6
脳外誌 27 3 号 2018 3 222 緒 言 ジストニアとは,持続的な筋収縮を呈し,捻転性・反 復性の運動,または異常な姿勢を生じる不随意運動であ 2.ジストニアは,罹患する身体部位によって,局所 性,分節性,多巣性,片側性,全身性に分類される.こ れらの中でも局所性ジストニアが最も罹患患者数が多 い.局所性ジストニアの中でも,ある特定動作時にのみ ジストニアが生じる疾患があり,動作特異的局所ジスト ニアと呼ばれる.書字時に,書字に関連する筋群にジス トニアが生じる書痙(writers cramp),楽器演奏時に, 楽器演奏に関連する筋群にジストニアが生じる音楽家ジ ストニアなどがある.これらの局所性ジストニアには, 一般的には,内服治療やボツリヌス毒素治療が行われる が,限定的な効果にとどまることが多く,音楽家ジスト ニアにおいては,半数以上が音楽家としてのキャリアを 断たれているとの報告もある 18.これらの難治性局所性 ジストニアに対して,われわれは,視床腹吻側核を熱凝 固すること〔視床腹吻側核凝固術(ventrooral thala- motomy Vothalamotomy)〕で症状を劇的に改善させ, 長期的にも有効であることを報告してきた 5.ただし, これらの手術には穿頭や電極の刺入を伴うことから,抗 連絡先:野中 拓,〒 1628666 新宿区河田町 81 東京女子医科大学脳神経外科 Address reprint requests to Taku Nonaka, M.D., Department of Neurosurgery, Neurological Institute, Tokyo Womens Medical Univer- sity, 81 Kawadacho, Shinjukuku, Tokyo 162-8666, Japan 音楽家ジストニアに対してガンマナイフ視床腹吻側核凝固術(Vothalamot- omy)にて長期的改善を示した 1 野中 拓,堀澤 士朗,平 孝臣,田村 徳子,林 基弘,川俣 貴一 東京女子医科大学脳神経外科 Long Term Effect of Gamma Knife VentroOral Thalamotomy for Musi- cians Dystonia A Case Report Taku Nonaka, M.D., Shiro Horisawa, M.D., Takaomi Taira, M.D., Ph.D., Noriko Tamura, M.D., Motohiro Hayashi, M.D., Ph.D., and Takakazu Kawamata, M.D., Ph.D. Department of Neurosurgery, Neurological Institute, Tokyo Womens Medical University Approximately 1of all professional musicians have musicians dystonia MD, and half of them give up their careers because they cant be cured even when treated with botulinum toxin therapy and medi- cation. For these patients, our hospital performs an operation that thermocoagulates the ventrooralVonucleus of the thalamus Vothalamotomywhich provides a dramatic and longlasting improvement. But this treatment cant be adapted to people who have a high surgery risk. Often Gamma Knife Vothalamot- omy is adopted to treat medically refractory tremor. But the treatment has not been used for MD. There- fore, in one such surgically risky patient we decided to try Gamma Knife Vothalamotomy for MD and we obtained a good surgical outcome. Received May 18, 2017 accepted September 4, 2017Key words musicians dystonia, gamma knife, ventrooral thalamotomy, longterm effect Jpn J NeurosurgTokyo27222226, 2018

Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

脳外誌 27巻 3号 2018年 3月222

緒 言 ジストニアとは,持続的な筋収縮を呈し,捻転性・反復性の運動,または異常な姿勢を生じる不随意運動である2).ジストニアは,罹患する身体部位によって,局所性,分節性,多巣性,片側性,全身性に分類される.これらの中でも局所性ジストニアが最も罹患患者数が多い.局所性ジストニアの中でも,ある特定動作時にのみジストニアが生じる疾患があり,動作特異的局所ジストニアと呼ばれる.書字時に,書字に関連する筋群にジストニアが生じる書痙(writer’s cramp),楽器演奏時に,

楽器演奏に関連する筋群にジストニアが生じる音楽家ジストニアなどがある.これらの局所性ジストニアには,一般的には,内服治療やボツリヌス毒素治療が行われるが,限定的な効果にとどまることが多く,音楽家ジストニアにおいては,半数以上が音楽家としてのキャリアを断たれているとの報告もある18).これらの難治性局所性ジストニアに対して,われわれは,視床腹吻側核を熱凝固すること〔視床腹吻側核凝固術(ventro‒oral thala-

motomy:Vo‒thalamotomy)〕で症状を劇的に改善させ,長期的にも有効であることを報告してきた5).ただし,これらの手術には穿頭や電極の刺入を伴うことから,抗

