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This document is downloaded at: 2020-08-21T06:13:56Z Title 運動習熟過程における脳波の変容について Author(s) 小原, 達朗 Citation 長崎大学教育学部自然科学研究報告. vol.32, p.215-225; 1981 Issue Date 1981-02-28 URL http://hdl.handle.net/10069/32652 Right NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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Title 運動習熟過程における脳波の変容について

Author(s) 小原, 達朗

Citation 長崎大学教育学部自然科学研究報告. vol.32, p.215-225; 1981

Issue Date 1981-02-28

URL http://hdl.handle.net/10069/32652

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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長 崎大学教育学 部 自然科学研究 報告 第32号215~226(1981)

運動習熟過程における脳波の変容について

小 原 達 朗

長崎大学教育学部保健体育 教室

(昭和55年10月31日 受理)

On the Change of Brain Wave in Skilled Process of Exercise

Tatsuro OBARA

Department of Health and Physical Education, Faculty of Education,

Nagasaki University, Nagasaki

(Received Oct. 31.1981)

Abstract

There is a view that the brain wave on head skin become to a a-wave or a

slow-wave from /3-wave with proficiency of exercise. This cause is that the fall of

consciousness level in cerebrum cortex, in over words exercise control system moves

into subcortex.

And, in another view regarding of loop connection in between cerebrum and

cerebellum is that this loop forms open loop control system as a center with cere-

bellum. It is programing the exercise models.

The author thinks a hypothesis that both views are difference between a

phenomenon and a mechanism on skilled process of exercise, and are ultimately

same structure.

And so, in present study investigated relation between the frequency of failure

and brain wave in training process by exercise of bongo board, as a result definitely

connected with between decrease of the frequency of failure and emergence of

a -wave .

Therefore, it is considered that skilled exercise is completed by which it moves

into subcortex control system from cerebrum cortex on exercise control.

序 論

脳波は,そ の発生原因として大脳皮質の個々の神経細胞のスパ イク放電が集積 した ものであ

るという説 と,大 脳皮質のシナプス後電位の重積 したものであるとする説が有力である。

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216 小原達朗

 この脳波と随意運動の関連についてはじめて実験的に確かめたのは,JasperとPenfild8)

