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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 深江丸に搭載されたADCPの概要と海上トライアル(Outline of an ADCP newly mounted on Fukae-maru and results of trial on the sea) 著者 Author(s) 杉井, 昌江 / , 美鶴 / 矢野, 吉治 / 若林, 伸和 掲載誌・巻号・ページ Citation 神戸大学大学院海事科学研究科紀要 = Review of Graduate School of Maritime Sciences, Kobe University,11:29-38 刊行日 Issue date 2014 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81008067 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008067 PDF issue: 2021-05-30

Kobe University Repository : KernelDoppler Log. (Received 30 June, 2014) 1. はじめに 神戸大学大学院海事科学研究科付属練習船深江丸は航海訓練を主目的とする練習船であるが、これ

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  • Kobe University Repository : Kernel

    タイトルTit le

    深江丸に搭載されたADCPの概要と海上トライアル(Out line of anADCP newly mounted on Fukae-maru and results of t rial on the sea)

    著者Author(s) 杉井, 昌江 / 林, 美鶴 / 矢野, 吉治 / 若林, 伸和

    掲載誌・巻号・ページCitat ion

    神戸大学大学院海事科学研究科紀要 = Review of Graduate School ofMarit ime Sciences, Kobe University,11:29-38

    刊行日Issue date 2014

    資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

    版区分Resource Version publisher

    権利Rights

    DOI

    JaLCDOI 10.24546/81008067

    URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008067

    PDF issue: 2021-05-30

  • 深江丸に搭載された ADCP の概要と海上トライアル

    Outline of an ADCP newly mounted on Fukae-maru and results of trial on the sea.

    杉井昌江 1 林美鶴 2 矢野吉治 3 若林伸和 3

    Masae SUGII, Mitsuru HAYASHI, Yoshiji YANO, Nobukazu WAKABAYASHI

    (平成 26 年 6 月 30 日 受付)

    Abstract

    ADCP mounted newly on Fukae-maru on February in 2014, and was tested on the sea. The outline of ADCP and the result of trial were shown in this paper. Current velocity can be measured at the depth of up to 128. The measurement intervals of depth are selected between 0.2 - 16m. The measurement is possible in more than 5m depth. The bottom track during cruising is possible at the place shallower than 250m depth. Seabed may be able to not be detected in deeper place. Current velocity can be measured in less than 115m depth. The measurement during slower speed is possible up to a maximum range of specifications. Since the Doppler Log interfere with ADCP, noise processing for ADCP data is required. ADCP do not interfere with the Doppler Log.

    (Received 30 June, 2014)

    1. はじめに 神戸大学大学院海事科学研究科付属練習船深江丸は航海訓練を主目的とする練習船であるが、これ

    までに様々な調査・研究でも利用されている(1)。平成 18 年までの 20 年間で調査・研究を目的とした航海は平均年 25 日で、全出動の約 1/4 を占める(2)。近年は航海日数が増え、研究利用も増加している。深江丸には建造当初から船内 LAN が設備され、現在は全航海で 1000 以上の項目が自動保存されている(3)。この中には一般気象や水温などの自然環境に関するデータも含まれ、様々な調査・研究で利用され

    ている(4)。海水の流動は ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler; 音響式ドップラー流向流速計)で計測されている。ADCP は、水中に超音波パルスを発射し、水中を浮遊する散乱体からで反射・散乱した音波のドップラー効果を利用して流向・流速を鉛直方向に多層で計測する機器で、海洋・河川・湖沼な

    ど様々な水域で使用されている。しかし深江丸に装備されている機種は古く、3 層でしか測定できず、また測定精度は研究利用には十分でなかった。そこで 2014 年 2 月に Teledyne RD Instruments 社製ワークホースマリナーを装備した。これにより、より高精度且つ詳細な海洋の流動構造や懸濁物分布を把握