連絡先:野中 拓,〒 162‒8666 新宿区河田町 8‒1 東京女子医科大学脳神経外科Address reprint requests to:Taku Nonaka, M.D., Department of Neurosurgery, Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical Univer-sity, 8‒1 Kawada‒cho, Shinjuku‒ku, Tokyo 162-8666, Japan

音楽家ジストニアに対してガンマナイフ視床腹吻側核凝固術(Vo‒thalamot-omy)にて長期的改善を示した 1例

野中 拓,堀澤 士朗,平 孝臣,田村 徳子,林 基弘,川俣 貴一東京女子医科大学脳神経外科

Long Term Effect of Gamma Knife Ventro‒Oral Thalamotomy for Musi-cian’s Dystonia:A Case Report

Taku Nonaka, M.D., Shiro Horisawa, M.D., Takaomi Taira, M.D., Ph.D., Noriko Tamura, M.D.,Motohiro Hayashi, M.D., Ph.D., and Takakazu Kawamata, M.D., Ph.D.

Department of Neurosurgery, Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical University

  Approximately 1% of all professional musicians have musician’s dystonia(MD), and half of them give up their careers because they can’t be cured even when treated with botulinum toxin therapy and medi-cation. For these patients, our hospital performs an operation that thermocoagulates the ventro‒oral(Vo)nucleus of the thalamus(Vo‒thalamotomy)which provides a dramatic and long‒lasting improvement. But this treatment can’t be adapted to people who have a high surgery risk. Often Gamma Knife Vo‒thalamot-omy is adopted to treat medically refractory tremor. But the treatment has not been used for MD. There-fore, in one such surgically risky patient we decided to try Gamma Knife Vo‒thalamotomy for MD and we obtained a good surgical outcome.

(Received May 18, 2017;accepted September 4, 2017)

Key words:musician’s dystonia, gamma knife, ventro‒oral thalamotomy, long‒term effectJpn J Neurosurg(Tokyo)27:222‒226, 2018

症 例 報 告

Page 2: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

223Jpn J Neurosurg VOL. 27 NO. 3 2018. 3

凝固療法中や高齢の患者に対する適応は困難であった.一方,ガンマナイフを用いた視床腹中間核凝固術〔ven-

tro‒intermediate(Vim)thalamotomy〕は,難治性振戦に対して行われており,高い効果が得られることが数多く報告されている4)13)16).ガンマナイフを治療部位に集束させることで,破壊巣を作成し,治療効果を得ることができる.今回,音楽家ジストニアに対して,ガンマナイフを用いて Vo‒thalamotomyを行い,長期的に良好な改善を得た症例を報告する.

症例提示 患者は 74歳女性である.4歳からピアノを始め,39歳時に演奏中に右第 2,3指の不随意なこわばりを伴う伸展が出現するようになった.症状は徐々に悪化し,ピアノ演奏に著しい障害をきたすようになった.ピアノ演奏以外には症状の出現はなく,近医で音楽家ジストニアと診断された.ボツリヌス毒素や内服治療では改善がなく,手術目的に当院を紹介となった.高齢であり外科的リスクが高いと判断し,ガンマナイフによる Vo‒thala-

motomyを行うこととした

方 法 Leksell Gamma Plan software(Elekta,Stockholm,Sweden)を用いてターゲットのプランニングを行った.ターゲットは,前交連‒後交連ラインの正中から側方に15.6 mm,上方に 3.0 mm,後方に 0.8 mmの部位とした(Fig. 1).通常の手術で Vo核のターゲットを設定する場合,前交連‒後交連の中点より 2 mm後方,1 mm上方,正中より 15 mm側方に設定する.この点は,凝固電極の先端がくる位置であるため,実際の凝固巣は上方かつ前

方に位置することになる.ガンマナイフでの凝固巣は,手術での凝固を行った場合の凝固巣の中心になるように設定した.治療には,Leksell Gamma Knife Perfexion

model(Elekta Instruments,Norcross,GA,USA)を使用し,4 mmコリメーターで 130 Gyの照射を行った.術前,術後 1,3,6,10,12,24カ月後に臨床症状の評価とMRIを行った.