である。彼らは,露出した人脳に脳波電極と微小刺激電極を装着し,α一波が中心後回より側

頭および後頭部に常時現われ,中心前回には25Hzのβ一波が出現す1るのをみた。しかもこれ

らのリズムが随意運動の開始時,停止時あるいは持続的注意の集中時に阻止されるのを認め,

随意運動が中枢神経系内の情報の取拾過程において成り立っていることを示した12)。

 やがて,運動中の脳波が記録されるようになると,Chatrianら1)は,arceau波の発現す

る被験者において,反射運動,受動運動,注意の集中のような精神活動および随意運動の命令

によってこのarceau波の阻止されることを報告し,さらに,この阻止は随意運動時に最も

大きくなると報告した。

 また,HughesとHendrix4)は,フットボール競技中の選手の脳波をtelemeterにより記

録し,休憩中に9~10Hzのα一波のみられるのを報告している。萩原ら2)-3)は,ベルトコン

ベァ作業時の脳波型および分析値の変動様式について実験し,作業が繰返されるにつれて安静

時パターンと相似的なα一波帯域を主成分とする脳波になり,意識活動に制御されながら非活

動的状態を保つという動作の自動化が非固定的ではあるが行なわれると述べている。

 一方,根木ら10)は,自転車とスキー練習において,運転や滑降の上達にしたがって筋電混

入の不明確な脳波が,規則的速波さらに8~9Hzのα一波の出現をみるようになると報告し,

後頭部脳波に発生しやすいα一波はある程度大脳の意識水準をあらわすもので運動に習熟する

とは意識や注意力の低い精神状態で運動できるようになることであると述べている。

 以上のような状態を時実15)16)は,spinalizationもしくはcorticalizationと呼び新しい運

動技術などの獲得の際に神経筋単位の支配要素が変化し,大脳皮質支配から脊髄化し,いいか

えると意識の関与が少なくても意図する運動が遂行できるようになると述べている。

 伊藤5)は,運動学習過程に大脳と小脳間のニューロン連鎖すなわち大小脳間ループ結合の関

与を考えている。それによると,随意的にある運動をする場合に大脳の連合野に発した運動指

令は運動野を通じて延髄,脊髄の運動中枢に伝達され,その運動の結果は視覚,固有感覚など

の知覚路を介して大脳の感覚野へ送られ,もとの連合野へとフィードバックされる。

連合野一→運動野一→脊髄運動中枢一→筋一運動 ↑

感覚野<一    一フィードバック←

 これは,外界を通るフィードバックループをもつ極めて複雑な系であって,こ.れを働かせる

時は幼児が立ちはじめるときやピァノの練習を始めるときのようにたどたどしく精神の著しい

集中を必要とする。このような運動活動が繰返して練習されるにつれて小脳を通る内部ループ

に次第に外界を通るループのモデルが形成され,

連合野一運動野一 ↑  、  \  \  \   、   ぺ i \

→脊髄運動中枢一→筋一運動  1  }  ↓

感覚野一 新小脳内モデノレ形成(小月還内ループ)1

遂には外界を通るループの切断された開ループ状態でも小脳内ループを用いて等価の運動活動

を行ないうるのではないかというものである。

 以上の脳波放電と随意運動,精神集中あるいは意識水準との関連,spinalizationの問題,ま

た,大小脳問ループ結合の存在を考えるとき,運動の習熟状態が大脳皮質支配からそれ以下の

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運動習熟過程における脳波の変容について 217

中枢による無意識化された運動制御状態であると考えられる。本研究では,筋運動トレーニン

グ中の脳波の経時的変化を中枢における神経活動の指標とし,その運動の習熟度合をプログラ

ミングあるいはspinalizationの成果として前述の知見を検索し,運動習熟のメカニズムの解

明の緒とすることを目的とする。さらに,トレーニングを1日で集中的に行なう群と継日的に

数日にわたって分散的に行なう群とに分けてトレーニングの集中性について検討し,また,ト

レーニングを中断することによりトレーニング後の非トレーニング状態がモデル形成へ与える

影響にっいても検討する。

研  究  方  法

1.脳波測定 脳波は,三栄測器巡製の6素子の脳波計を用い有線により測定した。脳波誘導の電極は国際

10/20法を参考に,双極誘導法によりC3-Cz(中心部),P3-Pz(頭頂部)および01-Pz(後

頭部)の3誘導を記録した。また,電極には針電極を使用し,サージカルテープで固定さらに

揺れを防ぐためにその上からラグビー用ヘッドキャップをかぶせる方法をとった。記録紙の送

りスピードは全て25mm/secとし,感度は50μV/5mmになるように調節し,時定数0.3と

した。

2.運 動 課 題

 運動課題は,ボンゴボードテスト14)と呼ばれる直径10cm,

長さ30cm位の円柱上に平板(40×60>〈3cm)を中心線よりず

れないように固定してのせ,平板の左右の端が床に触れないよう

にその上でバランスをとる姿勢制御運動とした(図1)。

3.被  験  者

 被験者は運動を得意とする大学体育科学生男子6名で覚醒時脳

波にα一阻止の生じる一般的脳波所見をもつ者である。これらを

ランダムに2群に分け,一方を集中的トレーニング群(集中群・

Concentration,C-group),他方を分散トレーニング群(分散群

