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224 日本 機 械 学 会 論 文 集(A編) 72巻714号(2006-2) 文 No.05-0461 電 気 活 性 高 分 子Nafion 117の電 気刺 激 に よ る変 形 と材料 特 性* 岡 本 伸 吾*, 桑 原 克 典*2, 大 塚 覚 郎*3 Electrical Stimuli-induced Deformation and Material Properties of Electro-Active Polymer Nafion 117 Shingo OKAMOTO*4, Katsunori KUWABARA and Kakurou OTSUKA *4 Departmet ofMechanical System Engineering ,Hiroshlma Universlty, 14-1 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima, 739-8527 Japan The purpose of this research is to develop a method to perform a finite-element analysis (FEA) coupling diffusion of water and structure (deformation) on electro-active polymer (EAP) such as Nafion 117 electrified in the water. In the resent report, some experiments were carried out to find properties of Nafion 117 that will be used in the FEA. First, the experiments in which wet Nafion 117 was electrified in the distilled water were performed to examine relations between voltage, current and deformation. Then the volume content of water on Nafion 117, coefficient of linear expansion and specific volume were determined measuring the volume and mass of test pieces of dried and wet Nafion 117. Then the experiment on free vibration of a cantilever of wet Nafion 117 in the distrilled water and the FEA following the experiment were carried out in order to find Young's modulus of the wet Nafion 117. The coefficients, α and β of Rayleigh were also found by comparing the experimental results and the calculated ones. Key Words : Finite Element Method, Diffusion, Electro Active Polymer, Nafion 117, Young's Modulus 1. 緒 電 気 活 性 高 分 子(Electro-Active Polymer: EAP)材 料は 水 溶液 中 に 浸 し,水 を 浸 透 させ た 状 態 で 通 電 す る と変 形 す る こ とが 知 られ て い る.このEAPは,変 形 す る と きの応答が速い,小 さな電流で大変形する,また制御 が容易である,さ らに人体に無害である等の理由で, EAPを使用 した アクチ ュエー タは,今後 医療分野で, た とえ ば脳 血栓 等 の治 療 に 用 い られ る カ テ ー テ ル と し て利 用 で き るの で は な い か と注 目 され て い る.EAPに 関 す る従 来 の研 究 で は,Nafion 117(EAPの 一 種)に通 電 す る 実験 を行 い,通 電 した とき 変形 す る こ とが確 認 さ れ て い る(1).ま た,乾燥 状 態 のNafion 117について微小 変 形 さ せ て ヤ ン グ 率 を 測 定 し て い る(2).し か し, Nafion 117は何 らかの水溶液 に浸 し,水 を浸透 させ た 状 態 で な い と通 電 して も変 形 し な い 。 従 っ て, Nafion 117の 材 料 特 性 を調 べ る とき は,Nafion 117を 溶 液 中 に浸 し,水 を浸 透 させ た状 態 で 材 料 試 験 を行 う 必 要 が あ る.ま た,Nafion 117に水を浸透 させた状態 で通 電 す る と変 形 す る場 合 の計 算 を行 うた めの 基 礎 式 を導 出 した り,計 算 手 法 を提 案 して い る報 告 は 見 あ た らな い. 本 報 は,Nafion 117に含水 させ た状態 で通 電 した と き の 変 形 挙 動 を有 限 要 素 解 析(FEA)に より模擬するた めに必要 な,通 電 した ときのNafion 117の変形挙動と Nafion 117の物理量 を求 め ることを 目的 としてい る. ま ず,短 冊 状 のNafoin 117の両側に電極 として金メ ッキ(付録1参 照)を施 した 試 験 片 を蒸 留 水 中 に 浸 し, 水 を浸 透 させ た 状 態 で 通 電 す る実 験 を 行 い,Nafion 117 に 加 わ る電圧 と電 流 お よびNafion 117の変形変位を測 定 し,電 圧 と電 流 お よび変 形 変位 との 関係 を 求 め た. 次 に,乾 燥 状態 お よび 含 水 した状 態 のNafion 117の 積 と質 量 を測 定 し,Nafion 117に含水 した ときの水の 体 積 含水 率 と体 積 含水 率 の増 加 に よ る線 膨 張 係 数 お よ び 比 体 積 を 求 め た.さ ら に,Nafion 117に水を浸透さ せ た 状 態 の ヤ ン グ率 を 調 べ るた め に,一 端 を 固定 した Nafion 117の試験片 を水槽 に浸 した状 態で 自由振動 さ せ 固有 周 期 を測 定 す る とと も に,ANSYS V er.7.11(汎 用 有 限 要 素 解 析 ソ フ ト)を 用 い て,実 験 を模 擬 した *原 稿 受 付2005年4月20日 *1正員 ,広 島 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科(〓739-8527東 広島市鏡 山1-4-1). *2帝人 フ ァ ー マ(株)医 療 技 術 研 究 所(〓740 -8511岩国市日の 出 町2-1). *3広島 大学 大学 院 工学 研 究科(〓739 -8527東広 島市 鏡 山1-4- 1). E-mail : okamoto @ mec.hiroshima-u.ac.jp 68

