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1 Ni基合金HR6Wのクリープ条件下での 損傷シミュレーションと結晶方位解析 研究成果 緒方 隆志 平成29年度 研究成果報告会 供試材料 Ni基合金HR6W A-USC候補材としてクリープ強度、クリープ延性、大径厚肉管の製造 性や耐熱疲労特性を重視し開発された C Si Mn Cr Fe W Ti Nb B N Ni 0.10以下 1.0以下 1.50以下 21.5-24.5 20.0-27.0 6.0-8.0 0.05-0.20 0.10-0.35 0.0005- 0.006 0.02以下 Remainder (45Ni-23Cr-7W) 化学組成 A-USC発電プラント ボイラ 平均結晶粒径:約260μm 金属組織 100μm 試験条件および試験装置 ○実施試験:クリープ試験 ・試験条件 温度: 750負荷応力: 105MPa, 95MPa 各応力で中断材および破断材を作製 ・試験片寸法 長さ:130mm 標点距離:50mm, φ10mm 試験片形状 レバー式単軸クリープ試験機 クリープ試験結果 0 5 10 15 20 25 0 500 1000 1500 95MPa 105MPa (22%) (48%) (20%) (14%) (11%) (44%) (83%) 損傷率(%) (中断時のクリープひずみ) (破断時のクリープひずみ) ×100 クリープひずみ (%) 時間 (h) 損傷材の縦断面観察(応力105MPa) 22% 44% 83% 50µm 100µm 100µm 負荷応力方向 試験片平行部 切断面 負荷応力方向 48%中断材 20%中断材 破断材 100μm 100μm 11%中断材 100μm 100μm 損傷材の縦断面観察(応力95MPa)

Ni基合金HR6Wのクリープ条件下での 損傷シミュレーション …jb jb 2 L 2b 結晶粒界 結晶粒 ボイド ボイド間隔 Λ:有効拡 散領域 a D f ≒ W b

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1

Ni基合金HR6Wのクリープ条件下での損傷シミュレーションと結晶方位解析

研究成果 1

緒方 隆志

平成29年度 研究成果報告会供試材料

Ni基合金HR6W

A-USC候補材としてクリープ強度、クリープ延性、大径厚肉管の製造性や耐熱疲労特性を重視し開発された

C Si Mn Cr Fe W Ti Nb B N Ni

0.10以下 1.0以下 1.50以下 21.5-24.5 20.0-27.0 6.0-8.0 0.05-0.20 0.10-0.350.0005-0.006

0.02以下 Remainder

(45Ni-23Cr-7W)

化学組成

A-USC発電プラント ボイラ

平均結晶粒径:約260µm

金属組織 100µm

試験条件および試験装置

○実施試験:クリープ試験

・試験条件温度: 750℃負荷応力: 105MPa, 95MPa

→各応力で中断材および破断材を作製・試験片寸法長さ:130mm 標点距離:50mm, φ:10mm

試験片形状

レバー式単軸クリープ試験機

クリープ試験結果

0

5

10

15

20

25

0 500 1000 1500

95MPa

105MPa

(22%)(48%)

(20%)

(14%)

(11%)

(44%)

(83%)損傷率(%)(中断時のクリープひずみ)

(破断時のクリープひずみ)×100

クリープひずみ

(%)

時間 (h)

損傷材の縦断面観察(応力105MPa)

22%

44% 83%

50µm

100µm 100µm

負荷応力方向

試験片平行部

切断面

負荷応力方向

48%中断材

20%中断材

破断材100μm100μm

11%中断材 100μm 100μm

損傷材の縦断面観察(応力95MPa)

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ボイドおよびき裂最大長さと損傷率の関係

0

100

200

300

400

0 20 40 60 80 100

95MPa

105MPa

ボイドおよびき裂最大長さ

(µm

)

損傷率 (%)

0

100

200

300

400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

ボイドおよびき裂最大長さ

(µm

)

時間 (hour)

