NAFTA再交渉アップデート 米墨加３カ国協定（USMCA） 自動車原産地規則の概要

1

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2018年11月 戦略調査（ニューヨーク）

NAFTAに代わる米・メキシコ・カナダ新協定「USMCA」

発効目処は2020年1月、但し議会審議は難航する可能性も

2 （出所）米国議会図書館議会調査局（CRS）、外務省資料、各種報道を基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

貿易促進権限（ファストトラック、TPA）に基づく貿易協定の米国内の批准プロセス トランプ大統領が「貿易促進権

限（TPA）」に基づき昨年8月から

進めてきたNAFTA再交渉は、カナ

ダの合流を受け、「3カ国協定」の

枠組みを維持する形で妥結。

11月末の署名を経て、次なる焦

点は米国内の批准手続きに移る。

TPAに基づき大統領が締結した

通商協定は、一定条件を満たす

限り、議会の修正を受けず迅速

な審議で採否のみが決定される。

議会日程に照らすと審議開始は

来年に持ち越される可能性が高

く、中間選挙で下院を奪還した

民主党の協力が不可欠に。政

権は、2020年1月の協定発効を

目指しているが、議会審議は難

航するとの見方が浮上している。

米国内の産業団体や労働組合

は、北米貿易圏崩壊の最悪事

態を回避した点は評価する一方、

鉄鋼関税の継続やサンセット条

項、労働基準の履行メカニズム

不備などに懸念を示しており、新

協定への全面的支持は留保。

政治日程から逆算した期限

交

渉

開

始

議

会

に

協

定

署

名

の

意

思

を

通

知

協

定

文

章

を

議

会

へ

提

出

現

行

国

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法

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報

告

最

終

協

定

文

と

実

施

法

案

草

案

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出

実

施

法

案

に

署

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協

定

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効 米

国

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貿

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会（I

T

C）、

評

価

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告

書

を

提

出

模

擬

審

議

協

定

署

名

審

議

開

始 実施法案可決

2017/8 8/31 11/30

【下院】 委員会（最長45日） 本議会（最長15日） 【上院】 委員会（最長15日） 本議会（最長15日）

90日前まで

60日前まで

60日以内

105日以内

期限の定めなし

最長90日議会日

実

施

法

案

を

提

出

30日前まで 大

統

領

議

会

9/30

12/1 メキシコ 新政権発足

2019

2020/1 目処

USMCA協定文の構成

自動車関連で重要なのは4章の原産地規則とサイドレター2通

3 （出所）米通商代表部（USTR）、USMCA協定文、NAFTA協定文、Jetroなど各種資料を基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

USMCA条文は全34章の構成。全般

的にはNAFTAと共通の規定が多いが、

USMCA固有の規定としては、サンセッ

ト条項（34章）、為替条項（33章）、

非市場経済国とのFTA締結制限（32章）等が盛り込まれた。

米民主党の支持を狙って協定本文

に盛り込まれた労働条項（23章）は、

「結社の自由と団体交渉権」、「雇

用差別撤廃」を含むILO宣言の遵守

を表明。メキシコには、組合活動や

団体交渉権を保護する国内法整備

も求めている。

自動車貿易に関して重要なのは、原

産地規則を規定した4章と、米国が

232条関税を発動した際の輸入制限

を定めたサイドレター（P.5参照）。

現在3カ国では、協定署名に先立ち

先日公表された協定条文案の法的

精査の作業が行われており、これに

続き、原産地規則や税関手続きの

解釈、適用を明確化する「統一規

則」が策定される模様。

USMCAとNAFTAの構成比較 USMCA※1 NAFTA

1 章 冒頭条項と一般定義 17 章 金融サービス 1 章 目的 2 章 内国民待遇と物品市場アクセス 18 章 通信 2 章 一般定義 3 章 農業 19 章 デジタル貿易 3 章 内国民待遇と物品市場アクセス 4 章 原産地規則 20 章 知的財産 4 章 原産地規則 5 章 原産地証明手続き 21 章 競争政策 5 章 税関手続き 6 章 繊維･アパレル 22 章 国有企業 6 章 エネルギー 7 章 税関･貿易円滑化 23 章 労働 7 章 農業および衛生植物検疫措置 8 章 炭化水素に関するメキシコ政府の 24 章 環境 8 章 緊急措置（セーフガード）