    することが出来るようになり、沿岸海洋・気象研究に貢献することが期待される。本稿では、新規装備

    した ADCP の概要を紹介すると共に、海上トライアルの内容とその結果について述べる。 2. ADCP の概要

    神戸大学大学院海事科学研究科紀要 第11号

    1 株式会社ハイドロシステム開発 3 大学院海事科学研究科

    2 自然科学系先端融合研究環内海域環境教育研究センター/大学院海事科学研究科

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  • 2.1 ADCP の原理 ADCP から発信された音波パルスは、水中の散乱体(プランクトンやちりなどの水中懸濁物)で散乱

    し、その一部が ADCP に戻る(図 1)。散乱体が ADCP に対して移動していると、反射する音の周波数に変化(ドップラーシフト)が生じる(図 2)。このドップラーシフトが流速に比例するため、流速を求めることができる。 搭載した ADCP の外観を図 3 に示す。ADCP は 3 次元の流速成分(u, v, w)を得るために、異なる方向

    に向いた 4 つのトランスデューサ(図 3 の赤い部分)を持ち、4 本のビームで計測をする。図 4 は対角にある 2 つのビームによる計測である。2 ビームの発信面の流速ベクトルが Current velocity vector である。ドップラーシフトは音波パルスの発信方向に沿った方向に生じるため、各ビームが計測する速度

    (ビーム流速)は Beam velocity component で示される。

    図 2 ドップラーシフトの模式図

    図 1 発信パルスの散乱 散乱体が ADCP から遠ざかるとき、 (A)トランスディーサーからパルスを (A)トランスディーサーからパルスを 発信する。(B)パルスが散乱し、大部分は 発信する。(B)散乱して戻る音は 前方へ、一部が ADCP に戻る。 ドップラーシフトで周波数が低くなる。

    図 3 ADCP の外観 図 4 対角の 2 ビームによる計測の模式図 2ビームの計測結果より水平方向(u)と鉛直方向(w1)の流速成分を求めることができ、さらに90°回

    転して配置された残りの2ビームから水平方向(v)と鉛直方向(w2)の流速成分を求め、これらから3次元の流速を得る。3次元の流速は3つのビームがあれば計測可能であるが、4つのビームがあることにより、ADCPは2つの鉛直成分を得ることができる。この差は誤差流速と呼ばれ、得られたデータの信頼

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  • 性(計測場の均一性)を評価するためのパラメーターとなる。図5は、ADCPの計測する流動場が均一な場合(上図)と均一でない場合(下図)を示している。場が均一なときは誤差流速がゼロとなるが

    、均一でない場合は誤差流速が大きくなる。これにより、計測した場の流れが一様であったかどうか

    を判断することが可能となる。また、4ビームあることで、魚や気泡によって1ビームのデータがエラーになったときにデータ欠落を防止す

    ることができる。 ADCPは相対流速を計測しているため、移動

    しながらの観測では、移動の速度と方向の情報

    を使って絶対流速を計算する。

    図5 ADCPが計測する流動場の模式図

    表1 船底装備型ADCPのモデルと測定レンジ

    モデル名 ワークホースマリナー オーシャンサーベイヤー

    周波数 1200kHz 600kHz 300kHz 150kHz 150kHz 75kHz 38kHz 測定レンジ※ 20m 70m 165m 323m 400m 700m 1000m

    ※ロングレンジモードでの最大値。海域、季節等の環境要因により、これより短くなる場合がある。

    表2 深江丸搭載のワークホースマリナーADCP300kHzの仕様

    発信周波数 300kHz ビーム数 4本 ビーム角 20度 測定層数 最大128層(任意に設定可能) 最短発信間隔 2Hz~5Hz(設定による) 測定層厚 0.2m~16m(任意に設定可能) 最大測定深度 165m(流速プロファイル)

    260m(ボトムトラック;海底探知) 長期測定精度 ±0.5%又は±5mm/s 単ピング精度 12.8cm/s(層厚1m、ブロードバンドモード時)

    6.0cm/s(層厚2m、ブロードバンドモード時) 3.0cm/s(層厚4m、ブロードバンドモード時) 2.0cm/s(層厚8m、ロングレンジモード時) *実用精度=単ピング精度/√発信回数

