意の v, v′ ∈ V に対し,f(v + v′) = f(v) + f(v′).

(ii) 任意の a ∈ K と v ∈ V に対し,f(av) = af(v).

定義 6 (行列表示,表現行列). V , W をK 上の有限次元ベクトル空間とする.写像 f : V → W を線形写像と

する.{v1, . . . , vn}を V の基底,{w1, . . . , wm}をW の基底とする.

f(vj) =m∑

i=1

aijwi (j = 1, . . . , n)

で aij ∈ K を定める.このとき,aij を (i, j)成分にもつ m × n行列 A = (aij) ∈ M(m,n;K)を V の基底

{v1, . . . , vn}とW の基底 {w1, . . . , wm}に関する f の行列表示という(表現行列ともいう).

定義 7 (部分空間). V をK 上のベクトル空間とする.V の空でない部分集合W が次の二つの条件をみたすと

き,W は V の部分空間であるという.

(i) 任意の w,w′ ∈ W に対し,w + w′ ∈ W .

(ii) 任意の a ∈ K と w ∈ W に対し,aw ∈ W .

このとき,W 自身がK 上のベクトル空間となる.

定義 8 (直和). V をK 上のベクトル空間,W1,W2 を V の部分空間とする.

V = W1 + W2, W1 ∩ W2 = {0}

であるとき,V はW1 とW2 の直和(内部直和ともいう)であるといい,V = W1

⊕W2 で表す.

定義 9 (核と像). V , W をK 上のベクトル空間とする.写像 f : V → W を線形写像とする.

(1) Kerf := {v ∈ V | f(v) = 0}を f の核(kernel)という.Kerf は V の部分空間である.

(2) Im f := {f(v) ∈ W | v ∈ V }を f の像(image)という.Im f はW の部分空間である.

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定義 10 (階数). m × n 行列 A = (aij) に対し,fA(v) = Av(v ∈ Kn)とおくことにより,線形写像

fA : Kn → Km を定める.Im fA の次元を,行列 Aの階数といい,rankAで表す.

問題

問 A.5. 定義 1–定義 5を説明する適当な例をそれぞれ挙げよ.

問 A.6. 定義 6–定義 10を説明する適当な例をそれぞれ挙げよ.

問 A.7. (1) Cは自然に R上のベクトル空間となることを示せ.Cを R上のベクトル空間とみたときの基底を一組挙げよ.特に Cの R上のベクトル空間とみたときの次元はなにか.

(2) C を C 上のベクトル空間としての基底を一組挙げよ.C の C 上のベクトル空間としての次元はなにか.

問 A.8. K の元を成分とする n次正方行列全体Mn(K)は,自然に K 上のベクトル空間となることを示せ.

Mn(K)の K 上のベクトル空間としての基底を一組挙げよ.特に,Mn(K)の K 上のベクトル空間としての

次元はなにか.

問 A.9. V , W をK 上のベクトル空間,f : V → W を線形写像とする.

(1) f(v1), . . . , f(vk)がW が一次独立なベクトルのとき,v1, . . . , vk は V の一次独立なベクトルであるこ

とを示せ.

(2) f は単射と仮定する.v1, . . . , vk が V の一次独立なベクトルのとき,f(v1), . . . , f(vk)はW の一次独

立なベクトルであることを示せ.

問 A.10. 問題 A.8 のように,2 次正方行列全体 M2(K) を K 上のベクトル空間とみなす.A =

(a b

c d

)∈

M2(K)とする.f : M2(K) → M2(K)を,X ∈ M2(K)に AX ∈ M2(K)を対応させる写像とする.

(1) f は線形写像であることを示せ.

(2) Eij ∈ M2(K)で,(i, j)成分が 1で他の成分はすべて 0の行列を表す(Eij は行列単位とよばれる).

M2(K)の基底 {E11, E12, E21, E22}に関する f の行列表示を求めよ.

問 A.11. (1) 漸化式 an+2 = an+1 +an( n = 1, 2, . . .)をみたすK の元を要素とする数列 (a1, a2, a3, . . .)

の全体からなる集合

V = {(a1, a2, a3, . . .) | an ∈ K, an+2 = an+1 + an, n = 1, 2, . . .}

は成分ごとの演算によりK 上のベクトル空間になることを示せ.V の基底を一組求めよ.特に,V の次

元は何か.

(2) (a1, a2, a3, . . .) ∈ V のとき,(a2, a3, a4, . . .) ∈ V を示せ.(a1, a2, a3, . . .) ∈ V に (a2, a3, a4, . . .) ∈ V

を対応させる写像 f : V → V は,線形写像であることを示せ.さらに,(1)の基底に関する f の行列表

示を求めよ.(最後の答えは,(1)の基底の取り方によっていろいろ変わる.)

問 B.12. (1) a1, . . . , am を実数とする. Cm(R) で,R 上に定義された m 回連続微分可能な関数全体を

5

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表す.V =

{f(t) ∈ Cm(R)

∣∣∣ f (m)(t) + a1f(m−1)(t) + · · · + am−1f

′(t) + amf(t) = 0}

とおく (要するに, V は定数係数の斉次線形常微分方程式の解空間である). V は R上のベクトル空間になることを示せ.

(2) t0 を実数とする.関数 f に対して,関数 ϕ(f) を ϕ(f)(t) = f(t + t0) で定める.f ∈ V ならば

ϕ(f) ∈ V を示せ.対応 f 7→ ϕ(f)は,線形写像 ϕ : V → V を導くことを示せ.

(3) m = 2, a1 = 0, a2 = 1とおく.このとき,V は 2次元で,V の基底として {sin t, cos t}がとれる(証明不要).t0 = π とおく.この基底に関する ϕの行列表示を求めよ.

問 A.13. V をK 上のベクトル空間,W1,W2 を V の部分空間とする.和W1 + W2,共通部分W1 ∩ W2 がま

た V の部分空間であることを示せ.(これらの説明に適した例も挙げよ.)W1 ∪ W2 は一般には部分空間でな

いことを具体的な例を用いて示せ.

問 A.14. V , W をK 上の有限次元ベクトル空間,f : V → W をK 上の線形写像とする.次元公式

dim Im f = dim V − dim Kerf

が成り立つことを証明せよ.

問 A.15. V をK 上のベクトル空間,W1,W2 を V の部分空間とする.

dim(W1 + W2) = dim W1 + dimW2 − dim(W1 ∩ W2)

が成り立つことを証明せよ.

問 A.16. V , W を K 上の有限次元ベクトル空間とする.dimV = nとし,{v1, . . . , vn}を V の基底とする.

また,w1, . . . , wn ∈ W とする.このとき,線形写像 f : V → W で,f(vi) = wi(i = 1, . . . , n)をみたすも

のが唯一存在することを示せ.

問 A.17. V , W を K 上の有限次元ベクトル空間,V1 を V の部分空間,f1 : V1 → W を線形写像とする.こ

のとき,線形写像 f : V → W で,f |V1 = f1 となるものが存在することを示せ.

問 B.18. K 上の有限次元ベクトル空間 V の部分空間 W1,W2, . . . ,Wm が与えられているとする.V =

W1 + W2 + · · · + Wm とするとき,次の3つの条件は互いに同値であることを示せ.

(i) Wk ∩ (W1 + · · ·Wk−1 + Wk+1 + · · · + Wm) = {0}(k = 1, . . . ,m)

(ii) dimV = dimW1 + dimW2 + · · · + dimWm

(iii) 任意の v ∈ V は,v = w1 + w2 + · · ·+ wm(wk ∈ Wk)の形に表される.さらに,そのような表し方

は一意である.

V = W1 + W2 + · · ·+ Wm で,上の条件を満たすとき V はW1,W2, . . . ,Wm の直和(内部直和ともいう)で

あるといい,V = W1

⊕W2

⊕· · ·

⊕Wm と書く.

注意. m = 2のときは,V = W1

L

W2 であるのは,条件 (i)より,V = W1 + W2 かつW1 ∩ W2 = {0}である.これは,定義 8と合っている.