直接的、不可分、法令に拘束され 25 章 中小企業 9 章 貿易の技術的障害 ない所有権に対する承認 26 章 競争力 10 章 政府調達

9 章 衛生植物検疫措置 27 章 腐敗防止 11 章 投資および紛争処理（ISDS) 10 章 貿易救済措置 28 章 良い規制慣行 12 章 越境サービス取引 11 章 貿易の技術的障害 29 章 公表と運営 13 章 電気通信 12 章 分野別付属書 30 章 運営･制度条項 14 章 金融サービス 13 章 政府調達 31 章 紛争解決 15 章 競争政策 14 章 投資（ISDS条項など) 32 章 例外と一般条項 16 章 商用目的の一時入国 15 章 越境サービス取引 33 章 マクロ経済政策と為替条項 17 章 知的財産 16 章 一時入国 34 章 最終規定 18 章 法の執行

付属書(Annex) I - IV 19 章 アンチダンピング（AD）税および相殺 サイドレター13通 関税（CVC）の審査および紛争処理 （自動車関連2通） 20 章 組織体制および紛争処理手続き

21 章 例外 22 章 最終条項（離脱手続き2205条など）

付属書(Annex) I - VII 環境に関する補完協定 労働に関する補完協定

原産地規則以外の主な合意事項 サンセット条項 （34章） 協定発効後、6年目に審査を行い、締結国が次の16年間の更新に合意し

なければ、16年目に失効。米国は当初、5年毎に締結国が更新に合意しなければ協定が自動失効することを提案。

為替条項 （33章） 為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する条項。介入時の通知や外貨準備高や介入実績などの月次報告を義務づけ。

非市場経済国との貿易協定 制限

（32章） 締結国が「非市場経済国」とFTAを結ぶ場合は3ヶ月前の通知義務があり、通知を受けた国はUSMCAからの脱退も可能。中国を想定した措置。

労働条項 （23章） 結社権、強制労働の禁止、差別撤廃などに関するILO労働原則の尊重、適用を確認。メキシコには、団結権・団体交渉権を保護する国内の法整備を要求。

投資家対国家の紛争処理（ISDS条項）

（14章） カナダ･米国間のISDS条項は廃止、メキシコ･米国間は、石油・ガス、発電、通信、交通、インフラの5分野に限定。

※1 協定条文案は米通商代表部（USTR）のホームページに掲載

自動車分野における原産地規則の概要

関税ゼロの条件が複雑化、各社に戦略見直しを迫る内容

4

完成車・部品の原産地規則

（出所）米商務省、米通商代表部（USTR）、USMCA協定条文案、AAPC資料などを基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

USMCA条文案によると、自動車分

野の原産地規則は以下の通り。

完成車では、①域内付加価値基

準（RVC）が現状の62.5%から75% へ

段階的に引き上げられ、②うち40-45%は時給16ドル以上の労働者に

よる生産割合とされる（賃金条項）。

③柔軟措置として、15%まではR&DやIT関連の人件費、及び域内のエ

ンジン･変速機･次世代電池工場

向けクレジットを充当可、④完成車

メーカーが購入する鉄鋼･アルミは

域内調達7割義務付け（P.6参照）。

部品については、品目別の3区分に

応じてRVC ※1が段階的に引き上げ

られる。更に、完成車が原産資格

を得る条件として、エンジンや変速

機などの7品目がひとつの「スーパー

コア部品」としてRVC基準を満たす

事が求められる（P.8～10参照）。

原産地規則を満たさない場合、最

恵国（MFN）関税が適用されるが、

米国向け乗用車・SUVのMFN税率

は、現状2.5%と低いため、生産・調

達体制を再構築するよりも関税コ

ストを負担する方が合理的な選択

肢となるケースも出てこよう。

45%

15%

完成車 鉄鋼・アルミ

鉄鋼、アルミ 部品

付加価値基準（RVC)

