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Ku-SATの運用改善 田中 正志 関東地方整備局 企画部 情報通信技術課 (〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1国土交通省では車両搭載型の衛星通信車と可搬型のku-satの2種類の衛星通信設備の 整備を実施し、地震災害や風水害発生時にリアルタイムでの被災状況映像伝送を行いその効果 を発揮している。 現設備は平成25年度機器更新を行い機能改善を図り、平成26年度より運用を開始したが 更新後の操作検証において設営に要する時間の短縮は大幅に改善されたが、IP化に伴う通信 設定において課題が確認された。よって全ての操作対象職員(TEC隊員等)が簡潔に操作出 来るよう改良を行い、機器操作における運用改善を実施したので報告する。 キーワード 電気通信,危機管理対策,防災力の向上 1. 国土交通省における衛星通信設備の歴史 関東地方整備局管内における衛星通信設備(衛星通信 車・可搬型衛星設備(ku-sat))の整備年次並び に装置諸元を以下に示す。 ○昭和60年 衛星通信車整備(初期整備) 通信内容 電話回線4回線 配備箇所 関東技術事務所 ○平成7年~13年 衛星通信車整備 通信内容 動画伝送1回線 電話回線3回線 配備箇所 関東管内10台(1都8県に配備) ○平成8年~11年 可搬型衛星装置整備 (ku-sat) 通信種別 準動画1回線 電話1回線 配備内容 関東管内88台 ○平成25年 衛星通信設備更新 衛星通信車及びku-satⅡを同一機器にて整備 映像送信 送信速度が可変出来る為、高画質画像か ら低画質まで任意に設定可能 通信内容 動画1回線 電話3回線(衛星車) 動画1回線 電話1回線(ku-sat) 配備箇所 衛星車9台及びku-sat29台 旧衛星通信装置(ku-sat) 新衛星通信装置(ku-satⅡ)

Ku-SATの運用改善 - MLIT · Ku-SATの運用改善. 田中 正志. 関東地方整備局 企画部 情報通信技術課 (〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1)

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Ku-SATの運用改善

田中 正志

関東地方整備局 企画部 情報通信技術課 (〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1)

国土交通省では車両搭載型の衛星通信車と可搬型のku-satの2種類の衛星通信設備の

整備を実施し、地震災害や風水害発生時にリアルタイムでの被災状況映像伝送を行いその効果

を発揮している。

現設備は平成25年度機器更新を行い機能改善を図り、平成26年度より運用を開始したが

更新後の操作検証において設営に要する時間の短縮は大幅に改善されたが、IP化に伴う通信

設定において課題が確認された。よって全ての操作対象職員(TEC隊員等)が簡潔に操作出

来るよう改良を行い、機器操作における運用改善を実施したので報告する。

キーワード 電気通信,危機管理対策,防災力の向上

1. 国土交通省における衛星通信設備の歴史

関東地方整備局管内における衛星通信設備(衛星通信

車・可搬型衛星設備(ku-sat))の整備年次並び

に装置諸元を以下に示す。 ○昭和60年 衛星通信車整備(初期整備) 通信内容 : 電話回線4回線 配備箇所 : 関東技術事務所 ○平成7年~13年 衛星通信車整備 通信内容 : 動画伝送1回線 電話回線3回線 配備箇所 : 関東管内10台(1都8県に配備) ○平成8年~11年 可搬型衛星装置整備

(ku-sat) 通信種別 : 準動画1回線 電話1回線 配備内容 : 関東管内88台 ○平成25年 衛星通信設備更新 衛星通信車及びku-satⅡを同一機器にて整備 映像送信 : 送信速度が可変出来る為、高画質画像か

ら低画質まで任意に設定可能 通信内容 : 動画1回線 電話3回線(衛星車) 動画1回線 電話1回線(ku-sat)

配備箇所 : 衛星車9台及びku-sat29台

旧衛星通信装置(ku-sat)

新衛星通信装置(ku-satⅡ)