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問 A.19. Aを A2 = En をみたす n次複素正方行列とする(ただし En は単位行列).

V = {x ∈ Cn | Ax = x}, W = {x ∈ Cn | Ax = −x}

とおく.このとき,V , W は Cn の部分空間で,Cn = V⊕

W となることを示せ.

ヒント. (i) V + W = Cn と (ii) V ∩W = {0}を示せばよい.(i)について,任意の x ∈ Cn について,x = y + z(y ∈ V ,z ∈ W)と表せるとすると,Axを考えると,y, z について何が言えるか.(ii)について,x ∈ V ∩ W のとき,Axを考

える.

注意. 体を知っている人へのコメント:体K の標数が 2でなければ,CのかわりにK で考えても同じ結果を得る.

問 A.20. 問題 A.8のように,n次正方行列全体Mn(C)を C上のベクトル空間とみなす.

Symn(C) := {X ∈ Mn(C) | tX = X} (複素対称行列全体のなす集合)

Altn(C) := {X ∈ Mn(C) | tX = −X} (複素交代行列全体のなす集合)

とおく.このとき, Symn(C), Altn(C)はMn(C)の部分空間で,Mn(C) = Symn(C)⊕

Altn(C)となるこ

とを示せ.

注意. 体を知っている人へのコメント:問 A.19と同様に,体K の標数が 2でなければ,CのかわりにK で考えても同じ

結果を得る.

注意. 問 A.19, A.20を統一的に解答することもできる.V を C上のベクトル空間で,f : V → V を f ◦ f = id(恒等写

像)をみたす線形写像とする.このとき,W1 := {v ∈ V | f(v) = v}, W2 := {v ∈ V | f(v) = −v}とおけば,W1, W2

は V の部分空間で,V = W1

L

W2 となる.問 A.19は,V = Cn で f は Aから定まる線形写像の場合である.問 A.20は,V = Mn(C)で,f : Mn(C) → Mn(C)はX ∈ Mn(C)に tX ∈ Mn(C)を対応させる線形写像のときである.

問 A.21. f : V → W をK 上のベクトル空間の線形写像とする.V の基底とW の基底を適当に選べば,これ

らの基底に関する f の行列表示は, (Er OO O

)という形にできることを示せ.

問 A.22. m× n行列の階数の定義と同値な言い換えを二つ(以上)挙げ,同値であることを示せ.また,階数

の説明に適した例を挙げよ.

問 A.23. m × n行列 Aの階数は 1とする.このとき,零行列でない m × 1行列 B と,零行列でない 1 × n

行列 C が存在して,A = BC と表せることを示せ.

問 B.24. m×n行列Aの階数は rとする.このとき,A = A1 + · · ·+Ar となる r個のm×n行列A1, . . . , Ar

で,任意の i = 1, . . . , r について Ai の階数が 1であるようなものが存在することを示せ.

ヒント. P をm次の正則行列, Qを n次の正則行列とし,D = PAQとおく.P, Qをうまく選ぶと,D はどのような簡

単な形になるか(問題 A.21参照).さらに,このDについて,D = D1 + · · · + Dr かつ rank Di = 1(i = 1, . . . , r)と

なるD1, . . . , Dr の存在をまず考えてみよ.

問 B.25. V をK 上のベクトル空間,W1,W2 を V の部分空間とする.V = W1 ∪ W2 ならば,V = W1 また

は V = W2 が成り立つことを示せ.

問 B.26. A ∈ Mn(K)とする.

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(1) ある自然数 m に対して, rankAm = rankAm+1 ならば m より大きい自然数 l に対して, rankAl =

rankAm を示せ.

(2) rankAn = rankAn+1 を示せ.

(3) 線型写像 fA : Kn → Kn を v 7→ Av で定めれば

Kn = KerfnA

⊕Im fn

A

が成り立つことを示せ.ただし fnA は fA を n回合成した写像 fA ◦ · · · ◦ fA を表わす.

8

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.3

行列,行列式,連立一次方程式

行列やベクトルの成分は,断りのない限り,ある固定された体 K の元とする.体に慣れていない人は,K

は R(実数全体)または C(複素数全体)と思って解答しても構わない.

問 A.27. (1) A, B が上半三角行列ならば,AB も上半三角行列であることを示せ.

(2) Aを正則な上半三角行列とする.このとき,A−1 も上半三角行列であることを示せ.

問 A.28. x, y ∈ K に対し,行列 A(x, y)を以下で定める.

A(x, y) =

x 0 0 y0 x y 00 y x 0y 0 0 x

(1) A(x1, y1)A(x2, y2) = A(x1x2 + y1y2, x1y2 + x2y1)を示せ.

(2) A(x, y)の行列式を求めよ.

(3) x 6= y,−y とする.このとき,A(x, y)は正則行列で,その逆行列は1

(x + y)(x − y)A(x,−y)で与え

られることを示せ.

問 A.29. A,B を n次正方行列とする.このとき,

det(

A BB A

)= det(A − B) det(A + B)

が成り立つことを示せ.

ヒント. 例えば,

A B

B A

!

を行と列の基本変形で,

A + B O

B A − B

!

(あるいは,

A + B B

O A − B

!

)にもってい

けることを示す.

問 A.30. n次正方行列 Aについて,次は同値であることを示せ.

(i) rankA = n

(ii) Aは正則行列(すなわち,逆行列をもつ)である.

(iii) x ∈ Kn が Ax = 0をみたせば,x = 0である.

問 B.31. {1, 2, · · · , n}上の置換全体からなる集合を Sn とおく.σ ∈ Sn に対して,n次正方行列 Aσ = (aij)

aij =

{1 (i = σ(j)のとき)0 (i 6= σ(j)のとき)

で定める(Aσ は置換行列とよばれる).このとき σ, τ ∈ Sn に対して

AσAτ = Aστ , det Aσ = sgn σ

が成り立つことを示せ.

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ヒント. 前半: “AσAτ の (i, j)成分” =Pn

k=1 “Aσ の (i, k)成分” × “Aτ の (k, j)成分”.後半:例えば,まず,σ が互

換 (i, j)のときに,det Aσ = −1を示す.次に,一般の σ について前半部分を用いる.

問 A.32. (1) J2 = −En となる n次実正方行列 J が存在するならば,nは偶数であることを示せ.

(2) 逆に,各偶数 nについて,J2 = −En となる n次実正方行列 J を一つ求めよ.

ヒント. (1) J2 = −En の両辺の行列式を考え,J が実数を成分とする正方行列であることを使う.(2)すぐに見つからなければ,まず n = 2を考えるとよいかもしれない.

問 A.33 (三重対角行列の行列式). 数列 {an}, {bn}, {cn} が与えられたとき,n 次三重対角行列 An を次で定

める.

An =

an bn−1 0 · · · 0 0cn−1 an−1 bn−2 · · · 0 0

0 cn−2 an−2 · · · 0 0...

.... . . . . .

......

0 0 0 · · · a2 b1

0 0 0 · · · c1 a1

つまり,An は対角線に an, an−1, · · · , a1 が並び,対角線より一つ上に斜めに bn−1, bn−2, · · · , b1 が並び,対

角線より一つ下に斜めに cn−1, cn−2, · · · , c1 が並んでいて,残りはすべて 0 というものである.この問題で

は,An の行列式 |An|について考える(この問題では、記号 detAn のかわりに |An|を使う).

(1) 行列式の第 1行についての展開公式を簡単に説明し(証明する必要はない),An の行列式 |An|について次の等式を示せ.

|An| = an

∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣

an−1 bn−1 · · · 0 0cn−1 an−2 · · · 0 0

.... . . . . .

......

0 0 · · · a2 b1

0 0 · · · c1 a1

∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣− bn−1

∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣

cn−1 bn−2 · · · 0 00 an−2 · · · 0 0...

. . . . . ....

...0 0 · · · a2 b1

0 0 · · · c1 a1

∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣.