・Dispersion,D-group)としそれぞれ3名ずつあてた。     図1・ボンゴボードテスト

                           Fig.1 Bongo boar(1test4. トレーニング方法

 集中群は,ボンゴボード上でのバランス運動を1分間を1回,これを5回で1セットとし,

1回ごとに1分問の休憩と各セット問に5分間の休憩をとりつつ6セット(全30回)を連続し

てトレ’一ニングして1日で終了するものである。

 分散群は,集中群と同様に1セット5回のトレーニングを行なうが,1日1セットだけ行な

い,これを6日間にわたって全30回のトレーニングを行なわせた。

 なお,脳波は,以上の行程のうち1~2回おきに測定し,測定しないときも電極は装着した

ままであった。

5.失敗数の測定

1分間のボンゴボードテスト中に平板の端が床に触れたときを失敗とし,これを各回ごとに

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218 小原達朗

脳波とともに記録した。ただし,1秒以上続けて平板が床に触れていた場合は1秒を1回と

し,2秒なら失敗数2回として数えた。

6. トレーニング効果の残留性について

 1回目のシリーズのトレーニングによる運動習熟効果が,トレーニングを中止することによ

ってどのような影響をうけるかについて検討した。トレーニング中止期間は被験者によって異

ったがで45~90日の間である。

 実験方法は,1回目のトレーニングシリーズと同様であるが,実験回数は1セットのみの5

回だけであった。

結 果

1. トレーニングにともなう失敗数の変化

 図2は,集中群と分散群のトレーニング回数と失敗数について示したものである。集中群・

分散群とも被験者Sを除いてトレーニング開始時には28~39回の失敗数であった。開始時の失

敗数の16回と少なかったSは,その後のトレーニングによる変化も小さく,トレーニング15回

目からは失敗数はほとんどなく1~2回であった。

 集中群・分散群ともトレーニングによりその傾斜に個人差はあるものの増減を繰返しながら

失敗数は暫時減少しているが,集中群の1回ごとの変動幅が小さいのに対し,分散群で変動幅

                    が大きい傾向にある。しかし,6セット目に

 40 36 32 28 24 20 16 12田 8=嘱  4ご

駒 0お

む40お36§32

虚28

 24 20 16

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C-group

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は集中群のTと1の失敗数が38回から約20

回,30回から約IO回とそれぞれ18回および20

回減少したのに対し,分散群のDは39回から

約10回,Aは38回から約4回,Gは28回から

約10回とそれぞれ29回,34回および18回と集

中群より大きな減少を示した。

2.脳波の変化

12

840

A0

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   ハノ・

D-group

、!

、、

 、・曳 v

1     5     10     15     20     25     30

 The number of training times

図2. トレーニングにともなう失敗数の変化

   (C:concentration,D:Dispersion)

Fig. 2 Change in frequency of failure

   with training on bongo board test

 各被験者の脳波の全容については,掲載上

量的に困難であるので被験者1の安静閉眼時

とトレーニング初期(8回目),中期(18回

目),後期(23回目)および終了時(30回

目)の脳波について図3(A~E)に示し

た。他の被験者も同様の変化を示し,失敗数

も中間的な変化を示したので被験者1につい

て取上げた。全員の脳波は,α一波出現回数,

出現持続時間および総出現時間について処理

したので後述する。

 被験者1の脳波は,3誘導のどの時点でも

振幅が小さいのが特徴である。図3-Aは,安

静閉眼時の脳波である。P3-PzおよびOrPz

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o D ~ p3-pz

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u] c'

E ~ p3-pz

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O1 - Pz

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Fig.

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1 sec

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3 Change of brain wave at rest (closed eye) and during bongo board training in subject I .

