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低NA血症を呈した3症例の比較 与論徳洲会病院 ◯ 柘植志織 片桐欧 味志裕介
高杉香志也 久志安範
症例1 79歳男性
主訴 発熱
現病歴 来院日の朝より39.0度の発熱。喘鳴、SpO2低下(85% r.a)が出現。吸引にて多量の黄色痰を認め、SpO2も改善しないとのことで施設より紹介受診。
既往歴 HT 頸髄損傷C4,C5 BPH(尿閉にてFoly留置中)
慢性関節リウマチ 上行結腸、S状結腸憩室 偽性血小板減少症
誤嚥性肺炎+低Na×3回
内服 アムロジピン5mg1T1× マグミット250mg3T3× 大建中湯3包3×
身体所見
JCS 1-1 BP169/75mmHg HR87/分 BT37.9 RR30 SpO2 90%(r.a) 眼瞼結膜貧血なし 頸部リンパ節腫脹なし 心音 整 雑音なし 呼吸音 両側rhonchi 湿性ラ音 腹部平坦軟 腸蠕動音正常 圧痛なし 肝・脾腫大なし 四肢浮腫なし
検査所見
WBC 7010 μL Neu. 72.7 % Eo. 0.7 % Mono. 6.4 % Ly. 20.1% Baso. 0.1 % RBC 398万/μL Hb 13.6g/dl Plt 8.0万/μL
AST 17 ALT 17 ALP 173 LDH 179 γ-GTP 15 T-Bil 1.3 CK 58 TP 6.6 Alb 3.4 UA 3.6
IU/L IU/L IU/L IU/L IU/L mg/dl IU/L g/dl g/dl mg/dl
Na 132 K 3.8 Cl 95 BUN 9.0 Cre 0.6 Glu 87 HbA1c 5.3 Amy 30 CRP 8.6
mEq/L mEq/L mEq/L mg/dl mg/dl mg/dl % IU/L mg/dl
尿所見
Na 132mEq/l
K 26.9mEq/l
Cl 130mEq/l
Cre 18.5mEq/l
FENa 3.24%
比重 1.010
pH 8.5
糖 (ー) 蛋白 (1+) 潜血 (+-) RBC 5-9/HPF
WBC 1-4/HPF
細菌 (ー)
CT
尿浸透圧 388mOsm/l 血漿浸透圧 260mOsm/l AVP 1.1pg/mL ACTH 24.4pg/ml cortisol 16.0μg/dl TSH 1.0μIU/ml FT4 1.6pg/ml
122
124
126
128
130
132
134
136
来院時 4/27 4/30 5/5
乳酸リンゲル液
SBT/ABPC
乳酸リンゲル液
症例2
主訴 転倒 発熱 異食
現病歴 来院前日夜間2度転倒。その後より異食行動、意識レベルの軽度低下あり。来院当日午後より喘鳴、SpO2低下、夕方より39度台の発熱あり。精査加療目的で施設より紹介受診。
既往歴 COPD 陳旧性ラクナ梗塞 多発肋骨骨折 偽膜性腸炎 原発性骨粗鬆症 頚椎(C6)骨折
内服 シロスタゾール50mg4T2× アレンドロン酸35mg 1回/week
身体所見
身長152cm 体重42.7kg BMI 18.5 JCS Ⅱ-10 BP173/75mmHg HR101/分 BT39.2 RR20 SpO283-88%(r.a) Brudzinski徴候± 項部硬直なし 四肢麻痺なし 心音 整 雑音なし 呼吸音 両肺野crackles rhonchi 腹部平坦軟 腸蠕動音正常 圧痛なし 四肢浮腫なし
検査所見
WBC 5320μL Neu. 93.8% Eo. 0.0% Mono. 2.4% Ly. 3.8% Baso. 0% RBC 320万/μL Hb 11.5g/dl Plt 10.1万/μL
AST 46 ALT 39 ALP 265 LDH 211 γ-GTP 14 T-Bil 0.6 TP 5.6 Alb 3.0 UA 2.6
IU/L IU/L IU/L IU/L IU/L mg/dl g/dl g/dl mg/dl
Na 118 K 3.7 Cl 84 BUN 7.9 Cre 0.6 Glu 128 HbA1c 4.9 CRP 5.0