部品、

材料費非原産 非原産 非原産 非原産 非原産

70%原産

RVC65,70,75%

原産75%

労務費、

製造経費労務費

40%

製造

諸経費

賃金条項（LVC)

LVC救済措置

付加価値基準 （RVC)

製造以外

の経費販管費など

利益

域内 付加価値

（RVC）

純費用 (ネットコスト)

乗用車・SUV 小型トラック

RVC 段階的に 引き上げ

RVCの40-45% 高賃金で生産（時給$16）

年間購買の 70％以上は 域内調達

RVCを3区分し 段階的に 引き上げ

完成車 部品 「スーパーコア部品」 完成車の原産性判定の基準

北米3ヶ国のMFN関税率 輸入国 米国 カナダ メキシコ

乗用車・SUV 小型トラック 部品※2 完成車 部品※2 完成車 部品※2

MFN税率 2.5% 25% 2.5% 6.1% 6.1% 20% 2.7%

※2 HSコード10桁の品目で加重平均した関税率

賃金条項の 柔軟措置

※1 純費用（ネットコスト）方式または取引価格方式の何れかを選択可（本稿の記載は、純費用方式で統一）

メキシコの対米輸出枠と輸出実績 カナダの対米輸出枠と輸出実績

サイドレターに規定されたメキシコ・カナダの対米輸出枠（自動車・部品）

トランプ政権による232条関税発動に備えた「保険」

5

対米輸出時の乗用車・SUVの関税率 メキシコ・カナダの車種別生産シェア

（出所）米商務省、USMCA協定条文案、Ward’sなど各種資料を基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成、一部推計

USMCAのサイドレターでは、米国が

232条関税を発動した場合、カナダと

メキシコ製の乗用車・SUVは各年間

260万台までは232条関税の対象外

とされることが盛り込まれた。超過分

については高関税が賦課される。

部品でも同様の対米輸出枠が設定

される一方、カナダ・メキシコ製の小

型トラックは232条関税の対象外に。

対米輸出枠は何れも現行の輸出水

準より高めに設定されており、また米

国新車販売自体が頭打ちになる中、

短期的には「輸出抑制」より、232条

関税に備えた「保険」の側面が強い。

同枠内であれば、232条関税が発動

さた場合でも、原産地規則を満たす

限りは関税ゼロ、満たさなくても乗用

車・SUVは2.5％のMFN税率で対米

輸出が可能（小型トラックは25%）。

カナダとメキシコは米国の追加関税や

輸入制限に対抗する手段としてWTOへ提訴する権限を留保しており、対

抗措置を取る可能性は残る。WTOで

は既に鉄鋼アルミ関税を巡り、両国

を含む7カ国と米国が衝突している。

原産地 規則に 適合

原産地 規則に 不適合

枠外 高関税 高関税

枠内 関税ゼロ 2.5% MFN税率

232条関税が発動された場合

150174 174

25

020406080

100120140160180200220240260

2016 2017 2020E

乗用車・SUV（万台）

531 552 553

0100200300400500600700800900

1000

2015 2016 2017

自動車部品

（億ドル）

195 199 183

020406080

100120140160180200220240260

2015 2016 2017

乗用車・SUV（万台）

177 171 164

0306090

120150180210240270300

2015 2016 2017

自動車部品

（億ドル）

527億ドル +95%

1,080億ドル

77万台 +42%

260万台

160億ドル +98%

324億ドル

61万台 +31%

260万台

米国系

日本系

欧州系

韓国系

050

100150200250300350400450500

乗用車・SUV ピックアップ・バン

（万台）

76% 39%

小型トラックには

輸出制限なし （232条関税対象外）

（小型トラック）

（新工場）

完成車の付加価値基準（RVC）と賃金条項の引き上げスケジュール

新基準は2020年から段階的に導入、2023年以降に完全実施

6

付加価値基準（RVC）引き上げスケジュール

（出所）米通商代表部（USTR）、USMCA協定条文案などを基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