ボイドおよびき裂最大長さと時間の関係

95MPa

105MPa

引張応力 σμ

結晶粒界

化学ポテンシャル

js

js

jb

jb

2

L

2b

結晶粒結晶粒界

ボイド

ボイド間隔

Λ:有効拡散領域

a

D f ≒W

b- (s –2g/ a)

js =Dg

kTWD f

W:原子容

拡散によるボイド成長に結晶粒のクリープ変形と拘束の影響を考慮

(擬球状)

(き裂状)da

dt=

a

4ph(y)

L

a

5/2

L +M– 3/2ea c

da

dt=2h(y)

L

a

3

L +M– 1ea c(擬球状)

(き裂状)da

dt=

a

4ph(y)

L

a

5/2

L +M– 3/2ea c

da

dt=2h(y)

L

a

3

L +M– 1ea c

基礎式

3/1

WL

c

bb

kT

D

e

s

bDb:粒界拡散係数

クリープボイド成長速度式の導出

ボイド成長速度式

10mm

ボイド

(ボイド成長シミュレーションフロー)

PC上での微視組織の作成

YES

NO

各粒界ファセットに対する垂直応力の計算

ボイド核からのボイド発生時間の計算

許容粒界へのボイド核の配置

ボイド・微小き裂成長速度の計算

ボイド長さの計算

時間ステップ間隔でのボイド・き裂長さの修正

き裂の合体

1粒界き裂の発生

ボイド発生・成長シミュレーション手法

0.1mmのボイド発生時間= Asn

q

) 1

3

2

L ML

ah

a

dt

da c

y

e

) 23

25

4

L ML

ah

a

dt

da c

yp

ea

(擬球状)

(A =6.5 x 7 , q = -3)

(平均値:1.0 標準偏差: m)

ボイド発生値 <= 粒界強度値

【き裂成長速度式】C, m, n :定数

0時間

平均結晶粒径: 270mm

応力: 95MPa

264時間(20%)

660時間(50%) 1050時間(80%)

負荷応力方向

ボイド成長シミュレーション結果

0

100

200

300

400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

ボイドおよびき裂最大長さ

(µm

)

時間 (hour)

観察結果 シミュレーション

95MPa

105MPa

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EBSD法電子線後方散乱回折法:Electron BackScatter Diffraction

入射電子線

70°

スクリーン 試料

回折電子

EBSDパターン

SEM装置内

試料に電子線を照射

回折電子をスクリーンに投影しEBSDパターンを得る

EBSDパターンを

解析し、結晶方位パラメータの算出

ポールピース

結晶方位パラメータ

解析

結晶方位を評価

結晶方位パラメータ:KAM

解析ソフト上の組織実際の組織

ピクセル粒界

あるピクセルに隣接する最大6つのピクセル間の方位差の平均値を計算し、その値を中心のピクセルの値としたもの 方位の局部的な変化を評価

KAM値の分布

KAMマップを作成

全てのピクセルのKAM値

KAMaveを算出

平均化色で表示

0% 22% 44% 83% 100%

損傷材で計測されたIPFマップ(応力:105MPa)

0% 22% 44% 83% 100%

損傷に伴うKAMマップの変化(応力:105MPa)

KAMaveと損傷率の関係

損傷率 (%)

KA

Mav

e(d

egre

es)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

0 20 40 60 80 100

95MPa

105MPa

試験前

ま と め

A-USCプラント配管候補材料Ni基合金HR6Wのクリープ強度データ

を取得した。得られたクリープ曲線は、遷移クリープを示さず、定常クリープの後に緩やかに変形を加速し、破断に至った。

1.

3.

クリープ損傷材をSEMで観察した結果、粒界上に観察されたボイドは、損傷に伴って増大し、1結晶粒界長さ程度の微小き裂に成長し

ていた。損傷に伴うボイド・微小き裂の成長をボイド成長シミュレーション手法によって概ね予測することができ、本手法のNi 基合金への適用性が確認された。

2.