結 果 術前・術後の症状の評価は Tubiana’s musician’s dysto-

nia scale(TMDS)を使用した(Table 1).術前は stage 2

であり,術直後は症状著変なく stage 2であった.頭部MRIでは術後 3カ月から照射部位に T1低信号の照射後変化が出現し,TMDS 3への改善を認め,術後 6カ月後には照射後変化がさらに顕在化すると同時に TMDS 4とさらに改善を認めた(Fig. 2).術後 6カ月後からは軽度の語想起障害の訴えがあったが日常生活上の支障にはならない程度であった.術後 2年後のMRIにおいても,治療部位の T1低信号域が若干の拡大を示しており(Fig.

2),ジストニア症状は認めず,良好なピアノ演奏レベルを維持していた.

考 察 本症例は,音楽家ジストニアに対してガンマナイフを用いた視床凝固術を行い,2年の長期的な改善効果を持続した報告である. 音楽家ジストニアは,楽器演奏という特定の動作時にのみジストニア症状が出現する動作特異的局所ジストニアである.書字時にジストニア症状が出現する書痙が代表的であるが,理髪師や時計修理士などさまざまな職業

Fig. 1 Planning of ventro‒oral nucleus of the thalamus on Leksell Gamma Plan softwareThere are T1‒weighted MRI of coronal, axial, and sagittal views. The yellow circle is a 50% isodose line.

Page 3: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

脳外誌 27巻 3号 2018年 3月224

動作に関連してジストニアは生じる可能性がある6)8).特定動作の繰り返し運動が,脳の可塑性を改変させてジストニア症状の出現へと至る可能性が動物実験レベルで示唆されている1).このことは,臨床的にも,特定動作の繰り返しが要求される職業動作においてさまざまなジストニアが報告されていることと一致する. 職業動作に関連して生じるジストニアは,本症例の音楽家のように,職業生命に直結する疾患であることから,患者自身にとっては治療が奏効しなければきわめて深刻な問題となる. 罹患筋へのボツリヌス毒素注射が最も行われている治療であるが,効果は 3カ月程度しか持続せず,繰り返し注射をする必要がある.脱力などの副作用,連用による耐性・効果の減弱など,さまざまな問題がある7)10)12)19).音楽家ジストニアのような繊細な動作に関連する筋肉へのボツリヌス毒素の投与は,技術的に困難なだけでなく,かえってうまく指を動かしにくくなってしまう場合もあり,決して満足度の高い治療ではない.抗コリン薬などの内服治療を含めた保存的加療を行っても,音楽家ジストニアの半数以上がプロとしてのキャリアを断たれていることが,その治療の困難さを示している18). このような治療困難な動作特異的局所ジストニアでは,視床 Vo核凝固術が有効である.Horisawaら5)の報告では,15例の音楽家ジストニアに視床 Vo核凝固術を施行し,93.3%の症例で劇的な症状の改善があり,最長 108

カ月で効果を持続していると報告されている.視床 Vo

核凝固術は,音楽家以外の書痙,時計修理士,理髪師などさまざまな動作特異的局所ジストニアに有効である6)8)20).視床 Vo核は,淡蒼球内節や小脳からの投射を受け,補足運動野や運動前野など広範囲の皮質へ投射する中継点である.大脳基底核や視床の機能異常,皮質の抑制障害などさまざまな神経生理学的異常が音楽家ジストニアにおいて明らかとなっている3)14)22).視床 Vo核の機能的意義はいまだ明らかとなっていないが,視床 Vo

核の凝固により得られる劇的な症状の改善からは,Vo核が動作特異的局所ジストニアの病態の本質に重要な役割を担っていると思われる.