(2) 上の等式の右辺第 2項を,第 1列について展開することによって,次の式を示せ.

|An| = an|An−1| − bn−1cn−1|An−2| (n ≥ 3)

(3) 次の n次正方行列の行列式を求めよ.an = 4, bn = 1, cn = 3 (n = 1, 2, · · · )のときである.

4 1 0 · · · 0 03 4 1 · · · 0 00 3 4 · · · 0 0...

.... . . . . .

......

0 0 0 · · · 4 10 0 0 · · · 3 4

問 A.34 (連立一次方程式の解空間の構造). Aをm × n行列, b ∈ Km に対して,連立一次方程式

(∗) Ax = b, x ∈ Kn

を考える.A = (A b)とおく(Aはm× (n + 1)行列である).また,fA : Kn → Km を fA(x) = Axで定ま

る線形写像とする.

10

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(1) b ∈ Im(fA)であることと,rank A = rankAであることが同値であることを示せ.

(2) (*)が解をもつための必要十分条件は,rank A = rankAであることを示せ.

(3) (*)の解をもつとする.x0 を (*)の解(の一つ)とする.このとき,

{x ∈ Kn | Ax = b} = {x0 + v | v ∈ KerfA}

であることを示せ.

(4) (*)が解をもつとする.このとき,(*)の解がただ一つしかないことと,rankA = nであることが同値

であることを示せ.

問 A.35 (Vandermondeの行列式). 次の等式を示せ.∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣

1 1 1 · · · 1x1 x2 x3 · · · xn

......

.... . .

...xn−2

1 xn−22 xn−2

3 · · · xn−2n

xn−11 xn−1

2 xn−13 · · · xn−1

n

∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣=

∏1≤j<i≤n

(xi − xj).

問 A.36. a1, a2, . . . , an を相異なるK の元,b1, b2, . . . , bn をK の元とする.このとき,K の元を係数とする

(n − 1)次以下の多項式 P (X) = c1 + c2X + · · · + cnXn−1(c1, c2, . . . , cn ∈ K)で,

P (ai) = bi (i = 1, 2, . . . , n)

となるものが唯一つ存在することを示せ.(Vandermondeの行列式を用いよ.)

問 B.37. X を (n, n + 1)行列,Y を (n + 1, n)行列とする.各 i = 1, 2, · · · , n + 1に対し,X から i列目を

取り除いた n次正方行列を Xi とする.また,Y から i行目を取り除いた n次正方行列を Yi とする.このと

き,次の等式を示せ.

(1) det(XY ) =∑n+1

i=1 det(Xi) det(Yi).

(2) det(Y X) = 0.

11

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.4

一次変換

行列やベクトルの成分は,断りのない限り,ある固定された体 K の元とする.しかし,対角化やジョルダ

ン標準形を考えるときは,K = C(複素数全体)とすることが多い.K = Cと仮定するのは,C上の多項式は必ず複素数の範囲で根を持つので,n次複素正方行列は,複素数の範囲で重複度も込めて必ず n個の固有値

を持つなど,扱いやすいからである.No.4では,K は Cと思って問題を解いても構わない.

基本的な概念

定義 11 (一次変換,線形変換). ベクトル空間 V からそれ自身への線形写像 f : V → V を一次変換または線形

変換(linear transformation)という.

定義 12 (固有値,固有ベクトル,固有空間). K 上のベクトル空間 V の一次変換 f : V → V において,

f(x) = αx, x ∈ V, x 6= 0, α ∈ K

をみたす αを f の固有値(eigenvalue), xを固有値 αに属する固有ベクトル(eigenvector)という.このとき,

Wα = {x ∈ V | f(x) = αx}

は V の {0}でない部分空間になる.Wα を f の固有値 αに属する固有空間(eigenspace)という.

注意. x = 0は,αが何であっても f(x) = αxをみたすので,αに関して情報を与えない.固有値の定義では,固有ベク

トル xは x 6= 0としていることに注意する.固有値 αは 0であってもよい.

定義 13. A を n 次正方行列とすると,A は Kn の一次変換 fA : Kn → Kn, x 7→ Ax を定める.fA の固有

値,固有ベクトル,固有空間をそれぞれ,Aの固有値,固有ベクトル,固有空間という.

定義 14 (固有多項式). A を n 次正方行列とする.n 次多項式 FA(t) = det(tEn − A) を,A の固有多項式

(characteristic polynomial)という.

注意. α ∈ K とする.線形代数で習ったように,αが Aの固有値であるための必要十分条件は,FA(α) = 0である.

定義 15 (対角化). n次正方行列 Aが対角化可能(diagonaizable)であるとは,ある正則な n次正方行列 P が

存在して,P−1AP が対角行列になるときにいう.

定義 16 (ジョルダン細胞,ジョルダン行列). m ≥ 1とする.m次正方行列

J(α,m) :=

α 1 0

α 1. . . . . .

α 10 α

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をジョルダン細胞(Jordan cell)という.(ただし,J(α, 1)は,αが 1個からなる 1次正方行列 (α)を表す.)

そして,対角線に沿ってジョルダン細胞が並んだ形の行列J(α1,m1) 0

J(α1,m2). . .

0 J(αs,ms)

をジョルダン行列(Jordan matrix)という.

定理 17 (ジョルダン標準形の存在). Aを n次複素正方行列とする.このとき,ある正則な n次複素正方行列

P が存在して,P−1AP はジョルダン行列になる.P−1AP を Aのジョルダン標準形(Jordan canonical form)

という.

定理 18 (ケーリー–ハミルトン(Cayley–Hamilton)の定理). Aを n次正方行列,FA(t) = tn +c1tn−1+ · · ·+cn

を Aの固有多項式とする.このとき,FA(A) = An + c1An−1 + · · · + cnEn = O が成り立つ.

定義 19 (最小多項式). K の元を係数とする多項式 f(t)で,f(A) = O であるもの全体を IA で表す:

IA = {f(t) ∈ K[t] | f(A) = O}.

IA に属する 0でない多項式で,次数が最小で最高次の係数が 1であるもの ϕA(t)を,Aの最小多項式という.

問題

問 A.38. 次の複素正方行列の固有値を求めよ.また,それぞれの固有値に対する固有空間を求めよ.

(1)

4 −3 02 −1 01 −1 −1

(2)

0 1 −1−2 3 −1−1 1 1

問 A.39. A は n 次複素正方行列とする.α を A の固有値とし,x 6= 0 ∈ Cn を α に属する固有ベクトルと

する.

(1) f(t)を Cの元を係数とする任意の多項式とするとき,f(A)x = f(α)xを示せ.

(2) ϕA(t)を Aの最小多項式とするとき,ϕA(α) = 0を示せ.

注意. FA(t)を Aの固有多項式とする.α ∈ Cについて,αが Aの固有値であることと,FA(α) = 0は同値であった.

従って,問 A.39より,FA(α) = 0と ϕA(α) = 0は同値である.

問 A.40. Aは n次複素正方行列とする.定義 19のように,複素数係数の多項式 f(t)で,f(A) = Oであるも

の全体を IA で表す:IA = {f(t) ∈ C[t] | f(A) = O}.このとき,IA に属する任意の多項式 f(t)は,ϕA(t)

で割り切れることを示せ.

注意. Cayley–Hamiltonの定理は,Aの固有多項式 FA(t)について,FA(t) ∈ IA を示している.従って,問 A.40より,FA(t)は,ϕA(t)で割り切れる.問 A.39と問 A.40より,FA(t) =

Qsi=1(x − αi)

ei(α1, . . . , αs は相異なる複素数)の

とき,整数 1 ≤ mi ≤ ei が存在して,ϕA(t) =Qs

i=1(x − αi)mi と書ける.

問 A.41. 問 A.38の行列の最小多項式を求めよ.