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…220 小原・達・朗

において14乍15Hzのβ一波もみられるが・9~IOHzのα一波が常時出現レている。C3-Czで

は,’約0.25Hzの周期をもった揺れがみられるが低振幅で周波数は判別困難である。しかし,

図$一B以下にみられるように,さらに,実験中の観察によるとC3-Czの揺れは体動による

ものも含まれており,C3-CzにP3-Pzおよび01-Pzを対比させるとP3-Pzおよび01-Pzの

揺れが体動か否かが判別できる。

 図3-Bは,トレーニング初期の脳波であるC3-Czの揺れは体動の大きさを表わしている。

P3-Pzおよぴ01-Pzにも揺れが生じているが,いずれも15Hzのβ一波を主とする。図3-C

は,』トレーニング中期の脳波である。揺れはやや小さくなり,P3-Pzおよび01-Pzがやや徐波

化レてきた。このころ失敗数もトレーニング初期の半分になってきている(図2)。図3-D,

Eは,’トレーニング後期と終了時の脳波である。体動にもかかわらず,かなり安定した脳波を

示している。いずれの時間のP3-Pzおよび01-Pzにも8~9HzとIO~llHzのα一波が頻

繁にみられる。トレーニング終了時には安静時と類似した脳波を示しており,意識の集中の減

弱を示,している。

 図4は,1回(1分間)のトレーニング中のα一波の出現した頻度である。また,図5は,

α一波のその1頻度の持続時間で,1回のトレーニング中の全頻度の平均である。P3-Pzおよ

び01-Pzともα一波の1頻度の持続時間は,若干の変動をもちながらもトレーニングにとも

なう変化はなく,各被験者ともほぼ0.2~0.4秒の間であった。したがって,α一波の1回のト

レーニング中の出現量は,頻度に影響されることになる。図6は,1回のトレーニング中に出

現したα一波の総出現時間である。持続時間がほぽ一定のために出現頻度と同様の変化を示し

(times)

 24 20 「16

 ユ2 8 4 0の

詰24ギ20も16の

呂12跳8お9 4①10も

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C-group

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 ㌧  、  も  も

  弘、ノ

一←P3-Pz

一ゆ・01-Pz

1 5  10  15  20  25  30  1 5  10  15  20  25  30            The number of training times

図4. トレーニングにともなう1回の1・レーニングでのα一波の出現頻度

臼g。4Frequency of emergence inα一wane for once training with training

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運動習熟過程における脳波の変容について 221

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15     20     25     30     1    5     10

    The number of training times

15     20     25     30

図5, トレーニングにともなう1頻度でのα一波の平均出現時間

ng.5Mean time of emergence inα一wave for once frevuency with truining

 (鋤)         C-group

gll.鉱伊一 届 ヨ                                    ゆ

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   魂   ノ 、鷺   篭     、

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15     20     25     30     1    5     10     15     20     25     30

    The number of training times

図6。 トレーニングにともなう1回のトレーニングでのα一波の総出現時間

   (C:Concentration,D:Dispersion)

Fig,6Totol time of emergence inα一wave for once training with training

牟。これによると,分散群の被験者0を除いて他の5名はトレーニングにともないα一波総出

現時間は増加している。また,これらの稼験者は,いず訓もトレーニング回数15回を過ぎ後半

に入るころから,とくに集中群のS,T,1は急激に総出現時間が増加し,分散群のGも変動

の大きかったものが高いレベルで安定化している。

 さらに,失敗数との関連でα一波総出現時間と図2を比較してみると,集中群のSは,失敗

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222 小原達朗

.智(鋤)   C-9P・UP      D-gr・up     1.目

                       0お ・ S   ?_0.33X+4,77                         .亀 :3・。・...・.88§ 3曹    rニー0・748                              93 。。響    80      8          n=34  P<0。001

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              0●o\ε

β0 5 101520253035 0 5 101520253035             The number of training(times)

図7、ボンゴボードテストの失敗数とα一波総出現時間との関係

   (C:Concentration,DIDlspersion)