賃金条項の引き上げスケジュール

完成車のRVCと賃金条項は共に、

2020年1月（又は協定発効日のど

ちらか遅い方）から段階的に引き上

げられ、2023年1月から完全実施。

小型トラックの賃金条項については、

段階を設けず、初年度から実施。

時給16ドル以上の労働者による生

産割合を規定した賃金条項は、

三要素から成る。完成車又は部

材の製造にかかった労務費で満た

す割合が段階的に設定されており、

残りの10%までは域内のR&DやIT関

連の人件費、5%までは域内のエン

ジン･変速機･次世代電池工場向

けクレジットを充当することが可能。

現状、時給16ドルの賃金要件を

満たすのは米国とカナダのみであり、

両国の完成車･部品生産に有利

に働くとみられる。

但し、時給16ドルは名目賃金であり、

インフレーションなど物価変動があ

る時は実質賃金が上昇しないため、

全米最大の労働団体AFL-CIOは、

賃金条項の効力に懐疑的な見方。

※3 域内に所在する時給16ドル以上の完成車工場の労務費および、時給16ドル以上で生産された部材の年間購入額（APV）の合計を求め、その 合計額が完成車のネットコスト（又は完成車工場の労務費と部材購入額の総額）に占める割合を計算（時給16ドル以上の輸送賃金も算入可） ※4 完成車メーカーが域内に有する（又は長期調達契約を交わす）時給16ドル以上の工場が対象で、エンジン・変速機工場は年産規模10万基 以上、次世代電池は年産2.5万パック以上がクレジット獲得の条件

※1 一定条件を満たす場合、完成車メーカーの2019年（協定発効前年）北米生産の10%に相当する台数まで、RVC75%の適用を2025年1月まで猶予 ※2 完成車メーカーが前年度に北米で購入した鉄鋼・アルミの70%以上が域内原産品であること

2020年1月 2021年1月 2022年1月 2023年1月

付加価値基準（RVC） 乗用車・SUVおよび小型トラック 66% 69% 72% 75%※1

鉄鋼･アルミ 完成車メーカーが購入する鉄鋼･アルミの域内調達率※2 70%

（時給16ドルには福利厚生費含まず） 2020年1月 2021年1月 2022年1月 2023年1月

乗用車・SUV

賃金条項 （時給16ドル以上） 30% 33% 36% 40%

完成車･部材の製造にかかる労務費※3 （下限） ≥15% ≥18% ≥21% ≥25%

R&D・IT関連の北米人件費 （上限） 10% 10% 10% 10%

エンジン、変速機、次世代電池工場※4 （上限） 5% 5% 5% 5%

小型トラック

賃金条項 （時給16ドル以上） 45% 45% 45% 45%

完成車･部材の製造にかかる労務費※3 （下限） ≥30% ≥30% ≥30% ≥30%

R&D・IT関連の北米人件費 （上限） 10% 10% 10% 10%

エンジン、変速機、次世代電池工場※4 （上限） 5% 5% 5% 5%

柔軟措置

柔軟措置

（ご参考）自動車の関税分類

関税分類上の定義では、「小型トラック」に含まれるのはピックアップとバン

7 （出所）米通商代表部（USTR）、USMCA協定条文案、米国際貿易委員会（USITC）資料、など各種資料を基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

自動車分野の原産地規則の対象

となるのは、大型トラック（Heavy Truck）を除くと、HS8703項の乗用自

動車およびHS8704項の貨物自動車。

関税分類上の定義は、販売統計

上の車種区分と若干異なる模様で、

米国国際貿易委員会（USITC）の

調査資料では、SUVとミニバンは

HS8703（乗用自動車）に分類され、

HS8704（貨物自動車、Light Truck）にはバンとピックアップトラックが含ま

れている。

これに従い本稿では、HS8703を「乗

用車・SUV」、HS8704を「小型トラッ

ク」として表記を統一した。

関税分類番号（HSコード）

自動車の区分

販売統計上の定義 車種区分 関税分類上の定義 乗用車 Passenger car

小型車 HS:8703 （乗用自動車） Passenger vehicle

中型セダン 高級セダン 大型セダン

ライトトラック Light Truck

クロスオーバー（CUV） SUV ミニバン バン(貨物、カーゴバン） HS：8704 （貨物自動車）

Light Truck ピックアップトラック

乗用車・SUV

小型トラック

本稿の表記

HS：87類 （自動車及び その部品）

HS：8701（トラクター） HS：8702（バス） HS：8703 （乗用自動車：ステーションワゴンやレーシングカーを含み、主として人員の輸送用） Passenger vehicle