13

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ヒント. 問 A.40の下の注意より,3次複素正方行列 Aの最小多項式については次が成り立つ.以下 α, β, γ は相異なる複

素数とする.Aの固有多項式が (t − α)3 のときは,Aの最小多項式は (t − α), (t − α)2, (t − α)3 のいずれかである.A

の固有多項式が (t−α)2(t− β)のときは,Aの最小多項式は (t−α)(t− β), (t−α)2(t− β),のいずれかである.Aの固

有多項式が (t − α)(t − β)(t − γ)のときは,Aの最小多項式も (t − α)(t − β)(t − γ)である.

問 A.42. 問 A.38の行列のジョルダン標準形を求めよ.

問 A.43. n次複素正方行列 Aの相異なる固有値を α1, . . . , αs とし,各固有値 αi に属する固有ベクトル xi を

とる.このとき,x1, . . . , xs は一次独立であることを示せ.

問 A.44. n次複素正方行列 Aについて,Aの相異なる固有値を α1, . . . , αs とし,各固有値 αi に属する固有

空間をWi とする.このとき,次は同値であることを示せ.

(i) Aは対角化可能である.

(ii)∑s

i=1 dimWi = n

注意. Wi の基底 xi1, . . . , xini をとる.問 A.43より,x11, . . . , x1n1 , . . . , xs1, . . . , xsns は一次独立である.条件 (ii)が成り立つとき,これらのベクトルは,Cn の基底であり,Cn = W1 + · · ·+ Ws が成り立つ.すると,問 B.18(ii)より,条件(ii)は Cn = W1

L

· · ·L

Ws とも同値である.

問 B.45. n次複素正方行列 Aについて,次は同値であることを示せ.

(i) Aは対角化可能である.

(ii) Aの最小多項式は重根を持たない.

ヒント. 解き方はいろいろあると思うが,例えば,ジョルダン標準形の存在定理(定理 17)を認めて解いてもよい.

問 A.46. A2 = E をみたす n次複素正方行列 Aは対角化可能であることを示せ.このとき,Aを対角化した

行列はどのような形をしているか.

ヒント. 一つの解き方は,Aの Jordan行列を考え,A2 = E のとき,Aの Jordan行列がどのような形になるかをみる.別の解き方としては,問題 B.45を用いて,A2 = E のとき,Aの最小多項式としてどのようなものあるか考える.他にも,

いろいろ解き方が考えられると思う.

問 A.47. (1) ジョルダン細胞 J(0, n) =

0 1 00 1

. . . . . .

0 1

0 0

を考える.k = 1, 2, . . .について,k 乗

J(0, n)k を求めよ.

(2) E を n次単位行列,N を n次正方行列とするとき,二項展開より,(aE + N)k =∑k

i=0

(ki

)ak−iN i

である.このことと (1)を用いて,ジョルダン細胞 J(a, n) =

a 1 0a 1

. . . . . .

a 1

0 a

の k乗を求めよ.

14

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問 A.48. n次複素正方行列 N について,以下は同値であることを示せ.

(i) N はべき零行列である.すなわち,ある正の整数 k が存在して,Nk = Oとなる.

(ii) N の固有値は 0のみである.

(iii) Nn = O である.

問 B.49 (ジョルダン分解).   Aは n次複素正方行列とする.

(1) 次の条件をみたす n次複素正方行列 S と N が存在することを示せ.

(i) A = S + N

(ii) SN = NS

(iii) S は対角化可能である.N はべき零行列である.

(2) (1) の条件 (i), (ii), (iii) をみたす n 次複素正方行列 S と N は A から唯一に定まることを示せ.分解

A = S + N をジョルダン分解という.

ヒント. (1)ジョルダン標準形の存在定理(定理 17)は認めて解いてよい.Aが一つのジョルダン細胞 J(α, n)のときは,

S = αE, N = J(0, n)ととればよいことをまず示す.

注意. (2) A が対角可能な行列のときは,S = A, N = O が,A のジョルダン分解である.A がべき零行列のときは,

S = O, N = Aが,Aのジョルダン分解である.

問 A.50. 複素正方行列 A =

2 1 1 1 1

0 2 0 0 1

0 0 2 0 1

0 0 0 2 1

0 0 0 0 2

を考える.

(1) Aの固有多項式と最小多項式を求めよ.

(2) 各 k ≥ 1に対して,W(k)2 = {x ∈ C5 | (A − 2E)kx = 0}の次元を求めよ.

(3) Aのジョルダン標準形を求めよ.

注意. W(1)2 は,固有値 2 に対する固有空間W2 に他ならない.各 k ≥ 1 に対してW

(k)2 は C5 の空間であり,W

(1)2 ⊆

W(2)2 ⊆ W

(3)2 ⊆ · · · なので,あるm ≥ 1が存在してW

(m)2 = W

(m+1)2 = · · · となる.この部分空間をfW2 (= W

(m)2 =

W(m+1)2 = · · · )とおき,固有値 2に対する広義の固有空間という.

問 A.51. a, b, c ∈ Cとする.

1 a b

0 1 c

0 0 2

のジョルダン標準形を求めよ.(a, b, cの値によって場合分けせよ.)

問 A.52. (1) n次複素正方行列 Aが対角化可能であれば,X2 = Aとなる n次複素正方行列 X が存在す

ることを示せ.

(2) A =

(0 1

0 0

)について,X2 = Aとなる 2次の複素正方行列 X は存在しないことを示せ.

問 B.53. V を有限次元ベクトル空間,f : V → V を線形写像とする.V の部分空間 W は,f(W ) ⊆ W

をみたすと仮定する.V のある基底に関する f : V → V の行列表示を A とし,W のある基底に関する

f |W : W → W の行列表示を B とする.このとき,A が対角化可能ならば,B も対角化可能であることを

15

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示せ.

問 B.54. Aを正則な複素正方行列とする.次は同値であることを示せ.

(i) 任意の正の整数 k に対して,Aと Ak は同じジョルダン標準形をもつ.

(ii) A − E はべき零行列である.

問 B.55. A,B を対角化可能な複素正方行列とするとき,次の二条件は同値であることを示せ.

(i) AB = BA.

(ii) A,B は同時対角化可能,すなわち,ある正則行列 P が存在して P−1AP,P−1BP はともに対角行列

となる.

16

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.5

商ベクトル空間

行列やベクトルの成分は,断りのない限り,ある固定された体 K の元とする.体に慣れていない人は,K

は R(実数全体)または C(複素数全体)と思って解答しても構わない.

基本的な概念

定義 20 (関係). 集合 S における関係(relation)(∼で表すことにする)とは,S の任意の二つの元 x, y に対

して,x ∼ y である(xと y が関係がある)か,x ∼ y でない(xと y は関係がない)かいずれか一方が確定

しているものである.いいかえれば,S における関係とは,集合の直積 S × S = {(x, y) | x, y ∈ S}の部分集合 Rである.x, y ∈ S が x ∼ y であるとは,(x, y) ∈ R ⊂ S × S のときに定める.

定義 21 (同値関係). 集合 S の関係 ∼が,任意の x, y, z ∈ S に対して,

x ∼ x(反射律 (reflexive law))

x ∼ y =⇒ y ∼ x(対称律 (symmetric law))

x ∼ y, y ∼ z =⇒ x ∼ z(推移律 (transitive law))

をみたすとき,関係 ∼は同値関係 (equivalence relation)であるという.

定義 22 (同値類,代表元,完全代表系,商集合). ∼は集合 S の同値関係とする.x ∈ S に対し,xと同値な元

全体のなす集合をC(x) := {y ∈ S | x ∼ y}

とおく.C(x)を xの同値類という.対称律,推移律,反射律から次が分かる.x ∈ C(x)であり,二つの同値

類 C(x)と C(y)はまったく同じであるか,または共通部分を持たない.