    最大測定流速 標準設定時±5m/s(最大20m/s) 電源 入力:20-50VDC

    (付属コンバータ 入力100-240VAC、出力48VDC) 消費電力 190W @ 48V (300kHz) 水温センサー 測定範囲-5~45℃、精度±0.2℃、分解能0.01℃ 通信 RS232 または RS422

    バイナリー または Hex-ASCII、1200~115200bps

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  • 2.2 ADCP の仕様 ADCP にはモデルによっていくつかの周波数があり、周波数によって計測距離及び単位時間当たりの計測精度が異なる。機種の選定は、計測したい距離(深さ)から選定するのが一般的である。表 1 に、船底装備で使用する ADCP のモデル及び発信周波数と最大計測距離の関係を示す。深江丸に装備した機種はワークホースマリナーの 300kHz である。これは、海洋で使用される機器の中では比較的浅い海域での観測に対応した機種で、表 2 の仕様となっている。ブロードバンドモードとは、バンドワイズを広くすることによりより精度よくデータが取得できるモードで、測定レンジが浅くなる。これに対して

    ロングレンジモードはバンドワイズが狭く、深くまで測定できる。

    図6 深江丸ADCP系統図 2.3 ADCP のシステム構成 機器系統を図 6 に示す。先に述べた船底装備機種のうち、オーシャンサーベイヤーADCP は信号処理装置(デッキボックス)と送受波器がセットになっており、船底に取り付けた送受波器から信号処理装

    置を経てデータ収録処理装置と接続する。今回搭載したワークホース ADCP は送受波器内で信号処理を行い、データ収録処理装置にデータを送る。 船底装備の ADCP は、位置データや方位データを外部機器から得て、「データ収録処理装置」上でADCP のデータとあわせて処理をする。外部機器の構成は船によって違い、深江丸では GPS コンパスから位置データ、速度データ、方位データを得ている。「データ収録処理装置」はデスクトップ型 PC(ノート型 PC を用いる場合もある)で、モニターとキーボード及びマウスを接続して ADCP の操作(設定/データ収録/データ出力)を行う。本船ではその他に、無停電電源装置やデータ変換器があ

    り、船上部は図 7 の通りラックに入れて設置した。また、収録したデータは船内の LAN システムにも出力している。

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  • 3. 海上トライアル 3.1 目的

    ADCP を船底に取り付けた際には海上トライアルを行い、機器の性能確認、環境によるデータへの影響の確認、及びミスアライメン

    ト補正を行う。ADCP は音響を用いて観測する機器であるため、船底に発生した気泡や船からの雑音、他の音響機器の発信により

    データに影響が出ることがある。また、ミスアライメントがあると

    流速値が実際の流れと異なる結果となるため、これを定量化して

    補正する必要がある。 そこで 20012 年 2 月 6~7 日にかけて、大阪湾から紀伊水道にか

    けての海域で海上トライアルを実施した。3.2.3 で説明するミスアライメント計算では設定をブロードバンドモードの層厚 2m、他の試験ではロングレンジモードの層厚 4m とした。 図 7 ADCP 船上部 3.2 方法 3.2.1 機器の性能確認

    ADCP に影響を及ぼす泡や雑音の発生が極力ない環境でのデータを取得することで、取り付けた機器そのものが正常に動作していることを確認すると共に、流速の最大計測深度を確認する。このため水

    深が深い海域でドリフトし、他の音響機器は全て停止させてデータ取得を行う。 またボトムトラック性能試験を実施した。これは、浅い海域から深い海域、深い海域から浅い海域へ