HS：8703.21（ガソリン車1,000cc以下） HS：8703.22（ガソリン車1,000cc超、1,500cc以下） HS：8703.23（ガソリン車1,500cc超、3,000cc以下） HS：8703.24（ガソリン車3,000cc超） HS：8703.31（ディーゼル車1,500cc以下） HS：8703.32（ディーゼル車1,500cc超、2,500cc以下） HS：8703.32（ディーゼル車2,500cc超） HS：8703.90（その他のもの－電動車など）

HS：8704 （貨物自動車 ） Light truck

HS：8704.21（ガソリン車、総重量5トン以下） HS：8704.31（ディーゼル車、総重量5トン以下） HS：8704.31.000（その他）

HS：8704.31.100（ノックダウン） 2桁（類） 4桁（項） 6桁（号） 7桁以降は各国による

HSコードが細かくなるにつれ、品目が特定される仕組み

部品の原産地規則変更のポイント

部品でも関税ゼロの条件が厳格化、高付加価値部品の域内生産を促す内容

8

部品の付加価値基準（RVC）引き上げスケジュール

（出所）米通商代表部（USTR）、USMCA協定条文案などを基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

部品の原産地規則の主な変更点 現在NAFTAでは、部品の多くが関

税分類変更基準（CTC）、又はトレ

ーシング採用のRVC60%達成で原

産性を満たしているが、USMCAでは、

トレーシング制度が廃止される代わ

りに、3区分のRVC（P.9参照）が段

階的に各65%-75％へ引き上げられ、

CTCは適用が一部制限される模様。

新協定では、迂回輸入を防ぐため、

原産地規則が厳格化されるが、同

時にRVC達成を助ける救済規定

（デミニマスの閾値拡大、非原産材

料に含まれる域内加工費や内製中

間材料の扱い方など）が協定文案

に盛り込まれている点も注目される。

更に新協定では、高付加価値部品

の生産・雇用拡大を狙い、エンジン

や変速機、サスペンションなど7種類

の部品の域内調達を促す「スーパー

コア部品」の概念が導入される。

スーパーコア部品は、完成車の原産

性を判断する基準。7品目の部品

がスーパーコア部品としてRVC基準

を満たさないと、完成車の原産性は

認められない（P.10参照）。スーパー

コア部品には、基幹部品と同じRVC引き上げスケジュールが適用される。

2020年1月 2021年1月 2022年1月 2023年1月

付加価値

基準（RVC）

基幹部品（Core） 15品目 66% 69% 72% 75%

スーパーコア部品 7品目 （完成車の原産性を認定する条件） 主要部品（Principal） 53品目 62.5% 65% 67.5% 70%

補完部品（Complementary） 28品目 62% 63% 64% 65%

NAFTA USMCA エンジンおよび変速機 62.5% 付加価値基準

（RVC） 基幹部品（Core） 75%

その他の部品 60% 主要部品（Principal） 70% 補完部品（Complementary） 65%

CTCも適用可 関税分類変更

基準（CTC）※1 基幹部品（リチウムイオン電池以外）はCTC適用不可 主要部品と補完部品は、CTCも適用可※2

CTC基準を満たさない非原産材料の価額割合が

7%以下であれば、無視できる （閾値7％） デミニマス CTC基準を満たさない非原産材料の価額割合が

10%以下であれば、無視できる （閾値10％）

トレーシング対象部品が域外産の場合、輸入時の価額を

RVC計算の非原産材料費に計上（ロールアップできない） トレーシング制度

無し

無し

スーパーコア部品※3 下記7品目がスーパーコア部品としてRVCをクリアしなけ

れば、完成車の原産性は認められない

①エンジン、②変速機、③車体・シャシー、④アクスル、

⑤サスペンションシステム、⑥ステアリングシステム、

⑦次世代電池（リチウムイオン電池）

※1 非原産材料と最終産品の間で、関税分類番号（HSコード）が変更されるような加工が行われていれば、当該産品を原産品と認める基準 ※2 関係者･業界団体によると、主要部品と補完部品は原則、CTCも適用できるが、品目別原産地規則（PSR）を確認し、当該HSコードに注釈があ る場合は注釈に従う。NAFTAでCTCが使えなかった品目は、引き続き適用不可 ※3 スーパーコア部品のRVC算出に際しては、7品目を一つの固まりと捉えてRVCを計算してよい（協定文4章附属書4-B.3条9項、Jetro）