mEq/L mEq/L mEq/L mg/dl mg/dl mg/dl % mg/dl
尿所見
Na 27mEq/l
K 20.9mEq/l
Cl 71mEq/l
Cre 68.4mEq/l
FENa 0.2%
比重 1.010
pH 6.5
糖 (+-) 蛋白 (ー) 潜血 (Ⅰ+) RBC <Ⅰ/HPF
WBC <Ⅰ/HPF
細菌 (ー)
尿浸透圧 572mOsm/l 血漿浸透圧 243mOsm/l AVP 3.6pg/mL ACTH 64.7pg/ml cortisol 23.8μg/dl TSH 2.2μIU/ml FT4 1.1pg/ml
CT
105
112.5
120
127.5
135
来院時 4/19
4/21 4/23 4/25 4/27 4/30 5/2 5/7
T1+T3
SBT/ABPC
T3 NaCl 1%NaCl 飲水制限500ml/day
チチナ、リカバリン
レダマイシンC600mg/day
症例3 87歳女性
主訴 全身倦怠感 嘔気
現病歴
来院1週間前から喘鳴、食事をとっても嘔吐あり。
満足に食事をとれていなかった。来院時ふらつき、歩行困難あり。
既往歴 2型DM HT 気管支炎
生活歴 喫煙なし 飲酒なし
内服薬 ジャヌビア錠50mg1T1× バルサルタン錠80mg1T1× ファモター
ADL 自立
身体所見
身長153cm 体重61.0kg BMI26.1 JCS 1-1 BP128/69mmHg HR73/分 BT36.2 RR20 SpO297%(r.a) 眼瞼結膜貧血なし 項部硬直なし 心音 整 雑音なし 呼吸音 清 R=L 腹部平坦軟 腸蠕動音正常 圧痛なし 肝・脾腫大なし 背部叩打痛なし 四肢浮腫なし
検査所見
WBC 8610μL Neu. 52.1% Eo. 4.8% Mono. 9.1% Ly. 33.4% Baso. 0.6% RBC 416万/μL Hb 13.3g/dl Plt 23.2万/μL
AST 23 ALT 17 ALP 138 LDH 175 γ-GTP 25 T-Bil 1.5 TP 6.8 Alb 3.5
IU/L IU/L IU/L IU/L IU/L mg/dl g/dl g/dl
Na 123 K 3.9 Cl 94 BUN 10.5 Cre 0.4 Glu 112 HbA1c 7.0 CRP 1.2
mEq/L mEq/L mEq/L mg/dl mg/dl mg/dl % mg/dl
尿所見 Na
130mEq/l
K
11.8mEq/l
Cl
143mEq/l
Cre
33.2mEq/l
FENa 1.27%
比重 1.030
pH 6.0
糖 (ー) 蛋白 (2+) 潜血 (2+) RBC 10-19/HPF
WBC 50-99/HPF
細菌 (2+)
35.25
36
36.75
37.5
38.25
39
0102030405060708090
100110120130140150
来院時 5/2
5/3 5/4 5/5 5/7 5/9 5/11 5/14
NaCl 3%NaCl 乳酸リンゲル液
CTRX
GM
hydrocortisone
VCM
CT
尿浸透圧 335mOsm/l 血漿浸透圧 261mOsm/l AVP 4.6pg/mL ACTH 8.0pg/ml cortisol 0.5μg/dl TSH <0.1μIU/ml FT4 0.6pg/ml
悪性腫瘍 18%
肺炎 7%
嘔吐 5%
AVP刺激薬 2%
陽圧換気 1%
特発性 3%
低栄養・Na摂取不足
16%
消化管から喪失 10%
膵炎 5%
急性心不全 14%
慢性心不全 5%
肝硬変 5%
1%
利尿薬 8%
低Na血症の原因の頻度
J Clin Endocrinol Metab.2008 Aug;93(8):2991-7
SIADH
細胞外量増加
細胞外液量減少
低Na血症の分類
リファレンス:Berl T, Schrier RW: Disorders of water metabolism. In: Renal and electrolyte disorders, 6th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins, 2003:1–63 (PMID : 改変あり)