クリープ損傷材を対象にEBSD計測を行った。計測された局所方位差(KAM値)は、損傷初期は結晶粒内で差異はみられなかったが、損傷が増大するにつれて粒界近傍で高いKAM値を示す領域が認められた。KAM値の平均値は、クリープ損傷とともに増大することが明らかとなった。

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1

改良9Cr-1Mo鋼溶接継手のミニチュア試験片を用いたクリープ強度評価

研究成果 2

平成29年度 研究成果報告会

HAZや溶接金属は幅が狭く、標準サイズ試験片を採取すること

が困難であるため、微小な試験片を用いたクリープ試験によるクリープ特性の把握が必要となる。

火力発電プラント高温配管

超々臨界圧火力発電プラントの高温蒸気配管には、高温強度に優れた改良9Cr

鋼が使用されている。配管溶接部では熱影響部(HAZ)でクリープ損傷(Type IV損傷)の進行が懸念されている。

溶接部のクリープ損傷を予測するには、各部位のクリープ特性を取得し、有限要素解析による応力、ひずみ状態を明らかにする必要がある。

背 景

100

150

200

250

300

0 10 20 30

ビッカース硬さ

溶接部左端からの距離[mm]

溶接金属母材 母材HAZ HAZ

母材

溶接金属

HAZ

溶接方法 狭開先MAG溶接

溶接後熱処理 745℃×150分

硬さ分布

溶接継手

ミニチュア試験片

改良9Cr-1Mo鋼溶接継手およびミニチュア試験片 ミニチュア片を用いたクリープ試験方法

ミニチュアクリープ試験機 データ収集装置 Arガス供給システム

60cm

90cm

熱電対取り付け

試験温度:650℃

クリープ試験機

標準溶接継手試験片

直径:10mm平行部:50mm

130mm

部位 応力σ[MPa]

溶接継手 90 78 72 66

標準クリープ試験条件

温度:650℃

標準溶接継手を用いたクリープ試験

0

0.1

0.2

0.3

0 500 1000 1500

クリープひずみ

時間[h]

●:110MPa(ミニチュア)▲:100MPa(ミニチュア)■:90MPa(ミニチュア)■:90MPa(標準)

母材から採取したミニチュア試験片の試験結果

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2

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0 200 400 600 800 1000

クリープひずみ

時間[h]

●:130MPa▲:110MPa■:100MPa◆:90MPa

溶接金属から採取したミニチュア試験片の試験結果

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0 500 1000 1500 2000

クリープひずみ

時間[h]

●:90MPa-A▲:90MPa-B■:74MPa◆:60MPa

HAZから採取したミニチュア試験片の試験結果

0

0.1

0.2

0 500 1000 1500

クリープひずみ

時間[h]

●:90MPa(ミニチュア)▲:74MPa(ミニチュア)■:60MPa(ミニチュア)●:90MPa(標準)■:60MPa(標準)66MPa(標準)

標準およびミニチュア継手試験片の試験結果

50

10 100 1000 10000

■ 母材(ミニチュア)■ 母材(標準)◆ 溶接継手(ミニチュア)◆ 溶接継手(標準)

50

10 100 1000 10000

試験温度:650℃200

▲ 溶接金属(ミニチュア)● HAZ部(ミニチュア)■ 母材(ミニチュア)■ 母材(標準)

100

150

破断時間[tr]

応力

[MPa]

101 102 103 10450

母材 溶接金属lHAZ

各部位から採取したミニチュア試験片の破断特性

標準溶接継手HAZの組織観察

HAZ

溶接金属

母材

500mm

HAZ母 材 溶接金属

50mm

0.000001

0.00001

0.0001

0.001

0.01

50

10−2

10−3

10−4

10−5

10−6

試験温度:650℃

応力[MPa]

最小クリープひずみ速度[1/h]

▲ 溶接金属● HAZ部■ 母材(ミニチュア)■ 母材(標準)

HAZ最大 HAZ平均

HAZ最小

B n

母材溶接金属

2.11 × 10−20 7.8

HAZ

最小 6.19 × 10−19

7.3平均 2.01 × 10−18

最大 1.71 × 10−17

60 70 8050

最小クリープひずみ速度と応力の関係

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• 解析モデル直径10mm,標点間50mm, HAZの長さを2mmとした丸棒単軸溶接継手クリープ試験片