電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

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Page 1: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

224

日本機械 学会論文集(A編)

72巻714号(2006-2)

論 文 No.05-0461

電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激 による変形 と材料特性*

岡 本 伸 吾*, 桑 原 克 典*2, 大 塚 覚 郎*3

Electrical Stimuli-induced Deformation and Material Properties of

Electro-Active Polymer Nafion 117

Shingo OKAMOTO*4, Katsunori KUWABARA and Kakurou OTSUKA

*4 Departmet of Mechanical System Engineering, Hiroshlma Universlty,

14-1 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima, 739-8527 Japan

The purpose of this research is to develop a method to perform a finite-element analysis (FEA) coupling diffusion of water and structure (deformation) on electro-active polymer (EAP) such as Nafion 117 electrified in the water. In the resent report, some experiments were carried out to find

properties of Nafion 117 that will be used in the FEA. First, the experiments in which wet Nafion 117 was electrified in the distilled water were performed to examine relations between voltage, current

and deformation. Then the volume content of water on Nafion 117, coefficient of linear expansion and specific volume were determined measuring the volume and mass of test pieces of dried and wet Nafion 117. Then the experiment on free vibration of a cantilever of wet Nafion 117 in the distrilled water and the FEA following the experiment were carried out in order to find Young's modulus of the wet Nafion 117. The coefficients, α and β of Rayleigh were also found by comparing the

experimental results and the calculated ones.

Key Words : Finite Element Method, Diffusion, Electro Active Polymer, Nafion 117, Young's

Modulus

1.  緒 言

電気活性高分子(Electro-Active Polymer: EAP)材 料は

水溶液 中に浸 し,水 を浸透 させた状態で通電す ると変

形す ることが知 られてい る.こ のEAPは,変 形す ると

きの応答 が速い,小 さな電流で大変形す る,ま た制御

が容易であ る,さ らに人体に無害であ る等の理由で,

EAPを 使用 した アクチ ュエー タは,今 後 医療分野で,

た とえば脳 血栓 等の治 療に用い られるカテーテル とし

て利 用でき るのではないか と注 目されてい る.EAPに

関す る従 来の研 究では,Nafion 117(EAPの 一種)に通電

す る実験 を行 い,通 電 した とき変形 す ることが確 認 さ

れ ている(1).また,乾 燥状態 のNafion 117に ついて微 小

変 形 させ て ヤ ング 率 を測 定 して い る(2).し か し,

Nafion 117は 何 らかの水溶液 に浸 し,水 を浸透 させ た

状 態 で な い と通 電 して も変 形 し な い 。 従 っ て,

Nafion 117の 材料特性 を調べ る ときは,Nafion 117を 水

溶液 中に浸 し,水 を浸透 させ た状態で材料試験 を行 う

必要 があ る.ま た,Nafion 117に 水 を浸透 させ た状態

で通電す る と変形す る場 合の計算 を行 うた めの基礎式

を導 出 した り,計 算手法 を提案 してい る報告は見あた

らない.

本報 は,Nafion 117に 含水 させ た状態 で通 電 した と

きの変形挙動 を有 限要素解析(FEA)に よ り模擬す るた

めに必要 な,通 電 した ときのNafion 117の 変形挙動 と

Nafion 117の 物理量 を求 め ることを 目的 としてい る.