 高齢,抗凝固・抗血小板剤内服中の患者など,外科的リスクの高い患者には,頭蓋内電極挿入に伴う脳出血のリスクが懸念されるため,手術による Vo‒thalamotomy

が困難な場合がある.ガンマナイフによる Vim‒thala-

motomyは,難治性振戦に対して古くから多くの報告がある4)13)16).ジストニアに対するガンマナイフによる治療報告は,Ohyeら15)の報告において,1例のみが報告されているが,その詳細については言及されておらず,実質的には本症例が初めての報告である.ガンマナイフによる視床凝固術であれば,非侵襲的に視床に凝固巣を作成することができる.効果出現には,3~6カ月程度を要するが,有効に振戦は抑制され,外科的リスクを有する患者においても安全に施行することができる. 一方,ガンマナイフによって音楽家ジストニアを治療する際に問題となるのが,ターゲットの選定である.術前に計画した Vo核で,必ずしも症状が改善しない場合がある.これは振戦における Vim核の場合も同様である.手術によって治療する場合は,局所麻酔下に症状を確認しながら手術を行う.計画した部位の凝固で症状が十分に改善しない場合,さらに追加凝固を加えることで症状改善を得ることができる.手術によって音楽家ジストニアを治療する場合,術中に楽器を演奏して症状を確認しながら行う.術中の症状改善を確認できないガンマナイフの治療では,計画したターゲットで効果が得られない可能性があることから,症例数を重ねた場合,手術に比べて成績が劣る可能性がある. 音楽家ジストニアに対するガンマナイフの長期的効果についてはいまだ明らかではない. 本態性振戦に対するガンマナイフによる視床凝固術の長期成績では,2~4年前後で良好な結果が報告されている16)21).ジストニアに対するガンマナイフにおける長期成績の報告は本症例が初めてであるが,本態性振戦と同様に長期的な改善が確認された. ガンマナイフによる合併症には,囊胞形成や脳浮腫の出現などがあり,出現時期は一定していない.本症例におけるガンマナイフ照射後 12カ月,24カ月のMRIからは,照射部位の凝固巣が若干拡大していた.Okunら17)

Table 1 Tubiana’s musician’s dystonia scale(TMDS)

Stage 0 Incapable of playingStage 1 Plays several notes but stops because of blockage or lack of facilityStage 2 Plays short sequences without rapidity and with unsteady fingeringStage 3 Plays easy pieces but is unable to perform more technically challenging piecesStage 4 Plays almost normally but difficult passages are avoided for fear of motor problemsStage 5 Normal playing

Page 4: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

225Jpn J Neurosurg VOL. 27 NO. 3 2018. 3

は,ガンマナイフによる凝固巣が長期的に拡大してくることにより,隣接する内包へ影響を及ぼし,構音障害,嚥下障害,声量低下などのリスクがあると報告している.本症例では,最終フォロー時点(24カ月)で,軽度の語想起障害のみであったが,今後も慎重な経過観察が必要と考えられる.外科的リスクの高い音楽家ジストニアなどの動作特異的局所ジストニアにおいて,ガンマナイフを用いた Vo‒thalamotomyは,手術と同様の高い治療効果を示した.長期的な改善も期待できるものと推察される.

 著者全員は日本脳神経外科学会へのCOI自己申告の登録を完了しています. 本論文に関して開示すべき COIはありません.

文 献 1) Byl NN, Merzenich MM, Cheung S, Bedenbaugh P, Nagara-

jan SS, Jenkins WM:A primate model for studying focal dystonia and repetitive strain injury:Effects on the primary somatosensory cortex. Phys Ther 77:269‒284, 1997.

2) Fahn S, Bressman SB, Marsden CD:Classification of dysto-nia. Adv Neurol 78:1‒10, 1998.

Fig. 2  Time course of T1‒weighted axial MRI after gamma knife thala-motomy(GKT)

MRI at 3 months after GKT shows the lesion beginning to appear(arrow). An MRI at 6 months after GKT shows the lesion more clearly, and the lesion is still present on an MRI at 24 months after GKT.

1 month 3 months

6 months 10 months

12 months 24 months

Page 5: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

脳外誌 27巻 3号 2018年 3月226

3) Hallett M:Neurophysiology of dystonia:The role of inhibi-tion. Neurobiol Dis 42:177‒184, 2011.

4) Higuchi Y, Matsuda S, Serizawa T:Gamma knife radiosur-gery in movement disorders:Indications and limitations. Mov Disord 32:28‒35, 2017.

5) Horisawa S, Taira T, Goto S, Ochiai T, Nakajima T:Long‒term improvement of musician’s dystonia after stereotactic ventro‒oral thalamotomy. Ann Neuro 74:648‒654, 2013.