    と航走しながらボトムトラック機能(海底との対比で対地速力・方位を測定する)の最大探知深度を確

    認する試験である。 深江丸搭載機種の場合は、仕様(表 2)上の流速の最大測定レンジは 165m、最大探知深度は 260m な

    ので、紀伊水道でこれらの試験を行った。

    3.2.2 ノイズや泡などによるデータへの影響の確認 航走時の泡の発生や船体からのノイズによる ADCP データへの影響を確認するために、船速を変え

    てデータの取得を行う。通称、スピード試験、或いはフローノイズ試験と呼ぶ。もし、船速をあげるこ

    とで表層から下層まで著しくデータの欠測が見られる場合は、航走によって泡が発生していると判断

    する。また船速により計測可能な深さが浅くなる場合は、船からのノイズが影響していると判断し、そ

    の影響がどの程度であるか、また、どの船速のときに一番影響があるかを確認する。試験はボトムト

    ラック性能試験と同時に実施し、ドリフト状態から 4knot, 8knot, Full と船速を変化させた。同時に、各船速での流速の最大計測深度も確認した。

    3.2.3 ミスアライメント計算

    ミスアライメントは、ADCP が計測したボトムトラックによる針路と GPS で計算した針路の差により求められる。ミスアライメントの主な成分は ADCP の取り付け角度による系統誤差だが、実際に計算されるミスアライメントは使用している方位センサー(ジャイロ、GPS コンパス等)の取り付け誤差も含んだ値となる。また船によっては信号処理装置でオフセットの調整をするシステムになっている

    場合があり、その場合はオフセットの合わせ誤差も含んだ値となる。 また流速に対しては、ADCP に対する相対流速から絶対流速を計算するため必要となる船速によっ

    て、ミスアライメントによる影響を受ける場合がある。ADCP は 2 つの方法で船速を計算することがで

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  • きる。ひとつは、ボトムトラック機能を使用するボトムトラックリファレンスで、これは流速を計測す

    るときと同じ方法で、海底を計測して船速を計測する。このときはミスアライメントの角度だけ流向が

    回転し、流速の大きさには影響しない。通常ミスアライメントは 1~2 度であり、ミスアライメントによる影響は小さいため、ボトムトラックリファレンスでは補正の必要がないと判断することが多い。も

    うひとつは GPS の位置データを使用して船速を算出するナビゲーションリファレンス(GPS リファレンス)である。このときは流向だけでなく流速の大きさにも影響があり、船速が速いほどその影響は大

    きくなる。そのためナビゲーションリファレンスでデータを解析する際には、必要に応じてミスアライ

    メントの補正をする。 ミスアライメントの算出には、ボトムトラックと GPS の両方のデータがあることと、船速と針路を

    一定にしてある程度の時間を航走したデータが必要となる。ADCP のデータにはランダム誤差があり、船舶搭載の場合には船の動揺による誤差も生じるため、できるだけ多くのアンサンブルを取得して平

    均をする。また方位データの針路等による誤差がないことを確認するために、針路を変えて複数の測線

    で取得したデータ用いるため、最低でも往復の 2 測線、通常は図 8 の様に 90 度を成す方位へ 2 往復のL 字航走を行い、4 測線でミスアライメントを計算し、その平均値を用いて補正をする。 海底の起伏が少ない場所が好ましいため、試験は紀伊水道で適地を選定し、図 8 の測線番号に従い

    針路を①0 度、②180 度、③270 度、④90 度で、1 測線あたり 15~20 分間、約 10kt で航走した。

    表3 干渉試験の対象機器

    機器 メーカー 周波数

    潮流計 日本無線 125kHz ドップラーログ 古野電気 320kHz

    ドップラーログ アトラス 79kHz

    図 8 L 字航走例 3.2.4 他の機器との干渉の確認 深江丸には、音響を発する機器が表 3 の通り 3 台搭載されている。ADCP に対する他機器の干渉については、ADCP でデータを取得しながら他機器を 1 台ずつ発信させる干渉試験で確認した。干渉試験はボトムトラック性能試験と同時に実施した。