SIADH
Ⅰ.主症候
1.脱水の所見を認めない。
2.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低Na血症の症状を呈することがある。
Ⅱ.検査所見
1.低Na血症:血性Na濃度は135mEq/Lを下回る。
2.血漿バソプレシン値:血性Na濃度が135mEq/L未満で、血漿バソプレシン濃度が測定感度以上。
3.低浸透圧血症:血症浸透圧は280mOsm/kgを下回る。
4.高張尿:尿浸透圧は300mOsm/kgを上回る。
5.ナトリウム利尿の持続:尿中Na濃度は20mEq/l以上である。
6.腎機能正常:血性Creは1.2mg/dl以下である。
7.副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血性コルチゾールは6μg/dl以上である。
Ⅲ.参考所見
1.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。
2.血漿レニン活性は5ng/ml/h以下であることが多い。
3.血清尿酸値は5mg/dl以下であることが多い。
4.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低Na血症が改善する。
【診断基準】
確実例:Ⅰの1およびⅡの1~7を満たすもの。
1.中枢神経系疾患 髄膜炎 外傷 クモ膜下出血 脳腫瘍 脳梗塞・脳出血 Guillan-Barre症候群 脳炎
2.肺疾患 肺炎 肺挫傷 肺結核 肺アスペルギルス症 気管支喘息 陽圧呼吸
3.異所性バソプレシン産生腫瘍 肺小細胞癌 膵癌
4.薬剤 ビンクリスチン クロフィブラート カルバマゼピン
SIADHの原因
SIADHの治療
1.原疾患の治療を行う 2.Ⅰ日の総水分摂取量を体重1kgあたり15~20mlに制限する 3.食塩を経口的または非経口的に1日200mEq以上投与する 4.重症低Na血症で中枢神経症状を伴う場合は補正する 5.異所性バソプレシン産生腫瘍に原因し、既存の治療で効果 不十分な場合に限り、成人にはモザバプタン塩酸塩錠(30mg) 投与する。 6.デメクロサイクリンをⅠ日600~1200mg経口投与する。
下垂体機能低下症
原因
続発性(腫瘍、炎症、肉芽腫、自己免疫、分娩時大出血 放射線、外傷など) 特発性 家族性(遺伝子異常)などがある。
欠乏するホルモンにより以下のような多彩な症状を呈する: ACTH(低血圧、食思不振、倦怠感、やせ,低血糖、低Na血症) TSH(耐寒性低下、除脈、浮腫、高コレステロール血症) GH(成長障害)、PRL(乳汁分泌低下) LH/FSH(腋毛・恥毛の脱落、性欲低下、無月経、不妊) ADH(多尿、多飲、口渇感、高Na血症)
診断手順 ● 下垂体ホルモンおよび末梢ホルモン基礎値の測定 血中ACTH, GH, TSH, LH, FSH, PRL およびコルチゾール, IGF-I, 性ホルモン の測定を行なう。 ● 下垂体前葉機能検査 通常 CRH, TRH, GnRH, GHRH 4者負荷試験を施行し、下垂体ホルモン分泌 予備能を評価する。通常コルチゾールも同時に測定する。 ● 視床下部・下垂体領域の画像検査 MRI ないし CT 検査により、基礎疾患の有無を検索する。
・まずヒドロコルチゾン 15mg/日を目安に補充開始する。 ・甲状腺ホルモンは副腎皮質ホルモン補充数日後から少量より開始し、 甲状腺機能をみながら2週間ごとに漸増する。 ・中枢性尿崩症を合併する場合は、 DDAVP(デスモプレシン)の点鼻投与またはミニリンメルトの内服を行う。 ・GH、性ホルモンの補充は、患者の希望や年齢、代謝状態、QOL改善効果 を勘案し、導入するか否かを検討する。
治療
症例1 #肺炎に伴うSIADH 症例2 #脳出血、肺炎に伴うSIADH 症例3 #汎下垂体機能低下症
結語
・低Na血症3症例を経験した。 ・重篤な疾患が隠れている可能性もあり、Na補正を行いながら 迅速に鑑別を進めていかなければならないと感じた。