Fig.ワRelationship between failure on bongo board test and total time of

   emergenCe inα一Wave

数が少なく初期レベルの高かった者であるが,総出現時間は最も少ない。Tも,総出現時間は

少ないが失敗数の減少幅は小さい。1は,失敗数は着実に減少しており,総出現時間の増加も

大きい。分散群の0は,総出現時聞は増加せず,失敗数もトレーニング終了近くで減少した

が,その変動幅が大きい。Aは,総出現時間は集中群のSやTと同等であるがトレーニング9

回目から14回目の脳波がないためにその傾向は即断できない。失敗数は,トレーニング7回目

で急激に減少し,その後も徐々に減少し20回目ごろから4~5回の失敗数に止まった。Gも,

失敗数はトレーニング初期に大きく減少したが,その後の変動幅がやや大きい。また,トレー

ニング20回目ごろから失敗数が増加し漸時低下したが,トレーニング中期のレベルを保って終

了した。しかし,総出現時間は,トレーニング中期から高いレベルで安定している。

 このような不定な傾向から直ちに失敗数とα一波総出現時間との関係を評価することは困難

である。そこで,図7にボンゴボードテストの失敗数とα一波総出現時間との関係について示

した。集中群は,いずれの被験者とも危険率0.1%以下の高い相関を示した。分散群は,被験

者0に有意な相関がなく,AおよびGも,集中群に比べて低い相関を示した。

3. トレーニング効果の残留性について

 1回目のトレーニングシリーズ(シリーズ1)ののち,トレーニングを中止して再び45~90

日後にボンゴボードテストを1セット(5回)行った。この再テストをシリーズ豆とした。そ

の結果が図8である。シリーズ1の失敗数は,6セット目すなわちトレーニング終了前5回分

である。両群とも再テストの失敗数は,被験者Sを除いて変動幅が大きくなっている。しか

し,それでも集中群は,平均的にはシリーズ1同様かむしろ成績は向上している。これに対し

て分散群は,3名ともシリーズ1より失敗数が増加した。

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運動習熟過程における脳波の変容について 223

28

26

24

22

20

田18暑ε16もh14碧雪12冨,

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8

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  26      28      30   1       3       5       26      28      30   1  ’    3       5

             The number of trair亘ng times    Series I            Series ’I               Series H            Series 】〔1

図8。 トレーニングシリーズ1と再テストの失敗数の比較。(日)内の数字はトレーニング中止期間

Fi g。8 Change of training series I an(1retrial test for frequency of failure on bongo

   boar(1test(days) :Period of training stopPage

考 察

 運動を発現し制御するメカニズムを探るために,幾多の追究がなされ,また続けられようと

している。これまでよく知られていることは次のような点である7)。

 運動制御系には,まず運動を引き起こす動力系として筋と脊髄が考えられる。筋収縮によっ

て被制御系である腕や足など身体の運動が生じ,その運動の直接の制御装置が脊髄である。脊

髄への情報は,脊髄自身による反射のほかに,脳幹による反射制御系と,それをコントロール

する自動制御系と呼ばれる小脳および自動平衡安定装置としての大脳基底核が並置される。小

脳の自動制御系は,情報の協調作用(多変数制御),動作の推尺作用(予測制御)および運動

障害時の自己機能修復や運動機能の修正などの必要に応じて機能を代償する作用(学習制御)