• 解析条件温度:650℃、応力σ:60MPa解析時間:1500時間

Norton則: εc = Bσn

母材 溶接金属 HAZ部 B n

母材2.11 × 10−20 7.8

溶接金属

HAZ最小 6.19 × 10−19

7.3HAZ平均 2.01 × 10−18

HAZ最大 1.71 × 10−17

母材 HAZ溶接金属

最大

平均

最小

標準溶接継手試験片のFEM解析

母材

溶接金属

HAZ部• 解析モデル直径1mm,標点間5mm, HAZの長さを2mmとした丸棒単軸ミニチュア溶接継手クリープ試験片

• 解析条件温度:650℃、応力σ:60MPa解析時間:1000時間

Norton則: εc = Bσn

B n

母材2.11 × 10−20 7.8

溶接金属

HAZ最小 6.19 × 10−19

7.3HAZ平均 2.01 × 10−18

HAZ最大 1.71 × 10−17

母材HAZ

溶接金属

ミニチュア溶接継手試験片のFEM解析

-20

-10

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

応力[M

Pa]

左端からの距離[mm]

―:標準―:ミニチュア

母材 HAZ 溶接金属

軸方向応力

半径方向応力

溶接継手試験片内の応力成分分布の比較

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

応力多軸度

左端からの距離[mm]

―:標準―:ミニチュア

TF=σM/(σ1+σ2+σ3 )

母材 HAZ 溶接金属

mTF /)( 321

溶接継手試験片内の多軸係数分布の比較

0.00

0.01

0.02

0.03

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

クリープひずみ

左端からの距離[mm]

母材 HAZ 溶接金属

―:標準―:ミニチュア

溶接継手試験片内のクリープひずみ分布の比較

0.000001

0.00001

0.0001

0.001

0.01

50

HAZ meanHAZ max

HAZ min

Standard

Max

Mean

Min

B value

HAZ in standard by FEM

Calculated from miniature weld joint

Measured by miniature HAZ

応力 (MPa)

最小クリープひずみ速度

(1/h

)

100 150 200

ミニチュアおよび標準試験片HAZの最小クリープひずみ速度

H

Wn

WBn

BGLGLH

L

LBLBL WB

母材HAZ

溶接金属

母材 HAZ溶接金属

LGL

LBLWLH

𝜀 = 𝐵𝜎𝑛 Norton’s law

HNHS B 336.071077.2

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4

H

Wn

WBn

BGLGLH

L

LBLBL WB

HNHS B 336.071077.2

100

1000

10000

0.000001 0.00001 0.0001

HAZ最小クリープひずみ速度(1/h)

破断時間

(h)

【ミニチュア試験片HAZ最小クリープ速度】 【標準試験片HAZ最小クリープ速度】

標準溶接継手HAZ最小クリープひずみ速度と破断時間の関係

本研究

被覆アーク溶接

51.081.3

HSrt

ミニチュア溶接継手試験結果からの標準溶接継手試験片の破断時間予測結果

5000

5000

標準溶接継手試験片の破断時間

ミニチュア試験片からの予測破断時間

100

1000

100 1000

まとめ

• 溶接部各部位から切り出したミニチュア試験片を用いてクリープ試験を実施し、応力と最小クリープひずみ速度の関係を取得した。同一応力でのクリープひずみ速度は、溶接金属と母材はほぼ同等であり、HAZはこれらに比べ大きい値を示した。

• 標準溶接継手試験片はType IV破断し、母材に比べて短時間で破断した。また、ミニチュア溶接継手試験片は、標準溶接継手試験片に比べ短時間でType IV破断した。

• クリープ試験とFEM解析に基づいて、ミニチュア溶接継手と標準溶接継手内のHAZのクリープひずみ速度の関係式を求め、これを用いてミニチュアリープ試験結果から、標準溶接継手の破断時間を予測する手法を提案した。