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2. 更新概要

(1) 概要

旧衛星通信設備の導入から17年~20年が経過し設

備の老朽化の解消をはじめ、国土交通省統合通信網への

接続や現地映像品質の向上など、情報通信技術革新を取

り入れた機器更新整備を平成25年度に全国同時実施し

た。また衛星回線についても利用の見直しを図ることで、

各種利用時における通信統制並びに統一機器による操作

性向上を図った。

衛星通信設備の規格統一並びに利用回線の見直しによ

り設備操作における操作資格の緩和を併せて実施。

(2) 機器更新

更新において従来機の設備構成について、改良・省力

化の実施を図るとともに、利用衛星回線においても帯域

占用型(自営管理型)から帯域保証型(アウトソーシン

グ型)への見直しにより操作性の向上が実現した。

新旧操作比較については以下に示すように、システム

立ち上げにおいて従来機器の自動パラメータ設定から、

横浜衛星管制センターによるリモートUAT操作による

システム立上げへ見直したことで大幅な時間短縮を図る

ことができた。

衛星設営時間比較表

設備設営に係る時間短縮は図れたものの更新装置のI

P化に伴い、映像送受信設定(IPアドレスや通信速度

設定)が必要となった為、管内電気通信職員による設営

訓練にて設定検証を実施した結果、想定時間を大幅に超

過したり、映像未送出などの誤操作が電通職員操作にお

いても確認された。

この結果より、通信設定にかかる改善を検討する必要

が生じるが、通信設定内容は電気通信分野における専門

部分でもあり、訓練アンケート結果からも一般職員(T

EC-FORCE等)による利用について十分な考慮並

びに操作の簡略化が必要であると判断した。

情報通信技術職員による機器設営訓練

局名 受信設備

局名 受信設備

追加機能

映像伝送パターン説明種別 伝送速度 特徴

画像の乱れが無くスムーズに表示

64k~1.5Mbps程度

2Mbps以上

準動画

動画

動きの多い映像などでは乱れが生じる。

旧衛星通信利用構成

新衛星通信利用構成

衛星通信車

本省・近畿固定局受信統合網接続により映像共有(全国)

各整備局固定局受信接続装置数に応じて映像共有(地整単位)

最大3映像

最大6映像1.5M(準動画)

衛星通信車

最大24映像KU-SAT

6M(動画)(1.5M×4回線で6Mを構成)

1.5M(準動画)

・衛星設備を統合・映像伝送速度可変式 384k~2Mより選択(高画質HD映像送信可)

KU-SAT

映像伝送パターン(全国)

最大30映像

メール送受信機能及びweb閲覧が可能

映像伝送パターン(全国)

64k(準動画)のみ

衛星通信設備操作資格

衛星通信車

KU-SAT

第1級陸上特殊無線技士以上

旧設備 新設備

資格の必要なし資格の必要なし

5分~10分 5分~10分

5分~10分 (音声システム) 5分~10分 (補足ランプ)

20分~30分 (自動運転)※1 1分~2分 (リモートUAT)

10分~15分 10分~15分

該当なし 10分程度 (当初想定)

旧設備 新設備

設営時間比較 「記載時間は平均時間を記載」

名称

○アンテナ展開(三脚、アンテナ、ODU)

○衛星補足

○システム立ち上げ

○周辺機器設営(カメラ設備等)

○映像送受信設定

○利用開始(送信開始) 所要時間:40分~45分

※1 衛星補足状況(送受信レベル、天候等)により時間変化が大きい。

所用時間:20分~25分

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(3) 訓練後の意見集計実施(アンケート集約)

今回のアンケートは全国的な機器の入れ替えを実施し

たため、従来機器との比較だけではなく機器の運搬や運

用並びに撤去までを含めた、一連の流れについて意見収

集を実施した。

収集目的としては、電気通信専門職種による当たり前

の感覚を捨て、全ての操作者が同一操作が行えるように

する為の機能改良に向けての情報収集及びマニュアルへ

の反映を念頭におき、利用者目線での対応を図る事を目

的としてデータ整理を行った。

以下に質問内容・提出意見数及び分類整理を記載する。

全てをフリーワード形式にて意見収集を実施。

・意見総数合計331件

集計内容より、ハード面とソフト面にて分類整理を行

い、改修内容について整理を実施した。

運用改善要望の多かった通信設定については、全体回

答の3分の1をしめる結果となり、現状のままでは電気

通信職員においても運用に支障をきたすと判断し、タブ

レット端末に選択形式で操作が可能となるようアプリソ

フトの作成を実施した。なお、作成にあたってはシステ

ム構築に精通した情報通信技術課職員による対応にて実

施した。

3. 運用改善

(1)当初導入時における入力操作

当初導入時における機器の通信設定においてはタブ

レット端末にて以下の操作を実施。

タブレット端末起動後、ブラウザアプリを利用して通

信設定を実施。

○エンコーダ設定(送信設定)