    また、深江丸の運航に利用している古野電気製のドップラーログに対する ADCP の干渉についても、ADCP を発停させて確認した。この際、ドップラーログに備わっている IR 機能(魚群探知機との干渉を除去する機能で通常 OFF にしている)の効果も確認した。この試験は大阪湾で実施し、ドップラーログを発信、IR 機能を OFF 又は ON の状態で ADCP の発停を 1 分毎に繰り返し、その間 10 秒毎にドップラーログと GPS の船速を読み取った。 3.3 結果 3.3.1 機器の性能 流速の最大計測深度は船底から約 160m で、ほぼ仕様(165m)通りの性能であり、正常に動作していることを確認した。最大計測深度は水中のプランクトン等の散乱体の量や水温などの環境要因によっ

    34

  • ても変わり、場合によっては今回の結果よりも浅くなることもある。計測深度がトライアル時よりも浅

    くなったからといって、必ずしも ADCP の異常ではない。 設定した最下層である 50 層目の反射強度の平均値は 76 だった。層厚 4m で計測しているため 50 層

    目は水深 200m だが、この深さでは流速データが取得できなかった。この様に、データが取得できない水深での反射強度の値が、環境ノイズのレベルとなる。 ボトムトラック性能試験では、浅い海域から深い海域への移動時で 258m、浅い海域から深い海域へ

    の移動で 276m まで探知できることを確認した。 3.3.2 ノイズや泡などによるデータへの影響 表 4 スピード試験結果 スピード試験の結果を表 4 及び図 9 に示す。図 9 はスピード試験中に ADCP で計測した結果で、上図が流速の鉛直分布、下図が船速である。どの船速においても表層からデータ

    が取得できなくなるといった現象が見られなかったため、発

    信パルスを遮るような気泡の発生はないと判断した。また表

    4 の通り、ドリフト時には約 160m まで取得できていたが、Full (約 13knot)の時には約 115m と、流速最大計測深度が浅くなっていることを確認した。これは船体(エンジンやプロペラ等)からのノイズによるものと考えられる。 また流速データが取得できなかった 43 層目の反射強度は 78~82 で、3.3.1 で示した値より大きかっ

    た。

    図9 スピード試験時の流速の鉛直-経過時間コンター図(上)と船速の時系列図(下) 3.3.3 ミスアライメント

    各測線でミスアライメントを計算した結果と 4 測線の平均値を表 5 に示す。これらの平均値-0.663 を設定ファイルに反映した。各測線の値のバラつきが若干あるが、流向に対して問題となる程度ではな

    い。また流速については、ボトムトラックリファレンスが使用可能の水深であれば、3.2.3 で述べたようにミスアライメントの影響はない。

    船速 流速最大計測深度

    ドリフト 160m 4kt 145m 8kt 160m

    Full(約13kt) 115m

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  • 3.3.4 他の機器との干渉 表 5 ミスアライメント計算結果 図 10 は干渉試験時の反射強度の、図 11 は流速のコンター図を示している。ADCP を発信した状態で、全ての対象機器の発信を停止すると、反射強度の乱れは確認されなかった。

    一方、対象機器を一つずつ発信すると、全ての機器で反射強

    度に影響が出ていることを確認した。その中で、潮流計につ

    いてはノイズは比較的小さく、10 秒平均すると流速データへの影響はほとんどないと考えられる。ドップラーログにつ

    いては、両機器とも 10 秒平均流速に対しても影響が見られ、特に反射強度や流速が相対的に小さい底層で影響が大きい。これらのノイズ処理については今後検討する必要がある。また ADCP データが取得できない深度でも流速値として検知された。これら異常データの処理(判別)方法も検討する必要が

    ある。

    図 10 干渉試験時の反射強度の鉛直-経過時間コンター図(10 秒平均)

    図 11 干渉試験時の流速の鉛直-経過時間コンター図(10 秒平均)

    ドップラーログに対する ADCP の干渉についての試験結果を図 12 に示す。ドップラーログと GPS

    の船速のバイアス(両者の偏差の平均で、ドップラーログが大きい場合が+)は、ADCP が ON で IR機能が OFF の場合(図 12(b))に最小、これと逆の設定(図 12(c))で最大となった。相関、一時近似直