これより,S は同値類 C(x) の互いに共通部分をもたない和集合で書ける.同値類 C(x) から一つ元

xλ ∈ C(x)をえらぶ.xλ を同値類 C(x)の代表元という.このとき,C(x) = C(xλ)であり,

S =∪λ∈Λ

C(xλ) (λ 6= µならば,C(xλ) ∩ C(xµ) = ∅)

と表せる.(xλ)λ∈Λ を S の ∼に関する完全代表系という.さらに,同値類全体のなす集合 {C(x)}を S/ ∼と書き,S の ∼に関する商集合という.

問題

問 A.56. V をK 上のベクトル空間,W を V の部分空間とする.V の関係 ∼を,

x ∼ y ⇐⇒ x − y ∈ W

で定める.∼は V の同値関係を定めることを示せ.

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問 A.57. 上の同値関係に関する商集合 V/ ∼を,V/W で表す.また,x ∈ V の ∼に関する同値類 C(x) =

{y ∈ V | x − y ∈ W}を,[x]で表す.このとき,商集合の要素 [x], [y] ∈ V/W に対して,次のようにして,

和とスカラー倍が定まることを示せ.つまり,同値類の代表元の取り方によらずに,和とスカラー倍が定まる

(well-definedという)ことを確かめよ.

[x] + [y] := [x + y], a[x] := [a x] (a ∈ K)

問 A.58. V/W は上の和とスカラー倍に関して,K 上のベクトル空間になる.ここでは,ベクトル空間の条件

の一つa([x] + [y]) = a[x] + a[y] ([x], [y] ∈ V/W, a ∈ K)

を確かめよ.V/W を商ベクトル空間という.

問 A.59. V は K 上の n 次元ベクトル空間,W を V の次元 mの部分空間とする.V の基底 v1, . . . , vn を,

v1, . . . , vm がW の基底になるようにとる.

(1) [vm+1], . . . , [vn]は,商ベクトル空間 V/W の基底になることを示せ

(2) dim(V/W ) = dim V − dimW を示せ.

問 A.60. V は K 上のベクトル空間,W を V の部分空間とする.f : V → V は線形写像で,f(W ) ⊆ W を

みたすとする.このとき,商ベクトル空間 V/W からそれ自身への写像 f : V/W → V/W が,[x] ∈ V/W に

f([x]) = [f(x)] ∈ V/W を対応させる写像として定まることを示せ(つまり,f([x])が,[x]の同値類の代表

元の取り方によらずに定まることを示せ).さらに,f は線形写像であることを示せ.

問 B.61. (1) V を K 上のベクトル空間とし,W を V の部分空間とする.V から商ベクトル空間 V/W

への写像 π : V → V/W を π(x) = [x]により定めるとき,π は線形写像であることを示せ.

(2) f : V → V ′をK上のベクトル空間 V から,ベクトル空間 V ′への線形写像とする.π : V → V/Ker f

を (1)で(W = Ker f とおいて)定めた V から V/Ker f への線形写像とし,ι : Im f → V ′ を Im f か

ら V ′ への包含写像とする.このとき,V/Ker f から Im f への同型写像 f が存在して,f = ι ◦ f ◦ π と

なることを示せ.

問 A.62. 閉区間 [0, 1] 区間上の実数値連続関数全体のなす実ベクトル空間を V とおき,その部分空間

{f ∈ V | f(1) = 0}をW とおく.このとき商ベクトル空間 V/W が Rと同型であることを示せ.

問 A.63. V = K[X] を K を係数とする多項式全体のなすベクトル空間とする.f(X) = X` + a1X`−1 +

· · · + a` ∈ V を `次多項式とする.W = {f(X)m(X) | m(X) ∈ K[X]}を f(X)で割り切れる多項式全体か

らなる V の部分空間とする.

(1) {[1], [X], . . . , [X`−1]}は V/W の基底をなすことを示せ.

(2) X をかけるという線形写像ϕ : V → V , h(X) 7→ Xh(X)は,ϕ(W ) ⊆ W をみたすから,商ベクトル空

間の線形写像 ϕ : V/W → V/W を定める(問A.60参照).このとき,V/W の基底 {[1], [X], . . . , [X`−1]}

18

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に関する ϕの行列表示は,

C =

0 0 · · · 0 −a`

1 0 · · · 0 −a`−1

0 1 · · · 0 −a`−2

......

. . ....

...0 0 · · · 1 −a1

で与えられることを示せ.

注意. C は f(X)の同伴行列(companion matrix)とよばれる.

問 B.64. 問 A.63の C の最小多項式は f(X)であることを示せ.

問 B.65. n × n行列 Aについて,次は同値であることを示せ.

(i) Aの最小多項式の次数は nである.

(ii) 正則行列 P と,c1, . . . , cn ∈ K が存在して,

P−1AP =

0 0 · · · 0 cn

1 0 · · · 0 cn−1

0 1 · · · 0 cn−2

......

. . ....

...0 0 · · · 1 c1

の形にできる.

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.6

双対空間

行列やベクトルの成分は,断りのない限り,ある固定された体 K の元とする.体に慣れていない人は,K

は R(実数全体)または C(複素数全体)と思っても構わない.

基本的な概念

定義 23 (双対空間). V は K 上のベクトル空間とする.V から K への線形写像全体を V の双対空間(dual

space)といい,V ∗ で表す.

定義 24 (双対基底). V は K 上の n次元ベクトル空間とする.V の基底 v1, . . . , vn をとる.このとき,V ∗ の

元 f1, . . . , fn で,

fi(vj) =

{1 (i = j のとき)0 (i 6= j のとき)

をみたすものが唯一つ存在し,f1, . . . , fn は V ∗ の基底となる.f1, . . . , fn を,基底 v1, . . . , vn の双対基底

(dual basis)という.

定義 25 (双対写像). V , W は K 上のベクトル空間,ϕ : V → W は線形写像とする.V ∗, W ∗ をそれぞれ V ,

W の双対空間とする.g ∈ W ∗ に g ◦ ϕ ∈ V ∗ を対応させる写像を ϕ∗ : W ∗ → V ∗ で表す.ϕ∗ は線形写像に

なる.ϕ∗ を双対写像(dual mapping)または転置写像(transposed mapping)という.

定義 26 (零化空間). V はK 上のベクトル空間,W は V の部分空間とする.双対空間 V ∗ の部分集合W⊥ を

次のように定める.W⊥ := {f ∈ V ∗ |任意の w ∈ W に対して,f(w) = 0}

このとき,W⊥ は V ∗ の部分空間になる.W⊥ をW の零化空間(annihilator)という.

問題

問 A.66. f, g ∈ V ∗,a ∈ K とする.任意の v ∈ V に対して,

(f + g)(v) := f(v) + g(v), (af)(v) := af(v)

で,V ∗ の元の和 f + g,スカラー倍 af を定める.このとき,確かに,f + g, af ∈ V ∗ であることを確かめよ

(すなわち,これらが線形写像であることを確かめよ).

問 A.67. V ∗ は上の和とスカラー倍に関して,K 上のベクトル空間になる.ここでは,ベクトル空間の条件の

一つa(f + g) = af + ag (f, g ∈ V ∗, a ∈ K)

を確かめよ.

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問 A.68. V は K 上の 2 次元ベクトル空間とする. v1, v2 を V の基底とし,f1, f2 をその双対基底とする.

v′1 := 3v1 +4v2, v′2 := 2v1 +3v2 は V の基底である.このとき,v′

1, v′2 ∈ V の双対基底 f ′

1, f′2 ∈ V ∗ を,f1, f2

の線形結合で表せ.

問 A.69. v ∈ V とする.ιv : V ∗ → K を,

ιv(f) := f(v) (f ∈ V ∗)

で定める.

(1) ιv は (V ∗)∗ の元であることを示せ(すならち,ιv が線形写像であることを確かめよ).

(2) 対応 v 7→ ιv により,写像 ι : V → (V ∗)∗ が得られる.ιは単射な線形写像であることを示せ.

(3) V が有限次元ベクトル空間のとき,ιは同型写像であることを示せ.(ιによって,V と (V ∗)∗ を同一

視することが多い.)

問 B.70. V が無限次元ベクトル空間のときは,上の ι : V → (V ∗)∗ は同型写像ではないことを示せ.