まず,短 冊状のNafoin 117の 両側に電極 として金メ

ッキ(付録1参 照)を施 した試験片 を蒸留水中に浸 し,

水 を浸透 させた状態で通電す る実験を行い,Nafion 117

に加わ る電圧 と電流お よびNafion 117の 変形変位 を測

定 し,電 圧 と電流お よび変 形変位 との関係 を求めた.

次に,乾 燥状態 お よび含水 した状態 のNafion 117の 体

積 と質量 を測定 し,Nafion 117に 含水 した ときの水の

体 積含水 率 と体積 含水 率の増加 による線膨張係数お よ

び比体積 を求めた.さ らに,Nafion 117に 水 を浸透 さ

せた状態のヤ ング率を調べ るために,一 端 を固定 した

Nafion 117の 試験片 を水槽 に浸 した状 態で 自由振動 さ

せ 固有周期 を測定す る とともに,ANSYS V er.7.11(汎

用有 限要 素解析 ソフ ト)を 用 い て,実 験 を模 擬 した

*原 稿 受付2005年4月20日。

*1正 員,広 島 大 学大 学 院 工 学 研 究科(〓739-8527東 広 島 市 鏡

山1-4-1).*2帝 人 フ ァー マ(株)医 療技 術研 究 所(〓740 -8511岩 国 市 日の

出町2-1).*3広 島 大学 大学 院 工学 研 究科(〓739 -8527東 広 島市 鏡 山1-4-

1).

E-mail : okamoto @ mec.hiroshima-u.ac.jp

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Page 2: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

電気活性 高分子Na丘on117の 電 気刺激 によ る変形 と材 料特性 225

FEAを 行った.さ らに,Nafin 117に 金メ ッキを施 し

た試験 片 の比例粘性係 数(レイ リー減衰係数)を求 める

た めの実験 を行 った.

2. 通 電 実 験

Nafion 117(Dupon,厚 さ0.185[mm])を 水溶液 中に浸 し,

水 を浸透 させ た状態 で通電 しNafion 117を 変形 させ,

Nafion 117に 加わ る電圧 と電流お よび変位 を測定 した.

2・1 試験片 図1に 試験片の構成 と形状 ・寸法 を

示す.図1に 示す よ うにNafion 117の 層の表面に電極

として金 メッキを施 した.金 メ ッキの厚 さについては,

試験 片の断面 を光学顕微鏡で撮 影 し,撮 影 した画像 か

ら厚 さ を 求 め た.測 定 した 金 メ ッ キ の 厚 さ は

0.007[mm]で あった.

2・2 実験装置 と実験方法 実験装 置 と測定 シス

テ ムの概略 を,そ れぞれ図2と 図3に 示す.ガ ラス容

器(1辺 の長 さが100[mm]の 立方体容器)には,蒸 留水(イ

オ ン交換水)を80[1]の 深 さまで入れ た.ま た,試 験

片 については,試 験片 の端 か ら5[mm]の 部分 を白金電

極で挟みく試験片 の有効長 さは25[mm]),深 さが40[mm]

の位置で水平に固定 した.試 験片 に通電す るための電

源 としては,直 流安定化電源(KENWOOD, PR18-3A)

を用い,試 験片にステ ップ波形の電圧Vaを9秒 間加 え

た.試 験片 にステ ップ波形 の電圧 垢 を加 えた場合 の

a-b区 間の電圧7とc-d区 間の抵抗(1[Ω])の電圧V′の

値 を測定 した(図3参 照).測 定結果 は,デ ー タ収集 シ

ステ ム(KEYENCE, NR-110).を 経 由 して,パ ー ソナ

ル ・コンピュータに取 り込 んだ.ま た,電 流 につ いて

は,オ ー ムの法則 を用いて,測 定 した電圧V'か ら電

流I(I=V′/R,R:抵 抗)を求 めた.