「基幹」、「主要」、「補完」部品の品目リスト

パワートレイン系や電装系部品を中心に、NAFTAトレーシングの対象外だった品目も追加

9 （出所）米通商代表部（USTR）、USMCA協定条文案、NAFTA協定文、Jetro資料などを基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

840731 ガソリンエンジン(シリンダー容量50ｃｃ以下) 840732 ガソリンエンジン(シリンダー容量50cc超250cc以下) 840733 ガソリンエンジン(シリンダー容量250cc超1,000cc以下) 840734 ガソリンエンジン(シリンダー容量1,000cc超) 840820 ディーゼルエンジン（ピストン式圧縮点火内燃機関） 840991 ガソリンエンジン用部品 840999 ガソリンエンジン用部品 850760 リチウムイオン電池 870600 自動車用原動機付シャシ 870710 車体（乗用自動車） 870790 車体（その他） 870840 変速機および同部品 870850 駆動軸/非駆動軸および同部品 870880 ショックアブソーバー 870894 ハンドル/ステアリングコラム/ステアリングボックス、同部品

401110 ゴム製空気タイヤ（新品） 401120 ゴム製空気タイヤ（新品） 401211 ゴム製空気タイヤ（更生） 401212 ゴム製空気タイヤ（更生） 401219 ゴム製空気タイヤ（更生） 401310 ゴム製インナーチューブ 700711 車両用強化ガラス 700721 車両用合わせガラス 700910 バックミラー 841330 燃料用、潤滑油用、冷却媒体用ポンプ 841350 液体ポンプ 841391 液体ポンプ用部品 841430 カーエアコン用コンプレッサ- 841459 ターボチャージャー、スーパーチャージャー 841480 自動車用気体ポンプ、気体圧縮機 841520 カーエアコン 841590 カーエアコン用部品（コンデンサー、コントロール

パネル等） 847989 電動ブレーキABS、ESC 848210 玉軸受 848220 円すいころ軸受 848230 球面ころ軸受 848240 針状ころ軸受 848250 その他の円筒ころ軸受 848280 その他の軸受 848291 玉、針状ころ及びころ 848310 伝動軸及びクランク 848320 軸受箱（玉軸受又はころ軸受を有するもの） 848330 軸受箱（玉軸受又はころ軸受を有するものを

除く）及び滑り軸受

848340 歯車、歯車伝動機、ボール・ローラースクリュー、ギヤボックスその他の変速機

848350 フライホイール 848360 クラッチ及び軸継手 848390 歯付きホイールなど伝動装置の構成部品 850132 電気自動車用モーター（出力750W超 75kW以下） 850133 電気自動車用モーター（出力75kW超375kW以下） 850520 電磁式カップリング、クラッチ及びブレーキ 850590 その他電磁式部品 851140 スターターおよび始動充電発電機 851150 その他の発電機 851180 内燃機関の点火機器 851190 内燃機関の点火機器部品 853710 電気制御/配電用盤・パネル(1,000V以下) 870810 バンパー 870821 シートベルト 870829 車体用プレス部品 870830 ブレーキ/サーボブレーキおよびブレーキ部品 870870 軽合金製ホイール（スポーツタイプ等） 870891 ラジエーターおよび同部品 870892 マフラー/排気管および同部品 870893 クラッチ（完成品） 870895 エアバッグおよび同部品 870899 その他の自動車部品 940120 自動車用の座席 940190 自動車用の座席部分品