問 A.71. 定義 25において,ϕ∗ は線形写像になっていることを確かめよ.

問 A.72. V , W はそれぞれ n次元,m次元のK 上のベクトル空間とし,V の基底 {v1, . . . , vn}とW の基底

{w1, . . . , wm}をとる.V ∗, W ∗ でそれぞれ V,W の双対空間を表し,{v∗1 , . . . , v∗n}, {w∗

1 , . . . , w∗m}はそれぞ

れ V ∗, W ∗ の双対基底とする.ϕ : V → W は線形写像とし,ϕ∗ : W ∗ → V ∗ を双対写像とする(定義 25参

照).このとき,ϕ の {v1, . . . , vn} と {w1, . . . , wm} に関する行列表示を P ∈ M(m,n;K) とすれば,ϕ∗ の

{w∗1 , . . . , w∗

m}と {v∗1 , . . . , v∗

n}に関する行列表示は転置行列 tP ∈ M(n, m;K)で与えられることを示せ.

問 B.73. 記号は定義 25の通りとする.

(1) ϕが単射ならば,ϕ∗ は全射であることを示せ.

(2) ϕが全射ならば,ϕ∗ は単射であることを示せ.

問 A.74. 定義 26において,W⊥ は V ∗ の部分空間になっていることを確かめよ.さらに,V が有限次元ベク

トル空間のとき,dimW⊥ = dimV − dimW を示せ.

問 B.75. V は K 上のベクトル空間,W は V の部分空間とする.V ∗ を V の双対空間,W⊥ をW の零化空

間とする.

(1) f ∈ V ∗ とする.f : V → K の定義域をW に制限して得られる写像 f |W : W → K は,W ∗ の元を

定めることを示せ.

(2) 対応 f 7→ f |W により,写像 π : V ∗ → W ∗ が得られる.π は全射な線形写像であることを示せ.

(3) Ker π = W⊥ を示せ.さらに π によって,商空間 V ∗/W⊥ とW ∗ の同型が得られることを示せ.

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2011年度 2学期 数学基礎考究 No.7

計量ベクトル空間

No.7では,R上のベクトル空間,または C上のベクトル空間を考える.

基本的な概念

定義 27 (実ベクトル空間の内積). V を R 上のベクトル空間とする.V の任意の二つの元 v, w に対し,実数

(v, w) ∈ Rが定まって,次の3つの条件をみたすとき,(v, w)を v と wの内積(inner product)という.

(i) 任意の v, v′, w ∈ V , c, c′ ∈ Rに対して,(cv + c′v′, w) = c(v, w) + c′(v′, w).

(ii) 任意の v, w ∈ V に対して,(w, v) = (v, w).

(iii) 任意の v ∈ V に対して,(v, v) ≥ 0である.さらに,(v, v) = 0 ⇐⇒ v = 0が成り立つ.

注意. 性質 (i)は,内積が第一変数について線形であることを述べている.性質 (ii)は対称性,性質 (iii)は正定値性とよばれる.性質 (i)(ii)より,内積は第二変数についても線形であること,すなわち

任意の v, w, w′ ∈ V , c, c′ ∈ Rに対して,(v, cw + c′w′) = c(v, w) + c′(v, w′)

が分かる.

注意. Rn のベクトル v =

0

B

B

@

x1

...xn

1

C

C

A

, w =

0

B

B

@

y1

...yn

1

C

C

A

に対して,

(v, w) = x1y1 + · · · + xnyn ∈ R

と定めると,( , )は Rn の内積となる.この内積を Rn の標準的内積という.

定義 28 (複素ベクトル空間の内積). V を C上のベクトル空間とする.V の任意の二つの元 v, wに対し,複素

数 (v, w) ∈ Cが定まって,次の3つの条件をみたすとき,(v, w)を v と wの内積(inner product)という.

(i) 任意の v, v′, w ∈ V , c, c′ ∈ Cに対して,(cv + c′v′, w) = c(v, w) + c′(v′, w).

(ii) 任意の v, w ∈ V に対して,(w, v) = (v, w).特に,(v, v)は実数となる.

(iii) 任意の v ∈ V に対して,(v, v) ≥ 0である.さらに,(v, v) = 0 ⇐⇒ v = 0が成り立つ.

注意. 性質 (i)は,内積が第一変数について線形であることを述べている.性質 (ii)はエルミート(Hermite)性,性質 (iii)は正定値性とよばれる.性質 (i)(ii)より,内積は第二変数について

任意の v, w, w′ ∈ V , c, c′ ∈ Rに対して,(v, cw + c′w′) = c(v, w) + c′(v, w′)

が成り立つことが分かる.この性質を,内積は第二変数について共役線形(sesqui-linear)であるという.

注意. Cn のベクトル v =

0

B

B

@

x1

...xn

1

C

C

A

, w =

0

B

B

@

y1

...yn

1

C

C

A

に対して,

(v, w) = x1y1 + · · · + xnyn ∈ R

と定めると,( , )は Cn の内積となる.この内積を Cn の標準的内積という.

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定義 29 (計量ベクトル空間). V は R上のベクトル空間,または C上のベクトル空間とする.V に一つの内積

( , )が指定されているとき,V を計量ベクトル空間(metric vector space)という.

定義 30 (ベクトルの長さ). 複素(または実)計量ベクトル空間 V のベクトル v に対して,

‖v‖ =√

(v, v)

を v の長さという.

定義 31 (直交系,正規直交系). 複素(または実)計量ベクトル空間の 0でないベクトル v1, . . . , vk が

i 6= j ならば, (vi, vj) = 0

をみたすとき,v1, . . . , vk は直交系(orthogonal system)であるという.さらに,

各 iについて,(vi, vi) = 1

をみたすとき,v1, . . . , vk は正規直交系(orthonormal system)であるという.

定義 32 (正規直交基底). 複素(または実)計量ベクトル空間 V の正規直交系 v1, . . . , vk が,V の基底になっ

ているとき,v1, . . . , vk を V の正規直交基底(orthonormal basis, ONB)という.

定義 33 (直交補空間). V を複素(または実)計量ベクトル空間とする.W を V の部分空間とするとき,

W⊥ = {v ∈ V |任意の w ∈ W に対して,(v, w) = 0}

とおく.W⊥ は V の部分空間になる.W⊥ をW の直交補空間(orthogonal complement)という.

定義 34 (直交行列). n 次実正方行列 T は tTT = En をみたすとき,直交行列(orthogonal matrix)という.

直交行列全体のなす集合を O(n)で表す:

O(n) = {T ∈ Mn(R) | tTT = En}.

定義 35 (行列の随伴行列). n次複素正方行列 Aに対し,A∗ = t(A)(各成分を共役複素数にして,転置行列を

つくる)とおく.t(A) = tAだから,単に A∗ = tAと書く.A∗ を Aの随伴行列(adjoint matrix)という.

定義 36 (ユニタリー行列). n次複素正方行列 U は U∗U = Enをみたすとき,ユニタリー行列(unitary matrix)

という.直交行列全体のなす集合を U(n)で表す:

U(n) = {U ∈ Mn(C) | U∗U = En}.

定義 37 (正規行列,エルミート行列). (1) n 次複素正方行列 A は A∗A = AA∗ をみたすとき,正規行列

(normal matrix)という.

(2) n 次複素正方行列 H は H∗ = H をみたすとき,エルミート行列(Hermitian matrix)という.エル

ミート行列は正規行列である.

(3) n次複素正方行列 H は H∗ = −H をみたすとき,歪エルミート行列(skew-Hermitian matrix)とい

う.歪エルミート行列は正規行列である.

定理 38 (対称行列の直交行列による対角化). n次実正方行列 A ∈ Mn(R)は対称行列とする.このとき,ある

直交行列 T ∈ O(n)が存在して,T−1AT は対角行列になる.