次 に,通 電 した ときの試験片 の変位uに つ いては,図

3に示す よ うに,試 験 片 の先端 か ら5[mm]の 位置(測 定

点pm)の変位 を レーザ変位 計(KEYENCE,LB()1/LB-6

0)を用 いて測定 した.さ らに,図2に 示す よ うに,試 験

片の変形挙動 をビデオ ・カメラ(SONY,DCR.TRV20)

で撮影 し,撮 影 した画像 をパー ソナル ・コン ピュー タ

に取 り込 んだ.そ して,取 り込んだ画像

について画像解析を行い測定点pmにおける変位を求め

た.レ ーザ変位計で測定した変位は,ガ ラス容器や蒸

留水の影響を受けているので較正をしなければならな

い.そ こで,画 像解析で得られた変位を用いてレーザ

Fig. 1 Composition and dimensions of test piece.Fig. 2 Schematic representation of experimental set-up

Fig. 3 Schematic representation of measuring system

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Page 3: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

226 電気活 性高分子Nafion 117の 電気刺 激に よる変形 と材料特性

変位計 で測 定 した変位 の較正 を行 った.較 正方法 とし

ては,レ ーザ変位 計で測定 した ときの最大変位 が画像

解析 で得 られ た最 大変位 と一致 するよ うに較 正値 を決

めた.較 正値 は,試 験片 に加 える電圧Va=1.0[V],1.5[V],

1.7[V]に対 して,そ れぞれ1.55,127,1,44で あった.

2・3 結 果 測 定 は試験 片 に加 え る電圧 がVa=

1.0[V],1.5[V],1.7[V]の 場合 について行 った,試 験 片

にVa=1.7[V]を 加 え試験 片の変位 が最 大 となった とき

の画像 を図4に 示す.そ して,試 験片に加 えた電圧が

Va=1.0[V],1.5[V],1.7[V]の 場 合の測定結果 を,そ れ

ぞれ図5,図6,図7に 示す.図5,図6,図7の(1)

には試 験片を水溶 液中に浸 し水 を浸透 させ た状態で通

電 した場 合の試 験片に加 わった電圧7を,(2)に は電流

1を,(3)に は レーザ変位 計に より測 定 された変位(実線)

と画像解析 によ り得 られた試験片 の変位(丸 印)を示す.

試 験片 に加 わった電圧7は,図5,図6,図7の(1)に

示 す よ うに,徐 々に大 きくな り1秒 後 に直流安定化電

源 の試 験片に加 えた電圧vaの 値 に漸近 した.ま た,直

流安定化電源 の試 験片 に加 えた電 圧Vaの 値 が大 きい

ほ ど試験 片 に加 わ った電圧Vは 大 きくな った.試 験片

に流れ る電流Iの 値 は,図5,図6,図7の(2)に 示す

よ うに,通 電 した瞬間(t-10[ms】 まで)急激 に上昇す る

が,そ の後,通 電 し続 けて も徐 々に電流Iの 値は減少

し,1秒 後にゼ ロの値に漸近 した,ま た,変 形挙動は,

試 験 片に流れ る電流が 大きい問(通電 し始 めてか ら約

0.5秒 間)に試験片 は陰極側か ら陽極側 に屈 曲 し,そ の

後,電 流が小 さくな るに従 って変位 は減少 した。また,

試験片に流れ る電流が大 きい ほど変形量が大 きくなる

結果 が得 られた.

(1) Voltage measured in test piece

(2) Current flowing in test piece

(3) Displacement measured at measuring point

3. 体 積 含 水 率 と線 膨 張 係 数 お よ び 比 体 積

Nafin 117に 水 を浸透 させた ときの水 の拡 散方程式

(付録2参 照)を解 くた めに必要なNafion 117の 物理量 を

求 め る.

3・1 体 積含 水率(功 の定義 乾燥 状態 の体積 が

νdpのNafion 117が 吸収 した水の体積 を νaqとす る とき,

体積 含水率Hを 次 式で定義 した.

(1)

Fig. 4 Exposure when test piece caused maximum Deformation due to Va = 1.7 [V]

Fig. 5 Voltage, current and displacement when Va = 1.0[V]

was applied to test piece

70

Page 4: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

電気活性 高分子Na負on117の 電気 刺激 による変形 と材料 特性 227

(1) Voltage measured in test piece

(2) Current flowing in test piece

(3) Displacement measured at measuring point

ここで,乾 燥状態 の体 積 含水率 を 萬 とす る と,乾 燥状

態では νaq=0な のでH0=0と なる.