基幹部品 (C

ore) R

VC

75%

主要部品

(Prin

cipal) R

VC

70%

400912 ゴムの管及びホース、継手 400922 ゴムの管及びホース、継手 400932 ゴムの管及びホース、継手 400942 ゴムの管及びホース、継手 830120 ドアロック 842139 触媒コンバーター 848120 油圧伝動装置用または空気圧電動装置用弁 848130 逆止弁 848180 その他の弁 850110 電動機/発電機(出力37.5W以下) 850120 交直両用電動機(出力37.5W超) 850131 直流電動機/発動機(出力750W以下) 850720 その他の鉛蓄電池 850730 ニッケル・カドミウム蓄電池 850740 ニッケル・鉄蓄電池 850750 ニッケル・水素蓄電池 850780 その他の蓄電池 851130 ディストリビューター、イグニッションコイル 851220 照明機器、可視信号用機器 851240 ワイパー 851981 自動車用音声再生機 853650 電気回路用スイッチ 853690 その他の電気回路用機器 853910 シールドビームランプ 853921 タングステンハロゲン電球 854430 点火用配線セットその他配線セット 903180 その他の測定用・検査用機器 903289 自動調整機器でサーモスタット、マノスタット以外

補完部品 (C

om

plem

entary) R

VC

65%

※従来NAFTAのトレーシング対象に含まれていなかった品目を赤で記載

（ご参考）スーパーコア部品

完成車の原産性判定の基準、7部品を一つの固まりと捉えRVC計算できる模様

10

協定文案 ： スーパーコア部品のRVC算出

Table A.2 Column 1 Column 2

スーパーコア部品 構成部品

1 エンジン ヘッド、ブロック、クランクシャフト

クランクケース、ピストン、ロッド、

ヘッドサブアセンブリー

2 変速機 トランスミッションケース、トルクコンバーター

トルクコンバーターハウジング、

ギアおよびギアブラケット、クラッチ

バルブボディー

3 車体およびシャシー 車体パネル、セカンダリーパネル

構造パネル、フレーム

4 アクスル アクスルシャフト 、アクスルハウジング（車軸管）

アクスルハブ、キャリアー

ディファレンシャル

5 サスペンションシステム ショックアブゾーバー、ストラット、

アーム、スウェイバー、ナックル、

コイルスプリング、リーフスプリング

6 ステアリングシステム ステアリングコラム、ステアリングギア・ラック、

コントロールユニット

7 次世代電池 セル、モジュール、パック

（出所）MEMA資料、USMCA協定条文案、Jetroなどを基にMUFGユニオンバンク戦略調査（ニューヨーク）作成

スーパーコア部品（Table A.2 Column1）のRVC計算

Column1の7品目を一つの固まりと捉えてRVCを算出してよい

Further to paragraph 8 of this Article, each Party shall provide that the regional value content may also be calculated, at the producer’s option, for all parts under Column 1 of Table A.2 of this Appendix as a single part, using the sum of the net cost of each part listed under Column 1 of Table A.2 of this Appendix, (....) （協定文案4章附属書4-B.3条9項）

RVC算出に際しては、7品目それぞれのネットコストを合算し、非原産材料費（VNM）としては、（a）7品目それぞれのVNMの合計、又は（b）構成部品（Column2）に非原産品がある場合その合計額、のどちらかを選択可

Each Party shall provide that for the purposes of calculating the regional value content under Article 5 of Chapter 4 for a part under Column 1 of Table A.2 of this Appendix, the value of non-originating materials (VNM) is, at the vehicle producer’s option: (a) the value of all non-originating materials used in the production of the part; or (b) the value of any non-originating components used in the production of the part that are listed under Column 2 of Table A.2 of this Appendix. （協定文案4章附属書4-B.3条8項）

スーパーコア部品（Table A.2 Column1）と構成部品（同Column2）の定義

詳細な品目の定義や規定については今後、加筆訂正の余地あり

Each Party shall provide that (....) The Parties shall endeavor to provide, as appropriate, any additional description or other clarification to the list of the parts and components under Table A.2 of this Appendix, such as by tariff provision or product description, to facilitate implementation of this requirement （協定文案4章附属書4-B.3条7項）

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