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定理 39 (正規行列のユニタリー行列による対角化). n次複素正方行列 A ∈ Mn(C)は正規行列とする.このと

き,あるユニタリー行列 U ∈ U(n)が存在して,U−1AU は対角行列になる.

問題

特に断りのない限り,Rn と Cn は標準内積 ( , )の入った計量ベクトル空間とみなす.また,計量ベクトル

空間は有限次元と仮定する.

問 A.76. (1) C2 の基底

(1

i

),

(i

1 + i

)をシュミット(Schmidt)の直交化法により直交化せよ.

(2) R3 の基底

1

1

0

,

−1

0

1

,

0

2

1

をシュミットの直交化法により直交化せよ.

問 A.77. aを実数とする.R2 の二つのベクトル x =

(x1

x2

), y =

(y1

y2

)に対して,

(x, y)a = x1y1 + x1y2 + x2y1 + a x2y2

とおく.どのような aに対して,( , )a は R2 の内積を定めるか.

問 A.78. 複素(または実)計量ベクトル空間 V の元 v1, v2, . . . , vr に対して,Gを (i, j)成分が (vi, vj)で与

えられる r × r の複素(または実)行列とする.このとき,次は同値であることを示せ.

(i) v1, v2, . . . , vr は一次独立である.

(ii) Gは正則行列である.

ヒント. Gはグラム(Gram)行列とよばれる.内積の正値性より,c1v1 + · · · + crvr = 0であるための必要十分条件は,

(c1v1 + · · · + crvr, c1v1 + · · · + crvr) = 0である.後者を Gを用いて言い換える.

問 B.79. V を n次以下の実数係数多項式からなる実ベクトル空間とする.V の元 f, g に対して

(f, g) =∫ 1

−1

f(x)g(x)dx

とおく.

(1) ( , )は V の内積を定めることを示せ.

(2) P0(x) =√

12 , Pk(x) =

√k +

12

12kk!

dk

dxk(x2- 1)k (k = 1, 2, . . . , n) とおく.このとき,

{P0(x), P1(x), . . . , Pn(x)}は,V の正規直交基底になることを示せ.

注意. Pk(x)を Legendreの多項式という.

問 A.80. V を複素(または実)計量ベクトル空間とする.u1, · · · , ur を V の正規直交系とする.このとき,

任意の v ∈ V に対して次の不等式(ベッセル(Bessel)の不等式という)が成り立つことを証明せよ.

‖v‖2 ≥r∑

k=1

|(v, uk)|2.

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さらに,ここで全ての v ∈ V について等号が成立するための必要十分条件は,r = dimV であること,すな

わち u1, · · · , ur が V の正規直交基底であることを示せ.これをパーセバル(Perseval)の等式という.

問 A.81. V を複素(または実)計量ベクトル空間とする.W を V の部分空間とする.このとき,定義 32の

直交補空間W⊥ は,V の部分空間になっていることを確かめよ.さらに,V = W ⊕ W⊥ を示せ.

問 A.82. V , W を 複素(または実)計量ベクトル空間とし, f : V → W を線形写像とする.任意の

v ∈ V,w ∈ W に対し,(f(v), w) = (v, f∗(w))を満たす写像 f∗ : W → V がただ一つ存在することを示し,

f∗ は線形写像であることを確かめよ.(f の随伴写像という.)

問 A.83. (1) Aをm × nの複素行列とし,f : Cn → Cm を x ∈ Cn に Ax ∈ Cm を対応させる線形写像

とする.このとき,f の随伴写像 f∗ : Cm → Cn は,y ∈ Cn に A∗y ∈ Cm を対応させる線形写像である

ことを示せ.ただし,ここで,A∗ は Aの随伴行列である(定義 35参照).

(2) R2 には,問 A.77で a = 2としたときの内積 ( , )2 を入れる(内積になっていることの証明は不要).

B を 2 × 2の実行列とし,g : R2 → R2 を v ∈ R2 に Bv ∈ R2 を対応させる線形写像とする.このとき,

g の内積 ( , )2 に関する随伴写像 g∗ : R2 → R2 の(R2 の標準基底に関する)行列表示を求めよ.

問 A.84. Aを n次複素正方行列とする.

(1) 任意の x, y ∈ Cn に対して,(x,Ay) = (A∗x, y)が成り立つことを示せ.

(2) x ∈ Cn は A∗Ax = 0をみたすとする.このとき,(A∗Ax, x) = 0であることを用いて,Ax = 0であ

ることを示せ.

(3) rankA∗A = rankAを示せ.

問 A.85. T を n次実正方行列とする.T の第 j 列の列ベクトルを tj ∈ Rn で表す:T = (t1t2 · · · tn).また,

( , )を Rn の標準内積とする.このとき,以下の条件は同値であることを示せ.

(i) T は直交行列である.すなわち,tTT = En が成り立つ.

(ii) T tT = En が成り立つ.

(iii) t1, . . . , tn は Rn の正規直交基底である.

(iv) T は内積を保つ.すなわち,任意のベクトル v, w ∈ Rn に対して,(Tv, Tw) = (v, w)が成り立つ.

(v) T は長さを保つ.すなわち,任意のベクトル v ∈ Rn に対して,‖Tv‖ = ‖v‖が成り立つ.

ヒント. (i)から,T−1 = tT が分かる.これから,(ii)が成り立つ.

注意. 複素正方行列については,直交行列 T = (t1t2 · · · tn)をユニタリー行列 U = (u1u2 · · ·un)に,転置行列 tT を随

伴行列 U∗ に,Rn の標準内積を Cn の標準内積にかえると,同様のことが成り立つ.

問 A.86. (1) n次実正方行列 T は直交行列とする.このとき,det(T ) = ±1を示せ.

(2) 2次の直交行列の形を調べる.T =

(a b

c d

)∈ M2(R)とおく.tTT = E2 は次の条件と同値である

ことを示せ.a2 + c2 = 1 かつ ab + cd = 0 かつ b2 + d2 = 1

このことを用いて,det(T ) = 1のときは,ある実数 θ が存在して T =

(cos θ − sin θ

sin θ cos θ

)と表せること,

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det(T ) = −1のときは T =

(cos θ sin θ

sin θ − cos θ

)と表せることを示せ.

問 A.87. 3次実正方行列 T は直交行列で,det(T ) = 1をみたすとする.この問題では,T の形を調べる.

(1) T の固有多項式は 1を根にもつことを示せ.

(2) T の固有値 1に対する固有ベクトルの一つを t 6= 0 ∈ R3 とする.W = {v ∈ R3 | (v, t) = 0}とおく.このとき,v ∈ W に対して,Tv ∈ W を示せ.さらに,W の正規直交基底に関する f : W → W, v 7→ Tv

の行列表示は,2次の直交行列であることを示せ.

(3) T は R3 内の原点を通る直線 {ct | c ∈ R}に関する回転を表す一次変換であることを示せ.

注意. T を 3次の直交行列とする.問 A.86(1)より,det(T ) = ±1である.det(T ) = 1ならば,T は上の形をしている.

det(T ) = −1ならば,−T は det(−T ) = 1をみたす直交行列なので,−T が上の形をしている.

問 A.88. (1) 実対称行列 A =

0 1 1

1 0 1

1 1 0

を直交行列 T によって対角化せよ.(T−1AT が対角行列にな

る直交行列 T をひとつ求め,そのときの T−1AT を答えよ.)

(2) 複素行列 B =

0 i 1

−i 0 i

1 −i 0

が正規行列であることを確かめよ.さらに,B をユニタリー行列 U

によって対角化せよ.(U−1BU が対角行列になる直交行列 U をひとつ求め,そのときの U−1BU を答

えよ.)

問 A.89. n次実正方行列 Aは対称行列とする.(Aを複素行列とみて複素数の範囲で考えても)Aの固有値は

すべて実数であることを示せ.

注意. 実対称行列はエルミート行列である.問 A.94(1)で,一般に,エルミート行列について固有値はすべて実数であることを示す.