    測線 針路 ミスアライメント 1 0° -0.678 2 180° -0.591 3 270° -0.826 4 90° -0.555

    平均 -0.663

    36

  • 線の傾き、標準偏差ともADCPのON/OFFで違いはないことから、ドップラーログ速力に対するADCPの影響はないと言える。一方、IR 機能が OFF の時に相関が高く、また一時近似直線の傾きが1に近い。このことからドップラーログの IR 機能は、これまで通り OFF にする方がよい。

    図 12 ドップラーログと GPS の船速測定値の比較 (a)と(b)は ADCP を発信,(c)と(d)は停止、また(a)と(c)は IR 機能を ON 、(b)と(d)は OFF にした状態。実線は Y=X、点線は一次近似直線。

    4. まとめ 深江丸に新規に装備した ADCP の海上トライアルを実施した。基本性能は概ね仕様通りだが、条件によってはノイズなどにより性能が低下する。運用上、以下を念頭におくことが望ましい。 ・ 測定層数は最大 128 層、層厚は 0.2m~16m で任意に設定可能 ・ 測定可能な最小水深は 5m(深江丸の喫水+最短海底探知深度) ・ 航行中にボトムトラックが可能な水深は 250m 以内(これより深い場合、海底が探知できない場

    合がある) ・ 航行中に流速が測定可能な深度は 115m 以内(低速では仕様上の最大レンジまで測定可能) ・ ドップラーログの干渉を受けるため、ノイズ処理が必要。 ・ ドップラーログへの影響はない。航海系の実験では、必要に応じて ADCP を停止させる。

    今後は、定点に設置されている ADCP データとの比較、ADCP を搭載している船舶との併走による比較などを行い、実海域での ADCP 測定精度や最大測定流速の検証、ノイズ処理方法の検討などを行う。

    (a) IR:ON & ADCP:ON

    y = 1.39 x - 4.85

    R2 = 0.51

    11.8

    12.0

    12.2

    12.4

    12.6

    11.8 12.0 12.2 12.4 12.6

    GPS (k't)

    D lo

    g (k

    't)

    Bias +0.07STD 0.06

    (b) IR:OFF & ADCP:ON

    y = 0.97 x + 0.32

    R2 = 0.89

    11.8

    12.0

    12.2

    12.4

    12.6

    11.8 12.0 12.2 12.4 12.6

    GPS (k't)D

    log

    (k't)

    Bias +0.05STD 0.06

    (c) IR:ON & ADCP:OFF

    y = 1.06 x - 0.77

    R2 = 0.73

    11.8

    12.0

    12.2

    12.4

    12.6

    11.8 12.0 12.2 12.4 12.6

    GPS (k't)

    D lo

    g (k

    't)

    Bias +0.08STD 0.05

    (d) IR:OFF & ADCP:OFF

    y = 1.03 x - 0.48

    R2 = 0.90

    11.8

    12.0

    12.2

    12.4

    12.6

    11.8 12.0 12.2 12.4 12.6

    GPS (k't)

    D lo

    g (k

    't)

    Bias +0.07STD 0.07

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  • 引用文献 (1) 矢野吉治(2005):練習船深江丸の調査研究活動について、神戸大学海事科学部紀要(商船・理工学編)、

    No.2, pp71-78. (2) 矢野吉治、有田俊晃(2007):練習船「深江丸」20 年の航跡、神戸大学大学院海事科学研究科紀要、

    No.4, pp101-116. (3) 若林伸和、矢野吉治、林祐司、村井康二(2002):IP ネットワークを利用した航海データ収集・転送

    システムの開発 -練習船深江丸における実装-、日本航海学会論文集、No.106, pp29-37. (4) 林美鶴、徳留功樹、小家琢摩、藤井迪生、若林伸和、香西克俊(2014):深江丸で計測した表層水温

    と明石海峡の潮汐フロント、NAVIGATION、No.187, pp55-62.

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