をもつ点でまさに運動系のコンピューターの機能を持っている。大脳基底核の自動平衡安定装

置は,その障害が舞踏病などの不随意運動やパーキンソニズムなどの特徴的な運動症状を呈す

るところから長い時間の中での運動や姿勢を安定した平衡点に保つ機能を持っていると考えら

れる。すなわち,小脳のニューロン活動は,急速な運動によく反応し,微分的,動的であるの

に対し,大脳基底核のニューロン活動は,ゆっくりした運動との相関が強く,積分的,静的で

あると考えられている。

 脊髄,脳幹,小脳および大脳基底核のさらに上位中枢が大脳皮質である。大脳皮質は,操縦

系と呼ばれ,これらのすべてと連絡路をもち統合する機能を持っている。そして,この情報を

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224 小原一達朗

上位中枢の最終出力点である脊髄へ伝達するのが錐体路および錐体外路系と呼ばれる下行路群

である。錐体路は,延髄錐体を通る皮質脊髄路があり,錐体外路系には,赤核脊髄路,視蓋

脊髄路,前庭脊髄路,橋網様体脊髄路および延髄網様体脊髄路があり,それぞれ固有の促進お

よび抑制機能をもっている。

 図9は,玖上の知見を関連づけるために現実に存在する神経連絡路の結合を伊藤7),大

                 島11)および島村13)の概説にもとずいて筆者が単純化

                 して表わしたものである。

                 では,このような運動制御機構がいかにして運動の

                 習熟に関与するのか。伊藤5)・6)は,図9に示す小脳を

                 通って運動野の出力から運動野へ戻る(太線)大小脳

                 間のル」プ結合を開ループ制御系とすると,各種の運

                 動は,まず連合野に発した運動命令が運動野を通じて

                脳幹,脊髄を通る下行路により筋に伝達され身体は命

                令に合致するような最適運動を行なうが,習熟しない

                運動では,命令と実際の最適運動として行なった動作

                 との間に誤差を生じ,それが感覚器を通じ,筋自体の

                 固有の情報あるいは視覚や前庭などの情報として脊髄

                 や脳幹を通り,小脳および感覚野へ伝達され,改めて

                誤差修正した命令を送る。すなわち,閉ループ制御系

                 を形成していると述べている。

                  さらに,閉ループ制御系は,直接的な安定した制御

                を行なうことのできる利点がある一方,一定の運動規

                準にかなう性質をもったフィードバックループを持た

                 ねばならず,また,このフィードバックループには一

                定の時間の遅れが避けられないので,精緻で急速な運

                動の制御には不向きであるとし,運動制御系には,こ

                れらの欠点をカバーする意味で開ループ制御方式が用

                いられるのではないか,そして,開ループ系の外乱や

                内部のパラメータの変化に影響されやすい弱点を補い

                安定した情報を送り出すために小脳が関与しているの

図9.運動制御糸のブ・ック図    ではないかと推論している。すなわち・小脳は,外界

Flg.g Block drawing of motor  を通じてのフィードバック路を含む制御系のシュミレ

    control system       一タであって,序論に述べたように小脳の中に外界の

モデルが形成されれば(プログラミング),外部ループがなくてもこのモデルを用いて無意識

にでもその運動を有効にかつ円滑に行なうことができるようになり,これを運動習熟のメカニ

ズムとするものである。

 したがって,本研究の目的は,直接には萩原ら2)・3)や根木ら10)の述べた,運動習熟状態と

はトレーニングによって脳波が徐波化することから,大脳皮質の意識水準の高いレベルから低

いレベルヘ移行することであると述べている点を,このボンゴボード運動の場合,技術の小脳

へのプログラミングあるいはspinalizationであると仮定し,小脳以下での中枢関与を脳波の

α一波の出現にぷって評価し,間接には,後者のプログラミングあるいはspinatizationを肯

定しようとする点にあった。

大  脳  皮  質

感覚野 連合野 運動野

大脳基底核 小 脳

   、        、、   噂8          軸。.りり鞠1                 、鶏

上行路群 下行路群

脳   幹

脊   髄

腕など被制御系)