6) Horisawa S, Goto S, Nakajima T, Ochiai T, Kawamata T, Taira T:Stereotactic thalamotomy for hairdresser’s dystonia:A case series. Stereotact Funct Neurosurg 94:201‒206, 2016.

7) Horisawa S, Goto S, Takeda N, Terashima H, Kawamata T, Taira T:Bilateral pallidotomy for cervical dystonia after failed selective peripheral denervation. World Neurosurg 89:728. e1‒728. e4, 2016.

8) Horisawa S, Takeda N, Taira T:Watchmaker’s dystonia. Mov Disord Clin Practice 3:102‒103, 2016.

9) Horisawa S, Tamura N, Hayashi M, Matsuoka A, Hanada T, Kawamata T, Taira T:Gamma knife ventro‒oral thalamot-omy for musician’s dystonia. Mov Disord 32:89‒90, 2017.

10) Jabusch HC, Zschucke D, Schmidt A, Schuele S, Altenmüller E:Focal dystonia in musicians:treatment strategies and long‒term outcome in 144 patients. Mov Disord 20:1623‒1626, 2005.

11) Jankovic J, Ashoori A:Movement disorders in musicians. Mov Disord 23:1957‒1965, 2008.

12) Karp BI, Cole RA, Cohen LG, Grill S, Lou JS, Hallett M:Long‒term botulinum toxin treatment of focal hand dysto-nia. Neurology 44:70‒76, 1994.

13) Kondziolka D, Ong JG, Lee JY, Moore RY, Flickinger JC, Lun-sford LD:Gamma knife thalamotomy for essential tremor. J Neurosurg 108:111‒117, 2008.

14) Lenz FA, Jaeger CJ, Seike MS, Lin YC, Reich SG, DeLong

MR, Vitek JL:Thalamic single neuron activity in patients with dystonia:dystonia‒related activity and somatic sen-sory reorganization. J Neurophysiol 82:2372‒2392, 1999.

15) Ohye C, Shibazaki T, Zhang J, Andou Y:Thalamic lesions produced by gamma thalamotomy for movement disorders. J Neurosurg 97(5 Suppl):600‒606, 2002.

16) Ohye C, Higuchi Y, Shibazaki T, Hashimoto T, Koyama T, Hirai T, Matsuda S, Serizawa T, Hori T, Hayashi M, Ochiai T, Samura H, Yamashiro K:Gamma knife thalamotomy for Parkinson disease and essential tremor:a prospective mul-ticenter study. Neurosurgery 70:526‒535;discussion 535‒536, 2012.

17) Okun MS, Stover NP, Subramanian T, Gearing M, Wainer BH, Holder CA, Watts RL, Juncos JL, Freeman A, Evatt ML, Schuele SU, Vitek JL, DeLong MR:Complications of gamma knife surgery for Parkinson disease. Arch Neurol 58:1995‒2002, 2001.

18) Schuele S, Lederman RJ:Long‒term outcome of focal dys-tonia in string instrumentalists. Mov Disord 19:43‒48, 2004.

19) Schuele S, Jabusch HC, Lederman RJ, Altenmüller E:Botu-linum toxin injections in the treatment of musician’s dysto-nia. Neurology 64:341‒343, 2005.

20) Taira T, Hori T:Stereotactic ventrooralis thalamotomy for task‒specific focal hand dystonia(writer’s cramp). Stereotact Funct Neurosurg 80:88‒91, 2003.

21) Young RF, Li F, Vermeulen S, Meier R:Gamma knife thala-motomy for treatment of essential tremor:long‒term results. J Neurosurg 112:1311‒1317, 2010.

22) Zhuang P, Li Y, Hallett M:Neuronal activity in the basal ganglia and thalamus in patients with dystonia. Clin Neuro-physiol 115:2542‒2557, 2004.