問 A.90. n次実正方行列 Aは対称行列とする.問 A.89より,Aの固有値はすべて実数であることに注意す

る.Aの固有値の中で最小のものを λmin,最大のものを λmax とおく.また,( , )を Rn の標準内積とする.

(1) λmin = minx∈Rn,x6=0

(x,Ax)(x, x)

が成り立つことを示せ.さらに,等号を成り立たせる xの条件は,xが固

有値 λmin に対する固有ベクトルであることを示せ.

(2) λmax = maxx∈Rn,x6=0

(x,Ax)(x, x)

が成り立つことを示せ.さらに,等号を成り立たせる xの条件は,xが固

有値 λmax に対する固有ベクトルであることを示せ.

問 B.91. n次実正方行列 A,A′ は対称行列とする.問 A.89より,A,A′ の固有値はすべて実数であることに

注意する.Aの固有値を(重複度も込めて)小さい方から順に α1 ≤ α2 ≤ · · · ≤ αn と並べる.また,A′ の固

有値を(重複度も込めて)小さい方から順に α′1 ≤ α′

2 ≤ · · · ≤ α′n と並べる.( , )を Rn の標準内積として,

任意の x ∈ Rn に対して,(x, Ax) ≥ (x, A′x)が成り立つと仮定する.このとき,αi ≥ α′i(i = 1, 2, . . . , n)を

示せ.

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問 B.92. R3 の二次曲面 Qを

Q =

x

yz

∈ R3

∣∣∣∣∣∣ 2xy + 2yz + 2zx = 1

で定める.この問題では Qがどんな形をしているかを調べる.

(1) A =

0 1 1

1 0 1

1 1 0

とおく.任意の v =

x

y

z

∈ R3に対して,2xy +2yz +2zx = (v,Av)を確かめよ.

(2) 直交行列 T を T−1AT が対角行列になるものとしてとる(問 A.88参照).XYZ

= T−1

xyz

同じことだがx

yz

= T

XYZ

とおく.方程式 2xy + 2yz + 2zx = 1は,X,Y, Z で書き直すとどういう方程式になるか.

(3) (2)で求めた方程式を p(X,Y, Z) = 1とし,

Q′ =

X

YZ

∈ R3

∣∣∣∣∣∣ p(X,Y, Z) = 1

とおく.Q′ を XY Z-座標空間の中で図示せよ.

(4) Qを xyz-座標平面の中で図示せよ.(大雑把な形でよい.)

ヒント. (2) w =

0

B

@

X

Y

Z

1

C

A

とおくと,(v, Av) = (Tw, ATw) = (w, tTATw) = (w, T−1ATw).(4) T がどのような変換を

表すかは,問 A.87とその後の注意を参照.

問 A.93. n 次複素正方行列 U はユニタリー行列とする.このとき,U は正規行列であることを示せ.また,

U の固有値はすべて絶対値が 1であることを示せ.

問 A.94. (1) n次複素正方行列H はエルミート行列とする.このとき,H は正規行列であることを示せ.

また,H の固有値はすべて実数であることを示せ.

(2) n次複素正方行列 S はエルミート行列とする.このとき,S は正規行列であることを示せ.また,H

の固有値はすべて純虚数であることを示せ.

問 B.95. n次複素正方行列 A,B は正規行列とする.このとき,次の二条件は同値であることを示せ.

(i) AB = BA.

(ii) A,B はユニタリー行列によって同時対角化可能,すなわち,あるユニタリー行列 U が存在して

U−1AU,U−1BU はともに対角行列となる.

問 B.96 (岩澤分解). X を正則な n次実正方行列とする.

(1) 直交行列K と,対角成分がすべて正の実数からなる上半三角行列 Y が存在して,X = KY と表され

ることを示せ.

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(2) 直交行列 K と,対角成分がすべて正の実数からなる対角行列 Aと,対角成分がすべて 1の上半三角

行列 N が存在して,X = KAN と表されることを示せ.

(3) 上の分解 X = KAN は一意的であることを示せ.

ヒント. X = (x1 . . . xn)とする.x1, . . . , xn ∈ Rn からシュミットの直交化法を用いて作った正規直交基底を t1 . . . tn と

する.このとき,K = (t1 . . . tn)となる.

問 B.97 (極分解). Aを正則な n複素正方行列とする.このとき,ユニタリー行列 U と固有値がすべて正のエ

ルミート行列 H が存在して,A = UH と表せることを示せ.さらに,このような性質をもつ U,H は Aから

ただひと通りに定まることを示せ.

注意. n = 1 とする.A = (a) とする.ここで,a は 0 でない複素数である.1 次のユニタリー行列は実数 θ を用いて

(eiθ)と書け,固有値がすべて正の 1次のエルミート行列は (r)(rは正の実数)と書ける.このとき,上の問は,0でない

複素数 aが a = eiθr(θ ∈ R, r > 0)と一意的に書けること(極分解)をいっている.

ヒント. 分解の存在について:A∗A はエルミート行列であることを確かめる.さらに,任意の x ∈ Cn に対して

(A∗Ax, x) = (Ax, Ax) ≥ 0 だから,A∗A の固有値はすべて正である.ユニタリー行列 V を V −1A∗AV が対角行列

diag(α1, . . . , αn)になるようにとる.αi はすべて正の実数なので,H = V −1diag(√

α1, . . . ,√

αn)V とおけば,H は固

有値がすべて正のエルミート行列で P 2 = A∗Aとなる.U = AH−1 とおく.U∗U = H−1∗A∗AH−1 = E となり,U

はユニタリー行列である.

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2011年度 2学期 数学基礎考究

小テスト次の問に解答せよ.解答は議論の筋道が追いやすいように分かりやすく書くこと.

問 1. Aを A2 = Aをみたす n次複素正方行列とする.

V = {x ∈ Cn | Ax = x}, W = {x ∈ Cn | Ax = 0}

とおく.このとき,V , W は Cn の部分空間で,Cn = V⊕

W となることを示せ.

問 2. 2次以下の複素係数多項式全体

V = {f(x) = c0 + c1x + c2x2 | c0, c1, c2 ∈ C}

を C上のベクトル空間とみなす.

(1) D : V → V を,f(x) ∈ V にd

dxf(x) ∈ V を対応させる線形写像とする.V の基底 {1, x, x2}に関す

る Dの行列表示を求めよ.

(2) a ∈ Cとする.Ta : V → V を,f(x) ∈ V に f(x + a) ∈ V を対応させる線形写像とする.V の基底

{1, x, x2}に関する Ta の行列表示を求めよ.

(3) (1)で求めた行列を N , (2)で求めた行列を Aとおく.このとき,

A = E + aN +a2

2N2

が成り立つことを示せ.ただし,E は 3次単位行列を表す.

問 3. (1) 4次複素正方行列 N はべき零行列とする(すなわち,ある正の整数 mが存在して Nm = O と

する).N の Jordan標準形として考えられるものをすべて挙げよ.(答えのみでよい.)

(2) (1)で答えた N の Jordan標準形 J ごとに,Jk(k = 1, 2, . . .)の Jordan標準形が何であるかを求め

よ.(簡単な説明でよい.)

(3) k は正の整数とする.Xk =

0 1 0 0

0 0 0 0

0 0 0 0

0 0 0 0

をみたす 4次複素正方行列 X が存在するという.この

とき,k として取りうる値をすべて求めよ.(証明も与えること.)

問 4. V は 体 K 上の有限次元ベクトル空間,W は V の部分空間とする.このとき,dim(V/W ) =

dimV -dimW を示せ.ただし,V/W は商ベクトル空間を表す.

問 1~問 4が解けた人は次の問題を解答せよ.

問 5. V は体 K 上の n次元ベクトル空間とする.f1, f2, . . . , fn を双対空間 V ∗ の元とする.このとき,次の

二つの条件は同値であることを示せ.

(i) f1, f2, . . . , fn は一次独立である.

(ii) Ker(f1) ∩ Ker(f2) ∩ · · · ∩ Ker(fn) = {0}である.

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