○デコーダ設定 (受信設定)

「主な設定内容」

送受信先:IPアドレスやネットワーク設定入力

運用データ選択:通信速度設定

画面表示入力:テロップ操作を個別画面にて操作

IPアドレス入力画面

・枠内の通信情報をタッチペンを用いて直接入力操作

「問題点」

1)相手方IPアドレス入力が必要となるが、アドレ

ス管理表が別資料の為、確認が必要。

2)通信速度設定においては、通信種別毎に「データ

1」から「データ10」と事前登録されている

が、登録内容記載がないため、別資料による確

認が必要。

3)入力用タッチペン操作において誤反応が多く入力

操作に手間取る。

ku-satⅡの各種

設定は付属タブレット

端末にて実施

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(2)機能改良対応の実施(操作ツールの作成)

全ての職員が簡潔に必要事項の入力が完了出来るよ

う操作ツールの作成を実施した。

作成にあたっては、タブレット端末のみで設定が行え

るように、選択項目はプルダウンにて選択可能とし、映

像送信・受信までに必要な操作を3ステップ操作で完了

となるよう作成した。

1)タブレットの電源起動後、ブラウザアプリをタッチ

すると以下の初期画面を表示する。

2)送信映像選択(エンコーダ制御)で画面移管

入力範囲は枠内を設定することで完了する。

3)入力順序については【手順1】~【手順3】標記に

よる誘導形式として構築。

【手順1】にて通信速度を選択(プルダウン方式)

通常運用(基本設定)を最上位に配置し以降利用順位

の高い順にて動作モードを配列。操作者は特別な指示

が無い限り基本設定を選択する。

【手順1】の選択が完了すると【手順2】が表示され動

作モードの切替ボタンをタッチする。

必要操作項目をタッチする。

・送信映像選択(エンコーダ制御)

・受信映像選択(デコーダ制御)

※本資料では映像送信設定にて説明

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【手順2】の選択入力が完了すると【手順3】が表示さ

れ送信開始ボタンをタッチすると、現地映像の送信が開

始となり、設定操作が終了となる。

この操作ツールにより、他の資料確認が不要となり、

タブレットのみで送受信設定が可能。また設定時間につ

いても最長で1分~2分程度で可能なため、設営に要す

る時間は更に短縮が可能となった。

現地情報(テロップ)についても同ページ下段に入力

項目を作成。入力は文字入力タッチパネルにより操作が

可能で簡潔に実施出来るよう構築している。

4.運用改善検証(操作訓練・TEC研修)

設定ツール作成後、機器設営訓練及びTEC-F

ORCE研修にて実地検証を行った結果、全ての操作

者において映像伝送設定を問題無く行うことが確認で

きた。

一般職員による機器設営を含めた全体検証結果は、

現地到着から映像送信までにグループにより多少前後

したが、おおむね30分以内での設営時間で完了した

ことから本ツールの有効性は十分あると判断できた。

今後もスキル向上への取り組みとして通年実施の災害

対策機器操作訓練や、TEC-FORCE研修での講

習を継続し全ての操作員における操作レベルの向上に

努める。

5. まとめ

運用改善検証後に発生した、長野県北部を震源とす

る地震災害(平成26年11月)において衛星通信車

及びku-satⅡが出動したが、今回の操作ツール

を用いた災害対応においても支障無く設営ができたこ

とから、本操作ツールにおける運用改善効果は実災害

対応でも稼働確認が行えた。

本操作ツールは衛星通信車操作端末(PC)及び

管内のku-satⅡへ展開を完了し、機器操作マニ

ュアルへの反映も実施済みで運用に必要な対策は全て

完了している。

また本省主催の情報通信担当者会議(全国会議)に

おいて事例紹介するとともに、システム基本データを

全国の情報通信担当者へ配布し共有作業の実施も併せ

て行った。

今後は、集計したアンケート結果より他の改良項目

における検証を実施し、更なる機器効率化の可能性に

ついて検討を継続していく。

・・・【手順3】

平成26年度

TEC-FORCE研修

アンテナ設営状況

タブレットツー ルによる

映像送受信設定