音楽家ジストニアに対してガンマナイフ視床腹吻側凝固術(Vo‒thalamotomy)にて長期的改善を示した 1例

野中  拓  堀澤 士朗  平  孝臣  田村 徳子  林  基弘  川俣 貴一

 音楽家ジストニアは,音楽演奏を職業とする人のおよそ 1%に発症し,発症した半数以上の患者は,ボツリヌス治療や内服治療などの保存的加療を行っても最終的には音楽家としてのキャリアを諦めてしまう.このような難治性音楽家ジストニアに対して,定位視床腹吻側核凝固術(ventro‒oral

thalamotomy:Vo‒thalamotomy)を施行することで劇的な症状改善と良好な長期予後を得ることができる.しかし手術には穿頭術が必要なため,高齢者や抗凝固薬内服など外科的リスクが高い患者に対しては適応が困難な場合がある.ガンマナイフによる視床凝固術は,難治性振戦に対して有効であると頻繁に報告されているが,音楽家ジストニアに対して施行した報告は,以前にわれわれが報告した1例のみである.本論文はすでに短報にて報告した同 1症例における 24カ月の長期的な経過を含めた報告である.

脳外誌 27:222⊖226,2018

要  旨

Page 6: Long Term Effect of Gamma Knife Ventro Oral Thalamotomy

227Jpn J Neurosurg VOL. 27 NO. 3 2018. 3

Editorial Comment

Editorial Comment

 局所性ジストニア(focal dystonia:FD)の代表的なものでは執筆家の書痙がよく知られるところであるが,近年では音楽家のジストニアの有病率(プロの音楽家の 1%以上)1)の高さに注目が集まっている.音楽家の FD(奏楽手痙)は,楽器の演奏に際して指・手・肘関節に異常運動・肢位を引き起こす筋緊張の亢進が出現し,本来のプロフェッショナルな演奏を妨げる要因となっている.上肢の FDは,手指の反復常同動作を長期間行うことにより出現頻度が増すことが知られており,そのような作業・動作を生業とする患者にとってはきわめて厄介な疾患といえる. ジストニアに対する標準的な外科的治療には,全身性および頭頚部ジストニアに対する淡蒼球の脳深部刺激療法(DBS)があるが,局所性の中でも上肢のジストニアに対しては,視床の腹吻側(Vo)核を中心とした DBSおよび破壊術も有効な治療法である.しかしながら本論文にも述べられているように,出血や手術侵襲に伴う合併症のリスクのため,抗凝固療法を受けている症例や全身合併症を有する高齢者に対する DBSおよび破壊術の施行は慎重とならざるを得ない.このようなリスクを伴う症例を主な対象として,1990年代より本態性振戦やパーキンソン病の振戦に対してガンマナイフによる視床腹中間(Vim)核凝固術が行われてきた.近年では長期成績に関する研究報告2)3)もなされ,有用性に関するエビデンスが蓄積されつつある.一方,ジスト

ニアに対するガンマナイフ Vo‒thalamotomyに関する報告は僅少であり,その長期成績も明確にはなっていない.本論文が報告するガンマナイフ Vo‒thala-

motomyの良好な長期成績は,従来の手術治療を躊躇するハイリスク症例に対する治療オプションとして十分期待させる結果である.しかしながら,現状では 1症例のみの報告であり,今後の症例数の蓄積とともにさらに長期の成績の報告が待たれる. 蛇足ながら,近年,本態性振戦に対して薬事承認された治療法としてMRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)による thalamotomyがあり,本態性振戦以外の疾患にも適応を広げつつある.低侵襲という観点からは,ガンマナイフ thalamotomyと双璧をなす治療法であり,両治療の今後の動向が注目される.

文 献 1) Altenmüller E:Focal dystonia:advances in brain

imaging and understanding of fine motor control in musicians. Hand Clin 19:523‒538, 2003.

2) Kooshkabadi A, Lunsford LD, Tonetti D, Flickinger JC, Kondziolka D:Gamma Knife thalamotomy for tremor in the magnetic resonance imaging era. J Neurosurg 118:713‒718, 2013.

3) Ohye C, Higuchi Y, Shibazaki T, Hashimoto T, Koyama T, Hirai T, Matsuda S, Serizawa T, Hori T, Hayashi M, Ochiai T, Samura H, Yamashiro K:Gamma knife thala-motomy for Parkinson disease and essential tremor:a prospective multicenter study. Neurosurgery 70:526‒535, 2012.

局所性ジストニアに対する新たな治療オプションとしてのガンマナイフ thalamotomy

日本大学医学部脳神経外科 大島秀規