3・2 体 積含 水率の増 加 によ る線膨 張係 数(λ)の 定

義Nafion 117は 水 を吸収す る と膨 張す る.体 積 含

水率が 私 もとの長 さがlのNafion 117が 水 を吸収 し

体積含 水率がΔHだ け増加 し,長 さが Δlだ け伸びた場

合の線膨 張係数 λを次式で 定義 した.

(2)

3・3比 体積(cq)の定義 体積含水率がHで 質量が

mdpのNafion 117の体積含水率をΔHだ け上昇させる

水の体積をΔνaqとするとき,比 体積cqを次式で定義し

(1) Voltage measured in test piece

(2) Current flowing in test piece

(3) Displacement measured at measuring point

た.

(3)

ここで,Cqは 単位 質量のNafion 117の 体積 含水 率Hを

1だ け上昇 させ るために必要な水の体積 を表 してい る.

次 に,乾 燥 状態 のNafion 117が 平衡状態にな るまで

水 を吸収 した ときの水の体積 をΔνaqeq,体積 含水率 を

Heqと す る.ま た,比 体積Cqは 一定で あると仮定す る

と,体 積 含水 率がHeqの ときの比体積 ら は次式で求 め

られ る.

Fig. 6 Voltage, current and displacement when Va = 1.5[V]

was applied to test piece

Fig. 7 Voltage, current and displacement when Va = 1.7[V] was applied to test piece

71

Page 5: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

228 電気活性 高分子Nafion 117の 電 気刺激 によ る変形 と材 料特性

(4)

3・4 試験 片Nafion 117に 水 を浸透 させ 平衡状態

になった場合の体積 含水率NとHの 増加(ΔH)に よ

る線 膨張係数 λを求めた.

試験 片 としては,乾 燥状態での厚 さI1がl1=0.16[mm],

縦 と横 の長 さl2とl3が,そ れぞれl2=l3=20[mm]の

Nafion 117の 薄 膜材 を用 いた.

3・5 試験方法 試験片 を蒸留水中 に浸 し,試験 片

に水 を十分浸透 させ平衡状態 になった場合の試験片 の

質量 鞠 閃を電子天秤(島津製 作所,AEL-200)で 測定 し

た.さ らに,試 験片の土法(l1,I2,l3)を 測定 し水 を浸

透 させた場合の試験片の体積 νwpeqを求めた.次 に,試

験片 を乾燥 機(Masuda,DRYING-OVEN SA-30)で 十分

に乾 燥させ,試 験片 に水 を浸 透 させ た場 合 と同様 に,

乾燥状態 での試験片 の質量mdpと 寸法(l1,l2,l3)を 測

定 し,乾 燥状態 での試験片 の体積 νdpを求 めた.

試験片 が平衡状態 になるまで吸収 した水 の体積 νaqeq

は,水 の密度 を ρaqとす る と次式 で表 され る.

(5)

したがって,試験片u水 を吸収し平衡状態になった場

合の体積含水率Heqは,式(1)を 用いて次式で求めた.

(6)

次に,体積含水率の増加による線膨張係数λ は,式(2)

を用いて次式で求めた.

(7)

ここで,ε は各方向の単位長さ当たりの伸びの平均値

であり次式で表される.

(8)

3・6 結果3枚 の試験片について測定した.試 験

片に水を浸透させた場合の結果を表1に,乾 燥状態で

の結果を表2に 示す.さ らに,表1と 表2に 示した測

定結果を用いて計算した,Nafion 117に 水を浸透させ

平衡状態になった場合の体積含水率Heqと 体積含水率

Table 1 Dimensions, volume and mass of wet

Nafion 117.

Table 2 Dimensions, volume and mass of dried

Nafion 117.

Table 3 Volume content of water in equilibrium Heq,

coefficient of linear expansion λ and spe-

cific volume cq.