感覚器筋紡錘一 〇 ● ● o ■ 一 9 一 . 一

覚など

筋の長さ

最適運動

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運動習熟過程における脳波の変容について 225

 その結果,ボンゴボードテストの失敗数はトレーニングにともなって漸減してくるが,初期

レベルの高い失敗数の少ない者は,トレーニングにともなう変化も小さくほとんど失敗しなく

ならた。

 トレーニング中の脳波は,トレ」ニング初期には筋電の混入や体動にともなう揺れや自発性

の揺れがみられ15Hzのβ一波を主としたが,中期ごろより徐波化し,’ 期におい七8~9宜z

および10~11Hzのα一波の出現が目立った。

 被験者全員のα一波の出現頻度,1回の平均出現時問および総出現時間について定量時にみ

てみると,1回の平均出現時問はトレーニングにともなう変化はなかった。出現頻度と総出現

時商は,1名を除いて集中群,分散群の他の5名はトレーニシグにともない増加しており,と

くに,トレーニング15回目ごろより急激に増加したり,高いレベルで安定化した。しかし,と

のことと失敗数の関連で考察すると,α一波の総出現時間の変化のない被験者0が失敗数にお

いて最も向上し,逆に失敗数の多い者でも総出現時問が多いといった矛盾も生じている。そと

で,1回のトレーニングごとの失敗数とα一波の出現状況を対応させるために,失敗数とα一

波の総出現時間との関連性にっいて検討した図7では,集中群で高い相関を示し,分散群で相

関が低かった。また,失敗数の最も向上した被験者0は,有意の相関がなかった。このこと

は,α一波ゐ出現がすぐ運動習熟と結びつかず,少なくとも,ボンゴボード運動の技術向上に

十分な筋力の大きさなど他の因子も関与していることを示唆している。一方,多くの点で運動

習熟との関連性がみられた。

 01d8ら9)は,ラットが一定の音刺激に対し餌をとる運動学習の条件づけを行ない,大脳辺

縁系が指導的役割を演ずることを報告し,その中で,訓練をやりすぎて運動が全く自動的に生

ずる段階に達すると,辺縁系の諸部位における反応がかえって減少してしまうと述べている。

これは,運動習熟と条件づけの違いがあり,本研究と直接には結びつかないが,脳の各部位が

段階的に機能したものが最終的に海馬(C A1)と運動野のみに反応が生じ,運動が速くなり

確立される点を考えると,条件づけによる一種のプログラミングと考えられる。このことは,

運動習熟についても同様の考え方ができよう。

 また,トレーニング15回目ごろよりα一波出現の増大と安定化があるところから,この時期

にボンゴボード運動習熟の一機転があるものと考えられる。

 一方,トレーニングを中止し,再テストした結果では,集中群と分散群の差が顕著に表われ

た。集中群は,トレーニング中止期間が75~90日と長かったにもかかわらず,中止期間が45~

60日と短かかった分散群よりも失敗数が少なく変動幅は若干大きいが,ほぽ1回目のトレーニ

ングシリーズの6セット目の成績を示した。これは,α一波総出現時間と失敗数の相関が集中

群において高かったことと関連をもつものと考えられる。すなわち,α一波の出現は,単なる

精神的集中の解除によるものと運動制御系の小脳位下の中核へのプログラミングによるものと

が考えられる。集中群においては,後者の段階にまで至り,分散群では,前者の段階での比重

が大きかったのではないかと考えられる。そして,モデルの形成された者がボンゴボード運動

の技術が固定したものと考えられる。

 以上,大脳皮質活動の指標とする頭皮上脳波の出現様式が運動習熟にともなってβ一波から

α一波の出現の増大する傾向にあることは,運動習熟機構が小脳へのプログラミングあるいは

spinalizationにあるとする仮説を裏付けるものであると考えられる。

 しかし,他の運動で同様のことがいえるか,筋紡錐など感覚器からの情報について考慮して

いない点,とくにα一波出現のゆくえについてさらに検討を加えなければならない。

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226 小原達朗

要 約

 頭皮上脳波が運動習熟によりβ一波からα一波あるいは徐波化するのは大脳皮質の意識水準

の低下,すなわち皮質位下への運動制御機構の移行するためであるとの知見と,大小脳間ルー

プ結合の意義が小脳を中心とする開ループ制御系を形成し運動モデルをプログラムしていると

の見解とから,両者は,運動習熟過程に関するひとつの現象とメカニズムの違いであり,同一

の構造をもつものであるとの仮説を立てた。

 そこで,本研究では,ボンゴボード運動のトレーニング過程での失敗数をプログラミングの

成果とし,脳波を中枢における神経活動の指標として両者の関係について検討した結果,失敗

数の減少とα一波の出現の間に明らかな関連性があった。とくに,集中群と分散群のα一波と

失敗数の相関が集中群が高く,トレーニング中止後の再テストでの失敗数が集中群で少なく固

定的成績を示したことは,モデル形成の程度の差によるものと考えられる。よって,運動習熟

は,運動制御機構の中心が大脳皮質からそれ以下の制御系へ移行することにより成立っている

と考えられる。

 (謝辞)本研究は,昭和54年度卒業した鹿摩幸政君の研究論文の一端として行なわれたもの

であり,資料の整理に当ったことに対して深く感謝する次第である。

参 考 文 献

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