72

Page 6: 電気活性高分子Nafion 117の 電気刺激による変形と材料特性* 岡 …

電気活性 高分子Nafion 117の 電気 刺激 による変形 と材料 特性 229

の増加に よる線膨 張係数 λお よび比体積Cqの 結果 を

Table3に 示す.Heqと λお よびCqの 平均値 は,そ れぞ

れHeq=0.434((mm3)aq/(mm3)dp],λ=0.243[(mm3)dp/

(mm3)aq],cq=465.3[(mm3)aq/(g)dp{(mm3)dp(mm3)dp}]で あ

った.

4. Nafion 117の ヤ ン グ 率

Nafion 117に 水を浸透 させた状態 のヤ ング率 を調べ

るために,一 端 を固定 したNafion 117の 試験片 を水槽

に浸 した状態 で 自由振動 させ固有周期 を測定す る とと

もに,実 験 を模擬 したFEAを 行 った.な お,水 中で試

験片を 自由振動 させ る とき,FEAに おい ては水 の付加

質量を考慮 しなけれ ばな らない場合が ある.し か し,

本実験 の場 合,試 験片が 自由振 動 するときの振幅(初期

変位:4.8[mm])と 速度(固有振動数:0.7[Hz])お よび水 の

抵 抗 を受 け る試験 片 の面積(90(mm2])は 十 分 に小 さい

ので水の付加質 量は無視 した.

4・1 実験装置 と試験片 実験装置 と して は,第2

章の通電実験で用いた装置 と同 じもの を用いた.ま た,

試 験片 として は,通 電 実験 で用い た試験 片 と同 じ形

状 ・寸法(厚 さ0.185[mm],図1参 照)で金 メッキを施 し

ていないNafion 117を 用 いた.

4・2 実験方法 一端固定の試験 片 の 自由端 に χ1

方 向(図2参 照)の 強制変位 を与 え,し ば らく保持 し

た後 に強制変位 を解放 し,自 由振動 させた場合 の試験

片 の 変 形 挙 動 を高 速 度 ビデ オ ・カ メ ラ(Photron,

FASTCAM-Eagle1000)で 撮影 した.撮 影 した画像 を解

析 して 自由端 の変位 の時刻歴 を求めた.

4・3 有限要素解析 実験 を模擬 したFEAを 行 っ

た.な お,FEAで はNafion 117の ヤ ング率 をパ ラメー

タ とし,ヤング率 の値 を色 々変 えて計算 した.そ して,

実験結 果 とFEAの 結 果 が良 く一致す る ときの値 を

Nafion 117の ヤ ング率 とした.

FEAモ デル としては,試 験片の固定端 か ら自由端 ま

での長 さが25[mm],幅 が4[mm],厚 さが0.185[mm]

の部分 を χ2=0に おけるχ1-χ3物面 につ いて対称 であるこ

とを利 用 して χ2≧0の 部分 をモデル化 した(図1と

図2参 照).有 限要素と しては8節 点=六面体要 素(Solid

45:ANSYSの 要素名,各 節点 にお いて並進3自 由度

を持つ)を 使 用 し,χ1(厚さ)方向に5等 分割,χ2(幅)方

向に16等 分割,χ3(長手)方向に160等 分割 した.総 要

素数 は12,800で あ る.

なお,FEAモ デル の 自由端 に強制変位 を加 える場 合,

急激に変位 を加 えると急激 に強制 変位 を加 えた ことに

よる過渡振動が現れるので,強 制 変位5[mm]を 加 え る

場合 は,準 静的 になるよ うに変位 を少 しずつ増加 させ

た.

また,境 界条件 としては,χ3=0の 固定端 に固定 の

拘 束条件 を与え,χ2=0に お ける χ1-χ3面に対称の条件

を与えた.以 上の条件下で,FEAモ デルの 自由端 に強

制変位5[mm]を 加 えた ときの時刻歴応答計算 を行 った.

4・4 結 果 図8に,強 制変位5[mm]を 解放 した後

の時刻歴 応答計算の 自由端にお ける結果 を示す.図8

の丸印(○)は 画像解析 によって得 られた 実験 結果 を表

している.ま た,実 線 はFEAに よる数値計算結果 を表

している.な お,ボ ア ソン比 として,ν=03の 値 を用

いた とき,ヤ ング率 と しては,En=7.0[MPa]の 値 を用

いた場合,実 験の固有周期 とよく一致 した結果が得 ら

れたのでEn=70[MPa]と した.FEAに は レイ リー減

衰(C=αM+βK,C:減 衰マ トリクス,M:質 量マ

トリクス,K:剛 性 マ トリクス,α ・β:比 例係数)

を用いたが,こ こでは α=0[s-1],β=0.034[s]と した.

5. レイ リー 減 衰 の 係 数

Nafi0n 117の 試験 片が水 中で振動す る場合,減 衰 と

しては厳密 にはNafion 117の 内部減 衰 と水 の抵抗 によ

る減衰 を考慮 しなけれ ばな らない場 合がおる.し か し,

本実験の場 合,前 述 した とお りに試験 片 が自由振動す

るときの振幅 と速度お よび水 の抵抗 を受 ける試験 片 の

面積は十分 に小 さいの で,水 の抵抗 による減 衰は無視

した.そ して,有 限要素解析 を行 う場合 のNafion 117

の内部減衰 の効果 を レイ リー減衰 で表 した.そ こで,

本章で は,金 メ ッキを施 したNafi0n 117の レイ リー減

衰 の比例係数 を求 めるために,第4章 と同 じ自由振 動

の実験 を行 うとともに,実 験 を模擬 したFEAを 行 った.

Fig. 8 Free vibration at free end of cantilever

composed of only Nafionl 17

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230 電気活性 高分子Nafi0n 117の 電 気刺激 によ る変形 と材 料特性

5・1 実験 実験装 置お よび試験 片 としては,第2

章の通電実験 で用いた もの と同 じものを用いた.そ し

て,第4章 の実験 と同様 に試験 片の一端 を固定 した 自

由振動 の実験 を行 い,得 られ た結果 を画像解析 し,自

由端 の変位 の時刻歴 応答 を求 めた.

5・2 有限要素解析 金 メ ッキを施 したNafion 117

の試験片 をFEAで モデル化す る場合の レイ リー減衰

の比例係数(α,β)を 求 めるた めに比例係数 の うち α

を零 と して,β をパ ラメー タと し,β の値 を色 々変 え

て計算 した.そ して,実 験結 果 とFEAの 結果 とがよ く

一致 ずる ときの βの値(α=0[s-1])を求 めた.

FEAモ デル として は,第2章 のモデル と同様 に対称

条件 を用 いて上半分 をモデル化 した.Nafion 117層 の

有限 要素 と しては,8節 点-六 面体要 素(Solid 45:

ANSYSの 要素名,各 節 点において並進3自 由度 を持

っ)を 使 用 し,x1(厚 さ)方向に5等 分割,x2(幅)方 向 に

16等 分割,x3(長 手)方向に160等 分割 した.金 メッキ

層 の有 限要素 としては,4節 点一四辺形要素(Shell 181:

ANSYSの 要 素名,各 節 点において並進3成 分 と 各軸

回 りの回転3成 分の6自 由度 を持つ)を 使用 し,x2(幅)

方 向に16等 分割 し,x3(長 手)方向に160等 分割 した.

総 要素数は15,360で あ る.

境界条件 としては,x3累0の 固定端 に固定の拘束条

件 を与 え,x2=0に おけるx1-x3面 に対 称の条件 を与え

た.Nafion 117層 のヤン グ率 としては,第4章 で得 ら

れ たEn=70[MPa],ボ アソン比 としては ν=0.3の 値 を

用 いた.ま た,金 メ ッキ層のヤ ング率 としては,Eg=

78[GPa】,ボ ア ソン比 としてはνg=0.43(3)の値 を用 いた。

以上の条件 下で,FEAモ デル の 自由端 に第4章 と同 じ

方 法で強制変位(4.16(mm])を 加 えた ときの時刻歴 応答

計算 を行 った.

5・3 結果 図9に,強 制変位 を解放 した後 の時刻歴

応答計算 の 自由端 における結果 を示す 図9の 丸印(○)

は画像解析 によって得 られ た実験結果 を表 してい る.

また,実 線 はFEAに よる数値計算結果 を表 してい る.

レイ リー減衰係数の うち αを零 とした場 合,β とし

てβ=0.02[s}の 値 を用 いた とき,実 験結果 とFEAの

結果 とが よく一致 していたので,α=0[s-1],β=0.02[s]

と した.

6. 結 言

結果 を以下 にま とめ る.

(1) Nafion 117に 含 水 させた状態で 通電 した ときの

Nafion 117に 加 わ る電圧 と電流 お よび変形変位 との関

係 を求 めた.

(2) 乾 燥 状 態 お よ び 水 を 浸 透 させ た 状 態 の

Nafion 117の 質量 と体積 を測定 し,平 衡状態での体積

含水率HeqとHの 増加 に ともな う線膨張係数 λお よび

比体積Cqを 求 めた。その結果,Heqと λお よびcqは,

それぞれHeq=0.434[(mm3)aq/(mm3)dp],λ=0.243(mm3)dp

/(mm3)aq],Cq=465.3[(mm3)aq/(9)dp{(mm3)aq(mm3)dp}]で あ

った.

(3) 含水 したNafion 117の ヤ ング率 瑞 を求 めるため

に,Nafion 117の 試験 片を水 に浸 した状態で 自由振動

の実験を行い,実 験結果 と実験 を模擬 したFEAの 結果

を比較 しなが らEnを 求 めた.そ の結果,En=7.0[MPa]

であった.

(4) 金 メ ッキを施 したNafion 117の 試験片 の レイ リー減 衰係数(α

,β)を 求 めるた めに,(3)と 同様 な自由

振動 の実験 を行 い,実験 結果 とα=0[s-1]のもとで β を

変化 させ たFEAの 結 果 とを比較 しなが らβの値 を求

めた.そ の結果,β=0.02(s](α=0[s-1})で あった.

謝 辞

金 メ ッキを施 したNafion 117を 提 供 していただ くと

ともに通電実験 に関す る助言 をいただいた産業技術総

合研究所関西セ ンター の安積欣志博士 に御礼 申し上げ

ます.

付 録

1. 金 メッキの方法Nafion 117の 表面に電極 として

金 を化学 メ ッキす る工程は,ま ず,Nafion 117の 表 面

をサ ン ドブ ラス トで粗化 し,表 面積 を増大 させ る.次

に,ジ クロロフェナ ン トロ リン金錯 体(Au(phen)Cl2]+の

Fig. 9 Free vibration at free end of cantilever

composed of Nafionl 17 and gold plate

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電気活性 高分子Nafion 117の 電気 刺激 による変形 と材料 特性 231

水溶液 中にNafion 117を 入れ,Nafion 117中 の陽イオ ン

(H+)と ジク ロロフェナ ン トロ リン金錯体[Au(phen)Cl2]+

のイオ ン交換 を行 う.さ らに,イ オ ン交換 を行 った

Nafion 117を40[℃]か ら70[℃]の 亜硫 酸ナ トリウム

(Na2SO3)水 溶 液 で 還 元 し,Nafion 117の 表 面 か ら

Nafion 117の 内 部 へ 金 を 析 出 成 長 させ る こ とで

Nafion 117の 表面 に金 のメ ッキが形成 され る.

2. 水 の拡散方程式

こ こで,H1 (x1, x2, x3, t)は 水 の 体 積 含 水 率,κdは 拡 散

係 数νc、 (x1, x2, x3, t)は 乾 燥 したNafion 117の 単 位 体 積

当たり単位時間あたりの水の体積増加率,ρdpは 乾燥

したNafion 117の密度,cqは 比体積である.

参考文献

(1) Asaka K., and Oguro K., Bending of Polyelectrolyte membrane platinum composites by electric stimuli,

Journal of Electroanalytical Chemistry, 480 (2000),

186-198.

(2) Y. Bar-Cohen et al., Electroactive Polymer Actuators as Artificial Muscles, (2001), 152-154, SHE Press.

(3) Physics encyclopedia editing committee et al., Physics encyclopedia (in Japanese), (1998), 2358, BA1FUKA N CO. LTD.

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